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寄生虫妄想を原因とする角膜障害の1 例

2022年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(6):835.838,2022c寄生虫妄想を原因とする角膜障害の1例北山乃利江近間泰一郎中村祐子木内良明広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofBilateralCornealAbrasionsDuetoDelusionalParasitosisNorieKitayama,TaiichiroChikama,YukoNakamuraandYoshiakiKiuchiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC目的:寄生虫妄想による眼瞼周囲の過剰な掻破(自傷行為)により両眼角膜障害を生じたC1例を報告する.症例:79歳,女性.両眼の視力低下と左眼異物感があり,前医を受診した.左眼角膜下方に潰瘍と白色の角膜後面沈着物があり,抗菌点眼加療に反応せず,右眼にも異物感が出現したため当科を紹介され受診した.皮膚科では寄生虫妄想による慢性湿疹と診断されていた.初診時矯正視力は右眼(0.5),左眼(0.03)と低下しており,両眼角膜下方のびらんは中央まで及んでいた.問診から寄生虫妄想による眼瞼周囲の過剰な掻破(自傷行為)が角膜障害の原因と考え,眼および眼周囲を触らないように指導しC2カ月後には改善した.結論:本症例の診断には本人,家族への問診が重要であった.眼周囲の掻破,過度な接触は失明にもつながると丁寧に指導したところ改善に繋がった.再発を防ぐためには皮膚科,精神科と連携し,寄生虫妄想に対して継続的な加療が重要である.CPurpose:Toreportacaseofself-in.ictedbilateralcornealabrasionscausedbyexcessivescratchingaroundtheeyelidsduetodelusionalparasitosis.Case:A79-year-oldfemalewasreferredafterbeingseenatanotherclin-icdueCtobilateraldecreasedCvisionandCaCforeignCbodyCsensationCinherCleftCeye.CShehadanulcerCandwhiteCcornealdepositsinthelowerpartofherleftcornea,andsubsequentantibacterialeye-droptreatmentwasine.ective.ShealsoCcomplainedCofCaCforeignCbodyCsensationCinCtheCrightCeye.CMoreover,CsheCwasCdiagnosedCwithCchronicCeczemaCduetodelusionalparasitosisbyadermatologist.Atourinitialexamination,hervisualacuitywas0.5ODand0.03OS,andbilateralcornealabrasionwasobservedextendingfromthelowertocentralregions.Uponinterviewofthepatientandfamily,wefoundthatthecauseofthecornealabrasionwasexcessiveself-in.ictedscratchingbehavioraroundtheeyelidsduetodelusionalparasitosis,sothepatientwasinstructedtostoptouchinghereyesandeye-lids.CConclusions:InCthisCcase,CaCcorrectCdiagnosisCrequiredCinterviewingCtheCpatientCandCfamilyCmembers,CandCaftercarefulinstructiontodiscontinuescratchingandexcessivecontactaroundtheeyes,whichcanleadtoblind-ness,herconditionimproved.Incasesofcornealabrasionduetodelusionalparasitosis,propertreatmentrequirescollaborationwithadermatologistandpsychiatristtopreventrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(6):835.838,C2022〕Keywords:寄生虫妄想,角膜障害.parasiticdelusions,cornealdisorders.はじめに寄生虫妄想とは,皮膚や身体の中に虫が寄生していると訴え,その虫が這いまわったり噛んだりする掻痒感,痛みを生じさせる体感異常を呈する精神疾患である1).1938年にスウェーデンの神経科医CEkbomによって報告された寄生虫妄想の症例はすべてC50.70歳代の女性であり,典型例は初老期の女性に多く発症することから初老期皮膚寄生虫妄想ともいわれる.本症例の基本的な症状は知覚異常であり,患者自身がその知覚異常に虫がかかわると妄想することで掻破行動を起こすとされている.また,この報告からCEkbom症候群ともよばれている2).その後の報告では寄生虫妄想の病態は十分に理解されていないため適切な治療を受けられないことが多く,人口の高齢化に伴い,寄生虫妄想の患者数は増加すると予想されている.また,研究も進んでおらず,医学的には患者の理解や治療法の提供はほとんどないと述べられている3).わが国では皮膚寄生虫妄想1,4),口腔内〔別刷請求先〕北山乃利江:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学Reprintrequests:NorieKitayama,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciences,1-2-3Kasumi,Minamiku,Hiroshima734-8551,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(139)C835図1初診時の前眼部所見a,b:右眼.Cc,d:左眼.Cb,d:フルオレセイン染色.両眼とも軽度の結膜充血と下方にびらんがみられる.左眼はDescemet膜皺襞と角膜後面沈着物を伴っていた.寄生虫妄想1,5)の報告はされているが,眼科領域での報告はされていない.今回,筆者らは寄生虫妄想による眼瞼周囲の過剰な掻破(自傷行為)によって両眼の角膜障害を生じた症例を経験したので報告するCI症例79歳,女性.前医にて両眼緑内障加療中に左眼異物感の訴えがあった.左眼下方角膜輪部に沿って潰瘍がみられ,軽度結膜充血,角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)および前房内炎症を伴っていたためCMooren潰瘍を疑われ,1.5%レボフロキサシン点眼,0.1%ベタメタゾン点眼,0.4%トロピカミド点眼加療が開始された.その後の細菌培養検査で緑膿菌と表皮ブドウ球菌が検出されたためC0.1%ベタメタゾン点眼は中止となり,炎症は軽度で瞳孔は正円だったため0.4%トロピカミド点眼も中止された.その後,点眼を継続したにもかかわらず角膜びらんは改善せず,右眼にも同症状が出たため精査目的で広島大学病院眼科に紹介され受診しC836あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022た.全身疾患としては高血圧があった.全身の発疹もあり,当院皮膚科にて治療中であった.初診時の検査所見は右眼視力C0.4(0.5),左眼視力C0.03(矯正不能)であった.眼圧は右眼C16CmmHg,左眼測定不能であった.本症例では,両眼眼瞼周囲の発赤とただれがみられたため本人と家族に詳しく問診を行ったところ,当院皮膚科を受診していることがわかった.皮膚科のカルテによると,「ダニが家に大発生し駆除業者に来てもらうが駆除できず眠れない.ダニが飛んでくる感触が続いている.腹部を這う感じもあり,すごく痒い」との訴えがあった.皮膚科の診察において虫刺症はなく,腹部皮疹もなく,掻破し過ぎによる影響であると考えられ,寄生虫妄想の診断がついていた.虫はいないので掻き過ぎないように説明するも,本人はあまり理解しておらず,家族からは精神科への受診の同意はあるが,本人からの希望はないとの記載があった.このことから,本症例は寄生虫妄想による眼周囲への過度の接触が原因による角膜障害を強く疑った.初診時,細隙灯顕微鏡検査では両眼軽度の充血と下方角膜びらんがあり,左眼角膜びらんは中央(140)図2初診3日後の前眼部所見a,b:右眼.Cc,d:左眼.Cb,d:フルオレセイン染色.右眼の上皮びらんは消失した.左眼は結膜充血が強くみられるが上皮欠損は縮小傾向にある.まで及んでおり,KPを伴う角膜実質の浮腫がみられた(図1).眼の周りを掻破することによる角膜上皮障害,充血,眼瞼周囲の発疹とただれがみられたため,眼および眼周囲を触らないように指導して抗菌点眼薬を継続し,角膜上皮障害の継時変化を観察していくこととした.両眼にC1.5%レボフロキサシン点眼を継続とし,3日後の再診時には右眼の上皮欠損は改善傾向であった.左眼は結膜充血が強くC0.1%フルオロメトロン点眼を追加した(図2).17日後の再診時に上皮欠損の拡大と樹枝状病変と思われる所見がみられ,単純ヘルペス抗原検出キットで陽性と判定されたため左眼C0.1%フルオロメトロン点眼を中止し,バルトレックス内服を開始した(図3).1カ月後には樹枝状病変は改善し,KP,上皮欠損および実質浮腫は減少した(図3).2カ月後には実質浮腫,下方のびらんはわずかとなり,充血およびCKPも減少し,前房内の炎症は消失した(図3).