前眼部OCTAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography上野勇太*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が眼科領域に導入されて久しく,眼底撮影用OCTは緑内障診断における重要な補助ツールとして汎用されている.一方で,前眼部OCTも市販化されて以降は前房隅角の形態評価や定量解析,緑内障術後濾過胞の他覚的評価に使用されている.前眼部構造は細隙灯顕微鏡や隅角鏡を用いることである程度の観察が可能だが,OCTは赤外線を用いて断面検査を行うために混濁組織の描出に優れるというメリットがあり,従来の検査ではわからない情報を取得することができる.また,隅角鏡は接触式であり,医師自身が観察する必要があるが,前眼部OCTは非接触式でコメディカルが簡便に検査可能である点も大きな長所である.近年では緑内障手術が転換期を迎えており,従来から施行されていた線維柱帯切除術に加え,眼内アプローチをメインとした線維柱帯切開術や各種インプラント手術も汎用されている.これらの術式において術後の前眼部観察の重要性が増しており,とくにインプラント手術においては細隙灯顕微鏡や隅角鏡検査で把握しきれない情報もあるため,OCTを用いた術後評価が不可欠になっている.本稿では,前眼部OCTを用いた前眼部形態評価について,緑内障診療にどう活かすか,とくに緑内障の周術期にどのような使い方が有効であるのかを中心に解説する.I隅角構造の形態評価前眼部OCTで隅角を観察する最大のメリットは,非接触かつ光刺激を抑えた状態で隅角開大度を評価できる点であり,これについては「隅角検査」の項に譲る.本稿では線維柱帯やSchlemm管,虹彩根部など隅角近傍組織の定性的な観察方法について述べる.前眼部OCTは輝度の情報により組織の形態評価が可能である一方で,質的な組織の弁別は不得手である.線維柱帯は強膜や角膜などの充実性組織に隣接しており,OCT断面像から特定するのはむずかしいが,もしSch-lemm管が確認できれば,その内側の領域が線維柱帯であるため識別可能となる.理論的には,Schlemm管は内腔が房水であることからOCT断面では低輝度のスリット状の構造物として描出されるはずであるが,生体では眼圧があるために内腔が狭くなっており,全例で観察されるわけではなく,一部で限定的にそれらしい構造物を視認することがある(図1).なお,近年では隅角近傍,Schlemm管の外側にあるbandofextracanalicularlimballamina(BELL)という組織についての報告がなされた1).BELLは,病理学的に線維組織が密になっている箇所である.線維組織はその光学特性によって光干渉信号に変化が生じることが知られている.同部位はOCT断面でノイズとして認識され,流通している前眼部OCTでは自動的に処理される仕様となっており,臨床現場で認識することはあまりな*YutaUeno:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(29)529図1正常隅角の前眼部OCTa:正面視.b:側方視.CASIA2(トーメーコーポレーション)で撮影.異なるC2症例の隅角を提示した.症例によっては隅角にスリット状の低輝度構造()を認めることがあり,Schlemm管の可能性がある.Ca2.22[deg/μm]図2偏光感受型OCTで撮影した正常眼の隅角a:輝度画像.b:複屈折画像.CASIA2P(トーメーコーポレーション)で撮影.OCT輝度画像では隅角構造の詳細な弁別が不可能である.一方,複屈折画像においてCBELL()は周囲の強角膜より高複屈折(緑色部)に,その前房側に線維柱帯()が低複屈折(青色部)に描出される.0図3血管新生緑内障の症例a:細隙灯顕微鏡および隅角鏡検査,b:前眼部COCT(CASIA2で撮影).高眼圧により角膜浮腫があり,隅角鏡による観察が困難である.前眼部COCTでは隅角形態の評価が可能で,周辺虹彩前癒着(PAS)をきたしていることがわかりやすい().また,眼内レンズ(IOL)も描出されており,PASの影響で虹彩とCIOLの距離が長いことも確認できる.図4線維柱帯切開術後2カ月の毛様体脈絡膜.離の症例a:隅角鏡検査.Cb:前眼部COCT(CASIA2で撮影).術後C2カ月が経過して眼圧がC7CmmHgと低い症例.隅角鏡で一部隅角後退をきたしていることが確認可能であり,OCTでは同部位に前房-脈絡膜上腔の交通を認めた.III線維柱帯切除術後の濾過胞評価古典的な緑内障濾過手術である線維柱帯切除術では,良好な濾過胞が形成されることで眼圧下降が得られる.前眼部COCTは非接触式検査であるため,感染リスクなしで施行でき,開発当初から濾過胞評価に使用されている.赤外線で検査することにより濾過胞内部の情報を定性的に観察可能である.良好な濾過胞の条件として,内部が低輝度で大きな空間があり,微小.胞が多く存在することと報告されている6).つまり,房水を貯留するスペースが豊富で,微小.