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序説:硝子体手術に潜む危険な罠

2024年8月31日 土曜日

硝子体手術に潜む危険な罠DangerousTrapsLurkinginVitrectomySurgery馬場隆之*近年の硝子体手術の技術革新はめざましく,とくにトロカールシステムを用いた小切開硝子体手術はその低侵襲性と合併症の少なさもあり,全世界的に急速に広まった.かつての20ゲージ硝子体手術の頃に比べると,硝子体手術執刀のハードルはだいぶ下がっているように感じる.今までエキスパートの先生方が名人芸のように行っていた手術から,比較的経験の浅い術者でも安全に手術が行える標準的な術式へと変化している.このこと自体は確実によい方向に向かっていると考える.その一方で,かつては合併症のオンパレードであった硝子体手術は術中にさまざまなトラブルに見舞われることが多く,その対処法を含めて手術の指導を受けていた.しかし,現在ではそもそも合併症が少なくなったために,術中・術後にどのようにトラブルシューティングをするか,また落とし穴にはまらないようにどのように未然に防ぐかを経験する機会が非常に少なくなっている.手術装置がよくなって後.破損を経験しなくなり,実際に後.破損した際に対処が困難になるという白内障手術の状況に近いかもしれない.硝子体手術には多くの手順が存在するので,一つひとつのステップを確実に踏んでいくことが安全な手術と良好な手術結果につながる.しかし,それぞれの場面に落とし穴があり,一度はまってしまうとそれ以降の手術が非常に困難になる.それらの落とし穴の存在を知っておくことは危機を回避する重要なステップである.また,落とし穴にはまったときにどうしたら抜け出せるのか,実際に経験していなくても,頭のなかで予行演習をしておくことは重要である.疾患別の手術手順は成書に譲るとして,今回は各手術手技・手順における落とし穴とその予防法,またはまってしまったときのリカバリーの解説をエキスパートの先生方にお願いした.手術セッティングから観察システム,白内障同時手術,硝子体切除,黄斑操作,増殖膜処理,液空気置換,眼内タンポナーデ,網膜凝固,そして強膜バックリング併用手術の各場面をとりあげた.疾患別にしなかった理由としては,なるべく実際の手術の場面で役に立つような内容にしたかったということがある.疾患を中心に対策を立てることも大切ではあるが,その場合には病態の理解が中心になる.読者の先生方はすでに病気に関する知識は十分お持ちだと思うので,本特集では実際に手術室で手を動かしているつもりになって,落とし穴を思い浮かべながら読んでいただければ幸いである.落とし穴に落ちないように日頃の手術で気をつけ*TakayukiBaba:千葉大学大学院医学研究院眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)873

Vol.41 No.08(2024年08月号)

2024年8月31日 土曜日

眼科手術の術前血液検査における肝炎ウイルス検査陽性者の 調査と対応

2024年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(7):863.867,2024c眼科手術の術前血液検査における肝炎ウイルス検査陽性者の調査と対応藤川尭之*1小林義行*1,3磯田広史*2高橋宏和*2江内田寛*1*1佐賀大学医学部眼科学講座*2佐賀大学医学部附属病院肝疾患センター*3九州大学大学院医学研究院眼科学分野CInvestigationandActionforHepatitisVirusTest-PositivePatientsinPreoperativeBloodTestsforOphthalmicSurgeryTakayukiFujikawa1),YoshiyukiKobayashi1,3)C,HiroshiIsoda2),HirokazuTakahashi2)andHiroshiEnaida1)1)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,2)SagaUniversityHospitalLiverCenter,3)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC佐賀大学医学部附属病院眼科(以下,当科)における術前血液検査より行った肝炎ウイルス検査陽性者(HBs抗原陽性者,HCV抗体陽性者)の調査とその後の対応を報告する.2019年C1月C1日.2020年C12月C31日に当科に入院し,手術加療を受けた連続症例C1,616人を対象とし,診療記録より性,年齢およびCHBs抗原検査,HCV抗体検査を含む術前の血液検査を抽出し後ろ向きに調査した.HBs抗原陽性者はC21人(1.3%),HCV抗体陽性者はC72人(4.5%)であった.肝炎ウイルス検査陽性者のうちC4人(4.3%)は新規陽性者で肝臓内科へ紹介し,45人(48.4%)は治療中または治療後,44人(47.3%)はフォローアップの詳細が不明であった.眼科は手術件数が多く,術前検査により他科より多くの肝炎ウイルス検査陽性者を検出する機会がある.肝炎ウイルス検査陽性者に適切な肝炎診療を行うためにも積極的に肝臓内科への受診を促す必要がある.CPurpose:ToCreportCtheCinvestigationCofCpatientsCwhoCtestedCpositiveCforChepatitisviruses(HBsAg-positiveCandHCVAb-positive)identi.edthroughpreoperativebloodtestsattheDepartmentofOphthalmology,SagaUni-versityCHospital,CandCtheCsubsequentCresponse.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC1,616CpatientsCwhoCunderwentinpatientsurgeryattheDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityHospital,fromJanuary2019toDecember2020.Gender,age,andpreoperativebloodtest.ndingswereobtainedfromthepatients’CmedicalrecordsCandretrospectivelyinvestigated.Results:Amongthe1,616patients,21(1.3%)wereHBsAg-positiveand72(4.5%)wereCHCVAb-positive.COfCthoseC93CpatientsCwhoCtestedCpositiveCforCtheChepatitisCvirus,4(4.3%)wereCnewlyCpositiveandreferredtohepatology,45(48.4%)wereeitherundergoingorhadcompletedtreatment,and44(47.3%)hadunknownfollow-updetails.Conclusions:Ophthalmologistscanbetterdetectpatientsa.ictedwithhepati-tisviapreoperativetestingduetothehighvolumeofsurgeriesperformed.Suchcasesshouldactivelybeencour-agedtoseeahepatologistforappropriatecare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):863.867,C2024〕Keywords:眼科手術,術前血液検査,HBs抗原,HCV抗体.ophthalmicoperation,preoperativebloodtest,hep-atitisBsurfaceantigen,hepatitisCvirusantibody.Cはじめに佐賀県はC1999.2017年にかけて,人口C10万人当たりの肝癌死亡率が全国C1位を記録していた1).わが国での原発性肝癌のおもな原因は,HCV感染(62.4%)およびCHBV感染(14.9%)で,ウイルス性肝炎が約C80%を占めている2).とくに,佐賀県はCHBs抗原陽性率がC1.05%,HCV抗体陽性率が1.18%であり,全国平均のCHBs抗原陽性率C0.20%,HCV抗体陽性率C0.16%に比較して著しく高い3).近年,わが国ではウイルス性肝炎の取り組みとして都道府県ごとに肝疾患診療連携拠点病院の整備を進めている.しか〔別刷請求先〕藤川尭之:〒849-8501佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakayukiFujikawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANC表1対象疾患症例症例数(人)割合(%)白内障C790C48.9網膜.離C158C9.8(増殖硝子体網膜症を含む)網膜前膜C101C6.3緑内障C93C5.8斜視C87C5.4硝子体出血C62C3.8黄斑円孔C61C3.8眼内レンズ脱臼,落下C36C2.2眼瞼下垂C33C2.0その他C195C12.1総数C1616C100.0Cし,肝炎医療の体制はまだ十分に整備されているとはいえず,肝炎ウイルス検査陽性者が適切な精密検査や肝炎医療を受けることができていないという指摘がある4).佐賀県は1989年にCC型肝炎ウイルスが発見されるより前のC1986年に県肝疾患対策検討委員会を設置し,全国よりもいち早く肝疾患健診を導入し,肝炎ウイルス検査の受検から受診,受療につなげる目的で取り組みを行ってきた.佐賀大学医学部附属病院(以下,当院)では,感染症予防を目的として全身麻酔,局所麻酔を問わず,術前の血液検査でCHBs抗原とCHCV抗体の測定を行っている.本研究では,当院の眼科手術患者の術前血液検査を診療記録から調査し,術前検査で肝炎ウイルスの感染状況を確認するとともに,感染が疑われた患者に対しての佐賀県や大学病院の取り組みについて考察した.CI対象および方法本研究は,2019年1月1日.2020年12月31日に当院眼科に入院し,手術を受けたC1,616人の連続症例を対象とした.研究の実施は倫理委員会の承認を得ており,ヘルシンキ宣言に記載されている原則に従った.同一患者が複数回入院した場合はC1人として集計し,複合手術については主たる術式を集計した.診療記録より,患者の性,年齢および術前の血液検査結果を後ろ向きに収集し,C|2検定またはCt検定を用いて解析した.検査項目には,HBs抗原(HBsAg:hepatitisCBsurfaceantigen),HCV抗体(HCVAb:hepatitisCvirusantibody),AST,ALT,ビリルビン,アルブミン,血小板数,プロトロンビン活性が含まれた.HBs抗原の陽性基準はC0.03CIU/ml以上,HCV抗体の陽性基準はC1.0CC.O.I以上とした.また,肝炎ウイルス検査陽性者は陽性結果が判明した後のその後の医療対応についても診療録から後ろ向きに調査した.(人)HBs抗原年齢別陽性割合1,8001,5001,2009006003000~3940~6970~(歳)全体■陰性■陽性(人)HCV抗体年齢別陽性割合1,8001,5001,2009006003000~3940~6970~(歳)全体■陰性■陽性図1HBs抗原,HCV抗体年齢別陽性割合II結果患者の年代別人数はC39歳以下がC138人(8.5%),40.69歳がC622人(38.5%),70歳以上がC856人(53.0%)であった.性別人数は男性がC835人(51.7%),女性がC781人(48.3%)で,平均年齢はC66.6C±18.2歳(2.97歳)であった.おもな疾患は白内障がC790人(48.9%),網膜.離(増殖硝子体網膜症を含む)がC158人(9.8%),網膜前膜がC101人(6.3%),緑内障がC93人(5.8%),斜視C87人(5.4%),その他が387人(23.9%)であった(表1).全対象者におけるCHBs抗原陽性者はC21人(1.3%),HCV抗体陽性者はC72人(4.5%)であった.HBs抗原陽性者の年齢別割合はC39歳以下がC0人(0%),40.69歳がC10人(1.6%),70歳以上がC11人(1.3%)であり,40.69歳とC70歳以上に大きな差はみられなかった.一方,HCV抗体陽性者の年齢別割合はC39歳以下がC0人(0%),40.69歳がC15人(2.4%),70歳以上がC57人(6.7%)であり,40歳以上で年齢が上昇するにつれて陽性率が増加する傾向がみられた(図1).HBs抗原陽性者C21人のうちC2人(9.5%)は新規陽性者で専門内科へ紹介し,10人(47.6%)は治療中または治療後であり,9人(42.9%)はフォローアップの詳細が不明であった.一方で,HCV抗体陽性者C72人のうちC2人(2.8%)は新規陽性者で専門内科へ紹介し,35人(48.6%)は治療中または治療後であり,35人(48.6%)はフォローアップの詳細が不明であった.表2患者血液検査データ(平均)HBs抗原C/HCV抗体陰性HBs抗原陽性HCV抗体陽性p値(A)(B)(C)CAvsBCAvsC男性(%)C年齢(歳)CAST(UC/l)CALT(UC/l)CBil(mgC/dl)CAlb(gC/dl)CPlt(1C04/μl)CPT(%)C51.4C66.1C24C21.1C0.773C4.21C22.9C98.8C61.9C70.6C23C16.9C0.819C4.02C18.7C94.8C52.8C76.1C29.7C22.4C0.793C3.98C18.991.3Cn.s.Cn.s.n.s.Cn.s.Cn.s.Cn.s.C*n.s.n.s.*n.s.n.s.n.s.n.s.**(性比はC|2男性比率はCHBs抗原陽性者がC61.9%,HCV抗体陽性者が52.8%で,HBs抗原/HCV抗体陰性者のC51.4%と比較して有意な差は認めなかった.平均年齢はCHBs抗原陽性者がC70.6歳,HCV抗体陽性者がC76.1歳で,HBs抗原/HCV抗体陰性者の平均C66.1歳と比較して,HBs抗原陽性者で有意な差はなかったが,HCV抗体陽性者で有意に高かった(p<0.05).血液検査においてCAST,ALT,ビリルビン,アルブミンは,HBs抗原陽性者およびCHCV抗体陽性者で,HBs抗原/HCV抗体陰性者との間に有意な差を認めなかった.一方で,血小板数はCHBs抗原陽性者とCHCV抗体陽性者の両方で,HBs抗原/HCV抗体陰性者と比べ有意に低値であった(p<0.05).プロトロンビン活性については,HBs抗原陽性者ではCHBs抗原/HCV抗体陰性者と有意な差を認めなかったが,HCV抗体陽性者では有意に低値であった(p<0.05)(表2).CIII考按既報では,わが国の献血血液におけるCHBs抗原,HCV抗体陽性率はそれぞれC0.1.0.8%,0.2.1.1%5,6)と報告されている.今回の調査では,HBs抗原,HCV抗体陽性率はそれぞれC1.3%,4.5%であり,既報と比較していずれも高かった.これは,献血に年齢制限(16.69歳)があり,献血者の年齢に比較して眼科手術患者の年齢が高いことが一因と考えられる.献血者ではC2019年度のC40歳以上の割合がC63.2%であるのに対し7),本研究の対象者ではC91.5%であった.また,わが国のC40.70歳を対象にした健康診断におけるCHBs抗原,HCV抗体陽性率を地域別に調査した既報では,九州地方はCHBs抗原陽性率C0.9.1.6%,HCV抗体陽性率C0.9.1.4%ともに全国平均よりも高かった3).HCV抗体陽性率はC65歳以上でとくに高くなり3),本研究はC70歳以上の対象者が53.0%を占めるため,既報よりもCHCV抗体陽性率が高くなったと考えられる.また,今回の調査では,HBs抗原/HCV抗体陰性者と比検定,その他の項目はCt検定を用いた.)n.s.:non-signi.cant,*:p<0.05.べCHBs抗原陽性者では血小板数が,HCV抗体陽性者では血小板数,プロトロンビン活性が有意に低値(p<0.05)であった.血小板数,プロトロンビン活性が有意に低値であるのは,肝の線維化進展を反映している可能性が高いと考えられる.本研究ではCHBs抗原陽性者,HCV抗体陽性者のなかに慢性肝炎や肝硬変の患者が含まれており,HBs抗原陽性者のC47.6%,HCV抗体陽性者のC48.6%が治療中または治療後であった.B型およびCC型肝炎ウイルスの感染経路はおもに血液を介する.かつては使用済み注射針の再利用や感染血液の輸血などが原因となっていたが,現在ではまれであり,一方で医療器具による針刺し事故などは現在でも重要な感染原因となっている.とくにCHBs抗原,HCV抗体陽性率が高い地域では医療従事者の針刺し事故などの感染対策が重要である.わが国における地域偏在性の原因として,日本住血吸虫症に対する治療の影響が考えられる.日本住血吸虫は宮入貝に寄生し,日本住血吸虫症を起こす.宮入貝が生息していた河川は山梨県,広島県,佐賀県,福岡県にあり,治療薬投与時に針が再利用されたため該当地域で集団感染を起こした8).B型およびCC型肝炎の治療はかつてインターフェロンが主流であったが,治癒率が低く副作用が強いという問題があった.しかし,現在の治療ではCB型肝炎にはエンテカビルやテノホビルなどの核酸アナログ製剤,C型肝炎にはグレカプレビル・ピブレンタスビルやソホスブビル・ベルパタスビルなどの直接作用型抗ウイルス薬という副作用の少ない内服薬がおもに使用されており,HBVDNA陰性化をC96%,CHCVRNA陰性化をほぼC100%達成したと報告されている9,10).一方で,健康診断における肝炎ウイルス検査の受診率の低さ,検査で陽性反応を示した患者の適切な医療機関でのフォローアップの欠如が,依然として課題である4).当院でも非肝臓内科による肝炎ウイルス検査で陽性と判定された多数の患者が,その後に肝臓内科への紹介受診に至っていな健康講話啓発イベント定期受診の支援,肝炎ウイルス検査の肝癌などの未受検者を減らす早期発見治療に対する動機づけ・支援図2佐賀県の肝癌・肝炎対策保健指導と医療機関での精密検査の受診勧奨図3肝炎アラート(当院電子カルテ肝炎アラートシステム運用マニュアルより)いとの既報がある11).佐賀県ではこれらの問題に対処するため,2012年に当院に設置された肝疾患センターにより肝癌・肝炎対策の一環として,当院と県内医療機関との連携を深め,「予防」「受検」「受診」「受療」「フォローアップ」の体系的なC5つのアプローチを推進している12)(図2).また,上記の活動を支援する肝炎医療コーディネーターの養成も推進しており,佐賀県では2017年までにC1,000人以上が養成され活躍している13).さらに当院ではC2020年C1月より,「肝炎アラート」という院内連携システムを導入している.このシステムは,肝炎ウイルス検査で陽性が確認された患者に対し,迅速かつ適切な肝炎診療を促すために設計されている.HBs抗原,HCV抗体が陽性の場合にメッセージを表示する「肝炎受診推奨アラート」と,再活性化リスクのある薬剤処方時にメッセージを表示する「B型肝炎再活性化予防アラート」のC2種類がある(図3).既報では,肝炎ウイルス検査陽性者に院内紹介を促す院内連携を取り入れたところ,導入前後で肝炎ウイルス検査陽性者の院内紹介率がC3.6倍に増加したと報告がある14).上記のような取り組みが功を奏し,佐賀県における肝がん粗死亡率(人口C10万人当たりの死亡者数)はC2013年のC35.4からC2018年にはC31.4に低下し,2018年はC20年ぶりに全国1位から脱却した1).一方で,本研究ではCHBs抗原陽性者のうちC9人(42.9%),HCV抗体陽性者のうちC35人(48.6%)はフォローアップの詳細が不明であった.当院の既報では,眼科は内科(非肝臓内科)に比べ肝臓内科への紹介受診に至る割合が低いと報告があり11),今後も肝臓内科や関係機関との連携強化が望まれる.本研究は,当院眼科の術前検査におけるCHBs抗原およびHCV抗体の陽性率が全国平均より高いことを明らかにした.眼科は手術件数が多く,他科より多くの肝炎ウイルス検査陽性者が検出されると考えられるため,肝臓内科や関連機関と綿密な連携が重要である.本論文の内容は第C126回日本眼科学会総会にてC2022年C4月C17日に発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)佐賀県健康福祉部健康増進課がん撲滅特別対策室:都道府県別・肝がん粗死亡率(人口C10万人当たりの死亡者数).がんポータルさが,第C4次佐賀県がん対策推進計画.https://Cwww.ganportal-saga.jp/data/4th_plan2)工藤正俊,泉並木,市田隆文ほか:第C19回全国原発性肝癌追跡調査報告(2006.2007)(日本肝癌研究会追跡調委員会).肝臓57:45-73,C20163)TanakaJ,AkitaT,KoKetal:CountermeasuresagainstviralhepatitisBandCinJapan:anepidemiologicalpointofview.HepatolResC49:990-1002,C20194)厚生労働省健康局がん・疾病対策課肝炎対策推進室:肝炎対策の推進に関する基本的な指針.https://www.mhlw.go.Cjp/content/10901000/000913705.pdf5)西岡久壽彌:献血血液におけるCHBV,HCVスクリーニング検査の陽性数の動向と解析.IASR23:165-167,C20026)片山恵子,田中純子,水井正明ほか:わが国における肝炎ウイルスキャリアの動向.医学の歩み200:3-8,C20027)厚生労働省医薬局血液対策課:年代別献血者数と献血量の推移.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/C0000063233.html8)芳賀晴子,福島紀子:原因追求型特性要因図を用いた本邦におけるCC型肝炎感染の拡大の歴史的考察.薬史学雑誌C46:21-28,C20119)OnoA,SuzukiF,KawamuraYetal:Long-termcontinu-ousCentecavirCtherapyCinnucleos(t)ide-naiveCchronicChepatitisBpatients.JHepatolC57:508-514,C201210)ChayamaK,SuzukiF,KarinoYetal:E.cacyandsafetyofCglecaprevir/pibrentasvirCinCJapaneseCpatientsCwithCchronicCgenotypeC1ChepatitisCCCvirusCinfectionCwithCandCwithoutcirrhosis.JGastroenterolC53:557-565,C201711)古川(江口)尚子,河口康典,大枝敏ほか:大学病院の非肝臓内科におけるCHBs抗原およびCHCV抗体陽性者に対する肝疾患診療の実態.肝臓54:307-316,C201312)佐賀県健康福祉部健康福祉政策課がん撲滅特別対策室:肝がん・肝炎対策.がんポータルさが.https://www.Cganportal-saga.jp/liver/liver13)IsodaCH,CEguchiCY,CTakahashiH:HepatitisCmedicalCcarecoordinators:comprehensiveCandCseamlessCsupportCforCpatientsCwithChepatitis.CGlobCHealthCMedC3:343-350,C202114)前山宏太,三浦創:肝炎ウィルス検査陽性患者における院内紹介連携システムの構築.医学検査C71:493-500,C2022C***

