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斜視・弱視と小児眼科

2018年1月31日 水曜日

斜視・弱視と小児眼科Strabismus,AmblyopiaandPediatricOphthalmology佐藤美保*外園千恵**はじめにここ数年の間に,小児眼科,斜視・弱視をとりまく状況は大きく進歩した.そのなかで新しい流れにつながるものについて,これまでの経過,新しい情報,および今後の展望について述べる.CI斜視斜視の診断については,MRI画像を用いた診断の発展が著しい.これまでにも麻痺性斜視や先天外眼筋異常,甲状腺眼症,強度近視に伴う斜視などに対して眼窩MRI画像が用いられてきた.近年CChaudhuriとCDemer1)によって,saggingeye症候群という新しい病態が提唱されている.これは,加齢によって外眼筋を支えている眼窩組織に緩みが出てくることが原因で生じる症候群で,従来原因不明だった高齢者の上下斜視や開散不全型内斜視の原因を説明するものである(図1).診断のためには眼窩画像診断が必須であり,とくに冠状断が有効である.中枢性疾患や外傷との関連はないとされている.横山らが提唱した強度近視のために外眼筋の筋紡錘から眼球後部が脱臼する強度近視性内斜視2)や,若倉らが提唱した眼窩容積に比して近視眼において眼球容積が大きいという眼窩と眼球のアンバランスから起こる内斜視3)などとともに,外眼筋,眼球形状,眼窩組織,眼窩が斜視の原因となっているので,今後ますます画像を用いた斜視の原因究明が進められるであろう.斜視手術については,他の眼科手術と同様に低侵襲手術に向けての研究が進んでいる.結膜切開を小さくするminimallyCinvasiveCstrabismusCsurgery(MISS)4)や,眼筋を付着部から切離せずに折りたたむCplication法,減弱の際には外眼筋の部分切腱法が再度注目されている.極小結膜切開では,術後の瘢痕が目立たず,出血も最小限のため術後の不快感も早期に解消される.しかし,Guytonが提唱した円蓋部小切開による斜視手術5)と比べると長期的にみると,患者の自覚的反応に差がないとして,術者の技量や好みで結膜切開を選択すればよい6),との報告もある.Plication法については,筋を切除しないために筋への損傷が少なく,血管が温存されるため術後の全眼部虚血のリスクが少なく,術後C1週間以内程度であれば糸の調整が可能とされている7).部分切腱術は,①点眼麻酔のみで行うことが可能である,②手術室でなく外来でも可能である,③切除する範囲を患者の反応を見ながら増加させることができる,④短時間で可能である,という点で注目されている.とくにCWrightが提唱した結膜上から切腱する方法では,結膜縫合も不要であり,小角度の複視を伴う斜視に有効としている8).しかし,筋を露出しない方法では,筋付着部を直視しないことから筋の紛失のリスクが常に伴う.いずれにしてももっとも重要なことは,安全で再手術可能な方法を選択することだと筆者は考える.*MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座**ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕佐藤美保:〒431-3192静岡県浜松市東区半田山C1-2-1浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(79)C79図1MRI冠状断画像a:甲状腺眼症による内斜視患者のCMRI冠状断画像.上直筋と外直筋をつなぐCpulley(C.)がはっきりしている.Cb:Saggingeye症候群による内斜視患者のCMRI冠状断画像.上直筋と外直筋をつなぐCpulley(C.)がゆるんでいる.図2OCT撮影3歳以上で撮影できる子が多い.C図3SPOTvisionScreenerの結果画面屈折値,眼位ずれが一定以上であると,「精密検査を勧める」と画面に表示される.図4白皮症の姉妹の妹の頭髪と眼底写真全ゲノム解析によってCHermansky-Pudruc症候群の新規の遺伝子異常がみつかり,診断が確定した23).図5RETeval小児でも,外来で無散瞳,皮膚電極で網膜電図を記録することができる.–

神経眼科 視神経疾患の新たな考え方-原発病変部位・病因・視機能障害-

2018年1月31日 水曜日

神経眼科視神経疾患の新たな考え方─原発病変部位・病因・視機能障害─NewConceptofOpticNerveDisorders─PrimaryLesion,PathogenesisandImpairedVisualFunction─中尾雄三*はじめに視神経疾患は神経眼科領域ではもっとも重要な位置にある.近年の基礎および臨床研究の急速な進歩から,神経免疫学の面では抗aquaporin(AQP)4抗体陽性視神経炎と抗myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG)抗体陽性視神経炎の解明,分子遺伝学ではLeber遺伝性視神経症(Leberhereditaryopticneuropathy:LHON)の詳細,神経解剖生理学ではメラノプシン含有網膜神経節細胞の発見,画像検査ではMRIや光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の多面的な臨床応用,新規薬剤による中毒性視神経症の発症など,次々に新たな展開がみられる.今回,従来の経験と現在の最新知見から,視神経疾患の原発の病変部位を網膜神経節細胞の軸索障害(代表:視神経炎)と細胞体障害(代表:Leber遺伝性視神経症)に大別し,病因と視機能障害の関係を対比し考察した.I視神経炎1.分類とその特徴視神経炎には原因不明の特発性視神経炎(idiopathicopticneuritis:IDON),他の中枢神経も脱髄性に障害し再発をみる多発性硬化症(multiplesclerosis)の視神経炎(MSON),視神経脊髄炎の自己抗体である抗AQP4抗体が陽性の視神経炎(AQPON),髄鞘の構成成分の自己抗体である抗MOG抗体が陽性の視神経炎表1視神経炎の症状と所見*:視神経炎に特有の所見.(MOGON)の4疾患がある.典型的な視神経炎の特徴を表1に示した.視神経炎では中心フリッカー値(日本眼科学会の『眼科用語集』では,限界フリッカ値,critical.ickerfrequency:CFF)の低下と瞳孔対光反応の障害が特有であり,この二つは診断するうえで絶対に必要な眼科所見として重要である.2.中心CFFCFFは生理学では疲労の指標とされていたが,1960年代半ばに大阪大学眼科で視神経との関連について研究が開始された.中心CFF測定器を大鳥利文が開発し,筆者らと視神経炎への臨床応用の研究を行った1).中心CFFは視神経機能を鋭敏に反映し,視神経炎では必ず35Hz未満に低下した(近大式中心フリッカー値測定器の正常下限は35Hz).測定法は簡便で,高齢者や幼児でも,簡単に正確な測定が可能である.*YuzoNakao:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕中尾雄三:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(69)69中心CFF40Hz20Hz図1視神経炎の視力-中心CFF解離6.網膜神経節細胞網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の細胞体から伸びる軸策が神経線維(眼内では網膜神経線維,眼外では視神経線維)である.RGCの分類としては,比較的小さな細胞体で黄斑中心部に集中して存在するmidget細胞(X細胞)があり,これは外側膝状体の小細胞層へ向かう(parvocellularpathway)ためP細胞ともよばれ,おもに形態覚(視力)や色覚の情報伝達に関与する.また,大きな細胞体で全体に分布するparasol細胞(Y細胞)は外側膝状体の大細胞層へ向かう(magno-cellularpathway)ため,M細胞とよばれ,運動覚(フリッカー)を伝達する3,4).ほかに,W細胞は視蓋前域へ向かい,瞳孔の対光反応(初期縮瞳反応)に関与する.最近,メラノプシンを含有し光を感知する内因性光感受性(intrinsicallyphotosensitive)またはメラノプシン含有(melanopsin-containing)RGCが発見され,概日リズムと瞳孔対光反応(縮瞳の維持)に関与することが判明した5,6).視神経炎でみられる視力.中心CFF解離の発生機序は,RGCのうち中心CFFに関与するM細胞と瞳孔対光反応に関与するW細胞とメラノプシン含有細胞がとくに炎症に対して脆弱で,選択的に障害されやすく,一方,P細胞はM細胞に比較して障害が軽度ですむからではないかと推測される.7.MRI所見視神経炎の炎症部位はMRI撮像で必ず描出できる.単純撮像では,眼窩内視神経はshortTIinversionrecovery(STIR)法,頭蓋内視神経は.uidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)法で,造影法ではT1強調画像脂肪抑制造影法で,いずれも炎症部位は腫大して高信号になる7).視神経萎縮もSTIR法では高信号であるが,直径が狭細化し,造影剤による増強効果がないので区別できる7).8.蛍光眼底造影所見乳頭浮腫を示す例では,蛍光眼底造影で蛍光色素の漏出をみる.炎症による血管障害で視神経線維間に浮腫(水の漏出と貯留)を生じたもので,血管性浮腫(vaso-genicedema)とよばれる病態である.炎症,浸潤,脳圧亢進でみられる.9.OCT所見発症時,乳頭の浮腫例では乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnerve.berlayer:cpRNFL)は肥厚するが,乳頭の異常なし(球後神経炎)例では肥厚はない.発症時には乳頭の浮腫の有無に関係なく,黄斑部網膜内層厚〔=網膜神経線維層(nerve.berlayer:NFL)+網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)+内顆粒層(innerplexiformlayer:IPL)〕にまだ異常はない(菲薄はない).治療経過後(とくに予後不良の視神経萎縮例)のOCTでは,cpRNFLは菲薄(とくに耳側)を示し,同時に黄斑部網膜内層厚にも菲薄がみられる.とくにAQPON例では視機能悪化の後遺に対応して短期間で顕著な菲薄がみられる8).10.障害機序と病態a.軸索流(軸索輸送)(図3)RGC内でリボゾームから合成された各種蛋白質,ミトコンドリア,細胞内小器官が軸索内に入り脳方向(順行性)へ輸送される.また,脳内からは脳由来栄養因子(brain-derivedneurotrophicfactor:BDNF)や成長因子が細胞体方向(逆行性)へ輸送される.輸送物質はATPaseの働きをもつモーター蛋白のキネシン(順行性)とダイニン(逆行性に)に接続し,ATPを加水分解でエネルギーとし微小管内を輸送される.この物質の動きは軸索流(axoplasmic.ow)または軸索輸送(axoplasmictransport)とよばれ,RGC細胞体や軸索の生存,成長,機能の維持に必要不可欠なシステムである9).b.視神経萎縮(図4)視神経炎(IDON,MSON,AQPON,MOGON)では激しい炎症により軸索流(axoplasmic.ow)の停滞,途絶で輸送障害を生じてRGC細胞体や軸索で必要物質の枯渇が起こり,治療の効果がなければ最終的に視神経萎縮やRGC細胞死にまで至る10).脳内・眼窩内の視神経線維(軸索)の萎縮が眼球方向へ向かって進行(逆行性萎縮)し,眼内の視神経乳頭や(71)あたらしい眼科Vol.35,No.1,201871図3軸索輸送(軸索流)眼球外(軸索+髄鞘)の傷害⇒眼球内へaxoplsmic.ow(軸索流)の減少・途絶RGC:おもにM細胞/W細胞(+メラノプシン細胞)障害vasogenicedema逆行性変性(萎縮)図4眼球外(視神経線維)の障害と萎縮(代表:視神経炎)網膜に及ぶことになる.眼球外から眼球内への進行である.この視神経萎縮の進展と所見の出現はCMRI(STIR法)とCOCTの経時的な観察で容易に確認することができる.72あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(72)中心CFF40Hz20Hz図5Leber遺伝性視神経症の視力-中心CFF“逆”解離c図7Leber遺伝性視神経症30歳,女性.左眼の発症C3カ月後で視力は(0.06),中心CCFFはC37CHzで,視力C.中心CFF“逆”解離を示した.Ca:眼底写真.乳頭は発赤し,境界は不鮮明,網膜の反射の乱れがある.Cb:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚.まだ肥厚がみられる.c:OCTの黄斑部網膜内層厚.すでに黄斑部全体に有意な菲薄が乳頭部よりも先行して現われている.NFL:nerve.berlayer,GCL:ganglioncelllayer,IPL:innerplexiformlayer.:網膜神経節細胞mtDNA11778点変異(G→A)軸索RGC細胞体+眼球内軸索傷害⇒眼球外へmitochondriaの代謝障害⇒ATP産生阻害RGC:おもにP細胞系障害cytotoxicedema順行性変性(Waller変性)図8眼球内(RGC細胞体+軸索)の障害と萎縮(代表:Leber遺伝性視神経症)常染色体優性視神経萎縮(ADOA),エタンブトール(EB),リネゾリド(LZD).表2視神経炎vsLeber遺伝性視神経症(原発病変部位・機序と視機能障害の対比)-’’-’—’

