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角膜内皮移植術後の屈折と眼内レンズ度数誤差

2011年8月31日 水曜日

1202(14あ2)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(8):1202?1205,2011cはじめに水疱性角膜症に対する手術としては従来,全層角膜移植術が行われてきたが,術中の駆逐性出血の危険性や術後の不正乱視,拒絶反応,創口離開などの合併症がときに問題となった.近年,手術方法の進歩により,病変部のみを移植する「角膜パーツ移植」という概念が生まれ,水疱性角膜症に対し角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)が行われるようになってきた1).角膜内皮移植術は全層角膜移植術と比較すると,術中の重篤な合併症の危険性は低く,移植片を縫合しないこ〔別刷請求先〕市橋慶之:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YoshiyukiIchihashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN角膜内皮移植術後の屈折と眼内レンズ度数誤差市橋慶之*1榛村真智子*2山口剛史*2島﨑潤*2*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2東京歯科大学市川総合病院眼科RefractiveChangeandTargeted/ActualPostoperativeRefractionDifferentialafterDescemet’sStrippingandAutomatedEndothelialKeratoplastyOnlyorCombinedwithPhacoemulsificationandIntraocularLensImplantationYoshiyukiIchihashi1),MachikoShimmura2),TakefumiYamaguchi2)andJunShimazaki2)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeIchikawaGeneralHospital目的:Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)後の屈折推移と眼内レンズ度数誤差を検討する.対象および方法:対象は,DSAEKを施行した水疱性角膜症39例44眼,平均年齢70.4歳.手術の内訳はDSAEKのみ19眼,DSAEKと白内障同時手術19眼,白内障術後にDSAEK試行例(二期的手術)6眼であった.術前ケラト値が測定不能例では対眼値を使用した.術後の屈折推移,眼内レンズ度数誤差について調べた.結果:平均観察期間は9.8±5.3カ月.術後平均自覚乱視は2D以下で,早期から屈折の安定が得られた.等価球面度数は術後に軽度の遠視化を認めた.DSAEKを白内障手術と同時,あるいは二期的に行った例では,眼内レンズ度数誤差は+0.41±1.58Dであり,誤差±1D以内62.5%,±2D以内87.5%であった.二期的手術では全例で誤差±1D以内であった.角膜浮腫の進行していた例では,眼内レンズ度数の誤差が大きかった.結論:DSAEKにおいては,術後の軽度遠視化を考慮し眼内レンズ度数を決定する必要がある.角膜浮腫進行例における眼内レンズ度数決定法は,より慎重であるべきと思われた.Purpose:ToinvestigaterefractivechangeandthedifferencebetweentargetedandactualpostoperativerefractionafterDescemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Materialsandmethods:Weretrospectivelyanalyzed44eyesof39patientswithcornealedemathathadundergoneDSAEK.Ofthoseeyes,19hadundergoneDSAEKonly,19hadundergoneDSAEKtripleand6hadundergoneDSAEKaftercataractsurgery.Weinvestigatedastigmatism,sphericalequivalence(SE)andtherefractiveerrorafterDSAEKtriple.Results:Meanpostoperativeastigmatismwaswithin2D.PostoperativeSEshowedmildhyperopticshift,whichaveraged+0.41Dmorehyperopicthanpredictedbypreoperativelenspowercalculations.Theratiowithrefractiveerrorwithin1.0Dwas62.5%;within2D,87.5%.AllcasesthatunderwentDSAEKaftercataractsurgerywerewithin1D.Therefractiveerrorwasgreaterincasesofstrongcorneaedema.Conclusions:DSAEKoffersanexcellentrefractiveoutcome,thoughcarefulattentionmustbepaidincaseswithstrongcorneaedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1202?1205,2011〕Keywords:角膜内皮移植術,白内障手術,角膜移植,内皮細胞,水疱性角膜症.Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty,cataractsurgery,cornealtransplant,cornealendothelium,bullouskeratopathy.(143)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111203とより術後の不正乱視は少ないという利点があると推測される.また,全層角膜移植術と比較し眼球の強度が保たれるので,眼球打撲による眼球破裂の危険性も低いと考えられる.DSAEKは,欧米を中心に盛んに行われているが,日本でも増加傾向にある2).DSAEKを施行する症例では,白内障と水疱性角膜症の合併例も多く,白内障を行った後に二期的にDSAEKを行う症例(二期的手術)や白内障手術と同時にDSAEKを行う症例(同時手術)もしばしばみられることから,術後の屈折変化や目標眼内レンズ度数との誤差が問題となる可能性が考えられる.そこで今回筆者らは,DSAEK術後の屈折変化と眼内レンズ度数の誤差について検討したので報告する.I対象および方法対象は,平成18年7月から平成20年11月までに東京歯科大学眼科で,水疱性角膜症に対してDSAEKを施行した39例44眼である.男性が9例9眼,女性が30例35眼であり,手術時年齢は70.4±9.3歳(平均±標準偏差,範囲:43~88歳)であった.本研究は,ヘルシンキ宣言の精神,疫学研究の倫理指針および当該実施計画書を遵守して実施した.手術の内訳はDSAEKのみ19眼,白内障同時手術19眼,当院で白内障手術を試行した後にDSAEKを行った二期的手術6眼であり,原因疾患は,レーザー虹彩切開術後18眼,白内障術後12眼,Fuchsジストロフィ8眼,虹彩炎後3眼,外傷後1眼,前房内への薬剤誤入後1眼,不明1眼であった.術後平均観察期間は9.8±5.8カ月(3~22カ月)であり,術後観察期間が3カ月に満たない症例は今回の検討より除外した.手術は,耳側ないし上方結膜を輪部で切開し,全例で約5mmの強角膜自己閉鎖創を作製した.約7.5~8mmの円形マーカーを用いて角膜上にマーキングし,前房内を粘弾性物質で満たした後にマーキングに沿って逆向きSinskeyフック(DSAEKPriceHook,モリア・ジャパン,東京)を用いて円形に角膜内皮面を擦過し,スクレーパー(DSAEKStripper,モリア・ジャパン)を用いてDescemet膜を?離除去した.前房内の粘弾性物質を除去し,インフュージョンカニューラ(DSAEKChamberMaintainer,モリア・ジャパン)を用いて前房を維持した.あらかじめアイバンクによってマイクロケラトームを用いてカットされた直径7.5~8.0mmのプレカットドナー輸入角膜を前?鑷子(稲村氏カプシュロレクシス鑷子,イナミ)で半折し挿入(7眼),もしくは対側に作製した前房穿刺部より同様の前?鑷子もしくは他の鑷子(島崎式DSEK用鑷子,イナミ)を用いて強角膜切開部より引き入れた(37眼).ドナー角膜の位置を調整し前房内に空気を注入し,10分間放置して接着を図った.その間,20ゲージV-lance(日本アルコン)でレシピエント角膜を上皮側より4カ所穿刺して,層間の房水を除去した.手術終了時にサイドポートより眼圧を調整しながら空気を一部除去した.白内障同時手術を施行した例では,散瞳下で超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行した後に,上記のごとくDSAEKを行った.眼内レンズ度数の決定にはSRK-T式を用い,術眼の術前のケラト値,眼軸長の精度が低いと考えられた症例では,対眼の値を参考にして決定した.これらの症例について,角膜透明治癒率,術前,術後の視力,自覚乱視,ケラト値,角膜トポグラフィー(TMS-2,トーメーコーポレーション)におけるsurfaceregularityindex(SRI),surfaceasymmetryindex(SAI),等価球面度数(SE),目標眼内レンズ度数との誤差について調べた.数値は平均±標準偏差で記載し,統計学的解析はStudent-t検定,c2検定,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した.II結果1.角膜透明治癒率初回DSAEK術後に透明治癒が得られたのは44眼中40眼(91%)であった.4眼は術後より角膜浮腫が遷延し,うち2眼は再度DSAEKを施行し透明化が得られ,1眼は全層角膜移植を施行し透明化が得られ,1眼は経過観察中に通院しなくなったため,その後の経過は不明であった.初回DSAEKで透明治癒が得られなかった例は,後の検討から除外した.2.等価球面度数同時手術例を除いた症例で検討したところ,平均等価球面度数は,術前?1.00±2.40D(n=17),術後1カ月?0.33±1.42D(n=21),術後3カ月?0.52±1.08D(n=20),術後6カ月?0.40±1.34D(n=19),術後12カ月?0.52±1.58D(n=13)であった.いずれの時期も術前と比較し統計学的有意差は認めないものの,術前と最終観察時を比較すると+0.38D±2.5Dと軽度の遠視化傾向にあり,術後3カ月以降はほぼ安定していた.3.乱視および角膜形状平均屈折乱視は,術前1.2±1.4Dに対し,術後1カ月1.8±1.7D,術後3カ月1.9±1.4D,術後6カ月1.7±1.3D,術後12カ月1.4±1.6Dと±2D以内であり,術後早期より安定していた.いずれの時期も術前と比較し統計学的な有意差を認めなかった(表1).平均ケラト値は,術前44.2±0.94D(n=20),術後1カ月43.5±1.44D(n=16),術後3カ月43.8±1.33D(n=14),術後6カ月44.0±1.28D(n=13),術後12カ月44.8±0.87(n=7)であり,いずれの時期も術前と比較し有意差は認めなかった.また角膜トポグラフィーにて,SRI,SAI値とも2.0以内と,術後早期より比較的低値で安定していた(表1).1204あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(144)4.眼内レンズの屈折誤差DSAEKを白内障手術と同時,あるいは二期的に行った例では,目標屈折度数に比べて+0.41±1.58Dであり,誤差±1D以内62.5%,±2D以内87.5%であった.