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学習のつまずきの背景に潜む「見え方」の問題

2025年6月30日 月曜日

学習のつまずきの背景に潜む「見え方」の問題VisualPerceptionProblemsinChildrenwithLearningDi.culties海津亜希子*はじめに2022年に文部科学省が行った「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」1)では,学級担任などが回答した内容から「知的発達に遅れはないものの学習面または行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒が,小中学校で8.8%存在するということが明らかになった.なかでも,学習面で著しい困難を示す児童生徒は6.5%に及んだ.とくに,「読む」または「書く」に著しい困難を示す児童生徒は3.5%,「計算する」または「推論する」に著しい困難を示す児童生徒は3.4%であった.一方で,これら8.8%の児童生徒が受けている支援の状況について調べた結果では,支援のあり方を校内で検討する校内委員会という場において「現在,特別な教育的支援が必要と判断されているか」について「必要と判断されている」と回答したのは28.7%にとどまっていた.これは,学級担任などが「学習面または行動面で著しい困難を示す」とした児童生徒の1/3しか校内全体として特別な教育的支援が必要と認識されていない,つまり学校としての支援がなされていないともとれる衝撃の結果であった.そこで本稿では,まず,学習面に一次的な困難さを呈す「学習障害(learningdisabilities:LD)」とはどのような状態なのかを,医学的および教育的定義から整理する.その後,学校教育のなかでみられる学習面のつまずきの背景要因の一つとして「見え方」が推測される事象について具体的にみていく.子どもへの適切な支援は,正確な実態把握なくしてはありえない.その意味でも,子どもの困難さをさまざまな立場から多角的に把握し,子どもが真に必要とする支援に結びつける糸口とすることが本稿の目的である.I学習障害の医学的定義と教育的定義1.医学的定義の限局性学習症/限局性学習障害限局性学習症とは,米国精神医学会(AmericanPsy-chiatricAssociation:APA)による「精神疾患の分類と診断の手引」(第5版)(DiagnosticandStatisticalMan-ualofMentalDisorders,5thedition:DSM-5)2,3)における学習障害の医学的診断名である.学習や学業的技能が暦年齢に期待されるより著明にかつ定量的に低く,学業や職業遂行能力,日常生活活動に支障をきたしている状態のことをさす.読字の正確さや速度,流暢性,読解力に関する「読字障害」,綴字の正確さや文法と句読点の正確さ,書字表出の明確さまたは構成力に関する「書字表出障害」,数の感覚や数学的事実の記憶,計算の正確さ,流暢性,数学的推理の正確さに関する「算数障害」の少なくとも一つが6カ月間以上持続している状態が診断基準である.学業的領域における技能を学習する際の重症度を,軽度,中度,重度で特定することとしている.ただし,全般的な知的能力の問題や,非矯正視力または聴力,他の精神または神経疾患,心理社会的逆境,学*AkikoKaizu:明治学院大学心理学部〔別刷請求先〕海津亜希子:〒108-8636東京都港区白金台1-2-37明治学院大学心理学部(1)(11)6530910-1810/25/\100/頁/JCOPY業的指導に用いる言語の習熟度不足,不適切な教育的指導などでは説明できないものとする.限局性学習症の診断において,この除外規定はとくに注意が必要である.つまり,除外規定にあげられたことのすべてにおいて問題がないにもかかわらず,学習面で困難を示す場合に初めて限局性学習症という診断がなされることになる.いい換えれば,正しい判断をするためには,まずは除外規定に関して問題がないかについての精査が重要となる.2.教育的定義の学習障害1999年7月に文部省(当時)が「学習障害児に対する指導について(報告)」4)において「学習障害(LD)とは,基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態をさすものである.学習障害は,その原因として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接の原因となるものではない」と定義している.なお,教育用語である学習障害は「聞く」こと,「話す」ことの困難さも含め,より広義に学習困難の状態を捉えているのに対し,先の限局性学習症/限局性学習障害では「読字」「書字」「算数」に限定している.各学校では,学校に設けられた校内委員会を通じて児童生徒の実態把握を行い,専門家チームに判断を求めるかどうかを検討する.そののち,都道府県または政令指定都市の教育委員会に設けられた専門家チームが学習障害か否かを判断し,教育的支援の内容について専門的意見を示すことになっている.II見え方に関連するつまずき学校場面において,子どもたちのどのような状況・様子から,見え方に困難があるかもしれないという気づきにつながるであろうか.ここでは,「読み」「書き」について教科ごとに具体的にみていく.1.「読み」のつまずき授業では,子どもに教科書などを読ませる場面が多くみられる.図15)は学校場面での子どもの「読み」のつまずきを把握するためのチェックリストの一部である.とくに,「形態的に似た漢字と読み間違える」「文字の順序を読み間違えたり,混同したりして読む」「勝手読みがある」「文中の単語や行を読み飛ばしたり,繰り返したりすることがある」などのつまずきについては,その背景要因の一つとして「見え方」に関する問題があると考えられる.2.「書き」のつまずき書く行為は子どもの学習活動のアウトプットの側面もあるため,つまずきが顕著になりやすい.図25)に学校場面での子どもの「書き」のつまずきを把握するためのチェックリストを示した.とくに「ひらがなの書き間違いがある」「カタカナの書き間違いがある」「漢字の書き間違いがある」(図3),「字の形や大きさがうまくとれなかったり,まっすぐ書けなかったりなど,読みにくい字を書く」「文字を写すのがむずかしい」「文字の順序を書き間違えたり,混同したりして書く」「文字を抜かしたり,余分な文字を加えたりする」「句読点やカッコなどの符号を正しく使うことができない」といったケースでは,その背景に「見え方」の問題が影響していることが推測される.3.算数におけるつまずき算数についてのつまずきも「見え方」が背景要因として考えられるものが多く存在する.たとえば,「数と計算」(図4)5)については,「3と8,6と9など,形状が似ている数字の扱いに混乱がみられる」「規則正しく並べると数えることはできても,ばらばらにすると数えることができない」「2位数またはそれ以上の数の筆算の手続きに誤りがみられる」(図5)などがあげられる.「図形」(図6)5)については,「形を構成したり,分解したりすることができない」「図形を模写することができない」などに代表されるように,多くのつまずきがみられる.「測定/変化と関係」(図7)5)については,「もの654あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025(12)チェック〈Ⅲ.読む〉8.一つ一つの文字を読むのに困難がみられるチェックa.平仮名の読み間違いがあるb.片仮名の読み間違いがあるc.拗音を読み間違えるd.習った漢字が読めない→付表「学年別漢字配当表」参照e.漢字の読み間違いがある例:形態的に似た漢字と読み間違える・・・貝→「みる」、石→「みぎ」意味的に関連のある漢字と読み間違える・・・町→「むら」、入る→「でる」単漢字を勝手に熟語化して読み間違える・・・人→「にんげん」、牛→「ぎゅうにゅう」勝手に送りがなを付けて読み間違える・・・白→「しろい」、青空→「あおいそら」9.単語を読むのに困難がみられるチェックa.文字の順序を読み間違えたり(例:とおまわり→とおわまり)、混同したり(例:にぐるま→にじまる)して読むb.文字を抜かしたり(例:しかい→しか)、余分な文字を加えたり(例:せんせい→せんせいい)して読むc.促音(例:がっこう→がこう)や拗音(例:せんしゅう→せんしょう)などの特殊音節を含んだ単語を読み間違えるd.初めて出てきた単語や、普段あまり使わない単語を読み間違えるe.漢字で表されている単語より、仮名で表されている単語の方が理解しにくい10.文章を音読する際に困難がみられるチェックa.助詞の「は」を読む際にも変換せずにそのまま「ハ」、「へ」をそのまま「ヘ」など読み間違える(例:私は(ワタシワ)→(ワタシハ))b.単語や文節に正しく区切って読むことができないc.勝手読みがある(例:「いきました」→「いました」)d.文中の単語や行をとばしたり、繰り返したりすることがある11.文章の内容を理解するのに困難がみられるチェック習得学年a.文章の内容の大体を読み取ることができない1b.文章のなかの場面の様子を読み取ることができない1c.事柄の順序を考えながら読み取ることができない1(3)d.文章のなかの人物の行動や気持ちを読み取ることができない1e.文章の要点を読み取ることができない3*上付きカッコ内の数字(例:(3))は、その内容を扱う学年を示す。図1学習領域スキル別つまずきチェックリスト「読む」(文献5より引用)チェック〈Ⅳ.書く〉12.文字を書くのに困難がみられるチェックa.平仮名の書き間違いがある(例:鏡文字「く」→「」を書く、形態的に似ている「い」と「り」を間違う)b.片仮名の読み間違いがある(例:鏡文字「テ」→「」を書く、形態的に似ている「シ」と「ツ」を間違う)c.習った漢字が書けない→付表「学年別漢字配当表」参照d.漢字の書き間違いがある(例:細かい部分を書き間違える・・・「赤」→「」へんとつくりを反対に書く・・・「粉」→「」意味的に関連のある漢字と書き誤る・・・「入」→「出」)e.書く時の姿勢や、鉛筆などの用具の使い方がぎこちないf.字の形や大きさがうまくとれなかったり、まっすぐに書けなかったりなど、読みにくい字を書くg.独特の筆順で書くh.文字を写すのが難しい(例:黒板に書いてあることを写すのが遅い)13.単語を正確に表すことに困難がみられるチェックa.文字の順序を書き間違えたり(例:とおまわり→とおわまり)、混同したり(例:にぐるま→にじまる)して書くb.文字を抜かしたり(例:しかい→しか)、余分な文字を加えたり(例:せんせい→せんせいい)するc.長音(例:おうさま→おおさま)、促音(例:がっこう→がこう)や、拗音(例:でんしゃ→でんしゅ)、拗長音(例:せんしゅう→せんしょう)などの特殊音節を含む単語を間違えて書く14.文を書く上での基本的な構造の理解に困難がみられるチェックa.主語、述語の文が作れない、順序がおかしいなど、文の組み立てが理解できていないb.「は」、「を」、「へ」など、助詞を適切に使うことができないc.。、「」などの符号を正しく使うことができない15.文章を書くのに困難がみられるチェックa.思いつくままに書き、筋道の通った文章を書くことができないb.事実の羅列のみで内容的に乏しいc.限られた量や、決まったパターンの文章しか書かないd.修飾と被修飾との関係に注意して書くことができないe.指示語や接続語の役割と使い方に注意して書くことができない図2学習領域スキル別つまずきチェックリスト「書く」(文献5より引用)図3視空間認識に弱さのある児童が書いた「月曜日」チェック【Ⅰ.数と計算】1.数字(整数)を読んだり、書いたりするのに困難がみられるチェック習得学年a.100までの数の数唱に時間がかかったり、同じ数を二度言ったり、ある数を抜かしたりすることがある1b.3と8、6と9など、形状が似ている数字の扱いに混乱がみられる1c.十五を105といったように書き表すことがある1d.2位数以上になると、四十二を24といったように、位が逆に記されることがある1e.4位数までの数を読んだり、書き表したりできない2f.億や兆の単位を読んだり、書き表したりできない42.数(整数)の概念の理解に困難がみられるチェック習得学年a.数唱はできるが、集合数として、ものの個数を正しく数えることができない1b.規則正しく並べると数えることができても、ばらばらにすると数えることができない1c.一度数えた数量を、場所や並べ方を変えると、もう一度数え直す1d.()番目といった順序数についての理解ができない1e.0についての理解ができない1f.必要に応じてものを、2ずつ、5ずつ、10ずつといったようにまとめて数えることができない1g.ある数を10倍、100倍したり、10で割ったりした時の大きさの関係が理解できない3h.四捨五入の問題ができない4i.約数、倍数についての理解ができない53.数の大小を比較したり、順序どおりに並べたりすることに困難がみられるチェック習得学年a.100までの大小判断がすぐにできない1b.4位数までの大小判断がすぐにできない24.加法・減法の計算に困難がみられるチェック習得学年a.+、-、=などの記号の意味が理解できない1b.どういうときに加法を用いるかが理解できない1c.加法の計算の際に、集合同士で足さずに1から数え直す1d.加法の計算の手続きに誤りがみられる(例:2+3=4というように、加数の次の数を機械的に答えとする)1e.数の合成(2と3を一緒にすれば5)は理解できるが、分解(5は2といくつになるか)が理解できない1f.どういう時に減法を用いるか理解できない1g.減法の計算の手続きに誤りがみられる1h.繰り上がりのある加法の計算の手続きが理解できない1i.繰り下がりのある減法の計算の手続きが理解できない1j.1位数同士の計算でも30秒以上の時間がかかることがある1k.1位数同士の計算が暗算でできない1l.3つ以上の数の含まれる計算(例:10-9+6)ができない1m.2位数またはそれ以上の数の筆算の表記において、位を揃えることができない2n.2位数またはそれ以上の数の筆算の手続きに誤りがみられる(例:2位数同士の加法の筆算において、計算を左の桁から始めてしまう)2o.2位数同士の計算でも30秒以上の時間がかかることがある2p.加法と減法間の関係というように計算相互の関係が理解できない2図4学習領域スキル別つまずきチェックリスト「数と計算」の一部抜粋(文献5より引用)図5視空間認識に弱さのある児童の筆算の様子(文献5より引用)チェック〈Ⅱ.図形〉10.図形を理解したり、構成したりすることに困難がみられるチェック習得学年a.前後、左右、上下など、位置や空間の概念を表すことばの意味が理解できない1(2)b.形を構成したり、分解したりすることができない(例:はがいくつでできているかといった問題を解くことができない)1c.図形を模写することができない1d.図形の弁別ができない(例:似たような図形のグループの中から、同一の図形を探し出すことができない)1(2)(3)e.図形を構成する要素(例:辺、頂点、直径、半径)や構成要素間の関係が理解できない2f.三角定規やコンパスなどの器具を用いて図形を描き出すことができない3g.立方体や直方体といった立体図形について理解できない(例:頂点や面がいくつあるかがわからない)4h.立方体や直方体といった立体図形の展開図や見取り図などを描くことができない4*上付きカッコ内の数字(例:(3))は、その内容を扱う学年を示す。図6学習領域スキル別つまずきチェックリスト「図形」(文献5より引用)チェック〈Ⅲ.測定(1-3年生)/変化と関係(4-6年生)11.時刻や時間の概念の理解に困難がみられるチェック習得学年a.昨日、今日、明日、早い(前)、遅い(後)というような時間の概念を表すことばの意味が理解できない1b.時計を見て時刻が読めない1c.日、時、分などの理解ができない2(3)d.時間(時、分、秒)などの計算ができない312.量を比べたり、測ったりすることに困難がみられるチェック習得学年a.長さや重さといった量がどういうものかが理解できない1b.長さや重さなどの量を比較することができない(直接/関節比較/任意単位による測定を含む)1c.ものさしなどの計器のもつはたらきや目盛りの構造を理解することができない2d.角の大きさというものを理解したり、それを測定したりすることがきない413.量を表す単位の理解や換算に困難がみられるチェック習得学年(2)(3)a.量を表す基本単位(例:㎝、.、.)について理解できない2b.単位の換算(例:15㎝←→150㎜)ができない214.面積についての理解や面積を求めることが難しいチェック習得学年a.面積についての単位や、測定の意味が理解できない4b.面積を求めることができない415.体積についての理解や体積を求めることが難しいチェック習得学年a.体積についての単位や、測定の意味を理解することができない5b.体積を求めることができない516.速さについての理解や速さを求めることが難しいチェック習得学年a.速さの意味や、表し方について理解できない5b.速さを求めることができない5(3)*上付きカッコ内の数字(例:)は、その内容を扱う学年を示す。図7学習領域スキル別つまずきチェックリスト「測定/変化と関係」(文献5より引用)チェック〈Ⅳ.データの活用〉20.表やグラフの問題を解くのに困難がみられるチェック習得学年a.ものの個数について,簡単な絵や図などに表したり,それらを読み取ったりすることが難しい1b.表やグラフが何を表しているのか、どう読んだらよいのかわからない2c.表やグラフにまとめることができない221.平均に関する問題を解くのに困難がみられるチェック習得学年a.平均の意味について理解できない5b.平均を求めることができない5図8学習領域スキル別つまずきチェックリスト「データの活用」(文献5より引用)(17)あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025659図9学校でできる学習面のアセスメント(文献5より引用)とりあげたような「形を正しく捉え,空間に配置するといった視空間的な認識の問題」もあれば,「文字を書く際の運動機能の問題」,さらには「そもそも文字を読むことがむずかしく,結果として書くことにもつまずきを示す場合」など,さまざまな要因が考えられる.したがって「文字が正しく書けない」といった現象は同じであっても,背後の要因が異なれば,おのずとつまずきへのアプローチも異なってくる.そこで,なぜその子どものなかでつまずきが起きているのか,つまずきの要因として考えられること,いわゆるアセスメントが非常に重要になってくる.専門家によるアセスメントを待たずに,学校のなかでできるアセスメントはさまざまある(図9)5).これらのアセスメントを分析的な視点をもって解釈していくことが必要である.解釈の視点としては,「その子どもがどうしてつまずいているのかについて丁寧に把握すること(つまずきの要因の分析)」と同時に,「該当の課題を習得するためにはどういう力を備えておくことが必要なのかをとらえること(課題自体の分析)」が重要である.そこで,本稿のIIで述べてきたような,正しい「見え方」を必要とする課題が学習場面でどのように存在するかを把握しておくことは有用である.とくに各教科・領域を横断して,「見え方」に起因するつまずきの様相が子どもにみられた際には,つまずきの推定要因として「見え方」が一因にあるという確証が高まると考える.IV学びへのアクセス子どもたちが最初に学びに出会う場,つまり通常の学級において「学習活動への参加をスムーズにし,障害による障壁をなくし,児童生徒の能力を最大限に発揮できる状況を創り出せるか」,つまり「学びへのアクセス」が今後ますます求められる6).子どもの学習のつまずき要因として「見え方」が存在しているにもかかわらず,「ちゃんと見なさい」「よく見たらわかるはず」「丁寧に書きなさい」といった声かけ,すなわち,つまずきが本人の努力や気持ちの問題で解決できるかのような誤解で子どもを追い詰めてしまうことがないよう,適切に子どもの状態理解を行うことが不可欠である.660あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025(18)