眼炎症性疾患(ぶどう膜炎,強膜炎)

2018年1月31日 水曜日

眼炎症性疾患(ぶどう膜炎,強膜炎)OcularIn.ammatoryDisease(Uveitis,Scleritis)蕪城俊克*岡田アナベルあやめ**はじめにぶどう膜炎は虹彩・毛様体・脈絡膜(ぶどう膜と総称)を中心として眼内に炎症を生じる疾患の総称で,50種類近い原因疾患があるとされている.ぶどう膜炎は,感染性ぶどう膜炎(ヘルペス性虹彩炎,急性網膜壊死,細菌性眼内炎,眼トキソプラズマ症など),非感染性ぶどう膜炎(Behcet病,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病など),仮面症候群(眼内悪性リンパ腫など)の三つのカテゴリーに分けられる.2009年のわが国36大学病院におけるぶどう膜炎初診患者の統計では,非感染性ぶどう膜炎ではサルコイドーシス(10.6%),Vogt-小柳-原田病(7.0%),急性前部ぶどう膜炎(6.5%),強膜炎(6.1%)が多く,感染性ぶどう膜炎ではヘルペス性虹彩炎(4.2%),細菌性眼内炎(2.5%)が多かった(表1)1).強膜炎は眼内よりも強膜に炎症の首座のある病態で,強膜充血,眼痛を主訴とすることが多い.検査を行っても原因を特発できない症例(特発性)が全体の約7割を占めるが,関節リウマチや血管炎症候群などの膠原病疾患に合併する症例や,ヘルペスウイルスや細菌などの感染が原因であることもある.ぶどう膜炎・強膜炎の治療にあたっては,可能な限り原因疾患を特定して治療法を選択するのが原則である.とくに感染性,非感染性,腫瘍性(仮面症候群)の三つのカテゴリーを超えた誤診をしないように注意して鑑別診断を行う.近年の眼炎症性疾患に関する潮流として,①眼内液を表1わが国でのぶどう膜炎の原因別頻度用いたpolymerasechainreaction(PCR)検査の進歩により感染性ぶどう膜炎を非感染性ぶどう膜炎と誤診する可能性が減ったこと,②画像診断,とくに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による画像診断が普及したこと,③新しい免疫抑制薬として腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)阻害薬が使用可能になったこと,があげられる.本稿ではそれらについて総説する.*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学**AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-0033東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(63)63・(分離)培養⇒陽性率が低い抗体価率=前房水中VZV-IgG濃度÷前房水中総IgG濃度・病原体DNAの証明(定量的PCR)(Q値)血清中VZV-IgG濃度÷血清中総IgG濃度─発症1カ月以内・抗体価率(Q値)Q値>=6:眼内感染あり(確定診断)─発症1カ月以降6>Q値>=1:眼内感染の疑い図1感染性ぶどう膜炎の診断方法感染性ぶどう膜炎の診断法には,①眼内液の鏡検・培養,②眼内液中と血液中の病原体に対する抗体価の割合を比較する方法(抗体価率),③眼内液中の病原体CDNAのCPCR検査がある.内液(50.100Cμl)からCDNAを抽出し,定性的CmultiC-plexCPCRでヘルペスウイルスC1-8型,トキソプラズマなどの病原体CDNAの有無をスクリーニング的に検討し,陽性になった項目に対して定量的CPCR検査を施行して眼内液中の病原体の量(コピー/ml)をする3).また,細菌,真菌の約C60%の菌種で共通しているCDNA配列に対する定量的CPCR(細菌C16s4)および真菌C28sリボゾーマルCRNA-DNA)5)を行うことで,細菌性,真菌性眼内炎の推定も可能である.Sugitaらは,これらのCPCR検査を組み合わせて行うことで,感染性ぶどう膜炎を診断できる感度,特異度はそれぞれC91.3%,98.8%であったと報告している3).本システムを用いて診断された眼トキソプラズマ症の症例を図2aに示す.患者はC59歳の男性で突然の視力低下を自覚し来院した.黄斑部の大型の黄白色の滲出性病変と前房水CPCR検査でトキソプラズマCDNAがC2.6C×10^4コピー/ml陽性から眼トキソプラズマ症と診断した.注意点として,スリットランプで前房内に炎症細胞が観察されないときに前房水を採取しても,PCR検査は陽性とはなりにくいことがあげられる.無駄な検査を避けるためには,前房内に炎症細胞がみられる日に前房水を採取したほうがよい.最近,眼感染性疾患を引き起こす主要なC24種類の病原体を簡便に網羅的に検索するシステムとして,眼感染症網羅的CPCR検査「stripPCR」が開発された6).また,さらに眼内液からのCDNA抽出の手順が不要で眼内液を直接検査できる「directstripPCR」も開発されている.これはCPCRに必要な試薬がCPCRチューブの底に固層化して張り付けられており,反応液チューブに眼内液と蒸留水を入れて攪拌後,ストリップCPCRチューブに分注しCPCR装置に載せて反応させるだけで検査ができるようになっている.眼内液を採取してからC2時間程度で検査結果が出るため,外来でその日のうちに検査結果が出て治療が開始できるようになることが期待される.HSV1,HSV2,VZV,EBV,CMV,HTLV-1,梅毒,トキソプラズマを対象にした感染性ぶどう膜炎キット(directstripPCR)はC2018年C2月ごろ発売予定である.マルチプレックスではない通常のCPCR機器でも検査可能な試薬も用意されている.このような眼感染症の診断のためのCPCR検査システムの開発と進歩は,実臨床において感染性ぶどう膜炎の確定診断例を増加させ,感染性ぶどう膜炎を非感染性と誤診する危険性を減らしていると思われる.CII画像診断の進歩OCTは近赤外線低干渉波を眼内に向かって発振し,光の干渉現象を利用して網膜の組織断面像を撮影する装置である.網膜の層構造が非侵襲的にわかるほか,病的な組織についても,網膜出血や網膜内瘢痕病巣,脈絡膜由来新生血管などは高反射信号(高輝度)に写り,網膜浮腫,網膜下液,網膜内.胞(.胞様黄斑浮腫など)は低反射信号(低輝度)に写る.ぶどう膜炎では,網膜内の炎症病巣,硝子体内の混濁や網膜前膜,黄斑浮腫,網膜下液の貯留,脈絡膜の肥厚などの病態を非侵襲的に観察できるため,日常診療で頻用されている.ぶどう膜炎では,炎症の首座が網膜実質内にある疾患,網膜色素上皮層にある疾患,脈絡膜にある疾患がある.OCTを使って網膜・脈絡膜内での病変の位置を確認することは,ぶどう膜炎の鑑別診断を考えるうえで有用な情報となる9).また,ぶどう膜炎の原因疾患に特徴的なCOCT像を知っておくことは,鑑別診断を考えるうえでの一助となりうる9,10).代表的なぶどう膜炎疾患の典型例のCOCT像を図2に示す.眼トキソプラズマ症では黄斑部または周辺部網膜に通常C1個の網膜滲出性病変を呈する.OCT像では,網膜実質内に高度の炎症細胞浸潤と網膜層構造の破壊が観察される(図2a).Behcet病によるぶどう膜炎では,眼発作時の白色滲出斑の部位には網膜浅層を中心に炎症細胞浸潤がみられ,網膜浮腫を呈する(図2b).慢性的な.胞様黄斑浮腫を呈する症例もある.サルコイドーシスによるぶどう膜炎では,網膜滲出斑の部位をスキャンすると,ダイヤモンド型の網膜内肉芽腫が観察されることがあり,サルコイドーシスぶどう膜炎に特徴的とされている(図2c).多発一過性白点症候群(multipleCeva-nescentCwhiteCdotCsyndrome:MEWDS)は多発性の淡い網膜滲出斑が出現し,無治療でも自然消退することを特徴とするが,OCT像では白斑部はCellipsoidCzoneの断裂・不鮮明化と色素上皮層の肉芽様の隆起性変化が観(65)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C65図2代表的なぶどう膜炎疾患の眼底像とOCT像a:眼トキソプラズマ症.網膜実質内への高度の炎症細胞浸潤のため,網膜表層から深層まで全層にわたり高輝度に描出される.b:Behcet病の眼発作時.網膜白斑がみられる部位では,網膜内は炎症細胞浸潤のため表層付近から高反射となる.網膜浮腫により網膜深層はシャドーとなって詳細はわかりにくい.Cc:サルコイドーシス.蝋様網脈絡膜滲出斑は,外顆粒層から神経線維層に渡る網膜内肉芽腫である.Cd:多発一過性白点症候群(MEWDS).ellipsoidzoneの断裂・不鮮明化と色素上皮層の肉芽様の隆起性変化が観察される.Ce:眼内悪性リンパ腫.多発性の網膜下浸潤病巣は,色素上皮層のドーム状の隆起として観察される.f:Vogt-小柳-原田病.脈絡膜の肥厚,色素上皮層の波打ち,漿液性網膜.離などが観察されることが多く,漿液性網膜.離の中にフィブリン析出がみられることもある.C表2ぶどう膜炎に保険適用のあるTNF阻害薬一般名おもな商品名剤型通常の投与量,投与間隔保険適用疾患インフリキシマブレミケード点滴1回あたりC5Cmg/kgをC0週目,C2週目,6週目,以降C8週ごとに点滴投与難治性CBehcet病網膜ぶどう膜炎アダリムマブヒュミラ皮下注射初回C80mg,C2回目(1週間後)C40mg,以降C2週ごとにC40Cmg非感染性の中間部,後部,汎ぶどう膜炎(難治例)積して検討する必要がある.TNF阻害薬の使用に際しては,投与時反応や感染症などの副作用に注意する必要がある.このため,本剤の使用は日本眼科学会の眼科専門医,および日本眼炎症学会の会員に限定される.日本眼炎症学会のホームページに「非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(2016年版)」12)が掲載されており,これを熟読したうえで日本眼炎症学会のホームページに掲載されているCe-learningを受講して合格する必要がある.TNF阻害薬のとくに注意すべき副作用として,日和見感染症および陳旧性結核やウイルス性肝炎の再活性化がある.投与開始前に,ツベルクリン反応,胸部CX線や胸部CCT,肝炎ウイルス抗体価,血清中CbDグルカン測定(真菌症の検査)などのスクリーニング検査を行い,内科医と併診で診療にあたることが推奨されている12).文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmolC56:432-435,C20122)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRCandCreal-timeCPCRCtoCdetectChumanCherpesCvirusCgenomeinocular.uidsofpatientswithuveitis.BrCJOph-thalmolC92:928-932,C20083)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacomprehen-siveCpolymeraseCchainCreactionCsystemCforCdiagnosisCofC

