網膜ナビゲーションレーザーNAVILASNAVILAS─TheNavigatedRetinalLaser平野隆雄*はじめにNAVILASはナビゲーションシステムを搭載した光凝固装置で,ドイツのOD-OS社により開発された1).従来の光凝固装置と異なり,スリット下での観察システムは備わっておらず,眼底カメラにレーザー光凝固装置が搭載されている.眼底カメラで撮影を行い,得られた画像に他検査を参照して凝固する部位をマーキングして治療計画画像を作成することが可能である.照射の際には患者の眼底にこの治療計画画像が投影され,術者はペダルを踏むだけで計画した凝固部位に光凝固が可能となる.オートトラッキング(自動追尾)システムが搭載されているため正確に,そして治療計画に警戒領域として視神経乳頭や中心窩を照射不能な部位として設定できるため,安全に凝固を行えることがNAVILASの大きな特徴である.発売当初のNAVILASにはその新規性ゆえにいくつかの問題もあった.たとえば初期のNAVILASではグリーンレーザー(波長532nm)が用いられていたため,有効な凝固が得られにくい症例も散見されたが,NAVI-LAS577+では,黄斑付近の凝固がより安全に可能で中間透光体の混濁にも強いイエローレーザー(波長577nm)が搭載された.また,NAVILAS577sでは蛍光眼底撮影の機能が取り除かれ,筐体が足元に移動したことで,全体的にコンパクト(縦70cm×横110cm×高さ127~230cm)になり,ジョイスティックの形状も従来用いられている様式に近いものに変更され,操作性が向上した(図1).このようなバージョンアップに伴いNAVILASは患者にも術者にもより快適なものへと短期間に進化している.本稿ではNAVILASの臨床成績,具体的な使用方法,アーケード内の局所光凝固のみにとどまらないNAVI-LASの多様な臨床応用について概説する.INAVILASの臨床成績NAVILASの特徴としては上述したように光凝固の安全性と正確性があげられる.Kozakらは糖尿病黄斑浮腫61例86眼に対してNAVILASを用いて毛細血管瘤直接凝固を行い,従来の機器による凝固と比較した.その結果,全例で合併症は認められず,毛細血管瘤に対して正確に凝固できる割合は従来の機器では72%であったのに対し,NAVILASでは92%と有意に高く,その安全性と正確性が示された2).近年,糖尿病黄斑浮腫に対しては抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法が第一選択とされることが多いが費用,頻回な治療,感染,全身合併症などが問題として残る3).Lieglらは糖尿病黄斑浮腫66例を,抗VEGF薬のラニビズマブの毎月注射3回の導入期後に,必要に応じてラニビズマブを投与する(prorenata:PRN)単独治療群と,NAVILASを用いて局所光凝固を行い,その後ラニビズマブをPRN投与する併用治療群に分け,治療成績について比較検討を行った.12カ月の時点で,改善した文字数は両群間◆TakaoHirano:信州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(35)149図1NAVILAS外観(OD?OS社提供)従来の光凝固装置と異なり,スリット下での観察システムはなく,眼底カメラにレーザー光凝固装置が搭載されている.術者は眼底を直視下で観察するのではなく,モニターで観察し,さらには操作を行う.当初のNAVILAS(a)からより長波長の凝固が可能なイエローレーザーを搭載したNAVILAS577+(b),コンパクトになり操作性が向上したNAVILAS577s(c)へとバージョンアップがすすんでいる.で有意差を認めなかったが,導入期後に必要であったラニビズマブの投与回数は単独治療群の3.88回に対してNAVILASによる光凝固併用治療群では0.88回と有意に少なかった.また,この報告では導入期以降にラニビズマブ投与が必要であった症例は併用治療群では35%で単独治療群の84%と比較して有意に少なかった4).さらに,この研究は36カ月まで延長され,12~36カ月までのラニビズマブ投与回数は単独治療群3.85回,併用治療群2.91回とNAVILASによる光凝固併用の治療効果が継続することが示された5).糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法の治療回数を減らすことができる治療としてNAVILASによる局所光凝固併用療法は期待される.近年,糖尿病黄斑浮腫以外にも中心性漿液性脈絡網膜症6,7)や脈絡膜新生血管の栄養血管8)に対するNAVILASを用いた光凝固の良好な治療成績が報告されつつあるが,現時点では検討症例数が少なく,今後,より多数例での検討が待たれる.IINAVILASの使用方法NAVILASシリーズはバージョンによって使用方法が若干異なる.本稿ではおもに,最新バージョンのNAVILAS577sを用いてアーケード血管内への網膜光凝固の方法について解説する.基本的にNAVILASシリーズでは眼底撮影や網膜光凝固を行う際,従来のようにスリット下で観察しながらではなく,モニターに写した眼底を観察しながら操作を行う.