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デクスメデトミジンを用いた涙囊鼻腔吻合術

2019年1月31日 木曜日

《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科36(1):107.110,2019cデクスメデトミジンを用いた涙.鼻腔吻合術植田芳樹舘奈保子橋本義弘朝比奈祐一芳村賀洋子真生会富山病院アイセンターCEndoscopicDacryocystorhinostomywithDexmedetomidineSedationYoshikiUeta,NaokoTachi,YoshihiroHashimoto,YuichiAsahinaandKayokoYoshimuraCShinseikaiToyamaHospitalEyeCenterC目的:涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)におけるデクスメデトミジン(DEX)による静脈麻酔の安全性と有用性について検討する.方法:2014年C9月.2016年C9月に,DEXによる静脈麻酔を用いてCDCR鼻内法を施行したC21例C22側を対象とした.DEXは5.6Cμg/kg/時でC10分間初期負荷投与し,0.4Cμg/kg/時で維持投与した.局所への浸潤麻酔も併用した.手術中断例の有無,バイタルサイン,声かけへの応答,術中の疼痛をフェイススケールを用いC11段階で評価した.結果:手術を中断した症例はなく,声かけは全例応答可であった.3例でCSpOC2の低下,1例で血圧の低下を認めたが,維持量の減量により改善した.フェイススケールは平均C1.71(0.6)であった.結論:DEXを用いたCDCRは安全であり,局所麻酔も併用すれば疼痛コントロールも良好である.CPurpose:Toevaluatethesafetyande.ectivenessofendoscopicdacryocystorhinostomy(En-DCR)underlocalanesthesiawithdexmedetomidine(DEX)sedation.Method:22patientsunderwentEn-DCRunderlocalanesthesiawithDEX.DEXwasadministeredintravenouslyataloadingdoseof5.6Cμg/kg/hfor10minutesand0.4Cμg/kg/hsubsequently.Focalanesthesiawasalsoused.Vitalsigns,responsetocall,andintraoperativepainusingFacescalewereCnoted.CResult:TheCoperationCwasCsuccessfullyCperformedCinCallCpatients,CandCtheyCrespondedCtoCcall.CSpO2CwasCdecreasedCinC3patientsCandCbloodCpressureCwasCdecreasedCinC1patient.CTheCmeanCpainCscoreConCFaceCscaleCwas1.71(0.6)C.Conclusion:En-DCRwithDEXsedationisasafeandae.ectivepaincontrolprocedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):107.110,C2019〕Keywords:涙.鼻腔吻合術,デクスメデトミジン,鼻内法,局所麻酔,フェイススケール.Dacryocystorhinosto-my,dexmedetomidine,endoscopic,localanesthesia,facescale.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は,おもに鼻涙管閉鎖症に対して,涙道再建目的で行われる手術である.近年,鼻内法が広まり治癒率も高い1,2).麻酔は,術中の疼痛や出血の管理のために全身麻酔で行う施設が多い.しかし全身麻酔では全身状態,入院期間,施設などに制約されることがあり,局所麻酔で行う施設もある3.6).局所麻酔では静脈麻酔薬を用いて行う場合もある.近年新しい静脈麻酔薬としてデクスメデトミジン(DEX)が発売された.DEXはCa2受容体作動薬であり,脳橋の青斑核のCa2A受容体に結合してCagonistとして作用し,鎮静作用を発現する7).また,脊髄に分布するCa2A受容体に作用し,鎮痛作用も発現する.鎮静は自然睡眠に類似し,呼吸抑制は弱いとされ,呼びかけで容易に覚醒し,意思疎通が可能といわれている.合併症として,血圧・心拍数低下,末梢血管の収縮による一過性血圧上昇などが報告されている.今回,DCRにおけるCDEXを用いた静脈麻酔の有用性と安全性を検討した.CI対象および方法2014年C9月.2016年C9月に当院で,DEXを用いて局所麻酔でDCRを施行した21例22側(男性2例2側,女性19例C20側,平均年齢C68.7C±11.0歳)を対象とした.全身麻酔か局所麻酔かは患者の希望により決定し,認知症症例と両側手術の症例は,原則,全身麻酔で施行した.DCR下鼻道法やCJonestube留置を行った症例は除外した.〔別刷請求先〕植田芳樹:〒939-0243富山県射水市下若C89-10真生会富山病院アイセンターReprintrequests:YoshikiUeta,ShinseikaiToyamaHospitalEyeCenter,89-10Shimowaka,Imizu,Toyama939-0243,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(107)C107表1結果表2痛みなし群とあり群の比較声かけ全例反応バイタルサインの異常CSpO2低下3例血圧低下1例あり1C1例記憶断片的8例なし2例フェイススケール平均1C.7C±1.910例は0痛みなし(10例)痛みあり(11例)63.5±12.3C73.1±8.02:80:12体重(kg)C51.4±7.9C47.3±8.537.1±7.3(26.45)C42.3C±12.7(23.67)記憶断片的5例3例あり3例8例表3疼痛の強かった症例性別年齢(歳)体重(kg)手術時間(分)フェイススケールバイタルサインその他症例C1CFC70C54.8C67C6CSpO2低下涙小管水平部閉塞合併症例2CFC65C53.8C56C5出血++症例3CFC83C31.8C34C4CSpO2低下症例4CF75C50C45C4C手術法は,全例,鼻内法で施行した.粘膜除去にはCXPSCRのトライカットブレードを使用,骨窓形成にはCXPSCRのダイアモンドDCRバーを使用した.15°ナイフで涙.を切開し,ショートタイプの涙管チューブをC1本留置,メロセルヘモックスガーゼCRまたはべスキチンガーゼCRをC1枚挿入して終了した.DEXはC200Cμg(2Cml)を生理食塩水C48Cmlで希釈し,総量50Cml(4Cμg/ml)としてシリンジポンプで経静脈投与を行った.5.6Cμg/kg/時でC10分間初期負荷投与し,その後C0.4Cμg/kg/時で維持投与した.維持量は必要に応じ増減した(痛みがあれば増量し,バイタルサインの変化があれば減量).直前の食事は絶食とした.術中は鼻カニューレでC2Clの酸素投与を行った.DEX以外の麻酔として,前投薬にペンタゾシンC15mg,ヒドロキシジン塩酸塩C25mgを筋注し,体重50Ckg未満の症例は,適宜減量した.また,滑車下神経麻酔,涙.下の骨膜,および鼻内の粘膜にC1%エピレナミン含有キシロカインで浸潤麻酔を施行した.評価方法は,手術中断例の有無,術中のバイタルサイン〔血圧,脈拍,経皮的動脈血酸素飽和度(SpOC2)〕の異常,呼びかけへの応答の有無,術翌日に術中の記憶の有無の問診と術中疼痛をフェイススケールを用いてC0.10のC11段階で評価した.診療録の参照に対して,当院の倫理委員会の承認を得た.CII結果結果を表1に示す.手術を中断した症例はなく,声かけは全例応答可であった.バイタルサインはC3例でCSpOC2の低下(89.95%),1例で血圧低下(70CmmHg)を認めたが,DEXの維持量の減量により改善した.術翌日の問診で,術中の記憶があった症例はC11例,断片的な記憶がC8例,術中の記憶がなかった症例はC2例であった.痛みの程度はフェイススケールで平均C1.7C±1.9(0.6)であった.10例はフェイススケールC0と回答した.術中の咽頭への流血,還流液が問題となる症例はなかった.フェイススケールがC0の痛みなし群と,フェイススケールがC1以上の痛みあり群に分けた比較では(表2),年齢,体重,手術時間に有意差を認めなかったが,バイタルサインの異常は痛みあり群のみで認めた.また,術中の記憶がない症例は痛みなし群のみであり,痛みあり群で記憶がある症例が多い傾向を認めた.フェイススケールC4以上の疼痛が強かったC4症例を表3に示す.フェイススケールがC5以上のC2症例は,手術時間が長い症例であった(症例C1は涙小管水平部閉塞の合併,症例C2は鼻出血のため).このC2症例はともに,術終盤で強い疼痛を訴えた.また,4症例中C2症例にCSpOC2の低下を認めた.CIII考察これまで,手術や処置における鎮静には,ミダゾラムやプロポフォールなどの静脈麻酔薬が使用されてきた.これらの薬剤は,効果発現時間が早く,血中半減期が短いが,短時間の無麻酔や局所麻酔で実施される処置や検査の鎮静には適応外となっている.また,呼吸抑制などのために,使用の際には呼吸,循環の監視が求められる.Ca2アドレナリン受容体作動薬であるCDEXも,以前は集中治療における人工呼吸中および人工呼吸器からの離脱後の鎮静に適応が限定されていたが,2013年C6月から局所麻酔108あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019(108)における手術や処置,検査における鎮静の適応が追加された.DEXは,低用量の使用時には血管拡張による低血圧と副交感神経優位による徐脈が発現し,高用量時は,血管平滑筋収縮による血管収縮を引き起こすといわれる.呼吸抑制が軽微であり,呼名や軽微な刺激で速やかに覚醒する意識下鎮静の鎮静レベルを容易に達成し,自発呼吸が温存されるという点は,安全に手術を遂行するうえでは望ましい.これまでCDEXを用いた手術の報告は多くあり,Hyoらは,両眼白内障手術患者C31例でCDEX,プロポフォール,アルフェンタニルを比較検討し,DEX群が患者の満足度に優れ,心血管系が安定していたと報告している8).また,Demir-aranらは,上部消化管内視鏡の鎮静で,DEX群のほうがミダゾラム群に比べ,検査中の嘔気・嘔吐が有意に少なく,内視鏡医の満足度が高く,合併症としては処置中のCSpOC2が92%まで低下したと報告している9).西澤らも,消化器内視鏡におけるCDEXとミダゾラムの比較のメタ解析において,ミダゾラムに比較してより有効であり,合併症リスクに有意差を認めなかったと報告している10).これらの結果からDEXは,プロポフォールやミダゾラムと比べ,合併症はほぼ同等,患者,術者の満足度は高い静脈麻酔薬であると考える.DCRに対してCDEXを用いた報告はないが,今回の検討において,SpOC2低下をC3例に,血圧低下をC1例に認めた.CSpO2の低下はフェイススケールがC6とC5の疼痛の強い症例にみられ,疼痛を抑えるためにCDEXを増量したことが影響したと思われるが,その後のCDEXの減量により,早期に改善が期待できる.また,翌日の問診で術中の記憶がない症例がC2例あった.それらの症例も術中の呼名に応答は可能であったが,フェイススケールはC0であり,鎮静が深すぎた可能性がある.DEXは健忘作用は弱いとされるが,鎮静が深いと健忘作用を呈することがあると考えられた.しかし,患者にとって手術は苦痛であり,記憶をなくしても満足度は高いと思われた.今回の手術はCXPSCRドリルシステムを用いており,骨削開時は灌流液が常に流れていたが,術中に灌流液を吐き出したり誤嚥する症例はなかった.DEXによる鎮静は自然睡眠に近いとされ,患者が灌流液を飲み込んでいるためと思われた.疼痛に関して,フェイススケールの平均はC1.7であった.CVisualanalogscaleを用いた検討で,網膜光凝固の疼痛は,従来の光凝固でC3.7.5.1,PASCALCRによるパターンレーザーでC1.4.3.3と報告されており11,12),DEXを用いたCDCRは網膜光凝固とほぼ同等の疼痛と考える.フェイススケールC0がC10例であり,約半数において,無痛で手術を行うことができた.疼痛のある症例,とくに疼痛の強かった症例は,涙小管水平部閉塞の合併や,鼻出血の止血に時間のかかった症例であり,術終盤の痛みが強かったことから,手術時間の延長により,浸潤麻酔の効果が減弱したと考える.したがって,DEXのみでの疼痛コントロールは困難で,適切な局所麻酔の併施が必須と考える.DCR鼻内法では,涙.を十分に展開することが重要であるが,上顎骨が厚い例では,骨削開の際に局所麻酔のみでは痛みも出やすい.しかし全症例,十分な骨窓を広げることができた.DEXの鎮痛作用は脊髄のCa2A受容体への作用によるといわれ,三叉神経支配の頭頸部手術で鎮痛作用を発現するか不明であるが,DEXの有用性は確認できた.本検討は,術前に麻酔の種類の希望を聞いたため,痛みに弱い症例は全身麻酔を選択したと思われること,より痛みに弱いと思われる男性がC2名であること,今後症例が増えるであろう認知症症例を除外していること,ミダゾラムや静脈麻酔薬なしとの比較を行っていないことから,さらなる検討が必要である.手術続行が困難と判断した場合はすみやかに,全身麻酔へ移行できるよう準備が必要と考える.その点から,全身麻酔の準備ができない施設での導入は慎重にすべきである.今回は一般に推奨される初期量,維持量で投与を開始し,術中の患者の疼痛の訴えと,バイタルサインの変化があったときのみ,DEXの量の増減を行った.鎮静が深すぎたと思われる症例もあり,鎮静スケールを用いればより適切な量を決めることができると考える.術中の疼痛は大きな問題であるが,全身麻酔に伴うリスク,手術枠や施設の限界,患者の全身状態などから,局所麻酔で行わなければならない場合がある.今回の検討から,DEXを使用したCDCRは適切な局所麻酔を併施すれば,安全で比較的疼痛も少ないと考える.CIV結論DEXを用いたCDCRは安全であり,局所麻酔の追加を適切に行えば疼痛コントロールは良好である.DEXの適切な量や,増加する認知症患者への対応は今後の検討を要する.文献1)WormaldPJ:PoweredCendscopicCdacryocystorhinostomy.CLaryngoscopeC112:69-72,C20022)孫裕権,大西貴子,中山智寛ほか:涙.鼻腔吻合術の手術適応と成績.臨眼C58:727-730,C20043)DresnerCSC,CKlussmanCKG,CMeyerCDRCetal:OutpatientCdacryocystorhinostomy.OphthalmicSurgC22:222-224,C19914)HowdenJ,mcCluskeyP,O’SullivanGetal:AssistedlocalanesthesiaCforCendoscopicCdacryocystorhinostomy.CClinCExperimentOphthalmolC35:256-261,C20075)CiftciF,PocanS,KaradayiKetal:LocalversusgeneralanesthesiaCforCexternalCdacryocystorhinostomyCinCyoungCpatients.OphthalmicPlastReconstrSurgC21:201-206,C20056)河本旭,嘉陽宗光,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術を施行(109)あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C109した高齢者C83例の手術成績.あたらしい眼科C23:917-921,C20067)稲垣喜三:局所麻酔時におけるデクスメデトミジン塩酸塩.循環制御C36:138-143,C20158)NaHS,SongIA,ParkHSetal:Dexmedetomidineise.ec-tiveCformonitoredanesthesiacareinoutpatientsundergo-ingCcataractCsurgery.CKoreanCJCAnesthesiolC61:453-459,C20119)DemiraranY,KorkutE,TamerAetal:ThecomparisonofCdexmedetomidineCandCmidazolamCusedCforCsedationCofCpatientsduringupperendoscopy:Aprospective,random-izedstudy.CanJGastroenterol27:25-29,C200710)西澤俊宏,鈴木秀和,相良誠二ほか:消化器内視鏡におけるデクスメデトミジンとミダゾラムの比較:メタ解析.日本消化器内視鏡学会雑誌57:2560-2568,C201511)須藤史子,志村雅彦,石塚哲也ほか:糖尿病網膜症における光凝固術.臨眼C65:693-698,C201112)西川薫里,野崎実穂,水谷武史ほか:PASCALstreamlineyellowの使用経験.眼科手術C26:649-652,C2013***110あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019(110)

