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基礎研究コラム 22.先天性網膜変性と視覚の可塑性

2019年3月31日 日曜日

先天性網膜変性と視覚の可塑性Leber先天盲遺伝子治療と視力の回復2008年以降,欧米を中心に,先天的に重度の視覚障害をもつCLeber先天盲の患者を対象とした遺伝子治療臨床試験の結果が複数報告されています1).これらの臨床試験では,4歳以上の幼児から若年成人を対象に,アデノ随伴ウィルスを用いて,病的な遺伝子に対して正常遺伝子コピーを網膜細胞に遺伝子導入する治療が行われました.治療により,網膜感度が上昇し,暗所歩行が改善することが報告されました.一方で,視力に関しては,はっきりとした改善効果が得られませんでした.これに対して,同じく先天性の視覚障害をきたす先天性白内障に対する手術は,生後,再建可能な視力が次第に低下することが知られています2).このことは,良好な視力再建が可能な「感受性期」が幼少期に存在し,それを超えると視覚の可塑性が失われることを示唆しています.しかし,希少疾患であるCLeber先天盲の臨床試験は少人数で行われたため,治療の時期と視力回復の関連性(つまり,視覚の可塑性)を明らかにすることは容易ではありません.先天性網膜変性マウスにおける遺伝子治療時期と視力の回復の関係そこで筆者らは,「先天的に低視力の網膜変性マウスでは,網膜機能再建時期の遅れにより,回復可能な視力が低下する」と仮説を設定し,検証実験を行いました(図1)3).先天的に杆体視機能と錐体視機能の両方を欠損した全盲マウスに対して遺伝子治療を行い,杆体視細胞の視覚再建時期と回復した視力の関係を検討しました.その結果,想定どおり,治療時期(生後C1カ月,3カ月,9カ月)によって,回復可能な網膜機能は変わりませんでした.しかし驚くべきことに,治療が遅れても,大脳視覚野レベルでも回復可能な視力は変わらないことがパターン視覚誘発電位(visualevokedpoten-図1先天性網膜変性マウスにおける遺伝子治療時期と視力の回復の関係の研究の概要杆体機能欠損マウス(Gnat1欠損マウス)と錐体機能欠損マウス(Pde6c欠損マウス)を交配し,杆体錐体機能欠損マウス(Gnat1/Pde6c両欠損マウス)を作製した.さまざまな月齢のCGnat1/Pde6c両欠損マウスに対して,Gnat1遺伝子治療で杆体機能を再建後,網膜電図(ERG),VEP,Coptokineticresponse(OKR),Arc発現解析,網膜組織学的解析を行うことにより,治療時期と再建可能な視覚の関係を検討した.(文献C3より引用)CERG/VEP西口康二東北大学大学院医学系研究科視覚先端医療学寄付講座tials:VEP)の測定により明らかになりました.しかも,成体マウスでもコントロールマウスと同等なレベルの視力回復が可能でした.さらに,大脳視覚野の可塑性に強く関連する因子CArcの転写プロフィールを調べたところ,転写が低下する正常成体マウスとは異なり,成体全盲マウスでは転写がむしろ更新していました.これらは,成体の先天性網膜変性マウスの杆体系視覚においては,視覚の可塑性は維持され,治療時期にかかわらず良好な視力回復が可能であることを示すものです.臨床へのフィードバックと今後の展開この研究の結果,少なくとも視路が比較的シンプルな杆体系視覚においては,成人でも視力回復の可能性があることが示唆されました.しかし,ヒトで視力の回復を規定するのは,実際はより複雑な神経回路を有する錐体系視路です.よって,杆体系視力回復により大きな恩恵を受ける患者は多くないと予測されます.また,本研究の杆体系視覚の解析結果により,Leber先天盲に対する臨床試験での不十分な視力回復の理由を説明することはできません.今後,錐体系視覚の再建時期と回復視力の関係をマウスで検討することが重要です.文献1)JacobsonCSG,CCideciyanCAV,CAguirreCGDCetal:Improve-mentCinvision:aCnewCgoalCforCtreatmentCofChereditaryCretinaldegenerations.ExpertOpinOrphanDrugsC3:563-575,C20152)BirchCEE,CChengCC,CStagerCDRCetal:TheCcriticalCperiodCforCsurgicalCtreatmentCofCdenseCcongenitalCbilateralCcata-racts.JAAPOSC13:67-71,C20093)NishiguchiCKM,CFujitaCK,CTokashikiCNCetal:RetainedCplasticityandsubstantialrecoveryofrod-mediatedvisualacuityatthevisualcortexinblindadultmicewithretinaldystrophy.MolTherC26:2397-2406,C2018対象:Gnat1・Pde6c両欠陥マウス(生後1カ月,3カ月,9カ月)Gnat1補充AAVベクター投与視機能解析組織学的解析OKRArc発現解析網膜組織染色(79)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3810910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 190.液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルの相互作用(中級編)