治療を行う前に,眼底撮影を行う.NAVILAS577sに搭載されている高性能眼底カメラにはカラー眼底写真と赤外光(infraredlight:IR)モードがついている.IRモードは治療時に患者にまぶしさを感じさせずに眼底を観abNon-contactobjective(後極用対物レンズ)Wideanglelens(汎網膜光凝固用対物レンズ)図2NAVILAS577sで用いる2種類の対物レンズ(OD?OS社提供)a:凝固時にレーザー用コンタクトレンズを使用しない場合は対物レンズにnon-contactobjective(後極用対物レンズ)を選択して撮影を行う.non-contactobjectiveを選択した際は網膜上の凝固倍率は自動的に等倍(×1)となる.b:凝固時にレーザー用コンタクトレンズを使用する場合は対物レンズにwideanglelens(汎網膜光凝固用対物レンズ)を選択する.次に,使用するレーザー用コンタクトレンズをpull-downから選択し,実際にそのレンズを患者に使用した状態で撮影を行う.察する際に用い,眼底撮影にはカラー眼底写真モードを用いる.この時,凝固時にレーザー用コンタクトレンズを使用しない場合は対物レンズにnon-contactobjective(後極用対物レンズ)を選択して撮影する.NAVILAS577sではレーザー用コンタクトレンズを使用せずに凝固可能であり,自主的な開瞼が良好な患者には好評である.Non-contactobjectiveを選択した際は網膜上の凝固倍率は自動的に等倍(×1)となる(図2a).一方,凝固時にレーザー用コンタクトレンズを使用する場合は対物レンズにwideanglelens〔汎網膜光凝固(panretinalpho-tocoagulation:PRP)用対物レンズ〕を選択する.次に,使用するレーザー用コンタクトレンズをpull-downから選択し,実際にそのレンズを患者に使用した状態で撮影を行う(図2b).以前のバージョンでは専用のレンズが必要であったが,NAVILAS577sではこの制限はなくなり市販のレーザー用コンタクトレンズが使用可能となり汎用性が各段に向上した.次に,このようにして得られたカラー眼底写真にさまざまな検査を参考に凝固する部位をマーキングし治療計画画像を作成する.まずは警戒領域として視神経乳頭と中心窩の2カ所を照射不能な部位として黄色丸で囲み設定する.NAVILAS577sにはオートトラッキングシステムが搭載されており,治療時に患者が急に眼球を動かしてもこの部位には凝固が行えないようになっている.次に,画面上に表示される単発,2~5×2~5の格子,円形,孤状などの凝固パターンを選択し,カラー眼底写真の凝固したい部位にマウスでクリックもしくは画面をタップすることで選択した凝固のパターンが治療計画画像にマーキングされる.続いて,凝固時間や凝固間隔などを調整していく.カラー眼底写真のみでも治療計画画像は作成可能であるが,NAVILASの大きな特徴としてNAVILAS以外の撮影機器で取得したフルオレセイン蛍b図3治療計画画像と治療中の画面カラー眼底写真にOCTカラーマップ(a),FA(b)画像を位置合わせして重ねた治療計画画像.警戒領域として視神経乳頭と中心窩が照射不能部位として黄色丸で設定されている.各画像の小さな青丸が凝固予定部位となる.NAVILAS577sによる治療中の実際の画面.凝固予定部位の青丸と照射不能部位の黄色丸が投影されたIRモードによるライブ眼底(上段)と治療計画画像(下段)が同時に表示されている.上段の緑羽根(?)が回転していれば同部位に凝固可能となる(c).光造影(?uoresceinangiography:FA)や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)といったさまざまな画像も取り込むことが可能で,それらをカラー眼底写真に重ね合わせて治療計画画像を作成可能でることがあげられる(図3a,b).初期のNAVILASでは取得した眼底写真と取りこむFAやOCTなどの画像との位置合わせが困難であったが,NAVILAS577sでは(ある程度,血管分岐部などを目安に手動で位置を合わせる必要はあるが)半自動的にこの位置合わせが行われるため,術者の手間はかなり軽減された.そして,照射の際は患者の眼底に治療計画画像が投影され凝固を行うという手順をとる.NAVILAS,NAVI-LAS577+ではライブの眼底画像と治療計画画像が一度に表示できなかったが,NAVILAS577sではこの二つの画像をモニターの上下に同時に表示可能で,操作性が向上した(図3c).レーザー発振器はNAVILAS532では半波長YAGレーザーのグリーンレーザー(波長532nm)が用いられていたが,NAVILAS577+・NAVILAS577sでは半励起式半導体のイエローレーザー(波長577nm)が用いられている.カラー眼底モード下でも凝固は行えるが被検者はまぶしいため,一般的にはIRモードで観察している眼底に治療計画画像の予定凝固部位を投影し凝固を行う.