■オフテクス提供■6.コンタクトレンズの光学設計(前編)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C5章は,コンタクトレンズの光学設計について解説している.今回はその前半を紹介する.はじめに現代のコンタクトレンズ(CL)は,透明な軟質または硬質ポリマーで作られており,CLを装用することにより眼の光学的距離を変化させる.歴史的にこれらのレンズは球面度数や正乱視または不正乱視などの屈折異常を矯正してきたが,近年は老視矯正や近視進行抑制など,さらに高度な目標をめざしている.社会が進歩するにつれて,CL技術は単に視力矯正を行うだけでなく,さらに多くの目的に広がり,それに伴いCCLの製造,計測,処方も進歩する必要が出てきた.眼の光学設計の概要眼の構成要素である眼軸長や曲率,屈折率により低次収差(近視,遠視,乱視)が生じ,不均一な涙液層や角膜,水晶体などの高度に変形した屈折面は,高次収差(球面収差,コマ収差など)を生じる.球面収差は,光学中心から周辺に向かって放射状に対称な度数変化が生じており,CLや眼球構造に存在している.眼の屈折面は,お互いに偏心したり傾いたりすること,瞳孔がわずかに鼻上方に偏位していることにより,回転対称ではない収差(コマ収差,矢状収差)が生じ,網膜像に悪影響を及ぼしている.CLは,偶然または光学設計により,これらの低次収差や高次収差を補正したり,逆に誘発することがある.加齢に伴う眼の変化人の光学系は,生涯を通じて変化する.とくに生後C1年以内は角膜径と角膜曲率半径の増加,角膜乱視の減少,水晶体径の増加と水晶体厚の減少,眼軸の大きな伸長がみられる.これらの変化は,正視化プロセスの一環としてC10~15歳まで生じている.若年および中年期には,水晶体の光学系は角膜乱視と単色の高次収差を補正することで,眼球全体の光学系を(79)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY最適化している.その後,水晶体の直径と厚みが増加し続けることにより,水晶体前後面の曲率は増加するが,水晶体自体の屈折率変化によって補正され,水晶体全体の屈折率は比較的保たれる.しかし,加齢により水晶体が硬化すると老視が進み,角膜と水晶体との間の収差の補完が失われ,眼の高次収差も増加する.現代的なコンタクトレンズのデザイン1.球面球面単焦点レンズは,遠視または近視を矯正するために処方されている.球面ハードCCL(HCL)は角膜中央にレンズ下涙液層が存在するため,最大約C2Dの角膜乱視を矯正することができる.ソフトCCL(SCL)の大部分は角膜表面を覆うため,最大でC1Dの屈折乱視をもつ患者でも角膜正乱視を補うことが可能であるとされている.しかし,0.75D以上の乱視の場合には,乱視用CSCLのほうが球面のみの補正よりも視力が良好であったという研究結果が示されている.また,SCLの場合は,レンズ度数によっては球面収差が生じることで装用者の視力に悪影響を与えるだけでなく,球面収差のあるCSCLが眼の視軸から偏心するとコマ収差が誘発され,視覚に大きな影響を与える.C2.非球面球面レンズに共通する収差の問題に対処するために,球面収差のレベルを制御することをめざした非球面プロファイルが作成された.その多くのレンズは,平均集団から得られた球面収差を補正することで全体的な収差を低減するようにデザインされている.そこでは球面収差のレベルを平均瞳孔径と相関させて軽減しているため,低光量で瞳孔が大きい条件下では,多くの装用者で遠方視力の質を改善できる可能性がある.ただし,コマ収差やトレフォイルなどの非対称性の収差は非球面レンズであたらしい眼科Vol.41,No.6,2024C683表1乱視用コンタクトレンズのデザイン光学ゾーン内に垂直プリズムプリズムバラストレンズ下方を厚くする0.81~1.12が誘発されるレンズ下方の限局した部分デザインにより光学部のプリペリバラストをプリズムで厚くする0.52~0.96ズム効果が減弱するレンズ上方と下方を薄くし光学プリズムによる影響がほダブルスラブオフ3時-9時方向を厚くする<0.03とんどないは補正できない.C3.乱視用乱視を矯正するために,垂直に交差した異なる二つの曲率半径のあるトーリック面がCCLの前面,または前面と後面に配置される.HCLを角膜乱視眼に装着する場合には,曲率半径の違いにより角膜上での軸安定性が向上するが,SCLではレンズ後面にトーリック面を配置しても軸安定性の向上にはつながらず,低弾性率のSCLではレンズ後面と角膜が適合し,トリシティがレンズの前面に転写されてしまう(プリントスルー効果).SCLおよび前面トーリックCHCLでは,レンズの乱視軸を角膜上で安定させる必要がある.安定させるために,プリズムバラスト,ペリバラストまたはダブルスラブオフというレンズの厚みを変化させるデザインがある(表1).レンズの安定化機構は,レンズの非対称収差を誘発し,視覚の質の低下を引き起こすこともある.C4.多焦点多焦点レンズには非回転対称型と回転対称型があり,後者が一般的である.さらに最近では,小児の近視進行抑制のために,周辺屈折を修正する多焦点レンズも登場している.非回転対称型レンズには「交代視型」または「セグメント型」のデザインがある.交代視型はCHCLに採用されている.メガネの遠近両用レンズのような構造をしているため,十分な遠方視力と近方視力を得るために,レンズのセンタリングやプリズムバラストデザインなどによる回転制御などの工夫が必要となる.同時視型では,光線は同時に複数のゾーンを通過するため,以下のようなデザインがされている.①二つの異なる光学度数のゾーン(2焦点)②遠方と近方度数間のスムーズな移行(累進屈折)いずれのデザインでも,光学的度数の急激な移行は製造が困難である.また,同時視の場合には,網膜に焦点内像と焦点外像を同時に受光するため,焦点の合っていない像(ゴースト)によりコントラスト感度が低下するが,視力への影響は少ない.また,同時視の補正には回折型,同心円型,非球面,焦点深度拡大型などのデザインがあり,それぞれ中心近用または中心遠用となっている.おわりに今回はCCLEARの第C5章の前半を要約し解説した.CLは単に視力補正を行うだけでなく,眼の光学的な特性を補い,網膜像を最適化するが,近年はさまざまな付加価値があることも明らかとなっている.CLには,さらに高度な光学補正を可能にする余地があるのではないだろうか.文献1)RichdaleCK,CCoxCI,CKollbaimCPCetal:CLEAR-ContactClensoptix.ContLensAnteriorEye44:220-239,C2021