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慢性移植片対宿主病モデルマウスの結膜囊におけるドナー由来線維芽細胞の集積

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):693.697,2018c慢性移植片対宿主病モデルマウスの結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の集積五十嵐秀人小川葉子山根みお清水映輔福井正樹榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CAccumulationofDonor-derivedFibroblastsinChronicGVHDConjunctivalFornixinaMouseModelHidetoIkarashi,YokoOgawa,MioYamane,EisukeShimizu,MasakiFukui,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine慢性移植片対宿主病(cGVHD)によるドライアイは移植後の主要な合併症であり,眼表面に難治性線維化をきたす.筆者らは,cGVHDモデルマウスを用いて,結膜.に集積するドナー由来線維芽細胞の集積を検出したので報告する.ドナーにC8週齢雄CB10.D2マウス,レシピエントに週齢をあわせた雌CBALB/cマウスを用いて,線維化を高度にきたすCcGVHDモデルマウスを作製した.BALB/cマウスによる同種同系移植を対照とした.移植後C3週時のレシピエント結膜の解析では,線維芽細胞のマーカーCHSP47陽性の小型線維芽細胞の集積部位を認めた.同一切片によるCY染色体CFISHを施行し,同一部位の細胞群に多数のCY染色体陽性像を見いだした.結膜.と涙腺排出導管付近に多数のドナー由来線維芽細胞が集積していた.ドナー由来線維芽細胞は結膜.の線維化の細胞源として排出導管を閉塞し,難治性線維化による重症ドライアイに関与することが示唆された.ChronicCgraft-versus-hostCdisease(cGVHD)isCaCmajorCcomplicationCafterCallogeneicChematopoieticCstemCcelltransplantation(HSCT)C,CwhichCcanCleadCtoCsevereC.brosisCofCtheCocularCsurface.CHere,CweCreportCaccumulationCofCdonor-derived.broblastsaroundthefornixoftheconjunctivainananimalmodelofcGVHD.Eight-week-oldmaleB10.D2mouseandage-matchedfemaleBALB/cmicewereusedasdonorsandrecipients,respectively,tocreatesclerodermatouscGVHD.BALB/cintoBALB/ctransplantrecipientswereusedascontrols.Usingconjunctivaltis-suesectionsat3weeksafterHSCT,wefoundaccumulationofsmall.broblasts,markedbytheirmarkerHSP47,withintheconjunctivalfornixandsurroundingtheori.ce’soflacrimalglandmainducts.AfterHSP47staining,weperformedCY-chromosomeC.uoresceinCin-situChybridization(Y-FISH)onCaCsingleCsection.CWeCfoundCHSP47+CY-FISH+C.broblastsConCtheCidenticalCsectionCofCtheCsameCarea.CTheseCresultsCsuggestedCthatCactivatedCdonor-derivedC.broblastsCsurroundingCconjunctivalCfornixCandClacrimalCglandCexocrineCmainCductsCareCrelatedCtoCrapidlyCprogressivedryeyerelatedtocGVHD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):693.697,C2018〕Keywords:慢性移植片対宿主病,モデルマウス,線維化,ドナー由来線維芽細胞,Y-染色体CFISH,結膜.chron-icgraft-versus-hostdisease,mousemodel,.brosis,donor-derived.broblast,Y-chromosomeFISH,conjunctiva.Cはじめに造血幹細胞移植は年々増加傾向にあり,眼科領域の合併症対策も重要性が増している1).造血幹細胞移植の晩期合併症の一つである慢性移植片対宿主病(chronicCgraft-versus-hostdisease:cGVHD)によるドライアイは,移植後眼科領域の合併症のなかでもっとも多く,移植例の約C50.60%に生じるとされている2).cGVHDによるドライアイは難治例に進行する場合も多く,治療に苦慮するのが現状であり,病態の発症と進展に至る進行過程の解明と,よりよい治療法の確立が課題である3).筆者らはこれまでにCcGVHDにより障害を受けた症例の涙腺に過剰な細胞外器質の蓄積による病的線維化と活性化ドナ〔別刷請求先〕小川葉子:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YokoOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANー由来線維芽細胞の集積を認め,これらが涙腺の機能不全の原因となり,cGVHDによるドライアイの病態形成にかかわることを報告した4).さらにモデルマウスを用いた病態の検討で,涙腺,皮膚,消化管にドナー由来間葉系幹細胞が生着し集積していることを報告した5).臨床ではCcGVHDによる結膜病変の特徴として瞼球癒着,結膜.短縮,眼瞼線維性血管膜形成などとともに,ドライアイの発症後急速に眼表面の線維化が進行する6,7).今回筆者らは,確立されたモデルマウスを用いて,cGVHDモデルマウスの結膜.に集積するドナー由来線維芽細胞を見いだしたので報告する.CI方法8週齢のCB10.D2雄(H-2d)マウスの骨髄細胞(1C×106)と脾臓細胞(2C×106)を,放射線照射後(7.0Cgray)の週齢が一致した雌CBALB/c(H-2d)レシピエントマウスに移植し,cGVHDモデルマウスを作製した8).cGVHDが発症することが確認されている骨髄移植後C3週時に,レシピエントの標的組織である結膜粘膜の組織所見を解析した.病理切片にて結膜.の線維芽細胞の局在を確かめるために,ホルマリン固定パラフィン切片を用いて,線維芽細胞のマーカーとしてコラーゲン特異的分子シャペロンでありコラーゲン産生細胞の指標であるCheatCshockCproteinC47(HSP47)(CatalogCnum-ber;ADI-SPA-470-F,CClone名;M16.10A1,アイソタイプCIgG2b,ENZO,NewYork,USA)の発現を検討した.パラフィン切片を用いオートクレーブを用いた抗原賦活化法によりCHSP47の発現が良好に認められることを確認した.本抗体はマウスに交叉性がありマウス切片で紡錘形線維芽細胞を検出できることを確認した.Y染色体の検出にはCstarCFISHCkit(1200-YMCY3-02,Cambio,CCambridge,CU.K.)を用いてこれまでに報告されている方法に従って行った9).活性化線維芽細胞がドナー由来かを検討するために,雄ドナーマウスから雌レシピエントマウスに移植したマウス結膜切片で蛍光免疫染色によりHSP47の発現の検討し,HSP47陽性線維芽細胞像を蛍光画像を共焦点顕微鏡(ZEN900LSMconfocalmicroscope,Zeiss,Germany)で取得したのち,カバーグラスをはずして同一切片で雌レシピエント切片でのCY-染色体の検出を試みた.HSP47蛍光染色を施行した組織切片と同一切片でCY-染色体.uoresceinCin-situChybridization(Y-FISH)施行後,共焦点顕微鏡下でCHSP47を発現する細胞と同一部位を探しCY-染色体陽性シグナルを探し検討した.HSP47蛍光染色とCY-FISH方法を以下にまとめて記載する.ホルマリン固定パラフィン切片を用いてキシレンにて脱パラフィン後,エタノール系列C95%,80%,60%,30%の順に各C5分間ずつ浸漬し親水化を行った.抗原賦活化液に切片を浸漬し,オートクレーブを用いてC120℃C20分の抗原賦活化を行ったのち,正常ヤギ血清をC30分反応,抗ヒトHSP47抗体(マウスに交叉性有り)をオーバーナイトC4℃で反応後,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄,AlexaC488標識ヤギ抗マウス二次抗体を核染色物質CTO-PRO-3(T3605;サーモフィッシャー)と混合してC45分反応させた.PBSで洗浄後,退色防止剤入りマウント剤で封入した.共焦点顕微鏡で画像を取得後,カバーグラスをはずし,Y-FISHの行程に移行した.Y-FISHはC0.2N塩酸でC20分間反応させ,次にC80℃に予備加熱したチオシアン酸ナトリウム溶液(32002-32,ナカライテスク)にC10分間浸漬し,PBS洗浄を行った.37℃に予備加熱したペプシン溶液に切片をC10分間浸漬した後,グリシン溶液(161-18713,和光)にC1分間位浸漬した.PBSで洗浄後,4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液を添加,2分間で組織を固定した.PBSで洗浄後,エタノール系列(30%,60%,80%,95%,100%)の順に各C1分間浸漬し脱水を行い風乾したのち,組織上にCY-染色体CFISHプローブ溶液を添加した.カバーガラスを用いて空気が入らないように被覆し,四隅をシールで封入した.75℃C10分間ディネイチャー後,プローブを載せた組織片スライドガラスを湿潤箱に入れアルミ遮光し,37℃でオーバーナイトでハイブリダイゼーションを行った.16時間後,カバーガラスのシールを取り除きC37℃に予備加熱した脱イオン化溶液で洗浄後,2C×塩化ナトリウム,クエン酸ナトリウム溶液(standardCsalineCcitrate:SSC)溶液で洗浄,37℃に予備加温したC10%CTween20+4×SSC溶液でC10分間洗浄,PBS洗浄,TOPRO-3を用いて核染色を行った.洗浄後,同様に退色防止剤入り蛍光用マウント剤で封入しコンフォーカル共焦点顕微鏡で再度同一部位を探し撮影した.CII結果雄マウスパラフィン切片を用いた陽性コントロール切片ではCY染色体CFISHのみの検討では,結膜(図1a),網膜(図1b),脾臓細胞(図1c)ともにC95%以上の細胞にCY染色体の陽性像が観察され,Y-FISH単独での手技でCY-染色体を検出できることを確認した(図1).同種同系骨髄移植後のコントロールマウス結膜.においては結膜上皮,間質ともに炎症および線維化所見に乏しく正常結膜に類似していた(図2a).次に,同種異系骨髄移植後のCcGVHDモデルマウス結膜.を観察すると,コントロールに比して結膜上皮,間質に炎症細胞浸潤と(図2b)と線維化(図2c)を認めた.次に雄の野生型CBALB/cマウス涙腺のフォルマリン固定パラフィン組織切片を用いて,同一切片上でCHSP47の発現(図2d,上)とCY染色体CFISH(図2d,下)を検討し,蛍光結膜Y-FISH陽性コントロール網膜Y-FISH陽性コントロール脾臓細胞Y-FISH陽性コントロールabc図1雄BALB/cマウス結膜,網膜,脾臓細胞における陽性コントロールとしてのY.FISHシグナル像a:組織切片結膜.b:組織切片網膜.c:サイトスピンによる脾臓細胞.スケールバーa,c=25μm,b=50Cμm.染色とCY-FISHを同一切片で行う陽性コントロールとした.