後極用対物レンズを用いればレーザー用コンタクトレンズは不要であるが,瞬目が多い症例や固視不良の症例では0°の専用レンズを使用するとよい.PRP用対物レンズを用いて倍率を選択すれば,普段から使いなれているレーザー用コンタクトレンズも使用可能である.前述したように,予定凝固部位はオートトラッキングシステムによって眼球が動いてもその動きについてくる.凝固可能な状態であれば,予定凝固部位周辺の緑羽根が回転しフットスイッチを踏むと実際に光凝固が施行される.眼球の動きがオートトラッキングシステムの許容範囲を超えると,凝固は自動的に停止し,予定外の部位には凝固がなされないように安全面にも配慮がなされている.IRモードでは凝固斑が確認できない.そのため,自動的に凝固部位を撮影して治療画面に表示させることも可能だが,やや冗長になるので筆者らは適宜,カラー眼底写真を撮影し凝固出力を調整しながら凝固を行っている.IIINAVILASの多様な臨床応用1.OCTA画像を用いたNAVILASによる局所光凝固網膜静脈分枝閉塞症や糖尿病網膜症による黄斑浮腫に対する局所光凝固は,FAで毛細血管瘤や無灌流領域を同定して行われることが多いが,実臨床の場では全身状態やアナフィラキシーショックの可能性などからFAの実施をためらう症例も散見される.2018年に保険収載されたOCTangiography(OCTA)は非侵襲的に網脈絡膜循環を評価可能で,日常診療に用いられるようになってきている.NAVILAS577sではOCTA画像も取り込むことが可能で,治療計画画像作成に活用できる.筆者らの施設では抗VEGF療法に対して治療抵抗性を示す黄斑浮腫症例で,OCTAを用いて浮腫が残存する部位を評価し,原因となる毛細血管瘤や無灌流領域が存在すれば,同部位に対してNAVILAS577sを用いて局所光凝固を行っている(図4).OCTAには毛細血管瘤の描出率がFAの62%と低い9)などの懸念もあるが,近年,糖尿病黄斑浮腫の原因となる毛細血管瘤はOCTAの深層で描出されるものに多いことも報告されてきており10),OCTA画像を用いたNAVILASによる局所光凝固は,治療が必要な毛細血管瘤に限局した安全で効果的な手法として期待される.2.NAVILASによる閾値下レーザー短時間のレーザーをパルス照射することで,熱凝固による組織破壊を起こすことなく組織反応を誘導する閾値下レーザー治療が糖尿病黄斑浮腫に対する新しい治療手法として注目されている.しかしながら,従来の凝固装置で行う閾値下レーザーでは凝固後も瘢痕が残らないため,治療を行う部位・行った部位を評価することが困難であった.治療計画画像を作成し,また治療部位がレポートとして表示されるNAVILASにより,この問題が軽減される.高間らは従来治療に抵抗性を示す糖尿病黄斑浮腫14例16眼に対してNAVILAS577+のマイクロセカンドパルス閾値下凝固モードを用いた閾値下レーザーを行い,治療3カ月での良好な治療効果を報告している11).今後,多数例・長期間での照射条件や併用療法についてさらなる検討が必要と考えられるが,NAVILASを用いた閾値下レーザーは治療抵抗性の糖尿病黄斑浮腫に対して選択肢の一つとして期待される.3.NAVILASを用いた汎網膜光凝固上述してきたようにNAVILASといえばアーケード血管内への治療について言及されることが多いが,PRPなどアーケード血管外への凝固もNAVILASは可能である.従来のバージョンでは専用のPRPレンズが必要,1回の照射数が200~300発程度と少ないことなどの問題があったが,NAVILAS577sではこれらが解決され,NAVILASを用いたPRPはより臨床に即したもののとなりつつある.実際に行ってみると,手術時間の短縮・照射不能な部位を設定するため誤照射がほぼ起こりえないという安全性・照射部位の計画と結果を共有できることによる教育的意義を実感する(図5).また,スリット下での観察ではなくモニターを観察しながら行うPRPは硝子体手術時のheads-upsurgeryが眼科医の51.8%abcd図4OCTA画像を用いたNAVILASによる局所光凝固(71歳,男性)糖尿病黄斑浮腫に対して抗VEGF療法を3回施行もOCTカラーマップ(a)で中心窩耳側に黄斑浮腫の残存を認める.取り囲んだOCTA画像を眼底写真に重ねあわせ(b),治療計画画像を作成(c).治療計画画像をもとに局所光凝固施行後1カ月で黄斑浮腫の軽減を認める(d).abc図5NAVILAS577sを用いた汎網膜光凝固a:NAVILAS577sを用いて汎網膜光凝固を行っている様子.市販のレーザー用コンタクトレンズ(マインスターPRP165)を用い,モニターを観察しながら治療を行っている.b:凝固予定部位の青丸と照射不能部位の黄色丸が投影され,連続に一度で凝固を行っているライブのカラー眼底画像.c:NAVILAS577sを用いて汎網膜光凝固を行った眼底写真.周辺部まで整然と並んだ凝固斑が確認できる.が自覚するといわれる筋骨格障害12)を軽減したことと同様に,腰痛持ちの筆者の痛みを軽減してくれるheads-upPRPと個人的に呼称し,普及することを心待ちにしている.おわりにいざ,NAVILASを使用するとなると,従来の凝固装置とはまったく異なる仕様のため,とまどわれる先生も多いと思われる.