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アレルギー性結膜炎の基礎研究―眼表面のムチンシアル化を中心に

2026年7月31日 金曜日

アレルギー性結膜炎の基礎研究─眼表面のムチンシアル化を中心にBasicResearchonAllergicConjunctivitis:AFocusonSialylatedMucinsoftheOcularSurface松澤萌*はじめにアレルギー性結膜炎は,日常眼科診療においてもっとも頻繁に遭遇する疾患の一つであり,近年では有病率が増加傾向にある.とくに花粉飛散量の増加や生活環境の変化に伴い,季節性アレルギー性結膜炎のみならず,アトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC)や春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)などの重症眼アレルギー疾患を診療する機会も少なくない.一方で,多くの患者では抗アレルギー点眼薬による治療で症状コントロールが可能であるものの,慢性的な炎症や涙液不安定化を伴い,難治化する患者も存在する.アレルギー性結膜炎の病態は免疫グロブリンE(immunoglobulinE:IgE)依存性炎症や2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)型免疫応答に加え,眼表面バリア機能異常も指摘されている.アレルギー炎症に伴う上皮障害や涙液環境変化は,眼表面バリアを破綻させ,アレルゲン侵入を促進することでさらなる炎症惹起につながる可能性も示されている1,2).また,ドライアイとの病態オーバーラップも指摘されており,「tear.lminstability」やムチン(mucin)異常という観点から眼表面疾患を統一的に理解しようとする試みが進んでいる3).ムチンは粘膜を「ぬるぬる」な状態に保つ,すなわち湿潤や潤滑にかかわる蛋白質であり,粘膜の細胞表面から生えるように存在している膜型ムチンと,いわゆる「粘液」の構成成分として放出される分泌型ムチンに分けられる.これらの眼表面ムチンは,涙液層およびグリコカリックス(glycocalyx)の主要構成成分として,潤滑や保水のみならず,外来異物に対する物理的バリアとして機能している.なかでも結膜杯細胞(gobletcell)由来のゲル形成ムチン(MUC)5ACは,涙液安定化に重要な役割を果たすことが知られている.ムチンは高度に糖鎖修飾された巨大な糖蛋白質であり,その糖鎖構造はムチンの物理化学的性質や生体防御機能に大きな影響を与える.とくに末端シアル酸による修飾(シアル化)は,ムチンに保水性や粘弾性を付与し,外来粒子との相互作用にも関与すると考えられている.筆者らは,結膜杯細胞由来ムチンのシアル化が,花粉粒子を包み込み,眼表面から効率的に除去する防御機構に重要な働きをしていることを報告した4).本稿では,眼表面ムチンおよびそのシアル化の基礎を概説するとともに,アレルギー性結膜炎における結膜杯細胞ムチンシアル化の役割について,筆者らの研究成果を中心に概説する.I眼アレルギー炎症とバリア機能眼表面は外界に常時曝露される粘膜組織であり,乾燥,微生物,アレルゲン,摩擦刺激などさまざまな外的ストレスに曝露されている.その恒常性維持には,涙液,角結膜上皮,およびムチンから構成される眼表面バリア機構が重要な役割を果たしている.アレルギー性結膜炎は,花粉やダニなどのアレルゲン*MoeMatsuzawa:順天堂大学医学部附属浦安病院眼科〔別刷請求先〕松澤萌:〒279-0021千葉県浦安市富岡2-1-1順天堂大学医学部附属浦安病院眼科(1)(31)7470910-1810/26/\100/頁/JCOPY油層涙液層グリコカリックス(glycocalyx)粘液顆粒核上皮層負電荷同士で非接着性反発するムチン分子図2ムチンの物理的性質とシアル酸眼表面のムチンがもつ糖鎖は,多くがシアル酸(紫色の菱形で示す)をその先端にもつ.シアル酸は負電荷を帯びることによって互いに反発し,非接着性(潤滑)にかかわるほか,極性分子である水を引きつける,このほか,糖鎖そのものも多数の-OH基などをもつことによって親水性となり,眼表面の湿潤にかかわる.EYEPRIM法による結膜上皮の採取アルシアンブルー/PAS染色シアル酸除去処理2.3.1.なしありアルシアンブルー染色アルシアンブルー染色+上皮細胞PAS染色上皮細胞杯細胞図3ヒト結膜の杯細胞EYEPRIMデバイスを用いて採取したヒト結膜の上皮をCPAS染色(赤紫,粘液糖鎖を染色)およびアルシアンブルー染色(青,負電荷物質を染色)で染色すると,杯細胞の粘液顆粒は両者により染色される.アルシアンブルーはシアル酸除去酵素処理によって染色されなくなることから,ヒト結膜杯細胞のアルシアンブルー染色性はシアル酸によるものであることがわかる.シアル酸除去後においても,DNAが負電荷物質であるため細胞核は染色されている.(文献C4より改変引用)杯細胞作用3OOガラクトースペプチド鎖N-アセチルペプチド鎖ガラクトサミンOOシアル酸6ペプチド鎖作用ペプチド鎖図4糖転移酵素による糖鎖伸長糖鎖の形成には,多数の酵素が関与しており,これらの酵素はそれぞれ特定の糖鎖を特定の場所に付加する職人にたとえることができる.たとえば,ムチン上の同じCN-アセチルガラクトサミンに対してCC1GALT1酵素が働くと3位(図の右上)にガラクトースが付加され,ST6GALNAC1酵素が働くとシアル酸が6位(図の右下)に付加される.ガラクトースからはさらに糖鎖伸長が可能であるが,シアル酸には他の糖が付加できないため,シアル酸は糖鎖の先端に露出している.シアル化糖鎖をもたないシアル化糖鎖をもつ野生型Balb/cマウスBalb/cマウス(Aoマウス)花粉懸濁液を点眼結膜上の花粉を顕微鏡観察花粉粘液層微粒子微粒子粘液層の表面微粒子の透過性評価花粉の表面図6粘液カプセルに隔離された花粉粒子花粉懸濁液をマウスに点眼すると,杯細胞から粘液が放出され,花粉粒子が絡めとられて凝集する.シアル化糖鎖のない野生型CBalb/cマウスの場合は花粉塊のサイズも小さく,花粉粒子が露出しており,微粒子の懸濁液を加えると花粉表面まで到達する.これに対し,シアル化糖鎖を産生できるようにしたCAoマウスにおいては,花粉塊のサイズが大きくなり,その周囲に粘液層が形成される.微粒子は粘液層の表面で阻まれ,花粉粒子まで到達できないことから,この粘液層が微粒子(細菌程度のサイズ)を通過させないことがわかる.(CC-BY4.0に基づき文献C4より改変引用)シアル化糖鎖がムチンの機能にもたらす効果・細菌や微粒子の隔離・効率的な捕捉・速やかな除去・抗原侵入の低減・アレルギー性結膜炎の抑制シアル化糖鎖をもたないムチン凝集のみムチン図7粘液糖鎖のシアル化とバリア機能花粉などの異物が眼表面に到達すると,杯細胞から粘液が放出され,粒子を絡めとる.シアル化糖鎖をもつムチンは花粉粒子をゲル状の粘液層で隔離し,効率的な捕捉,除去を介してアレルギー性結膜炎の発症を抑制している.この粘液層は異物の侵入を検知した際に集中して放出されたムチンによって形成されており,定常状態で存在する涙液層や上皮層などのバリアに加えて第三のバリアを提供する.眼表面ムチンは,このように直接的に粘液層を形成して異物を隔離するほか,上皮細胞表面の膜型ムチンによるグリコカリックス形成や,涙液中の分泌型ムチンによる涙液安定化など,角結膜バリア機能のあらゆる側面に関与している.’C

重症アレルギー性結膜疾患における分子標的薬治療のアップデート

2026年7月31日 金曜日

重症アレルギー性結膜疾患における分子標的薬治療のアップデートUpdatesinMolecularTargetedTherapyforSevereAllergicConjunctivalDiseases坂口秀人*福田憲*はじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)に対する免疫抑制点眼薬が登場すると,その効果と安全性からVKCの治療にパラダイムシフトが生じた.現在では多くのVKC患者において,ステロイド点眼薬を用いずに炎症のコントロールが可能である.しかし,タクロリムス点眼薬の市販後全例調査の報告で示されているように,免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬による治療に抵抗する症例も未だ一定数存在する1).免疫抑制点眼薬が登場して約20年が経過するが,その後新規の治療薬は上市されておらず,VKCの難治例に対する治療の開発がアレルギー性結膜疾患治療におけるアンメットニーズとなっている.アレルギー疾患は,アレルギーマーチとよばれるように複数の臓器に成長とともにさまざまな疾患を発症するのが特徴である.これらのアレルギー疾患は2型炎症という共通の病態を有しており,近年は2型炎症に対するさまざまな分子標的薬が開発・上市されている2).本稿では,アレルギー疾患に対する分子標的薬によってアトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC)・VKCが改善した症例のエビデンスを中心に解説し,これらの疾患の病態について考察する.IVKC・AKCの病態VKCはおもに小児の男児に好発する慢性重症アレルギー性眼疾患である.アトピー性皮膚炎(atopicderma-titis:AD)を合併することが多いが,ADがなくても発症する.上眼瞼結膜の巨大乳頭や輪部病変などの結膜増殖性変化と角膜病変が臨床的特徴であり,視力障害をきたしうる.結膜巨大乳頭では,好酸球や2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)細胞などの炎症細胞浸潤に加えて,線維芽細胞の増加や細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)の沈着などが組織学的な特徴である3).免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬による治療によっても改善しない巨大乳頭のtranscriptome解析の研究によって,サイトカインではインターロイキン(interleukin:IL)-4とIL-13がもっとも発現していることが示され4),これらのサイトカインが巨大乳頭形成,VKCの病態に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.細胞生物学的な検討により,IL-4とIL-13は結膜線維芽細胞に作用し,①細胞増殖の促進5),②遊走の促進6),③アポトーシスの抑制7)により,巨大乳頭における線維芽細胞の増加に寄与すると考えられる.また,④コラーゲンやフィブロネクチンなどのECMの産生亢進5),⑤ECMを分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(matrixmetalloproteinase:MMP)の産生抑制8),⑥MMPの内因性のインヒビターであるtissueinhibitorofmetalloproteinases(TIMP)の産生亢進によって,ECMの沈着に寄与する.これらのさまざまな作用により,IL-4/IL-13は巨大乳頭の形成に重要である可能性が推察されている(図1)6).VKCにおける角膜病変の病態においては,角膜病変の重症度が涙液*HidetoSakaguchi&KenFukuda:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕坂口秀人:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮185-1高知大学医学部眼科学講座(1)(23)7390910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1春季カタルにおける結膜巨大乳頭形成におけるインターロイキン(IL)-4およびIL-13の役割IL-4とIL-13は結膜線維芽細胞に作用し,ケモカイン産生に加えて,細胞増殖・遊走の促進,アポトーシスの抑制やコラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)の産生亢進,ECMを分解するmatrixmetalloproteinase(MMP)の産生抑制とMMPの内因性のインヒビターであるTIMP(tissueinhibitorofmetallo-proteinases)の産生を亢進させる.-図2春季カタルにおける角膜病変におけるIL-4およびIL-13の役割涙液中に分泌されたCIL-4とCIL-13は腫瘍壊死因子(TNF)-αと共同して角膜実質細胞からCeotaxinを産生し,好酸球を遊走させて角膜病変の形成に重要な役割を果たす.CabトラロキヌマブⅠ型受容体Ⅱ型受容体図3IL-4受容体および分子標的薬の作用部位a:IL-4受容体はCIL-4Rαサブユニットを共有するC2種類の受容体を形成する.I型受容体(IL-4Rα鎖+共通γ鎖)はCIL-4のみに応答し,おもにリンパ球などの造血細胞に発現する.Ⅱ型受容体(IL-4Rα鎖+IL-13Rα1鎖)はCIL-4およびCIL-13の両方に応答し,線維芽細胞などの非造血細胞に広く発現する.b:デュピルマブはCIL-4Rα鎖に結合することで,I型およびⅡ型受容体を介したCIL-4とCIL-13の両者シグナルを阻害する.IL-13抗体であるトラロキヌマブおよびレブリキズマブはCIL-13のみを阻害する.JAK阻害薬は細胞内でシグナル伝達分子であるCJAKを阻害することで,IL-4・IL-13のシグナル伝達を抑制する.IL:interleukin,JAK:Januskinase,Tyk:tyrosinekinase,STAT:signaltransducerandactivatoroftranscription,TNF:Ctumornecrosisfactor.C下する.デュピルマブは中等.重症CADにおいて,プラセボ群と比較して有意に症状改善を示している16).さらに外用ステロイドとの併用によるC1年間の長期試験においても,デュピルマブはC52週にわたって持続的な改善効果が維持されることが報告されている17).現在,デュピルマブはさまざまなアレルギー疾患に適応があるが,AD患者でのみ約C10.30%の患者にデュピルマブ関連眼表面疾患(dupilumab-associatedCocularCsurfacedisease:DAOSD)とよばれる結膜炎・眼瞼炎などの眼表面炎症が生じることがさまざまな論文で報告されている.DAOSDの機序として,IL-4/IL-13シグナルの遮断が眼表面局所における免疫バランスの変化や,結膜杯細胞機能の低下やムチン産生抑制などが仮説として提唱されている2)が,詳細な機序は現在も解明中である.またCIL-13を選択的に阻害するトラロキヌマブ(アドトラーザ)やレブリキズマブ(イブグリース)も,デュピルマブと同様にCAD患者においては結膜炎を生じることが報告されている.DAOSDの詳細に関しては本特集の他項を参照されたい.JAK阻害薬は,細胞内チロシンキナーゼであるCJAKを阻害することで,多種のサイトカインシグナルを包括的に遮断する低分子薬である.サイトカインが受容体に結合すると,受容体に会合したCJAKが活性化してSTATをリン酸化し,核内に移行したCSTATが標的遺伝子の転写を誘導する.JAK阻害薬はこのCJAK-STATシグナル軸を遮断することで,Th2系(IL-4/IL-13/IL-5/IL-31)のみならずCTh1・Th17系など幅広いサイトカインシグナルを同時に抑制する.ADに対してはC3種類のCJAK阻害薬が承認されている.ウパダシチニブはCJAK1選択的阻害薬18),バリシチニブはCJAK1/JAK2阻害薬,アブロシチニブはCJAK1選択的阻害薬である.JAK1の阻害により,IL-4/IL-13/IL-31/TSLP/IL-6/CIFN-γなど多彩なサイトカインシグナルを抑制することができる.CIII新規AD治療薬の重症アレルギー性結膜疾患に対する有効性VKCの治療は免疫抑制点眼薬の登場によりパラダイムシフトが生じ,ステロイド点眼薬を用いずに眼圧上昇を気にすることなく治療できる患者も多くなった.しかし,点眼治療に抵抗する難治例が一定数存在し,難治例に対する新規治療薬がアンメットニーズとなっている.このような点眼治療で難治な患者に対して,新規CAD治療薬の有効性を示す症例が報告されている.C1.抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)が奏効したVKC/AKC症例デュピルマブは,上述のとおりCIL-4Rαを介してIL-4/IL-13の両シグナルを遮断するため,VKCやAKCの病態に直接作用すると考えられる.筆者らは,巨大乳頭を伴う重症のCAKCに対して抗CIL-4受容体α抗体(デュピルマブ)が奏効したC2症例を報告した9).1例目はデュピルマブ投与開始日に「眼の調子が悪い」と皮膚科から紹介されたC33歳のCAD患者である.診察すると両眼の上眼瞼に巨大乳頭がみられ(図4a,b),眼脂には多数の好酸球が観察され,活動性の高い増殖性変化を伴うCAKCと診断した.デュピルマブが同日に開始されるため,点眼治療は行わなかった.2週間後の再診時には,巨大乳頭は著明に平坦化し(図4c,d),そのC2週間後(デュピルマブC2回目投与後)には巨大乳頭は完全に消退していた(図4e,f).2例目は,タクロリムス点眼薬およびリン酸ベタメタゾン点眼薬で加療しても,結膜巨大乳頭と角膜のシールド潰瘍が改善しないC25歳のCAKCの難治例である(図5a).幼少時からCADも加療していた.点眼治療に抵抗するため,巨大乳頭切除術をC2回施行しても,すぐに巨大乳頭が再発し(図5b),角膜病変も改善しなかった.3回目の巨大乳頭切除術施行の同時期にCADの治療がデュピルマブに変更された.その後,巨大乳頭は再発せず,角膜病変も改善した(図5c).また,筆者らの報告後,海外からも同様の症例が複数例報告されている.Tsuiらは,点眼療法に抵抗性の難治性CVKCに対し,デュピルマブの追加により上眼瞼結膜の巨大乳頭の消退と,角膜病変が治癒した小児症例を3例報告した19).これらは,眼瞼へのタクロリムス軟膏塗布・ステロイド点眼でもコントロール不能であった重症例であったが,デュピルマブ追加後は再燃なく良好な経過が得られている.さらに,日本からも齋藤らがデュ742あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026(26)図4デュピルマブによる巨大乳頭の消退アトピー性角結膜炎の症例.Ca,b:デュピルマブ投与前の所見.右眼(Ca)と左眼(Cb)の上眼瞼結膜に巨大乳頭を認める.Cc,d:デュピルマブ初回投与C2週間後の所見.巨大乳頭が著明に平坦化している.Ce,f:デュピルマブC2回目投与C2週間後の所見.巨大乳頭が完全に消退した.(文献C9より引用)図5デュピルマブによる巨大乳頭および角膜病変の改善a:タクロリムス点眼薬およびステロイド点眼薬で加療中のアトピー性角結膜炎の症例で,結膜巨大乳頭と角膜シールド潰瘍を認める.Cb:巨大乳頭切除術をC2回施行後の所見.速やかに再発した.Cc:3回目の切除術と同時にCAD治療をデュピルマブに変更したあとの所見.巨大乳頭は再発せず,角膜病変も改善した.(文献C9より引用)図6JAK阻害薬による春季カタルの改善タクロリムス点眼薬およびステロイド点眼薬で加療中の春季カタル症例(13歳,女児).a:ウパダシチニブ内服前は上眼瞼結膜に巨大乳頭と点状表層角膜症がみられる.Cb:内服開始C1カ月後には巨大乳頭の範囲が縮小した.Cc:内服C3カ月後には巨大乳頭がほぼ平坦化し,角膜上皮障害も消退した.(文献C21より引用)-

