《原著》あたらしい眼科42(6):771.776,2025c球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行った1例村田直矢*1河嶋瑠美*1松下賢治*1岡崎智之*1藤野貴啓*1臼井審一*1西田幸二*1,2*1大阪大学医学部医学系研究科脳神経感覚器外科学講座(眼科学)*2大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門CACaseofSurgicalTreatmentforSecondaryAngle-ClosureGlaucomaAssociatedwithMicrospherophakiaNaoyaMurata1),RumiKawashima1),KenjiMatsushita1),TomoyukiOkazaki1),TakahiroFujino1),ShinichiUsui1)CandKohjiNishida1,2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)IntegratedFrontierResearchforMedicalScienceDivision,InstituteforOpenandTransdisciplinaryResearchInitiatives,OsakaUniversityC目的:球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行ったC1例を報告する.症例:24歳,男性.X年C5月に視力低下を自覚し,両眼の高眼圧症を指摘され大阪大学医学部附属病院を受診した.視力は右眼(0.7C×sphC.17.0(cyl.1.50DAx140°),左眼(0.07C×sph.16.5(cyl.2.00Ax55°),眼圧は両眼28mmHgであった.両眼浅前房で,右眼はC75%,左眼はC90%の周辺虹彩前癒着があり,両眼ともに中心に及ぶ進行した緑内障性視野障害を認めた.前眼部光干渉断層計で球状の水晶体を認め,球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障と診断した.閉塞隅角眼のため,根本治療として水晶体再建術を施行した.術後C5剤の緑内障点眼で眼圧は下降していたが,左眼の眼圧変動が大きくなり,視野障害の進行もあったため,X+2年C10月に隅角癒着解離術および線維柱帯切開術を追加した.その後の経過は良好である.結論:球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障に水晶体再建術は有効であったが,周辺虹彩前癒着の強い患者などでは追加の緑内障手術が必要になる.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsurgicalCtreatmentCforsecondaryCangle-closureCglaucoma(SACG)associatedCwithmicrospherophakia(MSP)C.CCase:AC24-year-oldCmaleCpresentedCwithCvisionClossCinCbothCeyes.CHisCbest-cor-rectedCvisualCacuitywas(0.7C×sph.17.0)inCtheCrightCeyeand(0.07C×sph.16.5)inCtheCleft.CIntraocularCpressure(IOP)was28CmmHginbotheyes.Hehad75%peripheralanteriorsynechia(PAS)intherighteyeand90%PASinthelefteye,indicatinglate-stageglaucoma.Anteriorsegment-opticalcoherencetomographyshowedasphericallens.CWeCdiagnosedCMSPCandCSACG,CandCperformedClensCaspirationCandCposteriorCchamberCintraocularlens(PCIOL)implantation.Postsurgery,therewassigni.cantIOP.uctuationinhislefteyeandprogressioninthevisual.eld,sogoniosynechialysisandtrabeculotomywasperformed.Postsurgery,IOPstabilized,andtherewasnovisual.eldCprogression.CConclusion:LensCaspirationCandCPCCIOLCimplantationCe.ectivelyCtreatedCSACGCassociatedCwithCMSP,however,additionalglaucomasurgerymayberequiredinsomecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(6):771.776,C2025〕Keywords:球状水晶体,続発閉塞隅角緑内障,水晶体再建術,隅角癒着解離術,線維柱帯切開術.microsphero-phakia,secondaryangleclosureglaucoma,lensaspiration,goniosynechialysis,trabeculotomy.Cはじめに赤道径が小さく,前後径が大きいため,その名のとおり球状球状水晶体は非常にまれな両眼性の先天異常で,水晶体のを呈する1).