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特発性と判断した囊胞様黄斑浮腫を伴う網膜上膜の術前蛍光造影の検討

2026年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科43(9):1157.1163,2026c特発性と判断した.胞様黄斑浮腫を伴う網膜上膜の術前蛍光造影の検討林淳子岡野内俊雄野田雄己滝澤剛杉原佳恵戸島慎二中山弘基細川満人倉敷成人病センター眼科CFluoresceinAngiographicEvaluationBeforeSurgeryinIdiopathicEpiretinalMembraneAssociatedwithCystoidMacularEdemaJunkoHayashi,ToshioOkanouchi,YukiNoda,GouTakizawa,KaeSugihara,ShinjiToshima,HirokiNakayamaandMitsutoHosokawaCKurashikiMedicalCenterEyeCenterC目的:特発性と判断した.胞様黄斑浮腫(CME)を伴う網膜上膜(ERM)の術前フルオレセイン蛍光造影(FA)の所見および術後の浮腫再発や遷延との関連を検討する.対象と方法:2017年C1月.2023年C12月に倉敷成人病センターでCCMEを伴うCERMに対して術前にCFAを施行し,術後C6カ月以上経過観察が可能であったC33例C34眼を対象とした.初診時にぶどう膜炎所見を認める患者や黄斑浮腫を伴う疾患の既往がある患者は除外した.検討項目は,術前CFA所見(漏出所見の有無,性状,範囲),術前・術後C1カ月・術後C6カ月の矯正視力(logMAR換算),術後のCCMEの有無とした.研究デザインは後ろ向き研究とした.結果:CMEを伴うCERMのC34眼中C25眼(74%)に術前CFAで周辺部に漏出所見を認めた.漏出所見の内訳は,retinalvasculitis様所見がC22眼(88%),uveitis様所見がC3眼(12%)であった.Cretinalvasculitis様所見の多くはC1象限に限局していた(22眼中C12眼,55%).術後C1カ月のCCME再発はC25眼中C15眼(60%)あり,術前に漏出所見を認めた群で有意に多かった(p<0.05).結論:特発性と判断したCCMEを伴うCERMの多くは,検眼鏡的には認識できないサブクリニカルな炎症所見を伴っている.これらの患者では術後にCCMEが再燃・遷延化する可能性があり,このことを考慮した術後管理が必要である.CPurpose:ToCinvestigateCtheCrelationshipCbetweenCpreoperativeC.uoresceinangiography(FA).ndingsCandCpostoperativeCrecurrenceCorCpersistenceCofCcystoidCmacularedema(CME)inCeyesCwithCidiopathicCepiretinalCmem-brane(ERM)C.CSubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCincludedC34CeyesCofC33CpatientsCwithCERMCandCCMECwhoCunderwentCpreoperativeCFACandChadCatCleastC6CmonthsCofCfollow-upCatCKurashikiCCentralCHospitalCbetweenC2017CandC2023.CCasesCwithCuveitisCorCotherCCME-causingCdiseasesCwereCexcluded.CResults:PeripheralCleakageCwasCobservedCinC74%CofCtheCeyesConCpreoperativeCFA,CmainlyCwithCretinalCvasculitis-like.ndings(88%)C,Cand55%werelocalizedtoonequadrant.TherecurrencerateofCMEat1-monthpostoperativewassigni.cantlyhigherCinCtheCleakagegroup(60%,Cp<0.05)C.CConclusion:SubclinicalCin.ammationCmayCbeCpresentCinCERMCwithCCME,contributingtopostoperativerecurrenceorpersistenceofCME.Postoperativemanagementshouldconsiderthein.ammationcomponent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(9):1157.1163,C2026〕Keywords:網膜上膜,.胞様黄斑浮腫,網膜血管炎,蛍光造影検査.epiretinalmembrane,cystoidmacularede-ma,retinalvasculitis,.uoresceinangiography.Cはじめに斑偏位を引き起こす.ERMは大きく二つに分類され,網膜網膜上膜(epiretinalmembrane:ERM)は,黄斑部の網裂孔や網膜.離術後,ぶどう膜炎,糖尿病網膜症,網膜静脈膜上に形成された膜様組織であり,網膜皺襞や網膜肥厚,黄閉塞症,内眼手術などにより生じる続発性CERMと,ERM〔別刷請求先〕林淳子:〒C710-8522岡山県倉敷市白楽町C250倉敷成人病センター眼科Reprintrequests:JunkoHayashi,M.D.,KurashikiMedicalCenterEyeCenter,250Shiraku-cho,Kurashiki-shi,Okayama710-8522,JAPANC図1フルオレセイン蛍光造影(FA)での漏出所見およびOCTでの.胞様黄斑浮腫(CME)の定義a:retinalvasculitis様所見.Cb:uveitis様所見.Cc:OCT所見.周辺部網膜血管周囲に漏出(.)を認めたものをCretinalvasculitis様(Ca).脈絡膜からの漏出と考えられたものをCuveitis様(Cb)に分類した.CMEはCOCTで.胞状低反射領域を認め中心窩網膜厚の増加を伴うものと定義した(Cc).形成の原因となる疾患を伴わない特発性CERMとがある.検眼鏡および細隙灯検査で炎症所見はなく,特発性と考えられたCERMに.胞様黄斑浮腫(cystoidCmacularedema:CME)を伴うことがある1,2).一般的にCERMに伴うCCMEは手術により改善することが多いが,術後に再燃・遷延化する患者も存在することが知られている1,2).しかし,CMEを伴った特発性CERMに対して術前のフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)を施行した結果の報告はこれまでにない.そこで,本研究ではCCMEを伴い特発性と考えられたERMの術前CFA所見の特徴を分類して,術後のCCMEの経過との関連の有無を検討した.CI対象と方法1.対象2017年C1月.2023年C12月に倉敷成人病センター眼科で,特発性と診断したCCMEを伴うCERMに対して術前CFAを施行し,術後C6カ月以上経過観察が可能であったC33例C34眼(男性12例13眼,女性21例21眼,平均年齢70.1歳)を対象とした.なお,初診時に角膜後面沈着物,前房内炎症細胞,硝子体混濁など臨床的に明らかなぶどう膜炎を疑う所見を認めた患者や糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性など黄斑浮腫を伴う疾患の既往がある患者は除外した.後ろ向き研究をする際に当科倫理委員会での承認を得た(倫理委員会での承認番号:1925).C2.手術方法全例で同一術者(O.T.)によりつぎのとおりの手順で手術を施行した.アルコン社のCConstellationVisionSystemを使用し,25GもしくはC27Gを用いたCthreeportsystemを作製した.型どおりCZeiss社のCResight下で硝子体切除を行った.後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)が生じていない患者に対してはトリアムシノロンアセトニド(TA)にて硝子体を可視化しCPVDを起こした.BrilliantCBlueCG(BBG)による内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)染色後に,HOYAのCHHVQuartzlens下でおもに眼内鉗子を用いて黄斑部のCERMとCILMを.離した.当科では基本的にC50歳以上に対しては白内障手術を併施しており,本症例では有水晶体患者に対して白内障手術を全例併用した.全例とも術終了時のトリアムシノロン結膜下注射やトリアムシノロン硝子体内注射は施行しなかった.CII評価項目検討項目は,術前CFAの所見,術前・術後1カ月・術後C6カ月の矯正視力(best-correctedvisualacuity:BCVA),術後C1週,術後C1カ月・術後C6カ月の光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でCCMEの有無について後ろ向きに検討を行った.CMEは,水平断および垂直断で.