アトピー緑内障のアップデート

2026年7月31日 金曜日

アトピー緑内障のアップデートUpdatesonAtopicGlaucoma松田彰*Iアトピー緑内障の疾患概念アトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)に緑内障が合併する症例があり,ステロイド緑内障がCADに合併したと解釈されることが多い.一方で,ステロイド忌避症例やステロイドの使用歴はあるものの,ステロイド緑内障とは考えにくい症例があり,アトピー性炎症によって誘発されるアトピー緑内障という疾患概念を筆者らは提唱している.1).アトピー緑内障の定義として,①顔面を含む重症CADが存在すること,②緑内障性の視神経乳頭の変化を認めること,③視神経乳頭の変化に合致する視野障害が存在すること,④C21CmmHg以上の高眼圧,⑤明らかなステロイド緑内障症例は除外する,という基準を作成して,45症例C62眼の臨床的な特徴をまとめて報告した.その結果,発症年齢の平均がC38.13歳と原発隅角緑内障の好発年齢より若く,男女比がC4:1と男性に多く,43眼(69%)にアトピー白内障の合併を,19眼(30%)に網膜.離の合併を認めた.また,論文報告時には両眼性症例がC17眼(27%)であったが,その後の経過中に片眼性から両眼性へ進行した症例もあることから,時間差がある両眼症例が存在するものと考えられる.臨床上の特徴として,経過中の最高眼圧の平均が40mmHgと高く,70%の症例において重症(Aulhorn分類C3期以上)の視野変化を認めている.AD患者において緑内障の有病率が高いことは米国のCJohnsHopkins大学から報告があり.2),韓国での疫学調査などでも報告されている.3).また,重症のCAD患者では観血的手術を要する重症緑内障の発生リスクが高いことが,大規模臨床データベースを使った解析から明らかになっており,アトピー緑内障の疾患概念を支持する報告と考えられる.4).わが国の「アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2024」のクリニカルクエスチョンにもアトピー緑内障の疾患概念がとりあげられており,ガイドラインで引用されている総説.5)は,筆者らの論文.1)を根拠として引用している.「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」(第C3版)においても,次回改訂時にクリニカルクエスチョンとしてエビデンスを集めたうえでのシステマティックレビューを予定している.CIIアトピー緑内障患者の特徴と疾患概念確立の重要性2015年にアトピー緑内障についての論文を発表した際の患者平均年齢はC38歳であった.筆者が順天堂大学医学部附属順天堂医院と日本大学医学部附属板橋病院で2010~2025年に経験したアトピー緑内障手術症例C62例の初回緑内障手術時の平均年齢はC46.6C±11.7歳であり,2015年時点と比較して患者の年齢層が上がっていると考えられる.これは,AD治療の進歩で,アトピー性角結膜炎,アトピー白内障,アトピー網膜.離といったアトピー眼合併症を次々と併発する症例(眼アトピーマーチ症例)が減ってきている(患者層は高齢化している)ことが影響していると考えられる.患者の性別は男.*AkiraMatsuda:日本大学板橋病院眼科〔別刷請求先〕松田彰:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学板橋病院眼科(1)(17)C7330910-1810/26/\100/頁/JCOPY性C55人,女性C7人でC88.7%が男性であり,アトピー緑内障は働き盛りの青壮年層の男性に多いことがわかる.受診の時間がとれないなどの理由で,片方の眼が見えているうちは受診しなかった例,緑内障治療を途中放棄した例,うつ症状を呈した例など,アトピー緑内障の病態を広く社会に認知してもらうこと,さらに社会的なサポートが必要と痛感させられる場面を何度も経験している.アトピー緑内障の疾患概念を確立すべき理由は,①重症例であっても濾過手術後であれば,顔面を含めた局所のステロイドを適切に使用することで,ADのコントロールが改善することを経験すること,②濾過手術を施行していない症例でもタクロリムス軟膏やヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬の局所投与,重症例では生物製剤の使用でCADのコントロールを改善することで,眼合併症の連鎖を断ち切ることが期待できること,③前述のように重症CADに伴う緑内障の疾患概念を社会に理解してもらうことが治療上有益であると考えられること,④重症CADに伴う緑内障とステロイドの関係を過剰に考えることで,AD治療に必須であるステロイド使用を忌避したり,医療従事者とのトラブルや親が過剰に責任を感じるといった問題を防ぎ,治療へ前向きな姿勢を作るためにも有効であると考えられるためである.当初の論文で記載したように,軽症CADの症例のなかには,ステロイドの副作用として緑内障を発症したと考えられる症例もあり,完全に両者を鑑別することは困難な場合もある.1).一方で,ステロイドの使用が病態形成にほとんど関係せず,アトピー性炎症が緑内障を含めた一連のアトピー眼合併症を引き起こしていると考えられる症例が真のアトピー緑内障であると考えられる.CIIIアトピー緑内障の病態生理アトピー緑内障の病態生理には不明点が多いが,病理変化の特徴として,透過電子顕微鏡で房水が排出される経路(線維柱帯)にC10~30Cnmの特徴的な線維の沈着が認められる.1).この線維の形態はステロイド緑内障において観察されるC.ngerprint-like物質.6)とは異なる形態を示す.アトピー緑内障患者の前房水中にはインターロイキン(interleukin:IL)C-6,CC-CCmotifCchemokineCligand2(CCL2)といった炎症性サイトカインの発現が亢進しており,眼内炎症が病態形成に関連している.1).アトピー緑内障にはアトピー白内障やアトピー網膜.離の合併症例が多いことを考えると眼球におけるアトピー性炎症の慢性化が病態に重要な役割を果たしていると考えられ,2型炎症サイトカイン(IL-4,IL-13)とその下流にある組織線維化に関連する分子との関連について臨床サンプルを用いて現在も病態生理の研究を継続している.CIVアトピー緑内障の病型分類アトピー緑内障にはその病態の違いからC4病型がある.7).C1.アトピー白内障合併型20~30歳代の発症が多く,アトピー白内障と同時あるいはアトピー白内障の術後にアトピー緑内障が診断される病型.アトピー白内障は典型的な前.下白内障(図1a,b)のほかに,後.下白内障,成熟白内障などの形状を呈する.8).また,ADのコントロールが悪い重症例では,かゆみのために眼球叩打を繰り返すことから,眼内レンズの偏位・落下を認める症例(図1c)があり,アトピー緑内障の重症化のサインである.C2.アトピー性角結膜炎:円錐角膜合併型緑内障治療上の重要なパラメータである眼圧測定は角膜形状に不正がなく,角膜中心部の厚み(中心角膜厚)がC0.545Cmmであることを前提に計測機器(圧平眼圧計)が設定されている.そのため,アトピー性角結膜炎や円錐角膜の症例にアトピー緑内障が合併した場合に眼圧の正確な評価が困難になる.とくに円錐角膜は角膜中心が突出することで中心角膜厚が薄いことから,眼圧を実際よりも低く計測してしまうリスクがある.また,アトピー性角結膜炎や円錐角膜のためもともと視機能が悪い場合に,緑内障による視機能低下に患者が気づきにくいという問題が生じる.さらに,重症円錐角膜患者の場合は治療のために角膜移植が必要になることがあり,拒絶反応防止のためにステロイド点眼を使用する症例や,角734あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026(18)bc図1アトピー白内障に合併したアトピー緑内障a:アトピー白内障に典型的な前.下混濁を呈した症例.b:同じ眼のCHumphrey視野検査,眼圧C30CmmHgでアトピー緑内障(アトピー白内障合併型)の診断.Cc:重症のアトピー性皮膚炎に伴う掻痒感のため,眼球を叩打していた症例.白内障術後の眼内レンズが下方に落下しているC.C図2ROCK阻害薬点眼によるアトピー性接触性皮膚炎Rho-associatedCproteinkinase(ROCK)阻害薬点眼による接触性眼瞼皮膚炎,パッチテストで当該薬剤に陽性反応を認めた.図3網膜.離合併型アトピー緑内障①50歳代,男性.うつ状態を伴う重症アトピー性皮膚炎.4年前に右眼アトピー白内障+アトピー網膜.離の手術歴.引きこもりのため,治療を放棄.左眼はアトピー白内障+網膜全.離でほぼ失明.右眼眼圧C40CmmHg,網膜に.胞様黄斑浮腫を認める(Ca).末期緑内障視野(Cb),右眼に緑内障インプラント手術を施行したC.C40歳代,女性.両眼アトピー白内障術後両網膜.離,強膜内陥術後.右眼は線維柱帯切開術とCBaerveldtインプラント挿入術後(Ca).右眼眼圧再上昇で受診,バックル+インプラント挿入後(Cb,c)で濾過手術追加困難.内視鏡下毛様体光凝固(Cd)を施行.図5網膜.離合併型アトピー緑内障③50歳代,男性.両眼アトピー白内障とアトピー網膜.離術後,左眼光覚なし.右眼CIOL偏位C3回(Ca),右眼緑内障手術4回.右眼水疱性角膜症に対して3回の角膜内皮移植(Cb),眼前手動弁.-