網膜・硝子体:Surgical Retina

2018年1月31日 水曜日

網膜・硝子体:SurgicalRetinaRetina-Vitreous:SurgicalRetina小椋祐一郎*はじめにSurgicalretinaの最近の進歩として,①極小切開硝子体手術,②C3Dモニターによる硝子体手術(heads-upsurgery),③網膜自家移植術について概説する.CI極小切開硝子体手術DeCJuanが開発したC25ゲージの極小切開硝子体手術は,その後C23ゲージ,27ゲージの手術器具が開発されて,硝子体手術の本流となっている1).23ゲージシステムはドイツのCEckardtにより開発され,27ゲージシステムは田野,大島らにより開発されている2,3).わが国では25ゲージを使用している術者がもっとも多いが(図1),欧米ではC23ゲージを使用している術者も多い.従来のC20ゲージ手術とのもっとも大きな違いは,強膜創をトロッカー・カニューラ・システムで作製して,手術終了時に縫合を必要としないことである.極小切開硝子体手術は強膜切開創が小さいというだけではなく,手術時の眼圧が安定している,強膜創に関連する合併症が少ないなどの利点があり,従来のC20ゲージの硝子体手術に比較して重篤な合併症の頻度が大きく低下している.このようなことから硝子体手術を行う術者が増加しており,比較的初心者でも硝子体手術を安全に行うことができるようになっている.開発当初には,手術適応は黄斑上膜や黄斑円孔などの黄斑手術に限定されていたが,手術器具の改良・手術術式の開発などが進み,現在ではほぼすべての疾患が極小切開硝子体手術で適応可能となっている.しかし,そのような適応の拡大には極小切開硝子体手術に適切な手術器具(wideCviewingCsystem,シャンデリア照明など)の確保や手術手技(二手法など)の習得が必要である.ゲージが小さくなると,カッターの吸引口が小さくなり切除効率が低下するが,それを克服する工夫により,27ゲージであっても十分な切除効率が得られるようになっている.しかし,個人的には全体的なバランスでは25ゲージがもっとも優れていると考えており,筆者はほとんどすべての症例をC25ゲージシステムで行っている.CII3Dモニターによる硝子体手術(Heads.upvitreoussurgery)手術顕微鏡の術野の画像をC3Dモニターに映して,顕微鏡の接眼部を覗かずに,3Dモニターを見ながら手術を行う方式(heads-upCsurgery)は,WeinstockらによりC2010年に白内障手術で報告されたが,あまり普及はしなかった4).EckardtらはC46インチのC3Dハイビジョンモニターを使用してCheads-upにて,硝子体手術を行うことが有用であることをC2014年に報告した5).彼は,顕微鏡手術の経験のないC20人のボランティアに手術顕微鏡とC3Dモニターの二つの方法でボタンを針に通す,釘を積み上げるなどの作業を行わせて,その正確さと作業の容易さを比較検討した.結果は半数以上の人がC3Dモニター下での作業のほうが速くて容易であったと回答*YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学(眼科)〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学(眼科)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(57)C57100%3%11%13%15%90%20%22%25%33%80%46%70%17%60%60%30%40%71%75%75%27G50%77%25G44%78%23G40%20G30%64%41%20%48%35%33%25%10%23%13%19%12%9%7%4%6%0%3%2%1%1%20072008200920102011201220132014201520162017図1日本における硝子体手術ゲージ別頻度2017年にはC99%の手術が極小切開硝子体手術であり,約C8割がC25ゲージで行われている.(日本アルコンの社内データーより引用)図2Heads.up手術図3Digitallyassistedvitreoretinalsurgery(DAVS)3Dビューイング用の偏光眼鏡を装用してC3Dモニターを見な3Dモニターに術前の眼底所見やCOCT画像を投影して手術をがら手術を行う.行っている.図4黄斑円孔に対する神経網膜遊離弁自家移植後のOCT所見黄斑円孔は移植された網膜により閉鎖している.(文献C9より引用)図5加齢黄斑変性に対する神経網膜.網膜色素上皮.脈絡膜遊離弁移植手術a:術前眼底所見.進行した加齢黄斑変性で黄斑部に網膜色素上皮萎縮()を認める.Cb:術後眼底所見.黄斑部に移植された網膜色素上皮-脈絡膜と神経網膜()を認める.*は神経網膜を採取した部位を示す.Cc:術前OCT所見.Cd:術後COCT所見.移植された組織()が生着しており,移植された脈絡膜の血管腔()が観察される.(文献C10より引用)-