視力は右眼(1.2),左眼(0.2)まで改善し,患者本人も改善を自覚した.治療後少なくとも2021年C7月経過した現在まで,角膜障害の再発はみられていない.現時点で左眼視力は(0.8)まで回復している.本症例の診断には本人,家族への問診が重要であった.筆者らは患者に対し,眼周囲の掻破,過度な接触は失明にもつながるため触らないようにと丁寧に指導したところ,本人も理解し,極力かかないように意識したため改善につながった.現在も再発防止のために定期的な眼科受診を継続している.CII考察角膜びらんなどの角膜上皮障害が両眼にみられる場合,鑑別疾患として化学外傷,薬剤毒性,自傷行為などを疑う.Tragarらは眼瞼の寄生虫妄想を呈した患者の自己創傷の二次感染による蜂窩織炎と角膜潰瘍について報告している.寄生虫妄想は自傷行為につながる可能性が高く,継続的な自傷行動を防ぐためには,適切な精神科受診が必要であると述べている6).また,Limらは殺虫を目的に樟脳を直接皮膚に塗布し,二次的眼障害を起こした症例を報告している.樟脳の使用を防ぐためにC24時間の監視を行い,寄生虫妄想を減らすために非定型抗精神病薬であるオランザピンをC1カ月投与(141)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C83717日後1カ月後2カ月後図3左眼の経時的変化17日後の前眼部所見:フルオレセイン染色において樹枝状病変と思われる所見があり,単純ヘルペス抗原検出キットで陽性と判定された.1カ月後の前眼部所見:角膜後面沈着物と上皮欠損および上皮化浮腫は減少傾向にあった.2カ月後の前眼部所見:上皮下浮腫や下方びらん,結膜充血は減少傾向であった.角膜後面沈着物も減少し前房内の炎症も消失した.したところ自傷性角膜炎は消失した.しかし,残念なことに寄生虫妄想患者の多くが退院後も精神科を受診せず内服を拒否するため,長期的な予後はよくないと述べられている7).本症例でも,皮膚病変は完治せず病状は一進一退であるが,眼症状は落ち着いている.今回の角膜障害は患者自身が皮膚や眼球表面に出現した.痒感や不快感のため反射的に過剰な.破を繰り返し,圧迫された瞼結膜が角膜を擦りつけることで角膜障害が起こった,もしくは眼瞼.破の際に患者自身の指が当たることで角膜障害が起こったと考える.寄生虫妄想に伴う角膜障害の報告は世界的にも少なく,筆者らが知る限りわが国において眼科からの報告はされていない.再発を防ぐために本症例のような自傷行為がみられた場合は,その行為が精神障害の一部であるかどうかを判断するために精神科と連携し,寄生虫妄想に対して継続的な加療を進めていく必要があると考えた.文献1)松下正明:老年期の幻覚妄想─老年期精神科疾患の治療論(松下正明編),新世紀の精神科治療C3,p162-204,中山書店,20052)EkbomCKA,CYorstonCG,CMieschCMCetal:TheCpre-senileCdelusionofinfestation.HistPsychiatryC14:229-256,C20033)HinkleNC:EkbomCsyndrome,CACdelusionalCconditionCofCbugsintheskin.CurrPsychiatryRepC13:178-186,C20114)林拓二,深津尚史,橋元良ほか:皮膚寄生虫妄想(Ekbom症候群)症例報告と本邦で報告されたC102症例の検討.精神科治療学12:263-273,C19975)山家邦章,倉持素樹,野口正行ほか:約C13年にわたり増悪寛解を繰り返した口腔内寄生虫妄想のC1症例.臨床精神医学31:1083-1090,C20026)TragerCMJ,CHwangCTN,CMcCulleyTJ:DelusionsCofCpara-sitosisCofCtheCeyelids.COphthalCPlastCReconstrCSurgC24:C317-319,C20087)LimCGC,CChenCYF,CLiuCLCetal:Camphor-relatedCself-in.ictedCkeratoconjunctivitisCcomplicatingCdelusionsCofCparasitosis.CorneaC25:1254-1256,C2006***838あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022(142)

医療用点眼剤の製剤情報と安全性

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):699.704,2021c医療用点眼剤の製剤情報と安全性中田雄一郎*1向井健悟*1曽根高沙紀*1佐々勝彦*1向井淳治*2*1大阪大谷大学薬学部医薬品開発学講座*2大阪大谷大学薬学部臨床薬学教育センターCFormulationDataandSafetyofMedicalEyeDropsYuichiroNakada1),KengoMukai1),SakiSonetaka1),KatsuhikoSasa1)andJunjiMukai2)1)LaboratoryofDrugDevelopment,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversity,2)EducationCenterforClinicalPharmacy,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversityC目的:医療用点眼剤の原薬・製剤特性を解析することで点眼剤の製剤開発の傾向を知り,合わせて角膜障害との関連性を調査した.対象および方法:添付文書,インタビューフォームならびに審査報告書を資料として各種データを収集し解析を行った.角膜障害の調査はCPMDAの有害事象自発報告データベースを使用し,シグナルの検出はCReport-ingCOddsRatioを用いた.結果:緑内障点眼剤,抗菌点眼剤,抗アレルギー点眼剤,抗炎症点眼剤の計C352品目の原薬・製剤特性の調査の結果,差し心地(使用感)に影響する浸透圧やCpHは一部例外を除き,浸透圧比は約1,pHはC3.5.8.6の範囲内であることがわかった.可溶化剤はCTween80の使用割合が高く,防腐剤もベンザルコニウムの使用割合が高いことがわかった.角膜障害の発生頻度は緑内障点眼剤,抗炎症点眼剤で高かった.結論:可溶化剤,防腐剤とも使用される種類は限定され,緑内障点眼剤,抗炎症点眼剤は角膜障害に注意が必要である.CPurpose:Tobetterunderstandthetrendsineye-dropformulationdevelopment,weinvestigatedthecharac-teristicsofactiveingredientsandproducts,theirformulation,andformulation-relatedcornealdisorders.Methods:CForformulationanalysis,packageinserts,interviewforms,andpublishedreviewsofglaucoma,antibacterial,anti-allergic,andanti-in.ammatoryeyedrops(352items)wereused.ThePharmaceuticalsandMedicalDevicesAgen-cyCspontaneous-event-reportCdatabaseCwasCusedCtoCinvestigateCcornealCdisorders,CandCtheCReportingCOddsCRatioCwasCusedCtoCdetectCsignals.CResults:TheCpHCwasCwellCcontrolledCwithinCaC.xedrange(3.5-8.6CpH)C.CTheCosmoticCpressurewasgenerallyaround1.0,butsomeproductswereoutsidethenormalrange.Our.ndingsalsocon.rmedthatTween80andbenzalkoniumweremainlyusedasasolubilizerandapreservative,respectively.TheprimaryeyeCdropsCthatCmayCcauseCcornealCdisordersCwereCglaucomaCandCanti-in.ammatoryCeyeCdrops.CConclusion:ThetypesCofCsolubilizersCandCpreservativesCwasClimited,CsoCwarningCpatientsCaboutCpossibleCcornealCdisordersCmayCbeCrequiredwhenadministeringglaucomaandanti-in.ammatoryeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):699.704,C2021〕Keywords:医療用点眼剤,先発品,後発品,防腐剤,角膜障害,安全性.medicaleyedrop,originalmedicine,genericmedicine,preservative,cornealdisorder,safety.Cはじめに点眼剤は結膜.などの眼組織に適用する無菌製剤であり1),ユニットドーズ製剤を除き,開封後も数週間にわたり使用を繰り返す製剤であることから,防腐剤の添加や処方の組み合わせも重要となる2).筆者らは点眼剤開発に役立つ情報を提示することを目的に緑内障点眼剤,抗アレルギー点眼剤の処方解析結果を報告している3,4).今回,新たに抗炎症点眼剤と抗菌点眼剤について同様の調査を行い,また緑内障点眼剤と抗アレルギー点眼剤についても情報を更新し,医療用点眼剤全般の処方データを解析した.