提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一57.光(波長)と眼●はじめに太陽から発せられる電磁波のうち,人間の眼に見える光のスペクトル(可視光線)を捉えることで,われわれの視覚は外界を捉えている.可視光線はおよそC380~780Cnmであり,この領域の光は角膜や水晶体を通過・屈折して網膜に到達することができる.コンタクトレンズは光という波動をコントロールし,網膜(中心窩)に焦点を結ばせる光学技術である.われわれがモノを見るということは,“光を捉えている”ということにほかならない.日常生活において光を捉えるためには,太陽光だけでなく,蛍光灯・LED照明器具や,タブレットなどの電子デバイスからの光など,生活シーンに応じてさまざまな光を捉えることが求められる.コンタクトレンズ処方に,光をマネージメントする視点を加えることで,患者にとってより質と満足度の高い屈折矯正につながると考える.C●光と眼の保護光から眼を保護するために,可視光線だけでなく,隣接して短い波長側にある紫外線(UV-A,UV-B)への対策が必要である.太陽放射の電磁波である光は,波長が短くなるほどエネルギーは大きくなる.可視光より波長の短い紫外線に対しては眼を保護する観点で対策が必要である.屋外で作業する際に,適切な着衣(帽子を含む)と日焼け止めが皮膚の損傷を減らす効果があるのと同様に,紫外線(UV-A,UV-B)をカットするコンタクトレンズには眼の損傷を防ぐ効果が期待できる.近年,可視光線のなかで波長がもっとも短いブルーライト(380~500Cnm)による視機能への影響も懸念されており,コンピューターやスマートフォンなどを長時間直視する際には,ブルーライトカット眼鏡の装用,液晶画面へのブルーライトカットフィルムの貼付などが有効である.しかしながら,ブルーライトは朝など覚醒時に浴びることで体内リズムを整える重要な役割もあり,夜間にタブレットやスマートフォンなどCICT(informationCandCcommunicationtechnology)機器を操作する場合(夜間はCVDT作業を行わないことが理想)など,生活シーンに応じて対策をとることが望ましい.(67)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY半田知也北里大学医療衛生学部視覚機能療法学光源(分光分布)物体(分光反射率)図1物(色)を見るための光源,物体,観察者の眼の関係●波長制御によるQOVの向上われわれが日常,眼で物体を見る際には,光源から放射された光が物体を照らし,照らされた物体から反射光が観察者の眼に入射し,物体の色・形を認識することになる.したがって,視覚の質(qualityofvision:QOV)を考える際には,「光源」と「物体」「眼」の三者の特性を考慮する必要がある(図1).「光源」と「物体」の特性を考えるうえで,照明による波長制御を考える必要がある.近年,照明光源は従来の白熱電球や蛍光灯からCLED照明へ変化し,さまざまな波長特性を持ったCLED照明が開発されている.加齢に伴う水晶体の黄変1)により,色覚(色弁別)の低下を起こし,短波長の少ない室内での見えにくさ,コントラスト低下など日常生活に支障をきたす場合が想定される.これを補完する技術として,LED照明の波長制御とレンズによる波長制御が実用可能である.加齢による色覚の低下の場合,青色光など短波長が知覚しにくくなるが,通常の昼白色照明の色温度C5,000CK(ケルビン)から,色温度C6,200CKの照明光に変えることでコントラストが向上して,物がよく見えるようになることが報告されている2)(図2).照明光は物体固有の分光反射率で反射され,物体表面からの反射光は照明光の条件によって変化するため,QOVを考えるうえで光源(照明)による波長制御は注目していく必要がある.従来,「眼」の特性からの対応として,遮光眼鏡がグあたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C905図2波長制御によるコントラスト向上効果色温度の異なるデスクライト(LD521-S,パナソニック)にて照明された新聞紙面の見え方を示す.左右のデスクライトの照度はともにC500Clxである.左図の照明の色温度はC5,000CK(ケルビン),右図の照明の色温度はC6,200CKである.レアの軽減,コントラストの改善,暗順応の補助を目的としてロービジョン患者を中心に使用されている3).遮光眼鏡は短波長領域の青色光をカットする機能を有し,羞明の軽減を主目的として装用されている.一方,羞明を軽減させるだけでなく,紙面の文字コントラスト向上,鮮明な色知覚を得ることを目的としたC580Cnmの選択的波長カットレンズ(NeoContrast,三井化学)も市販され,とくに高齢者は,羞明感を感じやすいC550~610nm付近の黄色光をカットすることで,明らかなCQOVの向上を自覚できる可能性が考えられる.今後,生活シーンに応じたレンズによる波長制御によりCQOVの影響について検討していく必要がある.C●おわりにわれわれ人間の視覚システムは照明光の変化に左右されず,同一物体を同じ色として知覚することができる.この現象は色の恒常性として知られた現象であり,この現象ゆえに加齢に伴う色覚変化を自覚しにくい現状がある.しかしながら,「光源」「物体」「眼」の三者の特性に図3選択的波長カットレンズ580Cnmの波長を選択的にカットしたレンズ(NeoContrast,三井化学)による見え方のイメージを示す.レンズを通してみることでコントラスト(とくに白と黒のコントラスト)および色の鮮明さが向上して知覚される.より,色の見え方,文字の見え方,羞明など,見え方の質は変化する.今後,コンタクトレンズ矯正においても,生活シーンに応じて眩しさから眼を守る調光機能,明るさとコントラストを向上させる波長制御機能など,“光を捉え,光のノイズを和らげる視点”を有するコンタクトレンズの開発が望まれる.文献1)TanitoCM,COkunoCT,CIshibaCYCetal:TransmissionCspec-trumCandCretinalCblue-lightCirradianceCvaluesCofuntintedCandCyellow-tintedCintraocularClenses,CJCCataractCRefractCSurg36:299-307,C20102)MatsubayashiY,MukaiK,HandaT:E.ectsoflightcolorofCilluminationCandCilluminanceConCvisualCperformanceCwhenusingmattePaperandInk.IESNA2013conferenceproceedings,20133)清水朋美:遮光眼鏡.新しいロービジョンケア(山本修一,加藤聡,新井三樹監修),p50-55,メジカルビュー社,C2018CPAS119