特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):41.45,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):41.45,2013後眼部編脈絡膜の形態解析ChoroidalObservationsUsingHigh-PenetrationOCT中井慶*はじめに光干渉断層計(OCT)は,眼科における一つの歴史的変革である.補助診断法と考えられたOCTも,今や診断,治療,研究の主役になりうる.誕生から20年間で,OCTは種々の進化を果たした.OCTの役割は,眼底深部の画像化である.従来の800nm帯光源では,解像度が高い反面,網膜色素上皮層の散乱が強く,眼底深部のシグナルが減弱する欠点がある.光源の長波長化により,色素上皮層での透過性が高まり,眼底深部を観察が可能になる.もう一つの欠点は,固視不良による画像が不鮮明であり,その解決には,測定時間の短縮,高速化が求められる.OCTを押し込み,画像を反転させ,50.100枚の画像を重ねるenhanceddepthimaging(EDI)法は,撮影に時間がかかり,固視不良になる可能性がある.SweptsourceOCT(SS-OCT)は上記の2つの欠点を解決しうる.SS方式は長波長,高速化OCTを作るのにも優れており,次世代を担う技術と期待される.今回,筆者らは,組織侵達性に優れ,脈絡膜,強膜などの深部組織の描出に優れる,高侵達SS-OCT(中心波長1,050nm,走査速度毎秒100,000A-scan)を用いて,さまざまな疾患を観察したので報告する.ISS.OCTによる正常眼画像図1は,正常眼を1,050nmSS-OCTで撮影したものである.脈絡膜深部のシグナルが向上し,強膜までも描図1高侵達SS.OCTによる正常眼撮影画像脈絡膜深部のシグナルが向上し,深部まで描出される.中小血管層からなるSattler’slayer,大血管層からなるHaller’slayerが明瞭に描出される.Haller’slayerの外側は上脈絡膜で,豊富な線維からなる移行帯である.強膜はさらに外側の均一な高散乱組織である.脈絡膜と強膜の境界は,脈絡膜大血管外側の,高散乱帯である.出される.脈絡膜厚は,正常眼でも個人差を認め,屈折値の影響が大きい.平均値は250μm程度だが,正視眼では500μm以上,強度近視眼では100μm以下の場合もある1).脈絡膜より内側のBruch膜と脈絡膜毛細管板はきわめて薄く,SS-OCTにては同定できない.その後方,脈絡膜内部の,中小血管層からなるSattler’slayerと,その後方,大血管層からなるHaller’slayerの2層は明瞭に描出される.解剖学的に両者に明瞭な境界はなく,SS-OCTでも2層の境界を描出することはできない.*KeiNakai:大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座〔別刷請求先〕中井慶:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)41Haller’slayerの後方は上脈絡膜で,豊富な線維からなる移行帯である.強膜はその後方の均一な高散乱組織で,その境界は,脈絡膜大血管外側の高散乱帯であるといわれているが,さらに後方という報告もあり2),今後よりいっそうの検討が待たれる.II高侵達SS.OCTによる疾患眼画像解析1.原田病原田病は,前部および後部ぶどう膜のメラノサイトに対する自己免疫機序によって炎症が生じる,汎ぶどう膜炎であり,病理組織学的に,網膜脈絡膜に肉芽腫性変化が生じる(図2).急性期の後極部漿液性網膜.離は,脈絡膜の肉芽腫変化によって生じた続発性の変化であり,疾患の本態は脈絡膜にあると考えられる.原田病のインドシアニングリーン蛍光造影(IA)では,造影早期の脈絡膜充盈遅延,脈絡膜血管不鮮明,中・後期には,散在する斑状低蛍光(filling-patchy-delay),網膜下色素漏出などが特徴的に観察される.造影早期の脈絡膜充盈遅延,脈絡膜血管の不鮮明は,脈絡膜への多数の類上皮細胞リンパ球などの炎症細胞の浸潤による脈絡膜循環障害をあらわす所見として多くの症例にみられ,診断に重要である.しかし,IA所見にて原田病の重症度を評価することは困難であった.原田病のOCT所見については,網膜の変化には多くの研究がなされているが,脈絡膜のOCT所見に関する報告は,脈絡膜皺襞3,4)などが散見される程度である.そこで,筆者らは,急性期と回復期における4例の原田病患者の高侵達SS-OCTを用いて検討し,急性期では,回復期またはコントロール眼に比して脈絡膜厚が,全例800μm以上と有意差をもって肥厚し,脈絡膜内層の脈絡膜血管信号が減少すると報告した5)(図3).