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アレルギー性結膜炎治療の新たな選択肢

2026年7月31日 金曜日

アレルギー性結膜炎治療の新たな選択肢ANewTherapeuticOptionforAllergicConjunctivitis原祐子*はじめにアレルギー性結膜炎の治療は基本的に薬物療法である.第一選択は抗アレルギー点眼薬であり,効果不十分例や重症例では副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)点眼薬の追加を考慮し,春季カタルでは免疫抑制点眼薬を選択することができる.1).通常の季節性あるいは通年性アレルギー性結膜炎において,抗アレルギー点眼薬のみで十分なコントロールが得られない場合には,ステロイド点眼薬の併用が必要となることも少なくない.しかし,ステロイド点眼薬には眼圧上昇や易感染性などの副作用があり,とくに小児では眼圧上昇のリスクが高いことが報告されており,長期使用には注意を要する.2).一方で,抗アレルギー点眼薬は安全性に優れるものの,花粉飛散量が多い場合や用法遵守が不十分な場合には十分な効果が得られないことも少なくない.アレルギー性結膜疾患の有病率は48.7%に達すると報告されており.1),より高い有効性,安全性,利便性を兼ね備えた治療法へのニーズは高い.このような背景のもと,2024年に世界に先駆けて,眼瞼に塗布することにより薬剤を結膜へ移送する新しいアレルギー性結膜炎治療薬が発売された.本稿では,エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%の特徴と臨床的有用性について概説する.I抗アレルギー点眼薬の歴史わが国で最初の抗アレルギー点眼薬は,1984年に販売されたクロモグリクサンナトリウムを主成分とするインタール点眼薬2%である.本剤はメディエーター遊離抑制薬であり,細胞内へのCa2+流入抑制やホスホジエステラーゼ活性の阻害を介して細胞膜を安定化し,肥満細胞(マスト細胞)からの化学伝達物質を抑制する.安全性に優れる一方で,効果発現までに時間を要し,アレルギー反応が惹起されたあとでは十分な効果が得られにくいという課題があった.そのため,より即効性が期待される抗ヒスタミン点眼薬の開発が進められ,1991年にケトチフェンフマル酸塩点眼薬が発売された.その後レボカバスチン塩酸塩,オロパタジン塩酸塩,エピナスチン塩酸塩の点眼薬が次々と登場した.これらの薬剤は毛細血管や三叉神経末に存在するヒスタミンH1受容体を遮断し,結膜の充血や浮腫,掻痒感などの即時反応を抑制する.また,多くの薬剤は抗ヒスタミン作用に加えてメディエーター遊離抑制作用もあわせもつ.このように,抗アレルギー点眼薬の主流は,メディエーター遊離抑制薬から抗ヒスタミン作用を主体とする薬剤へと移行してきた.II従来の点眼薬の限界と問題点抗アレルギー点眼薬の改良は進んでいるものの,適切な用法・用量で使用されなければ,本来の効果を十分に得ることはできない.花粉症患者を対象としたアンケート調査では,内服薬の服薬遵守率が90%以上であったのに対し,点眼薬や点鼻薬では遵守率が明らかに低いこ.*YukoHara:住友別子病院眼科〔別刷請求先〕原祐子:〒792-8543愛媛県新居浜市王子町3-1住友別子病院眼科(1)(47)7630910-1810/26/\100/頁/JCOPYとが報告されている.従来,抗アレルギー点眼薬の多くはC1日C4回の点眼を必要としていたが,近年は薬効の持続性向上により,1日C2回で使用可能な製剤も登場している.しかし,季節性アレルギー性結膜炎患者を対象とした使用実態調査では,1日C4回点眼製剤を使用した患者のうち,症状の有無にかかわらず用法どおりに点眼していた患者はC4.0%に過ぎなかったと報告されている.3).一方で,1日C2回点眼製剤では遵守率の改善が認められたものの,その割合はC22.3%にとどまり,十分とはいいがたい.また,抗ヒスタミン点眼薬による治療中であっても,起床時や就寝前の眼掻痒感,あるいは目頭や眼瞼縁のかゆみが残存する患者が一定数存在することが報告されており,従来の点眼治療にはなお課題が残されている.CIII眼瞼塗布による新しい薬剤送達システムの開発点眼薬は投与後,瞬目,涙液のターンオーバー,さらに鼻涙管への流出によって眼表面から速やかに排出される.そのため,薬剤は結膜.内に長時間とどまることがむずかしく,多くの抗アレルギー点眼薬では有効濃度を維持するためにC1日C2.4回の点眼が必要とされてきた.しかし,実際には抗アレルギー点眼薬の用法遵守率は高いとはいえず,これが治療効果を十分に得られない一因と考えられている.米国ではC1日C1回投与の抗アレルギー点眼薬も承認されているが,その効果は点眼後の経過とともに減弱することが報告されており,点眼薬という剤形そのものの限界を示しているとも考えられる.このような背景のもと,投与回数を減らしながら持続的な抗アレルギー効果を得ることを目的として,点眼薬以外の薬剤送達技術が検討されてきた.その一つが,薬剤を眼瞼皮膚に塗布し,眼瞼組織内を通過させて結膜へ移送するという新しいコンセプトである.エピナスチン塩酸塩を含有するクリームを,ヒスタミン誘発性結膜炎モデルモルモットの眼瞼皮膚に塗布したところ,投与C24時間後においても結膜血管透過性亢進が強く抑制され,その効果はC0.1%エピナスチン点眼薬よりも有意に高かったことが報告されている.4).また,最大の抑制効果は投与C2時間後に認められ,その後C24時間以上持続した.さらに,ウサギの眼瞼皮膚にエピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%を塗布し,薬剤分布を経時的に検討した結果を図1に示す.5).投与C0.5時間後には眼瞼表層に高濃度のエピナスチンが認められ,その後徐々に深部へ拡散し,8時間後およびC24時間後には結膜層に分布していることが確認された.これらの結果から,眼瞼塗布によって薬剤が結膜へ到達し,24時間にわたり分布が維持されることが示され,1日C1回投与で持続的な治療効果が得られる可能性が示唆された.CIVエピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%2024年C5月,アレルギー性結膜炎治療薬として初めての剤形であるエピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%(アレジオン眼瞼クリームC0.5%)(図2)が発売された.現時点で,1日C1回,上下眼瞼に塗布するという用法を有する唯一のアレルギー性結膜炎治療薬である.使用方法は,適量のクリームを指先にとり,軽く閉眼した状態で上下眼瞼に塗布する(図3).「適量」という表現はややわかりにくいが,片眼あたりC1.3Ccm(成人の人差し指第一関節の約半分),約C30Cmgを塗布することが推奨されている.1包装にはC2Cgが含まれており,両眼に使用した場合,およそC1カ月分に相当する.本剤の特徴の一つは,基剤にも工夫が施されている点である.眼瞼に塗布する薬剤としては,タリビッド眼軟膏やステロイド眼軟膏を思い浮かべることが多い.これらの眼軟膏は油性基剤であるため,被覆性に優れる一方で,べたつきが強く,伸展性にも乏しい.これに対し,アレジオン眼瞼クリームC0.5%には油中水型(W/O)のクリーム基剤が採用されている.軟膏に比べて伸展性が高く,塗布後のべたつきも少ない(表1).眼内に入った場合には速やかに洗浄することが推奨されているが,誤って眼内に入っても刺激感は比較的少なく,軽度の異物感を認める程度である.CVエピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%の治療成績エピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%の治療成績についての報告はまだ少ない.第Ⅲ相環境試験では,アレルギー性結膜炎患者C186764あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026(48)TimeafteradministrationEpinastinedistnbutionPostLMDPreLMD0.5h8h24hEpidermissideLidmarginsideConjuctivalside10510310110-1Concentration(pg/mm3)図2アレジオン眼瞼クリーム0.5%図3アレジオン眼瞼クリーム0.5%患者向けの塗り方指導パンフレットアレジオン眼瞼クリームは,約C1.3Ccmのクリームを目のまわり全体に塗るように指導している.表1外用製剤の基剤による特徴油中水型クリーム水中油型クリーム製剤の例油脂性軟膏(水中水型:W/O)(水中油型:O/W)(W/O:water-in-oil)(O/W:oil-in-water)イメージ図使用感(べたつき)高低被膜性(保護性)高低伸展性(伸びのよさ)低高刺激感(一般に)低高眼科でよく用いられる油性軟膏はべたつきやすく,伸展性が低いのに対し,油中水型クリームは使用感も良好で伸展性が高いC.表2使用成績調査中間報告での副作用出現率承認時前調査(1C24例)使用成績調査(1C72例)眼瞼炎1(0C.6%)眼瞼紅斑1(0C.8%)1(0C.6%)眼瞼腫脹1(0C.6%)眼瞼.痒症2(1C.6%)1(0C.6%)眼瞼刺激1(0C.6%)結膜出血1(0C.6%)眼の異物感1(0C.6%)副作用発現症例数2/124例(1C.6%)6/172例(3C.5%)MedDRA/J(ICH国際医薬用語集日本語版)version(28.0)ab図4エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%による眼瞼炎72歳,男性.アトピー皮膚炎既往あり.Ca:エピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%塗布開始後C3日目に眼瞼の発赤,腫脹を生じた.b:エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム中止後C1週間.塗布中止後は速やかに改善した.