胞状低反射領域を認め中心窩網膜厚の増加を伴うものと定義とした(図1c).さらに,CMEの再発は,硝子体術後完全に消失したにもかかわらず,再度出現した場合とした.また,CMEの遷延は,術後のCCMEの大きさにかかわらず,一度も消失しなかった場合と定義した.BCVAは少数視力をClogMAR(logarithmoftheminimumangleofresolution)に変換して評価した.術前CFAに関しては,漏出所見の有無と漏出様式を分類した.漏出の特徴として,網膜血管からの漏出をCretinalvasculitis様と定義(図1a)し,斑状漏出が多発する脈絡膜からの漏出をCuveitis様と定義(図1b)したうえで,漏出範囲をC1.4象限で分類した.統計解析には表1対象眼の内訳漏出所見(+)2C5眼漏出所見(C.)9眼p値男性:女性8:1C75:4C0.198a年齢68.6C±C6.53歳74.1C±C7.67歳C0.075b眼軸C24.25C±C1.67CmmC24.78C±C1.85CmmC0.215b水晶体:IOL17:86:3C0.538a緑内障(+)3:(.)2C2(+)1:(.)8C0.719aCPVD(+)23:(.)2(+)8:(.)1C0.616aERMstage(1:2:3:4)3:11:10:11:6:1:1C0.398c漏出+群C25眼と漏出C.群C9眼との患者背景を検討した.男女比,年齢,眼軸,水晶体および眼内レンズ比,緑内障の有無,後部硝子体.離(PVD)の有無,網膜上膜(ERM)stage分類(Govettoらの分類3))でそれぞれ検討したが,いずれも有意差は認めなかった.a:Fisher’stest,b:t-test,c:Pearsonchisquare.表2.胞様黄斑浮腫(CME)の有無と漏出所見の有無の表3術前FAの漏出所見の性状と範囲割合ERM/CME(+)ERM/CME(C.)漏出所見(+)C25C1漏出所見(C.)C9C9Retinal1象限2象限3象限4象限vasculitis様12眼3眼2眼5眼Uveitis様1象限2象限3象限4象限0眼0眼0眼3眼33例の僚眼のうち10眼はCMEを伴わない網膜上膜retinalvasculitis様とuveitis様に分類した結果,retinalvasculitis(ERM)があったが,1眼(10%)に周辺部網膜血管からのはC25眼中C22眼(88%),uveitis様はC25眼中C3眼(12%)であった.漏出を認めた.僚眼限定で症例数は少ないものの,CMEさらにそれらの範囲をC1.4象限に分類したところ,retinalCvas-を伴うかどうかで漏出所見の有無に有意差を認めた(p<culitis様所見は,1象限がC12眼,2象限がC3眼,3象限がC2眼,40.01;Fisher’sexacttest).象限がC5眼であった.uveitis様所見のC3眼はすべてC4象限で漏出t-test,Fisherの正確確率検定およびCMann-WhitneyU検していた.定を用い,p<0.05を統計学的有意とした.めなかった(Pearsonchisquare)(表1).CIII結果33例C32眼の僚眼のうちC10眼はCMEを伴わないCERMがあったが,うちC1眼(10%)に周辺部網膜血管からの漏出術前CFAでC34眼中C25眼に漏出所見を認め,9眼は漏出所を認めた.僚眼限定となり症例数は少ないものの,ERMで見を認めなかった.漏出所見を認めた群(以下,漏出+群)CMEを伴うかどうかでCFAの漏出所見の出現率に有意差を25眼と漏出所見を認めなかった群(以下,漏出C.群)9眼と認めた(p<0.01,Fisher’sexacttest)(表2).の背景を検討した.男女比は漏出+群,漏出.群で有意差は漏出の特徴として,retinalvasculitis様(図1a)およびなかった(FisherC’stest).年齢は漏出+群がC68.6C±6.53歳,uveitis様(図1b)で,漏出+群を分類したところ,retinal漏出.群がC74.1C±7.67歳で有意差はなかった(t-test).眼軸vasculitis様はC25眼中C22眼(88%),Uveitis様はC25眼中C3長は漏出+群でC24.25C±1.67mm,漏出C.群でC24.78C±眼(12%)であった.さらにそれらの範囲をC1.4象限に分類1.85Cmmで有意差はなかった(t-test).有水晶体眼は漏出+したところ,retinalvasculitis様所見は,1象限がC12眼,2群中C17眼のC68%,漏出C.群中C6眼のC67%で有意差はなか象限がC3眼,3象限がC2眼,4象限がC5眼であった.uveitisった(Fisher’stest).漏出+群は3眼で,漏出.群はC1眼で様所見のC3眼はすべてC4象限で漏出していた(表3).緑内障と診断されていたが有意差は認めなかった(FisherC’s術後視力は,漏出所見の有無にかかわらず改善傾向を示test).PVDは漏出+群中C23眼のC92%,漏出C.群中C8眼のし,両群間で有意差は認められなかった(Mann-WhitneyU89%に生じており,有意差は認めなかった(FisherC’stest).test,p>0.05)(図2).CERMstage分類(Govettoらの分類3))では漏出+群で,漏出+群C25眼と漏出C.群C9眼を術後C1週,術後C1カ月,Cstage1がC3眼,stage2がC11眼,stage3がC10眼,stage4術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.がC1眼であり,漏出C.群ではstage1が1眼,stage2が6術後1週では,漏出+群25眼中9眼(36%)にCMEがあ眼,stage3が1眼,stage4が1眼であったが,有意差は認り,漏出C.群C9眼中C1眼(11%)にのみCCMEを認めたが,漏出所見(+)(logMAR)漏出所見(-)1.00.80.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0術前術後術後1カ月6カ月Mann-WhitenyUtest.p>0.05.図2術後視力の経過漏出所見の有無にかかわらず視力は術後改善傾向であった.漏出所見の有無で視力の改善率に差はなかった.302520151050図3網膜上膜(ERM)/術前.胞様黄斑浮腫(CME)(+)34眼での漏出(+)群と(-)群それぞれのCMEの有無(術後1週間,1カ月後,6カ月後)漏出+群C25眼と漏出.群C9眼を術後C1週間,1カ月,6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週間は,漏出+群C25眼中C9眼(36%)にCCMEがあり,漏出.群C9眼中C1眼(11%)にのみCCMEを認めたが,有意差は認めなかった.術後C1カ月では,漏出+群C25眼中C15眼に,漏出.群C9眼中C1眼にCCMEを認めて有意差がみられた(Fisher’stest).術前に漏出所見があると有意にCCMEの再発・遷延を認める結果となった.術後C6カ月では漏出+群C25眼中CCMEはC6眼に減少しており,CMEは改善傾向にあった.術後C6カ月時点で漏出+群と漏出.群に有意差はなかった.有意差は認めなかった.術後1カ月では,漏出+群25眼中めて有意差がみられた(Fisher’stest).術前に漏出所見があ15眼(60%)に,漏出C.群9眼中1眼(11%)にCMEを認ることで有意にCCMEの再発・遷延を認める結果となった.181614121086420有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群術後1週間術後1カ月術後6カ月n.s.:notsigni.cant.*:p<0.05.CME(+)CME(-)図4網膜上膜(ERM)/術前.胞様黄斑浮腫(CME)(+)/漏出+群25眼での有水晶体眼とIOL眼それぞれのCMEの有無(術後1週間,1カ月,6カ月)漏出+群C25眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後C1週間,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週間は,有水晶体群C17眼中C6眼(35%)にCCMEがあり,IOL群C8眼中C3眼(38%)にのみCCMEを認めたが,有意差は認めなかった.術後C1カ月では,有水晶体群C17眼中C13眼に,IOL群C8眼中C2眼にCCMEを認めて有意差がみられた(Fisher’stest).有水晶体眼で白内障手術を併用すると有意にCCMEの再発・遷延を認める結果となった.術後C6カ月では有水晶体群C17眼中CCMEはC6眼に減少しており,CMEは改善傾向にあった.術後C6カ月時点で有水晶体群とCIOL群に有意差はなかった.術後C6カ月では漏出+群C25眼中CCMEはC6眼(24%)に減少しており,漏出+群と漏出.群に有意差はなかった(図3).34眼中C23眼が有水晶体眼であり,漏出+群25眼中17眼(68%),漏出.