検査チョイスと結果の解釈─大人の斜視と神経眼科ChoosingtheRightExaminationsandInterpretingtheResults:AdultStrabismusandNeuro-Ophthalmology登澤達也*はじめに神経眼科疾患は,小児と大人では傾向が異なる.小児では「発達・先天・遺伝・免疫成熟過程・発達中の神経系の弱さ」などが原因となるのに対して,大人では「加齢・血管・免疫・代謝(糖尿病など)・外傷・精神神経的要因」などがおもな要因になっていることが多い.大人は長く生きている分,病歴,手術歴,内服薬などの情報が多くなりがちでチェックが大変だが,「急がば回れ」である.事前に原疾患の傾向を考慮し,考えられるリスクを把握することが,早い段階での追加問診や正しい検査の選択につながり,注意すべきポイントにあらかじめ網をかけることができる.I検査の選択とSOAP検査の選択には,問題志向型診療記録(problemori-entedmedicalrecord:POMR)1)を利用するとよい.POMRは問題志向型診療システム(problemorientedsystem:POS)に基づく診療記録で,これと深くかかわるのが以下のSOAPである.S:subjectivedata(自覚的所見.主訴や問診)O:objectivedata(他覚的所見.病歴や検査結果.①入力系,②統合系,③出力系に分かれる)A:assessment(評価や問題点)P:plan(追加検査,他施設紹介,治療計画など)このS→O(入力系→統合系→出力系)→A→Pの順にみていく癖をつけると漏れがない.II事前準備とS(自覚的所見)カルテを開き,受付での一次問診の内容に目を通す.紹介状や過去のカルテがあればそれもチェックする.病歴,手術歴,内服薬などをチェックする.これらの組み合わせから検査リストを推測できることが多く,絶対に見逃せない疾患に対し事前に用心できる.足りない部分は追加問診を行う.1.具体的なチェックポイント・年齢:青年期(~30歳頃),中年期(40~64歳),前期高齢期(65~74歳),後期高齢期(75歳~)・病歴(例:糖尿病,Basedow病,全身性エリテマトーデス,癌)・手術歴(例:癌摘出手術)・内服(例:ステロイド,免疫抑制薬,ベンゾジアゼピン系)・頭部精査歴:あり,なし・発症時期:年単位,月単位,日単位・悪化傾向:年単位,月単位,日単位・症状:霧視,複視,見た目の眼の位置・屈折〔例:強度近視,長眼軸,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)で-3.0Dより強度の近視〕2.チェック結果の例例1:前期高齢期,発症時期年単位,悪化傾向年単位,*TatsuyaTozawa:眼科杉田病院〔別刷請求先〕登澤達也:〒460-0008愛知県名古屋市中区栄5-1-30眼科杉田病院(1)(3)3450910-1810/26/\100/頁/JCOPY症状複視,IOL眼で屈折S-4.50Dであれば,「もうこの時点で強度近視関連の内斜視における鑑別検査が必要そうだ」と,落とせない検査ラインナップが決まってくる.眼軸長測定や,planに眼窩MRIが必要となるかもしれない.例2:後期高齢期,糖尿病,膀胱癌摘出手術後,発症時期日単位,悪化傾向日単位,症状霧視複視であれば,「もうこの時点で眼窩先端部症候群などの鑑別検査が必要そうだ」と,落とせない検査ラインナップが決まってくる(瞳孔入力系検査,眼位眼球運動,眼瞼検査,眼球突出度など).検査結果によっては早急に耳鼻咽喉科や脳外科への紹介がplanになる可能性がある.例3:青年期,病歴なし,手術歴なし,内服なし,頭部精査歴なし,発症時期年単位,悪化傾向月単位,症状複視であれば,「この時点で後天共同性内斜視や,念のためその他の麻痺性斜視の鑑別検査が必要そうだ」と,落とせない検査ラインナップが決まってくる〔眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)規格や装用状態,近業時間などのチェック,眼位眼球運動検査〕.若年なので,たとえ共同性でも頭部精査のplanがよさそうである.このように,検査前の情報収集でかなり検査ラインナップのイメージができる.