アレルギー性結膜炎の基礎研究―花粉の殻により誘導される抗原取り込み

2026年7月31日 金曜日

アレルギー性結膜炎の基礎研究─花粉の殻により誘導される抗原取り込みBasicResearchonAllergicConjunctivitis:AntigenUptakeInducedbyPollenShells木村芽以子*はじめにアレルギー性結膜炎は,Ⅰ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患である.1).原因物質である花粉やハウスダストなどの抗原(狭義にはアレルゲンと呼称されるが,本稿では便宜上「抗原」と記載する)が,鼻粘膜や喉などを介して体内へ侵入すると,樹状細胞などの抗原提示細胞に取り込まれ,2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)型免疫応答が誘導される.その後,B細胞によって産生された抗原特異的免疫グロブリンE(immunoglobulinE:IgE)抗体は血液に乗って全身をめぐり,全身の肥満細胞(マスト細胞)の表面に結合して,アレルギーを起こす「準備状態(感作)」が成立する(図1).その後,再び同一の抗原が結膜に侵入し,マスト細胞上のIgE抗体と結合して架橋する.これがトリガーとなってマスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出される(脱顆粒)ことで,かゆみや充血といった即時型のアレルギー症状が引き起こされる(発症)(図1).これらの症状は,眼が抗原に曝露されてから数十分以内に生じる即時型反応である.このことから,抗原は結膜においてきわめて迅速に組織内へ侵入していると考えられる.したがって,原因物質である抗原がいかにして眼表面のバリアを突破し,結膜組織内へ侵入するかという仕組みは,本疾患の発症メカニズムを理解するうえで重要な鍵となる.「Ⅱ結膜組織内への抗原の侵入方法」の項では,この抗原の侵入の仕組みについて解説する.われわれ医師が診療でアレルギー検査を行う際,通常よく検査するのは血液中のIgE抗体である.ところが,実際には血液検査ではIgE抗体が陰性であるにもかかわらず.2),強いかゆみなどアレルギー性結膜炎の症状を訴える患者も少なくない.こうした患者の場合は,結膜局所だけで感作から発症までの病態が成立していると考えられ,localallergicconjunctivitisと呼称されている.筆者らは結膜局所で感作から発症まで引き起こすマウスモデルを確立し,同モデルにおいて花粉の殻が重要な役割をしていることも明らかにした.「ⅤLocalallergicconjunctivitisと花粉の殻」では,この詳細についても解説する.I眼表面バリア機構と杯細胞眼表面は外界に晒されている粘膜であり,外界からの異物の侵入を防ぐため複数のバリア機構が機能している.なかでも結膜上皮細胞の1種である杯細胞は,MUC5ACやMUC5Bといった分泌型ムチンを産生することで涙液の安定性を高め,眼表面の湿潤性と潤滑性の保持に寄与する.また,ムチンに含まれるシアル化した糖鎖は,異物をカプセル化してトラップし,効率よく除去する機能を有しており.3),杯細胞は異物の除去においても重要な役割を果たしている.さらに,杯細胞はレチノイン酸.4)やTGF-β2.5)の産生を通じて免疫寛容を誘導するなど,免疫調節細胞としての側面ももつことも明らかになってきた.このように,これまで杯細胞は,おも.*MeikoKimura:順天堂大学医学部附属浦安病院眼科,順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター〔別刷請求先〕木村芽以子:〒279-0021千葉県浦安市富岡2-1-1順天堂大学医学部附属浦安病院眼科(1)(39)7550910-1810/26/\100/頁/JCOPYマスト細胞IgE脱顆粒充血流涙浮腫掻痒感図1Ⅰ型アレルギー反応感作相:侵入した抗原に対して特異的IgE抗体が産生され,マスト細胞の表面に結合し,アレルギーの準備が整う段階.惹起相:再び侵入した抗原がマスト細胞上の複数のIgEを橋渡し(架橋)するように結合すると,ヒスタミンなどが放出され(脱顆粒),アレルギー症状が発症する段階.GAP図2抗原の侵入経路杯細胞関連抗原経路(GAP)は杯細胞が抗原を取り込み,実質へと抗原を受け渡す経路である.①②③TopZBottomZWGAOVA-AF647図3結膜におけるGAP花粉の殻と蛍光ラベルした蛋白抗原を点眼すると,多数の杯細胞が抗原を取り込み,GAPを形成していることが確認された.緑色に染まっているのが杯細胞,赤色が蛍光ラベルした蛋白抗原である.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CCC-BY4.0https://creativecommons.org/licenses/Cby/4.0/CStromallayerfluorescenceintensity10,000(Arbitraryunit)8,000OVA-AF6476,000Shell+OVA-AF647MostGAParea4,000LeastGAParea2,00000400Gobletcelllayerfluorescenceintensity80012,000(Arbitraryunit)図4表層のGAP形成と実質層の抗原取り込み表層のCGAP分布と実質層の抗原取り込みは空間的によく相関していた.①CGAPありエリアは実質層の抗原の取り込みが多い.②GAPなしのエリアでは取り込みが少ない.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CC-BYC4.0https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/a花粉の殻の有無bZ事前に局所麻酔薬(Lidocaine)を点眼ZZ200150100500SalLDC三叉神経を電気焼灼(Ablation)図5各条件によるGAPの数a:蛋白抗原を単独点眼するとCGAPはほとんど形成されなかった.GAP形成は花粉の殻刺激により誘導される.Cb:事前に局所麻酔薬を点眼すると,GAPの数が減少する.c:三叉神経を電気焼灼した側では,GAPの数が減少する.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CCC-BY4.0https://creativecommons.org/licenses/Cby/4.0/C抗原抗原提示細胞図6GAPを介した迅速な抗原の取り込み好酸球性炎症(アレルギー性結膜炎)図7花粉の殻により誘導されるGAP形成花粉の殻は三叉神経を介してCGAP形成を誘導する.GAPによる迅速な抗原通過はアレルギー性結膜炎の発症に関与するC.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CCC-BY4.0https://creativecommons.Corg/licenses/by/4.0/アレルギー性結膜炎の発症花粉懸濁液事前の全身感作なし花粉の殻と抽出液図8Localallergicconjunctivitisの発症の条件アレルギー性結膜炎の発症には,花粉の殻(粒子性成分)と花粉の抽出液(水溶性蛋白抗原)の両者が必要である.-

アレルギー性結膜炎の基礎研究―眼表面のムチンシアル化を中心に

2026年7月31日 金曜日

アレルギー性結膜炎の基礎研究─眼表面のムチンシアル化を中心にBasicResearchonAllergicConjunctivitis:AFocusonSialylatedMucinsoftheOcularSurface松澤萌*はじめにアレルギー性結膜炎は,日常眼科診療においてもっとも頻繁に遭遇する疾患の一つであり,近年では有病率が増加傾向にある.とくに花粉飛散量の増加や生活環境の変化に伴い,季節性アレルギー性結膜炎のみならず,アトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC)や春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)などの重症眼アレルギー疾患を診療する機会も少なくない.一方で,多くの患者では抗アレルギー点眼薬による治療で症状コントロールが可能であるものの,慢性的な炎症や涙液不安定化を伴い,難治化する患者も存在する.アレルギー性結膜炎の病態は免疫グロブリンE(immunoglobulinE:IgE)依存性炎症や2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)型免疫応答に加え,眼表面バリア機能異常も指摘されている.アレルギー炎症に伴う上皮障害や涙液環境変化は,眼表面バリアを破綻させ,アレルゲン侵入を促進することでさらなる炎症惹起につながる可能性も示されている1,2).また,ドライアイとの病態オーバーラップも指摘されており,「tear.lminstability」やムチン(mucin)異常という観点から眼表面疾患を統一的に理解しようとする試みが進んでいる3).ムチンは粘膜を「ぬるぬる」な状態に保つ,すなわち湿潤や潤滑にかかわる蛋白質であり,粘膜の細胞表面から生えるように存在している膜型ムチンと,いわゆる「粘液」の構成成分として放出される分泌型ムチンに分けられる.これらの眼表面ムチンは,涙液層およびグリコカリックス(glycocalyx)の主要構成成分として,潤滑や保水のみならず,外来異物に対する物理的バリアとして機能している.なかでも結膜杯細胞(gobletcell)由来のゲル形成ムチン(MUC)5ACは,涙液安定化に重要な役割を果たすことが知られている.ムチンは高度に糖鎖修飾された巨大な糖蛋白質であり,その糖鎖構造はムチンの物理化学的性質や生体防御機能に大きな影響を与える.とくに末端シアル酸による修飾(シアル化)は,ムチンに保水性や粘弾性を付与し,外来粒子との相互作用にも関与すると考えられている.筆者らは,結膜杯細胞由来ムチンのシアル化が,花粉粒子を包み込み,眼表面から効率的に除去する防御機構に重要な働きをしていることを報告した4).本稿では,眼表面ムチンおよびそのシアル化の基礎を概説するとともに,アレルギー性結膜炎における結膜杯細胞ムチンシアル化の役割について,筆者らの研究成果を中心に概説する.I眼アレルギー炎症とバリア機能眼表面は外界に常時曝露される粘膜組織であり,乾燥,微生物,アレルゲン,摩擦刺激などさまざまな外的ストレスに曝露されている.その恒常性維持には,涙液,角結膜上皮,およびムチンから構成される眼表面バリア機構が重要な役割を果たしている.アレルギー性結膜炎は,花粉やダニなどのアレルゲン*MoeMatsuzawa:順天堂大学医学部附属浦安病院眼科〔別刷請求先〕松澤萌:〒279-0021千葉県浦安市富岡2-1-1順天堂大学医学部附属浦安病院眼科(1)(31)7470910-1810/26/\100/頁/JCOPY油層涙液層グリコカリックス(glycocalyx)粘液顆粒核上皮層負電荷同士で非接着性反発するムチン分子図2ムチンの物理的性質とシアル酸眼表面のムチンがもつ糖鎖は,多くがシアル酸(紫色の菱形で示す)をその先端にもつ.シアル酸は負電荷を帯びることによって互いに反発し,非接着性(潤滑)にかかわるほか,極性分子である水を引きつける,このほか,糖鎖そのものも多数の-OH基などをもつことによって親水性となり,眼表面の湿潤にかかわる.EYEPRIM法による結膜上皮の採取アルシアンブルー/PAS染色シアル酸除去処理2.3.1.なしありアルシアンブルー染色アルシアンブルー染色+上皮細胞PAS染色上皮細胞杯細胞図3ヒト結膜の杯細胞EYEPRIMデバイスを用いて採取したヒト結膜の上皮をCPAS染色(赤紫,粘液糖鎖を染色)およびアルシアンブルー染色(青,負電荷物質を染色)で染色すると,杯細胞の粘液顆粒は両者により染色される.アルシアンブルーはシアル酸除去酵素処理によって染色されなくなることから,ヒト結膜杯細胞のアルシアンブルー染色性はシアル酸によるものであることがわかる.シアル酸除去後においても,DNAが負電荷物質であるため細胞核は染色されている.(文献C4より改変引用)杯細胞作用3OOガラクトースペプチド鎖N-アセチルペプチド鎖ガラクトサミンOOシアル酸6ペプチド鎖作用ペプチド鎖図4糖転移酵素による糖鎖伸長糖鎖の形成には,多数の酵素が関与しており,これらの酵素はそれぞれ特定の糖鎖を特定の場所に付加する職人にたとえることができる.たとえば,ムチン上の同じCN-アセチルガラクトサミンに対してCC1GALT1酵素が働くと3位(図の右上)にガラクトースが付加され,ST6GALNAC1酵素が働くとシアル酸が6位(図の右下)に付加される.ガラクトースからはさらに糖鎖伸長が可能であるが,シアル酸には他の糖が付加できないため,シアル酸は糖鎖の先端に露出している.シアル化糖鎖をもたないシアル化糖鎖をもつ野生型Balb/cマウスBalb/cマウス(Aoマウス)花粉懸濁液を点眼結膜上の花粉を顕微鏡観察花粉粘液層微粒子微粒子粘液層の表面微粒子の透過性評価花粉の表面図6粘液カプセルに隔離された花粉粒子花粉懸濁液をマウスに点眼すると,杯細胞から粘液が放出され,花粉粒子が絡めとられて凝集する.シアル化糖鎖のない野生型CBalb/cマウスの場合は花粉塊のサイズも小さく,花粉粒子が露出しており,微粒子の懸濁液を加えると花粉表面まで到達する.これに対し,シアル化糖鎖を産生できるようにしたCAoマウスにおいては,花粉塊のサイズが大きくなり,その周囲に粘液層が形成される.微粒子は粘液層の表面で阻まれ,花粉粒子まで到達できないことから,この粘液層が微粒子(細菌程度のサイズ)を通過させないことがわかる.(CC-BY4.0に基づき文献C4より改変引用)シアル化糖鎖がムチンの機能にもたらす効果・細菌や微粒子の隔離・効率的な捕捉・速やかな除去・抗原侵入の低減・アレルギー性結膜炎の抑制シアル化糖鎖をもたないムチン凝集のみムチン図7粘液糖鎖のシアル化とバリア機能花粉などの異物が眼表面に到達すると,杯細胞から粘液が放出され,粒子を絡めとる.シアル化糖鎖をもつムチンは花粉粒子をゲル状の粘液層で隔離し,効率的な捕捉,除去を介してアレルギー性結膜炎の発症を抑制している.この粘液層は異物の侵入を検知した際に集中して放出されたムチンによって形成されており,定常状態で存在する涙液層や上皮層などのバリアに加えて第三のバリアを提供する.眼表面ムチンは,このように直接的に粘液層を形成して異物を隔離するほか,上皮細胞表面の膜型ムチンによるグリコカリックス形成や,涙液中の分泌型ムチンによる涙液安定化など,角結膜バリア機能のあらゆる側面に関与している.’C