神経発達症の診断と支援

2025年6月30日 月曜日

神経発達症の診断と支援DiagnosisandSupportforNeurodevelopmentalDisorders石崎朝世*はじめに米国精神医学会(AmericanPsychiatricAssocia-tion:APA)による「精神疾患の分類と診断の手引」(第5版)(DiagnosticandStatisticalManualofMentalDis-orders,5thedition:DSM-5)1)では,神経発達症は「発達期に発症する一群の疾患で,典型的には発達期早期,しばしば小中学校入学前に明らかとなり,個人的,社会的,学業,または職業における機能の障害を引き起こす発達の欠陥により特徴づけられる」と定義される.そのおもなものに,自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(autisticspectrumdisorders:ASD),注意欠如多動症/注意欠如多動性障害(attentionde.cithyperac-tivitydisorder:ADHD),学習障害(DSM-5では限局性学習症/限局性学習障害),知的障害(DSM-5では知的発達症/知的発達障害)がある.そのほか,言語症/言語障害,語音症/語音障害,吃音,社会的コミュニケーション症/社会的コミュニケーション障害(明らかなこだわりがない軽い自閉スペクトラム症といってよい),発達性協調運動症/発達性協調運動障害,常同運動症/常同運動障害,チック症/チック障害がある.神経発達症のある者は,複数の神経発達症の特性があることが少なくない.おもな神経発達症の関係を図12)に示す.また,その特性が明らかな障害とはいえず,いわゆる性格の範囲であることもある.同一人でも,環境によっては障害と考えられるほどの症状になるが,そこまでにはならない場合もある.また,時代や地域によっても障害とされるかされないかが変わってくる.診断が偏見につながらないように配慮したこともあり,DSM-5の日本語訳では「神経発達症」と「神経発達障害」が併記された.本稿では,とくにASDとADHDについて,診断基準と理解あるかかわり方,環境の工夫をする際に参考となる基本的病態を記載する.また,特集の他項ではとりあげられていない知的障害についても記載する.I神経発達症のおもな特徴1.自閉スペクトラム症(ASD)DSM-5によるASDの診断基準(表1)1)は「コミュニケーションの問題・対人関係の問題」と「興味の限局,こだわり,常同行動」があることである.「感覚の過敏,鈍,並外れた興味」は必須項目ではないものの,多くのASDでは理解が必要である.感覚の過敏もさまざまで,一般に音に過敏(多くは赤ちゃんの泣き声が苦手)である.また,光に過敏な者も少なくなく,嗅覚や触覚の過敏もある.逆に,痛みや吐き気,満腹感,のどの渇きなど,身体の内部感覚には鈍感な者が少なくない.「想像力(見通しをつける力)の障害」は,DSM-5に明記されていないが特記すべき特性で,本人のつらさや不安,周囲の環境やかかわり方を考えるとき,十分な理解が必要である.基本的な病態としては,心の理論(人は自分と違った*AsayoIshizaki:発達協会王子クリニック〔別刷請求先〕石崎朝世:〒115-0044東京都北区赤羽南2-10-20発達協会王子クリニック(1)(5)6470910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1おもな神経発達症の関係(DSM-5による)(文献2より引用)文献2では,反抗挑発症は神経発達症群ではなく,秩序破壊的・衝動制御・素行症群に分類されている.表1DSM-5における自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準A.社会でのコミュニケーションや対人交流の持続的な障害(1)社会での情緒的な相互交流の障害(2)社会的交流における非言語コミュニケーション行動の障害(3)人間関係を築いて保ち理解することの障害B.限られた反復されるパターンの行動や興味,活動(以下の項目のうち少なくとも二つに当てはまる)(1)型にはまった体の動き,物の使用や発話(2)同一性へのこだわり,決まった手順への融通の利かない固執,儀式化された言語もしくは非言語行動パターン(3)集中の深さや狭さが一般的でないほど非常に限られている大変強い興味・関心(4)感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ,もしくは周囲の環境の感覚的側面に対する並外れた興味C.症状は早期の発達段階までに発現していなければならない(が,社会的な要求が限られた能力を超えるまで全てが現れないかもしれない.もしくは後天的に学んだ対処法で見えなくなっているかもしれない)D.症状によって社会や職業またはその他の重要な分野で臨床的に重大な機能障害が起こっている(文献1をもとに作成)で,コミュニケーションや対人関係に関する問題を起こす.また,刺激への過敏とも関連する選択的注意(雑多な刺激のなかから必要な刺激を選別して認識する能力)の問題や時間感覚の違いがあり,これは時間の経過や因果関係がわかりづらい特性,先の見通しをつけたり,状況に合わせて急いだりすることができにくい特性につながる.一方で,特異的な記憶想起現象(タイムスリップ現象.突然過去の記憶を想い起して,そのでき事をあたかもつい先ほどのことのように扱うこと≒フラッシュバック)があり,十分な理解が必要である4).ただし,同じASDとされる者でも,特性の程度や過敏な感覚の種類,言語能力,人に対する関心の多寡はさまざまである.そして,なにかについて高い能力をもっている者も少なくない.かかわり方の工夫としては,医療現場で個々の特徴を理解し,とくに,本人が見通しをつけやすくわかりやすい環境を意識して,自尊心に配慮しながらも具体的な指示を行うことである.処置や検査が必要なときは,視覚的な手段を使って説明することも有効である.また,音や光,匂い,触覚(触られること)など刺激に対する過敏への配慮が必要である.加えて,医療体験がつらい思い出としてフラッシュバックしないようにする.ただし,必要なことは行って,満足感・達成感につながるようにするとよい.本人がつらく,発達の妨げにもなるような易刺激性・易興奮性に対して抗精神病薬や感情調整薬を,睡眠障害に対して睡眠薬を処方する場合もあるが,慎重に副作用に注意して行う.ただし,本人の発達や環境の変化によって薬物治療が不要になることも少なくない.2.注意欠如多動症(ADHD)DSM-51)によれば,ADHDは「複数の状況下における著しい不注意,多動衝動性で,能力の発揮や発達の妨げになっている状態」である.症状は12歳以下から現れているとされる.複数の状況下で症状がある点が重要である.症状の強さもその凸凹もさまざまである.診断基準を表21)に示す.基本的病態は,現在のところ,①実行機能の問題,②報酬系の問題,③時間処理の問題という三つの経路の問題と,安静時に活性化する④デフォルトモードネットワーク(用語解説参照)の切り替えの機能の悪さが想定されている5).①実行機能の問題:必要な情報を思い浮かべて課題を遂行する能力,問題を分析して行動を切り替えたり解決方法を再構築したりする能力,気分や覚醒レベルをコントロールする能力が低下する.②報酬系の問題:報酬系は欲求を満たしたときに「快」「満足感」の感情を生み出し,報酬獲得のための行動調整を行う脳部位で,意欲・動機・学習に関して重要な役割を担う.報酬系の機能が低下すると,少し先の報酬(遅延報酬)を考えた行動調節ができず,実行機能の問題とも関連して待つことや我慢することができなくなる.③時間処理の問題:実行機能の問題とも関連して,時間を考えた行動,見通しをもった行動ができにくく,段取りが悪い.④デフォルトモードネットワークの切り替えの機能の悪さ:行っている作業や学習とは関係が少ないさまざまなことを思い浮かべてしまう.以上の病態が考えられており,作用しているおもな脳部位が想定されている機能もあるが,それぞれが別個に存在するのではなく,脳内のネットワークにより,それぞれが関連しあって症状につながっていると考えられている.かかわり方の工夫としては,上記の基本病態を理解し,わかりやすく興味をもてるような説明をして注意を向け,必要なことを達成しやすいようにときには声かけや援助をして物事を成功させ,達成感や自信をもてるようにすることである.ADHDのある者は,その特性から,わがままで不まじめととらえられがちで怒られることが多く,自己肯定感が低くなりがちである.態度や言動を否定せずに,行うべきことを具体的に指示して,できたらほめるという工夫が必要である.ASDの項でも述べたように,環境やかかわり方の工夫をしても本人がつらく,発達の妨げにもなるような多動衝動性や不注意症状に対しては,抗ADHD薬を処方することもある.また,睡眠障害に対して睡眠薬を処方する場合もあるが,慎重に副作用に注意する.やはり,(7)あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025649表2DSM-5における注意欠如多動症(ADHD)の診断基準A1:以下の不注意症状が六つ(17歳以上では五つ)以上あり,6カ月以上にわたって持続している.・細やかな注意ができず,ケアレスミスをしやすい・注意を持続することが困難・上の空や注意散漫で,話をきちんと聞けないように見える・指示に従えず,宿題などの課題が果たせない・課題や活動を整理することができない・精神的努力の持続が必要な課題を嫌う・課題や活動に必要なものを忘れがちである・外部からの刺激で注意散漫となりやすい・日々の活動を忘れがちであるA2:以下の多動性/衝動性の症状が六つ(17歳以上では五つ)以上あり,6カ月以上にわたって持続している・着席中に,手足をもじもじしたり,そわそわした動きをしたりする・着席が期待されている場面で離席する・不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする・静かに遊んだり余暇を過ごすことができなかったりする・衝動に駆られて突き動かされるような感じがして,じっとしていることができない・しゃべりすぎる.・質問が終わる前にうっかり答えはじめる・順番待ちが苦手である・他の人の邪魔をしたり,割り込んだりするB:不注意,多動性/衝動性の症状のいくつかは12歳までに存在していたC:不注意,多動性/衝動性の症状のいくつかは二つ以上の環境(家庭・学校・職場・社交場面など)で存在しているD:症状が社会・学業・職業機能を損ねている明らかな証拠があるE:統合失調症や他の精神障害の経過で生じたのではなく,それらで説明することもできない(文献1をもとに作成)ASD・ミラーニューロンの問題(共感にも関係?)(人が動いたときに対応する脳の反応に問題があり,模倣がむずかしい)・心の理論(右図「アンとサリーの課題」参照)の障害により,人の心が推測できにくい・時間の流れがわかりにくく,場面,因果関係がつながりにくい・見通しのもちにくさと,それに関連する不安が大きい・固執,応用力のなさ・自己刺激で落ち着こうとするため,自傷につながる・常同行動・感覚の問題(過敏と鈍麻あるいは異質)・特別な記憶力,興味,能力ADHD実行機能の障害・抑制機能の障害(多動・衝動性・注意持続の障害)・必要なことを思い浮かべ,言葉で考え,話し,行動に移すことができにくい・気分,覚醒レベルのコントロールがむずかしい報酬系の問題・報酬の遅延に耐えられずに,衝動的に目の前の報酬を選択する→衝動的で我慢ができない→つい嘘をついてしまうこともある・わかりやすく,比較的大きな報酬でないと認知できにくい時間処理の問題・時間を考えて行動しにくい・実行機能の問題と絡み,段取りを立てにくいアンとサリーの課題自閉症の人は,帰ってきたサリーがビー玉を探すのはアンの箱であると答えてしまう.通常は4歳でこの問題を解けるといわれている.図2ASDとADHDの特記すべき病態と症状

序説:神経発達症と眼科医・視能訓練士の役割

2025年6月30日 月曜日

神経発達症と眼科医・視能訓練士の役割NeurodevelopmentalDisordersandtheRoleofOphthalmologistsandCerti.edOrthoptists佐藤美保*富田香**3歳児健診で視力不良のために眼科を受診する子どもに神経発達症が数多くみられる.平成24年度と令和4年度を比べると,義務教育段階の児童生徒数は1割減っているにもかかわらず,特別支援教育を受ける児童生徒数は2倍に増えており(図1),眼科の日常診察でも神経発達症の子どもの診療は避けて通れない状態になっている.神経発達症には,自閉スペクトラム症(autismspectrumdisorder:ASD),注意欠如多動症(atten-tionde.cithyperactivitydisorder:ADHD),限局性学習症(speci.clearningdisorder:SLD)の三つが含まれる.この三つがさまざまに合併することがあり,またASDやADHDでは知的発達症との合併も多い.それぞれに特徴があるが,すべてスペクトラムであり,定型発達に近い人から,明らかに特徴的な症状を呈する人まで,さまざまである.今回の特集「神経発達症と眼科医・視能訓練士の役割」では,多方面から神経発達症を理解できるように,眼科だけでなく小児科や教育関係のエキスパートの方々に執筆をお願いした.まず,根本的な神経発達症の診断と支援に関して,長い年月にわたり臨床の場で神経発達症の子どもたちにかかわってこられた小児科の石崎朝世先生に解説をお願いした.また,眼科でも相談を受けることの多い限局性学習症に関して,教育現場での状態,「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」に関する評価・アセスメントと支援について,見え方の問題を中心に明治学院大学心理学部の梅津亜希子先生に解説していただいた.限局性学習症を中心とする神経発達症の子どもの情報通信技術(informationandcommunicationtechnology:ICT)を活用した「読み」と「書き」の支援を始め,自治体などの地域での体制整備,教材アクセシビリティ確保の具体策などについては,東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫先生に執筆していただいた.作業療法士として,40年にわたり障害をもった子どもたちの療育に携わってこられた木村順先生には,「眼と手の協応」や「眼球運動の改善」への取り組みを通じて,「見る機能」が触覚,固有覚,前庭覚といった基礎的な感覚の上に成り立っていることついて詳しく解説していただいた.眼科からは,神経発達症児の視機能検査の実際に関して浜松市発達医療総合福祉センター眼科の徳田波津美先生と,浜松医科大学医学部附属病院眼科の古森美和先生に執筆していただいた.神経発達症児の検査に携わってこられた先生方ならではの,非常に実践的な解説になっており,日常診療にすぐに役立つ内容となっている.神経発達症の子どもは,眼*MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学教室**KaoruTomita:平和眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)643-200,000190,000180,000注意欠陥多動性障害170,000学習障害160,000150,000自閉症140,000情緒障害130,000120,000弱視,難聴,肢体不自由及び病弱・身体虚弱110,000言語障害100,00090,00080,00070,00060,00050,00040,00030,00020,00010,0000H5H10H15H16H17H18H19H20H21H22H23H24H25H26H27H28H29H30R1R2R3R4※ 令和2年.令和4年度の数値は,3月31日を基準とし,通年で通級による指導を実施した児重生徒数について調査.その他の年度の児童生徒数は年度5月1日現在.※ 「注意欠陥多動性障害」及び「学習障害」は,平成18年度から通級による指導の対象として学校教育法施行規則に規定し,併せて「自閉症」も平成18年度から対象として明示(平成17年度以前は主に「情緒障害」の通級による指導の対象として対応).※平成30年度から,国立・私立学校を含めて調査.※高等学校における通級による指導は平成30年度開始であることから,高等学校については平成30年度から計上.※ 小学校には義務教育学校前期課程,中学校には義務教育学校後期課程及び中等教育学校前期課程,高等学校には中等教育学校後期課程を含める.※ 令和4年度については,令和6年能登半島沖地震の影響を考慮して,石川県は国立学校のみ調査を実施し,公立・私立学校に関する調査は実施していない.(出典)通級による指導実施状況調査(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課調べ)図1通級による指導を受けている児童生徒数の推移(障害種別)(文献1より引用)(3)あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025645

