学習のつまずきの背景に潜む「見え方」の問題VisualPerceptionProblemsinChildrenwithLearningDi.culties海津亜希子*はじめに2022年に文部科学省が行った「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」1)では,学級担任などが回答した内容から「知的発達に遅れはないものの学習面または行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒が,小中学校で8.8%存在するということが明らかになった.なかでも,学習面で著しい困難を示す児童生徒は6.5%に及んだ.とくに,「読む」または「書く」に著しい困難を示す児童生徒は3.5%,「計算する」または「推論する」に著しい困難を示す児童生徒は3.4%であった.一方で,これら8.8%の児童生徒が受けている支援の状況について調べた結果では,支援のあり方を校内で検討する校内委員会という場において「現在,特別な教育的支援が必要と判断されているか」について「必要と判断されている」と回答したのは28.7%にとどまっていた.これは,学級担任などが「学習面または行動面で著しい困難を示す」とした児童生徒の1/3しか校内全体として特別な教育的支援が必要と認識されていない,つまり学校としての支援がなされていないともとれる衝撃の結果であった.そこで本稿では,まず,学習面に一次的な困難さを呈す「学習障害(learningdisabilities:LD)」とはどのような状態なのかを,医学的および教育的定義から整理する.その後,学校教育のなかでみられる学習面のつまずきの背景要因の一つとして「見え方」が推測される事象について具体的にみていく.子どもへの適切な支援は,正確な実態把握なくしてはありえない.その意味でも,子どもの困難さをさまざまな立場から多角的に把握し,子どもが真に必要とする支援に結びつける糸口とすることが本稿の目的である.I学習障害の医学的定義と教育的定義1.医学的定義の限局性学習症/限局性学習障害限局性学習症とは,米国精神医学会(AmericanPsy-chiatricAssociation:APA)による「精神疾患の分類と診断の手引」(第5版)(DiagnosticandStatisticalMan-ualofMentalDisorders,5thedition:DSM-5)2,3)における学習障害の医学的診断名である.学習や学業的技能が暦年齢に期待されるより著明にかつ定量的に低く,学業や職業遂行能力,日常生活活動に支障をきたしている状態のことをさす.読字の正確さや速度,流暢性,読解力に関する「読字障害」,綴字の正確さや文法と句読点の正確さ,書字表出の明確さまたは構成力に関する「書字表出障害」,数の感覚や数学的事実の記憶,計算の正確さ,流暢性,数学的推理の正確さに関する「算数障害」の少なくとも一つが6カ月間以上持続している状態が診断基準である.学業的領域における技能を学習する際の重症度を,軽度,中度,重度で特定することとしている.ただし,全般的な知的能力の問題や,非矯正視力または聴力,他の精神または神経疾患,心理社会的逆境,学*AkikoKaizu:明治学院大学心理学部〔別刷請求先〕海津亜希子:〒108-8636東京都港区白金台1-2-37明治学院大学心理学部(1)(11)6530910-1810/25/\100/頁/JCOPY業的指導に用いる言語の習熟度不足,不適切な教育的指導などでは説明できないものとする.限局性学習症の診断において,この除外規定はとくに注意が必要である.つまり,除外規定にあげられたことのすべてにおいて問題がないにもかかわらず,学習面で困難を示す場合に初めて限局性学習症という診断がなされることになる.いい換えれば,正しい判断をするためには,まずは除外規定に関して問題がないかについての精査が重要となる.2.教育的定義の学習障害1999年7月に文部省(当時)が「学習障害児に対する指導について(報告)」4)において「学習障害(LD)とは,基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態をさすものである.学習障害は,その原因として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接の原因となるものではない」と定義している.なお,教育用語である学習障害は「聞く」こと,「話す」ことの困難さも含め,より広義に学習困難の状態を捉えているのに対し,先の限局性学習症/限局性学習障害では「読字」「書字」「算数」に限定している.各学校では,学校に設けられた校内委員会を通じて児童生徒の実態把握を行い,専門家チームに判断を求めるかどうかを検討する.そののち,都道府県または政令指定都市の教育委員会に設けられた専門家チームが学習障害か否かを判断し,教育的支援の内容について専門的意見を示すことになっている.II見え方に関連するつまずき学校場面において,子どもたちのどのような状況・様子から,見え方に困難があるかもしれないという気づきにつながるであろうか.