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Split fixationを呈する症例における線維柱帯切除術後の視力低下に影響する因子の検討

2025年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(2):241.244,2025cSplit.xationを呈する症例における線維柱帯切除術後の視力低下に影響する因子の検討井原茉那美平澤一法笠原正行庄司信行北里大学病院眼科CFactorsA.ectingtheChangesofVisualAcuityafterTrabeculectomyinPatientswithSplitFixationManamiIhara,KazunoriHirasawa,MasayukiKasaharaandNobuyukiShojiCDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospitalC目的:Split.xationを呈する症例において,線維柱帯切除術(TLE)後に視力が悪化する原因を調査する.対象および方法:対象は,split.xationを呈する広義開放隅角緑内障および落屑緑内障のうち,TLEを施行し,術前と術後C3カ月の時点で視力,静的視野検査を施行できたC65例C65眼.術後の視力低下がClogMARでC3段階未満を回復群,3段階以上を低下群とし,患者背景,眼圧,視野,合併症について検討した.結果:回復群はC50例,低下群はC15例であった.低下群は回復群に比べ,高齢であり(p<0.01),落屑緑内障の割合が多く(p=0.046),浅前房の割合が高かった(p=0.031).また,術前眼圧が高かったが(p=0.030),眼圧下降率に差を認めなかった.静的視野検査上,回復群に比べて低下群で術前の中心窩閾値が低かったが(p<0.01),その他のパラメータに有意差を認めなかった.結論:Split.xationを呈する緑内障患者のCTLE後視力悪化の原因は,高齢,落屑緑内障,術後浅前房,術前高眼圧,中心窩閾低下であった.CPurpose:Toinvestigatethecausesofincreasedvisualacuity(VA)lossposttrabeculectomy(TLE)inglauco-mapatientswithsplit.xation.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved65eyesof65glaucomapatientswithsplit.xationwhounderwentTLE.Postsurgery,patientsaVAlossoflessthan3logMARgradeswereclassi.edinthe‘recoverygroup’,whilethosewithaVAlossof3ormorelogMARgradeswereclassi.edinthe‘reductiongroup’.CPatientCbackground,Cintraocularpressure(IOP)C,CvisualC.eld,CandCcomplicationsCwereCexamined.CResults:CComparedtotherecoverygroup,thereductiongroupwasolder(p<0.01)C,hadahigherrateofexfoliationglauco-ma(p=0.046)andshallowanteriorchamber(p=0.031)C,hadhigherpreoperativeIOP(p=0.030)C,andlowerfoveathreshold(p<0.01)C.Conclusion:VAlosspostTLEinglaucomapatientswithsplit.xationwasfoundtoberelat-edCtoCadvancedCage,CexfoliationCglaucoma,CpostoperativeCshallowCanteriorCchamber,ChigherCpreoperativeCIOP,CandClowerfoveathreshold.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(2):241.244,C2025〕Keywords:視力変化,線維柱帯切除術,split.xation,開放隅角緑内障,落屑緑内障.visualacuitychange,trab-eculectomy,split.xation,primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma.Cはじめに緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である1).保存的治療による眼圧下降が不十分かつ視野障害の進行速度が十分に抑制できない場合には観血的手術が行われる.長年にわたり緑内障手術のゴールドスタンダードとされている術式は線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)であり,眼圧下降効果には優れるが,視力低下につながる合併症が生じるリスクは少なくない2.3).これまでに,筆者らは,TLE後に視力低下をきたす割合を調査し,一過性の視力低下の割合がC56.5%,長期的な視〔別刷請求先〕井原茉那美:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:ManamiIhara,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(107)C241図110-2測定点のクラスター(左眼)文献C7)の報告に準じてC10-2測定点をC4つのクラスターに分けた.中心C4点はグレーで示す固視点近傍C4点を示し,この4点をさらに上方,下方,鼻側,耳側C2点ずつに分けた.またさらにC1点ずつ上鼻側,上鼻側,下鼻側,下耳側のC4つに分けた.力低下の割合がC2%であることを報告した.長期的な視力低下が生じる要因として,術前に中心視野障害を有する進行例であること,術後低眼圧による浅前房,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症などの合併症があげられた.そのため,TLE後の視力維持に重要な点として,中心窩閾値が低下する前に手術を勧めること,また,術後の眼圧下降率が高くなり過ぎないことを推奨した4).術前の中心視野障害にはさまざまなパターンがあるが,その中の一つにCsplit.xationがある.Split.xationは,動的視野検査では視野欠損が固視点を横切っている状態として定義され5),静的視野検査では黄斑プログラムにおいて,少なくとも一つの象限のすべての測定点の感度がC0CdBになった視野の状態と定義されている6).これまでに,Bhadraらは,静的視野検査におけるCsplit.xationを呈する症例の約C7割において,術翌日の視力はClogMARでC2段階以上の悪化を認めたが,術後C2カ月目までに全例で視力が回復したことを報告している6).しかし,この検討は症例数が少なく,検討項目も少ないため,十分なコンセンサスは得られていない.Split.xationを呈すような視野障害が進行した症例に対して手術を行う際に,視機能の予後が予測できる因子がわかれば,今後,TLEを提案する際の一つの指標となる可能性がある.本研究の目的は,split.xationを呈する症例におけるTLE後の視力低下に影響する因子を調査することである.I対象と方法本研究は後方視的観察研究であり,北里大学病院医学部・病院倫理委員会の承認後(B20-134),ヘルシンキ宣言を遵守し施行した.対象は2015年4月1日.2020年3月31日に当院でTLEを施行した広義開放隅角緑内障および落屑緑内障のうちCsplit.xationを呈し,術前と術後C3カ月目に視力検査,眼圧検査,Humpgrey視野検査C10-2SITA-Standardを施行したC65例C65眼である.術前と比較した術後C3カ月の矯正視力の変化がClogMARでC3段階未満の症例を回復群,logMARでC3段階以上悪化した症例を低下群とし,2群に分けて解析を行った.なお,視野検査結果は術前の結果を解析し,術前平均C42.3C±38.4日に施行されたものである.静的視野検査におけるCsplit.xationは,黄斑プログラムにおいて少なくとも一つの象限のすべての測定点の感度がC0CdBになった視野の状態と定義されているが6),今回の検討では,固視点近傍4点の測定点のうち少なくとも一つの測定点において0CdBの状態になった視野と定義した.検討項目は,患者背景,眼圧変化,術前の視野検査結果,術後合併症である.視野検査結果は,中心窩閾値,meandeviation(MD)値,各クラスターの感度,中心C4点における視野感度を比較した.10-2測定点のクラスターはCNakani-shiらの報告7)を基に分類し(図1),さらに中心C4点の各測定点,4点の平均,2点の平均(上方,下方,耳側,鼻側)と,細かく分けて比較した.固視不良はモニター上で固視がよければ固視不良の値が高くても結果には大きな影響を与えないこと8),本研究で解析されているような後期症例の視野異常では偽陰性が高くなりやすいことや評価されないことを考慮し9),固視不良と偽陰性に関しては基準値を設けず,偽陽性がC15%未満の症例を採用した.統計解析にはCR(version4.0.0;TheCFoundationCforCSta-tisticalComputing)を使用し,対応のないC2群のデータの比較は対応のないCt検定,比率の比較はC|2検定を用いて解析を行った.CII結果回復群がC50眼(76.9%),視力低下群がC15眼(23.0%)であった.各群における患者背景,眼圧,合併症の比較の結果を表1に,視野検査結果の比較を表2に示す.病型の比率は,回復群では広義開放隅角緑内障がC43眼(86.0%)および落屑緑内障がC7眼(14.0%),低下群では広義開放隅角緑内障がC9眼(60.0%)および落屑緑内障がC6眼(40.0%)であり,視力低下群では落屑緑内障の割合が多かった(p=0.046).平均年齢は,回復群がC64.4C±13.6歳,低下群がC74.3C±9.4C242あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(108)表1回復群と低下群における患者背景,眼圧,合併症の比較回復群(50例)低下群(15例)p値病型(POAG/XFG)C43/7C9/6C0.046性別(男/女)C29/21C11/4C0.44年齢(歳)C64.4±13.6C74.3±9.4<0.01眼軸長(mm)C25.9±2.5C24.7±1.5C0.083術前眼圧(mmHg)C17.7±5.3C18.8±6.5C0.030眼圧下降率(%)C.41.3±30.2C.47.2±35.27C0.44術後合併症脈絡膜.離(有/無)C3/47C4/11C0.073浅前房(有/無)C2/48C4/11C0.031CPOAG:primaryCopen-angleCglaucoma,XFG:exfoliationCglau-coma.歳であり,低下群で年齢が高かった(p<0.01).術前眼圧は,回復群でC17.7C±5.3CmmHg,低下群ではC18.8C±6.5CmmHgであり,低下群で高かった(p=0.030).合併症に関しては,浅前房を認めた割合は,回復群でC50例中C2例(4%),低下群でC15例中C4例(13.3%)であり,低下群で多かった(p=0.031).脈絡膜.離を認めた割合は,回復群でC50例中C3例(6%),低下群でC15例中C4例(13.3%)であり,低下群で多い傾向であった(p=0.073).