●連載◯304監修=稗田牧神谷和孝304.白内障屈折矯正手術トレンドの変化佐藤正樹サトウ眼科老視矯正眼内レンズ(とくにC3焦点)を用いる術者が増加し,IOL度数計算ではCBarrettのCUniversalII式およびCTrueK式(角膜屈折矯正術後)が急速に普及している.屈折矯正手術における状況は海外とは大きく異なり,有水晶体眼内レンズがC7割強のシェアを占めている.●はじめに日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)は過去C30年以上にわたり会員向け年次調査を実施しており,2024年に直近C20年間のデータが報告された1).必ずしも国内全体の状況に合致するものではないが,トレンド変化は正確に捉えられている.これらの一部を,グローバルな商業データも含めて,海外と比較する.C●周術期管理抗菌薬前房内投与を行う術者の割合は緩やかに増加しているが,ここ数年はC3割でほぼ安定している〔欧州白内障屈折矯正手術学会(ESCRS)ではほぼルーチン2),米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)では過半数3)〕.施設の種類別でみると,クリニックでの約C40%に対して大学病院ではC10%未満であり,o.-labeluseに起因する結果と考えられる.C●白内障手術手技切開方位は「12時中心」が減少し,欧米では強く好まれる「耳側」が増加傾向にあるものの,依然として「きき手斜め上方」がもっとも多い(図1a)1).切開組織部位では,「強膜切開」は大幅に減少し,「角膜切開」は緩やかに増加している.角膜切開と強膜切開の長所をあわせもつ「経結膜強角膜一面切開(TSSI)」はC2010年に日本で報告され,以後緩やかに増加している(図1b)1).もともと強膜切開CSTIを好む術者の一部がCTSSIに移行したと考えられ,角膜切開が好まれる欧米とは異なる,日本独特の傾向といえる.CFemtosecondClaser-assistedCcataractCsurgery(FLACS)を行っている会員の割合はC10%未満であり,欧米と比較するとかなり少ない〔ESCRS19%(2016年),ASCRS39%(2018年)〕.●眼内レンズおよび眼内レンズ度数計算老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を用いる術者は過去C10年で倍増している.2焦点CIOLは激減し,3焦点CIOLと連続焦点CIOLが増えている.IOL度数計算ではCBarrettのCUniversalII式およびCTrueK式(角膜屈折矯正術後)が,いずれも急速に普及している(図2)1).C●屈折矯正手術MarketCScopeC2022CRefractiveCSurgeryCMarketCReport4)によると,世界での屈折矯正手術は今後も平均2%程度の増加率が続くと予想されている.しかし,諸外国と比較すると日本の屈折矯正手術件数は極端に少ない(図3)4).術式は,中国ではClenticleCextraction(SMILE)が増加しているが,欧米ではClaserCinCSituKeratomileusis(LASIK)が過半数を占めている.JSCRSでの過去C10年間のデータでは,LASIKなどのエキシマレーザー関連手術はいずれも減少し,SMILEは横ばい,唯一CphakicIOLのみが増加している.世界各国での屈折矯正手術全体におけるCimplantableCcollamerlens(ICL)占有率を図4に示す5).2018年はどの地域においてもCICLのシェアはC10%未満だったが,2023年は世界全体で平均C15%に増加し,日本ではシェアC73%と尋常ではない伸びを示している(逆をいえば,世界全体ではC85%,米国においてはC98%がCLASIK・SMILEなどCICL以外の手術である).日本ではC2013年に都内のC1施設で術後感染性角膜炎のCoutbreakが報告され,消費者庁から注意喚起がなされ,以降エキシマレーザー屈折矯正手術件数は大幅に減少した.さらに日本人の保守的思考も少なからず関与していると考えられ,いずれにせよ諸外国とは異なった非常に特殊な状況にあることは間違いない.(83)あたらしい眼科Vol.42,No.9,202511630910-1810/25/\100/頁/JCOPYaa2004(%)(%)2011200510020132009902014201080372015201170201620126030272017262013502014402018102015302019201620202020171020212018020222019202312時中心きき手斜め上方耳側主経線上b2004(%)20052006b802007(%)20122008807336281101222013201420097020102011602015201220165020132017201820192020202120222023201440201530201620172020181020190強膜角膜経結膜・強角膜一面図1白内障手術の切開創a:切開方位.b:切開組織部位.(文献C1より転載)図2眼内レンズ度数計算法a:通常症例(複数回答).b:角膜屈折矯正術後症例(複数回答).(文献C1より転載)100%90%202380%73%201870%1,4001,2001,0008006004002000ThousandsofProcedures■LASIK■SurfaceAblation■LenticuleExtraction■PhakicIOL■RefractiveLensExchange40%図32022年に行われた屈折矯正手術の国別件数および術式30%23%17%20%15%UnitedWesternJapanOtherWealthyChinaIndiaLatinRestof60%StatesEuropeNationsAmericaWorld50%(文献C4より転載)8%10%2%1%●おわりに方向性を誤り,将来,世界標準から逸脱することのないよう,現在わが国で行われている白内障・IOL・屈折矯正手術の変遷および海外との相違を把握しておくことは,非常に重要だと考える.JCSRSの調査データは膨大なので,ごく一部のデータのみを提示した.さらなる詳細は文献C1をご覧いただければ幸いである.文献1)SatoCM,CKamiyaCK,CHayashiCKCetal:ChangesCinCcataractCandCrefractiveCsurgeryCpracticeCpatternsCamongCJSCRSCmembersCoverCtheCpastC20Cyears.CJpnCJCOphthalmolC68:C443-462,C20242)KohnenT,FindlO,NuijtsRetal:ESCRSClinicalTrendsSurvey2016-2021:6-yearCassessmentCofCpracticeCpat-ternsCamongCsocietyCdelegates.CJCCataractCRefractCSurgC1164あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025GlobalJapanChinaSouthKoreaUnitedStates図4世界全体・日本・中国・韓国・米国における2018年および2023年の屈折矯正手術全体に対するICLの占有率(StaarSurgical社資料)C49:133-141,C20233)ChangDF,RheeDJ:Antibioticprophylaxisofpostopera-tiveendophthalmitisaftercataractsurgery:resultsofthe2021CASCRSCmemberCsurvey.CJCCataractCRefractCSurgC48:3-7,C20224)MarketCScopeRC2022CRefractiveCSurgeryCMarketCReport,CGlobalCAnalysisCforC2021CtoC2027.Chttps://www.market-scope.com/.les/products/brochures/357/2022%20RefracCtive%20Surgery%20Report%20Brochure.pdf.CAccessedC10CApril20255)STAARCSurgicalCInvestorCPresentation,CMarchC2024.Chttps://s24.q4cdn.com/405935222/.les/doc_presentationsC/2024/03/march-2024_staar_investor-presentation_.nal.Cpdf.Accessed30March2025(84)