特集●今が旬,緑内障手術あたらしい眼科29(11):1461.1469,2012特集●今が旬,緑内障手術あたらしい眼科29(11):1461.1469,2012濾過手術術後管理および新しい緑内障フィルトレーションデバイスEX-PRESSTMPostoperativeManagementofFiltrationSurgeryforGlaucomaandTrabeculectomywithEX-PRESSTMMiniatureGlaucomaDevice新田耕治*はじめに濾過手術の代表的術式として,トラベクレクトミーは世界的に広く普及し,代謝拮抗薬を用いたマイトマイシンC併用トラベクレクトミーは濾過手術のゴールデンスタンダードとされている.日本人のマイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期手術成績については,眼圧が常に18mmHg未満と定義したときの術後8年生存率は67.0±4.6%,眼圧が常に16mmHg未満と定義したときの術後8年生存率は44.5±5.4%,術前の最高眼圧からの眼圧下降率が常に30%以上でかつ眼圧が常に21mmHg未満と定義したときの術後8年生存率は74.1±4.2%との報告がある.しかし,トラベクレクトミーは結膜や強膜の創傷治癒に逆らって房水を流出する術式であり,その管理や対処方法がむずかしく,術者によってもその術式や管理方法に違いが生じていると思われる.その一つとして,結膜切開方法がある.輪部基底結膜切開方法と円蓋部基底結膜切開方法である.両者の結膜切開方法の違いによる検討では,眼圧の推移は両者ともに同様の経過をたどることが多いが,形成された濾過胞の形状は,円蓋部基底のトラベクレクトミーがvascularblebをより高率に作成できるので,感染症のリスク軽減に寄与しているものと考えられる.しかし,術後早期の合併症の点で,円蓋部基底トラベクレクトミーのほうが術後早期に創からの房水の漏出の頻度が有意に高率であるとの報告がある.したがって,円蓋部基底トラベクレクトミーは術後早期には種々の処置を要する頻度が高くなってくる.濾過手術の術後に手術の効果を持続させ,合併症による影響をひき起こさないためにそれぞれの状況に応じて的確にしかも迅速に対処することが重要であると考えられるので,筆者が常に挑んでいる濾過手術の術後管理について述べる.2012年4月に緑内障治療用インプラント挿入術が保険適用となり,難治性緑内障に対する治療方法の選択肢が拡大した.緑内障チューブシャント手術に用いられるデバイスには房水貯留空間形成用のプレートを有するデバイスとプレートを有さないデバイスがある.このうち,プレートを有さないデバイスとして,2011年12月に認可されたものにアルコン社製EX-PRESSTMがある.虹彩切除による合併症のリスク軽減や前房の開放時間の短縮,前房からの房水流出量が一定などの利点がある.EX-PRESSTMの使用経験に基づき,その特徴や現在までに報告されている術後成績について述べる.I濾過手術術後管理濾過手術術後の症例を診察する場合には,前房の形成状況・濾過胞形成の有無・眼圧を中心に観察する.これらを観察した結果の代表的なパターンにおける対応の方法について詳細に述べる.*KojiNitta:福井県済生会病院眼科/金沢大学医薬保健学域医学系視覚科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(11)14611.前房形成良好・濾過胞形成不全・高眼圧の場合濾過胞部分の結膜を軽く圧迫し,濾過胞が形成されるか確認し,濾過胞が容易に形成されれば経過観察する.しかし,圧迫しなければ濾過胞が形成されないようであれば,数時間後には元の状態に戻ることが多く1日に数回診察すべきである.そしてこのような状態が続くようであれば,早々にレーザー切糸(lasersuturelysis:LSL)を施行する.筆者の場合,レンズはLaydenSutureLysisLaserLensを使用している.このレンズは先端部の直径が1.6mmと圧迫面積が小さく,Tenon.が厚い症例や結膜下出血が顕著な症例でも結膜をピンポイントで圧迫できるため,容易に切糸を行うことが可能である(図1).LSLを施行する部位については,円蓋部基底の場合は,濾過胞を円蓋部へ拡大させたいという意図に基づき,結膜縫合部から遠い縫合糸から施行している.輪部基底の場合は,逆に,濾過胞は左右に拡大したいので輪部に近い縫合糸から施行している.