線維柱帯切開術の既往が線維柱帯切除術後の前房出血へ 及ぼす影響

2024年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(7):859.862,2024c線維柱帯切開術の既往が線維柱帯切除術後の前房出血へ及ぼす影響岡田陽*1三重野洋喜*1吉井健悟*2上野盛夫*1森和彦*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学生命基礎数理学教室*3ハ゛フ゜テスト眼科長岡京クリニックCE.ectofPreviousTrabeculotomyonPost-TrabeculectomyHyphemaYoOkada1),HirokiMieno1),KengoYoshii2),MorioUeno1),KazuhikoMori1,3)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)BaptistEyeInstitute,NagaokakyoC目的:線維柱帯切開術(TLO)の既往が線維柱帯切除術(TLE)後の前房出血に及ぼす影響を明らかにすること.対象および方法:2021年C1月.2022年C12月に京都府立医科大学附属病院でCTLEを施行したC195眼を対象に,前房出血が出現したC23眼をCTLO既往群(T群)と非CTLO既往群(N群)に分け前房出血を経時的にスコア化した.出現率,出現日とスコアが最大となる日(最大日)の術後日数,出現日から最大日までの期間,出現日と最大日のスコア,出現時眼圧(IOP)を比較検討した.結果:出現率,出現日の術後日数とスコア,IOPは有意差を認めなかった.最大日の術後日数{6.9C±4.3日/2.9C±1.8日(T群/N群)}や出現日から最大日までの期間(3.6C±3.9日/0.60C±0.99日)はCT群で有意に長く,最大日のスコア(4.4C±1.2/3.1±1.4)も有意に大きかった.結論:TLO既往はCTLE後の前房出血の持続期間と最大量に影響する.CPurpose:ToCinvestigateCtheCin.uenceCofCpreviousCtrabeculotomyConCpost-trabeculectomyChyphema.CMeth-ods:AmongC195CeyesCthatCunderwentCtrabeculectomyCatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicine,CKyoto,CJapanCfromJanuary2021toDecember2022,23withhyphemawerecategorizedintotrabeculotomyhistory(TH)groupandnohistory(NH)groupandhyphemawasscored.Frequencyofhyphema,numberofpostoperativedaysuntilhyphemaConset,CdayCwithCmaximumscore(max-scoreday)C,CtimeCperiodCfromConsetCtoCmax-scoreCday,ConsetCandCmaximumCscore,CandCintraocularpressure(IOP)atConsetCwereCthenCcompared.CResults:NoCsigni.cantCdi.erenceCwasCfoundCbetweenCtheCTHCandCNHCgroupsCinCfrequency,CnumberCofCpostoperativeCdaysCuntilConset,ConsetCscore,CandCIOP.CHowever,CcomparedCtoCtheCNHCgroup,CtheCTHCgroupCshowedCaClongerCmeanCpostoperativeCperiodCuntilConsetandmax-scoreday(THgroup:6.9C±4.3days,NHgroup:2.9C±1.8days)andfromonsettomax-scoreday(THgroup:3.6C±3.9Cdays,CNHgroup;0.60C±0.99days)C,CandChigherCmaximumscores(THgroup:4.4C±1.2,CNHgroup:3.1C±1.4)C.Conclusion:Previoustrabeculotomysigni.cantlyin.uenceshyphemaseverityanddurationposttrabeculectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):859.862,C2024〕Keywords:前房出血,線維柱帯切開術既往,線維柱帯切除術.hyphema,historyoftrabeculotomy,trabeculecto-my.Cはじめに近年,低侵襲緑内障手術が普及したことで,従来からの線維柱帯切開術(trabeculotomy:TLO)眼外法に加えてCTLO眼内法の適応が拡大している.そのためCTLO既往眼に線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)を施行する機会も増えてきた.前房出血はCTLE,TLOのいずれにも生じる術後合併症であり,TLEでは線維柱帯切除部や虹彩切除部からの出血1.4)により生じ,TLOでは手術直後の低眼圧に伴う上強膜静脈からCSchlemm管への逆流性出血5)により生じるとされている.〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HirokiMieno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCTLO既往眼ではCTLE術後の低眼圧により前房出血が修飾される可能性がある.今回,TLO既往のCTLE術後の前房出血に及ぼす影響を検討した.CI対象および方法本検討は,京都府立医科大学附属病院においてC2021年C1月.2022年C12月に広義原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,ぶどう膜炎続発緑内障ならびにステロイド緑内障に対してTLE単独を施行したC162例C195眼を対象とした.患者背景としてCTLE施行時の年齢,性別,病型,TLO既往とその術式,術前眼圧,術前投薬スコア,抗血栓薬内服の有無,TLE後の前房出血スコアを診療録から収集した.前房出血スコアはCShimaneCUniversityCRLCCpostoperativehyphemaCscoringCsystem(SU-RLC)6)を用いて評価し,TLE後に前房出血スコアが初めてC1点以上になった日を出現日,前房出血スコアが最大となった日を最大日と定義した.対象を前房出血群(前房出血スコアC1点以上)と非前房出血群(前房出血スコアC0点)に分け,2群間における患者背景を比較検討した.さらに前房出血群をCTLO既往の有無でCTLO既往あり(TLO)群とCTLO既往なし(非CTLO)群の2群に分け,TLEから出現日までの期間,TLEから最大日までの期間,出現日から最大日までの期間,出現日と最大日の前房出血スコアならびに出現時眼圧について検討した.眼圧はすべてCGoldmann圧平眼圧計を用いて計測し,術前投薬スコアは緑内障点眼薬単剤がC1瓶C1点,合剤がC1瓶C2点と計算し,炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)内服の場合はC1日内服量がC250CmgごとにC1点と計算した.統計解析は統計ソフトCR(version4.0.3;RCFoundationCforCStatisticalCComputing,CVienna,Austria)を用いて行い,前房出血群と非前房出血群において順序変数についてはFisherの正確検定を用いて,連続変数についてはCt検定を用いて検定した.p値がC0.05未満と算出されたものを有意差ありとした.なお本検討は,世界医師会のヘルシンキ宣言に則り行われ,当院の倫理審査委員会による承認を得て行った.CII結果対象の背景を表1に示す.対象の年齢はC70.1C±11.6歳(平均±標準偏差)であった.TLO既往眼はC38眼で,内訳はTLO眼外法がC5眼,スーチャーCTLOがC25眼,マイクロフックCTLOがC5眼,カフークデュアルブレードがC3眼であった.術前眼圧はC21.4C±7.9CmmHgで,術前投薬スコアはC4.5±1.6であった.前房出血の有無に関連する因子の検討を表2に示す.前房出血群と非前房出血群はそれぞれC23眼とC172眼で,前房出血群と非前房出血群の間に,年齢,性別,病型,術前眼圧,術前投薬スコア,抗血栓薬内服の有無において有意差を認めなかった.TLO既往の有無においても有意差を認めなかったが,前房出血はCTLO既往のあるC38眼中C8眼(21.1%)に,TLO既往のないC157眼中C15眼(9.6%)に認めた.前房出血の特徴とCTLO既往の検討を表3に示す.TLEから出現日までの期間はCTLO群でC3.3C±2.8日,非TLO群でC2.3±1.3日と有意差を認めず,TLEから最大日までの期間はTLO群で6.9C±4.3日,非CTLO群でC2.9C±1.8日と有意にTLO群のほうが長かった(p=0.0046).出現日から最大日までの期間はCTLO群でC3.6C±3.9日,非CTLO群でC0.60C±0.99日と有意にCTLO群のほうが長かった(p=0.0086).出現日の前房出血スコアはCTLO群でC4.0C±1.3,非CTLO群でC3.4C±1.5と有意差を認めなかったが,最大日の前房出血スコアはTLO群でC4.9C±1.5,非CTLO群でC3.6C±1.6と有意にCTLO群のほうが大きかった(p=0.029).また,出現時眼圧はCTLO群でC9.4C±5.9mmHg,非CTLO群でC9.7C±9.0mmHgと有意差を認めなかった.CIII考按TLE後の前房出血の発生頻度はC0.8.20%2.4)と報告されており,本検討ではC195眼中C23眼(11.8%)で前房出血が観察され,既報と同程度であった.TLO既往の有無で前房出血の発生頻度を検討すると,TLO群ではC21.1%,非CTLO群ではC9.6%と有意差を認めないもののCTLO群で高い傾向にあった.抗血栓薬の内服がCTLE後の前房出血の出現に影響を及ぼす7.9)という報告もあるが,本検討では有意差を認めなかった.本検討では,TLO群のほうが非CTLO群よりも出現日から最大日までの期間が有意に長く,前房出血スコア最大値が大きかった.これは,TLO既往眼ではCTLE後に前房出血を生じると出血が長引き,出血量が増加しやすいことを示唆している.Hamanakaら10)は病理組織学的検討の結果,手術直後はCTLOにより前房と集合管が直接交通するが,次第にSchlemm管内皮細胞がCSchlemm管開口部を覆うことで,その交通がなくなると報告している.本検討の結果からは,TLO後にCSchlemm管内皮細胞がCSchlemm管開口部を覆っていても,TLE後の眼圧管理のために行った眼球マッサージやレーザー切糸術による眼球圧迫が前房と集合管の再交通を引き起こす可能性が考えられる.また,トラベクトーム術11カ月後にCTLEを施行中,強膜弁作製直後に前房出血を認めた症例11)も報告されている.強膜弁作製直後は低眼圧となっているため,眼球圧迫以外にも低眼圧が誘引となり再交通する可能性も示唆される.前房と集合管が再交通すると,再度交通がなくなるまで前房出血が持続し,そのため最大量が増えたと考えられた.以上から,TLO既往はCTLE後の前房出血の持続期間と最表1対象の背景年齢(歳)C70.1±11.6性別(男性/女性)(眼)C99/96病型(POAG/PEG/SG)(眼)C93/45/57TLO既往(眼)(CTLO眼外法/スーチャーCTLO/38マイクロフックTLO/カフークデュアルブレード)C(C5/25/5/3)術前眼圧(mmHg)C21.4±7.9術前投薬スコアC4.5±1.6抗血栓薬内服(あり/なし)(眼)C24/171前房出血(あり/なし)(眼)C23/172平均±標準偏差POAG:原発開放隅角緑内障,PEG:落屑緑内障,SG:ぶどう膜炎続発緑内障ならびにステロイド緑内障,TLO:線維柱帯切開術.表2前房出血の有無に関連する因子の検討前房出血群(2C3眼)非前房出血群(1C72眼)p値年齢(歳)C67.3±14.5C70.5±11.2C0.21性別(男性/女性)(眼)C13/10C86/86C0.66病型(POAG/PEG/SG)(眼)C15/2/6C78/43/51C0.84TLO既往(あり/なし)(眼)C8/15C30/142C0.09術前眼圧(mmHg)C23.8±8.9C21.0±7.7C0.12術前投薬スコアC5.0±1.9C4.4±1.6C0.10抗血栓薬内服(あり/なし)(眼)C2/21C22/150C0.75平均±標準偏差前房出血群と非前房出血群において,年齢や性別,病型,TLO既往,術前眼圧,術前投薬スコア,抗血栓薬内服に関して有意差を認めなかった.POAG:原発開放隅角緑内障,PEG:落屑緑内障,SG:ぶどう膜炎続発緑内障ならびにステロイド緑内障,TLO:線維柱帯切開術.表3前房出血の特徴とTLO既往の検討TLO群(8眼)非TLO群(15眼)p値TLE術から出現日までの期間(日)C3.3±2.8C2.3±1.3C0.26TLE術から最大日までの期間(日)C6.9±4.3C2.9±1.8C0.0046**出現日から最大日までの期間(日)C3.6±3.9C0.60±0.99C0.0086**出現日C4.0±1.3C3.4±1.5C0.55前房出血スコア最大日C4.9±1.5C3.6±1.6C0.029*出現時眼圧(mmHg)C9.4±5.9C9.7±9.0C0.94C平均±標準偏差TLO群と非CTLO群においてCTLEから最大日までの期間と最大日の前房出血スコアは有意差を認めた.また,TLEから最大日までの期間ならびに出現日から最大日までの期間はCTLO群のほうが非CTLO群よりも有意に長かった.TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術.有意水準(*:p<0.05,**:p<0.01).大量に影響を与える.TLO眼内法の手術件数の増加に伴いTLO既往眼にCTLEを施行する機会が増えているため,今後はCTLE後に前房出血が長引き,出血量が増える症例に遭遇する可能性が高まると考えられる.利益相反岡田陽:なし三重野洋喜:なし吉井健悟:なし上野盛夫:【P】あり,【R】CorneaGen,AurionBiotech森和彦:【P】あり外園千恵:【P】あり,【F】参天製薬株式会社,サンコンタクトレンズ株式会社,CorneaGen,AurionBiotech文献1)BansalCRK,CCasperCDS,CTsaiJC:IntraoperativeCcomplica-tionsCofCtrabeculectomy.CGLAUCOMACsurgicalCmanage-ment(ShaarawyTM,SherwoodMB,HitchingsRAetal),2,p797-804,ElsevierSaunders,Philadelphia,20152)EdmundsB,ThompsonJR,SalmonJFetal:Thenationalsurveyoftrabeculectomy.III.earlyandlatecomplications.EyeC16:297-303,C20023)MembreyCWL,CPoinoosawmyCDP,CBunceCCCetal:Glauco-maCsurgeryCwithCorCwithoutCadjunctiveCantiproliferativesCinCnormalCtensionglaucoma:1CintraocularCpressureCcon-trolCandCcomplications.CBrCJCOphthalmolC84:586-590,C20004)JayaramCH,CStrouthidisCNG,CKamalDE:TrabeculectomyCforCnormalCtensionglaucoma:outcomesCusingCtheCmoor.eldsCsaferCsurgeryCtechnique.CBrCJCOphthalmolC100:332-338,C20165)MosesCRA,CHooverCGS,COostwouderPH:BloodCre.uxCinCSchlemm’sCcanal.CI.CnormalC.ndings.CArchCOphthalmolC97:1307-1310,C19796)IshidaCA,CIchiokaCS,CTakayanagiCYCetal:ComparisonCofCpostoperativeChyphemasCbetweenCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCandCiStentCusingCaCnewChyphemaCscoringCsystem.JClinMedC10:5541,C20217)辻拓也,竹下弘伸,山本佳乃ほか:抗血栓療法の線維柱帯切除術における周術期の影響.あたらしい眼科C32:C1757-1761,C20158)CobbCCJ,CChakrabartiCS,CChadhaCVCetal:TheCe.ectCofCaspirinandwarfarintherapyintrabeculectomy.EyeC21:C598-603,C20079)LawSK,SongBJ,YuFetal:HemorrhagiccomplicationfromCglaucomaCsurgeryCinCpatientsConCanticoagulationCtherapyCorCantiplateletCtherapy.CAmCJCOphthalmolC145:C736-746,C200810)HamanakaT,ChinS,ShinmeiYetal:HistologicalanalyC-sisoftrabeculotomyC─Caninvestigationontheintraocularpressureloweringmechanism.ExpEyeResC219:109079,C202211)KnapeCRM,CSmithMF:AnteriorCchamberCbloodCre.uxCduringCtrabeculectomyCinCanCeyeCwithCpreviousCtrabec-tomesurgery.JGlaucomaC19:499-500,C2010***