その結果,Y-FISHシグナルの検出率は単独でCY-FISHを行う場合より低下したが,約C80%以上の細胞にCY-FISHシグナルを検出した(図2d,下).野生型マウス陽性コントロール切片においては正常組織であるため,HSP47陽性細胞はわずかであった.次に雌野生型マウス陰性コントロール組織切片を検討すると,野生型の正常組織であるためCHSP47陽性細胞はわずかで,活性化に乏しかった(図2e,上).同一切片の陰性コントロール組織切片では,雌マウス由来の組織のため偽陽性と思われるC1個のシグナルを除いて,Y-FISHシグナルは認められなかった(図2e,下).これらの結果より,同一切片上での免疫染色との複合方法によるCY-FISHを行ってもY-FISHシグナルは検出できることを確認した(図2d,下).次にCcGVHDモデルマウス結膜.の同一切片では,HSP47染色所見では(図2f,上)結膜.周囲に集積する多数の小型のCHSP7陽性活性化線維芽細胞を認めた.同一切片上のCY染色体CFISHシグナルを線維芽細胞とほぼ同一部位に認め,多数のCHSP47+線維芽細胞が集積する部位に一致して,Y-FISH+細胞を検出した(図2f,下).これらの結果はCcGVHDモデルマウスにおいて結膜線維化が高度で,結膜.および涙腺排出導管付近に多数のドナー由来の活性化線維芽細胞が集積していることを示唆していた.CIII考按慢性移植片対宿主病によるドライアイは瞼球癒着,結膜.短縮などの結膜線維化により重症化する例が多く認められる.骨髄移植では,移植前に大量化学療法,放射線療法などで炎症の前段階が生じている.骨髄移植後早期に生じる急性GVHDや感染などにより骨髄移植の標的臓器には骨髄細胞を動員するホーミングシグナルが存在すると考えられる10).これまでの筆者らの研究で,ヒト涙腺に集積するドナー由来線維芽細胞の存在を見いだし報告した4).病変部に集積する線維芽細胞の約半数がドナー由来であり,その割合はCcGVHDモデルマウスにおいても一致していた5).今回の検討では,cGVHDモデルマウスを用いて,マウス結膜.の線維化部位に多数の小型のドナー由来線維芽細胞を見いだした.これらの活性化線維芽細胞の集積は結膜.の瞼球癒着や,結膜.短縮が生じる過程の主要な役割を果たすと考えられた.実験過程の改善点としては,活性化線維芽細胞のマーカーとして使用しているCHSP47の発現をパラフィン切片上で調べるために,抗原賦活化としてオートクレーブを用いてC120℃20Cminという強い熱処理が必要である.HSP47の蛍光染色の過程と同一切片でCYFISHを行う過程で,カバーグラスをはずすときに組織が若干移動する可能性があり,完全に一致した部位での細胞の検出がむずかしかった.その他,実験過程での温度の設定の変化,組織切片ではCY染色体の検出部位が組織の薄切により短縮されている染色体もある可能性があるため,検出率がC100%に至らない原因の一つと考えられた.免疫染色とCFISHの複合手技はC3.4日を要し,熱処理などの工夫に苦慮するためドナーにCGFPマウスを使用してホルマリンで短時間弱く固定後の凍結切片を用いてドナー細胞を検出するアプローチが現実的である.しかし,免疫染色でパラフィン切片にのみ染色される分子と複合法で検出する必要がある場合は本方法によるアプローチが必要である.GFPマウスを入手できない場合などにおいては,ドナーが雄,レシピエントが雌の切片を用いてCY-FISH法によるドナー細胞の多角的なアプローチによる検出方法も有用であると考えられた.臨床的に,結膜.には多数の涙腺の排出導管が開口する部位であり,この部位の過剰な線維化は排出導管の閉塞の原因の一つとなりうる.そのため,結膜.への活性化線維芽細胞の集積は,造血幹細胞移植後のドライアイの発症や進展過程に関与する可能性があると考えられた.また,これらのドナControlcGVHDcGVHD陽性control陰性controlcGVHDY.FISH/TOPRO.3HSP47/TOPRO.3図2cGVHDモデルマウス結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の検出a:同種同系骨髄移植後のコントロールマウス結膜..ヘマトキシリン・エオジン染色.結膜上皮,間質ともに炎症および線維化所見は乏しい.結膜.(*).b,c:同種異系骨髄移植後のCcGVHDモデルマウス結膜..b:ヘマトキシリン・エオジン染色.c:マロリー染色.コントロールCaに比して結膜上皮,間質に炎症細胞と線維化を認める.結膜.(*).スケールバーCa,Cb,Cc=50Cμm.Cd:雌マウス涙腺同一切片のCHSP47(緑)の発現(d,上)とCY染色体FISH(赤)(d,下)陰性コントロール.核(青).e:雄マウス涙腺同一切片のCHSP47(緑)の発現(e,上)とCY染色体CFISH(赤)(e,下)陽性コントロール.核(青).f:cGVHDモデルマウス結膜.の同一切片のCHSP47(緑)の発現(f,上)とCY染色体CFISH(赤)(f,下).核(青).結膜.周囲に集積する多数の小型のCHSP7陽性活性化線維芽細胞とY-染色体陽性シグナル.結膜.(*).スケールバーCd,e,f=50Cμm.Cー由来線維芽細胞を制御することにより,難治性の眼表面線文献維化を抑制することが可能になるのではないかと考えられ1)JagasiaCMH,CGreinixCHT,CAroraCMCetCal;NationalCInsti-た.今後,ドナー由来線維芽細胞がCcGVHDによる難治性眼tutesCofCHealthCConsensusCDevelopmentCProjectConCCrite-表面線維化の発症と進展の過程に時間的,空間的にどのようriaCforCClinicalCTrialsCinCChronicCGraft-versus-HostCDis-ease:I.CTheC2014CDiagnosisCandCStagingCWorkingCGroupCに関与するか,さらに多様な薬剤投与によりその動態がどのreport.BiolBloodMarrowTransplantC21:389-401Ce381,Cように変化するかを詳細に調べることが必要と考えられた.20152)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaCR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C2013利益相反:利益相反公表基準に該当なし3)TungCI:Currentapproachestotreatmentofoculargraft-versus-hostdisease.IntOphthalmolClinC57:65-88,C20174)OgawaCY,CKodamaCH,CKameyamaCKCetCal:DonorC.bro-blastchimerisminthepathogenic.broticlesionofhumanchronicCgraft-versus-hostCdisease.CInvestCOphthalmolCVisCSciC46:4519-4527,C20055)OgawaCY,CMorikawaCS,COkanoCHCetCal:MHC-compatibleCboneCmarrowCstromal/stemCcellsCtriggerC.brosisCbyCacti-vatingChostCTCcellsCinCaCsclerodermaCmouseCmodel.CElifeC5:e09394,C20166)RobinsonMR,LeeSS,RubinBIetal:Topicalcorticoste-roidCtherapyCforCcicatricialCconjunctivitisCassociatedCwithCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBoneCMarrowCTrans-plantC33:1031-1035,C20047)JabsCDA,CWingardCJ,CGreenCWRCetCal:TheCeyeCinCboneCmarrowCtransplantation.CIII.CConjunctivalCgraft-vs-hostCdisease.ArchOphthalmolC107:1343-1348,C19898)ZhangCY,CMcCormickCLL,CDesaiCSRCetCal:MurineCsclero-dermatousCgraft-versus-hostCdisease,CaCmodelCforChumanscleroderma:cutaneousCcytokines,Cchemokines,CandCimmunecellactivation.JImmunolC168:3088-3098,C20029)SugimotoCH,CMundelCTM,CSundCMCetCal:Bone-marrow-derivedCstemCcellsCrepairCbasementCmembraneCcollagenCdefectsCandCreverseCgeneticCkidneyCdisease.CProcCNatlCAcadSciUSAC103:7321-7326,C200610)SharmaCM,CAfrinCF,CSatijaCNCetCal:Stromal-derivedCfac-tor-1/CXCR4signaling:indispensableroleinhomingandengraftmentCofChematopoieticCstemCcellsCinCboneCmarrow.CStemCellsDevC20:933-946,C2011***

培養ヒト結膜上皮細胞における高浸透圧ストレス負荷に対するカテキンの抑制効果

2016年6月30日 木曜日

《第35回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科33(6):867.873,2016c培養ヒト結膜上皮細胞における高浸透圧ストレス負荷に対するカテキンの抑制効果木崎順一郎*1,2宇高結子*1佐々木晶子*1辻まゆみ*1友寄英士*1,2當重明子*1,2岩井信市*1,3小口勝司*1*1昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門*2昭和大学医学部眼科学講座*3昭和大学薬学部社会健康薬学講座医薬品評価薬学部門Anti-inflammatoryEffectsofEGCGorEGCG3MeagainstHyperosmotic-inducedInflammationinHumanConjunctivalEpitheliumCellsJunichiroKizaki1,2),YukoUdaka1),AkikoSasaki1),MayumiTsuji1),EijiTomoyori1,2),AkikoToju1,2),ShinichiIwai1,3)andKatsujiOguchi1)1)DepartmentofPharmacology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofResearchandDevelopmentforInnovativeMedicalNeeds,Health,ShowaUniversitySchoolofPharmacyドライアイは,涙液層の浸透圧上昇と,これに伴う眼表面の炎症がおもな病態と考えられている.近年,茶カテキン,とくに(-)-EpigallocatechinGallate(EGCG)および,(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)Gallate(EGCG3”Me)の高い生理活性が報告されている.本研究では,培養ヒト結膜上皮細胞株を用い,培養液にスクロースを添加することで高浸透圧ストレス負荷を施し,アポトーシス解析,MAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能およびIL-6生成量を測定し,さらにEGCG,EGCG3”Meを前処置による抑制効果を検討した.その結果,高浸透圧ストレス負荷により,アポトーシス細胞の割合,JNK,p38MAPKリン酸化能およびIL-6生成量が有意に増加した.これに対し,EGCG3”MeはIL-6生成量とp38MAPK活性の上昇を有意に抑制したが,EGCGではIL-6生成の抑制は認めなかった.