重症アレルギー性結膜疾患における分子標的薬治療のアップデート

2026年7月31日 金曜日

重症アレルギー性結膜疾患における分子標的薬治療のアップデートUpdatesinMolecularTargetedTherapyforSevereAllergicConjunctivalDiseases坂口秀人*福田憲*はじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)に対する免疫抑制点眼薬が登場すると,その効果と安全性からVKCの治療にパラダイムシフトが生じた.現在では多くのVKC患者において,ステロイド点眼薬を用いずに炎症のコントロールが可能である.しかし,タクロリムス点眼薬の市販後全例調査の報告で示されているように,免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬による治療に抵抗する症例も未だ一定数存在する1).免疫抑制点眼薬が登場して約20年が経過するが,その後新規の治療薬は上市されておらず,VKCの難治例に対する治療の開発がアレルギー性結膜疾患治療におけるアンメットニーズとなっている.アレルギー疾患は,アレルギーマーチとよばれるように複数の臓器に成長とともにさまざまな疾患を発症するのが特徴である.これらのアレルギー疾患は2型炎症という共通の病態を有しており,近年は2型炎症に対するさまざまな分子標的薬が開発・上市されている2).本稿では,アレルギー疾患に対する分子標的薬によってアトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC)・VKCが改善した症例のエビデンスを中心に解説し,これらの疾患の病態について考察する.IVKC・AKCの病態VKCはおもに小児の男児に好発する慢性重症アレルギー性眼疾患である.アトピー性皮膚炎(atopicderma-titis:AD)を合併することが多いが,ADがなくても発症する.上眼瞼結膜の巨大乳頭や輪部病変などの結膜増殖性変化と角膜病変が臨床的特徴であり,視力障害をきたしうる.結膜巨大乳頭では,好酸球や2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)細胞などの炎症細胞浸潤に加えて,線維芽細胞の増加や細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)の沈着などが組織学的な特徴である3).免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬による治療によっても改善しない巨大乳頭のtranscriptome解析の研究によって,サイトカインではインターロイキン(interleukin:IL)-4とIL-13がもっとも発現していることが示され4),これらのサイトカインが巨大乳頭形成,VKCの病態に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.細胞生物学的な検討により,IL-4とIL-13は結膜線維芽細胞に作用し,①細胞増殖の促進5),②遊走の促進6),③アポトーシスの抑制7)により,巨大乳頭における線維芽細胞の増加に寄与すると考えられる.また,④コラーゲンやフィブロネクチンなどのECMの産生亢進5),⑤ECMを分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(matrixmetalloproteinase:MMP)の産生抑制8),⑥MMPの内因性のインヒビターであるtissueinhibitorofmetalloproteinases(TIMP)の産生亢進によって,ECMの沈着に寄与する.これらのさまざまな作用により,IL-4/IL-13は巨大乳頭の形成に重要である可能性が推察されている(図1)6).VKCにおける角膜病変の病態においては,角膜病変の重症度が涙液*HidetoSakaguchi&KenFukuda:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕坂口秀人:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮185-1高知大学医学部眼科学講座(1)(23)7390910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1春季カタルにおける結膜巨大乳頭形成におけるインターロイキン(IL)-4およびIL-13の役割IL-4とIL-13は結膜線維芽細胞に作用し,ケモカイン産生に加えて,細胞増殖・遊走の促進,アポトーシスの抑制やコラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)の産生亢進,ECMを分解するmatrixmetalloproteinase(MMP)の産生抑制とMMPの内因性のインヒビターであるTIMP(tissueinhibitorofmetallo-proteinases)の産生を亢進させる.-図2春季カタルにおける角膜病変におけるIL-4およびIL-13の役割涙液中に分泌されたCIL-4とCIL-13は腫瘍壊死因子(TNF)-αと共同して角膜実質細胞からCeotaxinを産生し,好酸球を遊走させて角膜病変の形成に重要な役割を果たす.CabトラロキヌマブⅠ型受容体Ⅱ型受容体図3IL-4受容体および分子標的薬の作用部位a:IL-4受容体はCIL-4Rαサブユニットを共有するC2種類の受容体を形成する.I型受容体(IL-4Rα鎖+共通γ鎖)はCIL-4のみに応答し,おもにリンパ球などの造血細胞に発現する.Ⅱ型受容体(IL-4Rα鎖+IL-13Rα1鎖)はCIL-4およびCIL-13の両方に応答し,線維芽細胞などの非造血細胞に広く発現する.b:デュピルマブはCIL-4Rα鎖に結合することで,I型およびⅡ型受容体を介したCIL-4とCIL-13の両者シグナルを阻害する.IL-13抗体であるトラロキヌマブおよびレブリキズマブはCIL-13のみを阻害する.JAK阻害薬は細胞内でシグナル伝達分子であるCJAKを阻害することで,IL-4・IL-13のシグナル伝達を抑制する.IL:interleukin,JAK:Januskinase,Tyk:tyrosinekinase,STAT:signaltransducerandactivatoroftranscription,TNF:Ctumornecrosisfactor.C下する.デュピルマブは中等.重症CADにおいて,プラセボ群と比較して有意に症状改善を示している16).さらに外用ステロイドとの併用によるC1年間の長期試験においても,デュピルマブはC52週にわたって持続的な改善効果が維持されることが報告されている17).現在,デュピルマブはさまざまなアレルギー疾患に適応があるが,AD患者でのみ約C10.30%の患者にデュピルマブ関連眼表面疾患(dupilumab-associatedCocularCsurfacedisease:DAOSD)とよばれる結膜炎・眼瞼炎などの眼表面炎症が生じることがさまざまな論文で報告されている.DAOSDの機序として,IL-4/IL-13シグナルの遮断が眼表面局所における免疫バランスの変化や,結膜杯細胞機能の低下やムチン産生抑制などが仮説として提唱されている2)が,詳細な機序は現在も解明中である.またCIL-13を選択的に阻害するトラロキヌマブ(アドトラーザ)やレブリキズマブ(イブグリース)も,デュピルマブと同様にCAD患者においては結膜炎を生じることが報告されている.DAOSDの詳細に関しては本特集の他項を参照されたい.JAK阻害薬は,細胞内チロシンキナーゼであるCJAKを阻害することで,多種のサイトカインシグナルを包括的に遮断する低分子薬である.サイトカインが受容体に結合すると,受容体に会合したCJAKが活性化してSTATをリン酸化し,核内に移行したCSTATが標的遺伝子の転写を誘導する.JAK阻害薬はこのCJAK-STATシグナル軸を遮断することで,Th2系(IL-4/IL-13/IL-5/IL-31)のみならずCTh1・Th17系など幅広いサイトカインシグナルを同時に抑制する.ADに対してはC3種類のCJAK阻害薬が承認されている.ウパダシチニブはCJAK1選択的阻害薬18),バリシチニブはCJAK1/JAK2阻害薬,アブロシチニブはCJAK1選択的阻害薬である.JAK1の阻害により,IL-4/IL-13/IL-31/TSLP/IL-6/CIFN-γなど多彩なサイトカインシグナルを抑制することができる.CIII新規AD治療薬の重症アレルギー性結膜疾患に対する有効性VKCの治療は免疫抑制点眼薬の登場によりパラダイムシフトが生じ,ステロイド点眼薬を用いずに眼圧上昇を気にすることなく治療できる患者も多くなった.しかし,点眼治療に抵抗する難治例が一定数存在し,難治例に対する新規治療薬がアンメットニーズとなっている.このような点眼治療で難治な患者に対して,新規CAD治療薬の有効性を示す症例が報告されている.C1.抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)が奏効したVKC/AKC症例デュピルマブは,上述のとおりCIL-4Rαを介してIL-4/IL-13の両シグナルを遮断するため,VKCやAKCの病態に直接作用すると考えられる.筆者らは,巨大乳頭を伴う重症のCAKCに対して抗CIL-4受容体α抗体(デュピルマブ)が奏効したC2症例を報告した9).1例目はデュピルマブ投与開始日に「眼の調子が悪い」と皮膚科から紹介されたC33歳のCAD患者である.診察すると両眼の上眼瞼に巨大乳頭がみられ(図4a,b),眼脂には多数の好酸球が観察され,活動性の高い増殖性変化を伴うCAKCと診断した.デュピルマブが同日に開始されるため,点眼治療は行わなかった.2週間後の再診時には,巨大乳頭は著明に平坦化し(図4c,d),そのC2週間後(デュピルマブC2回目投与後)には巨大乳頭は完全に消退していた(図4e,f).2例目は,タクロリムス点眼薬およびリン酸ベタメタゾン点眼薬で加療しても,結膜巨大乳頭と角膜のシールド潰瘍が改善しないC25歳のCAKCの難治例である(図5a).幼少時からCADも加療していた.点眼治療に抵抗するため,巨大乳頭切除術をC2回施行しても,すぐに巨大乳頭が再発し(図5b),角膜病変も改善しなかった.3回目の巨大乳頭切除術施行の同時期にCADの治療がデュピルマブに変更された.その後,巨大乳頭は再発せず,角膜病変も改善した(図5c).また,筆者らの報告後,海外からも同様の症例が複数例報告されている.Tsuiらは,点眼療法に抵抗性の難治性CVKCに対し,デュピルマブの追加により上眼瞼結膜の巨大乳頭の消退と,角膜病変が治癒した小児症例を3例報告した19).これらは,眼瞼へのタクロリムス軟膏塗布・ステロイド点眼でもコントロール不能であった重症例であったが,デュピルマブ追加後は再燃なく良好な経過が得られている.さらに,日本からも齋藤らがデュ742あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026(26)図4デュピルマブによる巨大乳頭の消退アトピー性角結膜炎の症例.Ca,b:デュピルマブ投与前の所見.右眼(Ca)と左眼(Cb)の上眼瞼結膜に巨大乳頭を認める.Cc,d:デュピルマブ初回投与C2週間後の所見.巨大乳頭が著明に平坦化している.Ce,f:デュピルマブC2回目投与C2週間後の所見.巨大乳頭が完全に消退した.(文献C9より引用)図5デュピルマブによる巨大乳頭および角膜病変の改善a:タクロリムス点眼薬およびステロイド点眼薬で加療中のアトピー性角結膜炎の症例で,結膜巨大乳頭と角膜シールド潰瘍を認める.Cb:巨大乳頭切除術をC2回施行後の所見.速やかに再発した.Cc:3回目の切除術と同時にCAD治療をデュピルマブに変更したあとの所見.巨大乳頭は再発せず,角膜病変も改善した.(文献C9より引用)図6JAK阻害薬による春季カタルの改善タクロリムス点眼薬およびステロイド点眼薬で加療中の春季カタル症例(13歳,女児).a:ウパダシチニブ内服前は上眼瞼結膜に巨大乳頭と点状表層角膜症がみられる.Cb:内服開始C1カ月後には巨大乳頭の範囲が縮小した.Cc:内服C3カ月後には巨大乳頭がほぼ平坦化し,角膜上皮障害も消退した.(文献C21より引用)-

