‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

緑内障患者におけるツバ着色ノズル容器の視認性と使用意向 の検討

2026年4月30日 木曜日

,尿路感染症,2 型糖尿病,カンジ《原著》あたらしい眼科43(4):457.461,2026c緑内障患者におけるツバ着色ノズル容器の視認性と使用意向の検討奥野周蔵*1溝上志朗*1田坂嘉孝*2,3篠崎友治*2浪口孝治*3多鹿哲也*4白石敦*1大橋裕一*2*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2南松山病院眼科*3愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座*4千寿製薬株式会社メディカルアフェアーズ部CEvaluationoftheVisibilityandPreferenceofColored-FlangeNozzleContainersinGlaucomaPatientsShuzoOkuno1),ShiroMizoue1),YoshitakaTasaka2,3)C,TomoharuShinozaki2),KojiNamiguchi3),TetsuyaTajika4),AtsushiShiraishi1)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital,3)DepartmentofOphthalmology&RegenerativeMedicineEhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)MedicalAffairsDepartment,SenjuPharmaceutical.Co.Ltd.C目的:緑内障患者におけるツバ部を着色したノズル容器の視認性と使用意向を検討する.対象と方法:南松山病院で点眼治療中の緑内障患者にて,Humphrey視野検査で中心窩閾値の低いほう(左右同値の際は右眼)を対象眼とし,ツバ着色ノズル容器と無色ノズル容器のノズル先端部の視認性の優劣と使用意向(どちらを使いたいか)およびその理由を調査した.また,結果は中心窩閾値C31dBを基準として高閾値群と低閾値群に層別化した.結果:対象はC146例(男性C64例,女性C82例,平均年齢C66.4C±11.1歳),対象眼の平均CMD値-13.15±9.09dB,中心窩閾値C30.76C±6.89dBであった.視認性は全体のC77.4%(高閾値群のC79.1%,低閾値群のC74.5%),使用意向は全体のC72.6%(高閾値群の70.3%,低閾値群のC76.4%)がツバ着色ノズルを選択したが,いずれも高低閾値の両群間で有意差はなかった(Fisherの正確確率検定).結論:ツバ着色ノズル容器は,緑内障患者の中心窩閾値によらず無色ノズル容器よりノズル先端部の視認性に優れ,かつ使用意向が高かった.CObjective:Toevaluatethevisibilityanduserpreferenceforcolored-flangenozzlecontainersamongglaucomapatients.CMethods:GlaucomaCpatientsCundergoingCtopicalCtherapyCatCMinami-MatsuyamaCHospitalCwereCenrolled.CThestudyeyewasdefinedastheonewiththelowercentralfovealthresholdonHumphreyvisualfield(VF)test-ing(righteyedatausedifbotheyesequal).PatientscomparedthevisibilityofthenozzletipandindicatedtheirpreferenceCbetweenCcolored-flangeCandCcolorlessCnozzleCcontainers,CandCprovidedCtheCreasonsCforCtheirCchoice.CResultswerestratifiedintohighandlowthresholdgroupsbasedonacentralfovealthresholdof31decibels(dB)C.Results:AmongC146patients(64Cmales,C82females;Cmeanage:C66.4±11.1years)C,CtheCVFCmeanCdeviationCwas-13.15±9.09dBandthecentralfovealthresholdwas30.76±6.89dB.Thecolored-flangenozzlewaspreferredforvisibilityby77.4%ofthepatientsoverall(high:79.1%,low:74.5%)andforuseby72.6%ofthepatientsoverall(high:70.3%,low:76.4%)C,withnosignificantdifferencebetweenthegroups.Conclusion:Colored-flangenozzlecontainersoffersuperiortipvisibilityandhigheruserpreferenceregardlessofcentralfovealthresholdinglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(4):457.461,C2026〕Keywords:ツバ着色ノズル容器,緑内障,視認性,中心窩閾値.colored-flangeeyedropcontainer,glaucoma,visibility,fovealthreshold.C〔別刷請求先〕奥野周蔵:〒791-0295愛媛県東温市志津川C454愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:ShuzoOkuno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,454Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPANCはじめに眼科における薬物治療では,点眼薬が重要な役割を果たしている.とくに,慢性疾患である緑内障においては,点眼薬の治療効果に対してアドヒアランス要因が影響することから1),点眼アドヒアランスに関連する研究が数多く報告されている1.4).既報では,緑内障患者へのアンケート結果から,点眼アドヒアランスに係る問題点の一つとして,「基本的な手技に関する問題」のなかで「点眼瓶の先が見えない」ことが指摘されており2),その視認性を向上させることは点眼アドヒアランスに影響を与える可能性がある.また,ノズルと点眼容器の配色やコントラスト比が視認性に影響することが示されている5).これらのことから,さらにノズル先端部の視認性を向上させるためには,ノズル自体に色差がある点眼容器が有用であると考えられたため,ノズル先端部とノズルツバ部に色差を有するノズル(ツバ着色ノズル)が考案された(図1).ツバ着色ノズルを用いた点眼容器は,健常者においてノズル先端部の視認性を向上させる6)ことが確認された一方で,緑内障患者におけるツバ着色ノズルの視認性への影響はまだ検討されていない.そこで筆者らは,ツバ着色ノズルが緑内障患者における視認性と使用意向に与える影響を検討するためにアンケート調査を実施した.緑内障は,視野はもとよりコントラスト感度へも強く影響するため,緑内障患者においてツバ着色ノズルの影響を調査することは重要であると考えられる.さらに,緑内障の進行に伴い中心窩閾値が低下することが報告されており7),中心窩閾値がノズル先端部の視認性や使用意向に及ぼす影響についても検討した.CI対象および方法本研究は,2024年C12月.2025年C3月に南松山病院眼科を受診した緑内障患者のなかから本研究に同意が得られた満18歳以上の男女で,片眼または両眼に緑内障を有し,点眼治療を受けている者を対象とした.視野検査に影響を与える可能性のある疾患を有する者,手指などに自己点眼が困難な程度の不自由を有する者,Humphrey視野検査を実施することが困難な者は除外した.対象眼は緑内障罹患眼とし,両眼に緑内障を有する場合は中心窩閾値が低いほうを対象眼とした.なお,左右が同じ中心窩閾値の場合は右眼を対象とした.評価者は点眼容器を研究対象者に渡し,研究対象者は普段どおりの点眼動作で点眼容器を対象眼に近づけた位置で評価した.評価する点眼容器の順番は割付管理帳票8)によりランダムに割り付けた.調査項目は,視認性に関して「ノズルの先端が見やすいのはどちらか」(無色ノズル・ツバ着色ノズル),使用意向に関して「今後使用したいと思うのはどちらか」(無色ノズル・ツバ着色ノズル・どちらでもよい),最後に,使用意向に関してその回答を選んだ理由を担当医師が口頭で聴取し記録した.使用容器は,緑色ボトルに青色ツバ着色ノズルを組み合わせた点眼容器(ツバ着色ノズル容器)と,緑色ボトルに無色ノズルを組み合わせた点眼容器(無色ノズル容器)で,どちらもラベルのない未充填のものを使用した(図1).容器の色については,緑内障患者におけるノズル視認性の検討結果5)と,健常人対象の既報6)を参考に選択した.健常人における検討6)では緑色ボトルに橙色ツバ着色ノズル容器の視認性も良好だったが,緑色ボトルに青色ツバ着色ノズル容器の色差がより大きかったことと,緑色ボトルと橙色ツバ着色の組み合わせでは,1型およびC2型色覚異常者が判別しにくくなる可能性を考慮した.統計解析には,IBMCSPSSStatistics28.0(日本CIBM)およびCSAS9.4(SASInstitute)を用いた.主要評価項目であるツバ着色ノズルおよび無色ノズル容器のノズル先端部の視認性の比較には二項検定を実施した.中心窩閾値による層別解析では,高閾値群(>31dB)と低域値群(≦31dB)のC2群に分けてCFisherの正確確率検定を用いて関連性を確認した.進行緑内障に関連する矯正視力はCSnellen視力C20/40(log-MAR0.3)に相当し,これは中心窩閾値C31dBに相当するという既報7,9)を参考に基準を設定した.また,患者の背景因子との関係についてはCPearsonおよびCSpearmanの相関係数を用いた相関解析を行った.統計学的な有意水準はC5%とし,両側検定で実施した.本研究は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則を遵守し,特定非営利活動法人臨床研究の倫理を考える会倫理審査委員会の承認を得たうえで実施した(承認番号:E2024-15-001).また,UMIN臨床試験登録に登録したうえで施行した(UMIN000056436).なお,本研究は千寿製薬株式会社との共同研究として実施し,千寿製薬株式会社から研究費用および点眼容器の提供を受けて行った.CII結果結果と患者背景を表1に示す.146例(男性C64例,女性82例,平均値C±標準偏差:66.4C±11.1歳,最小値.最大値:36.86歳)だった.対象眼の中心窩閾値は平均C30.76C±6.89dBで低閾値群C55例,高閾値群C91例が組み入れられた.低閾値群は高域値群より高齢で,傍中心C4点の閾値,最高矯正視力および近見視力は有意に高閾値群が良好であった.また,眼圧は低閾値群で有意に低く,等価球面度数には差はなかった.主要評価項目であるノズル先端部の視認性は,対象者全体のC77.4%(113例)が無色ノズル容器よりツバ着色ノズル容器のほうが優れていると回答した(二項検定,p<0.0001)(図2,3).中心窩閾値別では,高閾値群C79.1%(72/91例),abノズル先端部ツバ着色ノズルノズルツバ部ボトル無色ノズル図1使用した点眼容器a:横からの図.b:上からの図.表1結果と患者背景全体(n=1C46)〔平均値±標準偏差(最小値.最大値)〕低閾値群(≦3C1dB)(n=55)〔平均値±標準偏差(最小値.最大値)〕高閾値群(>3C1dB)(n=91)〔平均値±標準偏差(最小値.最大値)〕p値(CWelchのt検定)年齢66.4歳C±11.1歳(C36.C86歳)68.7歳C±10.0歳(C44.C86歳)65.0歳C±11.5歳(C36.C85歳)C0.0427*中心窩閾値30.76±6.89dB(0.C38dB)24.80±8.07dB(0.C31dB)34.36±1.62(C32.C38dB)C0.0000**傍中心4点NS18.10±13.04dB(C0.C34)14.49±12.06dB(C0.C34)20.27±13.18dB(0.C34dB)C0.0077**CTS22.44±11.29dB(0.C35dB)18.47±11.23dB(0.C32dB)24.84±10.69dB(0.C35dB)C0.0010**CNI23.73±11.30dB(0.C35dB)17.75±11.88dB(0.C34dB)27.34±9.28dB(0.C35dB)C0.0000**CTI25.84±9.85dB(0.C35dB)17.91±11.73dB(0.C31dB)30.63±3.48dB(6.C35dB)C0.0000**最高矯正視力0.97±0.34(C0.05.C1.5)0.68±0.33(C0.05.C1.2)1.14±0.21(C0.4.C1.5)C0.0000**近見視力0.27±0.23(C0.02.C1.2)0.20±0.16(C0.02.C0.6)0.31±0.25(C0.03.C1.2)C0.0012**眼圧C13.75±3.32CmmHg(5C.0.C27.5mmHg)C12.75±3.30CmmHg(6C.0.C27.5mmHg)C14.35±3.20CmmHg(5C.0.C24.0mmHg)C0.0050**MD値-13.15±9.09dB(-34.40.C0.84dB)-19.06±8.39dB(-3C4.40.C0.07dB)-9.58±7.53dB(-2C7.29.C0.84dB)C0.0000**等価球面度数-3.14±3.31D(-14.25.C3.00D)-2.81±3.18D(-11.88.C3.00D)-3.33±3.39D(-14.25.C2.75D)C0.3649*=p<0.05**=p<0.01NS:nasalsuperior,TS:temporalsuperior,NI:nasalinferior,TI:temporalinferior.低閾値群C74.5%(41/55例)がツバ着色ノズル容器と回答したが,両群間で有意差はなかった(Fisherの正確確率検定,Cp=0.6942)(図2,3).一方で,使用意向に関しても全体の72.6%(106例)がツバ着色ノズル容器を選択し(二項検定,p<0.0001)(図2,3),高閾値群C70.3%(64/91例),低閾値群C76.4%(42/55例)の両群間で有意差はなかった(Fisherの正確確率検定,p=0.7327)(図2,3).また,視認性ではツバ着色ノズルと回答したが,使用意向ではどちらでもよいと回答した患者もC13例みられ,このうち高閾値群はC10例,低閾値群はC3例だった.CIII考按本研究では緑内障患者において,ツバ着色ノズル容器が無色ノズル容器と比較して視認性および使用意向の両面で有意に優れていることが示された.これらの結果から,ツバ着色ノズルは点眼アドヒアランスにおける「点眼瓶の先が見えない」という既報の課題に対する有効な解決策となりうることが示唆される.視認性の中心窩閾値による層別解析では,高閾値群・低閾値群ともにツバ着色ノズル容器の優位性が認められ,両群間に有意差はなかった.これは,健常人と同様に緑内障患者においても,色差による視認性が向上することを示している.また,使用意向においても中心窩閾値の高低にかかわらず同様の傾向で,一定の効果があることが示唆された.また,点眼容器の色調や形状が使用性に影響することは既報5)でも示されており,本研究結果は今回使用したツバ着色a視認性b使用意向(名)(名)120**113高閾値群120106**高閾値群低閾値群100低閾値群100414280回答者数回答者数4060252119102067408412ツバ着色ノズル無色ノズル差がないツバ着色ノズル無色ノズルどちらでもよい**:p=0.0001(二項検定)**:p=0.0001(二項検定)図2視認性(a)と使用意向(b)の調査結果a視認性b使用意向0%25%50%75%100%5.5%0%25%50%75%100%100%2.7%10.3%49.3%2.7%6.8%28.1%100%10.3%8.2%43.8%4.1%4.8%28.8%14.4%13.0%72.6%どちらでもよい差がない75%75%50%50%無色ノズル無色ノズルツバ着色ツバ着色ノズルノズル25%25%0%0%高閾値群低閾値群全体高閾値群低閾値群全体9155146915514662.3%37.7%100.0%62.3%37.7%100.0%図3視認性(a)と使用意向(b)の調査結果(モザイク図)ノズル容器の有用性を臨床的に裏づけるものである.とくに,ツバ部の着色によってノズル先端の位置が明確になることで,点眼時の空間認識が向上し,誤点眼の防止やアドヒアランスの向上につながる可能性がある.さらに,視認性の向上は患者の心理的負担軽減にも寄与し,点眼治療の継続性を高める要因となる可能性がある.一方で,視認性ではツバ着色ノズルと回答したものの,使用意向ではどちらでもよいと回答した例もみられ,その理由として,「点眼時には先端を見ていない」「着色ノズル容器の先端は見やすいが,無色ノズル容器でも問題なく点眼することができる」などの意見がみられた.また,中心部を含む広C460あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026範な視野欠損がある患者では,点眼時にノズル先端を視認できない場合がある.中心視野が消失してしまっている場合にはそもそも見ることができないので容器の着色による差は出にくく,これらのことは,本研究の結果がすべての症例に当てはまるわけではないという限界も示している.また,今回の検討では空容器を使用しているため,薬剤が充填された実際の容器における光学的特性とは異なる可能性も考えられる.しかし,点眼容器のデザインにおいて色彩設計を含む視認性向上の工夫は,誤点眼の防止やアドヒアランスの向上に寄与する可能性があり,患者の心理的負担軽減や治療継続性の向上にも寄与する可能性がある.(118)利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)谷戸正樹:緑内障点眼手技の実態.眼薬理C37:64-66,C20232)谷戸正樹:K-J法により把握した点眼アドヒアランスの問題点.あたらしい眼科35:1679-1682,C20183)末武亜紀,福地健郎,田中隆之ほか:Patient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート.あたらしい眼科29:969-974,C20124)NaitoT,YoshikawaK,NamiguchiKetal:Comparisonofsuccessratesineyedropinstillationbetweensittingposi-tionandsupineposition.PLoSCOneC13:e0204363,C20185)鎌尾知行,溝上志朗,浪口孝治ほか:点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響.あたらしい眼科C35:258-262,C20186)岩崎達朗,藤本高志,大久保宏哉ほか:ツバ部に着色したノズルを使用した点眼容器のノズル先端部の視認性向上に関する検討.医学と薬学81:309-316,C20247)SongWK,KimKE,YoonJYetal:Associationofmacularstructure,function,andvesseldensitywithfovealthresh-oldinadvancedglaucoma.SciRepC12:19771,C20228)藤野善久,丹澤和雅,村松圭司ほか:ランダム化比較試験における割付管理のための方法に関する発案.JCUOEHC42:77-82,C20209)FlaxelCCJ,CSamplesCJR,CDustinL:RelationshipCbetweenCfovealCthresholdCandCvisualCacuityCusingCtheCHumphreyCvisualCfieldCanalyzer.CAmCJCOphthalmolC143:875-877,C2007C***

