シリーズ①シリーズ①タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第1章なぜ今,眼科医療においてタブレット型PCが大切なのか私は臨床で眼科医をする傍らで医療の現場を離れ,視覚障害者の生活をより快適なものにすることを理念とした情報サイトの運営と啓発活動をしている三宅琢と言います.具体的な活動としては私が代表を務めるGiftHandsなどを通して視覚障害者や児童,盲学校職員,視能訓練士などを対象にタブレット型PCの活用法を紹介する啓発セミナーを行っています.Giftは贈り物や才能を,Handsはそれらをつなぐ手を意味し,多くの視覚障害者の意見や想いを吸い上げ,社会に還元することを目標としています.眼科医療におけるタブレット型PCの活用法,体験インタビューで得た実際のニーズとその対応方法などを,体験者の声を交えて紹介していきたいと思います.連載にあたって第1章ではなぜ今,眼科医療の分野においてタブレット型PCが重要であるかを社会背景やタブレット型PCの臨床導入の現状を踏まえて説明していこうと思います.近年,携帯性に優れた,タブレット型の多機能電子端末が広く普及してきています.なかでもApple社製の9.7インチマルチタッチスクリーンを搭載したタブレット型PCであるiPadR(AppleInc.)はキーボードやマウス操作を必要としないタッチパネル式の多機能電子端末で,2本の指のみの操作で表示画像の拡大や縮小ができ,簡便かつ瞬時に表示サイズの変更が可能で操作性に非常に優れています.また,9.7インチの大きい表示画面を有し持ち運びが簡単にできるため,ベッドサイドでの検査結果の説明や画像閲覧に使用でき,ベッドサイドケア,介護,看護と医療の現場でも多方面での応用がすでに報告されています1.5).また,手術室では透明で無菌のカバー越しにも簡単に操作が可能であるため,3D再構築画像と術中所見とのリアルタイムな比較を行っている施設もあり,その活用法の可能性は日々広がり続けています.(87)眼科領域においても,ここ数年で学会の抄録集がアプリケーションソフトとしてダウンロードができるようになり,演題の検索や学会中の演題進行状況の把握などが非常に簡便かつ的確になってきています.しかし,内科や一般外科領域の医療現場への導入の状況と比較すると,眼科医にとっての電子タブレットの活用は個人レベルにとどまり,おもな活用方法はスケジュール管理やメールの確認などまだ限定的であり,あまり重用視はされていません.しかしここ数年で登場した,後継機種にはタブレットの前面および背面に2つのカメラを搭載したこと,表示画面の解像度やコントラストが向上したこと,音声入力や読み上げ機能などを追加したことにより,その活用法の可能性は眼科領域においても急速な広がりをみせています.私は内科系研修医としての2年間初期研修のなかで,医療に関する2つの基本的な姿勢を学びました.1つ目は,治療の本質は患者のなかにあり,患者教育こそが最も時間を割くべき医療行為であるという姿勢です.医療現場では「医療者の指示に患者がどの程度従うか」というコンプライアンスの概念がこれまで重用視されてきましたが,ここ数年で「患者自身の治療への積極的な参加」というアドヒアランスの概念が重要であり治療成功の鍵であるという考えが一般的になってきました.眼科領域において治療の主体である点眼行為が,患者のアドヒアランスに大きく影響されることは言うまでもなく,まさしく治療の中心は患者にあると言えます.また,古くより患者の心理的な作用を利用した偽薬(プラセボ)効果は有名ですが,患者の多くが不定愁訴を認め,自覚症状の改善が重要な要素である眼科医療において,点眼行為という一種の儀式に対するアドヒアランスの効果は計り知れません.私は3年前から外来での患者説明の際にタブレット型PCを使用しています.解剖や病態生理,前眼部や眼底写真を患者と一緒に閲覧し病状や手術術式などを説明すあたらしい眼科Vol.29,No.6,20128090910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1取り込んだ製剤見本の画像を拡大表示る際,患者の視力に適した画像の拡大や明るさの調節などが即座に可能で,患者の視機能に合ったオーダーメイドな説明ができます(図1).患者や家族からも「実際に手に持って説明を聞ける.」,「診察室が暗くても画面が明るく,図が大きいから非常に見やすく理解しやすい.」