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球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行った1例

2025年6月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(6):771.776,2025c球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行った1例村田直矢*1河嶋瑠美*1松下賢治*1岡崎智之*1藤野貴啓*1臼井審一*1西田幸二*1,2*1大阪大学医学部医学系研究科脳神経感覚器外科学講座(眼科学)*2大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門CACaseofSurgicalTreatmentforSecondaryAngle-ClosureGlaucomaAssociatedwithMicrospherophakiaNaoyaMurata1),RumiKawashima1),KenjiMatsushita1),TomoyukiOkazaki1),TakahiroFujino1),ShinichiUsui1)CandKohjiNishida1,2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)IntegratedFrontierResearchforMedicalScienceDivision,InstituteforOpenandTransdisciplinaryResearchInitiatives,OsakaUniversityC目的:球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行ったC1例を報告する.症例:24歳,男性.X年C5月に視力低下を自覚し,両眼の高眼圧症を指摘され大阪大学医学部附属病院を受診した.視力は右眼(0.7C×sphC.17.0(cyl.1.50DAx140°),左眼(0.07C×sph.16.5(cyl.2.00Ax55°),眼圧は両眼28mmHgであった.両眼浅前房で,右眼はC75%,左眼はC90%の周辺虹彩前癒着があり,両眼ともに中心に及ぶ進行した緑内障性視野障害を認めた.前眼部光干渉断層計で球状の水晶体を認め,球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障と診断した.閉塞隅角眼のため,根本治療として水晶体再建術を施行した.術後C5剤の緑内障点眼で眼圧は下降していたが,左眼の眼圧変動が大きくなり,視野障害の進行もあったため,X+2年C10月に隅角癒着解離術および線維柱帯切開術を追加した.その後の経過は良好である.結論:球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障に水晶体再建術は有効であったが,周辺虹彩前癒着の強い患者などでは追加の緑内障手術が必要になる.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsurgicalCtreatmentCforsecondaryCangle-closureCglaucoma(SACG)associatedCwithmicrospherophakia(MSP)C.CCase:AC24-year-oldCmaleCpresentedCwithCvisionClossCinCbothCeyes.CHisCbest-cor-rectedCvisualCacuitywas(0.7C×sph.17.0)inCtheCrightCeyeand(0.07C×sph.16.5)inCtheCleft.CIntraocularCpressure(IOP)was28CmmHginbotheyes.Hehad75%peripheralanteriorsynechia(PAS)intherighteyeand90%PASinthelefteye,indicatinglate-stageglaucoma.Anteriorsegment-opticalcoherencetomographyshowedasphericallens.CWeCdiagnosedCMSPCandCSACG,CandCperformedClensCaspirationCandCposteriorCchamberCintraocularlens(PCIOL)implantation.Postsurgery,therewassigni.cantIOP.uctuationinhislefteyeandprogressioninthevisual.eld,sogoniosynechialysisandtrabeculotomywasperformed.Postsurgery,IOPstabilized,andtherewasnovisual.eldCprogression.CConclusion:LensCaspirationCandCPCCIOLCimplantationCe.ectivelyCtreatedCSACGCassociatedCwithCMSP,however,additionalglaucomasurgerymayberequiredinsomecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(6):771.776,C2025〕Keywords:球状水晶体,続発閉塞隅角緑内障,水晶体再建術,隅角癒着解離術,線維柱帯切開術.microsphero-phakia,secondaryangleclosureglaucoma,lensaspiration,goniosynechialysis,trabeculotomy.Cはじめに赤道径が小さく,前後径が大きいため,その名のとおり球状球状水晶体は非常にまれな両眼性の先天異常で,水晶体のを呈する1).胎生期の水晶体血管膜の栄養障害により,第二次〔別刷請求先〕河嶋瑠美:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-15大阪大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:RumiKawashima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita-shi,Osaka565-0871,JAPANC図1術前の前眼部写真およびAS-OCT両眼ともに浅前房,閉塞隅角で球状の水晶体を認める.水晶体線維の発達が障害されることが原因で生じると考えられており1),その病因遺伝子としてFBN12),ADAMTS103),CADAMTS173),LTBP24)がこれまで報告されている.球状水晶体はその前後径が大きいため,形状そのものにより浅前房化や隅角の狭小化をきたすが,Zinn小帯が脆弱かつ無緊張であるため,水晶体の前方偏位や亜脱臼といった水晶体位置異常も生じやすい.これらの水晶体因子に伴う瞳孔ブロックや慢性的な隅角癒着による閉塞隅角,先天的な隅角異常などによって緑内障を高率に合併することから,球状水晶体眼では緑内障がもっとも一般的な失明原因である5).今回,球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障と診断し,手術加療を行った症例を経験したので報告する.CI症例患者:24歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:兄は近視.両親は不詳.現病歴:もともとソフトコンタクトレンズで近視を矯正していたが,X-6年ほど前から両眼の著明な近視進行があった.X年C5月に視力低下を自覚し,近医を受診したところ,両眼の高眼圧症を指摘され,精査加療目的で大阪大学医学部附属病院眼科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼(0.7C×sph.17.0(cyl.1.50DCAx140°),左眼(0.07C×sph.16.5D(cyl.2.00Ax55°)と強度近視であった.眼軸長は右眼C25.04mm,左眼C24.88mmと中等度の長眼軸であり,眼軸長では屈折度数が説明できず,屈折性の強度近視であった.眼圧は右眼C28CmmHg,左眼C28mmHgに上昇しており,両眼ともに浅前房で,Scheimp.ug式角膜形状解析装置(Pentacam,ニコン)で両眼の中心前房深度はC0.96Cmmであった.隅角はCSha.er分類でCgrade1と閉塞隅角であり,右眼はC75%,左眼はC90%の周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)を認めた.前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoher-encetomography:AS-OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)では浅前房,閉塞隅角に加えて,水晶体厚(右眼C4.34Cmm,左眼C5.18Cmm)に比して赤道径が小さい球状の水晶体が観察された(図1).眼底検査では両眼の視神経乳頭陥凹は同心円状に拡大し,垂直CC/D比はC0.9になっており,強度近視に特徴的な網脈絡膜の萎縮性変化はみられなかった(図2a).後眼部COCTでは黄斑部全体で網膜神経節細胞複合体の菲薄化がみられた(図2b).波面収差解析では角膜屈折力は正常で,水晶体由来の高次収差を認めた(図2c).