158 あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 0910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)内障では,中間・高周波領域でのコントラストの低下が報告されている1,2).筆者らは,視力1.0 以上の軽度の皮質白内障症例と白内障術後例の低コントラスト視力を比較した.25,12,6%の各コントラストで,有意に皮質白内障症例の低コントラスト視力の低下を認めた(鳥羽良陽ら,白内障眼におけるコントラスト感度測定,第50 回日本視能矯正学会).また,佐々木らは,初期核白内障,皮質白内障に加え,後.下白内障,retrodots,water clefts でも視力1.0 以上の症例でコントラスト感度低下を生じるが,focal dots, coronary cataract, vacuolesでは,コントラスト感度低下は生じないと報告している3).このように通常のLandolt 環で検出しえない視機能低はじめに「眼がかすむ」という症状は,白内障の初期の症状としてよく患者が訴えるものの一つである.ただ,この症状は,「眼が見えない」よりは,軽度の視力障害をイメージさせ,「ピントがぼやけて見にくい」イメージや涙目を通して物を見たような歪んだイメージ,さらには,うすいすりガラスを通してものを見たときのようなコントラストが低下したイメージを連想させる.本稿では,混濁したレンズである白内障,透明なレンズである眼内レンズと透明な膜である水晶体後.のみが残っている白内障術後について,「眼のかすみ」を考えてみたい.I白内障と「眼のかすみ」1. 初期白内障とコントラスト感度Landolt 環による視力検査は,眼科の最も基本的な検査で,多くの患者にとっても馴染み深いものである.ただ,初期の白内障で視力が良好な症例のなかに,「見にくさ」「眼のかすみ」「近くが見にくい」「夜間の運転で見えない」などを訴える患者がいる(図1).この通常の視力検査は,100%のコントラストをもつ Landolt 環により視力測定を行うものであるが,実際の日常では,コントラストの低いものを見ることも多く,見にくさを自覚する.自覚的な視機能をもっと詳細に検査するものとして,コントラスト感度検査がある.白内障では,コントラスト感度が低下することが知られ(図2),初期の核白( 20)* Daijiro Kurosaka & Chikako Urakami:岩手医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕黒坂大次郎:〒020-8505 盛岡市内丸19 番1 号岩手医科大学医学部眼科学講座眼のかすみを起こす疾患(2)白内障Diseases with Blurred Vision(2):Cataract黒坂大次郎*浦上千佳子*特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):158.164,2010図 1皮質白内障例矯正視力は1.0 であるが,患者は「眼のかすみ」を訴えている.(21) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010159膜像のゆがみにつながる.たとえば,角膜には正の球面収差があり,若年者の水晶体は,負の球面収差であるため,両者は打ち消しあうが,壮年期以降水晶体が正の球面収差に代わると眼球全体の球面収差が増加し,網膜像が低下することがよく知られている.水晶体が混濁し白内障となると網膜への光の透過が落ちるとともに,網膜像にぼやけが生じる.これは,光が散乱することにより起こるもので,前者は後方散乱(光の進行方向に対し後方に散乱する),後者は前方散乱とよばれる.前方散乱では,散乱した光が網膜像全体を覆いコントラストを低下させることにより視機能を低下させる1).さらに,白内障となるなかで,レンズとしての光学的性能が低下し収差が増加することが知られている.すなわち,混濁による低下(散乱)ではなく,レンズの光学性能が低下する(高次収差が増加する)ことによる網膜像の質の低下が指摘されている(図3.5)5).Fujikado らは,正常眼,初期核白内障眼,初期皮質白内障眼で,前方散乱,後方散乱,高次収差を計測し,正常眼に比べ,白内障眼では,前方散乱,後方散乱,高次収差のいずれもが上昇していること,さらにコントラスト感度の低下は,前方散乱,後方散乱,高次収差に相関し,特に核白内障眼では,後方散乱と高次収差,皮質白内障では,前方散乱と高次収差と相関することを報告下をコントラスト感度検査は検出できる場合があり,視力良好例での白内障眼の視機能評価としてコントラスト感度検査が重要である.ただ,網膜像を実際にわれわれが認識するときには,網膜以降中枢においてコントラストの増強などの中枢処理が行われることが知られている4).したがって,最終的な「かすみ」は,光学的な像のぼやけとそれを処理する中枢との結果で認識される.一般に,コントラスト感度検査では,この最終結果を評価することになる.2. 水晶体の光学的性能に与える白内障の影響透明な水晶体は,眼球の光学系にあって角膜とともに屈折の役目を担っている.透明であっても光学的なレンズとしてのゆがみがあると,角膜とも関与しながら網膜像のゆがみを生じさせる.