網膜・硝子体:Medical Retina 病的近視

2018年1月31日 水曜日

網膜・硝子体:MedicalRetina病的近視Retina-Vitreous:MedicalRetinaPathologicMyopia横井多恵*大野京子*はじめに2010年の厚生労働省資料およびわが国の種々の疫学研究の結果を分析したCYamadaらの報告では,病的近視は矯正視力C0.1以下の視覚障害のC13%を占め,緑内障に次ぐ第C2位の失明原因であった4).病的近視はわが国のみならず,すでに東アジア諸国を中心とした世界の失明の主要な原因疾患であるが,近年の世界的な近視人口の爆発的な増加により,今後ますます病的近視による視覚障害者が増加することが懸念されている4).病的近視における視覚障害は,異常な眼軸長伸展に伴うさまざまな網脈絡膜萎縮病変を主体とする近視性黄斑症や,これに伴う近視性脈絡膜新生血管,近視性牽引黄斑症,近視性視神経症などの種々の眼合併症に起因する.現状では網脈絡膜萎縮病変に対する有効な治療法はないが,近視性脈絡膜新生血管や近視性牽引黄斑症,近視性視神経症に関しては,早期発見と早期治療によって予防や治療がある程度可能である.以下に,最新の病的近視の定義や,病的近視に伴う眼合併症の一部について詳細を述べる.CI病的近視の用語と定義用語に関しては,「強度近視」「高度近視」「変性近視」「悪性近視」が使用されてきたが,「強度近視」という用語は,近視が単に強度に至った病態を示すもので,近視に伴う眼合併症から視覚障害に至る疾患概念を正確に反映していない.さらに強い近視を「高度近視」と定義すると,弱い近視は「低度近視」になるが,そのような用語はない.また,近視に伴う眼合併症が常に網脈絡膜の「変性」というわけではないし,「悪性近視」は,悪性の腫瘍性疾患を想起させるものである.このため近年は,「病的近視」という用語が,もっとも適切な用語として普及するようになった.眼底所見から病的近視を定義した研究・調査は近年まであまりなく,多くの疫学・研究報告が病的近視を,屈折値,眼軸長,もしくはその両者を含めて定義してきた.しかし,屈折値や眼軸長による定義は,単に近視が強度に至った状態を示すものであり,近視に伴うさまざまな眼合併症から視覚障害に至る病的近視の疾患概念を示すものではない.統一された基準を定めることで,国内外での調査研究間の比較を可能とするために,2015年の病的近視の国際メタ解析スタディ(theMeta-AnalC-ysisforPathologicMyopiastudy:META-PM)では5),病的近視を「びまん性萎縮以上の萎縮性変化を眼底に有する,もしくは後部ぶどう腫を有する」眼であると定義した.CII後部ぶどう腫の定義と診断病的近視の病態の最大の特徴は,眼軸延長による後部ぶどう腫の形成である.2014年にCSpaideらは,「周囲の眼球壁の曲率半径よりも明らかに小さい曲率半径を有する後極部眼球壁の突出」を,後部ぶどう腫を示す用語として図1のように明確に定義した6).これによると図*TaeYokoi&*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕横井多恵:〒113C.8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(49)C49acd図1Spaideらによる後部ぶどう腫の診断a:正常の眼球形態.b:赤道部眼球壁が伸展した後部ぶどう腫のない軸性近視.c:後部ぶどう腫のある軸性近視.周囲の眼球壁の曲率半径(rC1)よりも小さい曲率半径(rC2)を有する後極部眼球壁の突出が後部ぶどう腫.d:軸性近視のない眼に生じた後部ぶどう腫.(SpaideRF:Staphyloma.Springer,2013より引用)タイプⅥタイプⅦタイプⅧタイプⅨタイプⅩ図2Curtinによる後部ぶどう腫の分類Curtin分類では後部ぶどう腫は,I.Vの基本タイプと,I.Vの基本タイプの複合型であるCVI.Xのタイプに分類される.(CurtinBJ:TransAmOphthalmolSocC75:67-86,C1977より引用)タイプⅠタイプⅡタイプⅢタイプⅣタイプⅤ黄斑広域型黄斑限局型乳頭周囲型鼻側型下方型その他図3Ohno.Matsuiらによる後部ぶどう腫の新分類後部ぶどう腫を,後部ぶどう腫の最外周縁の範囲と位置で再分類し,理解しやすい名称に変更した.Curtin分類においてVI.Xの複合型後部ぶどう腫はすべて黄斑広域型に分類される.(Ohno-MatsuiK:OphthalmologyC121:1798-1809,C2014より引用)表1病的近視の国際メタ解析スタディ(theMeta.AnalysisforPathologicMyopiastudy:META.PM)で提唱された近視性黄斑症の分類と定義図4近視性黄斑症の眼底病変a:びまん性萎縮.b:斑状萎縮.c:Lacquercracksと単純型黄斑部出血.Cd:近視性脈絡膜新生血管退縮後のFuchs斑と近視性脈絡膜新生血管関連黄斑萎縮.3.Lacquercracksと単純型黄斑部出血(図4c)LacquerCcracksは,眼軸延長とそれに伴う脈絡膜萎縮,Bruch膜の弾性線維の減少などによって,Bruch膜が機械的に断裂することで生じる.検眼鏡的には,後局部の黄色線状病変としてみられる.LacquerCcracksが生じるときに脈絡膜毛細血管も同時に障害されるため,単純型黄斑部出血を伴うことが多い.LacquerCcracksによる裂隙は将来,脈絡膜新生血管を伴う結合組織が色素上皮下あるいは網膜下へ増殖する足場となる.C4.近視性脈絡膜新生血管とFuchs斑(図4d)脈絡膜血管由来の新生血管を基盤とする病変で,萎縮が比較的軽い若年者の強度近視眼に生じることが多い.比較的小型で滲出性変化も軽度であることが多く,無治療で放置しても自然退縮することが多い.しかし,近視性脈絡膜新生血管は,中心窩およびその近傍に好発しやすく,かつ退縮後に網膜色素上皮と基底膜の過形成からなるCFuchs斑とよばれる色素沈着を伴った瘢痕病巣を形成するため,これが黄斑を障害し,比較的急速に黄斑萎縮に至ることが多い.近視性脈絡膜新生血管による黄斑萎縮は,近視性脈絡膜新生血管関連黄斑萎縮と呼称され,斑状萎縮とは区別される.CIV現状における病的近視の診断の問題点病的近視には,①病的近視に特徴的な眼合併症が生じ,すでに視覚障害に至った状態と,②病的近視に特徴的な眼合併症はないが,将来,病的近視よる眼合併症から視覚障害に至るリスクがある状態の二つの病期がある.本来は①②の病期にある病的近視を含む診断基準が理想と考えられるが,近視に伴うさまざまな種類の近視性黄斑症や後部ぶどう腫は,通常は加齢とともに出現するため,現状のCMETA-PMスタディの定義では②の段階での診断は困難である.現状の診断基準では,びまん性萎縮の有無が病的近視を診断するうえで重要な所見と考えられているが,病的近視以外の疾患で脈絡膜が菲薄化し,結果的にびまん性萎縮病変をきたす可能性のある疾患(たとえば慢性期の原田病などの網脈絡膜炎後に脈絡膜萎縮を生じる疾患群)を鑑別する必要がある.また,脈絡膜は加齢によっても高度に菲薄化し,びまん性萎縮病変をきたす.白色人種では色素の関係で,網脈絡膜の萎縮性病変が観察困難である.これらの問題点を整理するには,病的近視の本態の一つである眼軸長の過度な伸展を年齢に応じて検討し,評価項目に加えることや,脈絡膜厚の計測値などの新しい指標を用いて評価することも,病的近視を的確に診断するうえで必要と考えられる.CV病的近視の眼合併症病的近視による視覚障害は,近視性黄斑症に総称される網脈絡膜萎縮病変と近視性脈絡膜新生血管,近視性牽引黄斑症,近視性視神経症などの種々の眼合併症に起因する.代表的な病的近視に伴う眼合併症についての詳細を述べる.C1.近視性脈絡膜新生血管近視性脈絡膜新生血管は,病的近視の視覚障害の最大の原因疾患である.発生頻度は病的近視眼のC5.2.11.3%であり,約C1/3が半年間の間隔を経て僚眼にも近視性脈絡膜新生血管を発症する.無治療の自然経過ではC5年以内でC88.9%,10年以内でC96.3%が近視性関連黄斑萎縮を主とする黄斑部障害から矯正視力C0.1以下に至る10).フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangiogra-phy:FA)では出血でブロックされることがほとんどない明瞭な過蛍光を示すCclassicCNVである.一方,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenCangi-ography:IA)では,darkrimに囲まれ周囲と同程度の蛍光を示す.色素漏出を示すことはまれで,臨床でCIAを行う意義は低い.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,活動期は境界不明瞭な網膜下隆起病変として観察されるが,活動性が低下すると色素上皮の囲い込みから境界明瞭となる.再発時にはこの囲い込みが一部不鮮明となるため,患者の自覚症状悪化の訴えをもとにCOCTを行うことで,漏出が少ない症例でも鋭敏に再発をとらえることが可能である.現在,治療は抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)抗体が第一選択である.1,2回の投与C(53)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C53図5近視性牽引黄斑症において黄斑部網膜分離が黄斑部網膜.離へ進行する過程と黄斑円孔網膜.離(すべて非同一症例)a:Stage0.黄斑部網膜外層に異常はない.Cb:Stage1.黄斑部網膜外層に乱れ,あるいは厚みの上昇が生じる.Cc:Stage2.網膜外層分層円孔が形成される.d:Stage3.外層分層円孔が拡大し網膜分離と.離が共存する状態となる.Ce:Stage4.網膜.離の丈の上昇に伴い黄斑部網膜分離が消失する.f:黄斑円孔網膜.離.abTypeⅦTypeⅨ図6近視性視神経症による視野障害a:Curtin分類のCtypeVIIまたはCtypeIXに属する乳頭耳側の強膜カーブの変形がある症例.Cb:鼻側に加え耳側視野も欠損した“ひょうたん型視野”がみられる.