加えて独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の有害事象自発報告データベースを用いて医療用点眼剤の角膜障害についても調査を行い,処方成分との関連性について検討を行った.CI対象および方法PMDAのホームページ上5)で公開されている添付文書,〔別刷請求先〕中田雄一郎:〒584-8540大阪府富田林市錦織北C3-11-1大阪大谷大学薬学部医薬品開発学講座Reprintrequests:YuichiroNakada,Ph.D.,LaboratoryofDrugDevelopment,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversity,3-11-1Nishikiori-kita,Tondabayashi,Osaka584-8540,JAPANCインタビューフォーム,審査報告書などから主薬や製剤の特性,処方データなどの各種情報を入手し,データベース化したのち,種々の解析を行った.調査対象はC2019年C4月までに上市され,現在日本国内で販売されている製品で,緑内障点眼剤C129製品,抗菌点眼剤C87製品,抗アレルギー点眼剤60製品,抗炎症点眼剤C76製品の計C352製品である.各薬効群の情報を調べる際,PMDAの添付文書の検索機能を用いてキーワード検索を行った.角膜障害の調査はCPMDAの有害事象自発報告データベース(JapaneseCAdverseCDrugCEventCReportdatabase:JADER)を使用した.調査対象の角膜障害の抽出には,医薬品規制用語集(MedicalDictionaryforRegulatoryActivi-ties:MedDRA)22.1の基本語(preferredterm:PT)について,特定の医学的状態に関連付けグループ化したMedDRA標準検索式(StandarizedCMedDRAQueries:SMQ)を使用した.角膜障害のCSMQはびまん性層状角膜炎,アトピー性角結膜炎,アレルギー性角膜炎などC97種類のPT(狭域)で構成されている.これらのCPT(有害事象)の発現について,JADERの報告で被疑薬とされ,投与経路が“眼”である医薬品について,関連する症例(識別番号)を抽出した.同一症例に対し複数の報告(同じCPT,医薬品)が登録されている重複報告に対しては,症例情報をもとに取り除き解析を行った6).シグナルの検出は,医薬品安全性評価において汎用されるCReportingCOddsRation(ROR)を用いた.シグナルの検出基準はC95%信頼区間(CI)の下限がC1を超えた場合,シグナルありと判断した7).CII結果と考察1.製品数と上市時期現在も使用されている各薬効群別の医療用点眼剤の上市時期の年代別推移を表1に示す.先発品でみると一番多く上市されたものはC1960年代では抗炎症点眼剤,1970年代以降は緑内障点眼剤であった.一方,後発品ではC1970年,1980年代は抗炎症点眼剤,1990年代以降は緑内障点眼剤の上市が多かった.なかでもC2000年代は抗菌点眼剤のオフロキサシン,2010年代は緑内障点眼剤のラタノプロストと抗菌点眼剤のレボフロキサシンの後発品が数多く上市されていた.C2.主薬濃度・pH・浸透圧・処方成分各薬効群の先発品・後発品別,製剤特性と調査対象製品数を表2に示す.多くの薬物濃度はC0.1.5%のレンジのなかに入るが,一部,低濃度の製品もあった.緑内障点眼剤の2008年販売のタプロス点眼液のタプルプロスト濃度が0.0015%と今回の調査対象の製品のなかでもっとも低く,抗アレルギー点眼剤ではC2000年に販売されているケタス点眼液のイブジラスト濃度C0.01%が最低濃度であった.抗炎症点眼剤ではC1982年販売のリンデロン点眼液が,0.01%で最低濃度であった.pHは薬効群に関係なくC3.5.8.6のレンジ内であった.涙液には緩衝能があり8),しかも涙液による希釈が急速に行われるため,点眼剤のCpH,浸透圧を必ずしも涙液のCpH,浸透圧に調整する必要はないと考えられる.各製品の浸透圧(生理食塩水に対する比)はほぼC1であったが,抗アレルギー製剤のクロモグリク酸CNaを配合する低浸透圧(約C0.15)のものや,レボカバスチン塩酸塩を配合する高浸透圧(2.3.3.8)のものがある.これらの製品は刺激により,眼の痒みを一時的に和らげている可能性も否定できない.先発品と後発品を比較してもCpH,浸透圧に大きな差はなく,たとえば,緑内障治療薬のキサラタン点眼液C0.005%の場合,pHはC6.5.6.9,浸透圧は約C1に対して,ベンザルコニウム塩化物(BAK)フリー点眼液を除く後発品C22品目のpHはC6.4.7.1,浸透圧はC0.9.1.1であった.これは先発品の規格に後発品メーカーが規格を合わせるためである.また,添加剤についても特許上問題がなければ,後発品メーカーは生物学的同等性や差し心地を考慮し,先発品と同種の添加剤を使用することが多い.しかし異なる場合もあり,前述のキサラタン点眼液の後発品は先発品の添加剤がCBAK,無水リン酸一水素ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム一水和物,等張化剤であるのに対して,可溶化剤のポリソルベート80(Tween80)やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO)を使用している.これは先発品のキサラタン点眼液のCBAK濃度が防腐効力にプラスして可溶化能ももたせるために200Cppmと高く設定されているため9),可溶化能を別の添加剤に担わせ,BAK自身の濃度を低減させるのが目的であると考える.また,キサラタン点眼液C0.005%の後発品には差し心地の改善を狙い,等張化剤としてトロメタモール,濃グリセリンなどが添加されている製品もあった.C3.薬の溶解度と製品に使用されている可溶化剤先発品の原薬C59品目中,原薬の水に対する溶解度は「溶けにくい」8品目,「ほとんど溶けない」14品目,「きわめて溶けにくい」3品目の計C25品目で,全体の半分弱を占めていた(表3).点眼剤の添加剤として緩衝剤,等張化剤,pH調節剤,安定化剤,防腐剤がおもに含まれるが,そのうち,角膜に影響を及ぼす可能性の高い可溶化剤にはCTween80とCHCOが使用されており,調査対象の点眼剤ではおもにTween80が使用されていた(表4).緑内障点眼剤でCTween80が使用されていた製品は,「ほとんど溶けない」に分類されるラタノプロストを用いた後発医薬品が半数以上を占めていた.後発品でCHCOが使用されていた製品はチモロールマレイン酸塩製剤のリズモン点眼液0.25%,同C0.5%とラタノプロスト点眼液C0.005%「NP」,トラボプロスト点眼液C0.004%「ニットー」であった.抗菌点眼剤でCTween80が使用されていた製品は,「溶けにくい」表1製品の上市時期の年代別推移1959年以前C1960.C1969年C1970.C1979年C1980.C1989年C1990.C1999年C2000.C2009年C2010.C2019年緑内障点眼剤先発品C0C2C4C6C9C9C10後発品C0C0C0C2C23C21C43抗菌点眼剤先発品C0C0C0C3C1C6C1後発品C0C0C1C8C6C16C45抗アレルギー点眼剤先発品C0C0C0C1C2C5C1後発品C0C1C3C2C19C18C8抗炎症点眼剤先発品C1C9C2C4C0C3C1後発品C0C1C7C19C17C7C5表2製剤特性と調査対象製品数pH浸透圧(生理食塩液に対する比)濃度製品数(内懸濁剤製品数)緑内障点眼剤先発品4.4.C7.80.4.C1.50.0015.C4C40(2)後発品3.5.C8.50.6.C1.60.004.C2C89(2)抗菌点眼剤先発品4.5.C7.50.9.C1.150.3.C1.5C11(0)後発品4.5.C8.0約C0.8.C1.750.1.5C76(1)抗アレルギー点眼剤先発品4.0.C8.50.7.C1.10.01.C2C9(2)後発品4.0.C8.50.15.C3.80.025.C2C51(11)抗炎症点眼剤先発品4.0.C8.6約C0.8.C1.40.02.C1C20(5)後発品3.7.C8.6約C0.8.C1.150.01.C1C56(11)表3原薬の溶解度きわめて溶けやすい溶けやすいやや溶けやすいやや溶けにくい溶けにくいほとんど溶けないきわめて溶けにくい合計緑内障先発品C2C3C5C1C2C4C2C19点眼剤後発品C2C3C5C1C2C4C0C17抗菌先発品C1C5C0C2C3C2C0C13点眼剤後発品C2C5C0C1C2C3C1C14抗アレルギー先発品C0C3C0C1C1C3C1C14点眼剤後発品C0C4C0C1C2C3C1C11抗炎症先発品C0C4C0C2C2C5C0C13点眼剤後発品C1C6C0C2C1C2C0C12C表4製品中に使用されている可溶化剤の種類100Tween80CHCO製品数緑内障点眼剤先発品C6C0C40後発品C22C4C89抗菌点眼剤先発品C0C0C11後発品C8C1C76抗アレルギー先発品C1C0C9点眼剤後発品C21C0C51抗炎症点眼剤先発品C8C0C20後発品C21C4C56908070605040302010使用割合(%)に分類されるクロラムフェニコールの製剤や「やや溶けにくい」に分類されるレボフロキサシン水和物の製剤,抗アレルギー点眼剤では「ほとんど溶けない」に分類されるレボカバスチン塩酸塩の製剤である.抗炎症点眼剤では「ほとんど溶けない」に分類されるフルオロメトロンの製剤や,「溶けやすい」に分類されるブロムフェナクナトリウム水和物にもCTween80が使用されていた.これらの結果からCTween80やCHCOは可溶化剤だけでなく,安定化剤などの他の用途で使用された可能性もある.図1にCTween80の年代ごとの使用割合を示した.1980年代から抗菌点眼剤以外でCTween80の使用割合が増加傾向にあり,「溶けにくい」原薬の使用頻度が増加していると考えられた.C4.防腐剤薬効群と先発品・後発品に分けた医療用点眼剤の使用頻度の高い代表的な防腐剤〔BAK,クロロブタノール(CB),パラオキシ安息香酸エステル(PB),グルクロン酸クロルヘキシジン〕と防腐剤フリー容器(PFミニ点眼容器,PFデラミ容器)別の年代別製品数を表5に示す.