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加齢黄斑変性に対する新しい疾患概念-Pachychoroid Spectrum Disease

2019年2月28日 木曜日

加齢黄斑変性に対する新しい疾患概念─PachychoroidSpectrumDiseaseNewConceptofAge-relatedMacularDegeneration─PachychoroidSpectrumDisease川野純廣*園田祥三*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)やその関連疾患の診断の際には,必ず脈絡膜構造に注目し,その形態を解析することで,的確な診断や治療法の決定に有用な情報が得られる.I脈絡膜観察・解析の重要性従来のAMDの研究では,蛍光眼底造影検査やOCTBスキャン,とくに網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepithelium:RPE)周囲を中心とする脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)に注目した解析に基づいた1型,2型のCNVの分類,典型AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopa-thy:PCV)や網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)といった病型分類が行われている.これまで多くの研究が行われてきたが,従来分類では病型を完全に定義できておらず,依然として分類に関する議論が続いている.その後enhanceddepthimagingOCTやsweptsourceOCTの登場によって,生体の脈絡膜が観察可能になり,AMD研究における脈絡膜観察の重要性が示されている.生体脈絡膜が観察できるようになると,まず厚みの観察が行われ,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)やPCVにおいて,脈絡膜厚が増加していることが報告された.筆者らは,厚みのみでなく,脈絡膜の構造変化に注目し,血管腔や間質を分けて解析できる二階調化の手法や,血管形態に基づく脈絡膜の層別の解析を行った結果1),とくにCSCやPCVでは脈絡膜大血管(Haller層)の拡張および脈絡膜内層(脈絡膜毛細血管板とSattler層)の狭小化や血管腔面積比率の低下などから,脈絡膜構造の変化と病態メカニズムについて報告を行った2)(図1).これらの報告と相まって,Freundらはpachychoroidspectrumdiseaseという新しい疾患概念を報告し,注目を集めている.なぜならば,この概念は脈絡膜の形態的な特徴に加え,発病のメカニズムをあらわしている可能性があり,これまでのAMDの病型分類や治療を大きく転換するかもしれないからである.本稿では,pachy-choroidspectrumdiseaseの概要を示すとともに,筆者の行っている研究について紹介する.IIPachychoroidspectrumdiseaseと現状の問題点Pachychoroidspectrumdiseaseの現在の定義は,中心窩脈絡膜厚が200~250μmを超え,Haller層血管の拡張を認め,造影検査で脈絡膜血管透過性の亢進所見を認め,RPEの異常を伴い,比較的眼底にドルーゼンが少ないという特徴を有するものとされている3).そもそも,pachychoroidは脈絡膜厚が正常を超えて拡大している状態を表現しており,これまでの解析によって,pachychoroidはHaller層の脈絡膜血管が拡張した状態(pachyvessels)によって引き起こされていると*SumihiroKawano&*ShozoSonoda:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学〔別刷請求先〕川野純廣:〒890-8520鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(21)151図1過去に筆者らが行ってきた画像解析a:OCTBスキャン画像.b:OCTBスキャンで二階調化処理を行うことで,実質と管腔を分離し解析可能とした.c:正常眼(CTRL),中心性漿液性脈絡網膜症眼(CSC),CSCの僚眼(csc-fellow)を比較したもの.CSC発症眼のみ脈絡膜内層(点線上部)の管腔面積が減少している.図2正常人の脈絡膜各層のenface画像a:脈絡膜毛細血管板のenface画像.b:Sattler層のenface画像.c:Haller層のenface画像,脈絡膜の深さの違いによって血管構造の違いがわかる.Enface画像はBスキャンと異なり,広い範囲の観察が可能である.図3Pachychoroidpigmentepitheliopathy(PPE)の代表症例a:図1の眼底写真.オレンジの色調である.b:インドシアニングリーン蛍光造影検査(IA)後期での画像.血管透過性亢進を認める.図4Pachychoroidpigmentepitheliopathy(PPE)の代表症例(続き)a:OCTBスキャン画像に血流信号を表示させたもの.赤点線で区切られた範囲についてCenface画像として表示させることができる.網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を認め,PED直下にはCHaller血管の拡張があるが,Sattler層の血管の圧排までは起きていない.Cb:の箇所がCaでのCPEDに相当する箇所で,aの赤点線範囲内では新生血管を疑う血流信号を認めない.Cc:同症例で脈絡膜血管層に赤点線範囲を移動したもの.Cd:bのに一致する箇所でCHaller血管の拡張を認める.図5PNVの代表症例a:OCTのCIR画像.Cb:aでの緑矢印に沿った位置でのCOCTBスキャン画像.網膜色素上皮.離(PED)を認め,その直下に脈絡膜血管の拡張が起きている.Sattler層は圧排されている.Cc:bのCPEDに一致させた範囲でのCenface画像.黄斑上鼻側に新生血管()を認める.Cd:同症例の眼底自発蛍光像.本症例ではCgravitationaltractsを認めない.すなわち,この症例は中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)既往ではないということになる.図6Pachychoroidneovasculopathy(PNV)の代表症例a:OCTBスキャン画像に血流信号を表示させたもの.赤点線で区切られた範囲についてCenface画像として表示させることができる.ここでは網膜色素上皮.離(PED)に赤点線範囲を合わせている.Cb:aの赤点線範囲のCenface画像.PED内に新生血管を認める.Cc:赤点線範囲を脈絡膜血管層にあわせたもの.Cd:cの赤点線範囲内のCenface画像.Haller血管がびまん性に非常に拡張している様子が観察される.図7Pachychoroidspectrumdiseaseと正常人とのHaller血管のenface画像の比較a:正常人のCHaller血管.Cb~d:PachychoroidspectrumdiseaseのCHaller血管,Haller血管が一部あるいは全体的に拡張がみられ,血管の上下対称性が失われている.図8筆者らが開発した脈絡膜enface画像解析ソフト筆者らの独自に開発した解析ソフトによってCHaller層の脈絡膜構造について血管の形態や,走行を再現性が高くかつ客観的に数値化可能になった.-

OCT Angiographyを用いた新しい加齢黄斑変性の診断

2019年2月28日 木曜日

OCTAngiographyを用いた新しい加齢黄斑変性の診断OCTAngiographyinAge-relatedMacularDegeneration森隆三郎*はじめにこれまで,脈絡膜新生血管(choroidalneovascular-ization:CNV)を伴う滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の診断や治療後の評価には,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)のみでは不十分な症例も多いため,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiogra-phy:IA)を施行してきた.しかし,新しい機器である光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)を用いることにより,FA,IAと同等の所見が描出でき,症例によってはFAやIAで検出できないCNVも検出できるようになった.また,造影剤を使用しないOCTAは全身的なリスクがないことから,高齢者に多い疾患であるAMDの診断における有用性に多大の期待がよせられている.本稿では,OCTAのAMDの診断についてRTVueXRAvanti(Optovue社)で撮影された画像を提示し解説する.IAMD診断におけるOCTAの有用性AMD診断におけるOCTAの有用性は,CNVの検出率が高いことにある.OCTAによるCNVの検出率についての海外での報告がいくつかあるが,わが国でも多施設で検討したものを野崎らが報告している1).その報告では,FAおよびIAとOCTAの有用性を比較しているが,滲出型AMD33眼のCNVの検出率はFA87.9%,IA84.9%,OCTA96.8%で,病変検出率に有意な差はなく,造影剤を用いずにCNVの観察が可能なOCTAはAMDの診療に有用であると述べている.つぎにOCTAの有用性として求められるのは,CNVの正確な大きさ,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の上下どの深さに存在するか(RPEより下にCNVが存在するtype1CNVか,RPEより上にCNVが存在するtype2CNVか)などCNVの状態を判定できることである.さらに,再治療の判定をOCTAで検出されたCNVの所見で判定できることである.OCTAは臨床で利用され,その有用性について報告されているが,実際にはFAやIAほど鮮明な画像が得られない場合もあり,またさまざまなアーチファクトにより,所見の読影や解釈に注意しなければならないことも報告されている2).CNVの存在の有無については,自動層別解析で得られる画像で簡便に確認できるが,CNVの大きさや位置の深さについては,マニュアル解析で詳細に確認する必要がある.II自動層別解析OCTAの強みは層別解析であるが,自動層別解析はsuper.cial層(表層),deep層(深層),outerretina層(網膜外層),choroidcapillary層(脈絡毛細血管板層)の4層のそれぞれの画像が自動に表示されるが,AMDのCNVの有無は,outerretina層とchoroidcapillary層で判定する.RTVueXRAvantiでは,解析ソフトの*RyusaburoMori:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕森隆三郎:〒101-8309東京都千代田区神田駿河台1-6日本大学病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(11)141バージョンアップによりセグメンテーションラインの部位が変更されているが,outerretina層の画像は,外網状層(outerplexiformlayer:OPL)下部10μm.Bruch膜上部10μmの範囲となっている〔以前の同機種のセグメンテーションライン:内網状層(innerplexiformlayer:IPL)70μm.RPE30μmの範囲〕.Outerretina層は,正常眼では網膜血管が存在しないため血管が描出されればRPEから網膜側に隆起したCNVの存在が示唆されるが,下縁がBruch膜上部10μmまでの範囲で,RPEより上にCNVが存在するtype2CNVだけでなく,RPEより下にCNVが存在するtype1CNVも描出される.つまり,自動層別解析のouterretina層の画像は,CNVの有無を確認するためにある.Choroidcapillary層はBruch膜上部10μm.下部30μmの範囲となっているが(以前の当機種のセグメンテーションライン:RPE膜30.60μmの範囲),RPEよりやや深い部分に存在するtype1CNVやポリープ状脈絡膜血管症(polyp-oidalchoroidalvasculopathy:PCV)の異常血管網が検出される.症例1はPCVである(図1~3).カラー眼底写真の橙赤色隆起病巣とOCTのRPEの急峻な立ち上がりの所見からPCVと診断後,自動層別解析のouterretina層とchoroidcapillary層でポリープと異常血管網を確認している.ポリープは網膜下に突出しているためouterretina層で検出されている.異常血管網はouterretina層でも検出されているが,choroidcapillary層でBruch膜レベルのやや深部でより鮮明に検出されている.IA画像と比較してもポリープと異常血管網はほぼ同様の位置と大きさである.OCTAでは,PCVの異常血管網は平坦で検出しやすいのに対し,複数存在するポリープは大きさや深さがさまざまで,IAと比較してOCTAでは検出が困難な症例もあるが,OCTAのソフトの改良が進むにつれ,検出ができないポリープは少なくなってきていると思われる.症例2は,pachychoroidalneovasculopathy(PNV)である(図4,5).カラー眼底写真で黄斑部に漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD),黄斑部下方に長期に遷延化したSRDが存在したことを示唆するteardrop様のRPE萎縮であるdescendingtractの所見を認め,慢性中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)と診断したが,OCTでSRDと脈絡膜の肥厚はCSCの所見であり,RPEの丈の低い不整な隆起は,type1CNVを示唆する所見でもある.FAとIAで面状の過蛍光を認めるもCNVの存在が確定できず,OCTAの自動層別解析のouterretina層とchoroidcapillary層でCNVの血管構造が検出されたことからPNVと確定診断した.CNVは網膜下に扁平に突出しているため,outerretina層で検出されるが,choroidcapillary層でより鮮明に検出される場合は,RPE直下よりもBruch膜レベルのやや深部にCNVが大きく位置していることを示唆している.PNVは近年,提唱された疾患で,OCTAによりCNVの存在がFAとIAよりも鮮明に検出され,CSCとの鑑別に必須の検査となっている.筆者は,これまでは次項に記すマニュアル解析でOCTAを読影することの重要性を解説してきたが3,4),ソフトを含めOCTAの性能が進歩しているので,自動層別解析の画像のみでも簡便にさらに正確にCNVを診断できると考える.IIIマニュアル解析OCTAのマニュアル解析は,得られた画像を読影する際に,血流を示した赤色部位を表示したBスキャンの画像(cross-sectionalOCTA5))を確認しながら,セグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下にずらし解析する手法である.Cross-sectionalOCTAの画像を確認することで,CNVがRPEより上の網膜下にあるのかRPEの下にあるのかを証明できる6).さらにprojectionartifactによる偽血管の有無を確認できる(projectionartifactは,網膜内層血管がそれより深層に影となって映り込む現象で,実際にはその層には存在しない血管を描出してしまうので読影を困難にさせるアーチファクトの一つである2)).セグメンテーションの幅を任意に設定することにより,たとえばスキャン幅を大きくすることにより,部位により深さが異なるCNVでも全体像を描出でき,またそれを上下にずらすことで,その部位のCNVの構造をより鮮明に解析できる.症例3は,subretinalhyperre.ectivematerial142あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(12)図1症例1:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)a:カラー眼底写真.網膜下出血を伴う橙赤色隆起病巣を認める().b,c:OCT(①②).網膜下に出血とフィブリンの高反射病巣()とポリープ状病巣()を示唆するRPEの隆起病巣を認める.d:OCTA自動層別解析画像.③super.cial層,④deep層,⑤outerretina層,⑥cho-riocapillaris層.図2症例1:PCVのOCTA自動層別解析画像(ポリープと異常血管網)図1b⑤outerretina層,⑥choriocapillaris層(症例retina層.①:outera).1外網状(OPL)層下部10μm.Bruch膜上部10μmの範囲に検出される血管.ポリープは網膜下に突出しているためこの層でポリープと異常血管網の一部を認める.②OCT水平ライン,③OCT垂直ライン.はセグメンテーションの範囲.b:④choriocapillaris層.Bruch膜上部10μm.下部30μmの範囲に検出される血管.④異常血管網を認める,⑤OCT水平ライン,⑥OCT垂直ライン.はセグメンテーションの範囲.異常血管網はBruch膜レベルのやや深部でより鮮明に検出されている.図3症例1:PCVのOCTA(cross.sectionalOCTA)とIA(ポリープと異常血管網)OCTAとIAのポリープと異常血管網の所見が一致している.a:outerretina層.3個のポリープを認める().b:choriocapillaris層.異常血管網を認める().c:cross-sectionalOCTA.outerretina層の範囲にポリープの血流を認める().d:cross-sec-tionalOCTA.choriocapil-laris層の範囲に異常血管網の血流を認める().e,f,g:IA.e(24秒),f(46秒),g(10分).3個のポリープ()と異常血管網を認める().図4症例2:pachycho-roidalneovasculo-pathy(PNV)a:カラー眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離(SRD)を認め(),下方に慢性中心性漿液性脈絡網膜症を示唆するteardrop様の網膜色素上皮(RPE)萎縮であるdescendingtractを認める().b:OCT.SRD(※)とRPEの不整な隆起()を認める.脈絡膜は肥厚している().c:FA(10分).面状の過蛍光を認める().d:IA(10分).面状の過蛍光を認める().e:OCTA.自動層別解析画像,①super.cial層,②deep層,③outerRetina層,④choriocapillaris層.図5症例2:PNVのOCTA自動層別解析画像(図4b⑤outerretina層,⑥choriocapillaris層)a:outerretina層.OPL下部10μm.Bruch膜上部10μmの範囲に検出される血管.CNVは網膜下に扁平に突出しているためこの層で検出されている.①CNVの一部を認める,②OCT水平ライン,③OCT垂直ライン.はセグメンテーションの範囲.b:choriocapillaris層.Bruch膜上部10μm.下部30μmの範囲に検出される血管.④CNVを認める,⑤OCT水平ライン,⑥OCT垂直ライン.はセグメンテーションの範囲.RPE直下よりもBruch膜レベルのやや深部にCNVが大きく位置していることが示唆される.図6症例3:Subretinalhyperre.ectivematerial(SHRM)内のCNVOCTで認めるSHRMの深部のみがCNVであることがcross-sectionalOCTAで確認できる.a:カラー眼底写真.黄斑部に出血を伴う灰白色病巣を認める.b:OCT.網膜下にCNVとフィブリンを示唆する高反射病巣(SHRM)を認める().c:OCTA.マニュアル解析画像.dの2本のライン()のセグメンテーションの範囲にCNVの円形の血管網を認める.d:cross-sectionalOCTA.SHRM内のCNVの血流が確認ができる().OCTで認めるSHRMの深部のみがCNVである.e,f:FA.e(19秒),f(5分).ClassicCNVの所見を呈する.(SHRM)を伴うCtype2CNVである(図6).カラー眼底写真で黄斑部に出血を伴う灰白色病巣を認め,OCTで網膜下にCCNVとフィブリンを示唆する高反射病巣(SHRM),FAでCclassicCNVを認める.OCT,FAではCSHRM内のフイブリンとCCNVは一塊となり所見の分離はできないため,OCTAマニュアル解析をする.CCross-sectionalOCTAでCSHRM内の深部にCCNVの血流が確認できる.OCTAでCSHRM内のCCNVの血流が確認でき7),その血流を認める症例のほうが,抗血管内皮増殖因子(anti.vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)であるアフリベルセプト硝子体内投与(intravit-reala.ibercept:IVA)に対する反応が弱いとする報告もある8).症例C4はCtype1+2CNVである(図7,8).OCTで網膜下CRPE上にCtype2CNV,RPE下にCtype1CNVを示唆する高反射病巣を認める.OCTA自動層別解析でCouterretina層で黄斑部にC3個のCCNVが検出されているが,それぞれの部位のCCNVのCRPEの対する位置は確認できないため,OCTAマニュアル解析をする.スキャンラインの水平ラインを移動させ,cross-sectionalOCTAで部位別のCCNVの深さを確認すると,中央部水平ラインでは網膜下CRPE上にCtype2CNVの血流が確認でき,RPE下にCtype1CNVの血流が確認できる.症例C5は,.brovascularPEDを伴うCtype1CNVである(図9,10).OCTで網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)のCRPEの隆起の辺縁にCtype1CNVを示唆する高反射病巣を認める.OCTA自動層別解析でCouterretina層とCchoriocapillaris層でCNVが検出されているが,RPEの隆起が高いとCBruch膜を基準としたセグメンテーションラインが設定できずセグメンテーションエラーとなり,CNVがCRPE下に存在しているかが確認できないため,OCTAマニュアル解析をする.RPEを基準とし,任意で幅を設定したラインでセグメンテーションすることにより,隆起したRPE下のCCNVを確認できる.FibrovascularPEDのCNVはCIAで検出するが,IA画像と比較してもCCNVはほぼ同様の大きさである.PEDを伴うCCNVの検出は,cross-sectionalOCTAが有効であるとの報告もあるが5),これまで,.brovascularPEDのCCNVなどRPEの起伏が大きい症例のCCNVは,cross-sectionalOCTAを用いたマニュアル解析をしてもCRPEの起伏に合わせたセグメンテーションができず検出が困難であったが,RPEを基準とするセグメンテーションがより正確になれば,本症例のように検出が可能となる症例も多くなる.CIV治療効果の確認滲出型CAMDに対して抗CVEGF薬硝子体注射や光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)が行われているが,その治療効果を確認するために,OCTAでCCNVの消失や縮小あるいは再発や拡大の判定をしている.しかし,CNVの残存,拡大が再治療を行うかどうかの判定所見にはなっていない.症例C1のCPCVに対してCIVA併用CPDTを施行し,ポリープと異常血管網の治療後の毎月の経過をCMultiCScanViewのソフトを用いてCouterretina層とCchorio-capillaris層で確認した(図11,12).治療前にCouterretina層で認めたポリープは,1カ月後には消失したが,4カ月で再発,5カ月で拡大,6カ月でさらに拡大している.筆者の施設での本治療の再治療基準は,OCTでSRDの悪化,再発を認めた場合にCIVAのみを施行するとしているため,このC6カ月のCSRD出現時点でCIVAを追加したが,翌月にポリープが消失したことが確認できる.また,choriocapillaris層で認めた異常血管網は,1カ月後には縮小したが,4カ月で拡大,6カ月でさらに拡大している.IVAにより翌月に異常血管網が縮小しているのが確認できる.本症例のように治療によりOCTで滲出性所見が消失しても,サイレントに病巣が再発,拡大していることもあり,このような所見を認めた場合に追加治療を行うかは今後の検討課題である.現状ではCOCTA所見で追加治療の有無の判定はできないが,このような症例を多数検討することにより,再治療の基準となるCOCTによる滲出性所見の出現時期の予想がCOCTA所見で可能になれば,過剰治療とならない程度のCproactiveな治療が可能となる.146あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(16)図7症例4:type1+2CNVa:カラー眼底写真.出血を伴う灰白色病巣()を認める.Cb,c:OCT(①②).網膜下CRPE上にCtype2CNVを示唆する高反射病巣()とRPE下にCtype1CNVを示唆するRPEの隆起()を認める.Cd:OCTA自動層別解析画像.③super.cial層,④Cdeep層,⑤Couterretina層,⑥Cchoriocap-illaris層,⑤Couterretina層で3個のCCNVが検出されているが(),CNVのRPEの対する位置は確認できない.⑥choriocapillaris層ではCCNVは上鼻側に広範囲に認める().図8症例4:type1+2CNV(図7のマニュアル解析)水平ラインを移動させ,Bスキャンで部位別のCNVの深さを確認する.Ca:OCTAマニュアル解析画像.bの2本のライン()のセグメンテーションの範囲にCNVの血管網を認める.Cb:CCross-sectionalOCTA.①の水平ラインでは網膜下CRPE上にCtype2CNVの血流が確認できる().Cc:OCTAマニュアル解析画像.dのC2本のライン()のセグメンテーションの範囲にCNVの血管網を認める.Cd:CCross-sectionalOCTA.②の水平ラインではRPE下にtype1CNVの血流が確認できる().分),C1(f秒),C65(e:FA.Cfe,Bスキャン.①の水平ラインはCclassicCNV()と②の水平ラインではCoccuCltCNV()の所分).広C01A(CI:Cg見を呈する.い範囲に面状の過蛍光を認める.図9症例5:FibrovascularPEDを伴うtype1CNVa:カラー眼底写真.灰白色病巣(),網膜色素上皮.離(PED)(),SRD()を認める.Cb:OCT.①網膜下に灰白色病巣に一致するフィブリン()とCtype1CNVを示唆するRPEの隆起(),SRD(※)を認める.Cc:OCT.C②CPEDに一致するCRPEの隆起の辺縁にCNVを示唆する高反射病巣()とCSRD(※)を認める.Cd:OCTA.自動層別解析画像.C③super.cial層,④Cdeep層,C⑤Couterretina層,⑥Cchorio-capillaris層.⑤CouterCretina層で灰白色病巣のCCNVが検出され,⑥choriocapillaris層でさらに広範囲にCCNVが検出されているが,隆起したCRPE下に存在しているかは確認しにくい.図10症例5:FibrovascularPED(図9のマニュアル解析)RPEを基準にしたラインでセグメンテーションすることにより隆起したRPE下のCNVを検出する.Ca:OCTAマニュアル解析画像.灰白色病巣と網膜色素上皮.離の部位に,bのC2本のラインのセグメンテーションの範囲にCCNVを認める(,).cのCIA早期よりCCNVの構造が鮮明に検出されている.Cb:CCross-sectionalOCTA.RPEを基準にCRPE下部C16μm()からCRPE下部C44μm()の範囲にマニュアルでセグメンテーションの範囲を設定.Cc:IA(23秒).FibrovascularPED内のCNVもaのCOCTA画像と同部位に検出されている().分).CNVのC01A(CI:Cd像全体,の過蛍光を認める.Ce:FA(10分).occultCNV(.brovascularPED)を認める.図11症例1:PCVに対するアフリベルセプト硝子体注射(IVA)併用光線力学的療法(PDT)ポリープの経過をCouterretina層で確認する.CMultiScanViewのソフトを用いてCouterretina層で描出されるポリープの治療後の変化を確認したところ,治療C1カ月でポリ―プは消失したが,4カ月で再発,5カ月で拡大,6カ月でさらに拡大している.この時点で,OCTでCSRDを確認したため,IVAを追加するとC7カ月でポリープが消失しているのが確認できた.図12症例1:PCVに対するIVA併用PDT異常血管網の経過をchoriocapillaris層で確認する.図C10と同様にCMultiScanViewのソフトを用いてCchoriocapil-laris層で描出される異常血管網の治療後の変化を確認したところ,治療1カ月で異常血管網は縮小したが,4カ月で拡大,6カ月でさらに拡大している.この時点でCIVAを追加するとC7カ月で異常血管網が縮小しているのが確認できた.-

