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検査チョイスと結果の解釈─大人の斜視と神経眼科

2026年4月30日 木曜日

検査チョイスと結果の解釈─大人の斜視と神経眼科ChoosingtheRightExaminationsandInterpretingtheResults:AdultStrabismusandNeuro-Ophthalmology登澤達也*はじめに神経眼科疾患は,小児と大人では傾向が異なる.小児では「発達・先天・遺伝・免疫成熟過程・発達中の神経系の弱さ」などが原因となるのに対して,大人では「加齢・血管・免疫・代謝(糖尿病など)・外傷・精神神経的要因」などがおもな要因になっていることが多い.大人は長く生きている分,病歴,手術歴,内服薬などの情報が多くなりがちでチェックが大変だが,「急がば回れ」である.事前に原疾患の傾向を考慮し,考えられるリスクを把握することが,早い段階での追加問診や正しい検査の選択につながり,注意すべきポイントにあらかじめ網をかけることができる.I検査の選択とSOAP検査の選択には,問題志向型診療記録(problemori-entedmedicalrecord:POMR)1)を利用するとよい.POMRは問題志向型診療システム(problemorientedsystem:POS)に基づく診療記録で,これと深くかかわるのが以下のSOAPである.S:subjectivedata(自覚的所見.主訴や問診)O:objectivedata(他覚的所見.病歴や検査結果.①入力系,②統合系,③出力系に分かれる)A:assessment(評価や問題点)P:plan(追加検査,他施設紹介,治療計画など)このS→O(入力系→統合系→出力系)→A→Pの順にみていく癖をつけると漏れがない.II事前準備とS(自覚的所見)カルテを開き,受付での一次問診の内容に目を通す.紹介状や過去のカルテがあればそれもチェックする.病歴,手術歴,内服薬などをチェックする.これらの組み合わせから検査リストを推測できることが多く,絶対に見逃せない疾患に対し事前に用心できる.足りない部分は追加問診を行う.1.具体的なチェックポイント・年齢:青年期(~30歳頃),中年期(40~64歳),前期高齢期(65~74歳),後期高齢期(75歳~)・病歴(例:糖尿病,Basedow病,全身性エリテマトーデス,癌)・手術歴(例:癌摘出手術)・内服(例:ステロイド,免疫抑制薬,ベンゾジアゼピン系)・頭部精査歴:あり,なし・発症時期:年単位,月単位,日単位・悪化傾向:年単位,月単位,日単位・症状:霧視,複視,見た目の眼の位置・屈折〔例:強度近視,長眼軸,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)で-3.0Dより強度の近視〕2.チェック結果の例例1:前期高齢期,発症時期年単位,悪化傾向年単位,*TatsuyaTozawa:眼科杉田病院〔別刷請求先〕登澤達也:〒460-0008愛知県名古屋市中区栄5-1-30眼科杉田病院(1)(3)3450910-1810/26/\100/頁/JCOPY症状複視,IOL眼で屈折S-4.50Dであれば,「もうこの時点で強度近視関連の内斜視における鑑別検査が必要そうだ」と,落とせない検査ラインナップが決まってくる.眼軸長測定や,planに眼窩MRIが必要となるかもしれない.例2:後期高齢期,糖尿病,膀胱癌摘出手術後,発症時期日単位,悪化傾向日単位,症状霧視複視であれば,「もうこの時点で眼窩先端部症候群などの鑑別検査が必要そうだ」と,落とせない検査ラインナップが決まってくる(瞳孔入力系検査,眼位眼球運動,眼瞼検査,眼球突出度など).検査結果によっては早急に耳鼻咽喉科や脳外科への紹介がplanになる可能性がある.例3:青年期,病歴なし,手術歴なし,内服なし,頭部精査歴なし,発症時期年単位,悪化傾向月単位,症状複視であれば,「この時点で後天共同性内斜視や,念のためその他の麻痺性斜視の鑑別検査が必要そうだ」と,落とせない検査ラインナップが決まってくる〔眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)規格や装用状態,近業時間などのチェック,眼位眼球運動検査〕.若年なので,たとえ共同性でも頭部精査のplanがよさそうである.このように,検査前の情報収集でかなり検査ラインナップのイメージができる.瞳孔検査や直視下の眼球運動検査がすめば,多くの場合で残りの検査ラインナップやassessment,planが決まる.IIIO(他覚的所見)1.入力系視力低下があった場合,それが視神経障害によるものかどうかをまず把握する必要がある.まず押さえたいのが以下に解説するピンホール視力や,交互点滅対光反射試験(swinging.ashlighttest:SFT)による相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)のチェックであり,視力低下が中間透光体のコンディションによるものか,それ以外かを判別するうえで重要な手がかりになる.どちらも非常に時間対効果が高い.a.ピンホール視力ピンホール(通常直径1~2mm程度の小さな穴)を通して見ると,光線がほぼ直進するため,眼の屈折系の影響が大幅に減少し,屈折異常がある場合でも網膜上に鮮明な像が結ばれ視力が上昇する.しかし,視神経疾患を含む器質的病変によって視力が低下している場合は上昇しない.ピンホール径が小さいほど光の直進性が強まり,網膜像は鮮明になる.しかし,通過する光量が減るために暗くなる.大きすぎると光の直進性の利点が減り,屈折誤差の影響が再び現れてしまう.一方で0.5mm以下など,小さすぎると光量が不足して実用的ではない.明確な決まりはないが,1~2mm程度だと十分な明るさと焦点深度のバランスがとれる2).b.SFT明るさという刺激に対し瞳孔を縮瞳させる筋肉は「出力系の経路」が支配する.しかし,それら出力系の経路が発動するには,明るさという視覚情報を「入力系の経路」が運んできてくれないと出力系は駆動せず,縮瞳も起こらない.当然,視神経障害や,広範な網膜障害があれば刺激があっても十分に縮瞳できない.しかし,対光反射の経路には特徴がある.たとえば,健康な右眼に光を照射すると,光を照射していない左眼も同時同程度に縮瞳することである.しかも,たとえ左眼に重篤な視神経障害があってもきちんと縮瞳する.では,視神経が障害されている左眼に照射した場合はというと,両眼とも十分に,もしくはまったく縮瞳できない.これを利用したのがSFTである.右眼が健康な眼で,左眼には視神経炎が起こっているとする.遠方視の状態で右眼に光を照射すると(図1a,b),右視神経→非交差線維は右の視蓋前域に,交差線維は左の視蓋前域に至り,シナプスを変え出力系にチェンジする.この時点でもう右と左に視覚情報が届いている.さらに,右の視蓋前域核,左の視蓋前域核のいずれも左右両方の動眼神経副核(EdingerWestphalnucle-us:EW核)に投射する.これが健康な眼に光をあてると,他眼に視神経炎が起こっていたとしても両眼とも縮瞳できる仕組みである.EW核は,素直に左右それぞれ同側の瞳孔括約筋に投射する.右眼に照射している状態では左眼も縮瞳状態にある.そこから素早く照射を左眼へ切り替える(図1c).当然左眼も最初こそ縮瞳してい346あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(4)a後交連b後交連c後交連d後交連視神経じわ~っとL)RAPD(+)散瞳してくる図1交互点滅対光反射試験(SFT)による相対的瞳孔求心路障害(RAPD)の検出健眼に照射すると両眼縮瞳する.素早く障害側に照射を移すと,縮瞳した状態から徐々に散瞳する.再度健眼に照射を戻すと速やかに両眼縮瞳する.観察するのはあくまで照射したほうの瞳孔だけでよい.SFT:swinging.ashlighttest(交互点滅対光反射試験),RAPD:relativea.erentpupillarydefect(相対的求心路瞳孔障害),EW核:Edinger-Westphalnucleus(動眼神経副交感核).-面からの圧迫に弱いため,散瞳を伴う動眼神経麻痺は動脈瘤の切迫破裂をより危惧しなければならないサインといわれる.この動脈瘤を内頸動脈-後交通動脈瘤(inter-nalcarotid-posteriorcommunicatinganeurism:IC-PCAN)という.動脈瘤のなかでも破裂頻度が高く,3週間以内に3割近くが破裂するといわれ,破裂するとクモ膜下出血で4割近くがその場で亡くなり,社会復帰ができるのは3割に満たない.切迫破裂する前に対処が必要で,動眼神経麻痺をみたら早急に処置の可能な病院でMRI,MRAを行う必要がある.散瞳を呈していなければいいかといえば,答えはNoである.原因がIC-PCANでも散瞳をきたさないケースがあり,同様の対応が必要である.交感神経麻痺だった場合はどうであろうか.交感神経は長く,中枢線維である第一ニューロンは視床下部から脳幹内を下降してBudgeの毛様脊髄中枢でシナプスを変える.節前線維である第二ニューロンは脳幹を出て肺尖部も通り,鎖骨下動脈を潜り,再び脳幹の外を上行し,上頸神経節でシナプスを変える.節後線維である第三ニューロンは総頸動脈,そして内・外頸動脈へ網状に上行する.外頸動脈系のほうは眼表面に分布し,内頸動脈系のほうはそのままCSを経てまもなく分離し,外転神経や三叉神経第一枝と合流し視神経管から眼窩内に入り,毛様体神経節を経て瞳孔散大筋に至る.脳幹で障害が起きても,肺気腫になっても,ICA解離(痛みを伴う)が起きていても,CS疾患でも交感神経麻痺であるHorner症候群を呈しうる3).散瞳障害による瞳孔不同,Muller筋麻痺による軽度眼瞼下垂と,顔面発汗減少を呈する(すべて同側障害).とくに痛みを伴うHorner症候群は注意が必要である.b.Horner症候群Horner症候群を疑った際にはアプラクロニジン塩酸塩(アイオピジン)点眼液0.5%または1.0%を用いる.Nd:YAGレーザー照射時にも使用する点眼液である.Horner症候群では瞳孔散大筋の脱神経過敏(denerva-tionsupersensitivity)が生じる.通常の瞳孔にはほぼ作用しない弱いα作動薬でもHorner症候群例では散瞳する.伝達物質が届かないから敏感になるのである.イメージ的には,極限の空腹状態だと,かすかな食べ物のにおいにも反応してしまうような感じだろうか.両眼の瞳孔径と瞼裂幅を測定し,両眼に1滴ずつアイオピジンを点眼する.30分(できれば60分)待ってから再評価する.患眼が散瞳したり,瞳孔不同が逆転したり,軽度の眼瞼下垂の改善が起これば陽性である.c.瞳孔緊張症瞳孔緊張症(tonicpupil)はそこまで怖い疾患ではない.節後副交感神経が障害され,散瞳,対光反射障害を呈するわけであるが,機序としてのポイントはその後に「異常神経支配」が起きることである.本来は毛様体へ接続し調節にかかわっていた線維が,再生時に瞳孔括約筋のほうに再配線されてしまう.つまり,近見反応でゆっくりと縮瞳が可能なのである.もともと縮瞳にかかわる線維は調節にかかわる線維よりも少なく,対光反射のほうに正しく再生するのがむずかしい.これが瞳孔緊張症における対光近見反射解離(light.neardissociation:LND)の機序といわれている.また,限局的な障害や再生によって部分的な瞳孔括約筋の収縮である分節性収縮(segmentalvermiformmovement)を呈する.長時間光を照射すると徐々に縮瞳する収縮遅延や弛緩遅延を呈する.特発性(idiopathicAdiepupil)がもっとも多く,ついでウイルス感染後(post-viraltonicpupil)が多いとされる.20~40歳の女性に多い.片側発症が多いが,数年後に反対側が出ることがある.約30~50%にみられる深部腱反射低下を呈するとAdie症候群とよばれるが,この場合は両眼性が多い.点眼試験では両眼の瞳孔径を測定(明所・暗所)してから,0.125%ピロカルピン塩酸塩を両眼に点眼し3),20~40分後に再度瞳孔径を測定する.脱神経性過敏が生じている状態なら患眼のみ縮瞳する.瞳孔緊張症やAdie症候群に出会ったら垂直サッケードの確認をしたい(図2).もし,サッケードの選択的障害があればそのLNDは「中枢性LND」である可能性がきわめて高い.中脳背側症候群(dorsalmidbrainsyndrome)による後交連障害に起因している可能性があり,MRIやCTによる精査が必要である.特発性は,軽微なウイルス感染後,軽微な自己免疫性,微小虚血,一過性神経炎であり,検出されないだけで病理的には軽度の神経節炎や神経変性と考えられてい348あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(6)図2衝動性眼球運動の評価a:垂直サッケードの観察方法.b:水平サッケードの観察方法.正中から一側間のサッケードを観察したら,つぎは正中から反対側間のサッケードも確認する.通常の眼球運動検査は滑動性追従運動(パシュート)である.注視麻痺ではサッケードが選択的に障害される.上―下涙点線に瞳孔内縁が至る角膜外縁が外眼角に達する図3むき運動両眼解放で観察する.正面視の第一眼位,垂直方向や側方視は第二眼位,斜めは第三眼位である.むき運動のときは,第三眼位観察時の呈示角度は45°である.ひき運動のときと角度が異なるので注意.左眼は外転位で固定.角膜外縁が外眼角に達する状態(第二眼位)+1:第二眼位でわずか(第三眼位では明らか)+2:第二眼位ですでに明らか+3:第二眼位で+4まではいかないが重度+4:第二眼位でほぼ真上に上転図4過動の定量左眼,下斜筋過動の例.内上転(下斜筋)外上転(上直筋)内転(内直筋)外転(外直筋)上―下涙点線に瞳孔内縁が至る角膜外縁が外眼角に達する外眼角―内眼角線に角膜上縁が至る51°23°内下転(上斜筋)外下転(下直筋)図5ひき運動(左眼)一眼をしっかり遮閉した状態で観察する.斜筋はC51°内転位で,上下直筋はC23°外転位で観察する.むき運動の第3眼位観察のときと角度が異なるので注意.0:正常-1:正中を越えて可動域の75%まで動くー2:正中を越えて可動域の50%まで動くー3:正中を越えて可動域の25%まで動くー4:正中を越えないー5:正中から反対方向にシフトしたまま動かない図6遅動の定量左眼,外転(LR)の例.Vpatternの例(左眼IO過動)頭位異常は外斜視ならchinup※内斜視は逆Apatternの例(左眼SO過動)頭位異常は外斜視ならchindown※内斜視は逆図7Vpattern/Apatternと頭位異常Vpattern/Apatternや頭位異常の検出は重要である.なぜなら,それらを呈する筋の異常はある程度決まっているからである.Vpatternなら下斜筋(IO)過動,上斜筋(SO)遅動,上直筋(SR)遅動が多く,ApatternならSO過動,IO遅動,下直筋(IR)遅動があることが多い.芋づる式に所見が出てくる,推測ができることが多い.外斜視の場合CVpatternでは顎上げを呈するし,Apatternなら顎引きを呈しやすい.内斜視なら逆になる.IO:inferiorobliquemuscle(下斜筋),SO:superiorobliquemuscle(上斜筋).右眼図8Parksの3steptestとBielschowskyのheadtilttest(BHTT)Step1:L/Rなら右眼の上転筋群と左眼の下転筋群である青線の箇所を囲む.Step2:右方視で増大なら右眼の垂直筋群と左眼の斜筋群である緑線の箇所を囲む.Step3(BHTT):左にかしげてCL/R増大なら左に傾いた赤線の箇所で囲む.上図の場合,左眼上斜筋(SO)が麻痺(または機能不全)である分,左眼上直筋(SR)が内方回旋を補おうとするが,SRの主作用である上転作用が働くことで左眼上斜視(右眼下斜視)が増大することによる.三つの楕円に囲まれた箇所が推定される原因筋である(上図の場合は左眼SO).IO:inferiorobliquemuscle(下斜筋),SR:superiorrectusmuscle(上直筋),MR:medialrectusmuscle(内直筋),IR:inferiorrectusmuscle(下直筋),SO:superiorobliquemuscle(上斜筋),LR:lateralrectusmuscle(外直筋).内直動動回旋外内直外直外滑外滑滑外動(黒):動眼神経,滑(青):滑車神経,外(緑):外転神経.図9眼球運動チェックシート神経眼科疾患においては遅動が大切になる.①むき運動,ひき運動,8方向交代遮閉試験の結果をチェックする.②CParksのC3steptestの結果を書き込む(step2の判断がむずかしい場合はつぎのCstepに進む).③回旋検査を行い,内方回旋か外方回旋か,上方視で増大するか下方視で増大するかをチェックする.④遅動のある各神経支配領域にチェックし,障害部位を推測する(本文参照)C.C図10写真の撮影例a,b:右眼の眼球突出,眼瞼下垂,外斜視.Ca:正面からの撮影.Cb:上からの撮影.正面からの撮影よりも眼球突出がわかりやすい.Cc,d:瞳孔.Cb:明所撮影.Cc:暗所撮影.遠方視で視線を遮らないように下方から撮影する.赤目補正モードはオフにする.