術前CHFA10-2では,回復群の中心窩閾値はC30.6C±4.3dB,低下群でC23.5C±9.4CdBであり,低下群において低かったが(p<0.01),その他のパラメータは両群間に差を認めなかった(表2)CIII考察本研究は,split.xationを呈した広義開放隅角緑内障および落屑緑内障C65眼におけるCTLE後の視力低下の原因を患者背景,眼圧,術前の視野検査結果,術後合併症から解析した.その結果,術後視力低下の原因として,落屑緑内障,高齢,術前高眼圧,術後浅前房,中心窩閾値の低下が検出された.視力低下群では落屑緑内障の割合が高かった.Honjoらは落屑緑内障では線維柱帯切開術後に眼圧がコントロールされていても視野障害が進行する可能性を報告し10),Konstasらは落屑緑内障では眼圧以外にも進行因子が存在する可能性を報告している11).また,Kocaturkらは,落屑緑内障と健常対象者の眼動脈血流パラメータをカラードップラ画像で比較したところ,眼動脈の抵抗率指数は健常者よりも落屑緑内障患者で有意に高く,血管壁の抵抗が増加すると,拡張終期速度が最大収縮期速度よりも低下し,抵抗指数が高くなると報告している12).すなわち,落屑緑内障では血流障害が術後の視機能悪化に影響を及ぼした可能性を推察する.本研究における症例のように,split.xationを呈するような中心付近の感度低下を認める病期において,落屑緑内障では術後にさら(109)表2回復群と低下群における視野検査結果の比較回復群(50例)低下群(15例)p値中心窩閾値C30.6±4.3C23.5±9.4<0.01CMeanCdeviation(dB)C.25.9±5.6C.24.0±6.6C0.34クラスターの感度上鼻側(dB)C1.0±6.1C4.3±8.0C0.24上耳側(dB)C1.9±7.4C5.3±10.2C0.092下鼻側(dB)C7.2±10.2C7.3±10.6C0.76下耳側(dB)C13.2±8.8C13.1±7.2C0.97中心4点<0CdBの数(個)C1.4±0.7C1.4±0.6C1.0平均感度(dB)C10.7±5.8C10.6±6.5C0.95上鼻側(dB)C0.9±5.1C3.8±9.3C0.30上耳側(dB)C10.8±11.7C11.4±11.2C0.94下鼻側(dB)C13.1±13.6C10.5±13.6C0.52下耳側(dB)C17.8±13.0C16.7±12.7C0.60上方C2点(dB)C5.9±5.3C7.6±5.6C0.70下方C2点(dB)C15.5±10.3C13.6±11.6C0.51鼻側C2点(dB)C7.0±7.0C7.1±7.4C0.95耳側C2点(dB)C14.3±9.7C14.0±8.7C0.94Cに中心感度低下が進行したことにより恒常的な視力低下をきたした可能性を推察する.加えて,視力低下群では年齢が高い結果であったが,落屑緑内障の発症年齢は高く,結果に影響しているものと考える.また,Dumanらが行ったC80歳以上の高齢者とC80歳未満の群に分けて比較したCTLE後の視力経過の検討においても,1年の観察期間中のすべての観察点においてC80歳以上の高齢者群ではC80歳未満の群に比べ,平均術後視力低下をきたす結果であり,本研究結果と矛盾しなかった13).つぎに,視力低下群では術後浅前房をきたした症例が多かった.これまでに,線維柱帯切除術後C1カ月目のコントラスト感度は術前と比較して有意に低下し14),高次収差・コマ収差は有意に増加したと報告されている14.15).原因として,内部光学系の変化が推察されており,前房深度の変化も要因の一つとされる.ただし,通常,浅前房は自然経過や処置により比較的短期間に改善し得る合併症であり,本研究においても,もっとも長く認めた症例はC43日であった.したがって,浅前房のみが恒常的な視機能悪化に影響しているわけではなく,眼球形状に影響を及ぼすような低眼圧となることが,黄斑付近に何らかの血流障害や構造的変化を引き起こし,中心窩付近の視細胞を障害するのではないかと推察する.本検討において,有意差は認めなかったものの,脈絡膜.離を認めた割合も視力低下群で多い傾向であった.脈絡膜.離は,脈絡膜静脈圧を下回る低眼圧により相対的に血管透過性が亢進して血管外への血液成分の漏出が起こると推測されているが16),本症例では,いずれも黄斑部に及ぶ脈絡膜.離を認めた症例はなかった.すなわち,脈絡膜.離による直接的な黄斑部への器質的影響ではなく,眼球形状の変化によあたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C243って,黄斑部に何らかの間接的な影響が及んだ可能性を推察する.ただし,恒常的な視力低下をきたす明確な原因は不明であるものの,脈絡膜.離を起こさないように注意しながら術後管理を行う必要がある.筆者らはこれまでに,TLE単独手術を施行したC208眼を対象とし,脈絡膜.離を発症した症例の背景因子を調べた自験例において,脈絡膜.離は術前眼圧がC19CmmHg以上の症例で生じやすく,術後C3日目の時点では下降率C50%以上,7日目の時点ではC70%以上下降すると生じやすいことを報告した4).そのため,これらの基準を超えて下がり過ぎないように術後管理を行うことが重要と考える.また,筆者らは,TLE後に浅前房や脈絡膜.離を合併する症例には落屑緑内障の割合が多いと報告している17).やはり,落屑緑内障は,高齢であることや低眼圧に伴う合併症を介して,恒常的な視力低下をきたす一連の原因に大きく関与している可能性を推察する.視野検査結果において,視力低下群の術前の中心窩閾値は回復群に比べ低かった.これまでにも朝岡らは,乳頭黄斑線維の領域が視力低下に直結する部位であると報告しており18),筆者らも以前にCTLE後において乳頭黄斑線維の領域の感度は術後視力の回復に関連していることを報告した4).今回の研究では,split.xationの定義を少し緩和したため十分な検出力を得られなかった可能性がある.また,光干渉断層計による神経節細胞層の解析や血流変化の解析を行っていないため,構造的な変化をとらえることはできていないが,Csplit.xationの所見を呈し,すでに中心窩閾値が低下している症例では視力の予備能が低い可能性が高く,手術侵襲や術後の眼球形状,血流変化などに予備能が耐えられない可能性を推察する.今後,TLE前後の黄斑部の構造的変化や血流変化の評価を行い,視力低下をきたす本質的な原因解明を行うことが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)木内良明,井上俊洋,庄司信行ほか:緑内障ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C20222)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCcomplicationsCinCtheCtubeCversustrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19934)庄司信行:緑内障手術で視力を守るために.あたらしい眼科39:1063-1076,C20225)KolkerAE:VisualCprognosisCinCadvancedglaucoma:aCcomparisonCofCmedicalCandCsurgicalCtherapyCforCretentionCofvisionin101eyeswithadvancedglaucoma.TransAmOphthalmolSocC75:539-555,C19776)BhadraTR,GhoshRP,SaurabhKetal:ProspectiveevalC-uationCofCwipe-outCafterCglaucomaC.ltrationCsurgeryCinCeyesCwithCsplitC.xation.CIndianCJCOphthalmolC70:3544-3549,C20227)NakanishiCH,CAkagiCT,CSudaCKCetal:ClusteringCofCcom-binedC24-2CandC10-2CvisualC.eldCgridsCandCtheirCrelation-shipCwithCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerCthick-ness.InvestOphthalmolVisSciC57:3203-3210,C20168)YohannanJ,WangJ,BrownJetal:Evidence-basedcri-teriaforassessmentofvisual.eldreliability.Ophthalmol-ogyC124:1612-1620,C20179)BengtssonCB,CHeijlA:False-negativeCresponsesCinCglau-comaperimetry:indicatorsCofCpatientCperformanceCorCtestreliability?InvestOphthalmolVisSciC41:2201-2204,C200010)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetal:Phacoemulsi.-cation,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytotreatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurgC24:781-786,C199811)KonstasCAG,CHolloCG,CAstakhovCYSCetal:FactorsCassoci-atedwithlong-termprogressionorstabilityinexfoliationglaucoma.ArchOphthalmolC122:29-33,C200412)KocaturkCT,CIsikligilCI,CUzCBCetal:OphthalmicCarteryCblood.owparametersinpseudoexfoliationglaucoma.EurJOphthalmolC26:124-127,C201613)DumanCF,CWaisbourdCM,CFariaCBCetal:TrabeculectomyCinpatientswithglaucomaover80yearsofage:relativelyshort-termoutcomes.JGlaucomaC25:123-127,C201614)AbolbashariCF,CEhsaeiCA,CDaneshvarCRCetal:TheCe.ectCoftrabeculectomyoncontrastsensitivity,cornealtopogra-phyandaberrations.IntOphthalmolC39:281-286,C201915)FukuokaS,AmanoS,HondaNetal:E.ectoftrabeculec-tomyonocularandcornealhigherorderaberrations.JpnJOphthalmolC55:460-466,C201116)山本哲也:緑内障手術CABC:非観血的・観血的治療を成功させるためのCFirstCStep.C5.Cp124-125,メジカルビュー社,C200217)SatoCN,CKasaharaCM,CKonoCYCetal:EarlyCpostoperativeCvisualCacuityCchangesCafterCtrabeculectomyCandCfactorsCa.ectingvisualacuity.GraefesArchClinExpOphthalmolC261:2611-2623,C202318)AsaokaR:TheCrelationshipCbetweenCvisualCacuityCandCcentralvisual.eldsensitivityinadvancedglaucoma.BrJOphthalmolC97:1355-1356,C2013***244あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(110)