アトピー緑内障のアップデート

2026年7月31日 金曜日

アトピー緑内障のアップデートUpdatesonAtopicGlaucoma松田彰*Iアトピー緑内障の疾患概念アトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)に緑内障が合併する症例があり,ステロイド緑内障がCADに合併したと解釈されることが多い.一方で,ステロイド忌避症例やステロイドの使用歴はあるものの,ステロイド緑内障とは考えにくい症例があり,アトピー性炎症によって誘発されるアトピー緑内障という疾患概念を筆者らは提唱している.1).アトピー緑内障の定義として,①顔面を含む重症CADが存在すること,②緑内障性の視神経乳頭の変化を認めること,③視神経乳頭の変化に合致する視野障害が存在すること,④C21CmmHg以上の高眼圧,⑤明らかなステロイド緑内障症例は除外する,という基準を作成して,45症例C62眼の臨床的な特徴をまとめて報告した.その結果,発症年齢の平均がC38.13歳と原発隅角緑内障の好発年齢より若く,男女比がC4:1と男性に多く,43眼(69%)にアトピー白内障の合併を,19眼(30%)に網膜.離の合併を認めた.また,論文報告時には両眼性症例がC17眼(27%)であったが,その後の経過中に片眼性から両眼性へ進行した症例もあることから,時間差がある両眼症例が存在するものと考えられる.臨床上の特徴として,経過中の最高眼圧の平均が40mmHgと高く,70%の症例において重症(Aulhorn分類C3期以上)の視野変化を認めている.AD患者において緑内障の有病率が高いことは米国のCJohnsHopkins大学から報告があり.2),韓国での疫学調査などでも報告されている.3).また,重症のCAD患者では観血的手術を要する重症緑内障の発生リスクが高いことが,大規模臨床データベースを使った解析から明らかになっており,アトピー緑内障の疾患概念を支持する報告と考えられる.4).わが国の「アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2024」のクリニカルクエスチョンにもアトピー緑内障の疾患概念がとりあげられており,ガイドラインで引用されている総説.5)は,筆者らの論文.1)を根拠として引用している.「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」(第C3版)においても,次回改訂時にクリニカルクエスチョンとしてエビデンスを集めたうえでのシステマティックレビューを予定している.CIIアトピー緑内障患者の特徴と疾患概念確立の重要性2015年にアトピー緑内障についての論文を発表した際の患者平均年齢はC38歳であった.筆者が順天堂大学医学部附属順天堂医院と日本大学医学部附属板橋病院で2010~2025年に経験したアトピー緑内障手術症例C62例の初回緑内障手術時の平均年齢はC46.6C±11.7歳であり,2015年時点と比較して患者の年齢層が上がっていると考えられる.これは,AD治療の進歩で,アトピー性角結膜炎,アトピー白内障,アトピー網膜.離といったアトピー眼合併症を次々と併発する症例(眼アトピーマーチ症例)が減ってきている(患者層は高齢化している)ことが影響していると考えられる.患者の性別は男.*AkiraMatsuda:日本大学板橋病院眼科〔別刷請求先〕松田彰:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学板橋病院眼科(1)(17)C7330910-1810/26/\100/頁/JCOPY性C55人,女性C7人でC88.7%が男性であり,アトピー緑内障は働き盛りの青壮年層の男性に多いことがわかる.受診の時間がとれないなどの理由で,片方の眼が見えているうちは受診しなかった例,緑内障治療を途中放棄した例,うつ症状を呈した例など,アトピー緑内障の病態を広く社会に認知してもらうこと,さらに社会的なサポートが必要と痛感させられる場面を何度も経験している.アトピー緑内障の疾患概念を確立すべき理由は,①重症例であっても濾過手術後であれば,顔面を含めた局所のステロイドを適切に使用することで,ADのコントロールが改善することを経験すること,②濾過手術を施行していない症例でもタクロリムス軟膏やヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬の局所投与,重症例では生物製剤の使用でCADのコントロールを改善することで,眼合併症の連鎖を断ち切ることが期待できること,③前述のように重症CADに伴う緑内障の疾患概念を社会に理解してもらうことが治療上有益であると考えられること,④重症CADに伴う緑内障とステロイドの関係を過剰に考えることで,AD治療に必須であるステロイド使用を忌避したり,医療従事者とのトラブルや親が過剰に責任を感じるといった問題を防ぎ,治療へ前向きな姿勢を作るためにも有効であると考えられるためである.当初の論文で記載したように,軽症CADの症例のなかには,ステロイドの副作用として緑内障を発症したと考えられる症例もあり,完全に両者を鑑別することは困難な場合もある.1).一方で,ステロイドの使用が病態形成にほとんど関係せず,アトピー性炎症が緑内障を含めた一連のアトピー眼合併症を引き起こしていると考えられる症例が真のアトピー緑内障であると考えられる.CIIIアトピー緑内障の病態生理アトピー緑内障の病態生理には不明点が多いが,病理変化の特徴として,透過電子顕微鏡で房水が排出される経路(線維柱帯)にC10~30Cnmの特徴的な線維の沈着が認められる.1).この線維の形態はステロイド緑内障において観察されるC.ngerprint-like物質.6)とは異なる形態を示す.アトピー緑内障患者の前房水中にはインターロイキン(interleukin:IL)C-6,CC-CCmotifCchemokineCligand2(CCL2)といった炎症性サイトカインの発現が亢進しており,眼内炎症が病態形成に関連している.1).アトピー緑内障にはアトピー白内障やアトピー網膜.離の合併症例が多いことを考えると眼球におけるアトピー性炎症の慢性化が病態に重要な役割を果たしていると考えられ,2型炎症サイトカイン(IL-4,IL-13)とその下流にある組織線維化に関連する分子との関連について臨床サンプルを用いて現在も病態生理の研究を継続している.CIVアトピー緑内障の病型分類アトピー緑内障にはその病態の違いからC4病型がある.7).C1.アトピー白内障合併型20~30歳代の発症が多く,アトピー白内障と同時あるいはアトピー白内障の術後にアトピー緑内障が診断される病型.アトピー白内障は典型的な前.下白内障(図1a,b)のほかに,後.下白内障,成熟白内障などの形状を呈する.8).また,ADのコントロールが悪い重症例では,かゆみのために眼球叩打を繰り返すことから,眼内レンズの偏位・落下を認める症例(図1c)があり,アトピー緑内障の重症化のサインである.C2.アトピー性角結膜炎:円錐角膜合併型緑内障治療上の重要なパラメータである眼圧測定は角膜形状に不正がなく,角膜中心部の厚み(中心角膜厚)がC0.545Cmmであることを前提に計測機器(圧平眼圧計)が設定されている.そのため,アトピー性角結膜炎や円錐角膜の症例にアトピー緑内障が合併した場合に眼圧の正確な評価が困難になる.とくに円錐角膜は角膜中心が突出することで中心角膜厚が薄いことから,眼圧を実際よりも低く計測してしまうリスクがある.また,アトピー性角結膜炎や円錐角膜のためもともと視機能が悪い場合に,緑内障による視機能低下に患者が気づきにくいという問題が生じる.さらに,重症円錐角膜患者の場合は治療のために角膜移植が必要になることがあり,拒絶反応防止のためにステロイド点眼を使用する症例や,角734あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026(18)bc図1アトピー白内障に合併したアトピー緑内障a:アトピー白内障に典型的な前.下混濁を呈した症例.b:同じ眼のCHumphrey視野検査,眼圧C30CmmHgでアトピー緑内障(アトピー白内障合併型)の診断.Cc:重症のアトピー性皮膚炎に伴う掻痒感のため,眼球を叩打していた症例.白内障術後の眼内レンズが下方に落下しているC.C図2ROCK阻害薬点眼によるアトピー性接触性皮膚炎Rho-associatedCproteinkinase(ROCK)阻害薬点眼による接触性眼瞼皮膚炎,パッチテストで当該薬剤に陽性反応を認めた.図3網膜.離合併型アトピー緑内障①50歳代,男性.うつ状態を伴う重症アトピー性皮膚炎.4年前に右眼アトピー白内障+アトピー網膜.離の手術歴.引きこもりのため,治療を放棄.左眼はアトピー白内障+網膜全.離でほぼ失明.右眼眼圧C40CmmHg,網膜に.胞様黄斑浮腫を認める(Ca).末期緑内障視野(Cb),右眼に緑内障インプラント手術を施行したC.C40歳代,女性.両眼アトピー白内障術後両網膜.離,強膜内陥術後.右眼は線維柱帯切開術とCBaerveldtインプラント挿入術後(Ca).右眼眼圧再上昇で受診,バックル+インプラント挿入後(Cb,c)で濾過手術追加困難.内視鏡下毛様体光凝固(Cd)を施行.図5網膜.離合併型アトピー緑内障③50歳代,男性.両眼アトピー白内障とアトピー網膜.離術後,左眼光覚なし.右眼CIOL偏位C3回(Ca),右眼緑内障手術4回.右眼水疱性角膜症に対して3回の角膜内皮移植(Cb),眼前手動弁.-

デュピルマブ関連眼表面疾患のアップデート

2026年7月31日 金曜日

デュピルマブ関連眼表面疾患のアップデートAnUpdateonDupilumab-AssociatedOcularSurfaceDiseases安達瑠美*はじめにアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)は皮膚の慢性炎症性疾患であり,眼科領域においてもさまざまな合併症を引き起こす疾患である.2018年にCADに対する生物学的製剤であるデュピルマブがわが国でも承認され,ADの治療の幅が広がっている.一方で,デュピルマブ投与中の副作用として結膜炎があげられており,眼科的治療介入が必要であることが報告されている.本稿では,デュピルマブ関連眼表面疾患(dupilumab-associ-atedCocularCsurfacedisease:DAOSD)の最近の知見を概説する.CIアトピー性皮膚炎ADは,増悪と軽快を繰り返す,.痒のある湿疹を主病変とする皮膚疾患である.ADの病態形成には皮膚のバリア機能異常・掻痒・炎症が三つの大きな病因とされている.慢性的な顔面や眼瞼皮膚の強い掻痒感は,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)を低下させるだけでなく,頻回の眼部の掻爬や叩打のきっかけとなり,さまざまな眼合併症を引き起こす.眼合併症としては,アトピー性角結膜炎(atopickera-toconjunctivitis:AKC)・アトピー性眼瞼炎・白内障・緑内障・網膜.離・円錐角膜・易感染性などがあり,幼少期~壮年期の点眼治療,また,重症化した場合には視機能維持のため手術療法が必要となる.1.ADの病態ADにおける炎症の病態にはC2型ヘルパーCT細胞(TChelperC2cell:Th2)やC2型自然リンパ球(innateClym-phoidcellgroup2:ILC2)が深く関与している.これらは局所にC2型炎症を誘導させ,インターロイキン(interleukin:IL)C-4,CIL-5,IL-13などのC2型サイトカインが産生される.IL-4はCB細胞に作用して免疫グロブリンCE(immunoglobulinE:IgE)へのクラススイッチを促進し,IgEの産生に関与している.また,IL-4やCIL-13は皮膚の感覚神経の過敏化にも寄与していることが知られている.IL-5は好酸球の増殖や分化・活性化に関与している.慢性期にはC1型ヘルパーCT細胞(Th1),17型ヘルパーCT細胞(Th17)やC22型ヘルパーT細胞(Th22)が炎症の増強に関与している.AKCやアトピー性眼瞼炎でも同様の機序によりアレルギー炎症が引き起こされていると考えられている.さらに,眼表面では粘膜特有の変化もみられ,IL-4とCIL-13は結膜上皮の杯細胞(gobletcell)の分化およびムチン産生の誘導や線維芽細胞の増殖に関与している.これらの機序により,アレルギー炎症は一過性ではなく慢性化・重症化していくと考えられている(図1).C2.ADにおける生物学的製剤AD患者に対しては近年,生物学的製剤が使用可能となり,わが国で適応が承認されている生物学的製剤としては,デュピルマブ,ネモリズマブ,トラロキヌマブ,*RumiAdachi:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕安達瑠美:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野(1)(11)C7270910-1810/26/\100/頁/JCOPYIL-4/IL-13線維芽細胞図1アトピー性角結膜炎の病態TSLP:胸腺間質性リンパ球新生因子(thymicCstromallymphopoietin),IL:インターロイキン(interleukin),ILC2:2型自然リンパ球(innatelymphoidcellgroup2),Th:ヘルパーCT細胞(Thelpercell),IgE:免疫グロブリンCE(immunoglobulinE)C.~図2デュピルマブ関連眼表面疾患(DAOSD)図3Impressioncytology法デュピルマブ投与前アトピー性角結膜炎デュピルマブ投与後デュピルマブ関連眼表面疾患(DAOSD)図4デュピルマブ投与によるサイトカインの変化Th:ヘルパーCT細胞(Thelpercell)C.C–