角膜内皮細胞密度は右眼C1,842.6個/mmC2,左眼C1,813.1個/Cmm2に減少していた.Goldmann動的視野検査では,湖崎分類で右眼はCIII-a期,左眼はCIII-b期(図2d),Humphrey静的視野検査のC10-2CSITAstandardではCMD値が右眼C.31.8CdB,左眼C.33.5CdBであり,両眼ともに中心に及ぶ進ab右眼左眼右眼左眼d左眼右眼e左眼右眼図2初診時検査所見a:広角眼底写真.両眼の視神経乳頭陥凹が同心円状に拡大している.網脈絡膜の萎縮性変化はみられない.Cb:光干渉断層計.黄斑部全体で網膜神経節細胞複合体が菲薄化している.c:波面収差解析.角膜屈折力は正常で,水晶体由来の高次収差を認める.d:Goldmann動的視野検査湖崎分類で右眼はCIII-a期,左眼はCIII-b期の視野障害を認める.Ce:Humphrey静的視野検査(10-2CSITAStandard).MD値は右眼.31.8dB,左眼C.33.5CdBであり,中心窩閾値は右眼C22dB,左眼C23CdBに低下していた.30眼圧(mmHg)2520151050X年5月X年11月X+1年5月X+1年11月X+2年5月X+2年11月X+3年5月図3術後眼圧経過X年C6月に両眼の水晶体再建術,X+2年C10月に左眼の隅角癒着解離術および線維柱帯切開術を施行した.そののち,両眼圧はC10CmmHg台半ばで推移している.行した緑内障性視野障害を認めた.これにより,中心窩閾値は右眼C22CdB,左眼C23CdBに低下していた(図2e).これらの所見から,両眼の球状水晶体と,それに続発した慢性閉塞隅角緑内障と診断した.なお,血液検査では腎機能を含め異常所見を認めなかったが,心電図検査ではCQT短縮があり,心臓超音波検査で大動脈弁逆流症を認め,なんらかの全身疾患との関連が示唆された.経過:まずC5剤の緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩,ブリンゾラミド,リパスジル塩酸塩水和物)で加療を開始し,両眼眼圧C19mmHgに下降したが,広範囲なCPASを伴う閉塞隅角眼であるため,根本治療としてCX年C6月に両眼の水晶体再建術を施行した.Zinn小帯が脆弱であったため,水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)を併用したうえで眼内レンズを.内に挿入し,手術を終了した.術後経過:術翌日から緑内障点眼を再開し,5剤の点眼(ラタノプロスト,ドルゾラミド,チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物)で両眼とも眼圧C10CmmHg前後に下降した.術後の矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.4)と向上し経過をみていたが,X+2年10月に左眼の眼圧変動が大きくなり,視野障害の進行もあったため,隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)と線維柱帯切開術を追加した.その後もC5剤の緑内障点眼を必要としているが,10CmmHg台半ばの眼圧でコントロールできており(図3),視野障害の進行もなく経過している.また,眼内レンズの動揺をわずかに認めるものの,大きな偏位は生じていない(図4).II考按球状水晶体は,浅前房,強度近視,閉塞隅角緑内障を臨床的な特徴とする非常にまれな先天異常である1).水晶体由来の屈折力により強度近視を呈するが,軸性近視ではないため強度近視眼に特徴的な網脈絡膜の萎縮性変化はみられない.本症例のように若年の強度近視眼で脈絡膜萎縮がなく,浅前房,閉塞隅角の場合は球状水晶体を鑑別にあげる必要がある.散瞳径が大きい場合は細隙灯顕微鏡で水晶体を赤道部まで観察できるが,散瞳不良例などではCAS-OCTが診断の補助に有用である.球状水晶体はCZinn小帯が脆弱であるため,水晶体の前方偏位が生じやすく,44%の症例で水晶体亜脱臼が生じると報告されており6),それにより角膜内皮細胞密度の減少や角膜内皮機能不全を起こすこともある7).本症例もCZinn小帯が脆弱で角膜内皮細胞密度も減少しており,水晶体の前方偏位が繰り返し起こっていた可能性がある.球状水晶体は水晶体の形状や前方偏位,亜脱臼などの水晶体因子に伴う瞳孔ブロックや慢性的な隅角癒着によって隅角閉塞をきたしやすく,球状水晶体の約C50%に閉塞隅角緑内障を合併するとの報告もある5).球状水晶体に伴う閉塞隅角緑内障の発症年齢は若年であることが多く,早期診断が重要である.