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糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の長期成績

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):92.96,2019c糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の長期成績三原理恵子*1村松大弐*2若林美宏*2三浦雅博*1塚原林太郎*1馬詰和比古*2八木浩倫*2阿川毅*1真島麻子*2志村雅彦*3後藤浩*2*1東京医科大学茨城医療センター眼科*2東京医科大学病院臨床医学系眼科学分野*3東京医科大学八王子医療センター眼科IntravitrealInjectionofA.iberceptforDiabeticMacularEdema:Long-termE.ectinJapanesePatientsRiekoMihara1),DaisukeMuramatsu2),YoshihiroWakabayashi2),MasahiroMiura1),RintaroTsukahara1),KazuhikoUmazume2),HiromichiYagi2),TsuyoshiAgawa1),AsakoMashima2),MasahikoShimura3)andHiroshiGoto2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityIbarakiMedicalCenter,2)DepartmentofOpthalmology,TokyoMedicalUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するアフリベルセプト硝子体注射(IVA)の効果を検討する.対象および方法:DMEにCIVAを施行し,18カ月以上観察が可能であったC14眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回CIVA後C6,12,18カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療の有無と種類について検討した.結果:平均観察期間はC24.8カ月であった.治療前視力の平均ClogMAR値はC0.51で,治療C6カ月でC0.26,12,18カ月後には,それぞれC0.27,0.25で全期間で有意な改善を示した(p<0.05).治療前の網膜厚はC526Cμmで,治療C6,12,18カ月後にはC367,336,363μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.05).6カ月までのCIVA回数は,平均C2.9回であり,12,18カ月後には,3.5回,4.1回であった.経過中に光凝固をC5眼に,ステロイド局所投与をC8眼に併用した.また,ラニビズマブ硝子体注射へ切り替えた症例がC2眼あった.結論:DMEに対してCIVAを第一選択として治療を行った場合,適切な追加治療を施行することで,IVAの注射回数を少なくしながら,大規模研究と遜色ない長期の視機能予後を得られる可能性がある.CPurpose:Toanalyzethelong-terme.cacyofintravitrealinjectionofa.ibercept(IVA)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME)C.Casesandmethods:Thiswasaretrospectivecaseseriesstudyinvolving14eyesof12patientswithDMEwhoreceivedIVA(0.5mg)C.Caseswerefollowedfor18monthsorlonger.BestC-cor-rectedCvisualacuity(BCVA;logMAR)andCcentralCretinalthickness(CRT)wereCtheCmainCoutcomes.CResults:CThemeanfollow-upperiodwas24.8months.BaselineBCVAandCRTwere0.51and526Cμm,respectively.At6months,CtheCmeanCBCVAChadCsigni.cantlyCimprovedCtoC0.26,CandCtheCmeanCCRTChadCsigni.cantlyCdecreasedCtoC367Cμm,CcomparedCwithCtheCbaselinevalues(p<0.05)C.At12monthsCandC18months,CBCVAChadCsigni.cantlyCimprovedto0.27(p<0.05)and0.25(p<0.05)C,respectively;CRThaddecreasedto336Cμm(p<0.05)and363Cμm(p<0.05)C,respectively.TheaveragenumberofIVAwas4.1times.Amongallcases,5eyeswerealsotreatedwithphotocoagulation;8eyeswerealsotreatedwithlocalsteroids.Twoeyeswereswitchedtoranibizumabtreatment.Conclusion:IVACcombinedCwithCappropriateCadditionalCtreatmentsCareCexpectedCtoCbeCe.ectiveCasCaC.rst-choiceCtreatmentforDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):92.96,2019〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,アフリベルセプト,抗CVEGF,光凝固,トリアムシノロンアセニド.diabeticmacu-laredema,a.ibercept,anti-VEGF,photocoagulation,triamcinoloneacetonide.C〔別刷請求先〕三原理恵子:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央C3-20-1東京医科大学茨城医療センター眼科Reprintrequests:RiekoMihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityIbarakiMedicalCenter,3-20-1AmimachichuouInashikigunIbaraki300-0395,JAPANC92(92)はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,過去に格子状光凝固,ステロイド局所投与,硝子体手術などが施行されてきたものの,満足できる成績は得られなかった.近年CDMEの病態に血管内皮増殖因子(vascu-larCendothelialCgrowthfactor:VEGF)が関与していることが判明し,またCVEGF阻害薬が保険適用を受けて以来,抗VEGF療法がCDME治療の主体となりつつある1.7).VEGF阻害薬の一つであり,膜融合蛋白であるアフリベルセプトのCDMEに対する治療効果は,大規模研究であるDaVincistudyやCVIVID/VISTAstudyにより格子状光凝固に対する視機能予後の優位性が証明されている4.7).しかし,これらの大規模研究では,視力や浮腫に厳格な組み入れ基準があり,また,ほぼ毎月アフリベルセプトのみが投与されるなど,実臨床とはかけ離れた診療結果であるため,臨床にそのまま適用されることは少ない.わが国ではC2014年C11月よりアフリベルセプトがCDME治療に保険適用を受け,広く使用されるようになってきた.本研究は抗CVEGF療法をアフリベルセプトの硝子体注射で開始したCDME症例のうち,18カ月以上の観察が可能であった症例の治療成績を検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2014年C12月.2015年C11月に,東京医科大学病た,蛍光眼底造影で無灌流域や毛細血管瘤を認めた症例には光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を併用した.全C14眼のうちC7眼については治療開始からC1カ月ごとにC2.3回の注射を行うCIVA導入療法を施行し,その後はCPRN投与を行った.残りのC7眼はC1回注射の後にCPRN投与を行った.検討項目は,IVA前,およびCIVA後C6,12,18カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力と光干渉断層計C3D-OCT2000(トプコン)もしくはCCirrusHD-OCT(CarlCZeissMeditech)を用いて計測したCCRTとし,さらに再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録をもとに後ろ向きに調査した.CII結果全C14眼の平均観察期間はC24.8C±2.7カ月(20.29カ月)であった.全症例における治療前の平均CCRTはC526.6C±143.7μmであったのに対し,IVA後C6カ月の時点ではC367.7C±105.1Cμmと有意に減少していた.さらにC12カ月の時点でC336.8±147.9Cμm,18カ月ではC363.9C±133.3Cμm,最終来院時ではC372.5C±142.1Cμmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.05,pairedt-検定)(図1).全症例における治療前の視力のClogMAR値の平均はC0.51C±0.32であった.視力はCIVA後C6カ月でC0.26C±0.25と有意に改善した.その後C12,18カ月ではC0.27C±0.21,0.25C±0.25,最終来院の時点でもC0.26C±0.25と,それぞれ治療前と比較院ならびに東京医科大学茨城医療センター眼科において,抗VEGF療法を行ったことのないCDMEに対し,アフリベルセプトC2Cmg/0.05Cmlの硝子体注射(intravitrealCinjectionCofa.ibercept:IVA)で治療を開始し,18カ月以上の観察が可能であったC12例C14眼(男性C7例,女性C5例)である.治療時の年齢分布はC34.78歳,平均(C±標準偏差)はC57.3C±10.8歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による浮腫のタイプは網膜膨化型がC12眼(86%),.胞様浮腫がC6眼(43%),漿液性網膜.離がC5眼(36%)であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.症例の内訳は,まったくの無治療がC8眼,抗VEGF療法以外の治療がすでに行われていたのは6眼であり,網膜光凝固がC6眼,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-TenonCinjectionCofCtriamcinoronacetonide:STTA)がC1眼であった(同一症例の重複治療例あり).抗VEGF療法開始後は毎月視力測定,OCT検査を行い,必要に応じた治療(prorenata:PRN)を行った.再投与基準は,浮腫残存,2段階以上の視力低下,もしくはC20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合とし,原則としてCIVAを行った.浮腫の悪化があってもCIVAに同意されなかった場合や,IVA後の浮腫改善が不十分な場合はCSTTAを施行した.ま-して有意な改善を示していた(p<0.05,CpairedCt検定)(図2).