硝子体手術後の低眼圧により中心性漿液性脈絡網膜症を発症した2症例

2025年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科42(5):630.634,2025c硝子体手術後の低眼圧により中心性漿液性脈絡網膜症を発症した2症例宮良安宣今永直也寺尾信宏大城綾乃山内遵秀古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CTwoCasesofCentralSerousChorioretinopathyTriggeredbyHypotonyafterVitrectomyYasunoriMiyara,NaoyaImanaga,NobuhiroTerao,AyanoOshiro,YukihideYamauchiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:25ゲージ硝子体手術後の低眼圧により中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)を発症したC2例を報告する.症例:症例C1はC61歳,男性.裂孔原性網膜.離眼のシリコーンオイル抜去術後にCCSCを発症した.症例C2はC47歳,男性.眼内レンズ脱臼に対して硝子体手術と強膜内固定術後にCCSCを発症した.両眼とも術前の光干渉断層計(OCT)で脈絡膜肥厚,脈絡膜外層血管の拡張が確認されていた.硝子体術後に低眼圧をきたし,術後C4日目のCOCTで,脈絡膜はさらに肥厚し,漿液性網膜.離(SRD)を認め,蛍光眼底造影で多数の漏出点と脈絡膜血管透過性亢進が確認された.症例C1は漏出点に対する網膜光凝固術を施行,症例C2は経過観察の方針となった.両眼とも術後C2週間で眼圧は正常化し,脈絡膜厚は術前と同程度まで減少し,SRDは寛解した.結論:硝子体手術後の低眼圧は脈絡膜血流を増加させ,CSCの発症リスクを高める可能性がある.CPurpose:ToCreportC2CcasesCofCcentralCserouschorioretinopathy(CSC)inducedCbyClowCintraocularCpressure(IOP)followingC25-gaugeCparsCplanavitrectomy(PPV).CCases:CaseC1CinvolvedCaC61-year-oldCmaleCwhoCdevel-opedCSCaftersiliconeoilextractionforarhegmatogenousretinaldetachmenteye.Case2involveda47-year-oldmaleCwhoCdevelopedCCSCCafterCPPVCandCintrascleralC.xationCforCintraocularClensCdislocation.CPreoperativeCopticalCcoherencetomography(OCT)showedpachychoroidinbotheyes.AfterPPV,IOPdecreasedinbothpatients,andOCTat4-dayspostoperativeshowedfurtherthickeningofthechoroidandserousretinaldetachment(SRD).Fluo-resceinandindocyaninegreenangiographyrevealedmultipleleakyspotsandincreasedchoroidalvascularhyper-permeability.At2-weekspostoperative,theIOPinbotheyeshadnormalized,thechoroidhadthinnedtothesamedegreeCasCbeforeCsurgery,CandCtheCSRDCwasCinCremission.CConclusion:LowCpostoperativeCIOPCafterCPPVCmayCincreasechoroidalblood.ow,leadingtoCSC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(5):630.634,C2025〕Keywords:中心性漿液性脈絡網膜症,硝子体手術,低眼圧,パキコロイド,光干渉断層計.centralserouschorio-retinopathy,parsplanavitrectomy,hypotony,pachychoroid,opticalcoherencetomography.Cはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserousCchorioretinopa-thy:CSC)は,おもに中年男性に多く発症する疾患であり,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)を特徴とする1).CSCは約半数の患者で自然治癒することが知られているが,再発や慢性化,あるいは脈絡膜新生血管を発症する患者が存在し,そのような症例は視機能予後に大きな影響を与える.近年,眼科領域におけるマルチモーダルイメージングの発達により,CSCの病態生理が明らかになってきている.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)において眼球後極から渦静脈周辺部までの広範囲の脈絡膜肥厚,脈絡膜大血管や渦静脈の拡張などの所見2)が,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)〔別刷請求先〕宮良安宣:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:YasunoriMiyara,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC630(130)abc図1症例1の中心性漿液性脈絡網膜症発症時の眼底写真と蛍光造影画像61歳,男性.右眼の裂孔原性網膜.離を発症し,経毛様体扁平部硝子体手術とシリコーンオイル置換術を受けた.3カ月後にシリコーンオイル抜去術を施行された.術翌日の眼圧はC7CmmHg,術後C4日目の眼圧はC6CmmHgと低眼圧を認めた.術後C4日目に中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)を発症した際の眼底写真と蛍光造影画像.a:右眼の眼底写真.黄斑部から耳下側にかけて漿液性網膜.離を認めた.b:造影初期のフルオレセイン蛍光造影(FA).黄斑部に多数の蛍光漏出を認めた(▲).c:造影中期のインドシアニングリーン蛍光造影(IA).FAでの漏出を含む広範囲にCCVHを認めた(.).では,脈絡毛細血管板の充盈遅延,脈絡膜血管拡張,脈絡膜血管透過性亢進(choroidalCvascularhyperpermeability:CVH)などの所見3)が示され,CSCの発症機序の理解を飛躍的に向上させた.これらの脈絡膜異常はパキコロイドと呼称され1),CSCや加齢黄斑変性の一部の発症や,進行に深くかかわることが注目されてきた.また,パキコロイドの主病態は渦静脈流出路障害と考えられており2),CSCではこの渦静脈流出路障害に加えて,交感神経の亢進,ステロイド投与,ストレスなどの発症要因が加わることで,SRDが発症する可能性が指摘されている6).これまで内眼手術後にCCSCを発症した報告は複数あるが,その発症メカニズムは十分に解明されていない.今回筆者らは,経毛様体扁平部硝子体手術(parsCplanavitrectomy:PPV)施行後の低眼圧を契機にCCSCを発症したと考えられるC2例を経験したので報告する.CI症例症例1患者:61歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:サルコイドーシス.現病歴:右眼の裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousreti-naldetachment:RRD)を発症し,PPVとシリコーンオイル置換を施行された.術後C3カ月でシリコーンオイル抜去術を施行する方針となった.術前所見:右眼矯正視力(0.5),右眼眼圧C19CmmHg,眼軸長はC24.27Cmmであった.前眼部に特記すべき所見はなかった.眼内レンズが挿入されており,硝子体腔はシリコーンオイルで置換されていた.網膜は復位しており,網膜前膜や増殖性変化は認めなかった.OCTでは脈絡膜肥厚が認められ,術前の中心窩下脈絡膜厚(subfovealCchoroidalCthick-ness:SCT)はC358Cμmであった.経過:25ゲージ硝子体手術システムを用いてシリコーンオイル抜去を行った.閉創時にC25CGポート部から漏出のあった創口はC8-0吸収糸で縫合し,眼灌流液で手術を終了した.術翌日の眼圧はC7mmHgで,術後C4日目の眼圧はC6mmHgと低眼圧であった.ポート部からの漏出はなく追加の縫合は行わなかった.術後C4日眼には黄斑から耳下側にかけてCSRDを認め,OCTでは脈絡膜肥厚,脈絡膜皺壁,網膜色素上皮.離,網膜下液を認め,SCTはC530Cμmに増加していた.原因裂孔とCSRDとの交通は認めなかった.SRD出現時の右眼矯正視力は(0.1)であった.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では,黄斑部に多数の漏出点が認められ,IAではCCVHが確認された(図1).これらの所見に基づき,PPV後に発症したCCSCと診断した.裂孔との交通によるCRRDの再発が危惧されたため,すべての漏出点に対して網膜光凝固術(出力C80.100CmW,凝固サイズC100Cμm,照射時間C0.1秒)を施行した.術後C11日目に眼圧C17CmmHgまで回復し,OCTでCSCTはC396Cμmに減少,SRDも改善した.経過のCOCTを図2に示す.右眼矯正視力は最終的に(0.7)となった.症例2患者:47歳,男性.主訴:視力低下.既往歴:RRDに対してCPPVの既往,僚眼にCCSCの既往.現病歴:右眼眼内レンズ脱臼の診断で,右眼CPPVと眼内図2症例1の経過中のOCT画像a:シリコーンオイル抜去術前のCOCT画像.脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張を認めるが,網膜.離は認めなかった.b:術後C4日目のCCSC発症時のCOCT画像.脈絡膜肥厚と脈絡膜血管拡張がさらに顕著となり,網膜色素上皮.離,網膜下液の出現を認めた.c:術後C11日目の網膜光凝固術後のCOCT画像.脈絡膜厚は術前と同程度まで減少し,網膜色素上皮.離,網膜下液は改善傾向がみられる.図3症例2の中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)発症時の眼底写真と蛍光造影画像47歳,男性.右眼の眼内レンズ脱臼のため,PPVと眼内レンズ強膜内固定術を施行された.術翌日の眼圧はC5CmmHgと低眼圧を認めたが,術後C4日目の眼圧はC13CmmHgと改善していた.術後C4日目にCCSC発症した際の眼底写真と蛍光造影.a:右眼の眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離を認めた.b:フルオレセイン蛍光造影(FA)画像.黄斑部に蛍光漏出を認めた(▲).c:インドシアニングリーン蛍光造影画像.FAでの漏出に一致する部位に脈絡膜血管透過性亢進を認めた(.).図4症例2の経過中のOCT画像a:術前のCOCT画像.脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張を認めるが,網膜.離は認めなかった.b:術後C4日目,中心性漿液性脈絡網膜症発症時のCOCT画像.脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張がわずかに増悪し,新しく網膜色素上皮.離,網膜下液の出現を認めた.c:術後C13日目,経過観察後のCOCT画像.脈絡膜厚は術前と同程度まで減少し,網膜下液は改善傾向である.レンズ強膜内固定術の方針となった.術前所見:右眼矯正視力(1.0),右眼眼圧C17CmmHg,眼軸長はC24.06Cmmであった.前眼部に特記すべき所見はなかった.眼内レンズは硝子体腔に脱臼しており,網膜.離は認めなかった.OCTでは脈絡膜肥厚が認められ,術前のCSCTはC411Cμmであった.経過:25ゲージ硝子体手術システムを用いてCPPV,眼内レンズ強膜内固定を行った.閉創時に強角膜切開創からの漏出は認められなかったが,25CGポート部からの漏出があり,創口をC8-0吸収糸で縫合し,眼灌流液で手術を終了した.術翌日の眼圧はC5mmHgで,術後C4日目には眼圧がC13mmHgに回復したが,OCTで脈絡膜肥厚,網膜色素上皮.離,網膜下液が認められ,SCTはC444Cμmに増加していた.SRD出現時の右眼矯正視力は(0.2)であった.ポート部や主創からの漏出はなく追加の縫合は行わなかった.FAでは蛍光漏出が確認され,IAではCCVHが認められた(図3).これらの所見に基づき,PPV後に発症したCCSCと診断した.SRDは限局していたため,経過観察の方針となった.その後,術後C13日目には眼圧がC17mmHgに上昇し,OCTでSCTはC384Cμmに減少,網膜色素上皮.離,網膜下液は自然に消退した.経過のCOCTを図4に示す.右眼矯正視力は最終的に(0.6)となった.CII考按PPV後に発症したCCSCのC2症例を報告した.いずれの症例も眼軸長はC24Cmm程度で,術前のCOCTにて脈絡膜肥厚がみられ,症例C2においては僚眼にCCSCの既往があった.術翌日の眼圧は低く,術後C4日目のCOCT所見において脈絡膜の肥厚がみられ,FAでは黄斑部に多数の漏出点があり,IAではCFAの蛍光漏出点を含む領域にCCVHがみられた.どちらの症例も眼圧の上昇とともに脈絡膜厚は薄くなり,SRDは消失した.PPVの術後合併症として,低眼圧は一定の確率で生じることが知られている.Bamonteらは,今回筆者らが使用した機材と同様のアルコン社製C25ゲージ硝子体手術システムにおける術後低眼圧症を検討し,術後眼圧がC5CmmHg以下の低眼圧がC13.1%の症例で認められたことを報告した7).加えて危険因子として,ガスタンポナーデを行わなかった症例,偽水晶体眼,再手術症例をあげている.また,Issaらはシリコーンオイル抜去後の合併症としてC12.9%で低眼圧が生じると報告しており,症例によっては慢性的な低眼圧が持続する可能性を指摘している8).30CG針を使用した山根法での眼内レンズ強膜内固定術では,2%と低い割合ではあるが,術後に低眼圧となる可能性が報告されている9).今回の症例1は偽水晶体眼,再手術症例,シリコーンオイル抜去眼であり,症例C2は眼内レンズ強膜内固定眼,再手術症例で,両眼ともガスタンポナーデは行わず眼灌流液で終了した.これらのリスク要因が術後の低眼圧を惹起したと考えられる.眼球が一時的な低眼圧になると,脈絡膜血流はどうなるのだろうか.脈絡膜は眼灌流圧(=血圧-眼圧)の変化に対してある程度の自己調節能力を示す.しかし,レーザードップラーを用いた脈絡膜血流の検討では,脈絡膜血流と動脈圧との間には相関関係がない一方で,脈絡膜血流と眼圧との間には有意な負の相関がみられることが報告されており10),脈絡膜循環の調節メカニズムは,血圧よりも眼圧の変化に対して調節能力が脆弱であるようである.また,暗室でのうつぶせ試験による検討では,眼圧の上昇と中心窩領域の脈絡膜厚に負の相関がみられること,ベースラインの脈絡膜が厚いほど脈絡膜厚の変化が生じることが報告されている11).同様に,レーザースペックルフローグラフィーを用いた検討においても,眼圧の低下は脈絡膜血流を増加させ,脈絡膜の管腔を増加させることが指摘されている12).これらの検討から,低眼圧は眼灌流圧の増加を招き,脈絡膜血流を増加させ,脈絡膜を厚くさせると考えられる.そして,これらの検討は,短時間での脈絡膜変化を観察しており,術後の急激な低眼圧による脈絡膜灌流変化は,比較的短時間で起こりうることに留意すべきである.実際に筆者らの症例でも,低眼圧が持続した術後C4日時点で脈絡膜が明らかに肥厚しており,そののち眼圧の改善とともに脈絡膜厚が減少していることが観察された.近年,CSCでは脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張,短眼軸,厚い強膜などが解剖学的な発症リスク因子であり,さらに別の要因が加わることにより,CSCが発症することが示唆されている6).これまで,内眼手術を契機にCCSCを生じた報告はいくつかあり13.18),手術からCCSCの発症までは,多くの症例で術後C1日.2週間程度である.CSC発症の原因として,手術自体の精神的・身体的ストレス,内境界膜.離による網膜への物理的ストレス,周術期のステロイド投与,術中の眼圧変動があげられており,とくに線維柱帯切除術後にCSCを発症した症例では,術後の低眼圧が原因と言及されている.今回の症例C1と症例C2はCCSCの既往やパキコロイドを有しており,このようなCCSC発症素因がある眼において,硝子体手術後の低眼圧が重なったことで,脈絡膜血流が短時間で急激に増加し,CSCを発症した可能性がある.術後の低眼圧が持続すると脈絡膜血流,脈絡膜厚が増加し,網膜色素上皮が障害されることでCSRDが生じる.一方で,眼圧が改善すると,脈絡膜血流,脈絡膜厚が正常化することでSRDが消失したと考えられる.先に述べたように,内眼手術は術中術後の短時間の眼圧変動,低眼圧により脈絡膜循環の変化が起こる可能性がある.CSCの解剖学的な発症リスク因子をもつ症例において術後にCSRDが発症した場合は,術中術後の低眼圧によるCCSC発症を鑑別疾患として留意する必要があろう.この場合は,速やかにCFAやCIAなどの蛍光眼底造影検査を行い,CSCの診断をつけることが重要である.また,術後CCSCの治療に関して,症例C1では網膜光凝固術を施行したが,症例C2では経過観察のみで低眼圧の改善に伴いCCSCも改善した.既報においても経過観察でCSRDが消失したという報告が約半数であり12.17),SRDが寛解しない症例では網膜光凝固や光線力学的療法が行われていた.CSCは自然寛解することが多く,視力予後も比較的良好であるとされているが,一方でCSRDの再発を繰り返す症例や遷延する症例では視力予後が悪化する.そのため,術後CCSCの治療としては,まず低眼圧となっている原因を突き止め,可能なら低眼圧に対する処置を行い,しばらく経過観察を行うという方針が望ましいと思われる.毛様体機能低下が疑われる場合,ステロイド投与を検討したくなるが,CSCが疑われる場合の安易なステロイドの増量はCCSCの遷延化を招く危険性があり,避けるべきであろう.低眼圧が持続する可能性が高い場合や長期間CSRDが持続する場合,また,RRDの原因裂孔にCSRDが交通することでCRRDの再発につながる場合などは,早めに網膜光凝固術や光線力学的療法を検討する必要があると考える.今回は硝子体手術後の低眼圧により脈絡膜肥厚を伴い,続発的にCCSCを発症したC2例を経験した.術後低眼圧に伴う脈絡膜の肥厚と脈絡膜血流の増加がCCSC発症の一因となったと考えられた.パキコロイドを有する患者における術後のSRDの出現は,CSCの発症を考慮する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GassCJD:PathogenesisCofCdisciformCdetachmentCofCtheCneuroepithelium.CAmCJCOphthalmolC63(Suppl):1-139,C19672)YangCL,CJonasCJCB,CWeiW:ChoroidalCvesselCdiameterCinCcentralCserousCchorioretinopathy.CActaCOphthalmolC91:Ce358-e362,C20133)IidaT,KishiS,HagimuraNetal:PersistentandbilateralchoroidalCvascularCabnormalitiesCinCcentralCserousCchorio-retinopathy.RetinaC19:508-512,C19994)WarrowCDJ,CHoangCQV,CFreundKB:PachychoroidCpig-mentepitheliopathy.RetinaC33:1659-1672,C20135)SpaideCRF,CGemmyCCheungCCM,CMatsumotoCHCetal:CVenousCoverloadchoroidopathy:aChypotheticalCframe-workforcentralserouschorioretinopathyandallieddisor-ders.ProgRetinEyeResC86:100973,C20226)HirookaCK,CSaitoCM,CYamashitaCYCetal:ImbalancedCcho-roidalCcirculationCinCeyesCwithCasymmetricCdilatedCvortexCvein.JpnJOphthalmolC66:14-18,C20227)BamonteCG,CMuraCM,CStevieCTanH:HypotonyCafterC25-gaugeCvitrectomy.CAmCJCOphthalmolC151:156-160,C20118)IssaCR,CXiaCT,CZarbinCMACetal:SiliconeCoilremoval:post-operativeCcomplications.CEye(Lond)C34:537-543,C20209)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C201710)PolskaE,SimaderC,WeigertGetal:Regulationofcho-roidalCbloodC.owCduringCcombinedCchangesCinCintraocularCpressureCandCarterialCbloodCpressure.CInvestCOphthalmolCVisSciC48:3768-3774,C200711)WangCYX,CJiangCR,CRenCXLCetal:IntraocularCpressureCelevationCandCchoroidalCthinning.CBrCJCOphthalmolC100:C1676-1681,C201612)AkahoriT,IwaseT,YamamotoKetal:Changesincho-roidalblood.owandmorphologyinresponsetoincreaseinCintraocularCpressure.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:C5076-5085,C201713)佐藤圭子,池田誠宏,岩崎哲也ほか:濾過手術後に中心性漿液性網脈絡膜症様病変を生じたC1例.臨眼48:1176-1177,C199414)ImasawaCM,COhshiroCT,CGotohCTCetal:CentralCserousCchorioretinopathyCfollowingCvitrectomyCwithCintravitrealCtriamcinoloneacetonidefordiabeticmacularoedema.ActaOphthalmolScandC83:132-133,C200515)Moreno-LopezCM,CPerez-LopezCM,CCasas-LleraCPCetal:CPersistentsubretinal.uidduetocentralserouschorioreti-nopathyCafterCretinalCdetachmentCsurgery.CClinCOphthal-molC5:1465-1467,C201116)TakakuraCA,CHaugCSJ,CRadhakrishnanCSCetal:CentralCserouschorioretinopathyaftertrabeculectomyinapatientwithCmicrophthalmosCandCcongenitalCrubellaCsyndrome.CRetinCasesBriefRepC8:153-156,C201417)山崎厚志,富長岳史,佐々木慎一ほか:黄斑上膜手術とトリアムシノロンCTenon.下注射が中心性漿液性脈絡網膜症を誘発したサルコイドーシスのC1例.眼臨紀C9:819-822,C201618)AravindH,RajendranA,BaskaranPetal:AcutecentralserousCchorioretinopathyCfollowingCsubconjunctivalCtriam-cinoloneacetonideinjectionincataractsurgery(lessdropapproach)C-ACcaseCseries.CIndianCJCOphthalmolC70:1066-1068,C2022C***