ステロイド薬治療開始後,中心窩下脈絡膜厚は治療前の800μm以上から,治験開始後1週では平均562μm,4週では412μm,さらに6カ月では347μm,1年では326μmに減少した(図4).つまり,治療開始後1週間程度で速やかに肥厚は改善,その後1年にわたって,図2原田病の初診時所見両眼で乳頭発赤腫脹および乳頭周囲の漿液性網膜.離を認めた(上段).蛍光眼底造影では,両眼で視神経乳頭の過蛍光および乳頭周囲の造影剤漏出を認めた(下段).42あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(42)図3両眼の高侵達SS.OCT画像治療開始前の,Day0では両眼とも強膜・脈絡膜境界は不明瞭なため計測不可能(>800μm).Day2では強膜・脈絡膜の境界は明瞭化(矢頭)し,右眼で435μm,左眼で336μmに減少.Day14では左眼で漿液性網膜.離は消失,脈絡膜厚は右眼で293μm,左眼で260μmへと減少.900800Day0>800μmDay2435μmDay14293μm右眼Day0>800μmDay2336μmDay14260μm左眼900800右眼左眼700600患者1右眼700脈絡膜厚(μm)500脈絡膜厚(μm)患者1左眼600400患者2右眼500患者2左眼300患者3右眼200400患者3左眼100300患者4右眼00246810121416患者4左眼200治療開始日数(days)図4原田病患者の脈絡膜厚の経時的変化グラフ両眼とも,ステロイド薬治療により脈絡膜厚の減少を認めた.徐々に菲薄化を認めた(図5).肥厚の原因であるが,脈絡膜への炎症細胞浸潤,滲出による間質浮腫が関与していると考え,前者は病理組織学的所見と合致する.Marukoら6)からも同様の報告がある.また,炎症再燃時には,脈絡膜厚が800μm以上へと再度肥厚が確認された.原田病寛解期において特徴的な夕焼け状眼底においても脈絡膜を検討したところ,網膜は菲薄化を認めなかったが,脈絡膜は,平均厚172μmと正常眼に比して,有意に菲薄を認めた.前眼部炎症,(43)1000経過日数(days)図5ステロイド薬治療後の,原田病患者の脈絡膜厚の半年から1年にわたる経時的変化グラフ4例8眼の脈絡膜は,すべての症例で発症時には検出限界(800μm)を超えて肥厚していたが,治療開始後4週間で平均して412μmと,発症時に比して,有意に減少を認めた(p<0.0001).ならびに漿液性網膜.離が消失し,臨床的に炎症寛解が得られているように観察されても,徐々に菲薄化が進むのは,脈絡膜で炎症がくすぶっており,それに伴い,組織萎縮が進行している可能性が示唆される.これは,原あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013430100200300400田病においては,他疾患とは異なり,長期間,半年程度かけてステロイド薬を減量する必要性があることを強く支持するものであると考える.上記より,筆者らは,診察時には,炎症細胞や漿液性網膜.離の有無に加えて,高侵達SS-OCTを用いた脈絡膜の肥厚改善程度を解析することは,ステロイド薬増減のタイミングに非常に有用であると考える.また,フルオレセイン蛍光造影(FA)/IAなどの造影検査と比べて非侵襲的に行えるため,今後原田病に対する治療効果の定量的評価の指標として有用であると考える.原田病における脈絡膜肥厚は,IA所見における脈絡膜充盈遅延とよく相関し,診断的価値の高い所見として重視すべきである.また,筆者らは網膜.離非出現期または乳頭浮腫型原田病における診断的価値についても,検討している.原田病は通常,眼底後極部における漿液性網膜.離で発症するが,発症初期や乳頭型では,乳頭浮腫,発赤のみを認め,後極の漿液性網膜.離が観察されない場合は診断に迷うことがある.眼底所見は,乳頭発赤以外は異常所見を認めないが,IA所見の充盈遅延および高侵達SSOCTでの脈絡膜肥厚所見が原田病と診断する手助けになる場合がある.2.中心性漿液性脈絡網膜症中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は,IA所見より脈絡膜血管の透過性亢進が指摘されていた.高侵達SSOCTでは,それに一致して大血管の拡張が観察される.血管拡張に伴い,脈絡膜厚の増大が観察される(図6)7).図6中心性漿液性脈絡網膜症例高侵達SS-OCTでは,後方,特に大血管の拡張が観察された.血管拡張に伴い,脈絡膜厚は各所で増大する様子が観察された.健側僚眼でも脈絡膜の血管透過性亢進が観察されることがあり,SS-OCTにても,正常に比して,脈絡膜厚の増加が観察される.光線力学的療法の治療にて,脈絡膜厚が減少する報告がある8).3.