群9眼中C6眼(67%)に白内障手術を併用した.白内障手術後に.胞様黄斑浮腫がときに生じることが知られている4,5).漏出+群C25眼と漏出C.群C9眼に対してそれぞれ有水晶体眼と眼内レンズ(intraocularlens:IOL)眼に分けてさらに検討した.漏出+群C25眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後1週,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週は,有水晶体群C17眼中C6眼(35%)にCMEがあり,IOL群8眼中3眼(38%)にのみCMEを認めたが,有意差は認めなかった.術後1カ月では,有水晶体群C17眼中C13眼(76%)に,IOL群C8眼中C2眼(25%)にCMEを認めて有意差がみられた(FisherC’stest).漏出+群では,IOL眼よりも白内障手術併用のほうがCCMEの再発・遷延を認めやすい結果となった.術後C6カ月では,有水晶体群C17眼中CCMEはC6眼(35%)に減少しており,CMEは改善傾向にあった.術後C6カ月時点で有水晶体群とCIOL群に有意差はなかった(図4).漏出.群C9眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後C1週,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週,術後C1カ月,術後C6カ月いずれの場合でも,有水晶体群C6眼中C1眼(17%)にCCMEがあり,IOL群C3眼すべてでCCMEの再燃はみられず,有意差はなかった(図5).漏出.群では,IOL眼と白内障手術併用とでCMEの再発・遷延に差はなかった.術後C6カ月で漏出+群でCCMEが残存したC6眼の漏出様式を検討した.いずれもCretinalvasculitis様であり,uveitis様のCCMEは認めなかった.retinalvasculitis様所見の6眼のうちC1象限のみがC2眼,2象限がC2眼,4象限がC2眼であった(表4).CIV考按既報では,ぶどう膜炎のC40.60%にCERMを合併し6),また,活動性のあるぶどう膜炎のC30%以上にCCMEを合併すると報告されている7).さらに,特発性CERMの術後CCME発症率は,12.8.26.5%と報告があり1),特発性CERMにCMEを併発していると,術後にCCMEが持続することと関連していることが報告されている2).術前にCCMEを伴ったCERMに対しての本研究では,術後1カ月時点でC34眼中C16眼(47%)にCCMEを認め,既報よりも高い割合となった.一見特発性と考えられるCERMにCCMEを発症するメカニ76543210有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群n.s.n.s.n.s.111505050333術後1週間術後1カ月術後6カ月CME(+)CME(-)n.s.:notsigni.cant.図5網膜上膜(ERM)/術前.胞様黄斑浮腫(CME)(+)/漏出-群9眼での有水晶体眼とIOL眼それぞれのCMEの有無(術後1週間,1カ月,6カ月)漏出.群C9眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後C1週間,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週間,術後C1カ月,術後C6カ月いずれの場合でも,有水晶体群C6眼中C1眼(17%)にCCMEがあり,IOL群C3眼すべてでCMEの再燃はみられず,有意差はなかった.表4術後6カ月時点でCMEが残存した6眼の漏出所見の内訳Retinal1象限2象限3象限4象限vasculitis様2眼2眼0眼2眼術後C6カ月で漏出+群のCCMEが残存したC6眼の漏出様式を検討した.いずれもCRetinalVasculitis様の漏出所見を認め,Uveitis様所見は術後C6カ月にはCCMEは認めなかったC.RetinalVasculitis様所見のC6眼のうちC1象限のみがC2眼,2象限がC2眼,4象限がC2眼であった.ズムとしていくつかの報告がなされており,Romanoらは,ERMにおけるCCME発症のメカニズムとして,機械的牽引に加えて炎症性サイトカインの関与を指摘している8).また,特発性CERMにおいてもさまざまな程度の炎症性変化が存在することをCJoshiらは免疫組織学的検討により報告している9).これらは,Zandiらの報告した特発性CERMにおけるインターロイキン(interleukin:IL)-6,IL-8などの炎症性サイトカインの発現増加と一致する10).Buらは,ERMの形成過程において,グリア細胞や炎症性サイトカインが重要な役割を果たしていることを示している11).さらに,Ferreiraらは血液網膜関門の破綻と炎症性サイトカインの関与を指摘している12).Kwonらは,FAを用いた研究で,特発性CERMの半数において微小血管漏出を認めたと報告している13).これらの報告から,特発性CERMの存在によって生産された炎症性サイトカインが血液網膜関門を破綻し微細な血管炎,つまり術前CFAでの漏出所見を呈した可能性も否定できないが,本研究の結果とは矛盾した.本研究では,漏出所見のあったC25眼(A群)と漏出所見のなかったC9眼(B群)の間にCGovetto3)の提案したCERMstage分類の有意差はなく,CERMstage分類の重症度に関連なく術前CFAに漏出所見を認めた.つまり,特発性CERMが高度に網膜を障害したために炎症サイトカインが増し,網膜血液関門が破綻してCCMEが生じたわけではない可能性が考えられる.加えて,術前FAで観察されたCretinalvasculitis様所見はおもにC1象限に限局しており,黄斑部で生産された炎症性サイトカインが周辺部の網膜血管の網膜血液関門の破綻に限局性に作用するとは考えにくい.われわれは術前CFAで観察された漏出所見は,検眼鏡的には検出されない微細な血管炎あるいはぶどう膜炎の潜在を示している可能性を考える.つまり,潜在性の軽微な網膜血管炎あるいはぶどう膜炎があると,ERMが生じた場合,炎症性サイトカインの影響も含めてCCMEを生じやすくなるのではないかと考えた.これは,僚眼でCCMEを伴ってないCERMとの比較で,CMEを伴うCERMのほうが術前CFAで漏出所見を有意に認めていたことに矛盾しない.しかし,これらの所見がCERMに続発した炎症性変化であったのか,あるいは特発性CERMにたまたま併存したサブクリニカルな炎症であったのか,あるいは特発性と判断したERMは続発性CERMであり,ベースに存在していた炎症であったのかについては,後ろ向きの本研究で厳密に判別することは困難である.つぎに,術後のCCMEの遷延・再燃についてである.本研究では,術前に漏出所見を認めた群で術後C1カ月のCCMEの発症率が有意に高かった.すなわち潜在的な炎症の存在がCMEの再燃・遷延化に関与している可能性がある.術後C6カ月時点で漏出+群のCCMEはC15例からC6例に減少したが,術後C1.6カ月では,点眼強化やCTATenon.下注射(4眼)などの治療介入を行っているため,この影響を考慮しなければならない.白内障あるいは硝子体術後の炎症によってCCMEが発症することについては多数の既報がある4,5,14).Mitsuiらは,ERMの術後早期における炎症マーカーの変動を報告している15).また,Hattenbachらは,炎症を伴うCERMに対する術後ステロイド投与の有効性を報告している16).本研究では,漏出+群でのみ術後C1カ月でCIOL眼に比べて白内障手術併用がCCMEを生じやすかった.このことは,白内障手術による影響が,漏出+群でより顕性化しやすい可能性を示しているのかもしれない.今回,特発性と判断したCERMではあるが,FAで炎症性所見を呈した患者においては,炎症性変化がCERMの病態やCCMEの発症・遷延に関与している可能性があり,続発性CERMとの境界が明確ではないと考えられる.実臨床ではCCMEを伴うからといって全例に侵襲的検査であるCFAを施行することは現実的ではない.したがって,本研究結果から,CMEを伴うCERMの手術を行うときには,潜在的に網膜の炎症を有する可能性を考慮した,術後の積極的な抗炎症治療,たとえば比較的長期のステロイド点眼の継続や非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrug:NSAID)点眼の長期継続での注意深い経過観察が必要であると考える.本研究は後ろ向き研究であるため,ERMとして診断・治療が行われており,FA所見を契機とした採血検査などの系統的なぶどう膜炎の精査ができていない点も限界である.また,34例の検討であり,n数が少ないなどの限界がある.これらの限界を克服するためには,多施設前向き研究による検証が必要であり,術前CFA所見と術後経過の関連についてのさらなる検討も重要である.CV結論CMEを伴う特発性と判断したCERMの一部には,FAでのみ検出可能なサブクリニカルな炎症所見を呈する患者が存在する.