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ANCA 関連血管炎が原因と考えられる外転神経麻痺の1 例

2022年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科39(9):1261.1265,2022cANCA関連血管炎が原因と考えられる外転神経麻痺の1例上杉義雄*1大西純司*1立石守*1小島一樹*1渡邉佳子*1竹内正樹*2水木信久*2*1国際親善総合病院眼科*2横浜市立大学大学院医学研究科眼科学CCaseofAbducensNervePalsyThoughtCausedbyANCA-AssociatedVasculitisYoshioUesugi1),JunjiOnishi1),MamoruTateishi1),KazukiKojima1),YoshikoWatanabe1),MasakiTakeuchi2)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,InternationalGoodwillHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:ANCA関連血管炎が原因と考えられる両側外転神経麻痺の症例を経験したので報告する.症例:74歳,男性,ANCA関連肺疾患の維持療法中に右外転神経麻痺による複視が出現した.シクロホスファミドによる寛解導入療法とアザチオプリン,プレドニゾロンによる維持療法を施行し,右眼外転障害は改善傾向であったが,プレドニゾロン漸減後に増悪傾向に転じた.リツキシマブで再度寛解導入療法施行したが増悪傾向が続き,さらに左外転神経麻痺が出現し両側の外転神経麻痺となった.その後プレドニゾロンのみ継続したが両側外転神経麻痺の改善は得られなかった.結論:本症例はミエロペルオキシダーゼ(MPO)陽性の分類不能例と考えられた.ANCA関連血管炎には外転神経麻痺が合併する可能性があり,治療では内科医と薬剤投与量,疾患活動性,症状改善の有無などの情報を共有し,連携して治療にあたることが必要である.CPurpose:Toreportacaseofbilateralabducensnervepalsy(ANP)thoughtcausedbyanti-neutrophilcyto-plasmicantibody(ANCA)C-associatedvasculitis(AAV)C.CCaseReport:ThisCstudyCinvolvedCaC74-year-oldCmaleCwithCdiplopiaCdueCtoCrightCANPCthatCappearedCduringCtherapyCforCANCA-associatedClungCdisease.CForCtreatment,Ccyclophosphamide,CasCwellCasCmaintenanceCtherapyCwithCazathioprineCandCprednisolone,CwasCperformed,CandCtheCpatient’srightANPimproved.However,itworsenedafterthetaperingofprednisolone.Remissioninductionthera-pywasonce-againtriedwithrituximab,yetexacerbationtendedtocontinueandleftANPappeared,thusresult-inginbilateralANP.Subsequently,onlytreatmentwithprednisolonewascontinued.However,noimprovementinbilateralCANPCwasCobtained.CConclusion:ThisCcaseCwasCconsideredCtoCbeCanCmyeloperoxidase-positiveCunclassi.ablecase.AAVmaybeassociatedwithANP,andtreatmentshouldbecarriedoutviasharinginformationsuchasdrugdose,diseaseactivity,andthepresenceorabsenceofsymptomimprovementwiththeattendingphy-sician.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(9):1261.1265,C2022〕Keywords:ANCA関連血管炎,MPO,外転神経麻痺.ANCA-associatedvasculitis,MPO,abducensnervepalsy.CはじめにANCA関連血管炎(ANCA-associatedvasculitis:AAV)が原因として疑われる外転神経麻痺の報告は非常に少ない.AAVに合併する眼病変としては結膜炎,強膜炎,周辺部角膜潰瘍,虹彩炎,網膜血管炎,網膜出血,眼窩の腫瘤性病変などがある1).AAVで脳神経が障害される頻度はC2.10%であり,影響を受ける脳神経はCII.VIIIの脳神経であるという報告がある2.4).今回,AAVが原因と考えられる右外転神経麻痺の診断で寛解導入療法,維持療法を施行するも両側の外転神経麻痺をきたした症例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,男性.主訴:複視.〔別刷請求先〕上杉義雄:〒252-0157神奈川県相模原市緑区中野C256相模原赤十字病院眼科Reprintrequests:YoshioUesugi,DepartmentofOphthalmology,SagamiharaRedCrossHospital,256Nakano,Midori-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0157,JAPANCMPO定量(IU/ml)400350300250200150100500年月日図1MPO陽性を認めてからのMPO定量の推移寛解導入療法と維持療法により陰性化しているが,2017年C7月.2018年C2月にかけて軽度上昇を認める.既往歴:特記事項なし.アレルギー:花粉症(スギ)嗜好歴:喫煙20本/日(20.70歳),飲酒歴日本酒C1合/日.