急激な血糖値低下により急性増悪した単純糖尿病網膜症症例の脈絡膜変化

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):102.106,2019c急激な血糖値低下により急性増悪した単純糖尿病網膜症症例の脈絡膜変化山﨑厚志河本由紀美魚谷竜稲田耕大佐々木慎一井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学CChoroidalThicknessChangeinaCaseofSimpleTypeDiabeticRetinopathyDeterioratedafterRapidBloodGlucoseControlAtsushiYamasaki,YukimiKawamoto,RyuUotani,KoudaiInata,ShinichiSasakiandYoshitsuguInoueCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityC急激な血糖値低下とともに単純糖尿病網膜症が増殖糖尿病網膜症に移行した症例における脈絡膜厚の変化を観察した.初診時に視力は右眼(0.08),左眼(1.5)で,右眼は増殖型,左眼は単純型の糖尿病網膜症であった.初診時にHbA1cはC12.8%であったが,1カ月でC9.5%に低下し,左眼脈絡膜厚がC211Cμmから244Cμmに増加した.そのC3カ月後,左眼は増殖型に移行し,網膜光凝固術後に脈絡膜厚は菲薄化した.急激に血糖値を降下させた場合,網膜症の悪化に先行して脈絡膜厚の増加をきたす可能性が示唆された.CChangesinchoroidalthicknesswereobservedinacaseofsimplediabeticretinopathythattransitedtoprolif-erativediabeticretinopathyafterrapidbloodglucosecontrol.AtC.rstvisit,visualacuitywas0.08righteyeand1.5lefteye.Therighteyewasproliferativetype,theleftwassimpletypediabeticretinopathy.AtC.rstvisit,HbA1cwas12.8%;however,ithaddecreasedto9.5%inonemonth,andchoroidalthicknessinthelefteyehadincreasedfrom211Cμmto244Cμm.Threemonthslater,thelefteyehadshiftedtoproliferativetype,andchoroidalthicknesshadthinnedafterretinalphotocoagulation.Itissuggestedthatwhenbloodglucoseisrapidlycontrolled,choroidalthicknessmayincreasebeforeretinopathydeterioration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):102.106,C2019〕Keywords:糖尿病網膜症,ヘモグロビンCA1c,急激な血糖コントロール,光干渉断層計,中心窩下脈絡膜厚.dia-beticretinopathy,HbA1c,rapidbloodglucosecontrol,opticcoherencetomography,subfovealchoroidalthickness.Cはじめに糖尿病患者における脈絡膜の変化については,病理学的には脈絡膜血管の動脈硬化性変化や基底膜肥厚,管腔の狭窄や閉塞などが古くから報告されており1,2),糖尿病脈絡膜症という概念として確立されているが,生体での詳細な変化は検討がむずかしかった.近年,光干渉断層計(opticcoherencetomography:OCT)の進歩により,生体での構造的変化が解析できるようになり,糖尿病患者における脈絡膜の厚さや構造および網膜症との関係についての研究が進められている.脈絡膜厚に関しては,糖尿病網膜症では重症度に伴い肥厚するという報告3,4)と,逆に菲薄化するという報告5)があるが,血糖の低下により網膜症が悪化したときの脈絡膜厚の変化については報告がない.今回,単純網膜症を有する糖尿病患者において,急激な血糖値低下とともに増殖糖尿病網膜症に移行した時期の中心窩下脈絡膜厚(subfovealCchoroidalthickness:以下SCT)の変化を観察できたので報告する.CI症例患者:25歳,女性.主訴:右視力低下.現病歴:右眼に飛蚊症を自覚し,改善しないため近医受診.右眼硝子体出血の診断にて当院に紹介となった.〔別刷請求先〕山﨑厚志:〒683-8504鳥取県米子市西町C36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:AtsushiYamasaki,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishimachi,Yonago,Tottori683-8504,JAPANC102(102)図1初診時の眼底写真およびフルオレセイン蛍光眼底撮影a:右眼眼底写真,Cb:左眼眼底写真,Cc:右眼フルオレセイン蛍光眼底撮影,Cd:左眼フルオレセイン蛍光眼底撮影.右眼はびまん性硝子体出血をきたしており,左眼はわずかに毛細血管瘤を認める程度の単純糖尿病網膜症であった.図2初診から4カ月後の左眼眼底写真とフルオレセイン蛍光眼底撮影a:左眼眼底写真.アーケード内網膜に線状出血を生じている.Cb:左眼鼻側,Cc:左眼後極部のフルオレセイン蛍光眼底撮影.広範な無灌流領域および乳頭周囲に新生血管を認めた.図3左眼眼底写真とOCTによる脈絡膜厚の変化a,b:初診時(HbA1c:12.8%)の眼底写真およびCOCT(SCT:211Cμm).Cc,d:初診C1カ月後(HbA1c:9.5%)の眼底写真およびCOCT(SCT:244Cμm).Ce,f:初診C4カ月後(HbA1c:7.8%)の眼底写真およびCOCT(SCT:224Cμm).Cg,h:初診C7カ月後(HbA1c:7.2%)の眼底写真およびCOCT(SCT:180Cμm).Ci,j:初診C8カ月後(HbA1c:8.0%)の眼底写真およびCOCT(SCT:174Cμm).Ck,l:初診C9カ月後(HbA1c:8.0%)の眼底写真およびCOCT(SCT:154Cμm).HbA1c左脈絡膜厚右脈絡膜厚12.8%眼内光凝固6月7月10月12月3月図4本症例のHbA1cと中心窩下脈絡膜厚(SCT)の変化HbA1cの降下時に左眼はCSCTが増加し,その後に糖尿病網膜症が悪化した.汎網膜光凝固術後にCSCTは菲薄化した.右眼は硝子体手術と眼内光凝固術後よりCSCTは菲薄化した.PPV:parsplanaCvitrectomy,経毛様体扁平部硝子体切除術.PRP:panretinalphotocoagulation,汎網膜光凝固術.既往歴:I型糖尿病の診断がついていたが,4年前より内科治療を自己中断していた.眼科受診歴はなし.初診時所見:視力は右眼C0.03(0.08C×.5.0D),左眼C0.15(1.5C×.5.0D).眼圧は右眼C15mmHg,左眼C17mmHg.中間透光体は正常で,眼底は右眼に増殖糖尿病網膜症によるびまん性硝子体出血をきたしており,左眼はわずかに毛細血管瘤を認める程度の単純糖尿病網膜症であった(図1).光学式眼軸長測定装置にて眼軸長は右眼C25.86mm,左眼C26.16mm.SCTは右眼は測定不能,左眼はC211Cμmだった.全身所見:I型ミトコンドリア糖尿病でCHbA1cはC12.8%.頸動脈エコーでは内頸動脈の狭窄は認めなかった.右眼は水晶体温存経毛様体扁平部硝子体切除術を行い,増殖膜処理および眼内レーザーで汎網膜光凝固を行い,術後視力は(1.0)と改善した.OCTで観察したところ,術後C1カ月目の右眼CSCTはC199Cμmで左眼より薄かった.術前後でHbA1cはC1カ月でC12.8%からC9.5%に低下した.左眼の網膜症は単純型のまま不変であったが,初診時にC211CμmだったSCTが244μmへ増加した.その後C3カ月間でCHbA1cはC7.8%とゆっくり低下し,SCTはC224Cμmに減少した.左眼アーケード内網膜に線状出血を生じ,フルオレセイン蛍光眼底撮影で無灌流領域および乳頭周囲新生血管を認めたため(図2),網膜光凝固術を施行した.左眼はそのC2カ月後には線維性増殖膜の形成および網膜前出血を生じ,SCTはC180μmとなった.そのC3カ月後には右眼視力は(1.0)と良好であったが,左眼は(0.6)まで低下した.SCTは右眼C129Cμm,左眼C154Cμmまで菲薄化した.以後C2年後の現在まで両眼ともに網膜症の悪化はなく,SCTの大きな変化は認めていない.経過中に黄斑浮腫の発症はみられなかった.左眼眼底写真とCOCTによる脈絡膜厚の変化およびCHbA1cの変化との関係について図3,4に示す.なお,治療経過において本症例の血圧,体重,血清アルブミン量については著明な変化は認めなかった.CII考察急激な血糖降下によって糖尿病網膜症の増悪が生じることは知られている6,7).その原因として,血液凝固能の亢進,線溶低下,赤血球の酸素解離能低下,血液量低下,低血糖による酸素欠乏7,8)などから,内皮細胞の障害や脱落を生じて出血や浮腫を生じることがいわれている.今回筆者らは,急激な血糖降下により生じた糖尿病網膜症の増悪に先行して,脈絡膜の肥厚を生じた症例を経験した.本症例は,片眼の硝子体手術前後でCHbA1c値がC1カ月間でC3%以上の急激な低下を生じ,反対眼の単純型の糖尿病網膜症が増殖型に急激に移行した.血糖値が急激に低下したC1カ月目にCSCTの増加を生じた.糖尿病患者の脈絡膜は糖尿病網膜症の重症度に伴い肥厚するという報告3,4)がある一方で,逆に菲薄化するという報告5)もある.病理組織的には,脈絡膜血管周囲のCPAS(periodicacid-Schi.)染色陽性の結節の形成や血管透過性亢進が間質の体積を増加させて脈絡膜を肥厚させ,脈絡膜毛細血管板における毛細血管の消失や中大血管壁の肥厚と内腔の閉塞が脈絡膜を菲薄化させる原因と考えられている9).ただし,脈絡膜循環には血糖,血圧,腎機能などの全身因子が密接に影響していることが考えられ,これらの全身因子の急激な変化を生じた場合,脈絡膜厚に影響を及ぼす可能性は否定できない.Joらは,強化療法で血糖降下を行った網膜症を有さないII型糖尿病患者において,2週間で脈絡膜厚が有意に増加したと報告しており,網脈絡膜血流の変化に言及している10).脈絡膜血管の血流増加の原因として網脈絡膜血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)濃度の関与を推察している文献はあるが4),血糖値の急激な変化によって網脈絡膜のCVEGF濃度が変化することを示したものはなく,脈絡膜血管の組織学的変化についても不明である.今回,脈絡膜厚増加の点ではまだ網膜症の変化はみられず,網膜症より脈絡膜の変化が先行したように思われた.血糖値の低下により網膜毛細血管閉塞が促進され網膜症の急性増悪を生じるその前段階として,脈絡膜の微小血管異常いわゆる糖尿病脈絡膜症を生じ,脈絡膜血管の透過性亢進とともに脈絡膜厚が増加したものと考えられ,脈絡膜厚が糖尿病網膜症の急性増悪の前兆あるいはパラメーターになりうる可能性が示唆された.軽度の網膜症では,非糖尿病眼に比較して脈絡膜厚が肥厚している報告がある1)ほか,境界型糖尿病の患者では脈絡膜厚の増加がみられ,早期網膜症の前兆となりうるという報告もある11).一般に網膜毛細血管はCblood-reti-nalbarrierがあり自己制御されているが,脈絡膜血管にはこの制御機能がないため12),網膜と脈絡膜は異なる経過を生じるのではないかと考えられている.血糖値の変化に対し,自己制御が利かない脈絡膜の変化が先に生じ,その後に網膜の変化が生じるのではないかと推察された.本症例の経過中,硝子体手術と術中汎網膜光凝固を施行した右眼および増殖型に移行し汎網膜光凝固を行った左眼はSCTが徐々に減少した.汎網膜光凝固術により脈絡膜血流は著明に減少することが知られており,術後に脈絡膜は菲薄し,萎縮傾向を示すことがいわれている4,13,14).汎網膜光凝固によるCVEGF濃度の減少が原因と思われた.正常眼の脈絡膜は,加齢により菲薄化することが知られている.本症例は若年例であり,通常の糖尿病網膜症症例よりSCTが厚いことが考えられるほか,加齢に伴う動脈硬化性変化も少ない可能性が考えられた.しかし,網膜症が重症化し,網膜光凝固や硝子体手術を施行すると,SCTはかなり菲薄化することが示唆された.屈折については,眼軸が長く屈折度が近視に傾くほどCSCTは薄くなる.本症例はC.5.0Dの近視があるが,両眼ともにぶどう腫や網脈絡膜萎縮などの所見はみられず,SCTに強く影響するほどの強度近視ではないように思われた.ただし眼軸長は右眼C25.86Cmm,左眼26.16Cmmで,この左右差が網膜症悪化の差に関与している可能性も考えられた.CIII結論今回,単純型網膜症において,急激な血糖値低下とともに増殖糖尿病網膜症に移行したときのCSCTの変化を観察できた.急激な血糖コントロールを施行する場合,網膜症の悪化に先行してCSCTの増加を生じる可能性が示唆された.単純糖尿病網膜症に対し,やむをえず急激な血糖コントロールを行う場合,OCTによる脈絡膜厚の変化を観察することで,網膜症の増悪に対しての治療の時期を予測できる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Yano.M:OcularCpathologyCofCdiabeticCmellitus.CAmJOphthalmolC67:21-38,C19692)HidayatCAA,CFineBS:DiabeticCchoroidopathy.CLightCandCelectronmicroscopicobservationsofsevencases.Ophthal-mologyC92:512-522,C19853)XuJ,XuL,DuKFetal:SubfovealchoroidalthicknessindiabetesCandCdiabeticCretinopathy.COphthalmologyC120:C2023-2029,C20134)KimJT,LeeDH,JoeSGetal:Changesinchoroidalthick-nessCinCrelationCtoCseverityCofCretinopathyCandCmacularCedemaCinCtypeC2diabeticCpatients.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:3378-3384,C20135)ShenCZJ,CYangCXF,CXuCJCetal:AssociationCofCchoroidalCthicknesswithearlystagesofdiabeticretinopathyintype2diabetes.IntJOphthalmolC10:613-618,C20176)福田雅俊:糖尿病網膜症の治療.日本糖尿病学会(編):糖尿病学の進歩第C7集,p171-178,診断と治療社,19737)森田千尋,荷見澄子,大森安恵ほか:急激な血糖コントロールの網膜症に及ぼす影響─内科の立場より─.DiabetsCJournalC20:7-12,C19928)BursellSE,ClermontAC,KinsleyBTetal:RetinalbloodC.owCchangesCinCpatientsCwithCinsulin-dependentCdiabeticCmellitusCandCnoCdiabeticCretinopathy.CInvestCOphthalmolCVisSciC37:886-887,C19969)村上智昭:糖尿病と脈絡膜.臨眼C70:1868-1873,C201610)JoCY,CIkunoCY,CIwamotoCRCetal:ChoroidalCthicknessCchangesafterdiabetestype2andbloodpressurecontroleinahospitalizedsituation.ReinaC34:1190-1198,C201711)YazganCS,CArpaciCD,CCelikCHUCetal:MacularCchoroidalCthicknessCmayCbeCtheCearliestCdeterminerCtoCdetectCtheConsetCofCdiabeticCretinopathyCinCpatientsCwithCprediabeticCretinopathyCinCpatientsCwithprediabetes:ACprospectiveCandCcomparativeCstudy.CCurrCEyeCResC42:1039-1047,C201712)Cio.GA,GranstamE,AlmA:Ocularcirculation.Adler’sPhysiologyoftheEye.10thed,(KaufmanPL,AlmA,eds)C,p747-784,Mosby,StLous,200313)OkamotoCM,CMatsuuraCT,COgataN:E.ectsCofCpanretinalCphotocoagulationConCchoroidalCthicknessCandCchoroidalCbloodC.owinpatientswithseverenonproliferativediabet-icretinopathy.RetinaC36:805-811,C201614)OharaCZ,CTabuchiCH,CNakamuraCSCetal:ChangesCinCcho-roidalCthicknessCinCpatientsCwithCdiabeticCretinopathy.CIntCOphthalmolC38:279-286,C2018***

