‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

特定の抗癌剤による網膜外層障害 

2025年8月31日 日曜日

特定の抗癌剤による網膜外層障害DamagetotheOuterRetinaCausedbyCertainAnticancerDrugs篠田啓*はじめに癌の治療は,「手術療法」「放射線療法」「薬物療法」といった3大治療(「免疫療法」「光免疫療法」を加えて5大治療とよばれることもある)と,これらを組み合わせた集学的療法に分類される.このうち,癌化のメカニズムとその遺伝子の解明により1990年代に登場した分子標的薬によって薬物療法は近年大きく発展している.そして複数の抗癌剤の登場によって,眼科領域の副作用が増えている.ここでは,網膜外層障害を生じうる抗癌剤についておもな薬剤と臨床所見を解説する.I網膜外層障害を生じる抗癌剤抗癌剤は,大まかに殺細胞性抗癌剤,分子標的薬,癌免疫療法,ホルモン療法薬などに分類される(表1).殺細胞性抗癌剤の抗腫瘍効果はおもに核酸合成阻害,DNA複製・転写阻害作用によって細胞の分裂阻害,アポトーシス誘導による.これは癌細胞だけでなく正常な細胞にも作用してしまうため,副作用が問題であった.一方,分子標的治療薬は癌細胞だけがもつ増殖,浸潤・転移などの特徴を分子レベルでとらえ,その働きを抑え込む作用を有する.正常細胞へのダメージは少ないものの皆無ではなく,ほかの組織,ほかの臓器,そして眼の副作用もわかってきている.本稿では網膜外層障害を中心に,後眼部副作用について抗癌剤ごとに記述する.1.殺細胞性抗癌剤a.タキサン系抗癌剤パクリタキセル(タキソール),ドセタキセル(タキソテール)は乳癌や肺の小細胞癌などに用いられ,眼合併症としてドライアイ,視神経症などのほか,両眼性の.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)が有名である(図1)1.3).視力低下・変視症・小視症を生じる.蛍光眼底造影検査では蛍光漏出はないかごくわずかで,Muller細胞の障害,毛細血管からの漏出,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞機能低下などの機序が推測されている.網膜光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による経過観察を行い,休薬,減量で治癒する.多くは可逆性だが,消失せず,アセタゾラミド,ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬が奏効した報告もある4).b.金製剤シスプラチン(マルコ)および頻度は低いがカルボプラチン(パラプラチン)はさまざまな癌の治療に用いられるプラチナ製剤で,乳頭浮腫,球後神経炎,黄斑色素の変化などが報告されている.シスプラチンは,炎症や酸化ストレスにより血液脳関門を破壊し,視神経の軸索病変,網膜電図での錐体,杆体機能障害,視細胞やRPE細胞といった網膜外層への直接的な細胞毒性が報告されている(図2)5).視力低下や色覚異常などをきたし,浮腫には炭酸脱水酵素阻害薬などの対症療法が行われることもあるが,重要なのは早期発見と薬剤を中止す*KeiShinoda:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間郡下呂山町下呂本郷38埼玉医科大学医学部眼科学教室(1)(33)9670910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1抗癌剤の種類1.殺細胞性抗癌剤白金製剤シスプラチンほか微小管阻害薬タキサン系抗癌剤パクリタキセル,ドセタキセルほか抗体薬標的抗原はCEGFR,HER2,VEGFなど多数抗CHER2抗体トラスツズマブ,ペルツズマブ,デルクステカンほか2.分子標的薬*小分子化合物チロシンキナーゼ阻害薬①CBCR-ABL阻害薬②CBRAF阻害薬**③CMEK阻害薬**④CEGFR阻害薬イマチニブ,ダサチニブ,ポナチニブほかベムラフェニブ,タブラフェニブ,エンコラフェニブトラメチニブ,ビニメチニブゲフィチニブ,エルロチニブマルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブ,スニチニブ,アキシチニブほかFGFR阻害薬ペミガチニブ3.癌免疫療法インターフェロン,免疫チェックポイント阻害薬4.ホルモン療法薬タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント太字は眼科領域の副作用が有名な薬.EGFR:epidermalCgrowthCfactorCreceptor,HER2:humanCepidermalCgrowthCfactorCreceptorCtypeC2,VEGF:vascularCendo-thelialCgrowthCfactor,BCR-ABL:BreakpointCclusterCregion-AbelsonCmurineCleukemiaCviralConcogeneChomolog,BRAF:B-Rafproto-oncogene,serine/threoninekinase,MEK:Mitogen-ActivatedProteinKinaseKinase.*抗体薬は細胞外の標的分子に作用し,細胞外にある蛋白質などを標的とすることが多く,小分子薬は細胞内に取り込まれて細胞内の標的分子に作用する.たとえば,細胞外のCEGFRやCVEGFを標的とした抗体薬とこれらの細胞内での機能を阻害する小分子薬がある.**BRAF阻害薬,MEK阻害薬はチロシンキナーゼの下流にあるCBRAF,MEKをそれぞれ阻害する.-図1胃癌肝転移に対するパクリタキセル投与でみられた黄斑浮腫63歳,男性.Ca,b:初診時のCOCT所見(Ca:右眼.b:左眼).両眼黄斑部に,網膜外層を中心とした.胞様変化がみられ,右眼にはCSRDを認めた.Cc,d:初診時のフルオレセイン蛍光造影所見後期像(Cc:右眼.Cd:左眼).網膜毛細血管および黄斑部において蛍光漏出や蛍光貯留を認めなかった.Ce,f:薬中止C4カ月後のCOCT所見(Ce:右眼.Cf:左眼).右眼のCSRDは消失,両眼のCCMEは改善し,網膜厚の減少もみられるが,.胞様変化の残存がみられる.(文献C3より引用)b図2化学療法を受けた小細胞肺癌患者の眼所見79歳,男性.Ca:初診時の眼底写真(左:右眼,右:左眼).両眼特に乳頭周囲領域に網膜動脈の狭窄と硬化がみられる.Cb:初診時のCOCT画像(左:右眼,右:左眼).両眼にびまん性の脈絡膜,網膜の菲薄化がみられる.右眼に軽度のCCMEが,左眼に中心窩下沈着が認められた.(文献C5より引用)-図3:BRAF阻害薬とMEK阻害薬併用療法によるSRD73歳,女性.上段:投与中.視力(1.2)/(1.0p).悪性黒色腫に対するエンコラフェニブ(ビラフトビ)およびビニメチニブ(メクトビ)使用時に生じた両眼性の多発性CSRD.下段:投薬中止後.視力(1.2)/(1.2).比較的丈が低いのが特徴的である.薬剤中止後に自然軽快した.Ca右眼左眼b右眼左眼cdef図4ペミガチニブ投与後にSRDを認めた症例ペミガチニブC13.5Cmg投与C7日後に両眼にCSRDを認めた(Ca.c).薬剤をC8日間中断するとCSRDは改善したが(Cd),9.0Cmgのペミガチニブによる治療再開後C13日目にCSRDが再発した(Ce).直ちにペミガチニブの投与を再びC9日間中断したところ,SRDは完全に消失した(Cf).(文献C15より改変引用)図5抗エストロゲン薬投与中にみられたMacTeltype2に類似した黄斑症のOCT所見53歳,女性.右眼(Ca,c,e)および左眼(Cb,d,f)における深部強調COCT画像において中心を通る水平画像の連続的な変化を示す.a,b:初回来院時には両眼中心窩においてCellipsoidzone(EZ)とCinterdigitationCzone(IZ)の消失と,内外に層状の空洞を認めた.Cc,d:初診からC3カ月後,EZ消失面積と内外の層状の空洞の範囲は左眼では減少したが,右眼では減少しなかった.Ce,f:初診からC22カ月後,EZ消失面積は初診C3カ月後と比較して両眼でさらに減少し,内層の空洞は消失し,外層の空洞もほぼ消失した.しかし,中心窩でのIZは消失したままであった.(文献C17より改変引用)’C–

プラケニル(Plaquenil)による網膜障害

2025年8月31日 日曜日

プラケニル(Plaquenil)による網膜障害Plaquenil-AssociatedRetinalToxicity丸子留佳*丸子一朗*Iプラケニルの歴史クロロキン(chloroquine:CQ,図1)は1934年にドイツのバイエル社が合成し,1943年に米国がマラリアの特効薬として短期間の投与に限って使用を開始したが,第二次世界大戦中に抗マラリア薬の投与を受けていた兵士の関節痛などの症状が改善したことを契機に,全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythemato-sus:SLE)や関節リウマチの治療薬として広く使用されるようになった.日本では1955年に抗マラリア薬として承認され,そののち,腎炎,関節リウマチ,気管支喘息,てんかんにまで適応が拡大された.当時は薬事制度が十分に整備されておらず,長期投与についての安全性の確認や市販後の副作用のモニターも行われないまま,適応拡大や投与量増加,投与期間の長期化が行われた.1959年にLancetにCQ網膜症の報告が掲載され,日本においても1962年には文献報告で142例,アンケート調査で353例の網膜症の報告がなされ,1964年には日本リウマチ学会でCQ網膜障害の集中討議も行われた1).しかし,ただちには安全対策に結びつかず,1971年にはCQ網膜症被害が社会問題化し,1972年に被害者の会が結成され,1973年よりCQ訴訟が提起された1).製薬企業は1974年にCQの製造を中止し,1976年に再評価結果で腎炎に対して有効性なしと判定され,日本薬局方から削除された.ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine:HCQ,図1)はCQの副作用を軽減する目的でCQにヒドロキシ基(-OH)を付加した誘導体として合成された.1955年にHCQは米国食品医薬品局によって医療用途として承認され,商品名プラケニル(Plaquenil)で販売が開始され,SLEや関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬として使用されるようになった.日本では長らく未承認であったが,2015年7月にSLEと皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupuserythematosus:CLE)を適応としてサノフィが製造販売承認を取得した.なお,2021年には旭化成ファーマとの共同販売となっており,2024年12月からはジェネリック医薬品も発売されている.IISLE診療におけるHCQの位置づけSLEはT細胞,B細胞などに起因する免疫異常を背景に多彩な自己抗体が産生され,皮膚,腎臓,脳など全身の臓器を障害する代表的な自己免疫疾患の一つである.有病率は10万人あたり20.150人と報告され,好発年齢は20.40歳代,男女比は1:9で女性に多い2).CQHCQ図1CQとHCQの構造式*RukaMaruko&IchiroMaruko:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕丸子留佳・丸子一朗:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室(1)(23)9570910-1810/25/\100/頁/JCOPYHCQは抗炎症作用,免疫調節作用,抗酸化作用など,多岐にわたる作用を有する薬剤である3).HCQは核内因子(nuclearfactor:NF)lB経路を抑制し,炎症性サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)1b,IL-6,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)aの産生を減少させる.これにより,関節痛や皮疹,腎炎などの症状の改善が期待できる.また,HCQは高い脂溶性とリソソームへの特異的な親和性により,細胞膜を通過してリソソーム内に蓄積し,抗原提示細胞の機能を抑制し,免疫応答を調節することができる.具体的には,Toll様受容体の阻害を通じてインターフェロンa(IFNa)の過剰産生を抑制し,自己免疫反応を緩和する.さらに,HCQは活性酸素種の産生を抑制することで,細胞の酸化ストレスを軽減し,組織のダメージを防ぐ.この抗酸化作用により,心血管疾患のリスクを低減できる可能性がある.HCQの効果として,SLEの再燃抑制効果,疾患活動性の抑制効果や生存期間の延長,早期導入による疾患の進行や生存期間の延長が示唆されている4).CLEにおいては,50%以上がHCQ単剤で効果がある4).厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班)および日本リウマチ学会の合同で作成されたSLE診療ガイドライン20195)の診療アルゴリズムによると,皮膚以外の臓器病変を認める場合には,病態や臓器病変にかかわらず,副腎皮質ステロイド投与の前に全例でHCQを考慮することになっている.ガイドラインのなかでSLEの治療目標は,「生命予後のさらなる改善に加え,長期にわたって患者の生活の質を落とさないこと,すなわちSLEではない健常者と何もかわらない社会活動を行える状態を維持すること(社会的寛解の維持)」と定義された.またSLE患者が若年女性に好発することから,社会活動は労働生産性のみでなく,妊娠・出産・育児などの家庭活動も含まれる.社会活動を大きく制限する要因は骨粗鬆症による圧迫骨折や白内障など,副腎皮質ステロイドによるものも多い.さまざまな免疫抑制薬を使用できるようになった現在,SLEの疾患活動性をいかに抑えるかという点に加え,副腎皮質ステロイドの副作用を軽減し,SLEならびに治療に伴う臓器障害を起こさないことが重要となってきている2).2023年に改定された欧州リウマチ学会のSLE治療に関するリコメンデーションズにおいても,HCQは禁忌でない限り,SLEの疾患活動性によらず,軽症・中等症・重症の全患者に投与するものと位置付けられている6).筆者らの外来診療でも,HCQを開始することで副腎皮質ステロイドから離脱できたSLE患者を複数診ている.また,女性に多いSLEで議論となるのが妊娠である.一般に,妊娠中の薬剤使用では,初期の催奇形性と胎児毒性の二つが懸念されるが,催奇形性については妊娠初期にHCQの使用で先天異常の発生は上昇せず7),催奇形性や胎児毒性も認められていない4).原病の治療に必要であれば妊娠中のHCQの使用は可能であり,むしろ妊娠中はSLEが再燃しやすくなるため,疾患活動性管理が重要と考えられている.IIIHCQ網膜症副腎皮質ステロイドよりも全身副作用の少ないHCQであるが,長期使用により網膜症が出現することがあり,もっとも注意しなければならない副作用である.黄斑ジストロフィや萎縮型加齢黄斑変性などの視細胞の変性をきたす疾患が鑑別に上がるが,HCQ開始後に発症したかどうかが鑑別の鍵となるため,HCQ服用開始前の眼科検査が重要である.IV発症機序CQおよびHCQは,メラニンとの親和性が非常に高く,メラニン顆粒を含む網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞や脈絡膜メラニン含有細胞に取り込まれる.弱塩基性であるCQおよびHCQによって酸性のリソソーム内pHが上昇してリソソーム酵素の働きが低下し,視細胞外節の代謝を阻害し,リポフスチンが蓄積する.この蓄積したリポフスチンがさらにリソソーム機能を阻害する悪循環を生み,最終的にRPEの機能不全から視細胞変性が起き,網膜症を発症する8).HCQはCQよりも細胞膜透過性が低く,リポフスチンの産生量が少ないことが基礎実験で示されており8),実臨床でもHCQはCQよりも網膜症の発症率が低いことが示されている9,10).958あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(24)Vスクリーニングで行うべき眼科検査HCQは前述のように,視細胞変性とRPE萎縮を引き起こす.HCQ網膜症の初期は中心窩周囲に顆粒状変化がみられ,進行すると黄斑部にbull.seyemaculopathy(標的黄斑症)が出現し,末期には周辺部網膜までメラニン色素の沈着を伴った網脈絡膜萎縮をきたす11).初期には自覚症状はないか,あっても軽微(図2)であり12),患者の自覚症状の有無による評価は危険である.現時点ではHCQ網膜症に有効な治療法はなく,いったん発症するとHCQの中止後も網膜症が進行することがある(図2)ため11,12),定期的なスクリーニング検査を行い,患者の自覚症状の出ていない初期のうちにHCQ網膜症を診断し,プラケニルを中止することが視機能を守るうえで非常に重要である.HCQ服用例に対して実施すべき眼科検査を表1に示す.HCQの適応疾患であるSLEとCLEでは経口副腎皮質ステロイドが併用されている患者もあり,HCQ網膜症に加えて,ステロイド白内障,ステロイド緑内障,中心性漿液性脈絡網膜症などの副腎皮質ステロイドの眼副作用にも留意して診察する.また,網膜症の発現部位に関する人種差についての検討の結果,アジア人では黄斑辺縁部型での発症が他の人種に比べて高頻度にみられた13,14).黄斑辺縁部型は傍中心窩型よりも診断時のプラケニル累積投与量が多く,より進行した状態でみつかった13)ことから,黄斑辺縁部型は傍中心窩型よりも発見が遅れる傾向にあることがわかる.定期的なスクリーニングでは,黄斑辺縁部型を常に念頭におき,黄斑部のみならず,その外側にも注意して検査を行うことが重要である.日本眼科学会のガイドライン11)に準じて,以下に各検査の注釈を述べる.①視力検査:HCQ網膜症のみならず,ステロイド白内障や中心性漿液性脈絡網膜症によるによる視力低下に留意して視力を測定する.②細隙灯顕微鏡検査:HCQは網膜症以外にも角膜症を起こすことがあるため行う.CQ角膜上皮症では,両眼性に角膜表面をほうきで掃いたような線状の細かいびまん性の混濁が認められる15).③眼圧測定:日本で行われたHCQの臨床試験,海外市販後調査において眼圧変化にかかわる副作用の報告はないが,ステロイド緑内障に留意して眼圧を測定する11).④眼底カメラ撮影:HCQによる眼底の詳細な変化をとらえるために行う.広角眼底カメラ撮影を行うことも検討する.⑤光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT):傍中心窩から黄斑辺縁領域にかけて網膜層における局所的な菲薄化をとらえることにより,HCQによる網膜障害の検出が可能である.Ellipsoidzone(EZ)の欠損は傍中心窩障害の初期の所見である可能性がある(図2).網膜構造の微細な変化はタイムドメインOCTなどの古い機種では適切に描出できないことに注意する.⑥視野検査:網膜症による中心視野の状態および変化をとらえる目的で実施する.HCQによる視野異常は,傍中心窩型では中心10°以内で観察されるが,黄斑辺縁部型ではそれよりも周辺で視野障害が起こるため,中心30°までの領域の検査も検討する.筆者らはHumphrey自動視野計の10-2プログラムと30-2プログラムを交互に施行している.なお,ステロイド緑内障による視野異常がないかどうかもスクリーニング時に確認する.⑦眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF):2016年に日本眼科学会より発刊された「ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き」では,HCQ使用例に行うべき眼科検査のなかに含まれていないが11),2020年に英国王立眼科学会より発刊された改訂ガイドライン「TheRoyalCollegeofOphthalmologistsrec-ommendationsonmonitoringforhydroxychloroquineandchloroquineusersintheUnitedKingdom(2020revision)」では,推奨される検査に含まれており,黄斑辺縁部型の検出にも適した広角のFAFの撮影がとくに推奨されている16).なお,ステロイド併用例においては,中心性漿液性脈絡網膜症に起因する漿液性網膜.離が発生していない場合でも,RPE障害が生じることがある.このような変化をHCQ網膜症と混同しないよう,注意が必要である.色覚検査は,日本眼科学会のガイドラインではHCQ使用例に行うべき眼科検査のなかに含まれているが11),(25)あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025959eHumphrey10-2プログラム図2初期のHCQ網膜症(弘前大学上野真治先生のご厚意による)39歳,女性.SLE.a:HCQ服用開始前.OCTでCinterdigitationzone(IZ)の途絶がみられ(.),EZの反射も不良であった.b~e:HCQ網膜症診断時(投与開始後C2年C4カ月,累積投与量C168g).右眼視力(1.2).自覚症状なし.眼底写真で異常はみられないが,FAFで中心窩上方にリング状の過蛍光があり,それに対応する下方の視野障害がみられる.OCTでCEZとCIZの途絶(.)が観察される.f~h:中止後C3年.右眼視力(1.2).自覚症状なし.眼底自発蛍光で過蛍光の範囲が拡大し,それに対応して視野障害の範囲も拡大している.OCTで観察されるCEZとCIZの欠損範囲も長くなっている(.).hHumphrey10-2プログラム-表1HCQ使用例に行うべき眼科検査・視力検査・細隙灯顕微鏡検査・眼圧測定・眼底カメラ撮影・SpectraldomainOCT(SD-OCT),SweptsourceOCT(SS-OCT)×timedomainOCTは推奨されない・視野検査(中心C10°とC30°を交互に施行)・FAF(黄斑部と周辺部を両方撮影)図3強度近視眼のHCQ服用症例58歳,女性.SLE.Ca~c:HCQ服用開始前.左眼視力(1.2).タクロリムスとプレドニゾロンC11Cmg/日を併用.Cd~f:HCQ開始後C3年C8カ月(累積投与量約C400Cg).左眼視力(1.25).プレドニゾロンC9Cmg/日を併用.強度近視眼でCOCTでのCEZとCIZは描出不良であるが,服用開始後のCOCT所見に著変なく,FAFでも網膜障害を示唆する所見がないことからCHCQの服用を継続している.図4経過中に中心性漿液性脈絡網膜症を発症したHCQ内服症例38歳,女性.SLE.Ca,b:HCQ服用開始時.右眼視力(1.2).ミゾリビン,タクロリムスとプレドニゾロンC10mg/日を併用.OCTで脈絡膜が肥厚しているが,FAFでCRPE異常ははっきりしない.Cc,d:HCQ服用開始C2年後(累積投与量約C220Cg).右眼視力(0.7).ミコフェノール酸モフェチルとプレドニゾロンC20Cmg/日を併用.OCTで中心性漿液性脈絡網膜症がみられる.Ce,f:HCQ開始後C3年C4カ月(累積投与量約C365Cg).右眼視力(1.2).タクロリムスとプレドニゾロンC15Cmg/日を併用.漿液性網膜.離の消失に伴ってCFAFの過蛍光所見が消失した.OCTで中心窩のCIZが描出されず,EZの連続性も不良であるが,中心性漿液性脈絡網膜症の既往のためと判断し,HCQの服用を継続している.表2HCQ網膜症の発症率■全CHCQ網膜症の累積発症率■中等度もしくは重度CHCQ網膜症の累積発症率HCQ用量(mg/kg/日*)10年累積発症率15年累積発症率C.5mg/kg/日C1.2%C2.7%5.6mg/kg/日C3.5%C11.4%>6mg/kg/日C5.8%C21.6%HCQ用量(mg/kg/日*)10年累積発症率15年累積発症率C.5mg/kg/日C0.5%C1.1%5.6mg/kg/日C0.9%C2.4%>6mg/kg/日C1.5%C5.9%*体重は実測体重(文献C19より改変引用)表3HCQの累積投与量表4眼科検査のタイミングとリスク因子HCQ投与量おおよその累積投与量(g)200mg/日C6×服用期間(月)200CmgとC400Cmgの隔日投与C9×服用期間(月)400mg/日C12×服用期間(月).処方前.処方開始後は年C1回.下記リスクのある場合はより頻回(半年毎など)・累積投与量がC200Cg超・高齢者・肝機能障害または腎機能障害・視力障害,SLE網膜症,投与後に眼科検査異常の出現