同時手術18眼と二期的手術6眼に分けて検討したところ,同時手術では誤差±1D以内は50%であり,誤差±2D以内83.3%であったのに対し,二期的手術では全例が誤差±1D以内であり,誤差±1D以内の割合は二期的手術のほうが有意に高かった.しかし,同時手術例のなかには術前ケラト値が測定できなかった症例がすべて(5眼)含まれており,それらの症例を除くと誤差±1D以内の割合は61.5%となり,統計学的有意差は認めなかった.眼内レンズの屈折誤差と眼軸長の間には相関関係は認めなかった(n=24,Pearsonの積率相関係数=0.279)(図1).5.術前の角膜浮腫の程度と眼内レンズ度数の屈折誤差術前ケラト値が測定できた群19眼と浮腫が進行し測定できなかった群5眼に分けて検討したところ,誤差±1D以内であった割合は,どちらの群も60%以上で差がなかったが,誤差±2D以内の割合は,術前ケラト値が測定できた群では94.7%であり,測定不能であった群60%と比べて有意に高かった.両群で屈折のばらつきを比較したところ,術前ケラト値が測定できた群に比べて,測定できなかった群では誤差のバラつきが大きかった(図2,3).術前のケラト値が測定できなかった5眼のうち3眼が誤差±2D以内であり,他の2眼は?3.3D,5.7Dと誤差が大きかった.誤差が+5.7Dと大きかった症例は術前のケラト値が測定不能であった例で,対眼も全層角膜移植術を施行されており,その対眼のケラト値を用いて度数計算を行った例であった.III考按DSAEK術後のSEの変化について,今回筆者らは,統計学的な有意差はなかったものの+0.38±2.5Dの遠視化を認めた.Koenigらは,術後6カ月で平均1.19±1.32Dの遠視化を認め3),Junらも術後5カ月で平均+0.71±1.11Dの遠視化を認めたと報告している4).角膜曲率半径(ケラト値)は,DSAEK術前後でほとんど変化しないという報告が多く5,6),今回の筆者らの結果でも有意な変化がなかったことから,DSAEK術後の遠視化には,角膜後面曲率の変化が関表1術前,術後の自覚乱視,角膜形状の経過術前術後1カ月術後3カ月術後6カ月術後12カ月自覚乱視(D)1.2±1.4(n=32)1.8±1.7(n=38)1.9±1.4(n=36)1.7±1.3(n=28)1.4±1.6(n=21)ケラト値(D)44.2±0.94(n=20)43.5±1.44(n=16)43.8±1.33(n=14)44.0±1.28(n=13)44.8±0.87(n=7)SRI1.5±0.7(n=24)1.5±0.7(n=29)1.6±0.7(n=21)1.4±0.6(n=13)SAI1.3±0.7(n=24)1.2±1.1(n=29)1.2±0.7(n=21)0.8±0.5(n=13)SRI:surfaceregularityindex,SAI:surfaceasymmetryindex.(平均値±標準偏差)度数誤差(D)眼数-4-3-2-10109876543210123456図3術前ケラト値測定不能例と眼内レンズ度数誤差術前ケラト値測定不能であった5眼のうち±2D以内の誤差にとどまったのは3眼であった.屈折誤差が+5.77Dと大きくずれた症例もみられた.6543210-1-2-3-4度数誤差(D)眼軸長(cm)2020.52121.52222.52323.524図1眼軸長と眼内レンズ度数誤差の関係眼軸長と眼内レンズの狙いとの屈折誤差に相関関係は認めなかった.度数誤差(D)眼数-4-3-2-10109876543210123456図2術前ケラト値測定可能例と眼内レンズ度数誤差術前ケラト値測定可能であった19眼のうち,±1D以内の誤差であったのは13眼(68.4%)であり,1眼を除いて±2D以内の誤差であった.(145)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111205与しているものと推測された.白内障手術を同時,あるいは二期的に行った症例で検討すると,眼内レンズ度数の目標値に比べ平均+0.41Dと軽度の遠視よりであった.眼内レンズの選択にあたっては,DSAEK術後の遠視化を考慮に入れるべきと考えられた.DSAEK術前,術後の乱視の変化は,いずれも平均2D以内と軽度であり,術前と術後で統計学的有意差を認めなかった.また,角膜トポグラフィーでも,角膜正乱視,不正乱視とも軽度で,術後早期より角膜形状の安定がみられた.この結果は,従来の欧米での報告と一致するものであり3,7),DSAEK術後の速やかな視機能回復をもたらす要因と考えられた.DSAEKと白内障同時手術での目標値との誤差は,±1D以内が50%,±2D以内は83.3%であった.CovertらはDSAEKと白内障手術の同時手術では,術後6カ月の時点での目標値との誤差は+1.13Dであり,±1D以内は62%,±2D以内は100%であったと報告しており8),今回の筆者らの結果と類似していた.全層角膜移植術と白内障手術の同時手術においては,当教室のデータでは,術後6カ月で誤差±2D以内は48.9%であった9).他の報告でも26%から68.6%程度と報告されている10~13).これらと比較すると,DSAEKのほうが,白内障同時手術での屈折誤差は軽度であると考えられた.DSAEKと白内障を同時に手術した場合と比較して,白内障を先に行ってからDSAEKを行った症例のほうが,屈折誤差は少ない傾向であった.これは,同時手術を行った例のなかに,角膜浮腫が高度のために術前ケラト値が測定できなかった症例が含まれているためと推測された.実際,測定不能であった症例を除外すると,両群で有意差を認めなかった.さらに,眼軸長と度数誤差に相関関係がみられなかったことより,眼軸長の測定誤差の影響よりも,術前ケラト値測定の可否が眼内レンズ度数の誤差に影響していると考えられた.高度の角膜浮腫によりケラト値の測定ができない症例では,今回は対眼のケラト値を参考に度数を決定したが,結果として大きな屈折誤差を生じた例があった.まとめ今回の検討より,DSAEK術後には軽度の遠視化がみられることがわかった.白内障の手術を合わせて行う際には,このことを考慮し眼内レンズ度数を決定する必要があると思われた.浮腫が進行し術前のケラト値が測定不能であった症例では,大きな屈折誤差が生じる可能性があることを考慮し,眼内レンズ度数の選択をより慎重に行うべきと思われた.文献1)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20052)市橋慶之,冨田真智子,島﨑潤:角膜内皮移植術の短期治療成績.日眼会誌113:721-726,20093)KoenigSB,CovertDJ,DuppsWJetal:Visualacuity,refractiveerror,andendothelialcelldensitysixmonthsafterDescemetstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Cornea26:670-674,20074)JunB,KuoAN,AfshariNAetal:Refractivechangeafterdescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastysurgeryanditscorrelationwithgraftthicknessanddiameter.Cornea28:19-23,20095)ChenES,TerryMA,ShamieNetal:Descemet-strippingautomatedendothelialkeratoplasty:six-monthresultsinaprospectivestudyof100eyes.Cornea27:514-520,20086)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmology116:248-256,20097)MearzaAA,QureshiMA,RostronCK:Experienceand12-monthresultsofDescemet-strippingendothelialkeratoplasty(DSEK)withasmall-incisiontechnique.Cornea26:279-283,20078)CovertDJ,KoenigSB:Newtripleprocedure:Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplastycombinedwithphacoemulcificationandintraocularlensimplantation.Ophthalmology114:1272-1277,20079)大山光子,島﨑潤,楊浩勇ほか:角膜移植と白内障同時手術での眼内レンズの至適度数.臨眼49:1173-1176,199510)KatzHR,FosterRK:Intraocularlenscalculationincombinedpenetratingkeratoplasty,cataractextractionandintraocularlensimplantation.Ophthalmology92:1203-1207,198511)CrawfordGJ,StultingRD,WaringGOetal:Thetripleprocedure:analysisofoutcome,refraction,andintraocularlenspowercalculation.Ophthalmology93:817-824,198612)MeyerRF,MuschDC:Assessmentofsuccessandcomplicationsoftripleproceduresurgery.AmJOphthalmol104:233-240,198713)VichaI,VlkovaE,HlinomazovaZetal:CalculationofdioptervalueoftheIOLinsimultaneouscataractsurgeryandperforatingkeratoplasty.CeskSolvOftalmol63:36-41,2007***

角膜内皮細胞が減少している原発閉塞隅角症および原発閉塞 隅角緑内障に対する白内障手術後の角膜内皮細胞の変化

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1(133)5490910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(4):549553,2010cはじめに原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC)および原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)に対する治療としては,薬物治療ではなく手術治療が第一選択とされる1).外来にて短時間で簡便に施行可能で,合併症が少ないレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)はPAC(G)の治療の中心として位置づけられている.しかしながらLI後の眼圧コントロールは中長期的には不良であることが報告されている2).またLIの晩期合併症として,近年わが国において水疱性角膜症(bullouskeratopathy:BK)の発症が注目されている3).一方,PAC(G)の発症には水晶体が大きく関与することが知られており,白内障手術もPAC(G)症例において隅角開大効果,眼圧コントロールの両面において有効であることが報告されている46).