緑内障点眼剤(先発品)40製品中,BAK含有製剤は計C27品目,CB含有製剤は7品目,PB含有製剤はC7品目,1回使い切りの防腐剤フリー点眼剤(ミニ点)はC3品目であった.後発品も先発品と同様にほとんどがCBAK含有製剤であった.ただし,防腐剤フリー容器に関しては,先発品がミニ点であるのに対して後発品は複数回投与が可能なCPFデラミ容器を用いた製品がC6品目上市されていた.先発品と後発品を合わせた抗菌点眼剤87製品中では,BAK含有製剤は計C6品目,CB含有製剤は1品目,PB含有製剤はC5品目,グルコン酸クロルヘキシジン含有製剤はC1品目であった.抗アレルギー点眼剤(先発品)9製品中では,BAK含有製剤はC7品目,PFミニ点はC1品目,抗アレルギー点眼剤(後発品)51製品中では,BAK含有製剤はC45品目,CB含有製剤はC1品目,PBはC8品目であった.抗炎症点眼剤(先発品)20製品中では,BAK含有製剤はC9品目,CB含有製剤はC7品目,PB含有製剤はC9品目であっ図1Tween80の使用割合た.一方,後発品C56製品中では,BAK含有製剤はC28品目,CB含有製剤はC10品目,PB含有製剤はC19品目でCPFデラミ容器はC2品目であった.現在でも先発品,後発品にかかわらずCBAKを防腐剤に用いる点眼剤が多く,BAK使用割合(表5)も経年的に増加傾向にあった.そのなかでC2000年代に緑内障点眼剤でCBAKの使用割合が一時的に低下しているのは,1990年代にすでにCBAK起因の角膜上皮障害,あるいは薬剤アレルギーが数多く報告され10,11),長期投与の多い緑内障点眼剤でCBAKの使用が控えられたためではないかと考える.その後も防腐剤による角膜障害・角膜神経障害が数多く報告されているが12,13),2010年代に逆にCBAKの使用割合が増加している.また,薬効群でCBAKの使用傾向は異なり,抗菌点眼剤では防腐剤がほとんど使用されておらず,抗炎症点眼剤もC1990年まではCCBやCPBも使用されていた.しかし,近年は短期投与の可能性もある抗アレルギー点眼剤,抗炎症点眼剤もBAKの使用割合は高止まり傾向にある.これら緑内障点眼剤,抗アレルギー点眼剤,抗炎症点眼剤でCBAKの使用頻度が高い原因として,複数回使用される無菌製剤である点眼剤の品質を担保するうえでCBAKに代わる防腐剤がないことがあげられる.とくに海外展開を考える場合,EuropeanMed-icineAgency(EMA)の厳しい防腐効力基準に合格するためにはCBAK以外の防腐剤を選択することはむずかしい.さらにCBAKの可溶化能が難溶性の薬物の可溶化に寄与している可能性(製剤の安定化),また高コストのCPFミニ点容器やPFデラミ容器などの機能性容器を用いても薬価に反映されないなどの課題がある.今後,品質を担保でき,安価でより安全な防腐剤やCPF容器の開発が望まれる.C5.角.膜.障.害PMDAの公開副作用データベースCJADERのC2004年C4月.2019年C4月の総報告件数はC586,504件であった.このう表5各種点眼剤の代表的な年代別防腐剤・防腐剤フリー容器使用実績1959年以前C1960.C1969年C1970.C1979年C1980.C1989年C1990.C1999年C2000.C2009年C2010.C2019年計緑内障先発品CBAKC0C0C2C6C6C8C5C27クロロブタノールC0C2C3C2C0C0C0C7パラオキシ安息香酸エステルC0C2C5C0C0C0C0C7PFミニ点眼容器C0C0C0C0C1C2C0C3点眼剤BAKC0C0C0C2C23C10C38C73後発品CクロロブタノールC0C0C0C0C1C0C0C1グルクロン酸クロルヘキシジンC0C0C0C0C0C2C0C2PFデラミ容器C0C0C0C0C0C5C1C6先発品CBAKC0C0C0C1C0C1C0C2抗菌点眼剤BAKC0C0C0C4C0C0C0C4クロロブタノールC0C0C0C1C0C0C0C1後発品Cパラオキシ安息香酸エステルC0C0C0C2C2C1C0C5グルクロン酸クロルヘキシジンC0C0C1C0C0C0C0C1先発品CBAKC0C0C0C1C2C4C0C7抗アレルギー点眼剤PFミニ点眼容器C0C0C0C0C0C1C0C1後発品CBAKC0C1C0C0C19C17C8C45クロロブタノールC0C0C0C0C0C1C0C1パラオキシ安息香酸エステルC0C0C3C2C1C2C0C8BAKC0C4C2C1C0C1C1C9先発品CクロロブタノールC1C2C0C3C0C1C0C7抗炎症点眼剤パラオキシ安息香酸エステルC1C5C0C1C0C2C0C9後発品CBAKC0C1C2C10C8C4C3C28クロロブタノールC0C0C2C3C4C0C1C10パラオキシ安息香酸エステルC0C0C5C8C5C0C1C19PFデラミ容器C0C0C0C0C0C2C0C2表6角膜障害(SMQ)のシグナルが検出された点眼剤のROR(95%CI)医薬品(一般名)薬効名報告数全報告数報告割合(%)ROR(95%CI)ジクロフェナクナトリウム抗炎症薬(非ステロイド)C16C20C80.021.38(7.08.64.58)ネパフェナク抗炎症薬(非ステロイド)C13C25C52.05.67(2.55.12.59)プロムフェナクナトリウム水和物抗炎症薬(非ステロイド)C5C13C38.53.16(1.02.9.76)トスフロキサシントシル酸塩水和物抗菌薬(ニューキノロン系)C6C9C66.710.21(2.53.41.13)ポリビニルアルコールヨウ素殺菌消毒薬(ヨウ素系)C3C6C50.05.04(1.01.25.11)ラタノプロスト緑内障治療薬(PG関連薬)C57C228C25.01.88(1.34.2.65)ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩緑内障治療薬(Cb遮断薬+CAI)C9C29C31.02.29(1.03.5.11)ち,投与経路が眼の報告はC1,248件,角膜障害(SMQ)の報告はC822件,両者に共通する報告はC202件であった.これら投与経路が眼で角膜障害(SMQ)の症例について医薬品(一般名)別に集計するとC48製剤(276件)が抽出された.報告件数の多かった薬効群は,緑内障治療薬〔prostaglan-din(PG)関連薬〕,緑内障治療薬(Ca2遮断薬),緑内障治療薬〔炭酸脱水酵素阻害薬:carbonicanhydraseinhibitor(CAI)〕,抗炎症薬(非ステロイド系),抗菌薬(ニューキノロン系)などであった.このうち,角膜障害のシグナルの検出された点眼剤のCROR(95%CI)を表6に示す.緑内障治療薬で角膜障害のシグナル検出や報告件数が多かったのは,これらの薬剤が長期に使用され,また併用されることも多く,さらにCPG関連薬は難溶性の薬物で可溶化能を有するCBAKが比較的高濃度配合されている製品14)も一部あり,結果としてCBAKの曝露量が多くなった可能性も否定できない.福田らは培養家兎由来角膜細胞を用いた試験でBAKのC50Cppm溶液には細胞障害が少なったがC100Cppm溶液に中程度の障害があると述べ,ジクロフェナクナトリウム,ブロムフェナクナトリウム水和物の各点眼液には高度の細胞障害が認められたと報告している15).さらにジクロフェナクナトリウム点眼剤の細胞障害の度合いは,一部の製品に含まれる添加剤のクロロブタノールの濃度に比例するとことも報告されている16).臨床試験での角膜の障害については,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸,ジクロフェナクナトリウム,ネバフェナク,ブロムフェナクナトリウム水和物,トスフロキサシントシル酸塩水和物の各点眼剤とも添付文章にその記載がある.一方,ジクロフェナクナトリウムなどの抗炎症点眼剤やトスフロキサシントシル酸塩水和物の抗菌点眼剤は眼科の術後に用いられたり,何らかの角膜異常や創傷治癒に問題のある患者に用いられたりするため,原疾患の炎症の悪化に伴う角膜病変として報告された可能性も否定できない.JADERのデータベースは製品名ではなく主薬の一般名で登録されているため,製品の処方成分と角膜障害を直接結び付けて解析することができないが,主薬の特性や処方成分の使用傾向から角膜障害の原因を考察できる可能性があり,これらの結果が今後の点眼剤開発の一助になればと考える.CIII結論緑内障点眼剤,抗菌点眼剤,抗アレルギー点眼剤,抗抗炎症点眼剤の計C352製品の製剤特性を調査し,点眼剤にとって重要な差し心地(使用感)に影響する浸透圧やCpHは一部例外を除き,薬効群によらず浸透圧比は約1,pHはC3.7.8.6の範囲内であることがわかった.先発品,後発品によらず可溶化剤ではCTween80,防腐剤ではCBAKの使用割合が高く,さらにCJADERのデータベースを用いたシグナル検出法で,角膜障害を引き起こす可能性のある点眼剤を抽出し,その製品の成分との関連を一部考察することができた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)第十六改正日本薬局方:製剤総則6.目に投与する製剤6.1点眼剤.2)本瀬賢治:点眼剤.p76,南山堂,19843)中田雄一郎:医療用緑内障点眼剤の開発変遷の分析.薬剤学75:65-71,C20154)中田雄一郎,葛城秀:医療用抗アレルギー点眼薬の処方解析.あたらしい眼科35:1683-1687,C20185)https://www.pmda.go.jp/index.html6)独立行政法人医薬品医療機器総合機構:データマイニング手法の導入に関する検討結果報告書.2007年C3月.https://Cwww.pmda.go.jp/.les/000147997.pdf7)藤田利治:副作用評価におけるシグナル検出.薬剤疫学C14:27-36,C20098)本瀬賢治:点眼剤.p64,南山堂,19849)生杉謙吾:キサラタンとラタノプロストCPF.あたらしい眼科31:377-378,C201410)BaudouinC,deLunardoC:Short-termcomparativestudyofCtopical2%CcarteololCwithCandCwithoutCbenzalkoniumCchlorideCinChealthyCvolunteers.CBrCJCOphthalmolC82:39-42,C199811)葛西浩:点眼薬の副作用.