加齢黄斑変性の疫学アップデート-久山町スタディ

2019年2月28日 木曜日

加齢黄斑変性の疫学アップデート─久山町スタディUpdatesontheEpidemiologyofAge-relatedMacularDegeneration:TheHisayamaStudy橋本左和子*安田美穂*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は欧米をはじめとした先進国において成人の失明や視力低下の主原因となっている.わが国においても高齢人口が急速に増加し,それに伴いCAMDが増加することが予想されている.欧米では数多くの一般住民を母集団とした研究(population-basedstudy)によるCAMDの有病率や発症率および危険因子に関する報告がある.わが国では,福岡県久山町の地域住民を対象に行われている久山町スタディにおいてCAMDのCpopulation-basedstudyが行われている.1998年から九州大学眼科学教室はこの久山町スタディに参加し,40歳以上の久山町全住民を対象に前向き追跡調査を行い,さまざまな眼科疾患の有病率,発症率および危険因子をC15年以上にわたり調査してきた.最近の久山町スタディの結果から明らかになったCAMDの疫学について概説する.CI久山町スタディ久山町スタディは福岡市東部に隣接する都市近郊型農村地域で行われている前向きコホート研究で,40歳以上の住民を対象に眼科疾患の疫学調査を現在進行中である.久山町の年齢別人口分布や職業構成および生活様式や疾病構造は全国統計と差異がなく,わが国の標準的なサンプル集団であるため,その結果は日本人一般集団の結果としてとらえることができる.また,人口移動の少ない地域であるため,長期にわたる追跡調査も可能となっている.CII加齢黄斑変性の国際分類Birdらは加齢に関連した黄斑の変化を加齢黄斑症(age-relatedCmaculopathy:ARM)としてまとめ,国際分類として提唱し,初期と後期に分けた1).初期加齢黄斑症(earlyCage-relatedCmaculopathy:earlyARM)とは,ドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常(hyperpig-mentation,hypopigmentation)などがみられるもので,後期加齢黄斑症(lateage-relatedCmaculopathy:lateARM)がいわゆるCAMDをさす.CLateARMは,脈絡膜新生血管が関与する滲出型と,脈絡膜新生血管が関与せず網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管の地図状萎縮病巣を認める萎縮型(dryAMD)に分類される.滲出型の定義は,網膜色素上皮.離,網膜下および網膜色素上皮下新生血管,網膜上・網膜内・網膜下および色素上皮下にフィブリン様増殖組織の沈着,網膜下出血,硬性滲出物などのいずれかを伴うものとされている.萎縮型(dryAMD)の定義は,脈絡膜血管の透見できる円形および楕円形の網膜色素上皮の低色素および無色素および欠損部位で,少なくともC175Cμm以上の直径をもつもの(30oあるいはC35oの眼底写真において)とされている(図1).一方,PCVは後期CARMの滲出型のうち,眼底写真あるいは蛍光眼底造影検査,インドシアニングリーン色素検査にて黄斑部の橙色隆起病変がみられるもので,網*SawakoHashimoto&*MihoYasuda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕橋本左和子:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)135(5)C1351.初期加齢黄斑症age-relatedmaculopathy(earlyARM)ドルーゼン網膜色素上皮の色素異常2.後期加齢黄斑症age-relatedmaculopathy(lateARM)滲出型萎縮型図1加齢黄斑変性の国際分類(文献C1より引用)図2ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)(%)15.013.6**p<0.0512.6(fortrend)10.0■1998年■2007年■2012年5.01.21.5*0.60.10.10.10.0初期ARM後期ARM図3加齢黄斑変性の有病率の推移(1998年,2007年,2012年)図4初期加齢黄斑変性の年齢階級別有病率の推移(%)2.521.510.50後期ARM(滲出型と萎縮型)図6後期加齢黄斑変性の性別有病率の推移表1後期ARM(AMD)の病型別有病率(%)図5後期加齢黄斑変性の年齢階級別有病率の推移男性(%)女性(%)計(%)後期CARM1)滲出型*C1.3*C0.5C0.82)萎縮型C0.09C0.0C0.04*滲出型の特殊型①CPCVC0.7*C0.1C0.4②網膜内血管腫状増殖C0.0C0.0C0.0C2.2*C0.6C1.2久山町男女C2,667名,50歳以上,2007年.*p<0.05(男性vs女性)図7PCVの年齢階級別有病率の推移久山町男女C2,667名,50歳以上,2007年.-

序説:完全マスター加齢黄斑変性アップデート 2019

2019年2月28日 木曜日

完全マスター加齢黄斑変性アップデート2019AdvancesinDiagnosisandTreatmentofAge-relatedMacularDegeneration2019大島裕司*石橋達朗**滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療は劇的に変化し,視力維持が可能となる症例も少なくなくなった.しかし,現在でも成人の中途失明の主要疾患であり,身体障害者視覚障害の原因疾患の第C4位である1).患者数は世界的に増加傾向であり,Wongらは一般住民を対象とした有病率のメタアナリシスから,2020年には全世界でC1億C9,600万人に,2040年にはC2億C8,800万人に増加すると試算し,とくにアジア圏ではC2040年にはC1億C1,300万人ともっとも増加すると予想している2).わが国におけるCAMDの有病率もC1.2%と増加しており,滲出型CAMDの特殊型であるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)の有病率もC0.4%と報告され,今後ますます増加することが予想されている3).滲出型CAMDの病型は,典型CAMDと特殊型としてCPCVおよび網膜内血管腫状増殖(retinalCangio-matousproliferation:RAP)に分類されるが,近年,OCTの発達により脈絡膜に注目したCpachy-choroidCspectrumdiseaseという新しい概念が登場している.厚い脈絡膜(pachychoroid)もしくはpachyvesselといわれる厚い脈絡膜血管の存在下に網膜色素上皮障害を伴った一連の疾患群である.網膜色素上皮障害だけを伴い,漿液性網膜.離を認めないものをCpachychoroidCpigmentCepitheliopathyとよび,漿液性網膜.離を伴えば,中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserouschorioretinopathy:CSC),脈絡膜新生血管を伴えばCpachychoroidCchoroidalneovasculopathyとなる.PCVの一部もこの疾患群に含まれると考えられている.このように診断機器の進歩により新しい病態の概念が登場している4,5).また近年,OCTを用いて血管を描出する光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)が可能となり,非侵襲的にCCNVの描出が可能となった.症例にもよるが,造影検査を頻回に行わなくても病態の観察や治療効果判定が可能となった.滲出型CAMDの治療に関しては,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が主流であることはいうまでもない.数々の大規模臨床試験が示すように,短期的には視力の改善維持が得られることが知られている6.8).しかし,実臨床において必要時投与に代表されるCPRN(proCrenata)治療を行うと導入期に得られた視力を維持することができず,長期的にはベースラインより視力が低下してしまうことも少なくないことが示され,長期にわたる視力維持のむずかしさが示された9).そこで,近年はCtreatandextend(TAE)に代表さ*YujiOshima:福岡大学筑紫病院眼科**TatsuroIshibashi:九州大学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)C131れるプロアクティブ治療が多くの施設で導入され,導入期に獲得した視力をできるだけ維持できるよう治療が行われている.しかしその一方で,いつまで治療を行うのか,ということも問題となってきている.また,長期的な視力を考えるうえで新たな問題となっているのは,黄斑萎縮(macularatrophy:MA)である.長期視力予後とCMAの関連が認められており,できるだけCMAを小さくすることが良好な視力を保つためには不可欠である10).滲出型CAMDの特殊型の一つであるCPCVに対しては,アフリベルセプトの有用性11)や光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)と抗CVEGF薬併用の有効性が見直されている.アフリベルセプト単独療法でのポリープ退縮率は高く,黄斑ドライ率も高率で,良好な治療成績が発表されている.また,PDTと抗CVEGF併用療法は,高率なポリープ閉塞率が得られ治療成績がよいというだけでなく,治療回数を減らすことができるという利点も示されている12).しかし,長期的には併用による黄斑萎縮の拡大や治療回数も単独療法と変わらなくなるという報告もみられ,今後さらなる長期的検討が必要である13).本特集「完全マスター加齢黄斑変性アップデート2019」では,最近の新しいデータや概念に基づいた加齢黄斑変性の診断,治療,予防について,広く一般臨床医にも役立てていただけるようスペシャリストの先生方にご執筆をお願いした.まず橋本左和子先生と安田美穂先生に久山町スタディのデータを中心に疫学データをまとめていただいた.現在のホットトピックスであるCOCTAを用いたCAMDの診断について森隆三郎先生に解説いただいた.脈絡膜に注目した新しい疾患概念であるCpachycho-roidCspectrumdiseasesについて川野純廣先生と園田祥三先生にまとめていただき,わが国では有病率は低いが,AMDのもう一つのタイプである萎縮型AMDについて,2015年にワーキンググループによって作成された診断基準を中心に永井由巳先生にわかりやすく解説していただいた.長期経過を考えた治療については病型別に執筆をお願いした.典型AMDについては山本亜希子先生に,網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousCproliferation:RAP)については松本英孝先生に執筆をお願いした.PCVに関しては,PDT併用の有無で二人の先生に解説していただいた.抗CVEGF単独療法について玉城環先生と古泉英貴先生に,抗CVEGF薬併用PDTについて本田茂先生に解説いただいた.従来よりCAMDは遺伝子多型との関連が知られているが,最近の知見に関して,秋山雅人先生にまとめていただいた.滲出型CAMDに対しては治療が可能となったが,現在でも完治できる疾患ではなく,視力障害を残さないためにはやはり予防が大切である.その加齢黄斑変性の予防に関して安川力先生に解説いただいた.今後の治療について,現在治験中,開発中のものを含めて片岡恵子先生に執筆していただいた.抗CVEGF療法登場後,滲出型CAMDは治療不可能な疾患から治療可能な,そして視力維持可能な疾患となった.しかし,いまだに根治は不可能で視力障害の重要な原因疾患である.本特集を通じて長期視力維持を目標とした治療や新しい概念,知見をご理解いただき,患者の見える喜びをいつまでもお手伝いできるよう,明日の診療の一助となれば幸いである.文献1)WakoCR,CYasukawaCT,CKatoCACetal:CausesCandCpreva-lenceofvisualimpairmentinJapan.NihonGankaGakkaiZasshiC118:495-501,C20142)WongCWL,CSuCX,CLiCXCetal:GlobalCprevalenceCofCage-relatedCmacularCdegenerationCandCdiseaseCburdenCprojec-tionCforC2020Cand2040:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.LancetGlobHealthC2:e106-e116,C20143)FujiwaraK,YasudaM,HataJetal:Prevalenceandrisk132あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(2)–