デュピルマブ関連眼表面疾患のアップデート

2026年7月31日 金曜日

デュピルマブ関連眼表面疾患のアップデートAnUpdateonDupilumab-AssociatedOcularSurfaceDiseases安達瑠美*はじめにアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)は皮膚の慢性炎症性疾患であり,眼科領域においてもさまざまな合併症を引き起こす疾患である.2018年にCADに対する生物学的製剤であるデュピルマブがわが国でも承認され,ADの治療の幅が広がっている.一方で,デュピルマブ投与中の副作用として結膜炎があげられており,眼科的治療介入が必要であることが報告されている.本稿では,デュピルマブ関連眼表面疾患(dupilumab-associ-atedCocularCsurfacedisease:DAOSD)の最近の知見を概説する.CIアトピー性皮膚炎ADは,増悪と軽快を繰り返す,.痒のある湿疹を主病変とする皮膚疾患である.ADの病態形成には皮膚のバリア機能異常・掻痒・炎症が三つの大きな病因とされている.慢性的な顔面や眼瞼皮膚の強い掻痒感は,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)を低下させるだけでなく,頻回の眼部の掻爬や叩打のきっかけとなり,さまざまな眼合併症を引き起こす.眼合併症としては,アトピー性角結膜炎(atopickera-toconjunctivitis:AKC)・アトピー性眼瞼炎・白内障・緑内障・網膜.離・円錐角膜・易感染性などがあり,幼少期~壮年期の点眼治療,また,重症化した場合には視機能維持のため手術療法が必要となる.1.ADの病態ADにおける炎症の病態にはC2型ヘルパーCT細胞(TChelperC2cell:Th2)やC2型自然リンパ球(innateClym-phoidcellgroup2:ILC2)が深く関与している.これらは局所にC2型炎症を誘導させ,インターロイキン(interleukin:IL)C-4,CIL-5,IL-13などのC2型サイトカインが産生される.IL-4はCB細胞に作用して免疫グロブリンCE(immunoglobulinE:IgE)へのクラススイッチを促進し,IgEの産生に関与している.また,IL-4やCIL-13は皮膚の感覚神経の過敏化にも寄与していることが知られている.IL-5は好酸球の増殖や分化・活性化に関与している.慢性期にはC1型ヘルパーCT細胞(Th1),17型ヘルパーCT細胞(Th17)やC22型ヘルパーT細胞(Th22)が炎症の増強に関与している.AKCやアトピー性眼瞼炎でも同様の機序によりアレルギー炎症が引き起こされていると考えられている.さらに,眼表面では粘膜特有の変化もみられ,IL-4とCIL-13は結膜上皮の杯細胞(gobletcell)の分化およびムチン産生の誘導や線維芽細胞の増殖に関与している.これらの機序により,アレルギー炎症は一過性ではなく慢性化・重症化していくと考えられている(図1).C2.ADにおける生物学的製剤AD患者に対しては近年,生物学的製剤が使用可能となり,わが国で適応が承認されている生物学的製剤としては,デュピルマブ,ネモリズマブ,トラロキヌマブ,*RumiAdachi:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕安達瑠美:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野(1)(11)C7270910-1810/26/\100/頁/JCOPYIL-4/IL-13線維芽細胞図1アトピー性角結膜炎の病態TSLP:胸腺間質性リンパ球新生因子(thymicCstromallymphopoietin),IL:インターロイキン(interleukin),ILC2:2型自然リンパ球(innatelymphoidcellgroup2),Th:ヘルパーCT細胞(Thelpercell),IgE:免疫グロブリンCE(immunoglobulinE)C.~図2デュピルマブ関連眼表面疾患(DAOSD)図3Impressioncytology法デュピルマブ投与前アトピー性角結膜炎デュピルマブ投与後デュピルマブ関連眼表面疾患(DAOSD)図4デュピルマブ投与によるサイトカインの変化Th:ヘルパーCT細胞(Thelpercell)C.C–

小児アレルギーに関するアップデート

2026年7月31日 金曜日

小児アレルギーに関するアップデートRecentAdvancesinPediatricAllergicDiseases角環*はじめに近年,アレルギー疾患は世界的に増加傾向が報告されており,日本においても小児アレルギー疾患の有病率上昇が指摘されている.アレルギー疾患はアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD),食物アレルギー,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜疾患などが含まれるが,皮膚,消化管,気道,鼻粘膜,眼表面といった複数臓器にわたり発症する多臓器横断的疾患群である.罹患すると小児期から患者の生活の質(qualityoflife:QOL)や学習効率の低下,さらに将来的な社会生産性にも大きな影響を及ぼすため,アレルギー疾患の有病率上昇は社会的課題である.アレルギー疾患の発症には遺伝的素因と環境因子の双方が関与するが,比較的短期間に集団全体の遺伝的背景が大きく変化したとは考えにくく,その増加には生活様式の変化,都市化,食生活,衛生環境,大気汚染,環境抗原曝露様式の変容など,環境因子の影響がきわめて大きいと考えられている.とくに小児期は環境因子の影響を強く受ける時期であり,乳児期の湿疹やADを起点として多様なアレルギー疾患へ進展するアレルギーマーチの理解が必要となる.このような背景のもと,アレルギー疾患を正しく理解し,適切に予防・管理することは全診療科に共通する課題であり,アレルギー性結膜疾患を診療する眼科医においても,その全身的背景を理解することが求められる.本稿ではアレルギーマーチ,小児アレルギー疾患の疫学,国内外のコホート研究,そしてエコチル調査の最新知見を中心に,小児アレルギーに関するアップデートを概説する.Iアレルギーマーチとはアレルギーマーチはアレルギー素因を有する個体が,時間・原因抗原・発症臓器を異にしながら複数のアレルギー疾患を次々と連続的に発症していく自然歴を示す概念で,1980年代に馬場により提唱.1)された(図1).乳児期のADや食物アレルギーを起点として,成長とともに気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜疾患などへとアレルギー疾患が進展・拡大し,原因抗原も食物抗原からダニ,花粉抗原へと加齢に伴い変化.2)するものとして広く認識され,現在では国際的にも広く受け入れられている.近年では,アレルギーマーチの発症機序として皮膚バリア障害の重要性.3)が明らかとなっている.フィラグリン遺伝子異常や皮膚炎によるバリア破綻により抗原が経皮的に侵入し,2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)型免疫応答を介した免疫グロブリンE(immuno-globulinE:IgE)感作(経皮感作)が成立する.さらに,上皮由来サイトカインを介した全身性アレルギー炎症や,腸内細菌叢,食生活,抗菌薬使用,都市化,大気汚染などの環境因子が発症・進展に関与すると考えられており,アレルギーマーチは「皮膚から始まる全身性アレルギー炎症」として再解釈されている.4).こうした遺伝.*TamakiSumi:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕角環:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮185-1高知大学医学部眼科学講座(1)(3)7190910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1アレルギーマーチ概念図表1ISAACPhaseOneとPhaseThreeにおける小児アレルギー疾患の比較疾患領域指標CPhaseCOne(1C990年代)CPhaseCThree(2C000年代)傾向地域差の特徴喘息喘鳴地域差大高所得国で高頻度一部で増加,先進国では横ばい傾向C↑C/C→低・中所得国で増加鼻炎鼻炎中.高頻度地域差あり全体として増加C↑都市化地域で増加鼻結膜炎鼻炎より低頻度だが明確に存在明らかに増加C↑↑思春期・都市部で高頻度湿疹屈曲部湿疹地域差大高所得国で高頻度低・中所得国で増加C↑C/C→高所得国では高止まり表2アレルギー疾患の有病率の変化(日本)疾患調査地有病率の変化特徴アトピー性皮膚炎滋賀県C20年間比較調査1975年9.C12歳8%18.C20歳2%1994.C96年9.C12歳C15%16.C18歳C11%小児期から増加アレルギー性鼻炎全国調査1998年:C29.8%2019年:C49.2%著明な増加スギ花粉症同上1998年:C19.6%ピーク:4C0.C49歳2019年:C42.5%ピーク:1C0.C19歳著明な増加低年齢化アレルギー性結膜疾患全国調査1990年代:C15.C20%2017年:C48.7%顕著な増加表3西日本小学児童におけるアレルギー疾患表4アレルギー疾患医療拠点病院ネットワークを活用した有症率調査1992,2002,2012年の比較アレルギー疾患有病率調査(2023年)疾患1992年2002年2012年アトピー性皮膚炎C17.3%C13.8%C11.7%気管支喘息C4.6%C6.5%C4.7%アレルギー性鼻炎C15.9%C20.5%C28.1%スギ花粉症C3.6%C5.7%C9.9%アレルギー性結膜炎C6.7%C9.8%C11.4%年代アトピー性皮膚炎食物アレルギー気管支喘息アレルギー性鼻炎アレルギー性結膜炎全体平均C15.6%C15.2%C14.7%C47.4%C19.5%0.C4歳C13.5%C13.0%C9.5%C7.6%C2.7%5.C9歳C19.6%C18.0%C15.6%C30.6%C13.7%10.14歳C19.7%C19.3%C14.3%C49.8%C21.6%15.19歳C16.9%C16.9%C18.4%C53.4%C21.0%C表5代表的な出生コホート研究(アレルギー疾患)コホート名国開始年対象主な特徴・目的CALSPAC英国C1991約C14,000母子妊娠期から追跡.環境因子,遺伝,アレルギー,精神発達などを包括的に解析.CBAMSEスウェーデンC1994約C4,000人小児喘息・アレルギー自然歴を長期追跡.環境曝露とアレルギーマーチ解析で有名.CDNBCデンマークC1996約C100,000人大規模出生コホート.喘息・アトピー性皮膚炎・食物アレルギーを長期追跡CJECS日本C2011約C100,000母子環境省主導,日本最大規模の全国出生コホート.妊娠期からの環境曝露,アレルギー疾患,神経発達などを前向きに解析.ALSPAC:AvonCLongitudinalCStudyCofCParentsCandChildren,BAMSE:Children,CAllergy,CMilieu,CStockholm,Epidemiology,DNBC:DanishCNationalCBirthCCohort,JECS:JapanCEnvironmentCandCChildren’sCStudy(エコチル調査).-表6子どもの健康と環境に関する全国調査(JECS,エコチル調査)より得られた小児アレルギー最新知見分類論文名おもな対象疾患おもな内容・ポイント雑誌・年筆頭著者総論・疫学CAllergicCpro.lesCofCmothersCandCfathersCinCtheCJECSBA,AR,花粉症,AD,FA,CACJECS参加両親の全国規模アレルギー疫学調査.スギ感作率や鼻炎・結膜炎有病率を報告.日本におけるアレルギー背景を示した代表的研究CWorldCAllergyCOrganCJ,C2017CYamamoto-HanadaCKアトピー性皮膚炎CAssociationCofCtheCincidenceCofCatopicCdermatitisCuntilC3CyearsColdCwithCcli-mateCconditionsCinCtheC.rstC6CmonthsCofClifeCAD乳児早期の気温・湿度などの気候条件とCAD発症との関連を解析.乾燥環境との関連を示唆CPLoSCOne,C2022CYokomichiCHアトピー性皮膚炎・食物アレルギーCPersistentCeczemaCleadsCtoCbothCimpairedCgrowthCandCfoodCallergy湿疹,FA持続性湿疹が食物アレルギー発症や身体発育へ影響する可能性を報告.アレルギーマーチ研究として重要CPLoSCOne,C2021CYamamoto-HanadaCK鼻炎・感作CExposureCtoCHouseCDustCMiteCAllergenCandCEndotoxinCinCEarlyCLifeCandCSensitizationCandCAllergicCRhinitisAR,ダニ感作乳幼児期のダニ抗原・エンドトキシン曝露と感作・鼻炎発症との関連を解析CIntCJCEnvironCResCPublicCHealth,C2022CKojimaCR花粉感作CAssociationCofCJapaneseCcedarCsensi-tizationCatC8CyearsCofCageCwithChouseCdustCmiteCsensitizationCandCmaternalCcedarCpollinosisCinCtheCJECSCYamanashiCadjunctCstudyスギ花粉感作,ダニ感作8歳時点の小児スギ花粉感作と,ダニ感作および母親のスギ花粉症との関連を解析.家族歴と早期感作の重要性を示唆CAllergolCInt,C2025CShimamuraCA鼻炎・アレルギーマーチCNotCAllCRhinitisCFollowsCtheCAtopicCMarchCAR鼻炎を複数フェノタイプに分類し,すべてが典型的アレルギーマーチを辿るわけではないことを報告CAllergy,C2026CHaramaCD結膜炎・栄養CDietaryCintakeCofC.shCandCω-3Cpoly-unsaturatedCfattyCacidsCandCphysi-cian-diagnosedCallergyCinCJapaneseCpopulationAC,AR魚摂取量・Cω3脂肪酸摂取量とCaller-gicCconjunctivitisとの関連を解析.JECSで結膜炎を独立解析した比較的まれな報告CNutrition,C2019CMiyakeCY喘息・環境因子JECS喘息関連解析群BA,喘鳴PM2.5,黄砂,受動喫煙,化学物質,室内環境などと喘息発症との関連を解析複数報告AD:アトピー性皮膚炎,FA:食物アレルギー,BA:喘息,AR:アレルギー性鼻炎,AC:アレルギー性結膜炎子が解析されており,小児アレルギー発症との関連が報告されている.とくに興味深い報告として,出生季節とAD発症との関連がある.秋生まれ児は春生まれ児と比較して乳幼児期CAD発症リスクが高く,出生地域の日照時間や湿度などの環境条件も発症に影響する可能性が示された.これは,出生直後の皮膚バリア形成や環境曝露条件が早期アレルギー発症に影響しうることを示す重要な知見であり,日本の気候特性を踏まえた予防戦略にもつながる可能性がある.また,母体栄養,ビタミンD,脂肪酸摂取,抗菌薬曝露,腸内細菌叢への影響なども検討されており,小児アレルギー発症には胎児期からの環境要因が深く関与することが明らかとなりつつある.比較的短期間で遺伝背景が大きく変化することは考えにくく,こうした環境要因こそが近年のアレルギー疾患増加の主要因であることを支持する.眼科領域においては,現時点でアレルギー性結膜疾患単独の詳細解析は限定的であるものの,ADやアレルギー性鼻炎との関連を通じ,眼アレルギーを多臓器横断的アレルギー疾患として理解するうえで重要な基盤となる.今後,涙液バイオマーカーや眼症状を含めた解析が進めば,小児アレルギー性結膜疾患の自然歴解明にも大きく寄与すると期待される.このようにエコチル調査は,小児アレルギー疾患を時間軸に沿って多角的に解析し,日本におけるアレルギーマーチ,感作形成,環境リスク因子を包括的に明らかにしている.小児アレルギー診療において,エコチル調査から得られる知見は,早期介入,予防医学,個別化医療を推進するうえできわめて重要であり,今後のアレルギー診療の方向性を示す中心的研究といえる.CV小児アレルギー診療への示唆―眼科医に求められる視点小児アレルギー疾患は,多臓器にわたり進展する全身性疾患として理解されるようになり,眼科医においてもアレルギー性結膜疾患を局所疾患としてのみ捉える時代ではなくなっている.とくに小児では,自覚症状の表現が未熟であり,アレルギー性結膜疾患の特徴的症状である「掻痒感」を十分に訴えられない場合が多い.さらに診察協力が得られにくいことから,診断の遅れや未診断例が少なからず存在すると考えられる.そのため,問診や視診のみならず,涙液総CIgE検査など客観的診断指標を積極的に活用し,早期診断精度を高めることが重要である.また,学校健診による視力低下を契機に受診する小児のなかには,アレルギー性結膜疾患が潜在している可能性がある.アレルギー性結膜炎を有する小児は近視リスクが高く,腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)-αなど炎症関連サイトカインが眼軸伸長に関与する可能性.14)も報告されている.したがって,アレルギー性結膜疾患の早期診断と治療介入は,小児期の視機能保護という観点からも重要である.眼科医は視力異常のみならず,背景に存在するアレルギー性眼疾患を見落とさない視点が求められる.さらに,ADを有する児では,小児科,皮膚科,耳鼻咽喉科との連携が不可欠である.近年は生物学的製剤の適応拡大により,乳幼児期から全身的介入が可能となりつつあり,眼科医も全身アレルギー診療の一翼を担うことが期待される.おわりに近年の疫学研究および出生コホート研究の進展により,小児アレルギー疾患は環境因子と遺伝的素因の相互作用のもと,多臓器にわたり時間軸に沿って進展する全身性疾患として理解されるようになった.とくにエコチル調査は,日本人集団におけるアレルギーマーチ,感作形成,環境リスク因子を大規模前向き研究として明らかにし,小児アレルギー研究に大きな転換をもたらしている.一方で,眼科領域における疫学データや長期自然歴解析はいまだ限定的であり,小児アレルギー性結膜疾患を全身アレルギー疾患のなかでどのように位置づけるかは今後の重要な課題である.今後は涙液バイオマーカー,感作プロファイル,遺伝背景などを活用した早期診断や重症化予測が進展し,より早期からの介入や個別化医療が可能になることが期待される.アレルギー性結膜疾患は有病率がきわめて高く,眼科医は小児アレルギー診療の最前線に位置している.眼科724あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026(8)-