2019年3月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載190190液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルの相互作用(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに液体パーフルオロカーボン(liquidCper.uorocarbon:LPFC)は高比重,高界面張力,低粘稠度,疎水性の液体で,巨大裂孔網膜.離をはじめ硝子体手術の有用な補助材料として頻用されている.LPFC使用時の問題点としては,LPFCが糊のように周囲の網膜同士を接着させる,いわゆる“糊様作用”が報告されている1).これについては本シリーズでも記載したことがある2)が,シリコーンオイル(siliconeoil:SO)との相互作用でCSO抜去時に支障をきたすこともある.以前に筆者らは,このような術中トラブルを報告したことがある3).C●症例患者はC39歳,男性.下方弁状裂孔による胞状の網膜.離(図1)に対して硝子体手術を施行した.硝子体切除後にCLPFCで網膜を伸展し,眼内光凝固を施行した.さらに術後伏臥位保持が困難であることが予想されたため,LPFCとCSOを置換した.この際に,LPFCとCSOの間の人工房水が裂孔を介して網膜下に迷入し,裂孔周囲に限局性の網膜.離が生じた.SOを抜去して再度LPFCで網膜を伸展しようとしたところ,LPFCを介して網膜とCSOが癒着し,SOの抜去が困難となった(図2).硝子体カッターの吸引によりCSOのバブルは変形するものの,網膜との癒着は解離できなかった(図3).そこで,網膜とCSOの間に認められたCLPFCを抜去したところ,SOは容易に網膜から分離した.その後,再度LPFCで網膜を伸展し,LPFCとCSOを置換して網膜の復位を得た.C●LPFCとSOの相互作用筆者らの報告例から,LPFCは網膜だけでなくCSOとも癒着しやすい性質があるようである.LPFCとCSOを置換する際には,その間隙に灌流液が存在するので,相互の癒着が生じることはまれであると考えられるが,今回のようにCLPFCとCSOを再置換する際,間隙の灌流液(77)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1術前の眼底写真下方に胞状の網膜.離を認める.(文献C3から引用)図2術中所見(1)SOを抜去して再度LPFCで網膜を伸展しようとしたところ,LPFCを介して網膜と残りのCSOが癒着し,SOの抜去が困難となった.(文献C3から引用)図3術中所見(2)硝子体カッターの吸引によりCSOのバブルは変形するものの,網膜との癒着は解離できなかった.(文献C3から引用)を早く吸引しすぎると,LPFCとCSOの癒着が生じやすくなる可能性がある.このようなケースでCSOが抜去しにくいときには,まず網膜とCSOの間のCLPFCを抜去すべきと考えられる.文献1)CaponeAJr,AabergTM:Siliconeoilinvitreoretinalsur-gery.CurrOpinOphthalmolC6:33-37,C19952)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス液体パーフルオロカーボンの糊様作用(初級編).あたらしい眼科C33:1317,C20163)FukumotoM,NishidaY,KidaTetal:AcaseofsiliconeoilCadheredCtoCtheCretinalCsurfaceCviaCper.uorocarbonCliq-uid.BMCOphthalmolC18:82,C2018あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C379

眼瞼・結膜:春季カタルの病態

2019年3月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人海老原伸行48.春季カタルの病態順天堂大学医学部附属浦安病院眼科0.1%タクロリムス点眼液の登場により,単剤でも重症春季カタルの治療が可能になった.しかし,同点眼液と高力価ステロイド点眼液を併用しても治療に抵抗する症例も存在する.難治症例患者の巨大乳頭組織の遺伝子発現解析や動物実験により,難治症例では十分なCT細胞の活性化抑制ができていないことや,自然型アレルギー反応の関与が明らかになった.●はじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)患者の巨大乳頭組織(giantpapillae:GP)中に浸潤している免疫系細胞の動態からみえてくる春季カタルの病態を解説する(図1).C●好酸球(eosinophils)GPには著明な好酸球浸潤を認める.電子顕微鏡で観察すると,結膜上皮細胞間に迷入した好酸球,脱顆粒した好酸球(ghosteosinophils)(図2),好酸球細胞内顆粒のみの遊走などがみられる.好酸球細胞内顆粒に含まれるCmajorCbasicprotein(MBP)やCeosinophilCcationicprotein(ECP)などの強塩基性細胞障害性蛋白が角結膜上皮障害を起こす.C●肥満細胞(mastcells)GPには,粘膜型肥満細胞と結合織型肥満細胞の両方が著明に増加している.多くの肥満細胞は脱顆粒過程または脱顆粒後にある.脱顆粒の様式には,IgEを介する急性型脱顆粒とサブスタンスCPやCstemcellfactorを介する緩徐型脱顆粒がある.GPではこの二つの脱顆粒形式が共存している1).脱顆粒により放出されるヒスタミン,トリプターゼ,キマーゼ,TNF-aと,脱顆粒後産生される各種サイトカイン,ロイコトリエン,プロスタグランジンが春季カタルの病態形成に関与する.C●樹状細胞(dendriticcells:DC)GPにはCDCが多数浸潤している.そのCDCの多くに高親和性CIgE受容体(FcCeRI)の発現を認める2)(図3).CFceRI受容体陽性CDCは,IgEを介し抗原を効率的にCT細胞に提示し,T細胞の活性化を誘導する.C●好塩基球・好中球GP組織内には少数の好塩基球を認めるが,その働きは不明である.一方,好中球は重症症例や慢性化症例で認め,感染の関与が考えられる.C●T細胞GPには多くのCT細胞の浸潤を認める.T細胞の増殖・分化・サイトカイン産生を抑制するカルシニューリン阻害薬であるシクロスポリンやタクロリムスの点眼液が春季カタルに著効するので,春季カタル病態形成にもっとも中心的な役割を演じている細胞と思われる.0.1%タクロリムス点眼液と高力価ステロイド点眼液に抵抗する難治症例のCGPにおける遺伝子発現を次世代シークエンサーにて解析すると,T細胞の活性化抑制が不十分であ図1春季カタル,上眼瞼結膜の巨大乳頭図2巨大乳頭組織内のghost好酸球(脱顆粒している)(75)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3770910-1810/19/\100/頁/JCOPY図4巨大乳頭組織におけるテネイシンCの発現(赤い染色)×400図3巨大乳頭組織内のFceRI陽性樹状細胞ることがわかる3).以上からも,T細胞がCVKCの病態形成・治療標的としてもっとも重要であることがわかる.C●Innatelymphoidcells2(ILC2)ILC2は自然リンパ球の一つで,上皮細胞の産生するIL-33,TSLP,IL-25などに反応し,大量のCIL-13,IL-5を産生し,T細胞を介さない自然型アレルギー反応を始動させる.GPには多くのCILC2が存在している.また,GPの上皮層にはCIL-33,TSLPの発現が強く認められる.自然型アレルギー反応は獲得型アレルギー反応と異なり,免疫抑制薬やステロイドに抵抗性であり,難治性春季カタルの病態として重要である.C●異所性誘導性結膜リンパ装置VKC患者の涙液中には多量のCIgEが含まれている3).一方,血液中のCIgEは正常値であることが多い.この涙液中と血液中のCIgE値の乖離は,GPに異所性に誘導された結膜リンパ装置(inducibleCectopicCconjunctiva-associatedlymphoidtissue:IECALT)でCIgEが産生され,涙液中に放出されているためである.実際にCGPにはCIgEを産生しているCB細胞や形質細胞が多数浸潤している4).その産生メカニズムは不明だが,濾胞性ヘルパーCT細胞,病原性記憶CTh2細胞などの関与が想定されている.C●細胞外基質VKCの病態形成にもっとも重要な細胞外基質は,ペリオスチン(periostin)とテネイシン(tenascin)(図4)である.ペリオスチンとテネイシンは強く結合し,強固な線維性組織を形成する.ペリオスチンはCVKCやアトピー性角結膜炎患者の涙液中に高濃度で認められ,涙液中バイオマーカーにもなる5).また,マウスアレルギー性結膜炎モデルにてペリオスチンをノックアウトすると,局所の好酸球浸潤が抑制される.ペリオスチンはアレルC378あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019ギー性炎症の結果だけではなく増悪に働いている6).C●おわりに病態から考えると,免疫抑制薬点眼液に抵抗する難治症例には,より強いCT細胞の活性化抑制やサイトカインやCIgEを標的とした抗体療法が考えられる.IL-4受容体Ca鎖に対するヒト型抗体でCIL-4とCIL-13の働きを抑制するデュピルマブや,IgEに対するヒト型抗体であるオマリズマブなどが効果的であったことが報告されている.(保険適用はない).将来,点眼投与可能な小型化抗体の開発が期待される.一方,デュピルマブには上強膜炎様の充血を惹起する報告もあり注意が必要である.また,自然型アレルギー反応や異所性に誘導された結膜リンパ装置を標的にした薬剤の開発も期待される.文献1)EbiharaCN,COkumuraCK,CNakayasuCKCetal:HighClevelCofCFceRI-bindableIgEinthetear.uidandincreaseIgE-sat-uratedcellsinthegiantpapillaeofvernalkeratoconjuncti-vitispatients.JpnJOphthalmol46:357-363,C20022)海老原伸行,渡部保男,村上晶:春季カタル巨大乳頭組織における肥満細胞特異顆粒の超微構造.日眼会雑C112:C581-589,C20083)MatsudaCA,CAsadaCY,CSuitaCNCetal:TranscriptomeCpro.lingofrefractoryatopickeratoconjunctivitisbyRNAsequencing.CJCAllergyCClinCImmunol2018CNovC22.pii:S0091-6749(18)31639-74)MatsudaA,EbiharaN,YokoiNetal:Lymphoidneogen-esisCinCtheCgiantCpapillaeCofCpatientsCwithCchronicCallergicCconjunctivitis.JAllergyClinImmunC126:1310,C20105)FujishimaCH,COkadaCN,CMatsumotoCKCetal:TheCuseful-nessCofCmeasuringCtearCperiostinCforCtheCdiagnosisCandCmanagementCofCocularCallergicCdiseases.CJCAllergyCClinCImmunolC138:459-467,C20166)AsadaCY,COkanoCM,CIshidaCWCetal:PeriostinCdeletionCsuppressesClate-phaseCresponseCinCmouseCexperimentalCallergicconjunctivitis.AllergolIntC2018CNov9.Cpii:S1323-8930(18)30144-8(76)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:難症例への私のこだわり