遠視・近視・乱視は,眼鏡にて矯正が可能であるが,コマ収差,球面収差などは,網図 3Water clefts 例視力0.4,核白内障は認めない.3 6 12 18Spatial Frequency─(Cycles Per Degree)図 2図1 症例の白内障術前後のコントラスト感度X:術前,○:術後.術前後で矯正視力は1.0 で変わらないが,「眼のかすみ」の症状は,術後に消失した.160あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (22)と思われる.2. 眼内レンズと「眼のかすみ」上述のごとく白内障手術により混濁した白内障による視機能低下が改善され,「眼のかすみ」が多くの例で改善する.しかしながら,白内障に対する術後の視機能に対する期待は高く,ときに患者の満足が得られない場合がある.さらに眼内レンズがPMMA(ポリメチルメタクリレート)製であった時代には,眼内レンズの術後偏位などにより視機能低下することはあっても,PMMA製レンズ自体に混濁が生じたりすることはほとんどなかった.最近では,眼内レンズの経年変化による混濁が問題となる場合が報告されている.a. 眼内レンズのグリスニング,ホワイトニング白内障術後,挿入された眼内レンズ内部に細かな点状の混濁が生じることがあり,グリスニングとよばれるしている 1).高次収差は,コマ収差,球面収差が増加し,初期核白内障患者にみられる三重視や皮質白内障患者の複視などの自覚症状は,これらの収差の増加により説明される6).II白内障手術と「眼のかすみ」1. 白内障による「眼のかすみ」と白内障手術視力検査では良好な視力が得られるが「眼のかすみ」を訴えるような白内障患者の場合で,眼底などに問題がなくコントラスト感度が低下している場合には,白内障手術によってコントラスト感度が改善するとともに患者の「眼のかすみ」が改善することが報告されている2).さらに術前に視力とコントラスト感度が悪い症例ほど,術後の自覚症状の改善度が高い2).したがって,視力良好例でも,視力障害の自覚症状がありコントラスト感度が低下している症例では,手術の適応を考えてよいもの図 4図3 の症例の波面収差解析眼球全体の収差を,角膜表面成分,水晶体(+角膜後面)成分に分けている.眼球全体の収差の原因は,おもに水晶体であることがわかる.(23) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010161グという現象が知られている(図7).この現象も,一部の軟性アクリルレンズに生じやすく,最近では,ホワイトニングを強く認め視力が低下した例で眼内レンズを交換することにより視力の改善が得られた事例が報告されている〔吉田伸一郎ほか:アクリル眼内レンズ表面散乱(ホワイトニング)により視力低下した1 例,第63 回日本臨床眼科学会,2009〕.ただ,同様に強いホワイトニングを認める症例でも視力の低下しない場合もあり,ホワイトニングは,白内障術後の「眼のかすみ」の一因と(図6).おもに一部の軟性アクリルレンズに生じるが,軟性アクリルレンズでもほとんど発生しないレンズもあり,メーカーによる差異が大きいと考えられている.グリスニングは,光学部素材の内部に水が取り込まれて生じるもので7),術後徐々に増加していくこと,糖尿病網膜症などがある例で増強しやすいことなどが報告されているが,視機能には直接的には影響しないという報告が多い8).眼内レンズ表面が白っぽく混濁してくるホワイトニン図 5図3 の症例の術前後の波面収差解析白内障手術による角膜形状の変化,眼内レンズ自体の収差はあるものの,術前(A)と術後(B)の差(Difference)は,おもに白内障によるものである.162あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (24)告されている9).片眼性白内障に回折型眼内レンズを挿入した場合などに自覚されることが多い(図8).屈折型多焦点眼内レンズでは,レンズ設計にもよるが,近方視力は瞳孔径に依存し回折型に比べ近見視力が出にくい.グレア,ハローなどの症状も出現しやすいことが知られている.これらは,レンズ設計によるもので,単焦点眼内レンズに比べ「眼のかすみ」が出やすい.c. 非球面眼内レンズ角膜は正の球面収差をもち,若年水晶体は,負の球面収差をもつため,眼球全体での球面収差が減少している.通常の球面眼内レンズは,正の球面収差をもつため,白内障術後には,球面収差を減少させることができなる可能性があるものの,視機能に与える影響について明確な結論は得られていない.b. 多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズには,屈折型と回折型があり,後者は,近方視力が出やすい反面,光学的なロスを生じるため遠方視でのコントラスト感度の低下が生じることが報図 6眼内レンズ内部にみられるグリスニング軟性アクリル眼内レンズ挿入術後3 年目.眼内レンズ内部に無数の小さな輝点が認められる(視力は1.0,自覚症状はない).図 7眼内レンズ表面のホワイトニング軟性アクリル眼内レンズ挿入術後5 年目.眼内レンズ表面が白くなっているが,視力は1.0 で患者の自覚症状はない.図 8 片眼のみ回折型多焦点眼内レンズを挿入した例のコントラスト感度右眼(X):多焦点眼内レンズ,左眼(○):透明水晶体.40 歳,女性の片眼性白内障に対し,右眼(X)にのみ回折型多焦点眼内レンズを挿入した.術後は遠見,近見ともに裸眼で1.0 である.