———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLSフッ化アルゴンエキシマレーザー(波長:193nm,以下エキシマレーザー)は屈折矯正手術に用いられるレーザーとして広く普及している.しかし,有毒なガスの入れ替えが必要な点,またそれに伴い維持費が高額となる点,レーザー光の品質や出力を安定させるのがむずかしい点,などの問題点も抱えている.そのため今後の治療精度の向上や普及の促進を考えると,新たな線源を開発する必要性が生じると考えられる.エキシマレーザーに代わるものとして,それと似た紫外域の波長を発する固体レーザーが近年注目されている.これらの装置は,Nd:YAGレーザーなどから得られた赤外域付近の波長をもつレーザー光を光源とし,非線形光学結晶などを用いて紫外域の光線に変換している.これらの固体レーザーは,有毒ガスが不要で維持費が抑えられる点のみならず,スポットサイズが小さい点,高頻度にくり返し発振でき出力の安定性が高い点,装置の小型化が可能,などの点でエキシマレーザーよりも優れていると期待されている.今までに開発された固体紫外レーザーの多くは,210~213nm付近の波長を有するものであり,それらを用いた角膜切除についての報告がなされている.ヒト眼角膜による吸収実験では,190~220nmの波長の吸収率はほぼ横ばいの値を示し,角膜切除に適切なレーザー波長は190~220nmの範囲であるとされている1).213nmの固体レーザーを用いた有色家兎の角膜切除では,3カ月の観察で,臨床経過も組織学的所見もエキシマレーザーの結果に近似していた2).その後もエキシマレーザーに近い結果を示す報告が続き,実際に臨床応用も始まっている.現在わが国で認可を受けているものはないが,海外では認可を受け使用できるシステムもすでに販売されている.Andersonらは,213nm固体レーザーであるCustomVis?社のPulzar?レーザーシステム(図1)を用いて3眼の不正乱視眼にPRK(photorefrac-tivekeratectomy)を行い,矯正視力やコントラスト感(53)●連載○68屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男68.固体レーザーを用いた角膜切除の将来中川智哉前田直之大阪大学大学院医学系研究科固体紫外レーザーはフッ化アルゴンエキシマレーザーに比べて,メンテナンスのしやすさやレーザー光の品質で優れた特徴をもっている.固体紫外レーザーのなかでも波長や装置の違いによりレーザーの性質が異なるため,今後もエキシマレーザーの代替を目指して研究開発が進んでいくと考えられる.←図1CustomVis?社Pulzar?レーザーシステム認可国では臨床使用が可能であり,良好な結果が報告されている.(文献3より)→図2独自開発の紫外固体レーザープロトタイプ2号機大きな電源の右上に設置された箱状のものがレーザー本体であり,非常にコンパクトである.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006度の改善を得たと報告している3).またこの報告では,固体レーザーのもつ小さな照射径と高頻度のくり返しが,より精密なカスタムアブレーションを可能とし,加えて発熱が少なくなるなどの利点もあるとしている.これらエキシマレーザーに近い結果を示す報告が多いが,0.9%塩化ナトリウム溶液やBSS?(balancedsaltso-lution)による吸収率はエキシマレーザーに比べて213nm固体レーザーのほうがはるかに小さかった,という両者間の差異も報告されている4).このことは,部屋の湿度や角膜上の水分による矯正結果への影響が小さいという利点が考えられるが,水分を用いた角膜不整に対するスムージングが困難になるという欠点が生じうる.上に述べた水に対する吸収率の違いや,エキシマレーザーと異なった波長を用いることで治験・承認時のハードルが高くなる恐れがある,といった点を解消するためには,エキシマレーザーと同じ193nmの波長を利用できる固体レーザーの開発が望まれる.筆者らは,大阪大学工学部と㈱ニコンとの共同研究で,独自に開発した193nmの波長をもつ固体レーザー(図2)を用いて角膜切除を試みている.その基本原理は,1,547nm半導体レーザーをファイバーアンプで増幅後,CsLiB6O10波長変換素子などを用いて合計5段階の波長変換を行うことにより193nm紫外光を発生させるものであり(図3),高品質レーザー光を高頻度にくり返して照射可能である5).プロトタイプ1号機とXYステージを用いて,3mW/10kHzの条件でレーザーを試料に照射したところ,PMMA(ポリメチルメタクリレート)プレートの切除効率はエキシマレーザーと同等であった.また摘出豚眼角膜に対しても精密な加工が可能であった.本193nm固体レーザーは他の波長の固体レーザーに比べて,水による吸収がエキシマレーザーにより近いという特徴をもっている.DNA変異原性についてはエキシマレーザーと同様で問題がないと考えられ,発熱に関してはパルス幅が0.1~1.5nsecと非常に短く,有利であると考えられる.一方で現時点での課題として,出力や照射径の拡大,および高速でのスキャンニング技術の開発などがあげられる.固体紫外レーザーはエキシマレーザーに比べて,メンテナンスが容易,出力の安定性が高い,くり返し周波数が速い,照射スポット径が小さい,などのすぐれた特徴をもっている.固体紫外レーザーはエキシマレーザーの代替として,面精度の向上,環境保全,経費節減を目指して今後ますます研究開発が進んでいく可能性がある.文献1)LembaresA,HuXH,KalmusGW:Absorptionspectraofcorneasinthefarultravioletregion.?????????????????????????38:1283-1287,19972)RenQ,SimonG,LegeaisJMetal:Ultravioletsolid-statelaser(213-nm)photorefractivekeratectomy.Invivostudy.?????????????101:883-889,19943)AndersonI,SandersDR,vanSaarloosPetal:Treatmentofirregularastigmatismwitha213nmsolid-state,diode-pumpedneodymium:YAGablativelaser.???????????????????????30:2145-2151,20044)DairGT,AshmanRA,EikelboomRHetal:Absorptionof193-and213-nmlaserwavelengthsinsodiumchloridesolutionandbalancedsaltsolution.????????????????119:533-537,20015)SasakiT,MoriY,YoshimuraM:ProgressinthegrowthofaCsLiB6O10crystalanditsapplicationtoultravioletlightgeneration.?????????????????23:343-351,2003(54)図3新規レーザーの波長変換の模式図1,547nmの波長を5段階の過程により193nmの波長に変換する.FiberOptics=1,547nmλω=193nm8λωωω→3+2ωωω→4+22ωωω→7+43ωωω→8+7ωωω→2+ωω/1,547nm:ω/773nm:2ω/516nm:3ω/387nm:4ω/221nm:7ω/193nm:8LBOLBOBBOLBOCLBOEDFADFB-LD