瞳孔検査や直視下の眼球運動検査がすめば,多くの場合で残りの検査ラインナップやassessment,planが決まる.IIIO(他覚的所見)1.入力系視力低下があった場合,それが視神経障害によるものかどうかをまず把握する必要がある.まず押さえたいのが以下に解説するピンホール視力や,交互点滅対光反射試験(swinging.ashlighttest:SFT)による相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)のチェックであり,視力低下が中間透光体のコンディションによるものか,それ以外かを判別するうえで重要な手がかりになる.どちらも非常に時間対効果が高い.a.ピンホール視力ピンホール(通常直径1~2mm程度の小さな穴)を通して見ると,光線がほぼ直進するため,眼の屈折系の影響が大幅に減少し,屈折異常がある場合でも網膜上に鮮明な像が結ばれ視力が上昇する.しかし,視神経疾患を含む器質的病変によって視力が低下している場合は上昇しない.ピンホール径が小さいほど光の直進性が強まり,網膜像は鮮明になる.しかし,通過する光量が減るために暗くなる.大きすぎると光の直進性の利点が減り,屈折誤差の影響が再び現れてしまう.一方で0.5mm以下など,小さすぎると光量が不足して実用的ではない.明確な決まりはないが,1~2mm程度だと十分な明るさと焦点深度のバランスがとれる2).b.SFT明るさという刺激に対し瞳孔を縮瞳させる筋肉は「出力系の経路」が支配する.しかし,それら出力系の経路が発動するには,明るさという視覚情報を「入力系の経路」が運んできてくれないと出力系は駆動せず,縮瞳も起こらない.当然,視神経障害や,広範な網膜障害があれば刺激があっても十分に縮瞳できない.しかし,対光反射の経路には特徴がある.たとえば,健康な右眼に光を照射すると,光を照射していない左眼も同時同程度に縮瞳することである.しかも,たとえ左眼に重篤な視神経障害があってもきちんと縮瞳する.では,視神経が障害されている左眼に照射した場合はというと,両眼とも十分に,もしくはまったく縮瞳できない.これを利用したのがSFTである.右眼が健康な眼で,左眼には視神経炎が起こっているとする.遠方視の状態で右眼に光を照射すると(図1a,b),右視神経→非交差線維は右の視蓋前域に,交差線維は左の視蓋前域に至り,シナプスを変え出力系にチェンジする.この時点でもう右と左に視覚情報が届いている.さらに,右の視蓋前域核,左の視蓋前域核のいずれも左右両方の動眼神経副核(EdingerWestphalnucle-us:EW核)に投射する.これが健康な眼に光をあてると,他眼に視神経炎が起こっていたとしても両眼とも縮瞳できる仕組みである.EW核は,素直に左右それぞれ同側の瞳孔括約筋に投射する.右眼に照射している状態では左眼も縮瞳状態にある.そこから素早く照射を左眼へ切り替える(図1c).当然左眼も最初こそ縮瞳してい346あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(4)a後交連b後交連c後交連d後交連視神経じわ~っとL)RAPD(+)散瞳してくる図1交互点滅対光反射試験(SFT)による相対的瞳孔求心路障害(RAPD)の検出健眼に照射すると両眼縮瞳する.素早く障害側に照射を移すと,縮瞳した状態から徐々に散瞳する.再度健眼に照射を戻すと速やかに両眼縮瞳する.観察するのはあくまで照射したほうの瞳孔だけでよい.SFT:swinging.ashlighttest(交互点滅対光反射試験),RAPD:relativea.erentpupillarydefect(相対的求心路瞳孔障害),EW核:Edinger-Westphalnucleus(動眼神経副交感核).-面からの圧迫に弱いため,散瞳を伴う動眼神経麻痺は動脈瘤の切迫破裂をより危惧しなければならないサインといわれる.この動脈瘤を内頸動脈-後交通動脈瘤(inter-nalcarotid-posteriorcommunicatinganeurism:IC-PCAN)という.動脈瘤のなかでも破裂頻度が高く,3週間以内に3割近くが破裂するといわれ,破裂するとクモ膜下出血で4割近くがその場で亡くなり,社会復帰ができるのは3割に満たない.切迫破裂する前に対処が必要で,動眼神経麻痺をみたら早急に処置の可能な病院でMRI,MRAを行う必要がある.