視線計測装置を用いたMNREAD-Jk による読字能力と 眼球運動指標の検討

2026年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科43(4):462.467,2026c視線計測装置を用いたMNREAD-Jkによる読字能力と眼球運動指標の検討丸久友理子*1岡真由美*1,2細川貴之*1,2*1川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CAssessmentofReadingAbilityandEyeMovementParametersUsinganEyeTrackerwiththeMNREAD-JkAcuityChartYurikoMaruhisa1),MayumiOka1,2)andTakayukiHosokawa1,2)1)DoctoralPrograminSensoryScienceGraduateSchoolofHealthScienceandTechnologyKawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:MNREAD-Jkを視線計測装置に提示し,若年健常成人を対象に読字能力を評価可能か検討した.さらに読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求めた.対象および方法:対象は若年健常成人C20名であった.読字の視標はCMNREAD-Jkとし,視線計測装置のモニターに表示させた.解析は読字能力および読字の眼球運動とした.結果:読書能力において読字時間と読書速度はC0.1logMARを境界に低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズはC0.10logMAR,読書視力は-0.12logMARであった.眼球運動においてCsaccade移動量,改行Csaccade移動量は文字サイズが小さくなるほど短縮したが,停留時間,逆行回数は文字サイズ間で有意差がなかった.結論:MNREAD-Jkによる読字能力はC1.3logMARから0.9logMARまで評価可能であった.各文字サイズでの読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを得ることができた.CPurpose:ToinvestigatethefeasibilityofevaluatingreadingabilityusingtheMNREAD-Jkacuitychartpre-sentedviaeye-trackingsysteminhealthyyoungadultsandobtainingfundamentaldataoneyemovementparame-tersduringreading.Methods:Thisstudyinvolved20healthyyoungadultswhoviewedtheMNREAD-JkacuitychartCdisplayedConCtheCeye-trackerCmonitor.CTheCreadingCabilityCandCeyeCmovementCparametersCwereCthenCana-lyzed.Results:Readingabilitydeclinedwith0.1logMARasthethresholdvalue.Themaximumreadingspeedwas359characters/min.Thecriticalprintsizewas0.10logMAR,andthereadingacuitywas-0.12logMAR.AsprintsizeCdecreased,CsaccadeCandCreturnCsweepCamplitudesdecreased;however,CnoCsignificantCdi.erencesCinCfixationCdurationCandCregressionsCwereCobserved.CConclusion:ReadingCabilityCwasCsuccessfullyCassessedCusingCtheCMNREAD-JkCacuityCchartCfromC1.3CtoC0.9logMAR,CandCtheseCfindingsCprovideCfundamentalCdataCforCevaluatingCeye-movementparametersduringreadingforeachprintsize.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(4):462.467,C2026〕Keywords:視線計測装置,MNREAD-Jk,読字,眼球運動,若年健常成人.eyetracker,MNREAD-Jk,reading,eyemovement,younghealthyadults.Cはじめに神経発達症は,読字時間の延長や誤読など読字に関する問題を伴う1,2).読字障害の視覚的要因として眼球運動の問題があり,停留時間の延長,逆行回数の増加,衝動性眼球運動回数の増加,不正確性などが報告されている3,4).そのため,眼科領域においても神経発達症児の読字に関する問題の早期発見に努め,一次障害および二次障害を予防する必要がある.眼科領域において小児に対する読字能力の評価方法にCdevelopmentaleyemovementtest(DEM)やCMNREAD-Jk(はんだや)がある.DEMは眼球運動自体の評価よりも読字能力を反映する5).丸久ら6)は注意欠如多動性障害(attentiondeficithyperactivitydisorder:ADHD)児に施したCDEMに〔別刷請求先〕丸久友理子:〒701-0193倉敷市松島C288川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻Reprintrequests:YurikoMaruhisa,DoctoralPrograminSensoryScienceGraduateSchoolofHealthScienceandTechnologyKawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,KurashikiCity,Okayama701-0193,JAPANC462(120)おいて,不等間隔に配列された数字視標の読字時間が延長し,周辺視における空間認識への視覚的注意が狭い可能性を述べた.Bilbaoら3)は,神経発達症児において逆行回数の増加と誤読の有意な増加がみられ,読字困難の特定に有用と報告している.しかし,DEMの視標である数字は意味処理を必要とせず,認知的負荷が低い.そのため,読字における単語や文節を一つの塊として認識する能力の評価が困難である.一方で,MNREAD-Jkは音韻誤読が起こらないよう配慮されているため,視覚情報処理の評価に適している7).石井ら7)は,発達性読み書き障害児に対してCMNREAD-Jkを用い,読字能力が健常発達児と異なるパターンを示したと述べているが,眼球運動に関する要因は不明である.今回は,眼科領域における神経発達症児の読字能力の評価指標を明らかにするための予備的研究を行った.本研究では,MNREAD-Jkを視線計測装置のCGazefinder(JVCケンウッド)に表示させ,若年健常成人を対象に読字能力を評価可能か検討する.さらに,読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求める.CI対象対象は若年健常成人C20名(男性C10名,女性C10名)で,年齢は平均C21.5歳(20.22歳)であった.条件は,矯正視力C1.0以上,TitmusStereoTestによる立体視がC60秒以下であった.屈折異常は,眼鏡またはコンタクトレンズで矯正した.除外基準は視野異常があること,顕性斜視があることとした.また,言語発達について聴取し,すべての対象者において問題はみられなかった.本研究は,川崎医療福祉大学倫理委員会による審査(20-045)を受け実施した.CII方法読字の視標はCMNREAD-Jkを用いた.MNREAD-Jkはひらがな単語で構成され,文字サイズがC1.3logMARから-0.5logMARまで変化する.各文字サイズをC1ブロックとし,3行にC9単語(1行にC3単語),24文字で構成されている.単語の長さや濁音の数は各ブロック共通である.MNREAD-Jkを視距離C60cmに位置するモニターに投影させて測定するため,30cm用のプレート版を解像度C600dpiでスキャンし,拡大率=元の距離/使用距離により,視距離に対応した文字サイズとなるよう拡大した.対象者には最大文字サイズから最小文字サイズへとC1ブロックずつ,順にできるだけ早く正確に音読するよう指示した.眼球運動の記録にはCGazefinderを使用した.Gazefinderの測定原理は,ディスプレイ下部にある視線計測部から射出される近赤外線CLEDが角膜に反射することで生じる角膜反射像と瞳孔中心との相対的距離をもとに視線位置を計測することである.装置のサンプリングレートはC50Hzであった.モニターのサイズはC19インチで,解像度は横(X軸)C1,280pixel×縦(Y軸)1,024pixelであった.検査距離は60cmとし,測定中は頭部を顎台で固定した.C1.MNREAD-Jkにおける読字能力読字能力の指標は,読書速度および最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力であった.さらに,神経発達症児においては読字時間の延長と誤読が多くみられることから3),読字速度のみでは読字能力の影響を評価できない可能性がある.したがって今後の分析を視野に入れ,指標として読字時間と誤読数を追加し,以下の五つを設定した.Ca.読字時間,読書速度読字時間はC1ブロックを読字するのに要した秒数とした.読書速度はC1分間に読めた文字数で計測し,つぎの計算式で求めた.読書速度=(24-読み飛ばし文字数)÷読字時間×60Cb.最大読書速度最大読書速度は,臨界文字サイズ以上での読書速度の平均値より求めた.Cc.臨界文字サイズ臨界文字サイズは,対象者が最大読書速度で読める最小の文字サイズとした.Cd.読書視力読書視力は対象者がかろうじて読むことのできる最小の文字サイズとし,つぎの計算式で求めた.読書視力=1.4-(読字可能であったブロック数C×0.1)+(読み飛ばし誤読数/240)Ce.誤読数誤読は,読字困難児の誤読分析表C8)を参考に,読み飛ばし,読み誤り,自己修正,語頭反復の四つに分類した.誤読の種類ごとに文字数を計測した.上記五つの指標の算出には,MicrosoftExcelを用いた.C2.Gaze.nderにおける眼球運動解析する文字サイズはCGazefinderの精度9)を考慮し,1文字が平均1°(36pixel)以上となる1.3logMARから0.8logMARとした.読字の眼球運動はCsaccade,停留,改行,逆行のC4要素からなる10).これらに着目し,眼球運動指標としてCsaccadeの視線移動量(saccade移動量),saccade回数,停留時間,改行時における第一Csaccadeの視線移動量(改行Csaccade移動量),逆行回数を設定した.実際に測定した眼球運動の波形を示す(図1).瞬目やそれと同時に生じた眼球運動,測定画面から視線がはずれているもの(マイナス値,0,X軸が(pixel)(pixel)401.5402402.5403403.5(秒)図11.0logMARの1行における眼球運読字時間X軸,Y軸,停留時間,saccade移動量,改行Csaccade移動量を示す.単語をまとまり読みしており,停留とsaccadeを繰り返していた.1,280pixel以上・Y軸が1,024pixel以上の値)は除外した.Saccadeは,視線移動量が36pixel以上の値とした.停留はC36pixel以内にC100msec以上と定義した.また,改行saccade移動量は,改行開始を行の読み終わりに生じる停留のCX軸最大値.