序説:眼科アレルギー疾患の診療アップデート

2026年7月31日 金曜日

眼科アレルギー疾患の診療アップデートRecentAdvancesintheDiagnosisandTreatmentofAllergicEyeDiseases松田彰*海老原伸行**はじめにアレルギー性結膜炎は頻度の高い疾患で,日常の生活の質(qualityoflife:QOL)にも大きな影響を与える.2024年度の調査では医療用抗アレルギー点眼薬の市場規模は472億円であり,抗緑内障薬の786億円には及ばないものの,ドライアイなど角膜疾患治療薬の293億円や,抗菌点眼薬の56億円よりは多額の医療資源が投入されている.一方で,抗アレルギー点眼薬の多くは抗ヒスタミン作用をもつメディエーター遊離抑制薬であり,ほかにはステロイド点眼薬と春季カタルのみを適応症とする免疫抑制点眼薬(タクロリムス)があるのみで,新しい薬理作用(.rstinclass)をもつ抗アレルギー眼科用剤は15年以上にわたり上市されていない.また,抗アレルギー点眼薬のうちかなりの割合が非眼科医によって処方されており,細隙灯顕微鏡所見を用いた眼科診療をベースにしない投薬も多いのが現状である.一方で,春季カタルやアトピー性角結膜炎といった慢性重症アレルギー性角結膜炎では,治療に難渋する症例や視機能に障害を残す症例も経験する.中等度以上の慢性重症アレルギー性角結膜炎では,抗アレルギー点眼薬に加えて免疫抑制点眼薬の使用が診療ガイドラインにおいても推奨されており,眼科専門医が把握しておくべき疾患の一つである.近年では,アトピー性皮膚炎(atopicdermati-tis:AD)の治療に各種の生物製剤が導入され,重症ADの治療が進歩している.眼科臨床においても新規AD治療薬を投与した患者の眼を診察することがある.なかでも,デュピルマブを使用した際に誘発されるデュピルマブ関連眼表面疾患については,眼科医としてその病態を理解し,適切な対応をすることが求められている.一方で,重症ADに対して生物製剤を投与した患者のなかには,アトピー性角結膜炎の症状・所見が改善する例もあることが報告されている.アレルギー性疾患の重症例では,生後早期のADに始まり,食物アレルギー,喘息,鼻炎という形でアレルギー疾患が進展していくアレルギーマーチという形をとることが知られている.アレルギーマーチをどのように防止するか,多くの介入試験が実施されている.アレルギー診療においては内科,小児科,皮膚科,耳鼻咽喉科,眼科の連携が重要で,日本アレルギー学会では各診療科の連携のもと,トータルにアレルギーを診療するアレルギー専門医の育成に力を入れているが,眼科領域のアレルギー専門医は全国で30名に満たない状況であり,多くの眼科専門医にアレルギー専門医の資格を取得していた*AkiraMatsuda:日本大学視覚科学系眼科学分野**NobuyukiEbihara:順天堂大学医学部附属浦安病院眼科0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(1)717