散瞳を呈していなければいいかといえば,答えはNoである.原因がIC-PCANでも散瞳をきたさないケースがあり,同様の対応が必要である.交感神経麻痺だった場合はどうであろうか.交感神経は長く,中枢線維である第一ニューロンは視床下部から脳幹内を下降してBudgeの毛様脊髄中枢でシナプスを変える.節前線維である第二ニューロンは脳幹を出て肺尖部も通り,鎖骨下動脈を潜り,再び脳幹の外を上行し,上頸神経節でシナプスを変える.節後線維である第三ニューロンは総頸動脈,そして内・外頸動脈へ網状に上行する.外頸動脈系のほうは眼表面に分布し,内頸動脈系のほうはそのままCSを経てまもなく分離し,外転神経や三叉神経第一枝と合流し視神経管から眼窩内に入り,毛様体神経節を経て瞳孔散大筋に至る.脳幹で障害が起きても,肺気腫になっても,ICA解離(痛みを伴う)が起きていても,CS疾患でも交感神経麻痺であるHorner症候群を呈しうる3).散瞳障害による瞳孔不同,Muller筋麻痺による軽度眼瞼下垂と,顔面発汗減少を呈する(すべて同側障害).とくに痛みを伴うHorner症候群は注意が必要である.b.Horner症候群Horner症候群を疑った際にはアプラクロニジン塩酸塩(アイオピジン)点眼液0.5%または1.0%を用いる.Nd:YAGレーザー照射時にも使用する点眼液である.Horner症候群では瞳孔散大筋の脱神経過敏(denerva-tionsupersensitivity)が生じる.通常の瞳孔にはほぼ作用しない弱いα作動薬でもHorner症候群例では散瞳する.伝達物質が届かないから敏感になるのである.イメージ的には,極限の空腹状態だと,かすかな食べ物のにおいにも反応してしまうような感じだろうか.両眼の瞳孔径と瞼裂幅を測定し,両眼に1滴ずつアイオピジンを点眼する.30分(できれば60分)待ってから再評価する.患眼が散瞳したり,瞳孔不同が逆転したり,軽度の眼瞼下垂の改善が起これば陽性である.c.瞳孔緊張症瞳孔緊張症(tonicpupil)はそこまで怖い疾患ではない.節後副交感神経が障害され,散瞳,対光反射障害を呈するわけであるが,機序としてのポイントはその後に「異常神経支配」が起きることである.本来は毛様体へ接続し調節にかかわっていた線維が,再生時に瞳孔括約筋のほうに再配線されてしまう.つまり,近見反応でゆっくりと縮瞳が可能なのである.もともと縮瞳にかかわる線維は調節にかかわる線維よりも少なく,対光反射のほうに正しく再生するのがむずかしい.これが瞳孔緊張症における対光近見反射解離(light.neardissociation:LND)の機序といわれている.また,限局的な障害や再生によって部分的な瞳孔括約筋の収縮である分節性収縮(segmentalvermiformmovement)を呈する.長時間光を照射すると徐々に縮瞳する収縮遅延や弛緩遅延を呈する.特発性(idiopathicAdiepupil)がもっとも多く,ついでウイルス感染後(post-viraltonicpupil)が多いとされる.20~40歳の女性に多い.片側発症が多いが,数年後に反対側が出ることがある.約30~50%にみられる深部腱反射低下を呈するとAdie症候群とよばれるが,この場合は両眼性が多い.点眼試験では両眼の瞳孔径を測定(明所・暗所)してから,0.125%ピロカルピン塩酸塩を両眼に点眼し3),20~40分後に再度瞳孔径を測定する.脱神経性過敏が生じている状態なら患眼のみ縮瞳する.瞳孔緊張症やAdie症候群に出会ったら垂直サッケードの確認をしたい(図2).もし,サッケードの選択的障害があればそのLNDは「中枢性LND」である可能性がきわめて高い.中脳背側症候群(dorsalmidbrainsyndrome)による後交連障害に起因している可能性があり,MRIやCTによる精査が必要である.特発性は,軽微なウイルス感染後,軽微な自己免疫性,微小虚血,一過性神経炎であり,検出されないだけで病理的には軽度の神経節炎や神経変性と考えられてい348あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(6)図2衝動性眼球運動の評価a:垂直サッケードの観察方法.b:水平サッケードの観察方法.正中から一側間のサッケードを観察したら,つぎは正中から反対側間のサッケードも確認する.