とし,改行終了を.のつぎに生じた停留のX軸値.とし,.から.までの移動量を求めた.逆行は,逆行したCsaccadeの視線移動量がC36pixel以上の値を計測した.C3.統計解析統計解析は眼球運動の各指標において隣接するClogMAR値を比較し,Bonferroni法で有意水準を補正後,t検定で多重比較をした.有意水準は5%とした.III結果1.MNREAD-Jkにおける読字能力1.3logMARからC0.0logMAR視標を音読可能であった対象者はC20名全員であったが,-0.1logMARではC19名,-0.2logMARではC10名,-0.3logMARではC1名,-0.4と-0.5logMARではC0名であった.したがって,以降の解析は1.3logMARから-0.2logMARとした.Ca.読字時間,読書速度(図2)読字時間および読書速度はC1.3logMARからC0.1logMARでほぼ一定で,0.1logMARを境界とし,それぞれ延長・低下がみられた.Cb.最大読書速度最大読書速度(平均値C±標準偏差)はC359C±46文字/分であった.-0.3-0.2-0.100.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.11.21.3文字サイズ(logMAR)N=20図2読字曲線文字サイズごとの読字時間と読字速度を示す.c.臨界文字サイズ(個)臨界文字サイズ(平均値C±標準偏差)はC0.10C±0.12log-25MARであった.C20d.読書視力誤読の文字数15101.3logMARからC0.0logMARにおいて誤読はほとんどみC5られず,中央値はC0(0.0)個であった.0.0logMARから-0.2logMARまでの誤読数を図3に示す.-0.1logMAR以下でC0読書視力(平均値C±標準偏差)は-0.12±0.07logMARであった.e.誤読数の中央値(四分位範囲)0.0logMAR(n=20)(n=19)(n=10)は誤読が多く出現した.-0.1logMARでの読み飛ばしの中央値は2(0.4)個,読み誤りはC1(0.2.5)個,-0.2logMARでの読み飛ばしの中央値はC8(6.16.3)個,読み誤りはC0.5(0.3.5)個であった.-0.1logMARから-0.2logMARにおいて誤読数のばらつきが大きく,自己修正,語頭反復はみられなかった.C2.Gaze.nderにおける眼球運動(表1)Saccade移動量は,文字サイズが小さいほど短縮した.1.1logMARとC1.0logMARの間,0.9logMARとC0.8logMARの間で有意差がみられなかったが,その他の文字サイズ間では有意差がみられた(p<0.01).Saccade回数は,0.9logMARとC0.8logMARの間でのみ有意差がみられ,その他の文字サイズ間では有意差がみられなかった.停留時間は,すべての文字サイズ間で有意差がみられなかった.改行Csaccade移動量は,文字サイズが小さくなるほど短縮し,すべての文字サイズ間で有意差がみられた(p<0.05).読み誤り図3読字曲線文字サイズが-0.1logMARより小さくなると誤読数が増加したが,対象者間でばらつきが大きかった.改行Csaccade移動量がC1行の長さに占める割合(改行到達度)は,1.3logMARでC72%,1.2logMARでC73%,1.1logMARでC73%,1.0logMARでC72%,0.9logMARでC70%,0.8logMARでのみC60%であった.逆行回数はすべての文字サイズでC0回であった.CIV考按若年健常成人を対象にCMNREAD-JkをCGazefinderのモニターに表示させ,さらに読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求めた.表1文字サイズごとの眼球運動指標saccade停留改行文字サイズCsaccade移動量saccade回数停留時間改行Csaccade移動量改行到達度(pixel)(回)(秒)(pixel)(%)C1.3logMARC429±55C8.3±1.4C**0.23±0.04C914±62C**0.72C1.2logMARC325±55C8.7±1.4C**0.23±0.03C739±56C**0.73C1.1logMARC235±37C8.8±2.1C0.23±0.05C585±44C**0.73C1.0logMARC215±70C8.4±1.3C**0.22±0.04C459±47C**0.72C0.9logMARC144±26C8.6±1.9C0.24±0.05C353±57C0.70C****0.8logMARC113±27C6.7±1.1C0.25±0.06C243±50C0.61平均値±標準偏差を示す.**:p<0.01C1.MNREAD-Jkにおける読字能力読字時間,読書速度は,0.1logMARを境界に延長・低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズは0.10logMAR,読書視力は-0.12logMARであった.MNREAD-Jk読書速度調査11)において,読書速度は0.0logMARを境界に低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズはC0.01logMAR,読書視力は-0.18logMARと報告されている.読書速度が低下する文字サイズと読書視力の文字サイズは本研究のほうが大きく,臨界である小さい文字サイズではモニターの解像度が影響している可能性が考えられた.また,誤読数は-0.1logMAR以下で増加とばらつきがみられた.これは-0.1logMAR以下では文字の形態を認識する限界であることが考えられた.誤読数に対する今後の解析は,読字時間,読字速度,臨界文字サイズなどを含めて考慮し0.1logMAR以上とする.さらに今回は,新たな指標として読字時間および誤読数を追加した.しかし読字時間および読字速度は同程度であった.これは今回の対象者である若年健常成人ではほとんど誤読がみられなかったためと考える.今後は神経発達症において検討を行う.C2.Gaze.nderにおける眼球運動Saccade移動量は,文字サイズが小さくなるごとに短縮傾向を示し,停留時間,逆行回数は文字サイズによる差がみられなかった.健常人においては,文章の難易度が高いとCsac-cade移動量が短くなり10),逆行回数が増加する12).また,停留は認知処理の種類や作業負荷によって変化する13).しかし,今回視標として用いたCMNREAD-Jkは,各文字サイズで単語の難易度が不変である.したがって,今回の結果は文字サイズに起因したものと考える.Saccade回数は約C8回であり,1ブロックあたりの単語数とほぼ一致し,まとまり読みを行っていた.単語の読字は,ひとまとまりの文字の連なりが表す音や意味を理解・表出する行為である.Saccade回数の評価は,この知覚的・認知的処理を推測可能である10).また,0.8logMARにおけるCsac-cade回数は約C6回であり,1.3logMARから0.9logMARより少なかった.モバイルアイトラッカーを用いた読書課題におけるCsaccade検出率はサンプリングレートC120HzのほうがC60Hzよりも有意に高いことが報告されている14).したがって,0.8logMAR以下でのCsaccade検出には限界があると考えた.改行Csaccade移動量は文字サイズが小さくなるごとに有意に短縮した.改行のCsaccadeは傍中心窩の処理を反映しており,視空間的注意が関与15)する.今回,改行到達度は約C70%であった.成人に対する読字中の改行時における眼球運動の検討では,改行中の約C20%が目標位置を下回る眼球運動を示し,それに続く修正Csaccadeが発生することが報告されている15).これは筆者らの結果とほぼ一致した.読字障害児において,文字サイズを変化させることは,視空間的注意の広がりを捉える評価指標としての可能性があると考える.本研究において,Gazefinderのモニターに表示させたMNREAD-JkはC1.3logMARから0.9logMARの読字能力を評価可能であった.眼球運動指標を設定し,その基礎的データを求めたことにより認知的処理を推測可能であり,神経発達症児の読字能力に与える要因の解明につながることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岡牧郎,竹内章人,諸岡輝子ほか:広汎性発達障害と注意欠陥/多動性障害に合併する読字障害に関する研究.脳と発達44:378-386,C20122)岡牧郎:併存症,遺伝子研究から発達性読み書き障害の病態を展望する.脳と発達50:253-258,C20183)BilbaoCC,CCarreraCA,COtinCSCetal:EyeCtracking-basedCcharacterizationCofCfixationsCduringCreadingCinCchildrenCwithCneurodevelopmentalCdisorders.CBrainCSciC14:750,C20244)SeassauCM,CGerardCCL,CBui-QuocCECetal:BinocularCsac-cadeCcoordinationCinCreadingCandCvisualsearch:aCdevel-opmentalCstudyCinCtypicalCreaderCandCdyslexicCchildren.CFrontIntegrNeurosciC8:85,C20145)AytonLN,AbelLA,FrickeTRetal:Developmentaleyemovementtest:whatCisCitCreallyCmeasuring?COptomCVisCSciC86:722-730,C20096)丸久友理子,岡真由美,星原徳子ほか:注意欠陥多動性障害(ADHD)児における眼球運動が読字に及ぼす影響.日視能訓練士協誌45:79-86,C20167)石井雅子,張替涼子,長谷川真理ほか:発達性読み書き障害が疑われる学童の読字能力の特性―MNREAD-Jkによる検討―.日視能訓練士協誌42:215-222,C20138)島田恭仁:読み困難児の誤読分析:文章音読課題における誤読基準表の作成.鳴門教育大学研究紀要C28:24-38,20139)藤田美佳,米田剛,山下力ほか:半側空間無視に対する視線計測装置を用いた病態評価の検討―視線計測時の測定精度・視標サイズについて―.川崎医療福祉学会誌C30:C565-569,C202110)苧阪直行:読み-脳と心の情報処理.朝倉書店,p1-128,C199811)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:MNREAD-Jk読書速度調査.日視能訓練士協誌35:147-154,C201312)RaynerK:EyeCmovementsCinCreadingCandCinformationprocessing:20yearsofresearch.PsycholBullC124:372-422,C199813)StaubA,RaynerK:Eyemovementsandon-linecompre-hensionprocesses.TheOxfordhandbookofpsycholinguis-tics(GarethCGaskelled),p327-342,OxfordCUniversityPress,UK,200714)LeubeA,RifaiK:SamplingCrateCin.uencesCsaccadeCdetectionCinCmobileCeyeCtrackingCofCaCreadingCtask.CJEyeMovResC10:1-11,C201715)SlatteryCTJ,CParkerAJ:ReturnCsweepsCinreading:pro-cessingCimplicationsCofCundersweep-fixations.CPsychonCBullRevC26:1948-1957,C2019***