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):97.101,2019c糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術佐藤孝樹河本良輔福本雅格小林崇俊喜田照代池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CVitreousSurgeryforDiabeticMacularEdemaTakakiSato,RyousukeKoumoto,MasanoriFukumoto,TakatoshiKobayashi,TeruyoKidaandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)における糖尿病黄斑浮腫(DME)の硝子体手術(PPV)成績について,術前のChyperre.ectivefoci(以下,foci)の有無で検討した.対象および方法:当科においてCDMEに対して初回PPVを施行しC3カ月以上経過観察可能であったC23例C28眼を後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7歳.術前の外境界膜(ELM)周囲にCfociのある群C15眼(+)群と,ない群C13眼(C.)群のC2群に分けて,術前,術C1カ月後,術C3カ月後における,視力,網膜厚を比較検討した.結果:全症例において,網膜厚,視力ともに術前に比べて,術C1カ月後,術C3カ月後で有意に改善した.術前において(-)群は(+)群より有意に視力良好であったが,術前と比較して術C3カ月後には両群とも有意に視力が改善していた.結論:Fociの有無に関係なく,DMEに対するCPPVでは術C3カ月後には視力および網膜厚は有意に改善した.Fociを認める場合でも,視力は不良であるが,PPVは視力改善に有効であることが示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcorrelationCbetweenCparsplanaCvitrectomy(PPV)outcomeCandCpreoperativeChyperre.ectivefoci(foci)inpatientswhounderwentPPVfordiabeticmacularedema(DME)C.Method:Weretro-spectivelyreviewed28eyesof23patients(11males,12females)whohadundergoneinitialPPVforDMEatOsa-kaCMedicalCCollegeCHospitalCduringCaCperiodCexceedingC3months.CAverageCageCwasC63.7years;15eyesChadCfociaroundexternallimitingmembrane(ELM)beforesurgery((+)group)C,and13didnot((-)group)C.Forthesetwogroups,CvisualCacuityCandCfovealCthicknessCwereCcomparedCbeforeCandCafterCsurgery.CResults:InCallCcases,CfovealCthicknessCandCvisualCacuityCimprovedCsigni.cantlyCinC1monthCandC3months,CcomparedCtoCbaseline.CThereCwasCaCsigni.cantCdi.erenceCinCbaselineCvisualCacuityCbetweenCtheC2groups.CVisualCacuityCwasCsigni.cantlyCimprovedCinCbothgroupsafter3monthspostoperatively,comparedtobaseline.Conclusions:Regardlessofpresence/absenceoffoci,CvisualCacuityCandCretinalCthicknessCwereCsigni.cantlyCimprovedCatC3monthsCpostoperativelyCforCDME.CWhenCfociexistaroundELM,althoughthevisualacuityispoor,itissuggestedthatPPVise.ectiveforrestoringvisualacuityinDMEpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):97.101,2019〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,hyperre.ectivefoci,硝子体手術.diabeticmacularedema,hyperre.ectivefoci,parsplanavitrectomy.Cはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射が行われることが主流となっているが,反応不能例などに対しては硝子体手術が適応となる.また,治療の効果判定として,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が使用されることが多い.現在,OCT所見としてChyperre.ectivefoci(以下,foci)と視力予後の関連が注目されている.fociは硬性白斑(hardexudate:HE)の前駆体としての可能性が考えられており1),DMEの硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)後,中心窩にCHEが集積する症例を時に経験する.今回,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)におけるCDMEに対するPPV成績と術前のCfociの関与について検討した.〔別刷請求先〕佐藤孝樹:〒569-8686高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakakiSato,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC図1Foci群代表症例全層にCfociを認め,外境界膜(ELM)周囲にCfociを認める(.).表1患者背景foci(+)群(C15眼)foci(C.)群(C13眼)年齢C64.1±7.7歳C63.2±7.8歳男女比8:77:6浮腫の形態びまん13眼5眼.胞状2眼8眼網膜.離あり1眼3眼白内障手術併用6眼9眼手術時CTA併用硝子体注射7眼STTA1眼硝子体注射3眼ERMあり3眼3眼CPVD不完全4眼5眼なし7眼5眼完全1眼0眼I対象および方法当科において,2014年C1月.2016年C12月に,DMEに対して,初回CPPVを施行し,3カ月以上経過観察が可能であった,23例C28眼について後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7C±7.6歳.3カ月以内に抗CVEGF薬(アフリベルセプト,ラニビズマブ)硝子体注射やトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)Tenon.下注射(subTenonTA:STTA),網膜光凝固など他の治療を施行されたものを除外した.PPVはシャンデリア照明併用4ポートC25CGシステムで施行.有水晶体眼(14例C15眼)には白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を併用した.術前の外境界膜(externalClimitingCmem-brane:ELM)周囲にCfociのある群C15眼〔foci(+)群〕(図1)と,ない群C13眼〔foci(C.)群〕のC2群に分けて,術前,術C1カ月,術C3カ月におけるClogMAR視力および網膜厚を比較検討した.p<0.05を有意な変化とした.CII結果全症例におけるClogMAR視力の平均値は,術前C0.744C±0.350,1カ月後C0.635C±0.339,3カ月後C0.572C±0.363で,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p<0.001)ともに有意に視力改善を認めた.網膜厚は術前C607C±220μm,1カ月後C441C±174μm,3カ月後C462C±159μmで,1カ月後(p=0.002),3カ月後(p=0.002)とも術前と比較して有意に減少していた.症例の詳細を表1に示す.foci(+)群は,黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)を認めたものがC3眼,後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)を認めたものがC1眼,PVD未.離がC7眼,PVD不完全なものがC4眼.白内障手術併用がC6眼,PPV時にCTA併用したものがC8眼(うち硝子体注射C7眼,Tenon.下注射C1眼)であった.一方,foci(C.)群は,ERMを認めたものが3眼,PVD未.離がC5眼,PVD不完全なものがC5眼.白内障手術併用がC9眼,PPV終了時にCTA併用したものがC3眼(いずれも硝子体注射)であった.術後にCHEが黄斑に集積した症例は認めなかった.foci(+)群とCfoci(C.)群の比較では,logMAR視力においてCfoci(+)群は術前C0.932C±0.340,1カ月後C0.777C±0.374,3カ月後C0.745C±0.401と,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p=0.018)で有意に視力改善がみられた.foci(C.)群は術前C0.527C±0.218,1カ月後C0.470C±0.203,3カ月後C0.372C±0.169で,術前と比較してC1カ月後(p=0.20)では有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.008)には有意に視力改善がみられた(図2).術前のC2群間の比較において,foci(C.)群はCfoci(+)群より有意(p<0.05)に視力良好であった(図3).網膜厚は,foci(+)群は術前C614C±259Cμm,1カ月後C405C±175Cμm,3カ月後C475C±173Cμmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.004)には有意に網膜厚の減少を認めたが,3カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかった.foci(C.)群は術前C599C±175μm,1カ月後C483C±170μm,3カ月後C453C±146μmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.04)には有意に網膜厚の減少を認めた(図4).2群間で術前の網膜厚に有意差(p>0.05)は認めなかった.また,術終了時にCTAを併用した症例は,foci(+)群で硝子体注射C7眼,STTA1眼,foci(C.)群で硝子体注射C3眼であった.視力は,TA(+)群は,術前C0.757C±0.324,1カ月後C0.626C±0.318,3カ月後C0.589C±0.341,TA(C.)群は,術前C0.768C±0.401,1カ月後C0.653C±0.399,3カ月後C0.603C±0.416と両群とも術前と比較して,1カ月後,3カ月後ともに有意に視力の改善を認めた.網膜厚は,TA(+)群は,C1.4*1.211.510.50-0.5-1術前1カ月後p値3カ月後p値foci(+)0.9310.777<0.0010.7450.018foci(-)0.5270.470.200.3730.008全体0.7440.635<0.0010.572<0.001900800700foci(-)-0.4-0.60foci(+)foci(-)0.8logMAR視力6000.65000.44000.23000200-0.2100(Studentt-test)図3術前2群比較2群間において術前視力に有意差を認めるが,網膜厚に有意差は認めなかった.C9001,000900800図4網膜厚図5TAの有無による網膜厚全症例において,網膜厚は術前に比べて,1カ月後,3カ月後とTA(+)群の術C1カ月後,TA(C.)群の術C3カ月後において,有意に減少を認め,foci(+)群の術C1カ月後,foci(C.)群の術C3術前より有意に網膜厚の減少を認めた.カ月後において術前より有意に網膜厚の減少を認めた.網膜厚(μm)800700網膜厚(μm)700600600500500400300術前foci(+)614foci(-)599全体6071カ月後p値4050.0044830.114410.024003カ月後p値3004750.11術前4530.04TA(+)7014620.02TA(-)5051カ月後p値4320.014390.223カ月後p値5050.124100.07術前C701C±275Cμm,1カ月後C432C±152Cμm,3カ月後C505C±187μm,TA(C.)群は,術前C505C±130μm,1カ月後439C±205Cμm,3カ月後C410C±138Cμmと,TA(+)群のC1カ月後,TA(C.)群のC3カ月後において,術前より有意に網膜厚の減少を認めた(図5).CIII考按Fociは,OCTで描出される粒子状の病変である.Fociは,漏出した脂質や,蛋白質,炎症性細胞などから形成される物質であり,HEの前駆体といわれている2,3).Bolzらは,無治療の糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DMR)12例のOCT画像において,すべての症例で網膜全層にわたってfociを認め,fociはCDMEにおける早期のバリアの破綻によりリポ蛋白あるいは蛋白質が血管外漏出して析出したものではないかとしている1).Davoudiらは,238例の検討で,HEのある全症例でCfociを認めたが,fociを認める症例のうち57%のみにCHEを認めたとし,fociは総コレステロール値およびCLDLコレステロール値と高い相関を認めたとしている4).また,Ujiらは,網膜.離を伴わないCDMEにおいて,fociの外層への集積は視力低下に影響する因子であるとしている5).現在,DME治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射である.抗CVEGF薬硝子体注射とCfociの関係について,Frammeらは,51例の検討で,すべてのCDME症例にCfociを認め,抗CVEGF薬治療で全症例においてCfociは減少し,治療前のfoci量はCHbA1c値と正の相関を示したとしている6).また,Kangらは,97眼の検討で,抗CVEGF薬治療後にCfociは減少を認め,多変量回帰分析において,.胞状およびびまん性浮腫群では治療前視力および外層のCfoci量と最終視力に,漿液性網膜.離群では内層および外層のCfoci量と最終視力に相関があったとしている.つまり,治療前の外層のCfoci量によって最終視力が推察できるのではないかとしている7).しかし,ERMや,PVD未.離など網膜硝子体界面の異常を認める場合は,抗CVEGF薬の効果が不十分となることがある.Ophirらは,PPVを必要としたCDMEについて後ろ向き研究を行い,PVDが不完全な症例がC44眼中C23眼(52.2%),そのうちC20眼(87.0%)にCERMを認めたとしている8).本検討において,PVDを完全に認め,網膜硝子体界面の異常を認めなかった症例はC1例のみで,ERMがC6眼〔foci(+)群C3眼,foci(C.)群C3眼〕,PVD未.離がC12眼〔foci(+)群C7眼,foci(C.)群C5眼〕,PVD不完全がC9眼〔foci(+)群4眼,foci(C.)群C5眼〕だった.また,Kaiserらは,網膜硝子体界面の異常を認めるCDMEについての検討で,9眼のうちC8眼で網膜下液を認め,牽引により網膜下液を生じやすいのではないかとしている9).本検討においては,28眼中C4眼〔foci(+)群C1眼,foci(C.)群C3眼〕のみで網膜下液を認め,網膜硝子体界面異常症例のなかでも牽引の強いものにのみ網膜下液を認めた.Nishijimaらは,DMEに対するCPPV症例について,外層のCfociの有無で比較検討を行ったところ,視力は術前に有意差がなく,3カ月後,6カ月後でCfoci(C.)群では有意に改善がみられるものの,foci(+)群では改善がみられなかったとしている.また,網膜厚は全期間においてC2群間に有意差がなかったとしている10).今回の筆者らの検討では,術前よりCfociの有無で視力に有意差を認めており,foci(+)群で有意に視力不良であった.経過については,foci(+)群ではC1カ月後,3カ月後に有意に視力の改善がみられ,網膜厚はC1カ月後には有意に改善しているものの,3カ月後には有意差はなくなり増悪傾向を認めた.foci(C.)群においては術前と比較して,1カ月後に視力および網膜厚に有意差を認めず,3カ月後には視力および網膜厚ともに有意に改善を認めた.foci(+)群のほうが手術が有効であるかのような結果となった理由としては,PPV終了時にCTA併用された症例がCfoci(+)群に多かったことがあげられる.そのため,foci(+)群のほうが速やかに術後浮腫および視力が改善したと考えられる.しかし,foci(+)群において,網膜厚はC3カ月後において有意差はなくなり増悪傾向を認めた.それは,術C3カ月経過しCTAの効果が減弱したため浮腫が悪化したことによると考えられる.Nishijimaらの報告においては,術終了時には全例CSTTAが施行され,3カ月以降にも追加薬物療法が行われている.今回,TA(+)症例で,3カ月後に浮腫の悪化傾向を認めるものの視力は維持されており,浮腫も早期改善することから,PPV時にCTA併用することは有用であると考えられた.6カ月後,1年後の長期経過について検討を行いたかったが,経過良好例ついては転院により情報が乏しく,今回は検討が不可能であった.以上をまとめると,今回の検討では,foci(+)群の術前視力が有意に悪い状態であったことから,PPVに踏み切るタイミングが少し遅かった可能性が考えられる.DMEに対する治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射であるが,fociの外層への沈着は視力予後不良の因子と考えられるため,抗VEGF薬の反応不良例は速やかにCPPVを検討してもよいのではないかと考えられた.また,fociの有無に関係なくPPVにより視力の改善がみられたことから,とくに網膜硝子体界面の異常を認める症例はCPPVのよい適応であると考えられ,術終了時のCTA投与は早期浮腫改善のために有用であると思われた.本要旨は,第C23回日本糖尿病眼学会で報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BolzCM,CSchmidt-ErfurthCU,CDeakCGCetal;DiabeticCReti-nopathyCResearchCGroupVienna:OpticalCcoherenceCtomo-graphicChyperre.ectivefoci:aCmorphologicCsignCofClipidCextravasationCinCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC116:914-920,C20092)DeBenedettoU,SacconiR,PierroLetal:Opticalcoher-enceCtomographicChyperre.ectiveCfociCinCearlyCstagesCofCdiabeticretinopathy.RetinaC35:449-453,C20153)CusickCM,CChewCEY,CChanCCCCetal:HistopathologyCandCregressionofretinalhardexudatesindiabeticretinopathyafterreductionofelevatedserumlipidlevels.Ophthalmol-ogyC110:2126-2133,C20034)DavoudiCS,CPapavasileiouCE,CRoohipoorCRCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCcharacteristicsCofCmacularCedemaCandhardexudatesandtheirassociationwithlipidserumlevelsintype2diabetes.RetinaC36:1622-1629,C20165)UjiA,MurakamiT,NishijimaKetal:Associationbetweenhyperre.ectiveCfociCinCtheCouterCretina,CstatusCofCphotore-ceptorlayer,andvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmolC153:710-717,C20126)FrammeCC,CSchweizerCP,CImeschCMCetal:BehaviorCofCSD-OCT-detectedChyperre.ectiveCfociCinCtheCretinaCofCanti-VEGF-treatedpatientswithdiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSciC53:5814-5818,C20127)KangCJW,CChungCH,CChanCKimH:CorrelationCofCopticalCcoherenceCtomographicChyperre.ectiveCfociCwithCvisualCoutcomesindi.erentpatternsofdiabeticmacularedema.RetinaC36:1630-1639,C20168)OphirA,MartinezMR:Epiretinalmembranesandincom-pleteCposteriorCvitreousCdetachmentCinCdiabeticCmacularCedema,CdetectedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:6414-6420,C20119)KaiserPK,RiemannCD,SearsJEetal:MaculartractiondetachmentCandCdiabeticCmacularCedemaCassociatedCwithCposteriorhyaloidaltraction.AmJOphthalmolC131:44-49,C200110)NishijimaCK,CMurakamiCT,CHirashimaCTCetal:Hyperre-.ectiveCfociCinCouterCretinaCpredictiveCofCphotoreceptorCdamageandpoorvisionaftervitrectomyfordiabeticmac-ularedema.RetinaC34:732-740,C2014***

糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の長期成績

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):92.96,2019c糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の長期成績三原理恵子*1村松大弐*2若林美宏*2三浦雅博*1塚原林太郎*1馬詰和比古*2八木浩倫*2阿川毅*1真島麻子*2志村雅彦*3後藤浩*2*1東京医科大学茨城医療センター眼科*2東京医科大学病院臨床医学系眼科学分野*3東京医科大学八王子医療センター眼科IntravitrealInjectionofA.iberceptforDiabeticMacularEdema:Long-termE.ectinJapanesePatientsRiekoMihara1),DaisukeMuramatsu2),YoshihiroWakabayashi2),MasahiroMiura1),RintaroTsukahara1),KazuhikoUmazume2),HiromichiYagi2),TsuyoshiAgawa1),AsakoMashima2),MasahikoShimura3)andHiroshiGoto2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityIbarakiMedicalCenter,2)DepartmentofOpthalmology,TokyoMedicalUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するアフリベルセプト硝子体注射(IVA)の効果を検討する.対象および方法:DMEにCIVAを施行し,18カ月以上観察が可能であったC14眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回CIVA後C6,12,18カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療の有無と種類について検討した.結果:平均観察期間はC24.8カ月であった.治療前視力の平均ClogMAR値はC0.51で,治療C6カ月でC0.26,12,18カ月後には,それぞれC0.27,0.25で全期間で有意な改善を示した(p<0.05).治療前の網膜厚はC526Cμmで,治療C6,12,18カ月後にはC367,336,363μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.05).6カ月までのCIVA回数は,平均C2.9回であり,12,18カ月後には,3.5回,4.1回であった.経過中に光凝固をC5眼に,ステロイド局所投与をC8眼に併用した.また,ラニビズマブ硝子体注射へ切り替えた症例がC2眼あった.結論:DMEに対してCIVAを第一選択として治療を行った場合,適切な追加治療を施行することで,IVAの注射回数を少なくしながら,大規模研究と遜色ない長期の視機能予後を得られる可能性がある.CPurpose:Toanalyzethelong-terme.cacyofintravitrealinjectionofa.ibercept(IVA)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME)C.Casesandmethods:Thiswasaretrospectivecaseseriesstudyinvolving14eyesof12patientswithDMEwhoreceivedIVA(0.5mg)C.Caseswerefollowedfor18monthsorlonger.BestC-cor-rectedCvisualacuity(BCVA;logMAR)andCcentralCretinalthickness(CRT)wereCtheCmainCoutcomes.CResults:CThemeanfollow-upperiodwas24.8months.BaselineBCVAandCRTwere0.51and526Cμm,respectively.At6months,CtheCmeanCBCVAChadCsigni.cantlyCimprovedCtoC0.26,CandCtheCmeanCCRTChadCsigni.cantlyCdecreasedCtoC367Cμm,CcomparedCwithCtheCbaselinevalues(p<0.05)C.At12monthsCandC18months,CBCVAChadCsigni.cantlyCimprovedto0.27(p<0.05)and0.25(p<0.05)C,respectively;CRThaddecreasedto336Cμm(p<0.05)and363Cμm(p<0.05)C,respectively.TheaveragenumberofIVAwas4.1times.Amongallcases,5eyeswerealsotreatedwithphotocoagulation;8eyeswerealsotreatedwithlocalsteroids.Twoeyeswereswitchedtoranibizumabtreatment.Conclusion:IVACcombinedCwithCappropriateCadditionalCtreatmentsCareCexpectedCtoCbeCe.ectiveCasCaC.rst-choiceCtreatmentforDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):92.96,2019〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,アフリベルセプト,抗CVEGF,光凝固,トリアムシノロンアセニド.diabeticmacu-laredema,a.ibercept,anti-VEGF,photocoagulation,triamcinoloneacetonide.C〔別刷請求先〕三原理恵子:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央C3-20-1東京医科大学茨城医療センター眼科Reprintrequests:RiekoMihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityIbarakiMedicalCenter,3-20-1AmimachichuouInashikigunIbaraki300-0395,JAPANC92(92)はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,過去に格子状光凝固,ステロイド局所投与,硝子体手術などが施行されてきたものの,満足できる成績は得られなかった.近年CDMEの病態に血管内皮増殖因子(vascu-larCendothelialCgrowthfactor:VEGF)が関与していることが判明し,またCVEGF阻害薬が保険適用を受けて以来,抗VEGF療法がCDME治療の主体となりつつある1.7).VEGF阻害薬の一つであり,膜融合蛋白であるアフリベルセプトのCDMEに対する治療効果は,大規模研究であるDaVincistudyやCVIVID/VISTAstudyにより格子状光凝固に対する視機能予後の優位性が証明されている4.7).しかし,これらの大規模研究では,視力や浮腫に厳格な組み入れ基準があり,また,ほぼ毎月アフリベルセプトのみが投与されるなど,実臨床とはかけ離れた診療結果であるため,臨床にそのまま適用されることは少ない.わが国ではC2014年C11月よりアフリベルセプトがCDME治療に保険適用を受け,広く使用されるようになってきた.本研究は抗CVEGF療法をアフリベルセプトの硝子体注射で開始したCDME症例のうち,18カ月以上の観察が可能であった症例の治療成績を検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2014年C12月.2015年C11月に,東京医科大学病た,蛍光眼底造影で無灌流域や毛細血管瘤を認めた症例には光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を併用した.全C14眼のうちC7眼については治療開始からC1カ月ごとにC2.3回の注射を行うCIVA導入療法を施行し,その後はCPRN投与を行った.残りのC7眼はC1回注射の後にCPRN投与を行った.検討項目は,IVA前,およびCIVA後C6,12,18カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力と光干渉断層計C3D-OCT2000(トプコン)もしくはCCirrusHD-OCT(CarlCZeissMeditech)を用いて計測したCCRTとし,さらに再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録をもとに後ろ向きに調査した.CII結果全C14眼の平均観察期間はC24.8C±2.7カ月(20.29カ月)であった.全症例における治療前の平均CCRTはC526.6C±143.7μmであったのに対し,IVA後C6カ月の時点ではC367.7C±105.1Cμmと有意に減少していた.さらにC12カ月の時点でC336.8±147.9Cμm,18カ月ではC363.9C±133.3Cμm,最終来院時ではC372.5C±142.1Cμmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.05,pairedt-検定)(図1).全症例における治療前の視力のClogMAR値の平均はC0.51C±0.32であった.視力はCIVA後C6カ月でC0.26C±0.25と有意に改善した.その後C12,18カ月ではC0.27C±0.21,0.25C±0.25,最終来院の時点でもC0.26C±0.25と,それぞれ治療前と比較院ならびに東京医科大学茨城医療センター眼科において,抗VEGF療法を行ったことのないCDMEに対し,アフリベルセプトC2Cmg/0.05Cmlの硝子体注射(intravitrealCinjectionCofa.ibercept:IVA)で治療を開始し,18カ月以上の観察が可能であったC12例C14眼(男性C7例,女性C5例)である.治療時の年齢分布はC34.78歳,平均(C±標準偏差)はC57.3C±10.8歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による浮腫のタイプは網膜膨化型がC12眼(86%),.胞様浮腫がC6眼(43%),漿液性網膜.離がC5眼(36%)であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.症例の内訳は,まったくの無治療がC8眼,抗VEGF療法以外の治療がすでに行われていたのは6眼であり,網膜光凝固がC6眼,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-TenonCinjectionCofCtriamcinoronacetonide:STTA)がC1眼であった(同一症例の重複治療例あり).抗VEGF療法開始後は毎月視力測定,OCT検査を行い,必要に応じた治療(prorenata:PRN)を行った.再投与基準は,浮腫残存,2段階以上の視力低下,もしくはC20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合とし,原則としてCIVAを行った.浮腫の悪化があってもCIVAに同意されなかった場合や,IVA後の浮腫改善が不十分な場合はCSTTAを施行した.ま-して有意な改善を示していた(p<0.05,CpairedCt検定)(図2).大規模研究の解析方法に合わせ,治療前後でClogMAR(0.2)以上視力が変化した場合を改善あるいは悪化と定義すると,治療前と比較してCIVA後C6カ月の時点で改善例はC7眼(50%),不変例はC7眼(50%),悪化例はC0眼(0%),12カ月の時点で改善例はC8眼(57%),不変例はC6眼(43%),悪化例はC0眼(0%),18カ月の時点で改善例はC7眼(50%),不変例はC7眼(50%),悪化例はC0眼(0%)であり,経時的に視力改善例が増加していた(図3).治療前の小数視力がC0.5以上を示した症例はC3眼(21%)存在したが,IVA後C6カ月では10眼(71%),12カ月で10眼(71%),18カ月後で11眼(78%)と,視力良好例の占める割合も増加していた(各々Cp<0.05,Cc2検定)(表1).経過観察期間中にC13眼は追加治療を要した.初回の注射施行後,最初に黄斑浮腫が再発するまでの期間は平均C4.4C±2.9カ月で,中央値はC4カ月であった.また,再注射後もC12眼(86%)がC2回目の再発をきたした.2回目の再発までの期間は平均C4.5C±2.8カ月で,中央値はC3カ月であった.1眼のみ,IVA注射後に軽度の浮腫がいったん再発するも自然軽快し,視力も安定していたため再治療を要さなかった.初回治療後C6カ月までの平均CIVA投与回数はC2.9C±1.3回,6000.25505000.3CRT(μm)logMAR4500.44000.53503000.6250治療前6カ月12カ月18カ月最終時図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚(CRT)を示す.