胎生期の水晶体血管膜の栄養障害により,第二次〔別刷請求先〕河嶋瑠美:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-15大阪大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:RumiKawashima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita-shi,Osaka565-0871,JAPANC図1術前の前眼部写真およびAS-OCT両眼ともに浅前房,閉塞隅角で球状の水晶体を認める.水晶体線維の発達が障害されることが原因で生じると考えられており1),その病因遺伝子としてFBN12),ADAMTS103),CADAMTS173),LTBP24)がこれまで報告されている.球状水晶体はその前後径が大きいため,形状そのものにより浅前房化や隅角の狭小化をきたすが,Zinn小帯が脆弱かつ無緊張であるため,水晶体の前方偏位や亜脱臼といった水晶体位置異常も生じやすい.これらの水晶体因子に伴う瞳孔ブロックや慢性的な隅角癒着による閉塞隅角,先天的な隅角異常などによって緑内障を高率に合併することから,球状水晶体眼では緑内障がもっとも一般的な失明原因である5).今回,球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障と診断し,手術加療を行った症例を経験したので報告する.CI症例患者:24歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:兄は近視.両親は不詳.現病歴:もともとソフトコンタクトレンズで近視を矯正していたが,X-6年ほど前から両眼の著明な近視進行があった.X年C5月に視力低下を自覚し,近医を受診したところ,両眼の高眼圧症を指摘され,精査加療目的で大阪大学医学部附属病院眼科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼(0.7C×sph.17.0(cyl.1.50DCAx140°),左眼(0.07C×sph.16.5D(cyl.2.00Ax55°)と強度近視であった.眼軸長は右眼C25.04mm,左眼C24.88mmと中等度の長眼軸であり,眼軸長では屈折度数が説明できず,屈折性の強度近視であった.眼圧は右眼C28CmmHg,左眼C28mmHgに上昇しており,両眼ともに浅前房で,Scheimp.ug式角膜形状解析装置(Pentacam,ニコン)で両眼の中心前房深度はC0.96Cmmであった.隅角はCSha.er分類でCgrade1と閉塞隅角であり,右眼はC75%,左眼はC90%の周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)を認めた.前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoher-encetomography:AS-OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)では浅前房,閉塞隅角に加えて,水晶体厚(右眼C4.34Cmm,左眼C5.18Cmm)に比して赤道径が小さい球状の水晶体が観察された(図1).眼底検査では両眼の視神経乳頭陥凹は同心円状に拡大し,垂直CC/D比はC0.9になっており,強度近視に特徴的な網脈絡膜の萎縮性変化はみられなかった(図2a).後眼部COCTでは黄斑部全体で網膜神経節細胞複合体の菲薄化がみられた(図2b).波面収差解析では角膜屈折力は正常で,水晶体由来の高次収差を認めた(図2c).角膜内皮細胞密度は右眼C1,842.6個/mmC2,左眼C1,813.1個/Cmm2に減少していた.Goldmann動的視野検査では,湖崎分類で右眼はCIII-a期,左眼はCIII-b期(図2d),Humphrey静的視野検査のC10-2CSITAstandardではCMD値が右眼C.31.8CdB,左眼C.33.5CdBであり,両眼ともに中心に及ぶ進ab右眼左眼右眼左眼d左眼右眼e左眼右眼図2初診時検査所見a:広角眼底写真.両眼の視神経乳頭陥凹が同心円状に拡大している.網脈絡膜の萎縮性変化はみられない.Cb:光干渉断層計.黄斑部全体で網膜神経節細胞複合体が菲薄化している.c:波面収差解析.角膜屈折力は正常で,水晶体由来の高次収差を認める.d:Goldmann動的視野検査湖崎分類で右眼はCIII-a期,左眼はCIII-b期の視野障害を認める.Ce:Humphrey静的視野検査(10-2CSITAStandard).MD値は右眼.31.8dB,左眼C.33.5CdBであり,中心窩閾値は右眼C22dB,左眼C23CdBに低下していた.30眼圧(mmHg)2520151050X年5月X年11月X+1年5月X+1年11月X+2年5月X+2年11月X+3年5月図3術後眼圧経過X年C6月に両眼の水晶体再建術,X+2年C10月に左眼の隅角癒着解離術および線維柱帯切開術を施行した.そののち,両眼圧はC10CmmHg台半ばで推移している.行した緑内障性視野障害を認めた.これにより,中心窩閾値は右眼C22CdB,左眼C23CdBに低下していた(図2e).