臨眼53:217-221,C199912)BaudouinCC,CLabbeCA,CLiangCHCetal:PreservativesCineyedrops:thegood,thebadandtheugly.ProgRetinEyeResC29:312-334,C201013)VitouxM,KessalK,ParsadaniantzSetal:Benzalkoniumchloride-inducedCdirectCandCindirectCtoxicityConCcornealCepithelialCandCtrigeminalCneuronalcells:proin.ammatoryCandapoptoticresponsesinvitro.ToxicolLettC319:74-84,C202014)橋本友美,臼井智彦:緑内障点眼薬の防腐剤の影響.眼科グラフィック6:321-325,C201715)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,C200916)福田正道,山代陽子,荻原健太ほか:ジクロフェナクナトリウム点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する障害性.あたらしい眼科22:371-374,C2005***

抗癌剤使用例におけるチューブ留置前後の角膜所見

2015年10月31日 土曜日

《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(10):1459.1462,2015c抗癌剤使用例におけるチューブ留置前後の角膜所見五嶋摩理*1,2亀井裕子*2三村達哉*2山本英理華*1尾碕憲子*1川口龍史*1村上喜三雄*1松原正男*2*1がん・感染症センター都立駒込病院眼科*2東京女子医科大学東医療センター眼科EffectofLacrimalTubeIntubationonCornealLesionsinChemotherapy-relatedLacrimalDrainageObstructionMariGoto1,2),YukoKamei2),TatsuyaMimura2),ErikaYamamoto1),NorikoOzaki1),TatsushiKawaguchi1),KimioMurakami1)andMasaoMatsubara2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanCancerandInfectiousDiseasesCenterKomagomeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast目的:抗癌剤のおもな眼合併症として,涙道閉塞と角膜障害が知られている.抗癌剤投与中に涙道閉塞と角膜障害を合併した症例に対し,導涙改善による角膜所見の変化を調べた.方法:抗癌剤開始後の涙道閉塞に対して涙管チューブ留置術を施行し,術後経過良好であった症例のうち,術前から角膜障害を認めた16例32側,年齢50.75歳について,術前後の角膜所見を比較検討した.結果:使用中のおもな抗癌剤は,S-1が13例,ドセタキセル,パクリタキセル,カペシタビンが各1例であった.チューブ留置後に角膜所見が改善した症例は,S-1投与例1例2側とカペシタビン投与例1例2側で,悪化した症例は,S-1投与例3例5側であった.角膜障害は,抗癌剤中止後,全例改善した.結論:抗癌剤による角膜障害は,チューブ留置後も悪化する可能性がある.Purpose:Toreportontheeffectofintubationoncorneallesionsinlacrimaldrainageobstructionassociatedwithchemotherapy.Method:Investigatedwere32sidesof16caseswithcorneallesionsandlacrimaldrainageobstructionrelatingtochemotherapythatunderwentsuccessfulintubation.Result:ThirteencaseswereassociatedwithS-1;theremainderwereassociatedwitheitherdocetaxel,paclitaxelorcapecitabin.Followingintubation,thecorneallesionsimprovedintwocases,oneeachwithS-1andcapecitabin,whereasthelesionsworsenedin5sidesof3casesreceivingS-1.Thecorneaimprovedinallcasesaftercessationofchemotherapy.Conclusion:Cornealsideeffectduringchemotherapymayworsenevenafterintubation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1459.1462,2015〕Keywords:抗癌剤,涙道閉塞,合併症,角膜障害,チューブ留置.chemotherapy,lacrimaldrainageobstruction,complication,corneallesion,tubeintubation.はじめにS-1は,5-FUのプロドラッグに5-FU分解阻害薬と消化器毒性軽減薬を配合した経口抗癌剤で,その有効性と簡便性から,消化器癌を中心に幅広く用いられている.一方で,S-1を中心とした抗癌剤の普及とともに,涙道閉塞や角膜障害などの眼副作用が指摘されているが1.8),涙道閉塞と角膜障害発生の因果関係は明らかでない.Christophidisらは,5-FU使用例における流涙症状は,涙液中の5-FU濃度と相関するものの,血清中の5-FU濃度とは相関しないことを報告しており6),このことから涙道閉塞例では5-FUが涙液中に貯留していることが示唆され,貯留した涙液を介して角膜障害が起こる可能性が考えられる.そこで,筆者らは,S-1を含めた抗癌剤投与例において,導涙障害改善による角膜障害の改善の有無を調べるため,涙管チューブ留置術を施行した症例における角膜所見の変化について検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒113-8677東京都文京区本駒込3-18-22がん・感染症センター都立駒込病院眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanCancerandInfectiousDiseasesCenterKomagomeHospital,3-18-22Honkomagome,Bunkyo-ku,Tokyo113-8677,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(87)1459 I対象および方法対象は,2011年3月.2014年1月に,抗癌剤開始後の流涙を主訴に東京女子医科大学東医療センターまたは都立駒込病院を受診した症例のうち,涙道閉塞ならびに角膜障害を認め,涙管チューブ留置後通水良好であった16例32側(男性9例18側,女性7例14側),年齢50.75(平均67.2±標準偏差7.0)歳で,いずれもチューブ留置後3カ月以上経過観察できた症例である.対象症例は,涙点拡張後,涙道内視鏡,五嶋式ブジー型涙管洗浄針または三宅式ブジーで閉塞部の開放を行い,涙管チューブを挿入留置した9).抗癌剤投与中はチューブ留置を継続し,抗癌剤終了後2カ月の時点でチューブを抜去した.経過中は,全例,2.4週ごとに通水洗浄し,角膜障害を含めた細隙灯顕微鏡所見を確認した.点眼薬は,基本的に,初診時から,全例で防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼を勧めたが,前医からの点眼継続希望例では,他剤使用可とした.また,チューブ留置後1カ月間は,0.1%フルオロメトロンと0.5%レボフロキサシン点眼を1日3回行った.抗癌剤の種類と投与期間,チューブ留置前の角膜所見,涙道閉塞の部位と程度,チューブ留置後の角膜所見,抗癌剤中止後の角膜所見について,診療録から後ろ向きに検討した.角膜所見は,フルオレセイン染色範囲により,A0(染色なし),A1(角膜下方のみ染色),A2(角膜中央まで染色)A3(角膜全体染色),A4(角膜潰瘍合併例)に分類した(図(,)1).II結果(表1)投与中のおもな抗癌剤は,S-1が13例26側で,受診までのS-1使用期間は1.10(4.6±3.1)カ月であった.その他の抗癌剤使用例は,いずれも1例2側ずつで,受診までの使用期間は,カペシタビンとパクリタキセルが8カ月,ドセタキセルが3カ月であった.チューブ留置前の角膜所見は,A1が22側,A2が6側,A3が4側で,全例左右差がなかった.涙道閉塞は,涙点狭窄が全例に認められた.涙小管閉塞は,総涙小管に限局したもの(矢部・鈴木分類でgrade1)が24側,涙点から7mm以降で閉塞したもの(同grade2)が8側であった.2側に鼻涙管上部の閉塞も認めた.涙.炎合併例はなかった.癌以外の全身合併症としては,糖尿病を2例に認め,角膜所見は,それぞれA2とA3であった.留置した涙管チューブは,LACRIFASTR(カネカメディックス,東京)12側,PFカテーテルR(東レ,東京)10側,ヌンチャク型シリコーンチューブR(カネカメディックス,東cbad図1角膜所見の分類(フルオレセイン染色)a:A1.角膜下方のみ染まる.b:A2.角膜中央まで染まる.c:A3.角膜全体が染まる.d:A4.