これらの炎症所見は術後のCCME再燃・遷延化に関連する可能性があるため,手術施行後は,積極的な抗炎症治療を考慮した長期の注意深い経過観察が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)VerplaetseCV,CvanCDijkCEHC,CFaridpooyaCKCetal:Post-(115)vitrectomyCmacularedema:sheddingClightConCincidenceCandriskfactors.OphthalmolTher15:1021-1031,C20262)FrisinaR,PinackattSJ,SartoreMetal:CystoidmacularedemaafterparsplanavitrectomyforidiopathicepiretinalCmembrane.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC253:C47-56,C20153)GovettoCA,CLalaneCRA,CSarrafCDCetal:InsightsCintoCepiretinalmembranes:presenceCofCectopicCinnerCfovealClayersCandCaCnewCopticalCcoherenceCtomographyCstagingCscheme.AmJOphthalmol175:99-113,C20174)GassCJD,CNortonEW:CystoidCmacularCedemaCandCpapill-edemaCfollowingCcataractCextraction.CArchCOphthalmolC76:646-661,C19665)三宅謙作,坂村静子,三浦花:水晶体摘出後の嚢胞状黄斑浮腫発生に対するCprostaglandinsの関与性(III).臨床眼科32:217-222,C19786)NicholsonBP,ZhouM,RostamizadehMetal:Epidemiol-ogyCofCepiretinalCmembraneCinCaClargeCcohortCofCpatientsCwithuveitis.OphthalmologyC121:2393-2398,C20147)AgarwalCA,CPichiCF,CInvernizziCACetal:DiseaseCofCtheyear:differentialCdiagnosisCofCuveiticCmacularCedema.COculImmunolInflammC27:72-88,C20198)RomanoMR,ComuneC,FerraraMetal:RetinalchangesinducedCbyCepiretinalCtangentialCforces.CJCOphthalmolC2015:372564,C20159)JoshiCM,CAgrawalCS,CChristoforidisJB:InflammatoryCmechanismsCofCidiopathicCepiretinalCmembraneCformation.CMediatorsInflamm2013:192582,C201310)ZandiCS,CTappeinerCC,CPfisterCIBCetal:VitrealCcytokineCprofileCdifferencesCbetweenCeyesCwithCepiretinalCmem-branesCorCmacularCholes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC57:C6320-6326,C201611)BuCSC,CKuijerCR,CvanCderCWorpCRJCetal:Immunohisto-chemicalCevaluationCofCidiopathicCepiretinalCmembranesCandCinCvitroCstudiesConCtheCeffectCofCTGF-βConCMullerCcells.InvestOphthalmolVisSci56:6506-6514,C201512)FerreiraCLB,CWilliamsCKA,CBestCGCetal:InflammatoryCcytokinesCasCmediatorsCofCretinalCendothelialCbarrierCdys-functionCinCnon-infectiousCuveitis.CClinCTranslCImmunolo-gyC12:e1479,C202313)KwonCHJ,CParkCSW,CLeeCJECetal:MicrovascularCleakageCisCaCpoorCprognosticCfactorCforCidiopathicCepiretinalCmem-brane:a.uoresceinangiographystudy.RetinaC41:2515-2522,C202114)SikorskiCBL,CMalukiewiczCG,CSta.ejCJCetal:TheCdiagnos-ticCfunctionCofCopticalCcoherenceCtomographyCinCdiabeticCmaculopathy.MediatorsInflammC2013:434560,C201315)MitsuiCK,CKogoCJ,CTakedaCHCetCal.CComparativeCstudyCofC27-gaugeCvsC25-gaugeCvitrectomyCforCepiretinalCmem-brane.Eye(Lond)C30:538-544,C201616)HattenbachCLO,CSpringer-WannerCC,CHoeraufCHCetal:CIntravitrealCsustained-releaseCsteroidCimplantsCforCtheCtreatmentofmacularedemafollowingsurgicalremovalofepiretinalCmembranes.COphthalmologicaC237:232-237,C2017あたらしい眼科Vol.43,No.9,2026C1163

診断に苦慮した網膜血管炎を伴う急性帯状潜在性網膜外層 症の1 例

2026年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(6):704.710,2026c診断に苦慮した網膜血管炎を伴う急性帯状潜在性網膜外層症の1例吉田咲季*1林勇海*1内田敦郎*1,2藤岡俊平*1,3富田洋平*1伴紀充*1栗原俊英*1篠田肇*1根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国家公務員共済組合連合会立川病院眼科*3川崎市立川崎病院眼科CACaseofAcuteZonalOccultOuterRetinopathywithRetinalVasculitisthatwasDifficulttoDiagnoseSakiYoshida1),IsamiHayashi1),AtsuroUchida1,2),ShumpeiFujioka1,3),YoheiTomita1),NorimitsuBan1),ToshihideKurihara1),HajimeShinoda1)andKazunoNegishi1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,FederationofNationalPublicServicePersonnelMutualAidAssociationsTachikawaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospitalC目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種と同時期に症状が出現し,両眼に網膜血管炎を伴い診断に苦慮した急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)のC1例を経験したので報告する.症例:25歳,女性.来院約C5カ月前に左眼の霧視が出現し,精査加療目的に慶應義塾大学病院へ紹介となった.矯正視力は右眼(1.2)左眼(1.2),左眼の前部硝子体に細胞を認めた.左眼の周辺部網膜が色調粗造で,フルオレセイン蛍光造影(FA)では両眼に網膜血管炎の存在が示唆された.光干渉断層計(OCT)で左眼優位に網膜外層構造が消失しており,網膜電図(ERG)では左眼で杆体応答,錐体応答が著しく減弱していた.視野検査で両眼のCMarriott盲点の拡大,左眼には進行性の輪状暗点を認めた.感染症,膠原病スクリーニングを含む全身精査を施行したが特記所見はなかった.症状出現の約C1カ月前からCCOVID-19ワクチンを接種していた.