早期であれば緑内障点眼やレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI),周辺虹彩切除術(peripheralCiridectomy:PI)で加療できることもあるが8),LI後に追加の薬物治療や手術加療を必要としなかった症例はC12.5%であり,慢性的な隅角閉塞や隅角の発達異常を伴う場合はCLIの効果は限定的だとする報告や5),球状水晶体はその赤道径が短いため,LIやCPIによ右眼左眼図4術後約3年(X+3年5月)の前眼部写真およびAS-OCT眼内レンズの傾斜や偏心はなく,前房深度も大きくなっている.表1球状水晶体を合併する全身疾患疾患名眼症状全身症状Weill-Marchesani症候群球状水晶体,水晶体脱臼低身長,短指趾,短肢,関節拘縮,心血管異常Marfan症候群球状水晶体,水晶体脱臼青色強膜,巨大角膜,虹彩低形成高身長,側弯,大動脈瘤,大動脈解離,自然気胸Alport症候群球状水晶体,白内障,円錐水晶体慢性腎炎,難聴平滑筋腫本症例はCWeil-Marchesaniの特徴にもっとも一致する.り硝子体が前房内に脱出してしまうという報告もある9).また,ピロカルピン点眼薬はCZinn小帯をさらに弛緩させ,水晶体の前方移動や瞳孔ブロックを促進してしまうため禁忌となる10).Senthilらによると,球状水晶体に続発した緑内障において,点眼のみで眼圧のコントロールが良好であった症例は18%であり,多くの症例で外科的治療(水晶体摘出術,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術,経強膜毛様体光凝固術,緑内障インプラント挿入術)が必要であった5).水晶体摘出術は異常な水晶体を取り除くことができるため,球状水晶体の手術加療において重要な位置を占めるが7),Raoらは,水晶体摘出術により術後C1年でC69%,5年でC51%の症例が緑内障点眼なしで眼圧コントロールができ,40%が緑内障点眼を,7.7%のみが追加の緑内障手術を必要としたと報告している11).水晶体摘出術のみで眼圧下降しない場合のリスクファクターとして若年,術前の高眼圧,使用している緑内障点眼数,視神経乳頭陥凹拡大の程度があげられた.術前の隅角閉塞の有無は関連がないとされていたが,全周にCPASを生じた球状水晶体に続発した緑内障に対して,水晶体再建術にCGSLを併施して良好な結果が得られた報告もあり9),本症例のようにCPASの程度が強い症例では,初回の水晶体再建術の際にCGSLを併用することで,その後の追加の緑内障手術を避けることができた可能性がある.しかし水晶体再建術の際には,水晶体.が小さく,Zinn小帯が脆弱かつ無緊張なため,CTRを併用しても眼内レンズを.内に挿入することは困難であり,眼内レンズ強膜内固定術が施行されることもある12).本症例も術後に眼内レンズの動揺を認めており,今後は眼内レンズ強膜内固定術が必要になる可能性がある.球状水晶体は孤発性のこともあるが,Weill-Marchesani症候群,Marfan症候群,Alport症候群などの全身疾患に関連して起こることがある(表1)1,3).本症例は身長がC163Ccmと高身長ではなく,腎機能は正常で,心血管異常があることからCWeill-Marchesani症候群の可能性も考えられたが,遺伝子検査は施行しておらず,確定診断には至っていない.CIII結論球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障に水晶体再建術は有効であったが,PASなどの隅角異常が生じている眼では追加の緑内障手術が必要になることもある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChanCRT,CCollinHB:Microspherophakia.CClinExpOptomC85:294-299,C20022)MegarbaneCA,CMustaphaCM,CBleikCJCetal:ExclusionCofCchromosomeC15q21.1CinCautosomal-recessiveCWeill-MarchesanisyndromeinaninbredLebanesefamily.ClinGenetC58:473-478,C20003)MoralesCJ,CAl-SharifCL,CKhalilCDSCetal:HomozygousCmutationsinADAMTS10andADAMTS17causelenticu-larCmyopia,CectopiaClentis,Cglaucoma,Cspherophakia,CandCshortstature.AmJHumGenetC85:558-568,C20094)KumarCA,CDuvvariCMR,CPrabhakaranCVCCetal:AChomo-zygousCmutationCinCLTBP2CcausesCisolatedCmicrosphero-phakia.HumGenetC128:365-371,C20105