基礎研究コラム:93.コレステロールによる細胞老化と加齢黄斑変性

2025年2月28日 金曜日

コレステロールによる細胞老化と加齢黄斑変性寺尾亮加齢黄斑変性とマクロファージ老化加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の前駆病変として,脂質沈着物のドルーゼンが網膜色素上皮下に蓄積しますが,治療法は現在ありません.ゲノムワイド相関解析よりChepaticClipaseC,cholesterylCesterCtransferprotein,lipoproteinlipase,ATPbindingcassetteA1(Abca1)などの脂質代謝に関する遺伝子のCAMDへの関与が明らかになっていますが,細胞内コレステロール排出トランスポーターであるCAbca1とCAbcg1を骨髄系細胞に特異的にノックアウトしたマウスがCsubretinalCdrusenoidCdepos-it(SDD)をきたすという報告をC2018年に慶應義塾大学の伴紀充先生らのグループがしています1).筆者らのグループはそのモデルマウスにおけるCSDDの病態機序を探ったところ,免疫細胞の一つであるマクロファージがCSDD内に集積しており,それらのマクロファージは「細胞老化」をきたしていることがわかりました2).「細胞老化」とは加齢や酸化ストレスなどによる持続的なCDNA損傷応答によってみられる細胞周期の停止状態です.老化した細胞は,周囲の正常な細胞の老化を促進したり,senescence-associatedsecretoryCphenotype(SASP)とよばれる炎症性サイトカインや増殖因子の一群を分泌することで,加齢性疾患に関与しています3).マクロファージ老化とNAD+なぜ本モデルのマクロファージが細胞老化をきたしているかを探ったところ,酸化還元反応で非常に重要な役割を果たす補酵素であるニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)がマクロファージで枯渇することが原因であるこ東京大学大学院医学系研究科眼科学教室とが判明しました.具体的には,マクロファージにコレステロールが蓄積することでCNAD+の分解酵素であるCCD38の発現が増加します.それによりマクロファージのCNAD+が消費分解され,細胞老化を引き起こします.その結果,老化したマクロファージの中にドルーゼンのおもな成分であるリポフスチンが蓄積し,SDDの原因となります.現に老化細胞除去治療が本モデルマウスのCSDD形成を抑えたことからも,老化したマクロファージが原因であることが裏づけられました.また同様に,NAD+の前駆体であるニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)の投与もCSDDを抑えることができました.これらの結果から,老化細胞除去治療やCNAD+補.療法がCAMDの前駆病変に対する治療として有効である可能性が明らかになりました(図1).今後の展望AMD前駆病変に対する治療は,AMDへの進展を抑えることで重篤な視力障害を予防できる可能性が示唆されました.今後治療として展開されることが期待されます.文献1)BanN,LeeTJ,SeneAetal:Impairedmonocytecholes-terolCclearanceCinitiatesCage-relatedCretinalCdegenerationCandvisionloss.JCIInsightC3:e120824,C20182)TeraoR,LeeTJ,ColasantiJetal:LXR/CD38activationdrivesCcholesterol-inducedCmacrophageCsenescenceCandCneurodegenerationCviaCNAD+depletion.CCellCRepC43:C114102,C20243)TeraoCR,CSohnCBS,CYamamotoCTCetal:CholesterolCaccu-mulationCpromotesCphotoreceptorCsenescenceCandCretinalCdegeneration.InvestOphthalmolVisSciC65:29,C2024網膜下ドルーゼノイド沈着AMD図1本研究の概要(101)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2350910-1810/25/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:261.黄斑疾患の硝子体手術後に生じるparacentral retinal hole(初級編)

2025年2月28日 金曜日

261黄斑疾患の硝子体手術後に生じるparacentralretinalhole(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)や黄斑円孔(macularhole:MH)の硝子体手術後のまれな合併症の一つとして,中心窩からやや離れた部位にCspontane-ouslyに小裂孔が生じることがあり,paracentralretinalholeとよばれ,過去にいくつかの報告がある1.4).筆者らも過去に同様の症例をC3例経験したことがある.そのうちのC1例を提示する.C●症例提示72歳,女性.両眼のCERMに対して硝子体手術が施行され,術中にCERM.離に引き続き内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離がやや広範囲に施行された.両眼ともCdissociatedCopticCnerveC.berClayer(DONEL)を認めたが,中心窩の陥凹は徐々に改善した.左眼は術後の光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)でたまたま中心窩のやや下耳側に小さな円孔を認めた(図1).患者の自覚症状はとくになく,OCTでは裂孔周囲に残存牽引を認めなかったので,光凝固は施行せず,そのまま経過観察とした.現在までのところ網膜.離の発症は認めていない.硝子体手術後に生じたCparacentralretinalholeと診断した.C●硝子体手術後に生じるparacentralretinalholeの臨床的特徴本合併症に関してはCRubensteinら1)がCILM.離を併用したCMH手術で初めて報告して以来,いくつか報告がみられる2.4).Sandalら4)はCMH400眼,ERM509眼をレトロスペクティブに検討し,6眼(0.6%)に術後Cparacentralretinalholeを生じたと報告している.裂孔は術後C2.12週間(平均約C5週間)で生じ,3眼が上方,(99)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ParacentralretinalholeのOCT所見中心窩(点線円)のやや耳下側に小裂孔(赤実線円)を認める.平坦な全層孔であり,裂孔周囲に牽引を示唆する所見は認めない.3眼が耳側で,全例が無症状であった.6眼中C5眼が初回手術時にCILM.離を併用し,裂孔はいずれもCILM.離部位のエッジに生じたとしている.ただしCOCTでは全例平坦な全層孔であり,裂孔周囲に続発CERMのような牽引を示唆する所見は認めなかった.光凝固は全例で施行せずに経過観察されたが,平均追跡期間C2年の間に網膜.離や脈絡膜新生血管などの合併症はみられなかった.本合併症の原因は不明な点が多いが,ILM.離手技の出現以前には報告されておらず,ILM.離に続発する網膜の菲薄化になんらかの要因が加味されて発症する可能性が考えられる.文献1)RubinsteinCA,CBatesCR,CBenjaminCLCetal:IatrogenicCeccentricfullthicknessmacularholesfollowingvitrectomywithILMpeelingforidiopathicmacularholes.Eye(Lond)C19:1333-1335,C20052)StevenP,LaquaH,WongDetal:SecondaryparacentralretinalCholesCfollowingCinternalClimitingCmembraneCremov-al.BrJOphthalmolC90:293-295,C20063)MasonJO3rd,FeistRM,AlbertMAJr:Eccentricmacu-larholesaftervitrectomywithpeelingofepimacularpro-liferation.RetinaC27:45-48,C20074)SandaliO,SanharawiMEI,BasliEetal:Paracentralreti-nalholesoccurringaftermacularsurgery:incidence,clin-icalCfeatures,CandCevolution.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmol250:1137-1142,C2012あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025233