抗糖尿病薬(DPP4,GLP-1)関連の眼疾患

2025年8月31日 日曜日

抗糖尿病薬(DPP4,GLP-1)関連の眼疾患OcularDisordersRelatedtoAnti-DiabeticDrugs(DPP-4inhibitors,GLP-1ReceptorAgonists)福岡秀記*はじめに2型糖尿病の治療薬として広く使用されているCdipep-tidylpeptidase-4(DPP-4)阻害薬やCglucagon-likepep-tide-1(GLP-1)受容体作動薬は,その安全性と有効性から臨床現場で多く使用されている.これらの薬剤はおもにインクレチンホルモンの作用を増強することで血糖コントロールに寄与する.しかし,近年,とくにDPP-4阻害薬投与に関連した自己免疫性水疱症(水疱性類天疱瘡,bullouspemphigoid:BP)の報告が増加しており,医薬品医療機器総合機構(PharmaceuticalsCandCMedicalCDevicesAgency:PMDA)より医療関係者に対して注意喚起がなされ1),とくに皮膚科領域では注目されている.眼科領域においても,DPP-4阻害薬関連の眼類天疱瘡(ocularCcicatricialpemphigoid:OCP)の症例が報告され始めており,薬剤誘発性の眼表面疾患として認識が高まっている.またCGLP-1受容体作動薬も,2型糖尿病治療薬として使用され,近年では肥満症治療においても画期的な効果を示している.しかし,その使用拡大に伴い,眼疾患を含むさまざまな副作用の報告が増加している.本稿では,DPP-4阻害薬関連のCOCPとCGLP-1受容体作動薬と関連する非動脈炎性前部虚血性視神経症(non-arteriticCanteriorCischemicopticneuropathy:NAION)を中心に,最新の知見を整理する.IDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の作用機序1.DPP-4阻害薬DPP-4はインクレチンホルモンであるCGLP-1やCglu-cose-dependentCinsulinotropicCpolypeptide(GIP)を分解する酵素である.DPP-4阻害薬は,この酵素の働きを阻害することで,インクレチンホルモンの血中濃度を上昇させ,膵Cb細胞からのインスリン分泌を促進する.日本で承認されているCDPP-4阻害薬には,シタグリプチン,ビルダグリプチン,アナグリプチン,リナグリプチン,テネリグリプチン,サキサグリプチン,トレラグリプチン,オマリグリプチンなどさまざまな種類がある.DPP-4阻害薬は日本におけるC2型糖尿病治療の主要な選択肢となっており,2014.2017年の調査によれば,国内のC2型糖尿病患者の新規治療においてもっとも多く処方されている薬剤で,処方率はC65.1%に達している2).とくに高齢者や腎機能低下患者においても比較的安全に使用でき,低血糖リスクの少なさから第一選択薬として頻用されている3).C2.GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬は,インクレチンホルモンであるCGLP-1の作用を模倣し,GLP-1受容体に直接作用する薬剤である.これにより,膵Cb細胞からのインスリン分泌を促進し,膵Ca細胞からのグルカゴン分泌を抑*HidekiFukuoka:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学(1)(11)C9450910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1DPP-4阻害薬関連OCPa:右眼.b:左眼.両眼の結膜充血と輪部の堤防上隆起および睫毛乱生を認める.図2DPP-4阻害薬関連OCPa:右眼.b:左眼.フルオレセイン蛍光造影により角膜輪部の上皮欠損および眼脂を認める.図3DPP-4阻害薬関連OCPDPP-4阻害薬を中止し,全身治療を行ってからC2年が経過した.左眼(Cb)は角膜上に角化組織を残し,右眼(Ca)の角膜は透明性を維持している.ab図4NAIONの典型的な所見a:眼底写真.b:眼底COCT画像.視神経乳頭浮腫を認める.一方で,2024年C8月の大規模リアルワールドデータ分析では,6,600万例のデータベース解析においてGLP-1受容体作動薬使用群と非使用群でCNAIONリスクに差がないという結果が示された.この研究ではC6種類の感度分析(セマグルチド限定解析を含む)でも同様の結果が得られており,眼科受診歴のない一般集団を対象としている8).Cc.発症機序の仮説GLP-1受容体作動薬がCNAIONを誘発する可能性のある機序としては,いくつかの仮説が考えられている.一つは視神経に発現するCGLP-1受容体の刺激により交感神経が亢進し,血管収縮が生じて視神経乳頭の血流障害を引き起こす可能性,治療薬による急速な体重減少に伴う低血圧や血管内脱水が視神経乳頭の血流低下を引き起こす可能性,高血糖の急速な是正が眼合併症と関連している可能性も指摘されている.さらに,基礎疾患としての糖尿病や肥満自体がCNAIONのリスク因子であるため,今後も関連性評価には注意が必要である.C2.GLP-1受容体作動薬とその他眼合併症GLP-1受容体作動薬と糖尿病網膜症の関連については,さまざま報告されている.急速な血糖コントロールの改善に伴い,一過性の網膜症悪化が生じる現象(earlyworsening)が知られており,SUSTAIN-6試験9)では,セマグルチド投与群で糖尿病網膜症合併症が対照群よりも高率に報告された.この悪化は,おもに治療前のHbA1c値が高く,すでに網膜症を有していた患者で生じていた.現在ではCGLP-1受容体作動薬は軽症糖尿病網膜症の発症リスクを高めるものの,重症糖尿病網膜症の発症リスクを軽減させると理解されている.C3.今後の課題と研究の方向性GLP-1受容体作動薬と眼疾患の関連については,依然として多くの未解明点がある.今後の課題としては,因果関係の調査とリスク推定のための大規模前向きコホート研究の実施や知見から得られるハイリスク患者における眼合併症予防などがあげられる.おわりにDPP-4阻害薬とCGLP-1受容体作動薬はC2型糖尿病治療において重要な選択肢である一方,それぞれ特有の眼合併症リスクについても注意が必要である.DPP-4阻害薬はCOCPとの関連が報告されており,早期発見と原因薬剤の中止が重要である.一方,GLP-1受容体作動薬については,とくにCNAIONに関する研究結果が相反する状況にあり,明確な結論には至っていない.今後の続報が待たれる.このように薬剤性眼障害を疑った場合には,薬剤の投与歴(投与量,期間,併用薬など)を詳細に聴取することが診断の一助となる.文献1)医薬品医療機器総合機構:AppropriateCmeasuresCtoCbeCtakenforpemphigoidduetodipeptidylpeptidase-4(DPP-4)Inhibitors.https://www.pmda.go.jp/.les/000263415.pdf2)BouchiCR,CSugiyamaCT,CGotoCACetal:RetrospectiveCnationwideCstudyConCtheCtrendsCinC.rst-lineCantidiabeticCmedicationCforCpatientsCwithCtype2CdiabetesCinCJapan.CJDiabetesInvestigC13:280-291,C20223)DoniK,BuhnS,WeiseAetal:Safetyofdipeptidylpepti-dase-4CinhibitorsCinColderCadultsCwithCtypeC2diabetes:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCrandomizedCcon-trolledtrials.TherAdvDrugSafC13:20420986211072383,C20224)MatsumotoCA,CFukuokaCH,CYonedaCACetal:OcularCcica-tricialCpemphigoidCfollowingCdipeptidylCpeptidase-4Cinhibi-toruse:aCcaseCreport.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC32:C101957,C20235)HathawayJT,ShahMP,HathawayDBetal:Riskofnon-arteriticCanteriorCischemicCopticCneuropathyCinCpatientsCprescribedsemaglutide.JAMAOphthalmolC142:732-739,C20246)Carreno-GaleanoCJT,CShahCM,CZekavatCSMCetal:NonCarteriticischemicopticneuropathyinpatientsreceivingaglucagon-likeCpeptideCreceptorCagonistsCinCaCtertiaryCcareCcenter.CInvestOphthalmolVisSciC65:6177,C20247)KatzCBJ,CLeeCMS,CLinco.CNSCetal:OphthalmicCcomplica-tionsCassociatedCwithCtheCantidiabeticCdrugsCsemaglutideCandtirzepatide.JAMAOphthalmolC143:215-220,C20258)Klono.CDC,CHuiCG,CGombarS:Real-worldCevidenceCassessmentCofCtheCriskCofCnonarteriticCanteriorCischemicCopticCneuropathyCinCpatientsCprescribedCsemaglutide.CJDiabetesSciTechnolC18:1517-1518,C20249)MarsoSP,BainSC,ConsoliAetal:Semaglutideandcar-diovascularCoutcomesCinCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CNEnglJMedC375:1834-1844,C2016(15)あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C949