2019年3月31日 日曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二62.加齢黄斑変性:難症例への私のこだわり松宮亘神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科学分野現在の加齢黄斑変性診療において,抗CVEGF薬は必要不可欠となっている.しかし,今なお対応に苦慮する難症例や治療抵抗例は多く存在する.本稿では網膜色素上皮.離に着目したポリープ状脈絡膜血管症の治療選択について述べる.背景ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)を含めた滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療は,抗VEGF薬硝子体内注射がおもに選択されている.また近年,PCVに対する抗CVEGF薬硝子体内注射と光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)の併用療法の有効性も注目されている.一方で,漿液性網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)の存在や線維血管性CPEDなどは,抗CVEGF薬に対する治療反応不良因子として報告されている1).本稿ではCPEDの変化に着目したCPCVへの治療選択を取りあげ,治療抵抗例や難症例への対応について述べる.PCVに伴うPEDPEDはCBruch膜から網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)が.離して形成され,その空隙に含む性状により漿液性,出血性,線維血管性,drusenoidに分類される.PCVでは約半数に漿液性CPEDもしくは出血性CPED認め,実臨床でも経験することが多い.またとくに丈の高い漿液性CPEDや出血性CPEDは,その背景に疾患活動性の高いCPCV病変を有している可能性が示唆される.抗VEGF治療現在,抗CVEGF薬硝子体内注射は加齢黄斑変性治療における第一選択とされている.一方で,抗CVEGF薬を用いてもCPEDの完全消退を達成することは困難なこ上段:(左から)治療前のCOCT,FA(3分),IA(3分).中段:(左から)12カ月後(IVA7回)のOCT,FA(1分),IA(1分).下段:18カ月後(IVA+PDT追加後C6カ月)のOCT.図1アフリベルセプト治療抵抗性PCVに対するIVA+PDT併用療法の奏効例治療前には明らかなポリープ状病変は認めず,典型加齢黄斑変性としてCIVAにて治療を行った.治療C6カ月頃からCPEDは増大し,IVAへの抵抗性を認めた.巨大なCPEDを伴うCPCVを認め,12カ月時にCIVA+PDT併用療法を行い,下液の消失とCPEDの縮小を認めた.(73)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3750910-1810/19/\100/頁/JCOPY上段:(左から)治療前のOCT,FA(3分),IA(3分).中段:(左から)15カ月後(IVA+PDT1回)のCOCT,FA(1分),IA(1分).下段:(左から)48カ月後(IVA+PDT3回,IVA11回)のOCT,FA(1分),IA(1分).図2巨大なPEDを伴ったPCVの難治例巨大なCPEDを伴ったCPCVに対し,初回治療としてCIVA+PDT併用療法を施行した.1年以上追加治療なく経過観察を行っていたが,15カ月時に巨大な出血性CPEDを認めた.IAにてCPCV病変の増悪を認めた.その後もCIVA単独およびCPDT併用療法を繰り返し,視力は維持されたものの新たなCPEDの出現や新生血管の進展を認め,病勢の管理は困難である.とが多い.PEDに対する効果について議論の余地を残しているが,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)に反応しない症例でもアフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)が奏効する例は少なくないため,実臨床では初回C3回連続投与を行ってもCIVRに反応しない場合は,IVAに切り替えるべきと考えられる.抗VEGF薬+PDT併用療法IVRやCIVAにもかかわらず漿液性.離が残存しCPEDが増悪するような治療抵抗例においても,抗CVEGF薬+PDT併用療法を追加することで解剖学的な改善が得られることが多い(図1).ただし再発を繰り返すなど長期にわたって治療継続している症例では,潜在的な黄斑萎縮や網膜外層障害をきたしていることが多く,PDT治療により,かえって視力低下を顕在化させるおそれもある.それゆえ,治療実施の際には蛍光眼底造影やOCT検査を施行して慎重に病態評価を行う必要がある.最近はCEVEREST2studyをはじめ,PCVに対する初回CPDT併用療法の良好な治療成績が報告されている2,3).確実なポリープの退縮や治療回数の軽減などを目標とする場合は初回からCPDT併用療法を考慮する.難症例への対応PEDの平坦化をめざした積極的な治療を行えばCRPEC376あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019tear形成の可能性やCRPE萎縮をきたす可能性も憂慮され,常に治療効果とそのリスクを天秤にかける必要性がある.一方,巨大な漿液性CPEDを有する症例では,治療継続にもかかわらずCPEDが増大し,出血性CPEDや巨大な網膜下出血をきたすことがある(図2).このような場合は,患者に十分な説明を行って理解を得たうえで,積極的な抗CVEGF治療(.xeddosingまたはCtreatCandextend)やCPDT併用療法を行い,解剖学的な改善の維持に努め,視力維持を図るべきと思われる.文献1)NagaiCN,CSuzukiCM,CUchidaCACetal:Non-responsivenessCtoCintravitrealCa.iberceptCtreatmentCinCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:implicationsCofCserousCpig-mentepithelialdetachment.SciRepC6:29619,C20162)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmol135:1206-1213,C20173)MatsumiyaCW,CHondaCS,COtsukaCKCetal:One-yearCout-comeCofCcombinationCtherapyCwithCintravitrealCa.iberceptCandvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalcho-roidalCvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:541-548,C2017(74)