ここでは,「読み」「書き」について教科ごとに具体的にみていく.1.「読み」のつまずき授業では,子どもに教科書などを読ませる場面が多くみられる.図15)は学校場面での子どもの「読み」のつまずきを把握するためのチェックリストの一部である.とくに,「形態的に似た漢字と読み間違える」「文字の順序を読み間違えたり,混同したりして読む」「勝手読みがある」「文中の単語や行を読み飛ばしたり,繰り返したりすることがある」などのつまずきについては,その背景要因の一つとして「見え方」に関する問題があると考えられる.2.「書き」のつまずき書く行為は子どもの学習活動のアウトプットの側面もあるため,つまずきが顕著になりやすい.図25)に学校場面での子どもの「書き」のつまずきを把握するためのチェックリストを示した.とくに「ひらがなの書き間違いがある」「カタカナの書き間違いがある」「漢字の書き間違いがある」(図3),「字の形や大きさがうまくとれなかったり,まっすぐ書けなかったりなど,読みにくい字を書く」「文字を写すのがむずかしい」「文字の順序を書き間違えたり,混同したりして書く」「文字を抜かしたり,余分な文字を加えたりする」「句読点やカッコなどの符号を正しく使うことができない」といったケースでは,その背景に「見え方」の問題が影響していることが推測される.3.算数におけるつまずき算数についてのつまずきも「見え方」が背景要因として考えられるものが多く存在する.たとえば,「数と計算」(図4)5)については,「3と8,6と9など,形状が似ている数字の扱いに混乱がみられる」「規則正しく並べると数えることはできても,ばらばらにすると数えることができない」「2位数またはそれ以上の数の筆算の手続きに誤りがみられる」(図5)などがあげられる.「図形」(図6)5)については,「形を構成したり,分解したりすることができない」「図形を模写することができない」などに代表されるように,多くのつまずきがみられる.「測定/変化と関係」(図7)5)については,「もの654あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025(12)チェック〈Ⅲ.読む〉8.一つ一つの文字を読むのに困難がみられるチェックa.平仮名の読み間違いがあるb.片仮名の読み間違いがあるc.拗音を読み間違えるd.習った漢字が読めない→付表「学年別漢字配当表」参照e.漢字の読み間違いがある例:形態的に似た漢字と読み間違える・・・貝→「みる」、石→「みぎ」意味的に関連のある漢字と読み間違える・・・町→「むら」、入る→「でる」単漢字を勝手に熟語化して読み間違える・・・人→「にんげん」、牛→「ぎゅうにゅう」勝手に送りがなを付けて読み間違える・・・白→「しろい」、青空→「あおいそら」9.単語を読むのに困難がみられるチェックa.文字の順序を読み間違えたり(例:とおまわり→とおわまり)、混同したり(例:にぐるま→にじまる)して読むb.文字を抜かしたり(例:しかい→しか)、余分な文字を加えたり(例:せんせい→せんせいい)して読むc.促音(例:がっこう→がこう)や拗音(例:せんしゅう→せんしょう)などの特殊音節を含んだ単語を読み間違えるd.初めて出てきた単語や、普段あまり使わない単語を読み間違えるe.漢字で表されている単語より、仮名で表されている単語の方が理解しにくい10.文章を音読する際に困難がみられるチェックa.助詞の「は」を読む際にも変換せずにそのまま「ハ」、「へ」をそのまま「ヘ」など読み間違える(例:私は(ワタシワ)→(ワタシハ))b.単語や文節に正しく区切って読むことができないc.勝手読みがある(例:「いきました」→「いました」)d.文中の単語や行をとばしたり、繰り返したりすることがある11.文章の内容を理解するのに困難がみられるチェック習得学年a.文章の内容の大体を読み取ることができない1b.文章のなかの場面の様子を読み取ることができない1c.事柄の順序を考えながら読み取ることができない1(3)d.文章のなかの人物の行動や気持ちを読み取ることができない1e.文章の要点を読み取ることができない3*上付きカッコ内の数字(例:(3))は、その内容を扱う学年を示す。図1学習領域スキル別つまずきチェックリスト「読む」(文献5より引用)チェック〈Ⅳ.書く〉12.文字を書くのに困難がみられるチェックa.平仮名の書き間違いがある(例:鏡文字「く」→「」を書く、形態的に似ている「い」と「り」を間違う)b.片仮名の読み間違いがある(例:鏡文字「テ」→「」を書く、形態的に似ている「シ」と「ツ」を間違う)c.習った漢字が書けない→付表「学年別漢字配当表」参照d.漢字の書き間違いがある(例:細かい部分を書き間違える・・・「赤」→「」へんとつくりを反対に書く・・・「粉」→「」意味的に関連のある漢字と書き誤る・・・「入」→「出」)e.書く時の姿勢や、鉛筆などの用具の使い方がぎこちないf.字の形や大きさがうまくとれなかったり、まっすぐに書けなかったりなど、読みにくい字を書くg.