)SenthilCS,CRaoCHL,CHoangCNTCetal:GlaucomaCinCmicro-spherophakia:presentingCfeaturesCandCtreatmentCout-comes.JGlaucomaC23:262-267,C20146)MuralidharCR,CAnkushCK,CVijayalakshmiCPCetal:VisualCoutcomeCandCincidenceCofCglaucomaCinCpatientsCwithmicrospherophakia.Eye(Lond)C29:350-355,C20157)GuoCH,CWuCX,CCaiCKCetal:Weill-MarchesaniCsyndromeCwithadvancedglaucomaandcornealendothelialdysfunc-tion:aCcaseCreportCandCliteratureCreview.CBMCCOphthal-molC15:3,C20158)GilbertAL,ThanosA,PinedaR:Persistentblurryvisionafteraroutineeyeexamination.JAMAOphthalmolC134:C1065-1066,C20169)KanamoriA,NakamuraM,MatsuiNetal:Goniosynechi-alysiswithlensaspirationandposteriorchamberintraoc-ularClensCimplantationCforCglaucomaCinCspherophakia.CJCataractRefractSurgC30:513-516,C200410)KhokharCS,CPangteyCMS,CSonyCPCetal:Phacoemulsi-.cationinacaseofmicrospherophakia.JCataractRefractSurgC29:845-847,C200311)RaoCDP,CJohnCPJ,CAliCMHCetal:OutcomesCofClensectomyCandriskfactorsforfailureinspherophakiceyeswithsec-ondaryglaucoma.BrJOphthalmolC102:790-795,C201812)YangJ,FanQ,ChenJetal:Thee.cacyoflensremovalplusCIOLCimplantationCforCtheCtreatmentCofCspherophakiaCwithCsecondaryCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC100:1087-1092,C2016C***

片眼小眼球症に胎生血管系遺残と水晶体形状・位置異常を合併した2症例

2020年12月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(12):1564.1567,2020c片眼小眼球症に胎生血管系遺残と水晶体形状・位置異常を合併した2症例岡本美里*1,2松下五佳*1渡部晃久*1園田康平*2近藤寛之*1*1産業医科大学病院眼科*2九州大学大学院医学研究院眼科学分野CTwoCasesofUnilateralMicrophthalmia,PersistentFetalVasculature,AnteriorSegmentDysgenesis,Spherophakia,andCrystallineLensSubluxationMisatoOkamoto1,2),ItsukaMatsushita1),AkihisaWatanabe1),Koh-HeiSonoda2)andHiroyukiKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,2)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityC片眼小眼球症に胎生血管系遺残(PFV)と水晶体形状・位置異常を合併したC2症例を報告する.2症例とも正期産で全身異常や家族歴を認めず,右眼には特記すべき所見はなかった.症例C1はC2カ月の男児.左眼に小眼球,小角膜を認めた.左眼の角膜は透明で,虹彩の低形成,一部無形成を認めた.眼底はCPFV様の白色組織を認め,網膜には広範囲の無血管を認めた.頭部CMRIでは球状水晶体の鼻側偏位を認め,視神経は狭小化し無形成の所見であった.症例C2はC3カ月の男児.左眼に小眼球と小角膜を認め,虹彩は低形成で眼内は透見が不良であった.超音波CBモードエコーでCPFV組織と水晶体の異形成を認め,頭部CMRIでは.