造血幹細胞移植後の免疫不全患者に複数のHHV が 検出された角膜炎の2 例

2024年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(7):854.858,2024c造血幹細胞移植後の免疫不全患者に複数のHHVが検出された角膜炎の2例伊藤正也*1吉村彩野*1福永景子*2細谷友雅*1五味文*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2兵庫医科大学血液内科CTwoCasesofHumanHerpesvirus-PositiveRefractoryKeratitisafterHematopoieticStem-CellTransplantationMasayaIto1),AyanoYoshimura1),KeikoFukunaga2),YukaHosotani1)andFumiGomi1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversity,2)DepartmentofHematology,HyogoMedicalUniversityC涙液CPCRにて複数のCHHVが検出された治療抵抗性の角膜炎C2例を経験したので報告する.症例C1は造血幹細胞移植(HSCT)後のC66歳,女性.内科で感染予防のためにアシクロビル(ACV)内服が行われていた.移植C6カ月後に右眼の樹枝状角膜炎を呈した.HSV-1角膜炎と診断しCACV眼軟膏で治療開始したが上皮欠損が拡大し,左眼にも同様の病変が出現した.涙液CPCR検査で両眼からCHSV-1,HHV-6,7が検出された.所見の改善なく全身状態悪化のため死亡した.症例C2はCHSCT後のC32歳,女性.ACV点滴中だったが,移植C31日後に両眼の地図状角膜上皮欠損を呈した.涙液CPCRで両眼からCHSV-1,左眼からはCHSV-7も検出されCACV眼軟膏で治療するも増悪し,角結膜全上皮欠損となり,全身状態悪化のため死亡した.HSCT後の角膜障害では涙液CPCRが移植片対宿主病との鑑別に有用である.また,ACV予防投与による耐性ウイルス出現の可能性もあり,適正使用の検討を要する.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCofCrefractoryCkeratitisCafterChematopoieticCstem-celltransplantation(HSCT).CCaseReports:Case1involveda66-year-oldfemaleinwhomtreatmentwithacyclovir(ACV)ointmentwasiniti-ated6monthsafterHSCTduetothedevelopmentofdendritickeratitis.However,therewasnoimprovement,andlesionsspreadbilaterally.Polymerasechainreaction(PCR)testingoflacrimal.uiddetectedherpessimplexvirus(HSV)-1andhumanherpesvirus(HHV)-6and7inbotheyes.Case2involveda32-year-oldfemalewhopresent-edCatC31CdaysCafterCHSCTCwithCaCmap-likeCcornealCepithelialCdefectCinCbothCeyes.CPCRCtestingCofClacrimalC.uidCrevealedHSV-1inbotheyesandHHV-7inthelefteye.DespitetreatmentwithACVointment,thelesionsdevel-opedintowholekeratoconjunctivalepithelialdefects.Bothpatientslaterdiedduetodeteriorationofgeneralcondi-tion.Conclusions:Inbothcases,tear-.uidPCRtestingwasusefulfordiagnosingthecauseoftherefractorykera-titis.Long-termprophylacticadministrationofACVafterHSCTcancausetheemergenceofresistantviruses.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(7):854.858,C2024〕Keywords:単純ヘルペスウイルス,ヒトヘルペスウイルスC7型,アシクロビル,涙液ポリメラーゼ連鎖反応,造血幹細胞移植.herpessimplexvirus(HSV),humanherpesvirus(HHV-7),acyclovir,tear.uidpolymerasechainreaction(PCR),hematopoieticstemcelltransplantation(HSCT).Cはじめにヒトヘルペスウイルスは現在までにC8種類が見つかっている1).単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)1型は,眼科領域においてはヘルペス性角膜炎の原因ウイルスであり,多くは幼少期に初感染したのち三叉神経節か角膜内に潜伏感染する.その後,ストレス,外傷,点眼薬使用など,なんらかの免疫抑制状態において再活性化し,上皮病変,実質病変,あるいは内皮病変を発症する2).ヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV)7型も同様に不顕性感染の経過をたどり,突発性発疹や脳炎の原因となるが3),眼病変としては角膜上皮炎4)と内皮炎5)のC2例が報告されているのみである.今回,筆者らは造血幹細胞移植(hemato-〔別刷請求先〕伊藤正也:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasayaIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversity,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-shi,Hyogo663-8501,JAPANC854(108)poieticCstemCcelltransplantation:HSCT)後の免疫不全患者に涙液の眼科的網羅的感染症ポリメラーゼ連鎖反応(poly-meraseCchainreaction:PCR)検査(以下,涙液CPCR)で複数のCHHVが検出された角膜上皮炎のC2症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕66歳,女性.主訴:右内眼角部周辺皮膚の発赤と潰瘍.現病歴:兵庫医科大学病院血液内科にて急性リンパ性白血病に対しCHSCTを受け,その後は腸管移植片対宿主病(graftversushostdisease:GVHD)の増悪寛解を繰り返し,入院加療していた.移植後C170日目に右内眼角部周辺皮膚の発赤と潰瘍を認めたため当科紹介受診となった.予防的にアシクロビル(ACV)200Cmg/日を内服中で,そのほかメチルプレドニゾロンC6Cmg/日,シクロスポリンC50Cmg/日が投与されており,強い免疫抑制がなされている状態であった.腸管GVHDのほか下肢蜂窩織炎,緑膿菌血症,サイトメガロウイルス感染症,Epstein-Barrvirus(EBV)感染症を繰り返していた.初診時所見では角膜に有意な所見はなく,涙液メニスカス高が高かったのみであったため,皮膚所見から眼瞼炎と診断された.オフロキサシン眼軟膏が処方され経過観察となったが,所見の改善を認めないため,2週後に再診した.再診時所見右眼視力:(0.4C×sph.2.50D(cyl.0.50DCAx70°)左眼視力:(0.6C×sph.1.50D(cyl.0.50DCAx90°)視診所見:右内眼角部周辺皮膚と鼻腔粘膜の潰瘍,皮下出血を認めた(図1a).前眼部:右眼角膜輪部のC12時からC1時方向にかけてターミナルバルブを伴う樹枝状の上皮欠損を認めた(図1b).左眼には特記すべき所見を認めなかった.中間透光体:軽度白内障を認めた.眼底:特記すべき所見を認めなかった.鑑別疾患として急性CGVHDによる上皮欠損を考えたが,すでに皮膚科でCHSV-1による単純疱疹と診断されていたため,それに併発した角膜上皮炎と診断した.ACV眼軟膏右眼C5回,ガチフロキサシン点眼右眼C4回を開始し,内服はACVからバラシクロビルC2,000mg/日に変更した.その後も角膜上皮欠損の拡大が続き,初診時よりC29日目には右眼は全角膜上皮欠損となり,輪部や結膜にまで上皮欠損が拡大した(図2a).さらには左眼の角膜輪部周辺結膜にもターミナルバルブを伴う樹枝状欠損が出現した(図2b,c)ため,左眼にも右眼と同様の処方を開始した.しかし,所見の改善を認めないため,初診C36日目に両眼の涙液CPCR検査を施行した.HSV-1が右眼からC1.47C×図1症例1の初診時より14日目の所見a:右内眼角皮膚と鼻腔粘膜に潰瘍と皮下出血を認める.Cb:右眼前眼部フルオレセイン染色写真.角膜輪部のC12時からC1時方向にかけてターミナルバルブを伴う樹枝状の上皮欠損を認める.105copies/μg,左眼からC6.17C×105copies/μg検出され,さらにはCHHV-6(右眼C9.80C×103copies/μg,左眼C1.23C×104copies/μg),HHV-7(右眼C8.70C×103copies/μg,左眼C1.14C×104copies/μg)も検出された.血液内科からはCHHV-6感染症に対してホスカビル点滴が追加された.しかし,そのC2日後に腸管CGVHDによる嘔吐,窒息により心肺停止となり人工呼吸器管理となった.その間も皮膚所見のさらなる増悪と両角膜全面への上皮欠損の拡大が進行した.全身状態悪化のため,初診C51日後に永眠された.〔症例2〕32歳,女性.主訴:両眼の乾燥感,流涙,充血.現病歴:兵庫医科大学病院血液内科にて急性骨髄性白血病に対しCHSCTをC2回施行され,2回目の移植後C31日目に両眼の乾燥感,流涙,充血を認めたため当科紹介受診となった.症例C1と同様にCACV250Cmg/日の点滴投与のほかメチルプレドニゾロンC45Cmg/日,タクロリムスC50Cmg/日の投与により強い免疫抑制がなされている状態であった.初診時所見視力:往診のため測定できず前眼部:両角膜に地図状の上皮欠損(右眼優位)を認めた.中間透光体・眼底:特記すべき所見を認めなかった.図2症例1の初診時より29日目の前眼部フルオレセイン染色所見a:(右眼)角膜全上皮欠損となり,輪部や結膜にまで上皮欠損が拡大している.結膜に樹枝状上皮欠損を認める.Cb,c:(左眼)角膜輪部周辺結膜にもターミナルバルブを伴う樹枝状上皮欠損を認める.角膜上皮欠損は認めない.眼CGVHDを疑い,ガチフロキサシン点眼両眼C4回/日,フルオロメトロン点眼両眼C4回/日,防腐剤無添加人工涙液点眼両眼C7回/日を開始した.しかし,初診C5日後には上皮びらんが輪部を含む角膜全面に拡大し,その辺縁が樹枝状病変様であったため(図3a,b),HSV-1感染を疑い初診C8日目に涙液CPCRを施行した.HSV-1が右眼からC4.36C×105Ccop-ies/μg,左眼からC2.47C×105copies/μg,HHV-7が右眼からC1.94×101copies/μg検出されたため,HSV-1角膜上皮炎と診断し,フルオロメトロン点眼を中止してCACV眼軟膏を開始した.所見の改善を認めないため初診C29日後にも涙液図3症例2の初診時より5日目の前眼部フルオレセイン染色写真a:右眼,Cb:左眼.上皮欠損が角膜全面に拡大し,輪部上皮にも欠損を認める.PCRを再施行したが,治療前とほぼ同量のCHSV-1(右眼C3.25×105copies/μg,左眼C2.79C×105copies/μg)と,新たにEBV(右眼C3.02C×102copies/μg,左眼C9.16C×101copies/μg)を検出した.ACV眼軟膏使用時の疼痛が増悪してきたため,治療効果が見込めない点,患者本人の生命予後がきわめて不良である点を考慮し,血液内科主治医と相談したうえでACV眼軟膏を中止し,オフロキサシン眼軟膏へ変更した.全身的な抗ウイルス療法は継続されたが,両眼とも全角結膜上皮欠損にまで進展した.GVHDによる全身状態の悪化により,初診C37日後に永眠された.CII考按今回筆者らは,HSCT後の免疫不全患者に涙液CPCRでHSV-1,HHV-7が検出された角膜上皮炎のC2症例を経験した.8種類のヘルペスウイルスはそれぞれ感染症状が異なる表1ヒトヘルペスウイルスの種類ウイルス名感染症状単純ヘルペスC1型(HSV-1)歯肉口内炎,口唇ヘルペス,角膜炎,Bell.痺,陰部ヘルペス,脳炎単純ヘルペスC1型(HSV-2)陰部ヘルペス水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)帯状疱疹(Ramsay-Hunt症候群)EBウイルス(EBV)胃癌などサイトメガロウイルス(CMV)日和見感染症(肺炎,脈絡網膜炎,角膜内皮炎,大腸炎)ヒトヘルペスウイルスC6(HHV-6)突発性発疹,脳炎ヒトヘルペスウイルスC7(HHV-7)突発性発疹,脳炎,角膜内皮炎ヒトヘルペスウイルスC8(HHV-8)Kaposi肉腫(表1).眼表面の感染症においては,原因微生物の遺伝子情報が涙液中に漏出していることから,培養や検鏡が容易ではない微生物の遺伝子を涙液から検出することで,感染症の病状を把握することができる.角膜ヘルペスでは細隙灯顕微鏡での特徴的な角膜所見を検出することで診断を行うが,非典型的な角膜上皮病変のことも多いため涙液CPCRの情報が確定診断に非常に有用である6).今回のC2症例でも,涙液CPCRは病態把握に役立った.本症例では涙液CPCRでCHHV-7も陽性となったが,HHV-7感染が単独で関与した角膜炎が報告されているのは筆者らが文献を渉猟した限りC2症例のみである.井上らは高度な角膜浮腫,毛様充血,角膜後面沈着物を呈した角膜内皮炎において,前房水CPCRでCHHV-7が陽性となり,ステロイド点眼,ガンシクロビル点眼で臨床所見が改善した症例を報告している5).一方,依藤らは白色上皮下浸潤が多発した角膜上皮炎において涙液CPCRでCHHV-7が陽性となり,ステロイド点眼のみで改善した症例を報告している4).本症例では既報のCHHV-7角膜炎と類似した所見は認めず,涙液中のウイルスコピー数はCHSV-1がもっとも多かったことから,HSV-1が本症例の病変の主体であったと考える.しかし,HSV-1に対する局所・全身治療を十分に行ったにもかかわらず,所見は悪化し,治療は有効とはいえなかった.HHV-6は角膜炎症の単独原因病原体である可能性が示唆されており,角膜炎をきたした患者C22名の涙液,結膜擦過物CPCR検査においてC14名がCHHV-6陽性,そのうちHSV-1も陽性であった共陽性はC9名であったと報告されており7),角膜に対する病原性をもつと考えられる.このことから,本症例の重症化にCHHV-6,7などのウイルスが影響した可能性も否定できない.また,DNAを検出するCPCR法は特定のウイルスを標的とした検査であり,検査対象以外のウイルスの存在は把握できないのが現状であり,その他の病原体が重症化に関与した可能性も考えられる.今回経験したC2症例で共通していることは,HSCT後の免疫不全状態に対して予防的にCACVが投与されているにもかかわらずCHSV-1感染を発症した点である.HSCT後の角膜炎ではCGVHDの可能性も考えられ,とくにCACVがすでに投与されているとヘルペス感染の可能性は少ないと考えるのが一般的である.造血幹細胞移植ガイドラインにおいて,移植後早期から好中球生着期にはCHSVの再活性化が問題となるため,宿主の状態に応じた予防策が重要であると述べられている8).適切な予防を行わない場合はCHSV抗体陽性患者のC85%が発症し,重症化するリスクも高いことが報告されており,ガイドラインによる推奨により移植後早期のHSV-1感染症の頻度は減少した9.11).しかし,近年問題となっているのがCACV耐性CHSV-1である.保有率は健常者でC0.1.0.7%であるのに対して免疫不全患者ではC3.5.10%と高く,造血幹細胞移植患者ではC30%にも上ると報告されている12).ACVは感染細胞内でウイルス由来のチミジンキナーゼ(TK)によって活性体となり抗ウイルス作用を発揮するが,このCTK遺伝子が変異を起こすと抗ウイルス作用がなくなり耐性化が起こるとされている12).ACV耐性CHSV-1は,バラシクロビル,ガンシクロビルなど他のCTK依存性抗ヘルペスウイルス薬にも交差耐性を示すことが多いため,TK非依存性の治療薬の有効性が検討されている13).三上らは骨髄移植後の患者でCACV予防投与にもかかわらず重度の歯肉口内炎を起こし,口腔粘膜,血液からCACV耐性CHSV-1が検出され,TK非依存性治療薬であるホスカビルで治療が奏効した症例を報告している14).その他CTKを介さない機序で効果を示す治療薬としてアメナメビルもCHSVに対して近年保険適応となった.しかし,薬剤耐性遺伝子検査や薬剤感受性試験についてはわが国ではまだその検査体制が整っていないのが現状である15).本症例では,局所にACV眼軟膏,全身にガンシクロビル,ホスカビルの投与を継続したにもかかわらず,角膜・皮膚所見が増悪した.井上らは角膜擦過CPCR検査を用いたCACV治療前後のCHSV-1コピー数が不変であることがCACV耐性CHSV-1を推定するのに有用であると報告している16).本症例C2においてCACV治療開始後の涙液CPCRでは両眼ともCHSV-1コピー数の有意な改善はみられなかった.高度な治療抵抗性であった点とHSV-1の量が不変であった点のC2点をふまえると,感受性検査は施行できなかったが,ACV耐性CHSV-1角膜炎であった可能性が考えられる.CIII結語今回,HSCT後の免疫不全患者に涙液CPCRで複数のHHVが検出された角膜上皮炎のC2症例を経験した.Com-promisedhostでヘルペスウイルス角膜炎を疑う場合は,早期の涙液CPCRが病態の推測に有用である.HSV-1に対する局所治療に反応しない場合はCACV耐性CHSV-1の可能性が考えられるが,複数のCHHVが病態に関与している可能性も否定できない.今後は薬剤耐性遺伝子検査や薬剤感受性試験の体制整備,耐性株に対する治療薬の承認や,耐性ウイルスの出現に考慮したCACV予防投与法や適正使用の検討が望まれる.利益相反伊藤正也なし吉村彩野なし福永景子なし細谷友雅なし五味文あり[F]:ノバルティスファーマ,参天製薬,千寿製薬,日本アルコン,HOYA,ニデック,JINSClassII[R]:ノバルティスファーマ,バイエル薬品,参天製薬,千寿製薬,KOWA,中外製薬,CanonClassII文献1)GrindeB:Herpesviruses:latencyCandCreactivation-viralCstrategiesCandChostCresponse.CJCOralCMicrobiolC5:22766,C20132)下村嘉一,松本長太,福田昌彦ほか:ヘルペスと戦ったC37年.日眼会誌C119:145-166,C20143)SugaS,YoshikawaT,NagaiTetal:ClinicalfeaturesandvirologicalC.ndingsCinCchildrenCwithCprimaryChumanCher-pesvirus7infection.PediatricsC99:e4,C19974)依藤彰記,細谷友雅:HHV-7が原因と考えられた角膜上皮炎のC1例.あたらしい眼科C38:1473-1474,C20215)InoueCT,CKandoriCM,CTakamatsuCFCetal:CornealCendo-theliitisCwithCquantitativeCpolymeraseCchainCreactionCposi-tiveforhumanherpesvirus7.ArchOphthalmolC128:502-503,C20106)KoizumiCN,CNishidaCK,CAdachiCWCetal:DetectionCofCher-pesCsimplexCvirusCDNACinCatypicalCepithelialCkeratitisCusingCpolymeraseCchainCreaction.CBrCJCOphthalmolC83:C957-960,C19997)OkunoT,HooperLC,UrseaRetal:Roleofhumanher-pesCvirusC6CinCcornealCin.ammationCaloneCorCwithChumanCherpesviruses.CorneaC30:204-207,C20118)造血幹細胞移植ガイドライン:ウイルス感染症の予防と治療,ヘルペスウィルス感染(HSV・VZV).日本造血幹細胞移植学会20189)MeyersJD,FlournoyN,ThomasED:Infectionwithher-pessimplexvirusandcell-mediatedimmunityaftermar-rowtransplant.JInfectDisC142:338-346,C198010)LangstonCAA,CRedeiCI,CCaliendoCAMCetal:DevelopmentCofdrug-resistantherpessimplexvirusinfectionafterhap-loidenticalChematopoieticCprogenitorCcellCtransplantation.CBloodC99:1085-1088,C200211)ZaiaCJ,CBadenCL,CBoeckhCMJCetal:ViralCdiseaseCpreven-tionafterhematopoieticcelltransplantation.BoneMarrowTransplantC44:471-482,C200912)Mor.nF,ThouvenotD:Herpessimplexvirusresistancetoantiviraldrugs.JClinVirolC26:29-37,C200313)DuanCR,CdeCVriesCRD,COsterhausCADCetal:Acyclovir-resistantCcornealCHSV-1CisolatesCfromCpatientsCwithCher-petickeratitis.JInfectDisC198:659-663,C200814)MikamiCM,CUmedaCK,CMatsudaCKCetal:Acyclovir-resis-tantherpessimplexvirustype1infectionafterHLA-hap-loidenticalstemcelltransplantation.TheJapaneseJournalofPediatricHematology/OncologyC54:408-411,C201715)ShiotaCT,CWangCL,CTakayama-ltoCMCetal:ExpressionCofCherpesCsimplexCvirusCtypeC1CrecombinantCthymidineCkinaseCandCitsCapplicationCtoCaCrapidCantiviralCsensitivityCassay.AntiviralResC91:142-149,C201116)InoueCT,CKawashimaCR,CSuzukiCTCetal:Real-timeCpoly-meraseCchainCreactionCforCdiagnosingCacyclovir-resistantCherpeticCkeratitisCbasedConCchangesCinCviralCDNACcopyCnumberCbeforeCandCafterCtreatment.CArchCOphthalmolC130:1462-1464,C2012***