網膜・硝子体:Medical Retina 糖尿病網膜症

2018年1月31日 水曜日

網膜・硝子体:MedicalRetina糖尿病網膜症Retina-Vitreous:MedicalRetinaDiabeticRetinopathy阿部さち*山下英俊*はじめに平成C28年の「国民健康・栄養調査」では糖尿病有病者と糖尿病予備群はC1000万人と推計されている.糖尿病網膜症の有病率に関してはC2011年のメタアナリシスではC35%との報告もあり,国内にC350万人の糖尿病網膜症患者がいることになる1).さらにC2011年のCJapanDiabetesCComplicationsCStudy(JDCS)の報告では日本人C2型糖尿病患者の網膜症発症頻度はC38.3/1000人・年であり,すでに網膜症を有している患者における網膜症進展頻度はC21.1/1,000人・年である2).つまり,日本国内で,1年でC25万人の糖尿病網膜症患者が新たに発症し,すでに発症しているうちC1年でC7万C4000人の糖尿病網膜症患者が進展している概算になる.厚生労働省『平成C26年患者調査の概況』によると,糖尿病の総患者数(継続的に治療を受けていると推測される患者数)はC316万C6000人で,前回調査よりもC46万人増加したと報告された.同報告から,眼および付属器の疾患での入院患者がC1万C1500人で外来患者がC33万C7900人,合計でC35万人と報告されている.前述の概算糖尿病網膜症患者数と,眼科を受診した全体の患者数を比較しても,未だ病気をもちながら受診していない患者が非常に高い割合でいることが推測される.硝子体手術の進歩の時代,抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)治療のコマーシャルメッセージが氾濫した時代を経て,近年は糖尿病網膜症の眼科管理の確立をえた気持ちにもなりがちであるが,これらの数字を見るに,未だ啓発,糖尿病内科を含めた他科との連携,検診受診率の向上などが喫緊の課題であると痛感する.CIスクリーニング・診断『糖尿病診療ガイドラインC2016』には,定期的な眼科受診が,糖尿病の発症・進展を阻止するうえで有用である(推奨グレードCA)と記載されている.2017年のAmericanCDiabetesCAssociationの報告でも,スクリーニングの項目において「眼底写真によるスクリーニングは眼科診察に比して確立しておらず,初回は眼科専門医による診察が推奨される.1型糖尿病患者は発症からC5年以内,2型糖尿病患者は診断時の眼科医専門医(oph-thalmologistCorCoptometrist)の診察を推奨」と記載されている3).2003年のCAmericanAcademyofOphthal-mologyの報告などでは,無散瞳眼底カメラによる網膜症スクリーニングについて,眼科医による網膜症管理には及ばないものの,簡便でコストが安く,眼科の受診が困難な患者での有用性が期待できるとする考え方も一部にはあるが,眼底写真によるスクリーニングには現時点では慎重な対応が必要であり,現時点では眼科専門医の眼底診察によるスクリーニング,診断が確実な方法といえる4).今後の潮流としては,Optos(Optos200Tx,Optos社)に代表されるような広角眼底カメラの登場や,machinelearning(機械学習)などのCarti.cialCintelligence(AI)*SachiAbe&*HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕阿部さち:〒990-9585山形市飯田西C2-2-2山形大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(43)C43テクノロジーの進化により,スクリーニングがさらに簡便かつ確実に行えるようになることが期待される.現にAIによる眼底写真読影と眼科医の読影を比較して糖尿病網膜症の所見検出率が遜色なかったとする報告なども2016年頃より散見されている5,6).さらに元来広く行われてきた,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)にかわる検査として,OCTangiographyがあり,非侵襲的に短時間でこれまで見えなかった微細な網膜血管などの描出が可能になってきている.網膜血管瘤や無灌流領域の描出は蛍光眼底造影検査よりも精緻な画像が得られる.しかし,新生血管やバリア機能が破綻した網膜血管の蛍光漏出など,血管機能の描出には現時点ではCFAが必要である.今後,FAとCOCTangiographyとの所見の比較や,他のレーザースペックルフローグラフィなどの機能を反映する検査との組み合わせによってさらに検査精度が上がることが期待される7).CII内科的治療内科的治療の基本は,血糖コントロール,血圧コントロールである(糖尿病診療ガイドライン,推奨グレードA).血糖コントロールは介入試験であるCDCCT(DiabetesControlCandCComplicationsCTrial)とCUKPDS(UnitedKingdomCProspectiveCDiabetesCStudy)の結果では,HbA1cは正常に近ければ近いほど網膜症の発症・進展は抑制されている.とくにCDCCTでは,1型糖尿病患者に強化インスリン治療を行うか,通常インスリン治療を行うかで無作為に割り付けを検討し,強化インスリン治療による厳格な血糖コントロールにより網膜症の発症進展を抑制する結果を得ただけでなく,その後両群に強化インスリン治療を行い血糖コントロールに差がなくなった後も,早期の強化インスリン治療群が網膜症の進展抑制されていることがわかり,早期からの血糖コントロールの重要性が証明された8.10).わが国での血糖コントロールに関する報告はCKuma-motoCStudyがある.日本人C2型糖尿病において強化インスリン治療により網膜症の発症進展が抑制された.KumamotoCStudyの功績はコントロールの基準を明確に示したことであり,糖尿病網膜症に関してはCHbA1c(JDS)6.5%[HbA1c(NGSP)6.9%],空腹時血糖値110Cmg/dl,食後C2時間血糖値C180Cmg/dl未満が閾値として示された9).JDCSでの解析結果からもCHbA1cがC7%未満の患者に比して,HbA1cがC7.9%の患者の網膜症発症のリスクはC2倍,9%以上ではC4倍になる.網膜症進行のリスクはC7%未満の患者に比して,7.8%の層がC2倍,8.10%でC3.5倍,10%以上の患者ではC7.6倍である2).血糖コントロールの期間に関しては確立した結論は未だ得られていないが,網膜症の観点からは過去の研究からCHbA1cでC0.5.1.3%/月のペースが網膜症の増悪が軽度である妥当とするステートメントが多い.血圧コントロールはCUKPDSの結果から厳格血圧管理群(収縮期目標血圧C150CmmHg未満)のほうが,ゆるやかな血圧管理群(収縮期目標血圧C180CmmHg未満)に比べて網膜症進展が有意に抑制された11).同CUKPDSでは降圧薬の種類では網膜症進展抑制は証明されなかったが,ADVANCEではペリンドプリルとインダパミド合剤による血圧コントロールで黄斑浮腫や毛細血管瘤は有意に減少したと報告された12).また,UCLID,DIRECT-Prevent1Protect1では血圧正常のC1型糖尿病患者にレニン・アンギオテンシン系阻害薬を投与することにより網膜症発症を抑制する可能性が示された13,14).血糖,血圧管理以外のリスクファクターとしては以下のものがある.脂質コントロールについてはCFIELDstudyでフェノフィブラートの使用により網膜症進展の抑制の可能性が示唆された.しかし,血清脂質との関連が証明されず,『糖尿病診療ガイドランC2016』では推奨レベルはCBにとどまっている15).抗血小板薬の投与は,網膜症発症・進展の抑制ができる証明はないが,2017年のCADAのガイドラインには糖尿病網膜症存在下の心血管管理目的の抗血小板薬(アスピリン)投与は,網膜出血や網膜症進展のリスクを増加させないとの記述がある3).ほかにCJDCSでは糖尿病罹病期間も網膜症発症のリスクファクターとしてあげられており,“はじめに”でも述べたが,年間C4%の新規発症がある.高齢糖尿病患者44あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(44)表1網膜症,黄斑浮腫の推奨治療網膜症なし(NDR)なし軽症非増殖糖尿病網膜症なし(mildNPDR)中等症非増殖糖尿病網膜症なし(modNPDR)重症非増殖糖尿病網膜症汎網膜光凝固(severeNPDR)増殖糖尿病網膜症(PDR)汎網膜光凝固もしくは抗CVEGF治療黄斑浮腫なし(NoDME)中心窩を含まない黄斑浮腫(Non-CIDME)中心窩を含む黄斑浮腫(CIDME)なし中心窩を含む黄斑浮腫への進展への注意深い経過観察抗CVEGF治療が第一選択.抗VEGF治療に抵抗性の症例には光凝固治療の併用を検討.代替療法としてステロイド硝子体内投与.「血糖,脂質,高血圧の全身管理,患者教育を眼症状の有無にかかわらず行ったうえで」とのただし書きがあり,国際重症度分類の病期に応じた網膜症治療と,黄斑浮腫治療が記載されている.(CDiabeticCRetinopathy:CACPositionCStatementCbyCtheADAより改変)C504030DRS失明率(%)2010ETDRSPatient0図1増殖糖尿病網膜症の5年間の視力経過DRSの無治療眼ではC3年で約C30%の症例が失明に至っているのに比べ,ETDRSで汎網膜光凝固を施行された症例はC5年間での失明はC1.4%である.(文献C16からの改変引用)0246年aSham+PromptLaserRanibizumab+PromptLaserbSham+PromptLaserRanibizumab+PromptLaserRanibizumab+DeferredLaserRanibizumab+DeferredLaserTriamcinolone+PromptLaserTriamcinolone+PromptLaser11111098765410987654321004812162024283236404448525660646872768084889296100104Visitweek04812162024283236404448525660646872768084889296100104Visitweek52weeks68weeks84weeks104weeks52weeks68weeks84weeks104weeksSham+promptlaser,nRanibizumab+promptlaser,nRanibizumab+deferredlaser,n269165173249159169232157159211136139Sham+promptlaser,nRanibizumab+promptlaser,nRanibizumab+deferredlaser,n784140754140734140784140Triamcinolone+promptlaser,n175152152142Triamcinolone+promptlaser,n46434247図2ラニビズマブ硝子体内注射とステロイド硝子体内注射の視力効果比較全症例ではC2年以降,ステロイド治療群の視力が低下するが,眼内レンズ眼では有意差がない.(文献C23からの引用)bese点眼治療3M図3ジフルプレドナート点眼による糖尿病黄斑浮腫治療症例62歳,女性.右眼.眼内レンズ眼,硝子体手術後に発症した.胞様黄斑浮腫.ジフルプレドナート点眼治療をC1クール,3カ月間施行し,浮腫改善を得た.視力は(1.0)から(1.2)と維持された.–’