胞状を呈して後方に偏位した水晶体を認めた.2症例とも網膜電図では左眼の反応を認めなかった.PFVを伴う小眼球症では,水晶体の形成異常などの前眼部異常だけでなく,後眼部や視神経の異常などの多彩な組織異常を併発する症例がある.CPurpose:Microphthalmiaisamajorcongenitalanomalyoftheeyethathasdi.erentetiologies,andisassoci-atedCwithCvariousCcongenitalCabnormalities,CsuchCasCpersistentCfetalvasculature(PFV)andCanteriorCsegmentCdys-genesis(ASD).Here,wereporttwocasesofunilateralmicrophthalmiawithPFV,ASD,spherophakia,andcrystal-lineClensCsubluxation.CCasereports:CaseC1CinvolvedCaC2-month-oldCboyCwithCaCsmallCeyeballCandCsmallCcorneaCobservedinhislefteye.Thereweregeneticabnormalitiesandnofamilialhistory,andnoremarkable.ndingswereobservedCinChisCrightCeye.CTheCleft-eyeCcorneaCwasCtransparent,CwithChypoplasiaCandCpartialCaplasiaCofCtheCiris.CACwhitetissueresemblingaPFVremnantwasobservedinthefundus,andawide-rangeavascularretinallesionwasobserved.CHeadCmagneticCresonanceimaging(MRI)revealedCaCnasalCdeviationCofCtheCglobularClensCandCthatCtheCopticCnerveCwasCnarrowedCandCaplastic,CandCanelectroretinogram(ERG)revealedCnoCresponse.CCaseC2CinvolvedCaC3-month-oldboywithasmalleyeballandasmallcorneaobservedinhislefteye.Theiriswashypoplastic,thusobstructingviewintotheinsideoftheeye.UltrasoundB-modeimagingrevealeddysplasiaofthePFVtissueandlens,aheadMRIrevealedaposteriorly-deviatedcyst-likelens,andanERGrevealednoresponse.Conclusions:IncasesCofCmicrophthalmiaCassociatedCwithCPFV,CbothCanterior-segmentCabnormalitiesCandCposterior-segmentCandCoptic-nerveCtissueCabnormalitiesCcanCsimultaneouslyCoccur,CandCMRICcanCbeCusefulCforCdetectingClensCshapeCandCpositionabnormalities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(12):1564.1567,C2020〕Keywords:小眼球症,球状水晶体,水晶体偏位,胎生血管系遺残,視神経無形成,虹彩低形成.microphthalmia,Cspherophakia,crystallinelenssubluxation,persistentfetalvasculature,irishypoplasia.C〔別刷請求先〕岡本美里:〒812-8582福岡市馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:MisatoOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Fukuokacity,Fukuoka812-8582,JAPANC1564(100)ce図1症例1の検査所見a:左小眼球の前眼部写真.Cb:左眼の超音波生体細隙灯顕微鏡所見.虹彩低形成と角膜との癒着(矢印)を認める.水晶体は鼻側後方に牽引され偏位し,前房が深い.Cc:T2強調CMRI所見矢状断.左眼の水晶体は球状で鼻側後方へ偏位している.Cd:超音波CBモード所見.胎生血管系遺残を示唆する索状物様の高エコー像を認める.Ce:左眼の眼底写真.