Candida albicans による尿路感染症に起因する両眼内因性 真菌性眼内炎を発症した2 型糖尿病患者の1 例

2026年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科43(4):453.456,2026cCandidaalbicansによる尿路感染症に起因する両眼内因性真菌性眼内炎を発症した2型糖尿病患者の1例田中桂樹清水美穂緑川崇芳山崎光理森潤也今泉寛子宮本寛知市立札幌病院眼科CACaseofBinocularEndogenousFungalEndophthalmitiswithType2DiabetesAssociatedwithUrinaryTractInfectionCausedbyCandidaalbicansCKeijuTanaka,MihoShimizu,SuoMidorikawa,HikariYamasaki,JunyaMori,HirokoImaizumiandHirotomoMiyamotoCDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospitalCCandidaalbicansによる尿路感染症から内因性真菌性眼内炎をきたしたC2型糖尿病患者症例を経験したので報告する.症例はC71歳,男性.15年来の長期にわたる糖尿病の背景あり.発熱,食思不振を主訴に近医を受診し,癌胎児性抗原(CEA)および糖鎖抗原(CA)19-9高値,腎機能障害を指摘され市立札幌病院(以下,当院)内科を紹介.血液培養でカンジダ菌血症と診断されたが,感染病巣が不明で,発熱後飛蚊症があり当院眼科を受診.初診時視力右(0.9),左(0.5),眼圧は両眼ともC10CmmHg,両眼軽度前房炎症細胞,広範囲に多発性の網膜斑状出血,円形白色滲出斑と硝子体混濁がみられた.経過と所見から真菌性眼内炎と診断し両眼硝子体切除術,水晶体摘出術を施行.両眼術中採取の硝子体液からCC.albicansが検出された.全身検索では,尿培養の真菌陽性以外に感染病巣は特定されず,腎盂腎炎が原因病巣と診断した.長期にわたる糖尿病患者は,その易感染性により尿路感染症からでも真菌性眼内炎を発症する可能性があり,早期発見治療のためにも他科との連携が重要である.CWereportacaseofbinocularendogenousfungalendophthalmitiscausedbyCandidaalbicansCoriginatingfromaurinarytractinfectionina71-year-oldmanwithlong-standingdiabetes.Hewasreferredtoourhospitalduetofever,anorexia,elevatedtumormarkers,andrenaldysfunction.Bloodculturesrevealedcandidemia,butthesourceofCinfectionCwasCunclear.CHisCvisualCacuityCwasC0.9CODCandC0.5COS,CandCintraocularCpressureCinCbothCeyesCwasC10CmmHg.Anteriorchamberinflammation,macularretinalhemorrhage,whiteexudativespots,andvitreousopacitywasCobservedCinCbothCeyes.CTheCdiagnosisCwasCfungalCendophthalmitis,CsoCvitrectomyCandClensectomyCwasCper-formedonbotheyes.Systemicexaminationrevealednofociofinfectionotherthanapositiveurinecultureforfun-gi,andpyelonephritiswasdiagnosed.Thiscasehighlightsthatpatientswithlong-standingdiabetesmaydevelopfungalCendophthalmitisCevenCfromCurinaryCtractCinfections,CsoCearlyCdiagnosisCandCinterdepartmentalCcollaborationCareessential.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(4):453.456,C2026〕Keywords:内因性真菌性眼内炎,尿路感染症,2型糖尿病,カンジダ.endogenousfungalendophthalmitis,uri-narytractinfections,type2diabetesmellitus,Candidaalbicans.Cはじめに内因性真菌性眼内炎は,全身の真菌血症により真菌が血行性に脈絡膜血管に移行し発症する疾患であり,通常経中心静脈栄養や各種カテーテル留置に伴うことが多く,とくに免疫抑制療法や悪性腫瘍,糖尿病など免疫能が低下している状態で生じやすい.一般的な起因菌としてCCandidaalbicans,Aspergillusniger,Fusariumsolaniが知られている.今回筆者らは,C.albicansによる尿路感染症から内因性真菌性眼内炎を発症した糖尿病患者のC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕田中桂樹:〒C060-8604札幌市中央区北C11条西C13-1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:KeijuTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,13-1-1Kita11-joNishi,Chuou-ku,Sapporo060-8604,JAPANC図1初診時眼底写真両眼に硝子体混濁および黄白色円形滲出斑C,網膜出血を認める.I症例患者:71歳,男性.主訴:飛蚊症.全身既往歴:2型糖尿病(HbA1c7.7%),胸部大動脈瘤,右総腸骨動脈瘤,胃癌,腎腫瘍.現病歴:2022年C4月CX日にC10日前からの発熱,食思不振を主訴に近医を受診し,癌胎児性抗原(carcinoembryonicantigen:CEA)および糖鎖抗原(carbohydrateCantigen:CA)19-9高値,腎機能障害,胸部大動脈瘤の拡大を指摘され,同日に市立札幌病院(以下,当院)消化器内科を紹介受診した.体温はC37.7℃.生化学的所見はCWBC12,000/μl,C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)13.0Cmg/dl,β-DグルカンC509.1pg/mlと播種性真菌感染症を疑う所見であった.また,血清クレアチニン(Cr)1.82Cmg/dl,尿素窒素(bloodCureamitrogen:BUN)62.6Cmg/dl,推算糸球体濾過量(estimatedglomerularfiltrationrate:eGFR)29.6Cml/分C/1.73m2と腎機能障害を認めた.胸腹部CCTでは左腎臓に22Cmmの結節と背側にC47Cmmの.胞を認めたが,感染を疑う所見はなかった.X日からフルコナゾールC200Cmg/日で抗真菌薬の点滴が開始された.入院時に採取された血液培養および尿培養からはCC.albicansが検出された.発熱後から飛蚊症の訴えがあり,感染巣は不明なままC4月CX+4日に当院眼科(以下,当科)受診となった.初診時現症:視力は右眼(0.9C×sph-1.0DCcyl-2.0DAx85°),左眼(0.5C×sph-1.25DCcyl-1.25DAx95°).眼圧は両眼C10CmmHg.左眼にごく軽度の角膜上皮浮腫,両眼軽度の前房炎症細胞があり,両眼底に広範囲に多発性の網膜斑状出血,多発性円形黄白色滲出斑と硝子体混濁を伴っていた(図1).同日施行したフルオレセイン蛍光造影(fluoresce-inangiography:FA)(図2)では造影早期に滲出斑に一致した低蛍光,造影後期には滲出斑の辺縁,網膜静脈,視神経乳頭からの蛍光漏出,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)(図3)では造影早期後期ともに滲出斑に一致した低蛍光斑とそれ以外にも多数の低蛍光斑が散在していた.眼科経過:初診後の経過観察にて徐々に滲出斑は増加して黄斑部にも出現し,硝子体混濁も増強してきたため,X+7日に左眼,X+10日に右眼の硝子体切除術および水晶体摘出術を施行した.眼内灌流液中にはフルコナゾールをC10μl/mlで添加した.術中採取した両眼硝子体液からはCC.albicansが検出された.薬剤感受性試験ではフルコナゾールへの感受性は良好であった.術後眼内炎症反応は軽減し,当科初診からC3カ月後に両眼内レンズ挿入術を施行,当科初診からC6カ月後に視力は両眼ともに(1.0)まで改善,網膜滲出斑は瘢痕化し網膜出血は消退した.全身経過:諸検査を行ったが尿路以外での感染巣は認めず,C.albicansによる腎盂腎炎が確定診断となった.X+16日には血清CCr1.05Cmg/dl,BUN20.6Cmg/dl,eGFR53.9ml/分/1.73CmC2と腎機能は改善,X+40日にはCEA,CA19-9は正常化し,炎症による一過性の上昇と考えられた.X日からC19日間のフルコナゾール全身投与とその後のC36日間のフルコナゾール内服により,カンジダ菌血症は治癒した.CII考按内因性眼内炎は全身の菌血症により血行性に眼内に移行し発症する疾患であり,内眼手術や外傷によって直達的に起因菌が眼内に及んで生じる外因性眼内炎と比べ頻度は少なく,眼内炎全体のC2.15%である1).内因性眼内炎の約C50%において起因菌が真菌であり2),C.albicans,A.niger,F.solaniの順に頻度が多い.内因性真菌性眼内炎のリスクファクターとしては中心静脈栄養(intravenoushyperalimentation:IVH),尿管カテーテル,外科手術,心疾患,呼吸器疾患,血液疾患,糖尿病,免疫抑制薬投与などがあげられ,とくに図2初診時フルオレセイン蛍光造影(FA)上段:造影早期.滲出斑に一致した類円形低蛍光斑.網膜出血による低蛍光がみられる..下段:造影後期.滲出斑の辺縁,網膜静脈,視神経乳頭および毛細血管からの蛍光漏出がみられる.図3初診時インドシアニングリーン蛍光造影(IA)造影早期(上段).後期(下段).滲出斑に一致した低蛍光斑以外にも多数の低蛍光斑が散在.表1内因性真菌性眼内炎の病期分類Ⅰ期前房内と硝子体中に炎症性細胞の遊出する時期Ⅱ期後極部に円形白色病変をみる時期Ⅲ期Ca上記に加えて硝子体中に軽度の限局性の混濁をみる時期Ⅲ期Cb限局性の硝子体混濁が中等度になる時期Ⅳ期上記に加えて網膜.離がある,または高度の硝子体混濁のため眼底が透見できない時期IVHはリスクが高く真菌性眼内炎の原因のC90%を占めるという報告もある3,4).本症例では,HbA1c7.7%の糖尿病と2007年に腹部外科手術の既往はあったが,IVHやカテーテルの留置はなく,とりわけハイリスクであったとはいいがたい.また,カンジダ菌血症患者における眼病変発現率はC2.2.9.3%である5)ことや,国内での尿路感染症からの内因性真菌性眼内炎の報告は数例にとどまる6.8)こと,カンジダ尿のほとんどが保菌であり臨床的意義が少ないことからも,真菌性腎盂腎炎から眼内炎にまで進展することは比較的まれであるといえる.また,本症例では当院消化器内科を受診してから休日を挟んでC4日後に当科に紹介となった.初診日のX日は診療時間外帯に受診したこと,翌日にβ-Dグルカン上昇を確認したこともふまえると,当院初診から当科受診までC4日間を要したものの,診療科間での連携はとれており早期発見・治療介入につながった.長期にわたる糖尿病という易感染性の状況下においては,尿路感染症からも眼内炎発症を考慮に入れた注意深い経過観察とともに,腎臓内科,泌尿器科,眼科など関連診療科の密な連携が重要であると考える.現在の臨床現場で,真菌性眼内炎の治療においては抗真菌薬の全身投与と硝子体手術が選択肢として存在する.石橋ら9)は真菌性眼内炎を眼内所見から病期分類し,Ⅲa期までは抗真菌薬の全身投与で改善を見込めるが,ⅢCb期を超えると硝子体手術の併用が望ましいと報告した(表1).また,佐藤ら10)の報告ではⅢCb期に硝子体手術を行った場合に最終視力がC0.03未満の症例はなく,半数以上の症例でC0.5以上であったが,Ⅳ期に進行してから硝子体手術を行った場合はすべての症例で最終視力は手動弁であった.日本医真菌学会の侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドラインでは,抗真菌薬の投与が基本であるとされている11).軽.中等症ではC1.2週間後に抗真菌薬の効果判定を行い抗菌薬の変更を検討するが,経過観察中に所見の悪化や初診時から重症であった場合は硝子体手術や,保険適用外ではあるが抗真菌薬の硝子体内注射を行う11).本症例では,当科初診時すでに抗真菌薬の全身投与が開始されてC5日経っており,眼所見も石原分類でⅢa期の状態から数日でⅢCb期への進行を認めたため硝子体手術を施行した.ガイドラインに即して早期に硝子体手術に踏み切る決断をしたことが術後視力改善に大きく寄与したと考える.おわりに尿路感染症から播種性カンジダ症,真菌性眼内炎を発症したC2型糖尿病のC1例を経験した.経過が長期にわたる糖尿病患者はその易感染性により尿路感染症からでも播種性カンジダ症,真菌性眼内炎を発症する可能性を常に考慮し診療する必要がある.また,真菌性眼内炎は病期を判断し適切なタイミングで硝子体手術を選択することで視力予後が見込める治療可能な疾患であり,早期発見・治療介入のためにも眼科と他科との連携が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SchiedlerV,ScottIU,FlynnHW:Culture-provenendog-enousendophthalmitis:clinicalfeaturesandvisualacuityoutcomes.AmJOphthalmol137:725-731,20042)BinderCMI,CChuaCJ,CKaiserCPK:EndogenousCendophthal-mitis:an18-yearCreviewCofCculture-positiveCcasesCatCaCtertiaryCcareCcenter.Medicine(Baltimore)82:97-105,20033)川上秀昭,田中大貴,望月清文:真菌性眼内炎.臨眼C73:C282-289,C20194)西村哲哉,岸本直子,宇山昌延:真菌性眼内炎の経過と硝子体手術の適応.臨眼C47:641-645,C19935)大矢佳美,土屋嘉昭,石峰ほか:カンジダ血症患者に対する眼底検査の再検討―全身管理医師への意識調査から―.日眼会誌116:476-484,C20126)小川令,福岡秀記,永田健児ほか:複雑性腎盂腎炎に関連した両眼性内因性真菌性眼内炎のC1例.日眼会誌C123:C1095-1100,C20197)及川拓,藤原貴光,町田繁樹ほか:尿路結石を契機とする腎盂腎炎からの両眼性真菌性眼内炎のC1例.臨眼C59:C209-213,C20058)SuzukiCR,CKurodaCH,CMatsubayashiCHCetal:CandidemiaCfromanupperurinarytractinfectioncomplicatedbyCan-didaEndophthalmitis.CInternMedC54:2693-2698,C20159)石橋康久,本村幸子,渡辺享子:本邦における内因性真菌性眼内炎.日眼会誌92:952-958,C198810)佐藤幸裕,宮坂忍,島田宏之:内因性真菌性眼内炎の治療成績と石橋分類の有用性.日眼会誌105:37-41,C200111)二木芳人,三鴨廣繁,詫間隆博ほか:侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドラインCExecutivesummary集.MedCMycolCJC54:147-251,C2013***