小児アレルギーに関するアップデート

2026年7月31日 金曜日

小児アレルギーに関するアップデートRecentAdvancesinPediatricAllergicDiseases角環*はじめに近年,アレルギー疾患は世界的に増加傾向が報告されており,日本においても小児アレルギー疾患の有病率上昇が指摘されている.アレルギー疾患はアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD),食物アレルギー,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜疾患などが含まれるが,皮膚,消化管,気道,鼻粘膜,眼表面といった複数臓器にわたり発症する多臓器横断的疾患群である.罹患すると小児期から患者の生活の質(qualityoflife:QOL)や学習効率の低下,さらに将来的な社会生産性にも大きな影響を及ぼすため,アレルギー疾患の有病率上昇は社会的課題である.アレルギー疾患の発症には遺伝的素因と環境因子の双方が関与するが,比較的短期間に集団全体の遺伝的背景が大きく変化したとは考えにくく,その増加には生活様式の変化,都市化,食生活,衛生環境,大気汚染,環境抗原曝露様式の変容など,環境因子の影響がきわめて大きいと考えられている.とくに小児期は環境因子の影響を強く受ける時期であり,乳児期の湿疹やADを起点として多様なアレルギー疾患へ進展するアレルギーマーチの理解が必要となる.このような背景のもと,アレルギー疾患を正しく理解し,適切に予防・管理することは全診療科に共通する課題であり,アレルギー性結膜疾患を診療する眼科医においても,その全身的背景を理解することが求められる.本稿ではアレルギーマーチ,小児アレルギー疾患の疫学,国内外のコホート研究,そしてエコチル調査の最新知見を中心に,小児アレルギーに関するアップデートを概説する.Iアレルギーマーチとはアレルギーマーチはアレルギー素因を有する個体が,時間・原因抗原・発症臓器を異にしながら複数のアレルギー疾患を次々と連続的に発症していく自然歴を示す概念で,1980年代に馬場により提唱.1)された(図1).乳児期のADや食物アレルギーを起点として,成長とともに気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜疾患などへとアレルギー疾患が進展・拡大し,原因抗原も食物抗原からダニ,花粉抗原へと加齢に伴い変化.2)するものとして広く認識され,現在では国際的にも広く受け入れられている.近年では,アレルギーマーチの発症機序として皮膚バリア障害の重要性.3)が明らかとなっている.フィラグリン遺伝子異常や皮膚炎によるバリア破綻により抗原が経皮的に侵入し,2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)型免疫応答を介した免疫グロブリンE(immuno-globulinE:IgE)感作(経皮感作)が成立する.さらに,上皮由来サイトカインを介した全身性アレルギー炎症や,腸内細菌叢,食生活,抗菌薬使用,都市化,大気汚染などの環境因子が発症・進展に関与すると考えられており,アレルギーマーチは「皮膚から始まる全身性アレルギー炎症」として再解釈されている.4).こうした遺伝.*TamakiSumi:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕角環:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮185-1高知大学医学部眼科学講座(1)(3)7190910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1アレルギーマーチ概念図表1ISAACPhaseOneとPhaseThreeにおける小児アレルギー疾患の比較疾患領域指標CPhaseCOne(1C990年代)CPhaseCThree(2C000年代)傾向地域差の特徴喘息喘鳴地域差大高所得国で高頻度一部で増加,先進国では横ばい傾向C↑C/C→低・中所得国で増加鼻炎鼻炎中.高頻度地域差あり全体として増加C↑都市化地域で増加鼻結膜炎鼻炎より低頻度だが明確に存在明らかに増加C↑↑思春期・都市部で高頻度湿疹屈曲部湿疹地域差大高所得国で高頻度低・中所得国で増加C↑C/C→高所得国では高止まり表2アレルギー疾患の有病率の変化(日本)疾患調査地有病率の変化特徴アトピー性皮膚炎滋賀県C20年間比較調査1975年9.C12歳8%18.C20歳2%1994.C96年9.C12歳C15%16.C18歳C11%小児期から増加アレルギー性鼻炎全国調査1998年:C29.8%2019年:C49.2%著明な増加スギ花粉症同上1998年:C19.6%ピーク:4C0.C49歳2019年:C42.5%ピーク:1C0.C19歳著明な増加低年齢化アレルギー性結膜疾患全国調査1990年代:C15.C20%2017年:C48.7%顕著な増加表3西日本小学児童におけるアレルギー疾患表4アレルギー疾患医療拠点病院ネットワークを活用した有症率調査1992,2002,2012年の比較アレルギー疾患有病率調査(2023年)疾患1992年2002年2012年アトピー性皮膚炎C17.3%C13.8%C11.7%気管支喘息C4.6%C6.5%C4.7%アレルギー性鼻炎C15.9%C20.5%C28.1%スギ花粉症C3.6%C5.7%C9.9%アレルギー性結膜炎C6.7%C9.8%C11.4%年代アトピー性皮膚炎食物アレルギー気管支喘息アレルギー性鼻炎アレルギー性結膜炎全体平均C15.6%C15.2%C14.7%C47.4%C19.5%0.C4歳C13.5%C13.0%C9.5%C7.6%C2.7%5.C9歳C19.6%C18.0%C15.6%C30.6%C13.7%10.14歳C19.7%C19.3%C14.3%C49.8%C21.6%15.19歳C16.9%C16.9%C18.4%C53.4%C21.0%C表5代表的な出生コホート研究(アレルギー疾患)コホート名国開始年対象主な特徴・目的CALSPAC英国C1991約C14,000母子妊娠期から追跡.環境因子,遺伝,アレルギー,精神発達などを包括的に解析.CBAMSEスウェーデンC1994約C4,000人小児喘息・アレルギー自然歴を長期追跡.環境曝露とアレルギーマーチ解析で有名.CDNBCデンマークC1996約C100,000人大規模出生コホート.喘息・アトピー性皮膚炎・食物アレルギーを長期追跡CJECS日本C2011約C100,000母子環境省主導,日本最大規模の全国出生コホート.妊娠期からの環境曝露,アレルギー疾患,神経発達などを前向きに解析.ALSPAC:AvonCLongitudinalCStudyCofCParentsCandChildren,BAMSE:Children,CAllergy,CMilieu,CStockholm,Epidemiology,DNBC:DanishCNationalCBirthCCohort,JECS:JapanCEnvironmentCandCChildren’sCStudy(エコチル調査).-表6子どもの健康と環境に関する全国調査(JECS,エコチル調査)より得られた小児アレルギー最新知見分類論文名おもな対象疾患おもな内容・ポイント雑誌・年筆頭著者総論・疫学CAllergicCpro.lesCofCmothersCandCfathersCinCtheCJECSBA,AR,花粉症,AD,FA,CACJECS参加両親の全国規模アレルギー疫学調査.スギ感作率や鼻炎・結膜炎有病率を報告.日本におけるアレルギー背景を示した代表的研究CWorldCAllergyCOrganCJ,C2017CYamamoto-HanadaCKアトピー性皮膚炎CAssociationCofCtheCincidenceCofCatopicCdermatitisCuntilC3CyearsColdCwithCcli-mateCconditionsCinCtheC.rstC6CmonthsCofClifeCAD乳児早期の気温・湿度などの気候条件とCAD発症との関連を解析.乾燥環境との関連を示唆CPLoSCOne,C2022CYokomichiCHアトピー性皮膚炎・食物アレルギーCPersistentCeczemaCleadsCtoCbothCimpairedCgrowthCandCfoodCallergy湿疹,FA持続性湿疹が食物アレルギー発症や身体発育へ影響する可能性を報告.アレルギーマーチ研究として重要CPLoSCOne,C2021CYamamoto-HanadaCK鼻炎・感作CExposureCtoCHouseCDustCMiteCAllergenCandCEndotoxinCinCEarlyCLifeCandCSensitizationCandCAllergicCRhinitisAR,ダニ感作乳幼児期のダニ抗原・エンドトキシン曝露と感作・鼻炎発症との関連を解析CIntCJCEnvironCResCPublicCHealth,C2022CKojimaCR花粉感作CAssociationCofCJapaneseCcedarCsensi-tizationCatC8CyearsCofCageCwithChouseCdustCmiteCsensitizationCandCmaternalCcedarCpollinosisCinCtheCJECSCYamanashiCadjunctCstudyスギ花粉感作,ダニ感作8歳時点の小児スギ花粉感作と,ダニ感作および母親のスギ花粉症との関連を解析.家族歴と早期感作の重要性を示唆CAllergolCInt,C2025CShimamuraCA鼻炎・アレルギーマーチCNotCAllCRhinitisCFollowsCtheCAtopicCMarchCAR鼻炎を複数フェノタイプに分類し,すべてが典型的アレルギーマーチを辿るわけではないことを報告CAllergy,C2026CHaramaCD結膜炎・栄養CDietaryCintakeCofC.shCandCω-3Cpoly-unsaturatedCfattyCacidsCandCphysi-cian-diagnosedCallergyCinCJapaneseCpopulationAC,AR魚摂取量・Cω3脂肪酸摂取量とCaller-gicCconjunctivitisとの関連を解析.JECSで結膜炎を独立解析した比較的まれな報告CNutrition,C2019CMiyakeCY喘息・環境因子JECS喘息関連解析群BA,喘鳴PM2.5,黄砂,受動喫煙,化学物質,室内環境などと喘息発症との関連を解析複数報告AD:アトピー性皮膚炎,FA:食物アレルギー,BA:喘息,AR:アレルギー性鼻炎,AC:アレルギー性結膜炎子が解析されており,小児アレルギー発症との関連が報告されている.とくに興味深い報告として,出生季節とAD発症との関連がある.秋生まれ児は春生まれ児と比較して乳幼児期CAD発症リスクが高く,出生地域の日照時間や湿度などの環境条件も発症に影響する可能性が示された.これは,出生直後の皮膚バリア形成や環境曝露条件が早期アレルギー発症に影響しうることを示す重要な知見であり,日本の気候特性を踏まえた予防戦略にもつながる可能性がある.また,母体栄養,ビタミンD,脂肪酸摂取,抗菌薬曝露,腸内細菌叢への影響なども検討されており,小児アレルギー発症には胎児期からの環境要因が深く関与することが明らかとなりつつある.比較的短期間で遺伝背景が大きく変化することは考えにくく,こうした環境要因こそが近年のアレルギー疾患増加の主要因であることを支持する.眼科領域においては,現時点でアレルギー性結膜疾患単独の詳細解析は限定的であるものの,ADやアレルギー性鼻炎との関連を通じ,眼アレルギーを多臓器横断的アレルギー疾患として理解するうえで重要な基盤となる.今後,涙液バイオマーカーや眼症状を含めた解析が進めば,小児アレルギー性結膜疾患の自然歴解明にも大きく寄与すると期待される.このようにエコチル調査は,小児アレルギー疾患を時間軸に沿って多角的に解析し,日本におけるアレルギーマーチ,感作形成,環境リスク因子を包括的に明らかにしている.小児アレルギー診療において,エコチル調査から得られる知見は,早期介入,予防医学,個別化医療を推進するうえできわめて重要であり,今後のアレルギー診療の方向性を示す中心的研究といえる.CV小児アレルギー診療への示唆―眼科医に求められる視点小児アレルギー疾患は,多臓器にわたり進展する全身性疾患として理解されるようになり,眼科医においてもアレルギー性結膜疾患を局所疾患としてのみ捉える時代ではなくなっている.とくに小児では,自覚症状の表現が未熟であり,アレルギー性結膜疾患の特徴的症状である「掻痒感」を十分に訴えられない場合が多い.さらに診察協力が得られにくいことから,診断の遅れや未診断例が少なからず存在すると考えられる.そのため,問診や視診のみならず,涙液総CIgE検査など客観的診断指標を積極的に活用し,早期診断精度を高めることが重要である.また,学校健診による視力低下を契機に受診する小児のなかには,アレルギー性結膜疾患が潜在している可能性がある.アレルギー性結膜炎を有する小児は近視リスクが高く,腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)-αなど炎症関連サイトカインが眼軸伸長に関与する可能性.14)も報告されている.したがって,アレルギー性結膜疾患の早期診断と治療介入は,小児期の視機能保護という観点からも重要である.眼科医は視力異常のみならず,背景に存在するアレルギー性眼疾患を見落とさない視点が求められる.さらに,ADを有する児では,小児科,皮膚科,耳鼻咽喉科との連携が不可欠である.近年は生物学的製剤の適応拡大により,乳幼児期から全身的介入が可能となりつつあり,眼科医も全身アレルギー診療の一翼を担うことが期待される.おわりに近年の疫学研究および出生コホート研究の進展により,小児アレルギー疾患は環境因子と遺伝的素因の相互作用のもと,多臓器にわたり時間軸に沿って進展する全身性疾患として理解されるようになった.とくにエコチル調査は,日本人集団におけるアレルギーマーチ,感作形成,環境リスク因子を大規模前向き研究として明らかにし,小児アレルギー研究に大きな転換をもたらしている.一方で,眼科領域における疫学データや長期自然歴解析はいまだ限定的であり,小児アレルギー性結膜疾患を全身アレルギー疾患のなかでどのように位置づけるかは今後の重要な課題である.今後は涙液バイオマーカー,感作プロファイル,遺伝背景などを活用した早期診断や重症化予測が進展し,より早期からの介入や個別化医療が可能になることが期待される.アレルギー性結膜疾患は有病率がきわめて高く,眼科医は小児アレルギー診療の最前線に位置している.眼科724あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026(8)-

序説:眼科アレルギー疾患の診療アップデート

2026年7月31日 金曜日

眼科アレルギー疾患の診療アップデートRecentAdvancesintheDiagnosisandTreatmentofAllergicEyeDiseases松田彰*海老原伸行**はじめにアレルギー性結膜炎は頻度の高い疾患で,日常の生活の質(qualityoflife:QOL)にも大きな影響を与える.2024年度の調査では医療用抗アレルギー点眼薬の市場規模は472億円であり,抗緑内障薬の786億円には及ばないものの,ドライアイなど角膜疾患治療薬の293億円や,抗菌点眼薬の56億円よりは多額の医療資源が投入されている.一方で,抗アレルギー点眼薬の多くは抗ヒスタミン作用をもつメディエーター遊離抑制薬であり,ほかにはステロイド点眼薬と春季カタルのみを適応症とする免疫抑制点眼薬(タクロリムス)があるのみで,新しい薬理作用(.rstinclass)をもつ抗アレルギー眼科用剤は15年以上にわたり上市されていない.また,抗アレルギー点眼薬のうちかなりの割合が非眼科医によって処方されており,細隙灯顕微鏡所見を用いた眼科診療をベースにしない投薬も多いのが現状である.一方で,春季カタルやアトピー性角結膜炎といった慢性重症アレルギー性角結膜炎では,治療に難渋する症例や視機能に障害を残す症例も経験する.中等度以上の慢性重症アレルギー性角結膜炎では,抗アレルギー点眼薬に加えて免疫抑制点眼薬の使用が診療ガイドラインにおいても推奨されており,眼科専門医が把握しておくべき疾患の一つである.近年では,アトピー性皮膚炎(atopicdermati-tis:AD)の治療に各種の生物製剤が導入され,重症ADの治療が進歩している.眼科臨床においても新規AD治療薬を投与した患者の眼を診察することがある.なかでも,デュピルマブを使用した際に誘発されるデュピルマブ関連眼表面疾患については,眼科医としてその病態を理解し,適切な対応をすることが求められている.一方で,重症ADに対して生物製剤を投与した患者のなかには,アトピー性角結膜炎の症状・所見が改善する例もあることが報告されている.アレルギー性疾患の重症例では,生後早期のADに始まり,食物アレルギー,喘息,鼻炎という形でアレルギー疾患が進展していくアレルギーマーチという形をとることが知られている.アレルギーマーチをどのように防止するか,多くの介入試験が実施されている.アレルギー診療においては内科,小児科,皮膚科,耳鼻咽喉科,眼科の連携が重要で,日本アレルギー学会では各診療科の連携のもと,トータルにアレルギーを診療するアレルギー専門医の育成に力を入れているが,眼科領域のアレルギー専門医は全国で30名に満たない状況であり,多くの眼科専門医にアレルギー専門医の資格を取得していた*AkiraMatsuda:日本大学視覚科学系眼科学分野**NobuyukiEbihara:順天堂大学医学部附属浦安病院眼科0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(1)717