現病歴:2015年C1月に発熱・咳嗽が出現し,近医で抗菌薬を処方されるも改善せず,3月に国際親善総合病院(以下,当院)内科を受診した.血液検査でCRP18.98mg/dl,CWBC14,010/μlと炎症反応上昇があり,胸部CCTではすりガラス陰影や結節陰影が散在していた.クラリスロマイシン,セフトリアキソンを投与するも発熱,咳嗽は改善せず,胸部陰影は増悪し,全身関節痛も出現した.各種自己抗体を測定したところミエロペルオキシダーゼ(myelo-peroxidase:MPO)定量C219.0CIU/mlと高値であったことからCAAVの関与が疑われた.気管支鏡検査を施行したところ,軽度の間質性病変を伴うびまん性肺胞出血および血管炎がみられ,顕微鏡的多発血管炎(microscopicCpolyangiitis:MPA)として典型的ではないが,臨床的にCANCA関連肺疾患として矛盾しない所見であり,MPO-ANCA関連肺疾患の診断となった.静注シクロホスファミド(cyclophospha-mide:CY)1,000Cmgによる寛解導入療法施行後,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)とシクロスポリンCA(ciclospo-rinA:CsA)内服で維持療法が開始された.発熱,咳嗽は改善し,胸部陰影も改善し内服終了となった.2016年C1月に滲出性中耳炎を発症し,MPO定量C15.2CIU/mlと上昇を認めたため(図1),CsA150Cmg/日より再開された.2018年1月CCsA150Cmg/日,PSL10Cmg/日で維持療法中であったところ複視を自覚し,眼科を受診した.眼科初診時所見:・身体所見:意識清明,言語正常,運動障害なし,感覚障害なし,協調運動障害なし.・眼所見:前眼部異常なし,中等度白内障あり,眼底異常なし,乳頭浮腫なし.眼球運動:右眼外転障害(+).対光反射正常,瞳孔不同(.),眼振(C.),眼球突出(C.),眼瞼下垂(C.).・視力:右眼0.5(1.0×+2.00D(cyl.0.50DAx45°),左眼C0.4(0.6×+2.00D(cyl.0.50DAx100°).・眼圧:右眼C14mmHg,左眼C14mmHg.・HESS赤緑試験(図2):右眼外転障害(+).・血液検査所見(表1)CCRP0.06Cmg/dl,WBC5,580/μl,血沈(1時間値)24mm,MPO判定(+),MPO定量C11.7CIU/ml(基準値C3.5未満).・頭部CMRI(図3):右外直筋萎縮あり,左乳頭蜂巣に乳様突起炎あり,硬膜肥厚なし,内頸動脈海綿静脈洞瘻なし,副鼻腔の肉芽種なし,その他粗大病変なし.・頭部MRA異常所見なし.経過:AAVによる右外転神経麻痺の診断で,2018年C2月に静注CCY800Cmgで寛解導入療法を施行したのちに,ア図2Hessチャート上から2018年C1月:眼科初診時,右眼に軽度外転障害を認める.2018年C2月:寛解導入療法後,初診時よりも右外転障害は増悪した.2018年C7月:発症からC6カ月後,もっとも外転障害が改善したとき.2018年C11月:発症からC10カ月後,リツキシマブで寛解導入療法後,右外転障害に加えて左外転障害が出現した.表1眼科初診時(2018年2月)の血液検査結果結果単位基準値血糖C111Cmg/dl70.110CBUNC25Cmg/dl8.20クレアチニンC1.69Cmg/dl0.6.1.1CeGFRC31.890以上CRP定量C0.0.6Cmg/dl0.3以下白血球数C5580C/μl4,000.8,000血沈(1時間値)C24Cmm0.10CKL-6C314CU/ml500未満MPO判定(+)MPO定量C11.7CIU/ml3.5未満血沈,MPO定量の上昇を認める.図3眼科初診時の頭部MRI右外直筋萎縮を認める.ザチオプリン(azathioprine:AZA)100mg/日とPSLC50mg/日の内服を開始した.治療開始からC1カ月後,右眼外転障害はさらに増悪したが,2カ月後には改善傾向を示した.また,3カ月後のCMPO定量はC2.8CIU/mlと陰性化していた.CAZA100Cmg/日は継続し,PSLを漸減した.右眼外転障害は改善傾向であり,5カ月後にCPSL5Cmg/日とした.7カ月後に右眼外転障害が増悪したため,PSL10Cmg/日に増量したが右眼外転障害はさらに増悪した.このときCMPO定量は1.6CIU/mlと上昇はみられなかった.PSLをさらに増量すると,再度漸減後に右眼外転障害が再燃することが予測されたことからCPSL増量はせずに,リツキシマブ(rituximab:RTX)600CmgをC1週間ごとにC4回投与し,PSL10Cmg/日も継続した.右眼外転障害は増悪し続け,10カ月後には左眼外転障害も出現し両側の外転神経麻痺となった.このときMPO定量はC2.0IU/mlと上昇はみられなかった.その後PSLをC40Cmg/日に増量し半年間経過をみたが両側外転障害に改善はみられなかった.MPO定量は毎月測定していたが,複視出現後に陰性化してからはC1度も陽性化はみられなかった.CII考按外転神経麻痺の原因として糖尿病,虚血,高血圧,頭蓋内圧亢進,頭部外傷,髄膜炎,脳動脈瘤,血管炎,多発性硬化症,脳梗塞,頭蓋内出血や腫瘍による神経圧迫,甲状腺眼症,Fisher症候群,外眼筋炎,Tolosa-Hunt症候群などが鑑別にあげられる.本症例では上記疾患のなかで虚血と血管炎以外を疑う所見を認めず,虚血または血管炎が原因として考えられた.眼科初診時にCANCA関連肺疾患の維持療法中であったこと,AAVが原因として疑われる中耳炎の既往があったこと,MPO定量がC11.2CIU/mlと陽性となっていたことから,AAVに合併した外転神経麻痺がもっとも疑われた.寛解導入療法後に一時的ではあったものの右眼外転障害が改善したことから,AAVに合併した外転神経麻痺として矛盾しないと考えられた.また,最終的に両側の外転神経麻痺となったことから,全身性疾患であるCAAVが原因であった可能性が高いと考えられた.AAVは抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)が病態に関与しており,ANCAにはMPO-ANCAとCPR3-ANCAの二つのサブタイプがある.