視野障害が進行する開放隅角緑内障にICL摘出を行った1例

2025年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科42(5):625.629,2025c視野障害が進行する開放隅角緑内障にICL摘出を行った1例明石梓森井香織宮下正人長谷川実茄徳永敬司大塚斎史窪谷日奈子三浦真二藤原りつ子あさぎり病院眼科ImplantableCollamerLens(ICL)RemovalforOpenAngleGlaucomawithVisualFieldProgression:ACaseReportAzusaAkashi,KaoriMorii,MasatoMiyashita,MinaHasegawa,TakashiTokunaga,YoshifumiOtsuka,HinakoKubotani,ShinjiMiuraandRitsukoFujiwaraCDepartmentofOphthalmology,AsagiriHosipitalCICLは近年屈折矯正手術の主流となっているが,ICLの適応である高度近視眼は緑内障のリスク因子でもある.ICLは挿入後に隅角の狭小化が起こることが報告されているが,明らかな眼圧上昇が認められない限り抜去には至らない.このたび,視野障害が進行する開放隅角緑内障に対してCICL摘出を行った症例を経験したので報告する.CImplantableCcollamerlens(ICL)implantationChasCrecentlyCbecomeCtheCmainstreamCofCrefractiveCsurgery,CyetChighCmyopia,CwhichCisCanCindicationCforCanCICL,CisCalsoCaCriskCfactorCforCglaucoma.CItChasCbeenCreportedCthatCICLCimplantationnarrowstheanglepostinsertion,however,itisusuallynotremovedunlessaclearincreaseinintraoc-ularpressureisobserved.Herein,wereportacaseinwhichanICLwasremovedpostimplantationduetoopen-angleglaucomainwhichvisual.eldimpairmentprogressed,thusresultinginprogressionofthevisual.eldimpair-mentbeingsuccessfullyprevented.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(5):625.629,C2025〕Keywords:開放隅角緑内障,ICL,隅角狭小化,ICL摘出.primaryopenangleglaucoma,ICL,angleclosure,ICLremoving.CはじめにICL(implantableCcollamerlens,STAAR社)はC2010年にわが国で認可された有水晶体眼内レンズであり,近視矯正を目的として使用される.LaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK)と異なり,後房に挿入して近視と乱視を矯正するので,角膜のカーブを変化させることがなくリバーシブルであることや,角膜高次収差への影響がないことなどの利点が注目され,近年では屈折矯正手術の主流となっている.発売当初のCICLはレンズ中心に穴がなく前房水の流れを阻害したため,術後に眼圧上昇や白内障が起こることが報告され,ICL挿入前に虹彩切開術(laseriridectomy:LI)を必要としていた.その後,ICL中央に穴が開いたCHoleICLが普及したことにより,LIは不要となり,術後合併症は激減している.ただし,ICLの適応である高度近視眼は元々緑内障のリスク因子であり,ICL挿入時には緑内障を発症していなくても,のちに緑内障を発症するケースは増加する可能性がある.今回,視野障害が進行するCICL挿入眼の開放隅角緑内障症例に対してCICL摘出を行った症例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.主訴:右眼の視野障害.現病歴:2014年に他院にて両眼にCICLV4cを挿入され,2015年に両眼開放隅角緑内障に対して点眼加療が開始されたが,右眼の視野障害の進行がありC2021年C1月C25日に当〔別刷請求先〕明石梓:〒673-0852兵庫県明石市朝霧台C1120-2あさぎり病院眼科Reprintrequests:AzusaAkashi,DepartmentofOphthalmology,AsagiriHosipital,1120-2,Asagiridai,AkashiShi,HyogoKen,673-0852,JAPANC図1初診時OCT所見神経線維層厚と網膜神経節細胞層の非薄化を認めた.図2ICL抜去前後の前眼部OCT所見a,b:右眼の術前(Ca)と術後(Cb).AOD500はC0.238mmからC0.418Cmm,TISA500はC0.09CmmC2からC0.133CmC2と隅角の開大が認められた.c,d:左眼の術前(Cc)と術後(Cd).AOD500はC0.379CmmからC0.446Cmm,TISA500はC0.139CmmC2からC0.165CmC2と隅角の開大が認められた.院を紹介受診した.2014年当時の視神経障害の有無につい底は両眼とも視神経乳頭の陥凹拡大を認め,光干渉断層計ては不明である.(opticalCcoherencetomography:OCT)で神経線維層厚と初診時所見:視力は右眼C0.6(0.7C×C.0.5Dax15°),左眼網膜神経節細胞層の非薄化を認めた(図1).Humphrey静1.5(n.c.),緑内障点眼C3剤点眼下における眼圧はCGoldmann的量的視野検査中心C30-2で右眼の平均偏差値はC.12.62CdB,圧平眼圧計で右眼C16CmmHg,左眼C13CmmHgであった.眼左眼は.3.07CdBであり,両眼とも緑内障性視野障害が認め図3ICL抜去前後の視野検査a:右眼.b:左眼.られた.前眼部COCT(CASIA2)では水平耳側の隅角開放距と右眼のほうが左眼に比べて隅角の狭小化が認められた.ま離(angleCopendistance:AOD)500は右眼C0.238mm,左た,水晶体とCICLの距離は右眼でC750μm,左眼でC717μm眼0.379mmであり,線維柱帯虹彩面積(trabecularCirisであった.Cspacearea:TISA)は右眼でC0.09CmmC2,左眼でC0.129CmmC2経過:右眼はCICLと隅角に色素沈着が認められ,ICLによる隅角狭小化に加え,色素散布による眼圧変動が緑内障進行の要因となっている可能性が考えられたため,ICL摘出を行うこととなり,2021年C2月C24日右CICL摘出を行った.手術は耳側角膜切開C3Cmmを行いCICLを摘出した.ICL摘出後右眼のCAOD500はC0.238Cmm.0.418Cmm,TISA500はC0.09Cmm2.0.133CmC2と隅角の開大が認められた(図2a).左眼も緑内障変化がすでに認められており,右眼と同じようなリスクがあることを踏まえてC2021年C8月C4日にCICL摘出を右眼と同様の方法で行った.ICL摘出後に左眼のCAOD500はC0.379mm.0.446mm,TISA500はC0.139mmC2.0.165Cm2と隅角の開大が認められた(図2b).その後の視力は右眼=0.01(0.5C×S.10.5D),左眼=0.03(1.2C×S.10.0D)となり,測定される眼圧は左右ともに緑内障点眼C3剤継続下で10.13CmmHgと術前と大きく変わりなかった.また,両眼とも視野障害の進行は認められるが,ICL抜去前と後のCMDslopeを比較すると,右眼は抜去前C.1.58CdB/年からC.0.51dB/年へ,左眼はC.0.61CdB/年からC0.37CdB/年へと視野障害の進行がやや緩徐になっている(図3).CII考按ICLは水晶体を残したまま後房に眼内レンズを挿入し,屈折矯正を行う有水晶体眼内レンズの一つである.ICLは生体適合性の優れたCcollamerという素材でできており,虹彩など眼内組織への刺激が少ないとされる.また,毛様溝に固定されたのち,必要があれば抜去することができる可塑性が利点である.初期のCICLレンズ(non-HoleICL)には虹彩と接触して房水の循環が遮断され,眼圧上昇や白内障が起こるリスクがあった.CHoleICLはレンズの中央にC0.36Cmmの小さな穴が開いており,房水の循環が遮断されないため,nonCHoleICLよりも眼圧上昇や白内障が起こる合併症の頻度が大幅に低減された1,2).ただし,HoleICLの挿入後に隅角の狭小化が起こることは複数の文献で報告されており3,4),TangらはCICL挿入後に水晶体とCICLの距離がC0.659Cmm以上になると隅角閉塞に注意が必要であると述べている5).さらに,隅角あるいは前房深度は年齢が上がるに従って狭く浅くなると報告しており6,7),経年的な変化によりCICL挿入時よりも隅角が狭小化されていくことが予測される.また,ICL挿入後,non-HoleICL,HoleICLともに虹彩裏面の接触により色素散布緑内障を発症し,ICL摘出や緑内障手術が必要となった症例の報告があり8,9,10),先述したCICL挿入後の隅角狭小化と経年的な隅角の変化も考慮すると,ICL挿入後は眼圧上昇や緑内障への移行がないか長期的な経過観察が必要と思われる.本症例は著明な眼圧上昇はなかったものの,ICLや隅角に虹彩色素の沈着があり,今後は色素散布緑内障へ発展する可能性も考えられた.ICL摘出後からC3年が経過した時点で,両眼とも視野障害の進行は認められるが,ICL抜去前と後のCMDslopeを比較すると,右眼は抜去前C.1.58CdB/年からC.0.51CdB/年,左眼は.0.61CdB/年からC0.37CdB/年と視野障害の進行がやや緩徐になっている.ICL抜去による影響がどの程度影響を与えているかは不明であるが,ICL挿入時の狭隅角化により夜間や散瞳時に眼圧の変動が起こり,それが視野障害の悪化につながっていた可能性がある.元々高度近視眼は緑内障発症のリスク因子であり11,12),ICL治療は高度近視眼が対象になることを考えると,今後CICL挿入眼で緑内障の進行が認められる症例が増加してくる可能性は十分にあると思われる.そのような症例には,ICLによる虹彩色素散布のリスク軽減,隅角開大による眼圧安定化と将来に控える隅角手術のため,ICL抜去を行うことが選択肢としてあげられるが,ICL抜去に伴う視機能低下もあり,初回治療として行うかは議論のあるところである.ICL挿入眼に緑内障の進行がみられた場合は,患者へさまざまなリスクと可能性を説明したうえで治療方針を決定するべきと考える.また,ICL挿入前の緑内障精査は非常に重要であり,将来の緑内障発症のリスクを考えると適応は慎重に検討されるべきである13).CIII結論ICL挿入後には隅角狭小化や眼圧上昇,色素散布緑内障のリスクが存在し,これに対する長期的な経過観察が必要とされる.とくに隅角の狭小化は経年的な変化が影響を及ぼす可能性があり,視野障害が進行するCICL挿入眼の緑内障に対しては,本症例のようにCICLを抜去するという選択肢もありうる.また,ICL挿入前の緑内障精査と適切なリスク評価が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShimizuCK,CKamiyaCK,CIgarashiCACetal:Long-termCcom-parisonofposteriorchamberphakicintraocularlenswithandCwithoutCaCcentralhole(holeCICLCandCconventionalICI)implantationCforCmoderateCtoChighCmyopiaCandCmyo-picastigmatism:Consort-compliantartick.Medicine(Bal-timore)95:e3270,C20162)PackerM:TheCimplantableCcollamerClensCwithCaCcentralport:reviewoftheliterature.ClinOphthalmolC27:2427-2438,C20183)YeY,ZhaoJ,NiuLetal:Long-termevaluationofante-riorClensCdensityCafterCimplantableCcollamerClensCV4cCimplantationCinCpatientsCwithCmyopicaCoverC40CyearsCold.CBrJOphthalmolC106:1508-1513,C20224)ZhangCH,CGongCR,CZhangCXCetal:AnalysisCofCperiopera-tiveCproblemsCrelatedCtoCintraocularCimplantableCcollamerlens(ICL)implantation.CIntCOphthalmolC42:3625-3641,C20225)TangC,SunT,SunZetal:Evaluationofbiometricindi-catorsofanteriorsegmentparametersafterICLimplanta-tionbyswept-sourceopticalcoherencetomography.BMCOphthalmolC23:193,C20236)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryCglaucomaCinCaCJapaneseCpopulation.COphthalmologyC112:1661-1669,C20057)KashiwagiCK,CTokunagaCT.CIwaseCACetal:UsefulnessCofCperipheralCanteriorCchamberCdepthCassessmentCinCglauco-mascreening.Eye(Lond)C19:990-994,C20058)YeCC,CPatelCCK,CMomontCACCetal:AdvancedCpigmentCdispersionglaucomasecondarytophakicintraocularcolla-merlensimplant.AmJOphthalmolCaseRepC10:65-67,C20189)Abela-FormanekCC,CKrugerCAJ,CDejaco-RuhswurmCICetCal:GonioscopicCchangesCafterCimplantationCofCposteriorCchanberClensCinCphakicCmyopicCeyes.CJCCataractCRefractCSurgC27:1919-1925,C200110)RameshCPV,CParthasarathiCS,CAzadCACetal:ManagingCpigmentCdispersionCglaucomaCpostbilateralCICLCImplanta-tionCinhighCmyopia:aCcaseCreportConCtheCcrucialCroleCofCgonioscopyincorrectingamisdiagnosis.JCurrGlaucomaPractC18:31-36,C202411)MitchellCP.CHourihanCF.CSandbachCJCetal:TheCrelation-shipCbetweenCglaucomaCandmyopia:theCBlueCMountainCEyeStudy.OphthalmologyC106:2010-2015,C199912)DayanYB,LevinA,MoradYetal:Thechangingpreva-lenceCofCmyopiaCinCyoungadults:AC13-yearCseriesCofCpopulation-basedCprevalenceCsurveys.CInvestCOphthalmolCVisSciC46:2760-2765,C200513)SenthilCS,CChoudhariCNS,CVaddavalliCPKCetal:EtiologyCandCmanagementCofCraisedCintraocularCpressureCfollowingCposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationinmyopiceyes.PLoSOneC11:e0165469,C2016***