緑内障:自動静的視野検査の測定点配置

2019年3月31日 日曜日

●連載225監修=山本哲也225.自動静的視野検査の測定点配置野本裕貴近畿大学医学部眼科学教室緑内障診断および経過診察に際し,多くの施設では自動静的視野検査にて視野評価を行っていると思われる.本稿では自動静的視野検査における従来の測定点配置と,新たな測定点配置による検査の試みについて紹介する.●従来の検査測定点配置現在,自動静的視野検査にて緑内障性視野障害の評価を行う際は,測定点間隔が視角C6°のC24-2もしくは30-2測定点配置での検査,そして進行症例では中心視野(中心C10°内)を評価するために視角C2°間隔のC10-2測定点配置での検査が行われている(図1).その測定点数は片眼でC24-2:54点,30-2:76点,10-2:68点となっている.このようにC10-2では検査範囲内を密に測定している一方,24-2およびC30-2は比較的粗な測定点で検査していることになる.24-2,30-2検査では病初期での視野異常を測定点密度の粗さのために検出できていない可能性があり,このことがCOCT,眼底検査にて緑内障性構造変化を認めるにもかかわらず,視野検査では異常を認めない前視野緑内障(preperimetricglau-coma:PPG)が存在する一因と考えられる.24-2:54点●PPGおよび早期緑内障の視野異常検出PPGは自動静的視野検査ではCPPGによる異常を検出することが不可能なのか?そうではなく,あくまでも6°間隔測定点のC24-2,30-2での検査では異常を検出しないのであって,10-2で検査を行う1),あるいは測定点配置を変更(24-2測定点C10°内に測定点追加)する2)ことで異常が検出でき,また早期視野異常の検出力も向上すると報告されている.つまり,測定点を追加することで異常検出能力が上がることになる.一方で問題としては,どこに,いくつの測定点を追加するかということと,測定点追加することで検査時間が長くなることがあげられ,視野測定アルゴリズムの改良を含め,さらなる検討が必要だと思われる.30°10-2:68点30°30°30-2:76点30°30°30°図224plusの測定点配置(右眼)図124.2,30.2,10.2の測定点配置および測定点数測定点数はC78点となっている.(71)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3730910-1810/19/\100/頁/JCOPY図364歳,NTG(右眼)のOCTと24.2,24plus視野検査結果24-2では中心C4点の測定点に異常を認めないが,24plusではC○内の測定点で異常を検出しており,固視点近傍まで障害が生じていることを示している.●中心視野の重要性と24plus測定点配置中心視野の重要性は改めて述べるまでもないが,近年多くの論文にて中心視野と日常生活の見え方の質(visionCrelatedQOL:VRQOL)との関連性が報告されており,とくに中心下方視野がCVRQOLの低下に大きく影響するとされている3).このことは進行症例ではもちろんのこと,初期から中期症例においても中心視野の重要性を示している.これらのことを踏まえ,ヘッドマウント視野計アイモ4)では,24plus(図2)とよばれる測定点での検査が行えるようになっている.24plusの測定点数はC78点で,通常のC30-2とほぼ同じ点数である.これは,従来の24-2の測定点のC10°内に測定点を追加し,早期の異常検出と進行期での残存中心視野の評価を行うことを目的とした配置となっている.24plusでは,図3のように24-2検査では検出できていない中心領域の異常を検出できている.緑内障の経過診察を行っていくうえで,初期から中期症例でもこのような測定点配置の検査にて中心視野評価を行うことは,VRQOLの観点からも大切だと考える.文献1)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visual.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglauco-maCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C20162)EhrlichCAC,CRazaCAS,CRitchCRCetal:ModifyingCtheCcon-ventionalvisual.eldtestpatterntoimprovethedetectionofCearlyCglaucomatousCdefectsCinCtheCcentralC10°C.CTranslCVisSciTechnolC3:6-8,C20143)AbeCRY,CDiniz-FilhoCA,CCostaCVPCetal:TheCimpactCofClocationCofCprogressiveCvisualC.eldClossConClongitudinalCchangesCinCqualityCofClifeCofCpatientsCwithCglaucoma.COph-thalmology123:552-557,C20164)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingwithhead-mountedperimeter‘imo’.PLoSCONEC11:Ce0161974,C2016C374あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(72)