TS-1による角膜上皮障害・涙道障害

2025年8月31日 日曜日

TS-1による角膜上皮障害・涙道障害CornealEpithelialDisorderandLacrimalDuctObstructionAssociatedwiththeAnticancerDrugS-1鎌尾知行*はじめにテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(ティーエスワン,以下,TS-1)は,消化器系悪性腫瘍を中心に広く使用される経口抗癌薬である.とくに,フッ化ピリミジン系抗癌薬であるテガフールが主成分となり,5-フルオロウラシル(5-FU)として体内で代謝されることで抗腫瘍効果を発揮する.TS-1は有効性が高い一方で,消化器症状,骨髄抑制,皮膚障害など多彩な副作用を有することが知られている.眼科領域においては角膜上皮障害および涙道障害が臨床的に重要であるため,本稿ではTS-1による角膜上皮障害と涙道障害について概説する.Iわが国におけるTS-1の使用状況TS-1は,主成分であるテガフールと分解阻害薬のギメラシル,リン酸化阻害のオテラシルカリウムの入った配合抗癌薬である.テガフールが5-FUのプロドラッグであり,肝臓で代謝されて抗腫瘍効果を発揮するため,TS-1は5-FUなどのフルオロウラシル系抗癌薬に属する.そしてギメラシルは,5-FUの分解阻害薬であり抗腫瘍効果を高め,オテラシルカリウムは,消化管障害の副作用を軽減する作用がある.わが国ではフルオロウラシル系抗癌薬の使用頻度が高いが,TS-1は適応疾患が幅広いこと,抗腫瘍効果が高いこと,主要な副作用である消化管障害が低減されているという特徴を有する内服抗癌薬であるため,わが国でもっとも多く処方されている.IITS-1による眼障害の頻度フルオロウラシル系抗癌薬の作用は細胞増殖の阻害・抑制であり,細胞増殖の盛んな組織,毛髪や皮膚,血球系などに副作用を生じやすい.眼科領域の副作用として角膜上皮障害,涙道障害が報告されているが1),角膜上皮や涙点・涙小管上皮は細胞増殖の盛んな重層扁平上皮で構成されており,抗癌薬の影響をもっとも受けやすい組織である.角膜,涙道障害の発症機序としては,血液中から涙腺に取り込まれた5-FUが涙液中に分泌され,角膜上皮細胞,涙点・涙小管上皮細胞の増殖が抑制されることで,角膜上皮障害,涙道障害を引き起こすと考えられている.また,血中の5-FUが直接角膜上皮,涙点・涙小管上皮に働く機序も推定されている.1999年3月の発売後,TS-1による角膜・涙道障害が報告されるようになった2,3).その発症頻度は角膜障害が6.17.5%,涙道障害が8.37%と報告されている4.7).一方,5-FUによる涙道障害が5.8.6%と報告されており,TS-1はほかのフルオロウラシル系抗癌薬よりも眼障害の発症頻度が高い.図1はフルオロウラシル系抗癌薬のTS-1,ドキシフルリジン,カペシタビン,UFTの四つの5-FU血中濃度推移のグラフである.いずれも5-FUやそのプロドラッグであるため,肝臓で代謝されて5-FUとなり,抗腫瘍効果を発揮する.ドキシフルリジン,カペシタビン,UFTでは投与後急激に血*TomoyukiKamao:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座〔別刷請求先〕〒791-9025愛媛県東温市志津川454愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座(1)(3)9370910-1810/25/\100/頁/JCOPY5-FU血中濃度(ng/ml)25020015010050002468101214(時間)投与後時間図1フルオロウラシル系抗癌薬の5-FU血中濃度推移縦軸はC5-FUの血中濃度で,横軸が投与後の時間である.CVIは長期持続点滴静注法を意味する.5-FUを点滴投与するにあたって至適濃度がC50.100の間であり,この濃度以上が有効な抗癌作用を発揮する.(各薬剤インタビューフォームより作成)abc図2TS-1角膜障害a:SPK(Ⅱ型).b,c:角膜上方からシート状の異常上皮が下方に向かって侵入してくる場合(Ⅳ型).フルオレセイン蛍光造影(Cb),ディフューザー(Cc).表1抗癌薬による涙道閉塞の部位抗癌薬閉塞部位涙点涙小管涙.・鼻涙管CTS-15(3C1%)10(C63%)1(6%)ドセタキセル6(5C5%)5(4C5%)C0涙道閉塞を起こす代表的な抗癌薬であるCTS-1とドセタキセルは,いずれも涙点や涙小管閉塞を起こしやすい.(文献C11より改変引用)表2抗癌薬による涙道閉塞に対する治療方法と症状の改善率抗癌薬治療方法流涙症状の改善涙点形成術涙管チューブ挿入術涙腺へのボトックス注射CTS-1C0C13C1114(C58%)ドセタキセルC4C13C017(C100%)(文献C11より改変引用)重症度手術方法Grade1涙点からブジーが10mm・涙管チューブ以上挿入できる挿入術涙管通水検査で上下交通が確認できるGrade2涙点からブジーが7~8mm以上挿入できる・経皮的涙小管涙管通水検査で上下交通が再建術ない・涙小管造袋術Grade3・結膜涙.鼻腔吻合術涙点からブジーが7~8mm・涙.移動術未満しか挿入できない(結膜涙.吻合術)図3涙小管閉塞の重症度と対応する手術方法矢部・鈴木分類は,涙点から閉塞部の距離で重症度を分類する簡便な評価方法である.涙小管閉塞は,閉塞距離が長くなればより重症となるが,非観血的に閉塞部以降の状態を把握できないため,閉塞距離を評価することはできない.閉塞部の場所が涙点近傍であるほど閉塞距離が長くなるリスクが高くなることで評価する.前期後期Grade2,3Grade2,319%9%Grade15%図4TS-1による涙道障害の初診時の障害部位2009.2013年を前期群,2014.2018年を後期群としている.障害部位は涙管通水検査,ブジー,涙道内視鏡による観察で判定した.C-図6経皮的涙小管再建術の手術方法涙点側からブジーを挿入して閉塞部位を鼻側に押し付けて,内総涙点側からメスで切開・開放する.図5涙小管造袋術の手術方法涙乳頭が存在する場合は,その部位にC18G針もしくはC15°メスで穿刺し,涙小管垂直部を探索する.涙乳頭が存在せず涙点の位置が明確でない場合は,涙点があったと考えられる部位からC15°のメスで瞼縁を切開し,涙小管を探す.白色で光沢のある組織が涙小管内腔の上皮である.その場所で涙小管を見つけられない場合は,切開部位より鼻側に新たな切開を加えて探索する.図7結膜涙.鼻腔吻合術の手術方法結膜.と涙.もしくは鼻腔とをバイパスする方法.鼻外法や鼻内法,レーザーアプローチでCDCRを行ったあと,結膜から涙.または鼻腔へステントを通す.結膜から涙小管を介さずにステントを介して涙.,鼻腔へと涙液が流れる.表3結膜涙.鼻腔吻合術の治療成績と合併症報告者報告年症例数治療成績合併症CSteinsapirKD16)C1990C79C96%脱落51%偏位22%チューブ閉塞23%CSekharGC17)C1991C69C98.5%脱落30%偏位28%チューブ閉塞28%CRoseGE18)C1991C326C91%脱落41%CLeeJS19)C2001C124C97%脱落10%結膜侵入12%(文献C11より改変引用)C-’C-

序説:知っておきたい薬剤の副作用

2025年8月31日 日曜日

知っておきたい薬剤の副作用DrugSideE.ectsYouShouldKnowAbout福岡秀記*大野京子**外園千恵*医療の進歩に伴い,さまざまな全身疾患に対する新規薬剤が次々と開発され,臨床現場に使用される機会が増加してきている.これらの新規薬剤はこれまで治療のむずかしかった疾患の治療に大きく貢献する一方で,眼に対する副作用を示すことがあり,また,影響が不明なものもある.ご存知のとおり,全身投与された薬剤の影響を眼が受けて視機能低下を引き起こすと,患者のみならず介護者を含む社会的にも大きな影響を与える.眼科医にとって,薬剤の副作用による眼障害の知識を更新し続けることは,患者の視機能を守るためにきわめて重要な責務と思われる.薬剤による眼障害は,その発症機序によって大きく分けると,直接的な薬物毒性によるもの,免疫学的機序を介したもの,未だ機序が不明なものに大別される.直接的な薬物毒は投与量や期間に依存して発症することが多く,免疫学的機序は個体〔ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)を含む〕の免疫応答の違いにより発症リスクが異なる.また,障害部位は角膜や結膜などの前眼部から,網膜や視神経などの後眼部まで多岐にわたり,あらゆる眼組織が影響を受ける可能性がある.とくに注目すべきは,近年の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(immunecheckpointinhibi-tor:ICI),生物学的製剤などの新規薬剤による眼障害である.これらの薬剤は,従来の抗癌薬とは異なる作用機序をもち,それに伴い眼障害のパターンも従来とは異なるため,薬剤副作用による眼障害の知識の更新がとくに必要な領域である.たとえば,ICIでは自己免疫反応の活性化により,ぶどう膜炎や視神経炎などさまざまな眼部位に自己免疫疾患様の炎症を引き起こすことが報告されている.また,抗癌薬による網膜外層障害,dipeptidylpeptidase(DPP)-4阻害薬関連の眼類天疱瘡,フルオロウラシル系抗癌薬による涙道障害など,薬剤特有の病態が明らかになってきている.また,長期にわたって使用される慢性疾患治療薬による眼障害も重要である.プラケニル(ヒドロキシクロロキン)による網膜症は,適切なスクリーニングにより早期発見が可能であり,抗リウマチ薬関連リンパ腫の眼内発症,プロスタノイドFP受容体作動薬(FP作動薬)による眼窩周囲症など,長期使用により蓄積性に発症する障害への対策が求められている.さらに,Stevens-Johnson症候群のような重症薬疹では,急性期の適切な眼科的管理が後遺症の軽減に重要であることが示されている.薬剤性眼障害の管理においては,以下の点が重要である.*HidekiFukuoka&ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**KyokoOhno-Matsui:東京科学大学眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)935