PAX6遺伝子のストップゲイン変異による無虹彩症の1例

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):847.853,2024cPAX6遺伝子のストップゲイン変異による無虹彩症の1例福永直子*1林孝彰*1飯田由佳*1徳久照朗*1比嘉奈津貴*2松下五佳*3近藤寛之*3中野匡*2*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学眼科学講座*3産業医科大学眼科学教室CACaseofCongenitalAniridiawithaStop-GainMutationinthePAX6GeneNaokoFukunaga1),TakaakiHayashi1),YukaIida1),TeruakiTokuhisa1),NatsukiHiga2),ItsukaMatsushita3),HiroyukiKondo3)andTadashiNakano2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealthC目的:家族歴のない無虹彩症のC1例を経験し,白内障と高眼圧症に対する治療経過とともに,遺伝学的検査結果について報告する.症例:患者はC20歳,男性.前医で無虹彩症と診断され,高眼圧症に対してプロスタグランジン関連薬・b遮断薬配合剤点眼加療中であった.両眼視力低下を主訴に紹介受診となった.既往症はなく,両親と兄に無虹彩症の指摘はなかった.矯正視力は右眼C0.04,左眼C0.05であった.混濁の強い後.下白内障に対して,両眼の水晶体再建術を施行し,右眼はマイクロフックを用いた流出路再建術を併施した.術後の矯正視力は両眼それぞれC0.15と改善したものの,両眼ともに高眼圧を認め,術後のステロイド点眼薬を中止し,治療前の点眼薬再開に加え,ブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミド配合点眼液を追加した.左眼の眼圧は下降したが,右眼はリパスジル点眼液を追加し眼圧下降が得られた.光干渉断層計検査で,黄斑低形成に加え,網膜視神経線維層欠損を認めたが,Goldmann視野で緑内障性視野障害はみられなかった.遺伝学的検査で,PAX6遺伝子(NM_000280.6)にストップゲイン変異(p.Arg-103Ter)がヘテロ接合性に検出され,denovo変異と考えられた.結論:無虹彩症に合併する高眼圧症に対して,早期に眼圧下降点眼薬を開始することは重要と考えられる.一方,初回手術の施行時期に関するコンセンサスはなく,本症例のように流出路再建術後に高眼圧が持続するケースもあり,手術時期に関しては,さらなる検討が必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCcongenitalaniridia(CA)withoutCaCfamilyChistoryCandCdescribeCtheCtreatmentCcourseCforCcataractsandocularChypertension,alongCwiththeCgeneticCanalysisresults.Case:ThisstudyinvolvedaC20-year-oldCmaleCpatientCwhoChadCpreviouslyCbeenCdiagnosedCwithCCACandCwasCundergoingCtreatmentCwithCprosta-glandinCanalogue(PG)/beta-blocker(BB)combinationCeyeCdropsCforCocularChypertension.CHeCpresentedCwithCcom-plaintsofCdecreasedvisualacuity(VA)inCbotheyes.HeChadnomedicalhistory,CandthereCwasnofamilyhistoryofCCA.CHisCcorrectedCVACwasC0.04CODCandC0.05COS.CHeCunderwentCcataractCsurgeryCforCbilateralCdenseCposteriorCsub-capsularCcataracts.CInCtheCrightCeye,CanCadditionalCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCwasCperformed.CPostoperative-ly,ChisCcorrectedCVACimprovedCtoC0.15CinCbothCeyes,CbutCelevatedCintraocularCpressure(IOP)persistedCinCbothCeyes.CSteroidCeyeCdropsCwereCdiscontinuedCpostoperatively,CandCinCadditionCtoCrestartingCtheCPG/BBCeyeCdrops,CbrimonidineCtartrate/brinzolamideCcombinationCeyeCdropsCwereCadded.CWhileCIOPCdecreasedCinCtheCleftCeye,CtheCrightCeyeCrequiredCtheCadditionalCeyeCdropsCofCripasudilCtoCachieveCaCnormalCIOP.COpticalCcoherenceCtomographyCshowedCfovealChypoplasiaCandCretinalCnerveC.berClayerCdefects,CbutCnoCglaucomatousCvisualC.eldCdefectCwasCobservedConCGoldmannCperimetry.CGeneticCtestingCidenti.edCaCheterozygousCstop-gainmutation(p.Arg103Ter)inCtheCPAX6Cgene(NM_000280.6)C,CconsideredCtoCbeCaCdeCnovoCmutation.CConclusions:EarlyCinitiationCofCIOP-loweringCeyeCdropsCisCcrucialCforCmanagingCocularChypertensionCassociatedCwithCCA.CHowever,CthereCisCnoCconsensusConCtheCtimingCofCinitialCIOP-loweringCsurgery,CandClikeCwithCourCpatient,CthereCareCcasesCinCwhichCelevatedCIOPCpersistsCafterCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CthusCwarrantingCfurtherCinvestigationCintoCtheCoptimalCtimingCofCIOP-loweringCsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):847.853,C2024〕〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANCKeywords:無虹彩症,後.下白内障,高眼圧症,PAX6遺伝子,変異.congenitalaniridia,posteriorsubcapsularcataract,ocularhypertension,PAX6Cgene,mutation.Cはじめに無虹彩症は,先天性に虹彩の完全または不完全欠損を特徴とする常染色体顕性(優性)遺伝性疾患で,指定難病(告示番号C329)に認定されている.無虹彩症は,孤立性無虹彩症(isolatedaniridia)と症候性無虹彩症(syndromicaniridia)に分類される.WAGR症候群は,症候性無虹彩症の代表疾患で,無虹彩症に加えCWilms腫瘍,泌尿生殖器奇形,発達遅滞を合併する1).一般的には,孤立性無虹彩症を無虹彩症と呼称している.無虹彩症の責任遺伝子はCPAX6遺伝子であり,11番染色体短腕(11p13)に局在している2).PAX6伝子から発現するCmRNAには,複数のアイソフォームが存在しているが,発現率の高いCPAX6(canonicalPAX6)遺伝子(NM_000280.6)は,13個のエクソンからなり,422アミノ酸残基(NP_000271.1)をコードしている.この遺伝子にヘテロ接合変異が生じることで,片アリルの機能喪失(ハプロ不全)が起こり発症すると考えられている.PAX6遺伝子は,転写調節因子をコードし,眼球発生の段階でさまざまな眼組織に発現している.無虹彩症では,さまざまな眼合併症を生じ,眼振,角膜症,白内障,緑内障,黄斑低形成などを合併する.本疾病の発生頻度はC1/40,000.1/100,000とされ,まれな疾患である3,4).罹患者のC2/3程度が家族性に発症しており,残るC1/3は孤発例と考えられている3,4).2021年,無虹彩症の診療ガイドラインが発表された5).今回,家族歴のない無虹彩症のC1例を経験し,白内障と高眼圧症に対する治療経過とともに,遺伝学的検査結果について報告する.CI症例患者:20歳,男性.主訴:両眼視力低下.現病歴:追視不良であったため,生後C5カ月時に近医を受診し無虹彩症が疑われ,精査目的でC1歳時に前医を受診した.眼振に加え,先天無虹彩ならびに黄斑低形成を認め,無虹彩症と診断され,経過観察となった.17歳時の視力は右眼(0.1),左眼(0.09),眼圧はCGoldmann型圧平眼圧計で右眼C22CmmHg,左眼C20CmmHgであった.高眼圧症に対して,ラタノプロスト点眼液C0.005%による治療が両眼に開始された.17歳時,チモロール点眼液C0.5%が両眼に追加され,以降眼圧はC10CmmHg台後半で推移した.その後,トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更された.今回,両眼白内障による視力低下を認め,手術目的に東京慈恵会医科大学葛飾医療センターを紹介受診となった.既往歴:Wilms腫瘍,泌尿生殖器奇形,発達遅滞,てんかん,高次脳機能障害,無嗅覚症,グルコース不耐症などの指摘はなし.その他,特記すべき事項なし.家族歴:両親の近親婚はなく,両親と兄に無虹彩症の指摘はなし.初診時所見:矯正視力は右眼C0.03(0.04C×sph+5.00D(cylC.1.50DCAx20°),左眼0.03(0.05C×sph+5.75D(cyl.1.50D(Ax160°),非接触眼圧計による眼圧値は両眼それぞれ20CmmHg,眼軸長は右眼C24.30Cmm,左眼C24.13Cmmであった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT,CASIA,トーメーコーポレーション)を用いた平均角膜屈折力は右眼C38.7D,左眼36.8D,中心角膜厚は右眼595μm,左眼C580μm,角膜横径は右眼C11.5mm,左眼11.4Cmmであった.振子様眼振を認めた.細隙灯顕微鏡検査では,Sha.er分類CGrade4,無虹彩ならびに混濁の強い後.下白内障を認めたが,角膜実質混濁や角膜輪部疲弊症はみられなかった(図1a,b).隅角鏡検査では,残存している虹彩根部が全周性にみられ,線維柱帯の色素帯が観察された(図2).周辺虹彩前癒着や虹彩高位付着はみられなかった(図2).眼底検査を施行するも,後.下白内障のため透見不良,眼底写真や後眼部COCTの撮像はできなかった.経過:21歳時,両眼水晶体再建術を施行した.右眼施行時,後.下白内障と後.が癒着し,後.ならびにチン小帯の脆弱性が確認され,水晶体.拡張リング(CTR130A0,HOYA)を挿入した.プリセット型眼内レンズ(着色非球面ワンピースアクリルレンズ,SY60YF,日本アルコン)を.内固定し,谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック(イナミ)6)を用い流出路再建術を併施した.右眼術後の眼圧下降が十分得られなかったため,左眼手術の際,合併症に備え,着色非球面スリーピースアクリルレンズ(PN6AS,興和)を挿入し,水晶体再建術単独での施行とした.左眼に術後合併症はなかった.術後視力は,右眼C0.1C×IOL(0.15C×sph+1.00D(cyl.0.50DAx20°),左眼0.1C×IOL(0.15C×sph+2.00D(cyl.3.00DAx120°)と改善した.術後,眼内レンズの固定は良好で,位置ずれもみられなかった.眼振は不変であったが,眼底の透見性が良好となり,眼底評価を行った.後極部の眼底写真で,両眼の中心窩無血管領域は消失し,黄斑形成はみられなかった(図3a,b).超広角走査型レーザー検眼鏡(OptosCalifornia,Optos社/ニコン社)を用いた眼底自発蛍光を撮像した.正常眼の黄斑部では,黄斑色素による自発蛍光がブロックされ減弱するが,本症例では,黄斑部の低蛍光領域は観察されなかった(図図1前眼部写真初診時の右眼(Ca)および左眼(Cb)で,無虹彩ならびに混濁の強い後.下白内障を認める.術後C8カ月後の右眼(Cc)および左眼(Cd)で,眼内レンズの固定は良好で,位置ずれもみられない.C3c,d).黄斑部のCSweptCSourceOCT(SS-OCT:Triton,トプコン)撮像による中心窩領域で,内・外網状層の存在,中心窩陥凹の消失,外顆粒層肥厚の消失,fovealbulgeの消失を認め,Thomasら7)の黄斑低形成分類によるCGrade4に相当した(図4上段).眼振のため,OCTangiographyの撮像はできなかった.OCT(CirrusCHD-OCT5000,CarlCZeissMeditec)による視神経乳頭周囲網膜神経線維厚測定で,網膜視神経線維層欠損を両眼に認めた(図4下段).術後,非接触眼圧計で右眼C35CmmHg,左眼C37CmmHgと高眼圧を認めた.隅角に周辺虹彩前癒着はみられず,ステロイド・レスポンダーの可能性を考慮し術後薬のベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩点眼液を中止し,術後中止していたトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液を再開するも効果に乏しく,ブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液を追加した.