屈折矯正手術:SMILE後の追加矯正手術

2019年3月31日 日曜日

監修=木下茂●連載226大橋裕一坪田一男226.SMILE後の追加矯正手術中村友昭名古屋アイクリニックフェムトセカンドレーザーのみで屈折矯正を行うCSMILEは,術後の近視への戻りが少なく,LASIKに比べ追加矯正を必要とする頻度は低いが,追加矯正が困難なことがデメリットでもある.さまざまな追加矯正法がなされているが,それぞれ得失があり,新たな方法も開発中である.●はじめにSMILE(smallCincisionCfemtosecondClenticuleCextrac-tion)はCCarlZeissMeditec社(以下,CZM社)がC2010年に開発した,フェムトセカンドレーザー(以下,FSレーザー)VisuMaxのみで屈折矯正手術を行う新技術である.角膜を光切断し,最小C2Cmmの切開創からレンチクルを抜去して屈折矯正を行う1)(図1).SMILEにはドライアイになりにくい,外力に対して強いなどのメリットがあげられるが,さらに屈折が長期に渡って安定していることもそのひとつである.そのためCSMILEは術後の近視への戻りが少なく,屈折誤差への許容度があるためか,ほとんど追加矯正する必要がない.海外での報告でも追加になった症例はC1.3%と一般にC5.10%といわれるレーシックに比べて少ない.ただし,追加矯正が困難であることがCSMILEのデメリットになっている.今回,さまざまな追加矯正法について述べる.C●SMILE後の追加矯正施行された順に,以下のものがあげられる.それぞれ得失があり(表1),どれを選択するかは術者の考えでよいと思われる(表2).①CPRK:もっとも簡便で安全であるものはCPRKやClaser-assistedsub-epithelialCkeratectomy(LASEK)などのCsurfaceablationであろう.SMILEのCcap内で矯正することができ,いわゆるフラップを作らないという意味からも,ドライアイになりにくく外力に強いなどのCSMILEのメリットが維持される.ただし,視力回復の遅さや,術後の痛みなどのCPRKの従来の課題点は残される2).②CLASIK:Capの深さを基にフラップの厚みを設定し,FSレーザーにてフラップを作製して,エキシマレーザーを照射する.SMILEの切断面とフラップの断端が干渉しないよう,フラップの厚み,サイズとヒンジの位置を決める必要がある.Capのなかで薄いフラップを作製しレーザーを行うCthin-.apLASIKや,capの厚みに合わせたフラップを作るCthick-.apCLASIKが提案されている.その設定はやや難易度が高く,若干のリスクを伴うことが報告されている.これによりLASIKの術後と同様となり,SMILEの本来の利点がなくなる.③CCircle:最近ではCCIRCLEというプログラムで,ドーナッツ状に周辺を切開し,LASIK様のフラップを作製することにより簡便に追加矯正を行うことができるようになった(図2,3).Capとフラップの厚みに気を払う必要がないので,より安全にCLASIKにコンバートできる方法といえる.ヒンジの位置は通常,SMILEのサイドカットと干渉しないよう,やや時計方向へ振った上方に作製する.結果的にはCLASIKに表1追加矯正法の比較PRK/LASEK低侵襲の維持回復に時間を要す高いFs-LASIK回復時間が短い低侵襲でなくなる中等度低侵襲乱視だけCLRIレーザーが不要予測性に乏しい低い図1SMILEの模式図フェムトセカンドレーザーにより光切断した角膜実質(レンチクル)を最小C2Cmmの切開創から抜き取る.CIRCLE回復時間が短い低侵襲でなくなる高いSubCap-LE低侵襲の維持難易度が高い高いLRI:limbalrelaxingincision.(69)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3710910-1810/19/\100/頁/JCOPY表2過去の報告著者方法例数観察期間術前CSE術後CSE術後裸眼2段階低下安全係数有効係数CSiedlecki2)CPRKC433カ月-0.86±0.43C0.03±0.57C0.08±0.15C0C1.06C0.90CReinsteinCLASIKC1003カ月-0.04±0.99C0.19±0.4695%1.0以上C0CNRCNRCSiedlecki3)CCIRCLEC223カ月-0.51±1.08C0.18±0.31C0.03±0.07C0C1.03C0.97CDonate4)CSubCap-LEC13カ月-1.5C0.125C20/16C0C─C─CCIRCLEの切断端SMILEの切断端3=Capを拡大1=SMILEcap~3カ月4=Flapサイドカット2=SMILEサイドカット5=Flapヒンジ5図2CIRCLEの模式図なってしまうが,より安全に行え,PRKと違い痛みが少なく視力の回復が早いので,今後もっとも普及する方法と思われる3).C④CSubCap-LE:SMILEのメリットを最大に活かした追加矯正は,やはりCcap下に追加分だけ再度レンチクルを作製し,それを元の小切開創から抜き取ることであろう.ただし,通常,追加矯正の度数は小さく,そのためレンチクルは薄くなり,正確にその度数で作製できるかなど,難易度の高い技術といえる.限られた施設での臨床治験が始まっている4).C●自院でのデータ名古屋アイクリニックにてCSMILEを施行した症例のうち,追加矯正手術となったのはC10名C16眼で,全症例C1,046眼中C1.5%と海外での報告と同様であった.追加症例の術前平均等価球面度数は-6.70±1.87Dと全症例の平均等価球面度数-4.5Dより高く,過去の報告5)にあるようにやや高度の近視症例に追加が必要となった.追加矯正前の平均等価球面度数は-0.73±0.96D(-1.5.+1.5D)で,その内訳は近視C13眼(うちC2眼は軽度近視狙いで術後正視希望),遠視C3眼であった.追加矯正の方法はLASEK4眼,PRK8眼,Circle3眼,CLASIK1眼であった.追加後C3カ月で平均等価球面度数は-0.07±0.87Dへとほぼ正視となり,平均裸眼視力も術前C0.56からC1.19へと改善した.術中,術後合併症はなく,矯正視力はC2段階以上低下するものはなかっC372あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019ヒンジの長さ[mm]ヒンジ位置[°]た.PRKの症例で矯正が不足し,再々矯正となったものがC1例C2眼で,最終的には両眼裸眼視力C1.2に改善した.安全係数はC0.95C±0.22,有効係数はC0.73C±0.30と良好であった.C●おわりにSMILEは多くのメリットのある優れた技術である.デメリットである追加矯正のむずかしさも,今後さらに改善していくものと思われる.文献1)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlen-ticuleextraction:all-in-oneCfemtosecondClaserCrefractiveCsurgery.JCCatractRefractSurgC37:127-137,C20112)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:EnhancementCafterCmyopicCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)usingCsurfaceablation.JRefractSurgC33:513-518,C20173)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:CIRCLECenhancementCaftermyopicSMILE.JRefractSurgC34:304-309,C20184)DonateD,ThaeronR:PreliminaryevidenceofsuccessfulenhancementCafterCaCprimaryCSMILECprocedureCwithCtheCsub-cap-lenticule-extractionCtechnique.CJCRefractCSurgC31:708-710,C20155)LiuYC,RosmanM,MehtaJS:Enhancementaftersmall-incisionClenticuleextraction:incidence,CriskCfactors,CandCoutcomes.OphthalmologyC124:813-821,C2017(70)

