特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):897.901,2013特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):897.901,2013涙.鼻腔吻合術:鼻内法Dacryocystorhinostomy:EndonasalDCR宮崎千歌*はじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は鼻涙管閉塞の手術治療としての基本的な術式である.DCRは涙道と鼻腔との交通を新たに作製する方法である.鼻涙管と鼻腔の間には薄い骨があり,バイパスを作製するため,ドリル,ノミなどで切除する.骨を切除するには,皮膚を切開して鼻外から骨を切除する鼻外法と,鼻内視鏡下に鼻腔内から骨を切除する鼻内法がある.眼科医にとってなじみの少ない鼻腔との吻合を形成する術式であるため,敬遠されがちではあったが,術式の改良とともに,DCRは馴染みやすいスマートな手術となってきている.19世紀末にKillian1)Caldwell2)らによってEn(endonasal)-DCRが行われ,(,)20世紀末にMcDonoghら3)によって鼻内視鏡を用いた近代的な鼻内法が行われるようになった.一方,鼻外法は20世紀はじめにToti4)によって行われ,1921年にはDupuy-Dutemps5)によって改良され,現在の鼻外法になっている.しばらくDCRは鼻外法が主流であったが,2000年代に入ると内視鏡の導入,ドリル6,7),ケリソンロンジャー8),レーザー9)などの手術器具の登場により鼻内法の手術方法が改良され,術後成績も改善している.中鼻道の涙道周囲の上顎骨,涙骨,症例によっては鈎状突起,篩骨を切除するには,道具はどれを使っても良いわけである.鼻内法では,鼻外法に比べて顔面に傷を作らず,骨切除量が少ない.鼻出血の管理が可能であれば,日帰りでの手術も可能である.鼻腔内での操作は鼻内視鏡と器具を双手で持つため,鼻腔内操作に慣れることが大切である.鼻内法は内視鏡観察により鼻腔内で手術を施行するが,モニターの画面は二次元画像である.平面の画像を自分のなかで三次元の構築をしながらの手術操作が必要であり,鼻腔からみて涙道の位置を把握することが大切である.そのためには,涙道周囲の解剖学的知識の理解が必須である.鼻外法,鼻内法にかかわらず,鼻涙管閉塞に対するDCRの治癒率は高い.抗生物質点眼,内服を継続することによって,眼分泌物からの多剤耐性菌検出率が高くなり,起炎菌となる場合には治療に難渋する場合もあるため,漫然と保存的治療を続けないことが大切である.I必要な解剖鼻内視鏡で鼻腔を観察すると,中鼻道には,中鼻甲介,中鼻道外壁,下鼻甲介,鼻中隔が観察できる(図1).涙道は中鼻甲介の付着部から下方,上顎骨のふくらみをもった鼻粘膜のライン上(maxillaryline)に存在し,maxillaryline上に涙道内視鏡の透過光が観察される.涙道周辺の骨は,顔面正面では鼻骨(nasalbone),上顎骨(maxilla)が存在する(図2).鼻腔内では中鼻甲介(middlenasalconcha),下鼻甲介(inferiornasalconcha),鼻中隔(nasalseptum)が観察される(図3).眼窩右側方から涙道周辺を観察すると,前方から鼻骨,*ChikaMiyazaki:兵庫県立塚口病院眼科〔別刷請求先〕宮崎千歌:〒661-0012尼崎市南塚口町6丁目8-17兵庫県立塚口病院眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(15)897上顎骨,前頭骨(frontalbone),涙骨(lacrimalbone)篩骨(ethmoidbone),頬骨(zygomaticbone)から構(,)成されている.涙道前方の上顎骨のふくらみを上顎骨前涙.稜(anteriorlacrimalcrest),涙道後方の涙骨のふくらみを涙骨後涙.稜(posteriorlacrimalcrest)といい,涙道鼻中隔側は,涙骨上顎骨縫合である(図4).骨性涙道は,上顎骨前頭突起(frontalprocess),涙骨,下鼻甲介から構成されている.上顎骨前頭突起は涙.溝(lacrimalgroove),涙.結節(lacrimaltubercle)を,涙骨は涙.溝,涙骨鈎(lacrimalhamulus),下行突起(descendingprocess)を,下鼻甲介は涙骨突起(lacrimalprocess)をそれぞれ有する.骨性鼻涙管の薄い骨(上顎骨前頭突起と涙骨)の部分にDCRの骨窓を作製する.