序説:大人の斜視と神経眼科─最先端の診断と治療

2026年4月30日 木曜日

大人の斜視と神経眼科─最先端の診断と治療AdultStrabismusandNeuro-Ophthalmology:Cutting-EdgeDiagnosisandManagement後関利明*佐藤美保**斜視は小児疾患というイメージがあるが,大人で発症する斜視は,まれな病態ではない.高齢化,生活様式の変化,近視人口の増加,そして全身疾患を抱える患者の増加により,大人の斜視を診療する機会は確実に増えている.大人の斜視の本質は,単なる眼位異常ではなく,「複視」という強い自覚症状を伴う機能障害であり,さらに,その背後には神経疾患,眼窩疾患,免疫疾患,眼窩支持組織変化など,多様な病態が潜んでいる点にある.したがって,大人の斜視診療は斜視学のみでは完結せず,神経眼科学的視点を不可欠とする領域である.小児斜視では感覚適応や抑制が働きうるが,両眼視が確立した大人では,わずかな眼位ずれであっても複視として顕在化する.患者は読書や運転,パソコン作業といった日常動作に直結する不自由を訴え,社会生活や心理的側面にも影響を受ける.さらに,麻痺性斜視の背後に動脈瘤や腫瘍といった生命予後にかかわる疾患が潜む可能性もあり,「見える」「ずれている」という訴えの奥にある病態を見抜く力が求められる.一方で近年,saggingeyesyndrome(SES)や強度近視関連斜視など,加齢や眼球形態変化に基づく機械的要因による斜視の概念が整理され,大人の斜視の理解は大きく進歩した.従来は「外転神経麻痺様」と捉えられていた病態の中に,眼窩支持組織の変性という新たな病因が存在することが明らかとなり,画像診断と外科的アプローチの進歩がそれを裏付けている.大人の斜視診療は,神経学的思考と眼窩解剖学的理解の両輪で進化してきたといえる.本特集では,診断の基本的思考過程から各疾患の病態,自然経過,治療戦略までを体系的に整理した.検査の選択と解釈,診察の進め方といった診療の基盤を再確認したうえで,動眼・滑車・外転神経麻痺,頭蓋内疾患,眼筋型重症筋無力症,眼窩疾患,さらにSESやheavyeyesyndrome(HES)といった眼窩プリー異常に至るまで,大人の斜視を構成する主要病態を網羅している.それぞれの稿は独立した各論でありながら,「複視を訴える大人の患者をどう診るか」という一本の軸で貫かれている.大人の斜視診療において重要なのは,過不足のない評価である.過剰な検査は避けるべきだが,見逃してはならない病態は確実に拾い上げなければならない.自然回復を待つべき時期と,積極的治療へ踏み出す時期を見極める判断力も不可欠である.そして治療の最終目標は,単に眼位を整えることではなく,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)を回復させることである.大人の斜視は,斜視学と神経眼科学の接点に位置*ToshiakiGoseki:国際医療福祉大学熱海病院眼科,北里大学医学部眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学教室0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(1)343

乳癌治療後の50 歳代女性のperipheral exudative hemorrhagic chorioretinopathy の1 例

2026年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(3):330.334,2026c乳癌治療後の50歳代女性のperipheralexudativehemorrhagicchorioretinopathyの1例猪狩優佳小沼こころ渡邉朗中野匡東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofPeripheralExudativeHemorrhagicChorioretinopathyinaWomaninHer50sAfterBreastCancerTreatmentYukaIgari,KokoroKonuma,AkiraWatanabeandTadashiNakanoCDepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:網膜周辺部に滲出性変化,網膜下出血,硝子体出血をきたす病態として周辺部滲出性出血性脈絡網膜症(peripheralCexudativehemorrhagicCchorioretinopathy:PEHCR)が報告されている.今回,乳癌治療後C50歳代女性にみられたCPEHCRのC1例を報告する.症例:51歳,女性.3年前に乳癌治療の既往.東京慈恵会医科大学附属病院初診時,右眼鼻側に限局した硝子体混濁,硝子体出血を認めた.混濁下の網膜は透見できず,超音波検査,眼窩CMRIにて約C9Cmmの扁平なCT2強調画像で低信号,T1強調画像で高信号の隆起性病変を認めた.硝子体混濁の増強により硝子体手術を施行した.術中に硝子体混濁を除去すると鼻側網膜に境界明瞭な灰白色の網膜下出血による隆起性病変を認めた.術後C1カ月に行ったフルオレセイン蛍光造影(FA)では病変部位は均一なブロックによる低蛍光所見であり転移性腫瘍を疑う所見はなかった.経過観察により腫瘤性病変は徐々に消退し網脈絡膜萎縮をきたした.結論:50歳代でも転移性脈絡膜腫瘍の鑑別疾患としてCPEHCRを考慮する必要が考えられた.CPurpose:PeripheralCexudativehemorrhagicCchorioretinopathy(PEHCR)isCaCrareCconditionCcharacterizedCbyCperipheralexudation,subretinal,andvitreoushemorrhage.Herein,wereportacaseofPEHCRinawomaninher50swithahistoryofbreastcancertreatment.CaseReport:A51-year-oldwomanpresentedwithvitreoushem-orrhagelocalizedtothenasalretinaoftherighteye.Imagingrevealeda.atelevatedlesionwithlowT2andhighT1CsignalCintensity.CDueCtoCprogressiveCvitreousCopacity,CvitrectomyCwasCperformed.CIntraoperatively,CaCwell-de.ned,Cgrayish,CsubretinalChemorrhagicClesionCwasCnoted.CPostoperativeC.uoresceinCangiographyCshowedCuniformChypo.uorescenceCdueCtoCblockage,CwithoutCfeaturesCsuggestiveCofCmetastasis.CTheClesionCspontaneouslyCregressedCoverCtime,CleavingCchorioretinalCatrophy.CConclusion:ThisCcaseCunderscoresCtheCneedCtoCconsiderCPEHCRCinCtheCdi.erentialdiagnosisofchoroidaltumors,eveninmiddle-agedpatientswithahistoryofsystemicmalignancy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(3):330.334,C2026〕Keywords:網膜下出血.peripheralexudativehemorrhagicchorioretinopathy,subretinalhemorrhage,vitreoushemorrhage.Cはじめに網膜周辺部に滲出性変化,網膜下出血,硝子体出血をきたす病態として周辺部滲出性出血性脈絡網膜症(peripheralCexudativehemorrhagicCchorioretinopathy:PEHCR)が1980年にCAnnesleyにより報告されている1).加齢や脈絡膜の血管変化の関与による加齢黄斑変性の一病型と考えられており,高齢者の発症の報告が多い1.10).本疾患は,眼底検査において周辺部の出血や滲出が確認され,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)や光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いた画像診断によって,さらに詳しい情報が得られることにより診断される2.6,9).しかし,その病態については不明な点が多く,病変内にポリープ状脈絡膜血管や脈絡膜の肥厚がみられることがあり,〔別刷請求先〕渡邉朗:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprintrequests:AkiraWatanabe,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8,NishiSinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPANC330(102)加齢黄斑変性,ポリープ状脈絡膜血管症の周辺型の可能性が示唆されているが7,8),さまざまな病態の疾患を含んでいる可能性がある.PEHCRはC60歳代以上での報告が多いが,比較的若年で発症した場合は,他の網膜疾患や脈絡膜疾患,とくに悪性黒色腫や転移性脈絡膜腫瘍との鑑別が重要であり9.11),早期の診断と適切な治療が視機能の保存に重要である.今回は,当初に脈絡膜転移が疑われた,乳癌治療後のC50歳代女性にみられたCPEHCRのC1例を報告する.CI症例症例:51歳,女性.X年C8月C16日に右眼の飛蚊症のため,近医眼科を受診した.X年C8月C19日に右眼網膜.離が疑われ,東京慈恵会医科大学附属病院を紹介されて受診した.既往歴:高血圧,アトピー性皮膚炎.3年前に乳癌治療(手術+化学療法).X年C8月C14日コロナワクチン(モデルナ)接種.初診時所見:右眼視力はC1.2(1.5C×sph+1.00D(cyl.0.75DAx170°).左眼視力はC0.8(1.5C×sph+1.25D(cyl.0.75DAx15°).右眼眼圧はC15mmHg,左眼眼圧は14mmHgであった.前眼部所見としては,前房内炎症がなく,水晶体には混濁はなかった.右眼眼底には,視神経乳頭鼻側から周辺部にかけてC2.5時の範囲に限局した硝子体出血を含んだ硝子体混濁を認めた.混濁下の網膜は透見できなかった(図1).広角眼底カメラでのCFAでは混濁部位はブロックによる低蛍光所見となり,透見可能な部位では血管炎の所見は認めなかった(図2).Bモード超音波検査では,右眼の硝子体混濁部位の下に一致して網脈絡膜の隆起性病変を認めた(図3).眼窩CMRIでは右眼球内の内側縁に沿ってCT1で高信号,T2で低信号の約C9Cmmの扁平な形状の病変を認め,脈絡膜.離に伴う血腫やメラノーマ,癌の脈絡膜転移などが疑われた(図4).血液検査では有意な所見を認めず.乳癌の治療施設で施行したCpositronCemissiontomography(PET)陽電子放出断層撮影では,乳癌の脈絡膜転移の可能性は低いとの結果だった.経過:硝子体混濁の拡大がみられたため,X年C9月C28日に右眼水晶体再建術+硝子体手術+硝子体生検を施行した.硝子体混濁を除去すると,視神経乳頭よりも鼻側の網膜に境界明瞭な灰白色の隆起性病変を認めた(図5).ほかに出血の原因となりうる所見はなかった.硝子体生検では,悪性細胞は認めず,インターロイキン(interleukin:IL)-6はC71.7pg/mlIL-10はC2Cpg/ml以下であった.術後C1カ月で施行した広角眼底カメラによるCFAでは,病変部位は均一なブロックによる低蛍光所見であり,転移性腫瘍を疑う所見はなかった.病変内に明らかなポリープ状病図1左眼初診時広角眼底写真乳頭鼻側から周辺部にかけてC2.5時の範囲に限局した硝子体出血を含んだ硝子体混濁を認めた.巣,異常血管網,滲出性や血管閉塞所見は認めなかった(図6).術後所見からCPEHCRと診断した.病変は直接的に治療をすることなく,術後C6カ月で退縮し,網脈絡膜萎縮をきたした(図7).CII考按PEHCRは網膜周辺部に滲出性変化,網膜下出血,硝子体出血をきたす病態としてC1980年にCAnnesleyにより報告された1).PEHCRの滲出性変化や網膜下出血による腫瘤性病変は耳側に多いことが報告されている2,8,9).また,PEHCRは高齢者での発症が多く,病態としては加齢黄斑変性の一病系と考えられている2.8).とくにパキコロイドやポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)と関連性についての報告がある7,8).しかし,PEHCRは高齢の白人女性に多く,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)におけるCPCVの割合が高いとされるアジア諸国からの報告では,欧米よりCPEHCRの発症率は低い8).このため,PEHCRとCPCVとの関連性についてはさらに検討が必要だと思われる.現在のところCPEHCRの明確な診断基準はなく,症例により眼底所見や重症度はさまざまであるC2.4).PEHCRと診断された症例に,いくつかの異なる病態が原因で発症した症例が含まれている可能性がある.近年では,PEHCRの診断に広角眼底カメラによるCFA所見の有用性が報告されている.PEHCRのCFA所見としては,病変部の網膜下出血や円板状瘢痕のブロックによる低蛍光,図2左眼初診時のFA硝子体混濁部位はブロックによる低蛍光となり,透見可能な部位では血管炎の所見は認めなかった.図3左眼初診時のBモード超音波検査右眼の硝子体混濁部位の下に一致して網脈絡膜の隆起性病変を認めた.図4初診時の眼窩MRI右眼球内の内側縁に沿ってCT1(a)で高信号,T2(b)で低信号の約C9Cmmの扁平な形状の病変を認めた.図5術後1日の左眼広角眼底写真硝子体混濁を除去すると,視神経乳頭よりも鼻側の網膜に境界明瞭な灰白色の隆起性病変を認めた.網膜色素上皮萎縮による過蛍光,病変内にポリープや異常血管網などの所見がみられることがある5,6).壮年期のCPEHCRが疑われる患者においては,生命予後にかかわる転移性脈絡膜腫瘍や悪性黒色腫との鑑別が重要になる.悪性黒色腫との鑑別については,FAやCOCTの所見が鑑別の根拠となる9.11).悪性黒色腫のCFAでは腫瘍内血管(intrinsicCvascularityCofmass)や二重循環(doubleCcircula-tion)の所見を呈することが報告されている9.11).また,今回の症例では乳癌治療の既往があり,当初は転移性脈絡膜腫瘍が疑われた.転移性脈絡膜腫瘍から硝子体出血をきたすことはまれではあるが報告はある12).転移性脈絡膜腫瘍との鑑別にはCPET,FA,OCT,MRIによりマルチモーダルイメージングに診ていくことが重要である11).FAは典型的には動脈相の初期段階で低蛍光パターンを示し,静脈図6術後1カ月で施行した蛍光造影広角眼底カメラによる蛍光造影.病変部位は均一なブロックによる低蛍光所見であった.相の後期段階では過蛍光を示し,これはほとんどの脈絡膜黒色腫よりも遅い.脈絡膜転移には,73%の症例で腫瘍の境界でピンポイントの漏出を伴う拡張した網膜毛細血管も含まれると報告されている13).今回の症例は,50歳代の女性で乳癌の既往があったため,当初は癌転移による所見を疑い検査・経過観察を行っていたが,術中・術後所見からはCPEHCRと診断された.PEHCRは自然経過ではC60.90%は不変,または自然退縮し瘢痕・萎縮・線維化をきたすC2.4).本症例では硝子体出血の増悪がみられたため,硝子体手術を行っているが病変への直接的な治療はなく,病変は退縮し網脈絡膜萎縮をきたした.現在は,PEHCRに対する治療法は確立されていないが,硝子体出血,滲出性網膜.離,黄斑病変が生じて視力が低下している症例,黄斑方向へ拡大し視力障害が切迫している症例,病変が著明に大きい例などには抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射,網膜光凝固術,光線力学療法,硝子体手術などが選択肢となる3,4).最近の研究では,疾患の進行を抑制するための治療法に関する期待が高まっており,今後の臨床的な知見の蓄積が重要である.今回の症例におけるCPEHCRの発症病態については不明ではある.本人の自覚症状の発症C2日前に新型コロナウイルス感染症(coronavirusdisease-2019:COVID-19)ワクチンの接種を受けていた.わが国においてもCCOVID-19ワクチンの接種による,さまざまなおもに眼内炎症や血管閉塞に起因する眼合併症が報告されている14,15).今回の症例と同様の報告は筆者らが調べた限りではなかったが,COVID-19ワクチンの接種との関連性は完全には否定できないと思われる.今後さらに症例を蓄積してCPEHCRの病態,診断,治療について確立していく必要がある.図7術後6カ月の左眼眼底病変は退縮し,網脈絡膜萎縮をきたした.III結論本症例のCPEHCR発症の機序は不明だが,50歳代でも転移性脈絡膜腫瘍の鑑別疾患としてCPEHCRを考慮する必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AnnesleyWHJr:Peripheralexudativehemorrhagiccho-rioretinopathy.CTransCAmCOphthalmolCSocC78:321-364,C19802)ElwoodCKF,CRichardsCPJ,CSchildrothCKRCetal:PeripheralCExudativeHemorrhagicCChorioretinopathy(PEHCR):CDiagnosticCandCTherapeuticCChallenges.CMedicina(Kaunas)59:1507,C20233)Sa.rCM,CZlotoCO,CFabianCIDCetal:PeripheralCexudativeChemorrhagicCchorioretinopathyCwithCandCwithoutCtreat-ment-clinicalCandCmultimodalCimagingCcharacteristicsCandCprognosis.PLoSOneC17:e0275163,C20224)GowdaA,BahramiB,JieWWJetal:Theroleofintravit-realCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinjectionCinCperipheralCexudativehemorrhagicCchorioretinopathy:aCsystematicreview.SurvOphthalmolC69:173-178,C20245)ZicarelliCF,CPreziosaCC,CStaurenghiCGCetal:PeripheralCexudativeChaemorrhagicchorioretinopathy:aCwide.eldCimagingstudy.BrJOphthalmolC105:1410-1414,C20216)KumarCV,CJanakiramanCD,CChandraCPCetal:Ultra-wideC.eldCimagingCinCperipheralCexudativeChaemorrhagicchorioretinopathy(PEHCR)C.CBMJCCaseCRepC2015:bcr2015213628,C20157)Shro.D,SharmaM,ChhablaniJetal:Peripheralexuda-tivehemorrhagicchorioretinopathy-anewadditiontothespectrumofpachychoroiddisease?RetinaC41:1518-1525,C20218)ChoiCS,CLeeCSC,CByeonCSHCetal:PeripheralCexudativeChemorrhagicchorioretinopathyinAsianpopulations.Reti-naC43:762-766,C20239)LiuT,KimB.J,TaoJ:Peripheralexudativehemorrhagicchorioretinopathy.EyeNetAprilC2023:33-35,C202310)ShieldsCCL,CSalazarCPF,CMashayekhiCACetal:PeripheralCexudativeChemorrhagicCchorioretinopathyCsimulatingCcho-roidalCmelanomaCinC173Ceyes.COphthalmologyC116:529-535,C200911)MathisCT,CJardelCP,CLoriaCOCetAl:NewCconceptsCinCtheCdiagnosisCandCmanagementCofCchoroidalCmetastases.CProgCRetinEyeResC68:144-176,C201912)ShieldsCJA,CShieldsCCL,CEagleCRCCJrCetal:LungCcancerCpresentingasvitreoushemorrhagefromchoroidalmetas-tasis.RetinaC24:168-170,C200413)ArepalliCS,CKalikiCS,CShieldsCL:Choroidalmetastases:Corigin,Cfeatures,CandCtherapy.CIndianCJCOphthalmolC63:C122-127,C201514)YasakaY,HasegawaE,KeinoHetal;JOISUveitisSur-veyCWorkingGroup:ACmulticenterCstudyCofCocularCin.ammationCafterCCOVID-19Cvaccination.CJpnCJCOphthal-mol67:14-21,C202315)池上靖子,沼賀二郎:COVID-19ワクチン接種後の網膜関連疾患.臨眼76:1504-1512,C2022***