注射C6カ月で網膜厚は大きく減少し,その後も全期間で治療前と比較して減少している.*p<0.05.%60504030201006カ月後12カ月後18カ月後■改善■不変■悪化図32段階以上の視力変化12カ月までではC3.5C±1.8回,18カ月までではC4.1C±2.3回であった.また,全経過観察期間中に,黄斑浮腫の改善目的や網膜無灌流領域に対し光凝固を併用した症例はC5眼(35%)で,局所光凝固C2眼,毛細血管瘤の直接光凝固C4眼,格子状光凝固C2眼となっている.黄斑浮腫の改善目的にCSTTAを併用した症例はC7眼(20%),トリアムシノロン硝子体注射(intravitrealCinjectionCofCtriamcinoloneacetonide:IVTA)をC1眼(7%)に併用,ラニビズマブC0.5Cmg/0.05Cml硝子体注射(intravitrealCinjectionCofranibizumab:IVR)に切り替えた症例がC2眼(14%)存在し,IVA単独のみで治療を続けた例はC5眼(35%)であった.追加治療を行ったC13眼を,光凝固やCSTTAを併用した群(併用療法群:n=9)と,IVA単独で治療した群(単独群:n=4)に分類し,IVAの回数や視力改善度についてサブグループ解析を行った.併用療法群では追加治療として,当初の6カ月目まではCSTTAあるいはCIVTAを使用していなかっ6カ月12カ月18カ月図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のClogMAR値を示す.注射C6カ月で視力は上昇し,その後も全期間で治療前と比較して有意に改善した.*p<0.05表1治療前後の各時点における小数視力0.5以上が占める割合治療前21%6カ月後71%*12カ月後71%*18カ月後78%**p<0.05たが,7.12カ月ではC50%の症例で,さらにはC13.18カ月ではC36%での症例で併用療法が行われていた.初回治療後6カ月での平均CIVA回数は併用療法群ではC3.2C±1.0回であった.12カ月まででC3.7C±1.5回,18カ月までではC3.7C±1.9回であった.一方,単独群では初回治療後C6カ月での平均IVA回数はC2.2C±1.9回,12カ月においてはC3.3C±2.6回,18カ月ではC6.0回C±2.5回(p=0.08)と経時的に投与回数が増加し,最終観察時までのCIVA回数は単独群ではC7.0回C±2.3回であり,併用療法群のC3.9C±2.1回と比較して有意な差を認めた(p<0.05,Cunpairedt-検定).なお,視力の改善度に関しては,18カ月,最終観察時において両群間に差は認めなかった.CIII考按DMEに対するアフリベルセプト療法の第CIII相無作為試験は,日本,欧州,オーストラリアで行われたCVIVID試験と,米国で行われたCVISTA試験のC2年間の経過が報告されている6).VIVID/VISTACstudyはアフリベルセプトC2Cmgの用量で,投与レジメンとして毎月投与する群と,5回連続注射の後にC2カ月ごと固定投与群,レーザー光凝固単独群の3群に割り付け,アフリベルセプト治療のレーザー光凝固に対する有意性を証明したのであるが,アフリベルセプト毎月投与群での改善文字数は,2年間でCVIVID試験でC22.4回注(94)射してC11.4文字,VISTA試験ではC21.3回注射してC13.5文字であった.一方,アフリベルセプトC2カ月ごとの投与群ではCVIVID試験ではC13.6回注射してC9.4文字,VISTA試験ではC13.5回注射してC11.1文字の視力改善であった.今回の対象となったC14眼のうち,50%にあたるC7眼では導入期治療として,IVAをC2.3回毎月連続投与を行い,その後は毎月観察を行って悪化(再発)時にCIVA再投与を行うPRNで治療を行い,残りのC7眼ではC1回の注射の後にCPRNとしていた.その結果,全症例ではC6カ月間で平均C2.9回,12カ月間に平均C3.5回,18カ月までに平均C4.1回,最終来院時までにC4.5回の注射を行っていた.全症例における検討では,アフリベルセプト治療の開始直後から網膜浮腫は減少し,全経過観察期間中において治療前よりも有意な浮腫の減少が得られており,視力に関しても治療前と比較して全期間で有意な向上が得られていた.視力のデータをCETDRSの文字数に換算すると,18カ月でC13.2文字,最終来院時においてC12.6文字の改善が得られた結果となり,大規模研究よりも少ない注射回数で同等以上の改善が得られていた.本研究において,大規模研究と比較して圧倒的に少ない注射回数にもかかわらず,大規模研究以上の視力改善効果を得られた理由は,追加治療としてCIVAのみならず適宜CSTTAやCIVTA,光凝固を使用して追加,維持療法を行っていたことがあげられる.糖尿病網膜症やDMEの病態進展にはVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている8.12).また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をCSTTAによって抑制可能とする報告もあるので13),本研究におけるステロイドの併用がCVEGF以外の浮腫を惹起する因子を抑制した可能性もある.本研究の対象となった全症例を,IVA単独で治療した群と,途中からステロイドなどの併用療法を行った群に分類しサブグループ解析を行った結果,両群間で視力の改善度には統計学的な差は認めなかったものの,注射回数に関しては,IVA単独群はC18カ月で平均C6.0回,最終時までに平均C7.0回のCIVAが必要であったが,併用群においてはC18カ月で平均C3.7回,最終時までに平均C3.9回であり,併用群で有意にIVA回数が少なかった.また,本研究においては,導入期や治療開始早期,半年からC1年目程度まではおもにCIVAで追加治療が行われ,後期になるとCIVA追加を希望されずにステロイドでの代替治療を行った例が多かったが,このレジメンが少ない注射回数での良好な成績につながった可能性もある.すなわち,糖尿病網膜症の病期によって浮腫の原因となる因子が変化していた可能性があり,早期に抗CVEGF治療を行い,慢性期に入る時期には抗炎症治療に切り替えたことが良好な成績に関与していたと考えられる.さらに良好な成績につながった第二の理由として,本研究で積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用したため,網膜症そのものへの進行抑制が影響をきたしていた可能性があげられる.わが国では一般的に毛細血管瘤に対する直接光凝固や,targetedCretinalphotocoagulation(TRP)とも称される14)部分的な無灌流域に対する選択的光凝固が行われるが,米国における光凝固は後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であるため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.また,近年では眼底に凝固斑が出現しない,より低侵襲な光凝固による良好な治療成績も報告されており15),今後はこのような新しい低侵襲光凝固をアフリベルセプトと併用することにより,黄斑浮腫への治療効果もよりいっそう向上していくかもしれない.今回の実臨床によるCDME患者に対するアフリベルセプトを第一選択とした治療は,経過中にステロイドの局所投与や局所光凝固を適宜追加することで,中.長期的にも有効な結果を得られたといえる.しかしながら,症例数は十分とは言い難く,糖尿病以外の全身的な要因の考察もされていないため,当院での治療法が無条件で肯定されたというわけではない.今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であるものの,DMEの治療については,抗CVEGF療法のみならず他の治療法を適宜組み合わせることで,個別化治療による視機能予後の最適化をめざすべきと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマズ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科C33:111-114,C20162)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,C20133)石田琴弓,加藤亜紀,太田聡ほか:難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績.あたらしい眼科34:264-267,C20174)真島麻子,村松大弐,若林美宏ほか:糖尿病黄班浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射のC6カ月治療成績.眼臨紀10:755-759,C20175)DoCDV,CSchmidt-ErfurthCU,CGonzalezCVHCetal:TheCDACVINCIStudy:phaseC2primaryCresultsCofCVEGFCTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmol-ogyC118:1819-1826,C20116)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC121:2247-2254,C20147)BrownDM,Schmidt-ErfurthU,DoDVetal:Intravitreala.iberceptfordiabeticmacularedema:100-weekresultsfromtheCVISTACandCVIVIDCStudies.OphthalmologyC122:C2044-2052,C2015C8)WakabayashiCY,CUsuiCY,COkunukiCYCetal:IncreasesCofCvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsCinCpatientsCwithCconcurrentChypertensionCandCdia-beticretinopathy.RetinaC31:1951-1957,C20119)WakabayashiCY,CKimuraCK,CMuramatsuCDCetal:AxialClengthCasCaCfactorCassociatedCwithCvisualCoutcomeCafterCvitrectomyfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSciC54:6834-6840,C201310)MuramatsuCD,CWakabayashiCY,CUsuiCYCetal:CorrelationCofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesCinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:15-17,C201311)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:AqueoushumorlevelsCofCcytokinesCareCrelatedCtoCvitreousClevelsCandCpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmolC243:3-8,C200512)AdamisCAP,CMillerCJW,CBernalCMTCetal:IncreasedCvas-cularCendothelialCgrowthCfactorClevelsCinCtheCvitreousCofCeyesCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-thalmolC118:445-450,C199413)ShimuraCM,CYasudaCK,CShionoT:PosteriorCsub-Tenon’sCcapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalCphotocoagulation-inducedCvisualCdysfunctionCinCpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.OphthalmologyC113:381-387,C200614)TakamuraY,TomomatsuT,MatumuraTetal:Thee.ectofCphotocoagulationCinCischemicCareasCtoCpreventCrecur-renceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevaci-zumabinjection.InvestOphthalmolVisSciC55:4741-4746,C201415)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌C116:568-574,C2012C***