結論:本症例は診断に難渋したが,網膜血管炎を伴う網膜外層障害ではAZOORを鑑別に精査を行う必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteCzonalCoccultCouterretinopathy(AZOOR)withCretinalCvasculitisCthatCwasCdi.culttodiagnose.Case:A25-year-oldwomanbecameawareofblurredvisioninherlefteyeapproximately5monthsCpriorCtoCpresentation.CHerCvisualCacuityCwasC1.2CinCbothCeyes.CSlit-lampCandCfundusCexaminationsCrevealedCanteriorvitreouscellsandperipheralretinalcolorabnormalityinthelefteye.FluoresceinangiographysuggestedbilateralCretinalCvasculitis.COpticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCshowedCdisruptionCofCtheCouterCretinalClayers,Cpredominantlyinthelefteye.Electroretinogram.ndingsshowedasigni.cantreductioninrodandconeresponsesinthelefteye.Visual.eldtestingrevealedenlargementoftheMariotteblindspotinbotheyesandaprogressiveparacentralringscotomainthelefteye.Asystemicexaminationwasunremarkable.ShehadreceivedaCOVID-19CvaccinationCaboutC1CmonthCpriorCtoCsymptomConset.CConclusion:AZOORCshouldCbeCconsideredCinCtheCdi.erentialCdiagnosisofouterretinopathywithretinalvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):704.710,C2026〕Keywords:急性帯状潜在性網膜外層症,網膜外層障害,網膜血管炎,COVID-19ワクチン.acutezonaloccultouterretinopathy,outerretinopathy,retinalvasculitis,COVID-19vaccination.はじめに疾患概念で,若年女性の近視眼に好発し,おもに網膜外層の急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterreti-障害により,急性の視力低下や視野障害で発症する1,2).眼nopathy:AZOOR)は,1993年にCGassにより提唱された底写真や蛍光造影は正常または軽微な変化のみであることを〔別刷請求先〕吉田咲季:〒C160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SakiYoshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC704(110)特徴とするが,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)において網膜の一部に軽度の過蛍光や網膜血管の染色を呈する例も存在し,網膜血管炎を合併しうる3).また,網膜は組織学的にC10層構造を有し,網膜の動静脈は表層の神経線維層内を走行している.網膜血管炎は網膜内層に存在する網膜血管に生じる炎症であり,網膜血管の白鞘化や閉塞,血管漏出,軟性白斑,網膜出血などを示す4).後部ぶどう膜炎には網膜血管炎および網膜外層の視細胞や網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)に炎症を生じる疾患のいずれも含まれるが5),網膜血管と網膜外層は解剖学的に離れており,網膜外層障害と網膜血管炎を合併する疾患は比較的まれである.さらに,新型コロナウイルス感染症(coronavirusCdis-ease-2019:COVID-19)ワクチンの接種が開始されて以降,COVID-19ワクチンのさまざまな副反応が報告されており,眼科領域でも角膜移植後拒絶反応,ぶどう膜炎,急性黄斑神経網膜症(acuteCmacularneuroretinopathy:AMN)や網膜.離,網膜静脈閉塞症などの網膜疾患,視神経炎に至るまで多数の報告がある6).今回,COVID-19ワクチン接種と同時期に症状が出現し,診断に苦慮した網膜血管炎を伴うCAZOORのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:25歳,女性.既往歴:耳下腺良性腫瘍.家族歴:眼疾患なし.飼育歴:イヌ,ハムスター.摂食歴:特記すべき事項なし.海外渡航歴:直近C1年以内になし.ワクチン接種歴:20XX-1年9月13日,10月4日にCOVID-19ワクチン(ファイザー社製)を計C2回接種.現病歴:20XX-1年C10月頃に左眼の霧視を自覚し,2カ月で進行性に増悪した.前医でぶどう膜炎および網膜変性疾患を疑われ,20XX年C3月に慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介受診した.1年以内の眼外症状は,問診で頭痛,めまい,歯・歯肉の病気,ニキビ,かみそり負け,続いている咳,下痢,肩こり,腰痛と回答があった.経過:初診時,視力は右眼C0.4(1.2C×sph-0.75DCcyl-0.75DAx110°),左眼C0.4(1.2C×sph-1.25DCcyl-0.75DAx50°),眼圧は右眼C14mmHg,左眼C16mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で両眼とも前房は深く,炎症所見を認めず,左眼の前部硝子体中に軽度の細胞を認めた.眼底は,右眼は特記事項を認めず,左眼は周辺部の網膜の色調が粗造であった(図1).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)では,左眼優位にCellipsoidzone(EZ)が途絶しており,左眼は軽度の網膜内.胞を認めた(図2).眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)では,右眼は血管に沿った高自発蛍光を認め,左眼はとくに黄斑周囲に高自発蛍光を認めた(図3).FAでは,右眼は鼻側や耳側血管の一部から蛍光漏出があり,左眼にはびまん性の網膜毛細血管レベルの蛍光漏出を認め,左眼優位の網膜血管炎が示唆された(図4).Humphrey視野検査では,右眼ではCMarriott盲点の拡大を認め,左眼では求心性の視野狭窄を認めた.Gold-mann視野検査をC20XX年C3月に前医にて,同年C6月に当院にて施行し,右眼はCHumphrey視野検査同様にCMarriott盲点の拡大を認めたが,おおむね進行はなく,左眼はCMarriott盲点の拡大に加えて進行性の傍中心輪状暗点を認めた(図5a.d).網膜電図(electroretinogram:ERG)は,右眼は杆体応答,錐体応答ともに波形が保たれていたが,左眼はいずれも著しく減弱していた(図6).血液検査で血算・生化学検査に特記所見を認めなかった.感染症検査では,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性,rapidCplasmaCreagin(RPR)定性,TreponemaCpallidum(TP)抗体ともに陰性,ヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunode.ciencyvirus:HIV)陰性,結核菌特異的インターフェロン(interferon:IFN)C-γ(T-SPOT)陰性,血清抗トキソプラズマCIgM抗体陰性であった.水痘帯状疱疹ウイルス,単純ヘルペスウイルスはそれぞれCIgG抗体価のみ陽性で既感染パターンであった.各種自己抗体は,抗核抗体,抗環状シトルリン化ペプチド(cycliccitrullinatedpeptide:CCP)抗体,抗二本鎖CDNA(anti-doubleCstrandedDNA:dsDNA)抗体,抗リボヌクレオ蛋白質(ribonucleoprotein:RNP)抗体,抗CSm抗体,抗Sjogren症候群(SjogrenCsyndrome:SS)-A抗体,ミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体(myeloperoxidaseanti-neutrophilCcytoplasmicCantibody:MPO-ANCA),プロテネースC3-ANCA(proteinase3-ANCA:PR3-ANCA)は陰性で,抗リン脂質抗体は弱陽性であったが病的意義は乏しいと考えられた.ヒト白血球抗原(humanleukocyteanti-gen:HLA)は,A2,A24,B62,B35が陽性であり,関連性は低いと考えられた.