視神経乳頭の形成はなく,胎生血管系遺残を認める.Cf:左眼の蛍光造影所見.胎生血管系遺残に一致して未熟な血管網を認めるが,網膜は無血管である.はじめにの形状異常・後方偏位,虹彩形成不全,網膜血管形成不全,小眼球症は発生頻度がC0.01.0.019%とまれな疾患であり,視神経低形成など多彩な眼所見を伴ったC2例を経験したので前眼部形成異常,網膜硝子体形成異常,視神経形成異常などその臨床像を提示する.多様な合併異常を呈する1).胎生血管系遺残(persistentCfetalvasculature:PFV)は第C1次硝子体の遺残により眼内増殖CI症例性変化を生じ,網膜.離を合併するおもに片眼性の非遺伝性症例C1はC2カ月男児.正期産,正常体重で出生した.妊娠疾患である2,3).PFVでは小角膜・小眼球,白内障など多彩歴や家族歴に問題なく.生後C4日で左眼を開けないことを母な眼形成異常を合併するが,虹彩や網膜血管,視神経の異常親が心配して近医眼科を受診し,小眼球症のため産業医科大を合併する症例は比較的まれである4).学病院眼科を紹介受診した.生後C2カ月時に全身麻酔下検査今回筆者らは片眼性の小眼球症で胎生血管系遺残,水晶体を施行した(図1).眼軸長は右眼C17Cmm,左眼C14Cmm,角図2症例2の検査所見a:前眼部写真で左眼の小眼球を認める.Cb:左眼の超音波生体細隙灯顕微鏡所見.前房が深く,水晶体と思われる.状物がみられる.Cc:T2強調CMRI画像.左眼の球状水晶体が鼻側後方へ偏位している.Cd:超音波Bモード画像.胎生血管系遺残を示唆する索状物様のエコー像がみられる.膜径は右眼C11Cmm,左眼C5Cmmであり,左眼の極度の小眼球,小角膜を認めた.前眼部と眼底には右眼には異常はみられなかったが,左眼角膜は透明であるものの,虹彩の形成は不良で部分無虹彩もしくはコロボーマを疑う所見を呈していた.虹彩と角膜に癒着がみられ,水晶体は検眼的には確認できなかった.左眼眼底は視神経乳頭を認めず,PFVと思われる白色組織を認めた.蛍光造影検査ではCPFVに一致して蛇行や吻合を示す未熟な血管網を認めたが,網膜は無血管であった.T2強調CMRI画像では,眼球内鼻側寄りに低信号の球状構造物が描出され,球状水晶体と水晶体偏位と診断した.視神経は狭小化が著しく,視神経無形成と思われた.未熟児用の電極を用いて行った網膜電図では左眼のみ反応を認めなかった.症例C2はC3カ月男児.正期産,正常体重で出生した.妊娠歴や家族歴には問題はなかった.生後C2日で小眼球症を疑われ近医眼科を受診し,精査目的に当科を紹介受診した.生後3カ月時に全身麻酔下に検査を施行した(図2).眼軸長は右眼C18Cmm,左眼C14Cmm,角膜径は右眼C11Cmm,左眼C7Cmmと左小眼球,小角膜であった.右眼に異常を認めず,左眼は角膜透明,虹彩は低形成で,水晶体は検眼鏡的には確認できず,眼底は透見が不良であった.超音波CBモード検査でPFV様の索状組織と,それにつながる.胞状の高エコー組織を認めた..胞状組織は頭部CMRIのCT2強調画像で低信号の球状構造物として描出され,水晶体の形成異常と偏位と診断した.左視神経の狭小化は認めなかった.症例C1と同様に施行した網膜電図で左眼の反応を認めなかった.2症例ともに左眼の視機能獲得は期待できないと判断し,眼窩腔拡張目的に義眼を挿入した.CII考按今回経験したC2症例とも片眼性の小眼球症でCPFV所見を認め,水晶体は球状水晶体で後方へ偏位し,虹彩の低形成や部分的無虹彩を認めた.また,患眼では網膜電図で反応を認めず機能的にも網膜の異常を合併していることが示唆された.さらに症例C1では眼底所見とCMRI所見から視神経無形成を疑う視神経乳頭の欠損,網膜血管の形成不全を認めた.症例C2では眼底の透見が困難であったがCMRIでは視神経異常はみられなかった.本症例のCPFVとしての特徴は,小眼球症の程度が著しく,水晶体の形態・位置異常や虹彩低形成を合併していたことである.PFVではその遺残組織がCZinn小帯の形成不全を起こす,あるいは硝子体動脈が水晶体を牽引するために,先天性の水晶体偏位が生じうると考えられる4).しかし,Haddadら4)によるとCPFVに水晶体偏位を合併した症例はC62症例中3例であり,PFVが水晶体偏位を引き起こすことは比較的まれであると考えられる.また,PFVと水晶体偏位に加えて,コロボーマを合併する症例をCTakkarら5)やCLeeら6)が報告している.さらにCRanchodら7)は両眼性のCPFVに小角膜,水晶体後方偏位,脈絡膜コロボーマを合併したC6症例を報告している.今回の症例はC2例とも片眼性であり,発症機序が異なるものと考えられる.一方で仁科らによる日本における小眼球症の全国調査では,後眼部の眼合併症が多いことも報告されており,PFVを含む網膜硝子体異常がC18.1%,視神経異常はC6.8%であった8).