高齢者におけるimo vifa 24plus(1-2) AIZE-Rapid, AIZE-Rapid EX の信頼度の評価

2026年3月31日 火曜日

高齢者におけるimovifa24plus(1-2)AIZE-Rapid,AIZE-RapidEXの信頼度の評価北川厚子*1堀口剛*2井田直子*1清水美智子*1廣信麻友美*1上暁美*1手良向聡*2*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学EvaluationoftheReliabilityofimovifa24plus(1-2)AIZE-RapidandAIZE-RapidEXTestsinOlderAdultsAtsukoKitagawa1),GoHoriguchi2),NaokoIda1),MichikoShimizu1),MayumiHironobu1),AkemiUe1)andSatoshiTeramukai2)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience.KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:高齢者におけるCimovifa24plus(1-2)の信頼度を信頼性指標に基づき評価する.対象および方法:2020.2022年に初めてのCimovifa24plus(1-2)AIZE-Rapidを受けたC196人およびC3回以上CAIZE-RapidEXを受けたC918人を対象とし,信頼性指標を経験の有無別・年齢別に評価した.結果:経験者において,信頼性指標がC10%以下の割合は,固視監視C77%,偽陽性C97%,偽陰性C100%と,検査の信頼度には固視が重要であった.固視監視(≦10%,>10%)に対する多変数ロジスティック回帰分析で,もっとも強く関連したのは検査時間であり,年齢との関連はなかった.結論:imovifaは短時間検査であり,年齢とともに認知症などの合併が増える高齢者においても,検査に際し固視を強調することにより青壮年と同等の信頼性の高い結果が得られる.CPurpose:ToCevaluateCtheCreliabilityCofCtheCimoCvifa24plus(1-2)Perimeter(CREWTCMedicalSystems)CAIZE-RapidandAIZERapidEXtestsinolderadultsbasedonreliabilityindices.Methods:Atotalof196.rst-timepatientswhounderwentAIZE-Rapidand918patientswhounderwentAIZE-RapidEXatleastthreetimesbetween2020and2022wereanalyzed.ReliabilityindiceswereassessedinaccordancewithtestEXperienceandagegroup.Results:AmongtheEXperiencedpatients,theproportionswithin10%were77%for.xationloss,97%forfalsepositives,and100%forfalsenegatives,indicatingthat.xationstabilitywasthekeyfactorfortestreli-ability.CMultivariableClogisticCregressionCforC.xationloss(≦10%Cvs.>10%)showedCthatCtestCdurationCwasCtheCstrongestassociatedfactor,whileagewasnotrelated.Conclusion:Theimovifa24plus(1-2)enablesshortexami-nationtimesandprovidesreliableresultsinolderadults,evenwithage-relatedconditionssuchasdementia,when.xationisemphasized,thusachievingreliabilitycomparabletothatinyoungerpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(3):324.329,C2026〕Keywords:信頼性指標,高齢者.imovifa24plus(1-2),AIZE-RapidEX.imovifa24plus(1-2),AIZE-RapidEX,reliabilityindices,olderadults.Cはじめにわが国では少子高齢化が急速に進行し,5人にC1人が後期高齢者になるという超高齢社会となった.一方で,多治見スタディ1)における緑内障の年齢別有病率はC70歳代で男性・女性ともC10.5%,80歳代で男性C16.4%,女性C8.9%と高齢者の有病率は高い.今後高齢者の増多に伴い,緑内障人口も増加することとなり,眼科医療機関は対応する必要がある.緑内障の発見と診療に重要な視野検査は自覚検査であり,患者の協力が欠かせない.しかし,集中力の持続には限界があるため,検査時間の短縮が重大な懸案となりさまざまな研〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,M.D.,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,JAPANC324(96)分類変数:例数(割合).連続変数:中央値(範囲).D:認知症傾向,H:難聴傾向,MD:平均偏差,PSD:パターン標準偏差.初めてのCimovifa(AIZE-Rapid)《未経験者》n=1963回以上のCimovifa(AIZE-RapidEX)《経験者》n=918性別(男性/女性)76(C38.8%)C/120(C61.2%)324(C35.3%)C/594(C64.7%)年齢18.C69歳100(C51.0%)360(C39.2%)70.C79歳68(3C4.7%),D:3C.5%,H:5C.3%319(3C4.7%),D:3C.1%,H:4C.4%80.C89歳28(1C4.3%),D:10%,H:10%207(2C2.6%),D:7C.7%,H:1C5.4%90歳以上C032(3C.5%),D:3C.2%,H:3C5.5%グローバルインデックス(右眼)CMD0.37CdB(C.26.80dB,1C.62dB)0.15CdB(C.30.45dB,4C.54dB)CPSD2.38CdB(1C.10dB,1C4.10dB)2.87CdB(0C.70dB,1C6.11dB)検査時間(右眼)2.6分(C2.0分,C4.9分)2.6分(C1.8分,C4.7分)究・開発が行われているC2.5).また,緑内障の進行過程に即した検査点配置についても研究開発がなされている6).筆者らはCHumphrey視野計(HumphreyC.eldanalyzer:HFA)と同等の検査精度が確認され4),さらに短い検査時間および両眼開放下検査が患者に支持されたことから,2017年より据え置き型Cimo(クリュートメディカルシステムズ)を使用し,そして現在はCimoからさらにコンパクト・多機能化へと進化したCimovifaを用いている.また,〔HFA24-2(SITA-Fast)+10-2(SITA-Fast)〕と〔imoC24plus(1-2)AIZE-Rapid〕の検査結果を比較したところ,一致度が高かったことから7),検査点配置は一度の検査でC10°内も密に検査できるCimo24plus(1-2)とし,検査ストラテジーは初回検査を検査時間の短いCAIZE-Rapidで行い,2回め以降は過去の検査データを参照することによりさらに短時間に正確な検査が可能なCAIZE-RapidEXとしている.視野検査はおもに緑内障に対して行われ,その正確性の如何はきわめて重大な問題である.今研究で筆者らは北川眼科医院(以下,当院)において,imovifa24plus(1-2)を受けた患者を対象として,経験別・年齢別にその信頼性指標を評価し,とくに高齢者の視野検査の実態を明らかにする.CI対象および方法1.対象2022.2024年に当院で,一部の頭蓋内疾患・網脈絡膜疾患と,おもに緑内障・緑内障疑いに対し,初めてのCimovifa24plus(1-2)検査をCAIZE-Rapidで受けた患者(未経験者),およびその後CAIZE-RapidEXによる検査をC3回以上受けた患者(経験者)を対象とし,経験者においては全例の期間内直近データを集計した.なお,この臨床研究は倫理委員会の承認(ERB-C-2394-2)を得ている.2.診断機器検査はCimovifaで,検査点配置は従来のC24-2の検査点54点にC10-2の測定点C24点を追加したC24plus(1-2)を用いた.初回の検査はCAIZE-Rapidで行い,2回めからは初回のデータを利用することで効率的に検査の行えるCAIZE-RapidEXとした.C3.評価項目三つの信頼性指標(固視監視,偽陽性,偽陰性)を評価項目とした.C4.統計解析解析対象は右眼の検査値とした.対象者の人口統計学的および臨床的特性について,分類変数は例数(割合),連続変数は中央値(範囲)で要約した.信頼性指標の分布を確認するために,固視監視,偽陽性および偽陰性について検査経験別にヒストグラムを作成し,各信頼性指標がC5%以下およびC10%以下の割合を算出した.また,各指標について検査経験および年齢層(18.69歳,70.79歳,80.89歳,90歳以上)別に箱ひげ図を作成し,Wilcoxon順位和検定により比較した.さらに,三つの信頼性指標がすべてC5%またはC10%以下の割合を検査経験および年齢層別に算出し,Fisherの正確検定を用いて比較した.なお,探索的な解析であるため検定における多重性の調整は行わなかった.最後に,固視監視と関連のある因子を同定するために,固視監視(≦10%,>10%)を目的変数とした多変数ロジスティック回帰分析を行い,オッズ比(OR)およびそのC95%信頼区間(CI)を推定した.説明変数には性別,年齢,検査経験,平均偏差(meandeviation:MD)値,検査時間を含めた.検定の有意水準は両側5%とし,すべての統計解析はCSAS割合a(%)未経験者(AIZE-Rapid)(%)5050n=1935%以下の割合4072%4010以下の割合82%3030割合経験者(AIZE-RapidEX)n=9175%以下の割合67%10以下の割合77%2020101000051020406080100(%)051020406080100(%)固定監視固定監視b(%)(%)5050n=1965%以下の割合97%10以下の割合100%403020100c(%)10040302010005102030(%)05102030(%)偽陽性偽陽性(%)100割合404020200005102030(%)05102030(%)偽陰性偽陰性図1信頼性指標の分布a:固視監視.b:偽陽性.c:偽陰性.8060a(%)(%)301007550固視監視20102500未経験者経験者未経験者経験者未経験者経験者未経験者経験者未経験者経験者未経験者経験者経験者18~69歳70~79歳80~89歳90歳以上18~69歳70~79歳80~89歳90歳以上c(%)86420未経験者経験者未経験者経験者未経験者経験者経験者18~69歳70~79歳80~89歳90歳以上図2信頼性指標における検査経験および年齢層間の比較a:固視監視.b:偽陽性.c:偽陰性.