当院リウマチ・膠原病内科に依頼し,画像検査を含めた全身精査を行ったが,Behcet病,全身性血管炎などの膠原病はすべて否定的と考えられた.FAおよびCERGの再検査は患者の同意が得られず未施行であったが,当院初診後はC2年以上,自覚症状,眼所見,ならびにOCT,FAF,Goldmann視野検査(図5e,f)などの検査所見に著変なく,視力良好で積極的治療の希望がないため,無治療で経過観察を継続している.本稿は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認を得ている(承認番号:20100003).図1眼底所見a,b:右眼.c,d:左眼.網膜周辺部の色調が粗造である.Cab図2光干渉断層計(OCT)所見a:右眼.で示す範囲にCellipsoidzone(EZ)の途絶を認めた.Cb:左眼.軽度の網膜内.胞に加えて,で示す範囲にCEZの途絶を認めた.図3超広角眼底自発蛍光(FAF)所見a:右眼.血管に沿った高自発蛍光を認めた.b:左眼.黄斑周囲に高自発蛍光を認めた.図4フルオレセイン蛍光造影(FA)所見a:右眼.鼻側や耳側血管の一部から蛍光漏出を認めた.Cb:左眼.びまん性の網膜毛細血管レベルの蛍光漏出を認めた.CII考按本症例は,当院初診時には発症から比較的時間が経過していたが,両眼性に網膜血管炎を伴う網膜外層障害を認めた.発症からC8カ月後には視野障害の進行の停止を確認し,矯正視力は保たれていた.眼底検査,FAで説明できない両眼の視野欠損,OCTで視野欠損部位に一致するCEZの消失,ERGにおいて左眼優位の振幅低下を認め,経過や全身精査結果から先天性,自己免疫性などの網膜疾患,その他のぶどう膜炎は否定的であったことから,AZOORと診断した3).若年女性の近視眼で,左眼の硝子体中に軽度の炎症所見を認め,FAFで自発過蛍光を示していることもCAZOORを示唆している3).一方で,わが国ではCAZOORに.胞様黄斑浮腫を合併した報告は少数であるが7),左眼においてCOCTで非常に軽微な網膜内.胞を認めた.本症例では,FAにて比較的強い網膜血管炎の所見を認めたため,網膜血管炎を主眼におき検討を重ねたこともあり,診断に至るまでに長時間を要した.Monsonらの報告によれば,AZOORのC46眼のうちC4眼(9%)において,FAで網膜血管炎を示唆する血管壁の組織染および蛍光漏出が認められた8).とくに日本人症例では,SaitoらがC50眼のうちC13眼(26%)で網膜血管炎を伴っていたと報告している.ただし,罹病期間と網膜血管炎の関連性については言及されておらず,本症例では発症からある程度時間が経過していたが,FAにてとくに左眼で活動性の高い網膜血管炎を認めたことから,発症時期にかかわらずCFAを評価する意義があると考えられた.また同報告では,網膜血管炎の有無は初診時および最終の矯正視力ならびにCHumphrey視野検査における平均偏差(meandeviation:MD)と有意な関連を認めなかったが2),本症例では網膜血管炎の強い左眼優位に網膜外層障図5Goldmann視野検査所見a,b:20XX年C3月の右眼(Ca)と左眼(Cb).c,d:20XX年C6月.右眼(Cc)はCMariotte盲点の拡大を認めたが,おおむね進行はなかった.左眼(Cd)はCMariotte盲点の拡大に加え,進行性の傍中心輪状暗点を認めた.Ce,f:20XX年C12月の右眼(Ce)と左眼(Cf).20XX年C6月と比較し,両眼ともおおむね進行はなかった.害やCERGの振幅低下を認めた.AZOORの活動性や重症度が網膜血管炎にどのようにかかわっているかは今後検討が必要である.さらに,FAFの過蛍光はCRPEの機能不全を,低蛍光はCRPEの消失・萎縮を示唆しており,FAFでは眼底やFAで指摘できない異常所見を検出できることがあるため活用すべきである9).本症例における鑑別診断として自己免疫性網膜症があげられ8),しばしば鑑別がむずかしいことがある.しかし,GassらはCAZOORでは通常C6カ月以内に視野障害の進行が停止すると述べており1),本症例の臨床経過は数年にわたる進行性の視野障害を示していないので,AZOORの経過に矛盾しないと考える.また,網膜血管炎と網膜外層障害を呈しうる疾患として,梅毒10)や眼トキソプラズマ症11)などの感染性ぶどう膜炎があげられるが,本症例は血液検査の結果から感染症は否定的であった.散弾状脈絡網膜症12),多発消失性白点症候群本症例正常例(28歳,女性)abcd(multipleCevanescentCwhiteCdotsyndrome:MEWDS)13)といった他の疾患でも報告はあるが,少数例である.両者を合併する病態として,MEWDSに網膜血管炎を併発した症例の既報では,炎症が網膜外層から網膜内層に波及すること,網膜外層の炎症とは別に網膜内層でも血管炎が同時に起こることの二つの可能性が考察されており13),網膜外層に主病巣が存在するCAZOORでは前者の可能性が高いと考える.さらに,本症例は症状出現と同時期にCCOVID-19ワクチ図6網膜電図(ERG)所見a:杆体応答.b:錐体応答.c:30CHz.icker応答.Cd:杆体C-錐体混合応答.右眼は杆体応答,錐体応答ともに波形が保たれていたが,左眼はいずれも著しく減弱していた.ンを接種しており,ワクチン接種との関連も否定はできない14,15).そして,COVID-19ワクチン接種後の網膜血管炎,網膜外層障害のいずれの報告も散見される一方で,両者を合併しているという点ではきわめてまれである.以上のように,AZOORは他疾患との鑑別が重要な網膜疾患であり,網膜血管炎を伴う網膜外層障害ではCAZOORの可能性を考慮し精査を行うことが重要と考えられた.利益相反富田洋平カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボ伴紀充カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボカテゴリーCP栗原俊英カテゴリーCF:ロート製薬株式会社,株式会社坪田ラボ,株式会社シード,株式会社レストアビジョンカテゴリーCI:株式会社坪田ラボ,株式会社レストアビジョンカテゴリーCP根岸一乃カテゴリーCF:株式会社シード,株式会社レストアビジョン,エイエムオー・ジャパン株式会社,参天製薬株式会社,株式会社.セルージョン,株式会社ジンズホールディングスカテゴリーCP文献1)GassCJD,CAgarwalCA,CScottIU:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathy:along-termfollow-upstudy.AmJOphthal-molC134:329-339,C20022)SaitoCS,CSaitoCW,CSaitoCMCetal:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathyCinJapaneseCpatients:clinicalCfeatures,CvisualCfunction,CandCfactorsCa.ectingCvisualCfunction.CPLoSCOneC10:e0125133,C20153)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班CAZOORの診断ガイドライン作成ワーキンググループ:急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン.日眼会誌C123:C443-449,C20194)PerezCY,CNeriCP,CPichiF:MultimodalCImagingCinCRetinalCVasculitis.Ophthalmologica247:203-213,C20245)StandardizationCofCUveitisNomenclature(SUN)WorkingGroup:DevelopmentCofCClassi.cationCCriteriaCforCtheCUveitides.AmJOphthalmolC228:96-105,C20216)ParmarCUPS,CSuricoCPL,CSinghCRBCetal:OcularCimplica-tionsCofCCOVID-19CinfectionCandCvaccine-relatedCadverseCevents.JPersMedC14:780,C20247)山川美聡,若月優,森隆三郎ほか:急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)に黄斑浮腫を合併したC1例.