診断に苦慮した網膜血管炎を伴う急性帯状潜在性網膜外層 症の1 例

2026年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(6):704.710,2026c診断に苦慮した網膜血管炎を伴う急性帯状潜在性網膜外層症の1例吉田咲季*1林勇海*1内田敦郎*1,2藤岡俊平*1,3富田洋平*1伴紀充*1栗原俊英*1篠田肇*1根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国家公務員共済組合連合会立川病院眼科*3川崎市立川崎病院眼科CACaseofAcuteZonalOccultOuterRetinopathywithRetinalVasculitisthatwasDifficulttoDiagnoseSakiYoshida1),IsamiHayashi1),AtsuroUchida1,2),ShumpeiFujioka1,3),YoheiTomita1),NorimitsuBan1),ToshihideKurihara1),HajimeShinoda1)andKazunoNegishi1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,FederationofNationalPublicServicePersonnelMutualAidAssociationsTachikawaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospitalC目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種と同時期に症状が出現し,両眼に網膜血管炎を伴い診断に苦慮した急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)のC1例を経験したので報告する.症例:25歳,女性.来院約C5カ月前に左眼の霧視が出現し,精査加療目的に慶應義塾大学病院へ紹介となった.矯正視力は右眼(1.2)左眼(1.2),左眼の前部硝子体に細胞を認めた.左眼の周辺部網膜が色調粗造で,フルオレセイン蛍光造影(FA)では両眼に網膜血管炎の存在が示唆された.光干渉断層計(OCT)で左眼優位に網膜外層構造が消失しており,網膜電図(ERG)では左眼で杆体応答,錐体応答が著しく減弱していた.視野検査で両眼のCMarriott盲点の拡大,左眼には進行性の輪状暗点を認めた.感染症,膠原病スクリーニングを含む全身精査を施行したが特記所見はなかった.症状出現の約C1カ月前からCCOVID-19ワクチンを接種していた.結論:本症例は診断に難渋したが,網膜血管炎を伴う網膜外層障害ではAZOORを鑑別に精査を行う必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteCzonalCoccultCouterretinopathy(AZOOR)withCretinalCvasculitisCthatCwasCdi.culttodiagnose.Case:A25-year-oldwomanbecameawareofblurredvisioninherlefteyeapproximately5monthsCpriorCtoCpresentation.CHerCvisualCacuityCwasC1.2CinCbothCeyes.CSlit-lampCandCfundusCexaminationsCrevealedCanteriorvitreouscellsandperipheralretinalcolorabnormalityinthelefteye.FluoresceinangiographysuggestedbilateralCretinalCvasculitis.COpticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCshowedCdisruptionCofCtheCouterCretinalClayers,Cpredominantlyinthelefteye.Electroretinogram.ndingsshowedasigni.cantreductioninrodandconeresponsesinthelefteye.Visual.eldtestingrevealedenlargementoftheMariotteblindspotinbotheyesandaprogressiveparacentralringscotomainthelefteye.Asystemicexaminationwasunremarkable.ShehadreceivedaCOVID-19CvaccinationCaboutC1CmonthCpriorCtoCsymptomConset.CConclusion:AZOORCshouldCbeCconsideredCinCtheCdi.erentialCdiagnosisofouterretinopathywithretinalvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):704.710,C2026〕Keywords:急性帯状潜在性網膜外層症,網膜外層障害,網膜血管炎,COVID-19ワクチン.acutezonaloccultouterretinopathy,outerretinopathy,retinalvasculitis,COVID-19vaccination.はじめに疾患概念で,若年女性の近視眼に好発し,おもに網膜外層の急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterreti-障害により,急性の視力低下や視野障害で発症する1,2).眼nopathy:AZOOR)は,1993年にCGassにより提唱された底写真や蛍光造影は正常または軽微な変化のみであることを〔別刷請求先〕吉田咲季:〒C160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SakiYoshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC704(110)特徴とするが,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)において網膜の一部に軽度の過蛍光や網膜血管の染色を呈する例も存在し,網膜血管炎を合併しうる3).また,網膜は組織学的にC10層構造を有し,網膜の動静脈は表層の神経線維層内を走行している.網膜血管炎は網膜内層に存在する網膜血管に生じる炎症であり,網膜血管の白鞘化や閉塞,血管漏出,軟性白斑,網膜出血などを示す4).後部ぶどう膜炎には網膜血管炎および網膜外層の視細胞や網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)に炎症を生じる疾患のいずれも含まれるが5),網膜血管と網膜外層は解剖学的に離れており,網膜外層障害と網膜血管炎を合併する疾患は比較的まれである.さらに,新型コロナウイルス感染症(coronavirusCdis-ease-2019:COVID-19)ワクチンの接種が開始されて以降,COVID-19ワクチンのさまざまな副反応が報告されており,眼科領域でも角膜移植後拒絶反応,ぶどう膜炎,急性黄斑神経網膜症(acuteCmacularneuroretinopathy:AMN)や網膜.離,網膜静脈閉塞症などの網膜疾患,視神経炎に至るまで多数の報告がある6).今回,COVID-19ワクチン接種と同時期に症状が出現し,診断に苦慮した網膜血管炎を伴うCAZOORのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:25歳,女性.既往歴:耳下腺良性腫瘍.家族歴:眼疾患なし.飼育歴:イヌ,ハムスター.摂食歴:特記すべき事項なし.海外渡航歴:直近C1年以内になし.ワクチン接種歴:20XX-1年9月13日,10月4日にCOVID-19ワクチン(ファイザー社製)を計C2回接種.現病歴:20XX-1年C10月頃に左眼の霧視を自覚し,2カ月で進行性に増悪した.前医でぶどう膜炎および網膜変性疾患を疑われ,20XX年C3月に慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介受診した.1年以内の眼外症状は,問診で頭痛,めまい,歯・歯肉の病気,ニキビ,かみそり負け,続いている咳,下痢,肩こり,腰痛と回答があった.経過:初診時,視力は右眼C0.4(1.2C×sph-0.75DCcyl-0.75DAx110°),左眼C0.4(1.2C×sph-1.25DCcyl-0.75DAx50°),眼圧は右眼C14mmHg,左眼C16mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で両眼とも前房は深く,炎症所見を認めず,左眼の前部硝子体中に軽度の細胞を認めた.眼底は,右眼は特記事項を認めず,左眼は周辺部の網膜の色調が粗造であった(図1).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)では,左眼優位にCellipsoidzone(EZ)が途絶しており,左眼は軽度の網膜内.胞を認めた(図2).眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)では,右眼は血管に沿った高自発蛍光を認め,左眼はとくに黄斑周囲に高自発蛍光を認めた(図3).FAでは,右眼は鼻側や耳側血管の一部から蛍光漏出があり,左眼にはびまん性の網膜毛細血管レベルの蛍光漏出を認め,左眼優位の網膜血管炎が示唆された(図4).Humphrey視野検査では,右眼ではCMarriott盲点の拡大を認め,左眼では求心性の視野狭窄を認めた.Gold-mann視野検査をC20XX年C3月に前医にて,同年C6月に当院にて施行し,右眼はCHumphrey視野検査同様にCMarriott盲点の拡大を認めたが,おおむね進行はなく,左眼はCMarriott盲点の拡大に加えて進行性の傍中心輪状暗点を認めた(図5a.d).網膜電図(electroretinogram:ERG)は,右眼は杆体応答,錐体応答ともに波形が保たれていたが,左眼はいずれも著しく減弱していた(図6).血液検査で血算・生化学検査に特記所見を認めなかった.感染症検査では,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性,rapidCplasmaCreagin(RPR)定性,TreponemaCpallidum(TP)抗体ともに陰性,ヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunode.ciencyvirus:HIV)陰性,結核菌特異的インターフェロン(interferon:IFN)C-γ(T-SPOT)陰性,血清抗トキソプラズマCIgM抗体陰性であった.水痘帯状疱疹ウイルス,単純ヘルペスウイルスはそれぞれCIgG抗体価のみ陽性で既感染パターンであった.各種自己抗体は,抗核抗体,抗環状シトルリン化ペプチド(cycliccitrullinatedpeptide:CCP)抗体,抗二本鎖CDNA(anti-doubleCstrandedDNA:dsDNA)抗体,抗リボヌクレオ蛋白質(ribonucleoprotein:RNP)抗体,抗CSm抗体,抗Sjogren症候群(SjogrenCsyndrome:SS)-A抗体,ミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体(myeloperoxidaseanti-neutrophilCcytoplasmicCantibody:MPO-ANCA),プロテネースC3-ANCA(proteinase3-ANCA:PR3-ANCA)は陰性で,抗リン脂質抗体は弱陽性であったが病的意義は乏しいと考えられた.ヒト白血球抗原(humanleukocyteanti-gen:HLA)は,A2,A24,B62,B35が陽性であり,関連性は低いと考えられた.当院リウマチ・膠原病内科に依頼し,画像検査を含めた全身精査を行ったが,Behcet病,全身性血管炎などの膠原病はすべて否定的と考えられた.FAおよびCERGの再検査は患者の同意が得られず未施行であったが,当院初診後はC2年以上,自覚症状,眼所見,ならびにOCT,FAF,Goldmann視野検査(図5e,f)などの検査所見に著変なく,視力良好で積極的治療の希望がないため,無治療で経過観察を継続している.本稿は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認を得ている(承認番号:20100003).図1眼底所見a,b:右眼.c,d:左眼.網膜周辺部の色調が粗造である.Cab図2光干渉断層計(OCT)所見a:右眼.で示す範囲にCellipsoidzone(EZ)の途絶を認めた.Cb:左眼.軽度の網膜内.胞に加えて,で示す範囲にCEZの途絶を認めた.図3超広角眼底自発蛍光(FAF)所見a:右眼.血管に沿った高自発蛍光を認めた.b:左眼.黄斑周囲に高自発蛍光を認めた.図4フルオレセイン蛍光造影(FA)所見a:右眼.鼻側や耳側血管の一部から蛍光漏出を認めた.Cb:左眼.びまん性の網膜毛細血管レベルの蛍光漏出を認めた.CII考按本症例は,当院初診時には発症から比較的時間が経過していたが,両眼性に網膜血管炎を伴う網膜外層障害を認めた.発症からC8カ月後には視野障害の進行の停止を確認し,矯正視力は保たれていた.眼底検査,FAで説明できない両眼の視野欠損,OCTで視野欠損部位に一致するCEZの消失,ERGにおいて左眼優位の振幅低下を認め,経過や全身精査結果から先天性,自己免疫性などの網膜疾患,その他のぶどう膜炎は否定的であったことから,AZOORと診断した3).若年女性の近視眼で,左眼の硝子体中に軽度の炎症所見を認め,FAFで自発過蛍光を示していることもCAZOORを示唆している3).一方で,わが国ではCAZOORに.胞様黄斑浮腫を合併した報告は少数であるが7),左眼においてCOCTで非常に軽微な網膜内.胞を認めた.本症例では,FAにて比較的強い網膜血管炎の所見を認めたため,網膜血管炎を主眼におき検討を重ねたこともあり,診断に至るまでに長時間を要した.Monsonらの報告によれば,AZOORのC46眼のうちC4眼(9%)において,FAで網膜血管炎を示唆する血管壁の組織染および蛍光漏出が認められた8).とくに日本人症例では,SaitoらがC50眼のうちC13眼(26%)で網膜血管炎を伴っていたと報告している.ただし,罹病期間と網膜血管炎の関連性については言及されておらず,本症例では発症からある程度時間が経過していたが,FAにてとくに左眼で活動性の高い網膜血管炎を認めたことから,発症時期にかかわらずCFAを評価する意義があると考えられた.また同報告では,網膜血管炎の有無は初診時および最終の矯正視力ならびにCHumphrey視野検査における平均偏差(meandeviation:MD)と有意な関連を認めなかったが2),本症例では網膜血管炎の強い左眼優位に網膜外層障図5Goldmann視野検査所見a,b:20XX年C3月の右眼(Ca)と左眼(Cb).c,d:20XX年C6月.右眼(Cc)はCMariotte盲点の拡大を認めたが,おおむね進行はなかった.左眼(Cd)はCMariotte盲点の拡大に加え,進行性の傍中心輪状暗点を認めた.Ce,f:20XX年C12月の右眼(Ce)と左眼(Cf).20XX年C6月と比較し,両眼ともおおむね進行はなかった.害やCERGの振幅低下を認めた.AZOORの活動性や重症度が網膜血管炎にどのようにかかわっているかは今後検討が必要である.さらに,FAFの過蛍光はCRPEの機能不全を,低蛍光はCRPEの消失・萎縮を示唆しており,FAFでは眼底やFAで指摘できない異常所見を検出できることがあるため活用すべきである9).本症例における鑑別診断として自己免疫性網膜症があげられ8),しばしば鑑別がむずかしいことがある.しかし,GassらはCAZOORでは通常C6カ月以内に視野障害の進行が停止すると述べており1),本症例の臨床経過は数年にわたる進行性の視野障害を示していないので,AZOORの経過に矛盾しないと考える.また,網膜血管炎と網膜外層障害を呈しうる疾患として,梅毒10)や眼トキソプラズマ症11)などの感染性ぶどう膜炎があげられるが,本症例は血液検査の結果から感染症は否定的であった.散弾状脈絡網膜症12),多発消失性白点症候群本症例正常例(28歳,女性)abcd(multipleCevanescentCwhiteCdotsyndrome:MEWDS)13)といった他の疾患でも報告はあるが,少数例である.両者を合併する病態として,MEWDSに網膜血管炎を併発した症例の既報では,炎症が網膜外層から網膜内層に波及すること,網膜外層の炎症とは別に網膜内層でも血管炎が同時に起こることの二つの可能性が考察されており13),網膜外層に主病巣が存在するCAZOORでは前者の可能性が高いと考える.さらに,本症例は症状出現と同時期にCCOVID-19ワクチ図6網膜電図(ERG)所見a:杆体応答.b:錐体応答.c:30CHz.icker応答.Cd:杆体C-錐体混合応答.右眼は杆体応答,錐体応答ともに波形が保たれていたが,左眼はいずれも著しく減弱していた.ンを接種しており,ワクチン接種との関連も否定はできない14,15).そして,COVID-19ワクチン接種後の網膜血管炎,網膜外層障害のいずれの報告も散見される一方で,両者を合併しているという点ではきわめてまれである.以上のように,AZOORは他疾患との鑑別が重要な網膜疾患であり,網膜血管炎を伴う網膜外層障害ではCAZOORの可能性を考慮し精査を行うことが重要と考えられた.利益相反富田洋平カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボ伴紀充カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボカテゴリーCP栗原俊英カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボ,株式会社シード,株式会社レストアビジョンカテゴリーCI:株式会社坪田ラボ,株式会社レストアビジョンカテゴリーCP根岸一乃カテゴリーCF:株式会社シード,株式会社レストアビジョン,エイエムオー・ジャパン株式会社,参天製薬株式会社,株式会社.セルージョン,株式会社ジンズホールディングスカテゴリーCP文献1)GassCJD,CAgarwalCA,CScottIU:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathy:along-termfollow-upstudy.AmJOphthal-molC134:329-339,C20022)SaitoCS,CSaitoCW,CSaitoCMCetal:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathyCinJapaneseCpatients:clinicalCfeatures,CvisualCfunction,CandCfactorsCa.ectingCvisualCfunction.CPLoSCOneC10:e0125133,C20153)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班CAZOORの診断ガイドライン作成ワーキンググループ:急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン.日眼会誌C123:C443-449,C20194)PerezCY,CNeriCP,CPichiF:MultimodalCImagingCinCRetinalCVasculitis.Ophthalmologica247:203-213,C20245)StandardizationCofCUveitisNomenclature(SUN)WorkingGroup:DevelopmentCofCClassi.cationCCriteriaCforCtheCUveitides.AmJOphthalmolC228:96-105,C20216)ParmarCUPS,CSuricoCPL,CSinghCRBCetal:OcularCimplica-tionsCofCCOVID-19CinfectionCandCvaccine-relatedCadverseCevents.JPersMedC14:780,C20247)山川美聡,若月優,森隆三郎ほか:急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)に黄斑浮腫を合併したC1例.眼科C64:C773-779,C20228)MonsonDM,SmithJR:Acutezonaloccultouterretinop-athy.SurvOphthalmolC56:23-35,C20119)橋本勇希:AZOOR類縁疾患.RetinMed8:55-62,C201910)SunCCB,CLiuCGH,CWuCRCetal:Demographic,CclinicalCandClaboratorycharacteristicsofocularsyphilis:6-yearscaseseriesCstudyCfromCanCeyeCcenterCinCEast-China.CFrontCImmunol13:910337,C202211)MathisT,DelaunayB,FavardCetal:Hyperauto.uores-centspotsinacuteoculartoxoplasmosis:anewindicatorofouterretinalin.ammation.Retina40:2396-2402,C202012)TeussinkCMM,CHuisCInCHetCVeldCPI,CdeCVriesCLACetal:CMultimodalimagingofthediseaseprogressionofbirdshotchorioretinopathy.ActaOphthalmolC94:815-823,C201613)TakahashiCA,CSaitoCW,CHashimotoCYCetal:MultipleCeva-nescentCwhiteCdotCsyndromeCassociatedCwithCretinalCvas-culitis.IntMedCaseRepJ8:209-213,C201514)MalekiCA,CLook-WhyCS,CManhapraCACetal:COVID-19CrecombinantCmRNACvaccinesCandCseriousCocularCin.ammatorysidee.ects:realorcoincidence?JOphthal-micVisRes16:490-501,C202115)YasakaCY,CHasegawaCE,CKeinoCHCetal:ACmulticenterCstudyofocularin.ammationafterCOVID-19vaccination.JpnJOphthalmolC67:14-21,C2022***