原発性アルドステロン症および虚血性心疾患に伴いParacentral Acute Middle Maculopathyを呈した2例 

2025年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科42(5):618.624,2025c原発性アルドステロン症および虚血性心疾患に伴いParacentralAcuteMiddleMaculopathyを呈した2例円谷康佑柳田智彦庄司信行北里大学病院眼科CTwoCasesofParacentralAcuteMiddleMaculopathyAssociatedwithPrimaryAldosteronismandIschemicHeartDiseaseKosukeTsumuraya,TomohikoYanagitaandNobuyukiShojiCDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospitalC目的:原発性アルドステロン症および虚血性心疾患にそれぞれ続発した傍中心窩急性中間層黄斑症(PAMM)のC2例を報告する.症例:症例C1はC55歳,女性.3日前から左眼の見づらさを自覚して近医を受診し,北里大学病院へ紹介された.矯正視力は両眼ともC1.2であった.左眼黄斑鼻側に網膜の淡い白濁を認め,光干渉断層計(OCT)で病巣部の網膜中間層に高輝度な変化があり,PAMMと診断した.筆者の施設(以下,当院)での初診時血圧C230/111CmmHgであり,原発性アルドステロン症Coおよび脂質異常症の診断となった.症例C2はC57歳,男性.1カ月に左心室内血栓を指摘され,ヘパリンとワーファリンで加療された.7日前から左眼の中心左上に霧視を自覚したため当院を受診.矯正視力は両眼ともC1.5であった.左眼視神経乳頭から黄斑にかけて帯状の白濁を認めた.OCTで視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚を,黄斑近傍は網膜中間層の高輝度変化を呈しており,前者は網膜動脈分枝閉塞症(BRAO),後者はBRAOに伴うCPAMMと診断した.結論:症例C1は原発性アルドステロン症をCPAMMの原因として直接関連付けて報告した初の症例であり,PAMMが原発性アルドステロン症を含む未診断の高血圧症の発見につながる可能性を示唆した.症例C2はCPAMMが虚血性心疾患に続発したことを示唆した.CPurpose:Toreporttwocasesofparacentralacutemiddlemaculopathy(PAMM)secondarytoprimaryaldo-steronismandischemicheartdisease,respectively.Cases:Case1involveda55-year-oldfemalewhowasreferredtoCKitasatoCUniversityCHospitalCbyCherClocalCdoctorCafterCdecreasedCvisionCoccurredCinCherCleftCeye.CHerCbest-cor-rectedCvisualacuity(BCVA)wasC1.2CinCbothCeyes,CyetCaCfaintCretinalCopaci.cationCwasCobservedConCtheCleft-eyemaculaandopticalcoherencetomography(OCT)revealedhigh-intensitychangesintheretinalintermediatelayer,thusleadingtoadiagnosisofPAMM.Herbloodpressurewas230/111CmmHg,andshewasdiagnosedwithprima-ryaldosteronismanddyslipidemia.Case2involveda57-year-oldmalewhowastreatedwithheparinandwarfarinforCaCleftCventricularCthrombusC1CmonthCpriorCtoCinitialCpresentationCatCourChospitalCdueCtoCpartialCblurredCvisionCoccurringinhislefteye.HisBCVAwas1.5inbotheyes.Aband-likeopaci.cationwasobservedinthelefteye.OCTrevealedthickeningoftheretinalinnerlayerbelowtheopticdisc,andhigh-intensitychangesintheretinalintermediateClayerCnearCtheCmacula,CthusCleadingCtoCaCdiagnosisCofCbranchCretinalCarteryocclusion(BRAO)andCPAMM,respectively.Conclusion:InCase1,weencountered,tothebestofourknowledge,the.rstknowncasedirectlylinkingprimaryaldosteronismasacauseofPAMM,suggestingthatPAMMmayleadtothediscoveryofundiagnosedChypertension,CincludingCprimaryCaldosteronism,CandCtheC.ndingsCofCCaseC2CshowCthatCPAMMCcanCoccursecondarytoischemicheartdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(5):618.624,C2025〕Keywords:傍中心窩急性中間層黄斑症,光干渉断層計,高血圧,原発性アルドステロン症,虚血性心疾患.paracen-tralCacuteCmiddleCmaculopathy,CopticalCcoherenceCtomography,Chypertension,CprimaryCaldosteronism,CischemicCheartCdisease.C〔別刷請求先〕円谷康佑:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:KosukeTsumuraya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC618(118)はじめに傍中心窩急性中間層黄斑症(paracentralCacuteCmiddlemaculopathy:PAMM)とは,2013年にCSarrafら1)が報告した急性の視力・視野障害をきたす病態であり,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で急性期の傍中心窩における網膜中間層(内顆粒層,外網状層)の高輝度病変が特徴的である.検眼鏡で網膜の浮腫状の色調変化を認めることもあるが,異常所見がないこともある1,2).PAMMは一つの疾患というより病態であり,網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)や網膜動脈閉塞症(retinalCarteryocclusion:RAO),糖尿病網膜症,さらには高血圧や貧血など,網膜の虚血をきたすさまざまな病因によって生じる2).当院でC2019年C11月.2022年C11月に経験した,原発性アルドステロン症および虚血性心疾患にそれぞれ続発したと考えられるCPAMMのC2例を報告する.CI症例[症例1]患者:55歳,女性.主訴:左眼の中心近傍の視力低下.現病歴:3日前から左眼の中心近くの視力低下を自覚して,2日前に近医を受診し,網膜動脈分枝閉塞症(branchRAO:BRAO)を疑われ,北里大学病院へ紹介受診となった.眼科既往歴:なし.初診時眼所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph.1.50D),左眼1.0(1.2C×sph.0.50D),眼圧は右眼C16mmHg,左眼C16mmHgであった,両眼ともに前眼部および中間透光体に異常所見はなかった.眼底所見として,右眼底に異常はなかったが,左眼黄斑の鼻側に網膜の淡い白濁(図1a)を認めた.黄斑部COCT(TOPCONDRIOCTTriton,トプコン製)で,白濁部位に一致して内顆粒層を中心とした網膜中間層の高輝度な変化(図1b)を生じていた.OCTA(同上)では高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナルが低下(図1c)しており,PAMMと診断した.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)検査を施行したが,造影遅延や造影不良を認めなかった.淡い白濁病変は,網膜中間層の虚血によるものと考えられた.Humphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では網膜病変と対応する中心やや耳側に感度低下(図2a)を認めた.図1症例1の左眼眼底写真とOCTおよびOCTA画像a:左眼眼底写真黄斑鼻側に淡い白濁を認める.Cb:OCT画像.内顆粒層を中心とした網膜中間層の高輝度変化を認める.Cc:OCTA画像.高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナル低下を認める(C→).d:発症C2週間後.網膜中間層の高輝度領域は減少したが残存している(上が初診時,下がC2週間後).ab図2症例1のHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心10-2)a:初診時.網膜病変と対応する中心やや耳側に感度低下を認める.Cb:発症C9カ月後.中心やや耳側の感度低下はわずかに残存している.経過:患者は既往歴なしとの認識であったが,健診を受けておらず,当院初診時血圧がC230/111CmmHgと著明な高血圧を呈していた.内科を受診したところ原発性アルドステロン症,高コレステロール血症と診断された.発症C2週間後,網膜中間層の高輝度領域は減少し残存(図1d)した一方,自覚症状は軽快した.発症C9カ月後に施行したCHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では中心やや耳側の感度低下(図2b)はわずかに残存した.[症例2]患者:57歳,男性.主訴:左眼霧視.現病歴:上記眼症状発症C3週間前に心筋梗塞で他院循環器内科に入院,心エコーで左室にC2個の血栓が指摘されてヘパリンとワーファリンにて加療された.入院治療開始C2週間後に左眼でまぶしい物を見ると残像や白い雲のような物が見える症状を自覚したが,入院中に眼科受診の機会はなく,眼症状自覚C4日後に退院となった.退院C3日後,すなわち眼症状図3症例2の左眼眼底写真とOCTおよびOCTA画像a:左眼視神経乳頭近傍に軟性白斑(→)を,黄斑下鼻側にCPAMM(C▲)を認める.Cb:視神経乳頭下耳側(上)は網膜内層肥厚を,黄斑近傍(下)は網膜中間層の高輝度変化(b)を呈している.Cc:視神経乳頭下耳側は深層網膜毛細血管網の血流シグナルが低下している(C→)が,黄斑近傍の血流シグナルの変化は明らかでない.Cd:発症C3週間後に網膜中間層の高輝度領域は減少し,自覚症状は軽快した(上が初診時,下がそのC2週間後).発症C7日後に当院を予約外受診した.当院でC12年前に両眼レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratecto-my:PRK)の既往があり,フォローのため年C1回通院している.眼科既往歴:両眼CPRK(12年前).初診時眼所見:視力は右眼C1.5(矯正不能),左眼C0.7(1.5C×sph.0.50D(cyl.0.50DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼C12CmmHgであった,両眼ともに前眼部および中間透光体に異常所見はなかった.眼底所見として,右眼眼底に異常はなかったが,左眼視神経乳頭と黄斑の間に網膜の淡い白濁(図3a)を認めた.黄斑部COCTで,視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚を,黄斑近傍は網膜中間層の高輝度変化(図3b)を呈しており,前者はCBRAO,後者はCBRAOに伴うPAMMと診断した.OCTAでは視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚の血流シグナルが低下(図3c)していたが,黄斑近傍の血流シグナルの変化は明らかでなかった.経過:網膜中間層の高輝度病変と自覚症状は発症C2週間後図4症例2のHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心10-2)発症C3カ月後に初めて施行した視野検査では中心耳側上方の視野欠損が認められた.には軽快傾向となった(図3d)が,多少の靄の自覚が残存している.その後CPAMM発症C2カ月後に撮影した冠動脈血管造影(coronaryangiography:CAG)で多枝病変を指摘され,冠動脈バイパス手術を施行された.PAMM発症C3カ月後に初めて施行したCHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では中心耳側上方の視野欠損(図4)が認められた.CII考按PAMMの病変部位である網膜中間層(内顆粒層,外網状層)は網膜内循環,脈絡毛細血管板のいずれからも遠く,虚血の影響を受けやすい層であるため,主要血管の閉塞がなくても血流低下だけで虚血状態に陥る.発症機序からも臨床で遭遇する可能性が高く,11カ月の間でC5例経験したという報告もある3).PAMMは,網膜浅層を主座とする軟性白斑やCBRAOと比較するとより深い層に生じるため,網膜の色調はより淡く,辺縁もより不明瞭となる2).症例C2では左眼視神経乳頭近傍のCBRAOより,黄斑周辺のCPAMMのほうが淡く,辺縁不明瞭である(図3a).それに対応してCOCTでは,前者は網膜内層,後者は網膜中間層に高輝度変化(図3b)を呈する.症例C1のCOCTAではCOCTでの高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナルの低下(図1c)が認められた一方で,FAでは深層毛細血管網の虚血を検出できないため,灌流不全の所見は得られなかった.症例C2のCOCTAでは視神経乳頭下耳側のCBRAOの領域は深層網膜毛細血管網の血流シグナル低下を示しているが,PAMMの領域においては血流シグナルの低下(図3c)は明らかでなかった.症例C2ではCFAを施行しなかった.PAMMにおけるCOCTA所見の経過報告としては,深層網膜毛細血管網の血流シグナルは発症後数日から数週間で回復することが報告されており4),症例C2においてCPAMMの領域に血流シグナル低下が認められなかったのは,発症後C7日経過して血流が回復したものと推定される.PAMMの視力予後は良好から高度の低下までさまざまであるが2),今回の症例では矯正視力自体は良好なものの,軽度視野欠損の自覚および静的視野検査での所見は残存した.Rahimyらによると,PAMMは特発性と続発性に分類される2).続発性CPAMMがCRVOやCRAO,糖尿病網膜症といった網膜血管疾患に伴う場合は,その網膜血管疾患の部分所見と位置づけられ,他の網膜所見を伴うため診断はつきやすいが,原因が特定されていない場合には高血圧や糖尿病,貧血といった全身疾患の検索が求められる.他方,続発性PAMMが外因性であり,かつ他の網膜所見を伴わない場合には,病歴聴取や全身疾患の検索によって初めてその原因が特定される.偏頭痛やアンフェタミン,カフェインや経口避妊薬といった薬剤,急性上気道炎やインフルエンザワクチン接種に加え2,5),最近ではCCOVID-19に伴うCPAMMも報告されている6).また,27人の心血管リスクの低い高血圧症患者とC24人の健常者を対象とした研究では,内顆粒層の菲薄化と外網状層の破壊として定義されるCPAMM後の変化が高血圧症患者のC88.9%で認められたと報告されており7),PAMMの病態が高血圧患者において非常に多くみられ,高血圧網膜症を含む高血圧患者における網膜微小循環の初期変化を示している可能性がある.PubMedと医中誌で「原発性アルドステロン症」と「PAMM」のC2単語を検索語句として検索したところ,該当論文がC0件であったことから,本症例C1はCPAMM診断を契機に原発性アルドステロン症が診断された初の症例である可能性がある.症例C1は著明な高血圧に患者本人が気づかずに生活しており,PAMMによる見えづらさを自覚して眼科を受診した結果,高血圧が判明し,内科を受診して原発性アルドステロン症,高コレステロール血症が発見されたことからも,PAMMを診断した際の全身的な原因検索の重要性が示唆される.血圧C230/111CmmHgは高血圧症の中でも最重度のCIII度高血圧(収縮期血圧C.180CmmHgまたは拡張期血圧C.110CmmHg)であり,慢性的に全身の血管に過大な負荷をかけ続け,高コレステロール血症とも相まって動脈硬化を促進し,脳卒中や虚血性心疾患といった生命予後に直結する疾患に罹患するリスクを高める.その一方で,高血圧緊急症を引き起こさない限り高血圧のみでは自覚症状が乏しく,健診や医療機関受診がないと長期間発見されない8).眼科ですべての網膜疾患患者に血液検査を行うのはあまり現実的ではないが,血圧測定は侵襲なく簡便に行うことができるため,未治療の高血圧症の早期発見に資することができると考えられる.本症例C2は心筋梗塞発症からC3週間で視覚症状が自覚されている.PAMMは網膜毛細血管の虚血であり,脳動脈瘤に対するコイル塞栓術やステント留置術後に発症したとの報告もある9).本症例C2は虚血性心疾患が先行しており,左室の血栓の一部がヘパリンやワーファリン投与後に遊離して微小血栓として網膜の毛細血管を塞栓した可能性と,ヘパリンやワーファリン投与によって他の動脈のプラークに付着した微小血栓が網膜まで至った可能性が疑われる.いずれにしても動脈硬化/虚血性心疾患がCPAMMの原因として矛盾ないといえ,PAMMが虚血性心疾患の発症ないし増悪を示唆している.ただし,脳血管疾患や虚血性心疾患それ自体ではなく,それらに対する血管内治療や抗血栓療法が副作用としてPAMMを誘発した可能性も否定できない.OCTの進歩によりCPAMMという病態が検出可能になったことによって,より病態が進行しCBRAOや網膜出血といった状態に至る前の軽度な段階で全身疾患を発見する契機が拡大した.PAMMが高血圧や虚血性心疾患と関連して発症することは発症機序の点からもまれではないと考えられるが,全身既往歴を聴取しないとそれら疾患を眼科医は把握できない場合も多い.PAMMなどの網膜虚血性病変を認めた際には,まず全身既往歴を聴取し,それでも当該病変を説明しうる既往歴がない場合には,血圧測定や状況によっては血液検査を含む対応を検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarrafCD,CRahimyCE,CFawziCAACetal:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathy:aCnewCvariantCofCacuteCmacularCneuroretinopathyCassociatedCwithCretinalCcapillaryCisch-emia.JAMAOphthalmolC131:1275-1287,C20132)RahimyCE,CKuehleweinCL,CSaddaCSRCetal:ParacentralCacutemiddlemaculopathy:whatweknewthenandwhatweknownow.RetinaC35:1921-1930,C20153)小笠原千尋,建林美佐子,外山裕志ほか:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathyを呈したC5例.臨眼72:529-536,C20184)伊藤潤,原千佳子,若林卓ほか:光干渉断層血管撮影にて血流改善が観察できた網膜中心動脈閉塞症による一過性網膜虚血に伴うCparacentralacutemiddlemaculopathyCの1例.日眼会誌125:732-737,C20215)ChenX,RahimyE,SergottRCetal:SpectrumofretinalvasculardiseasesassociatedwithparacentralacutemiddleCmaculopathy.AmJOphthalmolC160:26-34,C20156)TeoKY,InvernizziA,StaurenghiGetal:COVID-19-re-latedCretinalCmicro-vasculopathy-aCreviewCofCcurrentCevi-dence.AmJOphthalmolC235:98-110,C20227)BurnashevaMA,MaltsevDS,KulikovANetal:Associa-tionCofCchronicCparacentralCacuteCmiddleCmaculopathyClesionswithhypertension.OphthalmolRetinaC4:504-509,C20208)GauerR:SevereasymptomaticChypertension:evaluationCandtreatment.AmFamPhysicianC95:492-500,C20179)林孝彰,飯田由佳:未破裂内頸動脈瘤に対するフローダイバーターステント留置術後に網膜内層虚血に伴うCpara-centralacutemiddlemaculopathyを発症したC1例.あたらしい眼科C39:1281-1287,C2022***