眼科C64:C773-779,C20228)MonsonDM,SmithJR:Acutezonaloccultouterretinop-athy.SurvOphthalmolC56:23-35,C20119)橋本勇希:AZOOR類縁疾患.RetinMed8:55-62,C201910)SunCCB,CLiuCGH,CWuCRCetal:Demographic,CclinicalCandClaboratorycharacteristicsofocularsyphilis:6-yearscaseseriesCstudyCfromCanCeyeCcenterCinCEast-China.CFrontCImmunol13:910337,C202211)MathisT,DelaunayB,FavardCetal:Hyperauto.uores-centspotsinacuteoculartoxoplasmosis:anewindicatorofouterretinalin.ammation.Retina40:2396-2402,C202012)TeussinkCMM,CHuisCInCHetCVeldCPI,CdeCVriesCLACetal:CMultimodalimagingofthediseaseprogressionofbirdshotchorioretinopathy.ActaOphthalmolC94:815-823,C201613)TakahashiCA,CSaitoCW,CHashimotoCYCetal:MultipleCeva-nescentCwhiteCdotCsyndromeCassociatedCwithCretinalCvas-culitis.IntMedCaseRepJ8:209-213,C201514)MalekiCA,CLook-WhyCS,CManhapraCACetal:COVID-19CrecombinantCmRNACvaccinesCandCseriousCocularCin.ammatorysidee.ects:realorcoincidence?JOphthal-micVisRes16:490-501,C202115)YasakaCY,CHasegawaCE,CKeinoCHCetal:ACmulticenterCstudyofocularin.ammationafterCOVID-19vaccination.JpnJOphthalmolC67:14-21,C2022***

14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症の1例

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1700.1703,2018c14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症の1例福井志保*1木許賢一*2山田喜三郎*3久保田敏昭*2*1別府医療センター眼科*2大分大学医学部眼科学教室*3大分県立病院眼科CACaseofBranchRetinalArteryOcclusionina14-Year-OldMaleShihoFukui1),KenichiKimoto2),KisaburoYamada3)andToshiakiKubota2)1)DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,OitaPrefecturalHospitalC14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症を経験したので報告する.溶連菌感染後に右眼の視野異常を主訴に受診し,右眼の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎があった.全身的には無菌性髄膜炎の所見とわずかなCPR3-ANCAの上昇以外は異常はなかった.網膜血管炎に対してプレドニゾロンC30Cmgより内服漸減を行い,その間に黄色ブドウ球菌感染による硬膜外膿瘍をきたし,保存的に加療された.その際もCPR3-ANCAの軽度上昇があった.網膜血管炎の原因としてCANCA関連血管炎や溶連菌感染後の自己免疫学的機序による血管炎が考えられたが,明らかな原因疾患は不明であった.CWeCreportCaCcaseCofCbranchCretinalCarteryCocclusionCinCaC14-year-oldCmale,CwhoCvisitedCourCdepartmentCbecauseCofCvisualCdisturbanceCafterChemolyticCstreptococcalCinfection.CExaminationCdisclosedCbranchCretinalCarteryCocclusioninhisrighteyeandretinalvasculitisbilaterally.AsepticmeningitisandslightlyincreasedPR3-ANCAintheserumwereobserved.Hewastreatedwithprednisolonefromadoseof30Cmgdailyforretinalvasculitis.Dur-ingCtheCterm,CepiduralCabscessCcausedCbyCStaphylococcusCaureusCoccurred.CAtCtheCtime,CPR3-ANCACwasCagainCslightlyCincreasedCinCtheCserum.CANCA-associatedCvasculitisCorCautoimmune-relatedCvasculitisCwereCspeculatedCasCcausesoftheretinalvasculitisandbranchretinalarteryocclusion,butthespeci.ccauseswereunknown.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1700.1703,C2018〕Keywords:網膜動脈分枝閉塞症,網膜血管炎,溶連菌感染,ANCA関連血管炎.branchretinalarteryocclusion,retinalvasculitis,hemolyticstreptococcusinfection,ANCA-associatedvasculitis.Cはじめに網膜動脈閉塞症は一般的に加齢に伴う動脈硬化や不整脈が原因となり,血栓や塞栓を原因として発症することが多く,高齢者に多い疾患である.若年者の網膜動脈閉塞症はまれで,心疾患,抗リン脂質抗体症候群や全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythematosus:SLE)などの膠原病,血液凝固異常などの基礎疾患を有する報告1.8)が多いが,原因不明のものもある11,12).今回,全身精査で明らかな原因疾患が不明の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎を併発した若年の症例を経験したので報告する.抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicCantibody:ANCA)の軽度上昇からCANCA関連血管炎の可能性や溶連菌感染後の自己免疫機序による血管炎の可能性が考えられた.I症例患者:14歳,男児.主訴:右眼視野異常.既往歴:左鼠径ヘルニア,僧帽弁閉鎖不全症(軽度),気管支喘息,アトピー性皮膚炎,犬・猫アレルギー.家族歴:父─乾癬,花粉症,母─アトピー性皮膚炎,弟─副鼻腔炎.生活歴:ハムスター飼育.現病歴:2010年C8月にC38℃台の発熱と頭痛が出現し,第3病日に小児科を受診した.咽頭拭い液溶連菌迅速検査が陽性で抗菌薬を処方された.第C8病日,発熱が持続するため別のかかりつけの小児科を受診し抗菌薬を変更され,第C10病〔別刷請求先〕福井志保:〒874-0011大分県別府市内竈C1473別府医療センター眼科Reprintrequests:ShihoFukui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,1473Uchikamado,Beppu874-0011,CJAPANC1700(124)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(124)C17000910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1初診時右眼眼底写真視神経乳頭耳下側の白色病変と網膜の白濁があり,網膜動脈分枝閉塞症と診断した.図3初診時右眼眼底写真(赤道部)血管周囲に白色病変があった.日には解熱した.第C12病日の起床時に右眼の見えにくさを自覚し,翌日に前医眼科を受診し右眼網膜動脈分枝閉塞症を指摘され同日紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C1.0(矯正不能),左眼C0.8(矯正1.0),眼圧は両眼ともにC11CmmHg,両眼の結膜充血があった.前房内炎症はなく,前医にて散瞳しており,中間透光体に異常はなかった.右眼眼底は視神経乳頭耳下側の動静脈交叉部に白色病変とそれより末梢の網膜の白濁があり,網膜動脈分枝閉塞症と診断した(図1).末梢静脈血管は怒張し,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では動脈閉塞部位は著明な網膜浮腫があり,隆起性の白色病変による動脈の圧迫が疑われた(図2a).また乳頭耳側に出血を伴った白色病変があり,OCTでは網膜外層浮腫(図2b)を呈図2a右眼OCT画像(動脈閉塞部位)著明な網膜浮腫があり,白色病変による動脈の圧迫が疑われた.図4b左眼OCT画像(白色病変部位)網膜浮腫を呈していた.