独特の筆順で書くh.文字を写すのが難しい(例:黒板に書いてあることを写すのが遅い)13.単語を正確に表すことに困難がみられるチェックa.文字の順序を書き間違えたり(例:とおまわり→とおわまり)、混同したり(例:にぐるま→にじまる)して書くb.文字を抜かしたり(例:しかい→しか)、余分な文字を加えたり(例:せんせい→せんせいい)するc.長音(例:おうさま→おおさま)、促音(例:がっこう→がこう)や、拗音(例:でんしゃ→でんしゅ)、拗長音(例:せんしゅう→せんしょう)などの特殊音節を含む単語を間違えて書く14.文を書く上での基本的な構造の理解に困難がみられるチェックa.主語、述語の文が作れない、順序がおかしいなど、文の組み立てが理解できていないb.「は」、「を」、「へ」など、助詞を適切に使うことができないc.。、「」などの符号を正しく使うことができない15.文章を書くのに困難がみられるチェックa.思いつくままに書き、筋道の通った文章を書くことができないb.事実の羅列のみで内容的に乏しいc.限られた量や、決まったパターンの文章しか書かないd.修飾と被修飾との関係に注意して書くことができないe.指示語や接続語の役割と使い方に注意して書くことができない図2学習領域スキル別つまずきチェックリスト「書く」(文献5より引用)図3視空間認識に弱さのある児童が書いた「月曜日」チェック【Ⅰ.数と計算】1.数字(整数)を読んだり、書いたりするのに困難がみられるチェック習得学年a.100までの数の数唱に時間がかかったり、同じ数を二度言ったり、ある数を抜かしたりすることがある1b.3と8、6と9など、形状が似ている数字の扱いに混乱がみられる1c.十五を105といったように書き表すことがある1d.2位数以上になると、四十二を24といったように、位が逆に記されることがある1e.4位数までの数を読んだり、書き表したりできない2f.億や兆の単位を読んだり、書き表したりできない42.数(整数)の概念の理解に困難がみられるチェック習得学年a.数唱はできるが、集合数として、ものの個数を正しく数えることができない1b.規則正しく並べると数えることができても、ばらばらにすると数えることができない1c.一度数えた数量を、場所や並べ方を変えると、もう一度数え直す1d.()番目といった順序数についての理解ができない1e.0についての理解ができない1f.必要に応じてものを、2ずつ、5ずつ、10ずつといったようにまとめて数えることができない1g.ある数を10倍、100倍したり、10で割ったりした時の大きさの関係が理解できない3h.四捨五入の問題ができない4i.約数、倍数についての理解ができない53.数の大小を比較したり、順序どおりに並べたりすることに困難がみられるチェック習得学年a.100までの大小判断がすぐにできない1b.4位数までの大小判断がすぐにできない24.加法・減法の計算に困難がみられるチェック習得学年a.+、-、=などの記号の意味が理解できない1b.どういうときに加法を用いるかが理解できない1c.加法の計算の際に、集合同士で足さずに1から数え直す1d.加法の計算の手続きに誤りがみられる(例:2+3=4というように、加数の次の数を機械的に答えとする)1e.数の合成(2と3を一緒にすれば5)は理解できるが、分解(5は2といくつになるか)が理解できない1f.どういう時に減法を用いるか理解できない1g.減法の計算の手続きに誤りがみられる1h.繰り上がりのある加法の計算の手続きが理解できない1i.繰り下がりのある減法の計算の手続きが理解できない1j.1位数同士の計算でも30秒以上の時間がかかることがある1k.1位数同士の計算が暗算でできない1l.3つ以上の数の含まれる計算(例:10-9+6)ができない1m.2位数またはそれ以上の数の筆算の表記において、位を揃えることができない2n.2位数またはそれ以上の数の筆算の手続きに誤りがみられる(例:2位数同士の加法の筆算において、計算を左の桁から始めてしまう)2o.2位数同士の計算でも30秒以上の時間がかかることがある2p.加法と減法間の関係というように計算相互の関係が理解できない2図4学習領域スキル別つまずきチェックリスト「数と計算」の一部抜粋(文献5より引用)図5視空間認識に弱さのある児童の筆算の様子(文献5より引用)チェック〈Ⅱ.図形〉10.図形を理解したり、構成したりすることに困難がみられるチェック習得学年a.前後、左右、上下など、位置や空間の概念を表すことばの意味が理解できない1(2)b.形を構成したり、分解したりすることができない(例:はがいくつでできているかといった問題を解くことができない)1c.図形を模写することができない1d.図形の弁別ができない(例:似たような図形のグループの中から、同一の図形を探し出すことができない)1(2)(3)e.図形を構成する要素(例:辺、頂点、直径、半径)や構成要素間の関係が理解できない2f.三角定規やコンパスなどの器具を用いて図形を描き出すことができない3g.