全層角膜移植術中に生じた角膜裂傷を血漿分画製剤 ベリプラストP を用いて創閉鎖した1 例

2026年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(6):700.703,2026c全層角膜移植術中に生じた角膜裂傷を血漿分画製剤ベリプラストPを用いて創閉鎖した1例吉満直哉鉄村一晟子島良平森洋斉宮田和典宮田眼科病院CWoundClosureofanIntraoperativeCornealLacerationAfterPenetratingKeratoplastywithPlasmaFractionatedBeriplastPNaoyaYoshimitsu,IsseiTetsumura,RyoheiNejima,YosaiMoriandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC目的:全層角膜移植術(PKP)中の縫合時に角膜が裂けた場合は,縫合糸を調整しても創閉鎖が困難なことがある.今回,PKP中に生じた角膜裂傷の症例に対し,血漿分画製剤べリプラストCP(CSLベーリング社)で創閉鎖することができたC1例を経験したので報告する.症例:19年前に施行されたCPKP術後のC76歳女性が矯正視力(0.09)と視力低下をきたし,中心角膜厚もC752μmと増大した.本症例に対し再度CPKPを施行した際,術中にC1.2×2.5Cmm程度の角膜裂傷が生じた.裂傷に対し追加縫合後も前房水漏出が続いたため,術後C12日にベリプラストCPを滴下した.処置後C2日目に漏出は消失し,前房深度と脈絡膜.離は速やかに回復した.術後C2カ月で矯正視力はC0.5,5カ月時点で中心角膜厚はC541μmとなり,7カ月時点でも移植片は良好に接着していた.結論:PKP中に生じた小規模裂傷に対し,血漿分画製剤による創閉鎖が有用となる可能性を示した.CPurpose:Toreportthesuccessfulclosureofanintraoperativecornealtearthatoccurredduringpenetratingkeratoplasty(PKP)usingBeriplastP(CSLBehring),aplasma-derivedfibrinsealant.Case:A1.2×2.5mmcor-nealClacerationCoccurredCinCtheCeyeCofCaC76-year-oldCfemaleCduringCrepeatedCPKP.CDespiteCadditionalCsuturing,Cwoundleakagepersisted.At12-dayspostPKP,BeriplastPwasapplied,andtheleakageimmediatelyceased,theanteriorCchamberCdepthCwasCnormalized,CandCchoroidalCdetachmentCwasCresolved.CAtC5-monthsCpostCtreatment,Cbest-correctedvisualacuityinthetreatedeyeimprovedto0.5withacentralcornealthicknessof541μm,andat7-monthsposttreatment,stablegraftadhesionwasobserved.Conclusions:OurfindingsrevealedthatBeriplastPrepresentsabiocompatibleadjunctforsealingsmallintraoperativecorneallacerationsencounteredduringPKP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):700.703,C2026〕Keywords:ベリプラストP,フィブリン糊,全層角膜移植術,角膜裂傷.BeriplastP,fibrinsealant,penetratingkeratoplasty,corneallaceration.Cはじめに全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)は,角膜感染症後の角膜混濁や重度の水疱性角膜症など,視機能に重大な影響を与える角膜疾患に対する手術として以前より行われている.PKPにおける術中・術後合併症には駆逐性出血や眼内炎,緑内障や拒絶反応などがあるが,まれにレシピエント角膜の菲薄化が原因で裂傷が生じる症例も報告されている1).裂傷から前房水が漏出すると前房消失に伴う虹彩癒着や低眼圧に伴う低眼圧黄斑症が誘発され,移植片の生着率および術後視機能が低下する可能性があるため,迅速かつ確実な創閉鎖が求められる.創閉鎖の手段には角膜への縫合を追加する,生体接着剤であるシアノアクリレート,フィブリン糊などが報告されている2).縫合追加による創閉鎖の問題点として,レシピエント角膜の石灰化や瘢痕で硬化した角膜では縫合が困難であること,過剰な結紮により乱視増加の可能性が〔別刷請求先〕吉満直哉:〒C885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:NaoyaYoshimitsu,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC700(106)図1右眼術前の前眼部所見あることがあげられる.シアノアクリレート系接着剤は強固に創を閉鎖できるため有効な症例もあるが,一方で角膜内皮毒性や長期残存による慢性炎症・混濁が問題となる3,4).フィブリン糊はフィブリノゲンとトロンビンによる生理的凝固反応を再現して三次元フィブリン網を形成する生分解性接着剤で,翼状片手術や網膜硝子体手術の止血補助など眼科領域でも応用が拡大している2,5).しかし,PKP術中の角膜裂傷に対する臨床報告は依然として限られ,適応基準や長期成績は明確ではない.今回,角膜移植術中に生じた裂傷に対して追加縫合後も創閉鎖が得られなかった症例に対し,血漿分画製剤ベリプラストCPを使用し良好な創閉鎖と視機能回復を得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:76歳,女性.主訴:視力低下.既往歴:混合結合組織病.現病歴:両眼に原因不明のCDescemet膜皺襞を生じ,X-19年にCPKPを施行された.X-5年時点で右眼矯正視力0.5であったが,慢性的な角膜石灰化が進行し,徐々に右眼視力が低下した(図1).X年C1月には矯正視力がC0.09まで低下したため,同年C4月に再CPKPを施行した.PKP施行前に行ったカルシウム沈着除去によりレシピエント角膜C3時方向が一部欠損し,PKP縫合後にC1.2×2.5Cmmの裂傷を生じた.裂傷へ端々縫合を追加し(図2),治療用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を装用して手術を終了した.経過:本症例では端々縫合を追加したにもかかわらず,術後より浅前房を認めた.術後C2日目にCSCLをはずした際には明らかな前房水漏出は認められなかったが,同日施行した超音波検査にて脈絡膜.離を認めた.その後,前房深度は徐々に回復傾向を示したが,術後C5日目に再び浅前房となり,SCL除去時にC3時方向の裂傷部より前房水漏出を認め図2右眼術中の端々縫合追加a:縫合前の裂傷部().前房水の漏出を認めた.b:縫合追加後().図3術後12日目ベリプラストPのCA液とCB液を混合して裂傷部へ少量適下した.た.再度CSCLを装用したが,術後C9日目でも前房水漏出は改善せず,術後C12日目にベリプラストCPのCA液(フィブリノゲン・アプロチニン溶液)とCB液(トロンビン・塩化カルシウム溶液)を専用のプランジャーホルダーを用いて混合して裂傷部へC5.6滴適下し(図3),SCLを再装用した.処置3日後には漏出が消失した(図4).処置C7日後時点で中心角膜厚C658μmと角膜浮腫は認めたものの,脈絡膜.離も消失し退院となった.退院時の矯正視力はC0.06,眼圧はC18CmmHgであった.処置からC2週間経過した時点では,角膜浮腫が残存しており矯正視力はC0.15であったが,前房水漏出は認めず正常な前房深度を保っていた.その後,術後C2カ月で角膜浮腫は消失し矯正視力C0.6,眼圧はC16CmmHgであった.術後C5カ月時点では中心角膜厚C541μmとなり,術後C1年以上経過した時点でも移植片の状態は良好で(図5),前房水漏出の再発はなく良好な視力を維持している.経過中,眼圧の著しい上昇a図4ベリプラストP術前と術後の前眼部OCTa:ベリプラストCP術前.Cb:ベリプラストCP術後C3日目.もみられなかった.CII考按本症例では,2回目のCPKP術中に生じた角膜裂傷に対し,追加縫合後も前房水漏出が持続した.このため,術後C12日目にフィブリン糊(ベリプラストCP)を滴下し,SCLを装用させることで創閉鎖が得られた.角膜移植術における創閉鎖不全による前房水漏出の持続によって,眼内炎のリスクが高まることが報告されている6).また,前房深度の不安定化に伴い虹彩・水晶体と角膜内皮細胞が接触することで,術後早期からの角膜内皮細胞密度の低下が懸念される7).さらに,Heinzelmannらによれば,遷延する創口は上皮細胞の迷入(epithelialCingrowth)の経路となりうるため,早期の創閉鎖が重要となる8).本症例のレシピエント角膜は,カルシウム沈着により石灰化および菲薄化をきたしていた.Yehらの報告にあるように,石灰化した角膜組織は脆弱で,縫合操作自体が困難な場合や,縫合による十分な水密性が得られにくい場合がある9).このような状況下では,フィブリン糊が縫合を補完し,創部の安定化に寄与する有効な手段となりうると考えられる.フィブリン糊は接着直後から物理的に創部を保持し,48時間で最大強度に達するとされる.縫合糸が創縁を物理的に圧着するのに対し,フィブリン糊は創面を被覆するとともに,角膜実質細胞の遊走とコラーゲン産生を促進し,炎症性サイトカインの過剰発現を抑制することで,角膜透明性の早期回復に寄与すると考えられる6,10).Chenらはフィブリン糊の接着強度に関して,シアノアクリレート系接着剤と比較した場合耐えうる眼圧が低いと報告している11).本症例では,フィブリン糊を一次的な創閉鎖として単独で使用したのではなく,すでに行われた連続縫合の補強,および微小な漏出の閉鎖を目的として使用した.術後眼圧が正常範囲内であり,かつCSCLによる被覆を併用したことが,フィブリン糊の接着強度でも十分な効果を発揮できた要因と考えられた.シアノアクリレート系接着剤はより強図5術後1年経過後の右眼前眼部所見固な接着力を有するが,前房内に侵入した場合の角膜内皮毒性や,硬化した接着剤による異物感,炎症惹起のリスクが懸念される.したがって本症例のような状況では,より高い安全性を確保する観点から,フィブリン糊がより適切な治療選択であったと判断される.本症例においてフィブリン糊による治療が奏効した理由として,前房水の漏出が比較的少量であり,創縁がある程度整平であったため,フィブリン糊が創面に安定して接着しやすかった点があげられる.一方で,フィブリン糊は生分解性であるため,眼圧上昇や強い物理的刺激により再開裂する可能性がある.この点において,表層角膜移植術(lamellarkera-toplasty:LKP)や羊膜移植は,物理的な強度と生体適合性を兼ね備え,とくに広範な角膜欠損や再建を要する症例において,長期的な安定性を提供する点でベリプラストCP単独よりも優位性をもつと考えられる.既報でも,LKPや羊膜移植はより大きな組織欠損や持続的な支持が必要な場合に,組織の置換または修復を促進する治療として確立されており12),フィブリン糊はそれらの手術に補助的に併用する形が望ましいと考えられる10).したがって,フィブリン糊はおもに小規模な裂傷の閉鎖や補助的な止血,またはCLKPや羊膜移植の縫合を補強する役割に適しているといえ,裂傷の大きさや形態に応じて,これらの治療法の選択または組み合わせを慎重に検討する必要がある.角膜移植術中に生じた裂傷に対し,フィブリン糊による治療が本症例では奏効した.今後は,角膜裂傷のサイズ,部位,深さ,原因疾患,眼圧などの因子とフィブリン糊治療の成績との関連性を明らかにするため,多施設共同の前向き研究による症例集積と治療成績の検証が望まれる.また,新規に開発されつつある他の生体接着剤13)との比較検討を通じて,角膜移植術を含む角膜外科手術の安全性と患者の生活の質(qualityoflife:QOL)のさらなる向上が期待される.おわりにPKP中に発生した小規模角膜裂傷に対し,ベリプラストPは縫合を補完する安全で有効な創閉鎖手段となりうる.とくに縫合のみで漏出を制御できない症例や,シアノアクリレートの毒性が懸念される状況で本製剤の適用を検討すべきである.利益相反:宮田和典HOYA株式会社ほか企業より講演料・研究費受領(クラス4)文献1)PaganoL,ShahH,AlIbrahimOetal:UpdateonsuturetechniquesCinCcornealtransplantation:aCsystematicCreview.JClinMedC11:1078,C20222)PandaCA,CKumarCS,CKumarCACetal:FibrinCglueCinCophthalmology.IndianJOphthalmolC57:371-379,C20093)SharmaA,SharmaN,BasuSetal:TissueadhesivesfortheCmanagementCofCcornealCperforationsCandCchallengingCcornealconditions.ClinOphthalmolC17:209-223,C20234)永田有司,子島良平,木下雄人ほか:角膜穿孔に対してシアノアクリレートが有効であったC2例.あたらしい眼科C36:1591-1595,C20195)LagoutteFM,GauthierL,ComtePR:AfibrinsealantforperforatedCandCpre-perforatedCcornealCulcers.CBrCJOphthalmolC73:757-761,C19896)McMasterD,BaptyJ,BushLetal:EarlyversusdelayedtimingCofCprimaryCrepairCafterCopen-globeCinjury.COphthalmologyC132:431-441,C20257)FioreCPM,CRichterCCU,CArzenoCGCetal:TheCe.ectCofCanteriorCchamberCdepthConCendothelialCcellCcountCafterCfiltrationsurgery.ArchOphthalmolC107:1609-1611,C19898)HeinzelmannCJ,CStoicaCS,CVogtCARCetal:IntraocularCepithelialCingrowthCafterCtraumaticCandCsurgicalCcornealCinjuries.DiagnosticsC14:1401,C20249)YehCPT,CHouCYC,CLinCWCCetal:RecurrentCcornealCperforationCandCacuteCcalcareousCcornealCdegenerationCinCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CJCFormosCMedCAssocC105:334-339,C200610)DuchesneB,TahiH,GalandA:Useofhumanfibringlueincornealperforations.CorneaC20:230-232,C200111)ChenCWL,CLinCCT,CHsiehCCYCetal:ComparisonCofCtheCbacteriostaticCe.ects,CcornealCcytotoxicity,CandCtheCabilityCtoCsealCcornealCincisionsCamongCthreeCdi.erentCtissueCadhesives.CorneaC26:1228-1234,C200712)KrysikCK,CDobrowolskiCD,CLyssek-BoronCACetal:CDi.erencesCinCsurgicalCmanagementCofCcornealCperforations,CmeasuredCoverCsixCyears.CJCOphthalmolC2017:1582532,C201713)LiCS,CMaCX,CZhangCYCetal:ApplicationsCofChydrogelCmaterialsCinCdi.erentCtypesCofCcornealCwounds.CSurvCOphthalmolC68:746-758,C2023***

