考える手術⑫監修松井良諭・奥村直毅急性網膜壊死に対する硝子体手術南高正JCHO大阪病院眼科急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)はウイルスの眼内感染により生じ,急速に進行する予後不良な疾患であり,続発する網膜.離の有無は視力予後を左右する重要な因子の一つである.その発症率は50~70%であると報告されており,高率に続発する網膜.離を予防するために,ARNと診断したのち速やかにシリコーンオイルタンポナーデ併用硝子体手術を行うことが有用であると考えられている(図1).受診時にARNを疑った場合には前房水を採取し,ポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreaction:れば結果を待たずに薬物治療を開始することもある.その後,4~10日程度経過してから硝子体手術を行う.多くの場合はその間に治療の効果から白色病巣の進行の停止,炎症の消退傾向を認める.手術は,有水晶体眼であれば白内障手術を行い,その後,前部硝子体,中心部硝子体を切除する.後部硝子体.離(posteriorvitre-ousdetachment:PVD)が起こっていなければPVDを作製した後に,広角観察システムで可能な限りの周辺部の硝子体切除を行い,強膜圧迫を行いながら最周辺部の硝子体を切除する.また,続発性黄斑前膜の予防から内境界膜.離を施行する.液空気置換を行い,白色病巣がいずれ脱落し裂孔となることから,それを囲むように光凝固を行い,シリコーンオイルを注入して手術終了とする.ARNは強く慢性的な炎症が続くことから硝子体が増殖性変化を起こす可能性が高い.そのことから術中に硝子体の観察を怠らず,可能な限りの硝子体切除を行うことが肝要である.聞き手:網膜.離予防の早期手術は必要なのでしょうか.病巣が及んだものをzone1,そのラインから赤道部ま南:施設,術者によって賛否が分かれるところかと思いでに及んでいるものをzone2,赤道部より最周辺部のますが,当院では,網膜.離(黄斑.離)の予防,炎症ものをzone3としています.ただし,透見良好であり,性物質の除去,透見性向上などの目的から早期に予防手周辺にわずかな病巣を認める程度のzone3の場合は,術を行っています.また,ARNの評価については,サ手術をせず外来での光凝固のみで様子をみていく場合もイトメガロウイルス網膜炎の治療における評価方法,あります.Hollandの分類にならい,アーケード内,乳頭周囲まで(75)あたらしい眼科Vol.39,No.12,202216430910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:早期手術のタイミングはいつでしょうか.南:ARNを疑う所見を認めた際にPCR検査を行い,抗ウイルス薬による加療を開始するわけですが,当院では初診時にスケジュールを調整し,4~10日後に入院のうえで硝子体手術を計画します.抗ウイルス薬による加療を開始すると病巣の進展,悪化は抑制できますので,当日緊急手術を実施しなくても問題はないと考えています.聞き手:硝子体手術において,タンポナーデは実施しますか?タンポナーデ物質の選択はどうすればよいでしょうか.南:Zone3の場合にはタンポナーデは実施せずに手術終了としています.Zone1,2の場合には術後の眼底管理の意味からガスよりシリコーンオイルが望ましいと考えています.聞き手:シリコーンオイルの抜去のタイミングはいつ頃ですか.南:当院では白色病巣が脱落する,また光凝固の瘢痕化を認める約1カ月後から2カ月後を基本としています.長期のシリコーンオイル下で増殖性変化が生じた経験もあることから,比較的短期間で抜去を実施することが望ましいと考えます.ただし,アーケード内まで病巣が及んでいるzone1の場合や,zone2であっても病巣が広範囲に大きく癒合している場合は低眼圧となる場合が多く,シリコーンオイル抜去がむずかしい症例もあります.聞き手:白色病巣を中心に網膜周辺部において網膜.離がある場合,どのようにすればよいのでしょうか.南:病巣網膜と硝子体との癒着が強く,一般的な疾患の硝子体手術と比較して,硝子体のみ切除するのが困難な場合が多々あります.とくに網膜.離の領域では,硝子体のみ切除することがかなり困難です.可能な限り網膜を残すべきですが,病巣の網膜を多少切除しても硝子体術前術後2週間をきれいに切除することが重要と考えています.なお,網膜を温存できたとしてもウイルスが感染している白色の網膜はいずれ脱落します.聞き手:輪状締結術は併用したほうがよいでしょうか.南:周辺部硝子体切除を可能な限り実施すれば,前部硝子体の増殖性変化は抑止できることから,基本的に行っておりません.低眼圧に対して術後に輪状締結術を施行した症例もありますが,大きな変化は認めませんでした.また,輪状締結術併用症例でも,術後10年経過してから牽引性網膜.離を認めた症例も経験しています.しかし,増殖性変化へ効果や術後低眼圧の予防効果などを考え,症例に応じて対応を変化させることは施設,術者の判断に委ねられるところだと思います.聞き手:PVDの有無は予後を左右すると思われますか.南:私が経験したPVDが既存であった症例の多くは問題なく経過しましたが,PVDが生じておらず,術中にPVDを作成した症例の約半数がシリコーンオイル抜去時までに増殖膜による牽引性網膜.離を発症しました.PVDが生じていない症例は硝子体が残りやすく,そこにARNの炎症が加わることから,牽引性網膜.離を発症する確率は高いと思われます.それよりPVDの有無は予後を左右すると思われます.聞き手:視力予後についてはいかかでしょうか.南:早期手術を行うことによって多くの場合,黄斑.離を予防できますが,視神経障害,慢性的な黄斑浮腫,低眼圧黄斑症による視力低下を予防できるわけではありません.手術を問題なく施行し,シリコーンオイル抜去後の眼底がきれいであったとしても一定以上の視力を保つことが困難な疾患です.ありきたりな結論ですが,ARNは早期発見,早期治療が基本です.手術により視力を守ることが可能なこともありますが,手術は治療の一助にすぎません.術後3カ月術後1カ月(シリコーンオイル抜去後1カ月半)図1シリコーンオイルタンポナーデ併用硝子体手術の経過1644あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022(76)