偽陰性version9.4(SASInstitute,Inc)を用いて行った.CII結果対象者の人口統計学的および臨床的特性を表1に示す.解析対象のうち,初めてCimovifa(AIZE-Rapid)を受けた未経験者がC196例,3回以上Cimovifa(AIZE-RapidEX)を受けた経験者がC918例であった.男女比は未経験者群でC76例(38.8%):120例(61.2%),経験者群でC324例(35.3%):594例(64.7%)であった.年齢層はC70歳以上の割合が未経験者群でC49.0%(96/196),経験者群でC60.8%(558/918)であり,経験者群のC80歳代では認知症傾向がC7.7%,難聴傾向がC15.4%の割合で含まれた.MD値の中央値は未経験者群でC0.37CdB,経験者群でC0.15CdBであり,検査時間の中央値は両群ともにC2.6分であった.各信頼性指標の値は,0付近に集中するが一部に大きな値をもつ右に裾が長い分布を示した.経験者におけるC10%以下の割合は,固視監視,偽陽性および偽陰性でそれぞれC77%,97%,100%であった(図1).固視監視について,中央値はC1.0.5.5%であり,検査経験間に有意な差はなかったが,経験者においてC18.69歳と比較してC70歳代,80歳代およびC90歳以上の値が有意に高く,年齢が上がるにつれ値がやや高くなる傾向が示された(図2a).偽陽性について,中央値はC0.1.0%であり,18.69歳およびC70歳代において未経験者よりも経験者のほうが有意に値が高かった.年齢層間に有意な差は見られなかった(図2b).偽陰性について,中央値はC0%であり,一部の比較で有意差が見られたが,中央値および平均値に大きな差はなかった(図2c).三つの信頼性指標がすべてC5%またはC10%以下の割合を表2に示す.5%以下の割合は,50.0.74.5%であり,検査経験者間に有意な差はなかったが,経験者においてC18.69歳と比較してC70歳代で有意に低かった.10%以下の割合はC73.0.85.7%であり,検査経験間および年齢層間に有意な差は見られなかった.固視監視(≦10%,>10%)に対して多変数ロジスティック回帰分析を行った結果,関連のある因子は検査経験(OR[95%CCI]:1.52[1.00,2.30],p=0.050)と検査時間(OR[95%CCI]:2.70[1.87,3.91],p<0.001)であり,年齢との関連はみられなかった(表3).CIII考按今回の研究においてCimoCvifaC24plus(1-2)CAIZE-RapidC年齢未経験者(n=193)経験者(n=914)p値未経験者Cvs経験者Cvs18.C69歳(経験者)5%以下18.C69歳74.5%(C73/98)65.9%(C236/358)C0.114C─70.C79歳64.7%(C44/68)55.4%(C176/318)C0.178C0.00680.C89歳70.4%(C19/27)58.7%(C121/206)C0.299C0.10290歳以上C─50.0%(C16/32)C─C0.08318.C69歳85.7%(C84/98)76.8%(C275/358)C0.070C─10%以下70.C79歳77.9%(C53/68)73.0%(C232/318)C0.450C0.24980.C89歳77.8%(C21/27)74.8%(C154/206)C0.817C0.60990歳以上C─75.0%(C24/32)C─C0.828p値:Fisherの正確検定.表3固視監視>10%に対する多変数ロジスティック回帰分析の結果変数固視監視OR[95%CI]p値≦10%(n=867)>10%(n=243)性別男性308(C77.2%)91(C22.8%)CRef.女性559(C78.6%)152(C21.4%)0.94[C0.69,C1.27]C0.678年齢18.C69歳368(C80.5%)89(C19.5%)CRef.70.C79歳298(C77.0%)89(C23.0%)0.97[C0.68,C1.37]C0.84780.C89歳177(C75.6%)57(C24.4%)0.80[C0.53,C1.22]C0.29990歳以上24(C75.0%)8(2C5.0%)0.61[C0.25,C1.48]C0.270検査経験未経験者158(C81.9%)35(C18.1%)CRef.経験者709(C77.3%)208(C22.7%)1.52[C1.00,C2.30]C0.050CMDC1CdB0.5(C.30.5,C4.5)C.0.5(C.26.8,C3.8)1.03[C0.99,C1.07]C0.158検査時間1分2.5(C1.8,C4.9)2.8(C2.0,C4.9)2.70[C1.87,C3.91]<C0.001OR:オッズ比,CI:信頼区間,MD:平均偏差.分類変数:例数(割合).連続変数:中央値(範囲).連続変数に対するオッズ比は,1CdB(MD)またはC1分(検査時間)の増加に伴うオッズの変化を示す.およびCAIZE-RapidEXの信頼性指標を経験の有無別に解析したところ,経験者では各指標がC10%以下の割合は固視監視C77%,偽陽性C97%,偽陰性C100%,5%以下の割合はC67%,87%,99%であった.固視監視は中央値C1.0.5.5%で,経験者においては年齢が上がるにつれて値がやや高くなる傾向にあった.一方,偽陽性・偽陰性の中央値はC0.1.0%・0%と,西田らの報告8)と同様に小さく,imovifa検査の信頼性に大きく関連したのは固視監視であった.すべての信頼性指標がC10%以下である割合はC73.0.85.7%で年齢層間に有意な差はなかった.5%以下の割合はC50.0.74.5%となり,70歳代の経験者で有意に低かった.経験者では慣れによる注意力の低下,あるいは検査結果に対する意識が強くなることからの心理的要因もその一因と考える.80歳代の経験者のC7.7%に認知症の傾向,15.4%に難聴の傾向が見られたが,検査は可能であった.したがって,これらの傾向をもつC80歳以上の高齢者にCimovifaをためらう理由はない.Cimovifa検査の信頼性は固視のいかに大きくよるが,固視監視(≦10%,>10%)を目的変数とした多変数ロジスティック回帰分析を行った結果,年齢・MD値との関連は見られず,検査経験および検査時間と関連した.とくに検査時間ともっとも強く関連した.検査時間は一般的にCAIZE-RapidEXがもっとも短いと考えられるが,今回の解析ではCAIZE-RapidとCAIZE-Rapid-EXの検査時間に差はなかった.固視と検査時間が強く関連するため,今回のデータにおいて,経験者の固視監視の値が大きかったことが検査時間に影響を与えたと考える.本研究において,AIZE-RapidEXの検査時間は中央値片眼C2.6分であった.過去に筆者らはCimoの検査時間と「しんどさ」についてアンケート調査を行い,24plus(1-2)では両眼でC5.6分の検査時間を「しんどい」と回答した例は約15.4%であったことを報告した9).このことより,今回の片眼C2.6分,両眼C5.2分の検査では疲労は少ないと考える.筆者らは緑内障患者に対しC6カ月ごとの受診,視野検査・画像検査などで経過観察することが多い.受診時の視野検査結果の信頼性に疑問が生じた場合,固視点への集中の必要性について強調のうえ,同日引き続いての再検査を促す.短時間検査であるため,患者の理解は得やすく,再検査により正確なデータを得ることがあり,再検査のため,次回診察までの期間を短縮する必要はない.また,24plus(1-2)は中心C10°内の情報も同時に得られるため,6カ月ごとの視野検査で詳細に経過観察できる.今後,高齢の緑内障患者は増加し,視野検査の質的量的需要も増大する.今回の研究は一施設の報告ではあるが,imovifaによる検査は短時間検査であり,その検査結果は年齢とともに認知症や難聴の合併が増加してくる高齢者においても青壮年層と同等の信頼性を示した.また,短時間に信頼性の高い検査結果を得るためには検査に際し,被検者に固視点への集中を強調することがもっとも重要である.高齢者の視野検査に対してもimoCvifa24plus(1-2)AIZE-Rapid,AIZE-Rapid-EXは,その有用性が示唆されるとともに,患者・医療側双方の負担の軽減,ひいては社会保障費としての医療費の軽減にもつながると考える.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20042)HeijlCA,CPatellaCVM,CChongCLXCetal:ACnewCSITACperi-metricCthresholdtestingCalgorithm:constructionCandCaCmulti-centerCclinicalCstudy.CAmCJCOphthalmolC198:154-165,C20193)NomotoH,MatsumotoC,OkuyamaSetal:Anewstaticvisual.eldtestalgorithm:theAmbientInteractiveZEST(AIZE).SciRepC13:14945,C20234)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andHumphrey.eldana-lyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20195)NomotoCH,CMatsumotoCC,CYoshikawaCKCetal:EvaluationCofthevisual.eldtestalgorithm:theAmbientInteractiveZEST-EX(AIZE-EX)C.SciRepC16:5215,C20266)NishijimaE,FukaiK,SanoKetal:ComparativeanalysisofC24-2C,C24-2,CandC10-2CvisualC.eldCtestsCforCdetectingCmild-stageglaucomawithcentralvisualfielddefects.AmJOphthalmolC268:275-284,C20247)北川厚子,清水美智子,山中麻友美ほか:ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較.あたらしい眼科38:1221-1228,C20218)NishidaT,WeinrebRN,AriasJetal:ComparisonoftheTEMPOCbinocularCperimeterCandCHumphreyC.eldCanalyz-er.SciRepC13:21189,C20239)北川厚子,堀口剛,清水美智子ほか:ヘッドマウント型自動視野計におけるC2種のプログラムの検査結果の比較および検査時間に関する患者報告アウトカムの調査.あたらしい眼科38:1090-1096,C2021***