角膜潰瘍を認める.1460あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(88) 表1症例と結果性別年齢抗癌剤投与涙小管鼻涙管留置前留置後中止後全身抗癌剤期間閉塞★閉塞チューブ#角膜所見角膜所見角膜所見点眼薬合併症(月)右/左右/左右/左右/左右/左71男S-17gr1/gr1なし/ありLFA3/A3A2/A2A1/A1ヒアルロン酸ナトリウム75男S-15gr2/gr2なしNSA3/A3A3/A3A0/A1ソフトサンテイア糖尿病65男S-17gr2/gr2なしNSA2/A2A2/A2A0/A0生理食塩水71男S-11gr1/gr1なしNSA1/A1A1/A1(投与中)レボカバスチン塩酸塩69男S-15gr1/gr1なしNSA1/A1A1/A1A0/A0ソフトサンテイア59男S-18gr1/gr1なしNSA2/A2A3/A4*A2/A2生理食塩水糖尿病72男S-110gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1A0/A0ヒアルロン酸ナトリウム(A2/A4*)レバミピド59男S-17gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1(投与中)ソフトサンテイア67男S-11gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1A0/A0ソフトサンテイア72女S-11gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1(投与中)ソフトサンテイア61女S-13gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1(投与中)ヒアルロン酸ナトリウム73女S-14gr1/gr1なしLFA1/A1A1/A1A0/A0ヒアルロン酸ナトリウム75女S-11gr1/gr1なし/ありLFA1/A1A1/A2(投与中)レバミピド72女ドセタキセル3gr2/gr2なしLFA1/A1A1/A1(投与中)生理食塩水64女パクリタキセル8gr1/gr1なしLFA1/A1A1/A1(投与中)レバミピド50女カペシタビン8gr2/gr2なしLFA2/A2A2/A1A0/A0生理食塩水★矢部・鈴木分類でのgrade,#LF:LACRIFASTR,NS:ヌンチャク型シリコーンチューブR,PF:PFカテーテルR,*全身状態悪化時,角膜所見の分類は図1参照.ab右眼左眼図2抗癌剤中止前後の角膜所見a:S-1投与中.両眼A3.b:S-1中止後3カ月.右眼A0,左眼A1.京)10側であった.チューブ留置後1カ月で,チューブのA2がA1となったカペシタビン投与例1例2側のみであっ種類にかかわらず,自覚症状(流涙)ならびに涙液メニスカた.角膜所見が悪化したのは,いずれもS-1投与例で,こス高が改善した.一方,角膜障害は20側で変化がなく,改のうち1例2側はA1からA2となり,2例4側で高度の貧善した症例は,A3がA2となったS-1投与例1例2側と,血と白血球減少を認めて全身状態が悪化した時期に,両眼(89)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151461 A1から右A2左A4,両眼A2から右A3左A4にそれぞれ悪化した.経過観察中に抗癌剤が中止できた症例は,9例18側で,中止後2カ月以降に全例角膜障害が改善した.S-1投与中,両側A3であった症例も,抗癌剤中止3カ月後には右A0左A1になった(図2).全身状態悪化時にA4となった2例も,抗癌剤中止後に角膜所見は改善し,1例は両眼A0となったが,もう1例は,角膜所見がA2まで改善後,永眠された.なお,抗癌剤が中止できた9例18側で,中止2カ月後に涙管チューブを抜去したが,抜去後流涙や角膜所見に変化を認める症例はなかった.経過中,継続使用した点眼薬は,人工涙液(生理食塩水またはソフトサンテイアR)が9例,ヒアルロン酸ナトリウムやレパミピドが6例で,アレルギー性結膜炎合併例1例にはレボカバスチン塩酸塩を使用した.角膜障害が悪化した3例は,人工涙液,ヒアルロン酸ナトリウムとレパミピド,レパミピドとそれぞれ異なる点眼薬を使用しており,角膜所見の変化と,使用した点眼薬との相関はみられなかった.III考按S-1は,5-FUプロドラッグを含む経口抗癌剤であり,涙道閉塞と角膜障害をはじめとした眼副作用が知られている1.5).抗癌剤による角膜障害の特徴としては,結膜充血や結膜上皮障害がなく,両眼性であることがあげられる.立花らは,S-1投与中の7例において,点状病巣,epithelialcracklineまたはハリケーン状,白色隆起病巣,半円状の白濁のいずれかの角膜障害を認めたとしている1).一方,柴原らは,S-1投与10例における点状表層角膜症を報告しており2),本例と同様の角膜所見であった.涙道閉塞治療による角膜障害の変化に関しては,これまで検討した報告はない.今回の検討で,導涙機能改善後も,抗癌剤中止がない場合は,角膜障害の軽減がみられなかった理由は明確でないが,全身状態悪化時に角膜潰瘍を合併した症例が2例認められ,全身状態回復とともに角膜所見も改善したこと,そして,本検討では,対象施設の性格上,癌進行例が多数含まれていたことから,免疫能低下のため,角膜の創傷治癒力が阻害されていた可能性が考えられる.さらに,A2とA3の角膜障害を認めた5例のうち,糖尿病合併例が2例含まれていたことから,糖尿病患者で抗癌剤を使用する際は,角膜障害に注意する必要があると考えた.今回,S-1と同様のピリミジン拮抗薬であるカペシタビンのほか,涙道閉塞の副作用報告のある微小管阻害薬であるパクリタキセル7)とドセタキセル8)も1例ずつ検討したが,角膜障害はいずれも軽症で,経過中の悪化はなかった.抗癌剤の種類による副作用発生機序の相違を含め,今後,症例数を増やして検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)立花敦子,稲田紀子,庄司純ほか:抗悪性腫瘍薬TS-1による角膜上皮障害の検討.眼科51:791-797,20092)柴原弘明,久世真悟,京兼隆典ほか:S-1療法により流涙がみられた症例における眼病変の検討.癌と化学療法37:1735-1739,20103)柏木広哉:抗がん剤による眼障害─眼部副作用─.癌と化学療法37:1639-1644,20104)SasakiT,MiyashitaH,MiyanagaTetal:Dacryoendoscopicobservationandincidenceofcanalicularobstruction/stenosisassociatedwithS-1,andoralanticancerdrug.JpnJOphthalmol56:214-218,20125)五嶋摩理:眼障害.改定版がん化学療法副作用対策ハンドブック(岡本るみ子,佐々木常雄編),羊土社,2015(印刷中)6)ChristophodisN,VajdaFJ,LucasIetal:Ocularsideeffectswith5-fluorouracil.AustNZJ-Med9:143-144,19797)SavarA,EsmaeliB:Upperandlowersystemnasolacrimalductstenosissecondarytopaclitaxel.OphthalPlastReconstrSurg25:418-419,20098)EsmaeliB,HidajiL,AdininRBetal:Blockageofthelacrimaldrainageapparatusasasideeffectofdocetaxeltherapy.Cancer98:504-507,20039)五嶋摩理:内視鏡を用いた鼻涙管手術.イラスト眼科手術シリーズV眼瞼・涙器手術(若倉雅登監修,山崎守成,川本潔編),p74-91,金原出版,2013***1462あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(90)

ヒト重層化培養角膜上皮モデルを用いた眼科用製剤の眼刺激性に関する新規評価手法の開発

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):409.413,2014cヒト重層化培養角膜上皮モデルを用いた眼科用製剤の眼刺激性に関する新規評価手法の開発髙田洋平*1櫻井俊輔*1宮本幸治*1坂元伸行*1宮崎剛*2山田昌和*3*1日油株式会社ライフサイエンス事業部ライフサイエンス研究所*2日油株式会社ライフサイエンス事業部ヘルスケア部*3杏林大学医学部眼科学教室NewMethodofEvaluatingEyeCareSolutionToxicityUsing3-DimensionalModelofHumanCornealEpitheliumYoheiTakada1),ShunsukeSakurai1),KojiMiyamoto1),NobuyukiSakamoto1),TsuyoshiMiyazaki2)MasakazuYamada3)and1)LifeScienceResearchLaboratory,LifeScienceProductsDivision,NOFCORPORATION,2)NOFCORPORATION,3)KyorinEyeCenter,KyorinUniversitySchoolofMedicineLifeScienceProductsDivision,目的:眼刺激性評価試験では家兎眼や培養細胞が用いられるが,被験物質の角膜障害性について,invitroで形態学的観点から評価する手法はほとんどなかった.本研究ではヒト重層化培養角膜上皮モデル(角膜モデル)に市販点眼剤を接触させ,その表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで角膜への影響を評価した.方法:各点眼剤を角膜モデルに接触させ,表面のSEM観察を行って障害の程度をスコア化した.また,ウサギ培養角膜上皮細胞での毒性試験を行い,各点眼剤のIC50とスコアとの相関関係を調べた.結果:SEM観察の結果,ホウ酸緩衝液やベンザルコニウム塩化物,クロルヘキシジングルコン酸塩,ソルビン酸カリウムを含む点眼剤で細胞障害の進行が観察できた.各点眼剤の障害スコアとIC50は高い相関関係を示した.