考える手術:38.プリザーフロマイクロシャントの手術テクニック

2025年2月28日 金曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅プリザーフロマイクロシャントの手術テクニック三浦悠作高知大学医学部眼科学講座プリザーフロマイクロシャント(PMS)は2022年にわが国で保険収載された濾過手術のドレナージデバイスである.強膜トンネルを介して前房内にチューブの先端を留置することで,結膜下に房水を濾過する仕組みとなっている.PMS手術は結膜切開・強膜露出をしたうえでマイトマイシンCを塗布し,房水を結膜下へ濾過することで濾過胞を形成するもので,コンセプトは線維柱帯切除術(TLE)と同様であるが,TLEと比較すると次のような特長がある.術中の強膜弁の作製・縫合や術後のレーザー切糸が不要なため,術後の惹起乱視が少なく,されるため,濾過胞がより円蓋部側に形成されることが多く,角膜輪部からの房水漏出をきたしにくく,術後の開放隅角緑内障の患者におけるPMSとTLEの前向きランダム化比較試験では,TLEに比べてPMSでは有意に低眼圧の発生頻度が低く,また術後早期の処置の頻度も低かった.一方で,術後1年での手術成功率は有意にPMSが低かった.総じて,PMSはTLEより眼圧下降効果が劣るものの,より低侵襲な濾過手術であり,minimallyinvasiveblebsurgery(MIBS)と称されることもある.聞き手:「プリザーフロマイクロシャント緑内障ドレ聞き手:TLEとの違いはどのような点でしょうか.ナージシステム」(参天製薬)はどのような手術ですか.三浦:術中の強膜弁の作製・縫合や術後のレーザー切糸三浦:プリザーフロマイクロシャント(Preser.oが不要なため,術後の惹起乱視が少なく,手技が簡便でMicroShunt:PMS)手術は,結膜切開・強膜露出をし手術時間が短いことがあげられます.また,強膜切開がたうえでマイトマイシンCCを塗布し,強膜トンネルをわずかなため,PMSを施行した象限への再手術(TLE介して前房内にチューブの先端を留置し,結膜下に房水やロングチューブシャント手術など)も可能です.さらを濾過する仕組みとなっていて,手術のコンセプトとしに,TLEでは強膜弁の後位端である角膜輪部から約ては線維柱帯切除術(trabeculotomy:TLE)と同様で3Cmmの位置で房水が濾過されますが,PMSではCPMSす.留置するデバイスであるCPMSは全長C8.5Cmm,外後端の角膜輪部から約C6Cmmの位置で房水が濾過され,径C350Cμm,内径C70Cμmの樹脂製のチューブです.濾過胞がより円蓋部側に形成されることが多く,角膜輪部付近の結膜からの房水漏出をきたしにくく,術後のコ(97)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2310910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術ンタクトレンズの装用も可能です.聞き手:PMS手術がよい適応となるのはどのような患者でしょうか?三浦:TLEでは術中の線維柱帯の切除後に急激な眼圧下降をきたすため,無硝子体眼や強度近視眼などでは脈絡膜出血を生じる可能性があります.PMSでは強膜トンネル作製時にわずかに眼圧下降をきたすのみであり,術中の脈絡膜出血の危険性が低く,無硝子体眼や強度近視眼などの場合はCPMSが好適と考えます.また,TLEでは術後に低眼圧の頻度が高く,ときに低眼圧黄斑症を発症したり,また強膜弁の作製や縫合に伴う術後の惹起乱視が起こりやすいため,術後に視力低下の自覚症状が出現することもまれではありません.そのため,術前視力が良好な眼ではCTLEの手術適応のハードルが高くなりやすいのですが,PMSではそれらの頻度が高くないため,医師側からは手術を勧めやすく,患者側は受け入れやすいと思います.さらに,TLEでは感染予防の点から術後にコンタクトレンズの使用が制限されますが,PMSでは使用が可能であり,術後にもコンタクトレンズ装用の希望がある患者にも好適です.聞き手:PMS手術では,どのようなことに注意するべきでしょうか.三浦:もっとも頻度が高く,注意すべき術後合併症は低眼圧です.低眼圧の多くは自然軽快しますが,浅前房や脈絡膜.離,低眼圧黄斑症をきたすこともあります.その場合は粘弾性物質の前房内注入などの処置が必要となりますが,それでも改善が得られない場合は,房水流出抵抗を増加させるためにCPMSの内腔にナイロン糸をステントとして留置する必要があります1).過去の報告では術後の低眼圧はC2.69%,自験例ではC65.2%で発症しており,比較的高頻度で低眼圧が発症することがわかっ図1プリザーフロマイクロシャント(PMS)の閉塞と露出の例a:硝子体によるCPMS先端の閉塞.Cb:PMSの露出.ていますので,術中の予防的なステント留置が有効と考えます.9-0またはC10-0ナイロン糸をステントとしてPMS内腔に留置することで,術直後からの低眼圧の予防することが可能です2).また,そのステントの断端を角膜輪部付近に固定しておくことで,術後の眼圧上昇時にステントを抜去して眼圧下降を得ることが可能となります.ナイロン糸の径やステント抜去のタイミングについては検討が必要ですが,過去の報告や自験例から,術中のステント留置は術後の低眼圧予防に有効な方法と考えます.聞き手:低眼圧以外の合併症としては何がありますか.三浦:角膜内皮障害にも注意が必要です.PMSの先端と角膜内皮の距離が短いほど角膜内皮障害が発生しやすいとの報告があるため,虹彩寄りにCPMSを留置する必要があります.さらに,まれではありますがCPMSの閉塞や露出も起こりえます(図1).PMSの内径はわずかC70Cμmであり,硝子体やフィブリン,出血塊などによりCPMSの内腔が閉塞し,眼圧上昇をきたす場合があります.また,Tenon.が薄い高齢者やぶどう膜炎続発緑内障の患者ではCPMSが結膜上に露出する場合もあります.PMSはCTLEに比べて低侵襲ではあるものの,このようなさまざまな術後合併症が起こりうるため,それらに対応できる知識や技術は必要です.聞き手:多様化する緑内障手術のなかでのCPMSの位置づけを教えてください.三浦:現時点では,侵襲度においてはCiStentや線維柱帯切開術などの低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS),PMS,TLEの順に高く,眼圧下降効果はCTLE,PMS,MIGSの順に低く,PMSは,侵襲度,眼圧下降効果においてCMIGSとCTLEの中間に位置する術式と考えられます.今後,長期的なPMSの有効性や安全性が明らかになれば,この位置づけも変化していく可能性はあります.文献1)MiuraCY,CFukudaCK,CYamashiroK:AbCinternoCintralumi-nalstentinsertionforprolongedhypotonyafterPreserFlomicroshuntimplantation.CureusC16:e60221,C20242)MiuraCY,CFukudaCK,CYamashiroK:ComparisonCofCout-comeswithandwithoutintrastentplacementduringPMSsurgery.SciRepC15:2981,C2025232あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(98)