第一世代Ahmed ClearPath (ACP) の使用経験と6カ月の短期治療成績

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):924.927,2025c第一世代AhmedClearPath(ACP)の使用経験と6カ月の短期治療成績千原悦夫千原智之千照会・千原眼科CAnalysisofAhmedClearPathTreatmentOutcomesOveraShort-TermPeriodof6MonthsEtsuoChiharaandTomoyukiChiharaCSensho-kaiEyeInstituteC3例C3眼の難治性緑内障眼に対して第一世代CAhmedClearPath(ACP)による治療を行った.術前C35.2±7.6CmmHg(4.7±1.5剤)であったものがC6カ月後にはC14.0±3.6CmmHgに下がり,2眼は点眼フリーとなった.視力は術前と比べて悪化したものはなかった.術後短期合併症として浅前房があったが自然治癒し,そのほかには特記するべき異常を認めなかった.3例におけるC6カ月という短期の経過観察ではあるが,経過は良好であり,第一世代CACPは十分臨床使用に耐えるものと考えられた.CHerein,wereportthesurgicaloutcomesof3eyesof3refractoryglaucomacasesthatweretreatedusingtheAhmedCClearPathR(ACP)(NewCWorldMedical)drainageCdevice.CPreoperativeCmeanCintraocularpressure(IOP)CwasC35.2±7.6CmmHg(meanCnumberCofCmedicationsCbeingused:4.7±1.5).CAtC6-monthsCpostoperative,CtheCmeanCIOPCdecreasedCtoC14.0±3.6CmmHg,CandC2CeyesCnoClongerCrequiredCeye-dropCinstillation.CMoreover,CthereCwasCnoCworseningofvisioncomparedtothepreoperativelevels.Atransientanteriorchambershallowingwasobservedasashort-termpostoperativecomplication,butitresolvedspontaneouslyandnoothersigni.cantabnormalitieswerenoted.Althoughthefollow-upperiodinthese3caseswasshort(i.e.,6months),our.ndingsrevealedthattheout-comeswerefavorableandthatACPimplantationisbothsafeande.ectiveforthetreatmentofrefractoryglauco-ma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):924.927,C2025〕Keywords:緑内障ロングチューブシャント,難治性緑内障,AhmedClearPath(ACP),術後眼圧,手術合併症.Cglaucomadrainagedevice,refractiveglaucoma,AhmedClearPath,post-surgicalintraocularpressure,surgicalcom-plications.Cはじめに第一世代CAhmedClearPath(ACP)はC2024年C3月に医療材料としてわが国の認可を得た新しい緑内障ロングチューブシャントである.従来,わが国のロングチューブシャントはBaerveldt緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)とCAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)しかなかったが,3種類目のロングチューブが導入されたことになる.筆者らはこのチューブを試用する機会があったので,その6カ月の結果を報告する.I第一世代ACPの概要第一世代CACPは調圧弁のないロングチューブで,眼圧下降機序はCBGIと似ているが,プレートとCsutureholeの形状が改良され,ステントが前置されるという改善が施されている.プレートの材料はバリウムを含むシリコン素材で乳白色をしており,表面は研磨されて平滑である.FenestrationholeがC4個あり,BGIのC4個と同じである.プレートの形状はCBGIが楕円形であるのに対して第一世〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山C50-1千照会・千原眼科Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC924(140)図1第一世代ACPの術中所見第一世代CACPの出荷時には,あらかじめチューブ内にC4-0ポリプロレン糸が挿入されており,後から入れなくてはならないCBaerveldtCGlaucomaImplant(BGI)よりも改善されている.また,プレートは矩形に近くなっており,操作性が改善されている.代CACPは矩形に近く,外直筋の下に挿入するにあたって入れやすくなるように工夫されている(図1).プレート面積はCP250がC250CmmC2,CP350がC350CmmC2であり,BGIにおけるC250CmmC2/350Cmm2と同じである.従来の報告では,BGIとほぼ同等の眼圧下降効果が得られている1.4).プレートを強膜に固定するためのCsutureholeの位置と形状は特徴的で,この部分はプレート本体から岬状に突出しており可動性がある.従来のCBGIやCAGVでは二つのCsutureholeの距離が一定であり,プレートを強膜上に固定する場合は歪みを生じないように配慮が必要であるが,第一世代ACPの場合は多少のずれであればデバイスの方が順応してくれるので術中操作がやりやすくなった(図2).チューブの外径はC0.635Cmmと内径はC0.305Cmmとなっており,従来のCAGVと変わらない.このチューブ内には,出荷時からC4-0ポリプロピレン糸が挿入されている.BGIの場合は手術時にC3-0のナイロン糸あるいはプロリン糸を挿入する必要があったが,第一世代CACPではその手間が省けるようになっている.チューブの挿入部位は前房・毛様溝・硝子体腔のいずれも可能であるが,ステントが入った状態なので剛性が高く挿入操作はやりやすい(図3).CII術後低眼圧と高眼圧の抑制ステントは入れてあるが,そのままでは術後低眼圧が起こるので,術中にチューブを結紮してCSherwoodslitを入れておく必要がある.ただ,これでも術後高眼圧を起こす可能性があるので,その調節のためにチューブを結紮するときにチューブの外側にC7-0もしくはC6-0のナイロン糸をC2本おいて一緒に縛り,高眼圧が起こったときに順次抜くようにすると眼圧の調節ができる(図4).チューブを前房に挿入するときは輪部からC2Cmm,毛様溝ではC2.5Cmm,硝子体腔に挿入するときはC3.5Cmm後方で強図2第一世代ACPのsuturehole第一世代CACPのCsutureholeはプレート本体から岬状に突出した突起の中にあり,可動性がある.そのため,強膜に固定する場合に二つのCholeが多少ずれても順応してくれるので扱いやすい.図3第一世代ACPのデザインプレート形状は矩形に近く,BaerveldtglaucomaCimplant(BGI)とは異なるが,プレートの面積がC250CmmC2のCCP250(Ca)とC350Cmm2のCCP350(Cb)があり,BGIと同じになっている.(NewWorldMedicalのホームページより転載)膜を穿孔する.通常はC23CGの針を用いるが,針の方向には注意が必要である.前房に挿入する場合は角膜からの距離が保たれるように虹彩面に平行に挿入し,毛様溝では水晶体.や虹彩に当たらないように十分粘弾性物質で空間を作ってから挿入する.何度もさしなおすと出血することがあるので注意が必要である.硝子体腔挿入では眼球中心に向かって挿入するが,kinkingが起こっていないことを確認する必要があ図4術後の低眼圧と高眼圧の抑制第一世代CACPは調圧弁がないタイプのインプラントで,低眼圧制御のために出荷時からC4-0ポリプロピレン糸(.)が挿入してあるが,それでも術直後の低眼圧が起こりうる.それを防ぐためには,チューブを結紮する必要があるが,結紮により短期的な術後高眼圧が起こるので,Sherwoodslitを作成するが,それでも高眼圧が起こる.その対策として,チューブの結紮を行う場合にはチューブの外側にC6-0もしくはC7-0のナイロン糸(.)を置いて一緒に縛り(.:7-0ポリソルブ糸),術後高眼圧が起こった場合に一本ずつ抜くという操作を加えると,術後高眼圧を乗り切ることができることが多い(左側のC4-0絹糸は上直筋にかけた牽引糸).る.チューブの被覆は保存強膜を使用することが多いが,最近では強膜トンネルをする術者も増えてきている.GoretexやEverPatchなど人工材料を使う被覆も検討されているが5),現時点では保存強膜を使うことが無難と考えられる.CIII対象と方法対象は点眼・内服での眼圧コントロールが不良であり,結膜瘢痕や虹彩血管新生のために緑内障インプラント手術の適応となった難治緑内障C3例C3眼である,これらの患者に対して,手術に関するインフォームドコンセントを得たうえで手術治療を行った.研究デザインは当院CIRB(主任天野)の承諾を得ており,世界医師会ヘルシンキ宣言に則って行われている.CIV手術手技外上方結膜輪部切開後にCTenon.下麻酔を行い,外直筋を露出して牽引糸を置く.Tenon.下組織を郭清し,プレートを直筋の下に挿入する.つぎに,輪部からC7Cmmの場所でプレート固定のためのCanchorsuture糸(筆者はC5-0テフデック(ポリエステル)だがC8-0ナイロン糸を使う術者も多い)を置き,これをCsutureholeに通糸してプレートを固定する.前房と硝子体腔にチューブを挿入する場合は眼内にC2表1眼圧,視力,点眼数の経過眼圧術前1カ月後3カ月後6カ月後C35.2±7.6C19.7±12.7C15.3±1.5C14.0±3.6点眼数術前6カ月後C4.7±1.5C0.7±1.2矯正視力術前6カ月後C(小数視力)0.68±0.75C0.74±0.74Cmm(+強膜内C2Cmm)入るようにトリミングするが,毛様溝に入れる場合はC3Cmm(+3Cmm)になるようにトリミングする.毛様溝にチューブを留置するためには前房穿刺のあと,粘弾性物質で毛様溝空間を拡大し,適当な経線部分で輪部からC2.5Cmm離れてC23CG針で強膜・ぶどう膜を穿孔し,ここにチュ.ブを挿入する.チューブをC9-0ナイロン糸で強膜に固定し,チューブのそばにC7-0もしくはC6-0ナイロン糸(ripcord)をC2本おいてチューブとCripcordをまとめてC7-0吸収性の糸でもろともに結紮する(図4).結紮の角膜寄りでC3カ所程度のCSherwoodslitを作成する.保存強膜を適当な大きさに切り,チューブの上に置いてC9-0ナイロンC4糸で固定する.結膜創をC8-0ポリソルブ吸収糸で閉じる.結膜創からはみ出ているC4-0プロリンステントはトリミングして異物感の原因にならないように配慮する.術後処置としてデキサメサゾン(デカドロン)の結膜注射をし,抗菌薬とステロイド軟膏を塗布して眼帯する.CV手術成績2024年C4月からC6月の間にC3例の第一世代CACP手術を行った.平均年齢はC55±15.1歳,観察期間はC174±21日,眼内手術既往数はC1.7±0.6回,小数視力はC0.68±0.75(0.03-1.5),屈折は無水晶体眼C1眼,偽水晶体眼C1眼,.4.5の近視C1眼であった.病名は小眼球に伴う続発緑内障C1眼,偽水晶体眼に伴う続発緑内障C1眼,糖尿病に伴う血管新生緑内障1眼である.内皮数はC2090±400/mm2,ステント抜去は術後C31.7±11.7日,ripcord抜去はC17±14.7日であった.眼圧,視力,点眼数の経過を表1に示す.3眼中C2眼は点眼フリーとなり,術後C6カ月の小数視力はC0.74±0.74と改善気味であった.合併症としてはC1例で浅前房があったが自然治癒し,そのほかの重大な異常はない.CVI考按ロングチューブは濾過手術の一種であるが,濾過胞はトラベクレクトミーにおけるそれよりも後方にできるので濾過胞漏出や感染のリスクが低く,また,術後の眼圧下降がプレートの大きさによって影響されると考えられているため,術後の眼圧を想定された範囲に収めることが可能であるという特徴がある.低眼圧黄斑症が起こりにくいこともロングチューブの特徴であり,トラベクレクトミーと比べると安全性が有意に高いとされており,このことが世界的にトラベクレクトミーからロングチューブへと術式のシフトが起こっている理由である6,7).ロングチューブには調圧弁のついたもの(現在はCAGVのみであるが,過去にはCWhiteCPumpShuntやClongCKrupinCDenverCvalveCimplantなどがあった)と調圧弁のないもの(BGI,Molteno3implant,PaulGlaucomaimplantなど)があり,一般論として弁のないものは眼圧下降効果が強いが,低眼圧黄斑症などの合併症が多いということがいわれてきた.弁のないロングチューブの最大の欠点は術後の低眼圧による合併症と考えられるが,これに対応する改良点としてチューブを細くしたり,術中チューブ内にステントを留置して流量を調節したりするようなデバイスが出てきており,それが今回紹介した第一世代CACPと,まだわが国では未発売のCPaulGlaucomaimplantである.術後低眼圧が起こるのはチューブ設置後C1.2カ月であるので,その間をステント・ripcordとチューブの結紮で乗り切り,最終的にステントを抜去すれば,術後の眼圧は弁なしのほうが低くなり成功率が高いことは報告されているとおりなので,より大きな眼圧下降が求められる眼にとってはメリットがある8).今回はC3例のみの経験であるが,6カ月の臨床経過は良好であり,今後適応を選んで実臨床に応用していくことが望ましい.CVII結論新しい弁のないロングチューブである第一世代CACPの使用経験について報告した.従来の弁なしのロングチューブと比べるといくつかの点で改善されており,今後有用な治療デバイスになると考えられた.利益相反:JFCセールスプラン,JFCセールスプランFII文献1)DorairajCS,CChecoCLA,CWagnerCIVCetal:24-MonthCOut-comesCofCAhmedCClearPathRCGlaucomaCDrainageCDeviceCforCRefractoryCGlaucoma.CClinCOphthalmolC16:2255-2262,C20222)ElhusseinyAM,VanderVeenDK:EarlyExperienceWithAhmedCClearCPathCGlaucomaCDrainageCDeviceCinCChild-hoodGlaucoma.JGlaucomaC30:575-578,C20213)ShalabyCWS,CReddyCR,CWummerCBCetal:AhmedCClear-PathCvs.CBaerveldtCGlaucomaImplant:ACRetrospectiveCNoninferiorityCComparativeCStudy.COphthalmolCGlaucomaC7:251-259,C20244)BoopathirajCN,CWagnerCIV,CLentzCPCCetal:36-MonthCOutcomesCofCAhmedCClearPathRCGlaucomaCDrainageCDeviceCinCSevereCPrimaryCOpenCAngleCGlaucoma.CClinCOphthalmolC18:1735-1742,C20245)安岡恵子,多田憲太郎,安岡一夫:人工硬膜使用のCAhmed緑内障チューブシャント手術.眼科手術C37:541-545,C20246)VinodK,GeddeSJ,FeuerWJetal:PracticepreferencesforCglaucomasurgery:aCsurveyCofCtheCamericanCglauco-masociety.JGlaucomaC26:687-693,C20177)ChiharaE:TrendsCinCtheCnationalCophthalmologicalChealthcarefocusingoncataract,retina,andglaucomaover15yearsinJapan.ClinOphthalmolC17:3131-3148,C20238)ChristakisCPG,CZhangCD,CBudenzCDLCetal:Five-yearCpooledCdataCanalysisCofCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudyandtheAhmedversusBaerveldtstudy.AmJOph-thalmolC176:118-126,C2017***