仰臥位が保持困難な症例に対する術者立位での白内障手術の経験

2019年1月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(1):121.125,2019c仰臥位が保持困難な症例に対する術者立位での白内障手術の経験佐々木拓*1,2杉本昌彦*2坂本里恵*2,3有馬美香*4近藤峰生*2*1岡波総合病院眼科*2三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学教室*3松阪市民病院眼科*4鈴鹿中央総合病院眼科CCataractSurgeryinthePatientWhoCannotLieFlatTakuSasaki1,2)C,MasahikoSugimoto2),SatoeSakamoto2,3)C,MikaArima4)andMineoKondo2)1)DepartmentofOphthalmology,OkanamiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,HospitalofMatsusakaCityPeople,4)DepartmentofOphthalmology,SuzukaGeneralHospitalC目的:術中仰臥位保持が困難な患者に対し,体位調整のうえ,術者が立位で白内障手術を行ったので報告する.症例:44歳,女性.糖尿病に伴う左眼白内障を認め,初診時の左眼矯正視力C0.2であった.手術加療を希望されたが,シャルコー・マリー・トゥース病に伴う呼吸不全があり,非侵襲的人工呼吸器による呼吸管理が必要で,仰臥位保持は困難であった.背部にクッションを挿入し,45°程度の半座位とすることで,顔を上方に向けることが可能となった.しかし頭位が相対的に上がったため,ベッドの高さなどの調整をもってしても術者が座位での執刀実施は困難であった.このため術者は立位で白内障手術を実施した.術者は右足のみで顕微鏡と白内障手術装置の操作を行い,大きな周術期合併症もなく経過し,術後の左眼矯正視力はC1.0に改善した.結論:仰臥位保持が困難な症例であっても,患者ならびに術者の適切なポジショニングにより白内障手術の実施が可能である.CPurpose:ToreportacaseofcataractsurgeryperformedwiththesurgeoninastandingpositionforapatientwithCmedicalCproblemsCinCmaintainingCaCsupineCposition.CCase:AC44-year-oldCfemaleCpresentedCwithCcataractCinCherCleftCeyeCwithCaCdecimalCbest-correctedCvisualCacuityCofC0.2.CAlthoughCsurgicalCtreatmentCwasCplanned,CitCwasCdi.cultforthepatienttomaintainasupinepositionbecauseofrespiratorydi.cultiesfromCharcot-Marie-Toothdisease(hereditarymotorandsensoryneuropathy)C.Positioningthepatientinasemi-seatedpositionallowedustoturnCherCfaceCupward.CHowever,CbecauseCtheCheadCpositionCwasCelevated,CweChadCtoCperformCtheCsurgeryCinCtheCstandingCposition.CTheCsurgeryCwasCcompletedCwithoutCcomplications,CandCvisualCacuityCimprovedCtoC1.0.CConclu-sions:Theseresultsindicatethatitispossibletoperformcataractsurgeryonpatientswhohavedi.cultymain-tainingasupineposition,byplacingtheminasemi-seatedposition,enablingthesurgeontoperformthesurgerywhilestanding.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):121.125,C2019〕Keywords:仰臥位保持困難,術者立位,シャルコー・マリー・トゥース病,非侵襲的人工呼吸器.di.cultyinsu-pineposition,surgeryinstandingposition,Charcot-Marie-Toothdisease,non-invasivepositivepressureventilation.Cはじめに一般的な手術加療は仰臥位で行われることが多いが,適切な体位が取れないことがしばしば問題となる.たとえば円背の高齢者や,頸部損傷などの対応に苦慮することがある.また,体位変動に伴う呼吸機能障害を生じる症例では体位の保持のみならず,麻酔方法の選択にも影響を与えることが多い.マイクロサージェリーである眼科手術においてさえ,患者の状態に配慮した適切な術中体位保持が安全な手術の遂行に必須である.シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPANC図1NPPVマスクによる呼吸管理a:NPPVマスク装着による呼吸管理.患者の日常生活におけるCNPPVマスク装着状態を示す.マスクは額部と.部のC2本のバンドにより強く顔面に密着固定されている.Cb:手術開始前の術野清潔確保.清潔な術野を確保するため,NPPVマスクを含んだ広範囲にドレッシング材を貼布したうえで敷布を行った.NPPV:non-invasivepositivepressureventilation.disease:CMT)とは,緩徐に進行する遺伝性ニューロパチーである.一般に小児期に発症するが,生命予後は比較的良好な疾患である1).典型的症状として,四肢遠位部優位の筋萎縮や感覚障害を認める.また,横隔神経麻痺による呼吸不全が本疾患に合併することも知られている.体位変換により症状が増悪し,立位では横隔膜が下降することで機能的残気量の改善を認めるのに対し,仰臥位では腹腔内容物が胸腔内に挙上することに伴って横隔膜も挙上し,胸腔拡大に障害を生じる.呼吸補助筋による代償が行われるものの,それでも換気量が十分に確保できない場合,容易に呼吸不全の状態に陥るため,外部からの呼吸補助が必要となる2).呼吸補助器具としては,鼻カニューレ・簡易酸素マスク・開放型酸素マスクなどの低流量システムや,ベンチュリマスク・ネブライザー式酸素吸入器・リザーバ付酸素マスクなどの高流量システムが用いられる3).また,低換気の場合,二酸化炭素血症の程度によっては非侵襲的陽圧換気法(non-invasiveCposi-tiveCpressureventilation:NPPV)による呼吸管理が考慮される4).とくに胸郭変形や拡張制限による拘束性換気障害・神経筋疾患を伴う患者に対し,マスク装着によるCNPPVは簡便で有効な呼吸補助療法として広く用いられている.今回CCMTによる呼吸障害を呈し,術中の仰臥位保持が困難な患者に対し,体位調整とCNPPV管理により,術者立位で白内障手術を行った症例を経験したので報告する.CI症例患者:44歳,女性.既往歴:小児期よりCCMTを指摘されていた.神経学的症状の進行は緩徐で日常生活動作に問題はないが,就寝時(仰臥位時)にはマスク装着によるCNPPVを必要としていた.20歳代から糖尿病を罹患し,網膜症については汎網膜光凝固が施行されていた.家族歴:特記事項なし.現病歴:43歳時に左眼の視力低下を自覚し近医を受診.左眼硝子体出血と白内障を認めた.硝子体出血は自然消退したが,白内障による視力低下を認めた.仰臥位保持困難にて,全身管理下での手術が必要とのことで当院紹介となった.初診時視力:右眼矯正視力C0.9,左眼矯正視力C0.2.前眼部所見:角膜・前房は清明で前房深度は深かった.中間透光体所見:両眼ともCEmery-Little分類CII度,とくに左眼で強い皮質混濁を伴う核白内障を認めた.後眼部所見:右眼CAIIIp,左眼CBIV(福田分類)の糖尿病網膜症を認めた.左眼は硝子体出血を下方に軽度認めるものの,眼底が十分透見できる程度の混濁を残す程度であった.経過:すでに硝子体出血は消退していることから,左眼の視力低下は白内障によるものであると考え,左眼白内障手術を計画した.全身麻酔では術中換気不全が生じる可能性もあり,局所麻酔での手術を実施することとなった.手術の実施に伴い,原疾患に起因する①呼吸管理,②仰臥位保持のC2点が問題となった.①呼吸管理CMTに伴う呼吸不全があり,経鼻酸素カニューレや通常の酸素マスクなどの代替え器具による酸素投与では十分な換図2執刀時の実際a:執刀時の患者体位保持.背部にクッションを挿入し,約C45°の半座位とした(破線).ベッドは最低位まで下げられているが,頭位は相対的に高くなっている.Cb:執刀時の術者体位.術者座位での執刀実施が困難となったため,術者は立位で執刀している.Cc:執刀時のフットスイッチ配置.術者は右足のみで顕微鏡ならびに白内障手術装置のフットスイッチ操作を行うことが必要であった.顕微鏡のフットスイッチ(黒矢印),白内障手術装置のフットスイッチ(白矢印)を示す.Cd:術中所見.マスクとの干渉を避けるため,耳側切開で手術は行われている.片足での操作となったため,弱拡大で実施されている.気が得られず,通常用いているCNPPVマスクによる呼吸管し,頭位が相対的に上がったため,ベッドの高さなどの調整理が必要であった(図1a).しかし,NPPVマスクは通常のをもってしても術者が座位での執刀実施が困難となった(図マスクよりも大きく,清潔術野確保が困難となった.このたC2a).このため術者が立位で執刀することで超音波乳化吸引め,NPPVマスクを含んだ広範囲にドッレシング剤を貼っ白内障手術を実施した(図2b).術者は右足のみで顕微鏡なたうえで敷布を行い,術野を確保した(図1b).らびに白内障手術装置のフットスイッチ操作を行った(図②仰臥位保持C2c).ボトル高はこの頭位を基準としてキャリブレーション仰臥位を取ることでCNPPVマスク装着下であっても換気を行った.超音波白内障手術装置はCIn.nitiCvisionCsystem障害が発生したため,手術用椅子ならびに手術ベッドを使用(Alcon,FortWorth,Tx,USA)を用い,低灌流条件で行っした通常の仰臥位保持は困難であった.半座位の姿勢ならばた(引きがけ条件:ボトル高75cmHC2O,吸引流量28ml/換気が確保できたため,背部にクッションを挿入し,45°程min,吸引圧320mmHg).度の半座位とした.手術前に,この手術体位の保持が可能と術中の換気増悪などの急変時には気管内挿管などの救命救なることをシミュレーションし,実施可能と判断した.しか急処置が必要となる可能性も危惧された.このため麻酔科医立ち会いのもと執刀した.マスクとの干渉を避けるため,耳側切開で手術は開始した.2.4Cmmの強角膜切開で行ったが,これは角膜切開では創が角膜寄りになるため,相対的にハンドピースが立ち上がり操作性の低下を生じることや,破.などの術中トラブルに対して柔軟に対応できないと考えたためである.散瞳不良であったため,虹彩切開を実施し散瞳を確保した.手術に際し,両手の位置は従来の耳側切開ととくに変更はなかったが,フットスイッチ操作に注意して行った.片足での操作となったため,顕微鏡倍率は弱拡大として,ピント調節が最小限となるように行った.破砕吸引時には顕微鏡操作(左足操作)を極力減らし超音波手術装置の操作(右足操作)に専念し,右足の踵を軸にして踏み込みを調整した.核硬度はCII度程度であり,前房はおおむね安定していたが,サージが併発したため適宜ボトル高を下げながら実施した.強角膜切開創を作製後にCDivideC&Conquer法による核処理を行い,眼内レンズを挿入し,術中換気不全や不穏もなく,手術を終了した(図2d).周術期合併症もなく経過し,術後の左眼矯正視力はC1.0に改善した.CII考按仰臥位保持困難な患者に対するポジショニング調整による白内障手術症例を今回示した.近年,手術手技や機器の進歩により,白内障手術をはじめとする眼科手術は低侵襲かつ短時間での実施が可能となっている.古くから円背の高齢者など術中体位保持に問題のある症例では頭や足に枕を入れるなど体位の工夫により術中の患者負担を減らしうることが報告されているが5),本症例のように何らかの換気障害がある患者では,眼科手術といえども全身状態の急変につながる可能性があり配慮が必要である.これに対し種々の試みが報告されている.Fineらは,換気障害のある患者に対し座位のままで顔のみ上方を向く形での白内障手術を報告している6)が,頸椎損傷など,上方を向けない患者に対しては適応がない.Angらは手術用患者椅子を傾けて半座位とし,かつ顕微鏡の鏡筒を傾けることで“Face-to-Face”の状態にすることで下方切開によるアプローチで白内障手術を行ったとして報告している7).しかしながら術者の腕は伸ばしたままで可動制限がある状態での執刀となり,加えて下方切開による術後感染も危惧される,と考察している.これらの方法はいずれも,手術用患者椅子のほうが従来の手術用ベッドに比し,体位ならびに頭位の変更が柔軟に行うことが可能であるという前提で行われている.しかし,その反面,急変時の気管内挿管などの救命処置に障害が生じる可能性がある.実際に本症例では術前に麻酔医より全身管理処置への移行が容易なベッドでの執刀が推奨された.筆者らはこのような制限のもと,患者に半座位を取ってもらうため,椅子ではなくクッションを用いた手術用ベッドでの執刀を選択した.今回の患者はCNPPVマスク装着による周術期の換気管理が必要であった.NPPVマスクには,完全に顔面に密着させるCfullCfaceタイプのものと鼻部のみに圧迫装着させるnasalタイプのものがある.本症例で用いられていたCfullfaceタイプは安定した換気が確保できる反面,大型であるため術中使用時に清潔術野の確保への障害となるという問題点があった.事前に呼吸器内科にコンサルトし,他機種での換気を試みたが,肥満が強くCfullfaceタイプ以外での実施は困難であった.清潔術野はドレッシング材料を穴空きドレープ下に貼布することで容易に確保できたが,ドレープ下のマスクのために鼻側での手術操作に支障を生じた.このため本例では耳側切開を選択した.このように従来やり慣れた状態とは異なるものの,NPPVマスクに関しては想定内での対応が可能であった.今回の患者体位の選択は換気障害の管理に重点をおいたものであるが,その反面,術者が立位で行わなければならないという問題点も発生した.術者立位で執刀することはマイクロサージェリーを行う他科においても決して珍しいことではない.しかし,白内障手術では顕微鏡のみならず白内障手術装置の双方の操作が場合により同時に行われる点が異なっている.完全な手術を施行するためには,本来ならば前.切開や核破砕など術中の微細な操作は強拡大下での,フットスイッチによる微細な焦点操作が,必要である.本例では,顕微鏡の性能向上により,低倍率であっても術中に比較的良好な視認性が確保された.加えて,散瞳不良ではあるものの患者年齢も若く,白内障の核硬度も低かったため安全な手術を完遂することができた.しかし,高齢者で核硬度が高い症例や,Zinn小帯脆弱症例などのいわゆる難症例,またより厳密な顕微鏡操作が要求される硝子体手術症例などでは,立位での執刀はむずかしいかもしれない.安全な手術の実施には機器の精度や術者の技量などを考慮して術式や体位を選択することが肝要である.今回,筆者らは換気障害による仰臥位保持が困難な患者に対し,患者ならびに術者の適切なポジショニングにより体位を調整することで白内障手術を行った.適切な手術体位の選択は重要であるがそれに伴い,通常の術式とは異なる問題点が生じる.利点・欠点を踏まえ,患者が不利益を被らない手術・麻酔方法や体位を選択する必要がある.文献1)中川正法:Charcot-Marie-Tooth病の診断と治療・ケア.CPeripheralNerveC22:125-131,C20112)畠山修司,鈴木純子,村上亨ほか:横隔膜の機能不全によると考えられる呼吸不全を呈したCCharcot-Marie-Tooth病の1例.日呼吸会誌C38:637-641,C20003)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会酸素療法マニュア6)FineCIH,CHo.manCRS,CBinstockS:Phacoemulsi.cationル作成員会(編):酸素療法マニュアル(酸素療法ガイドラCperformedCinCaCmodi.edCwaitingCroomCchair.CJCCataractイン改訂版).2017CRefractSurg22:1408-1410,C19964)陳和夫:酸素療法と非侵襲的換気.日本呼吸ケア・リハ7)AngGS,OngJM,EkeT:Face-to-faceseatedpositioningビリテーション学会誌C25:168-173,C2015CforCphacoemulsi.cationCinCpatientsCunableCtoClieC.atCfor5)沖波聡:手術の体位.臨眼C48:103,C1994Ccataractsurgery.AmJOphthalmolC141:1151-1152,C2006***

先天性眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術のMRD-1,自発性瞬目および涙液貯留量への影響