以上より高浸透圧ストレス誘発性炎症に対し,EGCG3”Meはp38MAPKリン酸化を抑制することで,IL-6生成を抑え,抗炎症作用を示すものと考えた.Osmoticpressureoftearsindryeyepatientsisusuallyhigherthaninnormalpersons.Itisassociatedwithincreasedosmolarityofthetearfilmandinflammationoftheocularsurface.Inaddition,teacatechinssuchas(-)-EpigallocatechinGallate(EGCG)and(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)Gallate(EGCG3Me)havemultiplebiologicalactions,includinganti-allergy,anti-inflammatoryandanti-canceractivity.Inthisstudy,weexaminedwhetherEGCGandEGCG3Meattenuatethehyperosmosis-inducedinflammationinhumanconjunctivalepitheliumcells(HCEcells).HCEcellswereexposedtohyperosmoticmedium(423mOsm,i.e.,123mMsucroseinmedium),andthenexaminedastotherateofapoptosis,IL-6levelsandactivityofMAPKs(ERK,JNKandp38MAPK).EGCG3MesignificantlysuppressedtheincreaseinIL-6levelandelevationofphosphorylatedp38MAPK.EGCG3MeinductionofinflammationmorepotentthanEGCGwasalsoindicated.TheseresultssuggestthatEGCG3Memightbeuseableasatherapeuticapproachindryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):867.873,2016〕Keywords:結膜,ドライアイ,炎症,高浸透圧,カテキン.conjunctiva,dryeye,inflammatory,hyperosmolarity,catechin.〔別刷請求先〕木崎順一郎:〒142-8555東京都品川区旗の台1丁目5-8昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門Reprintrequests:JunichiroKizaki,M.D.,DepartmentofPharmacology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8Hatanodai,Shinagawa,Tokyo142-8555,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(107)867 はじめに近年,生活環境の変化(高齢化,コンタクトレンズ装用者の増加,エアコン普及,パソコン,スマートフォン,ゲームなどのデジタル機器(visualdisplayterminals:VDT)の長時間使用などにより,ドライアイの有病率が増えている.とくにオフィスワーカーの約6割がドライアイもしくはその疑いがあり,QOLの低下や作業効率の低下などにつながるという報告もあり1),いわば現代病の一つといっても過言ではない.ドライアイの発症のメカニズムとして,眼表面の浸透圧の上昇が指摘されている.涙液の産生低下,あるいは蒸発亢進による涙液量の減少により眼表面の浸透圧が上昇すると炎症反応が起こり,結膜傷害,ゴブレット細胞の減少を引き起こし,涙液層の不安定化などにつながる.その結果,さらに涙液が減少するなどの悪循環を起こすこと2)が示されている.米国では,とくにこの考え方が強く,ドライアイの診断において眼表面の浸透圧上昇を重視しており,治療の中心は抗炎症薬投与になっている3).近年,日本緑茶に豊富に含まれるポリフェノール(greenteapolyphenol)のうち,カテキン類には,抗酸化作用,抗腫瘍作用,抗転移作用,血圧抑制作用,動脈硬化抑制作用,脂質代謝改善作用,抗菌作用,抗ウイルス作用,抗う蝕作用,抗アレルギー作用といった多様な生理作用を有することが報告されている.とくに,(-)-Epigallocatechingallate(EGCG)は,茶特有のポリフェノール成分で4),上記作用が強力に出ることが多数報告されている.いわゆる緑茶の代表的な品種「やぶきた」には,カテキン類が10.20%の割合で含まれており,その約半分をこのEGCGが占めるとされている.一方,EGCGの3つの水酸基のうちortho位をメチル化した(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)gallate(EGCG3”Me)の強い生理活性が最近注目されている.これは「べにふうき」「べにふじ」「べにほまれ」などの品種の茶葉に多く含まれ,「やぶきた」には含まれていない.EGCG3”Meは高い抗酸化活性を持ち,とくに抗アレルギー作用はEGCGの約2.5倍との報告がある.そこで今回,筆者らは,培養ヒト結膜上皮(humanconjunctivalepithelium:HCE)細胞を用いて,眼表面のドライアイ病態を想定した高浸透圧ストレス負荷状態における炎症誘発経路を明らかにするとともに,これに対するEGCGとEGCG3”Meの抗炎症作用およびその有用性を比較検討した.なお,今回使用した細胞株は,ヒト子宮頸癌由来上皮細胞(HeLa細胞)の混入が疑われているが,株化したヒト結膜上皮細胞の代用がないため,HCE細胞とHeLa細胞の比較検討を行った.I材料および方法1.細胞培養ヒト眼球由来結膜上皮細胞株(Clone-1-5c-4:HCE細胞)をDSファーマメディカル(大阪)より購入,細胞は2mMGlutamine+10%FetalBovineSerum(FBS)含有Medium199(Sigma-AldrichCo.,MO,USA)培地中,5%CO2,37℃にて培養した.ヒト子宮頸癌由来上皮細胞(ATCCCCL2.2:HeLa細胞)は,FBS含有E-MEMmedium培地中,5%CO2,37℃にて培養した.2.高浸透圧ストレスFBS非含有medium(289mOsm/L)に123mMのスクロース(和光純薬工業,大阪)を添加し,Hyperosmoticmedium(423mOsm/L)を調整し5),培養液をこれに置換することで,高浸透圧ストレス負荷(Hyper)群とした.対照として,スクロース非添加群をコントロール(Cont)群とした.3.使用薬物カテキン類はそれぞれEGCGを和光純薬工業から,EGCG3”Meを長良サイエンス(岐阜)から購入した.Mitogen-activatedproteinkinaseinhibitor(MAPKi)は,p38MAPKinhibitor(p38i)としてSB203585,extracellularsignal-regulatedkinase(ERK)inhibitor(ERKi)としてPD98059をSigma-AldrichCo.(MO,USA)から購入,c-JunN-terminalkinase(JNK)inhibitor(JNKi)としてSP600125を和光純薬工業(東京)から購入した.4.実験プロトコール細胞を測定項目に応じて適切な濃度に調整して播種し,24時間培養後,Cont群には高浸透圧ストレス負荷の1時間前に,p38i1μM,JNKi10μM,ERKi10μM,EGCG5,10,20μM,およびEGCG3”Me5,10,20μMを添加した.その1時間後,Hyper群は培養液を高浸透圧ストレスmediumに置換し,ただちに,各MAPKiおよびカテキン類をCont群と同じ濃度で添加した.両群ともその状態で培養を続け,各時点のサンプルを実験に供した.5.高浸透圧負荷後のアポトーシス細胞の経時的解析HCE細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種し,先に示した条件で24時間培養後,高浸透圧負荷を行った.その後1,3,6,15,24時間時点で抽出し,MuseRCellAnalyzer(MerckMillipore,Germany)にて,MuseTMAnnexinVandDeadCellKit(EMDMilliporeCorporation,USA)を用いて,アポトーシス細胞の表面に提示されたホスファチジルセリン(PS)とアネキシンV-PEが結合する割合から,アポトーシス細胞の割合を検出した.6.高浸透圧負荷後のIL.6生成量の経時的変化測定HCE細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種868あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(108) し,24時間培養後,高浸透圧負荷を行った.その後1,3,6,15,24時間時点の上清をサンプルとし,Enzyme-LinkedImmunoSorbentAssay(ELISA法)にてHRP標識抗リン酸化IL-6抗体と発色試薬を用いてIL-6を検出し,HumansIL-6InstantELISA(eBioscience,AffymetrixInc,CA,USA)を用いて,マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.7.高浸透圧負荷1時間後のMAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能測定HCE細胞,HeLa細胞を1×105cells/mLに調整し,96穴プレートに播種し,24時間培養した.その後,各MAPKiおよび,HCE細胞については5,10,20μMEGCG,EGCG3”Meを,HeLa細胞については10μMEGCG,EGCG3”Meを添加し,その1時間後,高浸透圧ストレス負荷を行い,1時間後のMAPKリン酸化能を測定した.細胞は,HRP標識抗リン酸化各MAPK抗体と発色基質を用いてリン酸化各MAPKをそれぞれ検出し〔RayBioRCell-Basedp38(Thr180/Tyr182)ELISAkit,RayBioRCell-basedJNK(Thr183/Tyr185)ELISAkit,RayBioRCell-BasedERK(Thr180/Tyr182)ELISAkit(以上,RayBiotech,Inc.,GA,USA)〕を用いてマイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.8.EGCG,EGCG3”Me添加による高浸透圧負荷24時間後のIL.6生成量の測定HCE細胞,HeLa細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種し,24時間培養後,EGCG(5,10,20μM),EGCG3”Me(5,10,20μM)およびp38i(1μM),JNKi(10μM),ERKi(10μM)を添加し,その1時間後,高浸透圧ストレス負荷を行い,24時間後のIL-6生成量をHumansIL-6InstantELISA(eBioscience,Inc.,CA,USA)を用いて,マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.9.67kDaLaminineReceptor(67LR)の免疫細胞染色HCE細胞を3×105cells/mLに調整し,ChamberSlideTMで24時間培養後,EGCG(10μM),EGCG3”Me(10μM)を添加し,その1時間後に浸透圧負荷を行った.負荷後1時間で細胞をホルマリン固定し,ENVISION染色システムを用い,一次抗体〔Anti-67kDaLamininReceptor抗体MLuC5(ab3099);Abcam,UK〕,を2時間反応させ,その後,二次抗体とパーオキシダーゼが結合しているデキストランポリマー試薬を反応させて,核や細胞質の染色を行った.10.統計処理実験結果は平均±標準偏差(n=3.12)で示した.HCE細胞,HeLa細胞におけるHyper群でのパラメーターはt検定を用いてCont群と比較検討した.