急性涙囊炎に対するアジスロマイシン点眼液を涙囊内に注入する治療法の結果

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):919.923,2025c急性涙.炎に対するアジスロマイシン点眼液を涙.内に注入する治療法の結果久保勝文*1工藤孝志*2*1吹上眼科*2十和田市立中央病院眼科E.ectofAzithromycinOphthalmicSolution1%InjectionIntoTheLacrimalSacforAcuteDacryocystitisMasabumiKubo1)andTakashiKudo2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TowdaCityHospitalC吹上眼科にてアジスロマイシン(AZM)点眼液の涙.内注入で治療した,急性涙.炎の成績について報告する.急性涙.炎を認めた男性C1例女性C7例,全員片側の計C8例で,手術希望がないC7例,希望があるC1例だった.年齢は,38.95歳で平均年齢C74.9C±18.1歳.通水試験で鼻涙管閉塞症をC6例に認め,2例に認めなかった.上涙点より生食で涙.内洗浄後に,涙.内をCAZM点眼液に完全に置換する治療で,8例全員がC1.3日と短期間で消炎鎮痛した.観察期間中にC2例で涙.炎再発を認めず,2カ月後とC5カ月後にそれぞれC1例が再発した.消炎後に涙.鼻腔吻合術C3例,涙.摘出術C1例を行った.AZM点眼液の涙.組織への高い移行性と長期間の持続性により,急性涙.炎の治癒と再発予防が可能になったと考えた.手術以外の代替治療や,手術前の速やかな消炎治療方法としてCAZM点眼液を涙.内に注入する治療法は効果があると考えられた.CPurpose:Toreportthee.cacyofazithromycinophthalmicsolution1%(AZM)injectionintothelacrimalsac(LS)forCacutedacryocystitis(AD)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC8CADpatients(1Cmale,C7females;meanage:74.9C±18.1years[range:38-95years])C.Ofthose,6hadnasolacrimalductobstruction,yet2hadnoobstruction.Inalltreatedeyes,afterwashingtheLSwithsalineviathesuperiorlacrimalpunctum,itwas.lledCwithCAZMCviaCinjection.CResults:InCallCcases,CimmediateCresolutionCofCpainCandCrapidCcontrolCofCinfectionComlurredpostinjection.In2casestherewasnorecurrence,yetrecurrencedidomlurin1caseat1-monthpostinjectionandin1caseat5-monthspostinjection.Afterimprovementofin.ammation,3casesunderwentdacryo-cystorhinostomyand1caseunderwentdacryocystectomy.Conclusion:InjectionofAZMatahighconcentrationintotheLSwasfoundtobeane.ectivealternativetherapyforAD,aswellasforrapidreductionofin.ammationpriortosurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):919.923,C2025〕Keywords:アジスロマイシン点眼液,急性涙.炎,涙.鼻腔吻合術,涙.摘出術,注入療法.azithromycinCoph-thalmicsolution,acutedacryocystitis,dacryocystorhinostomy,dacryocystectomy,injectiontherapy.はじめに急性涙.炎は涙道疾患のC2.4%にみられ,まれな疾患ではない1).急性涙.炎の増悪・寛解を繰り返し,涙.摘出術や涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)を説得しても,手術を拒絶する老齢患者も多い.手術の有無にかかわらず速やかな消炎鎮痛も必要となるため1),急性涙.炎に対して点滴・内服および点眼を処方するが,薬剤耐性率が高くなっているためか2,3),改善までに長時間を要する場合も多い1.3).急を要する場合では,涙.穿刺や涙.切開で排膿する治療方法がとられる1,2,4).しかし,5%ほどで涙.皮膚瘻を形成し,事態が悪化することもある4).今回,アジスロマイシン(AZM)点眼液は涙.炎への適応病名をもち,組織への高い薬物移行性と5)長期の良好な薬物滞留性により6)涙.炎治療に有効であり,さらに涙.内に注〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,PhD.,FukiageEyeClinic,2-10FukiageHachinohe031-0003,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(135)C919表1症例1~8のまとめNo.年齢性別(歳)初診時通水検査涙.炎治癒後の通水検査観察期間(月)結果培養結果備考C62女性鼻涙管閉塞通水良好C72カ月後再発CNeisseriasp.C92女性鼻涙管閉塞検査なしC5手術(涙.摘出術)発育を認めずC73女性通水良好通水良好C55カ月後再発CPseudomonaeaeruginosaIgG4:C527C↑(C11-121)涙道内視鏡検査で異常なしC75女性通水良好通水良好C4涙.炎治癒CCorynebacteriumsp.涙道内視鏡検査で異常なしC38女性鼻涙管閉塞検査なしC3手術(DCR)CAcinetobactersp.初診時より手術希望C83男性鼻涙管閉塞検査なしC2Stenotophomonas手術(DCR)CmaltophiliaC95女性鼻涙管閉塞検査なしC1涙.炎治癒CEnterobactraogenesC80女性鼻涙管閉塞検査なしC1手術(DCR)発育を認めずDCR:dacryocystorhinostomy.入すればより効果的であると考えて治療を行ったので結果を報告する.CI対象と方法2023年C8月.24年C3月末の期間で急性涙.炎の患者に対して生食で涙.内洗浄を行い,その後CAZM点眼液で涙.内に注入する治療を行った.10症例に行い,1例は治療後来院せず.1例は全身麻酔希望のため他院紹介.残りの急性涙.炎C8例について考察を行った.男性C1例,女性C7例で年齢はC38-95歳で平均年齢はC74.9C±18.1歳.全員片側で観察期間はC1.7カ月,平均C3.5C±2.1カ月.全例に涙.部に発赤・圧痛を認める急性涙.炎を認めた.初診時の通水検査ではC6例には鼻涙管閉塞症があり,2例は閉塞がなく通水があるのを確認した(表1).初診時はC7例に手術希望がなく,1例(症例5)が手術を希望した.細菌検査は,涙.内から注射筒で採取または通水検査時に逆流した膿汁をカルチャースワブプラス医科用捲綿糸(日本ベクトン・ディキンソン社製)にて採取し,全例ビー・エム・エル社で細菌培養検査を行った.全例で好気性細菌培養検査を行い,血液寒天培地,BTB寒天培地およびチョコレート培地で行った.AZM点眼液による処置は,点眼麻酔後にC2.5Cml注射筒にディスポーザルの曲の涙洗針(27CGC×25Cmm,エムエス)を装着して生食で十分に涙.内を洗浄後にCAZM点眼液を注射筒内に移し,指で涙.を触診し,十分な大きさになるまでAZM点眼液を涙.内に注入した.当院初診C2例,他施設からの紹介C6例で,基本的に前医の点眼内服を継続し,適宜AZM点眼液とクラリスロマイシンC200Cmg2回C5日分を追加処方し,1.3日後に来院を指示した.II結果8例全員がC1.3日で速やかに消炎し,2例は涙.炎が治癒して観察期間中に再発しなかった.2例はいったん涙.炎が治癒したが,2カ月後とC5カ月後にC1例ずつ再発した.消炎後に手術を希望したC3例と初診時から手術を希望していたC1症例の計C4症例に対してCDCR3例および涙.摘出術C1例を行い経過良好である(表1).初診時に鼻涙管閉塞のなかったC2例(症例C3,4)について,消炎した時点で涙道内視鏡検査を行ったが,軽い鼻涙管狭窄を認める以外に涙.内結石などの異常を認めなかった.培養結果は,細菌の発育を認めなかった症例がC2例.6例でCNeis-seriasp.,Pseudomonaeaeruginosa,Corynebacteriumsp.,CStenotophomonasmaltophilia,Enterobacteraerogenes,CAcinetobacterCsp.をそれぞれ検出した.細菌感受性試験は,AZM点眼液に対しては行わなかった(表1).以下にC3症例を提示する.[症例1]62歳,女性,近医で何度か涙.炎を治療し,鼻涙管閉塞を指摘されていたが,眼脂が強くなり当院を受診.初診時に涙.炎を認め,通水検査で通過性はなかった.AZM点眼液で治療後C1週間後に涙.炎は治癒し,通水検査でも通過良好でその後通院がなかった.しかし,2カ月後に涙.炎で再受診し,涙.炎を認め,通水検査で通過性を認めず,AZM点眼液を涙.内に注入後に来院がなかった.[症例2]92歳,女性.以前より何度か急性涙.炎を起こしていたが,今回腫れが引かないので当院へ紹介となる.初診時は図1のように涙.が大きく腫れて強い痛みを訴えた.涙.洗浄後にCAZM点眼液を涙.内注入し,翌日には消炎し痛みもなくなった(図2).後日,涙.摘出術に同意し手術を行い,経過良好である.図1症例2の初診時顔写真左眼急性涙.炎で大きく腫脹している.図3症例6の初診時顔写真右急性涙.炎で大きく腫脹している.[症例6]83歳,男性.近医で穿刺排膿の治療をしていたが,半年前から涙.部分の腫瘤が徐々に大きくなり,治療目的で当院に紹介となる(図3).ガチフロキサシンC5CmlおよびC0.1%フルオロメトロンC5Cmlを右眼にC4回点眼していた.初診時に右涙.部が大きく腫れ,痛みが強く,手術希望はなく,前医で行っていた涙.穿刺を希望した.涙.洗浄後にAZM点眼液を注入し,クラリスロマイシン錠C200Cmgの内服を追加した.3日後の来院時には消炎し,痛みも引いていた(図4).その後も増悪なく,2カ月C10日後には慢性涙.炎の状態となりCDCRを希望した.手術中もとくに出血がなく,術後も経過良好である.CIII考按涙.炎は,鼻涙管閉塞などの原因で起こる感染症疾患であ図2症例2のAZM点眼液を涙.内に入れた翌日涙.部の炎症は鎮静化し,痛みもほぼ消失した.図4AZM点眼液を涙.内に入れた3日後涙.部の炎症は鎮静化し,痛みもほぼ消失した.り,速やかに消炎ができなければ眼窩内に炎症が波及し,失明することもあるため,慎重に診察治療する必要がある1).涙.摘出術やCDCRなどの外科治療を行うことができれば,急速に治療できる疾患ではあるが1,2,4),抗菌薬の点眼や抗菌薬の内服・点滴では治癒までにC1.2週間やC10日を要すると報告されている1,2,4).今回はC7例と症例は少ないが,今までの経験以上に速やかに消炎・鎮痛が行えた.点滴を常備できない開業医や,紹介病院まで遠い医療施設において,常備しやすいCAZM点眼液の涙.内注入で抗菌剤の内服・点滴と同等に速やかに治療できるなら,患者および開業医にとって有用と考えられる.涙.炎の起炎菌は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,レンサ球菌が多く,鈴木らは,涙.内貯留液から分離された菌C64株のうち,グラム陽性菌はC44株,グラム陰性菌はC19株,真菌はC1株と報告している3).AZMは,ブドウ球菌属,レンサ球菌属,肺炎球菌,コリネバクテリウム属,インフルエンザ菌,アクネ菌に対する抗菌作用を示すが,感受性はフルオロキノロンには及ばない.しかし,組織内移行性と滞留性がよく,一度の点眼で長期に炎症を抑える効果が期待できる薬剤である7,8).今回は,検出された細菌でのCAZMへの感受性を行っていないので次回以降の検討が必要と考えた.また,AZMの内服・点滴では,涙.炎の適応病名がなく,AZMの静脈内投与はC2時間かけて点滴する必要がある.それに比較して,AZM点眼液では涙.炎の適応病名があり7),AZM涙.内注入は点滴に比較し短時間で終わり,医療側,患者側の負担も少ない.涙.内への薬物注入治療による涙.炎治療についての報告は,わが国では前田らと松見らによる軟膏注入したC2編があり,海外での報告は確認できなかった9,10).報告が少ない原因は,軟膏の粘性が高く注入自体が容易でないことが原因と思われる10).また,AZM点眼液の涙.注入についての報告は,わが国および海外で確認できなかった.軟膏の注入の効果については,わが国で前田らが慢性涙.炎に対して眼軟膏の種類を変えて注入したが,完全に分泌物は消失しなかったと報告している9).また,約C100例の慢性涙.炎の注入で全例有効だったが,2.3週間ごとの注入が必要で,注射器と洗浄針の固定が外れないよう注意が必要だったとしている.松見らは,DCR後のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(mechicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)涙.炎に,ペリプラスト用の微量滴下セット(20ゲージ)を用い,6日連続で涙.内にバンコマイシン眼軟膏注入を行い,最終的に眼脂,結膜充血がなく排膿を認めない状態まで改善させた10).今回のCAZM点眼液は,通常の点眼液よりは粘性が高いが針が外れることもなく,27CGの洗浄針とC2.5Cmlのディスポーザルの注射器で,容易に涙.内に注入することができ,特別に用意する物品はなく,容易にC1回のCAZM涙.内注入で,頻回の軟膏注入と同等の治療効果が期待できると考えられた.再発までの期間は,前田らの報告ではC2.3週間であった9)のに比べて今回は症例が少ないが,2カ月とC5カ月と再発までの期間をより長期間維持できた.AZMが組織内に長く残留し,再発を長期間防止し,手術に同意しない高齢患者の涙.炎の消炎を長期間維持できる可能性が高いと考えた.涙.内に眼軟膏注入する療法の効果の機序として,軟膏の粘性が高いため,分泌物が洗い流され,軟膏が長期に滞留することや,局所濃度が高いことなどがあげられている9).AZM点眼液の注入でも同様の機序が考えられ,加えて閉鎖された涙.内に注入されるため,反復点眼のような効果で高濃度の薬剤が長期にわたり組織に滞留する6,11).さらに,AZMが炎症抑制作用をもつことが寄与していると思われた7,11).しかし,ブジーと軟膏注入療法を行ったC2年後に,下眼瞼に腫瘤を形成したという報告があり12),軟膏が皮下に迷入した結果と考えられており,AZM点眼液注入にも注意が必要であると考えた.急性涙.炎に対して涙.切開を積極的に行う治療法や,針で吸引する方法も報告されている13).今回は,全員涙点より涙.内に到達可能だった.症例や施設によっては積極的に涙.切開や穿刺を行い,直接創部より涙.内にCAZM点眼を注入することも可能であると考えた.AZM点眼液を創部から涙.内粘膜に作用させることにより,今回も同様の効果が得られるかは不明だが,症例があれば検討したいと考えた.当院初診時の涙.炎にもかかわらず通水検査で通水があり,涙.炎治癒後に涙道内視鏡検査を行ったが,軽度の鼻涙管狭窄以外の異常を認めなかった症例がC2例あった.症例C3はCIgG4関連疾患として観察中であり,IgG4関連疾患としての涙.から鼻涙管粘膜の一時的な浮腫が発生し,機能的な鼻涙管閉塞に至り,消炎できたあとは鼻涙管粘膜の浮腫がとれ,通過性が回復した可能性が高いと思われた14).症例C4では,涙.内結石がもともとあったが15),AZM点眼液注入時で涙.内結石が洗い流され,後日涙道内視鏡検査を行っても異常を認めなかった可能性や,症例C3と同様にCIgG4関連疾患の可能性もあるが,採血を行っていないのでそれ以上は不明だった.涙.炎に対してもCIgG4関連疾患の可能性を念頭におかなければならないと考えた.涙.炎の根治治療としてCDCRや涙.摘出術が確立しているが,患者の高齢化などにより手術に同意しない場合も増加すると考えられ,老齢患者では内服薬コンプライアンスが悪い場合も多い.手術前の速やかで効果的な消炎や手術の代替治療として,AZM点眼液の涙.内注入療法は,症例が少ないものの患者と医療側ともに利益がある治療法である.今後も症例を増やし,検討することが必要であろう.CIV結論AZM点眼の涙.内注入により,急性涙.炎の速やかな消炎・鎮痛をすることができた.一時的な代替治療および手術前の消炎・鎮痛が目的であれば,従来の点眼および点滴・内服治療と比較して同等かそれ以上の効果があり,導入の容易な治療である可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鎌尾知行:2.急性涙.炎.眼科62:1293-1298,C20202)CahillCKV,CBurnsJA:ManagementCofCacuteCdacryocysti-tisCinCAdult.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC9:38-41,C19933)鈴木亨,森田啓文,柳本孝子ほか:涙道手術では抗菌点眼薬は何を選択すべきか?.あたらしい眼科C17:385-389,C20004)AliMJ,JoshiSD,NaikMNetal:Clinicalpro.leandman-agementoutcomeofacutedacryocystitis:twodecadesofexperienceCinCaCtertiaryCeyeCcareCcenter.CSeminCOphthal-molC30:118-123,C20155)SakaiCT,CShinnoCK,CKurataCMCetal:PharmacokineticsCofCazithromycin,levo.oxacin.ando.oxacininrabbitextraoc-ularCtissuesCafterCophthalmicCadministration.COphthalmolCTherC8:511-517,C20196)AkpekCEK,CVittitowCJ,CVerhoevenCRSCetal:OcularCsur-facedistributionandpharmacokineticsofanovelophthal-mic1%azithromycinformulation.JOculPharmacolTherC25:433-439,C20097)井上幸次:アジスロマイシン点眼:薬剤耐性対策時代の新しい抗菌点眼薬.IOL&RSC34:151-156,C20208)松永敏幸:新規C15員環マクロライド系抗菌薬アジスロマイシン(ジスロマックC.)の薬理学的および薬物動態学的特性.日薬理誌117:343-349,C20019)前田清二,中村秀夫,佐藤直樹ほか:慢性涙.炎に対する軟膏注入の試み.臨眼48:622-623,C200410)松見文晶,三ツ井瑞季:涙.鼻腔吻合術後の難治性慢性涙.炎に対する涙.内抗菌眼軟膏注入療法.耳鼻臨床C112:C795-800,C201911)IkemotoCK,CKobayashiCS,CHaranosonoCYCetal:Contribu-tionCofCanti-in.ammatoryCandCanti-virulenceCe.ectsCofCazithromycinCinCtheCtreatmentCofCexperimentalCstaphylo-comlusaureuskeratitis.BMCOphthalmolC20:89,C202012)LiebW:Para.ngranulomCdesCunterlides.CKlinCMonblCAugenheilkdC190:125-126,C198713)GuptaCA,CSainiCP,CBothraCNCetal:Acutedacryocystitis:CchangingpracticepatternoverthelastthreedecadesatatertiaryCcareCsetup.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC262:1289-1293,C202414)BatraCR,CMudharCHS,CSandramouliS:ACuniqueCcaseCofCIgG4CsclerosingCDacryocystits.COphthalCPlastCReconstrCSurgC28:e70-e72,C201215)KuboCM,CSakurabaCT,CWadaR:ClinicopathoogocalCfea-turesCofCdacryolithiasisCinJapaneseCpatients:frequentCassociationwithinfectioninagedpatients.ISRNOphthal-molC2013:406153,C2013***