涙骨上顎骨縫合(maxillarylineとよばれ手術の際の目印となる)より後方の涙骨は大変薄い.涙骨から後方に中鼻甲介涙道内視鏡の透過光鼻中隔下鼻甲介図1鼻内視鏡で鼻腔を観察(右)は鈎状突起(uncinateprocessofethmoidbone),半月裂孔(similunarhiatus),篩骨胞(ethmoidbulla)がある(図5).涙骨も含め大変薄い骨になっている.篩骨の耳側には眼窩が位置し,その境界は篩骨眼窩板(orbitalplateofethmoidbone)や紙様板(図6)とよばれ副鼻腔の内視鏡手術の際に,注意すべき部位ではある.紙様板の耳側は眼窩であり,眼球周辺脂肪組織,内直筋,眼球が存在する.DCRの手技で篩骨眼窩板(orbitalplateofethmoidbone)まで手術操作が及んではいけないが,内視鏡観察下の手術は二次元での手術であり,自分が思ったより背側に器具が入ってしまうこともあるため,器械が背側に行きすぎないように注意する必要がある.鼻中隔中鼻甲介下鼻甲介上顎骨鼻骨図2涙道周辺の骨上顎骨前頭突起中鼻甲介篩骨蜂巣涙骨涙骨上顎骨縫合図3涙道周辺の骨(鼻腔から右眼窩方向)鼻骨前頭骨頬骨篩骨涙骨後涙.稜上顎骨前涙.稜涙骨上顎骨縫合上顎骨涙骨図4涙道周辺の骨(眼窩右側方から涙道周辺を観察)898あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(16)鈎状突起篩骨胞半月裂孔下鼻甲介中鼻甲介外す涙道図5鼻腔(右側)―中鼻甲介を切離鈎状突起篩骨胞半月裂孔下鼻甲介中鼻甲介外す涙道図5鼻腔(右側)―中鼻甲介を切離II手術適応鼻涙管閉塞は,涙道内視鏡で観察すると,灌流下に涙.は大きく腫脹し,閉塞部位は穿破できないか,穿破できたとしてもピンホール様で小さい.涙点閉塞,涙小管閉塞に鼻涙管閉塞を伴っている症例に対しては,涙道再建術の一部として本術式が必要である.III手術器具ジャクソン(Jackson)スプレー,鼻用タンポンガーゼ,カテラン針,硬性鼻内視鏡(外径4mm,仰角0°または30°,鼻腔が狭い場合は外径2.7mm),涙道内視鏡,光源ファイバー(硝子体手術用など),ドリル,またはノミ,調骨器,鼻鏡,鼻用鑷子,白内障手術用スリットナイフ,涙道洗浄針,涙点拡張針,彫骨器,鉗子,凝固器,吸引管,ステント,手術顕微鏡.(下記「手術方法」ではドリルで記載する.)IV手術方法1.麻酔①局所麻酔での手術が可能であるが,無痛での手術はむずかしい.静脈確保をし,ドルミカムR1mg,ソセゴンR3mgを術直前に初回投与.ドルミカムR0.5mg,ソセゴンR1.5mgを以後5分おきに追加投与し,骨窓(17)涙道図6篩骨紙様板篩骨蜂巣を除くと眼窩内からの透過光が見えるほど薄い.形成終了時まで継続する.腎機能低下者,透析患者,高齢者(70歳以上)にはドルミカムRを半量とする.②中鼻道に2%キシロカインRとボスミン液Rを1対1で混合した液を鼻腔に噴霧する.同液に浸したタンポンガーゼを,吻合孔を作製する予定の中鼻甲介付着部周辺から前方に5枚挿入する.数分待ち鼻粘膜を収縮麻酔する.③2%キシロカインRで前篩骨神経ブロック麻酔,滑車下神経ブロック麻酔をし,2%キシロカインRを涙道内に注入し涙道内を麻酔する.2.手術方法①涙道内視鏡を涙点から挿入し涙道閉塞部位を確認する.場合によっては涙小管にシースを留置しておき,光ファイバーが挿入しやすいようにする.②硝子体用光ファイバーを涙点から挿入し,総涙小管の高さに固定する.③鼻内視鏡にて中鼻道に見える透過光を確認し骨窓作製部位の目安とする.④鼻内視鏡は左手に持ち,鼻孔の腹側に当て固定しておく.器具は右手に持ち,鼻内視鏡の下から出し入れをする.鼻粘膜に器具が触れると,出血,腫脹するため,手術と関係のない粘膜に極力触れず,器具の出し入れの回数は少なくし,余分な出血を避ける.術中視野を広く保つために術前処置の工夫や手術時間を短縮する.あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013899上顎骨耳側鼻中隔上顎骨耳側鼻中隔上顎骨耳側鼻中隔図7右鼻腔骨窓を作製する部位の鼻粘膜に麻酔する.★:中鼻甲介,■:鈎状突起.涙道上顎骨耳側鼻中隔図9上顎骨から涙骨にかけての骨をカーブダイアモンドDCRバーで削り骨窓を作製上顎骨が削れたところには涙道が見えてくる.★:中鼻甲介.⑤涙道は上顎骨のカーブに沿って存在する.中鼻甲介の付け根から上顎骨のカーブに沿って切除する予定の鼻粘膜を2%キシロカインRでカテラン針にて麻酔する.鼻粘膜と上顎骨の間に2%キシロカインRを注入しておくと,鼻粘膜を骨から.離しやすい(図7).⑥透過光を目安に鼻粘膜をドリルシステム(メドトロニック社)のトライカットブレードで切除する.