眼科医・内科医における糖尿病眼手帳に対する 意識調査結果の年次推移の比較から見えてきたもの

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):87.91,2019c眼科医・内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査結果の年次推移の比較から見えてきたもの大野敦粟根尚子赤岡寛晃梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科ComparisonofAnnualTrendofSurveyonConsciousnessRegardingDiabeticEyeNotebookforOphthalmologistsandInternistsAtsushiOhno,NaokoAwane,HiroakiAkaoka,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的・方法:東京都多摩地域の眼科医と内科医における『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)に対する意識調査の年次推移を報告してきたが,両者の共通項目を比較し,眼手帳に対する意識の差が生まれてきた背景を考察した.結果:眼科医では,眼手帳を渡すことと内科医が渡すことへの抵抗は減少し,より早期に渡すようになり,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.一方内科医では,眼手帳の認知度・活用度が有意に低下し,眼手帳が渡されるべき範囲が狭まっていた.その背景として,2009年までは内科医は『糖尿病健康手帳』を用いており,眼科所見欄がなかったことより眼手帳の有用性は高かった.一方2010年に糖尿病連携手帳が登場し眼底検査の記載欄が設けられたことで,糖尿病網膜症が出現するまでは眼手帳は使わなくてもよいと考える内科医が増え,その結果眼手帳の認知度・活用度の低下につながった可能性がある.結論:眼科医への調査結果より,今後は糖尿病連携手帳との併用により,糖尿病患者の内科・眼科連携のさらなる推進が期待される.一方内科医への調査結果より,眼手帳の普及ならびに有効活用にはさらなる啓発活動が必要である.Purpose・Methods:WehavereportedonannualtrendsinsurveyofattitudestowardtheDiabeticEyeNote-book(EyeNotebook)forophthalmologistsandinternistsintheTamaarea,andhavecomparedtheitemscommontoboth,examiningthebackgroundofdi.erencesinconsciousnessregardingtheEyeNotebook.Results:Ophthal-mologistshavebeguntofeelthespreadoftheEyeNotebookastheresistancetohandovertotheEyeNotebookandtothephysicianhandeddownhasdecreasedandgaveitearlier.Meanwhile,amonginterniststhedegreeofrecognitionandutilizationoftheEyeNotebookdecreasedsigni.cantly,andthefrequencywithwhichtheEyeNotebookwasbeingpassedalongwasdiminishing.Asbackgroundforthis,in2009internistsusedthediabeteshealthnotebook,andtheusefulnessoftheEyeNotebookwashigherthanthatoftheophthalmologic.ndingcol-umn.Ontheotherhand,asthediabetescooperationnotebookappearedin2010andthedescriptioncolumnoffun-dusexaminationwasestablished,anincreasingnumberofinternistsfeltitunnecessarytousetheEyeNotebookuntildiabeticretinopathyappeared;thismayhaveledtoadeclineinawarenessandutilization.Conclusion:Basedontheophthalmologistresults,furthercooperationbetweenophthalmologistsandinternistsofdiabeticpatientsisexpectedthroughuseofthediabetescooperationnotebook.Theinternistresults,ontheotherhand,indicatefurtherneedforeducationalactivitiesthatencouragedisseminationande.ectiveutilizationoftheEyeNotebook.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(1):87.91,2019〕Keywords:眼科・内科連携,糖尿病眼手帳,糖尿病連携手帳,アンケート調査.cooperationbetweenophthal-mologistandinternist,DiabeticEyeNotebook,diabetescooperationnotebook,questionnairesurvey.〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANはじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つとなるのが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,1997年に設立した糖尿病治療多摩懇話会において,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し,地域での普及を図った1).また,この活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから16年が経過し,利用状況についての報告が散見され4.7),2005年には第2版,2014年には第3版に改訂された.眼手帳発行後,内科と眼科の連携がより緊密となり,眼科の通院中断率が現実に減少しているか否かの把握が今後の課題となるが,その前提として,発行された眼手帳に対する眼科医および内科医における意識の変化を調査することが重要と考え,多摩地域で経年的にアンケート調査を施行し,その年次推移を報告してきた8.10).本稿では両者の調査結果を比較することで見えてきた多摩地域の眼科医および内科医における眼手帳の実態と課題を検討した.I対象および方法多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医として,発行半年目96名(男性56名,女性24名,不明16名),2年目71名(男性43名,女性28名),7年目68名(男性38名,女性22名,不明8名),10年目54名(男性41名,女性13名),13年目50人(男性37人,女性8人,不明5人)に,内科医として,発行7年目122名(男性97名,女性9名,不明16名),10年目117名(男性101名,女性16名),13年目114名(男性74名,女性13名,不明27名)に協力をいただいた.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行ってきた.アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうがよいと判断し,実施してきた.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.アンケート項目は,眼科医用10項目,内科医用8項目で構成されているが,誌面の制約上,本稿では両アンケートの共通項目のうち,下記の5項目を取り上げた.1.眼手帳の利用状況,認知度・活用度2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感3.眼手帳が渡されるべき範囲4.眼手帳は眼科医が渡すべきか5.眼手帳の広まり上記の5項目に対するアンケート調査結果の推移について比較検討した.各回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳の利用状況,認知度・活用度(図1)眼科医における眼手帳の利用状況は,「積極的配布」と「時々配布」を合わせて,7,10年目は60%,13年目は70%を超えていたが,有意差は認めなかった.一方,内科医における眼手帳の認知度・活用度は,7年目に比べて10,13年目は有意に減少していた.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図2)眼科医における抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて,2,7年目は80%,10,13年目は90%を超え,5群間で有意差を認めた.内科医における眼科医が渡すことへの抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて各群90%を超え,3群間で有意差は認めなかった.3.眼手帳が渡されるべき範囲(図3)眼科医における眼手帳を渡したい範囲は,経年的に「全ての糖尿病患者」の比率が増加し,「網膜症が出現してきた患者」の比率は減少し,5群間に有意差を認めた.一方,内科医からみた眼手帳が渡されるべき範囲は,7,10年目に比べて13年目は,「全ての糖尿病患者」の比率が減少し,「網膜症が出現してきた患者」の比率は有意に増加していた.4.眼手帳は眼科医が渡すべきか(図4)眼科医では,眼手帳は眼科医が渡すべきとの回答が10,13年目に減り,内科医が渡してもよいとの回答が有意に増加していた.内科医では,眼手帳は眼科医から渡すべきとの回答が10年目に減り,内科医が渡してもかまわないとの回答が増加傾向を示した.5.眼手帳の広まり(図5)眼科医では,半年目.7年目までと比べて10年目,13年c2検定:p=0.41(未回答除く)c2検定:p<0.005(未回答除く)c2検定:p=0.1(未回答除く)■必要とは思うが配布していない■必要性を感じず配布していない眼手帳を今回はじめて知った■その他の配布状況2年目■積極的に配布している■時々配布している7年目10年目1名13年目■全くない■ほとんどない■多少ある■かなりある半年目2年目7年目10年目13年目2名c2検定:p<0.05(未回答除く)■活用中■未活用■研究会等で見聞きしたことはある知らなかったその他2年目7年目2名10年目13年目図1眼手帳の利用状況,認知度・活用度c2検定:p<0.05(未回答除く)■正直あまり渡したくない■その他■全ての糖尿病患者■網膜症が出現してきた患者半年目2年目7年目10年目7名13年目半年目2年目7年目10年目13年目c2検定:p=0.08(未回答除く)図2眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感c2検定:p<0.01(未回答除く)■全糖尿病患者■糖尿病網膜症の出現してきた患者半年目2年目7年目10年目13年目9名c2検定:p<0.05(未回答除く)■眼科医が渡すべき■内科医でもよい■どちらでもよい半年目2年目7年目10年目5名13年目図4眼手帳は眼科医が渡すべきか図3眼手帳が渡されるべき範囲c2検定:p=0.0001(未回答除く)■かなり広まっている■あまり広まっていないどちらともいえない半年目2年目7年目10年目7名13年目c2検定:p=0.66(未回答除く)■かなり広まっているあまり広まっていないどちらともいえない半年目2年目7年目10年目13年目8名図5眼手帳の広まり目は眼手帳がかなり広まっているとの回答が40%前後に有意に増加していた.一方,内科医で眼手帳がかなり広まっているとの回答は各群とも10%台にとどまり,あまり広まっていないと思うが過半数を超えていた.III考按多摩地域の眼科医における眼手帳に対する意識調査を発行半年.13年目に5回施行してその結果を比較したところ,眼手帳発行後13年の間に眼手帳を渡すことならびに内科医が渡すことへの抵抗は減少し,より早期に渡すようになり,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.一方,多摩地域の内科医における眼手帳に対する意識調査を発行7,10,13年目に施行しその結果を比較したところ,眼手帳の認知度・活用度が有意に低下し,内科医からみた眼手帳が渡されるべき範囲が狭まっていた.上記のように多摩地域の眼科医と内科医の間で,発行後13年の間に眼手帳に対する意識の差が生じている.そこでその背景について,考察してみた.内科医における眼手帳の認知度・活用度の低下,眼手帳が渡されるべき範囲が狭まった背景として,発行7年目の2009年は内科側からの情報提供手段としては「糖尿病健康手帳」を用いており,眼科所見を書くスペースがなかったことより,眼手帳の有用性は高かったと思われる.その後2010年に「糖尿病連携手帳(以下,連携手帳)」の初版が登場し,狭いながらも眼底検査の記載欄が設けられたことで,少なくとも糖尿病網膜症が出現するまでは連携手帳の眼底検査欄を利用し,眼手帳は使わなくてもよいのではないかと考える内科医が増え,その結果眼手帳の認知度・活用度の低下につながった可能性が考えられる.以上のことを踏まえると,連携手帳と眼手帳を両科の連携にいかに利用していくかが今後の課題であるが,連携手帳における眼科記入欄は,第2版までは「検査結果」の右上隅に2頁おきに記載する形式であったが,第3版では14,15頁に「眼科・歯科」の頁が新設され,時系列で4回分記入できるように改訂されている.すなわち,眼科受診の記録を時系列でみることのできる眼手帳の優位性が,連携手帳の改訂により崩されたことになる.そこで八王子市内の27眼科診療所に,連携手帳第3版への改訂後の眼手帳の位置付けに関するアンケート調査を施行した(回答率:81.5%).その結果,連携手帳第3版の持参患者に対する眼手帳の利用方針は,眼手帳の時系列での記載方式が連携手帳にも採用されたので網膜症が出現してから渡したいとの回答よりも,眼科の記入項目が少ないのですべての糖尿病患者に眼手帳を渡したいとの回答がほぼ2倍でもっとも多かった11).以上の結果より,眼手帳20頁からの情報提供による教育効果への期待を含めて,今後も両手帳の併用を積極的に勧めていきたい.まとめ眼科医の眼手帳に対する意識調査の年次推移の結果より,今後は連携手帳との併用により,糖尿病患者の内科・眼科連携のさらなる推進が期待される.一方,内科医の眼手帳に対する意識調査の年次推移の結果より,眼手帳の普及ならびに有効活用にはさらなる啓発活動が必要である.謝辞:アンケート調査に長年にわたりご協力いただきました多摩地域の眼科医ならびに内科医の方々に厚くお礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携―「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀5:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:患者説明からみる糖尿病スタッフのための最新眼科知識糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第2報).ProgMed34:1657-1663,20149)大野敦,粟根尚子,永田卓美ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行半年.13年目の推移─.糖尿病合併症29(Suppl-1):132,201510)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行7・10・13年目の比較─.プラクティス34:551-556,201711)大野敦:糖尿病患者の内科・眼科連携の進め方─糖尿病眼手帳・連携手帳の位置付け─.糖尿病合併症31:56-59,2017***