抗VEGF治療セミナー:糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法の毛細血管瘤退縮効果

2025年2月28日 金曜日

●連載◯152監修=安川力五味文132糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法の新井律樹毛細血管瘤退縮効果春田雅俊久留米大学医学部眼科学講座抗CVEGF療法は,糖尿病黄斑浮腫に対するすぐれた治療効果だけでなく,局所性黄斑浮腫の原因となる毛細血管瘤を退縮する効果も報告されている.糖尿病黄斑浮腫では,抗CVEGF療法に抵抗性を示す毛細血管瘤を選択的に局所光凝固する低侵襲治療を心がけることで,患者の視力を長期にわたって維持できる可能性がある.はじめに糖尿病黄斑浮腫は,毛細血管瘤(microaneurysm:MA)からの漏出による局所性黄斑浮腫と,広範な血液網膜関門の障害に伴うびまん性黄斑浮腫に大別される.糖尿病黄斑浮腫に対しては,抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法,ステロイド眼局所投与,局所光凝固,硝子体手術などの治療の選択肢があるが,抗CVEGF療法が第一選択となることが多い.抗CVEGF療法は,糖尿病黄斑浮腫に対してすぐれた治療効果を示すだけでなく,局所性黄斑浮腫の原因となるCMAを退縮する効果もあることが報告されている.Ca図1糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法による毛細血管瘤の退縮効果a:治療前.インドシアニングリーン蛍光造影の後期で,毛細血管瘤(内)は過蛍光に描出されている.b:治療前の毛細血管瘤(.,aの内と同一)を含むCOCT斜めスキャン(aの→に沿うスキャン).c:導入期毎月C3回のアフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射後C1カ月.インドシアニングリーン蛍光造影の後期で,aと同一の毛細血管瘤(内)は過蛍光を示していない.d:治療後の毛細血管瘤(.,cの内と同一)を含むCOCT斜めスキャン(cの→に沿うスキャン).毛細血管瘤は治療前と比べて退縮している.抗VEGF療法によるMAの退縮効果VEGFには血管新生や血管透過性亢進の作用があり,糖尿病網膜症におけるCMA形成の病態に深くかかわっている.健常なカニクイザルの硝子体腔にCVEGFの組換え蛋白質を注射するだけで,眼底に糖尿病網膜症に特徴的なCMAを形成することができる1).一方,糖尿病黄斑浮腫に対する抗CVEGF療法ではCMAは退縮傾向を示す.Sugimotoらは,導入期にC3回のアフリベルセプト2Cmg硝子体内注射をした糖尿病黄斑浮腫のC25眼では,治療開始C3カ月の時点で,平均CMA数がC49.6個から24.8個へと有意に減少し,MA数は中心窩網膜厚と有意な相関を示したと報告している2).また,インドシアCb(95)あたらしい眼科Vol.42,No.2,20252290910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2糖尿病黄斑浮腫に対するファリシマブ硝子体内注射による毛細血管瘤の減少効果a:治療前.フルオレセイン蛍光造影の早期で,毛細血管瘤(黄色でマーキング)は過蛍光点として描出されている.b:導入期毎月C3回およびCtreat-and-extend法によるファリシマブ硝子体内注射の治療後1年.フルオレセイン蛍光造影の早期で描出される毛細血管瘤(黄色でマーキング)は,治療前と比べて減少している.ニングリーン蛍光造影の後期で描出されるCtelangiectat-iccapillaries(TelCaps)とよばれる径の大きなCMAを対象とした筆者らの報告で,導入期C3回の抗CVEGF療法を施行した糖尿病黄斑浮腫のC12眼では,治療開始C3カ月の時点でCTelCapsの数も径も有意に減少し,径の大きなCTelCapsほど残存する傾向を示した(図1)3).ファリシマブ硝子体内注射によるMAの退縮効果アンジオポエチン(angiopoietin:Ang)-2は,血管安定化に作用するCAng-1/Tie-2シグナルを阻害して,ペリサイトの脱落と血管の不安定化をもたらす.2022年から糖尿病黄斑浮腫に適用となったファリシマブは,1分子でCVEGFとCAng-2を同時に阻害することにより,血管新生および血管透過性を抑制し,血管の不安定化を是正すると考えられている.Takamuraらは,導入期C3回のファリシマブを硝子体内注射した糖尿病黄斑浮腫の28眼では,治療開始C3カ月の時点で,平均CMA数が投与前のC40.7%と有意に減少したと報告している4).VEGFに加えてCAng-2を同時に阻害することで,実際にCMAの退縮効果を促進できるかは興味をかき立てられる問題である(図2).抗VEGF療法によるMAの退縮効果を考慮した局所光凝固実臨床では,高価な抗CVEGF療法を大規模臨床試験のように毎月継続することは現実的ではない.DRCR.C230あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025netによるプロトコールCIでは,ラニビズマブと併用するCMAに対する局所光凝固を即座に開始するよりも,半年遅延して開始したほうが,5年にわたってより良好な視力改善が得られている5).残念ながら糖尿病黄斑浮腫に伴うCMAを抗CVEGF療法のみで完全に消退させることは困難である.糖尿病黄斑浮腫では,抗CVEGF療法に抵抗性を示す毛細血管瘤を選択的に局所光凝固する低侵襲治療を心がけることで,長期に視力を維持できる可能性がある.文献1)TolentinoCMJ,CMillerCJW,CGragoudasCESCetal:Intravitre-ousCinjectionsCofCvascularCendothelialCgrowthCfactorCpro-duceretinalischemiaandmicroangiopathyinanadultpri-mate.OphthalmologyC103:1820-1828,C19962)SugimotoM,IchioA,MochidaDetal:Multiplee.ectsofintravitrealCa.iberceptConCmicrovascularCregressionCinCeyeswithdiabeticmacularedema.OphthalmolRetinaC3:C1067-1075,C20193)ItouJ,FurushimaK,HarutaMetal:Reducedsizeoftel-angiectaticCcapillariesCafterCintravitrealCinjectionCofCanti-vascularendothelialgrowthfactoragentsindiabeticmac-ularedema.ClinOphthalmolC17:239-245,C20234)TakamuraCY,CYamadaCY,CMoriokaCMCetal:TurnoverCofCmicroaneurysmsCafterCintravitrealCinjectionsCofCfaricimabCforCdiabeticCmacularCedema.CInvestCOphthalmolCVisCSciC64:31,C20235)ElmanCMJ,CAyalaCA,CBresslerCNMCetal:IntravitrealCranibizumabfordiabeticmacularedemawithpromptver-susCdeferredClasertreatment:5-yearCrandomizedCtrialCresults.OphthalmologyC122:375-381,C2015(96)

緑内障セミナー:グリーンレーザー内視鏡的毛様体光凝固

2025年2月28日 金曜日

●連載◯296監修=福地健郎中野匡296.グリーンレーザー内視鏡的毛様体光凝固谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座グリーンレーザー内視鏡的毛様体光凝固(ECP)は,房水産生抑制により眼圧下降効果を図る新規緑内障術式である.レーザーファイバーと内視鏡ファイバーが同軸に配置された専用器具(MTレーザーファイバカテーテル)を用いることで経角膜的に行われる.おもな適応は,房水排出を促す従来手術(トラベクロトミー,トラベクレクトミー,チューブシャント手術)が無効な患者である.●グリーンレーザーECPの適応経強膜的毛様体凝固術(trans-scleralcyclophotocoag-ulation:TSCP)では,組織透過性が高いC810Cnmダイオードレーザーを用いた場合でも,眼外から照射されたレーザーエネルギーのC2/3が,毛様体色素上皮に至るまでの虹彩実質や血管などの中間組織に吸収される1).そのため組織破壊が大きく,安全性に問題があり,また効果の予測性にも劣るため,有効な視機能が残る患者に対しての適応には困難さがあった.難治緑内障に対する有効性と安全性のバランスがとれた治療法として,グリーンレーザーを光源とする専用カテーテル「MTレーザーファイバカテーテル」(ファイバーテック)を用いた内視鏡的毛様体光凝固(endoscopiccyclophotocoagulation:ECP)装置が開発され,2022年から臨床使用できるようになった(表1).光源として波長の短いC532nmグリーンレーザーを用いているため,海外で承認されているダイオードレーザーCECPと比較しても,より選択的な毛様体上皮の凝固が可能であると考えられる.グリーンレーザーCECPは,濾過手術やチューブシャント手術が効果不十分であった患者でも効果が期待できる2).房水産生能が旺盛な若年の原発開放隅角緑内障や小児緑内障は,良い適応と考えられる(表2).一方で,表1ECPと他の緑内障手術との比較血管新生緑内障,ぶどう膜炎,高齢者の緑内障などは,術前の眼圧レベルにかかわらず房水産生能が低下しているため,まずは従来手術による眼圧下降をめざすべきである.国外では,ECPは低侵襲緑内障手術としてしばしば白内障手術と同時に施行される3).しかし,房水産生を低下させることは“眼の加齢性変化”を促すことでもあるため,筆者は幅広い患者にCECPを行うことには慎重であるべきだと考えている.C●機器構成と手術手技挿入部サイズC20Gのカーブ形状を有するカテーテルを使用する(図1).カテーテル内にレーザーファイバーと眼内観察用の内視鏡ファイバー(イメージファイバー,ライトガイド)が同軸に配置されており(図2),解像度はC1万画素である.カテーテルを眼内内視鏡の光源・画像装置とレーザー凝固装置に接続して使用する(図3).レーザーは,ルミナス,ニデック,アルコン社の装置に接続することができる(2024年C11月現在).手術は通常のCTenon.下麻酔で行うが,術中・術後とも患者は強い痛みは訴えない.角膜サイドポートからプローブを挿入し,モニター観察下に毛様体上皮を凝固する.片方の角膜サイドポートから約C2/3周の凝固が可能であり(図4左),2カ所のサイドポートを作製することにより表2ECPのおもな適応トラベクロトミートラベクレクトミーチューブシャント経強膜的毛様体凝固グリーンレーザーCECP作用機序房水排出促進房水産生抑制房水産生抑制適応初期.後期難治緑内障難治緑内障光源C─C810Cnm・照射エネルギーのC2/3が中間組織で吸収・組織侵襲強いC532Cnm・組織深達度が浅い・毛様体表面を選択的に凝固・光源が広く普及よい適応要注意緑内障の特徴チューブシャント手術の効果不十分または施行不能房水産生能低下原発開放隅角緑内障血管新生緑内障病型若年開放隅角緑内障ぶどう膜炎小児緑内障高齢者(93)あたらしい眼科Vol.42,No.2,20252270910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ECP用カテーテル(MTレーザーファイバカテーテル)のプローブ形状(ファイバーテック提供)液晶カラーモニタ画像記録装置専用光源装置専用画像装置図3MTレーザーファイバカテーテルの機器構成(ファイバーテック提供)図5グリーンレーザーECPの術中所見角膜サイドポートから挿入したカテーテルで直視下に毛様体ひだ部を凝固する.毛様体突起の形状が大きく変化せず,表面が白くなる程度()の凝固が適切である.全周の毛様体凝固が可能となる(図4右).レーザー装置は連続発振となるよう凝固時間を最長(3.4秒)に設定する.凝固の強さは,毛様体上皮の表面が白く変色する程度(通常C200.300mW)で,塗り絵を塗るように凝固を行う(図5).凝固によるポップ(気泡)が出る場合はパワーが強すぎるかプローブが近すぎる.全周凝固を基本とするが,毛様体突起間や突起後端を凝固することは困難であるため,全周凝固を行っても毛様体上皮の表面積の半分程度の凝固となる.筆者は術後炎症予防のために,手術終了時にトリアムシノロンをCTenon.下注射している.術後は抗菌薬とステロイドの点眼をC1日C4回,2週間程度使用する.1回の治療で十分な眼圧下降C228あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025図2MTレーザーファイバカテーテル断面の模式図図4MTレーザーファイバーカテーテルによるECPの凝固範囲2カ所の角膜サイドポートから全周の凝固を行うことができる.が得られない場合は,数カ月待ったのちにC2回目の凝固を考慮する.遷延性低眼圧が少ないこと,角膜サイドポートからアプローチできること,再手術が容易であることは,本術式の大きな利点である.なお,本稿には筆者の過去の総説4.8)と重複する記載・内容が含まれる.文献1)VogelCA,CDlugosCC,CNu.erCRCetal:OpticalCpropertiesCofChumanCsclera,CandCtheirCconsequencesCforCtransscleralClaserapplications.LasersSurgMedC11:331-340,C19912)TanitoM,ManabeSI,HamanakaTetal:AcaseseriesofendoscopicCcyclophotocoagulationCwithC532-nmClaserCinCJapaneseCpatientsCwithrefractoryCglaucoma.CEye(Lond)C34:507-514,C20203)YangCSA,CCiociolaCEC,CMitchellCWCetal:E.ectivenessCofCmicroinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCtheCUnitedStates:CIntelligentCresearchCinCsightCregistryCanalysis.C2013-2019.COphthalmologyC130:242-255,C20234)谷戸正樹:内視鏡的毛様体光凝固術(ECP)の適応を教えてください.眼科手術37:517-519,C20245)谷戸正樹:MTLaserFiberCatheter(ファイバーテック).眼科66:471-477,C20246)谷戸正樹:MTレーザーファイバーカテーテル.IOL&RSC38:290-296,C20247)谷戸正樹:グリーンレーザー内視鏡的毛様体光凝固術.眼科手術37:186-190,C20248)谷戸正樹:内視鏡を用いた毛様体凝固術(グリーンレーザーECP).FrontiersinGlaucoma(印刷中)(94)