また,AAVはCMPA,多発血管炎性肉芽腫症(granulomato-siswithpolyangiitis:GPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilicCgranulomatosisCwithpolyangiitis:EGPA)のC3疾患に分類され,いずれも特徴的な肺病変を認める.MPAでは肺胞出血や間質性肺炎,GPAでは上・下気道に肉芽腫性血管炎,EGPAでは喘息および好酸球浸潤を認める肉芽腫性血管炎を生じる.3疾患の日本での頻度はCMPAC50%,GPA21%,EGPA9%であり,また分類不能例をC20%に認め,このうちのC94%がCMPO-ANCA陽性である5).また,AAV患者の遺伝因子は疾患分類よりもCANCAサブタイプへの関連が強いと報告されている5).ANCAサブタイプと疾患分類の組み合わせは患者ごとに異なることから,AAVをCMPO-ANCA陽性CAAVとCPR3-ANCA陽性CAAVに分け,そこに疾患分類を組み合わせて,たとえばCMPO-MPAやCMPO-GPAなどのようにCANCAと疾患分類を同時に記載するという考え方が提案されている5).本症例ではEGPAの特徴である好酸球増多はみられておらず,MPAまたはCGPAであったと考えられるが,MPA,GPAのどちらの診断基準も満たしており,病理所見からもMPA,GPAのどちらかを確定することは困難であった.MPAで多くみられる間質性肺炎や外転神経麻痺の原因として考えられる血管炎による神経炎と,GPAで多くみられる中耳炎を合併していた本症例はCMPO-ANCA陽性の分類不能例であった可能性が高い.本症例ではCAAVの再燃として中耳炎と外転神経麻痺をきたしたと考えられるが,どちらも陰性化していたCMPO定量が軽度ではあるが上昇し陽性となっている期間に発症していた.このことからCMPO定量が基準値のC3.5CIU/mlを超えていることは再燃の一つの予測因子になると考えられる.しかし,MPO定量が陰性化してからは一度も陽性化はみられなかったにもかかわらず,外転神経麻痺は改善傾向から増悪傾向に転じた.AAVではCMPO-ANCA再陽性化は再燃の予知因子として有用とされているが6),ANCA値のみで疾患活動性を判断せずに臨床所見と合わせて治療方針を検討することが重要と考えられる.AAV再燃時の治療として明確な基準はない7)が,再燃した場合,PSL,CY,AZAなどの投与量を寛解導入期の投与量(PSL:1mg/kg/日,静注CCY:15Cmg/kgをC2.3週ごと,AZA:2Cmg/kg/日)に戻すことが推奨されている7).本症例では外転神経麻痺が出現してからC1回目の寛解導入療法で静注CCYをC1回しか施行しなかった点が推奨される治療方法と異なっており,右眼外転障害が軽快するまでC2.3週ごとに施行することでよりよい治療結果を得られた可能性がある.また,静注CCYで外転神経麻痺の改善傾向を得られていたことから,2回目の寛解導入療法もCRTXではなくCCYを選択したほうが改善を得られた可能性がある.また,PSL減量方法は維持療法を検討したCCYCAZAREMでCPSLをC1Cmg/kg/日から開始し,1週間ごとにC0.75,0.5,0.4Cmg/kgと減量し,以後漸減するプロトコールが推奨されている7).また,2009年CEULARrecommendationではC3カ月以内にCPSL15mg/日未満に減量すべきではないとされている7).本症例ではCPSL減量は推奨方法に従ったものであった.AAVに合併した外転神経麻痺の報告は,国内でC2009年にCMPO-ANCA関連肺疾患に合併した外転神経麻痺の報告が1例あり8),維持療法でCCsA200Cmg/日とCPSLC12.5Cmg/日を併用していたところ外転神経麻痺が出現し,CsAC200mg/日を継続したままメチルプレドニゾロンC1CgをC3日間投与後,PSL40Cmg/日投与にてC1週間で外転神経麻痺は軽快し,麻痺の改善後にCPSL15Cmg/日へ漸減し外転神経麻痺の再燃はみられていない.今回,筆者らは両側外転神経麻痺を合併したCAAVのC1例を経験した.AAVに外転神経麻痺を合併した患者では,臨床所見の改善・増悪の程度,疾患活動性,薬剤投与量などの情報を内科と共有し,連携して治療を行うべきと考えられる.文献1)宮永将,高瀬博:ANCA関連血管炎;専門領域の視点からANCA関連血管炎の眼病変.日本臨牀C76:355-359,C20182)ZhengY,ZhangY,CaiMetal:CentralnervoussysteminvolvementinANCA-associatedvasculitis:whatneurol-ogistsneedtoknow.FrontNeurolC9:1166,C20183)RothschildPR,PagnouxC,SerorRetal:OphthalmologicmanifestationsCofCsystemicCnecrotizingCvasculitidesCatdiagnosis:aCretrospectiveCstudyCofC1286CpatientsCandCreviewoftheliterature.SeminArthritisRheumC42:507-514,C2013C4)伊野田悟,吉田淳,川島秀俊:視神経障害を発症したと思われるCANCA関連血管炎のC1例.臨眼C69:869-873,C20155)有村義宏:ANCA関連血管炎診療の進歩.日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌39:19-24,C20196)白井剛志,石井智徳:全身疾患におけるCANCA測定の意義.MBENTONI:17-22,C20187)尾崎承一,槇野博史,松尾清一:ANCA関連血管炎の診療ガイドライン.厚生労働省難治性疾患克服研究事業:C53-72,C20118)岡田秀明,望月吉郎,中原保治ほか:外転神経麻痺を併発した間質性肺炎合併顕微鏡的多発血管炎のC1例.日本呼吸器学会雑誌C47:1015-1019,C2009***

肥厚性硬膜炎により外転障害・視力障害を生じたSAPHO 症候群の1 例

