●連載◯133監修=安川力髙橋寛二113網膜中心静脈閉塞症の視機能と野間英孝東京医科大学八王子医療センター眼科バイオマーカー網膜中心静脈閉塞症(CRVO)は,非虚血型CCRVOと虚血型CCRVOに分類されるが,視機能予後は大きく異なっている.蛍光眼底造影検査を行えば,CRVOが虚血型か非虚血型の判別は比較的容易であるが,判別に迷うようなら前房内フレア値やC30CHzフリッカ網膜電図がバイオマーカーとして有用となりうる.網膜中心静脈閉塞症の視機能網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は,非虚血型CCRVOと虚血型CCRVOに分類されるが(図1a~d),両者の臨床像は大きく異なっている.非虚血型CCRVOは新生血管形成のリスクがない比較的良性の疾患であるが,黄斑浮腫を伴うと視機能障害を生じる1).一方,虚血型CCRVOは新生血管形成から血管新生緑内障に至るリスクが高く,視力予後はきわめて不良である.黄斑浮腫を伴うと初期から黄斑虚血が高度なため不可逆的な視機能障害となり1),視力はC20/200以下のことが多い.光干渉断層計では,中心窩を中心に網膜膨化,.胞様変化,漿液性網膜.離を高頻度に左右対称に認めるが,虚血型CCRVOのほうが程度は強い(図1e,f).現在,黄斑浮腫に対して抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬治療が第一選択となっているが,虚血型CCRVOでは,たとえ抗CVEGF薬治療や硝子体手術を行い黄斑浮腫が改善したとしても視機能の改善は期待できない.このように非虚血型と虚血型の視機能予後は異なることから,非虚血型と虚血型の判定は,臨床的に重要となる.蛍光造影検査を行えば虚血型か非虚血型の判別は比較的容易であるが,低蛍光が出血のブロックによるものなのか無血管域によるものなのか迷うこともある(図1b,d).このようなときは,以下に示すバイオマーカーが虚血の判定に有用となると考える.サイトカインサイトカインとは,微量で細胞表面の特異的受容体を介して生理活性を示す蛋白因子の総称である.その中でバイオマーカーとなりえるサイトカインはCVEGFである.なぜなら,虚血型CCRVO患者では非虚血型患者に比べてCVEGF濃度が圧倒的に高いからである1).VEGFは虚血によってさまざまな網膜細胞から発現し,新生血管だけでなく血管透過性亢進も生じる.これはCVEGF(75)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY濃度と黄斑浮腫の重症度が相関していることからも明らかである1).よって,CRVOでは,網膜中心静脈が閉塞すると虚血に伴いCVEGF発現が亢進し,その結果,新生血管形成や黄斑浮腫を生じる1).一方,新生血管抑制因子である色素上皮由来因子(pigmentCepithelium-derivedfactor:PEDF)は虚血が強いほど発現は低下し,血管透過性や新生血管を抑制する.実際,虚血型CRVO患者では非虚血型患者に比べてCPEDF濃度は有意に低く,PEDF濃度と黄斑浮腫の重症度は有意に逆相関している2).とくに非虚血型CCRVOに伴う黄斑浮腫に対して抗VEGF薬治療は効果的であるが,抗CVEGF薬治療後の前房水CVEGF濃度変化率は,視力改善度と有意に相関する.すなわち抗CVEGF薬治療後にCVEGF濃度が低下するほど視力が改善する3).さらに硝子体手術後の硝子体液CVEGF濃度が高く,PEDF濃度が低い患者では視力改善度は不良である2).おそらくCVEGF濃度が高くPEDF濃度が低いと,網膜虚血によって視細胞が不可逆的な損傷を受けているものと考えられる.このようにVEGFだけでなくCPEDFもバイオマーカーとなりえるが,これらのサイトカイン濃度の測定は時間的・コスト的に困難である.そこで,有用となるのが以下に示す前房内フレア値の測定である.なぜなら,サイトカイン濃度は前房内フレア値と有意に相関しているからである1).前房内フレア値前房内フレア値は,レーザーフレアメーターで測定できる前房水中の蛋白濃度(フレア)のことで,眼内に炎症があることを意味する.前房内フレア値は,非虚血型CRVO患者より虚血型CCRVO患者において有意に高い1).虚血によりCVEGFが誘導され,その結果,血液房水関門が破壊され,虹彩血管からの蛋白漏出により前房内フレア値が増加すると考えられる.通常の細隙灯顕微鏡で観察可能な前房内フレア値はC30photoncounts/msあたらしい眼科Vol.40,No.7,2023923b図1網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の画像上段:非虚血型CRVO,下段:虚血型CRVO.Ca,b:カラー眼底写真,c,d:フルオレセイン蛍光眼底造影,e,f:光干渉断層計.(pc/ms)程度(正常範囲3.5Cpc/ms)であるので,細隙灯顕微鏡検査でCCRVO患者の前房水中の蛋白を観察するのは実はむずかしい.前房内フレア値は虚血の程度と有意に相関するため,虚血の程度が強いほど前房内フレア値は高くなるが,虚血型であってもせいぜいC30.40pc/ms程度である.よって,レーザーフレアメーターで前房内フレア値がC30Cpc/ms以上ある場合は,虚血型CRVOの可能性が高い.C30Hzフリッカ網膜電位図(electroretinography:ERG)検査は,全視野刺激で得られる網膜全体からの電気応答であり,眼底に広範囲に広がる病変の検出に優れている.明順応下で記録できるのが錐体応答であるが,30CHzの高頻度刺激で得られるC30CHzフリッカCERGも錐体系の機能を反映している.錐体応答やC30CHzフリッカCERGを用いても黄斑部に分布する錐体数は全体のC10%に過ぎないため,通常のCERGでは眼底後極部や黄斑部に限局した網膜機能障害をとらえられないが,30CHzフリッカCERGの潜時時間がC38Cms以上となると虚血型CCRVOの可能C924あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023性が高い4).これは,30CHzフリッカCERGの潜時時間とVEGF濃度は有意に相関していることからも支持される5).文献1)NomaH,YasudaK,ShimuraM:Cytokinesandpathogen-esisCofCcentralCretinalCveinCocclusion.CJCClinCMedC9:11,20202)NomaCH,CFunatsuCH,CMimuraCTCetal:In.uenceCofCvitre-ousfactorsaftervitrectomyformacularedemainpatientswithCcentralCretinalCveinCocclusion.CIntCOphthalmolC31:C393-402,C20113)MatsushimaCR,CNomaCH,CYasudaCKCetal:RoleCofCcyto-kinesCinCranibizumabCtherapyCforCmacularCedemaCinCpatientsCwithCcentralCretinalCveinCocclusion.CJCOculCPhar-macolTherC35:407-412,C20194)LarssonJ,AndreassonS:Photopic30CHz.ickerERGasapredictorforrubeosisincentralretinalveinocclusion.BrJOphthalmol85:683-685,C20015)NomaH,FunatsuH,MimuraT:Associationofelectroret-inographicparametersandin.ammatoryfactorsinbranchretinalveinocclusionwithmacularoedema.BrJOphthal-mol96:1489-1493,C2012(76)