症例C1では視神経異形成を認め,MRIでも視神経は痕跡程度に狭小化しており視神経無形成の所見であると考えられる.これまでもCPFVと視神経無形成の合併症例が報告されており,視神経の形成と網膜血管や硝子体血管の発生には関連性があることが示唆されている9,10).片眼性の小眼球症の孤発例では遺伝性は明らかではないが,常染色体劣性遺伝を示した症例の報告がある11).前眼部形成異常に関連する遺伝子としてはCCPAMD8,CYP1B1,FOXC1,FOXE3,PAX6,PITX3,PXDNなどが知られている(athttps://www.omim.org/).筆者らは両症例に対して,産業医科大学倫理委員会が承認したプロトコールに従い,家族の同意を得て全エクソーム解析を行ったが,これらの遺伝子には異常は検出されなかった.小眼球症とCPFV,球状水晶体とその偏位などの前眼部異常に加え,1眼では視神経無形成を合併するなど,多彩な眼異常所見を示した症例をC2例報告した.眼球の形成には前眼部や後眼部,視神経などの各組織の発達が密接に関連しており,PFVに合併して広範囲な眼形成異常をきたしうるものと思われた.極度の小眼球症は眼内の精査が困難であり詳細な所見が見逃されることがあるが,全身麻酔下での検査は病態の確認に有用である.また,MRI検査は水晶体形態,位置異常の描出に優れ,網膜電図は網膜機能の評価に有用であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BusbyA,DolkH,CollinR:Compilinganationalregisterofbabiesbornwithanophthalmia/microphthalmiainEng-landC1988-94.CArchDisChildFetalNeonatalEdC79:F168-F173,C19982)GoldbergMF:PersistentCfetalvasculature(PFV):anCintegratedinterpretationofsignsandsymptomsassociat-edwithpersistenthyperplasticprimaryvitreous(PHPV)C.LIVEdwardJacksonMemorialLecture.AmJOphthalmolC124:587-626,C19973)ReeseAB:PersistentChyperplasticCprimaryCvitreous.CAmJOphthalmolC40:317-331,C19554)HaddadCR,CFontCRL,CReeserF:PersistentChyperplasticCprimaryCvitreous.CACclinicopathologicCstudyCofC62CcasesCandCreviewCofCtheCliterature.CSurvCOphthalmolC23:123-134,C19785)TakkarB,ChandraP,KumarVetal:Acaseofiridofun-dalCcolobomaCwithCpersistentCfetalCvasculatureCandClensCsubluxation.JAAPOSC20:180-182,C20166)LeeCJS,CLeeCJE,CShinYG:FiveCcasesCofCmicrophthalmiaCwithotherocularmalformations.KoreanJOphthalmolC15:C41-47,C20017)RanchodTM,QuiramPA,HathawayN:Microcornea,pos-teriorCmegalolenticonus,CpersistentCfetalCvasculature,Candcoloboma:aCnewCsyndrome.COphthalmologyC117:1843-1847,C20108)NishinaS,KurosakaD,NishidaYetal:Surveyofmicroph-thalmiaCinJapan.JpnJOphthalmolC56:198-202,C20129)WeiterCJJ,CMcLeanCIW,CZimmermanLE:AplasiaCofCtheCopticnerveanddisk.AmJOphthalmolC83:569,C197710)HotchkissML,GreenWR:Opticnerveaplasiaandhypo-plasia.JPediatrOphthalmolStrabismusC16:225-240,C197911)FleckensteinM,MaumeneeIH:Unilateralisolatedmicroph-thalmiaCinheritedasanautosomalrecessivetrait.Ophthal-micGenetC26:163-168,C2005***