2019年1月31日 木曜日

先天性眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術のMRD-1,自発性瞬目および涙液貯留量への影響古澤裕貴*1渡辺彰英*1横井則彦*1山中行人*1,2中山知倫*1山中亜規子*1外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学*2国立長寿医療研究センター病院眼科CE.ectsofFrontalisSuspensionforCongenitalBlepharoptosisonMRD-1,SpontaneousBlinkFunctionandTearVolumeYukiFurusawa1),AkihideWatanabe1),NorihikoYokoi1),YukitoYamanaka1,2)C,TomonoriNakayama1),AkikoYamanaka1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NationalCenterforGeriatricsandGerontologyC目的:先天性眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術前後のCMRD-1(marginre.exdistance-1),自発性瞬目機能および涙液貯留量の変化について検討すること.方法:前頭筋吊り上げ術を施行した挙筋機能のない先天性眼瞼下垂C10例C12眼を対象に,術前,術後C1.5,術後C3カ月の時点でのCMRD-1,涙液メニスカスの曲率半径CR,自発性瞬目を測定した.また,挙筋短縮術を施行した後天性眼瞼下垂C44例C76側を対照群として曲率半径CRおよび自発性瞬目をそれぞれ比較検討した.結果:先天性眼瞼下垂群では術後CMRD-1が有意に増加したが,術前後の曲率半径CRおよび自発性瞬目に有意差を認めなかった.後天性眼瞼下垂群の比較では,瞬目回数,開閉瞼時の移動距離に有意差を認めた.結論:先天性眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術は,自発性瞬目および涙液貯留量に影響を与えず,先天性眼瞼下垂は後天性眼瞼下垂に比べ閉瞼機能においても低下がみられることが示唆された.CPurpose:ToCassessCtheCchangesCinCspontaneousMRD-1(marginCre.exdistance-1)C,blinkCfunctionCandCtearCvolumeCafterCfrontalisCsuspensionCforCcongenitalCblepharoptosis.CMethods:12eyesCofC10congenitalCblepharoptosisCpatientsCwithoutClevatorCfunctionCunderwentCfrontalisCsuspension.CMRD-1,CtearCmeniscusradius(R)C,numberCofCspontaneousblinksanduppereyelidkinematicswereassessedpreoperativelyandat1.5and3monthspostopera-tively.C76eyesCofC44patientsCwithCgoodClevatorCfunctionCwhoCunderwentClevatorCaponeurosisCadvancementCwereCcomparedwithcongenitalblepharoptosispatients.Results:OnlyMRD-1signi.cantlyincreasedafterfrontalissus-pension;RCandCspontaneousCblinkCfunctionCdidCnotCsigni.cantlyCchange.CComparisonCofCcongenitalCandCacquiredCblepharoptosisshowednosigni.cantdi.erencesinclosingandopeningeyeliddistance.Conclusion:Itissuggestedthatperformingfrontalissuspensionforcongenitalblepharoptosisdoesnota.ectblinkfunctionortearvolume,andthatclosingeyelidfunctionincongenitalblepharoptosisissigni.cantlyweakerthaninaqcuiredblepharoptosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):115.120,C2019〕Keywords:先天性眼瞼下垂,前頭筋吊り上げ術,自発性瞬目,涙液メニスカス.congenitalblepharoptosis,fron-talissuspention,spontaneousblink,tearmeniscus.Cはじめににもかかわらず,たえず繰り返される不随意的な瞬目で,角ヒトの瞬目は随意性瞬目,自発性瞬目,反射性瞬目のC3種膜表面の湿潤化により,良好な視野および実用視力を得るこに分類されるが,もっとも多く行われているのは自発性瞬目とを目的としている1,2).また,正常眼における自発性瞬目である.この瞬目は開瞼を維持している間,外的刺激がない時の上眼瞼の移動距離と最大速度に正の相関があるとされ〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-8566京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:AkihideWatanabe,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi,Hirokojiagaru,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC代表的な眼瞼疾患の一つとして眼瞼下垂があげられる.眼瞼下垂は上眼瞼縁が挙上不全となり瞳孔領が隠れ,上方の視野が妨げられ,視野狭窄という機能的障害をきたす疾患である.大きく分類すると先天性眼瞼下垂と後天性眼瞼下垂に分けられ,先天性眼瞼下垂は一部は両側性のものや,瞼裂狭小症候群などの遺伝性疾患から発症するものもあるが,多くは片側性であり,そのほとんどは遺伝と無関係に起こり,おもに上眼瞼挙筋の発育不全が原因とされる5).後天性眼瞼下垂は加齢に伴う退行性眼瞼下垂がもっとも頻度が高く,またハードコンタクトの長期着用により発症する場合もある6).LF(levatorfunction)がC0Cmmであり,挙筋機能がない場合の先天性眼瞼下垂に対する術式は,おもに前頭筋吊り上げ術が選択される.前頭筋吊り上げ術は,ナイロン糸などを埋没して行うものと,EPTFEパッチCII(ゴアテックスCRシート)7)や大腿筋膜などを眉毛上から眼瞼までのトンネルを通して行うものに分けられ,いずれも前頭筋と上眼瞼を繋いで上眼瞼を引き上げる術式である.後天性眼瞼下垂に対しては,Whitnall靭帯より末梢である上眼瞼挙筋腱膜(aponeuro-sis)単独の短縮術か,aponeurosisとCMuller筋の両者の短縮術が選択されることが多い6).これらの眼瞼下垂手術に伴い開瞼時の眼瞼位置が変わることによる瞬目機能および導涙機能の変化について,後天性眼瞼下垂では,上眼瞼の開瞼移動距離,開瞼最大速度は健常者に近づき8),涙液貯留量は術後減少する傾向にあると報告されている9.11).先天性眼瞼下垂の自発性瞬目についても,患者自身の筋膜を用いた吊り上げ術を行った場合,上眼瞼の開閉瞼時移動距離および速度は低下したという報告がある4).筆者らは,本研究と同じ術式であるCEPTFEパッチCII(ゴアテックスCRシート)を用いた前頭筋吊り上げ術後,開瞼時における上眼瞼の移動距離および最大速度は改善し健常者に近づくと過去に報告したが,症例数がC1例C1眼であり,涙液貯留量については触れていなかった12).今回筆者らは,さらに症例数を増やし,瞬目を非侵襲的かつ簡便で詳細に観察することができる瞬目高速解析装置7)を用いて,術前,術後C1.5カ月,術後C3カ月の先天性眼瞼下垂のCMRD-1,自発性瞬目および涙液貯留量の変化について検討したので報告する.CI対象および方法対象は,2013年C1月.2017月C9月に京都府立医科大学附属病院眼科を受診し,先天性眼瞼下垂に対しCEPTFEパッチIIを用いて前頭筋吊り上げ術を施行したC10例C12側(男性C5例,女性C5例,平均年齢C27.1歳,片側C8側,両側C2側)である.また,対照群とした後天性眼瞼下垂は,眼瞼挙筋短縮術を施行したC44例C76側(男性C8例,女性C36例,平均年齢69.2歳,片側C12側,両側C32側)である.眼瞼下垂術前後の上眼瞼位置の評価は,瞳孔角膜反射から上眼瞼縁までの距離であるCmarginre.exdistance-1(MRD-1)を用いた13,14).MRD-1を術前および術後C1.5カ月,3カ月の時点で計測し検討した.先天性眼瞼下垂では上眼瞼挙筋機能CLFがC0Cmmで挙筋機能を有しない患者を,後天性眼瞼下垂ではCLFがC10Cmm以上で挙筋機能が良好である患者を対象とした.計測方法として,LFは細隙灯顕微鏡に患者が顔をのせた状態で上方視と下方視における上眼瞼縁の移動距離を万能瞳孔計で計測した.MRD-1は細隙灯顕微鏡で前眼部を撮影した画像から,角膜反射と上眼瞼縁の距離を解析ソフトで測定した.また,対象は,他の眼瞼疾患やその手術歴がなく,治療中の点眼または軟膏の使用もなく,涙道通過障害のない症例に限定した.対象の患者には京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得たうえでインフォーム・ドコンセントを行い,同意を得て測定を行った.自発性瞬目の測定には瞬目高速解析装置2,13)を用いた.この装置はC1CkHzの計測性能をもち,画像の取得から,画像処理,信号出力までをC1Cms単位で行うことが可能なインテリジェントビジョンシステム(IVSカメラ:浜松ホトニクス)を搭載している.装置内の視標には,網膜細胞への障害性が低いとされる緑色CLED(BG1102W:スタンレー電気)を使用している.被験者は顎台の上に顔を乗せるだけで測定が可能であるため,幼児から高齢者まで広範囲な年齢層を対象にすることができる.また,機器が被験者の眼部周辺に直接触れずに計測できる,簡便かつ非侵襲的な測定機器である.また,1CkHzと高精度の瞬目情報を取得できることにより今までとらえられなかった上眼瞼の動きを検討することができる2,14).自発性瞬目では,左右の眼の様子をそれぞれC40秒間ずつ撮影し,得られた合計C8万枚の映像画像を再生した.この際,明らかに随意性瞬目と思われるものを除外した後に自発性瞬目を解析するソフトウェアを用いて解析を行った.このソフトウェアは,上眼瞼位置を画像の輝度情報から算出しており,上眼瞼の速さがC10Cmm/sを上回っている区間を瞬目区間とし,その区間を瞬目時間,その区間中の最大速度をその瞬目の最大速度,その区間の上眼瞼の移動量を瞬目の深さとして抽出している.瞬目判定の閾値については,中村がこれまで瞬目高速解析装置で正常なCLFをもつ被験者から得たデータをもとに,自発性瞬目であると明確に判断できるものを上眼瞼の速度C10Cmm/sであると判断した2).こうして得られた上眼瞼位置のデータをもとに上眼瞼の位置,速度をC±5Csで移動平均化することができる15).データから得られた各瞬目の瞬目回数,閉瞼時,開瞼時それぞれにおける上眼瞼移動距離,上眼瞼移動期間,最大速度と閉瞼から開瞼に移行するまでの閉瞼静止期間の合計C8項目を導き(図1),被験者ごとの各パラメータを平均化し,それを各被験者の代表値とした.上眼瞼の速度上眼瞼縁の位置(mm/sec)(mm)時間(sec)a:閉瞼移動距離(mm),b:閉瞼移動期間(msec),c:閉瞼最大速度(mm/sec),d:静止期間(msec),e:開瞼移動期間(msec),f:開瞼移動距離(mm),g:開瞼最大速度(mm/sec)図1自発性瞬目の測定波形涙液貯留量はCvideo-meniscometer16)を用い涙液メニスカスの曲率半径CRを測定し,定量的評価を行った.涙液貯留量は涙液メニスカスの曲率半径CRと正の相関をもつ.video-meniscometerは,反射性流涙を避けるために照射光が眼球に当たらないように,下方涙液メニスカスに水平縞のターゲットを投影し,得られた涙液メニスカスの像を解析した.基本原理は,水平縞のターゲットを涙液メニスカス表面に投影してその反射像をとらえ,反射像の水平縞の線幅のターゲットの線幅を凹面鏡の光学式に当てはめて,涙液メニスカスの曲率半径を式(1)より算出するものである15).CICR=2W×─T(1)R=涙液メニスカスの曲率半径(mm)W=ワーキング長(mm)I=イメージングサイズ(mm)T=ターゲットサイズ(mm)CII結果1.先天性眼瞼下垂の術前後比較前頭筋吊り上げ術の術前後における平均CMRD-1を比較したところ,術前と術後C1.5カ月,術前と術後C3カ月において,有意に増加していた(p<0.01)(表1).前頭筋吊り上げ術前と術後C1.5カ月時点の自発性瞬目における各パラメータの平均値は,開閉瞼時移動期間は増加傾向にあったが,いずれのパラメータについても有意差は認められず,術前と術後C3カ月も同様であった(表1).また,涙液メニスカスの曲率半径CRの平均値も術前後で有意差は認められなかった(表1).表1先天性眼瞼下垂における術前後のパラメータ各パラメータ術前術後C1.5カ月術後C3カ月MRD-1(mm)C0.02±0.17C3.00±0.36*C3.39±0.34*曲率半径CR(mm)C0.27±0.01C0.26±0.07C0.21±0.02瞬目発生回数(回)C8.86±2.03C8.13±1.68C7.43±1.65閉瞼移動距離(mm)C3.12±0.25C2.85±0.21C3.27±0.13閉瞼移動期間(ms)C75.41±2.73C103.21±12.35C98.32±4.14閉瞼最大速度(mm/s)C72.78±6.67C66.74±23.20C61.14±6.06静止期間(ms)C77.51±46.74C62.73±14.77C63.95±11.81開瞼移動距離(mm)C2.52±0.20C2.71±0.41C2.67±0.32開瞼移動期間(ms)C95.08±8.06C113.46±7.44C106.04±11.17開瞼最大速度(mm/s)C46.22±4.06C35.73±3.15C39.54±1.92C術前を基準として,各期間と比較平均値C±標準誤差.*:p<0.01Friedman検定.表2後天性眼瞼下垂における術前後のパラメータ各パラメータ術前術後C1.5カ月術後C3カ月MRD-1(mm)C0.08±0.19C3.82±0.12*C4.00±0.118*LF(mm)C10.91±0.292C12.53±0.27*C12.94±0.26*曲率半径CR(mm)C0.32±0.02C0.28±0.03**C0.23±0.01*瞬目発生回数(回)C14.54±1.75C14.41±1.52C15.72±1.61閉瞼移動距離(mm)C5.76±0.21C6.13±0.27C6.81±0.284*閉瞼移動期間(ms)C78.84±1.67C86.47±2.62*C90.02±2.68*閉瞼最大速度(mm/s)C129.41±5.57C137.15±5.47C150.75±5.92*静止期間(ms)C16.41±1.72C14.85±3.20**C14.56±10.31**開瞼移動距離(mm)C5.11±0.23C5.26±0.26C5.90±0.30*開瞼移動期間(ms)C175.11±4.14C180.36±5.20C186.53±6.01開瞼最大速度(mm/s)C47.93±2.39C50.58±2.60C52.42±2.53**術前を基準として,各期間と比較平均値C±標準誤差.*:p<0.01,**:p<0.05Friedman検定.C2.後天性眼瞼下垂の術前後比較今回対照群とした後天性眼瞼下垂について,MRD-1は術前と術後C1.5カ月(p<0.01),術前と術後C3カ月(p<0.01)において有意に増加した(表2).LFは術前と術後C1.5カ月(p<0.05),術前と術後C3カ月(p<0.05)において有意に増加した(表2).涙液メニスカスの曲率半径CRは,術前と術後C1.5カ月(p<0.05),術前と術後C3カ月(p<0.01)において有意に減少した(表2).自発性瞬目における各パラメータの平均値において,閉瞼移動距離は,術前と術後C3カ月(p<0.01)において有意に増加した(表2).閉瞼移動期間は,術前と術後C1.5カ月(p<0.01),術前と術後C3カ月(p<0.01)において有意に増加した(表2).閉瞼最大速度は,術前と術後C3カ月(p<0.01)において有意に増加した(表2).閉瞼静止期間は術前と術後C1.5カ月(p<0.05),術前と術後C3カ月(p<0.05)において有意に減少した(表2).*7*8765開瞼移動距離(mm)5432432110(カ月)平均値±標準誤差,*:p<0.01Mann-WhitneyU検定図2先天性眼瞼下垂と後天性眼瞼下垂における閉瞼移動距離の比較表3片側性の先天性眼瞼下垂における瞬目回数疾患側眼の瞬目回数健常側眼の瞬目回数(回)(回)術前C8.86±2.03C12.73±3.59術後C1.5カ月C8.13±1.68C12.52±2.36術後C3カ月C7.43±1.65C11.89±3.33平均値C±標準誤差.開瞼移動距離は術前と術後C3カ月で有意に増加した(p<0.01)(表2).開瞼移動期間は術前後で有意差は認められなかった(表2).開瞼最大速度は術前と術後C3カ月で有意に増加した(p<0.05)(表2).C3.先天性眼瞼下垂と後天性眼瞼下垂との術前後比較先天性眼瞼下垂と後天性眼瞼下垂について,術前後で各パラメータを比較したところ,有意差が認められたのは,瞬目回数(p<0.05),閉瞼時における移動距離(p<0.01),最大速度(p<0.01),開瞼時における移動距離(p<0.01),移動期間(p<0.01)であった.なかでも瞬目機能の評価に重要である上眼瞼移動距離の結果を図2,3に示す.この有意差が認められたパラメータでは,後天性眼瞼下垂の値がすべて先天性眼瞼下垂を上回る結果となった.また,片側性の先天性眼瞼下垂の瞬目回数を疾患側と健常側に分け測定し比較したところ,有意差は認められなかった(表3).CIII考按先天性眼瞼下垂に対する外科的治療である前頭筋吊り上げ術は,EPTFEパッチCII(ゴアテックスCRシート)などを用いて眉毛上の前頭筋と上眼瞼を連結し,眉毛の挙上とともに上眼瞼を開瞼させる術式である.今回,前頭筋吊り上げ術後にMRD-1は有意に増加した.したがって,前頭筋吊り上げ術は視野狭窄の改善に有効であることが示された.0(カ月)平均値±標準誤差,*:p<0.01Mann-WhitneyU検定図3先天性眼瞼下垂と後天性眼瞼下垂における開瞼移動距離の比較自発性瞬目の計測については,これまでさまざまな手法や機械を用いて研究が行われてきた.代表的なものとしてビデオカメラ17,18)による撮影方法や筋電図19),Capacito-Oculog-raphy20)法,サーチコイル法21)が報告されているが,いずれの測定法も長所と短所が存在する.ビデオカメラによる撮影方法の場合,非侵襲的であるがC1秒間に撮像できる枚数が数十枚ほどに制約され,約C100Cmsecで生じる瞬目の上眼瞼を正確に追跡しながら測定することが困難であった.Capaci-to-Oculography法は電極と眼球や眼瞼などの突出部分との距離変化による空間静電容量を記録するため非侵襲であるが,瞬目時における移動距離や移動期間などの詳しいパラメータを得ることができない問題があった.また,筋電図,サーチコイル法では正確な瞬目の動作や移動距離などの各パラメータを得ることができる一方,装置の準備に時間を要することや侵襲的であることが問題となる.今回用いた瞬目高速解析装置は非侵襲の瞬目測定が可能であり,1CkHzの計測性能とインテリジェントビジョンシステムにより,これまで報告になかった眼瞼下垂と自発性瞬目の変化について詳細な測定を可能とした.筆者らは過去に,先天性眼瞼下垂の瞬目機能について,前頭筋吊り上げ術後,開閉瞼時ともに上眼瞼移動距離,最大速度,瞬目期間が増加し12),後天性眼瞼下垂については挙筋短縮術後に開瞼時上眼瞼移動距離が増加し,それに伴って開瞼時最大速度および開瞼時上眼瞼移動期間も増加した8)という報告をした.今回の結果では,先天性眼瞼下垂は術前から術後C1.5カ月,術後C3カ月の各測定時において,閉瞼時および開瞼時のいずれのパラメータにも有意な変化はみられず,既報の結果と異なったが,過去の報告がC1例報告のみであったことが今回の検討結果と異なる原因と考えられる.後天性眼瞼下垂では,閉瞼時における移動距離,移動期間,最大速度,また開瞼時における移動距離,最大速度で術後有意に増加し,閉瞼静止期間で術後有意に減少した.既報とは開瞼時の移動期間の点で異なる結果となったものの,今回の結果に01.5301.53自発性瞬目の原理は,上眼瞼挙筋の伸展性が眼輪筋の収縮に対して柔軟に伸びることを可能にしていることから成り立ち,上眼瞼のさまざまな動きは眼輪筋と上眼瞼挙筋の張力によるバランスによって起こり,眼輪筋の張力が挙筋に勝れば上眼瞼は下降し,釣り合えば停止し,弱まれば上昇するというものである2).後天性眼瞼下垂では,眼瞼挙筋短縮によって上眼瞼挙筋の弛緩が改善され,上眼瞼挙筋の収縮機能が術前に比べて増加し,開瞼時の眼輪筋の張力と上眼瞼挙筋の張力の差が術前より増加したことで,開瞼時のパラメータ数値も増加したとされる.また,閉瞼静止期間の減少の原因として,上眼瞼挙筋の筋張力の増加や,涙液貯留量の減少による開閉瞼方向の涙液張力が弱まったことがあげられる.一方で,先天性眼瞼下垂症例では挙筋機能がないため,上眼瞼挙筋の収縮機能はない.加えて,前頭筋吊り上げ術はこの挙筋機能を改善するものではないことから,術後においても瞬目機能に変化がみられなかったと考えられる.筆者らの過去の報告12)で,術後に自発性瞬目の各パラメータ値が上昇した理由として,症例数がわずかC1例と少なかったこと,そして用いた測定装置および測定条件が本研究と同じであることから,本来行っていた自発性瞬目が設定した測定閾値に達しておらず認識されていないものが多かったことが原因であると考えられる.また,Baccegaらの報告では,自己筋膜移植の吊り上げ術後における自発性瞬目の振幅および最大速度は低下したとしている4).この報告は,計測時間がC5分と本研究に比べて長い測定時間であるなど条件が異なるほか,計測機器もC250CHzと本研究の瞬目高速解析装置のC1CkHzに比べ低い周波数で計測しており,これらが相違の結果に関係していると考えられる.瞬目と涙道のポンプ機能の関係についてはCKakizakiが報告したように,涙道は眼輪筋とCHorner筋(眼輪筋涙.部)が関与する機構で生じる涙道ポンプの作用によって行われる22.24).眼輪筋収縮時(閉瞼時)は,眼輪筋とCHorner筋が収縮する.Horner筋は瞼板と後涙.稜を最短にするよう収縮するため涙.から離れ,涙.はCmedialCcanthalCtendon(MCT)後枝や結合組織に牽引され外側に拡張する.また,このときCHorner筋は上・下涙小管を圧平し,起始方向である後内側に牽引することで涙液を総涙小管方向に排出する.眼輪筋弛緩時(閉瞼時)は,眼輪筋,Horner筋は弛緩するため,Horner筋は元に戻ろうとし,眼窩脂肪に押され前内側方向に凸の弓形になり,MCT後枝,結合組織を介して涙.上部は収縮する.このとき,圧平されていた上・下涙小管は拡張し,涙点から涙液を吸引する.したがって,瞬目時の開瞼・閉瞼程度が大きくなるほど涙道ポンプ機能も大きくなることが推測される9,10).涙液メニスカスの曲率半径CRについて,先天性眼瞼下垂は術前後で有意な変化がなく,涙液貯留量の増減は認められなかったが,後天性眼瞼下垂は術後に涙液貯留量が有意に減少した.後天性下垂については涙液貯留量においても,術後に減少したという報告9.11)と一致する結果となった.後天性眼瞼下垂の術後に涙液貯留量が減少した理由として,自発性瞬目が深くなったこと,つまり眼瞼下垂手術により上眼瞼位置が挙上し,上眼瞼移動距離の増加に伴い開瞼時の眼輪筋の拡張程度が増加したこと,閉瞼時上眼瞼移動距離の増加に伴い閉瞼時の眼輪筋の収縮程度が増加したことが関連していると考えられる.したがって,先天性眼瞼下垂の涙液貯留量が増減しなかったのは,術前後で瞬目機能に変化がなく,眼輪筋の拡張および収縮程度に変化がなかったことが原因であると示唆される.瞬目回数については,後天性眼瞼下垂の数値が先天性眼瞼下垂と比較して有意に大きな値をとった.健常者の加齢性による自発性瞬目の回数については木村が報告しており25),年齢による瞬目回数の変化はないとしているが,眼瞼下垂手術を施行した例に対しての報告はない.自発性瞬目回数は中枢ドーパミン神経系により支配されていると考えられており26),上眼瞼挙筋機能の有無が瞬目回数に影響を与える可能性は低いと推定できる.そこで,片側性の先天性眼瞼下垂患者の疾患眼と健常眼の瞬目回数を比較したところ,疾患眼が健常眼よりも少ない回数となった.また,健常側の眼の瞬目回数と後天性眼瞼下垂の瞬目回数を比べた結果,有意差は認められなかった.したがって,本来は疾患眼の上眼瞼も健常眼と同程度の頻度で瞬目を行っているが,上眼瞼の移動速度が本実験で設定したC10Cmm/sを超えておらず,自発性瞬目として算出されなかったことが後天性下垂と比較して瞬目回数が少なくなった原因と考えられる.この結果は,先天性眼瞼下垂の瞬目が微弱なものであり,後述の先天性眼瞼下垂の上眼瞼最大速度や移動距離が後天性眼瞼下垂に比べ低いことを示唆するものといえる.また,若年層の多い先天性眼瞼下垂と高齢層の多い後天性眼瞼下垂の瞬目回数に変化がみられないことは木村の報告結果25)と一致する.開瞼時の瞬目機能においては,術前後で,移動距離,最大速度で後天性眼瞼下垂の値が先天性眼瞼下垂と比較して有意に大きな値をとった.本研究の先天性眼瞼下垂患者は上眼瞼挙筋機能を有しておらず,十分に収縮できない.上眼瞼挙筋機能は術後においても変化することはないため,術前後で後天性眼瞼下垂に比べて低い数値をとったと考えられる.また,閉瞼時においても,後天性眼瞼下垂の値が移動距離,移動期間で先天性眼瞼下垂と比較して有意に大きな値をとった.閉瞼時に収縮するのは眼輪筋であるが,上眼瞼挙筋が連動的に弛緩して閉瞼が行われる.しかし,先天性眼瞼下垂では眼輪筋の収縮力に異常はないにもかかわらず閉瞼が弱く,閉瞼時の移動距離,最大速度は後天性眼瞼下垂に比べて有意文献1)平岡満里:瞬目の生理と分析法.神経眼科C11:383-390,C19942)中村芳子,松田淳平,鈴木一隆ほか:瞬目高速解析装置を用いた自発性瞬目の測定.日眼会誌C112:1059-1067,C20083)EvingerCC,CManningCKA,CSibonyPA:EyelidCmovements.CMechanismsCandCnormalCdata.CInvestCOphthalmolCVisCSciC32:387-400,C19914)BaccegaA,GarciaDM,CruzAA:SpontaneousblinkingkinematicsCinCpatientsCwhoChaveCundergoneCautogeneousCfasciaCfrontalisCsuspension.CCurrCEyeCResC42:1248-1253,C20175)SamiraY:ApproachCtoCaCpatientCwithCblepharoptosis.CNeuroSciC37:1589-1596,C20166)渡辺彰英,荒木美治:各疾患の手術治療と適応.顕微鏡下眼形成手術,1,20,メディカルビュー社,20137)SteinkoglerFJ,KucherA,HuberEetal:Gore-Texsoft-tissuepatchfrontailstechniqueincongenitalptosisandinblepharophimosis-ptosisCsyndrome.CPlastCReconstrCSurgC92:1057-1067,C19938)大前まどか,渡辺彰英,横井則彦ほか:眼瞼下垂手術前後における自発性瞬目の定量的評価.眼科C54:1197-1201,C20129)WatanabeA,KakizakiH,SelvaDetal:Short-termchang-esCintearvolumeafterblepharoptosisrepair.CorneaC33:C14-17,C201410)WatanabeA,SelvaD,KakizakiHetal:Long-termchang-esCintearvolumeafterblepharoptosissurgeryandbleph-aroplasty.InvestOphthalmolVisSciC56:54-58,C201411)岡雄太郎,渡辺彰英,脇舛耕一ほか:眼瞼下垂手術後における涙液貯留量の変化.眼科手術C28:624-628,C201512)山中行人,渡辺彰英,木村直子ほか:片側性先天性眼瞼下垂における前頭筋吊り上げ術前後での自発性瞬目を検討した1例.日本臨床眼科学会講演集C67:881-885,C201313)MeyerdR,LinbergJV,PowellSRetal:QuantitatingthesuperiorvisualC.eldlossassociatedwithptosis.ArchOph-thalmolC107:840-843,C198914)TakahashiCY,CKakizakiCH,CMitoCHCetal:AssessmentCofCtheCpredictiveCvalueCofCintraoperativeCeyelidCheightCmea-surementsCinCsittingCandCsupineCpositionsCduringCblepha-roptosisCrepair.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC23:119-121,C200715)鈴木一隆,豊田春義,宅見宗則ほか:インテリジェントビジョンセンサを用いた高速瞬目計測装置.信学技報C109:C1-4,C200916)YokoiCN,CBronCA,CTi.anyCJCetal:Re.ectiveCmeniscome-try.anon-invasivemethodtomeasuretearmeniscuscur-vature.BrJOphthalmolC83:92-97,C199917)CasseG,SauvageJP,AdenisJPetal:Videonystagmogra-phytoassessblinking.GraefesArchClinExpOphthalmol245:1789-1796,C200718)WuCZ,CBegleyCC,CPortCNCetal:TheCe.ectsCofCincreasingCocularCsurfaceCstimulationConCblinkingCandCtearCsecretion.CInvestOphthalmolVisSciC56:4211-4220,C201519)SternJA,WalrathLC,GoldsteinR:Theendogenouseye-blink.PsychophysiologyC21:22-23,C198420)保坂良資,渡辺瞭:まばたき発生パターンを指標とした覚醒水準評価の一方法.人間工学C19:161-167,C198321)RobinsonDA:ACmethodCofCmeasuringCeyeCmovemnentCusingascleralsearchcoilinamagneticC.eld.IEEETransBiomedEng10:137-145,C196322)KakizakiH,ZakoM,MiyaishiOetal:Thelacrimalcana-liculusandsacbroderedbytheHorner’smusclefromthefunctionallacrimaldrainagesystem.OphthalmologyC112:C710-716,C200523)柿崎裕彦:内眥部の解剖と導涙機構.日眼会誌C111:857-863,C200724)柿崎裕彦,木下慎介:流涙のメカニズムと眼瞼へのアプローチ.眼科手術C20:347-351,C200725)木村直子,渡辺彰英,鈴木一隆ほか:目高速解析装置を用いた瞬目の加齢性変化の検討.日眼会誌C116:862-868,C201226)CruzAA,GarciaDM,PintoCTetal:SpontaneouseyebC-linkactivity.OculSurfC9:29-41,C2011***