結論:本手法により各点眼剤の角膜障害性を形態学的に評価可能となり,眼科用製剤の新たな評価手法として有用であることが示唆された.Purpose:Todevelopanewmethodofevaluatingoculartoxicityusinga3-dimensionalmodelofthehumancornealepithelium.Methods:Afterexposingcornealmodelstoseveralcommercialeyedrops,themodels’surfacedamagelevelswerescoredbyscanningelectronmicroscope.TheIC50valuesofthesamesampleswerecalculatedusingtherabbitcornealcelltoxicitytest,whichisgenerallyusedasanalternativetotheinvivoanimaltest.CorrelationbetweencornealmodeldamagescoresandIC50valueswereevaluated.Results:Severaleyedropscontainingboricbufferorpreservatives(benzalkoniumchlorideorchlorhexidinehydrochloride)showedhighdamageleveloncornealmodels,andhighcytotoxicity.TherewassignificantcorrelationbetweencornealmodeldamagescoresandIC50values.Conclusion:Theseresultssuggestthatthisnewevaluationmethodusingahumancornealmodelisappropriatefortestingtheirritancyofeyecaresolutions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):409.413,2014〕Keywords:角膜障害,培養角膜上皮,走査型電子顕微鏡,点眼剤,防腐剤.cornealdisorder,culturedcornealepithelialcells,scanningelectronmicroscope,eyedrops,preservatives.はじめに点眼薬やコンタクトレンズケア用品など眼科用製剤のヒトの眼に対する刺激性を評価・推測する手法としては,家兎眼を用いたDraize試験1)が一般的な試験として広く行われている.ただし,Draize試験では動物の使用が必須であるため,試験実施に要する費用や動物愛護の観点から,多検体の評価には不向きである.これまでにDraize試験の代替法探索が行われており,たとえば既知の眼刺激性化合物に対するDraize試験の結果と,ウサギ角膜上皮由来の培養細胞(以下,SIRC細胞)を用い〔別刷請求先〕髙田洋平:〒300-2635茨城県つくば市東光台5-10日油株式会社ライフサイエンス事業部ライフサイエンス研究所Reprintrequests:YoheiTakada,LifeScienceResearchLaboratory,LifeScienceProductsDivision,NOFCORPORATION,10,Tokodai5-chome,Tsukuba,Ibaraki300-2635,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(105)409 た細胞毒性試験の結果が相関関係を示すことが報告2)されている.培養細胞を用いた毒性試験はDraize試験と比較して簡便・迅速に多検体処理が可能であるため,多数の化合物や処方に対してスクリーニング評価する際に非常に有効である.一方で,細胞毒性試験は単純に細胞の生存率を評価対象とするため,被験物質が細胞毒性を示す作用機序の違いを評価することは困難である.また,角膜上皮は生体では層構造を持つ重層扁平上皮であり,表層細胞はバリア機能を有するのに対し,通常の培養上皮細胞は単層構造であるなど異なる性質を有しており,実際の生体の眼組織に対する影響の評価法として問題点が残されている.そこで本研究では,ヒト正常角膜上皮由来の培養細胞をカップ内に重層培養することで,生体の角膜上皮に近い構造を構築したヒト重層化培養角膜上皮モデル(以下,角膜モデルと略す)を用い,被験物質曝露後の細胞表面の状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する方法を試みた.点眼剤が角膜に及ぼす影響について形態学的な観点から評価する新たな手法と考えられるので報告する.I実験対象ならびに方法1.対象角膜モデルはラボサイト角膜モデル(((株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)を購入して使用し,SIRC細胞(RCBNo.1835)は(独)理化学研究所バイオリソースセンターより入手して使用した.表1には使用した各市販点眼剤とその概要を示した.2.方法a.各点眼剤を処理した角膜モデル表面のSEM観察と障害スコア化角膜モデルを未開封の状態で25℃にて3日間静置後,24ウェルプレートに角膜モデルを移し,0.5ml/wellとなるようにアッセイ培地((株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)を添加して37℃にて4日間培養した.健常人では涙液がターンオーバーし,涙液中の薬物濃度は5分間で約50%となることが報告3)されている.このことを参考に,本研究では,投与条件として,表2に示した各点眼剤を生理食塩水にて2倍希釈した液0.3mlを角膜モデルに5分間接触させた.対照には生理食塩水を用いた.各点眼剤または生理食塩水を除去し,4℃に冷却した組織固定液(1%グルタルアルデヒドおよび2%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液)0.3mlを角膜モデルに添加し,さらに4℃にて30分間静置した.組織固定液を除去後,角膜モデルを培養カップ底面より切り出し,新しい24ウェルプレートに移した.その後,角膜モデルに4%四酸化オスミウム液を0.3ml添加し,密封して4℃にて30分間静置した.4%四酸化オスミウム液を回収し,0.3mlのリン酸緩衝液中に3分間静置する洗浄操作を2回行った.続いて角膜モデルを50,70,80,90,95%エタノール0.3mlにそれぞれ5分間1回ずつ浸漬し,99.5%エタノールにて5分間3回の浸漬を行った.さらに,エタノールとtブタノールの等量混合液0.3mlに5分間浸漬した後に,tブタノールに5分間4回浸漬してから角膜モデルが浸る程度のt-ブタノールを加え,4℃にて凝固させた.このサンプルを減圧下で凍結乾燥した.得られたサンプルを導電性テープで観察台に貼り付け,イオンスパッタ装置((株)日立ハイテクノロジーズ製,表1試験に用いた市販点眼剤市販点眼剤防腐剤含有成分(緩衝剤など)リン酸水素Na,リン酸二水素Na,NaCl,KCl,ヒプロメロース,2-メタクリロイルオキ製品A塩酸ポリヘキサニドシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体液製品B─ホウ酸,NaCl,KCl,pH調節剤ホウ酸,エデト酸Na,コンドロイチン硫酸エステルNa,NaCl,KCl,ヒプロメロース,製品Cソルビン酸KpH調整剤ホウ酸,ホウ砂,エデト酸Na,コンドロイチン硫酸エステルNa,NaCl,KCl,ヒプロメロ製品D─ース,ブドウ糖,ヒアルロン酸Na,ポリソルベート80,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー),pH調節剤ホウ酸,ホウ砂,エデト酸Na,NaCl,L-アスパラギン酸K,タウリン,シクロデキストリ製品E塩化ベンザルコニウムン製品Fクロルヘキシジングルコン酸ホウ酸,ホウ砂,エデト酸Na,NaCl,KCl,ブドウ糖,ポリソルベート80,ヒドロキシエチルセルロース製品G塩化ベンザルコニウムホウ酸,ホウ砂,エデト酸Na,塩酸テトラヒドロゾリン,pH調整剤,等張化剤410あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(106) E-1010形日立イオンスパッタ)にて金蒸着を15mAにて15秒間行い,SEM用サンプルを作製した.これをSEM((株)日立ハイテクノロジーズ製,S-3000N形走査電子顕微鏡標準ステージ付属)にセットし,加速電圧5kV,100.1,000倍で観察した.各サンプルの角膜表層の状態について,100倍にて取得した画像の細胞の表面構造や細胞間結合に損傷がない状態をスコア1,最表層部分から一部の細胞が.離し軽度の障害が生じている状態をスコア2,細胞間結合が崩壊して2層目以降の細胞が.離している状態をスコア3としてスコア化した.各スコアの代表的なSEM観察画像(傾斜角30°,観察倍率1,000倍)を図1に示した.なお,各サンプルは2つの角膜モデルで試験を実施し,スコアの判定は各試験で傾斜角をつけずに取得した倍率100倍の画像の中央付近10カ所にて実施した.b.各点眼剤のSIRC細胞に対する細胞毒性試験試験はISO10993記載の方法4)を参考に実施した.SIRC細胞を96wellプレートに1×104cells/wellとなるように播種し,10%のウシ胎児血清と各種抗生物質(100unit/mlペニシリンG,0.1mg/ml硫酸ストレプトマイシン,0.25ug/mlアンホテリシンB)を含むDulbecco’smodifiedEagle’smedium(以下,培地)にて37℃で24時間培養した.培地を除去し,表2に示した各点眼剤または生理食塩水を培地にて多段階希釈した液を0.2ml/wellずつ分注してSIRC細胞に接触させ,さらに37℃で24時間培養した.