糸の真ん中を切るといずれ縫合糸が立ち上がって結膜穿孔をきたす可能性があるので両端のいずれか一端を切糸するとよい.LSL直後にはレンズによる圧迫にて結膜が陥入しているのでLSL15分後に診察し,濾過胞の形成状況を確認している.濾過胞形成が不十分であればマッサージを施行する.LSLを施行しても引き続き濾過胞の形成不全状態図1LaydenSutureLysisLaserLens先端部の直径が1.6mmと圧迫面積が小さく,Tenon.が厚い症例や結膜下出血が顕著な症例でも結膜をピンポイントで圧迫できる.1462あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012が続くようであれば,翌日以降に2糸目のLSLを考慮する.LSLを施行した際に前房出血が生じることがあるが,たいていは少量であるので気にする必要はない.しかし,2糸目のLSLを施行すれば再度前房出血が出現することを念頭に置くようにしている.LSL後に想定以上に濾過量が増加し,前房形成不全や低眼圧状態に陥ることがある.この場合は,下記の5項と同様の対応が必要である.2.前房形成良好→不良・濾過胞形成不全・低眼圧の場合結膜創から房水が漏出している可能性がある.フルオレセイン試験紙を用いて眼表面を十分に色素で染色し房水の漏出部位や漏出の程度を観察する.房水の漏出が軽度であれば創傷治癒メカニズムにより房水の漏出が止まる可能性があるが,漏出停止までに1週間以上がかかるようであればその間に強膜弁上の結膜下の癒着が進行してしまい,濾過胞が形成されにくくなる可能性がある.そのため房水漏出が認められたら数日の間に10-0ナイロン丸針を使用して,端々縫合やマットレス縫合を行うようにしている.濾過胞形成不全・低眼圧の状態が遷延化した場合に前房の形成も不良となる.早めに房水の漏出を止めるべく処置が必要である.3.前房形成不良・濾過胞形成不全・高眼圧の場合悪性緑内障や上脈絡膜出血が考えられる.悪性緑内障は,後房から前房への房水の流入が水晶体・毛様体・前部硝子体などでブロックされ,硝子体腔へ房水が流入し,房水の流出動態が負のスパイラルに陥っている.アトロピン水点眼,ステロイド薬の点眼や内服にて改善する場合もあるが,奏効しない場合はレーザー治療や硝子体手術が必要となる.上脈絡膜出血は,軽度の場合には経過観察を行うが,出血量が多かったり眼圧が著しく高値の場合は経強膜的に出血を排出する必要がある.筆者は実際には悪性緑内障や上脈絡膜出血の経験がないのでその詳細については他稿に譲ることとする.4.前房形成良好・濾過胞形成良好・高眼圧の場合手術により一定の濾過量は確保されているものの眼圧(12)のコントロールが依然不良である.さらにLSLを施行し,濾過量をさらに増やすべきである.しかし,一部の強膜弁下が癒着し房水の流出量が十分に確保されていないときや濾過胞周囲の癒着のために濾過胞が限局化している場合には,needlingなどの処置が必要である.濾過手術は下方にて施行すると高率に感染症を発症するといわれており,基本的には濾過手術は上方で2回しか施行できない.だとすると,1回施行した濾過手術の効果をできるだけ持続し,濾過効果が減衰した場合において同一部位にて濾過効果を回復したいものである.その方法として注射針などで強膜弁を持ち上げたり濾過胞壁を切離し濾過胞を再建するneedlingと結膜を切開して瘢痕組織や濾過胞壁を除去する観血的濾過胞再建術がある.特にneedlingは簡便で比較的侵襲の少ない手技であるが,その効果が長期的に持続しないこともあり,再needlingや追加手術を必要とされることもしばしば経験する.当初は23ゲージ(G)針を使用して行っていたが,濾過胞壁の切開や癒着結膜の解離が不十分になることがあり,現在では相良式の濾過胞再建用極細クレッセントナイフ(ブレブナイフR,カイインダストリーズ)を使用している.先端が円形で鋭利な刃を有し,最大幅1.0mmの極細形状であるため,癒着瘢痕組織の切離の際に抵抗は少ない.また,先端から4mmにわたり両側面に刃を有しているために,癒着瘢痕組織にナイフを横に振りながら切離でき大変便利なナイフである.あらかじめ45°曲げてあるベントタイプと,自身で曲げ角度を調節できるストレートタイプの2種類がある.実際のneedlingは,筆者は手術室で行っている.Tenon.下麻酔を施行の後に,輪部角膜に牽引糸をかけ,上方の術野を十分に確保する.強膜弁から7mm以上離れた円蓋部結膜を1.2mm切開し,その下のTenon.