アトピー性皮膚炎に対する治療強化により角結膜所見の改善を認めた難治性春季カタルの2例 

2026年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科43(4):449.452,2026cアトピー性皮膚炎に対する治療強化により角結膜所見の改善を認めた難治性春季カタルの2例齋藤寛剛*1長島崇充*1清水俊輝*1,2加藤直子*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野CTwoCasesofTreatment-ResistantVernalKeratoconjunctivitiswithImprovedCorneoconjunctivalFindingsFollowingIntensifiedTreatmentforAtopicDermatitisHirotakaSaito1),TakamitsuNagashima1),ToshikiShimizu1,2)C,NaokoKato1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,DepartmentofVisualScience,NihonUniversitySchoolofMedicineC重症のアトピー性皮膚炎と春季カタルを合併したC2症例に対し,タクロリムス点眼に加えステロイド点眼や巨大乳頭切除でも改善がみられなかったが,アトピー性皮膚炎の治療強化により春季カタルの所見改善を認めたC2例を経験したので報告する.アトピー性皮膚炎が重症で春季カタルの治療反応性が悪い場合には,眼科的治療と並行して皮膚科でのアトピー性皮膚炎治療強化を行うことが有用な場合がある.CWeCreportCtwoCcasesCofCvernalkeratoconjunctivitis(VKC)inCpatientsCwithCsevereCatopicdermatitis(AD)C,CinCwhichCstandardCophthalmicCtreatmentsCincludingCtacrolimusCeyeCdrops,CcorticosteroidCeyeCdrops,CandCevenCgiantCpapillaCexcisionCfailedCtoCproduceCsigni.cantCimprovement.CHowever,CnotableCclinicalCimprovementCinCVKCCwasCobservedinbothcasesfollowingtheintensi.cationofdermatologictherapyforAD.The.ndingsinthesetwocas-essuggestthatinpatientswithpoorly-controlledsevereADandaninadequateresponsetoconventionalophthal-mictreatmentforVKC,amultidisciplinaryapproachthatincludesaggressivemanagementofADbyadermatolo-gistmaybebene.cialinachievingbetterocularoutcomes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(4):449.452,C2026〕Keywords:春季カタル,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,atopicdermatitis.はじめに春季カタルは眼瞼結膜の巨大乳頭や輪部結膜の堤防状隆起などの増殖性変化を伴うアレルギー性結膜疾患であり,アトピー体質の小児に好発するが,一部には成人になってから発症する例もある.重症例の場合は角膜びらん,角膜シールド潰瘍などの角膜上皮病変を合併し,強い眼痛や視力低下を引き起こす.治療は抗アレルギー点眼薬に加えて重症例ではステロイド点眼薬が用いられ,点眼治療のみで効果不十分な患者に対して以前はステロイド瞼結膜下注射や内服,乳頭切除などが行われることもあった.2006年にシクロスポリン点眼薬,タクロリムス点眼薬のC2種類の免疫抑制薬の点眼が使用可能になり,ステロイド瞼板下注射や乳頭切除まで必要となる症例は激減した.しかし,まれに免疫抑制薬の点眼を用いても治療効果が不十分な症例が存在する.筆者らは,タクロリムス点眼処方でも改善がみられなかったが,合併するアトピー性皮膚炎の治療強化により春季カタルの所見の改善を認めたC2例を経験した.CI症例[症例1]42歳,男性.主訴:両眼充血,眼瞼腫脹,眼脂.既往歴:アトピー性皮膚炎.現病歴:中学生の頃から春季カタル,角膜潰瘍を繰り返しフルメトロンC0.02%点眼,タクロリムス点眼,巨大乳頭切除を受けていた.XX年CX月に左眼異物感を主訴として近〔別刷請求先〕齋藤寛剛:〒C236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirotakaSaito,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9,Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi,Kanagawa236-0004,JAPANC図1症例1の外眼部写真a:初診よりC1カ月後.左眼上眼瞼結膜に巨大乳頭と強い充血,浮腫がみられる.Cb:初診よりC1カ月後.左眼角膜の広範囲にびらんを認める.c:デュピルマブ投与C4カ月後.左眼上眼瞼結膜の巨大乳頭は消退している.Cd:デュピルマブ投与C4カ月後.左眼角膜上皮欠損は上皮化している.実質には血管新生を伴った瘢痕がみられる.医眼科を受診し,春季カタル,カタル性角膜潰瘍の診断でレボフロキサシンC0.5%点眼左眼C1日C4回,フルオロメトロン0.1%点眼左眼C1日C4回,ヒアルロン酸点眼左眼C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏左眼C1日C2回を処方されたが,改善しないためCXX+1年CX月に当科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.8p(1.0C×sph+0.50DCcyl-1.00DAx35°),左眼1.0(矯正不能),眼圧は右眼9mmHg,左眼C16CmmHg.細隙灯顕微鏡観察では,両眼の球結膜充血と強い結膜浮腫,充血,眼脂を伴う上眼瞼結膜巨大乳頭を認めた.上眼瞼結膜巨大乳頭は左眼でとくに顕著だった.左眼には点状表層角膜症と角膜びらんを認めた.経過:春季カタルと判断し,タクロリムス点眼両眼C1日C2回を開始したところ,翌月再診時には右眼の巨大乳頭は消退した.しかし,左眼では巨大乳頭が残存し角膜びらんが遷延した.びらん周囲の堤防状の上皮を掻把し,巨大乳頭切除を施行するも改善を認めなかった(図1a,b).局所の治療のみで春季カタル改善は困難と判断し,皮膚科にアトピー性皮膚炎の治療強化を依頼した.皮膚科では,もともと投与されていた体幹のモメタゾンフランカルボン酸エステル軟膏,顔面のタクロリムス軟膏に加え,XX+1年CX+4月よりデュピルマブ皮下注射の投与が開始された.デュピルマブ投与開始以降左眼の巨大乳頭は徐々に改善した(図1c).左眼角膜病変はシールド潰瘍を形成していたため,潰瘍底掻把を行ったところ角膜上皮は速やかに上皮化した(図1d).デュピルマブ投与C2カ月後,結膜の炎症所見はほぼ消失し実質に混濁を残したものの角膜の上皮化も得られたため,タクロリムス点眼を終了した.[症例2]17歳,男性.主訴:両眼充血,眼脂.既往歴:アトピー性皮膚炎,小児喘息.現病歴:XX年春頃より両眼の掻痒,充血を主訴に近医眼科を受診し半年ほど治療を受けるも改善せず,他院を受診して両眼春季カタル,左眼角膜潰瘍と診断され,精査加療のため当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.15(0.5C×sph-4.00DCcyl-2.25DAx5°),左眼C0.1(0.5C×sph-3.75DCcyl-1.25DAx110°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C19CmmHg.両眼上眼瞼結膜に強い結膜浮腫,充血,眼脂を伴う巨大乳頭増殖(図2a,b)と右眼角膜には点状表層角膜症を認めた.左眼角膜にはシールド潰瘍(図2c,d)を認めた.図2症例2の外眼部写真a:初診時.右眼上眼瞼結膜に巨大乳頭と充血,浮腫,眼脂を認める.Cb:初診時.左眼上眼瞼結膜には巨大乳頭と充血,浮腫,わずかだが眼脂を認める.Cc:初診時.左眼角膜下方にシールド潰瘍を認める.Cd:フルオレセインでシールド潰瘍部に一致し染色されている.Ce:デルゴシチニブ投与開始C6カ月後.右眼巨大乳頭は横ばいだが眼脂は改善している.f:デルゴシチニブ投与開始C6カ月後.左眼巨大乳頭は消退した.経過:初診時より両眼にタクロリムス点眼C1日C2回,ベタ療のみでの改善は困難と判断し,同院皮膚科にアトピー性皮メタゾン点眼C1日C4回,エピナスチンC0.1%点眼C1日C2回,膚炎の治療を依頼した.プレドニゾロン眼軟膏C1日C1回を開始した.1カ月後の受診皮膚科では,近医で処方されていたプレドニゾロン眼軟時には左眼のシールド潰瘍は上皮化した.しかし,右眼にシ膏,d-クロルフェニラミンマレイン酸塩内服から,顔面のールド潰瘍が出現したためタクロリムス軟膏両眼皮膚C1日C1デルゴシチニブ軟膏,体幹のベタメタゾン軟膏とワセリン軟回を追加し,潰瘍底掻把を行ったところ,徐々に上皮化傾向膏に変更となり,アトピー性皮膚炎はC2カ月で改善がみられがみられ,矯正視力は右眼(0.9),左眼(1.2)まで改善した.た.それに伴い,右眼巨大乳頭は横ばいであったが左眼巨大しかし,両眼上眼瞼結膜巨大乳頭の改善が乏しく,局所の治乳頭は消退した(図2e,f).II考按今回,重症の春季カタルで眼科的な局所の投薬,外科的治療で治癒せず難渋したが,皮膚科に依頼して全身のアトピー性皮膚炎の治療を強化したことにより眼症状の改善がみられたC2例を経験した.春季カタルで形成される結膜巨大乳頭は,CD4陽性CT細胞,NK細胞,好酸球,好塩基球,マスト細胞などから産生されるC2型ヘルパーCT細胞(Th2)サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)-4やCIL-13によって活性化された多核白血球から分泌される蛋白融解酵素による正常な結膜下組織の破壊,線維芽細胞による新たな細胞外マトリックスの産生亢進によるリモデリングの結果生じると考えられている1).また,IL-4,IL-13などのCTh2サイトカインや腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)-αは角膜への好酸球遊走を促進させることで角膜上皮びらんやシールド潰瘍の形成に寄与していると考えられている2).近年使用されるシクロスポリン点眼,タクロリムス点眼などのカルシニューリン阻害薬は,T細胞のクローン増殖を引き起こすCIL-2のT細胞内での発現を抑制することにより春季カタルの炎症を改善させる.一方で,アトピー性皮膚炎は免疫グロブリンCE(immuno-globulinE:IgE)を産生しやすい素因や皮膚の脆弱性を背景に,外的刺激により表皮角化細胞からのCIL-33,IL-25,胸腺間質性リンパ球新生因子(thymicCstromalClymphopoi-etin:TSLP)が産生され,IL-4,IL-5,IL-13,IL-31が産生される.2型炎症はアレルゲン特異的CIgEを誘導し,それはマスト細胞上のCIgE高親和性受容体に結合し炎症を惹起する3).今回アトピー性皮膚炎の治療強化で追加された薬剤のうちデュピルマブはCIL-4,IL-13のシグナル伝達を抑制する作用をもっており,カルシニューリン阻害薬の薬理作用点より下流にて直接CTh2系サイトカインを阻害することにより眼瞼のさらなる病勢の改善を得たと考えられる.また,症例C2で用いられたデルゴシチニブはサイトカイン受容体の細胞質部分であるヤヌスキナーゼを阻害し,IL-4,IL-13などのTh2サイトカインの伝達を抑制することで線維芽細胞の活性化を抑制して,結膜炎症の改善に寄与したと考えられる.春季カタルとアトピー性皮膚炎はともに,リンパ球,好酸球などの炎症細胞,IL-4,IL-13などのCTh2サイトカインが病態の中心となっている.全身的に重度のアトピー性皮膚炎を合併している症例では,局所的な春季カタルの治療を行っても十分な炎症コントロールが得られない場合があり,そのような場合には,眼局所の治療と並行して皮膚科に薬剤治療の強化を依頼し,全身的にアレルギー炎症の抑制が必要と考えられる.既報には今回の症例と同様に眼局所治療に反応性の悪い症例に対して,合併するアトピー性皮膚炎に対する治療強化として抗CIgE抗体製剤であるオマリズマブやヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)1阻害薬であるウパダシチニブを用いたことにより春季カタルの治療効果を得た報告や4.6),デュピルマブを用いたことにより巨大乳頭を伴うアトピー性角結膜炎や春季カタルの治療効果を得た報告もある7,8).それらにおいても全身のアレルギー炎症の抑制が春季カタルの改善に寄与した可能性が指摘されており,今回の症例もそれを支持するものと考える.気をつけるべき点としては,デュピルマブでは結膜炎など眼局所の副作用の出現が報告されており,また,デルゴシチニブでは過量投与では全身への影響が懸念され,局所の免疫低下による合併症も報告されているため3),投与中は注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FukudaCK,CKumagaiCN,CFujitsuY:FibroblastsCasClocalCimmunemodulatorsinocularallergicdisease.AllergolIntC55:121-129,C20062)福田憲:重症アレルギー性結膜疾患の病態と今後の治療展望C.アレルギー70:171-177,C20213)日本皮膚科学会,日本アレルギー学会,アトピー性皮膚炎診療ガイドライン策定委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2024.日皮会誌134:2741-2843,C20244)ZengariniCC,CRodaCM,CSchiaviCCCetal:SuccessfulCtreatmentCofCsevereCrecalcitrantCvernalCkeratoconjunctivitisCandCatopicdermatitisassociatedwithelevatedIgElevelswithomalizumab.ClinExpDermatolC47:604-606,C20225)MimaY,TsutsumiE,OhtsukaTetal:Acaseofrefrac-toryCvernalCkeratoconjunctivitisCshowingCimprovementCafterCtheCadministrationCofCupadacitinibCforCtheCtreatmentofatopicdermatitis.Diagnostics(Basel)C14:1272,C20246)KitoK,CFukudaCK,CKishimotoTCetal:TreatmentCofCvernalCkeratoconjunctivitisCusingCupadacitinib.CJAMACOpthalmolC142:680-681,C20247)FukudaK,EbiharaN,KishimotoTetal:AmeliorationofconjunctivalCgiantCpapillaeCbyCdupilumabCinCpatientsCwithCatopicCkeratoconjunctivitis.CJCAllergyCClinCImmunolCPractC8:1152-1155,C20208)TsuiMC,ChiangBL,WangIJetal:Successfultreatmentandpreventionoftherecurrenceofrefractoryvernalker-atoconjunctivitisCwithCdupilumab.CClinCExpCOphthalmolC50:1100-1103,C2022***