大規模研究の解析方法に合わせ,治療前後でClogMAR(0.2)以上視力が変化した場合を改善あるいは悪化と定義すると,治療前と比較してCIVA後C6カ月の時点で改善例はC7眼(50%),不変例はC7眼(50%),悪化例はC0眼(0%),12カ月の時点で改善例はC8眼(57%),不変例はC6眼(43%),悪化例はC0眼(0%),18カ月の時点で改善例はC7眼(50%),不変例はC7眼(50%),悪化例はC0眼(0%)であり,経時的に視力改善例が増加していた(図3).治療前の小数視力がC0.5以上を示した症例はC3眼(21%)存在したが,IVA後C6カ月では10眼(71%),12カ月で10眼(71%),18カ月後で11眼(78%)と,視力良好例の占める割合も増加していた(各々Cp<0.05,Cc2検定)(表1).経過観察期間中にC13眼は追加治療を要した.初回の注射施行後,最初に黄斑浮腫が再発するまでの期間は平均C4.4C±2.9カ月で,中央値はC4カ月であった.また,再注射後もC12眼(86%)がC2回目の再発をきたした.2回目の再発までの期間は平均C4.5C±2.8カ月で,中央値はC3カ月であった.1眼のみ,IVA注射後に軽度の浮腫がいったん再発するも自然軽快し,視力も安定していたため再治療を要さなかった.初回治療後C6カ月までの平均CIVA投与回数はC2.9C±1.3回,6000.25505000.3CRT(μm)logMAR4500.44000.53503000.6250治療前6カ月12カ月18カ月最終時図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚(CRT)を示す.注射C6カ月で網膜厚は大きく減少し,その後も全期間で治療前と比較して減少している.*p<0.05.%60504030201006カ月後12カ月後18カ月後■改善■不変■悪化図32段階以上の視力変化12カ月までではC3.5C±1.8回,18カ月までではC4.1C±2.3回であった.また,全経過観察期間中に,黄斑浮腫の改善目的や網膜無灌流領域に対し光凝固を併用した症例はC5眼(35%)で,局所光凝固C2眼,毛細血管瘤の直接光凝固C4眼,格子状光凝固C2眼となっている.黄斑浮腫の改善目的にCSTTAを併用した症例はC7眼(20%),トリアムシノロン硝子体注射(intravitrealCinjectionCofCtriamcinoloneacetonide:IVTA)をC1眼(7%)に併用,ラニビズマブC0.5Cmg/0.05Cml硝子体注射(intravitrealCinjectionCofranibizumab:IVR)に切り替えた症例がC2眼(14%)存在し,IVA単独のみで治療を続けた例はC5眼(35%)であった.追加治療を行ったC13眼を,光凝固やCSTTAを併用した群(併用療法群:n=9)と,IVA単独で治療した群(単独群:n=4)に分類し,IVAの回数や視力改善度についてサブグループ解析を行った.併用療法群では追加治療として,当初の6カ月目まではCSTTAあるいはCIVTAを使用していなかっ6カ月12カ月18カ月図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のClogMAR値を示す.注射C6カ月で視力は上昇し,その後も全期間で治療前と比較して有意に改善した.*p<0.05表1治療前後の各時点における小数視力0.5以上が占める割合治療前21%6カ月後71%*12カ月後71%*18カ月後78%**p<0.05たが,7.12カ月ではC50%の症例で,さらにはC13.18カ月ではC36%での症例で併用療法が行われていた.初回治療後6カ月での平均CIVA回数は併用療法群ではC3.2C±1.0回であった.12カ月まででC3.7C±1.5回,18カ月までではC3.7C±1.9回であった.一方,単独群では初回治療後C6カ月での平均IVA回数はC2.2C±1.9回,12カ月においてはC3.3C±2.6回,18カ月ではC6.0回C±2.5回(p=0.08)と経時的に投与回数が増加し,最終観察時までのCIVA回数は単独群ではC7.0回C±2.3回であり,併用療法群のC3.9C±2.1回と比較して有意な差を認めた(p<0.05,Cunpairedt-検定).なお,視力の改善度に関しては,18カ月,最終観察時において両群間に差は認めなかった.CIII考按DMEに対するアフリベルセプト療法の第CIII相無作為試験は,日本,欧州,オーストラリアで行われたCVIVID試験と,米国で行われたCVISTA試験のC2年間の経過が報告されている6).VIVID/VISTACstudyはアフリベルセプトC2Cmgの用量で,投与レジメンとして毎月投与する群と,5回連続注射の後にC2カ月ごと固定投与群,レーザー光凝固単独群の3群に割り付け,アフリベルセプト治療のレーザー光凝固に対する有意性を証明したのであるが,アフリベルセプト毎月投与群での改善文字数は,2年間でCVIVID試験でC22.4回注(94)射してC11.4文字,VISTA試験ではC21.3回注射してC13.5文字であった.一方,アフリベルセプトC2カ月ごとの投与群ではCVIVID試験ではC13.6回注射してC9.4文字,VISTA試験ではC13.5回注射してC11.1文字の視力改善であった.今回の対象となったC14眼のうち,50%にあたるC7眼では導入期治療として,IVAをC2.3回毎月連続投与を行い,その後は毎月観察を行って悪化(再発)時にCIVA再投与を行うPRNで治療を行い,残りのC7眼ではC1回の注射の後にCPRNとしていた.その結果,全症例ではC6カ月間で平均C2.9回,12カ月間に平均C3.5回,18カ月までに平均C4.1回,最終来院時までにC4.5回の注射を行っていた.全症例における検討では,アフリベルセプト治療の開始直後から網膜浮腫は減少し,全経過観察期間中において治療前よりも有意な浮腫の減少が得られており,視力に関しても治療前と比較して全期間で有意な向上が得られていた.視力のデータをCETDRSの文字数に換算すると,18カ月でC13.2文字,最終来院時においてC12.6文字の改善が得られた結果となり,大規模研究よりも少ない注射回数で同等以上の改善が得られていた.