を切開し強膜表面を露出させる.その後,眼灌流液を注入した注射器に鈍針をつけ,Tenon.下に灌流液を注入する.その結果,癒着瘢痕の強い部分とそうでない部分が識別できるようになる.その後,ブレブナイフを使用して癒着が弱い部分から切離するようにする.それは,癒着が強い部分は切離した際に結膜下で出血することが多く,結膜下の視認性が低下しやすいからである.それでも出血により視認性が低下した場合は(13)図2Needlingの際にブレズナイフで濾過胞壁を切離しているところ相良式の濾過胞再建用極細クレッセントナイフは,先端から4mmにわたり両側面に刃を有しているために,癒着瘢痕組織にナイフを横に振りながら切離できる.MQAなどのスポンジゲルにて結膜上から圧迫しながら癒着の切離を行うとよい(図2).ただし,結膜を穿孔しやすいので,刃先は強膜に押し付けるように切離を進めていくのがポイントである.刃の先が濾過胞に刺入し濾過胞壁の瘢痕組織を切開できたならば,ブレブナイフを一旦引き抜き,房水の流出程度を確認する.不十分と判断した場合は,ブレブナイフを再刺入し,さらに強膜弁下,必要に応じて前房へと刺入させる.その後,ブレブナイフを抜き,結膜切開部を10-0ナイロン丸針で連続縫合し終了する.5.前房形成良好→不良・濾過胞形成良好・低眼圧の場合過剰濾過状態であり,眼底検査を丹念に行い,脈絡膜.離の有無やその拡大,低眼圧による黄斑症の有無を観察する.しばらく経過観察することにより低眼圧状態を脱することも多い.経過観察している時期には筆者は患者に点眼指導をしている.その内容は,手で上下の眼瞼を開いて点眼していることが多いので,眼瞼を触らないで点眼し,極力眼瞼に圧力をかけないように指導している.それでも,過剰濾過状態が続けば何らかの処置が必要である.圧迫眼帯はその効果が不安定で角膜内皮へ影響を及ぼす可能性があるため使用しないようにしていあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121463る.筆者は経結膜的に強膜弁の追加縫合を行っている(図3).10-0ナイロン丸針を使用して,結膜上から強膜弁へ針先を垂直に通糸し縫合する.経結膜的には強膜弁の切断面が不明瞭のことがあるので,MQAなどのスポンジで濾過胞を圧迫しながら輪部に近い場所で縫合するのがコツである.また,丸針を強膜に数回通糸すると針の切れが悪く通糸しにくくなるので,早めに新しい丸針に交換することが肝要である.6.濾過胞からの房水の漏出漏出部位の結膜を直接縫合することが可能であれば,第一に選択すべき方法であるが,多くは結膜が菲薄化していることが多く,縫合によりかえってボタンホールを図3経結膜的強膜弁縫合を施行した症例過剰濾過により眼圧が2mmHgであったため(上),経結膜的強膜弁縫合術にて2針縫合するも引き続き低眼圧状態が持続し,3針縫合を追加し,術後は眼圧が8.11mmHgで推移している(下).形成してしまう.そのために,直接縫合以外の方法で対処することが多い.まず,漏出部位が輪部の近傍であれば,シールドの役割を期待してできるだけ大きいソフトコンタクトレンズを装着してみるとよい.輪部から離れている場合には,自己血清点眼を作製して結膜上皮の再生を促進するように試みる.濾過胞内に自己血清を直接注入する方法もある.濾過胞の丈が高く菲薄化している場合には,これらの方法が無効なことが多く,筆者は濾過胞内壁の減圧を目的に濾過胞壁を切開している.Needlingと同様の方法で行っているが,強膜弁下や前房へは刺入する必要はないと思われる.濾過胞内圧の減圧により濾過胞の丈が低くなり瞬目の際の眼瞼結膜との接触の程度が減弱するために濾過胞からの房水の漏出が止まることが多い.しかし,濾過胞の菲薄した状態は続くので再度濾過胞から房水の漏出をきたす場合がある.そのときには,濾過胞を切除して円蓋部結膜を移動する方法が有効なことがある.7.角膜上濾過胞(overhangingbleb)濾過胞が菲薄化し徐々に上方の角膜上にかぶさるようになり,ひどい場合には視軸にかかる場合がある.視力障害や流涙をきたしている場合には処置を考慮しなければならない.その場合はoverhangingした濾過胞のみを直接切除するようにするとよい.濾過胞を切除しても房水が漏出しないことが多い.Overhangingした濾過図4Overhangingbleb濾過胞が菲薄化し上方の角膜上にかぶさるようになってきている.1464あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(14)図5濾過胞感染StageI症例無血管濾過胞および周囲の充血を認める(左).