網膜・硝子体:Medical Retina 加齢黄斑変性

2018年1月31日 水曜日

網膜・硝子体:MedicalRetina加齢黄斑変性Retina-Vitreous:MedicalRetinaAge-RelatedMacularDegeneration大島裕司*石橋達朗**はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の治療は,光凝固による直接凝固の時代から2000年に入り,ベルテポルフィンを用いた光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)が開始され大きな変化が起きた.その後,2008年にペガプタニブ,2009年にラニビズマブが滲出型AMDの治療薬として認可され,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法の時代を迎えることとなった.2012年にはアフリベルセプトが登場し,今まで滲出型AMDに対してなしえなかった視力維持のみならず視力改善する症例も認められるようになり,現在では抗VEGF薬が治療の主流となっている.抗VEGF療法はペガプタニブの登場以来,約10年が経った.短期的には抗VEGF療法にて視力改善が得られた症例も少なくないが,その改善した視力を維持するためには頻回の投与が必要であることが次第に知られるようになり,現在は長期的な治療管理が新たな問題となってきている.また,病型によっては抗VEGF療法のみならず,PDTとの併用など治療方法の選択が拡大してきている.そして,既存の抗VEGF薬のみならず,新たな抗VEGF薬や,新たな分子ターゲット薬などが開発中である.本稿では,新しい潮流として滲出型AMDの長期的な治療マネージメントや新しい治療薬や治療法の選択について解説する.I滲出型加齢黄斑変性の長期治療マネ-ジメント1.Reactiveによるアプローチ滲出型AMDの治療は,2008年のペガプタニブ,2009年ラニビズマブの認可後,抗VEGF療法が主流となっていることはいうまでもない.滲出型AMDに対する抗VEGF療法は,毎月1回の投与を3回連続で行い(導入期),その後の期間を維持期とよんで治療を行う.わが国のラニビズマブの維持期における再投与ガイドラインでは,維持期においては症状の悪化を認めた場合に投与を行うこととなっている.再投与の基準は,ETDRS視力で5文字以上の悪化を認めた場合と網膜病態が悪化した場合である.この方法は必要時投与(prorenata:PRN)法とよばれ,広く臨床の現場で使用されるようになった.しかし,この方法では,導入期に得られた視力を長期に維持することは困難であることが次第に知られるようになった.滲出型AMDに対してラニビズマブを用いた大規模臨床試験であるMARINA試験1),ANCHOR試験2)では,ラニビズマブを毎月,2年間固定投与を行い,視力の改善維持が得られている.2年間の試験終了後,実臨床下において治療を受けた登録患者の平均視力は徐々に悪化がみられ,試験開始から7年後には治療開始前のベースライン視力より8.6文字悪化したと報告されている(SEVEN-UPStudy)3).筆者らのラニビズマブ*YujiOshima:福岡大学筑紫病院眼科,九州大学大学院医学研究院眼科学分野**TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕大島裕司:〒818-8502福岡県筑紫野市俗明院1-1-1福岡大学筑紫病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(35)35BCVA変化(logMAR)-0.3-0.2-0.100.10.20.3Time(month)p<0.0001*図1実臨床における必要時投与法を用いた滲出型加齢黄斑変性の平均視力変化(自験例)滲出型加齢黄斑変性に対して,導入期毎月連続3回,維持期は必要時にラニビズマブ投与を行った(PRN法).導入期終了後に改善した視力は徐々に低下し,24カ月後には治療前とほぼ同等となった.36.60カ月後にはさらに低下,治療前に比して有意に悪化した.03691215182124273033363942454851545760治療前(0.4)12W(1.0)16W168W(1.0)68W194W(0.7)(1.0)(1.0)180W(0.7)(1.0)(1.0)(1.0)(0.7)24W84W32W100W16週間隔3回投与後206W(1.0)42W投与中断期間(1.2)54W218W(1.0)156W(1.2)(0.8)図2滲出型加齢黄斑変性に対してTreatandExtend法で治療を行った症例77歳,男性.治療前視力はC0.4,中心窩下にCclassic型の脈絡膜新生血管(CNV)およびその周囲に漿液性網膜.離を認め,アフリベルセプトを用いて治療を開始した.導入期終了後,滲出はドライになり視力はC1.0に改善した.TreatCandCextend法にて治療を行い,100週後にはC16週間隔で連続C3回投与を行い病態が安定化したと考え治療を中断し,モニタリングのみに移行した.その後C56週間は治療なしで経過観察を行ったが,156週に網膜下出血,視力はC0.8へ低下,再燃と考え,再度治療をCtreatandextendで開始した.218週で視力C1.2である(治療回数:1年目C7回,2年目C3回,3年目C1回,4年目C3回,5年目C3回).BCVA変化(logMAR)-0.3-0.2-0.100.10369121518212427303336Time(month)(*p<0.05pairedt-test)図3実臨床におけるTreatandExtend法を用いた滲出型加齢黄斑変性の平均視力変化(自験例)滲出型加齢黄斑変性に対して,導入期毎月連続C3回,維持期はCtreatandextend法にてアフリベルセプト投与を行った.導入期後に改善した視力はC36カ月後までほぼ維持でき,治療前と比較して有意に視力改善していた.比較した大規模臨床試験であるCEVEREST試験では,6カ月後のポリープ退縮率が併用療法でC77.8%,PDT単独でC71.4%,ラニビズマブ単独でC28.6%とCPDTが治療に組み入れられると有意であったと報告している13).その後にCEVERESTII試験として,PDTとラニビズマブ併用群とラニビズマブ群の比較試験が行われ,1年成績が発表されている.1年後のポリープ退縮率は有意に併用群が高いだけでなく(併用群C69.3%,ラニビズマブ群34.7%),視力改善率も併用群が高かったと報告している(併用群C8.3文字,ラニビズマブ群C5.1文字)14).Matumiyaらはアフリベルセプト併用したCPDT治療C1年経過を検討し,視力および中心窩網膜厚は有意改善したと,その有効性を報告している(ポリープ閉塞率C78%)15).このように副作用リスクの減少,解剖学的,機能的改善が得られ,硝子体注射の治療回数を短期的に減少させることができることが明らかとなり,PCVに対するCPDTと抗CVEGF併用療法が見直されてきている.しかし,まだ短期的な成績報告が多く,長期にわたっての有効性および安全性が不明であるため,今後さらなる検討が必要であると考える.C2.抗VEGF単独療法ラニビズマブの認可以来,PCVに対しても抗CVEGF療法が多く行われるようになった.しかし,ラニビズマブを用いた単独治療では滲出を減少させるが,ポリープ状病巣の退縮に関してはCPDTに比べて劣ることが知られている.Hikichiらは,ラニビズマブを導入期C3回投与後,PRN法にて経過観察を行った前向き研究結果を報告している.それによるとC1年後にC94%で視力改善維持が得られるが,ポリープ閉塞率はC40%,異常血管網閉塞はなく,平均治療回数はC4.2回であった16).アフリベルセプトが認可されたC2012年以降,PCVに対してもアフリベルセプトを用いた単独治療が多く行われるようになった.多くの施設からその有効性が報告され,ラニビズマブ同様に滲出を減少させるだけでなく,ポリープ状病巣の退縮率が高率であった17,18).筆者らは,PCVに対してアフリベルセプト単独療法を多施設共同,前向き研究で行った(APOLLOCstudy).アフリベルセプトを導入期C3回投与後,2カ月毎の固定投与を行い,1年後の治療効果を検討した.1年後にはC97.6%の症例で視力改善維持が得られ,ポリープ退縮率はC72.5%,drymacula率はC78.1%と高率であった19).アフリベルセプト導入期治療後にレスキュー治療としてCPDTを併用した大規模臨床試験としてCPLANET試験が行われた.そのC1年結果は,97%以上の症例で視力改善維持が得られ,81%以上の症例でポリープの活動性が認められなかったというものであった.しかもC85%以上の症例でPDTによるレスキュー治療が必要なく,アフリベルセプト単独療法が可能であったと報告されている.これらのことより,PCVに対する抗CVEGF療法は現時点ではアフリベルセプトが第一選択であると考える.しかし,まだ長期的な効果や安全性の評価は不明であり,今後検討が必要であると考える(図4).CIII開発中の新しい薬剤現在,加齢黄斑変性に対する新しい治療が数多く開発中である.VEGFをターゲットとする新しい薬剤や新たなる分子をターゲットとした薬剤,VEGFを標的とした遺伝子治療,新しいドラッグデリバリーシステムなどである.そのなかで臨床応用が近いと考えられる新しい抗CVEGF薬について紹介する.C1.Brolucizumab(RTH258)Brolucizumab(RTH258)は,VEGF-Aを阻害する分子量約C26kDaのヒト化C1本鎖抗体(scFV)断片である.Brolucizumabはアフリベルセプトと同程度のCVEGF親和性およびレセプター結合阻害作用を有し,FC領域をもたず,分子量が小さい.そのため,他剤に比して臨床用量でアフリベルセプトのC11.13倍,ラニビズマブの22倍高いモル濃度で使用することが可能であり,その効果が期待されている.海外で行われた第二相臨床試験では,アフリベルセプトを対照薬として効果が検討されている.導入期後,両剤ともC8週ごと固定投与をC32週まで行い,それ以降はアフリベルセプトC8週ごと投与を続行し,brolucizumabはC12週ごと投与を行い,52週においてCbrolucizumabの非劣性を報告している20).最近発表された第三相大規模臨床試験(HAWKandHARRIERstudy)では,維持(39)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C39治療前(0.8)3カ月後(1.5)1年後(1.2)2年後(1.2)3年後(1.2)図4ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対してアフリベルセプト単独療法を行った症例60歳,男性.治療前視力C0.8.中心窩下にポリープ状病巣と異常血管網,中心窩耳下側に出血性色素上皮.離を認めた.アフリベルセプト単独療法を導入期C3回の後,treatandextend法で施行した.3カ月後には色素上皮.離は縮小したがポリープ状病巣と異常血管網は残存,視力はC1.5に改善した.1年後にはポリープ状病巣は退縮,異常血管網は残存していた.3年後まで視力C1.2を維持している.治療回数はC1年目C8回,2年目C5回,3年目C4回(3年間合計C17回)であった.和性を有している.海外で行われた第一/二相臨床試験では,無治療の加齢黄斑変性患者を対象に安全性と効果が検討された.32名の対象患者は,abiciparpegol0.04.3.6CmgまでC1回硝子体投与されその後C16週まで経過観察された.その結果によるとC1.0CmgおよびC2Cmg投与では有意に中心窩網膜厚の改善と蛍光眼底造影による蛍光漏出の減少が認められている.しかし,高濃度になると有害事象として眼内炎が認められ(32人中C11人),さらなる検討が必要である21).現在,二つの第三相臨床試験(CedarandSequoiastudy)が行われているが,その結果が待たれる.おわりに滲出型CAMDの治療は抗CVEGF療法により大きく変革し,その良好な治療成績は広く認識され,現在では治療の第一選択となっている.しかし,治療効果を維持するためには継続的な加療が必要であり,患者および医療者の負担も増加している.より少ない治療回数で最大の効果を維持できるよう,既存の治療法の工夫や新たなる治療の開発が待たれるところである.いつまでも患者の視力を維持できるように,患者個々人の病態に合わせた治療を行っていく必要がある.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C20062)BrownCDM,CKaiserCPK,CMichelsCMCetCal:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.NEnglJMedC355:1432-1444,C20063)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearout-comesCinCranibizumab-treatedCpatientsCinCANCHOR,MARINA,CandCHORIZON:aCmulticenterCcohortCstudy(SEVEN-UP).OphthalmologyC120:2292-2299,C20134)PedenCMC,CSunerCIJ,CHammerCMECetCal:Long-termCout-comesineyesreceiving.xed-intervaldosingofanti-vas-cularendothelialgrowthfactoragentsforwetage-relatedmaculardegeneration.OphthalmologyC122:803-808,C20155)RayessCN,CHoustonCSKS,CGuptaCOPCetCal:TreatmentCout-comesCafterC3CyearsCinCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCusingCaCtreat-and-extendCregimen.CAmJOphthalmolC159:3-8,Ce1,C20156)KohCA,CLanzettaCP,CLeeCWKCetCal:RecommendedCguide-linesCforCuseCofCintravitrealCa.iberceptCwithCaCtreat-and-extendCregimenCforCtheCmanagementCofCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCinCtheCasia-paci.cCregion:Creportfromaconsensuspanel.AsiaPacJOphthalmol6:C296-302,C20177)MunkCMR,CArendtCP,CYuCSCetCal:TheCimpactCofCtheCvit-reomacularCinterfaceCinCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCinCaCtreat-and-extendCregimenCwithCexitCstrategy.OphthalmologyRetina1-7,C20178)FreundKB,KorobelnikJ-F,DevenyiRetal:Treat-and-extendregimenswithanti-VEGFagentsinretinaldiseas-es:aCliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C20159)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:ClinicalcharacteristicsofexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapaneseCpatients.AmJOphthalmol144:15-22,C200710)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamicCtherapyCinCage-relatedCmacularCdegenera-tionCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.OphthalmologyC115:141-146,C200811)KurashigeCY,COtaniCA,CSasaharaCMCetCal:Two-yearCresultsCofCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.AmCJOphthalmolC146:513-519,C200812)GomiF,SawaM,WakabayashiTetal:E.cacyofintra-vitrealbevacizumabcombinedwithphotodynamictherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CAJOPHTC150:C48-54,Ce1,C201013)KohCA,CLeeCWK,CChenCL-JCetCal:EVERESTCstudy:Ce.cacyCandCsafetyCofCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCorCaloneCversusCranibi-zumabCmonotherapyCinCpatientsCwithCsymptomaticCmacu-larCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CRetinaC32:1453-1464,C201214)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetCal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C201715)MatsumiyaCW,CHondaCS,COtsukaCKCetCal:One-yearCout-comeCofCcombinationCtherapyCwithCintravitrealCa.iberceptCandvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalcho-roidalCvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC1-8,C201616)HikichiCT,CHiguchiCM,CMatsushitaCTCetCal:One-yearCresultsCofCthreeCmonthlyCranibizumabCinjectionsCandCas-neededCreinjectionsCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.CAmCJCOphthalmolC154:117-124,C201217)YamamotoA,OkadaAA,KanoMetal:One-yearresultsofCintravitrealCa.iberceptCforCpolypoidalCchoroidalCvascu-lopathy.OphthalmologyC122:1866-1872,C201518)LeeCJE,CShinCJP,CKimCHWCetCal:E.cacyCofC.xed-dosingCa.iberceptCforCtreatingCpolypoidalCchoroidalCvasculopa-thy:1-yearCresultsCofCtheCVAULTCstudy.CGraefesCArch(41)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C41