基礎研究コラム:MEK阻害薬と濾過手術

2026年4月30日 木曜日

MEK阻害薬と濾過手術濾過手術の現状濾過手術は,薬物療法で眼圧をコントロールできない患者への標準治療ですが,術後の瘢痕形成が問題となります.現在,瘢痕形成を抑制するためにマイトマイシンCC(Mitomy-cinC:MMC)が使用されていますが,より効果的な薬剤が求められています.通常は静止期にある結膜線維芽細胞は,手術により活性化されることで細胞周期が進行し,線維性瘢痕形成につながります.そのため,細胞周期を制御することは濾過手術の成功に重要です.濾過手術に対するMEK阻害薬の効果MEK阻害薬は,Raf/MEK/ERK経路を介した細胞周期の停止(図1)と線維化抑制の両方に有効性を示しており,悪性黒色腫をはじめとする腫瘍の治療に使用されています1).MEK阻害薬は,ヒト結膜線維芽細胞において,TGF-β1による筋線維芽細胞への分化を抑制することが示されています2).筆者らは,ヒト結膜線維芽細胞におけるCMEK阻害薬の細胞周期停止効果と,ウサギの濾過手術モデルに対する効果を検討しました.その結果,MEK阻害薬は,ヒト結膜線維芽細胞の増殖を濃度依存的に抑制し,細胞周期マーカーであるCPCNAとCcyclinD1の発現を減少させ,p27の発現をRafMEK阻害薬MEK監修北澤耕司・村上祐介・中川卓李真熙キッコーマン総合病院眼科増加させ,細胞周期をCG0/1期で停止させることが示されました.ウサギの濾過手術モデルにおいて,MEK阻害薬投与群では対照群と比較して充血が少なく,びまん性の濾過胞が形成されました3)(図2).今後の展望本研究により,MEK阻害薬が緑内障濾過手術後の瘢痕形成抑制に有益である可能性が示されました.術後の線維化形成の過程には複数の細胞間相互作用が関与しており,複数の阻害薬を併用することで相乗効果が期待できます.MEK阻害薬は,DNA損傷を引き起こすCMMCとは異なるメカニズムで作用するため,MMCの補助療法としても有用であると考えられます.MEK阻害薬の使用法について,さらなる研究が必要と考えられます.文献1)AkinleyeCA,CFurqanCM,CMukhiCNCetal:MEKCandCtheinhibitors:frombenchtobedside.JHematolOncolC6:27,20132)WenCJ,CLinCX,CGaoCWCetal:MEKCinhibitionCpreventsCTGF.β1.inducedCmyo.broblastCtransdi.erentiationCinChumantenon.broblasts.MolMedRepC19:468-476,C20193)LeeCJ,CHonjoCM,CAiharaMA:ACMEKCinhibitorCarrestsCtheCcellCcycleCofChumanCconjunctivalC.broblastsCandCimprovesCtheCoutcomeCofCglaucomaC.ltrationCsurgery.CSciCRepC14:1871,C2024対照群MEK阻害薬投与群図1MEK阻害薬とRaf/MEK/ERK経路図2MEK阻害薬がウサギの濾過手術モデルに与える影響MEK阻害薬はCRaf/MEK/ERK経路Cpathwayを介MEK阻害薬投与群では,対照群と比較して充血が少なく,びまん性の濾過胞がして細胞周期を停止させる.形成された.黄色の線で囲まれた部分が濾過胞.(1C01)Cあたらしい眼科Vol.43,No.4,2C026C4430910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:275.陳旧性黄斑円孔底に見られる顆粒状沈着物(初級編)

2026年4月30日 木曜日

275陳旧性黄斑円孔底に見られる顆粒状沈着物(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに黄斑円孔(macularhole:MH)の陳旧例では,しばしば円孔底の網膜色素上皮面に黄白色の顆粒状沈着物を認める.これは視細胞外節の崩壊物と考えられている.C●症例提示患者はC77歳,女性.右眼は約C1/3乳頭径大のCMHを認め,円孔底に黄白色の顆粒状沈着物を認めた(図1).OCTでは同部位の網膜色素上皮上に顆粒状の隆起病変を認め,MH縁の色素上皮側はやや凹凸があり,不規則な形状を呈していた(図2).矯正視力はC0.05であった.手術は超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術後にコア硝子体を切除し,マキュエイド塗布後に黄斑上のbursapremacularisを黄斑部から.離させ,硝子体カッターの吸引で周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した.ついでCMH周囲のCepiretinalproliferation(EP)をダイアモンドダストスクレイパーで除去し,ブリリアントブルーCGを塗布してCMH周囲の内境界膜を.離した.MH縁のCEPは円孔内に埋め込んだ.その後液空気置換を施行して手術を終了した.術後,MHは閉鎖したが,IS/OSラインの修復がやや不良で,術後C6カ月の時点で矯正視力はC0.3に留まっている(図3).C●陳旧性黄斑円孔底に見られる顆粒状沈着物と黄斑円孔辺縁の形状変化陳旧性CMHの円孔底に見られる顆粒状沈着物はSmmidyらによりCdrusen-likeyellowishCdepositsとして報告され1),その後CIshibashiらがCadaptiveCopticsimagingを用いて,これが網膜色素上皮上に沈着した視細胞の崩壊物であることを示した2).Patelらは,陳旧性CMHの円孔縁の色素上皮側に見られる凹凸を“SharkCJaws”signと名付け,視細胞外節が傷害されている所見図1術前の右眼眼底写真約C1/3乳頭径大のCMHおよび円孔底に黄白色の顆粒状沈着物を認めた.図2術前のOCT所見円孔底の網膜色素上皮上に顆粒状の隆起病変を認め(.),円孔縁の色素上皮側はやや凹凸があり,不規則な形状を呈していた(.).図3術後のOCT所見黄斑円孔は閉鎖したが,IS/OSラインの修復がやや不良で矯正視力はC0.3に留まった.とした3).またCGovettoらは,この顆粒状沈着物と円孔縁の不規則な形状との関係を検討し,顆粒状沈着物は円孔縁の視細胞外節がダメージを受けて落下し,その残骸が色素上皮上に堆積したものであると推測している4).いずれにしても,これらの所見はCMHが陳旧性で,すでに視細胞外節がかなりダメージを受けていることを示しており,硝子体手術後の視力改善が不良となる一因になると考えられる.文献1)SmiddyCWE,CGassJD:MasqueradesCofCmacularCholes.COphthalmicSurgC26:16-24,C19952)IshibashiT,WakabayashiT,NishidaK:Remnantsofpho-toreceptorCouterCsegmentsCatCtheCbaseCofCtheCmacularChole.OphthalmolRetinaC2:1187,C20183)PatelR,DelhiwalaK,KhamarDetal:“SharkJaws”signinCmacularChole.CAsiaCPacCJOphthalmol(Phila)10:502,C20214)GovettoA,BacheriniD,RomanoMRetal:Full-thicknessmacularhole:AresupraRPEgranulardepositsremnantsofCphotoreceptorsCouterCsegments?CClinicalCimplications.CAmJOphthalmolC245:86-101,C2023(99)あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264410910-1810/26/\100/頁/JCOPY