本研究において,大規模研究と比較して圧倒的に少ない注射回数にもかかわらず,大規模研究以上の視力改善効果を得られた理由は,追加治療としてCIVAのみならず適宜CSTTAやCIVTA,光凝固を使用して追加,維持療法を行っていたことがあげられる.糖尿病網膜症やDMEの病態進展にはVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている8.12).また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をCSTTAによって抑制可能とする報告もあるので13),本研究におけるステロイドの併用がCVEGF以外の浮腫を惹起する因子を抑制した可能性もある.本研究の対象となった全症例を,IVA単独で治療した群と,途中からステロイドなどの併用療法を行った群に分類しサブグループ解析を行った結果,両群間で視力の改善度には統計学的な差は認めなかったものの,注射回数に関しては,IVA単独群はC18カ月で平均C6.0回,最終時までに平均C7.0回のCIVAが必要であったが,併用群においてはC18カ月で平均C3.7回,最終時までに平均C3.9回であり,併用群で有意にIVA回数が少なかった.また,本研究においては,導入期や治療開始早期,半年からC1年目程度まではおもにCIVAで追加治療が行われ,後期になるとCIVA追加を希望されずにステロイドでの代替治療を行った例が多かったが,このレジメンが少ない注射回数での良好な成績につながった可能性もある.すなわち,糖尿病網膜症の病期によって浮腫の原因となる因子が変化していた可能性があり,早期に抗CVEGF治療を行い,慢性期に入る時期には抗炎症治療に切り替えたことが良好な成績に関与していたと考えられる.さらに良好な成績につながった第二の理由として,本研究で積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用したため,網膜症そのものへの進行抑制が影響をきたしていた可能性があげられる.わが国では一般的に毛細血管瘤に対する直接光凝固や,targetedCretinalphotocoagulation(TRP)とも称される14)部分的な無灌流域に対する選択的光凝固が行われるが,米国における光凝固は後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であるため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.また,近年では眼底に凝固斑が出現しない,より低侵襲な光凝固による良好な治療成績も報告されており15),今後はこのような新しい低侵襲光凝固をアフリベルセプトと併用することにより,黄斑浮腫への治療効果もよりいっそう向上していくかもしれない.今回の実臨床によるCDME患者に対するアフリベルセプトを第一選択とした治療は,経過中にステロイドの局所投与や局所光凝固を適宜追加することで,中.長期的にも有効な結果を得られたといえる.しかしながら,症例数は十分とは言い難く,糖尿病以外の全身的な要因の考察もされていないため,当院での治療法が無条件で肯定されたというわけではない.今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であるものの,DMEの治療については,抗CVEGF療法のみならず他の治療法を適宜組み合わせることで,個別化治療による視機能予後の最適化をめざすべきと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマズ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科C33:111-114,C20162)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,C20133)石田琴弓,加藤亜紀,太田聡ほか:難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績.あたらしい眼科34:264-267,C20174)真島麻子,村松大弐,若林美宏ほか:糖尿病黄班浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射のC6カ月治療成績.眼臨紀10:755-759,C20175)DoCDV,CSchmidt-ErfurthCU,CGonzalezCVHCetal:TheCDACVINCIStudy:phaseC2primaryCresultsCofCVEGFCTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmol-ogyC118:1819-1826,C20116)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC121:2247-2254,C20147)BrownDM,Schmidt-ErfurthU,DoDVetal:Intravitreala.iberceptfordiabeticmacularedema:100-weekresultsfromtheCVISTACandCVIVIDCStudies.OphthalmologyC122:C2044-2052,C2015C8)WakabayashiCY,CUsuiCY,COkunukiCYCetal:IncreasesCofCvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsCinCpatientsCwithCconcurrentChypertensionCandCdia-beticretinopathy.RetinaC31:1951-1957,C20119)WakabayashiCY,CKimuraCK,CMuramatsuCDCetal:AxialClengthCasCaCfactorCassociatedCwithCvisualCoutcomeCafterCvitrectomyfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSciC54:6834-6840