春季カタルにおける長期予後の解析

2019年1月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(1):111.114,2019c春季カタルにおける長期予後の解析三島彩加佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofLong-termPrognosisofVernalKeratoconjunctivitisAyakaMishima,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:春季カタル(VKC)の臨床経過と長期予後の解析.対象および方法:2005年C4月から福岡大学病院眼科を初診しC5年以上経過したCVKC症例計C21例(男性C18例,女性C3例,平均年齢C9.0歳)40眼に対して診療録をもとに使用薬剤と再発の有無を後方視的に解析した.結果:初診時に抗アレルギー点眼薬がC40眼(100%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬はC40眼(100%),ステロイド内服薬はC6眼(15.0%)に使用されていた.経過中にトリアムシノロン眼瞼皮下注射がC24眼(60.0%)に行われた.初回治療後,VKCの再発を認めた症例はC34眼(85.0%)であった.再発をきたしたC34眼の予後をCKaplan-Meier法で解析したところ,治療開始C2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至った.22眼(64.7%)の症例がC16歳までに治癒に到達していた.再発症例の最終悪化時の年齢は平均でC13.6歳であった.一方,10眼(29.4%)が現在も治癒せず,治療継続中である.結論:免疫抑制点眼薬を使用することにより,VKCの早期治癒が可能になった.再発を繰り返す症例もその多くは青年前期には治癒することが示された.CPurpose:ThisCstudyCreportedCtheCclinicalCcourseCandClong-termCprognosisCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC).Casesandmethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof21patientswithVKC(18males,3females;averageage:9.0years)whowerefollowedformorethan5yearsattheEyeCenterofFukuokaUniversityHospi-talCafterCApril,C2005,CbasedConCmedicalCrecords.CResults:AtC.rstCadmission,C40eyes(100%)wereCtreatedCwithCanti-allergicCeyeCdropsCandCimmunosuppressiveCeyedrops;33eyes(82.5%)wereCalsoCtreatedCwithCcorticosteroidCeyedrops;6eyes(15.0%)receivedCoralCcorticosteroids.CSubcutaneousCeyelidCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonideCwasCgivenCinC24eyes(60.0%)duringCtheCcourse.CAfterCinitialCtreatment,C34eyes(85.0%)showedCrecurrenceCofCVKC.Amongtheeyeswithrecurrence,thecumulativecureratewas23.5%after2years,reaching52.9%after5years’Ctreatment.CCompleteCremissionCwasCachievedCinC22eyes(64.7%)by16yearsCofCage.CAverageCageCatClastCrecurrenceinthesecaseswas13.6yearsold.Incontrast,10eyes(29.4%)showedcontinuousrecurrencewithoutremission.CConclusion:VKCCcouldCbeCtreatedCearlierCbyCusingCimmunosuppressiveCeyeCdrops.CItCwasCshownCthatCmostcasesofVKCwithrecurrencecouldbecuredinpre-adolescence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):111.114,C2019〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,タクロリムス,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,immu-nosuppressiveeyedrops,tacrolimus,atopicdermatitis.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は学童期に発症し,寛解・増悪を繰り返す結膜増殖性アレルギー疾患である.病型ではおもに眼瞼に巨大乳頭増殖を特徴とする眼瞼型と,角膜輪部結膜に増殖がみられる輪部型とに大別される.治療は抗アレルギー点眼薬単独では管理が困難なことが多く,副腎皮質ステロイドの全身もしくは局所投与,近年では免疫抑制点眼薬の有用性が報告されている1).免疫抑制点眼薬はステロイド投与に伴うステロイド白内障2)やステロイド緑内障に関する報告はない.ステロイド緑内障は,とくに幼少期においては合併する可能性が高いと報告され3),VKCの罹患期間と重なることが多く,ステロイド点眼薬の長期使用に付随する重要な問題である.これまでわが国でCVKCの長期予後についての報告はほとんどみられず,海外でも治療〔別刷請求先〕三島彩加:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakaMishima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANC薬の長期使用成績4,5)以外ではこれまでほとんど報告されていない6).そこで今回筆者らは免疫抑制点眼薬を主たる治療として長期間経過観察を行ったCVKC症例の臨床経過ならびに予後を解析したので報告する.CI対象および方法2005年C4月から福岡大学病院眼科外来を初診し,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)の定義にもとづいてVKCと診断され加療された症例のうち,診療録においてC5年以上経過観察を行ったC21例C40眼(男性C18例,女性C3例)を対象とした.そのうち,両眼例は男性C16例,女性C3例で,片眼例は男性C2例,女性C0例であった.初診時平均年齢はC8.0±2.7歳(平均C±標準偏差,5.17歳)であった.検討項目としては,各症例の性別,初診時年齢,初診時の病型(眼瞼型,輪部型,混合型),初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,初診時の角膜上皮障害所見,初診時の治療内容,そして再発の有無と再発までの期間,最終悪化時の年齢を後方視的に解析した.臨床所見の重症度はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)をもとに,所見がないもの,軽度なもの,中等度なもの,高度なものとC4段階に分類した.治療の経過中に初診時と同等の結膜所見や新たな角膜病変の出現が認められた時点で再発あり,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,治癒に至るまでの期間と治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した.本研究は福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果男女比は男性C18例(85.7%),女性C3例(14.3%)でC6:1と男性が多かった.全C40眼の初診時の所見について,病型では眼瞼型がC37眼(92.5%)ともっとも多く,混合型はC3眼(7.5%),輪部型はC0眼(0.0%)であった.眼瞼結膜巨大乳頭所見では軽度がC26眼(65.0%),中等度がC10眼(25.0%),高度がC4眼(10.0%)と半数以上が軽度であった.角膜上皮障害所見はなしがC11眼(27.5%),軽度がC12眼(30.0%),中等度がC9眼(22.5%),高度がC8眼(20.0%)と軽度の症例がもっとも多かったが,各重症度の割合には大きな差はみられなかった.初診時の年齢はC7.9歳がC20眼(50.0%)ともっとも多かった(図1).全症例の初診時治療については,抗アレルギー点眼薬が40眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬がC40眼(100%),ステロイド内服薬がC6眼(15.0%)に投与され,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC24眼(60.0%)であった.再発を認めた症例(再発群)はC34眼(85.0%),再発を認めず初回治療のみで治癒した症例(非再発群)はC6眼(15.0%)であった.非再発群においては,眼瞼結膜巨大乳頭所見は軽度がC2眼(33.3%),中等度がC2眼(33.3%),高度がC2眼(33.3%)であり,角膜上皮障害所見はなしがC2眼(33.3%),軽度がC0眼(0.0%),中等度がC1眼(16.7%),高度がC3眼(50.0%)であった.年齢分布はどの年代においても大きな差はみられなかった(図2).治療薬は,抗アレルギー点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC6眼(100.0%),免疫抑制点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド内服薬がC0眼(0.0%),そして,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC2眼(33.3%)であった(表1).再発群については,眼瞼結膜巨大乳頭所見は,軽度の症例がC24眼(70.6%)と多く,中等度はC8眼(23.5%),高度がC2眼(5.9%)であった.角膜上皮障害所見はなしがC9眼(26.4%),軽度がC12眼(35.3%),中等度がC8眼(23.5%),高度がC5眼(14.7%)とすべての病型に差はみられなかった.年齢の分布はC34眼中C18眼とC7.9歳にもっとも多かった(図3).治療は抗アレルギー点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC27眼(79.4%),免疫抑制点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド内服薬がC6眼(17.6%)で,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射はC22眼(64.7%)に行われた(表1).再発群において,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,経過期間と累積治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した(図4).2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至っていた.しかし,29.4%が現在も治癒に至らず寛解・増悪を繰り返していた.16歳までC22眼(64.7%)が最終増悪を終えて,以後再発を認めずに治癒に至っていた.最終悪化時の年齢分布を図5に示した.平均はC13.6歳であった.CIII考按重症アレルギー性結膜疾患やCVKCに対するタクロリムス点眼液の治療効果については,これまで高い治療効果が報告されている4,8.10).今回の検討でも初回治療でC15.0%の症例が再燃せずに治癒しており,タクロリムス点眼液による効果と考える.一方それらを除く約C9割の症例は再発を繰り返した.今回の検討では初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,角膜上皮障害所見とCVKCの再発の関与に有意な結果が認められなかった.初診時の臨床所見の重症度だけではCVKCの再発傾向についての予測は困難であるといえる.今回の検討には含まれなかったが,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の全身既往歴や点眼コンプライアンスなどの要因について,今後はさらに検討を行う必要があると考えられる.重症CVKC症例に対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の有用性については,小沢ら11)が報告しており,いわゆるリリーバーとして重症例に行われた.202016161212症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)8844006歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上6歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)年齢(歳)図1初診時全症例の年齢分布図2非再発群の初診時年齢分布7.9歳にもっとも多くみられた.各年齢群の差は少なかった.表1非再発群・再発群の初診時治療20初診時治療非再発群再発群C16(n=6眼)(n=34眼)128抗アレルギー点眼6(100%)34(100%)ステロイド点眼6(100%)27(79.4%)免疫抑制薬点眼6(100%)34(100%)ステロイド内服0(0.0%)6(17.6%)C4トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射2(33.3%)22(64.7%)C06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図3再発群の初診時年齢分布7.9歳に多くみられた.C20161284図4再発群における治療期間と累積治癒率の推移Kaplan-Meier法で解析した.70.6%の症例が観察期間中に治癒に至っていた.アレルギー性結膜炎についてはC10歳代にピークがあり加齢とともに減少すると報告されている12).しかし,これまでにCVKCの眼炎症が収束して治癒する明確な年齢は報告されていなかった.今回の検討でC16歳までに約C6割の症例が以後再発を認めずに治癒に至り,16歳以上の多くの症例ではそれ以降に再発がみられないことがわかった.その一方で,約C2割の症例は治癒に至らないことも判明した.今回はアトピー性皮膚炎などの全身疾患についての検討は行っていないが,アトピー性皮膚炎合併例における免疫学的な特殊性などがCVKCの治癒に至るかどうか,あるいは成人型のアトピー性角結膜炎に移行するものなどについて,その病態を今後さ(113)06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図5再発群の最終再発時年齢分布最終再発時年齢の平均はC13.6歳であった.らに詳細に検討する必要性があるといえる.文献1)南場研一:春季カタルに対する免疫抑制点眼薬治療.あたらしい眼科C30:57-61,C20132)小川月彦,貝田智子,雨宮次生:ステロイド白内障発症要因の検討.臨眼C51:489-492,C19973)OhjiCM,CKinoshitaCS,COhmiCECetal:MarkedCintraocularCpressureCresponseCtoCinstillationCofCcorticosteroidsCinCchil-dren.AmJOphthalmolC112:450-454,C19914)Al-AmriAM:Long-termCfollow-upCofCtacrolimusCoint-mentCforCtreatmentCofCatopicCkeratoconjunctivitis.CAmJOphthalmolC157:280-286,C20145)PucciCN,CCaputoCR,CMoriCFCetal:Long-termCsafetyCandCe.cacyoftopicalcyclosporinein156childrenwithvernalkeratoconjunctivitis.CIntCJCImmunopatholCPharmacolC23:C865-871,C20106)BoniniCS,CBoniniCS,CLambiaseCACetal:VernalCkeratocon-junctivitisrevisited:aCcaseCseriesCofC195patientsCwithClong-termfollowup.OphthalmologyC107:1157-1163,C20007)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20108)OhashiCY,CEbiharaCN,CFujishimaCHCetal:ACrandomized,Cplacebo-controlledCclinicalCtrialCofCtacrolimusCophthalmicCsuspension0.1%CinCsevereCallergicCconjunctivitis.CJCOculCPharmacolTherC26:165-174,C20109)鳥山浩二,原祐子,岡本茂樹ほか:春季カタルに対する0.1%タクロリムス点眼液の使用成績.眼臨紀C6:707-711,C201310)品川真有子,南場研一,北市信義ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼薬の長期使用成績.臨眼C71:343-348,C201711)小沢昌彦,山口晃生,淵上あきほか:春季カタルに対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の治療成績.臨眼C61:739-743,C200712)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:アレルギー性結膜疾患の疫学.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班実績集.p12-20,日本眼科医会,1995***