しか〔別刷請求先〕江夏亮:〒903-0125沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野Reprintrequests:RyoEnatsu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofRyukyusFacultyofMedicine,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0125,JAPAN角膜内皮細胞が減少している原発閉塞隅角症および原発閉塞隅角緑内障に対する白内障手術後の角膜内皮細胞の変化江夏亮*1酒井寛*2與那原理子*2平安山市子*2新垣淑邦*2早川和久*2澤口昭一*2*1江口眼科病院*2琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野PhacoemulsicationandAspirationforPrimaryAngle-ClosureandPrimaryAngle-ClosureGlaucomawithCornealEndothelialCellLossRyoEnatsu1),HiroshiSakai2),MichikoYonahara2),IchikoHenzan2),YoshikuniArakaki2),KazuhisaHayakawa2)andShoichiSawaguchi2)1)EguchiEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofRyukyusFacultyofMedicine超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)と眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術を行った原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC)および原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglau-coma:PACG)の症例のうち,術前の角膜内皮細胞密度が1,000cells/mm2以下まで減少していた11例15眼の術後角膜内皮細胞密度および術後経過について検討し,症例を呈示する.術後1カ月に1眼が水疱性角膜症(bullousker-atopathy:BK)を発症した.術後2,6,12カ月の平均角膜内皮細胞減少率は11.4%,13.0%,および15.4%であった.角膜内皮細胞密度1,000cells/mm2以下のPACおよびPACG症例に対する白内障手術は,術後のBK発症を考慮して行うことが求められる.Weevaluatedcornealendothelialcelllossafterphacoemulsicationcataractsurgeryin15primaryangle-clo-sure(PAC)andprimaryangle-closureglaucoma(PACG)eyesthatalreadyhadcornealendothelialcelldecreasetolessthan1,000cells/mm2.At1monthafterthesurgery,oneeyedevelopedbulluskeratopathy.Averagecornealendothelialcellreductionof11.4%,13.0%and15.4%wereobservedat2,6,and12monthsaftersurgery,respectively.InPACandPACGeyeswithcornealendothelialcelldecreasetolessthan1,000cells/mm2,bullouskeratopathyshouldbepreoperativelyconsideredasapossiblecomplicationfollowingpost-phacoemulsicationsur-gery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):549553,2010〕Keywords:角膜内皮細胞,原発閉塞隅角症,超音波水晶体乳化吸引術,レーザー虹彩切開術,水疱性角膜症.cornealendotheliumcell,primaryangle-closure,phacoemulsicationandaspiration,laseriridotomy,bulluskeratopathy.———————————————————————-Page2550あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(134)し白内障手術の合併症として角膜内皮細胞減少が考えられており,白内障手術後の角膜内皮細胞減少率は過去の検討において平均7%前後と報告されている7,8).BKの原因としては手術に関連する医原性のものが過半数を占めており,その内訳として第1位に白内障手術,第2位にLIがあげられている9).そのため,角膜内皮障害を有するPAC(G)に対する治療としてはLI,白内障手術のどちらもBK発症を念頭に置く必要があると考えられる.今回筆者らは術前の角膜内皮細胞密度が1,000cells/mm2以下と強度の角膜内皮障害を有するPACおよびPACGの症例に対して超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)と眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術を施行し,術後の角膜内皮細胞密度について検討したので報告する.I対象および方法対象は2004年12月から2005年11月までに琉球大学医学部附属病院眼科において熟練した同一術者により耳側角膜切開の単独手術でPEA+IOLを行ったPACおよびPACG症例のうち,術前の角膜内皮細胞密度が1,000cells/mm2以下であった11例15眼である.術後に通院を自己中断したことにより,術後6カ月以上経過観察できなかった症例は今回の検討から除外した.PAC(G)の診断はISGEO(Inter-nationalSocietyofGeographicalandEpidemiologicalOph-thalmology)分類に準拠し,2名の緑内障専門医により隅角鏡検査および超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicro-scope:UBM)を施行し診断した.対象の内訳は男性2例,女性9例,年齢は6684歳(平均76.5歳)であった.急性緑内障発作の既往があるものが3眼〔発作後LI施行1眼,周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)施行1眼,未処置1眼〕,予防的LI施行後5眼,未治療7眼であった.眼軸長は21.0522.94mm(平均21.90mm),前房深度は1.282.48mm(平均1.72mm),水晶体核硬度はEmery-Little分類にてGrade1が5眼,Grade2が7眼,Grade3が3眼であった.術後観察期間は最短6カ月,最長52カ月で平均25.7カ月であった.白内障手術を選択した理由として,①緑内障発作眼およびその僚眼(3眼)や,②UBM上機能的隅角閉塞が全周性にあり(2眼),緑内障発作の危険が高いと判断された,③LI施行後,抗緑内障薬使用にても眼圧コントロールが不良であった(1眼)といった閉塞隅角治療を目的とした例,④進行性の角膜内皮細胞減少を認めており(3眼),角膜内皮減少の進行を抑えることを目的とした,もしくは角膜内皮細胞減少の進行により今後いっそう白内障手術が困難になっていくと予測された例,⑤白内障による視力低下のため手術希望が強く(6眼),視力改善を目的とした例があった.術前にBK発症の可能性,治療としての角膜移植術の必要性について十分に説明し同意を得て手術を施行した.手術は点眼麻酔下に耳側透明角膜3.2mm切開で行った.灌流液はエピネフリンを0.2ml/500ml添加したBSSプラスR(日本アルコン)を使用し,粘弾性物質としてオペガンハイR(参天製薬)+ビスコートR(日本アルコン)を用いたソフトシェルテクニック10)を用いた.前切開は27ゲージ針チストトームにて行った.アルコン社製インフィニティRにてPEA施行した後,折り畳み式アクリル眼内レンズを,インジェクターを用いて挿入した.角膜切開創には手術終了時ハイドレーションを用い,縫合は行わなかった.術中合併症は認めなかった.術前,術後の診察時に非接触性角膜内皮細胞測定装置(TOPCONMicroscope,SP2000PR)を用いて角膜中央部を撮影し角膜内皮細胞密度を測定した.II結果15眼中1眼で術後1カ月にBKを発症した.他の14眼は経過観察中,角膜は透明性を維持していた.術前角膜内皮細胞密度483968cells/mm2(平均730.3±152.5)に対して術後2カ月の角膜内皮細胞密度は433927cells/mm2(平均639.9±136.4),術後6カ月の角膜内皮細胞密度は348927cells/mm2(平均642.3±178.2),術後12カ月の角膜内皮細胞密度は416822cells/mm2(平均620.8±144.2)であった.術前に比べて,術後2カ月,術後6カ月,術後12カ月の角膜内皮細胞密度は有意に減少していた(p<0.05,Wil-coxon符号付順位和検定).術後2カ月,術後6カ月,術後12カ月の角膜内皮細胞密度の間に有意差はなかった(図1).術後2カ月の角膜内皮細胞減少率は最高51.2%で平均11.4%,術後6カ月の角膜内皮細胞減少率は最高40.0%で平均13.0%,術後12カ月の角膜内皮細胞減少率は最高手術前(n=15)2カ月後(n=14)6カ月後(n=14)12カ月後(n=10)1,000900800700600500400角膜内皮細胞密度(cells/mm2)***図1術前後の角膜内皮細胞密度の平均値術前に比べて術後2カ月,術後6カ月,術後12カ月の角膜内皮細胞密度は有意に減少していた(*p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定).術後2カ月,術後6カ月,術後12カ月の角膜内皮細胞密度の間に有意差はなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010551(135)45.3%で平均15.4%であった.LogMAR視力にて2段階以上改善した例が8眼,不変が6眼,2段階以上悪化した例が1眼であった(図2).眼圧は全体としては術前後で有意な変化を認めなかったが,眼圧33mmHgの1眼において眼圧は14mmHgに低下した(図3).今回の検討した症例の一覧を示し(表1),BK発症例(症例1)および角膜内皮細胞減少率が特に高かった3症例(症例2,3,4),そして緑内障発作に対してアルゴンレーザーおよびYAGレーザーによるLIを施行した後より進行性の角膜内皮細胞減少を認めていた症例(症例5)を呈示する.〔症例1.BK発症〕緑内障発作に対してPIを施行されていた.他眼はLI後にBKを発症していた.前房深度は1.48mmであった.隅角鏡検査では全周性の周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsyn-echia:PAS)があった.眼圧コントロールは30mmHg以上と不良であったうえ,白内障による視力低下が進行したため手術を施行した.術後1カ月でBKを発症し,角膜内皮細胞密度は測定不能であった(図4).本人の希望により角膜移植術は施行せずに経過観察となった.術後の眼圧は14mmHgまで低下した.〔症例2.角膜内皮細胞減少率-40.0%〕他眼も角膜内皮細胞密度700cells/mm2台であった.前房深度は1.79mmであった.UBMおよび隅角鏡検査にて4/4周の機能的隅角閉塞があった(図5).緑内障発作の危険が高いと判断し手術を施行した.角膜内皮細胞減少率は術後2,6カ月で24.1%,40.0%であった.経過観察中角膜は透明性を維持していた.