眼内レンズ:フェムトセカンドレーザー白内障手術におけるガス形成誘発Capsular block syndrome

2019年3月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋388.フェムトセカンドレーザー白内障手術における増田洋一郎東京慈恵会医科大学ガス形成誘発Capsularblocksyndrome葛飾医療センター眼科フェムトセカンドレーザー白内障手術は,レーザー照射中にガスを発生させるため,水晶体.内圧を上昇させる.豚眼においてレーザー照射中に水晶体を後方から観察すると,発生ガスは時間とともに癒合し,大きなバブルとなって後方へ膨張し,後.を拡張させる挙動を呈した.これはCcapsularblocksyndromeの要因となるため,注意を要する.●FLACS時の後.破損とレーザー照射誘発ガスの関係フェムトセカンドレーザー白内障手術(femtosecondClaser-assistedcataractsurgery:FLACS)は,レーザー照射によってCZinn小帯脆弱や前房の浅さとは無関係に,確実に水晶体前.切開を行うことができ,また事前に水晶体核断片化をしておくことで,超音波乳化吸引時の使用エネルギーを減少させることができる.そのため確実で低侵襲な白内障手術に貢献するといわれている.しかし,FLACSは従来のマニュアルによる超音波白内障手術(manualcataractsurgery:MCS)では認めなかった特徴を有しているため,留意すべきポイントがある.Popovicらは,FLACSとCMCSとを比較したC14,567眼におけるメタ解析で,FLACSのほうがCMCSより後.破損の発生率が高いと報告している1).この要因の一つとして,FLACSのユニークな特徴である水晶体内に発生するレーザー照射誘発ガスに起因するものが考えられる.Robertsらは,このレーザー照射誘発ガスにより水晶体.内圧が上昇した状態でのハイドロダイセクションが,.内圧を上昇させてCcapsularCblockCsyndrome(CBS)による後.破損をきたす危険性を指摘し,ハイドロダイセクションの際に十分な留意が必要であると報告している2).そのため,このレーザー照射誘発ガスの特性を知っておくことは,CBS回避のために重要である.C●豚眼を用いたレーザー照射中の水晶体後面の観察そこで今回,発生ガスの挙動を知ることを目的に,豚眼水晶体にフェムトセカンドレーザーを照射中に,硝子体手術用内視鏡を用いて水晶体後方を観察した(図1).図1硝子体内視鏡を用いた豚眼水晶体後面像a:フェムトセカンドレーザー照射前.Cb:フェムトセカンドレーザー照射初期.レーザー照射により白色に反射するガスが発生している.Cc:フェムトセカンドレーザー照射後期.発生ガスが癒合し大きなバブルとなり後.を拡張させている.黄線:レーザー照射開始部位,白線:レーザー照射前の後.位置,△:移動した後.位置.(67)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3690910-1810/19/\100/頁/JCOPY図2フェムトセカンドレーザー照射後摘出水晶体(豚眼)摘出水晶体を後.側から観察したもの.後.側に優位に膨張したレーザー照射誘発ガスのバブルを認めた.レーザーは水晶体後部から順次階層的に前方へ照射されてゆく.レーザーを照射された水晶体は白色に反射するガスを発生させ,レーザー照射の経過とともに発生ガスは癒合し大きく膨張したバブルとなり,当初の照射部位を越えて後方へ拡張した.レーザー照射後の後.位置は,レーザー照射前の後.位置と比較して,膨張したガスによる.内圧上昇によって後方へ拡張することが観察された(図1c白矢頭).さらにレーザー照射エネルギーを増加させると誘発ガスも増加していき,耐圧を超えた水晶体.が破裂することも観察された(レーザー照射中CBS).C●照射エネルギー量による水晶体径の変化レーザー照射後に摘出した水晶体を観察すると,内視鏡で観察されたものと同様,癒合し膨張したガスのバブ30.9J19.4J8.1JControl図3フェムトセカンドレーザー照射後摘出水晶体(豚眼)レーザー照射エネルギー量が増加するにつれ,水晶体径が増加していることが観察される.左からコントロール,8.1CJ照射,19.4CJ照射,30.9CJ照射.ルが水晶体後面に優位に分布していた(図2).また,照射エネルギー量を変更してレーザー照射された水晶体を並べると,エネルギー量に依存して誘発ガスが増加し,水晶体径が増加していた(図3).C●おわりにこの実験によって判明した興味深い点は,癒合し膨張したレーザー照射誘発ガスが,後方へ拡張し分布していくため,発生ガスが水晶体内にトラップされやすくCBSの要因になりやすい点であった.以上より,FLACSにおけるCCBSを回避するためには,レーザー照射条件とレーザー照射後のハイドロダイセクションなどの加圧手技に十分留意する必要性があることが示唆された.文献1)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSchlenkerCMBCetal:CE.cacyandsafetyoffemtosecondlaser-assistedcataractsurgeryCcomparedCwithCmanualCcataractsurgery:ACmeta-analysisCofC14567CEyes.COphthalmologyC123:2113-2126,C20162)RobertsTV,SuttonG,LawlessMAetal:Capsularblocksyndromeassociatedwithfemtosecondlaser-assistedcata-ractCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC37:2068-2070,C2011C