屈折矯正手術セミナー:円錐角膜の診断

2025年2月28日 金曜日

●連載◯297監修=稗田牧神谷和孝297.円錐角膜の診断柿栖康二堀裕一東邦大学医療センター大森病院眼科円錐角膜は角膜が局所的に前方へ突出・菲薄化する角膜変形疾患であるため,その角膜形状変化を捉えることが診断には重要である.重症例では形状変化が著明であるため診断は容易であることが多いが,早期円錐角膜では形状変化が微細であるため,診断には角膜形状解析検査が必須である.●はじめに円錐角膜とは,角膜が局所的に前方へ突出・菲薄化する角膜変形疾患であり,進行すると角膜不正乱視が惹起され,眼鏡矯正視力が低下する.円錐角膜の診断は,正常角膜と円錐角膜に明確な境界はないため,問診や検査結果などを総合的に評価して行うことが重要である.とくに早期円錐角膜では形状変化が微細であり,円錐角膜の可能性を意識していなければ,円錐角膜を疑うことは困難である.本稿では円錐角膜を疑うために必要な問診や検査,次に診断を行うために必要な角膜形状解析検査の読みかたについて述べる.C●円錐角膜を疑うために問診や屈折検査は表1,2で該当するか否かを確認する1,2).とくに斜乱視で眼鏡矯正視力が出ない患者は円錐角膜の初期である可能性があり,角膜形状解析検査の機器がない場合でも,ケラトメータの検査が診断の助けとなる(表2).細隙灯顕微鏡検査における角膜の突出,菲薄化の所見は重症例では判別が可能であるが,早期円錐角膜ではほぼ不可能である.一方CVogt’sstriae(図1)やCFleischerring(図2)は早期円錐角膜でも認めることがあるが,所見が微細であることや,Fleischerringはコバルトフィルターで診察を行う必要があるため,いずれの所見も円錐角膜を疑って診察を行わないと見逃しやすい.円錐角膜を疑ったら,次に角膜形状解析検査を行表1問診のポイント年齢発症時期は思春期が多く,30.40歳代で進行が停止することが多い.まれにC30.40代から発症することもある.性差さまざまな報告があり一定の見解はない.既往歴アトピー性皮膚炎,気管支喘息,アレルギー性結膜炎,眼を擦る癖がある,Down症候群,睡眠時無呼吸症候群(うつ伏せ寝)う,または専門施設へ紹介する.C●円錐角膜を診断するために角膜形状解析検査はその原理の違いから,プラチドリング,Scheimp.ug,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)に大別でき,とくにScheimp.ugや前眼部COCTでは角膜の断面形状が撮影できるため,角膜前面と後面の解析が可能となる3).当院で採用している前眼部COCT(Anterion)を図3に示す.角膜形状解析検査には自動診断プログラムが搭載されており,診断の一助になるが,結果には偽陽性や偽陰性が必ず存在するため,実測値を自身で読み取る必要がある.前眼部COCTを用いて円錐角膜を診断するポイントは,①角膜前面の局所的な急峻化と非対称性な乱視である不正乱視,②角膜後面の局所的な前方突出,③同部位の菲薄化,を読み解くことである.また,角膜形状変化は角膜後面から生じるため,とくに早期円錐角膜では後面の形状変化を読み取ることが重要である4).C●症例33歳,男性.主訴は右眼ソフトコンタクトレンズ装用時の視力低下である.アトピー性皮膚炎の既往歴あり.右眼角膜乱視C3.5D,強主経線上の角膜屈折力C46.5D,軸C101°,視力(1.2×sph+1.0D(cyl.1.50DAx120°)であった.30代であること,アトピー性皮膚炎の既往があること,角膜乱視と強主経線上の角膜屈折力の結果,細隙灯顕微鏡検査でCVogt’sstriaeを認めたことから円錐角膜が疑われ,当院へ紹介となった.当院での前眼部COCTでは,角膜前面の下方が局所的に急峻化して表2ケラトメータ検査のポイント角膜乱視がC2D以上強主経線上の角膜屈折力がC45D以上乱視の軸が斜乱視や倒乱視,あるいは乱視の度数や軸に左右差がある(91)あたらしい眼科Vol.42,No.2,20252250910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1Vogt’sstriae図2Fleischerring角膜実質菲薄部の歪みによって角膜実質深層からCDescemet膜角膜突出部周囲の角膜上皮深層へのヘモジデリン沈着.付近に生じる細やかな線状.図3前眼部OCT(Anterion)の基本画面左上から時計回りに,角膜前面の屈折力,角膜後面の屈折力,角膜厚,全角膜屈折力,角膜後面のCBestFitSphere(BFS),角膜前面のCBFS.BFSとは,その角膜にもっとも近似できる基準球面との差を表す値で,プラス表記されていれば基準球面よりも前方に,マイナス表記されていれば後方に位置することを表す.おり,上下で非対称性であること,角膜後面のやや下耳側が局所的に+48Cμmと前方突出していること,同部位に一致して角膜の菲薄化(489Cμm)を認めたこと(図3)より,円錐角膜の診断となった.C●おわりに円錐角膜は早期であるほど角膜形状変化は乏しいため,診断が困難である.問診,屈折検査,細隙灯顕微鏡検査などで総合的に評価を行い,円錐角膜が疑われたら角膜形状解析検査で診断を行うこと,または専門施設へC226あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025紹介することが重要である.文献1)GassetCAR,CHinsonCWA,CFiasJL:KeratoconusCandCatopicCdiseases.AnnOphthalmolC10:991-994,C19782)SerdarogullariCH,CTetikogluCM,CKarahanCHCetal:Preva-lenceCofCkeratoconusCandCsubclinicalCkeratoconusCinCsub-jectsCwithCastigmatismCusingCpentacamCderivedCparame-ters.CJOphthalmicVisResC8:213-219,C20133)平岡孝浩:角膜形状解析.臨眼75:152-162,C20214)BelinMW,JangHS,BorgstromM:Keratoconus:Diagno-sisandstaging.CorneaC41:1-11,C2022(92)