また,HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷後のMAPKリン酸化能,IL-6生成量(109)に対するカテキン類の抑制効果についてはANOVA-Bonferroni多重比較検定を用いてHyper群と比較検討し,p<0.05以下を有意とした.II結果1.高浸透圧ストレス負荷によるアポトーシス細胞の経時的変化図1AにHCE細胞に高浸透圧ストレス負荷を施した後の1,3,5,15,24時間後のアポトーシス細胞の経時的変化を,AnnexinVを用いてアポトーシス細胞の割合(%)で示した.Hyper群は高浸透圧ストレス負荷後,アポトーシス細胞の割合が経時的に上昇し,6時間以降,Cont群と比べ有意な増加を認めた(n=6,p<0.01).図1BにHCE細胞とHeLa細胞の高浸透圧ストレス負荷24時間後のアポトーシス細胞の割合(%)を示した.HeLa細胞においても,高浸透圧ストレス負荷によりアポトーシス細胞の割合は有意に上昇した(n=3,p<0.01).2.高浸透圧ストレス負荷によるIL.6生成量の経時的変化図2AにHCE細胞に高浸透圧ストレス負荷1,3,6,15,24時間後のIL-6生成量の経時的変化を示した.Hyper群は高浸透圧ストレス負荷により,IL-6生成量が経時的に上昇し,15時間以降,Cont群と比べ有意に上昇した(n=6,p<0.01).図2BにHCE細胞とHeLa細胞の高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL-6生成量を示した.HeLa細胞もHyper群はCont群に比べ有意な増加を認めたが,その生成量はHCE細胞に比べ明らかに低値を示した.3.HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷によるERK,JNKおよびp38MAPKリン酸化能とカテキン類の抑制効果図3にHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷1時間後のERK(A),JNK(B),p38MAPK(C)のリン酸化能を示した.高浸透圧ストレス負荷によるERKリン酸化能の変化は認められなかった(n=6).高浸透圧ストレス負荷後1時間での,JNKおよびp38MAPKのリン酸化能はCont群と比較し有意に上昇した.JNKリン酸化能の上昇に対し,EGCGはいずれの濃度においても有意な抑制を示した(n=12,p<0.01).一方,p38MAPKリン酸化能の上昇に対しては,EGCG3”Meで濃度依存的に有意な抑制を示した(n=6,p<0.01,0.05)が,EGCGは5μMで有意な抑制効果を示した(n=6,p<0.05)が,10,20μMでは変化は認められなかった.一方,HeLa細胞においては,高浸透圧ストレス負荷による,ERK,JNK,p38MAPKのリン酸化能に有意差は認めなかった.(ERK:Cont群1.525±0.058,Hyper群1.590±0.055;n=6.JNK:Cont群1.472±0.075,Hyper群1.556±あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016869 ABA2(%)1.8(%)#$1001001.690****901.4Phosphop38/totalp38ratioPhosphoJNK/totalJNKratioPhosphoERK/totalERKratio**80RateofApoptoticcells1.210.80.60.40.270605040303020200(μM)1010001361524Incubationtime(hours)HCEcellsHeLacellsBContHyper21.81.61.4図1高浸透圧ストレス負荷後のアポトーシス細胞の割合HCE細胞またはHeLa細胞における高浸透圧ストレス負荷後のアポトーシス細胞の割合を,MuseTMCellAnalyzerにてAnnexinVを用いて測定した.A:HCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷後1,3,6,15,24時間後のアポトーシス細胞の経時的変化.平均±標準偏差,n=6,*p<0.05,**p<0.01vsCont(t検定).B:高浸透圧ストレス負荷24時間後のHCE細胞とHeLa細胞におけるアポトーシス細胞の比較.平均±標準偏差,n=3,#p<0.01,$p<0.01vsCont(t検定).AB**1.2******1**0.80.60.40.20(μM)(pg/mL)(pg/mL)C24504501.81.61.41.2**1**0.8****0.60.40.2400(24h)(24h)(24h)(24h)400$#350****350300300IL-6levels2502502002001501501001005050000(1361524μM)Incubationtime(hours)HyperContHCEcellsHeLacells図2高浸透圧ストレス負荷後のIL.6生成量HCE細胞またはHeLa細胞における高浸透圧ストレス負荷後のIL-6生成量を,ELISA法を用いて測定した.A:HCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷後のIL-6生成量の1,3,6,15,24時間後の経時的変化.平均±標準偏差,n=6.*p<0.05,**p<0.01vsCont(t検定).B:高浸透圧ストレス負荷後24時間のHCE細胞とHeLa細胞におけるIL-6生成量の比較.平均±標準偏差,n=3,#p<0.01,$p<0.01vsCont(t検定)870あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016図3高浸透圧負荷1時間後のMAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能とカテキン類による抑制効果HCE細胞にMAPKi,EGCG(5,10,20μM),EGCG3Me(5,10,20μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後1時間インキュベートし,各MAPKのリン酸化能をELISA法にて測定した.結果は,全MAPKに対するリン酸化されたMAPKの割合で示した.A:ERKリン酸化能,B:JNKリン酸化能,C:p38MAPKリン酸化能.平均±標準偏差,n=6.12,*p<0.05,**p<0.01vsHyper(ANOVA-Bonferroni多重比較検定).(110) 0350400450(pg/mL)**********(ContHyperp38i(1)(10)EGCG(5)(10)(20)(5)(10)(20)0350400450(pg/mL)**********(ContHyperp38i(1)(10)EGCG(5)(10)(20)(5)(10)(20)IL-6levels300250200150図4高浸透圧負荷後24時間後のIL.6生成量に対するカテキン類の抑制効果100HCE細胞にJNKi,p38MAPKi,EGCG(5,10,20μM),50EGCG3Me(5,10,20μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後24時間インキュベートし,培養液の上清を用い,ELISA法にてIL-6生成量を測定した.平均±標準偏差,n=6.*p<0.05,**p<0.01vsHyper(ANOVA-Bonferroni多重比較検定).μM)ContHyperEGCGEGCG3”Me図5高浸透圧ストレス負荷後1時間の67LRに対する免疫細胞染色HCE細胞に,EGCG(10μM)またはEGCG3Me(10μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後1時間インキュベートし,細胞をホルマリン固定後,ENVISION染色システムを用い,一次抗体として抗67LR抗体を2時間反応させた後,二次抗体とペルオキシダーゼが結合しているデキストランポリマー試薬を1時間反応させて,核や細胞質の染色を行った(×200).(111)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016871 0.080;n=6.p38MAPK:Cont群0.529±0.060,Hyper群0.529±0.014;n=6).4.HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL.6生成に対するカテキン類の抑制効果図4にHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL-6生成量に対するEGCG,EGCG3”Meの抑制効果を示した.高浸透圧ストレス負荷後24時間で,Cont群と比べIL-6生成量は有意に上昇した(n=12,p<0.01).これに対しEGCG3”MeでIL-6生成量は濃度依存的に抑制され,20μMで有意な抑制効果を認めた(n=6,p<0.01).一方,EGCGでは抑制効果は認められなかった.5.高浸透圧ストレス負荷による67LR発現誘導の免疫細胞染色図5にEGCGまたはEGCG3”Meを添加したHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷1時間後の67LRの免疫細胞染色を示す.67LRは,カテキンの受容体として見出されている膜蛋白で6),EGCGで67LRの明らかな発現誘導が確認された.一方,EGCG3”Meではcontrolと比べ変化は認められなかった.III考按ドライアイ患者においては,涙液浸透圧とドライアイの重症度が相関するといわれている.米国でのドライアイ診断基準にあたるDryEyeWorkShop(DEWS)Reportによると,涙液浸透圧の正常カットオフ値は316mOsm/Lとされている2,7).ドライアイ患者における涙液浸透圧は平均326.9±22.1mOsm/Lであり,健常人の平均302±9.7mOsm/Lに比べかなり高く7),涙液中に炎症性サイトカインが増加するという報告がある8,9).角膜細胞を用いて塩化ナトリウムまたはスクロースを添加した培養液(350.600mOsm/L)を用いて高浸透圧ストレス負荷を施した報告が散見され,とくに450mOsm/L以上の高浸透圧負荷により,炎症性サイトカインの著明な上昇を認めたなどの報告10,11)がある.そこで今回,HCE細胞に高浸透ストレス負荷(423mOsm/L)を行った結果,アポトーシスの割合と,炎症性サイトカイン(IL-6)の生成量の経時的増加が確認され,炎症が惹起されていることが確認された.今回,データは示していないが,TNF-a,IL-1bも同様に測定した結果,TNF-a生成量は有意差はなく,IL-1bは検出限界以下であった.細胞外からの種々刺激により活性化され,核へのシグナル伝達を媒介するMAPKリン酸化能を測定した結果,高浸透圧ストレス負荷1時間でJNKとp38MAPKリン酸化能の有意な上昇が確認されたが,ERKでは変化が認められなかった.MAPKのなかでもとくに,JNK,p38MAPKは,UV,ROS(reactiveoxygenspecies),高浸透圧,熱ショックなどの物理化学的ストレスなどによって活性化されるストレス応答キナーゼで,アポト872あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016ーシス誘導などに深く関与している.今回の高浸透圧ストレス負荷により,HCE細胞ではJNK,p38MAPKの活性化およびIL-6生成量の明らかな増加が確認されたが,HeLa細胞においてはいずれも認めなかった.このことから,このストレスはHCE細胞に由来するものと判断し,カテキン類による抑制効果を検討した.近年,カテキン類を代表とする茶葉成分に関する研究報告が散見される.緑茶に含まれるEGCGは茶特有のポリフェノール成分で,他の植物には見出されていない4).最近,新規カテキンのEGCG3”Meが見出された.日本緑茶の「べにふうき」「べにふじ」といった品種に多く含まれており,いわゆる代表的な品種である「やぶきた」にはまったく含まれていない.