立方体や直方体といった立体図形について理解できない(例:頂点や面がいくつあるかがわからない)4h.立方体や直方体といった立体図形の展開図や見取り図などを描くことができない4*上付きカッコ内の数字(例:(3))は、その内容を扱う学年を示す。図6学習領域スキル別つまずきチェックリスト「図形」(文献5より引用)チェック〈Ⅲ.測定(1-3年生)/変化と関係(4-6年生)11.時刻や時間の概念の理解に困難がみられるチェック習得学年a.昨日、今日、明日、早い(前)、遅い(後)というような時間の概念を表すことばの意味が理解できない1b.時計を見て時刻が読めない1c.日、時、分などの理解ができない2(3)d.時間(時、分、秒)などの計算ができない312.量を比べたり、測ったりすることに困難がみられるチェック習得学年a.長さや重さといった量がどういうものかが理解できない1b.長さや重さなどの量を比較することができない(直接/関節比較/任意単位による測定を含む)1c.ものさしなどの計器のもつはたらきや目盛りの構造を理解することができない2d.角の大きさというものを理解したり、それを測定したりすることがきない413.量を表す単位の理解や換算に困難がみられるチェック習得学年(2)(3)a.量を表す基本単位(例:㎝、.、.)について理解できない2b.単位の換算(例:15㎝←→150㎜)ができない214.面積についての理解や面積を求めることが難しいチェック習得学年a.面積についての単位や、測定の意味が理解できない4b.面積を求めることができない415.体積についての理解や体積を求めることが難しいチェック習得学年a.体積についての単位や、測定の意味を理解することができない5b.体積を求めることができない516.速さについての理解や速さを求めることが難しいチェック習得学年a.速さの意味や、表し方について理解できない5b.速さを求めることができない5(3)*上付きカッコ内の数字(例:)は、その内容を扱う学年を示す。図7学習領域スキル別つまずきチェックリスト「測定/変化と関係」(文献5より引用)チェック〈Ⅳ.データの活用〉20.表やグラフの問題を解くのに困難がみられるチェック習得学年a.ものの個数について,簡単な絵や図などに表したり,それらを読み取ったりすることが難しい1b.表やグラフが何を表しているのか、どう読んだらよいのかわからない2c.表やグラフにまとめることができない221.平均に関する問題を解くのに困難がみられるチェック習得学年a.平均の意味について理解できない5b.平均を求めることができない5図8学習領域スキル別つまずきチェックリスト「データの活用」(文献5より引用)(17)あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025659図9学校でできる学習面のアセスメント(文献5より引用)とりあげたような「形を正しく捉え,空間に配置するといった視空間的な認識の問題」もあれば,「文字を書く際の運動機能の問題」,さらには「そもそも文字を読むことがむずかしく,結果として書くことにもつまずきを示す場合」など,さまざまな要因が考えられる.したがって「文字が正しく書けない」といった現象は同じであっても,背後の要因が異なれば,おのずとつまずきへのアプローチも異なってくる.そこで,なぜその子どものなかでつまずきが起きているのか,つまずきの要因として考えられること,いわゆるアセスメントが非常に重要になってくる.専門家によるアセスメントを待たずに,学校のなかでできるアセスメントはさまざまある(図9)5).これらのアセスメントを分析的な視点をもって解釈していくことが必要である.解釈の視点としては,「その子どもがどうしてつまずいているのかについて丁寧に把握すること(つまずきの要因の分析)」と同時に,「該当の課題を習得するためにはどういう力を備えておくことが必要なのかをとらえること(課題自体の分析)」が重要である.そこで,本稿のIIで述べてきたような,正しい「見え方」を必要とする課題が学習場面でどのように存在するかを把握しておくことは有用である.とくに各教科・領域を横断して,「見え方」に起因するつまずきの様相が子どもにみられた際には,つまずきの推定要因として「見え方」が一因にあるという確証が高まると考える.IV学びへのアクセス子どもたちが最初に学びに出会う場,つまり通常の学級において「学習活動への参加をスムーズにし,障害による障壁をなくし,児童生徒の能力を最大限に発揮できる状況を創り出せるか」,つまり「学びへのアクセス」が今後ますます求められる6).子どもの学習のつまずき要因として「見え方」が存在しているにもかかわらず,「ちゃんと見なさい」「よく見たらわかるはず」「丁寧に書きなさい」といった声かけ,すなわち,つまずきが本人の努力や気持ちの問題で解決できるかのような誤解で子どもを追い詰めてしまうことがないよう,適切に子どもの状態理解を行うことが不可欠である.660あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025(18)