眼内レンズセミナー:初心者のための眼内レンズ強膜内固定術の習得法

2025年2月28日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋453.初心者のための眼内レンズ強膜内固定術赤田真啓京都大学大学院医学研究科眼科学の習得法眼内レンズ(IOL)の強膜内固定術は,無縫合で施行可能という簡便さから,広く施行される手術となっている.しかし,一般的な白内障手術と比べて患者数が少なく,手技の習得には依然として課題がある.本稿では,おもにこれから強膜内固定術を習得しようと考えている術者を対象に,手技習得のために知っておくべき事項について解説する.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)強膜内固定術は,無水晶体眼や水晶体脱臼,IOL脱臼例などに対して行われる.強膜内固定術はさまざまな方法が知られているが,現在もっとも一般的に施行されている山根らによる方法1)を前提に解説する.●IOLハプティクスの30G針への挿入この手術の肝となる行程は,IOLハプティクスを内腔の広い30G針(ない場合は27G針)に挿入する行程である.術前のシミュレーションがきわめて重要な行程でもある.まず主創口からIOLを挿入する.IOL挿入時に先行ループを直接30G針に挿入する手法も知られているが,筆者は原法に則り先行ループは虹彩上に乗せることとしている.後方ループは眼外に出しておき,IOLが眼底に落下することを防ぐ.この際に分散型粘弾性物質を用いると,角膜内皮保護を図ることができると同時に,粘弾性物質にIOLが張り付いて落下しにくくなる.虹彩上にIOLを乗せたのち,眼内鑷子を用いて先行ループをつかむ.この際,老人環などでハプティクスの先端が見えづらい場合がある.ブラインドで無理につかもうとすると隅角を損傷することがあるため注意を要する.この場合は後方ループを少し引くと,先行ループの先端が見えてくるため,つかみやすくなる(図1).必要に応じてneedlestabilizerを用いて両30G針を刺入する2).30G針の屈曲部まで刺入してしまうと針先の向きがわかりづらくなり,網膜を損傷する可能性があるため,深く刺しすぎないよう注意する.ハプティクスを把持する位置は,先端に近すぎると挿入する部分が少なくなるため挿入しづらく,遠すぎるとコントロールがむずかしくなるので,適切な位置をつかむ必要がある.(89)図1眼内鑷子によるIOLの先行ループの把持a:先行ループが見えづらく把持しづらい状態.b:後方ループを引くことで(),先行ループがよく見える状態(.)となり,安全に把持できる.ハプティクスを30G針に挿入するにあたってとくに重要なのが,両者のなす角度を適切に合わせることである.熟練した術者であれば困難な角度でも挿入することは可能だが,初心者はいかにしてあらかじめ入れやすい角度にもっていくかが手技の成否を分ける.事前のセッティングを誤るときわめて困難になりうる(図2a).ハプティクスを30G針に入れやすい角度にするには,主創口と30G針を刺入する位置の角度を適切な角度にしておかねばならない.ここを70.90°程度にしておくと,ちょうどハプティクスを30G針に挿入しやすい位置関係になる(図2b).小瞳孔の場合は,30G針で虹彩をよけるようにして周辺部で挿入するようにしたほうが角度を合わせやすい.主創口の位置そのものは頭側,耳側,ベントいずれでも可能だが,30G針を刺入する位置との相対的な位置関係にはくれぐれも注意されたい.硝子体ポートを設置する場合は,これらと干渉しないよう,あらかじめ設置位置を計画しておく必要がある.ハプティクスの挿入時には針を少し傾けて,ハプティクスを針の内壁に沿わせるようなイメージで行うとよい.ハプティクスに過度な力を加えると変形の原因となり,ひいてはIOL偏位の原因となるため注意されたい.先行ループを30G針に挿入したのち,後方ループのあたらしい眼科Vol.42,No.2,20252230910-1810/25/\100/頁/JCOPYabc図2眼内レンズハプティクスと30G針の位置関係a:主創口と30G針挿入位置が不適切な場合.b:主創口と30G針挿入位置が適切な場合.c:その際の後方ループ挿入時.挿入の前に先行ループを眼外に出してフランジで固定することは推奨されない.先行ループを先に固定してしまうと,後方ループ挿入時の自由度が下がり,難度が上がってしまう.両方の30G針を用いた,いわゆるダブルニードルの状態で行うことが重要である.主創口と先行ループを挿入する30G針を刺入する位置の角度が適切であれば,後方ループも自然とスムーズに挿入可能な位置関係になる(図2c).30G針を引き抜いてハプティクスを眼外に出す際は,途中で針から抜けてしまわないよう注意する.先に出したループが眼外に出すぎないよう少し戻しておくと,あとから抜くループが抜け落ちるリスクを減らせる.必要に応じて両端を剪刀で処理し,フランジを作製する.ハプティクス先端を焼灼するパクレンとハプティクスが直接接触しないようにしたほうが,きれいなフランジとなる.術後フランジが結膜上に出てくると,レンズの安定性を損ねるばかりではなく感染にもつながりうるため,適切な大きさのフランジを強膜内に確実に埋め込むことが必要である.●その他の手技IOL脱臼例では,脱臼しているIOLを強膜内固定に使用しない場合は摘出する必要がある.摘出にあたっては,IOLカッターによるさまざまな分割法が知られているほか,インジェクターやレンズグラバーを用いた方法などがある.IOL落下例でない場合は,IOLの摘出も含め前眼部のみで手術を行うことも不可能ではない.しかし,毛様体扁平部周辺の硝子体処理が不十分になる可能性があり,原則として本手術は硝子体の処理に慣れた術者が施行することが望ましい.合併症としてとくに注意すべきものに裂孔原性網膜.離がある.これは30G針による網膜の損傷,不十分な硝子体処理による網膜の牽引によって発生すると考えられる.また,術後の虹彩捕獲,逆瞳孔ブロックを予防するため,上方に周辺虹彩切除をしておくとよい.●おわりに強膜内固定術は無水晶体眼や水晶体脱臼,IOL脱臼例の視機能回復に重要な役割を果たす手術である.その安全な施行にあたっては事前準備がきわめて重要である.強膜内固定術練習用の模型眼も販売されているので,必要に応じてこれらも活用し,十分な練習を積んだうえで手術に臨むべきと考える.文献1)YamaneS,SatoS,Maruyama-InoueMetal:Flangedintrascleralintraocularlens.xationwithdouble-needletechnique.Ophthalmology124:1136-1142,20172)YamaneS,Maruyama-InoueM,KadonosonoK:Needlestabilizerfor.angedintraocularlens.xation.Retina39:801,2019

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 医療用コンタクトレンズ(2)