,C201310)MuramatsuCD,CWakabayashiCY,CUsuiCYCetal:CorrelationCofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesCinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:15-17,C201311)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:AqueoushumorlevelsCofCcytokinesCareCrelatedCtoCvitreousClevelsCandCpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmolC243:3-8,C200512)AdamisCAP,CMillerCJW,CBernalCMTCetal:IncreasedCvas-cularCendothelialCgrowthCfactorClevelsCinCtheCvitreousCofCeyesCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-thalmolC118:445-450,C199413)ShimuraCM,CYasudaCK,CShionoT:PosteriorCsub-Tenon’sCcapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalCphotocoagulation-inducedCvisualCdysfunctionCinCpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.OphthalmologyC113:381-387,C200614)TakamuraY,TomomatsuT,MatumuraTetal:Thee.ectofCphotocoagulationCinCischemicCareasCtoCpreventCrecur-renceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevaci-zumabinjection.InvestOphthalmolVisSciC55:4741-4746,C201415)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌C116:568-574,C2012C***

眼科医・内科医における糖尿病眼手帳に対する 意識調査結果の年次推移の比較から見えてきたもの

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):87.91,2019c眼科医・内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査結果の年次推移の比較から見えてきたもの大野敦粟根尚子赤岡寛晃梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科ComparisonofAnnualTrendofSurveyonConsciousnessRegardingDiabeticEyeNotebookforOphthalmologistsandInternistsAtsushiOhno,NaokoAwane,HiroakiAkaoka,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的・方法:東京都多摩地域の眼科医と内科医における『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)に対する意識調査の年次推移を報告してきたが,両者の共通項目を比較し,眼手帳に対する意識の差が生まれてきた背景を考察した.結果:眼科医では,眼手帳を渡すことと内科医が渡すことへの抵抗は減少し,より早期に渡すようになり,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.一方内科医では,眼手帳の認知度・活用度が有意に低下し,眼手帳が渡されるべき範囲が狭まっていた.その背景として,2009年までは内科医は『糖尿病健康手帳』を用いており,眼科所見欄がなかったことより眼手帳の有用性は高かった.一方2010年に糖尿病連携手帳が登場し眼底検査の記載欄が設けられたことで,糖尿病網膜症が出現するまでは眼手帳は使わなくてもよいと考える内科医が増え,その結果眼手帳の認知度・活用度の低下につながった可能性がある.結論:眼科医への調査結果より,今後は糖尿病連携手帳との併用により,糖尿病患者の内科・眼科連携のさらなる推進が期待される.一方内科医への調査結果より,眼手帳の普及ならびに有効活用にはさらなる啓発活動が必要である.Purpose・Methods:WehavereportedonannualtrendsinsurveyofattitudestowardtheDiabeticEyeNote-book(EyeNotebook)forophthalmologistsandinternistsintheTamaarea,andhavecomparedtheitemscommontoboth,examiningthebackgroundofdi.erencesinconsciousnessregardingtheEyeNotebook.Results:Ophthal-mologistshavebeguntofeelthespreadoftheEyeNotebookastheresistancetohandovertotheEyeNotebookandtothephysicianhandeddownhasdecreasedandgaveitearlier.Meanwhile,amonginterniststhedegreeofrecognitionandutilizationoftheEyeNotebookdecreasedsigni.cantly,andthefrequencywithwhichtheEyeNotebookwasbeingpassedalongwasdiminishing.Asbackgroundforthis,in2009internistsusedthediabeteshealthnotebook,andtheusefulnessoftheEyeNotebookwashigherthanthatoftheophthalmologic.ndingcol-umn.Ontheotherhand,asthediabetescooperationnotebookappearedin2010andthedescriptioncolumnoffun-dusexaminationwasestablished,anincreasingnumberofinternistsfeltitunnecessarytousetheEyeNotebookuntildiabeticretinopathyappeared;thismayhaveledtoadeclineinawarenessandutilization.Conclusion:Basedontheophthalmologistresults,furthercooperationbetweenophthalmologistsandinternistsofdiabeticpatientsisexpectedthroughuseofthediabetescooperationnotebook.Theinternistresults,ontheotherhand,indicatefurtherneedforeducationalactivitiesthatencouragedisseminationande.ectiveutilizationoftheEyeNotebook.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(1):87.91,2019〕Keywords:眼科・内科連携,糖尿病眼手帳,糖尿病連携手帳,アンケート調査.cooperationbetweenophthal-mologistandinternist,DiabeticEyeNotebook,diabetescooperationnotebook,questionnairesurvey.〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANはじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つとなるのが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,1997年に設立した糖尿病治療多摩懇話会において,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し,地域での普及を図った1).また,この活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから16年が経過し,利用状況についての報告が散見され4.7),2005年には第2版,2014年には第3版に改訂された.眼手帳発行後,内科と眼科の連携がより緊密となり,眼科の通院中断率が現実に減少しているか否かの把握が今後の課題となるが,その前提として,発行された眼手帳に対する眼科医および内科医における意識の変化を調査することが重要と考え,多摩地域で経年的にアンケート調査を施行し,その年次推移を報告してきた8.10).本稿では両者の調査結果を比較することで見えてきた多摩地域の眼科医および内科医における眼手帳の実態と課題を検討した.I対象および方法多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医として,発行半年目96名(男性56名,女性24名,不明16名),2年目71名(男性43名,女性28名),7年目68名(男性38名,女性22名,不明8名),10年目54名(男性41名,女性13名),13年目50人(男性37人,女性8人,不明5人)に,内科医として,発行7年目122名(男性97名,女性9名,不明16名),10年目117名(男性101名,女性16名),13年目114名(男性74名,女性13名,不明27名)に協力をいただいた.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行ってきた.アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうがよいと判断し,実施してきた.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.アンケート項目は,眼科医用10項目,内科医用8項目で構成されているが,誌面の制約上,本稿では両アンケートの共通項目のうち,下記の5項目を取り上げた.1.眼手帳の利用状況,認知度・活用度2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感3.眼手帳が渡されるべき範囲4.眼手帳は眼科医が渡すべきか5.眼手帳の広まり上記の5項目に対するアンケート調査結果の推移について比較検討した.各回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳の利用状況,認知度・活用度(図1)眼科医における眼手帳の利用状況は,「積極的配布」と「時々配布」を合わせて,7,10年目は60%,13年目は70%を超えていたが,有意差は認めなかった.一方,内科医における眼手帳の認知度・活用度は,7年目に比べて10,13年目は有意に減少していた.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図2)眼科医における抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて,2,7年目は80%,10,13年目は90%を超え,5群間で有意差を認めた.