診断に苦慮した網膜血管炎を伴う急性帯状潜在性網膜外層 症の1 例

2026年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(6):704.710,2026c診断に苦慮した網膜血管炎を伴う急性帯状潜在性網膜外層症の1例吉田咲季*1林勇海*1内田敦郎*1,2藤岡俊平*1,3富田洋平*1伴紀充*1栗原俊英*1篠田肇*1根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国家公務員共済組合連合会立川病院眼科*3川崎市立川崎病院眼科CACaseofAcuteZonalOccultOuterRetinopathywithRetinalVasculitisthatwasDifficulttoDiagnoseSakiYoshida1),IsamiHayashi1),AtsuroUchida1,2),ShumpeiFujioka1,3),YoheiTomita1),NorimitsuBan1),ToshihideKurihara1),HajimeShinoda1)andKazunoNegishi1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,FederationofNationalPublicServicePersonnelMutualAidAssociationsTachikawaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospitalC目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種と同時期に症状が出現し,両眼に網膜血管炎を伴い診断に苦慮した急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)のC1例を経験したので報告する.症例:25歳,女性.来院約C5カ月前に左眼の霧視が出現し,精査加療目的に慶應義塾大学病院へ紹介となった.矯正視力は右眼(1.2)左眼(1.2),左眼の前部硝子体に細胞を認めた.左眼の周辺部網膜が色調粗造で,フルオレセイン蛍光造影(FA)では両眼に網膜血管炎の存在が示唆された.光干渉断層計(OCT)で左眼優位に網膜外層構造が消失しており,網膜電図(ERG)では左眼で杆体応答,錐体応答が著しく減弱していた.視野検査で両眼のCMarriott盲点の拡大,左眼には進行性の輪状暗点を認めた.感染症,膠原病スクリーニングを含む全身精査を施行したが特記所見はなかった.症状出現の約C1カ月前からCCOVID-19ワクチンを接種していた.結論:本症例は診断に難渋したが,網膜血管炎を伴う網膜外層障害ではAZOORを鑑別に精査を行う必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteCzonalCoccultCouterretinopathy(AZOOR)withCretinalCvasculitisCthatCwasCdi.culttodiagnose.Case:A25-year-oldwomanbecameawareofblurredvisioninherlefteyeapproximately5monthsCpriorCtoCpresentation.CHerCvisualCacuityCwasC1.2CinCbothCeyes.CSlit-lampCandCfundusCexaminationsCrevealedCanteriorvitreouscellsandperipheralretinalcolorabnormalityinthelefteye.FluoresceinangiographysuggestedbilateralCretinalCvasculitis.COpticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCshowedCdisruptionCofCtheCouterCretinalClayers,Cpredominantlyinthelefteye.Electroretinogram.ndingsshowedasigni.cantreductioninrodandconeresponsesinthelefteye.Visual.eldtestingrevealedenlargementoftheMariotteblindspotinbotheyesandaprogressiveparacentralringscotomainthelefteye.Asystemicexaminationwasunremarkable.ShehadreceivedaCOVID-19CvaccinationCaboutC1CmonthCpriorCtoCsymptomConset.CConclusion:AZOORCshouldCbeCconsideredCinCtheCdi.erentialCdiagnosisofouterretinopathywithretinalvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):704.710,C2026〕Keywords:急性帯状潜在性網膜外層症,網膜外層障害,網膜血管炎,COVID-19ワクチン.acutezonaloccultouterretinopathy,outerretinopathy,retinalvasculitis,COVID-19vaccination.はじめに疾患概念で,若年女性の近視眼に好発し,おもに網膜外層の急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterreti-障害により,急性の視力低下や視野障害で発症する1,2).眼nopathy:AZOOR)は,1993年にCGassにより提唱された底写真や蛍光造影は正常または軽微な変化のみであることを〔別刷請求先〕吉田咲季:〒C160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SakiYoshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC704(110)特徴とするが,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)において網膜の一部に軽度の過蛍光や網膜血管の染色を呈する例も存在し,網膜血管炎を合併しうる3).また,網膜は組織学的にC10層構造を有し,網膜の動静脈は表層の神経線維層内を走行している.網膜血管炎は網膜内層に存在する網膜血管に生じる炎症であり,網膜血管の白鞘化や閉塞,血管漏出,軟性白斑,網膜出血などを示す4).後部ぶどう膜炎には網膜血管炎および網膜外層の視細胞や網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)に炎症を生じる疾患のいずれも含まれるが5),網膜血管と網膜外層は解剖学的に離れており,網膜外層障害と網膜血管炎を合併する疾患は比較的まれである.さらに,新型コロナウイルス感染症(coronavirusCdis-ease-2019:COVID-19)ワクチンの接種が開始されて以降,COVID-19ワクチンのさまざまな副反応が報告されており,眼科領域でも角膜移植後拒絶反応,ぶどう膜炎,急性黄斑神経網膜症(acuteCmacularneuroretinopathy:AMN)や網膜.離,網膜静脈閉塞症などの網膜疾患,視神経炎に至るまで多数の報告がある6).今回,COVID-19ワクチン接種と同時期に症状が出現し,診断に苦慮した網膜血管炎を伴うCAZOORのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:25歳,女性.既往歴:耳下腺良性腫瘍.家族歴:眼疾患なし.飼育歴:イヌ,ハムスター.摂食歴:特記すべき事項なし.海外渡航歴:直近C1年以内になし.ワクチン接種歴:20XX-1年9月13日,10月4日にCOVID-19ワクチン(ファイザー社製)を計C2回接種.現病歴:20XX-1年C10月頃に左眼の霧視を自覚し,2カ月で進行性に増悪した.前医でぶどう膜炎および網膜変性疾患を疑われ,20XX年C3月に慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介受診した.1年以内の眼外症状は,問診で頭痛,めまい,歯・歯肉の病気,ニキビ,かみそり負け,続いている咳,下痢,肩こり,腰痛と回答があった.経過:初診時,視力は右眼C0.4(1.2C×sph-0.75DCcyl-0.75DAx110°),左眼C0.4(1.2C×sph-1.25DCcyl-0.75DAx50°),眼圧は右眼C14mmHg,左眼C16mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で両眼とも前房は深く,炎症所見を認めず,左眼の前部硝子体中に軽度の細胞を認めた.眼底は,右眼は特記事項を認めず,左眼は周辺部の網膜の色調が粗造であった(図1).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)では,左眼優位にCellipsoidzone(EZ)が途絶しており,左眼は軽度の網膜内.胞を認めた(図2).眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)では,右眼は血管に沿った高自発蛍光を認め,左眼はとくに黄斑周囲に高自発蛍光を認めた(図3).FAでは,右眼は鼻側や耳側血管の一部から蛍光漏出があり,左眼にはびまん性の網膜毛細血管レベルの蛍光漏出を認め,左眼優位の網膜血管炎が示唆された(図4).Humphrey視野検査では,右眼ではCMarriott盲点の拡大を認め,左眼では求心性の視野狭窄を認めた.Gold-mann視野検査をC20XX年C3月に前医にて,同年C6月に当院にて施行し,右眼はCHumphrey視野検査同様にCMarriott盲点の拡大を認めたが,おおむね進行はなく,左眼はCMarriott盲点の拡大に加えて進行性の傍中心輪状暗点を認めた(図5a.d).網膜電図(electroretinogram:ERG)は,右眼は杆体応答,錐体応答ともに波形が保たれていたが,左眼はいずれも著しく減弱していた(図6).血液検査で血算・生化学検査に特記所見を認めなかった.感染症検査では,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性,rapidCplasmaCreagin(RPR)定性,TreponemaCpallidum(TP)抗体ともに陰性,ヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunode.ciencyvirus:HIV)陰性,結核菌特異的インターフェロン(interferon:IFN)C-γ(T-SPOT)陰性,血清抗トキソプラズマCIgM抗体陰性であった.水痘帯状疱疹ウイルス,単純ヘルペスウイルスはそれぞれCIgG抗体価のみ陽性で既感染パターンであった.各種自己抗体は,抗核抗体,抗環状シトルリン化ペプチド(cycliccitrullinatedpeptide:CCP)抗体,抗二本鎖CDNA(anti-doubleCstrandedDNA:dsDNA)抗体,抗リボヌクレオ蛋白質(ribonucleoprotein:RNP)抗体,抗CSm抗体,抗Sjogren症候群(SjogrenCsyndrome:SS)-A抗体,ミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体(myeloperoxidaseanti-neutrophilCcytoplasmicCantibody:MPO-ANCA),プロテネースC3-ANCA(proteinase3-ANCA:PR3-ANCA)は陰性で,抗リン脂質抗体は弱陽性であったが病的意義は乏しいと考えられた.ヒト白血球抗原(humanleukocyteanti-gen:HLA)は,A2,A24,B62,B35が陽性であり,関連性は低いと考えられた.当院リウマチ・膠原病内科に依頼し,画像検査を含めた全身精査を行ったが,Behcet病,全身性血管炎などの膠原病はすべて否定的と考えられた.FAおよびCERGの再検査は患者の同意が得られず未施行であったが,当院初診後はC2年以上,自覚症状,眼所見,ならびにOCT,FAF,Goldmann視野検査(図5e,f)などの検査所見に著変なく,視力良好で積極的治療の希望がないため,無治療で経過観察を継続している.本稿は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認を得ている(承認番号:20100003).図1眼底所見a,b:右眼.c,d:左眼.網膜周辺部の色調が粗造である.Cab図2光干渉断層計(OCT)所見a:右眼.で示す範囲にCellipsoidzone(EZ)の途絶を認めた.Cb:左眼.軽度の網膜内.胞に加えて,で示す範囲にCEZの途絶を認めた.図3超広角眼底自発蛍光(FAF)所見a:右眼.血管に沿った高自発蛍光を認めた.b:左眼.黄斑周囲に高自発蛍光を認めた.図4フルオレセイン蛍光造影(FA)所見a:右眼.鼻側や耳側血管の一部から蛍光漏出を認めた.Cb:左眼.びまん性の網膜毛細血管レベルの蛍光漏出を認めた.CII考按本症例は,当院初診時には発症から比較的時間が経過していたが,両眼性に網膜血管炎を伴う網膜外層障害を認めた.発症からC8カ月後には視野障害の進行の停止を確認し,矯正視力は保たれていた.眼底検査,FAで説明できない両眼の視野欠損,OCTで視野欠損部位に一致するCEZの消失,ERGにおいて左眼優位の振幅低下を認め,経過や全身精査結果から先天性,自己免疫性などの網膜疾患,その他のぶどう膜炎は否定的であったことから,AZOORと診断した3).若年女性の近視眼で,左眼の硝子体中に軽度の炎症所見を認め,FAFで自発過蛍光を示していることもCAZOORを示唆している3).一方で,わが国ではCAZOORに.胞様黄斑浮腫を合併した報告は少数であるが7),左眼においてCOCTで非常に軽微な網膜内.胞を認めた.本症例では,FAにて比較的強い網膜血管炎の所見を認めたため,網膜血管炎を主眼におき検討を重ねたこともあり,診断に至るまでに長時間を要した.Monsonらの報告によれば,AZOORのC46眼のうちC4眼(9%)において,FAで網膜血管炎を示唆する血管壁の組織染および蛍光漏出が認められた8).とくに日本人症例では,SaitoらがC50眼のうちC13眼(26%)で網膜血管炎を伴っていたと報告している.ただし,罹病期間と網膜血管炎の関連性については言及されておらず,本症例では発症からある程度時間が経過していたが,FAにてとくに左眼で活動性の高い網膜血管炎を認めたことから,発症時期にかかわらずCFAを評価する意義があると考えられた.また同報告では,網膜血管炎の有無は初診時および最終の矯正視力ならびにCHumphrey視野検査における平均偏差(meandeviation:MD)と有意な関連を認めなかったが2),本症例では網膜血管炎の強い左眼優位に網膜外層障図5Goldmann視野検査所見a,b:20XX年C3月の右眼(Ca)と左眼(Cb).c,d:20XX年C6月.右眼(Cc)はCMariotte盲点の拡大を認めたが,おおむね進行はなかった.左眼(Cd)はCMariotte盲点の拡大に加え,進行性の傍中心輪状暗点を認めた.Ce,f:20XX年C12月の右眼(Ce)と左眼(Cf).20XX年C6月と比較し,両眼ともおおむね進行はなかった.害やCERGの振幅低下を認めた.AZOORの活動性や重症度が網膜血管炎にどのようにかかわっているかは今後検討が必要である.さらに,FAFの過蛍光はCRPEの機能不全を,低蛍光はCRPEの消失・萎縮を示唆しており,FAFでは眼底やFAで指摘できない異常所見を検出できることがあるため活用すべきである9).本症例における鑑別診断として自己免疫性網膜症があげられ8),しばしば鑑別がむずかしいことがある.しかし,GassらはCAZOORでは通常C6カ月以内に視野障害の進行が停止すると述べており1),本症例の臨床経過は数年にわたる進行性の視野障害を示していないので,AZOORの経過に矛盾しないと考える.また,網膜血管炎と網膜外層障害を呈しうる疾患として,梅毒10)や眼トキソプラズマ症11)などの感染性ぶどう膜炎があげられるが,本症例は血液検査の結果から感染症は否定的であった.散弾状脈絡網膜症12),多発消失性白点症候群本症例正常例(28歳,女性)abcd(multipleCevanescentCwhiteCdotsyndrome:MEWDS)13)といった他の疾患でも報告はあるが,少数例である.両者を合併する病態として,MEWDSに網膜血管炎を併発した症例の既報では,炎症が網膜外層から網膜内層に波及すること,網膜外層の炎症とは別に網膜内層でも血管炎が同時に起こることの二つの可能性が考察されており13),網膜外層に主病巣が存在するCAZOORでは前者の可能性が高いと考える.さらに,本症例は症状出現と同時期にCCOVID-19ワクチ図6網膜電図(ERG)所見a:杆体応答.b:錐体応答.c:30CHz.icker応答.Cd:杆体C-錐体混合応答.右眼は杆体応答,錐体応答ともに波形が保たれていたが,左眼はいずれも著しく減弱していた.ンを接種しており,ワクチン接種との関連も否定はできない14,15).そして,COVID-19ワクチン接種後の網膜血管炎,網膜外層障害のいずれの報告も散見される一方で,両者を合併しているという点ではきわめてまれである.以上のように,AZOORは他疾患との鑑別が重要な網膜疾患であり,網膜血管炎を伴う網膜外層障害ではCAZOORの可能性を考慮し精査を行うことが重要と考えられた.利益相反富田洋平カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボ伴紀充カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボカテゴリーCP栗原俊英カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボ,株式会社シード,株式会社レストアビジョンカテゴリーCI:株式会社坪田ラボ,株式会社レストアビジョンカテゴリーCP根岸一乃カテゴリーCF:株式会社シード,株式会社レストアビジョン,エイエムオー・ジャパン株式会社,参天製薬株式会社,株式会社.セルージョン,株式会社ジンズホールディングスカテゴリーCP文献1)GassCJD,CAgarwalCA,CScottIU:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathy:along-termfollow-upstudy.AmJOphthal-molC134:329-339,C20022)SaitoCS,CSaitoCW,CSaitoCMCetal:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathyCinJapaneseCpatients:clinicalCfeatures,CvisualCfunction,CandCfactorsCa.ectingCvisualCfunction.CPLoSCOneC10:e0125133,C20153)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班CAZOORの診断ガイドライン作成ワーキンググループ:急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン.日眼会誌C123:C443-449,C20194)PerezCY,CNeriCP,CPichiF:MultimodalCImagingCinCRetinalCVasculitis.Ophthalmologica247:203-213,C20245)StandardizationCofCUveitisNomenclature(SUN)WorkingGroup:DevelopmentCofCClassi.cationCCriteriaCforCtheCUveitides.AmJOphthalmolC228:96-105,C20216)ParmarCUPS,CSuricoCPL,CSinghCRBCetal:OcularCimplica-tionsCofCCOVID-19CinfectionCandCvaccine-relatedCadverseCevents.JPersMedC14:780,C20247)山川美聡,若月優,森隆三郎ほか:急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)に黄斑浮腫を合併したC1例.眼科C64:C773-779,C20228)MonsonDM,SmithJR:Acutezonaloccultouterretinop-athy.SurvOphthalmolC56:23-35,C20119)橋本勇希:AZOOR類縁疾患.RetinMed8:55-62,C201910)SunCCB,CLiuCGH,CWuCRCetal:Demographic,CclinicalCandClaboratorycharacteristicsofocularsyphilis:6-yearscaseseriesCstudyCfromCanCeyeCcenterCinCEast-China.CFrontCImmunol13:910337,C202211)MathisT,DelaunayB,FavardCetal:Hyperauto.uores-centspotsinacuteoculartoxoplasmosis:anewindicatorofouterretinalin.ammation.Retina40:2396-2402,C202012)TeussinkCMM,CHuisCInCHetCVeldCPI,CdeCVriesCLACetal:CMultimodalimagingofthediseaseprogressionofbirdshotchorioretinopathy.ActaOphthalmolC94:815-823,C201613)TakahashiCA,CSaitoCW,CHashimotoCYCetal:MultipleCeva-nescentCwhiteCdotCsyndromeCassociatedCwithCretinalCvas-culitis.IntMedCaseRepJ8:209-213,C201514)MalekiCA,CLook-WhyCS,CManhapraCACetal:COVID-19CrecombinantCmRNACvaccinesCandCseriousCocularCin.ammatorysidee.ects:realorcoincidence?JOphthal-micVisRes16:490-501,C202115)YasakaCY,CHasegawaCE,CKeinoCHCetal:ACmulticenterCstudyofocularin.ammationafterCOVID-19vaccination.JpnJOphthalmolC67:14-21,C2022***