Descemet膜角膜内皮移植術(DMEK)後の眼圧推移の検討

2025年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科42(5):613.617,2025cDescemet膜角膜内皮移植術(DMEK)後の眼圧推移の検討武田将人*1,2林孝彦*1,3井田泰嗣*1,2水木悠喜*1,2清水俊輝*2,3黒木翼*1,2山上聡*3水木信久*2*1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室*3日本大学医学部視覚科学系眼科学分野CExaminationofIntraocularPressureChangesafterDescemetMembraneEndothelialKeratoplasty(DMEK)MasatoTakeda1,2)C,TakahikoHayashi1,3)C,YasutsuguIda1,2)C,YukiMizuki1,2)C,ToshikiShimizu2,3)C,TsubasaKuroki1,2)C,SatoruYamagami3)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchooolofMedicineC目的:角膜移植後は拒絶反応抑制のため,副腎皮質ステロイド点眼の使用が不可欠であり,術後の眼圧上昇や緑内障が問題となる.Descemet膜角膜内皮移植術(DMEK)術後では拒絶反応が低いことが報告されており副腎皮質ステロイド点眼の使用を減らせる可能性があるが,アジアからの報告はない.本研究では日本人眼におけるCDMEK術前後での眼圧変化の推移を検討したので報告する.結果:対象眼はC91眼,術前眼圧は平均C12.1CmmHgであった.術後平均眼圧は,1週間後:12.7CmmHg,1カ月後:10.7CmmHg,3カ月後:12.8CmmHg,6カ月後:12.9CmmHg,12カ月後:12.7CmmHg,24カ月後:12.1CmmHg,36カ月後C12.4CmmHg,48カ月後C14.1CmmHg,60カ月後C13.3CmmHg,であった.術後どの測定時点においても,有意な眼圧変化は認めなかった.結論:DMEKの眼圧に対する影響は軽微であることが示唆された.CPurpose:AfterCcornealCtransplantation,CcorticosteroidCadministrationCisCessentialCtoCpreventCrejectionCofCtheCimplantedCcornealCgraft.CMoreover,CcornealCtransplantationCincreasesCtheCriskCofCincreasedCintraocularCpressure(IOP)andglaucoma,regardlessofthemethodofkeratoplastyused.ComparedwithpenetratingkeratoplastyandDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty,CDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty(DMEK)isClessCinvasiveCandCisCalsoCreportedlyCassociatedCwithCaClowerCprobabilityCofCincreasedCIOPCandCglaucomaCpostCsur-gery.Inthisstudy,weinvestigatedchangesinIOPbeforeandafterDMEKsurgeryinJapaneseeyes.Rsesults:CThisCstudyCinvolvedC91CeyesCthatCunderwentCDMEK,CandCtheCaverageCpreoperativeCIOPCwasC12.1CmmHg.CConclu-sion:Nosigni.cantchangesinIOPwereobservedatanytime-pointofthepostoperativefollow-upperiod,thussuggestingthatDMEKhasonlyaminore.ectonIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(5):613.617,C2025〕Keywords:Descemet膜角膜内皮移植術(DMEK),眼圧上昇,緑内障.Descemetmembraneendothelialkerato-plasty(DMEK)C,increasedintraocularpressure,glaucoma.CI背景Descemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendo-thelialkeratoplasty:DMEK)は,角膜内皮細胞とCDes-cemet膜を移植する手術方法である.DMEKは他の術式と比較して視機能がよく,拒絶反応が起こりにくいため,長期的な透明治癒率が良好であるといわれている1.4).角膜移植術の術後合併症のうち,眼圧上昇は失明につながりうる重要な合併症の一つであり,全層角膜移植術以外のどの手術方法においても起こりうる5).DMEKにおける術後の眼圧上昇の機序は,早期タイプと後期タイプに分けられることが知られている6.8).〔別刷請求先〕武田将人:〒236-0037神奈川県横浜市金沢区六浦東C1-21-1横浜南共済病院眼科Reprintrequests:MasatoTakeda:DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,1-21-1MutsuurahigashiKanazawa,Yokohama,Kanagawa236-0037,JAPANC術後早期の眼圧上昇の重要なメカニズムは,気泡による隅角閉塞である.DMEKでは移植片の接着のため,前房内に気泡を注入し仰臥位を保持する.前房内の気泡が瞳孔ブロックを生じる恐れがあるため,周辺虹彩切除も行われる.術後後期の眼圧上昇のメカニズムとしては,ステロイド誘発性緑内障および持続的な炎症があげられる.ステロイドのDMEK術後の使用は,内皮拒絶反応を予防し,移植片の生存を維持するために不可欠であるが,長期的な使用によりステロイド誘発性の眼圧上昇を引き起こす.また,DMEK術後の炎症が長期間持続する場合には,虹彩前癒着が形成され,隅角を閉塞し眼圧上昇をきたす6.8).DMEK後の眼圧上昇についての既報は,MaierらのC2014年,2021年の報告を除いては希少であり,DMEK術後C36カ月以上の長期にわたる眼圧の推移の報告はアジアではいまだなく,またこれまでの報告は欧米諸国からのものであった7,9).本研究では,アジア人患者におけるCDMEK術前後の眼圧の推移について,36カ月以上の長期にわたり観察し検討を行った.CII方法本研究は,DMEKを施行されたアジア人における後向きコホート研究であり,横浜南共済病院倫理委員会より承認を得て実施した(承認番号:1-19-11-11).対象者は,2015年C1月.2021年C2月に横浜南共済病院にてCDMEKを施行された患者である.既往に緑内障があっても,点眼で眼圧コントロールが良好である場合には検討対象とした.すべてのDMEKは同一術者により行った.また,通院を中断した患者やドナー由来の原発性移植片機能不全と判断された患者は除外した.手術は点眼,瞬目,球後麻酔下で行った.まず,ドナー移植片をC0.06%トリパンブルーまたはC0.1%ブリリアントブルーCG(BBG)にて染色し(2016年C1月以降CBBGを使用),各症例に応じたサイズ径で移植片を作製した.次に,3カ所のサイドポートとC2.8Cmm上方強角膜切開を行い,8Cmm径大でCDescemet膜.離を行ったのち,下方最周辺部に虹彩切除を行った.採取した移植片を眼内レンズ挿入器具(アキュジェクトユニフィット)に装.し,前房内へ移植片を挿入した.その後,空気あるいはC20%六フッ化硫黄(SCF6)ガスで移植片の展開・固定を行い手術終了とした(SFC6ガスはC2017年C10月以降に使用).術後は移植片の生着を促すため,一定期間は仰臥位の保持を指示した.角膜上皮浮腫の強い患者では,視認性改善のために上皮.離除去を行った.すべての患者は,標準的なプロトコールに従い経過観察のための診察を受けた.気体の再注入は,大きく進行する移植片.離を瞳孔領域に認めた場合に行われた.DMEK術直後から,前房内の気泡がある限り仰臥位の保持を継続した.移植片が.離した場合には,20%CSFC6ガスの追加注入を行った.術後療法としてベタメタゾンリン酸ナトリウムC0.1%(ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼科耳鼻科用液C0.1%),レバミピドC2%(ムコスタ点眼液CUD2%),レボフロキサシン水和物C1.5%(レボフロキサシン点眼液C1.5%)をC1日C4回,ブロムフェナクナトリウム水和物C0.1%(ブロナック点眼液0.1%)をC1日C2回点眼継続した.術後炎症が改善したのち,べタメタゾンリン酸ナトリウムC0.1%をフルオロメトロンC0.1%(フルオロメトロン点眼液C0.1%)に変更した.術後の検査は細隙灯顕微鏡,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)RS-3000(ニデック)を使用した.眼圧が術前と術後の両方ですべての眼において評価された.眼圧測定は,iCareIC200(以下,iCare,IcareCFin-land社)を使用してC1回測定された.本研究においては,iCareによる眼圧測定のバラつきを抑えるために特定の検査員が測定を行った.DMEK後の眼圧上昇は,眼圧≧22mmHg,またはベースライン眼圧からC10CmmHg以上の眼圧の増加と定義した.眼圧は,DMEKのC1週間後,1,2,3,6カ月後,そしてその後はC6カ月ごとに,iCareを使用して測定した.眼圧上昇をきたして抗緑内障薬を投与,もしくは緑内障手術を要した症例も眼圧値は実測値のまま解析を行った.CIII統計解析表作成において,量的変数と平均(標準偏差)と中央値(範囲:最小値-最大値)で要約し,質的変数を頻度と%で表現した.各時点の眼圧(術前,術後C1週間,1カ月,3カ月,6カ月,以降C6カ月ごと)を,術前眼圧を対照群とし多重比較検定であるCDunnett検定を行った.p値<0.05を統計的に有意であると規定した.統計分析は,JMPProバージョン16.2.0(SASInstitute)を使用して行った.CIV結果DMEKを受けたC91眼の連続症例(男性C32人,女性C59人,右眼C52眼,左眼C39眼)を解析した.表1にCDMEKを施行された症例の術前の特徴を示す.平均年齢はC74.9C±7.4歳,平均観察期間はC31.2C±16.1カ月,平均眼軸長はC23.5C±1.6Cmmであった.すべての眼はCDMEK施行時に眼内レンズ挿入眼であった.術前視力はClogMAR視力C0.79C±0.50,術前眼圧はC12.6C±0.4CmmHgであった.DMEKの適応疾患は,Fuchs角膜内皮ジストロフィ(n=27),原発閉塞隅角症(primaryCangleclosure:PAC)に伴う角膜内皮障害(n=27),落屑症候群(n=14),無水晶体眼水疱性角膜症(n=9),偽水晶体眼水疱性角膜症(n=7),ぶどう膜炎(n=2),虹彩角膜内皮症候群(ICE症候群)(n=2),全層角膜移植後の内皮機能不全(n=2),鉗子分娩(n=1)であった.術前に緑内障を指摘されていた症例はC19例あり,原発閉塞隅角緑内障,原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,正常眼圧緑内障,続発緑内障の順に多かった.そのうち術前に抗緑内障薬を点眼していたのはC17例であった.術前に緑内障手術を受けた症例は,レーザー虹彩切開術がC91例中C15例,トラベクレクトミーおよび選択的レーザー線維柱帯形成術を受けた症例がC1例であった.図1にCDMEK術後の平均眼圧の推移を示す.術後のいずれの時点でも術前眼圧と比較して有意な平均眼圧の上昇を認めなかった.急性期タイプの眼圧上昇はC6例認められたが,発症早期の処置により正常化した.再CbubblingはC24例(26%)で施行した.術後C1カ月後以降の後期に術前眼圧と比較してC10mmHg以上の眼圧上昇を認めた頻度はC19例(21%)であった.それらは術後C1.48カ月後に認められ,平均C9.7カ月,中央値はC5カ月だった.そのうちC16例(86%)については,早期にベタメタゾンからフルオロメトロンC0.1%に点眼が変更され,眼圧下降薬の点眼を開始し,正常眼圧となった.91例中C3例で眼圧コントロールが不良となり緑内障手術を施行した.3例はいずれの症例も術前に落屑緑内障を有していた.術式はCBaerverdtがC1例(術後C8カ月),Ahmed緑内障バルブインプラントがC1例(術後C12カ月),谷戸氏マイクロフックを用いたトラベクロトミー(術後C6カ月)がC1例であった.トラベクロトミーを行った症例は過去にトラベクレクトミーと選択的レーザー線維柱帯形成術を施行されていた.他のC2例は過去に緑内障手術の既往はなかった.いずれも術後は良好な眼圧コントロールを得た.術前から抗緑内障点眼を投与されていたのはC17眼であったが,それらの症例の術前の平均点眼本数はC1.81本,術後C1年での点眼本数は1.13本であった.CV考按本研究では平均観察期間C31.2カ月と長期に渡り,アジア人集団でのCDMEK術後の平均眼圧の推移を観察した.いずれの時期でも有意な平均眼圧の上昇を認めなかった.角膜移植後は移植片拒絶反応抑制のため,副腎皮質ステロイド点眼が必要であり,それによる術後の眼圧上昇や緑内障が問題となる.そのなかでCDMEK術後の拒絶反応率は非常に低く(約C1%)10,11),DMEKのC1カ月後に術後点眼薬を強ステロイド点眼から弱ステロイド点眼に変更したが,移植片拒絶反応率の上昇は観察されなかった.さらに,弱ステロイド点眼に変更することで眼圧の上昇と緑内障のリスクが減少することが報告されている.Priceら表1本研究に登録されたDescemet膜角膜内皮移植術適応症例の術前の臨床的特徴患者背景C性別男:女32:5C9人右眼:左眼52:3C9眼年齢,mean±SDC74.9±7.4歳Total観察期間,mean±SDC31.2±16.1カ月(n=91)眼軸長,mean±SDC23.5±1.6Cmm術前視力,logMAR,mean±SDC0.79±0.50術前眼圧,mean±SDC12.6±0.4CmmHgFuchs角膜内皮ジストロフィー30%(n=27)原発閉塞隅角症30%(n=27)落屑症候群15%(n=14)無水晶体眼水疱性角膜症10%(n=9)偽水晶体眼水疱性角膜症8%(n=7)ぶどう膜炎2%(n=2)ICE症候群2%(n=2)診断角膜移植後の内皮機能不全2%(n=2)分娩損傷1%(n=1)既存の緑内障23%(n=19)原発閉塞隅角緑内障8%(n=7)原発開放隅角緑内障5%(n=5)落屑緑内障5%(n=5)正常眼圧緑内障1%(n=1)続発緑内障(ICE症候群)1%(n=1)の報告では,強ステロイドであるプレドニゾロン点眼を継続した群に対して,術後C1カ月で弱ステロイドであるフルオロメトロン点眼に変更した群では,術後C1年で有意に眼圧上昇の頻度が少なかった(22%Cvs6%,p=0.0005)10).本研究でも術後のステロイド点眼は術後炎症の改善を認めた段階でベタメタゾンリン酸エステルC0.1%からフルオロメトロンC0.1%に変更した.ベタメタゾンの平均点眼期間はC7.9C±6.5カ月,中央値はC6.0カ月であった.術後速やかに点眼変更したことにより集団の平均眼圧の上昇を抑制できた可能性がある.本研究においては平均観察期間C31.2カ月の中で約C5人に1人(21.1%)がCDMEK術後に眼圧スパイクを生じていた.既報でもC36カ月でC18.8%の眼圧スパイクが報告されており9),本研究でも同様であることがわかった.本研究では,早急な眼圧下降薬の点眼により,ほとんどの症例で眼圧は正常化していたが,3例(3.2%)で眼圧コントロールがつかず緑内障手術が必要となった.最終的には,すべての症例で正常眼圧となった.既報ではCDMEK術後の眼圧上昇および緑内障の要因として,ステロイド点眼のほかに既往の緑内障,302520眼圧15105Pre平均眼圧(mmHg)12.612.110.712.812.912.712.612.111.912.411.814.114.313.3±0.4±0.4±0.4±0.4±0.4±0.4±0.4±0.5±0.6±0.7±0.8±0.9±1.0±1.5症例数n919191878879726240302116136図1Descemet膜角膜内皮移植術後の平均眼圧*術前眼圧を対象群としたCDunnettの検定:全測定時点;p>0.05C気泡誘発性の機械的隅角閉塞瞳孔ブロック,虹彩前癒着,術前眼圧,術前診断(移植片不全と水疱性角膜症)があげられている4,6,7,9,12).緑内障手術が必要となったC3例はいずれの症例も術前に落屑緑内障を有しており,眼圧上昇のリスクとなっていたと考えられた.DMEK術後の眼圧推移に関する既報は欧米からのものが大多数を占めており,アジア人におけるCDMEK術後経過の報告は少ない.欧米諸国では角膜内皮細胞機能不全の原因としてCFuchs角膜内皮ジストロフィが多く13),それに対してアジア諸国ではCPACに対するレーザー手術や外科手術の割合が多いなどの疫学的な差異もある14).本研究ではアジア人を対象としてCDMEK術後の眼圧推移を検討した.その結果,アジア人においてもCDMEK術後の眼圧上昇リスクが軽微であるが,落屑症候群など一部のハイリスク症例において眼圧コントロールが不良であることが示唆された.CVI本研究の限界本研究では術後炎症が落ち着いた段階でベタメタゾンからフルオロメトロンへ術後点眼を変更した.変更時期が一定ではなかったため,眼圧の推移にバラつきが生じた可能性がある.本研究では眼圧上昇をきたすリスク因子に関しては検討できていない.アジア人における眼圧上昇のリスク因子は既報の西洋諸国において報告されているリスク因子と異なる可能性があり,今後の検討課題である.VII結論本研究ではアジア人集団においてCDMEK術後の観察期間中いずれの時期も有意な集団の平均眼圧の上昇を認めなかった.DMEKはアジア人においても術後長期間にわたり眼圧上昇が生じにくいことが示唆された.ただし,一部の患者では眼圧上昇の危険性があるため注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LiCS,CLiuCL,CWangCWCetal:E.cacyCandCsafetyCofCDes-cemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplastyCversusCDes-cemet’sCstrippingCendothelialkeratoplasty:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CPLOSCONEC12:e0182275,C20172)DengCSX,CLeeCWB,CHammersmithCKMCetal:DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:safetyCandCout-comes:aCreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOphthal-mology.OphthalmologyC125:295-310,C20183)StuartCAJ,CRomanoCV,CVirgiliCGCetal:DescemetC’sCmem-braneendothelialkeratoplasty(DMEK)versusDescemet’CsCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)Cforcornealendothelialfailure.CochraneDatabaseSystRevC6:CD012097,C20184)TrindadeBLC,EliazarG:Descemetmembraneendotheli-alkeratoplasty(DMEK):anCupdateConCsafety,Ce.cacyCandCpatientCselection.CClinCOphthalmolC13:1549-1557,C20195)AndersCLM,CGatzioufasCZ,CGrieshaberMC:ChallengesCinCtheCcomplexCmanagementCofCpost-keratoplastyCglaucoma.CTherAdvOphthalmolC13:25158414211031397,C20216)NaveirasM,DirisamerM,ParkerJetal:Causesofglau-comaCafterCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CAmJOphthalmolC153:958-966,Ce1,C20217)MaierCAK,CWolfCT,CGundlachCECetal:IntraocularCpres-sureCelevationCandCpost-DMEKCglaucomaCfollowingCDes-cemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC252:1947-1954,C20148)RockCD,CBartz-SchmidtCKU,CRockCTCetal:AirCbubble-inducedChighCintraocularCpressureCafterCDescemetCmem-braneCendothelialCkeratoplasty.CCorneaC35:1035-1039,C20169)MaierAB,PilgerD,GundlachEetal:Long-termresultsofCintraocularCpressureCelevationCandCpost-DMEKCglauco-maCafterCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CCorneaC40:26-32,C202110)PriceCMO,CPriceCFWCJr,CKruseCFECetal:RandomizedcomparisonCofCtopicalCprednisoloneCacetate1%CversusC.uorometholone0.1%CinCtheC.rstCyearCafterCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty,CCorneaC33,C880-886,C201411)SchrittenlocherCS,CSchaubCF,CHosCDCetal:EvolutionCofCconsecutiveDescemetmembraneendothelialkeratoplastyoutcomesCthroughoutCaC5-yearCperiodCperformedCbyCtwoCexperiencedCsurgeons.CAmCJCOphthalmolC190,C171-178,C201812)MaierCAK,CGundlachCE,CGonnermannCJCetal:Retrospec-tiveCcontralateralCstudyCcomparingCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplastyCwithCDescemetCstrippingCauto-matedCendothelialkeratoplasty.CEye(Lond)C29:327-332,C201513)EyeBankAssociationofAmerica:2014eyebankingsta-tisticalCreport,CEyeCBankCAssociationCofCAmerica,CWash-ingtonD.C.,201514)NishinoCT,CKobayashiCA,CYokogawaCHCetal:AC10-yearCreviewofunderlyingdiseasesforendothelialkeratoplasty(DSAEK/DMEK)inCaCtertiaryCreferralChospitalCinCJapan.CClinOphthalmolC12:1359-1365,C2018***