左眼はC12.18CmmHgへ眼圧下降が得られたが,右眼はリパスジル塩酸塩水和物点眼液を追加するもC18.26CmmHgの高眼圧が持続したため,アセタゾラミドC250Cmg錠(1日C2錠分2)追加のうえ,濾過手術も検討された.Goldmann動的図2右眼鼻側の隅角鏡写真残存している虹彩根部がみられ,線維柱帯の色素帯が観察される.周辺虹彩前癒着や虹彩高位付着はみられない.図3眼底写真および眼底自発蛍光所見右眼(Ca)ならびに左眼(Cb)の眼底写真で,中心窩無血管領域は消失し,黄斑形成はみられない.右眼(Cc)ならびに左眼(d)の眼底自発蛍光では,正常眼でみられる黄斑部の低蛍光領域はみられない.視野検査を施行し,明らかな緑内障性視野障害がみられなかったこと,角膜厚が厚く測定値より実際の眼圧が低いことが予測され,手術による合併症や視野障害出現のリスクが利益を上回ると判断し,現状の点眼加療継続とした.その後,右眼の眼圧も徐々に下降し,術後C7カ月経過時以降からC13.16CmmHgで推移している.術後C8カ月後の前眼部写真を示した(図1c,d).最終受診時の眼圧は,右眼C16CmmHg左眼15CmmHgであった.家族歴がなく,疾患原因をどのように考えるか,なにが原因で発症したかなど,原因検索の目的で,本人と母親から同意を得て,遺伝学的検査を施行した.東京慈恵会医科大学倫理委員会で承認されている内容(研究承認番号:24-2316997)に従い,無虹彩症・孤立性黄斑低形成の責任遺伝子であるPAX6遺伝子(NM_000280.6)の塩基配列を決定した.過去の報告8,9)と同様にハイブリダイゼーション・キャプチャー法を用い,次世代シークエンサを用いて解析した.すべてのシークエンスが格納されたCBAMファイルをCIntegrativeCGenomicsViewerソフトウエア(version2.16.2)に取り込み,PAX6遺伝子のリード数と塩基配列を可視化した.PAX6遺伝子のエクソンC4.6部分のCCoverageはC569と十分なリード数がシークエンスされていた(図5上段).エクソンC5の拡大図(図5下段)に示すとおり,全リードの約半数で,c.307の位置でシトシン(C)からチミン(T)への塩基置換(c.307C>T,rs121907914)に伴うストップゲイン変図4光干渉断層計所見上段:黄斑部COCTの中心窩領域で,内・外網状層の存在,中心窩陥凹の消失,外顆粒層肥厚の消失,fovealbulgeの消失がみられ,黄斑低形成分類によるCGrade4に相当する所見である.下段:眼振による影響で画像は明瞭ではないものの,網膜視神経線維層欠損を両眼に認める.異(p.Arg103Ter)がヘテロ接合性に検出された.本変異は,から,denovo変異と考えられた.過去に海外の無虹彩症例で報告されており10),無虹彩症の疾CII考按患原因と考えられた.一方,東北メディカルメガバンク機構が運営する日本人C54,267人を対象とした全ゲノム配列デー本症例の特徴として,無虹彩症と黄斑低形成の診断に加タベースToMMo54KJPN(https://jmorp.megabank.え,高眼圧症に対して10代から眼圧下降点眼薬の使用,進tohoku.ac.jp/)で,本変異は登録されていない.症例の母親行性の後.下白内障がみられたことがあげられる.また,遺では,p.Arg103Ter変異は検出されなかった(図5下段).伝学的検査で,PAX6遺伝子にストップゲイン変異(p.Arg-父親には眼疾患の既往はなく,本症例が孤発例であったこと103Ter)が検出され,両親に無虹彩症がなかったことから,図5IntegrativeGenomicsViewer(IGV)を用いたPAX6遺伝子領域の塩基配列の可視化上段:PAX6遺伝子領域のカバレッジ(平均リード数)はC569で,コーディング領域(エクソンC4.6)が十分にシークエンスされている.下段:本症例で決定された塩基配列を参照配列にマッピングし,IGVで可視化すると,リードデータ上の約半数でc.307のグアニン(G)がアデニン(A)に変化している(↓).PAX6遺伝子は,右から左側に読まれため,参照配列の相補鎖が実際の塩基配列となり,シトシン(C)からチミン(T)に置換された変化(c.307C>T)が変異となる.結果として,103番目のアミノ酸をコードするコドンは通常CCGA(Arg)だが,CがCTに変わりCTGA(ストップコドン,Ter)と変化し,ヘテロ接合性のストップゲイン変異(p.Arg103Ter)となる.母親に同一変異は検出されていない.Cdenovo変異による孤発例と考えられた.初診(20歳)時,後.下白内障(図1a,b)により眼底の透見性が不良であった.白内障の合併に関して,Singhらは,無虹彩症C131例の検討で,白内障を合併していた場合,白内障診断時の年齢中央値はC14歳であったと報告している4).緑内障を併発している場合,併発していないケースに比べ,白内障発症がより早期になることも明らかにされた4).一方,Shipleらは,白内障診断時の年齢中央値はC3歳で,白内障手術時の平均年齢はC28.4歳であったと報告している11).本症例では,21歳時に両眼水晶体再建術が施行されている.診療ガイドラインでは,手術によって視力改善が期待できる一方,手術の難易度の高さ,術後緑内障の悪化,水疱性角膜症のリスクが高いため,手術に伴うリスクを考慮し,十分な説明を行ったうえで実施することを推奨している5).無虹彩症に合併する高眼圧・緑内障に対して,診療ガイドラインでは,治療実施することを強く推奨している5).この理由として,無虹彩症では,白内障や黄斑低形成などによる視機能障害を合併していることが多く,また,若年者の場合,正確な視野測定が困難であることが理由にあげられている.本症例も混濁の強い後.下白内障(図1a,b),GradeC4の黄斑低形成(図4上段),網膜視神経線維層欠損(図4下段)を認め,高眼圧症に対して,17歳から眼圧下降点眼薬を使用している.眼圧上昇の原因としては,隅角形成異常による流出路障害が示唆されている12,13).希少疾患であることから,手術に関するランダム化比較試験は存在しないが,線維柱帯切開術を初回手術として推奨する報告がある14).一方,線維柱帯切開術が無効とする報告もある15).この理由として,Schlemm管から集合管あるいはそれ以降の房水流出路の異常があったためか,同時に行った水晶体再建術後炎症により,いったん開放したCSchlemm管が残存している虹彩根部で再閉塞したためと推察している15).ガイドラインでは初回手術として,流出路再建術(隅角切開術あるいは線維柱帯切開術)を施行することは推奨できるものと記されている5).本症例では,初回手術の右眼に対して,水晶体再建術に谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフックを用いた流出路再建術を併施し,術後高眼圧が持続した.この理由として,白内障術後炎症や流出路再建術が無効であった可能性が考えられる.一方,左眼は水晶体再建術を単独で施行し,術後に高眼圧となったが,眼圧下降点眼薬で速やかに眼圧は下降した.本症例を経験し,白内障と高眼圧症の合併例に対しては,まず,水晶体再建術を単独で行い,消炎ならびに眼圧下降点眼薬による眼圧下降を確認してから,流出路再建術を検討することがよいと考えられた.無虹彩症に対する保険適用外の遺伝学的検査実施にあたり,診断目的もしくは研究目的で行うかなど課題がある.明らかな変異が検出されれば診断的意義は大きいものの,検出感度が不明であること,新規変異やミスセンス変異の場合の病原性(疾患原因)の判断がむずかしいことに加え,PAX6遺伝子の部分欠損や全欠損の報告もある.日本の眼科診療は,社会保険制度のもとで行われているため,ガイドラインでは,どのように遺伝学的検査を行うべきかの検討が必要であると記されている5).保険収載されていない遺伝学的検査に対するコスト負担に関しての課題解決は重要である.最近,筆者らは無虹彩症がみられない孤立性黄斑低形成とPAX6遺伝子変異の関連性について検討した16).その結果,遺伝子変異は,ミスセンス変異がほとんどで,DNA結合ドメインであるペアードドメイン(paireddomain:PD)もしくはホメオドメイン(homeodomain:HD)にととまらず多様に存在していることを突き止めた16).一方,本症例でみられたストップゲイン変異(図5下段)を含む短縮型変異では,無虹彩症になるケースが圧倒的に多い17,18).このように遺伝子変異のパターンと臨床所見との関連性が明らかになりつつある.今回筆者らは,重度視力障害,高眼圧症,網膜視神経線維層欠損,後.下白内障,黄斑低形成(Grade4)を認めた無虹彩症のC1例を報告した.無虹彩症に合併する高眼圧症に対する治療で,早期に眼圧下降点眼薬を開始することは重要と考えられた.一方,観血的治療時期に関するコンセンサスやエビデンスはなく,症例ごとに異なると考えられ,さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FischbachCBV,CTroutCKL,CLewisCJCetal:WAGRCsyn-drome:aclinicalreviewof54cases.PediatricsC116:984-988,C20052)GlaserT,WaltonDS,MaasRL:Genomicstructure,evolu-tionaryconservationandaniridiamutationsinthehumanPAX6Cgene.NatGenetC2:232-239,C19923)HingoraniCM,CHansonCI,CvanCHeyningenV:Aniridia.CEurCJHumGenetC20:1011-1017,C20124)SinghB,MohamedA,ChaurasiaSetal:Clinicalmanifes-tationsCofCcongenitalCaniridia.CJCPediatrCOphthalmolCStra-bismusC51:59-62,C20145)西田幸二,東範行,阿曽沼早苗ほか:無虹彩症の診療ガイドライン.日眼会誌C125:38-76,C20216)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmolC94:e371-e372,C20167)ThomasCMG,CKumarCA,CMohammadCSCetal:StructuralCgradingoffovealhypoplasiausingspectral-domainopticalcoherenceCtomographyCaCpredictorCofCvisualCacuity?COph-thalmologyC118:1653-1660,C20118)MizobuchiCK,CHayashiCT,COhiraCRCetal:Electroretino-graphicCabnormalitiesCinCAlportCsyndromeCwithCaCnovelCCOL4A5Ctruncatedvariant(p.Try20GlyfsTer19)C.CDocCOphthalmolC146:281-291,C20239)FukunagaN,HayashiT,YamadaYetal:Anovelstop-gainNF1Cvariantinneuro.bromatosistype1andbilateralCopticCatrophyCwithoutCopticCgliomas.COphthalmicCGenetC45:186-192,C202410)GlaserT,JepealL,EdwardsJGetal:PAX6Cgenedosagee.ectCinCaCfamilyCwithCcongenitalCcataracts,Caniridia,CanophthalmiaCandCcentralCnervousCsystemCdefects.CNatCGenetC7:463-471,C199411)ShipleCD,CFinkleaCB,CLauderdaleCJDCetal:Keratopathy,Ccataract,anddryeyeinasurveyofaniridiasubjects.ClinOphthalmolC9:291-295,C201512)GrantWM,WaltonDS:Progressivechangesintheangleincongenitalaniridia,withdevelopmentofglaucoma.AmJOphthalmolC78:842-847,C197413)LandsendECS,LagaliN,UtheimTP:Congenitalaniridia-acomprehensivereviewofclinicalfeaturesandtherapeu-ticapproaches.SurvOphthalmolC66:1031-1050,C202114)AdachiCM,CDickensCCJ,CHetheringtonCJCJrCetal:ClinicalCexperienceoftrabeculotomyforthesurgicaltreatmentofaniridicglaucoma.OphthalmologyC104:2121-2125,C199715)戸部隆雄,山岸和矢:先天性無虹彩症の白内障,緑内障手術の経験.眼臨87:1001-1005,C199316)MatsushitaCI,CIzumiCH,CUenoCSCetal:FunctionalCcharac-teristicsCofCdiverseCPAX6CmutationsCassociatedCwithCiso-latedfovealhypoplasia.Genes(Basel)14:1483,C202317)YokoiT,NishinaS,FukamiMetal:Genotype-phenotypecorrelationCofCPAX6CgeneCmutationsCinCaniridia.CHumCGenomeVarC3:15052,C201618)LimaCunhaD,ArnoG,CortonMetal:ThespectrumofPAX6Cmutationsandgenotype-phenotypecorrelationsintheeye.Genes(Basel)10:1050,C2019***