表1対象の詳細症例年齢(歳)核硬度眼軸長(mm)前房深度(mm)角膜内皮細胞密度角膜内皮細胞減少率(%)視力備考術前6カ月後術前術後173G222.521.48558BKBK0.40.3LI(),PI(+),glaattack(+),guttata()284G121.801.7979047440.00.40.5LI(),PI(),glaattack(),guttata()366G221.942.1650634831.20.50.8LI(),PI(),glaattack(),guttata(+)472G322.301.5788857535.20.20.6LI(+),PI(),glaattack(),guttata(+)564G222.481.39633726+14.60.91.0LI(+),PI(),glaattack(+),guttata()676G321.621.5473965211.80.41.2LI(+),PI(),glaattack(),guttata()774G222.781.6760647321.90.51.0LI(),PI(),glaattack(+),guttata()881G323.041.52483488+1.00.31.2LI(+),PI(),glaattack(),guttata()973G320.541.5792274719.00.30.8LI(+),PI(),glaattack(),guttata()1066G221.882.04722927+28.40.70.7LI(),PI(),glaattack(),guttata(+)1174G222.821.8969155919.10.81.0LI(),PI(),glaattack(),guttata()1284G221.631.9072050929.30.30.5LI(),PI(),glaattack(),guttata()1373G220.021.8896880017.40.060.04LI(+),PI(),glaattack(),guttata()1458G221.051.288758493.00.91.0LI(),PI(),glaattack(),guttata()1568G222.122.48853865+1.40.71.0LI(),PI(),glaattack(),guttata()BK:水疱性角膜症,LI:レーザー虹彩切開術,PI:周辺虹彩切除術,glaattack:急性緑内障発作,guttata:滴状角膜.00.20.40.60.8術前視力(LogMAR視力)術後視力(LogMAR視力)11.21.41.41.210.80.60.40.20-0.2図2術前視力と術後視力(n=15眼)改善した例が8眼,不変が6眼,悪化した例が1眼であった.3530252015105005101520術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)253035図3術前眼圧と術後眼圧(n=15眼)術前後の眼圧は統計学的に有意な変化は認めなかった.術前に33mmHgであった1眼では14mmHgまで低下した.———————————————————————-Page4552あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(136)〔症例3.角膜内皮細胞減少率-31.2%〕両眼に滴状角膜を認め,他眼の角膜内皮細胞密度も500cells/mm2台であった.この症例の子供も両眼とも角膜内皮細胞密度800cells/mm2台であった.上記よりFuchs角膜内皮ジストロフィが疑われた.前房深度は2.16mmであった.角膜内皮細胞密度の減少が進行性であり,白内障による視力低下もあったため手術を施行した.術後2カ月では角膜内皮細胞は減少していなかったが,術後6カ月の角膜内皮減少率は31.2%であった.経過観察中角膜は透明性を維持していた.〔症例4.角膜内皮細胞減少率-35.2%〕緑内障発作に対してLI施行されていた.前房深度は1.57mmであった.隅角鏡検査では3/4周にPASがあり,眼圧は2022mmHgであった.白内障による視力低下が進行し,本人の手術希望が強く手術を施行した.術後2,6,12カ月の角膜内皮細胞減少率は51.2,35.2,30.0%であったが,経過観察中角膜は透明性を維持していた.術後眼圧は2022mmHgであった.〔症例5.角膜内皮細胞減少率+14.6%〕LI前2,397cells/mm2であった角膜内皮細胞密度は進行性に減少し,白内障手術前は633cells/mm2であった.術後2,6,12カ月の角膜内皮細胞減少率は+11.4,+14.7,+29.9%であった.術後30カ月までの期間,角膜内皮細胞は減少していなかった.III考按PEA+IOLの術後,約0.3%の症例にBKを発症するとの報告がある11).角膜内皮細胞密度の低い症例において,PEA+IOLはさらなる細胞密度の低下をもたらしBK発症の可能性があり,手術は困難であった.しかし近年の白内障手術機器の革新や,角膜内皮保護に有用とされるソフトシェル法の開発などの技術の進歩により,角膜内皮細胞数の少ない症例に対してもより積極的に手術が行われるようになってきた.白内障手術後の角膜内皮細胞減少率は過去の検討において平均7%前後と報告されている7,8).今回の検討では術後6カ月の角膜内皮細胞減少率は平均13.0%であり,過去の報告に比べて高い結果であった.理由としては,全例が浅前房の症例で前房深度2mm以下の例を15眼中12眼含んでいたこと,緑内障発作の既往がある例や両眼性もしくは進行性に角膜内皮細胞が減少していた例のように,術前より角膜内皮細胞の脆弱性が予測される例を含んでいたことが考えられた.今回の検討では手術前より進行性に角膜内皮細胞が減少していた例を3眼含んでいた.症例5のLI施行後の1眼では白内障手術後より角膜内皮細胞減少の進行が停止していた.過去に白内障手術により進行が停止したLI後の角膜内皮減少症の1例が報告されている12).LI後の房水灌流異常が白内障手術によって除去されたことにより角膜内皮細胞減少が図5症例2の超音波生体顕微鏡(UBM)写真4/4周に機能的隅角閉塞があった.図4症例1の術前後の細隙灯顕微鏡写真A:術前の細隙灯顕微鏡写真.B:術後の細隙灯顕微鏡写真.術後1カ月で水疱性角膜症を発症した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010553(137)停止したと仮説づけられているが,今回筆者らが経験した症例もこの仮説を支持するものと考えた.症例3のFuchs角膜内皮ジストロフィが疑われた症例では,片眼は角膜内皮細胞の減少は進行し,片眼は経過観察中角膜内皮細胞の減少は進行しなかった.進行性の角膜内皮減少症に対する白内障手術の影響については報告が少なく,今後検討していく必要があると思われた.高度の角膜内皮障害を認める例における白内障手術は,リスクは高いものの良好な視力の維持や長期的な眼圧コントロールを得るためには必要な治療法である.最も適切な手術時期を決定するためにも今回の検討結果は有用な情報を与えると思われた.まとめ今回の検討では15眼中1眼でBKを発症し,術後6カ月の角膜内皮細胞減少率は最高40.0%,平均13.0%であった.高度の角膜内皮障害を有する症例においても白内障手術は視力の維持や良好な眼圧コントロールを得るためには必要な治療法であるが,術後のBK発症を考慮して行うことが求められると考えた.文献1)阿部春樹,桑山泰明,白柏基宏ほか:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:779-814,20062)AlsaqoZ,AungT,AnqLPetal:Long-termclinicalcourseofprimaryangle-closureglaucomainanAsianpopulation.Ophthalmology107:2300-2304,20003)AngLP,HigashiharaH,SotozonoCetal:Argonlaseriri-dotomy-inducedbullouskeratopathyagrowingprobleminJapan.BrJOphthalmol91:1613-1615,20074)JacobiPC,PietleinTS,LukeCetal:Primaryphacoe-mulsicationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,20025)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.Ophthalmology112:974-979,20056)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscongurationaftercata-ractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,20067)佐古博恒,清水公也:眼内レンズ移植眼における角膜内皮細胞の変化.IOL4:102-106,19908)池田芳良,三方修,内田強ほか:IOL挿入眼の角膜内皮細胞長期経過観察.IOL6:247-253,19929)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.Cornea26:274-277,200710)MiyataK,NagamotoT,MaruokaSetal:Ecacyandsafetyofthesoft-shelltechniqueincaseswithahardlensnucleus.JCataractRefractSurg28:1546-1550,200211)PoweNS,ScheinOD,GieserSCetal:Synthesisoftheliteratureonvisualacuityandcomplicationsfollowingcat-aractextractionwithintraocularlensimplantation.Cata-ractPatientOutcomeResearchTeam.ArchOphthalmol112:239-252,199412)園田日出男,中枝智子,根本大志:白内障手術により進行が停止したレーザー虹彩切開術後の角膜内皮減少症の1例.臨眼58:325-328,2004***

バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(89)3670910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):367370,2010c〔別刷請求先〕唐下千寿:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:ChizuTouge,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago-shi,Tottori683-8504,JAPANバルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例唐下千寿*1矢倉慶子*1郭權慧*1清水好恵*1坂谷慶子*2宮大*1井上幸次*1*1鳥取大学医学部視覚病態学*2南青山アイクリニックACaseofRecurrentCytomegalovirusCornealEndotheliitisTreatedbyOralValganciclovirChizuTouge1),KeikoYakura1),Chuan-HuiKuo1),YoshieShimizu1),KeikoSakatani2),DaiMiyazaki1)andYoshitsuguInoue1)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)MinamiaoyamaEyeClinic角膜移植術後にサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎を再発性に発症し,バルガンシクロビル内服が奏効した1例を経験した.症例は55歳,男性.ぶどう膜炎に伴う緑内障に対して,両眼に複数回の緑内障・白内障手術を受けている.炎症の再燃をくり返すうちに右眼水疱性角膜症を発症し,当科にて全層角膜移植術を施行した.術後約半年で右眼にコイン状に配列する角膜後面沈着物(KP)を認め,ヘルペス性角膜内皮炎を疑いバラシクロビル(3,000mg/日)内服を開始したが炎症の軽快徴候はなかった.前房水のreal-timepolymerasechainreaction(PCR)にてherpessim-plexvirus(HSV)-DNA陰性,CMV-DNA:27コピー/100μlであったため,バルガンシクロビル(900mg/日)内服を開始したところKPは減少した.その後バルガンシクロビル内服を中止すると炎症が再燃し,内服を再開すると炎症が軽快する経過をくり返した.2度目の再燃時にも前房水のreal-timePCRにてCMV-DNA陽性を認めている〔HSV-DNA陰性,varicella-zostervirus(VZV)-DNA陰性,CMV-DNA:1.1×105コピー/100μl〕.