前房内の炎症は軽微である(右).図6濾過胞感染StageIIIb症例無血管濾過胞および周囲の充血を認める(左上).前房蓄膿を認め,後眼部にまで炎症が波及している(右上).即日,硝子体手術を施行し,現在は濾過胞感染前の視機能を保持できている(左右下).胞を切除し房水の漏出が高度である場合には,濾過胞全体を切除し,円蓋部から結膜を移動する方法を施行しなければならない場合がある(図4).8.濾過胞の充血濾過胞炎や眼内炎が考えられ,迅速な対応が必要とされる.硝子体手術が可能な施設に紹介し,濾過胞感染の程度に応じた対応が必要である.濾過胞感染の波及状況によってStage分類されており,StageIは,炎症が濾過胞に限局している状態で,濾過胞および周囲の充血,眼脂,流涙,異物感,眼痛などを呈する(図5).濾過胞は黄白色に混濁し,フルオレセイン生体染色にて濾過胞(15)表面の結膜上皮の障害を認めることが多い.StageIIは,炎症が前房に波及しているが,硝子体など後眼部へは炎症が到達していない段階である.StageIIIは,後眼部にまで炎症が波及し,前房蓄膿,硝子体混濁,硝子体膿瘍,網膜白濁,網膜血管の白鞘化などを認める(図6).StageIIIは,さらに炎症が比較的軽微な状態がIIIa,炎症が非常に重篤な状態がIIIbに分けられている(表1).IIEX-PRESSTMについて1.EX-PRESSTMの特徴EX-PRESSTMはステンレス製の緑内障フィルトレーションデバイスであり,強膜弁下に輪部から前房内へ穿あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121465表1濾過胞感染ステージ別治療方針分類炎症の部位治療方針StageI濾過胞の炎症の部位が限局している(前房に軽微の炎症があってもよい)・レボフロキサシン点眼とセフメノキシム点眼の1時間毎点眼・オフロキサシン眼軟膏の就寝時点入・バンコマイシン25mg/0.5ml+セフタジジム100mg/0.5mlの結膜下注射StageII炎症の主座が前房内硝子体に及んでいない・レボフロキサシン点眼とセフメノキシム点眼の1時間毎点眼・オフロキサシン眼軟膏の就寝時点入・バンコマイシン1mg/0.1ml+セフタジジム2.25mg/0.1mlの前房内注射・前房内注射の効果が不十分なら36時間以上経過後に再施行可・抗菌薬全身投与(薬剤選択は担当医の判断)StageIIIa後眼部にも炎症が波及硝子体の炎症が軽微・レボフロキサシン点眼とセフメノキシム点眼の1時間毎点眼・オフロキサシン眼軟膏の就寝時点入・バンコマイシン1mg/0.1ml+セフタジジム2.25mg/0.1mlの硝子体内注射・硝子体内注射の効果が不十分なら36時間以上経過後に再施行可・抗菌薬全身投与(薬剤選択は担当医の判断)・抗菌薬による十分な治療後にステロイド全身投与やステロイド点眼使用可StageIIIb後眼部にも炎症が波及硝子体の炎症が重篤・バンコマイシン100mg/500ml+セフタジジム200mg/500mlの眼灌流液を使用しながら迅速な硝子体手術・レボフロキサシン点眼とセフメノキシム点眼の1時間毎点眼・オフロキサシン眼軟膏の就寝時点入・抗菌薬全身投与(薬剤選択は担当医の判断)・抗菌薬による十分な治療後にステロイド全身投与やステロイド点眼使用可刺留置することで,前房と眼外の間に房水流出路を作製することを可能とする(図7).本製品は本体とEXPRESSTMデリバリーシステムで構成されており,デリバリーシステムの先端に本体が装.されている(図8).EX-PRESSTM挿入患者が術後にCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)を受けた場合には眼内異物として写るため,EX-PRESSTMを使用した濾過手術を計画した場合には,あらかじめ患者や家族にEXPRESSTMを使用する予定であることを説明しておくべきである.