胞による拡散・吸水機能が良好であるために眼圧下降が得られるという考え方である.一方で,機能不全に陥った濾過胞は高さが低く扁平になっていることがあり,前眼部COCTでは線維柱帯切除部位や房水流出路の閉塞がみられる.また,ある程度の高さのある機能不全濾過胞において,OCTでは内部の微小.胞や水隙が消失して充実性の瘢痕組織で満たされていたり,内部水隙が高輝度の隔壁で覆われたエンキャプスレーションなどがみられたりするため,機能不全に陥った原因特定の一助として汎用される.追加治療としてはニードル法や観血的な濾過胞再建術があげられるが,その術式選択においてもCOCT所見を参照することが有用である.また,前述した偏光感受型COCTを用いることで濾過胞の瘢痕化を他覚的に評価することができる.正常な結膜は低複屈折である一方で,創傷治癒で生じる線維化組織は高複屈折であるため,偏光感受型COCTの画像上で両者のコントラストをつけることができる.既報では眼圧が上昇しはじめる前に濾過胞壁の線維化を検出できると報告されており,これまでより早い段階で濾過胞機能不全の徴候をとらえることが可能になると期待されている7).CIV緑内障インプラント手術後の評価緑内障手術は線維柱帯切除術がゴールドスタンダードであったが,多くのインプラント手術の登場によって潮流が変わりつつある.2025年C1月現在,国内で使用可能な緑内障手術デバイスはCiStentinject(グラウコス社),エクスプレス(アルコン社),プリザーフロマイクロシャント(参天製薬),Baeveldt緑内障インプラント(AMO社),Ahmed緑内障バルブ(ジャパンフォーカス)などがあげられる.デバイスの種類によって形状や眼圧下降の原理・効果が異なるが,共通しているのはいずれも結膜や強膜,隅角など混濁組織の下(後方)に固定するという点である.そのため術後診察において細隙灯顕微鏡や隅角鏡のみでは対応しきれない時代になっており,前眼部COCTを用いてデバイスの状態を正確に把握する必要があると思われる.とくに合併症を生じた患者においては追加治療を考えるうえで非常に有用な情報が得られるため,積極的に活用していくべき検査である.iStentは線維柱帯に刺入して房水流出抵抗を減じるデバイスであり,術後に隅角鏡検査を行うことでデバイスの位置や深さなどを観察できる.前眼部COCTを用いてもデバイスの描出が可能であり,もっとも有用と思われるのは迷入・埋没してしまった場合である8).隅角鏡検査では線維柱帯表面に顔を出していない限り観察できないため,デバイスが見当たらないと困惑することがあるが,OCTで位置を特定でき,前房・後房・硝子体腔への脱落など重大な合併症を生じていないことを確認できる.エクスプレスやプリザーフロマイクロシャントはトラベクレクトミーを代替する濾過手術デバイスであり,とくにプリザーフロは低侵襲濾過手術(minimallyCinva-siveblebsurgery:MIBS)として注目されている.強膜上から刺入して隅角を経由し,先端を前房に留置するデバイスであるため,前房内のデバイスの位置や角度,とくに角膜や虹彩との距離を評価するのが非常に大事で,この点において前眼部COCTは有用である.しかし,筆者がもっとも有用だと思うのは濾過胞の評価である.設計上,プリザーフロマイクロシャントのデバイス後端は角膜輪部から離れて固定されるため,術後濾過胞は円蓋部寄りにやや低くびまん性に形成される傾向にある(図5).従来の線維柱帯切除術では輪部付近に濾過胞が形成されていたので細隙灯顕微鏡を用いて高さや広がりの評価が可能であったが,プリザーフロマイクロシャント後の濾過胞は細隙灯顕微鏡で評価しづらいことが多く,OCTによる評価が適していると感じる.また,術532あたらしい眼科Vol.42,No.5,2025(32)図5プリザーフロマイクロシャント術後3カ月の症例a,b:細隙灯顕微鏡.c,d:前眼部COCT(CASIA2で撮影).チューブは前房内で角膜と虹彩の中間付近に固定されている().濾過胞は輪部に形成されておらず細隙灯顕微鏡ではわかりづらいが,OCTではチューブ後端から流出した房水が円蓋部に広がっている様子を確認することができる(*).図6プリザーフロマイクロシャントに挿入したナイロン糸の抜去前後の前眼部OCTa:前眼部写真.b:ナイロン糸抜去前のCOCT(CASIA2で撮影).c:抜去後のOCT.術後C2週の症例.内腔に挿入された黒ナイロン糸()はCOCTで高輝度に描出されている.抜去後には内腔が低輝度に変化した.図7ロングチューブシャントに硝子体線維が嵌頓した症例の前眼部OCTCASIA2で撮影.Ca:レーザー治療前,b:レーザー治療後.チューブ先端に嵌頓していた硝子体線維(Caの)に対してCYAGレーザーを施行した.施行後に硝子体線維はチューブの奥に移動し,強膜表面あたりのチューブ内にひっかかっていることを確認した(Cbの).本症例では硝子体切除術を行い,その際にチューブ内に鋭針を挿入し,嵌頓した硝子体線維を吸引・除去することに成功した.(文献C9より引用)