中等度および強度近視患者を対象とした単焦点IPCL® の 多施設臨床試験による安全性と有効性の検証

2026年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(3):319.323,2026c中等度および強度近視患者を対象とした単焦点IPCLRの多施設臨床試験による安全性と有効性の検証木下茂*1山村陽*2北澤世志博*3佐藤泰広*4山本享宏*4新見浩司*5手良向聡*6中野匡*7許斐健二*8増田寛次郎*9*1京都府立医科大学感覚器未来医療学*2医療法人社団聖医会バプテスト眼科クリニック*3医療法人社団豊栄会アイクリニック東京サピアタワー*4医療法人社団泰晴会あおば眼科クリニック*5医療法人社団医新会新見眼科*6京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学*7東京慈恵会医科大学眼科学講座*8慶應義塾大学病院臨床研究推進センター*9東京大学医学部CTheSafetyandE.cacyofMonofocalIPCLRinaMulticenterClinicalTrialforPatientswithModeratetoHighMyopiaShigeruKinoshita1),KiyoshiYamamura2),YoshihiroKitazawa3),YasuhiroSato4),TakahiroYamamoto4),KojiNiimi5),SatoshiTeramukai6),TadashiNakano7),KenjiKonomi8)andKanjiroMasuda9)1)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)BaptistEyeInstitute,MedicalCorporationSeiikai,3)EyeClinicTokyoSapiaTower,4)AobaEyeClinic,MedicalCorporationTaiseikai,5)NiimiEyeInstitute,IshinkaiGroup,6)DepartmentofBiostatistics,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,7)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,8)ClinicalandTranslationalResearchCenter,KeioUniversityHospital,9)FacultyofMedicine,TheUniversityofTokyoC目的:単焦点有水晶体後房レンズ(IPCLCRV2.0)を中等度および強度近視患者に挿入し,有効性および安全性を検討する.対象および方法:中等度および強度の近視もしくは近視性乱視と診断されたC18歳以上C45歳以下の患者にCIPCLRV2.0の挿入手術を行い,手術C12カ月後まで経過観察を行った.結果:手術C12カ月後における第一術眼の遠見裸眼視力がC0.5以上であった研究対象者の割合はC100%で,95%信頼区間の下限がC96.7%であり,信頼区間下限が有効性の閾値として設定したC90%を上回った.IPCLCRV2.0との因果関係が否定できない有害事象で試験中止に至った例はなく,角膜内皮細胞解析データ(細胞密度,変動係数,六角形細胞率)の推移に有意な変動はなかった.結論:単焦点有水晶体後房レンズであるCIPCLCRV2.0を中等度および強度近視患者に挿入し,有効性および安全性を検討した結果,臨床上有用であると考えられた.CPurpose:Themonofocalimplantablephakiccontactlens(IPCLCRV2.0)wasinvestigatedinpatientswithmod-eratetohighmyopia.SubjectsandMethods:Patientsaged18-45years,withmoderatetohighmyopiaormyopicastigmatism,underwentsurgicalimplantationofIPCLRV2.0andwerefollowedupfor12monthspostoperatively.Results:AtC12Cmonths,100%(109/109eyes)ofCtheC.rstCoperatedCeyesCachievedCanCuncorrectedCdistantCvisualCacuityCofC0.5CorCbetter.CTheClowerClimitCofCthe95%Ccon.denceCintervalCwas96.7%,CexceedingCthe90%Ce.cacyCthreshold.NocasesoftrialdiscontinuationduetoadverseeventsthatcouldnotberuledoutascausallyrelatedtoIPCLRV2.0CwereCobserved.CThereCwereCnoCsigni.cantCchangesCinCcornealCendothelialCcellCdensity,Cetc.Cpostopera-tively.Conclusion:Thesafetyande.cacyofIPCLRV2.0,arefractiveintraocularlens,wereevaluatedinpatientswithmoderatetohighmyopia,andtheresultssuggestthatIPCLRV2.0isclinicallyuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(3):319.323,C2026〕Keywords:屈折矯正手術,有水晶体眼内レンズ(IPCL),近視,遠見裸眼視力.refractivesurgery,implantablephakiccontactlens(IPCL)C,myopia,uncorrecteddistantvisualacuity.C〔別刷請求先〕木下茂:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町C465京都府立医科大学感覚器未来医療学Reprintrequests:ShigeruKinoshita,M.D,Ph.D.,DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine.465Kajii-cho,Kawaramachi-doriHirokoji-agaru,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCはじめに近視および乱視などの屈折異常は生活の質(qualityCoflife)に影響を及ぼす.わが国では近視の罹患率が年々増加してきているが1),これらに対する屈折矯正手術による治療の選択肢も以前より増している.ImplantableCphakicCcon-tactlens(IPCLCRV1.0)(CaregroupCSightCSolutionCPrivateLimited社)は,2013年にヨーロッパでCCEマークを取得し,2014年に欧州を中心に発売開始された後房型有水晶体眼内レンズの一つである.これに続きC2017年に発売された表1研究対象者背景性別男性女性年齢(平均C±標準偏差)年齢区分21歳未満21歳以上合併症の有無ありなし併用薬剤の有無ありなし併用療法の有無ありなし全症例(n=109)36例(33.0%)73例(67.0%)C30.3±5.4歳3例(2.8%)106例(97.2%)37例(33.9%)72例(66.1%)69例(63.3%)40例(36.7%)8例(7.3%)101例(92.7%)IPCLRV2.0は中央孔などの形態にCIPCLCRV1.0とは違いがあり,30カ国以上での使用実績がある.レンズの素材は眼内レンズやコンタクトレンズに広く用いられている紫外線吸収剤含有のメタクリル酸C2-ヒドロキシエチル(HEMA)を主成分としたアクリルポリマーである.一方,わが国でこれまでに薬事承認された有水晶体後房レンズはコラーゲンとHEMAを共重合させたコラマー(collamer)を主材料とした1種類だけである2,3).今回,筆者らはCIPCLCRV2.0を用いてC2021年C12月.2023年C9月に臨床治験を実施し,本製品の有効性および安全性を検討したので報告する.CI対象および方法本試験は,非盲検,非対照,多施設共同の臨床試験である.18歳以上C45歳以下の中等度近視および強度近視もしくは近視性乱視と診断された患者に対してCIPCLCRについての説明を行い,自由意思による同意を文書にて取得したものを研究対象者とした.同意取得後,スクリーニング検査で適格性を確認し,症例登録を行った.症例登録からC4.6週間後にCIPCLCRV2.0挿入手術を行った.術前と術後C1時間,1日,1週間,1カ月,3カ月,6カ月,12カ月に評価を行った.有効性における主要評価項目は第一術眼の術後C12カ月における遠見裸眼視力とし,0.5以上(著効もしくは有効)を維持している場合を有効と判断し,その研究対象者の割合を有効率とした.第一術眼は術前裸眼視力で近視度数の強い側の眼とした.近視強度に差がない場合は,研究対象者の状態表2研究対象者背景(眼単位)第一術眼(n=109)第二術眼(n=109)全体(n=218)日常の矯正方法PMMAコンタクトレンズRGPコンタクトレンズソフトコンタクトレンズ眼鏡使用なし等価球面度数による分類中等度近視(C.6.0<.≦C.3.0)強度近視(C.20.0≦.≦C.6.0)乱視の有無による分類近視のみ近視性乱視レンズ交換の有無なしありレンズ抜去の有無なしあり1眼(0C.9%)6眼(5C.5%)90眼(C82.6%)62眼(C56.9%)0眼(0C.0%)3眼(3C.8%)106眼(C97.2%)56眼(C51.4%)53眼(C48.6%)104眼(C95.4%)5眼(4C.6%)109眼(C100.0%)0眼(0C.0%)1眼(0C.9%)6眼(5C.5%)90眼(C82.6%)62眼(C56.9%)0眼(0C.0%)5眼(4C.6%)104眼(C95.4%)55眼(C50.5%)54眼(C49.5%)108眼(C99.1%)1眼(0C.9%)109眼(C100.0%)0眼(0C.0%)2眼(0C.9%)12眼(5C.5%)180眼(C82.6%)124眼(C56.9)0眼(0C.0%)8眼(3C.7%)210眼(C96.3%)111眼(C50.9%)107眼(C49.1%)212眼(C97.2%)6眼(2C.8%)218眼(C100.0%)0眼(0C.0%)表3術後12カ月における第一術眼の遠見裸眼視力全体レンズの軸ずれ調整の(n=109)中等度近視,強度近視別近視および近視性乱視別年齢別有無別レンズ交換の有無別中等度近視強度近視近視近視性乱視21歳未満21歳以上調整あり調整なし交換あり交換なし(n=3)(n=106)(n=56)(n=53)(n=3)(n=106)(n=0)(n=53)(n=5)(n=104)遠見裸眼視力0.5以上(n(%))109(100.0)3(100.0)106(100.0)56(100.0)53(100.0)3(100.0)106(100.0).53(100.0)5(100.0)104(100.),95%信頼区間[下限(%)上限(%)][96.7,100.0][29.2,100.0][96.6,100.0][93.6,100.0][93.3,100.0][29.2,100.0][96.6,100.0][.,─][93.3,100.0][47.8,100.0][96.4,100.0]視力区分(n(%))1.0以上106(97.2)3(100.0)103(97.2)55(98.2)51(96.2)3(100.0)103(97.2)C.51(96.2)5(100.0)101(97.1)0.5以上C3(2.8)0(0.0)3(2.8)1(1.8)2(3.8)0(0.0)3(2.8)C.2(3.8)0(0.0)3(2.9)1.0未満0.1以上C0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)C.0(0.0)0(0.0)0(0.0)0.5未満0.1未満0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)C.0(0.0)0(0.0)0(0.0)を加味し,研究責任医師が手術前に決定した.主要評価項目の有効性に関する有効率(割合)の評価基準(閾値)はC90%とした.安全性評価項目として,角膜内皮細胞解析データ(細胞密度,変動係数,六角形細胞率),角膜内皮細胞密度減少率,有害事象発生率,安全係数を評価した.角膜内皮細胞の変動についてはC1標本Ct検定を用いて比較検定を行った.安全係数は,術後の遠見矯正視力/術前の遠見矯正視力で算出した.また,中等度近視と強度近視,近視と近視性乱視,年齢区分(21歳未満とC21歳以上),レンズ軸ずれ調整の有無,レンズ交換(交換理由:レンズ誤挿入,低矯正,レンズ反転(表裏逆)にて挿入)の有無,それぞれをサブグループとして有効性の評価を行った.なお,本試験は医療法人康雄会西病院治験審査委員会と,新赤坂クリニック治験審査委員会の承認のもと,ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする生物学的研究に携わる医師のための勧告)に基づく倫理的原則,医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令,および医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令のガイダンスを遵守して実施した.CII結果研究対象者の背景について表1に示す.性別は男性C36例(33.0%),女性C73人(67.0%),平均年齢はC30.3C±5.4歳,手術対象となった眼数はC218眼であった.このうち,第一術眼における近視のみはC56眼,近視性乱視はC53眼であった.眼単位の背景情報について表2に示す.等価球面度数による分類は第一術眼で,中等度近視がC3眼(2.8%),強度近視がC106眼(97.2%)であった.主要評価項目である術後C12カ月における第一術眼の遠見裸眼視力がC0.5以上(著効もしくは有効)であった割合は100%(109/109眼)であった.両側C95%信頼区間(confi-denceinterval:CI)は下限がC96.7%,上限がC100%であり,CIの下限が有効性の閾値として設定したC90%を上回った(表3).また,サブグループ別にみても結果に差異がなかった.安全性については,IPCLCRV2.0との因果関係が否定できない有害事象の発生率はC11.9%(13/109例),因果関係が否定できない有害事象は,光視症C6例,一過性の眼圧上昇C2例,レンズの軸ずれC2例,霧視C1例,視力障害C1例,術後水晶体のフィブリン沈着および前房蓄膿C1例,瞳孔捕獲C1例であった(同一症例に重複あり).このうち重篤な有害事象は1/109例(0.9%)で,術後水晶体前.へのフィブリン沈着および前房蓄膿であった.本症例を含め,レンズ検査や試験中止に至った有害事象はなかった.CIPCLRV2.0挿入後の角膜内皮細胞密度の変動,および術前からの変化率について表4に示す.第一術眼および第二術表4角膜内皮細細胞密度の推移第一術眼n=109第二術眼n=109Actual(cells/mmC2)%CChangefromBLActual(cells/mmC2)%CChangefromBLCBaselinenC平均±標準偏差C手術C1カ月後nC平均±標準偏差Cp値*C手術C3カ月後nC平均±標準偏差Cp値*C手術C6カ月後nC平均±標準偏差Cp値*C手術C12カ月後nC平均±標準偏差Cp値*C109C2678.9±207.0C107C107C2644.2±244.2C.1.104±6.652C0.089105C105C2693.9±233.9C0.707±6.559C0.272106C106C2668.2±230.0)C.0.530±6.124C0.375106C106C2688.4±257.9C0.325±7.655C0.6631092663.9±220.4109C1092636.6±219.9C.0.845±6.114106C1062678.3±239.4C0.359±6.776107C1072660.7±218.2C.0.130±6.455106C1062685.2±203.7C0.761±5.984*1標本Ct検定によるCp値(Baselineからの変化なし(0%)を帰無仮説とする)眼は,それぞれC2678.9C±207.0cells/mm2およびC2,663.9C±220.4Ccells/mm2,術後C12カ月までの平均の変動範囲は第一術眼でC2,644.2.2,693.9cells/mmC2,第二術眼でC2,636.6.C2,685.2Ccells/mm2であり,有意な変動は認めなかった.変化率の平均は,第一術眼でC.1.104.0.707%,第二術眼でC.0.845.0.761%で推移しており,術前(ベースライン)からの変化なし(0%)を帰無仮説としたC1標本Ct検定の結果,有意差は認められなかった(術後C1カ月;p=0.089,術後C3カ月:p=0.272,術後C6カ月:p=0.375,術後C12カ月:p=0.663).第一術眼および第二術眼の安全係数は,術後C1日でそれぞれ,1.09〔95%CCI:1.06,1.12〕,1.08〔95%CCI:1.06,1.11〕であり,術後C12カ月は両眼ともに,1.12〔95%CCI:1.09,1.16〕であった.術後C1日から術後C12カ月までの推移は第一術眼でC1.08.1.12,第二術眼でC1.07.1.12で推移した.全体の安全係数も同様に,1.08.1.12で推移した.CIII考察本試験では房水循環を可能とする貫通孔付きの後房型の眼内レンズであるCIPCLCRV2.0を中等度および強度近視と近視性乱視患者に対して挿入し,その有効性と安全性を検証した.遠見裸眼視力は術後C1日から回復がみられ,その改善が術後C12カ月まで継続した.また,術後C12カ月における遠見裸眼視力C0.5以上の占める割合はC100%であった.これらの結果により,中等度および強度近視と近視性乱視患者に対するCIPCLCRV2.0の有効性は,既承認品と少なくとも同等レベルにあると考えられた4).さらに,手術前の近視度数の程度,近視性乱視度数の程度,あるいは手術時年齢,手術にかかわるレンズ軸ずれ調整,レンズ交換といった状況に影響されず,手術後に視力回復が見込めることが示された.安全性においては,IPCLCRV2.0との因果関係が否定できない重篤な有害事象として,術後水晶体のフィブリン沈着および前房蓄膿がC1例に発生したが,本事象については前房洗浄と薬剤投与(ステロイド,抗菌薬の投与)により治癒し,術後視力低下も認めなかった.また,上記有害事象のCGradeはC2であり,試験中止には至らなかった.一方,瞳孔捕獲の転帰は,消失せずまたは不変であったがCGradeはC1であり,同様に試験中止には至らなかった.一般的な有水晶体眼内レンズでは術後合併症として眼圧上昇,光視症などが報告されている5).本試験でも上記の症状はみられたが,Grade1が主であり,Grade3以上の事象はなかった.そのため,CIPCLRV2.0挿入時の術後合併症は軽微であり,安全性上大きな問題なく使用できると考えられた.角膜内皮細胞について,細胞密度は術前と比較して術後C12カ月まで有意な減少はみられず,変動係数についても術後C12カ月まで大きな変動はみられなかった.安全係数についても術後C1日.術後12カ月まで,第一術眼,第二術眼ともに大きな変動はみられなかった.Elkareemらは,IPCLCRV2.0をC32人に挿入し,最大C12カ月観察した結果,角膜内皮細胞密度の減少に有意差がなかったこと,安全係数がC1.5であったことを報告している6).本試験においても同様の結果が得られたことにより,わが国の対象者に対してもCIPCLCRV2.0の安全性が確認されたと考えられる.CIV結語房水が循環できる貫通孔付きの後房型眼内レンズとして開発されたCIPCLCRV2.0を中等度および強度近視眼に挿入し,有効性および安全性を検討した結果,臨床上有用であるとの検証が得られた.謝辞:本試験の遂行にあたり,エイツーヘルスケア株式会社の平野慎太郎氏にデータの解析でご協力をいただきました.心より感謝申し上げます.利益相反:木下茂(カテゴリーF:千寿製薬,持田製薬,AurionBiotec,Eye-Lens,カテゴリーCR:AurionBiotec,カテゴリーP)文献1)川崎良,大野京子:増加する近視・強度近視.医学のあゆみ253:159-161,C20152)独立行政法人医薬品医療機器総合機構:審査報告書.ttps:C//www.pmda.go.jp/medical_devices/2009/M200900014/23C0228000_22200BZY00001000_R100_2.pdf3)KSアクアポートCR(スターサージカル株式会社)添付文書.Chttps://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDaCtaSetPDF/230228_22600BZX00085000_1_11_014)SubudhiP,PatroS,KhanZetal:RefractiveoutcomesofimplantationofanimplantablephakiccopolymerlenswithCperipheralCholesCinCtheCintraocularCposteriorCchamberCinCmoderateCtohighCmyopiaCpatients:aCsingle-surgeonCseries.ClinOphthalmolC13:1887-1894,C20195)日本眼科学会屈折矯正委員会:屈折矯正手術のガイドライン(第C7版).日眼会誌123:167-169,C20196)ElkareemAMG,NooreldinA:VisualandsafetyoutcomesofanewimplantablephakiccontactlensinpatientswithaChighCdegreeCofCmyopia.CDeltaCJournalCofCOphthalmologyC22:192-200,C2021***