潜在的にロービジョンケアのニーズを抱えていた緑内障患者

2026年6月30日 火曜日

《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):695.699,2026c潜在的にロービジョンケアのニーズを抱えていた緑内障患者田保和也*1,2山﨑舞*1,2横田聡*1,2武田佳代*1,2木場みゆき*1,2山本庄吾*1,2平見恭彦*1,2栗本康夫*1,2,3仲泊聡*1,3,4,5*1神戸市立神戸アイセンター病院*2神戸市立医療センター中央市民病院眼科*3公益社団法人NEXTVISION*4立命館大学・総合科学技術研究機構*5東京慈恵会医科大学眼科学講座CGlaucomaPatientswithUnrecognizedNeedsforLowVisionCareKazuyaTayasu1,2)C,MaiYamazaki1,2)C,SatoshiYokota1,2)C,KayoTakeda1,2)C,MiyukiKoba1,2)C,ShogoYamamoto1,2)C,YasuhikoHirami1,2)C,YasuoKurimoto1,2,3)CandSatoshiNakadomari1,3,4,5)1)KobeCityEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,3)NEXTVISIONPublicInterestIncorporatedAssociation,4)RitsumeikanUniversityResearchOrganizationforScienceandTechnology,5)DepartmentCofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC緑内障は慢性進行性疾患であり,視野障害が進行しても患者自身が生活上の困難を自覚しにくい,あるいは自覚しても医療従事者へ訴えない場合が少なくない.本報告では,眼科通院中でありながら適切なロービジョン(LV)ケアの介入がなかった緑内障患者C3例を提示し,視能訓練士が患者の行動や反応から潜在的な支援ニーズを把握し,介入へとつなげた経過を検討した.視力が比較的良好な症例では,視野障害が身体障害者手帳の交付基準に相当していても,その該当性が認識されず結果として支援に結びつかない例が認められた.また,身体障害者手帳取得後でも活用方法に関する理解が不十分のため,適切な視覚支援が加入できていない症例も存在した.これらの症例から,検査所見のみならず検査中や移動時の様子,患者との対話を通じて生活上の困難を把握し,医療機関が適切な支援機関へつなぐ役割を担うことが円滑なCLVケア導入において重要であると考えられた.CGlaucomaisachronic,progressivedisease,andpatientsoftenfailtorecognizeorreportfunctionaldi.cultiesindailylifedespiteadvancingvisual.eldloss.Thisreportdescribes3glaucomapatientswhowereunderregularophthalmicCfollow-upCbutChadCnotCreceivedCappropriateClowCvisionCcare.CCerti.edCorthoptistsCidenti.edClatentCsup-portCneedsCthroughCsystematicCobservationCofCpatientCbehavior,CresponsesCduringCexaminations,CandCstructuredCcommunicationaboutdailyactivities,enablingtimelyintervention.Inpatientswithrelativelypreservedvisualacu-ity,Csigni.cantCvisualC.eldCimpairmentCmeetingCcriteriaCforCaCPhysicalCDisabilityCCerti.cateCwasCsometimesCover-looked,CrestrictingCaccessCtoCvisualCsupport.CEvenCafterCcerti.cation,CsomeCpatientsCreceivedCinsu.cientCassistanceCbecauseCofClimitedCinformationCofCavailableCservices.CTheseC3CcasesCindicateCthatCrelianceConCclinicalCtestCresultsCaloneisinadequate.Carefulassessmentofmobility,examinationbehavior,andpatient-reporteddailychallengesisessential.Furthermore,medicalinstitutionsplayacriticalroleinproactivelylinkingpatientstoappropriatesocialresources.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(6):695.699,C2026〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,視覚障害,身体障害者手帳,視能訓練士.glaucoma,lowvisioncare,vi-sualimpairment,physicaldisabilitycerti.cate,certi.edorthoptist.Cはじめにanalyzer:HFA)における平均偏差(meandeviation:MD)緑内障は日本における中途視覚障害の主因である.山岸らと生活の質(qualityoflife:QOL)が有意に関連することをは緑内障患者においてCHumphrey視野計(HumphreyC.eld報告している1,2).また,田中らは緑内障患者では疾患初期〔別刷請求先〕田保和也:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院Reprintrequests:KazuyaTayasu,KobeCityEyeHospital,2-1-8Minatojima-minamimachi,Chuo-ku,Kobe650-0047,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(101)C695図1症例1の視野a:Humphrey視野計(HFA)10-2では,26CdB以上の視認点数は右眼C19点,左眼C6点(C○:実測閾値)で周辺視野のデータがなくとも視野障害C5級相当と考えられた.Cb:本人から身体障害者手帳取得の希望があったため,両眼開放CEstermanテストを実施したところ,見えた点はC114点であり,視野等級はC5級となった.からCQOLの低下がみられ,視野障害の進行とともにその低下が加速することを示した3).しかし,緑内障は慢性進行性疾患であり,視野障害が緩徐に進行するため,患者自身が視機能の低下に順応し,不自由さを自覚しにくい,あるいは自覚しても主治医へ訴えない場合が少なくない4).このため,患者からの訴えの有無にかかわらず,医療従事者が積極的に患者の生活上の困難に着目し,必要に応じて早期にロービジョン(LV)ケアの介入・支援を行うことが重要であると考える.当院では支援が必要な患者を発見する方法として,視能訓練士が以下のC2点を中心に支援ニーズの抽出を行う取り組みを行っている.①視力検査,視野検査の結果から身体障害者手帳交付基準に相当すると判断される場合に,主治医へ情報共有する.②検査中の患者の行動や質問への応答などから支援の必要性が示唆される場合には,LVケアの必要性について確認する.本稿では,患者の行動・反応から視能訓練士がCLVケアの潜在的ニーズを把握し実際に支援介入につながった症例を報告する.I症例170歳代,女性.両眼開放隅角緑内障.右眼視力(1.0C×sph-8.00DCcyl-0.75DCAx145°).左眼視力(0.7C×sph-8.00DCcyl-1.00DCAx180°).右眼眼圧C16mmHg,左眼眼圧C16mmHg.身体障害者手帳:未取得.視野:図1に示す.C1.介入を検討する契機となった所見視力検査時に,矯正視力が良好にもかかわらず回答に時間を要し,視標を探す動作が繰り返し観察された.C2.現状確認視野C10°内に認めた暗点が視標探索の困難さに影響していると推察された.日常生活で感じる困難について質問したところ本人からの訴えはなかったが,視能訓練士が読字や顔の識別など具体例を提示し質問したところ実は多数該当することが判明し,視機能の低下により日常生活に支障をきたしている状況が明らかとなった.支援のニーズが潜在的に存在するものの,患者自身が具体的に自覚・把握しにくい可能性が示唆された.C3.施行したLVケアHFA10-2の結果から身体障害者手帳に該当することを主治医に報告し,後日両眼開放CEstermanテストを実施して視認点数C114点,視野障害C5級相当であることを確認し身体障害者手帳申請の手続きを行った.後日改めてニーズ確認を行い,特に読字困難と,歩行時に下方の段差や傾斜に対して不安を感じていることを確認した.LVケアを進めるにあたり,具体的な視覚支援機器や地域福祉サービスの選択も重要であることから,当院と同一施設内に併設されたビジョンパークに情報提供を依頼した.同施設は,公益社団法人CNEXTVISIONが運営する情報提供拠点であり,福祉施設担当者や支援学校教職員など多様な専門職が関与し,各種補助具の体験や福祉相談が可能となっている.本症例では強度近視のため短文は裸眼での至近読が有効であり,長文は拡大読書器による拡大と音声読み上げ機能の併用が有用であることが確認された.ビジョンパークで読み上げ機能付き拡大読書器を体験することでその有効性を本人が実感し,身体障害者手帳取得後に導入へ至った.また,移動に関する困難に対しては地域の支援施設を紹介し,白杖の購入および歩行訓練の実施が検討された.CII症例280歳代,女性.右眼網膜.離に対する硝子体手術後続発緑内障,左眼開放隅角緑内障.右眼光覚弁.左眼視力(0.1C×sph-5.5DCcyl-2.25DCAx90°).右眼眼圧C16mmHg,左眼眼圧C14mmHg.身体障害者手帳:2級(視力障害C4級・視野障害C2級)所持.視野:図2に示すC.C1.介入を検討する契機となった所見検査室への移動時,家族にしがみつくように歩行していた.C2.現状確認身体障害者手帳は所持しているものの,読字困難,移動困難のニーズに対してCLVケアが未介入の状況であった.図2症例2の視野Goldmann視野計で右眼はCV/4eに対する反応を認めなかった.左眼は中心視野および耳上側に島状に視野が残存していたが,移動に重要とされる下方視野は欠如していた.3.施行したLVケア主治医にニーズへの対応が必要な現状を報告し,LV外来へ紹介した.同外来にてニーズの詳細確認を行い,カタログの字が読めず買い物に支障があること,署名ができないこと,信号の色がわからないこと,店頭で商品が識別できないことが明確となった.視機能の活用方法について評価するなかで,読字の際は文字の拡大が必要であることを確認し,ビジョンパークにて拡大読書器を試したところ,有効であることが判明した.また,スマートフォンを所持していたため音声での入力や読み上げ機能の活用と,信号識別や文字認識などが可能な視覚支援アプリがあることを紹介し,操作のサポートなど具体的な対応はビジョンパークへ依頼した.さらに,移動支援として白杖を使用した安全な歩行についての説明と同行援護サービスの活用を提案し,サービス内容の説明および地域支援施設への登録手続きに関する情報提供を行った.CIII症例350歳代,女性.両眼開放隅角緑内障.右眼視力(0.05C×sph-7.00DCcyl-2.00DCAx30°).左眼視力(0.4C×sph-7.00DCcyl-1.75DCAx140°).右眼眼圧C12mmHg,左眼眼圧C12mmHg.身体障害者手帳:2級(視野障害C2級)所持.視野:図3に示すC.C1.介入を検討する契機となった所見視力検査時に,患者から「身体障害者手帳を取得したがメリットがわからない」との報告を受けた.図3症例3の視野右眼は中心視野を欠き,耳下側に島状の視野残存を認めた.左眼は全体として視野の広がりはあるものの輪状暗点を呈し,中心視野はC3°以内であった.2.現状確認身体障害者手帳は所持しているものの,取得によりどのような福祉支援が受けられるか理解できていないこと,読字困難のニーズを確認した.C3.施行したLVケア身体障害者手帳取得後に受けられる福祉サービスとして補装具や日常生活用具等の視覚補助具の購入支援,税金の減免など経済的なメリットがあることを説明した.また,障害年金受給の可能性があるため年金事務所や社会保険労務士に相談するよう助言した.読字支援については拡大読書器,スマートフォンの視覚支援アプリについて紹介し,ビジョンパークにて実際に体験しながら説明を依頼した.CIV考按本報告のC3症例はいずれも,緑内障の治療目的で眼科通院中であったにもかかわらずCLVケアへの適切な導入に至っていなかった.とくに症例C1では,緑内障が慢性進行性であるという疾患特性から患者本人がCQOLの低下を自覚しにくいこと,自発的な訴えが乏しかったことでニーズの発掘がむずかしかったと考えられることが既報4)と一致していた.また,視覚支援において重要な役割を担う身体障害者手帳に関しては,横田らが身体障害者手帳未取得のリスク因子として「視力非該当」をあげており5),症例C1のように視力が比較的良好である場合には,視野障害が身体障害者手帳の交付基準に相当する程度まで進行していてもその該当性が認識されず,結果として身体障害者手帳取得に関する情報提供が行われないまま視覚支援介入に至らない場合もある.視力が良好に保たれている場合でも,視野障害が中心C10°内に及ぶと読字困難や羞明など日常生活への影響が顕著となることが報告されている6)ことから,視力によらず中心視野障害を認める場合には視覚支援のニーズが高まる.緑内障における視野評価ではC30°以内の視野測定が標準とされており,必要に応じて中心C10°以内の測定を追加することが推奨されている7).なお,中心C10°のみの視野データが得られていない場合であっても,24-2およびC30-2では測定点間隔がC6°であるため,中心部からC2点以内に暗点が存在するかを確認することは可能であり,このような中心暗点が認められる場合には読字困難や羞明などの視覚的な困難の有無について確認するとともに,身体障害者手帳の交付基準に相当するか確認することが重要と考える.さらに,湖崎分類Ⅲ期以降に相当する中期緑内障では,30°を超える周辺視野にも欠損が出現し始める.周辺視野欠損は移動のしづらさ以外に夜盲や羞明が起りやすい8).このため,両眼開放CEstermanテスト,FF120,Goldmann視野計などを用いて周辺視野を含めた評価を適宜行うことが望ましく,周辺視野の評価から身体障害者手帳の交付基準に相当すると判断できる場合も少なくない.また,症例C2やC3のように身体障害者手帳を所持していながら,本来はより早期の介入が必要であったにもかかわらず,十分なCLVケアを受けられていない患者は当院においても散見される.さらに筆者らは当院のCLV外来受診歴のある患者への聞き取り調査で,約半数にあたるC47%の患者がCLV外来受診後に新たな課題が生じていたものの,そのうち主治医に伝えられていたのはC41%にとどまっていたことを,第23回日本CLV学会学術総会で報告した.これらからCLVケアの対象となる視機能障害を有する患者に対しては,身体障害者手帳の取得や専門外来,専門機関への紹介のみにとどまるのではなく,生活上の困難や支援ニーズについても定期的に把握し継続的な支援につなげていくことが重要と考える.LVケアの重要性が認識される一方で,すべての支援を医療機関内で完結させることは現実的でない場合も少なくない.そのため,医療機関には患者の視覚的ニーズを適切に把握したうえで,必要な支援を提供可能な医療・福祉資源へ的確につなぐ役割が求められる.本報告ではいずれの症例も,LVケアへの導入およびニーズの把握は院内で行い,具体的な助言や補助具の体験についてはビジョンパークや地域の支援機関へつなぎ,継続的な介入が可能になるよう連携を行った.福祉機関の利用に心理的抵抗を示す患者も少なくないことから,医療機関において視機能評価とあわせてCLVケアに関する情報提供を行い地域の支援機関と段階的に連携することは,患者の不安を軽減し円滑な支援導入に重要であると考える.治療に対する関心は患者・医療従事者ともに高い一方で,生活上の「見えにくさ」への対応は十分ではなく,視覚支援の必要性を適切に把握できないまま支援介入に至っていない緑内障患者の存在が示唆された.検査所見に加え,患者の行動や対話を通じて潜在的な支援ニーズを把握し,LVケアにつなげることが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版CVFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のCqualityoflife評価C.日眼会誌C113:964-971,C20092)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:高齢者正常眼圧緑内障患者の視野障害とCQOL.臨眼C63:1467-1473,C20093)田中健司,岩瀬愛子,水野恵ほか:緑内障患者のCQOLとソーシャル・サポートの関連.日視能訓練士協誌C48:C35-45,C20194)国松志保:緑内障患者のロービジョンケア.あたらしい眼科C26:1077-1078,C20095)横田聡,金森章泰,藤本雅大ほか:神経眼科・斜視弱視外来における視覚障害者手帳取得状況.神経眼科C34:C61-64,C20176)張替涼子:緑内障のビジョンケア.眼科C66:125-138,C20247)木内良明,井上俊洋,庄司信行ほか:緑内障ガイドライン(第C5版)C.日眼会誌C126:85-177,C20228)陳進志:第C4章ロービジョンケアの視機能と行動.視能学エキスパートロービジョンケア(新井千賀子,田中恵津子,阿曽沼早苗,石井祐子編),p93-97,医学書院C,2024C***

眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の 特徴

2026年6月30日 火曜日

《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):691.694,2026c眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴坂田苑子*1井上賢治*1鶴岡三惠子*1國松志保*2富田剛司*1,3石田恭子*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院CCharacteristicsofGlaucomaPatientsSeenataLow-VisionClinicinanOphthalmologyHospitalSonokoSakata1)C,KenjiInoue1)C,MiekoTsuruoka1)C,ShihoKunimatsu-Sanuki2)C,GojiTomita1,3)CandKyokoIshida3)1)InouyeEyeHospital,2)CNishikasaiInouyeEyeHospital,3)CTohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:高齢化に伴い緑内障患者は増加し,ロービジョンケアの需要も増えている.今回,ロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を調査した.対象および方法:2024年C4月.C2025年C3月に井上眼科病院ロービジョン外来を受診した緑内障患者C114例を対象とした.年齢,性別,病型,身体障害者手帳等級,ニーズおよび実施したロービジョンケアの内容を診療録より後ろ向きに調査した.結果:平均年齢はC68.0C±13.9歳で高齢者が多かった.病型は広義原発開放隅角緑内障がC75%を占めた.身体障害者手帳を取得している患者のうちC1,2級がC70%以上であった.患者のおもなニーズは読字で,ロービジョンケア内容では拡大読書器の紹介が最多であった.結論:ロービジョン外来を受診した緑内障患者は高齢の重症例が多く,読字のニーズに対して拡大読書器,ICT機器,光学補助具の紹介が多く行われていた.CPurpose:Asthepopulationages,thenumberofglaucomapatientsisexpectedtoincrease,thusleadingtoariseinthedemandforlow-visioncare.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatethecharacteristicsofglauco-maCpatientsCseenCatCaCLow-VisionClinic(LVC)inCanCophthalmologyChospital.CSubjectsandMethods:WeCretro-spectivelyCanalyzedCtheCmedicalCrecordsCofC114CglaucomaCpatientsCseenCatCtheCInouyeCEyeCHospitalCLVCCbetweenCApril2024andMarch2025.Patientdemographics,glaucomasubtypes,visualdisabilitygrades,speci.cneeds,anddetailsCofCtheClow-visionCcareCprovidedCwereCreviewed.CResults:TheCmajorityCofCtheCpatientsCseenCwereCelderly(meanage:68.0C±C13.9years).Primaryopen-angleglaucomaaccountedforabout75%oftheglaucomasubtypesobserved.Over70%ofthepatientsheldaphysicaldisabilitycerti.cateclassi.edasGrade1orGrade2.Reading-relatedCneedsCremainedCpredominant,CandCvisualCaidCdeviceCintroductions,CespeciallyCthoseCrelatedCtoCaCvideoCmagni.er,werethemostcommoninterventions.Ontheotherhand,thedemandofapplicationforaphysicaldis-abilitycerti.catehaddecreased.Conclusion:TheglaucomapatientsseenatourLVCwerepredominantlyelderlysubjectswithsevereconditions,andreading-relatedneeds,magnifyingreadingaids,ICTdevices,andopticalaidswerefrequentlyrecommended.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(6):691.694,C2026〕Keywords:ロービジョン外来,緑内障,読字,身体障害者手帳C.low-visionclinic,glaucoma,reading-relatedneeds,physicaldisabilitycerti.cate.はじめに緑内障は長らく日本人の視覚障害の原因の第C1位で1),進行すると視力低下,視野障害により日常生活に著しく支障をきたす疾患である.日本人の高齢化の進展に伴いさまざまな眼疾患によるロービジョン患者が増加しており,ロービジョンケアの重要性はますます高まっている1).近年では視機能低下に対して医療機関でのロービジョンケアが重視され,各地でロービジョン外来が開設されている2).井上眼科病院(以下,当院)ではC2010年C9月にロービジョン外来を開設したが,患者の眼疾患の内訳では緑内障がもっとも多かっ〔別刷請求先〕坂田苑子:〒C101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SonokoSakata,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-SurugadaiChiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(97)C691(人)3530302725222015101050年齢図1年齢分布6級(0例,0.0%)4級(5例,4.4%)3級(2例,1.8%)20~4050607080~90以上(歳代)その他(9例,7.9%)正常眼圧緑内障(8例,7.0%)図2緑内障病型読字82歩行17就労17書字13羞明123遠見不自由介護3手帳2その他4図4患者のニーズた3).広島大学ロービジョン外来の受診者も緑内障患者がもっとも多く4),ロービジョンケアを考える際にはまずは緑内障患者について検討することが重要と考える.過去にも当院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を報告した5)が,緑内障治療の進歩や高齢化に伴い受診者の背景やニーズが変化している可能性がある.そこで本稿では,2024年度のC1年間に当院ロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を後ろ向きに検討したC.CI対象および方法対象はC2024年C4月.C2025年C3月に当院ロービジョン外来を受診した緑内障患者C114例である.年齢,性別,緑内障病型,身体障害者手帳等級,患者のニーズ,およびロービジョン外来での指導内容を診療録から後ろ向きに調査した.期間内に複数回受診した患者については,期間内最初の受診時のデータを用いた.本研究はオプトアウトを実施し,井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を取得した(承認番号:C202501-4).CII結果対象は男性C53例,女性C61例で,平均年齢はC68.0C±13.9歳(平均C±標準偏差)で,28.C95歳であった.年代はC20.40歳代C10例(8.7%),50歳代C25例(21.5%),60歳代C22例(19.3%),70歳代C27例(23.7%),80歳代以上C30例(26.3%)で,70歳以上が半数を占めた(図1).緑内障病型は原発開放隅角緑内障C78例(68.4%),続発緑内障C19例(16.7%),正常眼圧緑内障C8例(7.0%)の順であった(図2).視覚障害による身体障害者手帳はC89例(78.1%)が有しており,1級C21例(18.4%),2級C43例(37.7%),3級C2例(1.8%),4級5例(4.4%),5級18例(15.8%),6級0例(0%)であった(図3).身体障害者手帳を有していないC25例(21.9%)のうち,等級に該当するが希望していないのがC19例で,692あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(98)表1ロービジョンケアの内容内訳件数内訳件数拡大読書器(CTV)紹介,利用C35ルーペ紹介C5就労継続,相談C21介護保険紹介,相談,利用C5視覚リハビリ紹介C11歩行訓練C4点字図書館,デジタル録音図書紹介C10障害年金申請C2ITサポート紹介C7代読,代筆サービスC1音声CPC紹介C6歩行器C1同行援護C6スマートサイト紹介C1身体障害者手帳紹介,申請C6自立訓練C1合計(重複あり)C122CこのうちC2級相当がC10例,4級相当がC1例,5級相当がC8例であった.障害の等級に該当しない症例はC6例であったC.患者のニーズ(重複あり)は読字C82例,歩行C17例,就労17例,書字C13例,羞明C12例と続いた(図4).ロービジョンケアの指導内容(重複あり)は,拡大読書器の紹介C35例,就労に関する相談C21例,視覚リハビリ紹介C11例,点字図書館の紹介C10例,ITサポートの紹介C7例,音声パソコン紹介C6例,同行援護の紹介C6例,身体障害者手帳の申請希望C6例,ルーペ紹介C5例,介護保険紹介C5例,歩行訓練C4例,障害年金申請C2例など多岐にわたった(表1).ITサポートとは,当院の視覚障害を有する職員がパソコンやタブレット端末などの視覚補助機能を紹介し,日常生活支援や社会資源の情報提供を行うものである6)C.CIII考按当院のロービジョン外来を受診する緑内障患者は高齢者が多く,身体障害者手帳C1級やC2級の重度の視覚障害を有する患者が多数であった.また,身体障害者手帳を有していない患者のなかで,身体障害に該当する障害を有しながら身体障害者手帳申請を希望しない患者も存在した.等級が低いほどロービジョンケアの必要性や利用できる福祉サービスが少ないという誤解があり,身体障害者手帳取得のメリットを感じづらく7),申請の遅れが生じている可能性も考えられる.視覚補助具をはじめ,公共料金の割引など利用できるサービスを具体的に提示し,身体障害者手帳申請に対するネガティブな感情を少なくする工夫も必要と思われる.身体障害者手帳の取得により自身を身体障害者と認識することへの心理的抵抗感から,申請を希望しない患者も存在すると考えられる.一方で,身体障害者手帳に障害が該当しない患者も,少なからずロービジョン外来を受診しており,視覚障害が早期の段階からロービジョンケアの介入ができていることも示された.いずれの患者も比較的若年で,就労や趣味において細かい文字の視認が必要な患者であった.傍中心視野障害によって緻密な作業に支障をきたしていたものの,周辺視野は保たれているため,身体障害者手帳の認定基準には該当しなかったC.患者のニーズでは依然として読字が多かった.読字に対するロービジョンケアの内訳は非常に多岐にわたるが,拡大読書器の紹介やデジタルデバイスの紹介が多かった.パソコンやスマートフォン,タブレット端末などのCinformationandcommunicationtechnology(ICT)機器をC1人C1台所有する時代となり8),実際に視覚障害者でもコロナ禍を境にCICT機器の利用が以前と比べ有意に増加している8).今後もCICT機器を活用したデジタル支援がさらに拡充されていくと考えられる.端末のカメラを利用した文字の拡大機能やコントラスト調節機能による視認性向上,また,スマートフォンやスマートスピーカーなどのスマート家電を利用した音声読み上げ機能,文字の音声入力によって情報の入手・発信が可能になっている8).近年ではアプリの進化もめざましく,カメラに映る人物や色を認識し音声で伝える機能や,外出時に信号を認識し目的地までナビゲーションする機能なども開発されている6,9).これらの機能を有効に活用する患者と,ICT機器の導入にハードル,不安を感じ情報社会から取り残されている患者もおり,情報格差が広がりつつあることが課題である7).今回,患者のニーズとして身体障害者手帳の紹介や申請はC6例(4.9%)で,過去の報告5)のC22例(59.5%)から減少した.これは,今回の対象がロービジョン外来を受診したすべての緑内障患者であるのに対して,過去の報告5)では初めてロービジョン外来を受診した緑内障患者を対象とした点が異なる.初回の受診では身体障害者手帳の紹介や緑内障の進行による等級の変更が行われる可能性が高いが,ロービジョン外来に数回受診している患者では生活指導が中心に行われていたことが考えられる.加えて,ロービジョン外来の認知度向上に伴い一般外来でもロービジョンケアを提供する機会が増加しており,ロービジョン外来の受診以前に一般外来でも身体障害者手帳の紹介や申請が行われている可能性も(99)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026C693考えられる.また,Limらは「緑内障患者はうつ傾向のある患者の割合が多く4),うつ傾向がC30%,不安障害がC64%の割合でみられた」10)と報告している.緑内障患者と網膜色素変性患者の比較では,緑内障患者で心の健康や行動の制限などにおける生活の質(qualityCoflife:QOL)の低下が指摘されており11),日常生活に多くの困難を抱えていることが予測される.一般的にはロービジョンケアを必要と考える患者は,少なからず見えにくいことに不安を感じてから受診する.しかし,不安を強く抱える患者には,ロービジョンケアの存在や福祉センターとの連携,福祉サービスなどを早期に情報提供することも大切である.視覚補助具の選定のみならず,本人の意思を尊重しながら,心理的サポートを含めた包括的なロービジョンケアを行うことが求められる12).今回の調査では,2024年度のC1年間でロービジョン外来を受診した緑内障患者は身体障害者手帳を取得している患者のうちC1,2級を有する重症例が約C70%を占めた.患者のおもなニーズは読字であり,ロービジョンケア内容は拡大読書器の紹介が最多であった.身体障害者手帳に障害等級が該当しない軽度視覚障害のロービジョン外来受診も約C5%みられ,早期からのロービジョン介入ができていることもわかった.緑内障患者では,重度の視覚障害を有する患者だけでなく,視力低下や視野障害が軽度の患者についても早期からロービジョンケアの導入が検討されうる.今後もCICT機器のさらなる活用拡充とともに,心理的側面にも配慮した包括的支援が望まれる.緑内障患者に対し,ロービジョン外来は今後も重要な役割を担っていくと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaforvisualimpairmentcerti.cation..JpnJOphthal-molC67:346-352,C20232)田淵昭雄,藤原篤之:全国大学医学部附属病院眼科におけるロービジョンクリニックの現状(第C2報).日ロービジョン会誌.14:52-57,C20143)鶴岡三惠子,井上賢治,大音清香ほか:井上眼科病院におけるロービジョン外来の実態.眼臨紀.15:317-321,C20224)佐藤佑二,奈良井章人,木内良明:緑内障のロービジョンケア.臨眼C72:192-194,C20185)井上賢治,鶴岡三惠子,大音清香ほか:眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴.眼臨紀C11:C922-926,C20186)石原純子,中津愛,石井祐子ほか:コロナ禍を境に変化した視覚障害者のCIT機器利用と意識について.日ロービジョン会誌.25:s10-s14,C20257)安蘇谷浩乃,相馬睦,杉谷邦子ほか:眼科における身体障害者手帳申請の現況と過去との比較.日ロービジョン会誌.24:41-44,C20238)三宅琢:ICT機器を用いたデジタルビジョンケア.眼科.64:447-452,C20229)山本翠:視覚補助具とCICT機器の選び方と使い方.薬局.72:2505-2511,C202110)LimNC,FanCH,YongMKetal:Assessmentofdepres-sion,Canxiety,CandCqualityCofClifeCinCSingaporeanCpatientsCwithglaucoma..JGlaucomaC25:605-612,C201611)井上賢治,鶴岡三惠子,石田恭子ほか:ロービジョン外来を受診した緑内障患者と網膜色素変性症患者のCQOLの評価.臨眼.73:361-367,C201912)松岡恵美子,松原英紀:不安感の強い緑内障患者のロービジョンケア.日本ロービジョン学会誌.23:73-77,C2023***694あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(100)