などのコメントがあり,以前より短い時間でより満足度の高い良好な患者-医師関係を構築することができるようになりました.紙ベースでの資料では不可能であった新しい説明方法で,何より起動から画像提示までが数秒以内に行えること,患者や家族がタブレットを直接操作して任意に拡大や縮小を行うことで,より高い水準の病態理解が得られ,アドヒアランスは格段に向上します.個人的に説明などに使用する範囲であれば,そうした際に使用する解剖図などは日本眼科学会のホームページ(http://www.nichigan.or.jp/public/disease.jsp)などからも簡単に入手することができます.2つ目は,患者の言葉は教科書であり,患者の内なる声に常に耳を傾ける姿勢の大切さを学びました.3分診療という言葉にもあるように,実際の臨床の現場は時間との戦いであり,事実上眼科医療における診療時間とは,おもにスリットランプでの診察や眼底の診察に要する時間を意味し,患者との対話に要する時間は非常に短いと日々感じてきました.また,今後の電子カルテ化に伴い医師の視線はPCの画面とキーボードの入力に奪われることは必至であり,患者の想いと医師の理解の乖離は広がる方向にあります.タブレット型PCによる説明を導入し,良好な患者医師関係が構築されるようになった結果,診察時間は大幅に短縮しました.患者は診察室に入ってくるなり真実の言葉を話し出します.今までは気を使って言えなかった本音の言葉,それは真の治療効果を私に教えてくれま810あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012す.デジタルな存在であるタブレット型PCを上手に利用することで,逆に患者と医師の心の距離は近づいたと言えるのではないでしょうか.今後このシリーズで扱っていく電子タブレットのさまざまな活用方法を知ることは,最終的には患者の幸福はもちろん,言葉の食い違いなどから始まる諸問題から医師自身の身を守る手段としても非常に有用であると思います.そして何より,その存在を知ることによって,多くの治療法を失ったロービジョン患者の瞳に光を戻すことができると私は信じています.【追記】原則的に私が現在,GiftHandsや実際に外来で扱っている電子タブレットは,すでに医療現場に導入例のあるiPadRとiPhoneR(AppleInc.)の最新機種である“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年4月30日現在).なお,本文中の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページでの問い合わせのページよりいつでも受け付ていますので,連絡いただけたら幸いです.GiftHands:http://www.gifthands.jp/文献1)吉田茂:【現場の要求とモニタ選定】最新技術展望iOSデバイスが有する診療補助機能としての可能性を説く.新医療38:100-103,20112)杉本真樹:【ICTが医療・福祉施設環境を変える】医療クラウドとスマートモバイルデバイスによる個別化医療福祉ICTOsiriX-iPadと医領解放構想.病院設備53:48-50,20113)網木学:【医療を変えるiPhone/iPad】導入事例手術室でのiPad活用看護教育を中心に.看護学雑誌74:30-34,20104)富田博信:iPadは医療のなにを変えるのか臨床での有用性と新表示デバイスAquariusSystemを使用したシャント3D-CTAngio活用におけるiPadの臨床使用例透析室でのシャント3D-CTAngio配信システム.新医療38:145149,20115)杉本真樹,森田圭紀,松岡雄一郎ほか:【ロボット手術と最新の内視鏡外科手術】ロボット手術,NOTESにおける実時間的手術ナビゲーション.SurgeryFrontier17:234-243,2010<プロフィール>三宅琢(みやけ・たく)平成17年東京医科大学卒業平成17年東京医科大学八王子医療センターにて初期研修平成19年東京医科大学眼科大学院平成24年東京医科大学眼科兼任助教平成24年東京医科大学眼科大学院卒業平成24年永田眼科クリニック平成24年GiftHands代表http://www.gifthands.jp/(88)