春季カタルの未治癒例の臨床的特徴に関する解析

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):915.918,2025c春季カタルの未治癒例の臨床的特徴に関する解析髙橋理恵原田一宏池田文川村朋子尾崎弘明内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofClinicalFeaturesofUnhealedCasesofVernalKeratoconjunctivitisRieTakahashi,KazuhiroHarada,AyaIkeda,TomokoKawamura-Tsukahara,HiroakiOzakiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversityC目的:思春期を超えるまで治療したが治癒に至らなかった春季カタル(VKC)の臨床的特徴の解析.対象および方法:2005年C9月.2014年C10月に福岡大学病院眼科でC2年以上Cproactive療法を行ったCVKCのうちC16歳を過ぎても治癒しなかったC11例(男性C9例,女性C2例.平均初発年齢C9.5歳)が対象.最終再発・診察時年齢,観察期間,臨床スコア,再発回数,アトピー性皮膚炎(AD)の有無を後方視的に検討.臨床スコアは重症眼を用い,再発回数は両眼の合計とした.結果:観察期間はC103カ月,最終再発時年齢はC18.5歳,最終観察年齢はC19.9歳,臨床スコアは開始時3.6最終時C1.0,再発回数はC1.37回/年だった.91%にCADを合併した.結論:VKCの中に思春期を超えても治癒しない症例があった.その臨床的背景は今後検討の余地がある.CPurpose:Toreporttheclinicalcharacteristicsofvernalkeratoconjunctivitis(VKC)casestreateduntilpuber-tyCthatCremainedCuncured.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCsurveyedC11CVKCCcases(9Cmales,C2females;meanageatonset:9.5years)whounderwentproactivetreatmentformorethan2yearsbetweenSep-tember2005andOctober2014,yetfailedtocureuntilafterapatientageof16years.Results:Themeanobser-vationperiodwas103months,andthemeanpatientageat.nalrecurrencewas18.5years.ThemeanpatientageatC.nalCobservationCwasC19.9Cyears,CandCtheCmeanCclinicalCscoreCatCbaselineCandCatC.nalCvisitCwasC3.1CandC1.0,Crespectively.Annually,themeannumberofrecurrenceswas1.37,and91%ofthepatientswerecomplicatedwithatopicdermatitis.Conclusion:AlthoughcasesofVKCthatremainedunhealedbeyondpubertywereobservedinthisstudy,furtherinvestigationoftheclinicalbackgroundinthesecasesisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):915.918,C2025〕Keywords:春季カタル,proactive療法,思春期,ステロイド,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,proactivetreatment,puberty,corticosteroid,atopicdermatitis.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は重症の増殖性アレルギー性結膜疾患であり,幼少期に発症し増悪・寛解を繰り返したあと,思春期に自然治癒することが多い.抗アレルギー点眼薬だけでは不十分な中等症以上のCVKCに対しては免疫抑制点眼薬を追加投与し,これらの点眼でも改善がみられない重症例は,ステロイドの点眼や内服,局所注射が選択される.それでも改善が得られない場合は,結膜乳頭の外科的切除も検討される1).症状の改善が得られたら,ステロイドの低力価への変更や点眼回数を漸減し,寛解状態になれば増悪しないよう,免疫抑制点眼薬や抗アレルギー点眼薬のみでコントロールしていき,再燃を避けるため免疫抑制点眼薬の投与量を調整し,最終的に少量の維持量を続けるproactive療法に関しては,福岡大学病院眼科(以下,当院)ではC2009年より行っている.森らの報告では,ステロイドを使用せずにCproactive療法のみで治療を継続できた症例の割合はC81.2%であり,VKCに対してCproactive療法は有効な治療法であるとしている2).Shimokawaらは,2年以上経過観察ができたCVKC症例の検討で,累積治癒率がC10年間でC84.9%であったと報告している一方,16歳以上でCproac-tive療法を継続している症例がC15.1%あったと報告している3).〔別刷請求先〕髙橋理恵:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RieTakahashi,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversity,7-45-1NanakumaJohnan-ku,Fukuoka814-0180,JAPANC表116歳で治癒しなかったVKC11症例の詳細症例性別初発時初診時観察期間最終再発最終診察再発回数臨床スコア治療CAD合併最終転帰免疫抗アレルギーステロイド年齢年齢(月)時年齢時年齢開始時16歳時終了時抑制点眼点眼点眼内服眼瞼注射C1男C8C8C117C17C17C4C3C2C0C○C○C○C××○治療中断C2女C8C10C144C21C23C14C5C0C0C○C○C×〇C6C○治療継続C3女C12C15C105C17C23C3C1C1C0C○C○C×××○治癒C4男C12C14C30C16C16C6C4C0C0C○C○C××5C○治療中断C5男C12C14C48C16C19C1C3C1C0C○C○C××××治癒C6男C6C7C182C19C22C9C5C1C1C○C○C○C×1C○転院C7男C10C12C81C18C18C14C2C1C1C○C○C○C○C11C○治療中断C8男C8C11C117C21C21C26C4C1C2C○C○C○C○C16C○転院C9男C10C11C72C16C17C3C4C1C2C○C○C○C××○治療中断C10男C11C13C90C20C20C10C4C2C2C○C×××7C○転院C11男C7C8C157C22C22C44C5C5C3C○C○C○C○C26C○治療継続今回は,小児期にCVKCを発症し,16歳を超えるまでの長期観察中に治癒に至らなかった未治癒症例の臨床的特徴について解析したので報告する.CI対象および方法2005年9月.2014年10月の10年間に当院でVKCと診断されたC45例のうち,経過中C2年以上Cproactive療法を行ったがC16歳を過ぎても再発し,治癒に至らなかったC11例(男性C9例,女性C2例)を対象とした.VKCの診断はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版,以下,ガイドライン)にもとづいて行った1).治癒の定義は,免疫抑制点眼薬でC1年間再発しなかったのち免疫抑制点眼薬を中止してさらにC1年間再発がなかったものとした.本研究は,この治癒の定義を満たさなかった症例が対象である.また,再発の定義はCVKC所見が悪化し,治療を強化したときとした.検討項目は初発時年齢,当院初診時年齢,最終再発時年齢,最終診察時年齢,再発回数,再発の季節との関連,初診診察時臨床スコア,16歳時点での臨床スコア,最終診察時臨床スコア,治療内容,アトピー性皮膚炎(atopicdermati-tis:AD)の有無とした.臨床スコアは,ガイドラインの臨床評価基準のうち,結膜巨大乳頭,輪部腫脹,角膜上皮障害のそれぞれの重症度を,「なし:0」「軽度:1」「中等症:2」「重症:3」とスコア化し,その合計を臨床スコアとした1).両眼例は,より重症な眼のスコアを使用した.ステロイド使用の基準は,ガイドラインの臨床評価基準で結膜巨大乳頭中等症(スコア2)以上,あるいは角膜中等症(スコア2)以上のいずれか,ないし両方が出現する臨床所見の悪化がみられた場合とした.また,ステロイドの選択は,ガイドラインの臨床評価基準で結膜巨大乳頭重症(スコア3)あるいは角膜重症(スコア3)のいずれか,ないし療法が出現する場合には内服か眼瞼注射のいずれかを行い,それ以外の悪化に対しては点眼を行った.本研究で外科的切除を行った症例はなかった.再発回数は両眼の合計回数とした.診療録をもとに,それぞれの項目について後ろ向きに解析した.再発回数の季節性の比較は,それぞれの季節で再発回数に差がないと仮定したものと比較して有意差があるかCPearsonC|2検定を用い,診察初診時と最終診察時のスコア変化,最終再発時年齢を年齢別にC2群に分けた比較検討はCWil-coxonsinged-rank検定を用いた.本研究は,福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果11症例の結果を表1に示した.VKCが発症した初発時年齢は平均C9.5C±2.2歳(6.12歳)であり,当院初診時年齢は平均C11.2C±2.7歳(7.15歳)であった.観察期間は平均C103C±46カ月(30.180カ月)であり,最終再発時年齢は平均C18.5±2.3歳(16.22歳),最終診察時年齢は平均C19.9C±2.6歳(16.23歳)であった.再発の回数は両眼で平均C12.2C±12.7回(1.44回)であり,1年間あたりの再発回数は平均C1.37C±1.09回/年であった.再発回数と観察期間には相関はなかった(RC2=0.2514)(図1).また,3.5月を春,6.8月を夏,9.11月を秋,12.2月を冬として季節を分け,季節別でみた全症例の累積再発回数は春C49回,夏C31回,秋C18回,冬C36回であり,有意差はなかったが,春と冬に多い結果であった(p=0.051)(図2).臨床スコアは,治療開始時スコア平均C3.6C±1.3(1.5)に再発合計回数(回)50454035302520151050050100150200観察期間(月)図1VKCの再発合計回数と観察期間との相関関係観察期間と再発回数には相関はなかった.対して,16歳時点でのスコアは平均C1.4C±1.4(0.5)と低下していた.最終診察時スコアは平均C1.0C±1.1(0.3)であり,全症例の初診時スコアと比較して最終診察時のスコアは有意に低下しており,11症例中C5症例は最終診察時の臨床スコアがC0となっていた(p<0.001)(図3).最終診察時点での転帰は治癒がC2例,治療継続がC2例,転院がC3例,治療中断がC4例であった.さらに,11症例を最終再発時年齢がC16.19歳の早い群とC20.22歳の遅い群に分けてそれぞれ比較したところ,初発時・初診時年齢や臨床スコア,観察期間に差はみられなかったが,再発回数は最終再発が遅い群のほうが有意に多かった(p=0.023).また,治療内容に関してはステロイドの点眼と内服には差はみられなかったが,眼瞼注射の回数に関しては有意に最終再発が遅い群のほうが多かった(p=0.026).治療内容は,proactive療法を行っているため,免疫抑制点眼は全例使用しており(100%),そのほか,抗アレルギー点眼はC93.3%で使用し,ステロイド点眼はC54.5%,ステロイド内服はC36.4%,ステロイド眼瞼皮下注射はC63.6%で使用していた.全体のC81.8%でステロイドを使用していた.ステロイドを使用しなかった症例はC2例あり,評価したC16歳時点ではCVKCは寛解に至っていなかったが,その後C16歳以上でCVKCの寛解が得られ,治療が終了していた症例だった.ADを合併していたのは全体のC90.9%であった.CIII考按今回,思春期までに寛解しなかったCVKCの特徴について検討した.VKCは通常C10歳頃までに発症する疾患とされ,わが国ではC7.8歳が多いという報告がある4).また,思春期前または直後に自然寛解するともされており,その治療期間はC4.8年と長期間にわたる5).本研究では初発年齢は平均C9.5歳とやや遅く,10歳以上で発症した症例がC6例(54.5%)あった.三島らが報告したC5年以上経過をみたCVKC再6050403020100春夏秋冬(3~5月)(6~8月)(9~11月)(12~2月)図2季節別でみたVKCの再発回数累積再発回数である.季節ごとの差は少なかった.C6543210開始時スコア最終時スコア図3治療前後の臨床スコア治療前と比較して最終診察時点の臨床スコアは有意に低下した.発群の初診時年齢はC7.9歳に多かったが6),本研究では平均C11.2歳であり,10.15歳が半数以上を占めていた.治療期間は,発症が高年齢時だった症例は短かったが,10歳未満で発症した症例はC8年以上と長期にわたっていた.VKCは春の終わりから夏にかけて多く発症すると報告されている.VKCが春先に多い理由は花粉症との関係が示唆されているが,温暖な地域は通年性に出現することもある7).本研究では再発の回数と観察期間には相関関係なく,長期間治療をされていても再発が少ない症例もあれば,来院するたびにステロイド治療を増強している症例もあった.また,有意差は認めなかったものの春と冬に再発がやや多い傾向があった.今回冬にも再発が多かった理由として,ADの合併が関係している可能性が考えられた.VKCはC20.50%にCADを合併していると報告されているが8),本研究におけるCAD合併率はC90.9%と高率であった.ADは冬に乾燥が契機となって悪化することが知られているため,冬にCADが悪化した影響でCVKCも再発した可能性が考えられた.しかし,今回の検討ではCADの増悪の時期についての検討はしていないため,今後の課題としたい.なお,今回の結果は未治癒例のCVKCについてのものであり,VKC全体としての季節性を検討したものでないことに注意が必要である.ADを伴うCVKCの一部は,思春期までに治癒することなく,そのままアトピー性角結膜炎(atopicCkeratoconjunctivi-tis:AKC)に移行することがあるという報告がある9,10).AKCは顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のアレルギー性結膜炎であり,結膜の線維化,角膜の新生血管・混濁を伴うことが多い.AKCには結膜の増殖性変化がみられるものもあるが,それらのない非増殖性のものも含まれる1).また,AKCは思春期前に診断されることは一般的でなく,成人に発症すると考えられているが10),Fujitaらが報告したCVKC41症例のクラスター分析では,ADの存在がVKCの臨床経過に影響を与えることが示唆されており,「思春期発症型CAKC」として分類された.このCVKCは発症がC9歳頃であり,ADの合併率もC71%と高く,治癒傾向が低い傾向にあり,このグループが成人のCAKCへ移行すると考えられた11).本研究も発症年齢が高く,長期間治療を行っており,臨床スコアは改善したものの,9例は免疫抑制点眼を中止する治癒にまで至らずCAKCに移行したと考えられた.一方,年少者であってもCAKCを罹患するという報告もある12).年少者でCVKCと診断された症例の中にはCAKCの患者も含まれる可能性があり,とくにCADを合併している症例には注意が必要である.本研究では治療として,免疫抑制点眼薬のほかに抗アレルギー点眼の併用がC93.3%と多かった.結膜巨大乳頭や角膜所見が増悪する際はステロイドの使用も追加しており,ステロイド眼瞼皮下注射がC11症例中C7症例と多く,症例によっては複数回注射を施行していた.ステロイド内服による全身投与よりもステロイド眼瞼皮下注射の方が多かった理由としては,注射のほうが全身的な副作用を軽減できることに加え,高年齢になると外来で注射が可能となることがあげられる.最終再発時年齢を早い群と遅い群に分けて比較した際に,遅い群の再発回数が多かった理由ははっきりしなかったが,眼瞼皮下注射の回数が多かった理由は,再発時に注射をメインで施行する傾向にあったことが大きな要因であると考えられた.ステロイドを使用しなかったC2例はC16歳時点では治癒に至らなかったが,その後Cproactive療法を継続することでC19歳とC23歳時点で免疫抑制点眼を中止し治癒に至った症例であった.思春期の時点で治癒しなかったCVKCでも,proactive療法によって症状の改善が得られることがわかったが,長期化する要因にCADの合併が関与している可能性が示唆された.今後さらに症例を積み重ね,VKC再発とCAD活動性の時期との相関やほかの要因がないか検討していきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本眼科アレルギー学会診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C125:741-785,C20212)森貴之,川村朋子,佐伯有祐ほか:春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたCproactive療法の治療成績.あたらしい眼科35:243-246,C20183)ShimokawaCA,CIkedaCA,CHaradaCKCetal:Long-termCobservationCofCprognosticCfactorsCandCclinicalCoutcomeCofCvernalCkeratoconjunctivitisCinCchildhood.CClinCOphthalmolC18:2339-2347,C20244)海老原伸行:我が国における免疫抑制薬点眼液による重症アレルギー性結膜疾患の治療.アレルギーC70:942-947,C20215)LeonardiA,LazzariniD,MotterleLetal:Vernalkerato-conjunctivitis-likeCdiseaseCinCadults.CAmCJCOphthalmolC155:796-803,C20136)三島彩加,佐伯有祐,内尾英一:春季カタルにおける長期予後の解析.あたらしい眼科C36:111-114,C20197)VillegasBV,Benitez-Del-CastilloJM:CurrentknowledgeinCallergicCconjunctivitis.CTurkCJCOphthalmolC51:45-54,C20218)ZazzoCAD,CBoniniCS,CFernandesM:AdultCvernalCkerato-conjunctivitis.CurrOpinAllergyClinImmunolC20:501-506,C20209)JongvanitpakCR,CVichyanondCP,CJirapongsananurukCOCetal:ClinicalcharacteristicsandoutcomesofocularallergyinCThaiCchildren.CAsianCPacCJCAllergyCImmunolC40:407-413,C202210)Bremond-GignacD,DonadieuJ,LeonardiAetal:Preva-lenceCofCvernalkeratoconjunctivitis:aCrareCdisease?CBrJOphthalmolC92:1097-1102,C200811)FujitaCH,CUenoCT,CSuzukiCSCetal:Classi.cationCofCsub-typesCofCvernalCkeratoconjunctivitisCbyCclusterCanalysisCbasedConCclinicalCfeatures.CClinCOphthalmolC17:3271-3279,C202312)EbiharaN,OhashiY,UchioEetal:AlargeprospectiveobservationalCstudyCofCnovelCcyclosporine0.1%CaqueousCophthalmicCsolutionCinCtheCtreatmentCofCsevereCallergicCconjunctivitis.JOculPharmacolTherC25:365-372,C2009***