2025年2月28日 金曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く14.医療用コンタクトレンズ(2)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C8章は医療用コンタクトレンズを取りあげている.今回はその第C2回として,慢性疾患に対するレンズや視覚リハビリテーションのためのレンズ,医療用着色レンズについて解説する.はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折異常の矯正だけでなく,円錐角膜や眼表面疾患に対する医療用として使用されることがある.今回は医療用CCLについての第C2回で1),慢性疾患に対するCCLや視覚リハビリテーションのためのCCL,医療用着色レンズに関する部分を解説する.なお,わが国ではC2025年C1月現在未承認である強膜レンズやハイブリッドレンズについても記載されている.慢性疾患に対するコンタクトレンズ①慢性移植片対宿主病(chronicgraftversushostdisease:cGVHD)cGVHDによる中等度以上のドライアイ症状のある患者を対象とした研究では,シリコーンハイドロゲル(SiHy)レンズを夜間装用し,1週間後およびC1カ月後に視力と眼表面疾患指数(ocularCsurfaceCdiseaseindex:OSDI)スコアが改善した.また,ソフトCCL(SCL)は,持続的に上皮欠損を修復する効果や上輪部角結膜炎様の症状を管理できる効果も期待できる.一方,強膜レンズを装用したCcGVHD患者では,痛みや羞明などの症状,視力とCOSDIスコア,生活の質(qualityoflife:QOL)が改善した.また,強膜レンズを夜間装用し遷延性上皮欠損が治癒した報告もあり,SCLよりも利点があるとしている.C②Sjogren症候群Sjogren症候群の患者では,SiHyレンズの装用により視力やCOSDIスコア,角膜染色スコアが改善し,自己血清点眼よりも効果的であるが,SCL装用に伴う感染性角膜炎を生じることが危惧される.また,強膜レンズの装用によってドライアイ症状とCQOLが改善するが,インプレッションサイトロジーでは,強膜レンズの装用により炎症反応は増加しており,強膜レンズ装用と炎症の関係については,さらなる研究が必要である.③Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)SJSの眼症状の治療にCSCL装用がメリットを示したとする報告もあるが,細菌性角膜炎などの合併症の多くはCSCLが原因であるとされており,SJSの治療および管理のためには強膜レンズの使用が増加している.SJS患者の大多数は強膜レンズの装用により痛みと羞明が軽減し,OSDIスコアやCQOLが改善した.また,SJS患者は角膜混濁だけでなく角膜不正乱視によっても視覚的な影響を大きく受けており,高次収差に対する対策も必要である.④アトピー性角結膜炎/アレルギー皮膚関連疾患に対する強膜レンズの使用により,痛みと羞明が軽減し,視力が改善した.また,強膜レンズを1年以上日中に装用することで,アトピー性角結膜炎を管理することができ,視力,結膜充血,浮腫,角膜上皮欠損の改善が認められた.⑤上輪部角結膜炎(Superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)/糸状角膜炎SLKに対する医療用CCLは,瞬目による上眼瞼の摩擦から輪部を保護することでCSLKを改善し,再発を予防できる.進行したCSLKでは,強膜レンズによって眼瞼結膜から角膜をより効果的に保護する必要がある.また,点眼などで効果がなかった重篤な糸状角膜炎に対しては,医療用CCLが用いられる.医療用CCLの装用により,上皮の治癒促進,眼瞼の摩擦からの角膜保護,上皮神経終末の刺激を防ぎ痛みを和らげる効果が得られる.⑥眼類天疱瘡治療用CSCLで上皮が完全に治癒しなかった,持続性上皮欠損を伴う眼類天疱瘡に対し,強膜レンズを夜間装用することで,上皮欠損の治癒と視力の改善が認められた.ただし,強膜レンズの夜間装用には角膜浮腫や感染性角膜炎などの合併症のリスクがある.⑦神経麻痺性角膜症CLによる神経麻痺性角膜症の治療は,角膜損傷の進(87)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2210910-1810/25/\100/頁/JCOPY行を防ぎ,上皮治癒を促進することができるため推奨されている.しかし,SCLでも強膜レンズでも,適切な注意を払わずに扱うと二次感染や眼瞼下垂の合併症を引き起こすことがある.そのため,涙液貯留層にステロイドや防腐剤が入らないようにするとともに,再上皮化したらすぐに日中のみの装用に移行し,予防的抗菌薬点眼を中止することが推奨されている.⑧角膜ジストロフィ角膜ジストロフィの多くが,再発性角膜びらんと関連しており,上皮欠損の管理には高弾性率CSiHyレンズが有利であることが示唆されている.また,膠様滴状角膜ジストロフィの患者にCSCLを夜間装用することで角膜混濁の進行が遅くなり,手術を遅らせることが可能であった.一方,後部多形性角膜ジストロフィのC37%に円錐角膜様の角膜不正乱視を生じるため,視覚リハビリテーション目的にCCLを使用する場合がある.視覚リハビリテーションのためのコンタクトレンズ一部の眼疾患では,眼鏡による矯正方法では十分な視力を得られないことがある.このような場合には,医療用CCLが最高視力や良好なCQOLを提供するための視覚リハビリテーションに不可欠である.それぞれの疾患や重症度に応じて,ハードCCL(HCL),特殊CSCL,ハイブリッドレンズ,ピギーバック,強膜レンズを選択する.強い屈折異常の患者は,眼鏡装用時に生じる過大なプリズム効果や像の拡大,縮小をCCL装用によって軽減できる可能性がある.とくに不同視や無水晶体眼はCCL装用のよい適応である.①角膜拡張症(円錐角膜・ペルーシド角膜周辺部変性症・球状角膜)視覚リハビリテーションのために医療用CCLを必要とする患者の多くは,角膜拡張症などの不正乱視の患者である.これらの患者は不規則な角膜形状のため視力や視機能が低下しており,HCLや強膜レンズなどの硬質なレンズを装用することで,光学的に規則的な屈折面を形成し,視力や視機能向上が可能となる.HCL不耐症の場合やドライアイの患者には,強膜レンズを選択すると,最高視力に変化はないものの,快適性が向上するため,角膜移植を選択するリスクを減少させることができる.②手術後や外傷,感染などによる不正乱視角膜移植後には,術後の遷延性角膜上皮欠損,創口からの前房水漏出,ドライアイ,糸状角膜炎などの治療を行うために,バンデージCSCLを使用する.一方,角膜移植後の不正乱視や不同視の場合には医療用CCLにより矯正を行うが,角膜内皮機能が不十分な場合には角膜浮腫を生じることがあるため,強膜レンズを選択しないほうがよい.レーシックなどの屈折矯正術後には,残存屈折異常を矯正するだけでなく,高次収差および不正乱視の矯正のためにCHCLや強膜レンズを選択する.また,外傷後の不正乱視では,角膜に瘢痕や凹凸がある場合があるため,HCLや強膜レンズを選択すると最高視力が得られる場合がある.医療用着色レンズ医療用着色レンズは,外傷後の虹彩欠損や眼白皮症などによる羞明やグレアの軽減,外傷後の角膜混濁などに対する整容目的に使用される(図1).羞明を訴える患者は,視力が正常であっても視機能とCQOLに大きな影響を生じている可能性があり,医療用レンズの装用により羞明とCQOLを改善することが可能である.おわりに今回はCCLEARの第C8章を要約し解説した.医療用CLはさまざまな疾患の治療や視覚リハビリテーションに使用され,大変有用な医療機器であること再確認する必要がある.文献1)YacobsDS,CarrasquilloKG,CottrellPDetal:CLEARC─CMedicalCuseCofCcontactClenses.CContactCLensCandCAnteriorCEye44:289-329,C2021

写真セミナー:デルモリポーマ

2025年2月28日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史松村健大489.デルモリポーマ福井大学医学部眼科学教室図2図1のシェーマ①隆起した腫瘤図1前眼部写真左眼の耳側結膜に腫瘤を認める.図3MRI所見腫瘤は脂肪性の病変であり,眼窩脂肪との連続性は認められない.図4摘出標本所見摘出された腫瘍は,おもに間質膠原線維と脂肪組織で構成されていた(ヘマトキシリン・エオジン染色).(85)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2190910-1810/25/\100/頁/JCOPY生下時から,左眼の耳側結膜に腫瘤を認めていた12歳の女児の症例を提示する.小児科での診察にて経過観察となっていたが,最近,瞼裂部において腫瘤が隆起している状態が気になってきたため,近医眼科を受診したところ,眼窩脂肪ヘルニアと診断された.手術による切除を希望し,当院へ紹介受診となった.診察では左眼の耳側結膜にピンク色.黄色の腫瘤を認めた(図1,2).腫瘤は表面平滑で隆起しており,上耳側から下耳側の範囲で扇状に外眥部へ進展していた.腫瘤表面に毛は認めなかった.また,圧迫によって腫瘤の眼窩内への移動は認められなかった.前眼部はほかに異常を認めず,中間透光体および眼底には異常を認めなかった.外耳の奇形,顔面の非対称,頸椎の異常は認められず,そのほか,全身に特記すべき異常はなかった.眼窩CMRIでは,腫瘤は脂肪性の病変であり,眼窩脂肪との連続性は明らかではなかった(図3).臨床所見から,腫瘤は眼窩脂肪ヘルニアではなく,デルモリポーマが疑われた.異物感などの自覚症状はなかったが,整容的な理由で患者および両親が切除を希望したため,腫瘍減量目的と病理組織学的診断のため,全身麻酔にて,腫瘍切除術を行った.手術では,異所性上皮と腫瘍を.離し,切除は腫瘍内部にとどめ,上皮は切除せずに温存した.腫瘍は,眼球耳側で上直筋から下直筋の間で扇状に広がっており,外直筋を損傷しないように慎重に.離した.最後に切開を行った結膜部を吸収糸で縫合した.切除された標本の病理検査では,腫瘍はおもに間質膠原線維と脂肪組織で構成されており,悪性所見は認められなかった(図4).異所性上皮は切除していないが,上皮下の病理所見はデルモリポーマとして矛盾のないものであった.術後は眼球運動障害や複視,眼瞼下垂,ドライアイなどの合併症を認めず,再発も認めていない.外来通院にて経過観察を継続している.デルモリポーマや輪部デルモイドは,分離腫に分類される先天良性腫瘍である.輪部デルモイドは角膜輪部の下耳側に発生することが多いが,デルモリポーマは上耳側の結膜円蓋部に発生することが多く,結膜デルモイドとよばれることもある.デルモリポーマは病理組織学的に密な結合組織に囲まれた成熟脂肪組織からなり,毛,皮脂腺,汗腺などを含んだ重層扁平上皮で覆われている.また,これらの腫瘍はCoculo-auriculo-vertebralCspec-trumに合併することがある1).Oculo-auriculo-verte-bralspectrumは,Goldenhar症候群や半側小顔面症としても知られており,第C1および第C2鰓弓の発達異常が原因で,耳の奇形,下顎骨形成不全,頸椎の異常,輪部デルモイドあるいはデルモリポーマといった異常がみられる.デルモリポーマはとくに治療を行わずに経過観察される場合もあると思われるが,腫瘍が瞼裂より露出する場合や異物感などの自覚症状がある場合は手術適応となることがある.しかし,過剰な切除やそれに伴う瞼球癒着によって,術後に眼瞼下垂,複視を伴う眼球運動障害,乾性角結膜炎などの合併症を生じることがあるため,手術には配慮を要する2,3).結膜を温存した腫瘍部分切除による合併症の回避や,結膜移植などによる再建の有用性が報告されている4,5).文献1)KhongCJJ,CHardyCTG,CMcNabAA:PrevalenceCofCoculo-auriculo-vertebralCspectrumCinCdermolipoma.COphthalmol-ogyC120:1529-1532,C20132)BeardC:Dermolipomasurgery,or,“anounceofpreven-tionisworthapoundofcure”.OphthalmicPlastReconstrSurgC6:153-157,C19903)FryCL,LeoneCRJr:Safemanagementofdermolipomas.ArchOphthalmol112:1114-1116,C19944)SaCHS,CKimCHK,CShinCJHCetal:DermolipomaCsurgeryCwithCrotationalCconjunctivalC.aps.CActaCOphthalmolC90:C86-90,C20125)ChoiCYJ,CKimCIH,CChoiCJHCetal:EarlyCresultsCofCsurgicalCmanagementCofconjunctivalCdermolipoma:partialCexci-sionandfreeconjunctivalautograft.BrJOphthalmolC99:C1031-1036,C2015C