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1229.1233,2021c肥厚性硬膜炎により外転障害・視力障害を生じたSAPHO症候群の1例佐々木允*1,2木村雅代*1,2,3杉山和久*1*1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室*2富山県厚生農業協同組合連合会高岡病院眼科*3名古屋市立大学眼科学教室CACaseofSAPHOSyndromewithAbducensNervePalsyandDiplopiabyHypertrophicPachymeningitisMakotoSasaki1,2)C,MasayoKimura1,2,3)CandKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JAToyamaKouseirenTakaokaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityofMedicineC目的:SAPHO症候群は掌蹠膿疱症や皮膚疾患に骨炎症を伴う疾患であり,骨病変が頭部に起こることは比較的まれである.今回,SAPHO症候群による肥厚性硬膜炎により外転障害・視力障害を生じ,扁桃腺摘出およびステロイド治療により改善した症例を経験した.症例:57歳,女性.急性発症の右眼外転障害にて受診.既往歴として掌蹠膿疱症および繰り返す下顎骨髄炎がある.造影頭部CMRIにて右中頭蓋窩の硬膜の肥厚および濃染を認め,肥厚性硬膜炎が疑われた.骨髄生検では感染は否定的であり,血液検査などの全身精査でも原因となる異常はなかった.掌蹠膿疱症を伴う滑膜炎であり,その他疾患が否定的であったためCSAPHO症候群と診断した.ステロイド全身投与および扁桃摘出を行ったところ,治療後C3カ月で外転障害および視力障害は著明に改善した.結論:SAPHO症候群による肥厚性硬膜炎で続発的に外転神経麻痺,視神経障害を生じたまれなC1例を経験した.CPurpose:SAPHOCsyndrome,CanCosteoarticularCdiseaseCassociatedCwithCskinCdisordersCincludingCpalmoplantarCpustulosis,CrarelyCshowsCskullClesions.CWeCreportCaCcaseCofChypertrophicCpachymeningitisCcausedCbyCSAPHOCsyn-dromeCinducingCabducensCnerveCpalsyCandCvisualCimpairment,CwhichCwasCimprovedCbyCtonsillectomyCandCsteroidCtreatment.Casereport:A57-year-oldfemalewithahistoryofpalmoplantarpustulosisandrecurrentmandibularosteomyelitispresentedwithanacuteabducensdisorderinherrighteye.Contrast-enhancedheadMRIrevealedahypertrophicandstronglyenhancedduramaterintherightmiddlecranialfossa,suggestinghypertrophicpachy-meningitis.Bonemarrowbiopsyandsystemicexaminationsincludingbloodtestsshowednoinfectionorcausativeabnormalities.Synovitisassociatedwithpalmoplantarpustulosiswassuggestedafterexcludingotherdiseases,andSAPHOsyndromewasdiagnosed.Systemicsteroidandtonsillectomysigni.cantlyimprovedabducensnervepalsyandvisualimpairmentby3-monthsaftertreatment.Conclusion:WeencounteredararecaseinwhichabducensnervepalsyandvisualimpairmentsecondarilyoccurredduetohypertrophicpachymeningitisofSAPHOsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1229.1233,C2021〕Keywords:SAPHO症候群,肥厚性硬膜炎,外転神経麻痺,掌蹠膿疱症.SAPHOsyndrome,hypertrophicpachymeningitis,abducensparalysis,palmoplantarpustulosis.Cはじめに症の波及や,神経の圧迫にて種々の脳神経症状を生じる1).肥厚性硬膜炎は硬膜に慢性炎症を生じ,その結果硬膜の肥従来,肥厚性硬膜炎の確定診断には生検が必要とされてお厚をきたす疾患である.硬膜の肥厚をきたす部位により症状り,診断がむずかしく,まれな疾患であったが,MRIの進はさまざまであるが,頭蓋底にきたした場合,脳神経への炎歩により,肥厚性硬膜炎の診断技術が向上してきている1).〔別刷請求先〕佐々木允:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室Reprintrequests:MakotoSasaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawaUniversity,13-1Takara-machi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPANC肥厚性硬膜炎の原因は感染性,自己免疫性などさまざまである.なかでもCSAPHO症候群はC1987年にリウマチ医であるChamotらが提唱した疾患概念で,重度の.瘡に伴うリウマチ性関節炎,胸肋鎖骨関節をはじめとする骨関節疾患,掌蹠膿疱症性骨関節炎などに無菌性皮膚炎症性疾患の合併を基本とし,synovitis-acne-pustulosis-hyperostosis-osteitis(滑膜炎-.瘡-膿疱症-骨過形成-骨炎症候群)の頭文字を取り命名された2).SAPHO症候群の骨・滑膜炎症は頭蓋部ではまれであるが,今回,SAPHO症候群による硬膜炎を頭蓋底にきたし眼球運動障害・視力障害を認めた症例を経験したので報告する.CI症例患者:57歳,女性.主訴:右眼の外転障害.