先にも述べたが,緑茶カテキンには多彩な生理機能が解明されており,なかでも,抗腫瘍作用や抗アレルギー作用は,EGCGが多種の細胞の細胞膜表面に局在している67kDalamininereceptor(67LR)に結合することで活性を示すことが報告されている6).EGCGは67LRを介した癌細胞における細胞増殖抑制作用のほか,ヒト好塩基球細胞株におけるヒスタミン放出抑制作用やIgE受容体発現低下作用などが報告されている12).今回のHCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷では,JNK,p38MAPKを介してIL-6を生成することで,炎症が惹起されていることが示唆された.この炎症に対する,EGCGまたはEGCG3”Meの抑制効果について検討した結果,JNKリン酸化能はEGCGで,p38MAPKリン酸化能はEGCG3”Meで抑制されることが示唆された.また,IL-6生成量はEGCG3”Meで濃度依存的に抑制されたのに対し,EGCGでは変化がないか高濃度では逆に増加する結果となった.これまでに,腫瘍細胞に対するEGCGの抗腫瘍効果なども報告されており12,13),高濃度のEGCGによる細胞障害作用が現れたものと考えられる.EGCGおよびEGCG3”Meを添加し,高浸透圧ストレス負荷1時間後,67LRの免疫細胞化学染色を行った結果,EGCG3”MeよりもEGCGで強い発現誘導が確認された.このことから,EGCGはおもに67LRへの結合を介してシグナル伝達されているのに対し,EGCG3”Meには67LRとは別の経路が関与していることが示唆された.すなわち,EGCG3”MeはEGCGに比べ脂溶性が高いことから,膜を直接透過する可能性が考えられる.以上のことから,それぞれ異なった細胞内シグナル伝達経路を介して抗炎症作用を示し,その作用はEGCGよりもEGCG3”Meのほうがより効果的である可能性が示唆された.Leeら14)は,0.1%EGCG溶液の点眼により角膜上皮障害が改善したと報告している.さらに,EGCGやEGCG3”Meは飲用後,血中への移行も確認されている.すなわち,毛細血管が豊富である結膜に移行し,眼表面の抗炎症作用を示す(112) 可能性は高い.市販のペットボトル入りべにふうき緑茶を,約200ml飲用したときの摂取量とAUC(areaunderthebloodconcentration-timecurve)の割合で比較すると,移行の割合はEGCG3”MeのほうがEGCGに比べて6.5倍高いことが示されている15).また,アレルギー性鼻炎患者を対象としたヒト介入試験において,EGCG3”Me摂取により眼の痒みや流涙を含む花粉症症状の明らかな軽減作用がみられたと報告されており,その際のEGCG3”Me摂取量は34mg/dayとされている16).これは市販のペットボトル1.5本分(約750ml)の飲用に相当する.涙液浸透圧と血漿浸透圧に強い相関があり,飲水自体に涙液浸透圧を下げるとの報告17,18)があることから,日常的に茶を飲用する習慣がある日本人にはドライアイによる高浸透圧ストレス誘発炎症に対しても,抗炎症効果が期待できるかもしれない.以上のことから,べにふうき緑茶飲用がドライアイ治療に有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)UchinoM,YokoiN,UchinoYetal:Prevalenceofdryeyediseaseanditsriskfactorsinvisualdisplayterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,20132)MichaelAL,GaryNF:Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease.OculSurf5:75-92,20073)SternME,PflugfelderSC:Inflammationindryeye.OculSurf2:124-130,20044)山本(前田)万里:抗アレルギー効果のある茶葉成分.日本補完代替医療学雑誌3:53-60,20065)CavetME,HarringtonKL,VollmerTRetal:Antiinflammatoryandanti-oxidativeeffectsofthegreenteapolyphenolepigallocatechingallateinhumancornealepithelialcells.MolVis17:533-542,20116)TachibanaH,KogaK,FujimuraYetal:AreceptorforgreenteapolyphenolEGCG.NatStructMolBiol11:380381,20047)TomlinsonA,KhanalS,DiaperCetal:Tearfilmosmolarity-determinationofareferentfordryeyediagnosis.InvestOphthalmolVisSci47:4309-4315,20068)NaKS,MokJW,KimJYetal:Correlationsbetweentearcytokines,chemokines,andsolublereceptorsandclinicalseverityofdryeyedisease.InvestOphthalmolVisSci53:5443-5450,20129)BoehmN,RiechardtAI,WiegandMetal:Proinflammatorycytokineprofilingoftearsfromdryeyepatientsbymeansofantibodymicroarrays.InvestOphthalmolVisSci52:7725-7730,201110)LuoL,LiDQ,CorralesRMetal:Hyperosmolarsalineisaproinflammatorystressonthemouseocularsurface.EyeContactLens31:186-193,200511)LiDQ,ChenZ,SongXJetal:StimulationofmatrixmetalloproteinasesbyhyperosmolarityviaaJNKpathwayinhumancornealepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci45:4302-4311,200412)立花宏文:緑茶カテキンの受容体とシグナリング.生化学81:290-294,200913)SuzukiY,MiyoshiN,IsemuraM:Health-promotingeffectsofgreentea.ProcJpnAcadSerBPhysBiolSci88:88-101,201214)LeeHS,ChauhanSK,OkanoboAetal:Therapeuticefficacyoftopicalepigallocatechingallate(EGCG)inmurinedryeye.Cornea30:1465-1472,201115)Maeda-YamamotoM,EmaK,ShibuichiI:Invitroandinvivoanti-allergiceffectsof‘benifuuki’greenteacontainingO-methylatedcatechinandgingerextractenhancement.Cytotechnology55:135-142,200716)安江正明,大竹康之,永井寛ほか:「べにふうき」緑茶の抗アレルギー作用並びに安全性評価:軽症から中等症の通年性アレルギー性鼻炎患者,並びに健常者を対象として.日本食品新素材研究会誌8:65-80,200517)WalshNP,FortesMB,Raymond-BarkerPetal:Iswhole-bodyhydrationanimportantconsiderationindryeye?InvestOphthalmolVisSci53:6622-6627,201218)FortesMB,DimentBC,DiFeliceUetal:Tearfluidosmolarityasapotentialmarkerofhydrationstatus.MedSciSportsExerc43:1590-1597,2011***(113)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016873

眼部から分離された腸球菌と便中の腸球菌の比較解析

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1043.1046,2014c眼部から分離された腸球菌と便中の腸球菌の比較解析戸所大輔*1向井亮*1江口洋*2岸章治*1*1群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学*2徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部視覚病態学野ComparativeAnalysisbetweenEnterococciIsolatedfromEyeandFecalEnterococciDaisukeTodokoro1),RyoMukai1),HiroshiEguchi2)andShojiKishi1)1)DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool目的:眼部から分離される腸球菌が腸内細菌に由来するか否か調べること.方法:白内障手術前の結膜.からEnterococcusfaecalisが分離された3名とE.faecalisによる術後眼内炎の1名の便から腸球菌を分離した.E.faecalisが分離された場合,パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行いゲノムDNAの相同性を調べた.また各E.faecalis株の病原性因子探索も行った.結果:結膜.からE.faecalisが分離された3名のうち1名の便からE.faecalisが分離された.結膜.と便のE.faecalis株のPFGEパターンは異なっていた.他の患者の便培養では2名からE.avium,1名からE.faeciumが分離された.眼部と便から同一株が検出されたケースは1例もなかった.結論:今回の検討では,眼部E.faecalisが腸内細菌に由来していたケースはなかった.Purpose:Toinvestigatewhetherenterococciisolatedfromtheeyearederivedfromintestinalflora.Method:Threepatientsplanningcataractsurgery,whoseconjunctivalsacsmearswereEnterococcusfaecalis-positive,andonepatientwithpostoperativeendophthalmitisduetoE.faecalis,underwentfecalbacterialculture.WhenE.faecaliswasisolatedfromthestool,thegenomicDNAsoftheocularandfecalstrainswerecomparedbypulsed-fieldgelelectrophoresis(PFGE).VirulencefactorswerealsoexaminedagainsteachE.faecalisstrain.Results:E.faecaliswasisolatedfromthestoolof1ofthe3patientswhoseconjunctivalsacswereE.faecalis-positive.ThePFGEpatternsoftheocularandfecalstrainsisolatedfromthatpatientweredifferent.E.aviumfrom2patientsandE.faeciumfrom1patientwereisolatedfromfecalculturesoftheotherpatients.Ultimately,nopatientpossessedtheidenticalstraininbotheyeandstool.Conclusion:Inthisstudy,E.faecalisintheeyewasnotderivedfromintestinalmicroflora.