オルソKレンズ装用における未成年の角膜感染症の3例

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):910.914,2025cオルソKレンズ装用における未成年の角膜感染症の3例南幸佑福岡秀記宮平大横井則彦外園千恵京都府立医科大学眼科学教室CThreeCasesofCornealInfectioninMinorsUsingOrthokeratologyLensesKosukeMinami,HidekiFukuoka,HiroshiMiyahira,NorihikoYokoiandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturaluniversityofMedicineC目的:オルソケラトロジー(オルソCK)レンズの装用中に感染性角膜潰瘍を発症した未成年患者C3症例を報告する.症例:症例C1はC18歳,女性で,中学生からオルソCKレンズを使用し,右眼の痛みと充血で京都府立医科大学附属病院眼科を受診.前房蓄膿と角膜中央付近に円形の浸潤と浸潤よりも広い範囲に上皮欠損を認めた.眼脂培養からは緑膿菌が検出された.抗菌薬の頻回点眼,全身投与により改善した.症例C2はC13歳,女性で,1年前からオルソCKレンズを使用し,右眼の眼痛と充血で受診.角膜擦過物の塗抹鏡検にてアカントアメーバのシストを認めた.抗菌薬,抗真菌薬,グルコン酸クロルヘキシジンの頻回点眼にて改善した.症例C3はC11歳,男性(症例C2の弟)で,2年前からオルソCKレンズを使用していた.右眼の異物感で受診し,角膜擦過物のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査からアカントアメーバDNAが検出された.症例C2と同様の治療で改善した.結論:近年,未成年者へのオルソCKレンズ処方が増加しており,不適切なレンズ使用や管理による角膜感染症の増加が懸念されるため,保護者への指導が一層重要となっている.CPurpose:ToCreportC3CcasesCofCinfectiousCcornealCulcersCinCminorsCusingCorthokeratologyClenses.CCasereports:Case1involvedan18-year-oldfemalewithahistoryoforthokeratologylensusesincejuniorhighwhopresentedCwithCpain,Credness,Chypopyon,CandCaCcornealCin.ltrateCandCepithelialCdefectCinCherCrightCeye.CACpusCcul-tureCrevealedCPseudomonasCaeruginosa.CHerCconditionCimprovedCwithCtheCadministrationCofCtopicalCandCsystemicCantibiotics.Case2involveda13-year-oldfemalewhopresentedwithpaininherrighteye,andacornealscrapingrevealedCAcanthamoebaCcysts.CHerCconditionCimprovedCviaCtheCadministrationCofCantibiotics,Cantifungals,CandCchlorhexidinegluconate.Case3involvedan11-year-oldmale(theyoungerbrotherofCase2)whopresentedwithforeignCbodyCsensation.CPolymeraseCchainCreactionCtestingCcon.rmedCAcanthamoebaCDNA.CHisCconditionCimprovedCfollowingCtheCadministrationCofCtheCsameCtreatmentCappliedCinCCaseC2.CConclusions:WithCtheCincreasingCuseCofCorthokeratologylensesinminors,concernsaboutcornealinfectionsduetoimproperuseandcarehaveincreased,soitisnowcrucialtoprovidedetailedguidancetoparentsandguardians.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):910.914,C2025〕Keywords:オルソケラトロジー,感染性角膜潰瘍,アカントアメーバ,緑膿菌.Orthokeratology,Infectiouscor-nealulcer,Acanthamoeba,Pseudomonasaeruginosa.Cはじめにオルソケラトロジー(以下,オルソCK)は,睡眠時に特殊デザインのハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)を装用することにより角膜の形状を一時的に変化させ,日中の裸眼視力を向上させる屈折矯正法である.夜間就寝中にCHCLを使用することで,日中は裸眼で生活できることを目標としている.2009年に初版のガイドラインが公開されたが,当初は適応年齢がC20歳以上とされた.実際には,未成年(20歳未満)への処方がC66%,学童(12歳以下)への処方がC25%にも及び1),また,未成年ゆえの重篤な合併症の報告は少ないという市販後調査2)の結果が報告された.2017年にガイドラインが改定され,未成年に対しても慎重処方という文言が追加された3).視力予後に影響を及ぼすオルソCKの重篤な合併症として感染性角膜潰瘍が報告されており4.5),日本においてC1万人あたり年間C5.4人に発症するといわれている6).オルソCKにおいてはレンズの適切な管理と衛生管理〔別刷請求先〕福岡秀記:〒606-8566京都市上京区広小路通上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Hirokoji-doriAgaru,Kyoto606-8566,JAPANC910(126)図1初診時前眼部写真a:角膜浸潤病巣と前房蓄膿,毛様充血を認める.b:浸潤病巣よりも広い範囲に角膜上皮欠損を認める.が不可欠であり,これらが不十分であると角膜感染症のリスクが増大すると考えられる.しかし,未成年は衛生管理に対する意識が低く,不適切なレンズケアが感染症の原因となりうることが指摘されている7.8).今回,未成年のオルソCKレンズ装用による角膜感染症が生じたC3症例を経験したので報告する.CI症例[症例1]18歳,女性.主訴:右眼眼痛および結膜充血.既往歴:特記事項なし.現病歴:中学生の頃からオルソCKレンズ(Targetpower:C.2.0D)を装用しており,親元を離れて一人暮らしであるため,レンズ管理は全て自身で行っている.京都府立医科大学附属病院眼科(以下,当院)を受診する2日前より右眼の結膜充血と掻痒感を自覚し,市販の点眼薬で様子を見ていた.その翌日から眼痛が出現し,症状が増悪してきたため,当院を受診した.初診時所見:右眼視力は指数弁(矯正不能),左眼視力は1.5(1.5C×S+0.5D),角膜中央部に直径約C4mmの円形の膿瘍と前房蓄膿を認めた(図1).フルオレセイン蛍光造影では膿瘍よりも広い範囲に角膜上皮欠損を認めた.眼脂を培養検査に供し,角膜所見より緑膿菌感染が疑われたため,1.5%レボフロキサシン点眼をC1時間ごと,0.3%トブラマイシン点眼C6回/日,0.3%オフロキサシン眼軟膏C4回点入/日,1%アトロピン点眼C1回/日,4日間のセフタジジムC1Cgの全身投与を開始した.治療開始C1週間後には角膜浮腫の改善,角膜上皮の伸展,前房蓄膿の減少を得て,右眼視力はC0.01(矯正不能)に改善した.初診時に採取した眼脂の培養検査にてCPseudomonasaeruginosaが検出された.治療開始C2週間後には角膜上皮欠損はさらに改善し,1.5%レボフロキサシン点眼C6回/日,0.3%トブラマイシン点眼C3回/日,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1回点入/日に減量し,1%アトロピン点眼を終了とした.治療開始C1カ月後に右眼視力はC0.2(0.5C×sph.2.0D)まで改善した.角膜上皮欠損は治癒したが,病巣の中心に浸潤が残っていたため,1.5%レボフロキサシン点眼C3回/日を継続した.治療開始C2カ月後には右眼視力は0.2(1.0C×sph.2.0D(cyl.1.0DAx140°)と良好であったが,角膜周辺部から角膜混濁に向かう新生血管を認めたため,0.1%フルオロメトロン点眼C2回/日を追加した.治療開始後C4カ月の現在では,上皮下混濁を残すものの血管侵入の悪化はない.[症例2]13歳,女性.主訴:右眼眼痛,右眼結膜充血.既往歴:特記事項なし.現病歴:12歳からオルソCKレンズ(Targetpower:C.6.0D)を装用しており,当初は母親がレンズ管理を行っていたが,夏休みを機に自身で管理を行うようになった.しかし,日常的なレンズ消毒を怠ることが多く,オルソCKレンズを処方している前医にてプロージェントを用いたレンズ洗浄を実施するも,汚れが除去しきれない状態であった.このため,レンズの再作成が予定されていた.当院受診のC15日前から右眼の眼痛と結膜充血を自覚し,当院受診C12日前に前医を受診した.前医では右角膜に点状表層角膜症を認めたため,ガチフロキサシン点眼とオフロキサシン眼軟膏による治療が開始された.しかし,当院受診C2日前に角膜上皮下混濁,偽樹枝状角膜炎が出現したため,アカントアメーバによる角膜炎を疑い,フルコナゾール点眼を1時間ごと,1.5%レボフロキサシン点眼をC6回/日に変更され,当院紹介となった.初診時所見:視力は右眼視力がC0.1(0.2C×sph.7.0D(cylC.2.0DAx25°),左眼視力は0.6(1.2C×sph.2.0D),右眼に放射状角膜神経炎,偽樹枝状角膜炎を認めた(図2).角膜所見よりアカントアメーバ角膜炎が疑われたため,病巣を擦過し,ファンギフローラCY染色とポリメラーゼ連鎖反応(poly-meraseCchainreaction:PCR)検査を行ったところ,染色に図2初診時前眼部写真a:放射状角膜神経炎と角膜上皮下混濁を認める.b:偽樹枝状の角膜上皮欠損を認める.図3症例2の角膜擦過物のファンギフローラY染色アカントアメーバのシストを認める.て円形のアカントアメーバシストが確認できたため,アカントアメーバ角膜炎と診断した(図3).前医での処方をC0.3%ガチフロキサシン点眼C4回/日,0.02%クロルヘキシジン点眼をC1時間ごと,0.1%ミコナゾール点眼(自家調整)6回/日,1%ピマリシン眼軟膏C6回点入/日に変更し,治療を開始した.治療開始C1週間後には,角膜浮腫や放射状角膜神経炎の所見はやや増悪傾向であったが,1カ月後には角膜上皮下混濁を一部残すものの角膜浮腫は改善し,右眼視力は(1.2C×sph.4.5D(cyl.1.0DA180°)と改善した.そこで,0.02%クロルヘキシジン点眼C6回/日,0.1%ミコナゾール点眼C3回/日,1%ピマリシン眼軟膏C3回点入/日へ減量した.角膜混濁は経過とともに軽減し,治療開始半年後にすべての薬剤を終了した.PCR検査では角膜擦過を行った翌日にアカントアメーバが検出されたため,コンタクトレンズ保存液に対しても初診日のC1週間後に追加のCPCR検査を行ったが,アカントアメーバは検出されなかった.[症例3]11歳,男性.主訴:右眼痛.既往歴:特記事項なし.現病歴:症例C2の弟.姉と同じ眼科(前医)にてC9歳からオルソCKレンズ(Targetpower:C.4.0D)を装用しており,姉が以前に角膜感染症を発症した経緯があるため,前医の指導のもと,レンズ管理は母親が行っていた.当院受診のC4日前より右眼の違和感を自覚し,前医を受診した.前医にて右眼角膜下方の上皮下に線状の細胞浸潤を認めたため,セフメノキシム点眼C4回/日,レボフロキサシン点眼C4回/日が開始された.翌日の診察では角膜所見に改善を認めず,0.1%フルコナゾール液の点眼C6回/日,ピマリシン眼軟膏C4回/日,ガチフロキサシン点眼C6回/日に変更されたが,徐々に浸潤が拡大しており,1年前に姉がアカントアメーバ感染を発症していることもあり,さらなる精査目的に当院へ紹介となった.初診時所見:右眼視力はC0.4(0.9C×sph.5.0D(cyl.1.5DAx50°),左眼視力はC0.3(1.2C×sph.4.75D(cyl.0.75DAx30°)であった.右眼には明らかな放射状角膜神経炎を認めなかったが,角膜浮腫と角膜上皮下浸潤,毛様充血を認めた(図4).病巣を擦過し,ファンギフローラCY染色を行ったが,アカントアメーバのシストは確認できなかった.しかし,角膜所見からアカントアメーバ感染を疑い,0.3%ガチフロキサシン点眼C4回/日,0.02%クロルヘキシジン点眼C6回/日,0.1%ミコナゾール点眼(自家調整)6回/日に変更し,治療を開始した.翌日に角膜擦過物のCPCR検査にてアカントアメーバが検出されたが,コンタクト保存液からは検出されなかった.治療開始C1週間後に角膜浮腫の増悪と放射状角膜神経炎を認め,右眼視力は(0.1C×sph.2.75D)に低下した(図5).上記の点眼内容を継続したところ,治療開始C2週間後には角膜浸潤は軽減し,治療開始C1カ月後には軽度角膜混濁は残存するものの角膜浸潤は改善し,右眼視力は(1.0C×sph.3.5D)へと改善した.0.02%クロルヘキシジン点眼のみC3回/日継続し,残りの点眼は終了とした.治療開始C3図4初診時前眼部写真角膜下方に角膜上皮下混濁を認めるも,明らかな放射状角膜神経炎などアカントアメーバを示唆する所見は認めない.カ月後には角膜混濁も改善し,角膜透明性は良好であったため,クロルヘキシジン点眼を終了した.右眼の最終視力は(1.0C×sph.3.5D)であった.CII考按近視の有病率は世界的に増加傾向にあり,Holdenら9)のメタ解析によれば,全世界の近視有病率はC2000年のC22.9%からC2050年にはC49.8%に増加すると予測されている.強度近視は将来的に緑内障や黄斑円孔網膜.離などの重篤な視力障害を引き起こす可能性があり,その進行予防が重要とされる.オルソCKは小児および青少年の近視進行を抑制する可能性が示唆されており,早期(6.8歳)に開始することでより大きな効果が得られたと報告されている10,11).2017年にオルソCKガイドラインが改定され3),初版では「適応はC20歳以上」とされていたが,第C2版では「20歳未満は慎重処方とする」との文言が追加され,今後はさらなる若年者への処方がさらに増加することが予想される.オルソCKレンズは非オルソCKレンズと異なり,中央角膜に対する圧力が大きくなるため,角膜上皮バリアが損なわれ,数時間の低酸素状態にさらされることで角膜感染のリスクが高まるといわれている12).矯正度数が増すにつれて角膜上皮障害が生じやすくなると考えられるが,矯正度数と角膜障害の関連を明確に証明した研究は見当たらなかった.2024年に報告された日本の多施設共同研究ではオルソCKによる角膜感染の発生率は,もっとも一般的に使用されている日常装用ソフトCCLによる角膜感染の発生率とほぼ同等であった6).オルソCKレンズ装用に伴う角膜感染症のおもな起因菌は緑膿菌とアカントアメーバであり4.7),オルソCKレンズ使用者に角膜感染症が認められた場合は,まずはこれらを念頭におき,迅速に治療を開始する必要がある.両病原体ともに治療が遅れると重篤な視力障害を残す可能性があるが,オルソ図5治療1週間後の前眼部写真初診時には認めなかった放射状角膜神経炎と膜浮腫の増悪を認める.Kによる角膜感染症は発症早期に適切な治療を行うことにより良好な視力予後が得られる報告13)があるように,今回のC3症例においても早期に診断,治療を開始することにより矯正視力はC1.0まで回復している.改訂版ガイドラインでは,「緑膿菌やアカントアメーバによる角膜炎のリスクが高く,レンズは界面活性剤による擦り洗いに加え,ポピドンヨード剤による消毒を推奨する」との注意点が追加された.しかし,未成年者,とくに学童への処方は本人ではなく保護者の希望であることが多く,本人のレンズ装用に対するモチベーションや,レンズケアの重要性への認識は低くならざるを得ない.今回報告するC3症例はすべて未成年である.症例C1および症例C2では,患者本人がレンズ管理を行っていたが,レンズケアの重要性を十分に認識しておらず,ケアを怠ったまま連続装用を続けたことが原因で角膜感染を発症したと考えられる.一方,症例C3では,症例C2の経緯を踏まえ,母親が処方医の指導のもと,徹底した消毒を実施し管理を行っていたにもかかわらず角膜感染が発生した.このため,消毒方法ではなく保管方法など他の要因が関与している可能性が疑われた.コンタクト保存液からはアカントアメーバは検出されなかったが,問診により自宅内にコンタクトレンズの一時保存場所があることが判明した.そこで清潔なスワブを持ち帰ってもらい,その保存場所と水道蛇口を拭取したところ,PCR検査によりアカントアメーバが検出された.このような症例から,外来にてふだんのコンタクトレンズの扱い方や保存方法について親も含めて詳細に問診する必要がある.今後は近視人口の増加に伴い,未成年へのオルソCKレンズの処方数がさらに増加することが考えられるが,レンズ管理と装用が適切に行われるように処方医による保護者への適切な指導がいっそう重要となる.保護者によるレンズの管理が,成年とは異なる課題であることを処方医が認識しなければならない.また,オルソCKによる角膜感染症の多くが緑膿菌やアカントアメーバによるものであることを認識し,早期に適切な治療を開始する必要性を認識すべきであり,定期的な眼科受診を積極的に促す必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)柿田哲彦,高橋和博,山下秀明ほか:オルソCKに関するアンケート調査集計結果報告.日本の眼科C87:527-534,C20162)平岡孝浩,伊藤孝雄,山本輝一:オルソCK使用成績調査:5年間の解析結果.日本コンタクトレンズ学会誌C59:C66-75,C20173)日本コンタクトレンズ学会オルソCKガイドライン委員会:オルソCKガイドライン(第C2版).日眼会誌C121:936-938,C20174)WattCK,CSwarbrickCHA.CMicrobialCkeratitisCinCovernightorthokeratology:reviewofthe.rst50cases.EyeContactLensC31:201-208,C20055)VanCMeterCWS,CMuschCDC,CJacobsCDSCetal:SafetyCofCovernightCorthokeratologyCformyopia:aCreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOphthalmology.COphthalmologyC115:2301-2313,C20086)HiraokaCT,CMatsumuraCS,CHoriCYCetal:IncidenceCofCmicrobialkeratitisassociatedwithovernightorthokeratol-ogy:aCmulticenterCcollaborativeCstudy.CJpnCJCOphthalmolC69:139-143,C20247)HsiaoCH,YeungL,MaDHetal:Pediatricmicrobialker-atitisCinCTaiwanesechildren:aCreviewCofChospitalCcases.CArchOphthalmolC125:603-609,C20078)CopeJR,CollierSA,ScheinODetal:Acanthamoebaker-atitisCamongCrigidCgasCpermeableCcontactClensCwearersCinCtheCUnitedCStates,C2005CthroughC2011.COphthalmologyC123:1435-1441,C20169)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCmyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.OphthalmologyC123:1036-1042,C201610)VanderVeenCDK,CKrakerCRT,CPinelesCSLCetal:UseCofCorthokeratologyforthepreventionofmyopicprogressioninchildren:aCreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOph-thalmology.OphthalmologyC126:623-636,C201911)LiCSM,CKangCMT,CWuCSSCetal:E.cacy,CsafetyCandCacceptabilityCofCorthokeratologyConCslowingCaxialCelonga-tionCinCmyopicCchildrenCbyCmeta-analysis.CCurrCEyeCResC41:600-608,C201612)DingCH,CPuCA,CHeCHCetal:ChangesCinCcornealCbiometryCandCtheCassociatedChistologyCinCrhesusCmonkeysCwearingCorthokeratologycontactlenses.CorneaC31:926-933,C201213)ChanTCY,LiEYM,WongVWYetal:Orthokeratology-associatedinfectiouskeratitisinatertiarycareeyehospi-talCinCHongCKong.CAmCJCOphthalmolC158:1130-1135,C2014C***

内眼手術後1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術併用irido-zonulo-hyaloid vitrectomyを行った1例