現病歴:2020年C4月,急性発症の複視を主訴に近医眼科を受診した.右眼の外転障害を認め,外転神経麻痺疑いにて金沢大学病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.既往歴:掌蹠膿疱症および下顎骨の骨髄炎を認め,当院歯科口腔外科に通院中であった.2018年とC2020年に下顎骨生検が施行されているが,不規則な造骨所見および肉芽を認めるのみで,明らかな感染所見は認めなかった.しかし,感染性下顎骨髄炎を念頭に抗菌薬を投与されながら経過観察されていたが,骨髄炎は増悪・寛解を繰り返していた.初診時眼所見:視力は右眼C0.03(0.8C×sph.10.0),左眼0.03(1.0C×sph.8.0),眼圧は右眼18.0mmHg,左眼19.7CmmHgであった.前眼部,中間透光体には異常を認めなかった.眼底は両眼に軽度の視神経乳頭陥凹を認めたが,それ以外に明らかな異常はなかった.中心フリッカ値では両眼ともC40CHz程度と,明らかな視神経機能障害は認めなかった.右眼の眼球運動障害があり,Hessチャート(図1)では著明な右眼の外転障害を認めた.経過:頭蓋内疾患を疑い,頭部CCTを施行したが,頭蓋内,副鼻腔内,眼窩内に明らかな占拠性病変などは認めず,神経内科による神経学的診察でも外転神経障害以外に異常はなかった.頭部CMRIで右中頭蓋窩の硬膜炎を認め(図2),下顎骨髄炎の進展による硬膜炎が疑われたため,感染,自己免疫疾患,掌蹠膿疱症に関連した滑膜炎(SAPHO症候群)を疑い,精査を進めた.下顎骨生検では無菌性骨髄炎を認めるのみであり,感染は否定的であった.また,自己免疫性疾患についても採血などの全身精査で明らかな原因を指摘できなかった.感染性および自己免疫性の硬膜炎が否定的であり,掌蹠膿疱症を合併していることからCSAPHO症候群による硬膜炎が強く疑われた.2020年C6月には右眼矯正視力が(0.3)と低下し,中心フリッカ値の低下および右眼に中心暗点を伴う視野異常(図3)を認めた.視神経障害が疑われ,右眼外転障害の改善もなかったため,プレドニゾロン30Cmg/日を開始するとともに,SAPHO症候群の治療として近年有効性が指摘されている扁桃摘出を行った.右眼矯正視力は2020年7月に(0.7),8月には(1.0)まで改善し,眼球運動障害も改善した(図4).ステロイド全身投与は漸減し,12月時点でC10Cmg/日であるが,眼症状の再発は認めていない.CII考察SAPHO症候群は比較的新しくまれな疾患とされてきた図1初診時のHess赤緑試験右眼の外転障害を認める.図2頭部MRI(造影T1強調脂肪抑制)a:冠状断画像.右中頭蓋窩の下面から内面側に硬膜の肥厚および濃染を認める.Cb:水平断画像.右中頭蓋窩の下面の硬膜の濃染を認める.図3視力障害出現時の動的視野右眼傍中心暗点を認める.図4治療後のHess赤緑試験右眼の外転障害の改善を認める.が,有病率はC1万人にC1人との報告もあり3),近年注目されている疾患である.一定の診断基準はないが,1988年にBenhamouらが提唱した基準が多く用いられる4).その診断基準では,①.瘡に伴う骨関節病変,②掌蹠膿疱症に伴う骨関節病変,③胸肋鎖骨部,脊椎,または四肢の骨肥厚,④慢性反復性多発骨髄炎のうちいずれかC1項目を満たし,感染性骨関節炎,感染性掌蹠膿疱症,掌蹠角化症,びまん性特発性骨肥厚症が除外されるものとされている.本症例は掌蹠膿疱症と骨髄炎硬膜炎が合併しており,その他の疾患が否定的であったためCSAPHO症候群と診断した.しかし,SAPHO症候群には皮膚症状が関節症状より遅れてくる場合や皮膚症状が出現しない場合もみられ,病状が一定しないため診断に苦慮するケースもある.SAPHO症候群における頭蓋骨炎症はまれで,数例報告されているのでみであり5),これまで肥厚性硬膜炎に伴う外転神経麻痺を合併した症例の報告はない.本症例は眼症状発症前に掌蹠膿疱症および下顎骨髄炎の既往が判明していたため,SAPHO症候群に伴う肥厚性硬膜炎が外転神経麻痺の原因であると診断することができた.眼外症状が不明であった場合,複視や視神経障害のある症例においてCSAPHO症候群を鑑別疾患として考えることは少ない.眼症状で眼科を受診したCSAPHO症候群患者が診断に至るケースが少ないことが,SAPHO症候群における眼合併症の報告が少ない要因である可能性は否定できない.肥厚性硬膜炎の症状としては頭痛・眼窩部痛をC90%に認める6).硬膜炎症が起こった部位の神経症状が出現し,第CI.第CXII神経症状を発症する可能性があるが,そのなかでもとくに視神経,聴神経に障害が起こりやすいとされている6).視神経に障害が起こった場合は視力障害をきたし,動眼神経・滑車神経・外転神経などに障害が起こった場合は眼球運動障害による複視や眼瞼下垂をきたす.本症例では肥厚性硬膜炎により外転神経障害を生じ,続いて軽度の視神経障害を生じた可能性が考えられる.肥厚性硬膜炎は原因不明の特発性と続発性がある.続発性の原因としては結核,梅毒,真菌,HTLV-1などの感染性のもの,サルコイドーシスや抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicanti-body:ANCA)関連疾患,関節リウマチ,IgG4関連疾患など自己免疫疾患に伴うもの,腫瘍性疾患に伴うものなどがある7).SAPHO症候群の病因は明らかではないが,掌蹠膿疱症に合併する場合は扁桃腺炎などの慢性感染症との関連が示唆されている.掌蹠膿疱症と慢性扁桃炎の関連としては,扁桃常在菌であるCaレンサ球菌に対する過剰な免疫応答が扁桃CTリンパ球上の活性化を促し,皮膚リンパ球抗原(cutaneouslymphocyteantigen:CLA),b1インテグリン,CCchemo-kinereceptorの発現を亢進させ,末梢血を介し,いずれかのリガンドが発現している掌蹠皮膚にホーミングし,掌蹠膿疱症が発症する可能性が報告されている8.10).掌蹠膿疱症に骨病変を合併したCSAPHO症候群の症例において,炎症部の骨生検でCCLA陽性細胞の発現を認めたとの報告があり,慢性扁桃炎と骨病変の関連が示唆されている11).SAPHO症候群の治療はエビデンスレベルの高いものはなく,症例報告に基づくような治療が多い.基本的には消炎治療を対症的に行うことが多く,非ステロイド性抗炎症薬,コルヒチン,副腎皮質ステロイド,メトトレキサート,スルファサラジン,抗生物質,インフリキシマブ,ビスホスホネートなどによる治療が試みられている12.14).