強膜炎急速に脈絡膜皺襞を生じる病態をもつ疾患として,後部強膜炎があげられる(図7).筆者らは,後部強膜炎患者2例において,治療前後の脈絡膜の経時的な変化を高侵達SS-OCTを用いて解析した.治療前の患眼脈絡膜厚は384μmと健眼に比して肥厚していた.ステロイド薬治療開始後13日目で261μm,69日目で218μmと,脈絡膜肥厚の改善を認めた(図8).また,長期的な観察では,炎症眼では,正常脈絡膜厚に比して菲薄化を認図7強膜炎症例前眼部に結膜充血.眼底写真では,耳側に漿液性網膜.離(矢印)を認めた.44あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(44)Day0384μmDay13261μmDay69245μmDay0384μmDay13261μmDay69245μm図8強膜炎患者の脈絡膜厚の経時的変化ステロイド薬治療により,脈絡膜厚の減少を認めた.治療開始前は384μm,13日目では261μm,69日目には漿液性網膜.離は消失し,脈絡膜厚は245μmへと減少が観察された.め,Takiら9)も同様の報告をしている.おわりに以上に述べたように,脈絡膜を病変の主座とするぶどう膜炎では,画像診断にて脈絡膜にさまざまな所見が観察される.今後,さまざまな疾患において高侵達SSOCTを用い,病態解明ならびに治療評価も含めた研究が急速に進むことが予想される.文献1)FujiwaraA,ShiragamiC,ShirakataYetal:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomographyofsubfovealchoroidalthicknessinnormalJapaneseeyes.JpnJOphthalmol56:230-235,20122)YamanariM,LimY,MakitaSetal:Visualizationofphaseretardationofdeepposterioreyebypolarization-sensitiveswept-sourceopticalcoherencetomographywith1-micronprobe.OptExpress17:12385-12396,20093)YamaguchiY,OtaniT,KishiS:TomographicfeaturesofserousretinaldetachmentwithmultilobulardyepoolinginacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol144:260-265,20074)IshiharaK,HangaiM,KitaMetal:AcuteVogt-Koyanagi-Haradadiseaseinenhancedspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:1799-1807,20095)NakaiK,GomiF,IkunoYetal:ChoroidalobservationsinVogt-Koyanagi-Haradadiseaseusinghigh-penetrationopticalcoherencetomography.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1085-1095,20126)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:SubfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina31:510-517,20107)KurodaS,IkunoY,YasunoYetal:Choroidalthicknessincentralserouschorioretinopathy.Retina2012,inpress8)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofcentralserouschorioretinopathy.Ophthalmology117:1792-1799,20109)TakiW,KeinoH,WatanabeTetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinrecurrentunilateralposteriorscleritis.GraefesArchClinExpOphthalmol2012,Epubaheadofprint(45)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201345