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1043.1046,2014〕Keywords:腸球菌,結膜.,術後眼内炎,便培養,パルスフィールドゲル電気泳動.enterococci,conjunctivalsac,postoperativeendophthalmitis,fecalculture,pulsed-fieldgelelectrophoresis.はじめに腸球菌(enterococci)は通性嫌気性のグラム陽性球菌であり,ヒト腸管内の常在菌の一つである.通常健常者に対して病原性はないが,免疫不全患者に対して尿路感染症,カテーテル感染,心内膜炎,敗血症などを起こす日和見感染菌である.眼科領域においては,Enterococcusfaecalisが重篤な術後眼内炎を起こすことで知られている.白内障手術後眼内炎の起炎菌はブドウ球菌属(Staphylococcusspp.)やアクネ菌(Propionibacteriumacnes)など眼表面の常在菌が主体であり,眼内炎からの検出株と常在菌の染色体DNAプロファイルが一致した報告1)からも,術後眼内炎の起炎菌の由来は眼表面の常在菌であると考えられている.過去に白内障手術前患者の結膜.培養を行った報告で,高齢者において結膜.からE.faecalisがまれに分離されることがわかっている2.4).筆者が過去に192名の白内障手術予定の患者に対し結膜.擦過部の細菌培養を行ったところ,3名の結膜.からE.faecalisが分離された.分離頻度は1.6%で,この3名はいずれも80歳前後の高齢者だった5).このようにまれに結膜.から分離されるE.faecalisは術後眼内炎の起炎菌となっている可能性が高く,腸球菌眼内炎の原因および病態を解明〔別刷請求先〕戸所大輔:〒371-8511前橋市昭和町3-39-22群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学Reprintrequests:DaisukeTodokoro,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicine,3-39-22Showa-machi,Maebashi,Gunma371-8511,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)1043 するうえで重要である.また,筆者らは過去にE.faecalisによる術後眼内炎症例において眼内レンズと便から同一の株が分離された症例を報告した6).しかし,結膜.の腸球菌が患者自身が腸管内に保持している菌株に由来するのか,もしくは環境中に存在する菌株に由来するのか,などの特徴は不明である.今回筆者らは,白内障手術前の結膜.からE.faecalis株が分離された患者3名とE.faecalisによる術後眼内炎の1名を対象に便培養を行い,眼部のE.faecalisが腸内細菌に由来するか否かをパルスフィールドゲル電気泳動(pulsed-fieldgelelectrophoresis:PFGE)を用いて調べた.また,各株の病原性因子の探索および薬剤感受性試験も併せて行ったので報告する.I対象および方法群馬県内の総合病院における平成16年11月から平成18年2月までの1年4カ月間の白内障手術予定の患者192名(男81名,女111名)のうち,結膜.培養でE.faecalisが分離された3名5)(症例1:79歳,男性,症例2:81歳,男性,症例3:78歳,女性)およびE.faecalisによる白内障術後眼内炎の1名(症例4:84歳,女性)を対象とした.前者3名の既往歴は,症例1が高血圧症,前立腺肥大症,脳梗塞,症例2が心房細動,症例3が高血圧症,高脂血症を有していたが,消化器疾患の既往を持つ患者はなかった.結膜.から分離されたE.faecalis株はそれぞれE.faecalisKS-E,E.faecalisKI-E,E.faecalisKO-Eと名付けた.白内障術後眼内炎の症例(症例4)は,平成17年9月に近医での白内障手術の2日後に急性眼内炎を発症し,初診時の矯正視力は0.3だった.既往歴には高血圧症,糖尿病,C型肝炎を有していた.同日硝子体切除術と眼内レンズ摘出術を施行し,最終視力は1.5と良好だったケースである.術中採取した前房水および眼内レンズの細菌培養からそれぞれE.faecalisFM-E1,E.faecalisFM-E2が分離された.以上4名の患者に対し,入院日に同意を得て便を採取しEnterococcus属の選択分離培地である胆汁エスクリン寒天培地に検体を塗布した.37℃にて24時間好気培養を行い,培地の黒変を伴う黒色のコロニーを単離し,ddl遺伝子シークエンス法7)およびBBLクリスタルRGP同定キット(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)により菌種同定を行った.便からE.faecalisが分離された場合,PFGEを行い眼部と便由来のE.faecalis株のゲノムDNAの相同性を調べた.PFGEは既報に従って行い8),制限酵素SmaIにて処理したゲノムDNAパターンを比較した.得られたPFGEパターンはTenoverらの分類基準9)に従って分類した.病原性因子については,溶血毒素とgelatinase/serineproteaseの有無を調べた.溶血毒素は5%ヒト血液寒天培地1044あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014による溶血テストを行い,b溶血環の有無を観察した.Gelatinaseについては,3%ゼラチン添加Todd-Hewitt寒天培地によるゼラチン液化テストを行った.Gelatinaseとserineproteaseは同一プロモーターにより転写され,gelatinase産生株はserineproteaseも同時に産生すること10)からserineprotease活性の測定は省略した.薬剤感受性試験はMueller-Hinton寒天培地およびEtestR(シスメックス・ビオメリュー株式会社)を用い,添付のマニュアルに従って行った.II結果結膜.からE.faecalisが分離された3名の患者のうち,1名(症例3)の便からE.faecalisが分離された(この株をE.faecalisKO-Fと命名).2名(症例1,症例2)の便からはE.aviumが分離され,E.faecalisは分離されなかった.術後眼内炎の患者(症例4)の便からはE.faeciumが分離され,やはりE.faecalisは分離されなかった.今回分離されたE.faecalis6株(結膜.由来3株,便由来1株,眼内炎由来2株)の病原性因子探索の結果を表1に示す.E.faecalisKS-EとE.faecalisKI-Eは溶血毒素を生産し,gelatinase/serineproteaseは生産しなかった.E.faecalisKO-Eは溶血毒素とgelatinase/serineproteaseのいずれも生産しなかった.E.faecalisKO-Fは溶血毒素のみを生産した.眼内炎由来のE.faecalisFM-E1,E.faecalisFM-E2はいずれの病原性因子も生産しなかった.各種抗菌薬に対する薬剤感受性試験の結果を表2に示す.2株(E.faecalisKS-EとE.faecalisKI-E)にトブラマイシン高度耐性,1株(E.faecalisKS-E)にエリスロマイシン耐性を認め,キノロン耐性およびバンコマイシン耐性はなかった.セフェム系およびアミノグリコシド系抗菌薬に対しては自然耐性を示した.今回のE.faecalis6株に対しPFGEを行った.同一患者(症例3)から分離されたE.faecalisKO-EとE.faecalisKO-Fのバンドパターンは異なっており,これら2株は同一株ではなかった(図1).結膜.から分離された3株も,すべて異なる株だった.眼内炎の前房水と眼内レンズからの分離株であるE.faecalisFM-E1とE.faecalisFM-E2のバンドパターンは同一で,この2株は同一株であることがわかった.結果,今回の検討において,眼部と便から同一のE.faecalis株が分離された症例はなかった.III考按なぜ腸内細菌である腸球菌が眼内炎の起炎菌となるのか,眼内炎を起こした腸球菌はどこから来たのか,眼科医であれば誰しも疑問に思ったことがあるのではないか.しかし,結膜.からの腸球菌の分離頻度が高くないうえに,腸球菌によ(118) 表1結膜.,便,術後眼内炎からの分離株と病原性因子Serine溶血毒素GelatinaseproteaseEnterococcusfaecalisKS-E+..EnterococcusfaecalisKI-E+..EnterococcusfaecalisKO-E…EnterococcusfaecalisKO-F+..EnterococcusfaecalisFM-E1…EnterococcusfaecalisFM-E2…表2結膜.,便,術後眼内炎から分離されたE.faecalis株の薬剤感受性E.faecalisE.faecalisE.faecalisE.faecalisE.faecalisKS-EKI-EKO-EKO-FFM-E1/E2CTRX>256>256>256>256>256CAZ>256>256>256>256>256DRPM44442TOB>1,024>1,024161616EM>2560.250.50.1250.25LVFX22224VCM22222最小発育阻止濃度(mg/dl)CTRX:セフトリアキソン,CAZ:セフタジジム,DRPM:ドリペネム,TOB:トブラマイシン,EM:エリスロマイシン,LVFX:レボフロキサシン,VCM:バンコマイシン.る術後眼内炎の頻度がきわめて低いことから,前向き研究によりこの問題を明らかにするのは簡単ではない.筆者らは,E.faecalis眼内炎症例において起炎菌株と同一の株が便から分離された経験6)から,結膜.から通過菌として分離される腸球菌が腸管内の常在腸球菌に由来しているのではないかと考え,眼部からE.faecalisが分離された患者を対象に今回の調査を行った.細菌の伝播経路や同一クローンの拡散を調べるには遺伝子型別解析を行う必要があり,これにはPFGEやrandomlyamplifiedpolymorphicDNAanalysis(RAPD)などフラグメント解析と近年急速に普及したmultilocussequencetyping(MLST)などの配列解析がある.MLST法は菌株のグローバルな広がりをみるのに優れた方法であるが,同一施設内での菌株の一致を証明するにはいまだPFGEがゴールドスタンダードであり,今回はPFGEを行った.結膜.からの腸球菌の分離頻度は1.6.4.8%で2.5),分離された症例はすべて高齢者であった3.5).腸球菌が有意に高齢者から分離される理由については,ブドウ球菌属(Staphylococcusspp.),アクネ菌(P.acnes),コリネバクテリウム属(Corynebacteriumspp.)などからなる常在細菌叢のバランスが高齢になると崩れてくることが多いためと考えられ(119)症例1症例2症例3症例4(kb)Y123456L365242.5285194225145.59748.5Y:Yeastchromosomes,SaccharomycescerevisiaeL:Lambdaladders図1結膜.,便,術後眼内炎から分離されたE.faecalis株の染色体DNAのパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)レーン1:E.faecalisKS-E,レーン2:E.faecalisKI-E,レーン3:E.faecalisKO-E,レーン4:E.faecalisKO-F,レーン5:E.faecalisFM-E1,E.faecalisFM-E2.レーン1.5は異なるPFGEパターンを示す.レーン5と6のバンドパターンは同一である.る.レンサ球菌や緑膿菌などの通過菌もやはり高齢者を中心に分離される3,4).興味深かったのは,腸管内にはE.faecalis以外にもE.faecium,E.durans,E.aviumなどさまざまな菌種が存在するにもかかわらず11)眼表面からはE.faecalisしか分離されなかったことで,過去の報告でも同様の傾向である2.5).星らは白内障術前患者295例に対し結膜.と鼻前庭の培養検査を施行し,E.faecalisは結膜.