デクスメデトミジンを用いた涙囊鼻腔吻合術

2019年1月31日 木曜日

《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科36(1):107.110,2019cデクスメデトミジンを用いた涙.鼻腔吻合術植田芳樹舘奈保子橋本義弘朝比奈祐一芳村賀洋子真生会富山病院アイセンターCEndoscopicDacryocystorhinostomywithDexmedetomidineSedationYoshikiUeta,NaokoTachi,YoshihiroHashimoto,YuichiAsahinaandKayokoYoshimuraCShinseikaiToyamaHospitalEyeCenterC目的:涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)におけるデクスメデトミジン(DEX)による静脈麻酔の安全性と有用性について検討する.方法:2014年C9月.2016年C9月に,DEXによる静脈麻酔を用いてCDCR鼻内法を施行したC21例C22側を対象とした.DEXは5.6Cμg/kg/時でC10分間初期負荷投与し,0.4Cμg/kg/時で維持投与した.局所への浸潤麻酔も併用した.手術中断例の有無,バイタルサイン,声かけへの応答,術中の疼痛をフェイススケールを用いC11段階で評価した.結果:手術を中断した症例はなく,声かけは全例応答可であった.3例でCSpOC2の低下,1例で血圧の低下を認めたが,維持量の減量により改善した.フェイススケールは平均C1.71(0.6)であった.結論:DEXを用いたCDCRは安全であり,局所麻酔も併用すれば疼痛コントロールも良好である.CPurpose:Toevaluatethesafetyande.ectivenessofendoscopicdacryocystorhinostomy(En-DCR)underlocalanesthesiawithdexmedetomidine(DEX)sedation.Method:22patientsunderwentEn-DCRunderlocalanesthesiawithDEX.DEXwasadministeredintravenouslyataloadingdoseof5.6Cμg/kg/hfor10minutesand0.4Cμg/kg/hsubsequently.Focalanesthesiawasalsoused.Vitalsigns,responsetocall,andintraoperativepainusingFacescalewereCnoted.CResult:TheCoperationCwasCsuccessfullyCperformedCinCallCpatients,CandCtheyCrespondedCtoCcall.CSpO2CwasCdecreasedCinC3patientsCandCbloodCpressureCwasCdecreasedCinC1patient.CTheCmeanCpainCscoreConCFaceCscaleCwas1.71(0.6)C.Conclusion:En-DCRwithDEXsedationisasafeandae.ectivepaincontrolprocedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):107.110,C2019〕Keywords:涙.鼻腔吻合術,デクスメデトミジン,鼻内法,局所麻酔,フェイススケール.Dacryocystorhinosto-my,dexmedetomidine,endoscopic,localanesthesia,facescale.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は,おもに鼻涙管閉鎖症に対して,涙道再建目的で行われる手術である.近年,鼻内法が広まり治癒率も高い1,2).麻酔は,術中の疼痛や出血の管理のために全身麻酔で行う施設が多い.しかし全身麻酔では全身状態,入院期間,施設などに制約されることがあり,局所麻酔で行う施設もある3.6).局所麻酔では静脈麻酔薬を用いて行う場合もある.近年新しい静脈麻酔薬としてデクスメデトミジン(DEX)が発売された.DEXはCa2受容体作動薬であり,脳橋の青斑核のCa2A受容体に結合してCagonistとして作用し,鎮静作用を発現する7).また,脊髄に分布するCa2A受容体に作用し,鎮痛作用も発現する.鎮静は自然睡眠に類似し,呼吸抑制は弱いとされ,呼びかけで容易に覚醒し,意思疎通が可能といわれている.合併症として,血圧・心拍数低下,末梢血管の収縮による一過性血圧上昇などが報告されている.今回,DCRにおけるCDEXを用いた静脈麻酔の有用性と安全性を検討した.CI対象および方法2014年C9月.2016年C9月に当院で,DEXを用いて局所麻酔でDCRを施行した21例22側(男性2例2側,女性19例C20側,平均年齢C68.7C±11.0歳)を対象とした.全身麻酔か局所麻酔かは患者の希望により決定し,認知症症例と両側手術の症例は,原則,全身麻酔で施行した.DCR下鼻道法やCJonestube留置を行った症例は除外した.〔別刷請求先〕植田芳樹:〒939-0243富山県射水市下若C89-10真生会富山病院アイセンターReprintrequests:YoshikiUeta,ShinseikaiToyamaHospitalEyeCenter,89-10Shimowaka,Imizu,Toyama939-0243,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(107)C107表1結果表2痛みなし群とあり群の比較声かけ全例反応バイタルサインの異常CSpO2低下3例血圧低下1例あり1C1例記憶断片的8例なし2例フェイススケール平均1C.7C±1.910例は0痛みなし(10例)痛みあり(11例)63.5±12.3C73.1±8.02:80:12体重(kg)C51.4±7.9C47.3±8.537.1±7.3(26.45)C42.3C±12.7(23.67)記憶断片的5例3例あり3例8例表3疼痛の強かった症例性別年齢(歳)体重(kg)手術時間(分)フェイススケールバイタルサインその他症例C1CFC70C54.8C67C6CSpO2低下涙小管水平部閉塞合併症例2CFC65C53.8C56C5出血++症例3CFC83C31.8C34C4CSpO2低下症例4CF75C50C45C4C手術法は,全例,鼻内法で施行した.粘膜除去にはCXPSCRのトライカットブレードを使用,骨窓形成にはCXPSCRのダイアモンドDCRバーを使用した.15°ナイフで涙.を切開し,ショートタイプの涙管チューブをC1本留置,メロセルヘモックスガーゼCRまたはべスキチンガーゼCRをC1枚挿入して終了した.DEXはC200Cμg(2Cml)を生理食塩水C48Cmlで希釈し,総量50Cml(4Cμg/ml)としてシリンジポンプで経静脈投与を行った.5.6Cμg/kg/時でC10分間初期負荷投与し,その後C0.4Cμg/kg/時で維持投与した.維持量は必要に応じ増減した(痛みがあれば増量し,バイタルサインの変化があれば減量).直前の食事は絶食とした.術中は鼻カニューレでC2Clの酸素投与を行った.DEX以外の麻酔として,前投薬にペンタゾシンC15mg,ヒドロキシジン塩酸塩C25mgを筋注し,体重50Ckg未満の症例は,適宜減量した.また,滑車下神経麻酔,涙.下の骨膜,および鼻内の粘膜にC1%エピレナミン含有キシロカインで浸潤麻酔を施行した.評価方法は,手術中断例の有無,術中のバイタルサイン〔血圧,脈拍,経皮的動脈血酸素飽和度(SpOC2)〕の異常,呼びかけへの応答の有無,術翌日に術中の記憶の有無の問診と術中疼痛をフェイススケールを用いてC0.10のC11段階で評価した.診療録の参照に対して,当院の倫理委員会の承認を得た.CII結果結果を表1に示す.手術を中断した症例はなく,声かけは全例応答可であった.バイタルサインはC3例でCSpOC2の低下(89.95%),1例で血圧低下(70CmmHg)を認めたが,DEXの維持量の減量により改善した.術翌日の問診で,術中の記憶があった症例はC11例,断片的な記憶がC8例,術中の記憶がなかった症例はC2例であった.痛みの程度はフェイススケールで平均C1.7C±1.9(0.6)であった.10例はフェイススケールC0と回答した.術中の咽頭への流血,還流液が問題となる症例はなかった.フェイススケールがC0の痛みなし群と,フェイススケールがC1以上の痛みあり群に分けた比較では(表2),年齢,体重,手術時間に有意差を認めなかったが,バイタルサインの異常は痛みあり群のみで認めた.また,術中の記憶がない症例は痛みなし群のみであり,痛みあり群で記憶がある症例が多い傾向を認めた.フェイススケールC4以上の疼痛が強かったC4症例を表3に示す.フェイススケールがC5以上のC2症例は,手術時間が長い症例であった(症例C1は涙小管水平部閉塞の合併,症例C2は鼻出血のため).このC2症例はともに,術終盤で強い疼痛を訴えた.また,4症例中C2症例にCSpOC2の低下を認めた.CIII考察これまで,手術や処置における鎮静には,ミダゾラムやプロポフォールなどの静脈麻酔薬が使用されてきた.これらの薬剤は,効果発現時間が早く,血中半減期が短いが,短時間の無麻酔や局所麻酔で実施される処置や検査の鎮静には適応外となっている.また,呼吸抑制などのために,使用の際には呼吸,循環の監視が求められる.Ca2アドレナリン受容体作動薬であるCDEXも,以前は集中治療における人工呼吸中および人工呼吸器からの離脱後の鎮静に適応が限定されていたが,2013年C6月から局所麻酔108あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019(108)における手術や処置,検査における鎮静の適応が追加された.DEXは,低用量の使用時には血管拡張による低血圧と副交感神経優位による徐脈が発現し,高用量時は,血管平滑筋収縮による血管収縮を引き起こすといわれる.呼吸抑制が軽微であり,呼名や軽微な刺激で速やかに覚醒する意識下鎮静の鎮静レベルを容易に達成し,自発呼吸が温存されるという点は,安全に手術を遂行するうえでは望ましい.これまでCDEXを用いた手術の報告は多くあり,Hyoらは,両眼白内障手術患者C31例でCDEX,プロポフォール,アルフェンタニルを比較検討し,DEX群が患者の満足度に優れ,心血管系が安定していたと報告している8).また,Demir-aranらは,上部消化管内視鏡の鎮静で,DEX群のほうがミダゾラム群に比べ,検査中の嘔気・嘔吐が有意に少なく,内視鏡医の満足度が高く,合併症としては処置中のCSpOC2が92%まで低下したと報告している9).西澤らも,消化器内視鏡におけるCDEXとミダゾラムの比較のメタ解析において,ミダゾラムに比較してより有効であり,合併症リスクに有意差を認めなかったと報告している10).これらの結果からDEXは,プロポフォールやミダゾラムと比べ,合併症はほぼ同等,患者,術者の満足度は高い静脈麻酔薬であると考える.DCRに対してCDEXを用いた報告はないが,今回の検討において,SpOC2低下をC3例に,血圧低下をC1例に認めた.CSpO2の低下はフェイススケールがC6とC5の疼痛の強い症例にみられ,疼痛を抑えるためにCDEXを増量したことが影響したと思われるが,その後のCDEXの減量により,早期に改善が期待できる.また,翌日の問診で術中の記憶がない症例がC2例あった.それらの症例も術中の呼名に応答は可能であったが,フェイススケールはC0であり,鎮静が深すぎた可能性がある.DEXは健忘作用は弱いとされるが,鎮静が深いと健忘作用を呈することがあると考えられた.しかし,患者にとって手術は苦痛であり,記憶をなくしても満足度は高いと思われた.今回の手術はCXPSCRドリルシステムを用いており,骨削開時は灌流液が常に流れていたが,術中に灌流液を吐き出したり誤嚥する症例はなかった.DEXによる鎮静は自然睡眠に近いとされ,患者が灌流液を飲み込んでいるためと思われた.疼痛に関して,フェイススケールの平均はC1.7であった.CVisualanalogscaleを用いた検討で,網膜光凝固の疼痛は,従来の光凝固でC3.7.5.1,PASCALCRによるパターンレーザーでC1.4.3.3と報告されており11,12),DEXを用いたCDCRは網膜光凝固とほぼ同等の疼痛と考える.フェイススケールC0がC10例であり,約半数において,無痛で手術を行うことができた.疼痛のある症例,とくに疼痛の強かった症例は,涙小管水平部閉塞の合併や,鼻出血の止血に時間のかかった症例であり,術終盤の痛みが強かったことから,手術時間の延長により,浸潤麻酔の効果が減弱したと考える.したがって,DEXのみでの疼痛コントロールは困難で,適切な局所麻酔の併施が必須と考える.DCR鼻内法では,涙.を十分に展開することが重要であるが,上顎骨が厚い例では,骨削開の際に局所麻酔のみでは痛みも出やすい.しかし全症例,十分な骨窓を広げることができた.DEXの鎮痛作用は脊髄のCa2A受容体への作用によるといわれ,三叉神経支配の頭頸部手術で鎮痛作用を発現するか不明であるが,DEXの有用性は確認できた.本検討は,術前に麻酔の種類の希望を聞いたため,痛みに弱い症例は全身麻酔を選択したと思われること,より痛みに弱いと思われる男性がC2名であること,今後症例が増えるであろう認知症症例を除外していること,ミダゾラムや静脈麻酔薬なしとの比較を行っていないことから,さらなる検討が必要である.手術続行が困難と判断した場合はすみやかに,全身麻酔へ移行できるよう準備が必要と考える.その点から,全身麻酔の準備ができない施設での導入は慎重にすべきである.今回は一般に推奨される初期量,維持量で投与を開始し,術中の患者の疼痛の訴えと,バイタルサインの変化があったときのみ,DEXの量の増減を行った.鎮静が深すぎたと思われる症例もあり,鎮静スケールを用いればより適切な量を決めることができると考える.術中の疼痛は大きな問題であるが,全身麻酔に伴うリスク,手術枠や施設の限界,患者の全身状態などから,局所麻酔で行わなければならない場合がある.今回の検討から,DEXを使用したCDCRは適切な局所麻酔を併施すれば,安全で比較的疼痛も少ないと考える.CIV結論DEXを用いたCDCRは安全であり,局所麻酔の追加を適切に行えば疼痛コントロールは良好である.DEXの適切な量や,増加する認知症患者への対応は今後の検討を要する.文献1)WormaldPJ:PoweredCendscopicCdacryocystorhinostomy.CLaryngoscopeC112:69-72,C20022)孫裕権,大西貴子,中山智寛ほか:涙.鼻腔吻合術の手術適応と成績.臨眼C58:727-730,C20043)DresnerCSC,CKlussmanCKG,CMeyerCDRCetal:OutpatientCdacryocystorhinostomy.OphthalmicSurgC22:222-224,C19914)HowdenJ,mcCluskeyP,O’SullivanGetal:AssistedlocalanesthesiaCforCendoscopicCdacryocystorhinostomy.CClinCExperimentOphthalmolC35:256-261,C20075)CiftciF,PocanS,KaradayiKetal:LocalversusgeneralanesthesiaCforCexternalCdacryocystorhinostomyCinCyoungCpatients.OphthalmicPlastReconstrSurgC21:201-206,C20056)河本旭,嘉陽宗光,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術を施行(109)あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C109した高齢者C83例の手術成績.あたらしい眼科C23:917-921,C20067)稲垣喜三:局所麻酔時におけるデクスメデトミジン塩酸塩.循環制御C36:138-143,C20158)NaHS,SongIA,ParkHSetal:Dexmedetomidineise.ec-tiveCformonitoredanesthesiacareinoutpatientsundergo-ingCcataractCsurgery.CKoreanCJCAnesthesiolC61:453-459,C20119)DemiraranY,KorkutE,TamerAetal:ThecomparisonofCdexmedetomidineCandCmidazolamCusedCforCsedationCofCpatientsduringupperendoscopy:Aprospective,random-izedstudy.CanJGastroenterol27:25-29,C200710)西澤俊宏,鈴木秀和,相良誠二ほか:消化器内視鏡におけるデクスメデトミジンとミダゾラムの比較:メタ解析.日本消化器内視鏡学会雑誌57:2560-2568,C201511)須藤史子,志村雅彦,石塚哲也ほか:糖尿病網膜症における光凝固術.臨眼C65:693-698,C201112)西川薫里,野崎実穂,水谷武史ほか:PASCALstreamlineyellowの使用経験.眼科手術C26:649-652,C2013***110あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019(110)