白内障手術における新しい潮流

2018年1月31日 水曜日

白内障手術における新しい潮流NewErainCataractSurgery平沢学*ビッセン宮島弘子*はじめに白内障手術は,外科的治療として完成度が高く,新しい技術革新があまりないように思われるかもしれない.しかし,手術の精度や再現性を向上させ,より良好な視機能を提供できる技術が導入され,実際に臨床現場でその実力を発揮している.ここでは,前者の技術としてフェムトセカンドレーザーと術中ガイダンスシステム,後者の技術として多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)に特化して,それぞれの概要をまとめる.フェムトセカンドレーザーは,術中の前眼部画像解析に基づき,設定どおりのレーザー照射ができる.このため,術者が顕微鏡下で自分の眼で観察しながら手加減で行う操作とは次元が異なる精度と再現性を有している.術中ガイダンスシステムは,手術前の座位による測定結果に基づき,手術中の仰臥位における眼球回旋を補正し,切開位置,前.切開,乱視軸などを顕微鏡の術者視野に投影するものと,術中の屈折測定結果からIOL度数や挿入位置,乱視軸位置を提示するものがある.どちらも理想的なIOL度数や固定位置をガイドするため,術後の視機能をさらに向上させることが期待される.多焦点IOLは種類が増え,患者が裸眼において,遠方,中間,近方でどのような見え方を希望するかによってモデル選択できる時代となった.白内障手術におけるこれらの新しい潮流を紹介する.Iフェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術1.前眼部解析結果に基づいたレーザー照射白内障手術にやっとレーザー技術が導入され,白内障手術が新しい方向に進む可能性が出てきた.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術(femtosecondlaser-assistedcataractsurgery:FLACS)は,レーザーを使うことが主体のように思われがちだが,この技術の優れた点は,手術中に手術眼を前眼部解析装置で測定し,レーザー照射デザインを決めていくことである.従来の眼科におけるレーザーは,水晶体後.,虹彩,網膜の照射したい部位に,眼科医が接眼レンズを通して焦点を合わせて行っていた.フェムトセカンドレーザーでは,切開したい部位にミクロン単位の照射スポットをつなげていくので,平面のみでなくZ軸方向も余裕をもって照射することができる.2.2008年から現在までFLACSは,2008年にハンガリーにてNagyらが初めて臨床例に施行し1),10年近く経過している.現在,数社からFLACS用のフェムトセカンドレーザーが販売されているが,わが国ではアルコン社のLenSx(図1)およびAMO社のカタリスプリシジョンレーザー(図2)の2機種が医療機器として承認され,2017年までに合計で約40台が導入された.レーザー装置が高価で,症*ManabuHirasawa&*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(27)27図1LenSx(アルコン社)図2カタリスプリシジョンレーザー(AMO社)図3前眼部解析結果とレーザー照射位置の確認a:モニター画面に水晶体内照射デザインが提示されている.b:水晶体断面において前.切開の深さを提示(ピンク色の線).c:水晶体への照射範囲.前.切開の深さ(ピンク色の線).水晶体内照射(黄色での塗りつぶし).C図4レーザー照射の状態a:レーザーモニター画面:照射のCcavitationbubbleが観察できる.Cb:手術顕微鏡画面.前.および水晶体内照射レーザー照射が確認できる.結果が出るかもしれない.臨床に導入されてC10年.これからC10年の発展が期待される技術である.CII術中ガイダンスシステム1.手術顕微鏡に提示されるガイダンス手術精度を上げるために,切開やCIOLの位置を術者視野に提示する装置が開発され,トーリックCIOL挿入時に活用されている.術中ガイダンスは大きく分けて,術前検査時のデータをもとに術中に提示するものと,術中の計測結果をもとに提示するものがある.前者に,Zeiss社のCCALLISOCeye(図5)とアルコン社のVERION(図6),後者にアルコン社のCORAsystem(図7)がある.C2.トーリックIOLにおける乱視軸合わせ白内障患者のうち,約C6割にC0.75D以上の角膜乱視を認めるとされ9),トーリックCIOLによる乱視矯正が可能となった.わが国においても,トーリックCIOLの良好な術後成績が報告されている10).トーリックCIOLは,乱視軸のずれC1°につき術後乱視矯正効果が約C3%低下することが知られており11),手術時の仰臥位での眼球回旋を補正する工夫がなされてきた.一般的には,手術前の検査室で坐位における水平軸や垂直軸をマークして,これを基準にして,手術時にCIOLの乱視軸を合わせる強主経線のマークを行う.しかし,マークをつける手間,マークそのもののずれが問題で,術中ガイダンスはこれらの問題を解決するすぐれた装置である.C3.術前検査結果に基づく術中ガイダンス検査時に撮影された結膜血管などの画像と,手術顕微鏡で観察される画像を一致させ,仰伏位の眼球回旋を補正し,顕微鏡の術者視野内に強主経線を提示する装置が登場した.代表的なものが,Zeiss社のCCALLISTOeye(図5)とアルコン社のCVERION(図6)である.CAL-LISTOCeyeは,術前に角膜曲率半径や眼軸長を測定しIOL度数を決定するのに用いるCIOLマスターで撮影された結膜血管を,手術時の画像と一致させ,水平線と強主経線を示す.そのほか,必要に応じて角膜切開の位置や前.切開のガイドも可能である.VERIONも同様に,MeasurementModuleで測定した結果をもとにCPlannerでCIOL度数やトーリックCIOLのモデルを決定する.この画像データをもとに,手術室のCDigitalCMakerCMで必要な情報が提示される.これらのデジタルマーキングでのトーリックCIOL乱視軸合わせはマニュアルでの乱視軸調整と比較して精度,軸調整に要する時間ともに有意に優れていると報告されている12).マニュアルでの乱視軸合わせに比べ,装置の費用がかかるが,マーキングの手間がかからず,より精度が高い軸合わせができるので,徐々に普及することが予想される.C4.術中測定結果に基づく術中ガイダンス現在,IOL度数は,術前の検査値をもとに計算されているが,理想は水晶体を摘出した後の屈折をみてCIOL度数を決めることである.アルコン社のCOptiwaveRefractiveCAnalysis(ORA)SystemCwavefrontCaber-rometer(ORACSystem)は,術中の屈折情報がリアルタイムに顕微鏡下に表示され,症例に対する最適化されたCIOL度数が提案される(図7).事前に計算して出されたCIOL度数と異なる場合は,別のCIOLが必要になる場合があり,予定CIOL度数の前後のCIOLを用意している施設もある.IOL挿入後,トーリックCIOLでは,角膜全乱視のデータをもとにもっとも適切な位置に合うまでCIOL位置を誘導するため,術後残余乱視がさらに軽減されることが期待される.導入当初は,開瞼器,角膜表面の状態,眼圧の影響が危惧されていたが,測定結果は安定しており,臨床使用に問題ないレベルになっている.とくに,IOL度数予測が困難な屈折矯正手術後例で,効力が発揮されている13).単なる屈折測定装置というだけではなく,世界中の手術結果をもとに手術によって生じる変数を定期的に最適化・アップデートし,症例を重ねるごとに医師の手技にあったCIOL定数・惹起乱視を検証することが可能となっている.海外では,先に紹介したCVERIONと一体化されたものが紹介されており,日本でも近い将来使用可能になるであろう.CIII多焦点IOL1.多焦点IOLの種類2007年から,新世代多焦点CIOLとして屈折型の30あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(30)図5CALLISTOeye(Zeiss社)a:IOLマスター.測定時の画像に結膜血管が記録される.Cb:顕微鏡に搭載されたCCALLISTOeye.IOLマスター撮影時と顕微鏡下の結膜血管を一致させ回旋を補正する.トーリックCIOLの乱視軸を提示.Ca図6VERION(アルコン社)a:VERIONMeasurementModuleおよびPlanner.Cb:手術顕微鏡に搭載されたCVERIONDigitalMakerM.トーリックIOLの乱視軸を提示する.ab図7ORASystem(アルコン社)a:顕微鏡につけられた測定器.b:測定画面:トーリックCIOL挿入後,最適な乱視軸に合うよう誘導する.C屈折型回折型エイエフ-1アイシーテクニスマルチシンフォニーシンフォニートリックレストアシングルピースレストアトーリックレストアマルチピースPY-60MVZMA00ZMB00ZLB00ZKB00ZXR00VZXV150-375SN6AD3SN6AD1SV25T0SND1T3-6MN60D3HOYAAMOAlcon非球面非球面非球面非球面非球面非球面非球面非球面非球面非球面非球面球面+3.0D+4.0D+4.0D+3.25+2.75extendedrangeextendedrange+4.0D+3.0D+2.5D+3.0D+4.0D2011年2009年2011年2015年2015年2017年2017年2008年2010年2014年2014年2008年図8多焦点眼内レンズ(国内承認)–