これらの所見から,両眼の球状水晶体と,それに続発した慢性閉塞隅角緑内障と診断した.なお,血液検査では腎機能を含め異常所見を認めなかったが,心電図検査ではCQT短縮があり,心臓超音波検査で大動脈弁逆流症を認め,なんらかの全身疾患との関連が示唆された.経過:まずC5剤の緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩,ブリンゾラミド,リパスジル塩酸塩水和物)で加療を開始し,両眼眼圧C19mmHgに下降したが,広範囲なCPASを伴う閉塞隅角眼であるため,根本治療としてCX年C6月に両眼の水晶体再建術を施行した.Zinn小帯が脆弱であったため,水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)を併用したうえで眼内レンズを.内に挿入し,手術を終了した.術後経過:術翌日から緑内障点眼を再開し,5剤の点眼(ラタノプロスト,ドルゾラミド,チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物)で両眼とも眼圧C10CmmHg前後に下降した.術後の矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.4)と向上し経過をみていたが,X+2年10月に左眼の眼圧変動が大きくなり,視野障害の進行もあったため,隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)と線維柱帯切開術を追加した.その後もC5剤の緑内障点眼を必要としているが,10CmmHg台半ばの眼圧でコントロールできており(図3),視野障害の進行もなく経過している.また,眼内レンズの動揺をわずかに認めるものの,大きな偏位は生じていない(図4).II考按球状水晶体は,浅前房,強度近視,閉塞隅角緑内障を臨床的な特徴とする非常にまれな先天異常である1).水晶体由来の屈折力により強度近視を呈するが,軸性近視ではないため強度近視眼に特徴的な網脈絡膜の萎縮性変化はみられない.本症例のように若年の強度近視眼で脈絡膜萎縮がなく,浅前房,閉塞隅角の場合は球状水晶体を鑑別にあげる必要がある.散瞳径が大きい場合は細隙灯顕微鏡で水晶体を赤道部まで観察できるが,散瞳不良例などではCAS-OCTが診断の補助に有用である.球状水晶体はCZinn小帯が脆弱であるため,水晶体の前方偏位が生じやすく,44%の症例で水晶体亜脱臼が生じると報告されており6),それにより角膜内皮細胞密度の減少や角膜内皮機能不全を起こすこともある7).本症例もCZinn小帯が脆弱で角膜内皮細胞密度も減少しており,水晶体の前方偏位が繰り返し起こっていた可能性がある.球状水晶体は水晶体の形状や前方偏位,亜脱臼などの水晶体因子に伴う瞳孔ブロックや慢性的な隅角癒着によって隅角閉塞をきたしやすく,球状水晶体の約C50%に閉塞隅角緑内障を合併するとの報告もある5).球状水晶体に伴う閉塞隅角緑内障の発症年齢は若年であることが多く,早期診断が重要である.早期であれば緑内障点眼やレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI),周辺虹彩切除術(peripheralCiridectomy:PI)で加療できることもあるが8),LI後に追加の薬物治療や手術加療を必要としなかった症例はC12.5%であり,慢性的な隅角閉塞や隅角の発達異常を伴う場合はCLIの効果は限定的だとする報告や5),球状水晶体はその赤道径が短いため,LIやCPIによ右眼左眼図4術後約3年(X+3年5月)の前眼部写真およびAS-OCT眼内レンズの傾斜や偏心はなく,前房深度も大きくなっている.表1球状水晶体を合併する全身疾患疾患名眼症状全身症状Weill-Marchesani症候群球状水晶体,水晶体脱臼低身長,短指趾,短肢,関節拘縮,心血管異常Marfan症候群球状水晶体,水晶体脱臼青色強膜,巨大角膜,虹彩低形成高身長,側弯,大動脈瘤,大動脈解離,自然気胸Alport症候群球状水晶体,白内障,円錐水晶体慢性腎炎,難聴平滑筋腫本症例はCWeil-Marchesaniの特徴にもっとも一致する.り硝子体が前房内に脱出してしまうという報告もある9).また,ピロカルピン点眼薬はCZinn小帯をさらに弛緩させ,水晶体の前方移動や瞳孔ブロックを促進してしまうため禁忌となる10).Senthilらによると,球状水晶体に続発した緑内障において,点眼のみで眼圧のコントロールが良好であった症例は18%であり,多くの症例で外科的治療(水晶体摘出術,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術,経強膜毛様体光凝固術,緑内障インプラント挿入術)が必要であった5).水晶体摘出術は異常な水晶体を取り除くことができるため,球状水晶体の手術加療において重要な位置を占めるが7),Raoらは,水晶体摘出術により術後C1年でC69%,5年でC51%の症例が緑内障点眼なしで眼圧コントロールができ,40%が緑内障点眼を,7.7%のみが追加の緑内障手術を必要としたと報告している11).水晶体摘出術のみで眼圧下降しない場合のリスクファクターとして若年,術前の高眼圧,使用している緑内障点眼数,視神経乳頭陥凹拡大の程度があげられた.