COVID-19 のワクチン接種後の両眼同時発症 急性原発閉塞隅角症

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):843.846,2024cCOVID-19のワクチン接種後の両眼同時発症急性原発閉塞隅角症桑野和沙渡邉友之小川俊平渡邉朗中野匡東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofBilateralAcutePrimaryAngleClosureFollowingCOVID-19VaccinationKazusaKuwano,TomoyukiWatanabe,SyunpeiOgawa,AkiraWatanabeandTadashiNakanoCDepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicineC緒言:近年,COVID-19関連眼炎症性疾患発症の報告が散見される.今回筆者らはCCOVID-19ワクチン接種翌日に両眼同時発症した急性原発閉塞隅角症(APAC)の症例を経験したので報告する.症例:69歳,女性.4回目ワクチン接種翌日に右眼の羞明,痛みを自覚し,前医を受診した.眼圧は両眼C62CmmHg,浅前房,中等度散瞳を認め,両眼APACの診断で当院に紹介受診となった.眼軸長は両眼C24Cmm程度で,続発性を考慮して薬物治療を行い,発作は解除されたが,X+13日に右眼CAPACが再発し,同日右眼水晶体再建術を施行した.左眼はC1カ月後に左眼水晶体再建術を施行し,APACの再発はない.原因検索目的の血液検査,胸部CX線写真では異常所見を認めなかった.考察:両側同時発症のCAPACはまれで,既報の多くが続発性である.本症例は明らかな誘因を指摘できずCCOVID-19のワクチンの影響が否定できない.明確な因果関係については今後のデータの集積が必要である.CPurpose:Toreportacaseofbilateralacuteprimaryangleclosure(APAC)followingCOVID-19vaccination.Case:ThisCstudyCinvolvedCaC69-year-oldCfemaleCpatientCinCwhomCanCintraocularCpressureCofC62CmmHg,CshallowCanteriorchambers,andmoderatemydriasiswereobservedinbotheyesat1dayafterherfourthCOVID-19vacci-nation.ShewasreferredtoourhospitalwithadiagnosisofAPACinbotheyes.HerseizureswereresolvedwithdrugtreatmentinconsiderationofsecondaryAPAC,yet13dayslater,recurrenceofAPACwasobservedinherrighteyeandphacoemulsi.cationsurgerywasperformed.Onemonthlater,phacoemulsi.cationsurgerywasper-formedonherlefteye.Noabnormal.ndingswerefoundinbloodtestsandchestX-raysperformedtoelucidatethecause.Conclusion:Nocleartriggercouldbeidenti.edinthiscase,yetthein.uenceoftheCOVID-19vaccinecannotberuledout.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):843.846,C2024〕Keywords:COVID-19,ワクチン,両眼同時発症,APAC.COVID-19,vaccination,bilateralsimultaneousonset,APAC.Cはじめに急性原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglauco-ma;PACG)および急性原発閉塞隅角症(acuteCprimaryCangleclosure;APAC)では,しばしば眼圧が著しい高値となり,視力低下,霧視,虹視症,眼痛,頭痛,悪心・嘔吐,対光反射の減弱・消失などの症状を呈する.対応が遅れると重篤な視野障害や,失明に至る.このため早期に原因を特定し,眼圧を低下させる必要がある.通常CAPACはその特徴的な症状と所見から診断は容易であるが,両側同時発症のAPACはまれであり,これまでの報告でも多くが続発性であり,原因検索が必要となる.これまでCVokt-Koyanagi-Haradasyndrome(VKH)に続発するもの,薬物性,手術麻酔後,ウイルス感染,Weill-Marchesani症候群,両眼虹彩.胞,小眼球症に続発するもの,および蛇咬傷などの報告がある.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種後の眼合併症としては,視神経障害,ぶどう膜炎,ヘルペス性角膜炎,角膜移植拒絶反応,網脈絡膜炎などが報告されている.今回筆者らは,COVID-19ワクチン接〔別刷請求先〕桑野和沙:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprintrequests:KazusaKuwano,DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishi-Shimbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPANC図1来院時の前眼部光干渉計所見CASIA2(トーメーコーポレーション)にて,浅前房(上段),iridotrabecularcontact(ITC)にて広範囲な隅角閉塞(下段)を認める.種の翌日に,両眼同時に著明な高眼圧,浅前房,中等度散瞳を呈したCAPAC症例を経験した.原因検索のための採血,胸部CX線ではぶどう膜炎を疑う所見はみられず,COVID-19ワクチンとの関連を否定できなかった.今回の症例について,既報のワクチン関連眼疾患の考察を加え報告する.CI症例症例はC69歳,女性で,X-1日,COVID-19ワクチン(ファイザー社)のC4回目を接種した.X日,深夜C1時ころテレビを見ている際に右眼の羞明,痛みを自覚するも様子をみていた.X+1日,症状が改善しないため前医を受診した.視力は右眼C0.07(0.5C×sph.4.50D(cyl.0.50DAx125°),左眼0.01(1.0C×sph.3.25D(cyl.0.75DAx50°)で,両眼の眼圧はC62CmmHgであった.急性緑内障発作が疑われグリセオール点滴後に当院へ紹介受診となった.当院の来院時眼圧は右眼C56CmmHg,左眼C19CmmHgで,両眼ともに浅前房と中等度散瞳を認めた.前眼部光干渉断層計CCASIA2(トーメーコーポレーション)(図1)では両眼ともに浅前房がみられ,前房深度は右眼C1.59Cmm,左眼C1.65Cmm,iridotrabecularcontact(ITC)indexは右眼C92.8%,左眼C80.0%,LT(lensthickness)は右眼C5.43mm,左眼C5.47mm,LV(lensvault)は右眼C0.87mm,左眼C0.81mm,眼軸長は右眼C24.09mm,左眼C23.84Cmmであった.両眼ともに眼底には,漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚,波打ち所見などを認めず,VKHは否定的であった.右眼眼底(図2)には耳側網膜に白色病変を認め,同日に施行したフルオレセイン/インドシアニングリーン蛍光造影検査(FA/ICGA)では同部位からの蛍光漏出を認めたが,その他炎症所見などを認めなかった.原因検索のための採血では有意な所見はなく,胸部CX線では肺門部リンパ節腫脹などサルコイドーシスを疑う所見を認めなかった.続発性のCAPACと診断しCD-マンニトール点滴,ピロカルピン塩酸塩点眼,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼薬物治療で眼圧下降を試みた.X+2日発作が解除されないためピロカルピン塩酸塩点眼からアトロピン硫酸塩水和物点眼に切り替えたところ発作は解除された.視力は右眼(0.9C×sph.3.25D(cyl.0.50DAx100°),左眼C0.01(1.0C×sph.2.50D(cyl.0.50DAx65°),眼圧は右眼11mmHg,左眼C13CmmHgに下降した.前房深度は右眼C1.76Cmm,左眼はC1.69Cmm,ITCIndexは右眼C39.2%,左眼C44.7%に改善した(図3).病状や網膜視神経の状態を経時的に観察し,原因疾患を探索した.X+11日再発を認めないためアトロピン硫酸塩水和物点眼を中止したところCX+13日に右眼の視力低下,頭重感で受診し,視力は右眼(1.0C×sph.3.50D(cyl.1.25DAx90°),右眼眼圧40mHg,前房深度1.62mm,ITCIndex右眼C33.6%であった.発作解除時と比較して浅前房化しておりCAPACの再発と判断して,右眼水晶体再建術を行い発作の解除とその後の眼圧下降を得た.また,左眼に対しては,X+1CM,左水晶体再建術を施行し経過観図2右眼の眼底写真と蛍光造影写真眼底写真(Ca)では,右眼耳側網膜に白色病変を認める.視神経乳頭陥凹拡大は認めない.蛍光造影写真(Cb)では同部位に軽度の蛍光漏出を認めるが,その他に血管炎などは指摘できない.図3X+2日の前眼部光干渉計所見CASIA2にて前房深度の拡大(上段),ITCにて図C1と比べて閉塞範囲(下段)の改善を認める.察を行ったがCAPACの再発は認められなかった.どう膜炎,中心性漿液性脈絡網膜症(CSCR),VKH再活性CII考察化,急性帯状性潜在性外網膜症(AZOOR)および多発性脈絡膜炎などがある1.3).一般的に両眼同時発症のCAPACは稀COVID-19ワクチン接種後に報告された眼の合併症には,であるが,これまでに複数の症例報告されており,その多く外転神経麻痺,動眼神経麻痺,顔面神経麻痺/ベル麻痺,多が続発性であるため本症例においてもぶどう膜炎,薬剤性,発性脳神経麻痺,ヘルペス性角膜炎,急性黄斑神経網膜症ウイルス感染など,APACの誘因を検索したが,原因の特(AMN),傍中心性急性中部黄斑症(PAMM),上眼静脈血定には至らなかった.このため,COVID-19のワクチンの栓症(SOVT),角膜移植拒絶反応,前部ぶどう膜炎,汎ぶ影響を否定できない.Singhら4)は,米国のワクチン有害事象報告システムCVaccineCAdverseCEventCReportingCSystem(VAERS)を用いてCCOVID-19のワクチン接種後に緑内障が増加したかを検討し報告した.この際の緑内障は,緑内障(タイプ不明),閉塞隅角緑内障,開放隅角緑内障,ぶどう膜炎による緑内障を含めて発生率が検討されたが発生は非常に稀であった.ワクチン接種後の緑内障の特徴として,投与後1週間以内のC50.70代の女性に多く認められたが,その因果関係に関してはさらなる評価が必要と結論している.COVID-19ワクチン接種後の眼の炎症反応を説明するメカニズムとして,ワクチンとぶどう膜ペプチドの分子相同性,III型過敏反応,およびワクチン接種によって誘発されるその他の自然免疫反応によって二次的に生成される抗原の活性化などが示唆されている5,6).また,既報によれば,COVIDワクチンのC2回目の投与後にぶどう膜炎を発症した症例が多く,これは用量依存性の高い反応がその一因であると考察されている7).APACの成因としては,①相対的瞳孔ブロック,②プラトー虹彩,③水晶体因子,④水晶体後方因子(毛様体因子など),が複合的に関与している可能性が高い8).また,APAC発症の解剖学的リスク因子には,浅前房,浅い虹彩角膜角,水晶体膨隆に伴う水晶体肥厚,短眼軸があげられる9).本症例はそのうち前者C3項目を満すCAPACのハイリスク群で,そこにCCOVID-19ワクチンが発症機転となって,①.④が複合的に関与し,両眼同時にCAPACが発症した可能性がある.ぶどう膜炎の際に近視化がみられる機序として,Zinn小体弛緩と水晶体凸面の増加が報告されている10).またAPAC発症時には水晶体の前方移動による近視化が認められることがある.本症例では発作時には右眼C.1.25D,左眼C.0.75Dの近視化を認め,水晶体凸面のパラメータの一つであるCLVは右眼C0.87mm,左眼0.81mmと高値であった.両者は,発作解除時には,屈折の近視は軽減し,LVも右眼0.65Cmm,左眼C0.46Cmmと軽減していた.しかし,このような近視化がCAPACの誘因・原因であるのか,結果であるのかは不明であり,今後,さらにCAPACの発症機序については検討が必要と思われた.CIII結論両側同時発症のCAPACはまれで,既報の多くが続発性である.本症例は,解剖学的なリスクを有したが他にCAPACの明らかな誘因を指摘できず,COVID-19ワクチンの影響が否定できない.両者の明確な因果関係を立証するには,今後のデータの集積,解析が必要である.文献1)IchhpujaniCP,CParmarCUPS,CDuggalCSCetal:COVID-19Cvaccine-associatedCocularCadversee.ects:anCoverview.Vaccines(Basal)C10:1879,C20222)Habot-WilnerCZ,CNeriCP,COkadaCAACetal:COVIDCvac-cine-associatedCuveitis.COculCImmunolCIn.ammC6:1198-1205,C20233)WangMTM,NiedererRL,McGheeCNJetal:COVID-19vaccinationandtheeye.AmJOphthalC240:79-98,C20224)SinghCRB,CParmarCUPS,CChoCWCetal:GlaucomaCcasesCfollowingCSARS-CoV-2vaccination:VAERS.CVaccines(Basel)C10:1630,C20225)WatadCA,CDeCMarcoCG,CMahajnaCHCetal:Immune-medi-atedCdiseaseC.aresCorCnew-onsetCdiseaseCinC27CsubjectsCfollowingmRNA/DNASARS-CoV-2vaccination.Vaccines(Basel)C9:435,C20216)TeijaroCJR,CFarberDL:COVID-19vaccines:modesCofCimmuneactivationandfuturechallenges.NatRevImmu-nolC4:195-197,C20217)LiS,HoM,MakAetal:Intraocularin.ammationfollow-ingCOVID-19vaccination.IntOphthalmolC8:2971-2981,C20238)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:98,C20229)LeeCHS,CParkCJW,CParkSW:FactorsCa.ectingCrefractiveCoutcomeaftercataractsurgeryinpatientswithahistoryofCacuteCprimaryCangleCclosure.CJpnCJCOphthalmolC58:C33-39,C201410)HerbortCCP,CPapadiaCM,NeriCP:MyopiaCandCin.ammation.CJOphthalmicVisResC6:270-283,C2011***