その後,希釈液を除去し,ニュートラルレッドを0.05mg/mlとなるように培地で希釈した液を0.1ml/wellずつ分注して細胞に接触させ,37℃で3時間培養することで生存する細胞を染色した.リン酸緩衝液を0.1ml/wellずつ分注して各ウェルを洗浄し,色素抽出液(50%エタノールおよび1%酢酸含有水溶液)を0.1ml/wellずつ分注して5分間振盪し,その後吸光度(540nm)を測定した.得られた吸光度から各点眼剤または生理食塩水の細胞増殖に対する半阻害濃度(IC50)を算出した.なお,試験は各濃度ともn=3で実施した.c.障害スコアとIC50の相関関係評価各点眼剤と生理食塩水の角膜モデルに対する障害スコアをX軸に,SIRC細胞に対するIC50をY軸にプロットして相関係数と回帰式を求め,障害スコアとIC50に相関関係が認められるか検討した.II結果1.各被験物質の角膜モデルへの影響各点眼剤または生理食塩水で処理した角膜モデルの代表的なSEM観察画像(傾斜角30°,観察倍率1,000倍)を図2に示す.また,角膜モデルに対する障害性をスコア化した結果を表2に示した(n=20).生理食塩水で処理した角膜モデルには最表層の細胞構造や細胞間結合に損傷が認められなかった(図2A).一方で,各点眼剤で処理した場合では,使用している緩衝系の種類や防腐剤の有無によって角膜モデル表面の状態が大きく異なることがわかった.具体的には,製剤の緩衝系としてホウ酸緩衝液を使用している点眼剤(図2C.H)のほうが,リン酸緩衝液を使用している点眼剤(図2B)よりも角膜モデル表面の細胞の損傷が引き起こされる傾向が認められた.さらに,防腐剤としてベンザルコニウム塩化物やクロルヘキシジングルコン酸塩,ソルビン酸カリウムを含有する点眼剤(図2D,F.H)は,細胞間結合の崩壊やそれに伴う上層部分の細胞の.離が生じており,塩酸ポリヘキサニドが含まれている点眼剤(図2B)や防腐剤を含まない点眼剤(図2C,E)と比較して表2各被験物質の角膜モデルに対する障害スコア被験物質障害スコア*生理食塩水1.3±0.3製品A1.6±0.4製品B2.3±0.3製品C2.5±0.5製品D2.1±0.6製品E2.5±0.5製品F2.8±0.4製品G2.8±0.3*n=20の結果の平均値±標準偏差を記載した.最表層最表層2層目(A)(B)20um20um2層目3層目(C)20um図1角膜モデルの障害スコア代表例(A)スコア1,(B)スコア2,(C)スコア3.(107)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014411 図2各点眼剤を処理した角膜モデル最表層のSEM観察(A)生理食塩水,(B)製品A,(C)製品B,(D)製品C,(E)製品D,(F)製品E,(G)製品F,(H)製品G.20um(A)(B)(C)(H)(D)(E)(F)(G)20um20um20um20um20um20um20um20um(A)(B)(C)(H)(D)(E)(F)(G)20um20um20um20um20um20um20um表3各被験物質のSIRC細胞に対する細胞毒性1被験物質IC50(ml/ml)*生理食塩水0.86製品A0.67製品B0.59製品C0.34製品D0.31製品E0.30製品F0.17SIRCIC50(mL/mL)0.80.60.40.2製品G0.06*n=3の結果の平均値を記載した.角膜モデルへの障害スコアが高いことがわかった.2.各被験物質の細胞毒性試験各点眼剤または生理食塩水のSIRC細胞に対するIC50を表3に示した(n=3).IC50は数値が低いほど被験物質の細胞毒性作用が高いことを示しており,角膜モデルでの評価結果と同様に,ホウ酸緩衝液とベンザルコニウム塩化物やクロルヘキシジングルコン酸塩,ソルビン酸カリウムを含有する点眼剤の細胞毒性が高くなる傾向であった.防腐剤を含まない製品Bと製品Dは,角膜モデルでの検討では同程度の障害スコアを示したが,SIRC細胞に対するIC50では製品Dのほうが毒性が高い結果となった.3.角膜モデルに対する障害スコアとSIRC細胞に対するIC50の相関性評価図3に障害スコアとIC50をプロットした結果を示した.プロットした点から算出した回帰式はy=.0.4463x+1.4053となり,相関係数は0.9136となった.412あたらしい眼科Vol.31,No.3,201400123角膜モデル障害スコア図3障害スコアとIC50の相関関係III考察眼科用製剤を開発する際には,多数の開発候補のなかから安定性や安全性を考慮して製品化候補を選定することが必要となる.すべての開発候補に対して動物試験を実施することは,費用の面からも動物愛護の観点からも現実的に困難である.一方で,一般的に行われている細胞毒性試験は簡便でハイスループットに被験物質の眼刺激性を評価する試験方法であるが,試験結果から得られる情報が限定的であり,点眼剤などの眼科用製剤を実際に使用した場合に角膜に対してどのような影響を及ぼすのかを推測することは困難であった.本研究では,従来の細胞試験よりもより生体組織に近い試験材料である角膜モデルを用いて,形態学的な観点から各種の点眼剤の角膜に対する影響を評価・予測する手法を検討した.図3に示した結果から,各点眼剤の角膜モデルに対する障害スコアが,眼刺激性試験の代替試験法として広く実施されてきたSIRC細胞毒性試験のIC50とp<0.01で有意に負の相関を示すことがわかった.今回報告した試験手法を用いるこ(108) とで,複数の開発候補のなかからヒト角膜に対する障害性が低いものを推測・選定することが可能となり,製品開発過程で必要となる動物試験の実施数削減に貢献できると考えられる.今回評価を実施した各点眼剤の角膜モデルに対する結果(図2,表3)については,ホウ酸緩衝液を含む6製品のほうが,リン酸緩衝液を含む製品よりも角膜モデルへの障害が大きかったことから,ホウ酸緩衝液に起因する角膜表面構造の変化が生じていることが示唆された.眼科用製剤に含まれるホウ酸緩衝液の影響については,ソフトコンタクトレンズ用のマルチパーパスソリューション(MPS)において,ホウ酸緩衝液含有製剤がヒト角膜上皮細胞の膜結合型ムチンの発現を抑制すること5),また臨床試験においてもホウ酸緩衝液とポリクォッドが含有されているMPSで角膜上のムチンが減少することが報告6,7)されており,今回の観察結果についてもホウ酸緩衝液の角膜モデル表面に存在するムチン層への影響が考えられた.また,防腐剤を含有する点眼剤5製品の結果を比較したところ,塩酸ポリヘキサニドを含む点眼剤以外は角膜モデルの障害スコアが2以上となり障害が強くなった.塩酸ポリヘキサニドを含む点眼剤の角膜モデルへの影響がほとんど認められなかった理由については,塩酸ポリヘキサニドの安全性が高い8)こと,および,これに添加の2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体液による細胞毒性抑制効果9)によるものと考えられる.各点眼剤のSIRC細胞に対するIC50については,製品Bと製品DではIC50に差異が認められた(表4)が,一方で角膜モデルでの障害スコアが同等であったことから,SIRC細胞を用いた細胞毒性試験では,製剤の眼に対する毒性・刺激性が過大評価される可能性が示唆された.本研究の結果から,3次元角膜モデルを用いた形態学的な観察により,より臨床試験に近い条件で,眼科用製剤のヒト角膜への影響を推測することが可能であることが示唆された.今回検討した新しい試験法は,眼科用製剤の安全性および有用性評価において有効な手法となることが期待される.文献1)DraizeJH,WoodardG,CalveryHO:Methodsforthestudyofirritationandtoxicityofsubstancesappliedtopicallytotheskinandmucousmembranes.JPharmacolExpTher82:377-390,19442)TorishimaH,YamamotoR,WatanabeM:Neutralredassayusingnormalrabbitcornealepithelialcellsgrowninserum-freemediumasanalternativetotheDraizeirritationtest.AATEX3:29-36,19953)清水章代,横井則彦,西田幸二ほか:フロオロフォトメトリーを用いた健常者の涙液量,涙液turnoverrateの測定.日眼会誌97:1047-1052,19934)国際規格医療機器の生物学的評価-第5部:インビトロ細胞毒性試験附属書Aニュートラルレッド取り込み(NRU)細胞毒性試験ISO10993-5,20095)TchedreKT,ImayasuM,HoriYetal:Assessmentofeffectsofmultipurposecontactlenscaresolutionsonhumancornealepithelialcells.EyeContactLens37:328330,20116)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Effectsofmultipurposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,20087)福井正樹,羽藤晋,谷井啓一ほか:MultipurposeSolutionが眼表面ムチンに及ぼす影響.日コレ誌51:247-250,20098)MullerG,KramerA:Biocompatibilityindexofantisepticagentsbyparallelassessmentofantimicrobialactivityandcellularcytotoxicity.JAntimicrobChemother61:12811287,20089)小林-安藤亮太,土田衛,猪又潔ほか:MPCポリマーによるポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)製剤の細胞毒性低減効果.日コレ誌52:265-269,2010***(109)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014413