コンタクトレンズ:遠近両用ソフトコンタクトレンズのシンプル処方

2019年3月31日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一53.遠近両用ソフトコンタクトレンズの東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック京都府立医科大学眼科シンプル処方●はじめに日本の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)処方比率は近年少しずつ上昇しているものの,まだC6%と諸外国に比較して低いのが現状である.その背景として,日本では従来より近業に従事する装用者に対し,球面度数を弱めに処方することが多かったためと推察されている1).また,遠近両用CSCL処方の経験が少ないと,「処方が面倒」とか「むずかしいのでは?」と先入観を抱きやすいが,近年の遠近両用CSCLの性能は飛躍的に向上している.今回は遠近両用CSCLのシンプル処方について解説する.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの種類と特徴遠近両用CSCLの光学デザインはすべて累進屈折力で,レンズの中心が遠用で周辺が近用タイプと,中心が近用で周辺が遠用タイプに大別される(図1).中心から周辺にかけて度数が連続的に変化するため,遠方から中間,近方まで境目のない自然な見え方が得られるが,遠方と近方の像が網膜に同時に結像する(同時視)ためにコントラスト感度は低下しやすい2).また,加入度数が高くなるほど遠方の見え方は落ちやすい.しかし,片眼ではそのような傾向があっても,両眼視であれば遠方・近方ともに視力は良好で,年齢を問わず低加入度数を選択することが推奨されている3).単焦点CSCLと同様に,素材は含水性ハイドロゲルとシリコーンハイドロゲルレンズが,用途ではC1日使い捨てタイプとC2週間頻回交換タイプがある.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と処方時の注意点処方の成否は適応を見きわめることである.①多焦点コンタクトレンズの装用に意欲的で,②老視症状の自覚や近業時の疲労感があり,③全乱視は-1.0D以下の条件がよい適応である.逆に,遠近ともに過度に視力を追及する人や,長時間の車の運転(とくに夜間)が必要な人では満足できない場合がある.同時視ゆえに慣れるまで時間を要すること,単焦点CSCLより遠方の見え方が若干劣ることなど,処方前に患者にメリット,デメリットを詳しく説明することが大切である.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの検査(図2)最初のトライアルレンズ度数は自覚的屈折値に+0.5~+1.0D加えた球面度数で低加入を選択する.弱めの度数を選べば過矯正が予防できるうえ,最初に「手元がよく見える!」と患者に強い印象を与えられ,モチベーション向上につながる.検査は,まず両眼開放で手元を図1いろいろある多焦点ソフトコンタクトレンズ用途と光学デザインから遠近両用SCLを分類した.黒字表記は含水性ハイドロゲル素材,青字がシリコーンハイドロゲル素材である(イメージ図はすべて各メーカーからの提供).(65)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3670910-1810/19/\100/頁/JCOPY見てもらい,そのあとに遠方の見え方を確認する.その際,生活のなかでよく目にするもの(近方なら新聞やスマホ,遠方ならカレンダーや壁掛け時計など)を見せて患者が満足できる度数を探す3,4).見え方の確認は必ず両眼開放で行うが,その際に視力検査表を使わないこと,数字の視力にこだわらないことが重要である.もし遠方の見えにくさを訴える場合には,両眼同時に球面度数を-0.25Dずつ同時に上げるか,モノビジョンを応用して優位眼の度数を変更する.逆に手元の見え方に不満があれば,非優位眼の度数を変更するか加入度数を変更する.モノビジョンを行うときには優位眼を遠方に,非優位眼で近方に合わせるのが基本で,左右の度数の違いはC0.75Dを目安に+0.25Dずつ慎重に追加する.C●検査時の注意点遠近両用CSCL装用に意欲的になった患者は,ときに過度な期待を抱く.たとえば,遠近両用CSCLを装用すれば若い頃のようにすべての距離が見えると期待してしまい,検査の段階からさまざまな距離を片眼ずつ遮蔽して見え方を確認してしまうのである.先にも述べた通り,片眼ではコントラスト感度は低下するため,必ず両眼で慣れるように指導し,「これぐらいで大丈夫」という見え方を探すよう声かけする.また,モノビジョンを行う場合,事前に左右で見え方が異なることを説明しておく.処方する側は各製品の特性を熟知し,ライフスタイル図2遠近両用SCLの検査の流れ(文献C3を参考に作成)に合わせてレンズを選択する.一般に,遠近両用CSCLでは表示された加入度数と実際の有効加入度数が乖離していることも知っておく必要がある4).初回の検査ですぐに処方せず,できれば数枚のトライアルレンズを渡して同時視を体験させ,満足できる見え方が得られるまで度数調整するとよい.ディスポーザブルCSCLなら処方後に再診するため,見え方に不具合を生じた場合や加齢による調節力の変化にも球面度数や加入度数の変更で対応できる.C●おわりに高齢化社会に伴い,遠近両用CSCLの需要が高まっている.最初の患者説明には一手間かかるが,うまく適応を見きわめ,検査手順に慣れれば,遠近両用CSCL処方は決してむずかしくない.遠近両用CSCLを上手く処方できると患者の高い満足度が得られるので積極的な処方をお勧めしたい.文献1)ItoiM,ItoiM,EfronNetal:Trendsincontactlenspre-scribingCinJapan(2003-2016)C.CContCLensCAnteriorCEyeC41:369-376,C20182)植田喜一,佐藤里沙,柳井亮二ほか:デザインの異なる遠近両用ソフトコンタクトレンズのコントラスト視力.日コレ誌44:211-215,C20023)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科30:1363-1368,C20134)植田喜一:コンタクトレンズによる老視治療.あたらしい眼科28:623-631,C2011PAS115