し,右眼赤道部にも血管周囲の白色病変(図3),左眼後極にも白色病変(図4a)とその部位の網膜浮腫(図4b)があり,両眼の網膜血管炎が疑われた.Goldmann動的視野検査では図2b右眼OCT画像(黄斑部)網膜外層浮腫を呈していた.図4a初診時左眼眼底写真後極に白色病変があった.(125)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1701図5初診時Goldmann動的視野検査右眼鼻上側の視野欠損があった.図6右眼眼底写真(入院後数日)白色病変の周囲に出血が出現していた.動脈閉塞部位に一致した右眼鼻上側の視野欠損があった(図5).蛍光眼底造影はフルオレセインの皮内テストが強陽性で施行できなかった.発症から約C2日が経過していたため動脈閉塞症に対する加療は行わず,原因精査のため小児科に入院となった.全身検査所見:白血球数C9,100/μl,血小板数C352,000/μl,CCRP1.29Cmg/dl,IgG2,013Cmg/dl,IgE3,730CIU/ml,CHC5058.5CU/mlと軽度上昇していた.血液凝固検査は正常範囲内で,各種ウイルス抗体価や自己抗体の上昇はなく,PR3-ANCAはC3.5CU/mlと正常上限であった.ツベルクリン反応は陰性であったが,ACE,リゾチームは正常範囲内で肺門リンパ節腫脹はなく,サルコイドーシスは否定的であった.ASO,ASKは陰性,結核,梅毒,トキソプラズマ,トキソカラ,猫ひっかき病などの感染はなかった.髄液細胞数図7右眼眼底写真(発症3カ月後)閉塞部位の動脈は白鞘化,狭細化していた.93/3Cμl(すべて単核球)と軽度増加しており,無菌性髄膜炎と診断された.胸部CX線,頭部CMRI,胸腹部CCT検査で異常はなく,心臓超音波検査では軽度の僧帽弁閉鎖不全症があったが,疣贅はなかった.経過および治療:右眼の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎,無菌性髄膜炎の所見があったが,全身的な基礎疾患や異常所見はなかった.入院後,新たな白色病変の出現はみられず,白色病変周囲にいずれも静脈閉塞に伴う出血が出現した(図6).何らかの自己免疫学的機序による網膜血管炎,それによる動脈閉塞症と考え,入院C12日目よりプレドニゾロンC30Cmg内服を開始した.動脈閉塞部位の白色病変と網膜浮腫は次第に軽快し,血管炎の悪化所見はなく退院となった.同年C10月,プレドニゾロンC2.5Cmg内服中に前胸部に水疱(126)が出現,40℃の発熱と心窩部痛,背部痛を伴い,CRP23.98Cmg/dlと高値で小児科に入院した.血液・喀痰培養で黄色ブドウ球菌を検出,Kaposi水痘様発疹症,硬膜外膿瘍と診断された.保存的に加療され,基礎疾患の検索を行うも異常はなかった.前回と同様にCIgEはC3,107IU/mlと高値で,PR3-ANCAはC3.9CU/mlと軽度陽性で,退院時にはC6.1CU/mlとさらに上昇していた.網膜動脈閉塞発症後C3カ月には,閉塞部位は動静脈交叉部位であったことが明瞭となり,同部位は動脈の白鞘化,狭細化を呈した(図7).現在視野欠損は残存しているが,血管炎などの再発はない.CII考按網膜動脈閉塞症が若年者に発症することは珍しく,心疾患1,2)や抗リン脂質抗体症候群3,4),SLE5),血管炎症候群6)などの全身疾患が基盤にあるものが多い.クリオフィブリノーゲン血症7,8)や貧血の合併9),経口避妊薬内服後の発症10)の報告も散見される.しかし,本症例のように明らかな原因が不明であったとする報告もあり,高橋らは若年者C3例の網膜動脈閉塞症を報告11),中野らは本症例と同様の溶連菌感染症の経過中に発症したC11歳女児の網膜中心動脈閉塞症を報告している12).本症例は軽度の僧帽弁閉鎖不全症があったが,心エコーでは感染性心内膜炎の所見や疣贅はなく,原因として考えにくい.また,両眼の網膜血管炎を併発しており,動脈炎による動脈閉塞が考えられた.動脈閉塞をきたしうる動脈炎としてCBehcet病や結核性網膜血管炎,梅毒性ぶどう膜炎などがあるが,いずれも否定的であった.また,溶連菌感染後に樹氷状血管炎を呈し,動脈閉塞を起こした報告13)もあるが,本症例では樹氷状血管炎の所見はなかった.本症例ではCPR3-ANCAの軽度上昇があり,プレドニゾロン内服後の感染時にはさらに上昇しており,ANCA関連血管炎が関連している可能性も考えられた.PR3-ANCAはWegener肉芽腫症に診断的特異性が高く,疾患活動性の指標になることが知られており,MPO-ANCAは顕微鏡的多発血管炎やアレルギー性肉芽腫性血管炎で高率に陽性となる.MPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎では網膜動脈閉塞症の合併報告は多いが14,15),PR3-ANCA上昇,Wegen-er肉芽腫症に伴う報告例は少ない16).ANCA関連血管炎では小動脈から細動脈,毛細血管,細静脈までの比較的細い血管が障害されるが,本症例は全身的な血管炎の所見はなかった.また,ANCAは感染症や薬剤,全身性疾患に伴い誘導され上昇することが知られており,溶連菌の感染はCANCA上昇を誘導するとされる17).本症例はCANCA上昇は軽度で,感染時にさらに上昇していることから,感染に伴う上昇の可能性も十分に考えられた.本症例ではもともと気管支喘息やアトピー性皮膚炎,犬,(127)猫アレルギーの既往があり,血清CIgEも高値で,溶連菌感染後にアレルギー学的機序による網膜血管炎を発症した可能性がもっとも考えられた.しかし,蛍光眼底造影が施行できなかったため,動脈閉塞をきたした病態や血管炎の程度が把握できず,ステロイド治療効果も不明であった.ステロイド投与による易感染性がC2回目の感染症の誘因になった可能性が考えられ,ステロイド投与の適応や投与量については議論の余地があり,慎重に検討する必要がある.文献1)松村望,伊藤大蔵,大庭静子ほか:視野の自然緩解をみた網膜動脈分枝閉塞症のC1例.眼紀95:41-43,C20012)中村将一朗,小林謙信,高山圭:心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症した若年の片眼性網膜中心動脈閉塞症の1例.あたらしい眼科C33:601-605,C20163)朝比奈章子,小松崎優子,中山玲慧ほか:6歳女児に生じた網膜動脈閉塞症のC1例.臨眼54:1191-1194,C20004)友利あゆみ,城間正,上門千時ほか:9歳男児に認められた網膜中心動脈閉塞症のC1例.臨眼C56:1117-1120,C20025)野本浩之,馬場哲也,梅津秀夫ほか:網膜動静脈の閉塞を呈した小児全身性エリテマトーデスのC2例.あたらしい眼科17:1441-1445,C20006)渡辺一順,加瀬学:網膜中心動脈閉塞症を呈したCP-ANCA陽性網膜血管炎.あたらしい眼科C17:1429-1432,C20007)田片将士,岡本紀夫,栗本拓治ほか:若年者にみられたクリオフィブリノーゲン血症が原因と考えられた網膜中心動脈閉塞症のC1例.臨眼61:625-629,C20078)RatraCD,CDhupperM:RetinalCarterialCocclusionsCinCtheyoung:SystemicassociationsinIndianpopulation.IndianJOphthalmolC60:95-100,C20129)冨田真知子,賀島誠,吉田慎一ほか:鉄欠乏性貧血の若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞症と網膜中心動脈分枝閉塞の合併症例.臨眼60:1219-1222,C200610)StepanovA,HejsekL,JiraskovaNetal:TransientbranchretinalCarteryCocclusionCinCaC15-year-oldCgirlCandCreviewCoftheliterature.BiomedPapMedFacUnivPalackyOlo-moucCzechRepubC159:508-511,C201511)高橋寧子,堀内二彦,大野仁ほか:若年者の網膜動脈閉塞症のC3例.眼紀41:2258-2269,C199012)中野直樹,吉田泰弘,周藤昌行ほか:11歳女児の網膜中心動脈閉塞症.眼紀43:161-164,C199213)SharmaCN,CSimonCS,CFraenkelCGCetal:FrostedCbranchCangitisCinCanCoctogenarianCwithCinfectiveCendocarditis.CRetinCasesBriefRepC9:47-50,C201514)佐藤章子,宮川靖博,高野淑子:眼病変を合併したCChurg-Strauss症候群のC2例.臨眼60:509-514,C200615)吉武信,西村宗作,吉田朋代ほか:網膜動脈閉塞症を発症し治療開始されたCChurg-Strauss症候群のC1例.臨眼C66:1659-1663,C201216)福尾吉史,片岡康志,千羽真貴ほか:Wegener肉芽腫症に網膜中心動脈閉塞症を合併したC1例.眼紀C44:1552-1555,C199317)山村昌弘:血管炎症候群.内科117:915-920,C2016あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1703