また,上述のように慢性扁桃炎とCSAPHO症候群の関連性も注目されており,扁桃摘出による治療も試みられている.Katauraらは,SAPHO症候群に対して扁桃摘出を行い,術後経過観察が可能であったC89例中C46例(52%)に関節痛の消失を,72例(81%)に改善を認めたとし,扁桃摘出術の効果は高いと考察している15).高原らは,SAPHO症候群患者C51名に対し扁桃摘出を行い,術後の自覚症状の改善をCVAS(visualana-loguescale)による自己採点法で評価し,47例(92%)に有効以上の効果を認めた11).今回の症例ではステロイド全身投与と扁桃摘出を併用し,視力および眼球運動の改善を得ることができた.おわりにSAPHO症候群に頭蓋底の肥厚性硬膜炎を伴う症例はまれであるとされているが,眼球運動障害や視神経障害による視力障害などの眼症状を合併する可能性がある.肥厚性硬膜炎を伴う眼合併症を認めた場合,SAPHO症候群も念頭におく必要があり,治療にはステロイド全身投与と扁桃摘出の併用が有用である可能性がある.文献1)鈴木利根:難治性視神経眼科疾患の治療を考える肥厚性硬膜炎.眼科C60:127-131,C20182)ChamotAM,BenhamouCL,KahnMFetal:Acne-pustu-losis-hyperostosis-osteitisCsyndrome.CResultsCofCaCnationalCsurvey.85cases.RevRhumMalOsteoarticC54:187-196,C19873)MagreyCM,CKhanMA:NewCinsightsCintoCsynovitis,Cacne,Cpustulosis,Chyperostosis,Candosteitis(SAPHO)syndrome.CCurrRheumatolRepC11:329-333,C20094)BenhamouCCL,CChamotCAM,CKahnMF:Synovitis-acne-pustulosishyperostosis-osteomyelitissyndrome(SAPHO)C.ACnewCsyndromeCamongCtheCspondyloarthropathies?CClinCExpRheumatolC6:109-112,C19885)Marsot-DupuchCK,CDoyenCJE,CGrauerCWOCetal:SAPHOCsyndromeofthetemporomandibularjointassociatedwithsuddenCdeafness.CAJNRCAmCJCNeuroradiolC20:902-905,C19996)河内泉,西澤正豊:肥厚性硬膜炎.知っておきたい神経眼科診療(三村治編).p303-313,医学書院,20167)米川智,吉良潤一:肥厚性硬膜炎の疾患概念と最近の分類.神経内科C76:415-418,C20128)NozawaCH,CKishibeCK,CTakaharaCMCetal:ExpressionCofCcutaneouslymphocyte-associatedCantigen(CLA)inCtonsil-larCT-cellsCandCitsCinductionCbyCinCvitroCstimulationCwithCalpha-streptococciCinCpatientsCwithCpustulosisCpalmarisCetplantaris(PPP)C.ClinImmunolC116:42-53,C20059)UedaCS,CTakaharaCM,CTohtaniCTCetal:Up-regulationCofCss1CintegrinConCtonsillarCTCcellsCandCitsCinductionCbyCinvitroCstimulationCwithCalpha-streptococciCinCpatientsCwithCpustulosispalmarisetplantaris.JClinImmunolC30:861-871,C201010)YoshizakiCT,CBandohCN,CUedaCSCetal:Up-regulationCofCCCCchemokineCreceptorC6ConCtonsillarCTCcellsCandCitsCinductionCbyCinCvitroCstimulationCwithCalpha-streptococciCinpatientswithpustulosispalmarisetplantaris.ClinExpImmunolC157:71-82,C200911)高原幹:専門医が知っておくべき扁桃病巣疾患の新展開扁桃との関連が明らかになった新たな疾患SAPHO症候群.口腔・咽頭科C29:111-114,C201612)HayemCG,CBouchaud-ChabotCA,CBenaliCKCetal:SAPHOsyndrome:aClong-termCfollow-upCstudyCofC120Ccases.CSeminArthritisRheumC29:159-171,C199913)OlivieriI,PadulaA,CiancioGetal:SuccessfultreatmentofSAPHOsyndromewithin.iximab:reportoftwocases.AnnRheumDisC61:375-376,C200214)AmitalCH,CApplbaumCYH,CAamarCSCetal:SAPHOCsyn-dromeCtreatedCwithpamidronate:anCopen-labelCstudyCof10patients.Rheumatology(Oxford)C43:658-661,C200415)KatauraCA,CTsubotaH:ClinicalCanalysesCofCfocusCtonsilCandCrelatedCdiseasesCinCJapan.CActaCOtolaryngolCSupplC523:161-164,C1996***

腺様囊胞癌により眼窩先端部症候群をきたし,短時日で失明に至った1 例