両眼で物を見るときには違和感はないが,右眼のみで見ると「なんとなくかすむ感じ」という.3 6 12 18Spatial Frequency─(Cycles Per Degree)(25) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010163になり,摘出交換症例が報告され出したが,今後注意深く見守っていく必要があると思われる.文献1) Fujikado T, Kuroda T, Maeda N et al:Light scatteringand optical aberrations as objective parameters to predictvisual deterioration in eyes with cataracts. J CataractRefract Surg 30:1198-1208, 20042) Adamsons IA, Vitale S, Stark WJ et al:The association ofpostoperative subjective visual function with acuity, glare,and contrast sensitivity in patients with early cataract.なかった.非球面眼内レンズは,負の球面収差をもち,眼球の球面収差を減少できる.球面眼内レンズと非球面眼内レンズでの術後の視機能を比べたものでは,瞳孔が開く薄暮視の状況で非球面眼内レンズのコントラスト感度が球面眼内レンズのコントラスト感度より改善していることが報告されている(図9)が,患者の自覚症状には大きな差がないことも報告されている10).3. 後発白内障と「眼のかすみ」後発白内障には,前.切開縁を中心に生じる白濁した線維性混濁,透明ではあるが不整に再生した水晶体線維である Elshnig’s pearl などがある.線維性混濁は,術後数カ月以内に進行し,ときに前.切開窓の減少をきたしたり,後.上に進展し視機能を障害する(図10).一方,Elshnig’s pearl は,術後3.5 年後に進行し,視機能障害を起こす.いずれの場合にも,Nd:YAG レーザーによる治療によって,視機能を回復させることが基本的に可能である.おわりに白内障に関連する「眼のかすみ」を生じさせるおもな疾患を解説した.これ以外にも,白内障術後には,ドライアイなど涙液を含めた眼表面,グレア・ハローなどが問題となる.眼内レンズ表面のホワイトニングは,最近瞳孔径0 0.1 0.3 0.53 mm5 mm図 9球面収差による「ぼやけ」瞳孔径3,5 mm のときのLandolt 環の網膜像.瞳孔径5 mm では球面収差が影響している.図 10白内障術後線維性混濁白内障術後3 カ月.前.切開縁が眼内レンズ下にもぐりこみ,後.上に線維性混濁を生じている.164あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010Arch Ophthalmol 114:529-536, 19963) 佐々木洋:白内障混濁度の評価.白内障すぐに役立つ眼科診療の知識(谷口重雄,綾木雅彦編),p23-27,金原出版, 20064) Ginsburg AP:Contrast sensitivity:determining the visualquality and function of cataract, intraocular lenses andrefractive surgery. Curr Opin Ophthalmol 17:19-26,20065) Rocha KM, Nose W, Bottos K et al:Higher-order aberrationsof age-related cataract. J Cataract Refract Surg 33:1442-1446, 20076) Fujikado T, Kuroda T, Maeda N et al:Wavefront analysisof an eye with monocular triplopia and nuclear cataract.Am J Ophthalmol 137:361-363, 20047) Miyata A, Yaguchi S:Equilibrium water content and glisteningsin acrylic intraocular lenses. J Cataract RefractSurg 30:768-1772, 20048) 森秀夫:軟性アクリルシングルピース眼内レンズのグリスニングの長期経過.IOL&RS 23:210-213, 20099) Pepose JS:Maximizing satisfaction with presbyopia-correctingintraocular lenses:the missing links. Am J Ophthalmol146:641-648, 200810) Trueb PR, Albach C, Montes-Mico R et al:Visual acuityand contrast sensitivity in eyes implanted with asphericand spherical intraocular lenses. Ophthalmology 116:890-895, 2009(26)