また,術後のMRI撮影に関しては影響がないとされているが,術後2週間はEX-PRESSTMが安定していない可能性があるために念のためMRIを受けないように指導すべきである.2.EX-PRESSTMの使用が推奨される症例無硝子体眼,近視眼,若年者,片眼の線維柱帯切除術の際に低眼圧をきたした症例など前房開放時間の短縮が必要とされる場合,血管新生緑内障や抗凝固剤内服症例など虹彩の切除を回避したい症例,偽水晶体眼や無水晶1466あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(文献3より一部改変)〈突起部〉〈プレート〉本体の突出を防ぐ本体の貫入を防ぐ50μm(前房側)(強膜側)房水流量を最適化〈前房側開口部〉主たる流出路〈柄〉27ゲージ外径0.38mm全長2.6mm〈リリーフポート〉連続した房水流出が可能図7EX-PRESSTMの構造全長2.6mmで前房側開口部とリリーフポートを有するデバイスである.(日本アルコン社提供)体眼など隅角が十分に開放している症例にてEXPRESSTMを使用することが推奨される.さらに筆者は,落屑緑内障でもEX-PRESSTMを使用している.その理由は,落屑緑内障では,Zinn小帯が脆弱で虹彩を切除(16)した際に硝子体脱出をきたす可能性があるからである.3.EX-PRESSTMの挿入方法線維柱帯切除術の術式に準じて,開窓前までの手順で進める.虹彩と平行するような角度で25G注射針あるいは25GV-ランスを使用してグレーゾーンの外側で切開を施行する.強膜弁を把持しながらEX-PRESSTM本体を90°の角度で前房内へ穿刺する(本体突起部が横向き).挿入後,デリバリーシステムを直立位置に回す(本体突図9EX-PRESSTMを使用したトラベクレクトミー手順虹彩と平行するような角度で25G注射針あるいは25GV-ランスを使用してグレーゾーンの外側で切開を施行する.強膜弁を把持しながらEX-PRESSTM本体を横向きに前房内へ穿刺する.挿入後,デリバリーシステムを直立位置に回す.EXPRESSTMの返しの部分までが完全に眼内に挿入されてからデリバリーシステムのボタンを強く押すと,EX-PRESSTM本体がリリースされる.その後は通常の線維柱帯切除術と同様に強膜弁を縫合,結膜縫合を行う.(添付文書より抜粋)25Gの針で前房内へ軌道を切開する.1デリバリーシステムの操作ボタンを押し,デリバリーシステムワイヤを押しこむと,デリバリーシステムワイヤ先端部が引っ込み,本体が外れる.3図8EX-PRESSTMのデリバリーシステムデリバリーシステムの先端にデバイス本体が装.されている.ワイヤを押し切らないとEX-PRESSTMがリリースされないので,ボタンを押す際にはデリバリーシステムを持ち直して親指で押し込んだほうが操作しやすい.(日本アルコン社提供)24本体を前房内へ穿刺する.デリバリーシステムを静かに引き抜き,本体の位置および房水の流出を確認する.[本体挿入断面図]図10EX-PRESSTMを使用した続発緑内障症例EX-PRESSTMは眼内レンズ挿入眼に装着することが望ましい.(17)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121467起部が下向き).EX-PRESSTMの突出部(返しの部分)までが完全に眼内に挿入されてからデリバリーシステムのボタンを強く押す.するとEX-PRESSTM本体がデリバリーシステムからリリースされる.その後は通常の線維柱帯切除術と同様に強膜弁を縫合,結膜縫合を行う(図9,10).4.EX-PRESSTMを使用した濾過手術術中の留意点25G注射針あるいは25GV-ランスを使用して事前切開を行うも強い抵抗を感じEX-PRESSTMがなかなか挿入できないときがある.ぐずぐずしていれば房水がさらに流出し前房が浅くなりますます挿入しにくくなることがある.その場合には粘弾性物質を注入しながら再挿入を試みるとよい.ただし,EX-PRESSTMの突出部(返しの部分)がすでに眼内に挿入されてしまっている場合は押し続けて挿入するしかなく,挿入を躊躇してはならない.逆に,EX-PRESSTMの安定性が欠けてEXPRESSTM外壁と強膜壁とのすき間から房水が流出することがある.この場合は特に対処せずに手術を継続して問題ないと思われる.このようなことを避けるために通常の線維柱帯切除術の際より強膜弁をやや薄くし強膜床を厚くするとEX-PRESSTMが強膜床上で安定する.EX-PRESSTMが挿入されリリースする際にデリバリーシステムが硬く,リリースしにくく感じることがある.ワイヤを押し切らないとEX-PRESSTMがリリースされないので,ボタンを押す際にはデリバリーシステムを持ち直して親指で押し込んだほうが操作しやすい.