しかし,今までNAVILASを使用したことがない当院の若手の先生達が実際に使用してみると(もちろん模擬眼などでシミュレーションを行った後ではあるが)初回から問題なく治療を完遂できた.今では従来の凝固装置よりもNAVILASを用いた凝固のほうがスムーズに治療を行っているようにさえ見受けられる.5年前に初代のNAVILASを使用した際は本文中にも述べたようないくつかの問題があり,正直まだまだという印象をもったが,バージョンアップを繰り返し,本当に臨床の場で使用できる凝固装置へと進歩したことを実感する.凝固条件など検討しなくてはいけない問題も残るが,黄斑の局所光凝固,閾値下凝固,PRPを含めた周辺部の光凝固を安全に正確にそして短時間に可能なNAVILASは今後,臨床の場で普及し,患者そして術者に多くの恩恵を与えてくるのではないかと考える.文献1)KerntM,CheuteuR,VounotrypidisEetal:Focalandpanretinalphotocoagulationwithanavigatedlaser(NAVI-LASR).ActaOphthalmol89:e662-e664,20112)KozakI,OsterSF,CortesMAetal:ClinicalevaluationandtreatmentaccuracyindiabeticmacularedemausingnavigatedlaserphotocoagulatorNAVILAS.Ophthalmolo-gy118:1119-1124,20113)SugimotoM,TsukitomeH,OkamotoFetal:Clinicalpreferencesandtrendsofanti-vascularendothelialgrowthfactortreatmentsfordiabeticmacularedemainJapan.JDiabetesInvestig10:475-483,20194)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabeticmacularedema.PLoSOne9:e113981,20145)HeroldTR,LangerJ,VounotrypidisEetal:3-year-dataofcombinednavigatedlaserphotocoagulation(Navilas)andintravitrealranibizumabcomparedtoranibizumabmonotherapyinDMEpatients.PLoSOne13:e0202483,20186)ChhablaniJ,RaniPK,MathaiAetal:Navigatedfocallaserphotocoagulationforcentralserouschorioretinopa-thy.ClinOphthalmol8:1543-1547,20147)MullerB,TatsiosJ,KlonnerJetal:Navigatedlaserpho-tocoagulationinpatientswithnon-resolvingandchroniccentralserouschorioretinopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol256:1581-1588,20188)AlshahraniST,GhaziNG.Navigatedlaser(navilas)thera-pyforchoroidalneovascularandhyperpermeabilitypathologies.RetinCasesBriefRep9:117-120,20159)CouturierA,ManeV,BonninSetal:Capillaryplexusanomaliesindiabeticretinopathyonopticalcoherencetomographyangiography.Retina35:2384-2391,201510)ParravanoM,DeGeronimoD,ScarinciFetal:Progres-sionofdiabeticmicroaneurysmsaccordingtotheinternalre?ectivityonstructuralopticalcoherencetomographyandvisibilityonopticalcoherencetomographyangiogra-phy.AmJOphthalmol198:8-16,201911)高間奏映,笠井暁仁,小島彰ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する閾値下レーザーの短期成績.臨眼73:878-883,201912)DhimitriKC,McGwinGJr,MeNealSFetal:Symptomsofmusculoskeletaldisordersinophthalmologists.AmJOphthalmol139:179-181,2005