急激な血糖値低下により急性増悪した単純糖尿病網膜症症例の脈絡膜変化

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):102.106,2019c急激な血糖値低下により急性増悪した単純糖尿病網膜症症例の脈絡膜変化山﨑厚志河本由紀美魚谷竜稲田耕大佐々木慎一井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学CChoroidalThicknessChangeinaCaseofSimpleTypeDiabeticRetinopathyDeterioratedafterRapidBloodGlucoseControlAtsushiYamasaki,YukimiKawamoto,RyuUotani,KoudaiInata,ShinichiSasakiandYoshitsuguInoueCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityC急激な血糖値低下とともに単純糖尿病網膜症が増殖糖尿病網膜症に移行した症例における脈絡膜厚の変化を観察した.初診時に視力は右眼(0.08),左眼(1.5)で,右眼は増殖型,左眼は単純型の糖尿病網膜症であった.初診時にHbA1cはC12.8%であったが,1カ月でC9.5%に低下し,左眼脈絡膜厚がC211Cμmから244Cμmに増加した.そのC3カ月後,左眼は増殖型に移行し,網膜光凝固術後に脈絡膜厚は菲薄化した.急激に血糖値を降下させた場合,網膜症の悪化に先行して脈絡膜厚の増加をきたす可能性が示唆された.CChangesinchoroidalthicknesswereobservedinacaseofsimplediabeticretinopathythattransitedtoprolif-erativediabeticretinopathyafterrapidbloodglucosecontrol.AtC.rstvisit,visualacuitywas0.08righteyeand1.5lefteye.Therighteyewasproliferativetype,theleftwassimpletypediabeticretinopathy.AtC.rstvisit,HbA1cwas12.8%;however,ithaddecreasedto9.5%inonemonth,andchoroidalthicknessinthelefteyehadincreasedfrom211Cμmto244Cμm.Threemonthslater,thelefteyehadshiftedtoproliferativetype,andchoroidalthicknesshadthinnedafterretinalphotocoagulation.Itissuggestedthatwhenbloodglucoseisrapidlycontrolled,choroidalthicknessmayincreasebeforeretinopathydeterioration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):102.106,C2019〕Keywords:糖尿病網膜症,ヘモグロビンCA1c,急激な血糖コントロール,光干渉断層計,中心窩下脈絡膜厚.dia-beticretinopathy,HbA1c,rapidbloodglucosecontrol,opticcoherencetomography,subfovealchoroidalthickness.Cはじめに糖尿病患者における脈絡膜の変化については,病理学的には脈絡膜血管の動脈硬化性変化や基底膜肥厚,管腔の狭窄や閉塞などが古くから報告されており1,2),糖尿病脈絡膜症という概念として確立されているが,生体での詳細な変化は検討がむずかしかった.近年,光干渉断層計(opticcoherencetomography:OCT)の進歩により,生体での構造的変化が解析できるようになり,糖尿病患者における脈絡膜の厚さや構造および網膜症との関係についての研究が進められている.脈絡膜厚に関しては,糖尿病網膜症では重症度に伴い肥厚するという報告3,4)と,逆に菲薄化するという報告5)があるが,血糖の低下により網膜症が悪化したときの脈絡膜厚の変化については報告がない.今回,単純網膜症を有する糖尿病患者において,急激な血糖値低下とともに増殖糖尿病網膜症に移行した時期の中心窩下脈絡膜厚(subfovealCchoroidalthickness:以下SCT)の変化を観察できたので報告する.CI症例患者:25歳,女性.主訴:右視力低下.現病歴:右眼に飛蚊症を自覚し,改善しないため近医受診.右眼硝子体出血の診断にて当院に紹介となった.〔別刷請求先〕山﨑厚志:〒683-8504鳥取県米子市西町C36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:AtsushiYamasaki,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishimachi,Yonago,Tottori683-8504,JAPANC102(102)図1初診時の眼底写真およびフルオレセイン蛍光眼底撮影a:右眼眼底写真,Cb:左眼眼底写真,Cc:右眼フルオレセイン蛍光眼底撮影,Cd:左眼フルオレセイン蛍光眼底撮影.右眼はびまん性硝子体出血をきたしており,左眼はわずかに毛細血管瘤を認める程度の単純糖尿病網膜症であった.図2初診から4カ月後の左眼眼底写真とフルオレセイン蛍光眼底撮影a:左眼眼底写真.アーケード内網膜に線状出血を生じている.Cb:左眼鼻側,Cc:左眼後極部のフルオレセイン蛍光眼底撮影.広範な無灌流領域および乳頭周囲に新生血管を認めた.図3左眼眼底写真とOCTによる脈絡膜厚の変化a,b:初診時(HbA1c:12.8%)の眼底写真およびCOCT(SCT:211Cμm).Cc,d:初診C1カ月後(HbA1c:9.5%)の眼底写真およびCOCT(SCT:244Cμm).Ce,f:初診C4カ月後(HbA1c:7.8%)の眼底写真およびCOCT(SCT:224Cμm).Cg,h:初診C7カ月後(HbA1c:7.2%)の眼底写真およびCOCT(SCT:180Cμm).Ci,j:初診C8カ月後(HbA1c:8.0%)の眼底写真およびCOCT(SCT:174Cμm).Ck,l:初診C9カ月後(HbA1c:8.0%)の眼底写真およびCOCT(SCT:154Cμm).HbA1c左脈絡膜厚右脈絡膜厚12.8%眼内光凝固6月7月10月12月3月図4本症例のHbA1cと中心窩下脈絡膜厚(SCT)の変化HbA1cの降下時に左眼はCSCTが増加し,その後に糖尿病網膜症が悪化した.汎網膜光凝固術後にCSCTは菲薄化した.右眼は硝子体手術と眼内光凝固術後よりCSCTは菲薄化した.PPV:parsplanaCvitrectomy,経毛様体扁平部硝子体切除術.PRP:panretinalphotocoagulation,汎網膜光凝固術.既往歴:I型糖尿病の診断がついていたが,4年前より内科治療を自己中断していた.眼科受診歴はなし.初診時所見:視力は右眼C0.03(0.08C×.5.0D),左眼C0.15(1.5C×.5.0D).眼圧は右眼C15mmHg,左眼C17mmHg.中間透光体は正常で,眼底は右眼に増殖糖尿病網膜症によるびまん性硝子体出血をきたしており,左眼はわずかに毛細血管瘤を認める程度の単純糖尿病網膜症であった(図1).光学式眼軸長測定装置にて眼軸長は右眼C25.86mm,左眼C26.16mm.SCTは右眼は測定不能,左眼はC211Cμmだった.全身所見:I型ミトコンドリア糖尿病でCHbA1cはC12.8%.頸動脈エコーでは内頸動脈の狭窄は認めなかった.右眼は水晶体温存経毛様体扁平部硝子体切除術を行い,増殖膜処理および眼内レーザーで汎網膜光凝固を行い,術後視力は(1.0)と改善した.OCTで観察したところ,術後C1カ月目の右眼CSCTはC199Cμmで左眼より薄かった.術前後でHbA1cはC1カ月でC12.8%からC9.5%に低下した.左眼の網膜症は単純型のまま不変であったが,初診時にC211CμmだったSCTが244μmへ増加した.その後C3カ月間でCHbA1cはC7.8%とゆっくり低下し,SCTはC224Cμmに減少した.左眼アーケード内網膜に線状出血を生じ,フルオレセイン蛍光眼底撮影で無灌流領域および乳頭周囲新生血管を認めたため(図2),網膜光凝固術を施行した.左眼はそのC2カ月後には線維性増殖膜の形成および網膜前出血を生じ,SCTはC180μmとなった.そのC3カ月後には右眼視力は(1.0)と良好であったが,左眼は(0.6)まで低下した.SCTは右眼C129Cμm,左眼C154Cμmまで菲薄化した.以後C2年後の現在まで両眼ともに網膜症の悪化はなく,SCTの大きな変化は認めていない.経過中に黄斑浮腫の発症はみられなかった.左眼眼底写真とCOCTによる脈絡膜厚の変化およびCHbA1cの変化との関係について図3,4に示す.なお,治療経過において本症例の血圧,体重,血清アルブミン量については著明な変化は認めなかった.CII考察急激な血糖降下によって糖尿病網膜症の増悪が生じることは知られている6,7).その原因として,血液凝固能の亢進,線溶低下,赤血球の酸素解離能低下,血液量低下,低血糖による酸素欠乏7,8)などから,内皮細胞の障害や脱落を生じて出血や浮腫を生じることがいわれている.今回筆者らは,急激な血糖降下により生じた糖尿病網膜症の増悪に先行して,脈絡膜の肥厚を生じた症例を経験した.本症例は,片眼の硝子体手術前後でCHbA1c値がC1カ月間でC3%以上の急激な低下を生じ,反対眼の単純型の糖尿病網膜症が増殖型に急激に移行した.血糖値が急激に低下したC1カ月目にCSCTの増加を生じた.糖尿病患者の脈絡膜は糖尿病網膜症の重症度に伴い肥厚するという報告3,4)がある一方で,逆に菲薄化するという報告5)もある.病理組織的には,脈絡膜血管周囲のCPAS(periodicacid-Schi.)染色陽性の結節の形成や血管透過性亢進が間質の体積を増加させて脈絡膜を肥厚させ,脈絡膜毛細血管板における毛細血管の消失や中大血管壁の肥厚と内腔の閉塞が脈絡膜を菲薄化させる原因と考えられている9).ただし,脈絡膜循環には血糖,血圧,腎機能などの全身因子が密接に影響していることが考えられ,これらの全身因子の急激な変化を生じた場合,脈絡膜厚に影響を及ぼす可能性は否定できない.Joらは,強化療法で血糖降下を行った網膜症を有さないII型糖尿病患者において,2週間で脈絡膜厚が有意に増加したと報告しており,網脈絡膜血流の変化に言及している10).脈絡膜血管の血流増加の原因として網脈絡膜血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)濃度の関与を推察している文献はあるが4),血糖値の急激な変化によって網脈絡膜のCVEGF濃度が変化することを示したものはなく,脈絡膜血管の組織学的変化についても不明である.今回,脈絡膜厚増加の点ではまだ網膜症の変化はみられず,網膜症より脈絡膜の変化が先行したように思われた.血糖値の低下により網膜毛細血管閉塞が促進され網膜症の急性増悪を生じるその前段階として,脈絡膜の微小血管異常いわゆる糖尿病脈絡膜症を生じ,脈絡膜血管の透過性亢進とともに脈絡膜厚が増加したものと考えられ,脈絡膜厚が糖尿病網膜症の急性増悪の前兆あるいはパラメーターになりうる可能性が示唆された.軽度の網膜症では,非糖尿病眼に比較して脈絡膜厚が肥厚している報告がある1)ほか,境界型糖尿病の患者では脈絡膜厚の増加がみられ,早期網膜症の前兆となりうるという報告もある11).一般に網膜毛細血管はCblood-reti-nalbarrierがあり自己制御されているが,脈絡膜血管にはこの制御機能がないため12),網膜と脈絡膜は異なる経過を生じるのではないかと考えられている.血糖値の変化に対し,自己制御が利かない脈絡膜の変化が先に生じ,その後に網膜の変化が生じるのではないかと推察された.本症例の経過中,硝子体手術と術中汎網膜光凝固を施行した右眼および増殖型に移行し汎網膜光凝固を行った左眼はSCTが徐々に減少した.汎網膜光凝固術により脈絡膜血流は著明に減少することが知られており,術後に脈絡膜は菲薄し,萎縮傾向を示すことがいわれている4,13,14).汎網膜光凝固によるCVEGF濃度の減少が原因と思われた.正常眼の脈絡膜は,加齢により菲薄化することが知られている.本症例は若年例であり,通常の糖尿病網膜症症例よりSCTが厚いことが考えられるほか,加齢に伴う動脈硬化性変化も少ない可能性が考えられた.しかし,網膜症が重症化し,網膜光凝固や硝子体手術を施行すると,SCTはかなり菲薄化することが示唆された.屈折については,眼軸が長く屈折度が近視に傾くほどCSCTは薄くなる.本症例はC.5.0Dの近視があるが,両眼ともにぶどう腫や網脈絡膜萎縮などの所見はみられず,SCTに強く影響するほどの強度近視ではないように思われた.ただし眼軸長は右眼C25.86Cmm,左眼26.16Cmmで,この左右差が網膜症悪化の差に関与している可能性も考えられた.CIII結論今回,単純型網膜症において,急激な血糖値低下とともに増殖糖尿病網膜症に移行したときのCSCTの変化を観察できた.急激な血糖コントロールを施行する場合,網膜症の悪化に先行してCSCTの増加を生じる可能性が示唆された.単純糖尿病網膜症に対し,やむをえず急激な血糖コントロールを行う場合,OCTによる脈絡膜厚の変化を観察することで,網膜症の増悪に対しての治療の時期を予測できる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Yano.M:OcularCpathologyCofCdiabeticCmellitus.CAmJOphthalmolC67:21-38,C19692)HidayatCAA,CFineBS:DiabeticCchoroidopathy.CLightCandCelectronmicroscopicobservationsofsevencases.Ophthal-mologyC92:512-522,C19853)XuJ,XuL,DuKFetal:SubfovealchoroidalthicknessindiabetesCandCdiabeticCretinopathy.COphthalmologyC120:C2023-2029,C20134)KimJT,LeeDH,JoeSGetal:Changesinchoroidalthick-nessCinCrelationCtoCseverityCofCretinopathyCandCmacularCedemaCinCtypeC2diabeticCpatients.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:3378-3384,C20135)ShenCZJ,CYangCXF,CXuCJCetal:AssociationCofCchoroidalCthicknesswithearlystagesofdiabeticretinopathyintype2diabetes.IntJOphthalmolC10:613-618,C20176)福田雅俊:糖尿病網膜症の治療.日本糖尿病学会(編):糖尿病学の進歩第C7集,p171-178,診断と治療社,19737)森田千尋,荷見澄子,大森安恵ほか:急激な血糖コントロールの網膜症に及ぼす影響─内科の立場より─.DiabetsCJournalC20:7-12,C19928)BursellSE,ClermontAC,KinsleyBTetal:RetinalbloodC.owCchangesCinCpatientsCwithCinsulin-dependentCdiabeticCmellitusCandCnoCdiabeticCretinopathy.CInvestCOphthalmolCVisSciC37:886-887,C19969)村上智昭:糖尿病と脈絡膜.臨眼C70:1868-1873,C201610)JoCY,CIkunoCY,CIwamotoCRCetal:ChoroidalCthicknessCchangesafterdiabetestype2andbloodpressurecontroleinahospitalizedsituation.ReinaC34:1190-1198,C201711)YazganCS,CArpaciCD,CCelikCHUCetal:MacularCchoroidalCthicknessCmayCbeCtheCearliestCdeterminerCtoCdetectCtheConsetCofCdiabeticCretinopathyCinCpatientsCwithCprediabeticCretinopathyCinCpatientsCwithprediabetes:ACprospectiveCandCcomparativeCstudy.CCurrCEyeCResC42:1039-1047,C201712)Cio.GA,GranstamE,AlmA:Ocularcirculation.Adler’sPhysiologyoftheEye.10thed,(KaufmanPL,AlmA,eds)C,p747-784,Mosby,StLous,200313)OkamotoCM,CMatsuuraCT,COgataN:E.ectsCofCpanretinalCphotocoagulationConCchoroidalCthicknessCandCchoroidalCbloodC.owinpatientswithseverenonproliferativediabet-icretinopathy.RetinaC36:805-811,C201614)OharaCZ,CTabuchiCH,CNakamuraCSCetal:ChangesCinCcho-roidalCthicknessCinCpatientsCwithCdiabeticCretinopathy.CIntCOphthalmolC38:279-286,C2018***