オルソケラトロジーレンズ使用中に発症した両眼アカントアメーバ角膜炎

2025年5月31日 土曜日

《第60回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科42(5):609.612,2025cオルソケラトロジーレンズ使用中に発症した両眼アカントアメーバ角膜炎森山理佐*1柿栖康二*1松村沙衣子*1鈴木崇*1,2松本直*1堀裕一*1*1東邦大学医学部眼科学講座*2いしづち眼科CACaseofBilateralAcanthamoebaKeratitisAssociatedwithOrthokeratologyLensUseRisaMoriyama1),KojiKakisu1),SaikoMatsumura1),TakashiSuzuki1,2)C,TadashiMatsumoto1)andYuichiHori1)1)DepartmentofOpthalmology,TohoUniversityFacultyofMedicine,2)IshizuchiEyeClinicC目的:オルソケラトロジー(オルソCK)治療経過中に両眼に発症したアカントアメーバ角膜炎を経験したので報告する.症例:19歳,女性.使用レンズは矯正度数が右眼C.4.25D,左眼C.5.00Dであり,13歳時から使用していた.左眼痛を自覚し,近医を受診,オルソCKの中止の指示とC1.5%レボフロキサシン点眼液が処方された.翌日受診時,ヘルペス角膜炎が疑われアシクロビル眼軟膏C3%が開始されたが,発症後C8日後に両眼の眼痛が悪化し,当科紹介となった.初診時矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.5Cp)であった.両眼とも放射状角膜神経炎,角膜中央のレンズ圧迫部に沿った浸潤を認め,アカントアメーバ角膜炎を疑い治療を変更した.後日,両眼の角膜擦過物およびレンズケース保存液の培養検査にてアカントアメーバが検出された.治療開始C12週間後には矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.0)まで改善した.結論:オルソCK使用には,ガイドラインを遵守したレンズ処方や適切なレンズケアが必要である.CPurpose:ToreportacaseofbilateralAcanthamoebakeratitis(AK)associatedwithorthokeratology(ortho-K)lenstreatment.Case:Thisstudyinvolveda19-year-oldfemalepatientwhohadbeenwearingortho-KlensessinceCtheCageCofC13,CwithCcorrectiveCpowersCofC.4.25DODand.5.00DCOS.CSheCinitiallyCvisitedCaCnearbyCclinicCdueCtoCexperiencingCpainCinCherCleftCeye,CandCwasCinstructedCtoCdiscontinueCorthoCKCuseCandCprescribed1.5%Clevo.oxacineyedrops.Thefollowingday,shewasdiagnosedwithsuspectedherpeskeratitis,andtreatmentwith3%acyclovirophthalmicointmentwasstarted.However,8daysaftertheonsetofsymptoms,theeyepaininbotheyesworsened,promptingherreferraltoourdepartment.Atinitialpresentation,hercorrectedvisualacuity(VA)Cwas1.0CODand0.5COS,andradialcornealneuritisandin.ltrateswereobservedalongthecentralcornealpressurezonesinbotheyes,leadingtoadiagnosisofAK.Later,culturetestsofcornealabrasionsandlens-casepreserva-tionC.uidCinCbothCeyesCcon.rmedCtheCpresenceCofCAcanthamoeba.CAtC12-weeksCpostCtreatment,CtheCpatient’sCcor-rectedVAimprovedto1.2CODand1.0COS.Conclusion:Thiscasehighlightstheimportanceofadheringtoproperlensprescriptionsinaccordancewithestablishedguidelinesandprovidingeducationonappropriatelenscare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(5):609.612,C2025〕Keywords:オルソケラトロジー,アカントアメーバ角膜炎.orthokeratology,Acanthamoebakeratitis.はじめにオルソケラトロジー(以下,オルソCK)は,高酸素透過性素材を材料に作製されたリバースジオメトリーとよばれる特殊なデザインをもつハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)であり,就寝時に装用し,角膜中央部を平坦化させることにより近視矯正を行う.近年の小児における近視治療の需要の増加に伴い,世界中で低年齢層への処方が増加している1).オルソCKの重症合併症として感染性角膜炎があげられ,Wattらの報告によると,オルソCKによる感染性角膜炎のC123症例のうちC46例(38%)が緑膿菌,41例(33%)がアカントアメーバであり,2大起因菌とされている2).日本のガイドラインでは,感染性角膜炎対策として界面活性剤によるこすり洗いとポピドンヨード剤による消毒,そして,水道水によるレンズケースの洗浄・すすぎ,その後の乾燥と〔別刷請求先〕柿栖康二:〒143-8541東京都大田区大森西C6-11-1東邦大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KojiKakisu,M.D.,DepartmentofOpthalmology,TohoUniversityFacultyofMedicine,6-11-1,Omorinishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPANC定期的な交換を推奨している3).オルソCKの酸素透過性CHCLを使用している患者では,通常の酸素透過性CHCL装用者より,アカントアメーバ感染の発生率が高くなると報告されている4).その要因としてレンズデザインと装用方法があげられる.レンズと角膜間のタイトな装着により,角膜中央部に上皮びらんが生じて感染リスクを高める可能性があるほか,通常の酸素透過性CHCLよりも涙液の分布が不均等になることから,リバースカーブの下に涙液が溜まることでコロニー形成率が高くなるとされている5).また,オルソCKを夜間に装着することにより酸素欠乏状態が進行し,角膜上皮障害のリスクが高くなる.オルソCK関連のアカントアメーバ角膜炎は片眼性が多く,システマティックレビューによるC20症例中に両眼発症はC3例である6).日本での両眼発症の症例報告は,筆者らが文献を渉猟した限りでは過去にC1例のみである.今回筆者らは,オルソK装用中に両眼に発症したアカントアメーバ角膜炎を経験したので報告する.CI症例患者:19歳,女性.主訴:両眼)充血,眼痛.現病歴:2017年(13歳時)より前医にてオルソCKを開始していた.2023年C6月に左眼痛を自覚し,近医CAを受診,両眼オルソCKの中止が指示され,1.5%レボフロキサシン点眼液を処方されたが症状の悪化を認めた.翌日に前医を受診,左眼ヘルペス角膜炎が疑われアシクロビル眼軟膏C3%が処方されたが,症状出現C8日後に両眼の眼痛が悪化し,両眼に偽樹枝状病変を認めたため,同日当科紹介となった.本症例で使用されていたオルソCKは,矯正度数が右眼C.4.25D,左眼C.4.50Dで開始し,約C1年半ごとに交換していた.使用開始後C2年のレンズ交換で左眼はC.5.00Dに変更されていた.症状出現時に使用していたレンズの使用期間は約C3カ月であった.使用していたケア用品は界面活性剤であるハードクレンジングによるこすり洗いと,ポピドンヨード製剤であるクリアデューCO2セプトによる消毒であり,蛋白除去洗浄液は使用していなかった.レンズケースは左右一体型のものであり,1カ月ごとに交換していた.定期受診はC3カ月ごとに行っていた.C2.50.cyl(00DC.3.sph×初診時所見:視力は右眼0.15(1.0CDAx150°),左眼0.3(0.5pC×sph.2.50D(cyl.2.50DCAx110°).細隙灯顕微鏡では両眼ともに結膜毛様充血と角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤,放射状角膜神経炎,偽樹枝状病変を認めた(図1,2).前眼部光干渉断層計で左眼優位の角膜浮腫と角膜混濁を認めた.オルソCK装用の既往,前眼部所見よりアカントアメーバ角膜炎が疑われ,病巣を擦過し入院による治療が開始となった.後日,両眼の角膜擦過物およびレンズケース保存液の培養検査にてアカントアメーバ陽性が検出された.また,角膜擦過物の培養検査では左眼がニューキノロン系抗菌薬に感受性があるCPropionibac-teriumacnes陽性だった.経過:入院治療にて週にC2回の病巣掻爬と自家調剤した0.05%クロルヘキシジグルコン酸塩点眼をC30分ごと,1.5%レボフロキサシン点眼液C6回,イトラコナゾール内服を開始.治療開始C6日目にC1%ピマリシン眼軟膏の眠前点入を開始.9日目には大学の試験のため退院となった.13日目に右眼上皮下浸潤の悪化を認め,矯正視力右眼C0.5に低下したため自家調剤したC1%ボリコナゾール点眼C6回を開始.両眼とも計C3回の病巣掻爬を施行し,徐々に角膜炎は改善傾向を認めた.治療開始C12週間後には両眼とも瘢痕混濁を残して治癒し(図3),視力は右眼C0.3(1.2C×sph.2.50D(cyl.0.50CDAx10°),左眼0.1p(1.0C×sph.3.25D(cyl.0.75DCAx180°)まで改善した.CII考按本症例の臨床的特徴として,両眼発症とレンズ部位に沿った角膜中央部の浸潤があげられる.日本におけるオルソCKによるアカントアメーバ角膜炎両眼発症の報告は三田村らが報告したC13歳,女性の症例のみであり,発症C1週間前にレンズケースを水道水のみで保存しており,左右一体型レンズケースであったことから両眼に発症した可能性が示唆された7).本症例でも同様に左右一体型のレンズケースを使用しており,それが両眼発症に至った要因と考えられる.また,加藤らが報告したC11歳,女児のアカントアメーバ角膜炎片眼発症の症例では,角膜中央部に類円形の実質浸潤病巣を認め,感染の原因としてオルソCKが固着気味でセンタリングが不良であったことがあげられる8).本症例で使用されていたオルソCKの矯正度数は右眼C.4.25D,左眼C.5.00Dであり,先に発症した左眼は,C.4.00Dまでというガイドラインの推奨値よりやや高い矯正度数だったことから,過度な角膜圧迫が角膜炎の発生原因であった可能性も考えられる.オルソCKによる角膜感染症の推定発症率はC1年間C10,000人あたりC7.7症例と報告されている9).発症時の平均年齢は19.4歳C±8.2歳で,女性優位であった.危険因子としては,レンズまたはレンズケースを水道水で洗い流すことや不適切なレンズケアなどがあげられる.オルソCKはリバースカーブに脂質や蛋白質が付着しやすく,それにより細菌や微生物の付着性も高まる6).本症例では界面活性剤による擦り洗いおよびポビドンヨード製剤による消毒は施行されていたが,2週間に一度推奨されている強力蛋白除去剤のつけ置きは施行されていなかった.次亜塩素酸ナトリウムが主成分の洗浄液は,多目的洗浄剤や過酸化水素剤のこすり洗いと比較して洗浄力が高いため,ガイドライン推奨のレンズケアに加えて図1初診時右眼前眼部写真a:放射状角膜神経炎.角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤.b:偽樹枝状病変.図2初診時左眼前眼部写真a:放射状角膜神経炎.角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤.b:偽樹枝状病変.図3治療開始12週間後の両眼前眼部写真a:右眼.b:左眼.両眼とも瘢痕混濁を認めるものの,角膜浮腫は改善した.蛋白除去洗浄液使用の徹底が望ましいと考えられる.2017年に改訂された「オルソケラトロジーガイドライン」(第C2版)では,オルソCKの処方が“20歳未満は慎重処方”という変更がなされ,2016年度の調査ではC25%であったC7.12歳への処方が,ガイドライン改訂後のC2019年度には34%と約C1.4倍の増加を認めている10).昨今の近視治療の需要から,オルソCKの低年齢への処方率はより上昇していると予想される.小児における角膜感染症のリスクを極力減らすためにも,ガイドライン推奨の矯正値を遵守することと,適切なレンズケアの指導が重要である.また,両眼への感染は左右一体型のレンズケース使用がリスクになる可能性もある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MorganPB,EfronN,WoodsCAetal:Internationalcon-tactlensprescribingsurveyconsortium.internationalsur-veyCofCorthokeratologyCcontactClensC.tting.CContCLensCAnteriorEyeC42:450-454,C20192)WattCKG,CSwarbrickHA:TrendsCinCmicrobialCkeratitisCassociatedCwithCorthokeratology.CEyeCContactCLensC33:C373-377,C20073)村上晶,吉野健一,上田喜一ほか;日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドライン委員会:オルソケラトロジーガイドライン(第C2版).日眼会誌C121:936-938,C20174)RobertsonDM,McCulleyJP,CavanaghHD:Severeacan-thamoebaCkeratitisCafterCovernightCorthokeratology.CEyeCContactLensC33:121-123,C20075)Araki-SasakiCK,CNishiCI,CYonemuraCNCetal:Characteris-ticsofPseudomonascornealinfectionrelatedtoorthokera-tology.CorneaC24:861-863,C20056)WuCJ,CXieH:OrthokeratologyClens-relatedCAcanthamoe-bakeratitis:casereportandanalyticalreview.JIntMedResC49:3000605211000985,C20217)三田村浩人,市橋慶之,内野裕一ほか:オルソケラトロジーレンズを使用中にアカントアメーバ角膜炎を両眼に生じたC1例.あたらしい眼科34:555-559,C20178)加藤陽子,中川尚,秦野寛ほか:学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例.あたらしい眼科25:1709-1711,C20089)LiuYM,XieP:TheSafetyoforthokeratology-asystem-aticreview.EyeContactLensC42:35-42,C201610)柿田哲彦,高橋和博,山下秀明ほか:オルソケラトロジーに関するアンケート調査集計結果報告.日本の眼科C87:C527-534,C2016C***