基礎研究コラム 20.血管形成のメカニズム

2019年1月31日 木曜日

図1CD157陽性血管内皮幹細胞による血管修復a:正常血管.太い動脈および静脈の一部にCCD157陽性血管内皮幹細胞(緑色)が存在する.Cb:血管障害時には,血管内皮幹細胞から新生血管が生じる.Cc:血管内皮幹細胞から生じた新生血管が,障害された血管を修復する.Cd:動静脈の間に存在する毛細血管が著しい虚血に至り脱落すると,毛細血管の正常な修復機転が働かず,血管内皮幹細胞が病的血管新生にも関与する可能性がある(現在検証中の仮説).血管形成のメカニズム眼科分野に多い血管病糖尿病網膜症や加齢黄斑変性,網膜静脈閉塞症など,眼科分野には血管の異常が関係する疾患(血管病)が数多くあります.血管病の病態形成に中心的な役割を果たす血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とした抗CVEGF療法の普及により,失明を回避できる症例が増えたことは眼科医療の大きな進歩といえます.しかし一方で,血管閉塞(虚血)を抑止して血管を維持したり,すでに虚血に至った領域の血管を再生させる方法は現時点でなく,このような新たな治療法の開発をめざすためには,血管がどのように形成されるのか,そのメカニズムを解明することが重要であると考えられます.血管形成の仕組み全身に張りめぐらされている血管は,血液を全身に運搬するとともに,さまざまな生理活性物質を産生して生命の維持に必須の役割を果たしています.血管は内腔を覆う血管内皮細胞と,その周囲を取り囲む壁細胞から構成されています.たとえば,皮膚の創傷治癒時や臓器の修復の際に生体内で血管が必要となった場合には,血管内皮細胞の増殖を刺激する血管新生促進因子が産生され,血管の修復(血管形成)が誘導されます.血管形成の過程は,既存血管を構成する血管内皮細胞が局所で分裂・増殖することより担われているという説(発芽的血管新生:angiogenesis)1)と,血液中に存在する血管内皮前駆細胞(endothelialCprogenitorcell:EPC)が血管内皮細胞に分化して血管の再構築に貢献する(脈管形成:vasculogenesis)という説2)の二つのコンセプトがこれまで提唱されてきました.しかし近年,EPCによる血管への貢献性は一過性であり,長期にわたって血管を構築しうる血管の幹細胞が存在するかは不明でした.a正常血管b血管内皮幹細胞の増殖(血管障害時)血管障害毛細血管血管内皮幹細胞幹細胞から生じた(CD157陽性)新生血管動脈静脈動脈静脈(75)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY若林卓大阪大学大学院医学系研究科眼科学血管幹細胞の発見筆者らは,血管の再生・維持において中心的な役割を果たす幹細胞が血管壁に存在している可能性があるという仮説を立て,血管幹細胞を探索する研究に取り組んできました.血管内皮細胞の網羅的遺伝子発現解析により,マウスにおいてCD157(bst1;bonemarrowstromalantigen1)を発現する特殊な血管内皮細胞が存在することがわかりました.CD157陽性の血管内皮細胞は,全身の太い血管の内腔に存在し,試験管内で大量に血管内皮細胞を作り出すことができます.また,生体内でも血管が障害された際には多数の毛細血管を作り出して血管を修復させる働きをもつ幹細胞であることが判明しました(図1)3).この血管内皮幹細胞をマウスの血管障害部位に移植すると,長期間にわたって血管を再生させられることもわかりました.今後の展望血管幹細胞の発見により血管形成の新たなメカニズムが解明されました.今後はヒトにおける血管幹細胞の同定や,ヒトの眼疾患と血管幹細胞との関連を解明することで,血管病の新たな病態解明や治療法開発を行うことが課題であると考えられます.文献1)RisauW:Mechanismsofangiogenesis.NatureC386:671-684,C19972)AsaharaCT,CMuroharaCT,CSullivanCACetal:IsolationCofCputativeprogenitorendothelialcellsforangiogenesis.Sci-enceC275:964-967,C19973)WakabayashiCT,CNaitoCH,CSuehiroCJICetal:CD157CmarksCtissue-residentCendothelialCstemCcellsCwithChomeostaticCandCregenerativeCproperties.CCellCStemCCellC22:384-397,C2018d病的新生血管虚血(毛細血管脱落)病的新生血管動脈静脈あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C75

硝子体手術のワンポイントアドバイス 188.バックルのmigration(初級編)

2019年1月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載188188バックルのmigration(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●バックルのmigrationとは輪状締結を赤道部より前方に施行した場合,術後にバックルが押し出される際に前方に向かうベクトルが生じる.これが慢性的に作用すると,直筋を浸食して筋付着部の前方にバックルが移動してくることがあり(図1a),これをバックルのCmigrationとよぶ.過去にもいくつかの報告があり1,2),筆者らも同様の報告したことがある3).いったん切断された直筋の付着部は,再び強膜に癒着する(図1b).一般に眼球運動障害が生じることが多いとされているが,筆者の経験ではその程度は予想外に軽度である(図1c).輪状締結は一般的に赤道部に設置することが多いが,硝子体手術+強膜バックリング手術の併用例,あるいは周辺部に裂孔を有するアトピー性網膜.離などでは,周辺部に輪状締結を行うことがあり,バックルのCmigrationが生じやすい.比較的容積の大きなバックルを使用したとき,シリコーンタイヤやシリコーンロッドなど硬い素材を使用したとき,1象限にマットレス縫合を一糸しか置かなかったときなどに生じやすい.細隙灯顕微鏡で観察すると,手術時に縫合したマットレス縫合の一端が断裂している所見がしばしば認められる.C●バックルのmigrationに対する処置強膜バックルの隆起が角膜輪部近くに生じるので,患者は異物感を訴えることが多い.また,バックルの隆起による涙液層の破綻も,異物感に関与しているものと考えられる.自覚症状が軽度な場合にはそのまま経過をみることもあるが,異物感を訴えたり眼球運動障害がみられる場合にはバックルを抜去する.結膜を食い破ってバックルが露出した場合には,感染のリスクが高くなるので抜去する(図1d).バックルのCmigrationをきたす症例では,バックルの内陥効果はすでに失われているので,バックルを抜去したことによる網膜再.離のリスクは低いと考えられる.(73)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYc図1シリコーンバンドのmigrationa:#240シリコーンバンドが外直筋を浸食して角膜輪部近くにまで移動している.Cb:術中所見として,いったん断裂した外直筋は生理的な付着部に再癒着していた.Cc:術前の眼球運動障害は予想外に軽度であったが,バックル除去後はさらに改善した.Cd:術後,結膜所見は改善し,流涙や異物感は消退した.(一部,文献C3より引用)文献1)MaguireAM,ZarbinMA,EliottD:Migrationofsolidsili-coneencirclingelementthroughfourrectusmuscles.Oph-thalmicSurgC24:604-607,19932)LopezCMA,CMateoCC,CCorcosteguiCICetal:TransmuscularCmigrationCandCstraddlingCofCtheCcorneaCbyCanCencirclingCbuckle.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC38:402-403,C20073)NishidaCY,CFukumotoCM,CKidaCTCetal:TransmuscularCmigrationCofCaCscleralCtunnel-securedCencirclingCsiliconeCband.CCaseCRepOphthalmolC7:138-141,C2016あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C73

眼瞼・結膜:外眼角炎

2019年1月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人小幡博人46.外眼角炎埼玉医科大学総合医療センター眼科外眼角炎は外眼角の皮膚に生じる炎症で,疼痛や違和感を主症状とし,皮膚の発赤,びらんなどを伴う.比較的高齢者に多く,起炎菌は表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,モラクセラ菌などである.●外眼角炎とは眼瞼炎のなかで,内眼角や外眼角に生じる皮膚の炎症を眼角炎(angularblepharitis)という.外眼角炎は外眼角の皮膚に生じる炎症で,疼痛や違和感を主症状とし,皮膚の発赤,びらんなどを伴う(図1).ときに結膜充血も伴う.いわゆる目尻の炎症で,外来でよくみる疾患であるが,文献検索をすると,驚くほど資料が少ない1,2).片側にできることも両側にできることもある.●起炎菌起炎菌は表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,モラクセラ属が多いとされている2,3)(図2,3).複数の細菌が同時に検出されることもある.ヘルペスによる外眼角炎の報告もある4).モラクセラは双桿菌と書いてあったり,双球菌と書いてあったり,混乱させる菌である.筆者の理解では,一般的にいうモラクセラはグラム陰性桿菌であるが,Moraxellacatarrhalisはグラム陰性の双球菌である.Moraxellacatarrhalisは,従来Branhamellacatarrhalisとよばれていた菌が,遺伝子解析の結果,モラクセラ属に分類されることになった.Moraxellacatarrhalisは呼吸器感染症の起炎菌として重要なので,モラクセラは双球菌と書かれていることが多いようである.モラクセラ属はMoraxellaとBranhamellaの2亜属に分類するという考えがある.●発症要因外眼角に皮膚炎が発症する要因は不明であるが,上眼瞼の皮膚弛緩が外眼角部の皮膚に接触することや,流涙症で目尻がwetな状態になることは一因と考えられる(図4).図1モラクセラによる外眼角炎70歳,女性.外眼角部の皮膚に広範囲のびらんと発赤がみられる.培養検査でMoraxellacatarrhalisが検出された.図2モラクセラの塗抹標本モラクセラによる角膜潰瘍の塗抹標本.グラム陰性の双桿菌が観察される.ただし,Moraxellacatarrhalisは従来Branhamellacatarrhalisとよばれ,グラム陰性の双球菌である.(ルミネはたの眼科秦野寛先生のご厚意による)(71)あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019710910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3黄色ブドウ球菌による外眼角炎a:65歳,男性.外眼角部の皮膚の発赤とびらんがみられる.結膜充血もみられる.培養検査でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出された.b:本例とは別の外眼角炎症例で,培養検査で黄色ブドウ球菌が分離された外眼角炎から得られた塗抹標本.グラム陽性のぶどう球菌が観察される(ルミネはたの眼科秦野寛先生のご厚意による).図4眼瞼皮膚弛緩と外眼角炎a:75歳,女性.右眼の上眼瞼皮膚弛緩があり,皮膚が睫毛の上に乗っている.b:弛緩した皮膚を持ち上げると,外眼角部の皮膚に発赤とびらんを認めた.培養検査でKlebsiellapneumoniaeとCitrobacterfreundiiが検出された.本例の外眼角炎は両側にみられ,上眼瞼皮膚弛緩と流涙症が一因と考えられた.2)秦野寛:モラクセラ外眼角炎.あたらしい眼科21:●治療63-64,2004レボフロキサシン眼軟膏を処方する.治りが悪い場合3)OstlerHB:Diseasesoftheeyelidandlidmargin.In:Dis-easesoftheExternalEyeandAdnexa:Atextandatlasは,ステロイド眼軟膏(プレドニン眼軟膏)を追加し,(edbyOstlerHB.Williams&Wilkins,Baltimore,p11-66,感染を元にしたアレルギー反応を消炎することもある.19934)JakobiecFA,SrinivasanBD,GamboaET:Recurrenther-peticangularblepharitisinanadult.AmJOphthalmol文献88:744-747,19791)JacksonWB:Blepharitis:currentstrategiesfordiagnosisandmanagement.CanJOphthalmol43:170-179,200872あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019(72)