フットペダルにより回転数は変動させることが可能である(図8).⑦骨壁が露出したら,先端をバーに変更し,涙道内視鏡または涙道内に挿入された光を目安に,涙道に沿う感じで骨を削って骨窓を作製する(図9).使用時は900あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013図8骨窓作製部位の鼻粘膜をトライカットブレードで切除★:中鼻甲介.上顎骨耳側鼻中隔図10涙道周囲に鈎状突起がある場合は切除★:中鼻甲介,■:鈎状突起.6,000.10,000rpmに設定し,フットペダルにより回転数は変動させることが可能である.涙点から挿入している光源をほぼ水平とし,その位置が上顎骨を削る上端とする.下端は可能であれば,下鼻甲介の付け根まで削る.背側は涙骨を除去する.涙道の展開がむずかしい場合には鈎状突起を場合によっては除去する(図10).ドリル,ノミ,調骨器を使用し,涙道周辺の骨をできるだけ残さないように除去する.⑧露出した涙.および鼻涙管を穿刀(スリットナイフなど)で切開する(図11).余分な涙道壁をトライカットブレードや鉗子を使用して処理し,涙道内腔を露出する.それだけでも十分であるが,上端および下端で水平(18)★鼻中隔耳側涙道鼻中隔耳側涙道★上顎骨ステント鼻中隔耳側図11涙.および鼻涙管を切開黄点線:涙道.★★:中鼻甲介.方向に切開を加え,観音開きとしてもよい.涙.内腔に涙石などが残存していないか確認し,涙石が存在するときには,鼻腔から鑷子,鉗子を用いて排出する.⑨上下涙点からステントを挿入する(図12).⑩抵抗なく通水できることを確認し手術を終える.3.術中術後の出血への対応手術中の出血に対しては,出血部にボスミン液Rに浸したタンポンガーゼを当て,5分程度待つ.それでも止血できないときには,凝固器を使用する.術後の出血に対しては,挿入したタンポンガーゼを抜き,再度鼻腔内を観察し,出血点を見きわめ,上記と同様の処置をし,ベスキチンや軟膏を塗布したタンポンガーゼを創部周辺に挿入圧迫する.4.術後処置ベスキチン,ガーゼ類の鼻腔パッキングは2日後に抜去する.ステントは鼻粘膜が再生していれば,1カ月半程度で抜去する.図12涙点からステントを挿入し,鼻腔側から鑷子でステントを引き,位置を調整★:中鼻甲介.文献1)KillianJ:DiskussionzuSeifertsVortrag.6.Versamml,Suddeutsch,Laryngologen,18892)CaldwellGW:Twonewoperationsforobstructionsofthenasalductwithpreservationofcanaliculi,andanincidentaldescriptionofanewlacrimalprobe.NYMedJ57:581,18933)McDonoghM,MeiringJH:Endoscopictransnazsaldacryocystorhinostomy.JLaryngolOtol103:585-587,19894)TotiA:Nuovometodoconservatoredicuraradicaledellesoppurazionicronichedelsaccolacrimale(dacriocistorinostomia).ClinModerna10:385-387,19045)Dupuy-DutempsL,BourguetJ:Procedeplastiquededacryocystorhinostomyetsesresultats.AnnOcul158:241-261,19216)TsirbasA,WormaldPJ:Mechanicalendonasaldacryocystorhinostomywithmucosalflaps.BrJOphthalmol87:43-47,20037)松山浩子,宮崎千歌:涙.鼻腔吻合術鼻内法の手術成績.眼科手術24:495-498,20118)CodereF,DentonP,CoronaJ:Endonasaldacryocystorhinostomy:Amodifiedtechniquewithpreservationofthenasalandlacrimalmucosa.OphthalPlastReconstrSurg26:161-164,20109)ChristenburyJD,CharlotteNC:Transcanalicularlaserdacryocystorhinostomy.ArchOphthalmol110:170-171,1992(19)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013901