GLP-1 受容体作動薬利用中の糖尿病患者に発症した 前部虚血性視神経症の1 例

2026年3月31日 火曜日

《第31回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科43(3):314.318,2026cGLP-1受容体作動薬利用中の糖尿病患者に発症した前部虚血性視神経症の1例山口順平*1山﨑智幸*1釣谷大輔*2兼子裕規*1*1浜松医科大学眼科*2浜松医科大学内分泌代謝内科CACaseofAnteriorIschemicOpticNeuropathyinaDiabeticPatientUsingGLP-1ReceptorAgonistsJumpeiYamaguchi1),TomoyukiYamazaki1),DaisukeTsuriya2)andHirokiKaneko1)1)DepartmentofOphthalmology,HamamatsuUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofEndocrinologyandMetabolism,HamamatsuUniversitySchoolofMedicineC背景:GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は,血糖降下に加え心血管イベント抑制や体重減少効果も有することから広く使用されている.一方で,近年その使用と非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)との関連が報告され,眼科的安全性への関心が高まっている.症例:78歳,男性.糖尿病,睡眠時無呼吸症候群,喫煙歴など複数のCNAIONリスク因子を有し,デュラグルチド投与中に左眼のCNAIONを発症した.起床時に視野狭窄を自覚した.受診時矯正視力は右眼(0.8),左眼(0.8)と保たれていたが,左眼視神経乳頭腫脹,左眼で水平経線を境界とする視野障害など典型的な所見を認めた.保存的加療されたが,視力,視野はほとんど変化なく経過した.結論:GLP-1RAとCNAIONとの直接的因果関係は不明だが,高リスク患者においては内科医と連携し,個々の患者背景に応じて診療を行うことが重要である.CBackground:Glucagon-likepeptide-1receptoragonists(GLP-1RA)arewidelyusedfortype2diabetesduetoCbene.tsCinCglycemicCcontrol,CcardiovascularCprotection,CandCweightCreduction.CRecently,CpotentialCassociationsCwithnon-arteriticanteriorischemicopticneuropathy(NAION)haveraisedophthalmicsafetyconcerns.CasePre-sentation:A78-year-oldmanwithdiabetes,obstructivesleepapnea,andahistoryofsmokingdevelopedNAIONinhislefteyewhileondulaglutide.Henoticedvisual.eldlossuponwaking.Best-correctedvisualacuitywas0.8bilaterally.CExaminationCshowedCleft-eyeCopticCdiscCswellingCandCaCvisualC.eldCdefectCrespectingCtheChorizontalCmeridian,CconsistentCwithCNAION.CConservativeCmanagementCwasCselected,CwithCstableCvisualCfunctionCoverCtime.CConclusion:WhileacausallinkbetweenGLP-1RAsandNAIONremainsuncon.rmed,ophthalmologistsshouldbeawareofthispotentialriskandconsidero.eringappropriateadviceorevaluationwhenGLP-1RAtherapyisbeinginitiatedinhigh-riskindividuals.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(3):314.318,C2026〕Keywords:GLP1受容体作動薬,非動脈炎性前部虚血性視神経症,デュラグルチド.glucagon-likepeptide-1re-ceptoragonists,non-arteriticanteriorischemicopticneuropathy,dulaglutide.Cはじめに2型糖尿病に対する薬物療法は近年著しく進歩しており,とりわけグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(glucagon-likepeptide-1receptoragonists:GLP-1RA)は,血糖コントロール効果に加え,体重減少や心血管イベント抑制といった多面的な有用性を有することから,国内外で幅広く使用されるようになっている1).GLP-1RAは膵Cb細胞におけるインスリン分泌促進,グルカゴン分泌抑制,胃排出遅延,食欲抑制などの作用を通じて血糖を低下させるほか,血管内皮細胞や平滑筋細胞に発現するCGLP-1受容体を介して血管拡張やナトリウム利尿などの血圧降下作用を示すことも報告されている2,3).〔別刷請求先〕山口順平:〒432-8580静岡県浜松市中央区冨塚町C328浜松医療センター眼科Reprintrequests:JumpeiYamaguchi,DepartmentofOphthalmology,HamamatsuMedicalCenter,Tomitsuka,Tyuou-ku,Hamamatsu-shi,Shizuoka,432-8580JAPANC314(86)図1初診時の眼底写真a:右眼.b:左眼.境界不鮮明な蒼白様の視神経乳頭腫脹を認める.一方,GLP-1RAの眼科的安全性については未解明な部分も多く,近年になってようやく視神経障害との関連が報告され始めている.とくに,非動脈炎性前部虚血性視神経症(non-arteriticCanteriorCischemicopticCneuropathy:NAION)との関連に関しては注目が集まっている.NAIONは,視神経乳頭部の虚血により急性の視野障害を生じる疾患であり,人口C10万人あたり年間C2.10人程度の発症率とされ,50歳以上に好発する視神経障害のなかでも比較的頻度の高い疾患である4).2024年にCHathawayらは,セマグルチド使用者におけるNAIONのリスクを大規模データを用いて後ろ向きに検証した5).報告のなかでは,セマグルチド使用群ではCNAIONの累積発症率が非使用群と比較して有意に高いという結果が示された.この結果は,GLP-1RAのうちとくにセマグルチドの使用がCNAIONの発症に影響を及ぼす可能性を示唆しており,今後さらなる機序解明とリスク評価が求められる.NAIONは発症後早期から不可逆的な視機能障害を残すことが多く,治療介入が困難であるため,発症リスク因子の評価と予防が重要である.本稿では,GLP-1RA(デュラグルチド)使用中にCNAIONを発症した糖尿病患者のC1例を報告する.CI症例患者:78歳,男性.主訴:起床時の左眼視野狭窄.現病歴:糖尿病に対し内分泌内科と眼科を定期受診していた.受診C3日前の起床時に左眼の視野狭窄を自覚して来院した.発症から来院時まで症状の変化はなかった.既往歴:大腿骨骨頭虚血,右内頸動脈狭窄(バイアスピリン内服),閉塞性睡眠時無呼吸症候群.糖尿病治療歴:X-18年より治療介入開始,X-2年C7月よりGLP-1RAデュラグルチドC0.75Cmg皮下注射を導入していた.眼科既往歴:X-4年に左眼霧視を自覚して初診.糖尿病網膜症なし(noCdiabeticretinopathy:NDR)および白内障と診断されたものの,白内障手術は希望がなく経過観察されていた.内服歴:メトホルミン塩酸塩C1,000Cmg,グリメピリドC1mg,カナグリフロジン水和物C100Cmg,プラスグレル塩酸塩3.75Cmg,ロスバスタチンカルシウムC5Cmg,ビソプロロールフマル酸C2.5Cmg,アムロジピンベシル酸塩C5Cmg,エゼチミブC10Cmg,酸化マグネシウムC990Cmg,バイアスピリンC100Cmgアレルギー:なし.生活歴:機会飲酒,喫煙C10本/日(18歳より継続).発症後初診時の所見:矯正視力は右眼(0.8C×sph.2.75D(cyl.1.00DAx115°),左眼(0.8C×sph.1.50D(cyl.1.50CDAx85°).眼圧は右眼13.5mmHg,左眼14.0mmHg.相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)陽性.眼球運動制限や頭痛,顎跛行,側頭動脈の圧痛は認められなかった.図1に左眼のCNAION発症早期のカラー眼底写真を示す.右眼では視神経乳頭の境界は明瞭であり,明らかな異常所見は認められなかった.一方,左眼では視神経乳頭全体が腫脹しており,乳頭辺縁は不鮮明で,とくに鼻側において隆起が著明であった.乳頭周囲には出血や滲出斑を伴わず,網膜血管の蛇行やうっ血所見も明らかではなかった.左眼視神経乳頭部の光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)の結果を図2aに示す.視神経乳頭の明らかな腫脹が認められ,乳頭辺縁が不鮮明であった.図2左眼視神経乳頭部のOCT画像の経時的変化a:初診時.視神経乳頭周囲の網膜神経線維層(RNFL)に著明な腫脹を認める.Cb:初診後C14カ月.RNFLの腫脹は消失し,網膜の菲薄化を認める.図3動的視野検査結果(Goldmann視野計)a:左眼.求心性視野障害を認める.b:右眼.対応する断層像では,網膜神経線維層(retinalCnerveC.berCTでは脳圧亢進を示唆する所見や腫瘍性病変を認めず,粗layer:RNFL)の著明な肥厚が観察され,急性期のCNAION大な梗塞も確認されなかった.の乳頭浮腫所見として矛盾しない所見であった.血液検査:炎症反応軽度上昇(CRP:0.71Cmg/dl,血沈C1初診日のCGoldmann視野検査の結果を図3に,Humphrey時間値:46mm),抗核抗体,抗好中球細胞質抗体(anti-視野検査の結果を図4a,bに示す.右眼では明らかな異常所neutrophilCcytoplasmicCantibody:ANCA),抗カルジオリ見を認めなかったものの,左眼で求心性視野障害を認め,鼻ピン抗体は陰性だった.動脈炎を強く示唆する所見はなく,下側では水平経線を境界とする感度低下を示していた.頭部NAIONと診断した.図4静的視野検査結果(Humphrey視野計24-2)a:初診時の左眼.求心性視野障害と鼻側の水平経線を境界とする下方の暗点を認める.Cb:初診時の右眼.Cc:初診後C10カ月の左眼.初診時と比較してわずかな改善を認めるものの,視野障害は依然として残存している.d:初診後C10カ月の右眼.治療と経過:治療としてメコバラミンC1,500Cμg/日を処方し,経過観察とした.矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.8p)で推移し,眼圧は両眼ともC10.14CmmHgの範囲内で安定していた.経過中,中心CFlicker値では両眼とも正常範囲内を維持していた.初診後C10カ月の視野検査結果を図4c,dに示す.右眼の視野に異常がなく,左眼の視野には一部改善を認めた.同時期に小脳梗塞により入院加療され,後遺症なく改善している.初診からC14カ月後の左眼視神経乳頭部のOCTを図2bに示す.視神経乳頭の腫脹は消失し,乳頭辺縁は明瞭となっていた.RNFLの浮腫性肥厚は消失し,鼻側では萎縮による網膜の菲薄化を認めた.初診からC18カ月後の最終受診時でも左眼の視野は「変わらず」と自覚しており,視力も大きな変化を認めなかった.CII考按本症例は,GLP-1RA(デュラグルチド)を使用中の糖尿病患者に発症したCNAIONの一例である.患者は,糖尿病や睡眠時無呼吸症候群,右内頸動脈狭窄,喫煙歴といった既知のNAIONのリスク因子6)を複数有していた.視力は比較的保たれていたものの,急性期には視神経乳頭腫脹,RAPD陽性および水平経線を境界とした視野欠損を認めた.頭蓋内疾患や血管炎,炎症性疾患などの除外を行ったうえで保存的加療を行い,視機能は慢性期にかけて著変ない経過をたどった.発症の様式および視野の変化はCNAIONとして典型的であり,とくに下方を中心とした視野狭窄と乳頭腫脹の所見は診断の根拠となった.初診時の左眼視野(図4a)では,中心性視野狭窄,鼻側下方の暗点を認めたが,一部垂直経線に沿って暗点が存在したため視覚野病変の鑑別も考慮した.頭部画像検査で特記所見なく経過とともに改善を示したことから,検査初回による偽陰性反応や集中力低下が影響したと考えられる.10カ月後の視野(図4c)では,下方視野にわずかな改善を認めた.これは神経浮腫の軽減や視神経機能の一部回復,もしくは検査の再現性向上による見かけ上の改善である可能性がある.OCT画像においても初期に視神経乳頭の腫脹と鼻側優位の神経線維層の浮腫性肥厚を認め,時間の経過とともに改善が確認された.視野障害は完全な回復には至らなかったものの進行はなく,定型的なCNAIONの経過を示した.本報告は一症例の観察に基づくものであり,GLP-1RAとNAION発症との因果関係を直接的に示すものではない.加えて,本症例では既知のCNAIONのリスク因子を多く有しており,GLP-1RAが発症に関与したかどうかを単独で評価することはできない.近年では,GLP-1RAとCNAIONとの関連を示唆する報告が散見されており,とくにセマグルチドに関して報告がなされている7,8).逆に関連がないとする報告もある9).罹患率が10万対C2.10人と低いことから,NAIONの予防のためにセマグルチドを制限する必要はないとも報告されている10).また,GLP-1RAにはさまざまな種類があり,その活性や作用持続時間は天然CGLP-1との類似性や構造修飾の有無によって異なる.NAIONのリスク増加との関連が報告されているセマグルチドは,GLP-1RAのなかでもとくに薬効が強く,体重減少効果にも優れる薬剤である.一方で,本症例のような高齢者や肥満を伴わない患者では,より安全性が高いとされるデュラグルチドが選択されることが多い.GLP-1RAとNAIONの関連を検討した一連の報告は,GLP-1RAの一部が視神経の灌流に影響を及ぼす可能性を示唆している.発症機序の一つとして,GLP-1RAの降圧作用を介した夜間低血圧の誘発がCNAIONの背景因子となりうることが考えられる.夜間低血圧は以前からCNAIONのリスク因子として知られており,GLP-1RAがほかの糖尿病治療薬に比べて夜間の血圧に与える影響が大きい可能性がある.ただし,同様に降圧作用を有するCsodium-glucoseCcotrans-porter2(SGLT2)阻害薬では,NAIONの発症リスク上昇はなく11),GLP-1RAと視神経循環との関係についてはさらなる検討が必要である.NAIONは一度発症すると不可逆的な視機能障害を残すことが多く,予防がきわめて重要である.本症例のように複数のリスク因子が重複する状況では,GLP-1RAの使用にあたって眼科的視点を加味した包括的な患者評価が望まれる.現時点では,GLP-1RAとCNAIONとの因果関係については議論が分かれており,関係を支持する報告と否定的な報告が混在している.したがって,使用を制限する根拠は不十分と考えられるが,内科医との連携を強化し,個々の患者背景に応じた診療を行うことが重要である.利益相反:兼子裕規(カテゴリーCR:参天製薬,バイエル薬品,ノバルティスファーマ,エイエムオージャパン,HOYA,日本アルコン,中外製薬,興和株式会社,千寿製薬,カテゴリーF:千寿製薬,エイエムオージャパン)文献1)日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドラインC2024.Cp95-97,南江堂,20242)DruckerDJ:MechanismsCofCActionCandCTherapeuticCApplicationCofCGlucagon-likeCPeptide-1.CCellCMetabC27:C740-756,C20183)NauckMA,MeierJJ:Theincretine.ectinhealthyindi-vidualsCandCthoseCwithCtypeC2diabetes:physiology,Cpathophysiology,CandCresponseCtoCtherapeuticCinterven-tions.LancetDiabetesEndocrinolC4:525-536,C20164)MillerNR,ArnoldAC:Currentconceptsinthediagnosis,pathogenesisCandCmanagementCofCnonarteriticCanteriorischaemicopticneuropathy.Eye(Lond)C29:65-79,C20155)HathawayJT,ShahMP,HathawayDBetal:Riskofnon-arteriticCanteriorCischemicCopticCneuropathyCinCpatientsCprescribedsemaglutide.JAMAOphthalmolC142:732-739,C20246)KimDH,ShinGR,ChoiYJ:Riskfactorsfornon-arteriticanteriorCischaemicCopticCneuropathyCinCaCKoreanCpopula-tion.NeuroophthalmologyC41:68-75,C20177)HsuAY,KuoHT,WangYHetal:Semaglutideandnon-arteriticCanteriorCischemicCopticCneuropathyCriskCamongCpatientsCwithCdiabetes.CJAMACOphthalmolC143:400-407,C20258)KatzCBJ,CLeeCMS,CLinco.NS:OphthalmicCcomplicationsCassociatedCwithCtheCantidiabeticCdrugsCsemaglutideCandCtirzepatide.JAMAOphthalmolC143:215-220,C20259)EtminanCM,CSodhiCM,CMaberleyD:GLP-1CRAsCandCnon-arteriticanteriorischemicopticneuropathy-makingsenseofthedata.JAMAOphthalmolC143:220-221,C202510)ChouCCC,CPanCSY,CSheenCYJCetal:AssociationCbetweenCsemaglutideCandCnonarteriticCanteriorCischemicCopticCneu-ropathy:amultinationalpopulation-basedstudy.Ophthal-mologyC132:381-388,C202511)SimonsenCE,CLundCLC,CErnstCMTCetal:UseCofCsemaglu-tideandriskofnon-arteriticanteriorischemicopticneu-ropathy:ACDanish-NorwegianCcohortCstudy.CDiabetesCObesMetabC27:3094-3103,C2025

糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に特異な眼内炎症を 生じた1 例

2026年3月31日 火曜日

《第31回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科43(3):309.313,2026c糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に特異な眼内炎症を生じた1例浅野瑠那*1佐藤孝樹*1五味文*1松本優輔*2*1兵庫医科大学眼科学教室*2川西まつもと眼科CACaseofIntraocularIn.ammationAfterVitrectomyforDiabeticRetinopathywithaChallengingDiagnosisRunaAsano1),TakakiSato1),FumiGomi1)andYusukeMatsumoto2)C1)DepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversity,2)KawanishiMatsumotoEyeClinicC目的:増殖糖尿病網膜症(PDR)に続発する硝子体出血に対して硝子体手術(PPV)を施行後に生じた,眼内炎のC1例を報告する.症例:53歳,男性.両眼硝子体出血で近医より紹介となる.両眼の白内障併用硝子体手術を施行し,術後C1カ月時に右眼前房炎症および硝子体混濁の増悪を認め,ステロイドCTenon.下注射を施行.反応性に乏しく,術後C2カ月に再度CPPVを施行した.術後硝子体混濁は軽度改善したものの持続し,牽引性網膜.離が出現したため,2回め手術からC1.5カ月後に再度CPPVを施行した.術中に網膜面の広範囲にフィブリン索状物を認めた.3回めの手術では組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)硝子体内注入とシリコーンオイル注入を行い,(0.3)までの視力改善を得た.結論:PDRのCPPV術後炎症は劇症化することがあり,フィブリン索状物を広範囲に認める炎症には,t-PAとシリコーンオイル硝子体内注入が有効であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCintraocularCin.ammationCfollowingCparsplanaCvitrectomy(PPV)forCvitreousChemorrhagesecondarytoproliferativediabeticretinopathy(PDR)C.CaseReport:A53-year-oldmanwasreferredwithbilateralvitreoushemorrhage.HeunderwentcombinedcataractsurgeryandPPVinbotheyes.At1-monthpostoperative,CtheCrightCeyeCshowedCworseningCanteriorCchamberCin.ammationCandCvitreousCopacity,CandCaCsub-Tenonsteroidinjectionwasadministered.Duetopoorresponse,asecondPPVwasperformedat2-monthspostop-erative.CAlthoughCvitreousCopacityCmildlyCimproved,CitCpersistedCandCtractionalCretinalCdetachmentCdeveloped.CACthirdPPVwasperformed1.5-monthslater,revealingextensive.brinoidbandsontheretinalsurface.IntravitrealinjectionCofCtissueCplasminogenactivator(t-PA)andCsiliconeCoilCwasCperformed,CleadingCtoCvisualCimprovementCto(0.3)C.Conclusion:PostoperativeCin.ammationCafterCPPVCforCPDRCcanCbecomeCsevere.CInCcasesCwithCwidespreadC.brinoidbands,intravitrealt-PAandsiliconeoilinjectionmaybee.ectivetherapeuticoptions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(3):309.313,C2026〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,フィブリン索状物,牽引性網膜.離.proliferativediabeticretinopathy,.brinoidbands,tractionretinaldetachment.Cはじめに硝子体手術後に高度な眼内炎症を認めた場合,視力予後に深刻な影響を及ぼす重大な合併症としてまず疑う必要があるのは感染性眼内炎であるが,その頻度はC0.02.0.04%と非常にまれである1,2).手術に関係して起こる眼内炎の鑑別疾患としては,ほかに交感性眼炎などがあり,手術と無関係に生じるものの鑑別としては内因性眼内炎,ぶどう膜炎など多岐にわたる.今回,鑑別に苦慮した,糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に生じた眼内炎症のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:53歳,男性.主訴:左眼霧視.〔別刷請求先〕浅野瑠那:〒660-8550兵庫県尼崎市東難波町C2-17-77兵庫県立尼崎総合医療センター眼科Reprintrequests:RunaAsano,M.D.,DepartmentOfOphthalmology,HyogoPrefecturalAmagasakiGeneralMedicalCenter,2-17-77Higashinaniwacho,AmagasakiShi,HyogoKen,660-8550,JAPANC図1初回手術時の術中眼底所見右眼眼底(Ca)と左眼眼底(Cb)ともに視神経乳頭近傍に白色浮遊塊(.)を認める.既往歴:2型糖尿病(HbA1c:7.7%),高脂血症,前立腺肥大症.現病歴:左眼の霧視を主訴に近医受診し,両眼増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)と,それに続発する左眼硝子体出血と診断された.左眼は経過観察され,右眼は汎網膜光凝固術を開始された.経過中に右眼にも同様の硝子体出血を認めたため,近医初診からC1カ月後に手術加療目的に兵庫医科大学病院眼科(以下,当科)に紹介となった.初診時所見:右眼視力C0.02(矯正不能),左眼視力C0.02(矯正不能).眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C12CmmHg.前眼部は右眼に前房炎症と虹彩後癒着があり,中間透光体は両眼に軽度の白内障と硝子体混濁を認め,眼底は両眼透見困難であった.超音波CBモードでは両眼とも硝子体混濁を認め,明らかな網膜.離は認めなかった.経過:両眼ともCPDRからの硝子体出血と考え,水晶体再建術併用の硝子体手術の予定とし,右眼は前房炎症を認めたため,消炎後に手術を行う予定とした.まず,左眼の手術を施行し,2週間後に前房炎症の消退を確認して右眼の手術を施行した.術中所見では両眼ともに黄斑周囲の増殖膜と視神経乳頭近傍に白色浮遊塊を認めた(図1).右眼は一部網膜光凝固術を近医で施行されており,術中の網膜光凝固数は右眼538発,左眼C908発であった.術直後は右眼矯正視力(0.15),左眼視力C0.15(矯正不能)で眼底透見性は良好であり,眼内にフィブリンを認めなかった.退院後は紹介元で経過観察となった.右眼の初回手術からC1カ月後に右眼硝子体混濁をきたし,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection:STTA)が施行された.初回手術からC2カ月後に右眼矯正視力が(0.01)に低下し,硝子体混濁の増悪を認めたため,当科再紹介となった.採血検査および全身検査で非感染性ぶどう膜炎を疑う所C310あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026見を認めず,2回めの右眼硝子体手術を施行した.術中所見では耳側下方の網膜に白色沈着物,視神経乳頭周囲に増殖膜の再形成を認めた(図2).感染症の可能性も否定できないため,硝子体ポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreac-tion:PCR)を提出した.術後視力は右眼矯正視力(0.125)で,眼底は明らかな網膜上膜やそれによる牽引は認めず(図3),硝子体混濁の軽度改善を認めた.術後C1週間で硝子体PCRからCCandidaalbicans(4.06Ccopies/μg)が検出されたため,抗真菌薬の全身投与を開始した.抗真菌薬投与開始後も眼底透見性の改善は乏しく,2回め手術より約C1.5カ月後に牽引性網膜.離を認めたため(図3),3回めの右眼硝子体手術を施行した.術中所見では網膜前面に広範にフィブリン索状物を認めた(図4).フィブリン索状物を除去し,組織プラスミノーゲン活性化因子(tissueCplasminogenactivator:t-PA)硝子体内注入とシリコーンオイル注入を行った.術直後は前房蓄膿と前房内フィブリンを認めたが,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼C1日C6回で徐々に改善し,術後C1週間で前房蓄膿は消失した.術後C2カ月で右眼矯正視力(0.3)まで改善した.眼底中間部にフィブリン索状物の再増殖を,OCTでは黄斑部に網膜の軽度肥厚を認めたものの,硝子体出血および網膜.離の再発はなかった(図5).今回の経過中に左眼に炎症所見は認めなかった.CII考按糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に生じる眼内炎症には,さまざまなものがある.手術による影響としては,術後感染性眼内炎や交感性眼炎などがあげられる.術後感染性眼内炎はおもに視力低下,前房蓄膿,結膜・毛様充血,眼痛の症状を呈する.細菌性眼内炎の場合は,術後数日で急性発症し,起因菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が主である.真菌性眼内炎の場合は,数日から数週間にかけての亜急性に症状(82)図2右眼2回め手術時の術中眼底所見a:乳頭周囲の増殖膜(C△).b:耳側下方の網膜に白色沈着物(.)を呈する.術後の真菌性眼内炎は細菌性眼内炎と比較してまれであり,所見としては前房・硝子体内に白色塊を生じるのが特徴である3).交感性眼炎は手術後C2週間.数年後に発症し,患者のC80%はC3カ月以内に,90%はC1年以内に発症する.臨床所見はCVogt-小柳-原田病と類似し,眼内炎症と漿液性網膜.離を認める4).また,術後と無関係で糖尿病患者に生じる眼内炎症としては,内因性眼内炎や糖尿病性ぶどう膜炎がある.内因性眼内炎は他臓器から血行に乗って眼内に感染するため,後部ぶどう膜炎から始まることが多く,感染が進行するにつれて網膜から硝子体,前眼部に炎症所見が出現する.糖尿病性ぶどう膜炎ではおもに前部ぶどう膜炎の所見を呈し,多くはC3カ月以内に消退して視力にはほとんど影響しないといわれている6).本症例は,再手術時の硝子体液のCPCRにおいて真菌を認めた.眼内炎症所見は高度なフィブリン索状物の析出を特徴としており,真菌性眼内炎に特徴的な所見ではなかった.抗真菌薬による治療を行ったが,治療に抵抗性があり,PCRによる検出も微量であったことからコンタミネーションの可能性も否定できないと考えられた.また,交感性眼炎については,本症例ではフィブリン索状物が析出し,Vogt-小柳-原田病と類似した漿液性網膜.離所見を認めないことから否定的である.内因性眼内炎については,経過中に全身症状がなく,血液検査で炎症反応やCb-Dグルカンの上昇も認めなかったことから否定的と考える.糖尿病性ぶどう膜炎は,前房内の炎症を特徴とし,今回の症例は後眼部に高度な炎症を生じていることから否定的と考える.本症例の眼内炎症の特徴として,高度なフィブリン索状物の析出があげられる.糖尿病網膜症患者に対する硝子体手術後に,網膜表面および硝子体内にフィブリン索状物が発生し最終的に牽引性網膜.離に進行することがあり,Sebestyenらはこれを,硝子体手術を施行した糖尿病網膜症患者の15/280例で生じたまれな合併症として報告した7).この病図3OCT画像a:右眼C2回め手術直後.Cb:約C1.5カ月後.図4右眼3回め手術時の術中眼底所見網膜前面に広範にフィブリン索状物を認める.図5右眼3回め術後より2カ月後のカラー眼底写真(a)とOCT画像(b)網膜面にフィブリン索状物の再増殖を認める(.).態では,術後眼内炎と異なり一般的に眼痛や重度の前眼部炎症を伴わない8).糖尿病網膜症患者の硝子体手術後において,硝子体内フィブリン索状物は術後C2.3日の早期に生じるものもあれば,術後C3.8週間後の晩期に生じることもある9).Luoらは多くの場合にフィブリン索状物は一般的な術後ステロイド点眼(プレドニゾロン酢酸エステルをC1日C4回点眼.2,3時間ごとの点眼)の継続によりC1.2週間で消失すると報告している8).両眼の糖尿病網膜症に硝子体手術を行った場合,フィブリン索状物が片眼のみで生じた報告もあれば,両眼で生じたという報告もある8,10).本症例との共通点としては,眼痛や重度の前眼部炎症を伴っていないこと,糖尿病網膜症の硝子体手術後であること,術中に網膜光凝固術を施行しているという点があげられる.病態は不明であるが,網膜光凝固術は糖尿病患者の硝子体内の炎症性サイトカインを増加させることが報告されており11),これが関与しているという説や,血管内皮細胞の障害による炎症の惹起が由来するという説がある8).本症例においては,2週間の間隔をあけて両眼に硝子体手術を施行した.初回手術中および術直後所見に左右差はなく,手術時の網膜光凝固数は右眼C538発,左眼C908発とフィブリン索状物を析出した右眼優位に多くはなかった.しかし,右眼には初診時に前房炎症および充血を認めたことから,炎症を惹起しやすい環境であった可能性がある.Nelsonらは術後に同様のフィブリン索状物を析出する症例に対して,ステロイド点眼に加えてCSTTAやトリアムシロノン硝子体内注射により改善を認めた例を報告した10).Alanらはフィブリン索状物に対してCSTTAを施行するも効果が乏しく,網膜下液が出現した症例に対して液空気置換とt-PA硝子体内注射での改善を報告している12).本症例では炎症所見の増悪時にCSTTAを施行したものの反応性に乏しく,炎症所見の増悪を認めた.そのため,3回めの硝子体手術時にはCt-PA硝子体内注射とあわせて,炎症を鎮静化させるため13),シリコーンオイルを注入した.それにより,網膜へのフィブリン索状物の析出は抑制できたが,前房に移行した高濃度の炎症性サイトカインを含んだ房水により,術後一過性に前房蓄膿を認めたが,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼の追加により速やかに前房蓄膿は軽快を認めた.本症例の経過から,糖尿病網膜症に対する硝子体手術後には,網膜面に高度なフィブリン索状物の析出を認めることがあり,とくに術前に炎症がみられる場合には留意が必要である.また,STTAなどのステロイド治療に抵抗性の場合は,再手術時にCt-PAを併用しフィブリン溶解をはかることが有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)EifrigCCW,CScottCIU,CFlynnCHWCetal:EndophthalmitisCafterCparsplanaCvitrectomy:incidence,CcausativeCorgan-isms,andvisualacuityoutcomes.AmJOphthalmolC138:C799-802,C20042)WuCL,CBerrocalCMH,CArevaloCJFCetal:EndophthalmitisCafterparsplanavitrectomy:resultsofthePanAmericanCollaborativeCRetinaCStudyCGroup.CRetinaC31:673-678,C20113)DurandML:BacterialCandCfungalCendophthalmitis.CClinCMicrobiolRevC30:597-613,C20174)ParchandS,AgrawalD,AyyaduraiNetal:Sympatheticophthalmia:aCcomprehensiveCupdate.CIndianCJCOphthal-molC70:1931-1944,C20225)肱岡邦明:内因性眼内炎.臨眼65:379-383,C20116)YangCW,CRenCR,CXieCYCetal:DiabeticCuveopathy.CSurvCOphthalmolC70:47-53,C20257)SebestyenJG:Fibrinoidsyndrome:aCsevereCcomplica-tionCofCvitrectomyCsurgeryCinCdiabetics.CAnnCOphthalmolC14:853-856,C19828)LuoCC,CRubyCA,CNeuweltCMCetal:TransvitrealC.brinoidCpseudoendophthalmitisCafterCdiabeticCvitrectomy.CRetinaC33:2069-2074,C20139)金村萌,鈴木浩之,河本良輔ほか:増殖糖尿病網膜症術後に生ずる硝子体腔内フィブリン索状物の臨床的意義.眼臨紀10:897-900,C201710)NelsonCAJ,CMehtaCNS,COchoaCJRCetal:TransvitrealCandCsubretinal.brinoidreactionfollowingdiabeticvitrectomy.AmJOphthalmolCaseRepC27:101594,C202211)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:Panretinalpho-tocoagulationCinducesCpro-in.ammatoryCcytokinesCandCmacularthickeninginhigh-riskproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC247:1617-1624,C200912)HsuCAY,CChenSN:Ultrawide-.eldCopticalCcoherenceCtomographyCinCtransvitrealCandCsubretinalC.brinoidCsyn-drome:acasereport.CaseRepOphthalmolC14:147-152,C202313)西田健太郎:術後炎症(フィブリン析出含む).眼科グラフィック3:311-314,C2014***