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):97.101,2019c糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術佐藤孝樹河本良輔福本雅格小林崇俊喜田照代池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CVitreousSurgeryforDiabeticMacularEdemaTakakiSato,RyousukeKoumoto,MasanoriFukumoto,TakatoshiKobayashi,TeruyoKidaandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)における糖尿病黄斑浮腫(DME)の硝子体手術(PPV)成績について,術前のChyperre.ectivefoci(以下,foci)の有無で検討した.対象および方法:当科においてCDMEに対して初回PPVを施行しC3カ月以上経過観察可能であったC23例C28眼を後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7歳.術前の外境界膜(ELM)周囲にCfociのある群C15眼(+)群と,ない群C13眼(C.)群のC2群に分けて,術前,術C1カ月後,術C3カ月後における,視力,網膜厚を比較検討した.結果:全症例において,網膜厚,視力ともに術前に比べて,術C1カ月後,術C3カ月後で有意に改善した.術前において(-)群は(+)群より有意に視力良好であったが,術前と比較して術C3カ月後には両群とも有意に視力が改善していた.結論:Fociの有無に関係なく,DMEに対するCPPVでは術C3カ月後には視力および網膜厚は有意に改善した.Fociを認める場合でも,視力は不良であるが,PPVは視力改善に有効であることが示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcorrelationCbetweenCparsplanaCvitrectomy(PPV)outcomeCandCpreoperativeChyperre.ectivefoci(foci)inpatientswhounderwentPPVfordiabeticmacularedema(DME)C.Method:Weretro-spectivelyreviewed28eyesof23patients(11males,12females)whohadundergoneinitialPPVforDMEatOsa-kaCMedicalCCollegeCHospitalCduringCaCperiodCexceedingC3months.CAverageCageCwasC63.7years;15eyesChadCfociaroundexternallimitingmembrane(ELM)beforesurgery((+)group)C,and13didnot((-)group)C.Forthesetwogroups,CvisualCacuityCandCfovealCthicknessCwereCcomparedCbeforeCandCafterCsurgery.CResults:InCallCcases,CfovealCthicknessCandCvisualCacuityCimprovedCsigni.cantlyCinC1monthCandC3months,CcomparedCtoCbaseline.CThereCwasCaCsigni.cantCdi.erenceCinCbaselineCvisualCacuityCbetweenCtheC2groups.CVisualCacuityCwasCsigni.cantlyCimprovedCinCbothgroupsafter3monthspostoperatively,comparedtobaseline.Conclusions:Regardlessofpresence/absenceoffoci,CvisualCacuityCandCretinalCthicknessCwereCsigni.cantlyCimprovedCatC3monthsCpostoperativelyCforCDME.CWhenCfociexistaroundELM,althoughthevisualacuityispoor,itissuggestedthatPPVise.ectiveforrestoringvisualacuityinDMEpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):97.101,2019〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,hyperre.ectivefoci,硝子体手術.diabeticmacularedema,hyperre.ectivefoci,parsplanavitrectomy.Cはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射が行われることが主流となっているが,反応不能例などに対しては硝子体手術が適応となる.また,治療の効果判定として,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が使用されることが多い.現在,OCT所見としてChyperre.ectivefoci(以下,foci)と視力予後の関連が注目されている.fociは硬性白斑(hardexudate:HE)の前駆体としての可能性が考えられており1),DMEの硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)後,中心窩にCHEが集積する症例を時に経験する.今回,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)におけるCDMEに対するPPV成績と術前のCfociの関与について検討した.〔別刷請求先〕佐藤孝樹:〒569-8686高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakakiSato,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC図1Foci群代表症例全層にCfociを認め,外境界膜(ELM)周囲にCfociを認める(.).表1患者背景foci(+)群(C15眼)foci(C.)群(C13眼)年齢C64.1±7.7歳C63.2±7.8歳男女比8:77:6浮腫の形態びまん13眼5眼.胞状2眼8眼網膜.離あり1眼3眼白内障手術併用6眼9眼手術時CTA併用硝子体注射7眼STTA1眼硝子体注射3眼ERMあり3眼3眼CPVD不完全4眼5眼なし7眼5眼完全1眼0眼I対象および方法当科において,2014年C1月.2016年C12月に,DMEに対して,初回CPPVを施行し,3カ月以上経過観察が可能であった,23例C28眼について後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7C±7.6歳.3カ月以内に抗CVEGF薬(アフリベルセプト,ラニビズマブ)硝子体注射やトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)Tenon.下注射(subTenonTA:STTA),網膜光凝固など他の治療を施行されたものを除外した.PPVはシャンデリア照明併用4ポートC25CGシステムで施行.有水晶体眼(14例C15眼)には白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を併用した.術前の外境界膜(externalClimitingCmem-brane:ELM)周囲にCfociのある群C15眼〔foci(+)群〕(図1)と,ない群C13眼〔foci(C.)群〕のC2群に分けて,術前,術C1カ月,術C3カ月におけるClogMAR視力および網膜厚を比較検討した.p<0.05を有意な変化とした.CII結果全症例におけるClogMAR視力の平均値は,術前C0.744C±0.350,1カ月後C0.635C±0.339,3カ月後C0.572C±0.363で,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p<0.001)ともに有意に視力改善を認めた.網膜厚は術前C607C±220μm,1カ月後C441C±174μm,3カ月後C462C±159μmで,1カ月後(p=0.002),3カ月後(p=0.002)とも術前と比較して有意に減少していた.症例の詳細を表1に示す.foci(+)群は,黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)を認めたものがC3眼,後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)を認めたものがC1眼,PVD未.離がC7眼,PVD不完全なものがC4眼.白内障手術併用がC6眼,PPV時にCTA併用したものがC8眼(うち硝子体注射C7眼,Tenon.下注射C1眼)であった.一方,foci(C.)群は,ERMを認めたものが3眼,PVD未.離がC5眼,PVD不完全なものがC5眼.白内障手術併用がC9眼,PPV終了時にCTA併用したものがC3眼(いずれも硝子体注射)であった.術後にCHEが黄斑に集積した症例は認めなかった.foci(+)群とCfoci(C.)群の比較では,logMAR視力においてCfoci(+)群は術前C0.932C±0.340,1カ月後C0.777C±0.374,3カ月後C0.745C±0.401と,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p=0.018)で有意に視力改善がみられた.foci(C.)群は術前C0.527C±0.218,1カ月後C0.470C±0.203,3カ月後C0.372C±0.169で,術前と比較してC1カ月後(p=0.20)では有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.008)には有意に視力改善がみられた(図2).術前のC2群間の比較において,foci(C.)群はCfoci(+)群より有意(p<0.05)に視力良好であった(図3).網膜厚は,foci(+)群は術前C614C±259Cμm,1カ月後C405C±175Cμm,3カ月後C475C±173Cμmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.004)には有意に網膜厚の減少を認めたが,3カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかった.foci(C.)群は術前C599C±175μm,1カ月後C483C±170μm,3カ月後C453C±146μmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.04)には有意に網膜厚の減少を認めた(図4).2群間で術前の網膜厚に有意差(p>0.05)は認めなかった.また,術終了時にCTAを併用した症例は,foci(+)群で硝子体注射C7眼,STTA1眼,foci(C.)群で硝子体注射C3眼であった.視力は,TA(+)群は,術前C0.757C±0.324,1カ月後C0.626C±0.318,3カ月後C0.589C±0.341,TA(C.)群は,術前C0.768C±0.401,1カ月後C0.653C±0.399,3カ月後C0.603C±0.416と両群とも術前と比較して,1カ月後,3カ月後ともに有意に視力の改善を認めた.網膜厚は,TA(+)群は,C1.4*1.211.510.50-0.5-1術前1カ月後p値3カ月後p値foci(+)0.9310.777<0.0010.7450.018foci(-)0.5270.470.200.3730.008全体0.7440.635<0.0010.572<0.001900800700foci(-)-0.4-0.60foci(+)foci(-)0.8logMAR視力6000.65000.44000.23000200-0.2100(Studentt-test)図3術前2群比較2群間において術前視力に有意差を認めるが,網膜厚に有意差は認めなかった.C9001,000900800図4網膜厚図5TAの有無による網膜厚全症例において,網膜厚は術前に比べて,1カ月後,3カ月後とTA(+)群の術C1カ月後,TA(C.)群の術C3カ月後において,有意に減少を認め,foci(+)群の術C1カ月後,foci(C.)群の術C3術前より有意に網膜厚の減少を認めた.カ月後において術前より有意に網膜厚の減少を認めた.網膜厚(μm)800700網膜厚(μm)700600600500500400300術前foci(+)614foci(-)599全体6071カ月後p値4050.0044830.114410.024003カ月後p値3004750.11術前4530.04TA(+)7014620.02TA(-)5051カ月後p値4320.014390.223カ月後p値5050.124100.07術前C701C±275Cμm,1カ月後C432C±152Cμm,3カ月後C505C±187μm,TA(C.)群は,術前C505C±130μm,1カ月後439C±205Cμm,3カ月後C410C±138Cμmと,TA(+)群のC1カ月後,TA(C.)群のC3カ月後において,術前より有意に網膜厚の減少を認めた(図5).CIII考按Fociは,OCTで描出される粒子状の病変である.Fociは,漏出した脂質や,蛋白質,炎症性細胞などから形成される物質であり,HEの前駆体といわれている2,3).Bolzらは,無治療の糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DMR)12例のOCT画像において,すべての症例で網膜全層にわたってfociを認め,fociはCDMEにおける早期のバリアの破綻によりリポ蛋白あるいは蛋白質が血管外漏出して析出したものではないかとしている1).Davoudiらは,238例の検討で,HEのある全症例でCfociを認めたが,fociを認める症例のうち57%のみにCHEを認めたとし,fociは総コレステロール値およびCLDLコレステロール値と高い相関を認めたとしている4).また,Ujiらは,網膜.離を伴わないCDMEにおいて,fociの外層への集積は視力低下に影響する因子であるとしている5).現在,DME治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射である.抗CVEGF薬硝子体注射とCfociの関係について,Frammeらは,51例の検討で,すべてのCDME症例にCfociを認め,抗CVEGF薬治療で全症例においてCfociは減少し,治療前のfoci量はCHbA1c値と正の相関を示したとしている6).また,Kangらは,97眼の検討で,抗CVEGF薬治療後にCfociは減少を認め,多変量回帰分析において,.胞状およびびまん性浮腫群では治療前視力および外層のCfoci量と最終視力に,漿液性網膜.離群では内層および外層のCfoci量と最終視力に相関があったとしている.つまり,治療前の外層のCfoci量によって最終視力が推察できるのではないかとしている7).しかし,ERMや,PVD未.離など網膜硝子体界面の異常を認める場合は,抗CVEGF薬の効果が不十分となることがある.Ophirらは,PPVを必要としたCDMEについて後ろ向き研究を行い,PVDが不完全な症例がC44眼中C23眼(52.2%),そのうちC20眼(87.0%)にCERMを認めたとしている8).本検討において,PVDを完全に認め,網膜硝子体界面の異常を認めなかった症例はC1例のみで,ERMがC6眼〔foci(+)群C3眼,foci(C.)群C3眼〕,PVD未.離がC12眼〔foci(+)群C7眼,foci(C.)群C5眼〕,PVD不完全がC9眼〔foci(+)群4眼,foci(C.)群C5眼〕だった.また,Kaiserらは,網膜硝子体界面の異常を認めるCDMEについての検討で,9眼のうちC8眼で網膜下液を認め,牽引により網膜下液を生じやすいのではないかとしている9).本検討においては,28眼中C4眼〔foci(+)群C1眼,foci(C.)群C3眼〕のみで網膜下液を認め,網膜硝子体界面異常症例のなかでも牽引の強いものにのみ網膜下液を認めた.Nishijimaらは,DMEに対するCPPV症例について,外層のCfociの有無で比較検討を行ったところ,視力は術前に有意差がなく,3カ月後,6カ月後でCfoci(C.)群では有意に改善がみられるものの,foci(+)群では改善がみられなかったとしている.また,網膜厚は全期間においてC2群間に有意差がなかったとしている10).今回の筆者らの検討では,術前よりCfociの有無で視力に有意差を認めており,foci(+)群で有意に視力不良であった.経過については,foci(+)群ではC1カ月後,3カ月後に有意に視力の改善がみられ,網膜厚はC1カ月後には有意に改善しているものの,3カ月後には有意差はなくなり増悪傾向を認めた.foci(C.)群においては術前と比較して,1カ月後に視力および網膜厚に有意差を認めず,3カ月後には視力および網膜厚ともに有意に改善を認めた.foci(+)群のほうが手術が有効であるかのような結果となった理由としては,PPV終了時にCTA併用された症例がCfoci(+)群に多かったことがあげられる.そのため,foci(+)群のほうが速やかに術後浮腫および視力が改善したと考えられる.しかし,foci(+)群において,網膜厚はC3カ月後において有意差はなくなり増悪傾向を認めた.それは,術C3カ月経過しCTAの効果が減弱したため浮腫が悪化したことによると考えられる.Nishijimaらの報告においては,術終了時には全例CSTTAが施行され,3カ月以降にも追加薬物療法が行われている.今回,TA(+)症例で,3カ月後に浮腫の悪化傾向を認めるものの視力は維持されており,浮腫も早期改善することから,PPV時にCTA併用することは有用であると考えられた.6カ月後,1年後の長期経過について検討を行いたかったが,経過良好例ついては転院により情報が乏しく,今回は検討が不可能であった.以上をまとめると,今回の検討では,foci(+)群の術前視力が有意に悪い状態であったことから,PPVに踏み切るタイミングが少し遅かった可能性が考えられる.DMEに対する治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射であるが,fociの外層への沈着は視力予後不良の因子と考えられるため,抗VEGF薬の反応不良例は速やかにCPPVを検討してもよいのではないかと考えられた.また,fociの有無に関係なくPPVにより視力の改善がみられたことから,とくに網膜硝子体界面の異常を認める症例はCPPVのよい適応であると考えられ,術終了時のCTA投与は早期浮腫改善のために有用であると思われた.本要旨は,第C23回日本糖尿病眼学会で報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BolzCM,CSchmidt-ErfurthCU,CDeakCGCetal;DiabeticCReti-nopathyCResearchCGroupVienna:OpticalCcoherenceCtomo-graphicChyperre.ectivefoci:aCmorphologicCsignCofClipidCextravasationCinCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC116:914-920,C20092)DeBenedettoU,SacconiR,PierroLetal:Opticalcoher-enceCtomographicChyperre.ectiveCfociCinCearlyCstagesCofCdiabeticretinopathy.RetinaC35:449-453,C20153)CusickCM,CChewCEY,CChanCCCCetal:HistopathologyCandCregressionofretinalhardexudatesindiabeticretinopathyafterreductionofelevatedserumlipidlevels.Ophthalmol-ogyC110:2126-2133,C20034)DavoudiCS,CPapavasileiouCE,CRoohipoorCRCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCcharacteristicsCofCmacularCedemaCandhardexudatesandtheirassociationwithlipidserumlevelsintype2diabetes.RetinaC36:1622-1629,C20165)UjiA,MurakamiT,NishijimaKetal:Associationbetweenhyperre.ectiveCfociCinCtheCouterCretina,CstatusCofCphotore-ceptorlayer,andvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmolC153:710-717,C20126)FrammeCC,CSchweizerCP,CImeschCMCetal:BehaviorCofCSD-OCT-detectedChyperre.ectiveCfociCinCtheCretinaCofCanti-VEGF-treatedpatientswithdiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSciC53:5814-5818,C20127)KangCJW,CChungCH,CChanCKimH:CorrelationCofCopticalCcoherenceCtomographicChyperre.ectiveCfociCwithCvisualCoutcomesindi.erentpatternsofdiabeticmacularedema.RetinaC36:1630-1639,C20168)OphirA,MartinezMR:Epiretinalmembranesandincom-pleteCposteriorCvitreousCdetachmentCinCdiabeticCmacularCedema,CdetectedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:6414-6420,C20119)KaiserPK,RiemannCD,SearsJEetal:MaculartractiondetachmentCandCdiabeticCmacularCedemaCassociatedCwithCposteriorhyaloidaltraction.AmJOphthalmolC131:44-49,C200110)NishijimaCK,CMurakamiCT,CHirashimaCTCetal:Hyperre-.ectiveCfociCinCouterCretinaCpredictiveCofCphotoreceptorCdamageandpoorvisionaftervitrectomyfordiabeticmac-ularedema.RetinaC34:732-740,C2014***