本症例は前房水のreal-timePCRでのCMV陽性所見に加え,バルガンシクロビル内服にて炎症軽快し,内服中止にて炎症再燃を認めることよりCMVが角膜内皮炎の病態に関与していると考えることに十分な妥当性があると思われる.CMV角膜内皮炎の診断は分子生物学的検査結果に加え,抗CMV治療に対する反応も含めて考える必要があると思われる.Weexperiencedacaseofrecurrentcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitisafterpenetratingkerato-plasty,whichhadbeentreatedusingvalganciclovir.Thepatient,a55-year-oldmaleaectedwithsecondaryglau-comaduetouveitis,hadundergonecataractandglaucomasurgeryinbotheyes,resultinginbullouskeratopathyinhisrighteye,forwhichheunderwentpenetratingkeratoplastyatourclinic.At6monthspostsurgery,coin-likearrangedkeraticprecipitates(KP)wereobserved.Suspectingherpeticcornealendotheliitis,weadministeredoralvalacyclovir,withnonotableeect.SinceCMV-DNA(27copies/100μl)wasdetectedintheaqueoushumorsamplebyreal-timepolymerasechainreaction(PCR),oralvalganciclovirwasadministered,andKPdecreased.Thereafter,repeatedadministrationoforalvalganciclovircausedtheinammationtosubside,thecessationsubsequentlyinduc-inginammationrecurrence.Atthesecondrecurrence,CMV-DNA(1.1×105copies/100μl)wasdetectedintheaqueoushumorsamplebyreal-timePCR(herpessimplexvirus-DNAandvaricella-zostervirus-DNAwerenega-tive).Inthiscase,thereal-timePCRresult(CMV-DNApositiveintheaqueoushumor)andthechangeofclinicalndingsbroughtaboutbyvalganciclovir,properlysupportthenotionofCMV’srelationtothepathogenesisofcor-nealendotheliitis.Cornealendotheliitisshouldbediagnosedinconsiderationofanti-CMVtherapyresponse,aswellasofmolecularbiologyresult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):367370,2010〕Keywords:サイトメガロウイルス角膜内皮炎,バルガンシクロビル,ぶどう膜炎,水疱性角膜症,角膜移植.cytomegaloviruscornealendotheliitis,valganciclovir,uveitis,bullouskeratopathy,keratoplasty.———————————————————————-Page2368あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(90)はじめに角膜内皮炎は,角膜浮腫と浮腫領域に一致した角膜後面沈着物を特徴とする比較的新しい疾患単位である1).角膜内皮炎の原因の多くはウイルスと考えられており,herpessim-plexvirus(HSV)24),varicella-zostervirus(VZV)5,6),mumpsvirus7)が原因として知られているが,HSVをはじめ,これらのウイルスが実際に検出された報告は意外に少なく,他の原因があるのではないかと考えられてきた.ところが最近,免疫不全患者の網膜炎の原因ウイルスとして知られているサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)が角膜内皮炎の原因になるという報告が新たになされ812),注目を集めている.今回筆者らは,角膜移植術後にCMVによると考えられる角膜内皮炎を再発性に発症し,バルガンシクロビル内服に呼応して炎症の消長を認めた1例を経験したので報告する.I症例および所見症例:55歳,男性.現病歴:両眼ぶどう膜炎および続発緑内障に対して,1988年より治療中.右眼は,炎症の再燃をくり返すうちに2004年2月頃より水疱性角膜症を発症.2005年4月20日,右眼水疱性角膜症に対する角膜移植目的にて鳥取大学医学部附属病院(以下,当院)へ紹介となった.眼科手術歴:1988年両)trabeculotomy1989年左)trabeculotomy1994年左)trabeculectomy右)trabeculectomy+PEA+IOL1995年左)PEA+IOL,bleb再建術既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力:VD=0.04(矯正不能),VS=0.08(0.2×sph+2.0D(cyl1.25DAx110°).眼圧:RT=12mmHg,LT=5mmHg.角膜内皮:両)測定不能.前眼部所見:右)下方に周辺部虹彩前癒着,水疱性角膜症.左)広範囲に周辺部虹彩前癒着,周辺角膜に上皮浮腫.動的量的視野検査(Goldmann):右)湖崎分類I,左)湖崎分類IIIa.II治療経過2005年8月1日,右眼の全層角膜移植術を施行した.術後8日目に角膜後面沈着物(KP)の増加を認め,ステロイド内服を増量した.また,術中採取した前房水のreal-timepolymerasechainreaction(PCR)はHSV-DNA陰性であったが,ヘルペス感染による炎症の可能性も考えバラシクロビル塩酸塩(3,000mg/日)内服を行った.その後所見は軽快し,2005年8月26日退院となった.右眼矯正視力は0.7まで回復し,ベタメタゾン点眼(4回/日)・レボフロキサシン点眼(4回/日)を継続していた.角膜移植を行い約半年後の2006年2月2日に,右眼矯正視力が0.6と軽度低下し,KPの出現と球結膜充血の悪化を認めた.KPはコイン状に配列しており,前房に軽度の炎症細胞を認めた.角膜浮腫はごくわずかであった(図1).最初はヘルペス性角膜内皮炎を疑いバラシクロビル塩酸塩(3,000mg/日)内服を開始した.しかし5日後の2月7日,KP・充血ともに軽快を認めなかった.その後,2月2日に採取した前房水のreal-timePCRにてHSV-DNA陰性,CMV-DNA:27コピー/100μlという結果が判明し,2月14日よりバルガンシクロビル(900mg/日)内服を開始したところKPは減少し,3月14日には右眼視力矯正1.2まで回復し,3月29日にバルガンシクロビル内服を中止した.内服中止後,再び徐々にKPが増加し,バルガンシクロビル(900mg/日)内服を再開したところ,再び炎症は落ち着いた.前回のこともあり3カ月間内服を継続しab図1右眼前眼部写真(角膜移植半年後:2006年2月2日)a:充血とコイン状に配列するKP(矢印)を認める.b:KPの部位の拡大(矢印,点線丸).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010369(91)て中止とした.しかし内服中止後2カ月で,下方に再び角膜上皮浮腫を併発してきたため,2006年9月26日,バルガンシクロビル(900mg/日)内服を再開した.その後,9月26日に採取した前房水のreal-timePCRにてHSV-DNA陰性,VZV-DNA陰性であったが,CMV-DNAは1.1×105コピー/100μl検出という結果が判明した.これまでの経過中,ベタメタゾン点眼は終始使用していたが,このための免疫抑制がCMV角膜内皮炎の発症に関連している可能性も考え,ベタメタゾン点眼(4回/日)を,フルオロメトロン点眼(4回/日)に変更し,炎症の再燃を認めないことを十分確認後,バルガンシクロビル内服を3カ月半後に中止した.この経過中,角膜内皮細胞密度は1,394/mm2から550/mm2まで減少した.III考按CMV角膜内皮炎に関する論文はKoizumiらの報告後8),近年増加しており912),角膜の浮腫と,コイン状に配列するKPがその臨床的特徴として指摘されている.本症例は,この臨床的特徴と合致した所見を認めた.しかし,CMVは末梢血単球に潜伏感染しているため,CMVが病因となっていなくても炎症で白血球が病巣部にあれば検出される,すなわち,原因ではなく結果として検出されている可能性がある.特に本症例の場合,角膜移植後であるため,臨床的には非定型的とはいえ拒絶反応の可能性も否定できない.しかし,前房水のreal-timePCRでのCMV陽性所見に加え,抗CMV薬であるバルガンシクロビル内服にて炎症軽快し,内服中止にて炎症再燃を認めることより,CMVがその病態に関与していると考えることに十分な妥当性があると思われた.バルガンシクロビル内服期間と視力経過を図2にまとめたが,バルガンシクロビル内服後,炎症が軽快するのにあわせて視力が向上し,内服を中止し炎症が再燃すると視力が下がっていることがよくわかる.本症例の内皮炎発症のメカニズムについて考えてみた.CMV網膜炎の場合は,血流を介して網膜血管からCMVに感染した血球が供給されることが容易に理解されるが,角膜には血流はなく,どうやってCMVが内皮にやってきたのかということが問題になる.一つは,最初に移植後の拒絶反応が生じ,白血球が,ターゲットである角膜内皮細胞へ付着したという可能性が考えられる.そして拒絶反応を抑制するために使用したステロイド点眼による免疫抑制で,付着した白血球中のCMVが内皮細胞中で増殖し角膜内皮炎を発症したという考え方である.もう一つの可能性として,もともと既往としてあったぶどう膜炎,つまり虹彩や毛様体の炎症の原因がそもそもCMVであり,前房に多数の白血球が出現し,それが内皮炎に移行したという可能性が考えられる.内皮炎の報告がなされる以前よりCMVによって生じるぶどう膜炎の報告もあり13,14),その特徴として,片眼性前部ぶどう膜炎で眼圧上昇を伴っていることがあげられる1317).本症例では経過中に眼圧上昇は認めていないが,その報告例のなかには角膜浮腫を伴っていたり15),角膜内皮炎を合併している報告もあるため16),CMVによる角膜内皮炎とぶどう膜炎は一連の流れで起こっている可能性が十分考えられる.今回使用したバルガンシクロビルは抗CMV化学療法薬でガンシクロビルをプロドラッグ化した内服用製剤である.腸管および肝臓のエステラーゼにより速やかにガンシクロビルに変換され抗ウイルス作用を示す.点滴静注を行うガンシクロビルと異なり,本症例のように外来で経過をみていく患者で使用しやすい利点がある.眼科領域では,後天性免疫不全症候群(エイズ)患者におけるCMV網膜炎の治療に使用されており,その用法は,初期治療として1,800mg/日,3週間,維持療法として900mg/日を用いる.副作用としては白右眼視力0.10.20.40.81.0H17.9.8H18.2.7H18.2.14H18.3.29H18.4.27H18.5.9H18.8.1H18.8.29H18.9.26H18.10.3H19.1.16H19.3.20:バルガンシクロビル内服期間前房水:CMV-DNA(+)HSV-DNA(-)前房水:CMV-DNA(+)HSV-DNA(-)VZV-DNA(-)図2バルガンシクロビル内服期間と視力経過バルガンシクロビル内服後,炎症が軽快するのに合わせて視力が向上し,内服中止し炎症が再燃すると視力が下がる経過を示した.———————————————————————-Page4370あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(92)血球減少,汎血球減少,再生不良性貧血,骨髄抑制などがあげられる.CMV角膜内皮炎に対する抗CMV療法のルートや用法はまだ基準がなく,バルガンシクロビルを用いた報告もあまりない.