内科医における眼科医が渡すことへの抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて各群90%を超え,3群間で有意差は認めなかった.3.眼手帳が渡されるべき範囲(図3)眼科医における眼手帳を渡したい範囲は,経年的に「全ての糖尿病患者」の比率が増加し,「網膜症が出現してきた患者」の比率は減少し,5群間に有意差を認めた.一方,内科医からみた眼手帳が渡されるべき範囲は,7,10年目に比べて13年目は,「全ての糖尿病患者」の比率が減少し,「網膜症が出現してきた患者」の比率は有意に増加していた.4.眼手帳は眼科医が渡すべきか(図4)眼科医では,眼手帳は眼科医が渡すべきとの回答が10,13年目に減り,内科医が渡してもよいとの回答が有意に増加していた.内科医では,眼手帳は眼科医から渡すべきとの回答が10年目に減り,内科医が渡してもかまわないとの回答が増加傾向を示した.5.眼手帳の広まり(図5)眼科医では,半年目.7年目までと比べて10年目,13年c2検定:p=0.41(未回答除く)c2検定:p<0.005(未回答除く)c2検定:p=0.1(未回答除く)■必要とは思うが配布していない■必要性を感じず配布していない眼手帳を今回はじめて知った■その他の配布状況2年目■積極的に配布している■時々配布している7年目10年目1名13年目■全くない■ほとんどない■多少ある■かなりある半年目2年目7年目10年目13年目2名c2検定:p<0.05(未回答除く)■活用中■未活用■研究会等で見聞きしたことはある知らなかったその他2年目7年目2名10年目13年目図1眼手帳の利用状況,認知度・活用度c2検定:p<0.05(未回答除く)■正直あまり渡したくない■その他■全ての糖尿病患者■網膜症が出現してきた患者半年目2年目7年目10年目7名13年目半年目2年目7年目10年目13年目c2検定:p=0.08(未回答除く)図2眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感c2検定:p<0.01(未回答除く)■全糖尿病患者■糖尿病網膜症の出現してきた患者半年目2年目7年目10年目13年目9名c2検定:p<0.05(未回答除く)■眼科医が渡すべき■内科医でもよい■どちらでもよい半年目2年目7年目10年目5名13年目図4眼手帳は眼科医が渡すべきか図3眼手帳が渡されるべき範囲c2検定:p=0.0001(未回答除く)■かなり広まっている■あまり広まっていないどちらともいえない半年目2年目7年目10年目7名13年目c2検定:p=0.66(未回答除く)■かなり広まっているあまり広まっていないどちらともいえない半年目2年目7年目10年目13年目8名図5眼手帳の広まり目は眼手帳がかなり広まっているとの回答が40%前後に有意に増加していた.一方,内科医で眼手帳がかなり広まっているとの回答は各群とも10%台にとどまり,あまり広まっていないと思うが過半数を超えていた.III考按多摩地域の眼科医における眼手帳に対する意識調査を発行半年.13年目に5回施行してその結果を比較したところ,眼手帳発行後13年の間に眼手帳を渡すことならびに内科医が渡すことへの抵抗は減少し,より早期に渡すようになり,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.一方,多摩地域の内科医における眼手帳に対する意識調査を発行7,10,13年目に施行しその結果を比較したところ,眼手帳の認知度・活用度が有意に低下し,内科医からみた眼手帳が渡されるべき範囲が狭まっていた.上記のように多摩地域の眼科医と内科医の間で,発行後13年の間に眼手帳に対する意識の差が生じている.そこでその背景について,考察してみた.内科医における眼手帳の認知度・活用度の低下,眼手帳が渡されるべき範囲が狭まった背景として,発行7年目の2009年は内科側からの情報提供手段としては「糖尿病健康手帳」を用いており,眼科所見を書くスペースがなかったことより,眼手帳の有用性は高かったと思われる.その後2010年に「糖尿病連携手帳(以下,連携手帳)」の初版が登場し,狭いながらも眼底検査の記載欄が設けられたことで,少なくとも糖尿病網膜症が出現するまでは連携手帳の眼底検査欄を利用し,眼手帳は使わなくてもよいのではないかと考える内科医が増え,その結果眼手帳の認知度・活用度の低下につながった可能性が考えられる.以上のことを踏まえると,連携手帳と眼手帳を両科の連携にいかに利用していくかが今後の課題であるが,連携手帳における眼科記入欄は,第2版までは「検査結果」の右上隅に2頁おきに記載する形式であったが,第3版では14,15頁に「眼科・歯科」の頁が新設され,時系列で4回分記入できるように改訂されている.すなわち,眼科受診の記録を時系列でみることのできる眼手帳の優位性が,連携手帳の改訂により崩されたことになる.そこで八王子市内の27眼科診療所に,連携手帳第3版への改訂後の眼手帳の位置付けに関するアンケート調査を施行した(回答率:81.5%).その結果,連携手帳第3版の持参患者に対する眼手帳の利用方針は,眼手帳の時系列での記載方式が連携手帳にも採用されたので網膜症が出現してから渡したいとの回答よりも,眼科の記入項目が少ないのですべての糖尿病患者に眼手帳を渡したいとの回答がほぼ2倍でもっとも多かった11).以上の結果より,眼手帳20頁からの情報提供による教育効果への期待を含めて,今後も両手帳の併用を積極的に勧めていきたい.まとめ眼科医の眼手帳に対する意識調査の年次推移の結果より,今後は連携手帳との併用により,糖尿病患者の内科・眼科連携のさらなる推進が期待される.一方,内科医の眼手帳に対する意識調査の年次推移の結果より,眼手帳の普及ならびに有効活用にはさらなる啓発活動が必要である.謝辞:アンケート調査に長年にわたりご協力いただきました多摩地域の眼科医ならびに内科医の方々に厚くお礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携―「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀5:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:患者説明からみる糖尿病スタッフのための最新眼科知識糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第2報).ProgMed34:1657-1663,20149)大野敦,粟根尚子,永田卓美ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行半年.13年目の推移─.糖尿病合併症29(Suppl-1):132,201510)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行7・10・13年目の比較─.プラクティス34:551-556,201711)大野敦:糖尿病患者の内科・眼科連携の進め方─糖尿病眼手帳・連携手帳の位置付け─.糖尿病合併症31:56-59,2017***