写真:悪性転化した結膜MALTリンパ腫

2019年3月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦418.悪性転化した結膜MALTリンパ腫北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①サーモンピンク色の隆起性腫瘍図1上方結膜円蓋部に帯状に広がるサーモンピンク色の隆起性病変図3初診時前眼部所見生検の結果,反応性リンパ過形成の診断となる.図4再発時の悪性リンパ腫の病理像異型を伴った小型で円形の細胞が密に増殖している.(63)あたらしい眼科Vol.36,No.3,20193650910-1810/19/\100/頁/JCOPY結膜の悪性リンパ腫は,“サーモンピンク様”といわれるピンク色の隆起性腫瘍が特徴的である.片眼あるいは両眼の眼瞼結膜円蓋部から発生し,堤防状に盛り上がっていることが多いが,病変は球結膜,涙丘など,いずれの部位からも発生する.眼科における悪性リンパ腫は,眼─中枢神経系リンパ腫などの眼内に発生するリンパ腫が多く,そのほとんどがびまん性大細胞型リンパ腫(di.uselargeBcelllymphoma)に相当し,予後が不良であることが多い1).一方で,結膜に生じる悪性リンパ腫はmucosaassociatedlymphoidtissue(MALT)型が多く,悪性リンパ腫のなかでも発症頻度が低く,粘膜に関連したリンパ組織からリンパ球の中のB細胞が腫瘍化する非ホジキンリンパ腫で,比較的予後良好である.年単位でゆっくりとした経過をたどり,低悪性度に分類されている2).眼以外では,胃,大腸,肺,甲状腺,唾液腺,乳腺などでも発生することがあり,とくに胃は好発部位で,胃の悪性リンパ腫の約40%を占めており,全身における腫瘍の有無については精査が必要である.鑑別として反応性リンパ過形成や結膜アミロイドーシスがあるが,所見が類似しているため外見から鑑別することはきわめて困難で,腫瘍を切除して病理検査を行うことで確定診断できる.本症例は70歳,男性.2008年5月に右眼違和感を主訴に近医を受診.右眼サーモンピンク様隆起を認め,当院紹介受診となった.2008年7月に結膜腫瘍生検を施行し,病理診断では反応性リンパ過形成であったため経過観察となった.2012年9月頃より結膜腫瘍の拡大を認め,2013年3月に再度生検を施行したところ,病理診断でMALTリンパ腫の診断となった.2013年4月に施行したPETで肺門部リンパ節に集積を認めたため,血液内科紹介のうえ,リツキシマブ開始となった.このように反応性リンパ過形成と診断されていても悪性転化することもあり,再発してきた場合は組織生検が再度必要となる.治療には生検後の再発を予防するため,放射線治療および化学療法があるが,放射線療法後にはドライアイ,角膜上皮幹細胞疲弊,白内障,眼窩周囲の脂肪組織の減少などが報告されている.一方でMALTリンパ腫は低悪性度であるため,自然消退しやすく,必ずしも生検後再発するわけではない.自然経過による再発を調べた研究によると,8例中7例が自然消退したと報告されている3).したがって,慎重な経過観察も一つの治療オプションなのかもしれない.文献1)HunyorAP,HarperCA,O’DayJetal:Ocular-centralnervoussystemlymphomamimickingposteriorscleritiswithexudativeretinaldetachment.Ophthalmology107:1955-1959,20002)WotherspoonAC,DissTC,PanLXetal:Primarylow-gradeB-celllymphomaoftheconjunctiva:amucosa-associatedlymphoidtissuetypelymphoma.Histopathology23:417-424,19933)MatsuoT,YoshinoT:Long-termfollow-upresultsofobservationorradiationforconjunctivalmalignantlym-phoma.Ophthalmology111:1233-1237,2004

時の人 本田 茂 先生

2019年3月31日 日曜日

大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学教授本ほん田だ茂しげる先生大阪市立大学の視覚病態学教室のホームページを開いてみていただきたい.スタッフ紹介のページに全員の専門分野や研究業績が記載されているのはごく普通だが,それらと並んでなぜか「モットー・趣味など」欄がしっかり存在する.見ると多種多彩な趣味が満載で,スタッフのみなさんの「リア充」ぶりが伝わってくる.そこで本田教授の欄は,と見ると「とにかく多趣味」とある.これだけ多趣味な人々の中にあって,さらに上を行く多趣味人ということか?本田教授に伺ってみよう.***昨年4月に大阪市立大学視覚病態学教室の第六代教授に就任した本田茂先生は,香川県坂出生まれの京都育ち.小学生の頃はプラモデルと工作,絵描きに没頭.私立洛星中学・高校時代は,硬式テニス部に所属しつつ,ギター演奏,エアチェック(懐かしい言葉!ご存じないかたはネットで検索を),漫画・イラスト描きなど,当時から多趣味だったそうだ.ただし,高校最後の1年間はそれらのすべてを封印して受験勉強.そして1985年に神戸大学医学部に入学した.大学でも硬式テニス部に所属し,幹部学年時には西医体で優勝したそうだ.テニスは今でも機会があれば楽しんでいるとのことである.ただし,先生の「多趣味」は一通りやってみる的なものとは本質的に違う.先生のモットーは「何事にも興味を持って挑戦してみること」だが,その精神がスポーツにも絵にも音楽にも発揮されたとみるべきだろう.同じことが眼科医としての先生の姿勢にも現れている.先生のご専門は神戸大学入局以来一貫して網膜硝子体疾患だが,臨床で必要とされれば小児眼科,神経眼科領域の勉強を徹底してやり,手術手技も(角膜移植を除く)ほとんどの手術を手がけ,自分のものとしてきた.基本的に勉強家であり,研究熱心なタイプなのである.神戸大学眼科でキャリアの第一歩を踏み出した頃は,当時最新の手技を学びながら網膜の神経伝達に関する研究,近視の分子メカニズム解明に向けた研究プロジェクトを独力で立ち上げ,連日深夜まで研究を行う日々だったそうだ.研究室の機器を独り占めできる週末は「至福の時だった」と先生は当時を振り返る.カリフォルニア大学留学中には,網膜色素上皮細胞の老化に関する研究で3年間に7本もの原著論文を発表した.その後,市中病院などを経て神戸大学に帰学後は,黄斑外来と網膜外来,および未熟児網膜症診療を中心となって担い,昨年の大阪市立大学赴任まで,精力的に臨床と研究のキャリアを築いてきた.***さて,大阪市立大学眼科は長年にわたって網膜疾患の臨床と研究の実績を積み重ねてきた伝統があり,とくに加齢黄斑変性や中心性漿液性脈絡網膜症などの黄斑疾患に強みをもつ.これは先生の専門領域と完全に一致するものであり,先生にも教室にとっても幸せなカップリングだったと言えるだろう.先生は加齢黄斑変性の病態解明,糖尿病網膜症や未熟児網膜症の治療法の研究などを主宰する一方,他大学や他領域の研究機関とも共同して新たな研究にも乗り出している.また,手術の安全性と効果をより高めるためのデバイスの開発,臨床応用に向けた研究も行っている.このような多方面にわたる活動の中で,先生が常日頃から心がけ,後進にも行動をもって示していることがある.それは,自分(たち)だけで分からないことは,その道の専門家にどんどん聞きに行くことである.また,各人の価値観や仕事の多様性を認め,そのうえで絶えずコミュニケーションを図ることである.その中から新しい発見も生まれ,組織も健全に発展してゆくと先生は考えている.「自分と違う外の世界に興味を抱くこと」を先生は子どもの時から大切にしていた.今もその気持ちが「基本,家でじっとしていることは病気の時以外はない」というぐらい活動的な先生の原動力となっているに違いない.(61)あたらしい眼科Vol.36,No.3,20193630910-1810/19/\100/頁/JCOPY