アジスロマイシン点眼を中心に治療した両眼性非定型抗酸菌角膜炎の1例

2025年5月31日 土曜日

《第60回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科42(5):603.608,2025cアジスロマイシン点眼を中心に治療した両眼性非定型抗酸菌角膜炎の1例向井規子田尻健介武市有希也喜田照代大阪医科薬科大学眼科学教室CACaseofBilateralAtypicalMycobacterialKeratitisPrimarilyTreatedwithTopicalAzithromycinDihydrateSolutionNorikoMukai,KensukeTajiri,YukiyaTakeichiandTeruyoKidaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,TakatsukiC目的:感染経路が不明の両眼性非定型抗酸菌角膜炎に対し,アジスロマイシン点眼を中心に加療した症例を経験したので報告する.症例:53歳,女性.両眼角膜混濁で経過観察中,左眼に毛様充血,多くの豚脂様角膜後面沈着物(KPs)を伴う強い虹彩炎を認めた.ヘルペス性角膜ぶどう膜炎を疑い,2カ月加療するも改善せず,両眼に境界不明瞭な角膜実質浸潤巣がみられた.角膜擦過物の抗酸菌検査を施行したところ,直接蛍光検査で陽性,培養検査および質量分析でCMycobacteriumchelonaeを同定した.アジスロマイシン点眼とモキシフロキサシン点眼,クラリスロマイシンとモキシフロキサシン内服の多剤併用療法を開始したが,炎症は遷延化した.8カ月後,感染病巣は縮小・瘢痕化し,抗酸菌検査も陰性となった.結論:抗菌薬や抗真菌薬,抗ヘルペス薬で軽快しない特異的所見の角膜炎は本症を鑑別する必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCbilateralCatypicalCmycobacterialCkeratitisCwithCanCunknownCinfectionCrouteCthatCwasCprimarilyCtreatedCwithCtopicalCazithromycinCdihydrateCsolution.CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC53-year-oldCfemalebeingmonitoredforbilateralcornealopacitiesinwhomciliaryhyperemiaandmarkediritisaccompaniedbysigni.cantCkeraticprecipitates(KPs)developedCinCherCleftCeye.CWeCsuspectedCherpeticCkeratouveitisCandCadminis-teredCanti-herpeticCtreatmentCforC2Cmonths.CHowever,CnoCimprovementCwasCobserved,CandCcornealCstromalCin.ltrateswithunde.nedbordersappearedbilaterally.Anacid-faststaintestwasperformedoncornealscrapings,whichCtestedCpositiveCbyCdirectC.uorescenceCexamination.CMoreover,CcultureCtestingCandCmassCspectrometryCrevealedCMycobacteriumCchelonae.CMultidrugCcombinationCtherapyCforCmycobacterialCkeratitisCwasCinitiated,Cinclud-ingCtopicalCapplicationCofCazithromycinCandCmoxi.oxacinChydrate,CasCwellCasCoralCclarithromycinCandCmoxi.oxacin.CAfter8months,thecornealin.ltratesbecamescarredandtheacid-faststaintest.ndingswerenegative.Conclu-sion:CornealCin.ammationCwithCspeci.cC.ndingsCthatCdoesCnotCimproveCwithCantibiotics,Cantifungals,CorCantiviralCmedicationsshouldbeconsideredM.chelonaeCkeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(5):603.608,C2025〕Keywords:非定型抗酸菌,角膜炎,Mycobacteriumchelonae,アジスロマイシン点眼.non-tuberculousmycobac-teria,keratitis,Mycobacteriumchelonae,Azithromycindihydratesolution.Cはじめに非定型抗酸菌は,結核菌以外の培養可能な抗酸菌のことであり,非結核性抗酸菌ともよばれる.肺感染症がもっとも知られているが,角膜炎の起因菌となることもあり,おもなものとしてCMycobacteirumchelonae,MycobacteriumCfortui-tum,Mycobacteirumabcessusなどがあげられる1).非定型抗酸菌による角膜炎はまれな疾患ではあるが,多彩な臨床症状を呈することから診断確定に時間を要し,難治性となることが知られている2).今回,感染経路が不明の両眼性非定型抗酸菌(M.chelonae)角膜炎に対し,1%アジスロマイシン〔別刷請求先〕向井規子:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:NorikoMukai,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7,Daigakumachi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC図1発症時の左眼細隙灯顕微鏡所見a,b:著明な毛様充血を認める.Cc:多くのCKPsを伴った強い虹彩炎を認める.Cd:フルオレセイン染色では,角膜上皮はまだらに不整で,上皮欠損は認めない.Ce:元来存在するびまん性の角膜混濁と,今回発症の強い虹彩炎による角膜浮腫を認めるが,新たな角膜浸潤は明確ではなかった.点眼を中心に薬物加療を施行したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:53歳,女性.フィリンピン出身で介護ヘルパーとして日本で働いている.主訴:左眼視力低下.眼科既往歴:両眼角膜混濁に対して,2000年にフィリピンで,2002年に日本でレーザー治療(詳細不明)歴がある.2013年から当院へ通院し,2015年に右眼,2018年に左眼の翼状片切除術,2021年とC2022年に右眼アミロイド沈着に対して角膜上皮掻爬が施行されている.慢性的な角結膜炎,点状表層角膜炎,角膜混濁に対してC0.1%フルオロメトロン点眼およびC0.5%セフメノキシム塩酸塩点眼を両眼C1日4回継続していた.家族歴:母親とC11人兄弟のうち自身を含めてC7人に角膜混濁がある.現病歴:2023年C5月,左眼の痛みを伴う充血,視力低下を自覚し来院した.視力は右眼C0.1(0.1C×sph+0.5D(Cyl.2.5DAx170°),左眼C10Ccm指数弁(矯正不能).眼圧は右眼C10CmmHg,左眼10CmmHg,細隙灯検査で,左眼に著明な毛様充血と(図1a,b),多くの豚脂様角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)を伴う強い虹彩炎を認めた(図1c).角膜上皮はまだらに不整(図1d)であった.患者は元来,角膜にびまん性の混濁があったが,この時点では強い前房内炎症および角膜浮腫は認めるものの,これまでの角膜所見と比較して新たな角膜浸潤は明らかではなかった(図1e).眼底所見は透見不良で詳細不明であった.経過:多くの豚脂様CKPsを伴った強い虹彩炎と,前房内炎症による角膜浮腫を認めたため,ヘルペス性角膜ぶどう膜炎と考え,0.1%ベタメタゾン点眼左眼C1日C6回,3%アシクロビル眼軟膏左眼C1日C5回,バラシクロビル塩酸塩錠C1,000mg/日内服の抗ヘルペス治療を開始した.その後,前房炎症は遷延化するもCKPsは軽快傾向となったため,0.1%ベタメタゾン点眼とC3%アシクロビル眼軟膏を漸減した.経過中に角膜上皮は上皮欠損の改善と悪化を繰り返した.7週後にKPsが再び増悪し,前房蓄膿が出現した(図2a).9週後には角膜上皮欠損が拡大し(図2b),この時点になるとはっきりとした角膜浸潤巣が認められた(図2c),また,小さく浅いが左眼と同様の角膜浸潤巣を右眼にも認め(図2d),角膜上皮.離を伴っていた(図2e).ここまでの経過として,多くのCKPsを伴った強い虹彩炎および角膜浮腫で発症し,ヘルペス性の角膜ぶどう膜炎に対する治療をするも反応は不良であり,角膜上皮欠損が軽快と再発を繰り返し,境界不明瞭な角膜実質浸潤が生じてきた.このため,一般的な角膜感染図2抗ヘルペス治療開始9週後の細隙灯顕微鏡所見a:KPsが再び増悪し,前房蓄膿が出現した.Cb:左眼のフルオレセイン染色では,角膜上皮欠損の拡大を認める.Cc:左眼の細隙灯顕微鏡所見では,境界が不明瞭な角膜浸潤巣の形成を認める.Cd:右眼の細隙灯顕微鏡所見で,範囲は小さく浅いが,左眼の角膜所見と同様な角膜浸潤巣が出現した.e:右眼のフルオレセイン染色では,角膜上皮欠損を伴っていた.症ではなく特殊な病原体による感染症を疑い,角膜擦過を施行し,一般細菌検査に加えて抗酸菌同定検査を施行した.抗酸菌検査では直接蛍光法にてガフキーC9号の菌量を認めた.本症例から検出した菌は,液体培地と小川培地での発育はなかった.しかし,一般細菌検査の培地で早期に発育し,質量分析を用いてCM.chelonaeと同定された.右眼の抗酸菌検査は陰性であったが,角膜上皮.離を伴った境界がやや不明瞭な淡い角膜実質浅層の小浸潤巣が認められ,左眼の角膜所見とまったく同様であったため,臨床的に両眼のCM.Cchelonaeによる角膜炎と診断し,C1%アジスロマイシン点眼両眼C1日2回,C0.5%モキシフロキサシン点眼両眼C1日C4回,クラリスロマイシンC400Cmg/日内服,モキシフロキサシン塩酸塩400Cmg/日内服の多剤併用療法を開始した.しかし,炎症所見は遷延化し,治療開始C3カ月後には右眼の虹彩後癒着が顕著となり,トロピカミド・フェニレフリンの結膜下注射を施図3非定型抗酸菌に対する薬物治療開始4カ月後の左眼細隙灯行した.治療開始C4カ月後,前房の炎症は改善傾向となった顕微鏡所見が,不明瞭な角膜浸潤は残存し,とくに左眼の角膜実質内へ前房炎症は改善したが,不明瞭な角膜浸潤巣は残存し,とくに実質内への血管侵入が著明である.の血管侵入が著明であった(図3).この時点での左眼の角膜擦過物からは,直接蛍光法でガフキーC1号の菌がまだ認められた.その後,角膜浸潤巣は徐々に瘢痕化傾向となり,治療皮下混濁(図4a),左眼は角膜実質混濁があり,角膜実質内開始C8カ月後に結膜充血は消退し角膜擦過物の抗酸菌検査がへの新生血管が残存している(図4c).視力は右眼(C0.06C×陰性となったため,治療を終了した.治療終了後C3カ月後のsph+3.0D),左眼C0.01(矯正不能)と不良である.C現在,両眼に角膜上皮障害を認め(図4b,d),右眼は角膜上図4治療終了後3カ月後の細隙灯顕微鏡所見a,b:右眼は角膜上皮障害と上皮下混濁を認める.Cc,d:左眼は角膜上皮障害と角膜実質混濁を認め,実質内への新生血管が残存している.II考按非定型抗酸菌による眼感染症は,1965年にCTurnerとStinsonによって初めて報告された3).Kheirらによる検討では,非定型抗酸菌による眼感染症のこれまでの報告として,眼窩内感染,眼瞼周囲皮膚感染,涙道炎,角膜炎,強膜炎,結膜炎,眼内炎,脈絡膜炎虹彩毛様体炎,ぶどう膜炎をあげており,なかでも角膜炎がC420眼中C290眼(69%)ともっとも多かった4).また,検出された菌のなかではCM.CchelonaeがC179眼(42.6%)と最多であった4).本症例においても検出されたCM.chelonaeは,非定型抗酸菌のうち迅速発育菌で,Runyon分類のCIV群に分類される5).土壌,水,その他の自然界に広く分布し,皮膚や軟部組織での感染や,カテーテル関連感染症,移植術後感染症を引き起こし,同じく迅速発育菌であるCMycobacteriumabscessusと比較すると,肺への感染はまれで,2番目に多い感染臓器が眼であると報告されている6).非定型抗酸菌による角膜炎は,なんらかの手術侵襲後に発症することが多く,とくに近年ではCLASIK後の報告が多い7).わが国でもCLASIK術後感染症の一つとして注意がなC606あたらしい眼科Vol.42,No.5,2025されており2,8,9),そのほか白内障術後,全層角膜移植術後4)などで発症する.一方で笹川らは,1996年に実質型角膜ヘルペスに対するステロイド点眼加療後に発症したCM.Cchelo-nae角膜炎の症例をわが国で初めて報告し,海外既報においてもC69.6%(16/23例)でステロイド点眼が投与されていたことから,眼局所における免疫抑制状態が発症の危険因子であると述べている10).本症例の感染経路は不明ではあるが,複数回のレーザー治療歴や翼状片手術,右眼角膜上皮掻爬術の手術歴については,左眼の侵襲的処置からC5年以上が経過していたため,発症の直接的原因としては考えにくい.両眼性の発症であることも本症例の特徴であるが,0.1%フルオロメトロン点眼液の投与が長期間両眼になされていたこと,介護ヘルパーとして入浴介助の際に不衛生な水を頻繁に顔に浴びていたことが発症の要因として考えられる.非定型抗酸菌角膜炎の特徴的な角膜所見は,境界不明瞭な実質内の斑状浸潤であり,衛星病巣を伴って花弁状の混濁を呈するものが知られている2).一方,M.chelonae角膜炎では,病巣辺縁の毛羽立ち状所見や放射状の突起を伴った浸潤巣を呈するのもあり10),上皮欠損は必発ではなく8,10),病巣が上皮に覆われた“snow.ake-likeC”11),“crackedCwind-(106)shield”12)様病巣などの報告もある.さらに,これらの角膜の所見以外に,LASIK術後の集団感染の報告では毛様充血,前房内炎症,角膜後面沈着,前房蓄膿などの多彩な前眼部炎症所見がある8).このように,特徴的な所見ではあるものの,角膜病変のみではなく,さまざまな病態が時間を追って認められることが,本疾患が確定診断に至るまでに時間がかかる要因の一つであると考えられる.本症例は角膜混濁に対するレーザー治療後角膜炎の既往があり,その後も角膜にびまん性の混濁を認めていた.今回はそれまで使用していたC0.1%フルオロメトロン点眼によって角膜所見がマスクされていた可能性はあるが,強い前房内炎症と角膜浮腫を認めるものの角膜浸潤は明らかではなく,多くのCKPsを伴った強い虹彩炎で発症したことが特徴的であったといえる.発症時には角膜上皮欠損は認めなかったが,そこから増悪・軽快を繰り返す角膜上皮欠損と前房蓄膿を生じ,最終的に,境界不明瞭な角膜実質浸潤が認められた.この経過は,一般的な細菌性角膜炎の経過とは異なっていたため,非定型抗酸菌による感染を疑ったのだが,確定診断に至るまでにはC2カ月を要した.非定型抗酸菌角膜炎に対する治療は,薬物治療が中心であるが,LASIK術後に生じた角膜炎に関しては,フラップ層間の洗浄や,病巣切除と薬剤移行の向上を目的にフラップ切除(amputation)も考慮するべきである9).薬物療法では,多剤併用療法が推奨され1),局所投与のみならず全身投与も行うことが多い1,8).M.chelonaeには通常の抗結核薬は無効であり,全身投与ではクラリスロマイシン(CAM)などのマクロライド系,ドキシサイクリン(DOXY)などのテトラサイクリン系,アミノ配糖体系であるアミカシン(AMK),あるいはフルオロキノロン系であるシプロフロキサシン(CPFX)などが選択され,局所点眼投与では,AMK,CAMに加えて,ガチフロキサシン(GFLX)やモキシフロキサシン(MFLX)点眼薬の有効性の報告があるC6,13.16).本症例では,多剤併用療法を点眼と内服で施行した.今回検出されたCM.chelonaeの薬剤感受性試験の結果(表1)では,アジスロマイシン(AZM)とCMFLXがCAMKよりも感受性が高かったため,自家調整の必要がないC1%アジスロマイシン点眼を第一選択とし,0.5%モキシフロキサシン点眼を併用した.また,内服薬は,クラリスロマイシンの内服と,耐性化を考慮するべきという当院感染対策室の助言に従って,モキシフロキサシン塩酸塩の内服を選択した.しかし,治療期間はC8カ月間と長期に及び角膜擦過物の抗酸菌検査陰性化,毛様充血の消退,角膜浸潤の瘢痕化をもって治療を終了したが,角膜実質内の新生血管は残存している.なお,アジスロマイシン点眼の角膜炎への使用は適用外である.しかし,本症例は両眼の視力が不良の重症角膜感染症であったため,当院感染対策室の感染症専門医師と薬剤師との協議の結果,患者の視力予後を第一に考え,薬剤感受性が表1薬剤感受性試験結果CMZ>3C2CCAM<=1CIPM<=2CAZM<=1CMEPM>1C6CLVFXC4CAMK<=4CMFLXC2CTOB<=1CLZD<=2CMINO>4CST>4C0CMZ:セフメタゾール,IPM:イミペネム,MEPM:メロペネム,AMK:アミカシン,TOB:トブラマイシン,MINO:ミノサイクリン,CAM:クラリスロマイシン,AZM:アジスロマイシン,LVFX:レボフロキサシン,MFLX:モキシフロキサシン,LZD:リネゾリド,ST:スルファメトキサゾール・トリメトプリム.(MIC:μg/ml)もっとも良好な結果であったCAZMを局所投与薬剤として選択した.また,本症例のように長期使用する場合は,倫理委員会への申請をし,許可を得ることが望ましい.感染経路が不明であった両眼性非定型抗酸菌角膜炎に,1%アジスロマイシン点眼を中心とした多剤併用療法を施行したが,きわめて難治性であった.抗菌薬・抗真菌薬・抗ヘルペス薬とステロイド点眼投与で改善しない,強い虹彩炎を伴う特異的な角膜浸潤巣を呈する角膜炎は,本症を鑑別におく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YamamotoCA,CHattoriCT,CShimadaCHCetal:Mycobacteri-umabscessuscornealulcerfollowingsuturedclearcorne-alcataractincision.JpnJOphthalmolC54:499-500,C20102)上田真由美,外園千恵:非定型抗酸菌角膜炎.臨眼C70:C217-222,C20163)TurnerCL,CStinsonI:MycobacteriumCfortuitum.CasCaCcauseCofCcornealCulcer.CAmCJCOphthalmolC60:329-331,C19654)KheirCWJ,CSheheitliCH,CFattahCMACetal:NontuberculousCmycobacterialCocularinfections:aCsystematicCreviewCofCtheliterature.BioMedResIntC2015:164989,C20155)RunyonEH:Anonymousmycobacteriainpulmonarydis-ease.MedClinNorthAmC43:273-290,C19596)AkramSM,RathishB,SalehD:Mycobacteriumchelonaeinfection.StatPearls[Internet]C,CStatPearlsCPublishing,CTreasureIsland,USA,20237)BostanCC,CSlimCE,CChoremisCJCetal:SuccessfulCmanage-mentCofCsevereCpost-LASIKCMycobacteriumCabscessusCkeratitisCwithCtopicalCamikacinCandClinezolid,C.apCablation,CandCtopicalCcorticosteroids.CJCCataractCRefractCSurgC45:C1032-1035,C20198)YamaguchiCT,CBissen-MiyajimaCH,CHori-KomaiCYCetal:CInfectiouskeratitisoutbreakafterlaserinsitukeratomile-usisCatCaCsingleClaserCcenterCinCJapan.CJCCataractCRefractCSurgC37:894-900,C20119)山口剛史,鈴木崇:放線菌・非定型抗酸菌による細菌性角膜炎─見逃してはならない非典型例.臨眼C73:1406-1411,C201910)笹川智幸,阿部達也,大石正夫:非定型抗酸菌角膜炎のC1例.日眼会誌C100:464-470,C199611)MirateCDJ,CHullCDS,CSteelCJHCJrCetal:MycobacteriumCcheloneikeratitis:aCcaseCreport.CBrCJCOphthalmolC67:C324-326,C198312)RobinJB,BeattyRF,DunnSetal:Mycobacteriumchelo-neiCkeratitisCafterCradialCkeratotomy.CAmCJCOphthalmolC102:72-79,C198613)宮瀬太志,坂井翔太,小澤憲司ほか:診断ならびに治療に難渋したCMycobacteriumchelonaeによる角膜潰瘍のC1例.眼科C64:173-179,C202214)DalovisioCJR,CPankeyCGA,CWallaceCRJCetal:ClinicalCuse-fulnessCofCamikacinCandCdoxycyclineCinCtheCtreatmentCofCinfectionduetoMycobacteriumfortuitumandMycobacte-riumchelonei.RevInfectDisC3:1068-1074,C198115)HyonCJY,CJooCMJ,CHoseCSCetal:ComparativeCe.cacyCofCtopicalCgati.oxacinCwithCcipro.oxacin,Camikacin,CandCclar-ithromycinCinCtheCtreatmenCofCexperimentalCMycobacteri-umCchelonaeCkeratitis.CArchCOphthalmolC122:1166-1169,C200416)AbshireCR,CCockrumCP,CCriderCJCetal:TopicalCantibacte-rialtherapyformycobacterialkeratitis:potentialforsur-gicalCprophylaxisCandCtreatment.CClinCTherC26:191-196,C2004C***

基礎研究コラム:16.Image-based cell sorting技術

2025年5月31日 土曜日

Image-basedcellsorting技術Image-basedcellsorting技術とは病態解明や新規治療法開発をめざす基礎研究では,疾患における特定の細胞の役割や性質を把握することが重要です.従来,特定の細胞を選別する技術としてC.uorescence-activatedCcellsorting(FACS)が広く用いられてきました.FACSは特定の蛋白質を蛍光標識して目的の細胞を選別する技術であり,判別精度・抽出速度の観点から非常に有用ですが,特異的細胞表面抗原をもたない細胞に関しては生細胞での選別は困難です.また,表面抗原が特定されている細胞種の多くは成熟・分化したものに限られており,分化過程にある前駆細胞などの選別には大きな課題があります.筆者自身も基礎研究を始める前は「発現する遺伝子がわかっていれば細胞の抽出は簡単にできるのでは」と漠然と思っていましたが,実際にはそう簡単ではありません.たとえば転写因子など細胞表面抗原以外の蛋白質を蛍光標識するには,細胞固定および細胞膜透過処理が必要で,生細胞の選別は不可能となります.このような課題を克服するため,特徴的な表面抗原網膜前駆細胞標識hESC株由来StructuredGhostmotionimaging網膜オルガノイドillumination(GMI)波形(label-free)網膜前駆細胞標識株を用いた判別機作成機械学習細胞分散Venus+Venus++Venus-Venus-labeledsinglecellsFluorescencesignals非標識hiPSC株由来網膜オルガノイドLabel-freeGMI波形非標識hiPSC株由来網膜前駆細胞の判別機label-free濃縮(機械学習後)細胞分散PredictiontosortWasteSortedNon-labeledsinglecells(Control)岩間康哲DepartmentofMolecularandCellularBiology,ScrippsResearchをもたない細胞抽出を目的として,画像解析と機械学習を組み合わせたCimage-basedCcellsorting技術の応用が試みられています1).眼科分野における応用一般に本技術では解析に用いる画像に含まれる情報が多い(high-contentimage)ほど目的細胞の判別精度は上がりますが,一方で判別に要する時間が増え,抽出速度が低下してしまいます.さまざまな分野で二次元・三次元画像を用いた細胞の選別方法が報告されていますが1),抽出速度の観点から筆者らはCghostcytometry(GC)とよばれる技術に着目しました2).GCは細胞をCmicro.uidic.ow上で高速で流し,その際に得られる一次元情報(波形)を直接機械学習に用いて判別機を作製し,細胞選別に用いることで高いスループットを実現しています.筆者らはCGCを応用して,網膜前駆細胞標識株を教師データとして機械学習モデルを構築し,非標識CiPS細胞株から特異的表面抗原をもたない分化早期の網膜前駆細胞を濃縮することに成功しました.また,濃縮された細胞を再凝集・培養することにより移植用網膜組織の効率的な作製に寄与できることを報告しました(図1)3).今後の展望現状,image-basedCcellsorting技術は機械学習モデルの判別精度やChigh-contentimageの取得に伴うスループットの点で従来法のCFACSと比べ限界があり,筆者らの用いた手法においても判別精度の点で課題があります.しかし,特定の細胞表面抗原をもたない細胞であったとしても蛍光標識を用いずに選別ができうる点は非常に魅力的であり,前述した課題を克服していくことで再生医療をはじめとするさまざまな分野での応用が期待されています.文献1)LaBelleCCA,CMassaroCA,CCortes-LlanosCBCetal:Image-basedCliveCcellCsorting.CTrendsCBiotechnolC39:613-623,C20212)OtaCS,CHorisakiCR,CKawamuraCYCetal:GhostCcytometry.CScienceC360:1246-1251,C20183)IwamaY,NomaruH,MasudaTetal:Label-freeenrich-mentofhumanpluripotentstemcell-derivedearlyretinalprogenitorCcellsCforCcell-basedCregenerativeCtherapies.CStemCellReportsC19:254-269,C2024(101)あたらしい眼科Vol.42,No.5,2025C6010910-1810/25/\100/頁/JCOPY