当然その用法も定められていないが,本症例はCMV網膜炎に使用する用量を参考に決定した.また,その副作用を考えると,高齢者には使いづらい面があるが,本患者はもともと血球数がやや高値であったこともあり,重篤な副作用は認めなかった.本症例ではバルガンシクロビル内服を半年以上かけて使用しているが,定期的な血液検査を施行し副作用のチェックを行っている.また,文献的にもCMVぶどう膜炎の症例ではぶどう膜炎再発の予防には長期のバルガンシクロビル内服を要している症例もあり15,17),今回の症例でも内皮炎再燃による角膜内皮減少のリスクを考えると長期の内服は必要であったと考える.CMV角膜内皮炎に対してガンシクロビル点眼を使用する症例もあるが,組織移行性がはっきりわかっておらず,角膜障害をきたす可能性も否定できない.本症例はもともと角膜上皮がやや不整であるため,角膜障害をきたす可能性も考慮してガンシクロビル点眼は使用せず,バルガンシクロビル内服を用いた.なお本症例は,血液検査にて免疫状態に問題はなく,眼底にCMV網膜炎の所見は認めなかった.本症例は,経過中に2度の前房水real-timePCRを行っている.1回目に比較して2回目で逆にコピー数が増加しているが,これは1回目が外注(probe法)であり,2回目は当科で独自に立ち上げたサイバーグリーン法による結果で,両者をそのまま比較することはできない.この点はreal-timePCR法の現状での欠点であろう.また,real-timePCRは感度がよいが,CMVもHSVと同様に人体に潜伏感染していることから,逆にそれが病因でなくても検出される可能性がある.このため各施設で基準を定める必要性があると思われる.HSVの場合は上皮型で1×104コピー以上のHSV-DNAが検出された場合は病因と考えられるという結果が出ている18)が,CMVにおいては量的な評価の基準が示された報告はなく,今後の検討が必要である.今回,角膜移植術後にCMV角膜内皮炎を再発性に発症し,バルガンシクロビル内服が奏効した1例を経験した.角膜内皮炎の診断に前房水のreal-timePCRが有用であったが,CMV角膜内皮炎の診断はDNA検出に加え,治療への反応性も加味して考える必要があることを強調したい.また,CMV角膜内皮炎の発症機序は不明だが,局所的な免疫抑制(ステロイド点眼使用)が関与している可能性が推察され,ステロイドにて軽快しない内皮炎・ぶどう膜炎については,病因として,今後HSV・VZVなどのほかにCMVも念頭に置く必要があると考えられる.文献1)大橋裕一:角膜内皮炎.眼紀38:36-41,19872)大久保潔,岡崎茂夫,山中昭夫ほか:樹枝状角膜炎に進展したいわゆる角膜内皮炎の1例.眼臨83:47-50,19893)西田幸二,大橋裕一,眞鍋禮三ほか:前房水に単純ヘルペスウイルスDNAが証明された特発性角膜内皮炎患者の1症例.臨眼46:1195-1199,19924)ShenY-C,ChenY-C,LeeY-Fetal:Progressiveherpet-iclinearendotheliitis.Cornea26:365-367,20075)本倉眞代,大橋裕一:眼部帯状ヘルペスに続発したcornealendotheliitisの1例.臨眼44:220-221,19906)内尾英一,秦野寛,大野重昭ほか:角膜内皮炎の4例.あたらしい眼科8:1427-1433,19917)中川ひとみ,中川裕子,内田幸男:麻疹罹患後に生じた急性角膜実質浮腫の1例.臨眼43:390-391,19898)KoizumiN,YamasakiK,KinoshitaSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendothe-liitis.AmJOphthalmol141:564-565,20069)CheeS-P,BacsalK,JapAetal:Cornealendotheliitisassociatedwithevidenceofcytomegalovirusinfection.Ophthalmology114:798-803,200710)ShiraishiA,HaraY,OhashiYetal:Demonstrationof“Owl’seye”morphologybyconfocalmicroscopyinapatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendothe-liitis.AmJOphthalmol143:715-717,200711)SuzukiT,HaraY,OhashiYetal:DNAofcytomegalovi-rusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendotheliitisafterpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,200712)KoizumiN,SuzukiT,KinoshitaSetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmolo-gy115:292-297,200713)MietzH,AisenbreyS,KrieglsteinGKetal:Ganciclovirforthetreatmentofanterioruveitis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:905-909,200014)NikosN,ChristinaC,PanayotisZetal:Cytomegalovirusasacauseofanterioruveitiswithsectoralirisatrophy.Ophthalmology109:879-882,200215)SchryverID,RozenbergF,BodaghiBetal:Diagnosisandtreatmentofcytomegalovirusiridocyclitiswithoutretinalnecrosis.BrJOphthalmol90:852-855,200616)VanBoxtelLA,vanderLelijA,LosLIetal:Cytomega-lovirusasacauseofanterioruveitisinimmunocompetentpatients.Ophthalmology114:1358-1362,200717)CheeS-P,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcyto-megalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840,200818)Kakimaru-HasegawaA,MiyazakiD,InoueYetal:Clini-calapplicationofreal-timepolymerasechainreactionfordiagnosisofherpeticdiseasesoftheanteriorsegmentoftheeye.JpnJOphthalmol52:24-31,2008***

両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(105)1050910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):105108,2009cはじめに角膜内皮細胞は角膜の最内面に存在し,角膜の透明性維持に重要な役割を果たしている.ヒトの生体内では角膜内皮細胞は障害をうけてもほとんど増殖,再生しない.このため,内皮細胞の障害は細胞密度の減少に直結し,500cells/mm2以下では水疱性角膜症となり,高度の視力障害の原因となる.角膜内皮炎は1982年にKhodadoustらにより,原因不明に角膜内皮に特異的な炎症が生じ,角膜後面沈着物と同部位に角膜浮腫が出現する病態として初めて報告された1).病因として,単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)などのヘルペス群ウイルスの関与が考えられ,抗ヘルペスウイルス薬による治療が行われてきたが,治療への反応が乏しく水疱性角膜症となる症例も存在し,その原因は不明であった.サイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎は2006年にKoizumiらによって初めて報告2)された疾患である.CMV角膜内皮炎は角膜内皮炎のうち,抗ヘルペ〔別刷請求先〕細谷友雅:〒663-8131西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukaHosotani,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8131,JAPAN両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例細谷友雅*1神野早苗*1吉田史子*1小泉範子*2稲富勉*2三村治*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学ACaseofBilateralCytomegalovirusCornealEndotheliitisYukaHosotani1),SanaeKanno1),FumikoYoshida1),NorikoKoizumi2),TsutomuInatomi2)andOsamuMimura1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine症例は65歳,男性.両眼虹彩毛様体炎,右眼続発緑内障の既往があり,右眼の水疱性角膜症に対し全層角膜移植術および水晶体乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ(IOL)挿入術を施行した.術後4カ月目に右眼に輪状に集簇する多数の白色角膜後面沈着物を認めた.副腎皮質ステロイド薬を併用した抗ヘルペス治療を行ったが改善せず,左眼にも同様の角膜後面沈着物が出現した.Polymerasechainreaction(PCR)で両眼の前房水からサイトメガロウイルス(CMV)-DNAが検出され,共焦点生体顕微鏡では両眼の角膜内皮に“owl’seye”様所見が認められたため両眼性CMV角膜内皮炎と診断した.ガンシクロビル点滴および点眼投与により角膜後面沈着物は消退した.原因不明の水疱性角膜症に角膜移植術を行う際には角膜内皮炎の可能性を考え,術後に角膜内皮炎を生じたら前房水PCRによるウイルス検索を行う必要がある.CMV角膜内皮炎の過去の報告例は片眼性が多いが,両眼性の症例も存在すると考えられ,僚眼にも注意して経過観察を行う必要がある.A65-year-oldmalewhohadbeenreceivingtreatmentforbilateraliritisandsecondaryglaucomainhisrighteyeunderwentpenetratingkeratoplasty(PKP)withphacoemulsicationandintraocularlensimplantationforbullouskeratopathyintherighteye.Fourmonthsaftersurgery,whitish,coin-shapedkeraticprecipitates(KPs)wereobservedintherighteye.Despitesystemicanti-herpetictherapywithcorticosteroids,similarKPsappearedinthelefteye.Polymerasechainreaction(PCR)revealedcytomegalovirus(CMV)-DNAinthebilateralaqueoushumor,andconfocalmicroscopyrevealed“owl’seye”cellsinthebilateralcornealendothelialarea,leadingtoadiagnosisofbilateralCMVcornealendotheliitis.SystemictherapyandganciclovireyedropinstillationreducedtheKPs.WhenperformingPKPforbullouskeratopathyofunknownorigin,itisimportanttoconsiderthepossibilityofCMVcornealendotheliitis.Anyoccurrenceofpostoperativecornealendotheliitiswillnecessitateaqueous-humorPCR.AlthoughCMVcornealendotheliitisisusuallyunilateral,carefulobservationofthefelloweyeisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):105108,2009〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,ガンシクロビル,水疱性角膜症,生体レーザー共焦点顕微鏡.cytomegalovirus(CMV),cornealendotheliitis,ganciclovir,bullouskeratopathy,confocalmicroscopy.