から4.4%の頻度で分離されたのに対し,鼻前庭からは分離されなかったことを報告している12).一般に細菌には特定の組織親和性がみられる.腸球菌は腸管粘膜,泌尿生殖器粘膜,心内膜に感染を起こすのに対し,下気道粘膜には感染しない.E.faecalisと腸管上皮細胞との接着にはヘパリンやヘパラン硫酸など硫酸化グリコサミノグリカンが関与していることがわかっており13),結膜や鼻粘膜上皮との親和性に関しても今後の研究が期待される.また,今回便培養を行った4症例のうち2例からE.avium,1例からE.faecalis,1例からE.faeciumが分離された.便から分離される腸球菌の優位菌種はE.faecium,次いでE.faecalisであり,E.aviumが分離される頻度は低いとされる11).今回の検討では眼部からE.faecalisが分離された症例に対して便培養を行ったため,検体の採取日が眼と便で一致していない.便からE.faecalisが分離されなかった症例においても,日を変えて再検することで他の菌種が分離される可能性は否定できない.今回の検討で,結膜.とあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141045 便からE.faecalisが分離されたのは1例(症例3)のみであり,結膜.のE.faecalisKO-E株と便のE.faecalisKO-F株は同一でなかった.結果として,今回の検討では5株(うち2株は同一株)の眼部由来E.faecalisのうち,腸内細菌に由来しているケースはなかった.結膜.の通過菌として分離されるE.faecalisは患者の保持する腸内細菌由来ではなく環境由来である可能性があり,今後多数例での検討を要すると思われた.文献1)SpeakerMG,MilchFA,ShahMKetal:Roleofexternalbacterialflorainthepathogenesisofacutepostoperativeendophthalmitis.Ophthalmology98:639-649,19912)平松類,星兵仁,川島千鶴子ほか:結膜.内常在菌の季節・年齢性.眼科手術20:413-416,20073)岩崎雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜.内細菌叢と薬剤感受性率.あたらしい眼科23:541-545,20064)志熊徹也,石山善三,廣瀬麻衣子ほか:東京都新宿区と山口県柳井市における白内障手術予定患者の結膜ぬぐい液細菌検査の比較.臨眼59:891-895,20055)戸所大輔:特集術後眼内炎の最近の話題腸球菌眼内炎の病態.IOL&RS22:130-133,20086)戸所大輔,岸章治,池康嘉:溶血毒素を生産する腸球菌による術後眼内炎の症例.あたらしい眼科23:229-231,20067)OzawaY,CourvalinP,GalimandM:IdentificationofenterococciatthespecieslevelbysequencingofthegenesforD-alanine:D-alanineligases.SystApplMicrobiol23:230-237,20008)MurrayBE,SinghKV,HeathJDetal:ComparisonofgenomicDNAsofdifferentenetrococcalisolatesusingrestrictionendonucleaseswithinfrequentrecognitionsites.JClinMicrobiol28:2059-2063,19909)TenoverFC,ArbeitRD,GoeringRVetal:InterpretingchromosomalDNArestrictionpatterns:criteriaforbacterialstraintyping.JClinMicrobiol33:2233-2239,199510)GilmoreMS,CoburnPS,NallapareddySRetal:Enterococcalvirulence.Theentetococci(GilmoreMS),p301354,ASMPress,Washington,D.C.,200211)GeraldWT,CookG:Entetococciasmembersoftheintestinalmicrofloraofhumans.Theenterococci(GilmoreMS),p101-132,ASMPress,Washington,D.C.,200212)星最智,大塚斎史,山本恭三ほか:結膜.と鼻前庭の常在細菌の比較.あたらしい眼科28:1613-1617,201113)SavaIG,ZhangF,TomaIetal:Novelinteractionsofglycosaminoglycansandbacterialglycolipidsmediatebindingofenterococcitohumancells.JBiolChem284:18194-18201,2009***1046あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(120)

眼科医療従事者におけるMRSA保菌の検討

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(87)689《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(5):689.692,2011cはじめに現在,エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術は世界中で幅広く行われている.特に,laserinsitukeratomileusis(LASIK)の有効性は非常に高い1).一方で,エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術後の合併症の一つである角膜感染症が問題となってきている.LASIK後の角膜感染症の頻度は0.03%から0.31%と報告されていて,頻度は少ないが,重篤な視力障害を後遺症とする感染症をひき起こすことがある2~6).特に,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)角膜炎は治療に抵抗性であり,たとえ治療が奏効しても角膜混濁を残して視力低下を招くため7),患者のqualityofvisionは著しく低下する.Solomonらは屈折矯正手術後に生じたMRSA角膜炎の文献的検索を行い,12例中9例が医療従事者であることを指摘した7).また,わが国ではNomiらがepi-〔別刷請求先〕北澤耕司:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KojiKitazawa,M.D.,BaptistEyeClinic,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN眼科医療従事者におけるMRSA保菌の検討北澤耕司*1,2外園千恵*2稗田牧*2星最智*2,3木村直子*2坂本雅子*4木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*3藤枝市立総合病院眼科*4一般財団法人阪大微生物病研究会Methicillin-resistantStaphylococcusaureusCarriersamongOphthalmicMedicalWorkersKojiKitazawa1,2),ChieSotozono2),OsamuHieda2),SaichiHoshi2),NaokoKimura2),MasakoSakamoto4)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMuncipalGeneralHospital,4)ResearchFoundationforMicrobialDiseasesofOsakaUniversity目的:眼科医療従事者を対象に鼻前庭の培養検査を行い,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌率について検討した.方法:対象は京都府立医科大学眼科(KPUM)およびバプテスト眼科クリニック(BEC)に勤務する医師およびコメディカルで,内訳はKPUMが医師38名とコメディカル4名,BECが医師6名,コメディカル30名の計78名である.培養用スワブを用いて鼻前庭より検体を採取し,BECではさらに片眼の結膜.培養を行った.結果:KPUMでは医師2名(4.8%),BECでは医師1名と看護師1名,合計2名(5.6%)の鼻前庭よりMRSAを検出した.両施設を合わせた眼科医療従事者では4名/78名(5.1%)の保菌率であった.結膜.にMRSAが検出された例はなかった.一般健常人と比較して,眼科医療従事者のMRSA保菌率は高かった.結論:大学病院,眼科専門クリニックのいずれもMRSA保菌者が存在した.保菌率は約5%であり,一般健常人より高かった.Weinvestigatedtherateofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)carriersamongophthalmicmedicalworkers.Thesubjectscompriseddoctors(38)andmedicalstaff(4)atKyotoPrefecturalUniversityofMedicine(KPUM),anddoctors(6)andmedicalstaff(30)atBaptistEyeClinic(BEC).Samplescollectedfromthenasalcavitybyswab,aswellasfromthelateralconjunctivalsacintheBECgroup,werecultured.MRSAwasfoundinthenasalcavityin2doctors(4.8%)intheKPUMgroupand1doctorand1nurse(5.6%)intheBECgroup.MRSAwasnotfoundintheconjunctivalsacofanysubject.TherateofMRSAcarriersamongophthalmichealthcareworkerswassignificantlyhighincomparisonwithhealthypersons.MRSAcarrierswerefoundamongophthalmicmedicalworkersinboththeuniversityhospitalandtheophthalmicspecialclinic;therateofMRSAcarrierswasalmostthesameinbothgroups.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):689.692,2011〕Keywords:眼科医療従事者,MRSA,保菌率,鼻前庭,結膜.ophthalmicmedicalworkers,MRSA,rateofcarrier,nasalcavity,conjunctivita.690あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(88)LASIK後のMRSA角膜感染症の2症例中1症例が医療従事者であったと報告しており8),患者が医療従事者であることは屈折矯正手術後角膜感染症のリスクファクターであると考えられる.病院全職員9.11)や療養型病院12),耳鼻科病棟13)を対象とした医療従事者のMRSA保菌率の報告はあるが,眼科医療従事者を対象としてMRSA保菌率を調べた報告は,筆者らの知る限りない.そこで今回,眼科医療従事者を対象に鼻前庭と結膜.の培養検査を行い病院別,職種別に比較,さらに一般健常人の鼻前庭のMRSA保菌率を比較,検討したので報告する.I対象および方法対象は京都府立医科大学眼科(KPUM)およびバプテスト眼科クリニック(BEC)に勤務する医師またはコメディカルである.内訳はKPUMが医師38名とコメディカル4名(看護師3名,医療介助1名),BECが医師6名,コメディカル30名(看護師16名,視能訓練師8名,医療介助6名)の計78名であり,糖尿病やアトピーなど,基礎疾患を有するものはいなかった.KPUMは男性21名,女性21名,BECは男性5名,女性31名であった.