全層角膜移植術中に生じた角膜裂傷を血漿分画製剤 ベリプラストP を用いて創閉鎖した1 例

2026年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(6):700.703,2026c全層角膜移植術中に生じた角膜裂傷を血漿分画製剤ベリプラストPを用いて創閉鎖した1例吉満直哉鉄村一晟子島良平森洋斉宮田和典宮田眼科病院CWoundClosureofanIntraoperativeCornealLacerationAfterPenetratingKeratoplastywithPlasmaFractionatedBeriplastPNaoyaYoshimitsu,IsseiTetsumura,RyoheiNejima,YosaiMoriandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC目的:全層角膜移植術(PKP)中の縫合時に角膜が裂けた場合は,縫合糸を調整しても創閉鎖が困難なことがある.今回,PKP中に生じた角膜裂傷の症例に対し,血漿分画製剤べリプラストCP(CSLベーリング社)で創閉鎖することができたC1例を経験したので報告する.症例:19年前に施行されたCPKP術後のC76歳女性が矯正視力(0.09)と視力低下をきたし,中心角膜厚もC752μmと増大した.本症例に対し再度CPKPを施行した際,術中にC1.2×2.5Cmm程度の角膜裂傷が生じた.裂傷に対し追加縫合後も前房水漏出が続いたため,術後C12日にベリプラストCPを滴下した.処置後C2日目に漏出は消失し,前房深度と脈絡膜.離は速やかに回復した.術後C2カ月で矯正視力はC0.5,5カ月時点で中心角膜厚はC541μmとなり,7カ月時点でも移植片は良好に接着していた.結論:PKP中に生じた小規模裂傷に対し,血漿分画製剤による創閉鎖が有用となる可能性を示した.CPurpose:Toreportthesuccessfulclosureofanintraoperativecornealtearthatoccurredduringpenetratingkeratoplasty(PKP)usingBeriplastP(CSLBehring),aplasma-derivedfibrinsealant.Case:A1.2×2.5mmcor-nealClacerationCoccurredCinCtheCeyeCofCaC76-year-oldCfemaleCduringCrepeatedCPKP.CDespiteCadditionalCsuturing,Cwoundleakagepersisted.At12-dayspostPKP,BeriplastPwasapplied,andtheleakageimmediatelyceased,theanteriorCchamberCdepthCwasCnormalized,CandCchoroidalCdetachmentCwasCresolved.CAtC5-monthsCpostCtreatment,Cbest-correctedvisualacuityinthetreatedeyeimprovedto0.5withacentralcornealthicknessof541μm,andat7-monthsposttreatment,stablegraftadhesionwasobserved.Conclusions:OurfindingsrevealedthatBeriplastPrepresentsabiocompatibleadjunctforsealingsmallintraoperativecorneallacerationsencounteredduringPKP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):700.703,C2026〕Keywords:ベリプラストP,フィブリン糊,全層角膜移植術,角膜裂傷.BeriplastP,fibrinsealant,penetratingkeratoplasty,corneallaceration.Cはじめに全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)は,角膜感染症後の角膜混濁や重度の水疱性角膜症など,視機能に重大な影響を与える角膜疾患に対する手術として以前より行われている.PKPにおける術中・術後合併症には駆逐性出血や眼内炎,緑内障や拒絶反応などがあるが,まれにレシピエント角膜の菲薄化が原因で裂傷が生じる症例も報告されている1).裂傷から前房水が漏出すると前房消失に伴う虹彩癒着や低眼圧に伴う低眼圧黄斑症が誘発され,移植片の生着率および術後視機能が低下する可能性があるため,迅速かつ確実な創閉鎖が求められる.創閉鎖の手段には角膜への縫合を追加する,生体接着剤であるシアノアクリレート,フィブリン糊などが報告されている2).縫合追加による創閉鎖の問題点として,レシピエント角膜の石灰化や瘢痕で硬化した角膜では縫合が困難であること,過剰な結紮により乱視増加の可能性が〔別刷請求先〕吉満直哉:〒C885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:NaoyaYoshimitsu,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC700(106)図1右眼術前の前眼部所見あることがあげられる.シアノアクリレート系接着剤は強固に創を閉鎖できるため有効な症例もあるが,一方で角膜内皮毒性や長期残存による慢性炎症・混濁が問題となる3,4).フィブリン糊はフィブリノゲンとトロンビンによる生理的凝固反応を再現して三次元フィブリン網を形成する生分解性接着剤で,翼状片手術や網膜硝子体手術の止血補助など眼科領域でも応用が拡大している2,5).しかし,PKP術中の角膜裂傷に対する臨床報告は依然として限られ,適応基準や長期成績は明確ではない.今回,角膜移植術中に生じた裂傷に対して追加縫合後も創閉鎖が得られなかった症例に対し,血漿分画製剤ベリプラストCPを使用し良好な創閉鎖と視機能回復を得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:76歳,女性.主訴:視力低下.既往歴:混合結合組織病.現病歴:両眼に原因不明のCDescemet膜皺襞を生じ,X-19年にCPKPを施行された.X-5年時点で右眼矯正視力0.5であったが,慢性的な角膜石灰化が進行し,徐々に右眼視力が低下した(図1).X年C1月には矯正視力がC0.09まで低下したため,同年C4月に再CPKPを施行した.PKP施行前に行ったカルシウム沈着除去によりレシピエント角膜C3時方向が一部欠損し,PKP縫合後にC1.2×2.5Cmmの裂傷を生じた.裂傷へ端々縫合を追加し(図2),治療用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を装用して手術を終了した.経過:本症例では端々縫合を追加したにもかかわらず,術後より浅前房を認めた.術後C2日目にCSCLをはずした際には明らかな前房水漏出は認められなかったが,同日施行した超音波検査にて脈絡膜.離を認めた.その後,前房深度は徐々に回復傾向を示したが,術後C5日目に再び浅前房となり,SCL除去時にC3時方向の裂傷部より前房水漏出を認め図2右眼術中の端々縫合追加a:縫合前の裂傷部().前房水の漏出を認めた.b:縫合追加後().図3術後12日目ベリプラストPのCA液とCB液を混合して裂傷部へ少量適下した.た.再度CSCLを装用したが,術後C9日目でも前房水漏出は改善せず,術後C12日目にベリプラストCPのCA液(フィブリノゲン・アプロチニン溶液)とCB液(トロンビン・塩化カルシウム溶液)を専用のプランジャーホルダーを用いて混合して裂傷部へC5.6滴適下し(図3),SCLを再装用した.処置3日後には漏出が消失した(図4).処置C7日後時点で中心角膜厚C658μmと角膜浮腫は認めたものの,脈絡膜.離も消失し退院となった.退院時の矯正視力はC0.06,眼圧はC18CmmHgであった.処置からC2週間経過した時点では,角膜浮腫が残存しており矯正視力はC0.15であったが,前房水漏出は認めず正常な前房深度を保っていた.その後,術後C2カ月で角膜浮腫は消失し矯正視力C0.6,眼圧はC16CmmHgであった.術後C5カ月時点では中心角膜厚C541μmとなり,術後C1年以上経過した時点でも移植片の状態は良好で(図5),前房水漏出の再発はなく良好な視力を維持している.経過中,眼圧の著しい上昇a図4ベリプラストP術前と術後の前眼部OCTa:ベリプラストCP術前.Cb:ベリプラストCP術後C3日目.もみられなかった.CII考按本症例では,2回目のCPKP術中に生じた角膜裂傷に対し,追加縫合後も前房水漏出が持続した.このため,術後C12日目にフィブリン糊(ベリプラストCP)を滴下し,SCLを装用させることで創閉鎖が得られた.角膜移植術における創閉鎖不全による前房水漏出の持続によって,眼内炎のリスクが高まることが報告されている6).また,前房深度の不安定化に伴い虹彩・水晶体と角膜内皮細胞が接触することで,術後早期からの角膜内皮細胞密度の低下が懸念される7).さらに,Heinzelmannらによれば,遷延する創口は上皮細胞の迷入(epithelialCingrowth)の経路となりうるため,早期の創閉鎖が重要となる8).本症例のレシピエント角膜は,カルシウム沈着により石灰化および菲薄化をきたしていた.Yehらの報告にあるように,石灰化した角膜組織は脆弱で,縫合操作自体が困難な場合や,縫合による十分な水密性が得られにくい場合がある9).このような状況下では,フィブリン糊が縫合を補完し,創部の安定化に寄与する有効な手段となりうると考えられる.フィブリン糊は接着直後から物理的に創部を保持し,48時間で最大強度に達するとされる.縫合糸が創縁を物理的に圧着するのに対し,フィブリン糊は創面を被覆するとともに,角膜実質細胞の遊走とコラーゲン産生を促進し,炎症性サイトカインの過剰発現を抑制することで,角膜透明性の早期回復に寄与すると考えられる6,10).Chenらはフィブリン糊の接着強度に関して,シアノアクリレート系接着剤と比較した場合耐えうる眼圧が低いと報告している11).本症例では,フィブリン糊を一次的な創閉鎖として単独で使用したのではなく,すでに行われた連続縫合の補強,および微小な漏出の閉鎖を目的として使用した.術後眼圧が正常範囲内であり,かつCSCLによる被覆を併用したことが,フィブリン糊の接着強度でも十分な効果を発揮できた要因と考えられた.シアノアクリレート系接着剤はより強図5術後1年経過後の右眼前眼部所見固な接着力を有するが,前房内に侵入した場合の角膜内皮毒性や,硬化した接着剤による異物感,炎症惹起のリスクが懸念される.したがって本症例のような状況では,より高い安全性を確保する観点から,フィブリン糊がより適切な治療選択であったと判断される.本症例においてフィブリン糊による治療が奏効した理由として,前房水の漏出が比較的少量であり,創縁がある程度整平であったため,フィブリン糊が創面に安定して接着しやすかった点があげられる.一方で,フィブリン糊は生分解性であるため,眼圧上昇や強い物理的刺激により再開裂する可能性がある.この点において,表層角膜移植術(lamellarkera-toplasty:LKP)や羊膜移植は,物理的な強度と生体適合性を兼ね備え,とくに広範な角膜欠損や再建を要する症例において,長期的な安定性を提供する点でベリプラストCP単独よりも優位性をもつと考えられる.既報でも,LKPや羊膜移植はより大きな組織欠損や持続的な支持が必要な場合に,組織の置換または修復を促進する治療として確立されており12),フィブリン糊はそれらの手術に補助的に併用する形が望ましいと考えられる10).したがって,フィブリン糊はおもに小規模な裂傷の閉鎖や補助的な止血,またはCLKPや羊膜移植の縫合を補強する役割に適しているといえ,裂傷の大きさや形態に応じて,これらの治療法の選択または組み合わせを慎重に検討する必要がある.角膜移植術中に生じた裂傷に対し,フィブリン糊による治療が本症例では奏効した.今後は,角膜裂傷のサイズ,部位,深さ,原因疾患,眼圧などの因子とフィブリン糊治療の成績との関連性を明らかにするため,多施設共同の前向き研究による症例集積と治療成績の検証が望まれる.また,新規に開発されつつある他の生体接着剤13)との比較検討を通じて,角膜移植術を含む角膜外科手術の安全性と患者の生活の質(qualityoflife:QOL)のさらなる向上が期待される.おわりにPKP中に発生した小規模角膜裂傷に対し,ベリプラストPは縫合を補完する安全で有効な創閉鎖手段となりうる.とくに縫合のみで漏出を制御できない症例や,シアノアクリレートの毒性が懸念される状況で本製剤の適用を検討すべきである.利益相反:宮田和典HOYA株式会社ほか企業より講演料・研究費受領(クラス4)文献1)PaganoL,ShahH,AlIbrahimOetal:UpdateonsuturetechniquesCinCcornealtransplantation:aCsystematicCreview.JClinMedC11:1078,C20222)PandaCA,CKumarCS,CKumarCACetal:FibrinCglueCinCophthalmology.IndianJOphthalmolC57:371-379,C20093)SharmaA,SharmaN,BasuSetal:TissueadhesivesfortheCmanagementCofCcornealCperforationsCandCchallengingCcornealconditions.ClinOphthalmolC17:209-223,C20234)永田有司,子島良平,木下雄人ほか:角膜穿孔に対してシアノアクリレートが有効であったC2例.あたらしい眼科C36:1591-1595,C20195)LagoutteFM,GauthierL,ComtePR:AfibrinsealantforperforatedCandCpre-perforatedCcornealCulcers.CBrCJOphthalmolC73:757-761,C19896)McMasterD,BaptyJ,BushLetal:EarlyversusdelayedtimingCofCprimaryCrepairCafterCopen-globeCinjury.COphthalmologyC132:431-441,C20257)FioreCPM,CRichterCCU,CArzenoCGCetal:TheCe.ectCofCanteriorCchamberCdepthConCendothelialCcellCcountCafterCfiltrationsurgery.ArchOphthalmolC107:1609-1611,C19898)HeinzelmannCJ,CStoicaCS,CVogtCARCetal:IntraocularCepithelialCingrowthCafterCtraumaticCandCsurgicalCcornealCinjuries.DiagnosticsC14:1401,C20249)YehCPT,CHouCYC,CLinCWCCetal:RecurrentCcornealCperforationCandCacuteCcalcareousCcornealCdegenerationCinCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CJCFormosCMedCAssocC105:334-339,C200610)DuchesneB,TahiH,GalandA:Useofhumanfibringlueincornealperforations.CorneaC20:230-232,C200111)ChenCWL,CLinCCT,CHsiehCCYCetal:ComparisonCofCtheCbacteriostaticCe.ects,CcornealCcytotoxicity,CandCtheCabilityCtoCsealCcornealCincisionsCamongCthreeCdi.erentCtissueCadhesives.CorneaC26:1228-1234,C200712)KrysikCK,CDobrowolskiCD,CLyssek-BoronCACetal:CDi.erencesCinCsurgicalCmanagementCofCcornealCperforations,CmeasuredCoverCsixCyears.CJCOphthalmolC2017:1582532,C201713)LiCS,CMaCX,CZhangCYCetal:ApplicationsCofChydrogelCmaterialsCinCdi.erentCtypesCofCcornealCwounds.CSurvCOphthalmolC68:746-758,C2023***