緑内障ドラッグデリバリー研究の現況と将来

2018年1月31日 水曜日

緑内障ドラッグデリバリー研究の現況と将来NewCurrentinGlaucomaMedicalTherapy:DrugDeliverySystems山本哲也*はじめに緑内障の診療にかかわる諸分野においていくつかの新潮流が認められる.本稿ではそれらの中から緑内障薬物のドラッグデリバリーに関する最近の研究成果を紹介し,薬物治療の将来を占ってみたい.現時点においては緑内障には持続的な点眼治療が常識である.しかしながら,筆者は10年以内には点眼以外の実用的なドラッグデリバリーシステムが開発され,緑内障診療が変化すると予測している.ドラッグデリバリーシステムを用いた緑内障薬物投与法としては,①薬物を入れた微小装置を用いる方法と,②薬物を生体内で分解する性質をもった担体に混入あるいは封入して用いる方法がある.投与部位としては眼内と眼外に大別される.眼内投与としては,眼球内として前房内または隅角近傍,脈絡膜上腔および硝子体内があり,眼球外として結膜下がある.眼外投与は,結膜円蓋部留置型,涙点プラグ型,コンタクトレンズ型などに細分される.本稿では,まず現在論文化されている代表的な緑内障用のドラッグデリバリーシステムをレビューする.そのうえで,ドラッグデリバリーシステムに対する筆者の考えを述べる.なお,実用化をめざして開発されているためと推定されるが,試験の成績などが論文としては公表されず,企業のプレスリリースなどとして発表されているものも数多く存在する.本稿では,ヒトを対象とした臨床試験成績でpeer-reviewjournalに公表されているものを中心として紹介する.また,すでに開発の中止された製剤は割愛した.I眼球内留置.投与型ドラッグデリバリーシステム1.BimatoprostSR眼内で自然に溶解する材質の担体にビマトプロストを含有させ眼内に投与するBimatoprostSRとよばれるドラッグデリバリーシステムがあり,すでに24カ月の第II相臨床試験が進行中で,その6カ月経過後の成績がLewisら1)により報告されている.BimatoprostSRは薬剤を含むインプラントを28ゲージの特製注射装置を用いて前房内に注射し,前房隅角に置かれたインプラントから薬物が自然に溶出するのを待つしくみである(図1).眼圧下降効果は1回投与で4~6カ月持続するように設計されているとのことである.眼圧下降量(投与16週間の平均)はベースライン眼圧と比較して,Bima-toprostSRでは平均7.2~9.5mmHg(投与量により異なる)であり,通常の点眼を行った僚眼(ビマトプロスト0.03%,1日1回点眼)では平均8.4mmHg下降していたので(図2),ビマトプロスト0.03%点眼とBimato-prostSRの眼圧下降量はほぼ同程度といえる.眼内に投与されるビマトプロストの総量は0.03%点眼用製剤のほぼ1滴分に近いとされている.また,目標組織の近傍に留置されるため,点眼製剤に認められる各種の副作用(睫毛伸長,皮膚色素沈着など)が少ないことが予想*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕山本哲也:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(19)19abc図2BimatoprostSRによる眼圧下降量(文献1より許可転載)図1BimatoprostSR挿入後の隅角所見a:2週後,b:9カ月後,c:12カ月後.(文献1より許可転載)図3Bimatoprostocularringの挿入法(文献C4より許可転載)MeanIOP(mmHg)302928272625242322212019181716151413121110Day0Wk2Wk6Wk12Mo4Mo5Mo68AM10AM4PM8AM10AM4PM8AM10AM4PM8AM10AM4PM8AM10AM4PM8AM10AM4PM8AM10AM4PMBIMInsert+Arti.cialTears(n=63)TIMBID+Non-medicatedInsert(n=64)図4Bimatoprostocularringによる眼圧下降(文献C4より許可転載)MeanIOP(mmHg)PercentagereductioninIOPMeanIOPmeasurementandpercentagereductionateachstudyvisit30.000.0%26.8025.0021.4122.1222.49-5.0%20.3920.00-10.0%15.00-15.6%-15.0%-17.0%10.00-20.3%-20.0%5.00-24.0%-25.0%0.00-30.0%BaselineDay3Day10Day20Day30StudyvisitsMeanIOPPercentageIOPreduction図5OTX.TPによる眼圧下降(文献C6より許可転載)になるということが最大の長所である.したがって,点眼に伴う副作用やアドヒアランスの問題が大幅に改善する.点眼指導という実務的に重要な課題もなくなる.一方で,ドラッグデリバリーシステムにより眼圧下降が不十分な場合に点眼を併用するということになれば,そうした長所の一部が帳消しになる.加えて,1~6カ月ごとにドラッグデリバリーによる投与を繰り返すことは面倒なことである.また,コストもかさむことになる.眼外留置型のドラッグデリバリーシステムでは,脱落の可能性,またそれに気がつかないために事実上無治療状態が継続するといった新規の問題も生じる.C2.ドラッグデリバリーシステムの相互比較眼内,とくに眼球内投与の場合,長期的に使用するものとして副作用をとらえる必要がある.現時点までの報告では緑内障用のドラッグデリバリーシステムを用いての眼内感染の報告はないようである.しかしながら,抗VEGF薬の眼内投与による眼内炎発症率はC0.035~0.039%8)などと報告されており,緑内障薬のドラッグデリバリーシステムにおいて眼内炎発症がより少なくなるとする根拠はない.緑内障は長期管理を必要とし,したがってドラッグデリバリーによる投与を何十回も繰り返す可能性は高いので,むしろ眼内炎発症のリスクはより高くなると考えるべきである.結膜下投与の場合,投与が繰り返されるのに従い投与部位に瘢痕の生じる可能性が高い.したがって,将来の濾過手術の予後を若干不良にすることが推定される.眼外留置の場合には,上述の眼内投与に伴う問題点はない.しかしながら薬物の総量はその分多くなるので,従来から知られている点眼薬の副作用を一掃することは期待できないだろう.こうした点を総合的に考えると,複数の選択肢が提供された場合には,眼外留置型のものを選択することが少なくとも最初は無難という考えが多くなるかと思われる.C3.緑内障薬物治療体系におけるドラッグデリバリーの位置づけドラッグデリバリーによる薬物投与が,忍容性が高く,かつそれだけで他の薬物を要しないということであれば,ドラッグデリバリーが第一選択になる可能性が高い.しかしながら,その場合でも必ずしも最初からドラッグデリバリーシステムで治療開始することにはならないと考える.初めて診断を受けたばかりの患者の場合は,緑内障に関する認識が不足している状況にあることが多く,とくに初期緑内障(前視野緑内障を含む)では自覚症状がほとんどないので,点眼に比べてやや初期導入のハードルが高いと考えられるドラッグデリバリーシステムによる薬物投与を,最初の治療として勧めるべきかどうかは議論の余地がある.また,半年ごとに交換するようなドラッグデリバリーシステムでは,交換のための受診がついつい遅れがちになるといった“副作用”も懸念される.少なくとも初診の頃には,従来型の点眼薬を用いて眼圧下降効果と副作用の確認をするとともに,規則的な受診と治療の必要性を教育し,その上のステップとして,単剤治療で治療が可能だと思われる患者をドラッグデリバリーシステムに移行させるというアプローチが穏当であろう.換言すると,“単独の点眼治療C⇒単剤で治療可能であることの確認C⇒同種薬物を用いたドラッグデリバリーへの移行”がよいと考える.複数の点眼薬を用いている患者の場合には,おもに点眼の手間や副作用の減少を目的としてドラッグデリバリーシステムは使用されることになろう.もっとも,複数の薬物を含有した配合剤型のドラッグデリバリーシステムの登場で話の変わることも期待される.C4.レーザー線維柱帯形成術・MIGSとの兼合いドラッグデリバリーの総説のなかでは少し奇異に聞こえるかもしれないが,筆者はドラッグデリバリーシステムとレーザー線維柱帯形成術やCMIGS,とりわけ選択的レーザー線維柱帯形成術の類似性に着目している.ドラッグデリバリーシステムとレーザー線維柱帯形成術やMIGSは,どちらも眼圧下降効果,副作用(合併症)の少なさ,薬物アドヒアランスへの配慮の軽減といった点で類似性がある.とくに,選択的レーザー線維柱帯形成術は繰返し治療の必要性(可能性)という点でも類似している.したがって,ドラッグデリバリーシステムの実用化にあたっては,レーザー線維柱帯形成術やCMIGS24あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(24)

デジタルデバイス用ソフトコンタクトレンズ

2018年1月31日 水曜日

デジタルデバイス用ソフトコンタクトレンズSoftContactLensesforDigitalDeviceUsers小玉裕司*はじめにスマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスの近年の普及には目を見張るばかりである.2015年,MonicaAndersonは“TechnologyDeviceOwnership”において,米国におけるスマートフォンの普及率は2011年の35%から2015年には68%にまで増加しており,タブレットの普及率は2011年の8%から2015年には45%にまで増加していると報告している.デジタルデバイスの普及に伴い,デジタルデバイスを使用することによる目の疲れ(digitaleyestrain)が話題になってきている.VisionCouncilは2015年の“digitaleyestrainreport”において,digitaleyestrainは目の疲れだけではなく乾燥感,目の不快感,ぼやけ,かすみを特徴とし,首や肩の痛みなども伴うことがあると報告している.また,ミレニアル世代(18~29歳)の88%が,そして18歳以上の約70%がデジタルデバイスによる目の疲れを感じているとも報告している.このようにデジタル機器にさらされた現代人の目を護る目的で,各社からデジタルデバイス用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)が市販されてきている.本稿ではそのいくつかを紹介するとともに,実際の処方例もあわせて呈示する.Iデジタルデバイス用SCLデジタルデバイス用SCLとは,遠くの見え方の質を落とさない程度に加入度数を抑えた超低加入遠近両用SCLということができる.ほとんどの遠近両用SCLの加入度数は+0.75~+3.0Dであるが,超低加入SCLの加入度数は+0.5D以下となっている.このような超低加入SCLは初期老視への対応として処方されるだけでなく,デジタルデバイスによる眼性疲労などへの対応レンズとして処方することができる.1.2WEEKメニコンデュオ(表1)このSCLは初期老視対応遠近両用SCLとして発売されているが,筆者は早くからデジタルデバイス用SCLとしても処方してきている.症例:26歳,女性.事務職.A社FDA分類グループIVの2週間頻回交換SCLを使用しているが,長時間のパソコン業務で眼性疲労,乾燥感,軽度の頭痛を訴えて来院した.SCLのフィッティングには問題なく,視力もRV=(1.2×8.7/.3.25/14.0),LV=(1.2×8.7/.4.50/14.0)と良好で過矯正でもなかった.少し度数を下げることも考慮したが,夜間の運転が必要とのことで,長時間の近見作業による目の疲れを疑い,2WEEKメニコンデュオを処方した.RV=(1.2×8.6/.3.25/14.5),LV=(1.2×8.6/.4.75/14.5)と良好な遠見視力が得られて,その後は長時間のパソコン業務の後も眼性疲労,乾燥感,頭痛から解放され,快適な社会生活を送られている.このレンズは光学部が鼻側に偏位しており,目の照準*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(17)17表12WEEKメニコンデュオ表2バイオフィニティRアクティブTM========