———————————————————————-Page2106あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(106)ス療法に反応せず,前房水からHSVやVZV-DNAは検出されず,CMV-DNAが検出されるものをいう.これまで18例のCMV角膜内皮炎の症例が報告されている25)が,片眼性の症例が多く,両眼性の症例は3例のみである.今回,両眼性CMV角膜内皮炎の1例を経験したので報告する.I症例患者:65歳,男性.主訴:右眼痛.現病歴:平成16年より近医にて両虹彩毛様体炎,右眼続発緑内障として加療されていた.右眼が水疱性角膜症となったため(図1),平成19年5月に兵庫医科大学病院において右眼全層角膜移植術および水晶体乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ(IOL)挿入術を施行した.術後4カ月目に右眼痛が出現.右眼に角膜後面沈着物を多数認めたため,精査加療目的に入院となった.既往歴:全身状態は良好で,免疫不全を認めない.入院時所見:視力は右眼0.4(0.9×sph+1.00D(cyl3.50DAx85°),左眼1.2p(矯正不能),眼圧は右眼16mmHg,左眼20mmHgであった.右眼角膜移植片の内皮に,輪状に集簇する多数の白色角膜後面沈着物(coinlesion)を認め(図2),前房内に56個/eldの細胞を伴っていた.宿主角膜組織の角膜後面沈着物の有無は不明であった.角膜浮腫は目立たなかった.びまん性虹彩萎縮を認めた.中心角膜厚は549μm,角膜内皮細胞密度は1,122cells/mm2であった.左眼は陳旧性色素性角膜後面沈着物を数個認めたが,前房内に細胞は認めなかった.中心角膜厚は630μm,角膜内皮細胞密度は1,869cells/mm2であった.中間透光体,眼底には特記すべき問題はなく,CMV網膜炎は認めなかった.経過:ヘルペス性角膜内皮炎と考え,副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)を併用したアシクロビル点滴5mg/図1右眼術前写真右眼矯正視力(0.08).水疱性角膜症となっている.角膜後面沈着物は認めなかった.図2入院時右眼前眼部写真右眼矯正視力(0.9).輪状に集簇する多数の白色角膜後面沈着物を認める(矢印,○内).ab3生体レーザー共焦点顕微鏡写真a:右眼,b:左眼.両眼の角膜内皮に“owl’seye”細胞が認められる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009107(107)kg,1日3回を行ったが改善せず,治療開始4日後より,左眼にも右眼と同様の輪状角膜後面沈着物が出現した.血液検査でCMV-IgG10.3(+)・IgM0.28(),HSV-IgG193(+)・IgM0.36()であり,CMVとHSVの既感染があると考えられた.CMV抗原血症(antigenemia)は陰性であった.生体レーザー共焦点顕微鏡で両眼の角膜内皮細胞領域に,CMV感染細胞に特徴的といわれる“owl’seye”細胞が観察された(図3).CMV角膜内皮炎を疑い前房水polyme-rsasechainreaction(PCR)3)を施行したところ(図4),両眼の前房水よりcuto値以上のCMV-DNAが検出され,臨床的意義があると考えられた.HSV,VZVは陰性であった.以上より,両眼性CMV角膜内皮炎と診断し,治療を開始した.0.5%ガンシクロビル点眼(自家調整)を両6/日で開始し,ガンシクロビル点滴5mg/kg,1日2回を14日間施行した.徐々に角膜後面沈着物は小さくなり,数も減少し,角膜内皮炎の活動性は低下したと考えられた(図5).点滴終了1カ月後,左眼のステロイド点眼を中止したところ,2週間後に左眼の眼圧が25mmHgと上昇し,角膜後面沈着物の増加を認めた.ステロイド点眼を再開したところ,左眼の眼圧は速やかに正常化した.右眼は経過良好で変化を認めなかった.発症から5カ月後,角膜内皮細胞密度は右眼783cells/mm2,左眼1,919cells/mm2であり,右眼に角膜内皮細胞数の減少を認めた.現在も通院加療中であり,ガンシクロビル点眼,ステロイド点眼を続行している.II考按CMV角膜内皮炎の特徴として,①輪状に集簇する白色角膜後面沈着物(coinlesion)を認める,②角膜浮腫は軽微なことが多い,③前房内炎症と眼圧上昇を伴うことが多い,④全身の免疫不全を認めない,⑤片眼性のことが多い,⑥血中CMV-IgGが陽性,IgMは陰性(既感染),⑦前房水PCRでCMV-DNAが検出されるがHSV,VZV-DNAは検出され図4前房水採取時の両前眼部写真a:右眼高倍率写真,b:左眼.右眼矯正視力(0.6),左眼視力1.2.両眼に輪状に集簇する白色角膜後面沈着物を認める(矢印,○内).ab図5ガンシクロビル投与後前眼部写真a:右眼,b:左眼.右眼矯正視力(1.0),左眼視力1.0.両眼とも,角膜後面沈着物は小さくなり,数も減少した.ab———————————————————————-Page4108あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(108)ない,⑧生体レーザー共焦点顕微鏡で“owl’seye”細胞が検出されることがある,⑨ガンシクロビルによる治療が有効である,などがあげられる.本症例でもこれらの特徴を満たしていたが,両眼性であった.これまでの報告のうち,Koizumiらの報告3)では,両眼性は8例中1例のみであり,Cheeらの報告4)でも両眼性は10例中2例のみである.しかし本症例のように両眼性の症例も存在するため,僚眼にも注意して経過観察を行う必要がある.CMVはDNAウイルスで,bヘルペスウイルスの一種である.乳幼児期に不顕性の初感染を起こしCD14陽性mono-cyte,骨髄のCD34/33陽性細胞などに潜伏感染するが,免疫不全状態になると再活性化し,網膜炎や肺炎,肝炎,脳炎などの原因となる6).日本人成人のCMV抗体保有率は90%以上と高く,本症例でもCMV-IgGのみが陽性であったことから既感染と考えられた.CMV角膜内皮炎の特徴は,免疫不全状態でなくても発症することであり,これが他のCMV感染症との大きな相違点である.何らかのきっかけで再活性化したCMVが房水を経由して角膜内皮に感染し,炎症を惹起するものと推測されるが,その発症機序についてはいまだ不明な点が多い.両眼性と片眼性の発症メカニズムや臨床所見の差についても不明であり,今後の検討が必要である.ガンシクロビルはウイルスDNA合成阻害薬であり,おもにCMV感染症に対して使用される7).血球減少症や腎機能障害の副作用があり,投与には注意を要する.CMVに対し高い選択毒性をもつが,ウイルス遺伝子が発現していなければ効果はない.CMVは潜伏感染している間はウイルス遺伝子を発現していないため,ガンシクロビルを投与してもCMVを宿主から完全に除去することはできない.このため,治療に際してはCMVを再度潜伏感染の状態にし,再活性化を起こさせない投与法の確立が必要である.今後,CMVを完全に体内から除去できる新薬の登場が望まれる.経過中,左眼はステロイド点眼の中止によって眼圧上昇と角膜後面沈着物の増加を認めた.炎症が再燃したためと考えられたが,この理由として,CMV角膜内皮炎はウイルス抗原に対する免疫反応と,ウイルスの増殖という感染症との両側面をもっているため,ウイルスを減少させるためにステロイドを中止したところ,ウイルス抗原に対する免疫反応が増大して,炎症が惹起されたのではないかと推察される.本症例には原因不明の虹彩毛様体炎と続発緑内障の既往があり,右眼の水疱性角膜症の原因疾患はCMV角膜内皮炎および虹彩毛様体炎であった可能性がある.原因不明の水疱性角膜症に角膜移植術を行う際には角膜内皮炎の可能性を考え,術後に角膜内皮炎を生じたら前房水PCRによるウイルス検索を行う必要がある.角膜内皮炎が遷延すると角膜内皮細胞数が減少し,水疱性角膜症となり高度の視力障害の原因となるため,速やかな病因の解明と治療が必要である.本症例では生体レーザー共焦点顕微鏡による観察で,Shiraishiらの報告8)と同様,CMV感染細胞に特徴的といわれる“owl’seye”細胞が観察された.生体レーザー共焦点顕微鏡による観察は侵襲が少なく,CMV角膜内皮炎の補助診断として有用であると考えられた.本稿の要旨は第32回角膜カンファランスにて発表した.文献1)KhodadoustAA,AttarzadehA:Presumedautoimmunecornealendotheliopathy.AmJOphthalmol93:718-722,19822)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendothe-liitis.AmJOphthalmol141:564-565,20063)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,20084)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Cornealendotheliitisassociatedwithevidenceofcytomegalovirusinfection.Ophthalmology114:798-803,20075)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendotheliitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20076)多屋馨子:サイトメガロウイルス感染症.日本臨牀65(増刊号2):136-140,20077)峰松俊夫:抗ヘルペスウイルス薬および抗サイトメガロウイルス薬.日本臨牀65(増刊号2):396-400,20078)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“owl’seye”morphologybyconfocalmicroscopyinapatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendothe-liitis.AmJOphthalmol143:715-717,2007***

蜂毒のみで水疱性角膜症と白内障をきたした症例