抗VEGF治療:網膜静脈閉塞症と抗VEGF療法

2019年1月31日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二60.網膜静脈閉塞症と抗VEGF療法坪井孝太郎愛知医科大学眼科学教室網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫は抗CVEGF薬が治療の第一選択となる.網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)では多くの症例は初回単回投与後,必要時投与(1+PRN投与)で十分な視力改善,黄斑形態の改善が得られる.一方,網膜中心静脈閉塞症(CRVO)でも有意な平均視力の改善,黄斑形態の改善は得られるものの,視力低下に至る症例も少なくないことや,虚血型への移行を注意する必要がある.以下,BRVOとCCRVOの抗CVEGF薬治療について概説する.網膜静脈分枝閉塞症網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,網膜の動静脈交差部での静脈閉塞が原因で発症する網膜循環疾患である(図1).急性期には,閉塞部より上流側の静脈領域において出血,浮腫や網膜下液などの滲出性変化,そして網膜虚血を生じる.慢性期には,網膜虚血に続発する新生血管や遷延する黄斑浮腫が臨床上問題となってくる.抗血管内皮増殖因子(vascu-larCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の登場以降,BRVO治療における第一選択薬は抗CVEGF薬となった.抗CVEGF薬の治療効果に関しては,BRAVO試験(ラニビズマブ)とCVIBRANT試験(アフリベルセプト)にてその有効性が確認されている.両試験ともC5カ月までは毎月投与をC6回行った後,6カ月以降(観察期間)では必要時投与(proCrenata:PRN)(6+PRN)を行った.その結果,両試験ともC15文字以上の良好な平均視力の改善を得られた.大規模臨床試験では,導入期に毎月C6回の抗CVEGF薬投与を行い,BRAVO試験において年8.4回の注射回数と報告されている.この導入期の注射回数について,BRVOに対する抗CVEGF薬治療の導入期を,1+PRNとC3+PRNのC2群に分けた検討が報告されている1).その結果,12カ月目の視力変化量および中心窩網膜厚変化量に有意な差は認められなかった.初期の治療方針については議論の残るところではあるが,1+PRN治療においても十分な治療効果が得られ,実臨床においては現実的な投与方法であると思われる.治療開始時期に関しては,6カ月の経過観察の後に治療開始したシャム群と早期治療開始のラニビズマブ投与群で,2年目時点の視力改善に差を認めないことが報告されている.一方で,早期開始群と抗CVEGF薬治療を6カ月目から開始した群で,2年時点でも視力改善に有意差を認めたとする報告もある.多くのCBRVO症例は(69)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1BRVO治療経過の一例64歳,男性,初診時眼底写真にて下方の動静脈交差部(→)の末梢側に網膜出血を認めている.抗CVEGF薬治療を計C3回行い,視力は初診時(0.3)から(1.2)まで改善を認めた.一定期間の経過観察を経ても長期的には視力改善が得られると思われるが,治療開始が遅れることが,長期の視力改善に悪影響を与える症例も存在する可能性があり,症例を見きわめることが今後の課題である.既報にて網膜下出血を認めるCBRVO症例では,黄斑浮腫改善後もCellipsoidzoneや外境界膜欠損などの網膜外層障害を認めることが報告されており2),また抗CVEGF薬投与の有無で網膜下出血の吸収速度が促進されることも示されている.このことから網膜下出血を認める症例においては,早期からの抗CVEGF薬治療を行うことで,網膜外層障害を防ぐ必要があると思われる.通院間隔に関しては,OCTangiographyを用いて血流の状態を経過観察した結果,血流が減少した症例では黄斑浮腫の再発回数が多かったと報告されている3).BRVOの観察期間は,安定期においても浮腫が再発,増悪する前に診察し,加療することが重要であると思われる.あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C69図2虚血型CRVOの一例55歳,男性.眼底写真では斑状の出血を眼底全体に認めている.OCTにて網膜内層の高反射を認めており,網膜内層が浮腫を引き起こしていることが示唆される.造影検査では早期相(30秒)では静脈が描出されず,後期相(10分)では眼底全体の無灌流領域を認めており,高度の虚血型CCRVOであることがわかる.本症例では発症後C2カ月で虹彩新生血管の出現を認めた.網膜中心静脈閉塞症網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は,視神経内で網膜静脈が閉塞し,網膜血管拡張,視神経乳頭のうっ血や充血,網膜全周の出血を認める疾患であり,強い黄斑浮腫や虚血性変化により視力低下をきたす.また,10乳頭径以上の無灌流領域を認める虚血型CCRVO(図2)では虹彩新生血管の発症リスクが高い.CRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の効果は,CRUISE試験(ラニビズマブ),COPERNICUS試験(アフリベルセプト)にて良好な視力改善が報告されている.CRUISE試験ではCBRAVO試験と同様に,6+PRN投与により,12カ月時点でC13.9文字の改善が得られている.また,COPERNICUS試験でも同様にC6+PRN投与にて,12カ月時点でC16.2文字の改善が得られている.診察間隔に関しては,CRUISE試験に引き続き行われたCHORIZON試験にて,試験開始C2年目に診察間隔をC3カ月に延長すると,約C5文字近い視力低下を認め,3カ月ごとの診察では間隔が空きすぎていると結論づけられている.また,治療プロトコールに関しては,初診後C7回まで毎月投与を行ったあとに,そのまま毎月投与した群とCPRN投与した群とでは,両群間に視力改善で差を認めなかったことが報告されている.前述の通りCCRVOでは約C2~3割の虚血型が存在し,また非虚血型のC3割がC3年以内に虚血型へ移行する(図3)とされている.虚血型CCRVOにおける虹彩新生血管C70あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019図3非虚血型から虚血型に移行したCRVOの一例81歳,女性.初診時の造影検査で無灌流領域を認めず,非虚血型のCCRVOと診断した.黄斑浮腫に対して抗CVEGF薬治療を行い,1カ月後には視力改善を認めた.その後黄斑浮腫は改善していたが,OCTangiographyにて毛細血管脱落の増悪を認め,造影検査にて虚血型CCRVOへの移行が認められた.は新生血管緑内障に至るリスクがある.抗CVEGF薬による虹彩新生血管発生抑制効果に関しては,発生率は自然経過と変わらず,有効性は示されなかった.また,自然経過ではC9カ月までに大半の症例で発生するのに対して,抗CVEGF薬投与群では平均C24カ月と発症時期が遅れるため,注意深い長期経過観察が必要となる.まとめ抗VEGF薬治療は網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)に伴う黄斑浮腫に対する有効な治療法である.BRVOにおいては良好な視力改善が得られているが,一部症例では長期にわたる治療期間や治療回数が必要となる場合もあり,今後の治療最適化が課題であると思われる.CRVOにおいては抗CVEGF薬により黄斑浮腫の抑制は得られるものの,最終的に視力低下に至る症例も多く,また重篤な合併症である新生血管緑内障の抑制効果は乏しいのが現実である.RVOは網膜静脈の閉塞に起因する疾患であり,これまで閉塞の解除を目的とした治療の試みがなされてきたが,芳しい成果は得られてこなかった.抗CVEGF薬治療は閉塞に伴う黄斑浮腫に対して有効な治療方法であるが,今後のさらなる病態解明に基づく治療法の開発が望まれる.文献1)MiwaCY,CMuraokaCY,COsakaCRCetal:RanibizumabCforCmacularCedemaCafterCbranchCretinalCveinocclusion:OneCinitialCinjectionCversusCthreeCmonthlyCinjections.CRetinaC37:702-709,C20172)MuraokaCY,CTsujikawaCA,CTakahashiCACetal:FovealCDamageCDueCtoCSubfovealCHemorrhageCAssociatedCwithCBranchRetinalVeinOcclusion.PLoSONEC10:e0144894-16,C20153)WinegarnerCA,CWakabayashiCT,CFukushimaCYCetal:CChangesCinCretinalCmicrovasculatureCandCvisualCacuityCafterCantivascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCinCretinalCveinCocclusion.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:C2708-2709,C2018(70)

緑内障:悪性緑内障の治療とロングチューブシャント手術

2019年1月31日 木曜日

●連載223監修=岩田和雄山本哲也223.悪性緑内障の治療とロングチューブ千原悦夫医療法人千照会千原眼科シャント手術悪性緑内障では房水のCmisdirectionによって前部硝子体が虹彩根部を押し上げ,これによる閉塞隅角と高眼圧がさらなるCmisdirectionを誘発するという悪循環を起こす.治療としては硝子体手術と前房再建が重要であるが,隅角閉塞が周辺虹彩前癒着やCSoemmering輪のために開放できない場合は,経扁平部型のロングチューブシャント手術がよい適応になる.●悪性緑内障の病態悪性緑内障はCaqueousCmisdirectionsyndrome,cili-aryCblockglaucomaともいわれ,高齢の女性に多い.Chandlerによると,一般的には浅前房の眼に濾過手術をしたあとにC0.6~4%の割合で起こるが1),まれには手術既往なく起こることもある.悪性緑内障では房水がなんらかの原因で硝子体腔方向に流れ,前部硝子体ゲル(あるいは虹彩後面に形成された腫瘤)が前方に押しやられ,虹彩根部を前方移動させて隅角閉塞を起こし,眼圧が上昇してさらに硝子体の前方移動を悪化させるという悪循環に陥る.このタイプの緑内障はトラベクレクトミー,虹彩切除,前房内へのチューブ挿入といった方法を行っても前房と後房の間の交通路が確保できず,眼圧のコントロ―ルが困難で,しばしば失明に至る恐ろしい病態である.教科書的な治療法としてアトロピンによる散瞳,水晶体摘出,YAGレーザーによる前部硝子体膜の破壊,硝子体腔の液化した硝子体吸引,硝子体切除,毛様体破壊術などが報告されているが,必ずしも成功するわけではない.図1濾過手術既往のない眼に起こったタイプ2の悪性緑内障虹彩とCIOLは迷入した房水の圧力に押されて角膜後面に押し付けられ,虹彩後面と前部硝子体膜の間にまったく空間がないことがわかる(眼圧C53mmHg).(67)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY悪性緑内障を診断するためには,浅前房眼で瞳孔ブロックや,プラトー虹彩によるものではないことを示す必要があるが,その検査として前眼部光干渉断層計検査と超音波生体顕微鏡検査はきわめて大切であり,浅前房を確認するとともに,虹彩の後ろに水晶体や前部硝子体膜がべったりとくっついて,まったく空間がない状態を確認することが必要である(図1,2).C●悪性緑内障のタイプと治療悪性緑内障の治療としては経毛様体扁平部硝子体切除(parsplanaCvitrectomy:PPV)が必須であり,発症からの時間が短く,隅角における癒着が進行していない眼では,PPVと分散型の粘弾性物質による前房と隅角の再形成(あるいは隅角癒着解離術)だけで眼圧のコントロールが得られることもある(図3).筆者の経験によると悪性緑内障には大きく分けて二通りあり,一つは濾過手術のあとなどに房水が後房から硝子体腔に迷入(mis-direction)し,硝子体圧の上昇に伴って前部硝子体膜が虹彩後面に押し付けられるタイプである.もう一つは虹彩の後面に腫瘤が形成され,その成長に伴って虹彩が角膜後面に押し付けられ,そこから悪循環が始まって悪性緑内障になるタイプである.虹彩後面にできる腫瘤のなかでもっとも頻度が高いのがCSoemmering輪2)であり,そのほかにも腫瘍,出血塊,炎症産物などがありうる.図2タイプ1の悪性緑内障の症例偽水晶体と前部硝子体が虹彩後面にべったりと接触し,後房が形成されていない.あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C67図3図1の症例に硝子体手術を行い,分散型粘弾性物質によって前房形成を行って2日目の前眼部OCT像前房は深く形成され,隅角は開大され,眼圧はC13CmmHgに下がった.虹彩後面に対称性の球形像がみられ,これが悪性緑内障発症のきっかけとなったCSoemmering輪である.図5超音波生体顕微鏡検査で虹彩の後ろに楕円形の腫瘤を確認できるタイプ2の悪性緑内障レーザー虹彩切開による虹彩穿通があり経毛様体扁平部硝子体切除(PPV)もすんでいる眼で,なおかつ浅前房が進行する眼である.Soemmering輪が認められ隅角開放がむずかしい.タイプC1で陳旧化している場合は周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)が形成されて,単に隅角を開大しても眼圧は下がらないことがあり(図2,4),タイプC2でも腫瘤が大きい場合,あるいは白内障手術から時間がたってCSoemmering輪が線維化して固くなっている場合は除去がむずかしく,硝子体手術を行っても隅角が開かず,眼圧のコントロールができないことがある.この場合の一つの解決法は硝子体手術と硝子体腔内へのチューブの挿入である(図5).虹彩後面のCSoemmering輪がまだ線維化していない柔らかいタイプである場合は,YAGレーザーによる前.開放3,4)や前房側から二手法による灌流と吸引5,6)でこの腫瘤を吸引して除くことにより,前房隅角の開大が得られることもある.図5はレーザー虹彩切開による虹彩穿通がありCPPVもすんでいるが,なお浅前房が進行する眼である.超音波生体顕微鏡で検査すると,虹彩の後ろに楕円形の腫瘤があることが確認された.これは白内障術後に起こったCSoemmering輪であり,このような眼では虹彩切除や濾過手術が効かない悪性緑内障になるC68あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019図4図2の症例のPPV+バルベルト緑内障インプラント挿入術後の前眼部OCT所見と眼底a:眼圧は術前のC35~37CmmHgから術後4~7CmmHgに降下した.前眼部COCTで高度のCPASの残存が確認されるが図C2より前房が深くなり改善している.Cb:Optosで撮影したもの.上方に硝子体腔内のチューブが見える.リスクが高い.悪性緑内障はチューブシャント手術が導入される以前には失明のリスクが高かった.現在このような眼においても,硝子体腔にチューブを挿入することによって助かるようになったことは大きな進歩と考えられる.文献1)ChandlerPA,SimmonsRJ:Malignantglaucoma:MedicalandCsurgicalCtreatment.CAmCJCOphthalmologyC66:495-502,C19682)KungCY,CParkCSC,CLiebmannCJMCetal:ProgressiveCsyn-echialCangleCclosureCfromCanCenlargingCSoemmeringCring.CArchOphthalmolC129:1631-1632,C20113)SuwanCY,CPurevdorjCB,CTeekhasaeneeC:PseudophakicCangle-closureCfromCSoemmering.CBMCCOphthalmologyC16:91,C20164)松山加耶子,南野桂三,安藤彰ほか:Soemmeringによる続発閉塞隅角緑内障の一例.あたらしい眼科C27:1603-1606,C20105)BhattacharjeeH,BhattacharjeeK,BhattacharjeePetal:CLique.edaftercataractanditssurgicaltreatment.IndianJOphthalmolC62:580-584,C20146)石澤聡子,黒岩真友子,澤田明ほか:眼圧上昇をきたしたCSoemmering輪を伴う液性後発白内障の一例.眼科臨床紀要8:657-660,C2015(68)