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):904.909,2025c内眼手術後1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術併用irido-zonulo-hyaloidvitrectomyを行った1例小林栞綸*1根元栄美佳*1角野晶一*1泉谷祥之*1大須賀翔*1河本良輔*1,2小嶌祥太*3喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2河本眼科クリニック*3市立ひらかた病院眼科CACasethatUnderwentIrido-Zonulo-HyaloidoVitrectomywithGoniosynechialysisforBilateralMalignantGlaucomathatOccurred18MonthsAfterIntraocularSurgeryKarinKobayashi1),EmikaNemoto1),AkikazuSumino1),YoshiyukiIzutani1),ShouOosuka1),RyohsukeKohmoto1,2),ShotaKojima3)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)KohmotoEyeClinic,3)HirakataCityHospitalDepartmentofOphthalmologyC目的:術後C1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術(GSL)併用Cirido-zonulo-hyaloidCvitrectomy(IZHV)を施行した症例報告.症例:78歳,女性.X-2年C8月に左眼硝子体黄斑牽引症候群に対し白内障手術併用硝子体手術,右眼白内障手術.2週間前からの両眼霧視でCX年C2月C6日前医受診,右眼眼圧C54CmmHg,左眼眼圧C63CmmHgであり同日当科紹介.右眼視力(0.8×sph.3.50D(cyl.0.75DAx90°),左眼視力(0.7×sph.3.00D(cyl.1.25DAx75°)と近視化し,浅前房,毛様体前方回旋と毛様溝消失,水晶体.の前方圧排を認めた.眼軸長は右眼C21.67Cmm,左眼21.76Cmm.両眼悪性緑内障と診断,薬物・レーザー治療を行うも両眼とも再発したためCGSL併用CIZHVを施行し,眼圧下降を得た.結論:悪性緑内障は術後数年して生じることがあり危険因子があれば注意を要する.この症例に対する治療としてCIZHVが有効であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCthatCunderwentCirido-zonulo-hyaloidovitrectomy(IZHV)withCgoniosynechialysis(GSL)forCbilateralCmalignantCglaucomaCthatCoccurredC18CmonthsCafterCintraocularCsurgery.CCase:AC78-year-oldCfemaleunderwentvitrectomycombinedwithcataractsurgeryforvitreomaculartractionsyndromeinherlefteyeandcataractsurgeryinherrighteye.At18-monthspostoperative,shevisitedanoutsideclinicforblurredvisioninCbothCeyes,CandCwasCreferredCtoCourCdepartmentCdueCtoCbilateralCreducedCvisualCacuityCandCelevatedCintraocularpressure(IOP).CUponCexamination,CsheCwasCdiagnosedCwithCbilateralCmalignantCglaucoma,CandCpharmacotherapyCandYAG-lasercapsulotomywasperformed.However,theconditionrecurredinbotheyes,soIZHVwithGSLwasperformedCinCbothCeyesCandCtheCIOPCloweredCandCtheCpostoperativeCcourseCwasCfavorable.CConclusions:InCthisCcase,CIZHVCwithCGSLCwasCe.ectiveCforCbilateralCmalignantCglaucomaCthatCoccurredCseveralCyearsCafterCintraocularCsurgery,thusillustratingthatpatientswithsimilarriskfactorsshouldbecarefullyfollowed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):904.909,C2025〕Keywords:悪性緑内障,短眼軸長,白内障手術,硝子体手術.aqueousmisdirection,irido-zonulo-hyaloidvitrec-tomy(IZHV),shorteraxiallength,cataractsurgery,vitreoussurgery.Cはじめにた1).発症機序は毛様体で産生された房水が前房へ流出せず悪性緑内障はC1869年にCvonGraefeによって初めて報告に後房から硝子体側へおもに流れるようになり(aqueousされた病態で,周辺虹彩切除術後に浅前房を伴う高眼圧がみmisdirection),硝子体腔への房水の貯留により水晶体,虹られ,通常の緑内障治療では予後不良の症例として報告され彩が前方移動し,浅前房と隅角閉塞をきたすと推測されてい〔別刷請求先〕小林栞綸:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:KarinKobayashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigakumachi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC904(120)る2).近年,aqueousmisdirectionの解除のために硝子体切除のみでなく,虹彩,Zinn小帯,前部硝子体膜の切除を併用するCirido-zonulo-hyaloidCvitrectomy(IZHV)が有効であることが報告されている3,4).今回,術後C1年半で生じた両眼の悪性緑内障に,隅角癒着解離術(goniosynechiolysis:GSL)併用CIZHVを施行したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:78歳,女性.主訴:両眼の霧視.既往歴:脂質代謝異常,腎.胞,胃癌(術後)家族歴:特記すべきことなし.現病歴:X-2年C8月,他院にて左眼硝子体黄斑牽引症候群に対して白内障手術併用硝子体手術と右眼白内障手術を施行された.X年C2月C6日にC2週間前からの両眼霧視にて前医を受診.右眼眼圧C54CmmHg,左眼眼圧C63CmmHgと両眼ともに眼圧が上昇しており,トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液を処方のうえ,精査加療目的に同日に大阪医科薬科大学病院(以下,当院)に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.3(0.8C×sph.3.50D(cyl.0.75CDAx95°),左眼0.1p(0.7C×sph.3.00D(cyl.1.25DCAx75°)で,眼圧は右眼C35mmHg,左眼C54mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,両眼とも中央の前房深度は保たれているが,周辺の前房は消失していた(図1a).前房内に落屑物質は認めなかった.静的隅角検査では両眼とも全周で閉塞しており,動的隅角検査では下方の線維柱帯がわずかに観察できた(図1b).前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で全周閉塞隅角,中央前房深度は右眼2.170Cmm,左眼C2.207Cmmであった(図1c).超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)で両眼ともに毛様体の前方回旋と毛様溝の消失,水晶体.の前方への圧排を認めた(図1d).眼底所見として視神経乳頭陥凹は両眼ともC/D比C0.5で拡大は認めなかった.眼軸長は右眼C21.67mm,左眼C21.76mmと短眼軸眼で,平均角膜曲率半径は右眼7.10Cmm,左眼C7.23Cmmであった.中心角膜厚は右眼C517μm,左眼C511Cμm,角膜内皮細胞数は右眼C2,596個/mmC2,左眼C2,571個/mmC2であった.経過:両眼の悪性緑内障と診断した.高張浸透圧薬の点滴を施行し,両眼にアトロピン硫酸塩水和物点眼と炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始した.X年C2月C10日,右眼眼圧C19mmHg,左眼眼圧C26CmmHg,薬物療法は効果不十分と判断し,両眼ともCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜切開を施行した.レーザー治療後,前眼部COCTにて隅角は一部開大し,中央前房深度は右眼C2.765mm,左眼C2.796Cmmと改善(図2a),UBMにて両眼とも毛様体の前方回旋が一部改善しており,右眼眼圧C13CmmHg,左眼眼圧C22CmmHgと下降した(図2b).X年3月4日左眼眼圧33mmHgと再度上昇を認め,悪性緑内障の再発と診断し,X年C3月C8日に左眼CGSL併用CIZHVを施行した.硝子体手術後であったが前部硝子体皮質が残存していたため,25CG硝子体手術で前部硝子体皮質を周辺部まで可及的に切除した.硝子体カッターにてC11時の周辺虹彩を切除し,25CGVランスにて角膜から周辺虹彩切除で作成した虹彩穴へ向け穿刺し,同創より硝子体カッターを挿入して周辺虹彩切除部よりCZinn小帯を切除することで前後房の交通路を作成した.これにより前後房の圧格差が解消され,前房深度は改善を認めた.そののち隅角を確認し,9.12時に虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)の形成を認めたため,GSLを併施した.右眼はCX年C6月C9日にアトロピン硫酸塩水和物点眼を中止したところ眼圧上昇を認めたため悪性緑内障再発と診断し,X年C7月C30日に右眼CGSL併用CIZHVを施行した.25CG硝子体手術で最周辺まで硝子体を可及的に切除,硝子体カッターにてC2時の周辺虹彩を切除した.硝子体側より硝子体カッターにて周辺虹彩切除部のCZinn小帯を切除することで前後房の交通路を作成した.前後房の圧格差は解消され前房深度は改善した.その後,隅角を確認し4.7時にCPASの形成を認めたためCGSLを併施した.その後,術後C3年の現在まで両眼とも悪性緑内障の再発はなく経過している.視力は右眼(1.2CpC×sph.0.25D(cyl.0.75DAx95°),左眼(1.2C×cylC.1.75DAx90°)と近視化は改善しており,眼圧は右眼C12mmHg,左眼C13CmmHg.IZHVによる周辺虹彩切除を両眼とも鼻上側に認める(図3a).隅角は開大しており(図3b),中央前房深度は右眼C2.85mm,左眼C3.62mmである(図3c).CII考按悪性緑内障は,房水の前房への流出が阻害されるCaqueousmisdirectionにより生じると考えられている2).発症には解剖学的要因があることが既報で示唆されており,短眼軸眼,狭隅角やプラトー虹彩は危険因子とされる5,6).発症の男女比はC3:11と女性に多く,その解剖学的な要因として,女性では水晶体が男性よりも前方にあり,前房がC4%浅いだけでなく水晶体の赤道部と毛様体の間も狭いためにCaqueousmisdirectionが生じやすいとされる2).本症例は女性,短眼軸眼であり既報の危険因子を有していた.悪性緑内障の発症により近視化することが報告されている7).近視化はCaque-ousmisdirectionによる眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の前方偏位によると考えられるが,今回の症例でもC.3D程度に近視化していた.短眼軸眼ではCIOL度数計算のずれにより術後に遠視化することが多いと報告されている8).術後の近視化は,浅前房化や閉塞隅角の進行と同様に悪性緑内障を疑うに矛盾しない指標であるといえる.ab右眼左眼cd右眼左眼図1初診時の所見a:細隙灯顕微鏡所見.両眼とも中央の前房深度は保たれているが周辺の前房は消失.Cb:隅角所見.静的隅角検査では全周閉塞.動的隅角検査では下方のみ線維柱帯がわずかに観察できた.Cc:前眼部COCT所見.両眼とも閉塞隅角.中央前房深度は右眼C2.17Cmm,左眼C2.207Cmm.Cd:UBM所見.両眼ともに毛様体前方回旋と毛様溝の消失,水晶体.の前方への圧排を認めた.悪性緑内障の誘因となる内眼手術は閉塞隅角緑内障の周辺術後C1年半で両眼ともに悪性緑内障を発症した.左眼は硝子虹彩切除のほか,濾過手術,レーザー虹彩切開術,白内障手体術後に悪性緑内障を発症しており,前部硝子体皮質の切除術などさまざまな報告があり,もっとも頻度が高いのは急がなされていなかったことが関与している可能性があると考性・慢性閉塞隅角緑内障の濾過手術後でC2.4%,白内障術える.後の発症はC0.1%程度である9,10,11).硝子体術後にも悪性緑内悪性緑内障の治療は,まず薬物療法が第一選択となる.ア障が発症した報告があり,残存前部硝子体皮質が収縮し前方トロピン硫酸塩水和物点眼や炭酸脱水酵素阻害薬内服,高張移動することで水晶体後面と癒着を生じ,房水の前房への流浸透圧薬点滴,緑内障薬(房水産生抑制作用)点眼を行い,れを障害したことで発症したとされる11,12).今回の症例は,毛様体を弛緩させて水晶体を後方へ移動させること,房水産ab図2YAGレーザー後の所見a:前眼部COCT所見.両眼とも隅角は一部開大し,中央前房深度は右眼C2.765Cmm,左眼C2.796Cmm.Cb:UBM所見.両眼とも一部で毛様体の前方回旋が改善している.生を抑制することで眼圧を下降させる.しかし,薬物治療のみではC20%しか悪性緑内障は解消されず13),またほぼC100%再発したという報告もある14).薬物療法が奏効しない場合は次段階としてCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜の切開があるが,こちらの再発率はC75%程度と報告されており14),観血的治療が必要となる場合が多い.本症例でも薬物治療とCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜切開では再発し,観血的治療を要した.観血的治療としては,有水晶体眼であれば水晶体再建術・水晶体.切開,単純硝子体切除などがあげられるが,aqueousmisdirectionの解除のために硝子体切除のみでなく,虹彩,Zinn小帯,前部硝子体の切除を行うことで前房と硝子体腔に交通を作製するIZHVが有効であると報告されており3,4),再発率は周辺のshavingを伴わない単純硝子体切除術ではC75%程度,IZHVではC0.10%とされる14,15).また,IZHVにおいて前部硝子体の切除のみでは,術後に前方移動してきた硝子体により前後房の交通路がブロックされて悪性緑内障を再発することがあり,硝子体をすべて切除することの重要性が報告されている14).本症例では,両眼とも最周辺部まで硝子体切除を行なったCIZHVにて悪性緑内障の改善が得られ,術後C3年の間で再発は認めない.悪性緑内障により狭隅角の状態が続くとPASが形成され,悪性緑内障の原因であるCaqueousCmisdi-rectionを解除できたとしても眼圧のコントロールが困難となる可能性があるため,早期に診断し治療することが重要である.本症例では,長期経過中にCPASが形成された可能性を考慮し術中に隅角の確認を行い,両眼ともC1/4周のCPASの形成を認めた.PASの形成が半周以上ではなかったが,より確実な眼圧コントロールのためにCGSLを併施とした.本症例は女性,短眼軸眼であり既報の悪性緑内障の危険因子を有していた.悪性緑内障は手術から発症まで数時間から数年と幅があり,危険因子を有する場合は術後の経過に注意が必要である.本症例に対してCIZHVは有効であった.本症例は,第C35回日本緑内障学会で発表した.ab右眼左眼図3現在の所見a:細隙灯顕微鏡所見.IZHVによる周辺虹彩切除を両眼とも鼻上側に認める.Cb:隅角所見.隅角は開大している.c:前眼部COCT所見.隅角は開大.中央前房深度は右眼C2.85mm,左眼C3.62mm.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)vonCGraefeA:BeitrageCzurCpathologieCundCtherapieCdesCglaucomas.ArchOphthalmolC15:108-252,C18692)GrzybowskiCA,CKanclerzP:AcuteCandCchronicC.uidCmis-directionsyndrome:pathophysiologyCandCtreatment.CGraefesArchClinExpOphthalmolC256:135-154,C20183)LoisCN,CWongCD,CGroenewaldC:NewCsurgicalCapproachCinCtheCmanagementCofCpseudophakicCmalignantCglaucoma.COphthalmologyC108:780-783,C20014)FaisalCAA,CKamaruddinCMI,CTodaCRCetal:SuccessfulCrecoveryCfromCmisdirectionCsyndromeCinCnanophthalmicCeyesCbyCperformingCanCanteriorCvitrectomyCthroughCtheCanteriorchamber.IntophthalmolC39:347-357,C20195)ZarnowskiT,Wilkos-KucA,Tulidowicz-BielakMetal:CE.cacyCandCsafetyCofCaCnewCsurgicalCmethodCtoCtreatCmalignantCglaucomaCinpseudophakia.CEye(Lond)C28:C761-764,C20146)PrataCTS,CDorairajCS,CDeCMoraesCCGCetal:IsCpreopera-tiveCciliaryCbodyCandCirisCanatomicalCcon.gurationCaCpre-dictorofmalignantglaucomadevelopment?ClinExpOph-thalmolC41:541-545,C20137)VarmaDK,BelovayGW,TamDYetal:Malignantglau-comaaftercataractsurgery.JCataractRefractSurgC40:1843-1849,C20148)KamiyaK,HayashiK,TanabeMetal:Nationwidemulti-centreCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCandCpredict-abilityCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CBrCJCOphthalmolC106:1227-1234,C20229)Krix-JachymCK,CZarnowskiCT,CRekasCMCetal:RiskCfac-torsCofCmalignantCglaucomaCoccurrenceCafterCglaucomaCsurgery.JOphthalmolC2017:1-6,C201710)ShuteTS,VarmaDK,TamDetal:SeasonalvariationintheCIncidenceCofCmalignantCglaucomaCafterCcataractCsur-gery.JOphthalmicVisRes14:32-37,C201911)MassiccotteEC,SchumanJS:Amalignantglaucoma-likesyndromefollowingparsplanavitrectomy.OphthalmologyC106:1375-1379,C199912)植木麻理:硝子体手術後に生じた悪性緑内障のC1例.眼科43:1715-1718,C200113)RajCS,CThattaruthodyCF,CJoshiCGCetal:TreatmentCout-comesCandCe.cacyCofCparsCplanaCvitrectomy-hyaloidoto-my-zonulectomy-iridotomyCinCmalignantCglaucoma.CEurJOphthalmolC31:234-239,C202114)DebrouwereCV,CStalmansCP,CVanCCalsterCJCetal:Out-comesCofCdi.erentCmanagementCoptionsCforCmalignantglaucoma:aCretrospectiveCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:131-141,C201215)AlCBinCAliCGY,CAl-MahmoodCAM,CKhandekarCRCetal:COutcomesofparsplanavitrectomyinthemanagementofrefractoryCaqueousCmisdirectionCsyndrome.CRetinaC37:C1916-1922,C2017C***