平均年齢はKPUMが33.2±7.7歳,BECが34.2±7.8歳,KPUMとBECの両施設では33.7±7.7歳であった.十分なinformedconsentを行い,同意を得たうえで,KPUMでは2005年12月,BECでは2009年12月に検査を施行した.KPUMでは培養用スワブを用いて鼻前庭より検体を採取し,MRSAチェックR(ニッスイプレートMSO寒天培地)を用いて培養を行った.この培地では通常の培地と比べて,MRSAとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)以外の菌の発育を抑制するためコロニーが観察しやすく,48時間培養で菌の検出が可能であるといったメリットがある.MRSAチェックRにおいてコロニーを確認できた陽性者より,再度検体を採取して阪大微生物病研究会にて細菌培養を実施,オキサシリンの最小発育阻止濃度(MIC)を測定してMRSAの有無を判定した.BECでは培養用スワブを用いて鼻前庭と片眼の結膜.より検体を採取した.その検体を採取同日に京都微生物研究所に送付して細菌培養を行い,オキサシリンのディスク法でMRSAの有無を判定した.得られた結果をもとに,1)病院別にMRSA保菌率を比較,2)職種別にMRSA保菌率を比較,3)既報における一般健常人の鼻前庭のMRSA保菌率と比較,検討した.II結果KPUMでは医師2名(4.8%),BECでは医師1名と看護師1名,合計2名(4.1%)の鼻前庭よりMRSAを検出し,検出者はいずれも無症候性の保菌者であった.大学病院と眼科専門クリニックのMRSA保菌率は同程度であり(図1),また,BECとKPUMの両施設を合わせた眼科医療従事者では4名/78名(5.1%)の保菌率であった(図1).結膜.にMRSAが検出された例はなかった.さらに職種別の保菌率を検討したところ,医師3名/44名(6.8%),看護師1名/19名(5.3%),その他のコメディカル0名/15名(0.0%)であり,医師,看護師はその他の職種よりもMRSA保菌率が高い傾向にあった(図2).過去の文献によると,一般健常人のMRSA保菌率は1.1.1.98%14.16)である.これらの報告と今回の保菌率を比較したところ,どの報告と比較しても眼科医療従事者は一般健常人より保菌率は高かった.また,最もn数の多い小森ら14)の報告と比較して,眼科医療従事者のMRSA保菌率は一般健常人より有意に高かった(p=0.005)(表1).表1眼科医療従事者と一般健常人の鼻前庭MRSA保菌率の比較陽性陰性保菌率(%)今回(眼科医療従事者)4745.1小森ら(一般健常人)87151.1Abuduら(一般健常人)42741.4Kennerら(一般外来患者)84041.98眼科医療従事者は一般健常人と比較するとMRSA保菌率は高く,最もn数の多い小森らの報告と比較すると有意に眼科医療従事者でのMRSA保菌率が高かった(*p=0.005,c2検定).*n=42n=36医師3名看護師1名(5.1%)n=78医師1名看護師1名(5.6%)KPUMBEC両施設医師2名(4.8%)図1鼻前庭MRSA保菌率(KPUM,BEC)KPUMでは医師2名(4.8%),BECでは医師1名,看護師1名(5.6%)のMRSA保菌率であった.眼科医療従事者全体(KPUM+BEC)では5.1%の保菌率であった.医師n=443名(6.8%)その他1名(5.3%)n=15看護師n=190名(0%)図2眼科医療従事者の職種間別MRSA保菌率医師,看護師はその他の職種よりもMRSA保菌率が高い傾向にあった.(89)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011691III考按今回の検討により,大学病院,眼科専門クリニックのいずれもMRSA保菌者が存在し,保菌率は約5%でほぼ同程度であった.Abuduらはバイミンガル在住で16歳以上の健常人の鼻前庭培養を行い,MRSAの保菌率が1.5%(4名/274名)であったことを報告した15).Kennerらは健康な外来患者404名の鼻前庭培養を行い,MRSA保菌率が1.98%(8名)であったことを報告した16).小森らは医療従事者でない一般健常人723名の鼻前庭培養を行い,MRSA保菌者が8名(1.1%)であったと報告した14).したがって今回得られた保菌率は過去の一般健常人の報告(1.1.1.98%)と比較した場合,いずれの報告よりも高く,最もn数の多い小森らの報告14)と比較すると有意に眼科医療従事者でのMRSA保菌率が高かった(p=0.005,c2検定)(表1).一方,病院内全職員を対象としたMRSA保菌調査では7.7.9.4%9.11),療養型病院における医療スタッフのMRSA保菌率は7.9%12)という報告がある.今回得られた眼科医療従事者の鼻前庭MRSA保菌率は,他科領域の報告と比較して高くはないといえる.しかし,眼科は他の診療科と比較して悪性腫瘍や低栄養状態など,全身の免疫不全を伴う患者が少ないことを考慮すると眼科医療従事者のMRSA保菌率が4.1.4.8%であったことは,決して低い保菌率ではないと考えられた.職種別のMRSA保菌率は医師3名/44名(6.8%),看護師1名/19名(5.3%),その他のコメディカル0名/15名(0%)であり,医師,看護師はその他の職種よりもMRSA保菌率が高い傾向であった.伊藤らは病院職員547名に対して鼻前庭MRSA保菌率を調査しており,医師5名/81名(6.2%),看護師12名/337名(3.6%),その他のコメディカル1名/129名(0.8%)であり,患者との接触が多い職種ほど保菌率の高いことを指摘した10).MRSAは医療従事者を介する交差感染によって伝播していく.手洗いの適正な手技の習得ならびに院内感染の意識を高めることでMRSA患者検出率および新規MRSA患者の検出率を下げることができるため17,18),眼科医療従事者においても標準予防策を徹底し,MRSAの伝播を防ぐことが必須であると考える.今回の研究で示したように,眼科を含めた医療従事者ではMRSA保菌率が高い.過去の報告から,屈折矯正手術患者が医療従事者である場合は術後のMRSA感染に注意が必要である.また,標準予防策をとって眼科医療従事者におけるMRSA保菌率を下げることは,医療従事者自身の健康を守るためにも重要と思われる.今回検出したMRSAについて,抗菌薬の感受性試験や遺伝子型の検討はできていない.最近,市中獲得MRSAが報告され,これは病院獲得型に比べ毒素の産生性が強いと報告されている19).市中獲得型か病院獲得型かなどを含め,眼科医療従事者が保菌するMRSAの分子疫学的特徴について検討し,さらにDNA解析を行い,感染経路について検討することが今後の課題である.IV結論大学病院の眼科,眼科専門クリニックの医療従事者ではいずれもMRSA保菌者が存在し,保菌率は4.5%であった.一般健常人と比較すると,眼科医療従事者のMRSA保菌率は高く,標準予防策を徹底する必要がある.文献1)SchallhornSC,FarjoAA,HuangDHetal:WavefrontguidedLASIKforthecorrectionofprimarymyopiaandastigmatism.AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology115:1249-1261,20082)LlovetF,RojyasV,InterlandEetal:Infectiouskeratitisin204,586LASIKprocedures.Ophthalmology117:232-238,20103)MoshirfarM,WellingJD,FeizVetal:Infectiousandnoninfectiouskeratitisafterlaserinsitukeratomileusisoccurrence,management,andvisualoutcomes.JCataractRefractSurg33:474-483,20074)deOliveiraGC,SolariHP,CiolaFBetal:CornealinfiltratesafterexcimerlaserphotorefractivekeratectomyandLASIK.JRefractSurg22:159-165,20065)SolomonR,DonnenfeldED,AzarDTetal:Infectiouskeratitisafterlaserinsitukeratomileusis:resultsofanASCRSsurvey.JCataractRefractSurg29:2001-2006,20036)KarpCL,TuliSS,YooSHetal:InfectiouskeratitisafterLASIK.Ophthalmology110:503-510,20037)SolomonR,DonnenfeldED,PerryHDetal:MethicillinresistantStaphylococcusaureusinfectiouskeratitisfollowingrefractivesurgery.AmJOphthalmol143:629-634,20078)NomiN,MorishigeN,YamadaNetal:Twocasesofmethicillin-resistantStaphylococcusaureuskeratitisafterEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,20089)酒井道子,阿波順子,那須郁子ほか:一施設全職員を対象としたMRSA検出部位と職種間の相違についてDNA解析を用いた検討.ICUとCCU29:905-909,200510)伊藤重彦,大江宣春,草場恵子ほか:病院職員のMRSA鼻前庭内保菌率調査とムピロシンによる除菌.環境汚染17:285-288,200211)WarshawskyB,HussainZ,GregsonDBetal:Hospitalandcommunitybasedsurveilanceofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus:previoushospitalizationisthemajorriskfactor.InfectControlHospEpidemiol21:724-727,200012)千葉直彦,久保裕義,横山宏:療養型病院におけるMRSA検出状況.山梨医学33:79-83,200513)土井まつ子,仲井美由紀,藤井洋子ほか:異なる病棟から分離されたMethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)株の疫学的検討.環境感染15:207-212,2000692あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(90)14)小森由美子,二改俊章:市中におけるメチシリン耐性ブドウ球菌の鼻前庭内保菌者に関する調査.環境感染20:164-170,200515)AbuduL,BlairI,FraiseAetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA):acommunity-basedprevalencesurvey.EpidemiolInfect126:351-356,200116)KennerJ,O’ConnorT,PiantanidaNetal:Ratesofcarriageofmethicillin-resistantandmethicillin-susceptibleStaphylococcusaureusinanoutpatientpopulation.InfectControlHospEpidemiol24:439-444,200317)斉藤真一郎,高橋真菜美,澤井孝夫ほか:MRSA多発病棟における定期的な手指消毒トレーニングの効果に関する検討.医療の質・安全学会誌2:152-156,200718)PittetD,HugonnetSHarbarthSetal:Effectivenessofahospital-wideprogrammetoimprovecompliancewithhandhygiene.Lancet356:1307-1312,200019)伊藤輝代,桑原京子,久田研ほか:市中感染型MRSAの遺伝子構造と診断(最新の知見).感染症学雑誌78:459-469,2004***