考える手術;乳頭ピット黄斑症候群の手術戦略

2026年4月30日 木曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅乳頭ピット黄斑症候群の手術戦略厚東隆志杏林大学医学部眼科学教室乳頭ピット黄斑症候群は,自然軽快する患者が一定数存在し,診断された時点ですぐに手術適応とするべきではない.視力良好例や自覚症状が軽度な場合には,OCT所見と視機能を中心に経過観察を行い,少なくとも半年程度慎重なフォローアップを要する.増悪傾向が明らか,あるいは視力低下や変視など視機能の低下があって初めて手術を検討するという姿勢が求められる.手術の基本方針は,後部硝子体.離(PVD)の作製による硝子体牽引の解除である.本疾患の病態には乳頭縁に付着した後部硝子体皮質の関与が大きく,まずはその牽引を解除することで,網膜内・網膜下の液体動態が徐々に改善していく患者が多い.初回手術として内境界膜.離やガスタンポナーデをルーチンに併用する必要性はなく,最小限の介入で病態の変化を見きわめる.一方で,すべてのケースでPVD作製のみで復位するわけではない.術前のOCTで網膜.離が乳頭ピット部と直接交通している症例や網膜下液が主体では,非復位例が多い.また,視機能障害の出現と同時期の頭痛は,圧動態の関与を示唆する所見として注意を要する.これらの患者では,ピット部への液体流入経路そのものに介入する必要が生じる.非復位例や難治例に対しては,乳頭上膜や内境界膜を用いたplug手技など,ピットを物理的に遮断する方法が選択肢となる.さらに,plug手技でも十分な閉鎖が得られない場合は,視野欠損のリスクを理解したうえで乳頭周囲レーザーを検討する.本疾患の治療において重要なのは,特定の手技に固執することではなく,自然経過を重視しながら,病態に応じて介入の強度を段階的に高めていく戦略的な判断である.聞き手:乳頭ピット黄斑症候群は自然経過で軽快すること分離や網膜.離は必ずしも進行性ではなく,自然経過でもある疾患ですが,どのようなタイミングで手術を考えれば軽快する患者が一定数存在します.そのため,診断されいいですか?た時点ですぐに手術を考えるのではなく,視力が保たれ厚東:乳頭ピット自体は先天異常ですが,黄斑部の網膜ている場合や自覚症状が軽度な場合には,まずは経過観(97)あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264390910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術察を行います.具体的には,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見と視機能を中心に,少なくとも半年程度は慎重にフォローします.その過程で網膜分離や網膜.離が増悪する傾向を示す場合や,視力低下,変視など,視機能に明らかな影響が出てきた場合に手術を検討します.重要なのは,やみくもに手術にふみきるのではなく,この疾患が本来もつ自然経過の幅を理解したうえで,手術が必要な患者を見きわめることだと考えています.聞き手:手術を行う場合は,どのような術式を基本としていますか?厚東:基本術式は,硝子体手術による後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)の作製です(動画①).特別な追加手技を行う前に,まずは乳頭縁にかかっている後部硝子体皮質の牽引を解除することをもっとも重視しています.乳頭ピット黄斑症候群では,乳頭ピットそのものよりも,硝子体牽引が病態形成に大きく関与している場合が多く,まずはその牽引を解除することで,時間をかけて網膜が復位していくことを経験しています.そのため,初回手術では内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離やガスタンポナーデをルーチンに併用するのではなく,PVDを確実に作製することを基本としています.聞き手:ILM.離やガスタンポナーデを併用せず,まずはPVD作製のみでよいと考える理由を教えてください.厚東:乳頭ピット黄斑症候群では,液体がどこから来て,なぜそこに貯留するのかを考えることが重要です.多くの患者では,乳頭ピットが存在していても,硝子体牽引が加わらなければ病変は進行しません.PVDを作製することで,乳頭縁にかかっていた牽引力が解除され,網膜に加わる力学的環境が変化します.その結果,網膜内や網膜下に貯留していた液体が新たに供給されにくくなり,時間をかけて自然吸収に向かうと考えています.このように,病態を生じさせていた条件を取り除くという考え方から,初回手術としてはPVD作製のみで十分な場合が多いと考えています.聞き手:PVD作製後早期に網膜が復位しない場合は,どのようにしたらよいでしょうか?厚東:本疾患の術後経過は特徴的で,短期間で形態学的改善が得られる患者はむしろ少ないです.術後も網膜分離や網膜.離がしばらく残存する患者は少なくなく,術後早期のOCT所見のみで手術の成否を判断すべきではないと考えています.多くの場合,まず網膜分離が改善し,その後に網膜下液が徐々に吸収されていきます.この過程には半年から1年以上を要することもあり,術後は焦らず経過を見守ることが重要です.聞き手:PVD作製のみでは復位が得られにくい患者には,特徴がありますか?厚東:術前OCTで網膜.離が乳頭ピット部と直接交通しているようにみえる場合は,PVD作製のみでは病態が収束しにくいという印象をもっています.網膜分離が乏しく,網膜下液が主体の場合も注意が必要です.加えて,視力低下の出現と時期を同じくして頭痛を伴う場合は,圧動態の関与を示唆する所見として注意します.脳脊髄腔との交通を示唆する可能性はありますが,その時点で明確に証明することはむずかしく,あくまで術前に留意すべき一つのサインとして捉えています.聞き手:そのような非復位が予測される,あるいは初回手術で十分な改善が得られなかった場合は,どのような追加手技を考えますか?厚東:その場合は,乳頭ピット部への液体の流入経路そのものに介入することを考えます.基本的な考え方は,なんらかの方法でピットを物理的に遮断するという点にあります.乳頭上膜が確認できる場合は,それを用いてピット部をplugする方法を選択します(動画②)が,乳頭上膜が認められない場合にはinvertedILMflap法や遊離ILM片でplugする手技を用いることもあります.動画で示している手技は乳頭上膜を用いたplugですが,本質的には,適切な組織を用いてピット部を遮断するという考え方が重要だと思っています.聞き手:plug手技を行う際に注意すべき点があれば教えてください.厚東:plug手技は初回手術のルーチンとする必要はなく,段階的治療戦略の中で位置づけることが重要だと考えます.乳頭上膜が利用できれば比較的安定したplugが可能ですが,invertedILMflapはピットの大きさや位置関係から,うまくピットを覆えるとは限りません.遊離flapを用いるなど複数の選択肢を頭に置いて,臨機応変に術式を選択するとよいでしょう.また,plug手技でも十分な閉鎖が得られない難治例では,視野欠損のリスクを理解したうえで乳頭周囲レーザーを検討することもあります.どの手技も万能ではなく,侵襲と得られる効果のバランスを考えながら,病態に応じて段階的に治療を進めていくことが大切だと思います.440あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(98)

抗VEGF治療セミナー:抗VEGF薬の半減期と緑内障点眼薬

2026年4月30日 木曜日

●連載◯166監修=安川力五味文146抗VEGF薬の半減期と緑内障点眼薬伊野田悟自治医科大学眼科学講座抗CVEGF薬はC2000年代に登場以降,種々の網膜疾患治療に不可欠な存在となった.現在までに抗CVEGF薬作用の延長を目的に,抗体製剤の分子量・電荷の調整,Ang-2阻害併用,PEG修飾などの薬剤開発研究が行われている.本稿では身近な緑内障薬の点眼で抗CVEGF薬眼内半減期が延長する可能性を紹介する.はじめに抗CVEGF薬は,新生血管型加齢黄斑変性(neovascu-larCage-relaterCmaculardegenetation:nAMD),糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫をはじめとした網膜疾患において,その有効性の高さから既存治療と置き換わった.2009年にラニビズマブ(ルセンティス),2012年にアフリベルセプト(アイリーア),2020年にブロルシズマブ(ベオビュ),2022年にファリシマブ(バビースモ)と,改良が重ねられた薬剤が発売されてきた.改良のおもなポイントは,より良い有効性と安全性であり,近年は有効性の中でもその作用時間と長期予後に注目が集まっている.筆者の私見であるが,アフリベルトC2Cmgにおいて抗CVEGF薬としての浮腫の抑制作用はすでに十分であり,今後の新規薬剤には,低分子量・高い溶解性によるCVEGFの抑制作用や,Ang-2を抑制するなどのさらなる「付加価値」が求められる.現在も新規作用機序や薬剤の改良が行われているが,未だどの薬剤においても患者によってはC1,2カ月ごとの眼内注射が必要であり,薬剤の効果持続期間にみられる顕著な個人差の要因については,現時点では解明されていない.眼内に注入された抗CVEGF薬は代謝・分解されない.抗CVEGF薬の硝子体内注射後の正確な薬物動態は解明されていないが,少なくとも一部は房水と同様に,受動的に眼内循環によって硝子体腔から全身循環へ排出されると考えられている1).房水の循環はCSchlemm管を介して全身循環へと排泄・再吸収される.緑内障点眼薬は房水循環に作用することで眼圧を下げる.炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitors:CAI),β遮断薬,α2作動薬は,房水産生を抑制して眼圧を下げ,プロスタグランジン関連薬(prostaglandinCanalogues:PGA),Rhoキナーゼ阻害薬,α2作動薬は房水流出抵抗を低下させる.筆者らは,この緑内障点眼薬による房水循環への作用(95)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYによって,投与後の抗CVEGF薬の眼外への排出が遅延し半減期が延長する仮説を立て,後ろ向きに検討を行った(図1)2).生理的な状態では房水が産生され,その流れに従い受動的に抗VEGF薬は眼外へ排出される房水の流れ抗VEGF薬房水産生抑制点眼薬併用により,房水の流れが滞り,抗VEGF薬の眼外へ排出は抑制される図1緑内障点眼薬による注射後の抗VEGF薬への影響仮説試験の概要nAMDに対する初回アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)1カ月後の房水中アフリベルセプト濃度について,緑内障点眼薬併用の影響を検討することを目的とした.2013年C7月~2020年C11月に自治医科大学および東京新宿メディカルセンターにおいて,nAMD治療のために初回CIVAを受け,かつ緑内障治療のため点眼薬を使用している患者C17眼C17人を対象とした.コントロール群として,同時期に初回IVAを受け,かつ房水循環に影響を及ぼす薬剤を使用していないCnAMD患者C40眼C40人を年齢・性別・眼軸長でマッチングさせた.IVAのC1カ月後に房水を採取し,Kruskal-Wallis検定およびCDunn検定で群間比較をあたらしい眼科Vol.43,No.4,2026437アフリベルセプト(μg/ml)302520151050コントロール緑内障点眼使用群図2前房水中アフリベルセプト濃度比較行った.対象群の点眼薬は,作用機序に応じて房水流出促進薬(PGA,Rhoキナーゼ阻害薬など)と房水産生抑制薬(CAI,β遮断薬,α2作動薬など)に分類し,解析を行った.その結果,各群の房水中アフリベルセプト濃度の中央値(四分位範囲)は,コントロール群C6.83Cμg/ml(1.94~10.34),房水流出促進薬使用群C9.93μg/ml(2.58~17.44),房水産生抑制薬使用群C15.95Cμg/ml(7.20~22.57)であった(図2).Kruskal-Wallis検定により,三群間で統計的に有意差を認め(p=0.0075),房水産生抑制薬使用群はコントロール群および房水流出促進薬使用群と比較して有意に高いアフリベルセプト濃度が示された(それぞれCp=0.0085およびCp=0.044,Dunn検定).半減期の延長効果アフリベルセプトは眼内に投与後,徐々に眼外へ排出される.眼内での生理活性はC79~87日程度維持される3).筆者らはC84日後に生理活性が失われると仮定し,房水産生抑制点眼薬併用による半減期延長効果を右の式にて予測した.28日後の前房水中アフリベルセプト濃度の違いから,房水産生抑制点眼薬を併用することでアフリベルセプトの眼内での生理活性濃度を維持できる期間はC84日からC142日~167日程度に延長する結果となり,C2~3カ月程度の延長効果が期待できる可能性が示唆された.結果の解釈と今後の展望房水循環によって硝子体内に投与した薬剤の延長が期C438あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026待できるのであれば,世界的にも安全性が確立した緑内障点眼薬のさらなる活用が期待できる.本研究ではnAMDを対象としたが,硝子体内注射を必要とする複数の疾患への応用も考えられるだろう.糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,近視性脈絡膜新生血管などへの抗CVEGF薬との併用が期待できる.また,本検討2)では示していないが,筆者らはCXCL-1やTNF-αといったサイトカインについても解析を行っており,本検討と同様の有意差を認めた.これは,房水循環の違いが,眼内生理活性物質動態へ影響を与えうる可能性を示している.すなわち,房水循環の排出抵抗が高いなどすると,サイトカインが貯留しやすくなる可能性である.今後の研究によって,房水循環に影響のある排出経路の個人差が,緑内障以外の眼疾患の発症リスクと関連している可能性も示されるかもしれない.今回はCnAMD患者のうち緑内障併発患者に限定しての後ろ向き検討であり,症例数も少ない.房水循環は緑内障の有無で異なる可能性もあり,さらなる検討が望まれる.重要なことだが,抗CVEGF薬延長を目的として緑内障点眼薬を処方してはならない(適用外使用となる).緑内障点眼薬が必要な抗CVEGF加療中の患者における点眼薬選択の参考程度に役立てていただければと思う.文献1)Garcia-QuintanillaCL,CLuaces-RodriguezCA,CGil-MartinezCMCetal:PharmacokineticsCofCintravitrealCanti-VEGFCdrugsinage-relatedmaculardegeneration.Pharmaceutics11:365,C2019C2)InodaS,TakahashiH,TakahashiRetal:Effectofcombi-nationuseofaqueoushumorsecretioninhibitoreyedropsonCa.iberceptlevel:ACpreliminaryCanalysis.CTranslCVisCSciTechnolC14:21,C2025C3)StewartCMW,CRosenfeldPJ:PredictedCbiologicalCactivityCofCintravitrealCVEGFCtrap.CBrCJCOphthalmolC92:667-668,C2008(96)