基礎研究コラム:組織透明化と房水流出路の観察

2026年3月31日 火曜日

組織透明化と房水流出路の観察組織透明化組織透明化は組織観察で使用される手法です.この技術は,レーザー走査型顕微鏡と組み合わせることで標本内の表層から深層までの撮影画像の取得を可能とし,これを再構成することで三次元的な形態学的解析が可能です.これまでいくつかの透明化試薬が考案されてきましたが,いずれも原理は同じで,組織内の水分と透明化試薬が置換されることで,組織内の屈折率が均一となり,透明化されて見えるというものです.近年考案されたCLUCID(illuminationCofCclearedCorgansCtoCidentifyCtargetmolecules)は,2,2-チオジエタノールという非毒性の物質を主成分とした透明化試薬であり,自家蛍光や蛍光抗体を用いた従来の観察が可能なだけでなく,一度透明化した検体でも,また水に浸漬すれば元の状図1透明化前後のヒト眼上段はホルマリン固定後,下段はCLUCID浸漬後.強膜内の血管が透見できる.メラニンは残存している.図2ヒト眼の房水流出路の観察a~dの→はそれぞれ,虹彩根部(a),線維柱帯(Cb),Schlemm管様の空隙(Cc),集合管様の管腔構造(d).e,f:集合管様の管腔構造.朝比奈祐一東京大学大学院医学系研究科眼科学態に戻り,薄切しても病理診断でも問題ない程度のCHE染色や免疫染色が可能です1).眼の領域ではどうでしょうかたとえば強膜は不透明ですので,これを透明化することで強膜内の構造を可視化することが可能です(図1).筆者らはこれを用いて房水流出路を線維柱帯から集合管まで連続して可視化できることを報告しました.薄切することなく,任意の方向から房水流出路を三次元的に観察できます(図2)2).今後の展望不透明なために詳細な観察ができないものについては全般的に有用と考えられるので,たとえば角膜混濁は対象となりえます.薄切することなく観察でき,透明化後の検体も元の状態に戻せるため,病理診断のためのブロック検体として保存されている手術検体を観察対象とすることができます.また,脱メラニン化と併用すれば,ぶどう膜,とりわけ脈絡膜の観察にも応用が期待されます.文献1)AsahinaCY,CHinataCM,CTanakaCACetal:Transparency-enhancingCtechnologyCallowsCtheCthree-dimensionalCassess-mentCofCesophagealCcarcinomaCobtainedCbyCendoscopicCsubmucosalCdissection.CEsophagusC21:405-409,C20242)AsahinaY,AiharaM,MiyaiTetal:Visualizationofpor-cineCandChumanCaqueousChumorCout.owCtractCanatomiesCwithCtransparencyCenhancement.CJpnCJCOphthalmolC69:C460-468,C2025C(75)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C3030910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:274.糖尿病硝子体手術後に生じた眼内凝血塊

2026年3月31日 火曜日

274糖尿病硝子体手術後に生じた眼内凝血塊(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopa-thy:PDR)に対する硝子体手術後の再出血は頻度の高い合併症である.易凝血性の患者で術中に新生血管から網膜面上に凝血塊を形成することはあるが,術後にゲルのない眼内液中に大きな凝血塊を形成することは比較的まれである.●症例提示患者は27歳,女性.眼科的治療歴のない血管新生緑内障を併発した非常に活動性の高いPDR(図1)に対し,抗VEGF薬硝子体内注射を施行のうえ,初回手術で水晶体を温存した硝子体手術を施行した.術後,眼圧は低下し,矯正視力も0.5に改善していたが,術3週間後に再度眼圧が50mmHgに上昇し,前房出血および硝子体出血を認めたため,再手術を施行した.超音波Bモード検査では硝子体腔内に凝血塊を疑わせる大きな陰影を認めた(図2).再手術では視神経乳頭から下方にかけて大きな凝血塊が生じており,硝子体カッターで切除した(図3).視神経乳頭および下方の血管アーケード周囲に凝血塊と網膜の強固な癒着を認めたため,網膜と凝血塊の間隙を慎重に確認しながら切除を進め,眼内光凝固を追加し手術を終了した.血液検査で凝固系の異常はとくに認めなかった.●硝子体手術後に凝血塊を生じる症例の特徴PDRに対する硝子体手術後早期の出血は,赤血球が硝子体腔内に拡散し,大きな凝血塊を形成することは少ない.宮本らは,PDRに対する硝子体手術後に硝子体腔内に巨大な凝血塊を形成した1例を報告し,組織プラスミノーゲン活性化因子の硝子体内注入が凝血塊処理に有用であったと報告している1).また,このような凝血塊が形成される機序として,空気との界面の出血は凝血(73)0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1初回手術前の左眼眼底写真非常に活動性の高い無治療の増殖糖尿病網膜症で,硬性白斑,網膜前出血,線維血管増殖膜を認めた.図2術後再出血時の超音波Bモード検査高輝度陰影を硝子体腔内に認め,大きな凝血塊が疑われた.図3再手術時の術中所見視神経乳頭から下方にかけて大きな凝血塊が生じていた.しやすく,その上に血液が流れ重なることによって巨大化するのではないかと述べている.本提示例は初回手術でガスタンポナーデを施行していないが,初期に形成された凝血塊の上に出血が重なって形成された可能性が考えられる.筆者は今までに数例,同様の症例を経験しているが,いずれも非常に活動性の高い若年のPDR症例であり,硝子体腔内を充満するような巨大な凝血塊をきたした症例では,術中網膜面の確認に苦慮し,不用意な操作で医原性裂孔を形成しやすい.また,いずれの症例も血液検査で凝固系の異常はみられず,易凝血性の原因については不明な点が多い.文献1)宮本武,雑賀司珠也,岡田由香ほか:硝子体切除後硝子体腔内血腫手術時に組織プラスミノーゲンアクチベーターが有用であった1例.眼臨医98:198-200,2004あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026301

考える手術:気体網膜復位術

2026年3月31日 火曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅気体網膜復位術秋山邦彦国立病院機能東京医療センター眼科気体網膜復位術(PnR)はガスの浮力と表面張力によって.離網膜を.離前の元の位置に復位させ,光凝固または冷凍凝固を行って網膜を固定する方法である.この方法は観血的な手術手技とは異なり,きわめて低侵襲であることと,ガスの力でゆっくりきれいに網膜を復位させることが特徴であり,それによってより良い視機能が得られるとされる.屈折変化,白内障,眼球運動障害などの手術に伴う合併症も生じにくい.一方でPnRは治療前の網膜硝子体の病態観察が結果を大きく左右すること,ガス下でのレーザー治療にそれに対するすべての治療法のなかで,PnRは各患者の病態に基づく方法論を考え抜き,考えたとおりに実行する聞き手:最近,気体網膜復位術(pneumaticretinopexy:襲治療することができます.もうひとつ重要なポイントPnR)が話題にのぼる機会が増えていますが,すでに強は,手術中に液空気置換で強制的に網膜を復位させる硝膜バックリング手術や硝子体手術が確立されているにも子体手術と異なり,ガスの浮力を利用してゆっくり網膜かかわらず,網膜.離の治療方法としてPnRを考えるを復位させるという点です.それがどのように結果に反意義はなんでしょうか?映されるかというと,有名なものとしてはPIVOT秋山:たしかに裂孔原性網膜.離の手術治療は,とくにTrial(硝子体手術とPnRを比較したランダム化比較試日本では治療成績もかなり良好です.それに比較して験)で報告されている術後歪視の問題があります1).こPnRは初回復位率が10%程度落ちるとされていますのの研究ではPnRのほうが術後歪視は少なかったと報告で,いったいなぜあえてその治療を選択するのか,といされています.実臨床でどの程度差があるのかは今後検うのは当然の疑問です.それを考える前提として,PnR討を要するとはいえ,理論的にはPnRのほうが網膜には前房水抜去と硝子体内ガス注入,それにレーザー(ま無理な力を加えず自然に復位させることができる,といたは冷凍凝固)を組み合わせて,.離した網膜を.離すうことは間違いありません.したがって私は,手術とる前の状態にガスの力で「現状復帰」させ固定する,とPnRを同列で並べて選択する,というよりも,PnRでいう方法ですので,ほかの手術と比較して圧倒的に低侵治せる可能性があるものはなるべくPnRを行い,復位(71)あたらしい眼科Vol.43,No.3,20262990910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術を得られなければ手術にスイッチする,という考え方で治療を行っています.もちろん患者には手術と両方の情報を説明し,復位率の違いも説明したうえで選択してもらっています.この方法を始めた当初は,復位率がより高い方法を選択するのではないかと思っていたのですが,実際には復位率が低くてもより低侵襲な方法をまず試したい,と希望する患者が圧倒的に多数派です.聞き手:では,実際にPnRを行うにあたって,適応はどのように考えればよいでしょうか.秋山:PnRの適応の判断は,まず網膜硝子体所見の正しい把握から始まります.硝子体手術や最近のシャンデリアを使用するバックル手術のように手術中に眼内から確認することはできませんから,術前の見落としは致命的です.最周辺部まで,よく観察してください.ガスで裂孔を閉鎖するので,やはり上方の小さめの裂孔が有利です.それを端的に表した適応はPIVOTtrialの論文にイラスト付きで説明されているので,参考にしてください1).術者と患者双方の理解とやる気が十分あれば,その適応からはずれたものも治療可能ですが,初回復位率は適応を広げるほど低下する傾向があります2).一方でPIVOTtrialの基準に合う患者を対象とする日本人での最近のデータでは初回復位率が90%以上でした2,3).聞き手:治療はすべての患者に同じ方法で行うのか,あるいは患者ごとにカスタマイズするのでしょうか?秋山:前房水抜去とガス注入までは,おおむね標準化された方法です.私が行っている方法は,先に前房水を30ゲージ針と1ccシリンジ(内筒を抜いたもの)で抜去し,抜去された量を計測して,抜去量+0.3ccの膨張性ガス(抜去量が0.3cc未満であってもガスの最低量は0.6cc)を硝子体内に注入する,というものです(動画①).1回のガス注入量で不十分であれば(下方裂孔,巨大裂孔や多発裂孔など),3日目あたりで2回目のガス注入を行い,ガスの体積を増やすことも検討します.ガス注入後は患者の頭位を指示するわけですが,これは網膜の状態によって変わります.典型的な方法はSteam-roller法といって,腹臥位を数時間,そこから1時間ごとに30°ずつ,裂孔の方向に向かって頭を挙上させていき,最後は裂孔がもっとも高くなる頭位を1週間程度保つ,というものです.これによって後極から周辺部に向かって網膜下液をガスの力で移動させ,黄斑部のズレ(fovea-o.の場合)や新たな黄斑.離(fovea-onの場合)を防ぐことができます.翌日以降,裂孔周囲の網膜が復位したらすぐにレーザーを開始します.裂孔や格子状変性の周囲を5列ぐらい,隙間なく,鋸状縁まで完全に埋300あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026めることがコツです4).ガスの浮力で裂孔が鋸状縁に向かって拡大する可能性も見越して,幅広く完璧にレーザーで囲む必要があるので,ここは術者の技量が試される部分です(動画②).もう完璧,といえるまで,毎日でも診察してレーザーを足していきます.ここで妥協すると治るものも治りませんので,面倒がらずに徹底的にやることが大切です.聞き手:合併症対策について教えてください.秋山:もっとも避けたい合併症の一つはガスの網膜下迷入です.これはガスが小さな多数の泡(.sheggs)になってしまい,しかも裂孔が大きめの時に生じやすい現象ですので,.sheggsを避けることが大切です.そのためには,ガス注入時の刺入部が眼球のもっとも高い位置になること,針の先端1/3だけを刺入し,比較的速い速度で一息に注入することがコツです(動画①).それでも.sheggsになってしまったら,1~2日で融合するまで腹臥位をしっかり保ってもらい,ガスを裂孔から離すようにすれば網膜下迷入をかなり避けることができます.迷入してしまって硝子体腔に戻らない場合は,早急に硝子体手術を行う必要があります.合併症対策はほかにもいろいろありますので,文献などにあたってみてください4).聞き手:PnRは手術ではなく低侵襲ではあるものの,簡単な手技ではない,と考えてよいでしょうか.秋山:そのとおりです.むしろPnRのほうが手術よりもむずかしい部分が多いうえに,手間はかなりかかります.決して簡単で単純な手技と思って安易に行うのではなく,患者のためによい治療を行う,という意識で徹底的に治療を行ってください.そうすればきっとよい結果が得られます.文献1)HillierRJ,FelfeliT,BergerARetal:Thepneumaticreti-nopexyversusvitrectomyforthemanagementofprimaryrhegmatogenousretinaldetachmentoutcomesrandomizedtrial(PIVOT).Ophthalmology126:531-539,20192)AkiyamaK,MatsukiT,WatanabeKetal:ImplementationofpneumaticretinopexyintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol2025.doi:10.1007/s10384-025-01241-z.Onlineaheadofprint3)YamadaH,AkiyamaK,SotaniYetal:OutcomesofpneumaticretinopexyforprimaryrhegmatogenousretinaldetachmentinaJapanesecohort.SciRep15:24182,20254)秋山邦彦:Pneumaticretinopexy.眼科手術37:193-198,2024(72)