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1(127)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):549~552,2008?はじめに蜂による角膜外傷は過去多数報告されている1~7).スズメバチやアシナガバチ,ミツバチによる症例が多く,角膜に対する刺傷と刺傷からの蜂毒により種々の病態を発症する.蜂の種類や毒液量によって症状はさまざまで治療方法もステロイド療法のみで軽快した症例から,前房洗浄や角膜移植まで必要となった症例まで多岐にわたっている1~7).他報告では,アシナガバチによる蜂刺傷は予後良好な経過をたどり,スズメバチによる蜂刺傷は失明に至る例が多く予後不良である1~7).今回,筆者らは蜂による刺傷がないにもかかわらず,蜂毒の噴射のみによる水疱性角膜症と白内障を発症した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.〔別刷請求先〕高望美:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880番地獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-?????????????????-????????????-???????-???????????蜂毒のみで水疱性角膜症と白内障をきたした症例高望美*1千葉桂三*1菊池道晴*1妹尾正*1千種雄一*2*1獨協医科大学眼科学教室*2獨協医科大学熱帯病寄生虫センターCaseReportofVesicularKeratitisandCataractCasedbyBeeVenomwithoutStingNozomiKoh1),KeizoChiba1),MichiharuKikuchi1),TadashiSenoo1)andYuichiChigusa2)?)??????????????????????????????)?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????今回,筆者らは蜂の刺傷を受けていないにもかかわらず,蜂毒自体によって水疱性角膜症と白内障を発症した1症例を経験したので報告する.症例は72歳,男性.スズメバチが眼前数cmを通り抜けたと同時に毒を散布され霧視,視力低下が出現.当日に近医眼科受診.角膜浮腫と結膜充血,眼瞼浮腫を認めたために0.1%フルオロメトロン点眼,レボフロキサシン点眼,1%硫酸アトロピン点眼がすぐに開始され,受傷4日後よりプレドニゾロンの内服とデキサメタゾンの結膜下注射が開始となる.前房洗浄を勧めるも患者がこれを希望しなかった.症状の改善を認めないために受傷より10日目に当院眼科に紹介受診となる.水疱性角膜症と白内障,虹彩萎縮を認めた.当院でも前房洗浄を勧めたが患者が希望しなかった.当院は遠方で通院が困難であったため,近医にて経過観察となった.その後,改善を認めなかったために再度当院紹介受診となり,角膜全層移植・水晶体再建術の同時手術を施行した.術後,角膜は透明性を維持していて経過は良好である.蜂による刺創がないにもかかわらず,蜂毒のみの影響で水胞性角膜症と白内障を発症したケースは報告がなく非常に珍しいと考えられる.Wereportacaseofvesicularkeratitisandcataractcausedbybeevenomwithoutasting.Theeyesofa72-year-oldmaleweresprayedwithvenombyalargehornet?yingonlyafewcentimeters?distancefromtheman?sface.Themanexperiencedimmediatevisualimpairmentandvisitedanearbyophthalomologist.Examinationdisclosedcornealswelling,conjunctivalinjectionandpalpebraledema.Treatmentwasimmediatelyinitiatedwith0.1%?uorometholone,levo?oxacinand1%atropinesulfateeyelotion.Withoutimprovementinthecondition,perosprednisoloneandsubconjunctivalinjectionofdexamethasonwereinitiatedfromDay4.Anteriorchamberwash-outwasrecommendedaswell,butwasrefusedbythepatient.Theconditioncontinuedtodeteriorate;twomonthsafteronset,thepatientwasreferredtoourhospital.Examinationatthatpointdemonstratedvesicularker-atitis,cataractandirisatrophy.Keratoplastyandlensplastywereperformedsimultaneously;thepatientrecov-eredwell,withoutimmunologicalreaction.Thecornearemainedclear.Thisrarecaseshowsthatbeevenomtotheeyecancauseserioussymptomswithoutasting,andthattypeofthebeeandthedepthofthevenomin?ltrationmaybemajordeterminantoftheprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):549~552,2008〕Keywords:蜂毒,スズメバチ,水疱性角膜症,白内障.beevenom,vespid,bullouskeratopathy,cataract.———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(129)襲われるケースが多い.本症例も巣に気がつかずにスズメバチに遭遇し受傷したものと思われた.受傷状況や,蜂の標本などで蜂の種類を同定できたことは予後や治療方針を決定するうえで重要であったと思われる.蜂毒の成分はマムシ毒,ハブ毒に並ぶ致死毒といわれており,特にスズメバチの毒性は強いことで知られている8~10).蜂毒に含まれるホスホリパーゼは激しい全身症状やアナフィラキシーショックをひき起こす.また,ホスホリパーゼ以外にも激痛誘引物質,神経毒,溶血毒や数々の内因性ペプチドが蜂毒には含まれている.特にスズメバチの毒は他の蜂毒と比べ内因性ペプチドの含有率,毒の絶対量が多いために毒性が強いといわれている10).このために蜂刺症は種々の症状を呈しやすく難治性の症候を示す.スズメバチによる眼外傷の予後は他の蜂より悪く,過去の報告では最終視力は0.2以下が大多数であった1~3).西山らの報告によると,アシナガバチによる角膜蜂刺症9例中8例が最終視力0.8以上であったのに対し,スズメバチによる角膜蜂刺症で8例中4例が光覚なしとなり,残りの4例は最終視力が0.1以下と報告している2).オオスズメバチの毒針の長さは7mmにもなり9),角膜を貫通しうるため眼内に毒素が混入しやすく,さまざまな内因性ペプチドが前房内に入ることにより重篤な眼内症状をひき起こすと推測される.今回筆者らが経験した症例は蜂針の刺創がなく,毒素が眼内深部まで到達しなかったことが,術後予後を好転させた原因と考える.全層角膜移植後の平均的な角膜内皮細胞減少は,術後2カ月目までは約25%(年率150%)であり,この2カ月の期間の変化の主因は,角膜ドナーの保存状態,手術の際の直接損在はレボフロキサシン点眼,リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼およびヒアルロン酸ナトリウム点眼を使用し経過観察中である.II考按角膜蜂外傷は,刺傷と蜂毒により角膜浮腫や水疱性角膜症,ぶどう膜炎,虹彩萎縮,白内障などを生じることが多数報告されている1~7).スズメバチによる刺蜂症は予後が最も悪く,失明または重度の視力障害に陥っており,特に蜂針が前房内にまで達すると網膜?離1)や全眼球炎2)を起こす可能性がある.筆者らの症例はスズメバチによる眼外傷であったが,最終視力予後は良好であった.これはスズメバチに刺されたわけではなく,蜂毒のみにより発症したからと考えられる.蜂の個体数がピークに達する9~10月は蜂の警戒心も強くなり被害数も多くなる8).危害を加えていないのに突然攻撃をしてくるのはスズメバチ科(Vespidae)に特有の習性である.オオスズメバチは土の中に巣を作るため,気づかずに図4術後17日目の細隙灯検査図5術後2カ月目の細隙灯検査上皮障害もなく透明性を維持している.図6術後視力と角膜内皮細胞数の変化0.20.30.40.50.60.70.80.9術後視力角膜内皮細胞数(個/mm2)1カ月:視力:角膜内皮細胞数———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(130)度の確認が重要と考える.しかし地方によっては蜂をまとめて「くまんばち」とよぶ地域もあり,蜂の種類を正確に把握するのは困難なこともあるので蜂の大きさや体の特徴など,患者からの細かい問診も角膜蜂刺症の診断,治療において重要であると考えられる.今回筆者らが経験した症例は,蜂に眼を刺されてはおらず,スズメバチの毒素が眼内深部までほとんど到達しなかったことが予後の良かった原因と考えるが,逆に言えば毒素の噴射のみでも角結膜を通して毒素が眼内に到達し虹彩萎縮や眼内炎が生じたと考えられ,たとえ刺し傷がなくとも十分に注意が必要と考える.文献1)前田政徳,国吉一樹,入船元裕ほか:蜂による眼外傷の2例.眼紀52:514-518,20012)西山敬三,戸塚清一:スズメバチによる角膜刺症.眼紀35:1486-1494,19843)三木淳司,阿部達也,白鳥敦ほか:スズメバチによる角膜刺症の1例.眼紀45:1063-1066,19944)岩見達也,西田保裕,村田豊隆ほか:角膜蜂刺症の2症例.あたらしい眼科20:1293-1295,20035)南伸也,山口昌彦,森田真一ほか:特異な経過をたどったアシナガバチによる角膜刺症の1例.眼臨97:961-964,20036)中島直子,塚本秀利,平山倫子ほか:前房洗浄を行わずに治癒したアシナガバチによる角膜刺症の2例.広島医学57:887-889,20047)米山高仁,竹田美奈子:視力回復が得られたスズメバチ角膜刺症の1例.眼紀36:705-707,19948)梅谷献二:原色図鑑野外の毒虫と不快な虫.全国農村教育協会9)小野正人:スズメバチの科学(本間喜一郎編),海遊舎,199810)白井祥平:沖縄有毒害生物大事典.新星図書出版,198211)坪田一男,島?潤ほか:角膜移植ガイダンス適応から術後管理まで.南江堂,2002傷による細胞脱落で,細胞数の減少に加え細胞の大小不同,六角形細胞率の減少もこの時期に起こるとされている.術後2年では約41%(術後2カ月から2年の間は年率20%)の減少率である.この期間の主因は手術創の修復による影響が多いとされている11).また,術後炎症が遷延した場合はこの期間の減少率が大きいとされている.その後2年以上経過すると,減少率は手術直後の侵襲や創の修復による影響が低下するため,減少率は術後から約65%(年率7.3%程度)となる.さらに5年から20年で術後から73%(年率1.3%)となる.移植片内皮は手術原疾患にも左右され,ホスト内皮が少なければグラフト内皮はホスト側へ移動し,グラフト内皮は減少するとされている.水疱性角膜症がその例であり,逆が円錐角膜である.円錐角膜の術後スペキュラーマイクロスコープ像は早期に安定し経過が良いが,水疱性角膜症では減少率が大きくパラメータが安定するのも遅いといわれている11).本症例をこれらの減少率で計算し比較してみたところ,角膜内皮術前からの減少率は,術後2カ月で約62%,術後2年で約75%であった.前述した平均的な減少率より本症例の減少率のほうが高く,移植後も毒素の影響が残っていた可能性と,原疾患であるスズメバチ毒素による細胞障害が相加的に働いた可能性の2つが考えられる.患者は前房洗浄を希望せず長期的に前房内が蜂毒に曝露されたことにより広範囲かつ高率に内皮細胞が減少し,ホスト角膜へのドナー内皮の遊走が大きかったと推察される.スズメバチによる角膜蜂刺症治療は受傷後早期前房洗浄による毒液の除去が重要とされている2,3,7).今回の症例では,患者の了解が得られなかったために早期前房洗浄を行うことができなかったが,刺傷がなく,蜂毒による障害部位が前眼部に限局していたため,最終的に視力の改善を得ることができたと考える.また蜂毒を噴霧されたことを考慮すると,一種の角膜化学傷とも考えられ,今後このような症例に遭遇した場合,大量の食塩水などで洗眼する方法も一法と考える.角膜蜂刺症の治療には蜂の種類の同定と毒液の量,針の深