通常の眼球運動検査は滑動性追従運動(パシュート)である.注視麻痺ではサッケードが選択的に障害される.上―下涙点線に瞳孔内縁が至る角膜外縁が外眼角に達する図3むき運動両眼解放で観察する.正面視の第一眼位,垂直方向や側方視は第二眼位,斜めは第三眼位である.むき運動のときは,第三眼位観察時の呈示角度は45°である.ひき運動のときと角度が異なるので注意.左眼は外転位で固定.角膜外縁が外眼角に達する状態(第二眼位)+1:第二眼位でわずか(第三眼位では明らか)+2:第二眼位ですでに明らか+3:第二眼位で+4まではいかないが重度+4:第二眼位でほぼ真上に上転図4過動の定量左眼,下斜筋過動の例.内上転(下斜筋)外上転(上直筋)内転(内直筋)外転(外直筋)上―下涙点線に瞳孔内縁が至る角膜外縁が外眼角に達する外眼角―内眼角線に角膜上縁が至る51°23°内下転(上斜筋)外下転(下直筋)図5ひき運動(左眼)一眼をしっかり遮閉した状態で観察する.斜筋はC51°内転位で,上下直筋はC23°外転位で観察する.むき運動の第3眼位観察のときと角度が異なるので注意.0:正常-1:正中を越えて可動域の75%まで動くー2:正中を越えて可動域の50%まで動くー3:正中を越えて可動域の25%まで動くー4:正中を越えないー5:正中から反対方向にシフトしたまま動かない図6遅動の定量左眼,外転(LR)の例.Vpatternの例(左眼IO過動)頭位異常は外斜視ならchinup※内斜視は逆Apatternの例(左眼SO過動)頭位異常は外斜視ならchindown※内斜視は逆図7Vpattern/Apatternと頭位異常Vpattern/Apatternや頭位異常の検出は重要である.なぜなら,それらを呈する筋の異常はある程度決まっているからである.Vpatternなら下斜筋(IO)過動,上斜筋(SO)遅動,上直筋(SR)遅動が多く,ApatternならSO過動,IO遅動,下直筋(IR)遅動があることが多い.芋づる式に所見が出てくる,推測ができることが多い.外斜視の場合CVpatternでは顎上げを呈するし,Apatternなら顎引きを呈しやすい.内斜視なら逆になる.IO:inferiorobliquemuscle(下斜筋),SO:superiorobliquemuscle(上斜筋).右眼図8Parksの3steptestとBielschowskyのheadtilttest(BHTT)Step1:L/Rなら右眼の上転筋群と左眼の下転筋群である青線の箇所を囲む.Step2:右方視で増大なら右眼の垂直筋群と左眼の斜筋群である緑線の箇所を囲む.Step3(BHTT):左にかしげてCL/R増大なら左に傾いた赤線の箇所で囲む.上図の場合,左眼上斜筋(SO)が麻痺(または機能不全)である分,左眼上直筋(SR)が内方回旋を補おうとするが,SRの主作用である上転作用が働くことで左眼上斜視(右眼下斜視)が増大することによる.三つの楕円に囲まれた箇所が推定される原因筋である(上図の場合は左眼SO).IO:inferiorobliquemuscle(下斜筋),SR:superiorrectusmuscle(上直筋),MR:medialrectusmuscle(内直筋),IR:inferiorrectusmuscle(下直筋),SO:superiorobliquemuscle(上斜筋),LR:lateralrectusmuscle(外直筋).内直動動回旋外内直外直外滑外滑滑外動(黒):動眼神経,滑(青):滑車神経,外(緑):外転神経.図9眼球運動チェックシート神経眼科疾患においては遅動が大切になる.①むき運動,ひき運動,8方向交代遮閉試験の結果をチェックする.②CParksのC3steptestの結果を書き込む(step2の判断がむずかしい場合はつぎのCstepに進む).③回旋検査を行い,内方回旋か外方回旋か,上方視で増大するか下方視で増大するかをチェックする.④遅動のある各神経支配領域にチェックし,障害部位を推測する(本文参照)C.C図10写真の撮影例a,b:右眼の眼球突出,眼瞼下垂,外斜視.Ca:正面からの撮影.Cb:上からの撮影.正面からの撮影よりも眼球突出がわかりやすい.Cc,d:瞳孔.Cb:明所撮影.Cc:暗所撮影.遠方視で視線を遮らないように下方から撮影する.赤目補正モードはオフにする.