緑内障セミナー:緑内障と眼瞼下垂

2026年4月30日 木曜日

●連載◯306監修=福地健郎中野匡306.緑内障と眼瞼下垂柚木達也富山大学医学部眼科学教室緑内障と眼瞼下垂の合併は比較的多く,とくに長期の点眼治療や緑内障手術が発症の契機となることがある.眼瞼下垂は上方の視野異常や眼圧測定値の変動を招き,緑内障の正確な評価や管理をむずかしくする要因となる.本稿では両者の関連性を整理し,臨床で留意すべきポイントについて述べる.●はじめに緑内障と眼瞼下垂はいずれも中高年に多くみられ,両者の合併も少なくない.緑内障患者では長期にわたる点眼治療や手術が眼瞼下垂の一因となることがあり,とくにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬によるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandin-associatedperiorbitopathy:PAP)は,眼瞼形態の変化や下垂を誘発することが知られている.眼瞼下垂は視野検査や眼圧測定の精度に影響し,緑内障の正確な評価を妨げる可能性があるほか,角膜形状にも変化を及ぼすことが報告されている.本稿では,緑内障と眼瞼下垂の関連性,診療への影響,そして臨床対応の要点について概説する.C●緑内障手術と眼瞼下垂の発生緑内障手術後には比較的高頻度に眼瞼下垂が発生することが知られている.濾過手術後の眼瞼下垂の原因としては,手術侵襲や開瞼器による眼瞼挙筋腱膜の離開,上眼瞼および結膜の慢性的な炎症の持続などがあげられる1).術後眼瞼下垂の発生率はC15%前後と報告されており,白内障手術や硝子体手術後よりも高い傾向にある2,3).さらに,BaerveldtやCAhmedなどのCglaucomaCdrainagedevice(GDD)留置後には,さらに高率に眼瞼下垂が生じるとされ,濾過手術以上のリスクを伴う可能性がある4).このように,緑内障手術は眼瞼下垂発症のリスクが比較的高い手術であることを十分に理解し,術後には眼瞼の形態変化や開瞼機能の評価を継続的に行うことが重要である.C●緑内障患者における眼瞼下垂の影響瞳孔から上眼瞼までの距離であるCmarginre.exdis-(93)tance(MRD)-1がC2.5mm以下になるとCQOLの低下や上方視野異常が生じるといわれており,緑内障視野異常の評価がむずかしくなる.実際,眼瞼下垂術後には上方視野の改善が報告されており,上方視野悪化時には眼瞼下垂の進行を考慮することが重要である5).また,濾過手術眼における眼瞼下垂手術は,術操作による濾過胞への影響が懸念されるが,近年の報告では濾過胞の形態や眼圧に大きな影響を与えず,安全に施行可能とされている6)(図1).緑内障の正確な視野評価と視機能維持のためには,眼瞼下垂の適切な診断と手術が重要である.C●PG関連薬の副作用と眼瞼下垂の関連PG関連薬の長期点眼により生じるCPAPは,眼瞼・眼窩周囲の形態変化を特徴とする.おもな所見は,眼瞼の色素沈着,睫毛の伸長・乱生,上眼瞼溝陥凹(deepen-ingoftheuppereyelidsulcus:DUES),眼瞼下垂,皮膚硬化などである(図2).これらは整容的問題にとどまらず,皮膚の硬化により内眼手術が困難となる,アプラネーションによる眼圧測定が不正確になる,さらに濾過手術の成績不良を招くなど,臨床的影響も大きい7).PAPの発症機序は眼窩脂肪の萎縮や挙筋腱膜の菲薄化などが関与するとされ,ビマトプロストやトラボプロストでリスクが高い8).したがって,PG関連薬使用患者では眼瞼下垂を生じるリスクが高いことを念頭に置くべきである.C●PAPの視機能への影響PAPを伴う眼瞼下垂では,眼瞼圧の上昇により角膜形状が変化し,高次収差や正乱視・不正乱視の悪化を通じて視機能低下を招くことが報告されている9,10).PAPは薬剤選択により回避可能な副作用であり,視機能を保つためには重症化例でのCPG関連薬の中止・切替えが重要あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264350910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1緑内障術後濾過胞を伴った症例(78歳,女性)a:眼瞼下垂手術前.Cb:術前の左眼にみられる.濾過胞がみられる.c:術後C6カ月,MRD-1の改善を認める.Cd:術後C6カ月,左眼.濾過胞の縮小や濾過関連合併症は認められない.bd図3上眼瞼溝陥凹を伴う症例(72歳,女性)a:術前.Cb:前眼部COCTによる術前の角膜形状.Cc:術後C3カ月.MRD-1は改善し,上眼瞼溝の陥凹は軽減している.Cd:前眼部OCTによる術後C3カ月の角膜形状.角膜乱視はC.2.3DからC.1.4Dへ減少している.(文献C9より改変引用)である.また,眼瞼下垂手術により眼瞼圧が改善すると角膜が平坦化し,これらの収差や乱視が改善して視機能向上が期待される(図3)9).一方で,PAP眼では薬剤の影響や涙液環境などオキュラーサーフェス異常の関与が疑われ,病態は複合的である.今後,PAP眼における視機能への影響についてさらなる研究が望まれる.C●おわりに緑内障患者は眼瞼下垂の合併が多く,視野異常や乱視成分が悪化することがある.また,PAPの重症化は濾過手術成績の不良や不正乱視の原因となるが,濾過胞眼であったとしても眼瞼下垂手術は比較的安全に施行可能図2PAPを伴った症例(79歳,女性)眼瞼の色素沈着,上眼瞼溝陥凹,眼瞼下垂などがみられる.であり,視機能改善のため積極的な対応が望まれる.文献1)TanCP,CMalhotraR:OculoplasticCconsiderationsCinCpatientsCwithCglaucoma.CSurvCOphthalmolC61:718-725,C20162)Naruo-TsuchisakaA,MaruyamaK,ArimotoGetal:Inci-denceCofCpostoperativeCptosisCfollowingCtrabeculectomyCwithmitomycinC.JGlaucomaC24:417-420,C20153)FukushimaCM,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:AssociationCofCdeepeningoftheuppereyelidsulcuswiththeincidenceofblepharoptosisCafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CSeminCOphthalmolC35:348-351,C20204)AkaiCR,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:IncidenceCofCblepha-roptosisafterparsplanaBaerveldt350glaucomaimplantsurgeryCbyCaCsingleCsurgeon.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC39:357-360,C20235)TaniguchiCA,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:VisualC.eldCchangesCinCglaucomaCpatientsCafterCblepharoptosisCsur-gery.EurJOphthalmolC32:3353-3357,C20226)YunokiCT,CTojoCN,COiwakeCTCetal:GlaucomaC.lteringCblebCanalysisCbeforeCandCafterCaponeuroticCblepharoptosisCsurgery.OphthalmicPlastReconstrSurgC36:45-48,C20207)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:Effectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsontheoutcomeoftrabeculectomy.PLoSOneC12:e0181550,C20178)InoueCK,CShiokawaCM,CWakakuraCMCetal:DeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcusCcausedCbyC5CtypesCofCprostaglan-dinanalogs.JCGlaucomaC22:626-631,C20139)NumataA,YunokiT,OtsukaMetal:Cornealtopograph-icCchangesCafterCblepharoptosisCsurgeryCinCpatientsCwithCdeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcus.CJpnCJCOphthalmolC65:282-287,C202110)YunokiCT,CUozumiCY,CTojoCNCetal:CornealCFourierChar-monicanalysisinprostaglandin-associatedperiorbitopathypatientsCwithCblepharoptosis.CJpnCJCOphthalmolC69:360-364,C2025C436あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(94)

屈折矯正手術セミナー:レーザー屈折矯正術後眼の鑑別方法

2026年4月30日 木曜日

●連載◯311監修=稗田牧神谷和孝311.レーザー屈折矯正術後眼の鑑別方法小島隆司名古屋アイクリニックレーシックを中心とするレーザー屈折矯正手術はC2000年代後半に日本で急速に普及したことから,今後,白内障手術の適応年齢に達する患者が増えることが予測される.術後眼では角膜形状の変化により,通常の眼内レンズ度数計算式を用いると術後遠視ずれを生じやすいため,適切な鑑別は患者満足度の維持に不可欠である.鑑別には細隙灯顕微鏡によるフラップエッジの観察,角膜トポグラフィーを用いた角膜前面形状の評価,前眼部光干渉断層計による角膜厚や角膜前後面比の解析が重要である.また最近,眼軸長測定装置に搭載された自動判定アルゴリズムも有用である.これらの所見を組み合わせることで,レーザー屈折矯正術後眼の鑑別精度は向上し,眼内レンズ度数計算の最適化に寄与すると考えられる.●なぜ鑑別が必要か現在,レーシック後の白内障手術で問題となるのは術後予測屈折誤差である.レーシックを受けた患者は裸眼で過ごしたいという欲求が強く,予測屈折誤差が大きくなることは,それだけ患者満足度が低下することにつながる.レーシック後眼に対して,正常眼に対するのと同じ眼内レンズ度数計算式を用いると,術後は遠視ずれを起こす.これは中心角膜屈折力の推計誤差,角膜前後面比の異常によると考えらている.しかし,レーシック後眼向けに作成された計算式を用いれば,予測の±0.5D以内にC70~80%が,±1D以内にC90%以上が入るとされる1).したがって,術前にレーザー屈折矯正術後眼であるかどうかを確実に鑑別することはきわめて重要である.C●鑑別の方法まず,平均角膜屈折力がC42D以下などの角膜がフラットでレーシック後眼が疑われる患者では,細隙灯顕微鏡にてフラップのエッジを確認することが重要である.疑わしい患者では倍率をできるだけ上げて角膜周辺部を観察することが重要である.角膜トポグラフィーがあると,多くは鑑別可能である.図1に正常眼との比較を示す.正常眼では角膜中心部ほどスティープであり,周辺部ほどフラットである.矯正量が少ないレーシック後眼ではこれがわかりづらい場合もある.その場合はマップの表示をCinstantaneousmapにすると,周辺部の矯正されていない部分と矯正された部分の境目が明瞭になってわかりやすい.前眼部光干渉断層計があると,角膜後面および角膜厚の情報が加わるため,鑑別はさらに容易である.以下の点をチェックするとよい.典型的な症例を図2に示す.①角膜トポグラフィー同様,角膜前面形状がCoblate形状(角膜中心部ほどフラットで周辺ほどスティープ).正常眼はこの逆でCprolate形状(中心部がよりスティープで,周辺部はフラット).②角膜の菲薄化.眼の術前の角膜厚にもよるが,多くはC500μm以下であることが多い.③低い角膜前面の屈折力④角膜前後面比が高くなる.角膜前後面比の正常眼の平均値はC1.19と報告されており2),レーザー角膜屈折矯正手術後は角膜前面の曲率半径が後面に比して大きくなる.C●トピックス:眼軸長測定装置に付随したレーシック後眼の鑑別システム最近アップデートした眼軸長測定器機COA-2000Comfort(トーメーコーポレーション)は,付随する角膜トポグラフィー機能を用いて,特殊な眼内レンズ度数計算式が必要なCLVC後眼と円錐角膜のリスク評価が可能になっている(図3).LVC後眼の判定アルゴリズムには角膜離心率とCFourier解析による非対称成分が用いられている.感度はC93.3%,特異度はC87.5%であり,臨床では十分有用であることが示されている3).(91)あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264330910-1810/26/\100/頁/JCOPYAxialmapInstantaneousmap図1正常眼とレーシック眼の角膜トポグラフィー所見TMS-4N(トーメーコーポレーション)の画面.Axialmapでは,スケールをノーマライズドにすると角膜中心部フラット,周辺部スティープのCoblate形状がわかりやすい.さらにCinstantaneousmapで表示すると,屈折矯正を行った領域としていない領域の違いがはっきりして,レーザー屈折矯正手術後かどうかが一目瞭然である.文献1)GettingerK,MasuiS,OmotoMetal:Accuracyofrecentintraocularlenspowercalculationmethodsinpost-myopicLASIKeyes.SciRepC14:26560,C20242)HasegawaCA,CKojimaCT,CYamamotoCMCetal:ImpactCofCtheCanterior-posteriorCcornealCradiusCratioConCintraocularC434あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026図2前眼部光干渉断層計におけるレーシック術後眼の特徴CASIA2(トーメーコーポレーション)使用.図3光学式眼軸長測定装置搭載のLVCリスク評価システムOA-2000comfort(トーメーコーポレーション)の画面.この症例はCLVC後眼である確率が高いことが示されている.lenspowercalculationerrors.ClinOphthalmolC12:1549-1558,C20183)NishidaT,KojimaT,IsogaiNetal:Discriminantpredic-tionCequationCusingCanCopticalCbiometerCforCidentifyingCpostmyopiclaservisioncorrectioneyes.JCataractRefractSurgC50:1151-1156,C2024(92)