術前の隅角閉塞の有無は関連がないとされていたが,全周にCPASを生じた球状水晶体に続発した緑内障に対して,水晶体再建術にCGSLを併施して良好な結果が得られた報告もあり9),本症例のようにCPASの程度が強い症例では,初回の水晶体再建術の際にCGSLを併用することで,その後の追加の緑内障手術を避けることができた可能性がある.しかし水晶体再建術の際には,水晶体.が小さく,Zinn小帯が脆弱かつ無緊張なため,CTRを併用しても眼内レンズを.内に挿入することは困難であり,眼内レンズ強膜内固定術が施行されることもある12).本症例も術後に眼内レンズの動揺を認めており,今後は眼内レンズ強膜内固定術が必要になる可能性がある.球状水晶体は孤発性のこともあるが,Weill-Marchesani症候群,Marfan症候群,Alport症候群などの全身疾患に関連して起こることがある(表1)1,3).本症例は身長がC163Ccmと高身長ではなく,腎機能は正常で,心血管異常があることからCWeill-Marchesani症候群の可能性も考えられたが,遺伝子検査は施行しておらず,確定診断には至っていない.CIII結論球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障に水晶体再建術は有効であったが,PASなどの隅角異常が生じている眼では追加の緑内障手術が必要になることもある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChanCRT,CCollinHB:Microspherophakia.CClinExpOptomC85:294-299,C20022)MegarbaneCA,CMustaphaCM,CBleikCJCetal:ExclusionCofCchromosomeC15q21.1CinCautosomal-recessiveCWeill-MarchesanisyndromeinaninbredLebanesefamily.ClinGenetC58:473-478,C20003)MoralesCJ,CAl-SharifCL,CKhalilCDSCetal:HomozygousCmutationsinADAMTS10andADAMTS17causelenticu-larCmyopia,CectopiaClentis,Cglaucoma,Cspherophakia,CandCshortstature.AmJHumGenetC85:558-568,C20094)KumarCA,CDuvvariCMR,CPrabhakaranCVCCetal:AChomo-zygousCmutationCinCLTBP2CcausesCisolatedCmicrosphero-phakia.HumGenetC128:365-371,C20105)SenthilCS,CRaoCHL,CHoangCNTCetal:GlaucomaCinCmicro-spherophakia:presentingCfeaturesCandCtreatmentCout-comes.JGlaucomaC23:262-267,C20146)MuralidharCR,CAnkushCK,CVijayalakshmiCPCetal:VisualCoutcomeCandCincidenceCofCglaucomaCinCpatientsCwithmicrospherophakia.Eye(Lond)C29:350-355,C20157)GuoCH,CWuCX,CCaiCKCetal:Weill-MarchesaniCsyndromeCwithadvancedglaucomaandcornealendothelialdysfunc-tion:aCcaseCreportCandCliteratureCreview.CBMCCOphthal-molC15:3,C20158)GilbertAL,ThanosA,PinedaR:Persistentblurryvisionafteraroutineeyeexamination.JAMAOphthalmolC134:C1065-1066,C20169)KanamoriA,NakamuraM,MatsuiNetal:Goniosynechi-alysiswithlensaspirationandposteriorchamberintraoc-ularClensCimplantationCforCglaucomaCinCspherophakia.CJCataractRefractSurgC30:513-516,C200410)KhokharCS,CPangteyCMS,CSonyCPCetal:Phacoemulsi-.cationinacaseofmicrospherophakia.JCataractRefractSurgC29:845-847,C200311)RaoCDP,CJohnCPJ,CAliCMHCetal:OutcomesCofClensectomyCandriskfactorsforfailureinspherophakiceyeswithsec-ondaryglaucoma.BrJOphthalmolC102:790-795,C201812)YangJ,FanQ,ChenJetal:Thee.cacyoflensremovalplusCIOLCimplantationCforCtheCtreatmentCofCspherophakiaCwithCsecondaryCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC100:1087-1092,C2016C***