目磨き文化の醸成として緑内障啓発活動の試み

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):837.842,2024c目磨き文化の醸成として緑内障啓発活動の試み檜森紀子*1,2遠藤雅俊*1,3松原雄介*4稲穂健市*4矢花武史*1石川誠*1國方彦志*1中澤徹*1*1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野*2東北大学大学院医工学研究科生体再生医工学視覚抗加齢医工学分野*3東北大学COINEXT「VisiontoConnect」拠点*4東北大学研究推進・支援機構リサーチマネジメントセンターCAttemptstoRaiseAwarenessofGlaucomaNorikoHimori1,2)C,MasatoshiEndo1,3)C,YusukeMatsubara4),KenichiInaho4),TakeshiYabana1),MakotoIshikawa1),HiroshiKunikata1)andToruNakazawa1)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofAgingVisionHealthcare,TohokuUniversityGraduateSchoolofBiomedicalEngineering,3)COINEXTTohokuUniversity,VisiontoConnect,4)ResearchManagementCenter,OrganizationforResearchPromotion,TohokuUniversityC目的:日本における年齢別の眼疾患の有病率はC60歳以上で上昇し,なかでも緑内障の上昇が著しいため,高齢化社会において早期発見・治療は重要であると考えられる.そこで筆者らは「目磨き」の文化を醸成し,自分の健康を知る機会を設け緑内障の早期発見意識向上へ向けた活動に取り組むこととした.方法:2023年3月11日,12日にショッピングセンターに来店する地域住民を対象にC29企業・4学科の協力のもとC27ブースを出展,C“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベントC2CdaysC!”を開催し,来場者にアンケートを実施しC222名から回答を得た.結果:延べC4,105人がイベントに参加した.アンケートより目のトラブルを心配している参加者はC48%を占め,眼の検査(眼底写真,OCT),眼科医師の健康相談は参加者が多く参加者の満足度も高い傾向にあった.また,参加者のC52.3%がイベントに参加して病院を受診しようと考え,「見える」の考え方,捉え方がC76.8%で変化したという結果を得た.結論:本イベントは参加者の意識改革に大きく寄与することができ,定期的な市民への啓発活動が視機能維持に重要であると考えられた.CPurpose:Theprevalenceofeyediseasesincreasesamongpeopleagedover60years,andtheriseinglauco-maisparticularlysigni.cant,soearlydetectionandtreatmentareconsideredimportantinanagingsocietysuchasJapan.Therefore,wedecidedtofosteracultureof“memigakibunkajosei”(takingcareofyoureyes)toprovideopportunitiesCforCpeopleCtoClearnCaboutCtheirCownChealthCandCengageCinCactivitiesCtoCraiseCawarenessCofCtheCearlyCdetectionCofCglaucoma.CMethods:WeCtargetedClocalCpeopleCvisitingCaCshoppingCcenterConCtwoCconsecutiveCdaysCinCMarch2023,andsetup27boothsincooperationwith29companiesand4academicdepartments.Ourmottowas“WhenCyouCchangeCtheCwayCyouCsee,CtheCworldCchangesC─CyourCbody.CTwoCdaysCofCfunCexperienceCeventCwithCheartC!C”,CandCweCconductedCaCsurveyCofCtheCvisitorsCandCreceivedCresponsesCfromC222Cpeople.CResults:ACtotalCofC4,105CpeopleCparticipatedCinCtheCevent.CAccordingCtoCtheCsurveyCresponses,48%CofCtheCparticipantsCwereCworriedCabouteyeproblems,andmanyofthemweresatis.edwitheyeexaminations(i.e.,fundusphotographyandopticalcoherencetomography)andhealthconsultationswithophthalmologists.Inaddition,53%oftheparticipantsconsid-eredvisitingahospitalafterattendingtheevent,and77%ofthemsaidthattheirwayofthinkingandunderstand-ingCaboutCproperCvisionChadCchanged.CConclusion:ThisCeventCwasCableCtoCgreatlyCcontributeCtoCchangingCtheCawarenessofparticipants,andweconsiderregularpublicawarenessactivitiesimportantformaintaininggoodvisu-alfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):837.842,C2024〕Keywords:緑内障,啓発活動,目磨き文化醸成.glaucoma,CpublicCawarenessCactivities,CtakingCcareCofCyourCeyes.C〔別刷請求先〕檜森紀子:〒980-8574宮城県仙台市青葉区星陵町C1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野Reprintrequests:NorikoHimori,DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryo-cho,Aoba-ku,Sendai-shi,Miyagi980-8574,JAPANC図1“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベント2days!”の会場図2イベント出展例a:緑内障CVR体験コーナー.Cb:眼科医師による相談コーナー.c:音楽イベント.はじめに日本での視覚障害認定状況は原因疾患別では緑内障が第一位であり,4割を占めている1).現在,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を含む眼底検査機器の進歩により極早期の緑内障診断は向上している.そして,さまざまな機序の点眼薬により低い眼圧を保つことができるようになった.緑内障手術も幅広く開発され,治療の進歩により高度な視機能障害をきたす確率は低下してきている.しかし,緑内障は自覚症状の弱い疾患であり,視野の欠けは自覚されにくい.現行の緑内障診療の目標は進行を抑制することであり,生活に不便を感じ病院を受診するのでは,患者の治療満足度の向上は得られない.本人が病気に興味をもち病院を受診してもらい,早期発見・治療を実現させるためには市民への啓発活動が必要であると考えられる.そして一人でも多くの無自覚緑内障患者を減らすために,筆者らは「目磨き」の文化を醸成し,自分の健康を知る啓発活動に取り組むこととした.本稿では,本イベントが緑内障を早期発見する意識向上に有効かアンケート調査の結果を解析したので報告する.CI対象および方法2023年C3月C11日,12日に宮城県利府町のショッピングセンターに来店する地域住民を対象に東北大学CCOICNEXT「VisiontoConnect」拠点が宮城県眼疾患早期発見コンソーシアム(https://mewomamoru.net/),宮城県眼科医会,東北大学C4学科(医学,歯学,薬学,工学)と協力し,C“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベントC2Cdays!”を開催した(図1).イベントの広a性別b年代20代7.7%回答しない0.5%回答しない10代以下1.8%2.3%■10代以下60代以上■20代21.8%30代男15.0%44.5%■30代■男■40代■女女■50代■回答しない55.0%■60代以上■回答しない50代40代27.3%24.1%図3アンケート回答者a:性別.b:年代.報はCHPで紹介し,東北大学,関連病院,宮城県眼疾患早期発見コンソーシアムに加入しているクリニックに来院した患者に案内した.29企業・東北大学C4学科(医学,歯学,薬学,工学)と協議を重ねC27ブースを出展し,各ブース出展企業や学科から人員を配置した.また,保健所に診療所開設届を提出し,眼科医師による健康相談は東北大学眼科医局員,眼科検査については東北大学眼科CORT交替で担当し,施行した.トークイベント,音楽イベント,眼底写真,健康相談,視力計測,virtualreality(VR)体験,毛細血管測定などC27ブースを出展した(図2a~c).さまざまな点からショッピングモールにきた人をリクルートし,アンケートを実施しC222名から回答を得た.本稿で報告する啓発活動で入手したアンケートはすでに匿名加工している情報(名前は聞いておらず,年代と性別のみ)のため倫理指針の対象とはならず,倫理審査は不要と判断した(東北大学倫理員会確認済).CII結果本イベントには延べC4,105人が来場し,222件のアンケートの回答を得た.参加者の性別は男性C55.4%,女性C44.1%(図3a),幅広い年代に参加いただきとくにC40代,50代の人に多く参加いただいた(図3b).現在,身体の不調として眼のトラブルをあげる人が多いことが明らかになった(図4a~c).体験イベントは健康相談,眼底写真,OCT検査の参加者が多く(図5a),来場者の満足度も非常に高いという結果を得た(図5b).イベントに参加して病院を受診しようと思っている人がC52.3%(図6a),76.8%の参加者に見えることに関して意識改革ができたという結果を得(図6b),イベント参加者の意識改革に大きく寄与することができたと考えられた.III考按多治見スタディでは全緑内障の約C9割は未発見・未治療であることが明らかになっており2),診断されずに潜在している緑内障患者が多いことが第C1の問題として考えられる.第2の問題点として,緑内障は自覚症状が弱い病気であり,病院受診する人が少ないことがあげられる.実際,人間ドック後の眼科医療機関を受診しない人はC32.8%存在し3),理由として「たいしたことない」という理由が一番であった4).潜在している緑内障患者を調べると,視力や眼圧を確認するよりも視神経乳頭の診察が診断に重要という報告もあることから,眼科受診が必須となる5).視覚はCQOLに直結しているが,重要性を自覚している人が残念ながら少ないのが現状であり,確実な受診に結びつけるために,行動変容を促すための専門家による相談体制作りや啓発活動が重要である.本イベントでは,視力検査,簡易視野検査,OCT撮影,VR機器で緑内障の視界を体験,医師の相談コーナーなどが開設され,ショッピングセンターを訪れた幅広い年齢層の人に体験いただいた.トークイベントを聞いた人のなかには熱心にメモをとる人もみられ,眼疾患への関心の高さがうかがえた.今回の体験コーナーでは自身の眼の健康をチェックすることで,病院を受診しようと思っている方がC52.3%,76.8%の参加者が見えることに関して意識改革ができたという結果を得たことから,市民にとって眼の健康に関心をもつ良い機会になったと考えられた.緑内障で大切なことは早期発見の機会をもち,診断の結果治療が必要なら治療開始,疑わしいなら経過観察,健診・検診は定期的に受けることである.今回のような持続的な啓発活動を通して市民に眼疾患へ興味をもってもらうことは,日本国民の視機能維持に重要であると考えられる.現在,身体に不調はありますか(複数回答可)210件の回答a目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性肩こり胃腸(便秘・下痢)低血庄・高血庄睡眠が浅い・寝つきが悪い花粉症耳鼻科特になしない特にない膝滑膜性骨軟骨腫症冠攣縮性狭心症なし目がかすむ,目がつかれる0b目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性肩こり胃腸(便秘・下痢)01024(11.4%)27(12.9%)23(11%)36(17.1%)35(16.7%)34(16.2%)28(13.3%)5(2.4%)2(1%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)202030405040(19%)36(17.1%)40606070809082(39%)74(35.2%)80100■女実数■男実数c目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性屑こり胃腸(便秘・下痢)低血圧・高血圧唾眠が浅い・寝つきが悪い0102030405060708090■10代以下■20代■30代■40代■50代■60代以上図4不調を自覚している身体の部位a:全体.Cb:男女別赤:女性の実数,青:男性の実数.Cc:年代別青:10代以下,赤:20代,黄:30代,緑:40代,橙:50代,薄緑:60代以上.a本日どのイベントメニューを体験しましたか216件の回答①医師による相談コーナー115(53.2%)②老眼や加齢に伴う見え…60(27.8%)③誰でも簡単に眼の健康…68(31.5%)④黄斑色素密度を高くす…45(20.8%)⑤あなたの目は大丈夫!…44(20.4%)⑥眼底写真で健康チェック117(54.2%)⑦緑内障をご存知ですか?40(18.5%)⑧OCTスキャナー76(35.2%)⑨「きこえ」を良くして…15(6.9%)⑩虫歯・歯周病のリスク…23(10.6%)⑪お口の機能をみてみよ…16(7.4%)⑫爪先毛細血管・”ゴース…62(28.7%)⑬障がいのある方の就労…2(0.9%)⑭ゆるスポーツ「コツコ…7(3.2%)⑮さまざまな目の症状を疑似…8(3.7%)⑯緑内障VRヘッドセット…19(8.8%)⑰親子で!友達同士で!…18(8.3%)⑱認知症などの疾病リス…14(6.5%)⑲ロービジョン患者さん…3(1.4%)⑳誰もが手軽に眼の状態…6(2.8%)⑪“見えづらい”を“見える”…7(3.2%)⑫クイズで学ぶ「生活習…10(4.6%)A-①みんなで一緒に!イ…1(0.5%)A-②感覚を研ぎ澄ませ!…4(1.9%)B-①イオン薬局出張所2(0.9%)B-②ウエルシア薬局出張所6(2.8%)Cバランスウォーキング(…4(1.9%)0255075100125b本日体験したイベントメニューでよかったメニューはどれですか199件の回答①医師による相談コーナー101(50.8%)②老眼や加齢に伴う見え…38(19.1%)③誰でも簡単に眼の健康…43(21.6%)④黄斑色素密度を高くす…30(15.1%)⑤あなたの目は大丈夫!…30(15.1%)⑥眼底写真で健康チェック78(39.2%)⑦緑内障をご存知ですか?30(15.1%)⑧OCTスキャナー62(31.2%)⑨「きこえ」をよくして…13(6.5%)⑩虫歯・歯周病のリスク…20(10.1%)⑪お口の機能をみてみよ…12(6%)⑫爪先毛細血管・”ゴース…42(21.1%)⑬障がいのある人の就労…3(1.5%)⑭ゆるスポーツ「コツコ…6(3%)⑮さまざまな目の症状を疑似…4(2%)⑯緑内障VRヘッドセット…11(5.5%)⑰親子で!友達同士で!…10(5%)⑱認知症などの疾病リス…8(4%)⑲ロービジョン患者さん…2(1%)⑳誰もが手軽に眼の状態…3(1.5%)⑪“見えづらい”を“見える”…6(3%)⑫クイズで学ぶ「生活習…8(4%)A-①みんなで一緒に!イ…0(0%)A-②感覚を研ぎ澄ませ!…3(1.5%)B-①イオン薬局出張所2(1%)B-②ウエルシア薬局出張所5(2.5%)Cバランスウォーキング(…3(1.5%)0255075100125図5体験イベントに関してa:どのイベントを体験しましたか.Cb:体験したイベントメニューでよかったメニューはどれですか.abいいえ■はい■はい2.3%■いいえ■いいえ■どちらともいえない■どちらともいえない図6行動変容に関してa:今回のイベントに参加して,病院を受診しようと思いましたか?の考え方,とらえ方が変わりましたか?文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20232)日本緑内障学会:日本緑内障学会多治見疫学調査報告書C2012Cb:今回のイベントに参加して,「見える」3)和田高,寺島早,三村昭ほか:人間ドックC3カ月後の受診勧奨と今後の課題.人間ドックC27:748-754,C20124)鈴木真,酒井博,福田吉:健診結果に基づく事業場労働者の医療機関受診につながる要因.産業衛生学雑誌C61:247-255,C20195)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieM:CharacteristicsCofCundiag-nosedprimaryCopen-angleCglaucoma:theCTajimiCStudy.COphthalmicEpidemiolC21:39-44,C2014***

ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の処方パターンと短期効果

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):833.836,2024cブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の処方パターンと短期効果藤嶋さくら*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CPrescriptionPatternofBrimonidine/RipasudilFixedCombinationEyeDropsSakuraFujishima1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(以下,BRFC)の処方パターンを調査し,変更症例では短期的な眼圧下降効果と安全性を後向きに検討する.対象および方法:BRFCが新規に投与されたC176例を対象とした.処方パターンを追加症例,変更症例,変更追加症例に分けた.変更症例では変更前の点眼薬を調査し,変更前点眼薬別に変更前後の眼圧を比較し,副作用,中止例を検討した.結果:変更症例はC151例,変更追加症例はC15例,追加症例はC10例だった.変更症例の変更前点眼薬はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例,ブリモニジン点眼薬C35例などだった.眼圧は両点眼薬症例ともに変更前後に変化はなかった.副作用はC3.3%,中止例はC2.6%で出現した.結論:BRFCは多剤併用の原発開放隅角緑内障症例で同成分同士からの変更として使用されることが多かった.変更症例の変更後の眼圧下降と安全性は良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheCpatternsCofCprescribingCbrimonidine/ripasudilC.xedCcombination(BRFC)eyedropsandshort-termintraocularpressure(IOP)-loweringsafetyande.cacyinglaucomaandocularhypertensioncases.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved176patientsinwhomBRFCwasnewlyadminis-tered.WecategorizedthepatternsofprescribingascasesinwhichBRFCwasaddedtopreviousmedications,cas-esCthatCswitchedCtoBRFC(changed)C,CandCchanged/added.CIOPCbeforeCandCafterCtheCchangeCforCeachCeyeCdropCchangedCwasCcompared,CandCtheCsideCe.ectsCandCdropoutsCwereCexamined.CResults:ThereCwereC151CcasesCofCchanges,C15CcasesCofCchanged/added,CandC10CcasesCofCadded.CInCtheCchangedCcases,CthereCwereCbrimonidineCplusCripasudilCinC113,CbrimonidineCinC35,CandCothers.CNoCdi.erenceCinCIOPCwasCobservedCbetweenCbeforeCandCafterCtheCchange.Sidee.ectsoccurredin3.3%ofthecases,and2.6%ofthecasesdroppedout.Conclusions:Our.ndingsrevealedthatBRFCwasusedwithhighfrequencyinPOAGpatientstakingmultiplemedicationsasamodi.cationofthesameingredients,andthatthesafetyande.cacyofIOPloweringwassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):833.836,C2024〕Keywords:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬,処方パターン,眼圧,副作用.brimonidine/ripasudile.xedcombination,prescriptionspattern,intraocularpressure,adversereaction.Cはじめに緑内障薬物治療において多剤併用になるとアドヒアランスは低下しやすい1).そこでアドヒアランス向上のために配合点眼薬が開発された.従来から日本で使用可能だった配合点眼薬はすべてCb遮断薬を含有していたが,Cb遮断点眼薬を含有しないブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬がC2020年C6月より使用可能になり,呼吸器系疾患や循環器系疾患を有する症例でも配合点眼薬を使用できるようになった.そして今回Cb遮断薬を含有しないC2種類目の配合点眼薬がC2022年C12月より使用可能となった.このブリモニジン/リパスジル配合点眼薬はブリモニジン点眼薬とリパスジル点眼薬を含有している.日本で行われた治験や健常人における検討で〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(87)C833ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている2,3).しかし,臨床現場でどのような症例にブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が使用されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例についてその処方パターン,短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2022年C12月.2023年C2月に井上眼科病院に通院中でブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(グラアルファC1日C2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者176例C176眼(男性C100例,女性C76例)を対象とした.平均年齢はC66.9C±12.5歳(平均C±標準偏差)(32.91歳)(範囲)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C127例,続発緑内障C27例(落屑緑内障C11例,ぶどう膜炎C10例,血管新生緑内障C3例,糖尿病網膜症C2例,ステロイド緑内障C1例),正常眼圧緑内障C17例,原発閉塞隅角緑内障C3例,小児緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.投与前眼圧は投与前C2回の平均眼圧,投与後眼圧は投与後はじめての来院時の眼圧として解析した.投与前眼圧はC17.4C±6.9CmmHg(10.0.54.5mmHg)であった.投与前の使用薬剤数はC4.5C±1.2剤(0.8剤)だった.投与後眼圧は投与C2.3C±0.9カ月後(1.4カ月後)に測定された.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が追加投与された症例(追加群),前投薬を中止してブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が投与された症例(変更群),複数の薬が変更,追加となった症例(変更追加群)に分けた.追加群,変更追加群では投薬前後の眼圧を比較し,副作用と中止症例を調査した.変更群では変更した点眼薬を調査し,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬から変更した症例についてはそれぞれ変更前後の眼圧を比較した.投与後の副作用と中止症例を調査した.配合点眼薬は薬剤数C2剤として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は投与前眼圧が高いほうの眼を対象とした.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果全症例のうち追加群はC10例(5.7%),変更群はC151例(85.8%),変更追加群はC15例(8.5%)であった.追加群は原発開放隅角緑内障C5例,続発緑内障C4例(落屑緑内障C2例,ぶどう膜炎C2例),正常眼圧緑内障C1例であった.追加前眼圧はC21.2C±9.1CmmHg(15.0.46.0CmmHg),追加後眼圧はC17.8C±6.1CmmHg(10.0.32.0CmmHg)で,眼圧は追加前後で同等であった(p=0.06).追加前の使用薬剤数はC2.9C±0.9剤(1.4剤)であった.副作用出現症例と中止症例はなかった.変更追加群は原発開放隅角緑内障C10例,続発緑内障C3例,原発閉塞隅角緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.変更追加前眼圧はC24.8C±8.1CmmHg(11.0.42.0CmmHg),変更追加後眼圧はC22.0C±13.5CmmHg(10.0.56.0CmmHg)で,眼圧は変更追加後に有意に下降した(p<0.05).変更追加前の使用薬剤数はC2.9C±1.9剤(0.5剤)であった.変更追加後の副作用はC2例(眼瞼炎,眼瞼腫脹+結膜充血)で出現した.中止症例はC4例で,眼圧下降不十分C2例,副作用C2例であった.変更群の変更した点眼薬の内訳はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例(74.8%)(以下CA群),ブリモニジン点眼薬C35例(23.2%)(以下CB群),リパスジル点眼薬C3例(2.0%)(以下,C群)であった(表1).各群の変更前の平均薬剤数は,A群5.1C±0.7剤,B群C3.8C±0.5剤,C群C3.0C±1.0剤であった.平均使用点眼薬(ボトル)数は変更前CA群C4.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本,変更後CA群C3.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本であった.1日の平均点眼回数は,変更前CA群C7.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回,変更後CA群C5.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回であった.変更理由は,A群はアドヒアランス向上,B群,C群は眼圧下降不十分であった.眼圧はCA群では変更前C16.2C±6.3mmHg,変更後C15.4C±4.0mmHgで,変更前後で同等だった(p=0.19).B群では変更前C16.6C±3.5CmmHg,変更後C16.2C±4.6CmmHgで,変更前後で同等だった(p=0.51)(図1).C群は症例数が少ないため眼圧の解析はできなかった.投与後に副作用は全体ではC5例(3.3%)で出現した.その内訳はCA群では結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例,B群では眼瞼腫脹2例,C群ではなかった.中止症例はC4例(2.6%)であった.その内訳は変更CA群では結膜充血C1例,B群では眼瞼腫脹C2例,C群では眼圧上昇C1例であった.CIII考按ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬4)やブリモニジン/チモロール配合点眼薬5)の処方パターンの報告では,変更群が各々C87.7%,93.7%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬では,ブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド配合点眼薬からの変更51.2%,ブリンゾラミド点眼薬からの変更C24.0%,ブリモニ834あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(88)表1変更症例の患者背景A群:ブリモニジン+リパスジル点眼薬B群:ブリモニジン点眼薬C群:リパスジル点眼薬症例113例35例3例性別男性C62例,女性C51例男性C19例,女性C16例男性C3例,女性C0例平均年齢C66.4±12.1歳(C39.C88歳)C66.6±13.0歳(C32.C87歳)C71.3±10.6歳(C60.C81歳)病型POAG8C7例NTG1C3例続発緑内障1C1例PACG1例小児緑内障1例POAG2C4例続発緑内障7例NTG3例PACG1例続発緑内障2例POAG1例前投薬数C5.1±0.7剤(3.C8剤)C3.8±0.5剤(2.C4剤)C3.0±1.0剤(2.C4剤)変更別使用薬剤CFP+CAI/b+a2+ROCK6C0例CFP+経口CCAI+CAI/b+a2+ROCK1C5例点眼CCAI+FP/b+a2+ROCK1C4例CFP+点眼CCAI+a2+ROCK8例CFP+a1+CAI/b+a2+ROCK5例CFP/b+a2+ROCK3例その他8例CFP+CAI/b+a22C1例点眼CCAI+FP/b+a26例CFP/b+a22例その他6例CFP/b+ROCK1例CFP+CAI/b+ROCK1例CFP+ROCK1例投与前眼圧C16.2±6.3CmmHg(1C0.C54.5mmHg)C16.6±3.5CmmHg(1C2.C27.5mmHg)C15.5±2.5CmmHg(1C4.C23mmHg)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.FP:FP作動薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1遮断薬,Ca2:a2作動薬,ROCK:ROCK阻害薬.A群B群202018181616眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1414121216.6±3.5101016.2±4.615.4±4.0886416.2±6.36420変更前p=0.1924変更後20変更前変更後p=0.5109図1変更症例の眼圧変化ジン点眼薬からの変更C11.6%だった4).一方,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬では,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬への変更C53.4%,Cb遮断点眼薬C18.3%,ブリモニジン点眼薬C8.3%などであった5).同成分同士の変更がブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬C51.2%,ブリンゾラミド点眼薬/チモロール配合点眼薬C78.3%と多く,今回(74.8%)もほぼ同様の結果であった.今回のブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更(A群)では眼圧は変更前後で同等だった.A群では変更後に使用点眼薬数はC1本,1日の点眼回数はC2回減少したので患者の点眼の負担は減少したと考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更群と,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬への変更群の比較を行った結果,変更C4,8週間後の眼圧下降幅は点眼C2時間後,7時間後ともに同等だった2)と報告されている.ブリモニジン/リパスジル点眼薬とブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬の眼圧下降効果は同等と考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更では眼圧は変更C8週間にわたり有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅(89)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C835はC3.4CmmHg,眼圧下降率はC16.5%であった2).一方,今回のブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更(B群)では眼圧は変更前後で同等で,眼圧下降幅はC0.3C±2.5mmHg,眼圧下降率はC2.0C±13.1%であった.眼圧下降幅別に検討すると眼圧が変更後にC2.0CmmHg以上上昇C1例(2.9%),2.0CmmHg以内C30例(85.7%),2.0mmHg以上下降C4例(11.4%)だった.眼圧下降が不良だったのは,変更前薬剤数が治験2)ではC1剤だったが,今回はC3.8±0.5剤と多剤併用だったことが原因と考えた.また,健常人を対象とした,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬のクロスオーバー投与試験によると3),ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の眼圧下降の差は投与C1日目の点眼C1時間後C2.0C±0.3CmmHg,点眼C2時間後C1.4C±0.4CmmHg,点眼6時間後1.2C±0.5CmmHg,投与C8日目の点眼C1時間後C1.6C±0.5CmmHg,点眼C2時間後C1.2C±0.6CmmHgだった.今回の調査では日本で行われた治験2)より眼圧下降は不良であったが,変更前の使用薬剤数がCB群はC3.8C±0.5剤と多剤併用であったためと考えられる.今回変更群では変更後に副作用が5例(3.3%)で出現した.その内訳は眼瞼腫脹C2例,結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例だった.副作用に関しては今回の調査と治験2)の結果を比較すると治験では結膜充血が多かったが,それ以外はほぼ同等であった.中止症例は今回はC2.6%で,治験2)では有害事象による中止症例はブリモニジン点眼薬からの変更ではC2.7%,リパスジル点眼薬からの変更では2.9%でほぼ同等だった.今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に処方された症例の特徴を調査した.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更がもっとも多く,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬からの変更が続いた.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更,ブリモニジン点眼薬からの変更では変更後に眼圧に変化はなかった.副作用は変更群ではC3.3%に出現したが,重篤ではなかった.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬は短期的には良好な眼圧下降効果と高い安全性を示した.今後は長期的な経過観察による検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20092)TaniharaH,YamamotoT,AiharaMetal:Ripasudil-bri-monidineC.xed-doseCcombinationCvsCripasudilCorCbrimoni-dine:twoCphaseC3CrandomizedCclinicalCtrials.CAmCJCOph-thalmolC248:35-44,C20233)TaniharaCH,CYamamotoCT,CAiharaCMCetal:CrossoverCrandomizedCstudyCofCpharmacologicCe.ectsCofCripasudil-brimonidineC.xed-doseCcombinationCversusCripasudilCorCbrimonidine.AdvTherC40:3559-3573,C20234)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)小森涼子,井上賢治,國松志保ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果.臨眼C75:C521-526,C2021C***836あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(90)

基礎研究コラム:16.眼内悪性リンパ腫への挑戦

2024年7月31日 水曜日

眼内悪性リンパ腫への挑戦眼内悪性リンパ腫への挑戦眼内悪性リンパ腫は,ぶどう膜炎と類似した所見を呈する眼内に発生するまれな中枢性悪性リンパ腫の一亜型です.経過中にC35~90%の患者で中枢神経系に浸潤します1).したがって眼原発であっても,中枢に進展すると命にかかわる状況となります.かつては希少疾患がゆえに標準治療というものが確立していませんでした.また,大学病院であっても患者はC1年にC1~2人程度であり,専門にする医師もいませんでした.そこで,「だれかこの病気に取り組む人はいないか」といわれたときに,筆者は「なんとか取り組んでみよう」と手をあげました.そして血液内科では筆者が,眼科では現自治医科大学附属さいたま医療センター教授の蕪城俊克先生が,この病気に取り組むことになりました.標準治療確立に向けた取り組み初めに,どのような治療が最適かを検討しました.これまでは眼内リンパ腫に対して局所治療として局所放射線治療やメトトレキサート(MTX)眼内注射が行われていたのですが,中枢への再発率が高いことが問題でした.筆者は,すでに中枢に微小浸潤している,もしくは残存病変が中枢に進展すると考え,眼内病変であっても中枢の治療が必要だと考えました.そこで局所治療だけでなく,MTX硝子体内注射+R-MPV(リツキシマブ+MTX+プロカルバジン+ビンクリスチン投与)5コース+全脳放射線予防照射(23.4CGy)+HD-AraC(大量シタラビン投与)2コースを行いました.病変がないところに予防的に化学療法や放射線治療を行うといったプロトコールであったため,その当時は理解が得られないこともありました.しかし,結果としては眼内悪性リンパ腫のC4年無病再発生存率がC72.7%,中枢再発がC10%と大きく改善しました(図1)2,3).一方で,高齢者が多い疾患であり,治療強度の強い化学療法ができない,放射線治療の影響で認知機能が低下するといった重要な臨床上の問題点があることがわかってきました.筆者らは眼内悪性リンパ腫の遺伝子研究を行い,MYD88やCCD79Bが疾患特異的な遺伝子であることを解明しました.これらの遺伝子は,Bruton型チロシンキナーゼ(Bruton’styrosineCkinase:BTK)カスケードを活性化させることが知られており,田岡和城東京大学医学部附属病院希少難病疾患治療開発実践講座放射線治療全身化学療法硝子体内注射眼内悪性リンパ腫図1眼内リンパ腫に対する集学的治療MTX硝子体内注射+R-MPV化学療法+全脳放射線予防照射で予後を改善させる.BTK阻害薬が中枢のリンパ腫に効果があることも報告されていました.これらの知見から,BTK阻害薬を中枢再発予防薬としても活用できるのではないかと考え,中枢再発の予防を目的として眼内リンパ腫にCBTK阻害薬を用いる多施設共同医師主導試験を開始しました.製薬会社の企業治験と異なり,医師が自ら行うため,医学的な面だけでなく,数多くのハードルを乗り越えなくてはなりません.未だ道半ばですが,多くの先生方,協力してくださる人々に支えられながら進めています.この治験薬が一刻も早く患者さんに届くよう今後も尽力していきたいと考えています.文献1)GrimmCS,CMcCannelCC,COmuroCACetal:PrimaryCCNSClymphomaCwithCintraocularinvolvement:internationalCPCNSLCcollaborativeCgroupCreport.CNeurologyC71:1355-1360,C20082)TaokaCK,CYamamotoCG,CKaburakiCTCetal:TreatmentCofCprimaryCintraocularClymphomaCwithCrituximab,ChighCdoseCmethotrexate,procarbazine,andvincristinechemotherapy,Creducedwhole-brainradiotherapy,andlocalocularthera-py.BrJHaematolC157:252-254,C20123)KaburakiCT,CTaokaCK,CMatsudaCJCetal:CombinedCintra-vitrealCmethotrexateCandCimmunochemotherapyCfollowedCbyCreduced-doseCwhole-brainCradiotherapyCforCnewlyCdiagnosedCB-cellCprimaryCintraocularClymphoma.CBrJHaematolC179:246-255,C2017(81)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C8270910-1810/24/\100/頁/JCOPY