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(133)1455《原著》あたらしい眼科27(10):1455.1458,2010cはじめに腺様.胞癌(adenoidcysticcarcinoma:ACC)は唾液腺や気管などの腺組織から発生するものが多い1,2).眼科領域からの発生の報告は涙腺原発の患者が散見されるが,周囲組織から眼窩に波及する続発ACCはまれである.今回外転神経麻痺で発症してその原因の診断に苦慮し,その後全外眼筋麻痺から短期間に失明した75歳,女性の続発ACC例を経験した.画像診断および病理診断により,上顎洞原発のACCが眼窩先端部に波及したことがわかり,診断の注意点や鑑別点について考察を加え報告する.I症例患者:75歳,女性.主訴:複視,左内眼角部の痛み.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成18年4月3日初診.同年2月ころより物が二重に見えるようになり,3月28日に近医眼科を初診した.左外転神経麻痺の疑いで精査目的にて当科を紹介となった.この間,左内眼角部の痛みを自覚していたが,近医耳鼻科にて診察を受け,X線写真でも異常なしとのことであった.既〔別刷請求先〕長谷川英稔:〒343-8555越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:HidetoshiHasegawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minamikoshigaya,Koshigaya,Saitama343-8555,JAPAN腺様.胞癌により眼窩先端部症候群をきたし,短時日で失明に至った1例長谷川英稔鈴木利根筑田眞獨協医科大学越谷病院眼科ACaseofOrbitalApexSyndromeCausedbyAdenoidCysticCarcinomaRapidlyLeadingtoBlindnessHidetoshiHasegawa,ToneSuzukiandMakotoChikudaDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital左外転神経麻痺で発症してその原因の診断に苦慮し,その後全外眼筋麻痺から短期間に失明した1症例を報告する.症例は初診時に虚血による左単独外転神経麻痺と診断された1症例である.初期にはCT(コンピュータ断層撮影)およびMRI(磁気共鳴画像)の画像検査で明らかな異常が認められず,診断までに1年を要した.経過中に同側の左全外眼筋麻痺,三叉神経麻痺,視神経障害(失明)が加わり,重篤な眼窩先端症候群をきたした.1年後の画像検査と病理検査により,副鼻腔原発の腺様.胞癌の眼窩先端部への浸潤と診断された.結論:眼窩先端部に腺様.胞癌が発症した場合は進行性の麻痺症状をきたす.眼窩先端症候群の原因として,まれではあるが腺様.胞癌も考慮すべきである.Wereportacaseofadenoidcysticcarcinoma.Initialexaminationdisclosedsolitaryleftabducensnervepalsy.Computedtomography(CT)andmagneticresonanceimaging(MRI)demonstratednoabnormality;thetemporarydiagnosiswasischemicabducensnervepalsy.Afteroneyearoffollow-up,thepatientexhibitedsevereorbitalapexsyndrome,includingipsilateraltotalophthalmoplegia,trigeminalpalsyandopticneuropathy(blindness).RepeatedMRIandhistologicalexaminationfinallyrevealedadenoidcysticcarcinomaarisingfromtheparanasalsinusesandinvadingtheorbitalapex.Patientswithadenoidcysticcarcinomadevelopprogressivecranialnervepalsyintheregionoftheorbitalapex.Adenoidcysticcarcinomaisrare,butisoneofthedifferentialdiagnosesfororbitalapexsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1455.1458,2010〕Keywords:腺様.胞癌,眼窩先端症候群,外転神経麻痺,失明,副鼻腔.adenoidcysticcarcinoma,orbitalapexsyndrome,abducensnervepalsy,blindness,paranasalsinuses.1456あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(134)往歴として47歳時にBasedow病,その他は特に認めなかった.当科初診時所見:視力はVD=0.5(0.8×+0.5D(cyl+2.5DAx175°),VS=0.5(0.9×cyl+2.0DAx180°),眼圧は右眼15mmHg,左眼14mmHgであった.眼位は30プリズムの内斜視を認め,著しい左眼の外転制限を認めた(図1).瞳孔径は3mmで不同なく,三叉神経領域に左右差や低下は認めなかった.前眼部・中間透光体には軽度白内障を認め,眼底は異常所見を認めなかった.初診時に行った頭部CT(コンピュータ断層撮影)では海綿静脈洞から眼窩先端付近,および橋付近にも異常はみられず,左外転神経麻痺をきたす器質的異常は不明であった(図2).経過:初診時の診断は虚血障害による左外転神経麻痺とし,メチコバールR内服,サンコバR点眼で経過観察することとした.しかし,その後症状・所見ともまったく回復傾向がみられず,発症2カ月後には左眼点眼時に感覚がないことを訴え,診察でも左三叉神経第1枝領域と第2枝領域の知覚低下がみられるようになった.このため発症2カ月後にMRI(磁気共鳴画像)を行ったが,眼窩先端付近などにやはり異常を認めなかった.その後さらに経過をみていたが,発症4カ月後には症状がさらに悪化し,眼瞼下垂が出現して,運動制限も全方向になった(図3).以後症状は持続し,左眼周囲のしびれ感も加わった.