また,やむを得ずEX-PRESSTM本体を摘出する場合には,EX-PRESSTMのプレート部を把持し,EXPRESSTM外壁と強膜壁との間に粘弾性物質を注入し,90°回転させて引き抜く.15°ナイフやV-ランスなどでEX-PRESSTM外壁に沿って1mmほど切開してから90°回転させて引き抜くのもよい.5.EX-PRESSTMを使用した濾過手術術後の留意点EX-PRESSTM本体が虹彩に接触することがある(図11).隅角検査を施行しEX-PRESSTM開放ポートに虹彩が巻き込まれておらず流量が得られていればそのままにしてよい.しかし,開放ポートに虹彩が巻き込まれたり,凝血塊が付着している場合にはYAGレーザーなどで虹彩や凝血塊の嵌頓を解除しなければならない(図12).図11EX-PRESSTMを使用した落屑緑内障症例有水晶体眼でありデバイスが虹彩面に接触しているが,開口部やリリーフポートは開存しており,濾過機能は保たれている.1468あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(18)図12EX-PRESSTMを挿入して凝血塊がデバイスに付着した症例EX-PRESSTMの前房側開口部に凝血塊が付着して,房水の流出が妨げられている状態(左).EX-PRESSTMの前房側開口部にYAGレーザーを照射して,房水の流出障害が解除された状態(右).LSLを実施する際には,通常の線維柱帯切除術の場合と比較して1回のLSLの効果が強く房水流出量が多くなる場合が多い.そのためLSL後の過剰濾過による種々の合併症を念頭において管理しなければならない.6.EX-PRESSTMを使用した濾過手術成績通常のトラベクレクトミーとの術後成績の比較では,術後早期には眼圧下降率はEX-PRESSTM群のほうが有意に低い(術後1週間:13.5%vs39.8%)が,術後3カ月以降(術後12カ月:39.9%vs42.1%)は両者の眼圧下降率はほぼ同等であった.また,術後合併症に関しては,EX-PRESSTM群のほうが術後早期の低眼圧(4%vs32%)やchoroidaleffusion(8%vs38%)は有意に低率であった.その他の合併症(前房形成不全,低眼圧黄斑症,前房出血,濾過胞からの房水漏出,眼内炎)の頻度に差はなかった.別報でも術後の低眼圧の頻度はEXPRESSTM群のほうが有意に低い(4%vs16%)と報告されており,EX-PRESSTMを使用することで,術後早期の低眼圧状態を防ぎ,低眼圧状態により派生する黄斑症や脈絡膜.離などの合併症を少なくできることが期待される.また,術後に形成される濾過胞の状態は,丈が低くvascularityに乏しい濾過胞になりやすいが,びまん性で面積の大きい濾過胞が形成されやすいとの報告がある.これは,EX-PRESSTMを使用することにより房水を円蓋部へ誘導しやすくなったことを示唆するものである.文献1)ShigeedaT,TomidokoroA,ChenYNetal:Long-termfollowupofinitialtrabeculectomywithmitomycinCforprimaryopen-angleglaucomainJapanesepatients.JGlaucoma15:195-199,20062)FukuchiT,UedaJ,YaoedaKetal:Comparisonoffornix-andlimbus-basedconjunctivalflapsinmitomycinCtrabeculectomywithlasersuturelysisinJapaneseglaucomapatients.JpnJOphthalmol50:338-344,20063)YamamotoT,KuwayamaY,CollaborativeBleb-relatedInfectionIncidenceandTreatmentStudyGroup:Interimclinicaloutcomesinthecollaborativebleb-relatedinfectionincidenceandtreatmentstudy.Ophthalmology118:453-458,20114)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20075)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol151:507-513,2011(19)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121469