半年を過ぎて矯正視力はVD=(0.9×0.5D(cyl+2.5DAx180°),VS=(0.8×cyl+2.5DAx180°)と変化がなかったが,眼球運動所見は回復傾向がみられなかった.この間,脳神経外科への受診を勧めるも患者の協力が得られなかったが,神経内科の受診では橋付近の小梗塞という診断で経過観察となった.また,炎症性も考え治療的診断の意味も含めてプレドニゾロン内服を1日量20mgより漸減投与するも効果がなかった.発症1年後,瞳孔径が右眼3.0mm,左眼4.25mmで対光反応が消失し,色がわかりにくいとの訴えがあり,左眼視力障害が出現した.この時期に行ったCTおよびMRIで初めて左眼窩先端から海綿静脈洞に広範囲の異常陰影がみられ,視神経付近で副鼻腔から浸潤する異常信号を認め,眼窩下方ではさらに広範囲な異常信号がみられた(図4).以上の所見から脳神経外科にて副鼻腔原発腫瘍の眼窩内浸潤と診断された.耳鼻科における左蝶左眼右眼図1初診時Hess眼球運動検査(平成18年4月3日)著しい左眼の外転制限が認められる.図3症例の各眼位の写真正面および垂直,水平5方向の眼位写真と,左下段は左眼瞼下垂.右下段は瞳孔写真である.左眼は各方向ともまったく動いていないことがわかる.図2初診時CT所見(平成18年4月3日)海綿静脈洞から眼窩先端付近,および橋付近にも異常はみられず,左外転神経麻痺をきたす異常は不明であった.(135)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101457形骨篩骨洞開放術による腫瘍生検の結果はACCの診断となり(図5),他臓器への転移は認めず放射線治療(60Gy)が行われた.初診より1年後の平成19年4月には左眼視力は光覚弁なしとなり,2年後の現在でも全外眼筋麻痺の状態である.II考按腺様.胞癌は,1859年にBillrothにより副鼻腔原発の円柱腫(cylindoroma)として最初に報告され,現在では腺様.胞癌(adenoidcysticcarcinoma)の呼称に統一されている3).40歳代に最も多く,女性のほうが男性よりもやや多い1,2,4).副鼻腔原発などの耳鼻科領域での報告が多く,眼科での報告は涙腺原発の症例が散見されるのみである5,7,8).涙腺原発のACCの臨床症状は他の眼窩部腫瘍と同様に,眼球突出のほか,眼球運動障害および偏位,眼瞼下垂および腫脹の頻度が高い1).今回は上顎洞から眼窩内へ浸潤したため,眼球運動神経麻痺,三叉神経麻痺および視神経障害という典型的かつ重篤な眼窩先端症候群をきたした.ACCの進行は比較的緩徐であるがきわめて悪性度が高く,浸潤性に周囲に増殖し眼窩骨壁の破壊や鼻出血や顔面知覚鈍麻を示し,神経周囲にも浸潤し局所の疼痛の原因になる.摘出手術後にも局所再発をくり返すことが多く,転移も多いことが知られている.転移する場合,血行性に肺やリンパ節,骨や脳にも転移しやすい1,4).今回のような高齢者の片眼性外転神経麻痺は,一般に虚血(微小循環障害)が原因の場合が多く約3カ月ほどで回復する良性の麻痺が多い.今回筆者らが体験した症例も,くり返し行われた画像診断にはじめは異常が認められず,そのような良性の原因を考えた.しかし2カ月を経過したあたりから眼球運動障害が悪化し,次第に全外眼筋麻痺に進行した.最終的には副鼻腔原発ACCの眼窩内浸潤の診断となり,視神経も障害され失明となった.このような高齢者でしかも画像所見に異常が乏しいものであっても,注意深く臨床経過を見守る必要があることが強く示唆された.頭蓋内腫瘍が外転神経麻痺を起こす病態としては,海綿静脈洞付近の病変による直接障害と頭蓋内圧亢進による間接的障害が考えられる.本症例は副鼻腔原発の腫瘍が伸展拡大し,眼窩先端部から海綿静脈洞付近に浸潤したと推定される.この部位でほかに鑑別されるべき病変としては非特異的炎症(Tolosa-Hunt症候群),その他の腫瘍(転移性,鼻咽頭腫瘍,リンパ腫),感染症(アスペルギルス,カンジダの真菌,ヘルペス),頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernousfistula:CCF),血栓症などがある.本症例のように当初の画像診断で病変がみつからないこともあるので,症状の変化に注意しながらくり返し再検査する必要がある.図41年後のCTおよびMRI所見左:頭部CTにて眼窩先端から海綿静脈洞に広範囲の異常陰影を認める.右:MRI(T2強調画像)でも視神経の高さで副鼻腔から浸潤する異常信号がみられる.図5摘出組織の病理組織像スイスチーズ様またはcribriformpattern6)とよばれる,腺様.胞癌に特徴的な所見がみられる(原倍率30倍).1458あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(136)文献1)笠井健一郎,後藤浩:涙腺に原発した腺様.胞癌の臨床像と予後.眼臨101:441-445,20072)後藤浩,阿川哲也,臼井正彦:眼窩腫瘍の臨床統計.臨眼56:297-301,20023)FrishbergBM:Miscellaneustumorsofneuro-ophthalmologicinterest.ClinicalNeuro-ophthalmology6thed(edbyMillerNetal),vol2,p1679-1714,LippincottWilliamsWilkins,Philadelphia,20054)山本祐三,坂哲郎,高橋宏明:腺様.胞癌の基礎と臨床.耳鼻臨床84:1153-1160,19915)金子明博:腫瘍全摘出のみで長期経過良好な涙腺腺様.胞癌の2例.臨眼62:285-290,20086)小幡博人,尾山徳秀,江口功一:涙腺の上皮性腫瘍─多形腺腫と腺様.胞癌.眼科47:1341-1345,20057)AdachiK,YoshidaK,UedaRetal:Adenoidcysticcartinomaofthecavernoudregion.NeurolMedChir(Tokyo)46:358-360,20068)ShikishimaK,KawaiK,KitaharaK:PathologicalevaluationoforbitaltumoursinJapan:analysisofalargecaseseriesand1379casesreportedintheJapaneseliterature.ClinExperimentOphthalmol34:239-244,2006***