基礎研究コラム 20.血管形成のメカニズム

2019年1月31日 木曜日

図1CD157陽性血管内皮幹細胞による血管修復a:正常血管.太い動脈および静脈の一部にCCD157陽性血管内皮幹細胞(緑色)が存在する.Cb:血管障害時には,血管内皮幹細胞から新生血管が生じる.Cc:血管内皮幹細胞から生じた新生血管が,障害された血管を修復する.Cd:動静脈の間に存在する毛細血管が著しい虚血に至り脱落すると,毛細血管の正常な修復機転が働かず,血管内皮幹細胞が病的血管新生にも関与する可能性がある(現在検証中の仮説).血管形成のメカニズム眼科分野に多い血管病糖尿病網膜症や加齢黄斑変性,網膜静脈閉塞症など,眼科分野には血管の異常が関係する疾患(血管病)が数多くあります.血管病の病態形成に中心的な役割を果たす血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とした抗CVEGF療法の普及により,失明を回避できる症例が増えたことは眼科医療の大きな進歩といえます.しかし一方で,血管閉塞(虚血)を抑止して血管を維持したり,すでに虚血に至った領域の血管を再生させる方法は現時点でなく,このような新たな治療法の開発をめざすためには,血管がどのように形成されるのか,そのメカニズムを解明することが重要であると考えられます.血管形成の仕組み全身に張りめぐらされている血管は,血液を全身に運搬するとともに,さまざまな生理活性物質を産生して生命の維持に必須の役割を果たしています.血管は内腔を覆う血管内皮細胞と,その周囲を取り囲む壁細胞から構成されています.たとえば,皮膚の創傷治癒時や臓器の修復の際に生体内で血管が必要となった場合には,血管内皮細胞の増殖を刺激する血管新生促進因子が産生され,血管の修復(血管形成)が誘導されます.血管形成の過程は,既存血管を構成する血管内皮細胞が局所で分裂・増殖することより担われているという説(発芽的血管新生:angiogenesis)1)と,血液中に存在する血管内皮前駆細胞(endothelialCprogenitorcell:EPC)が血管内皮細胞に分化して血管の再構築に貢献する(脈管形成:vasculogenesis)という説2)の二つのコンセプトがこれまで提唱されてきました.しかし近年,EPCによる血管への貢献性は一過性であり,長期にわたって血管を構築しうる血管の幹細胞が存在するかは不明でした.a正常血管b血管内皮幹細胞の増殖(血管障害時)血管障害毛細血管血管内皮幹細胞幹細胞から生じた(CD157陽性)新生血管動脈静脈動脈静脈(75)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY若林卓大阪大学大学院医学系研究科眼科学血管幹細胞の発見筆者らは,血管の再生・維持において中心的な役割を果たす幹細胞が血管壁に存在している可能性があるという仮説を立て,血管幹細胞を探索する研究に取り組んできました.血管内皮細胞の網羅的遺伝子発現解析により,マウスにおいてCD157(bst1;bonemarrowstromalantigen1)を発現する特殊な血管内皮細胞が存在することがわかりました.CD157陽性の血管内皮細胞は,全身の太い血管の内腔に存在し,試験管内で大量に血管内皮細胞を作り出すことができます.また,生体内でも血管が障害された際には多数の毛細血管を作り出して血管を修復させる働きをもつ幹細胞であることが判明しました(図1)3).この血管内皮幹細胞をマウスの血管障害部位に移植すると,長期間にわたって血管を再生させられることもわかりました.今後の展望血管幹細胞の発見により血管形成の新たなメカニズムが解明されました.今後はヒトにおける血管幹細胞の同定や,ヒトの眼疾患と血管幹細胞との関連を解明することで,血管病の新たな病態解明や治療法開発を行うことが課題であると考えられます.文献1)RisauW:Mechanismsofangiogenesis.NatureC386:671-684,C19972)AsaharaCT,CMuroharaCT,CSullivanCACetal:IsolationCofCputativeprogenitorendothelialcellsforangiogenesis.Sci-enceC275:964-967,C19973)WakabayashiCT,CNaitoCH,CSuehiroCJICetal:CD157CmarksCtissue-residentCendothelialCstemCcellsCwithChomeostaticCandCregenerativeCproperties.CCellCStemCCellC22:384-397,C2018d病的新生血管虚血(毛細血管脱落)病的新生血管動脈静脈あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C75

硝子体手術のワンポイントアドバイス 188.バックルのmigration(初級編)

2019年1月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載188188バックルのmigration(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●バックルのmigrationとは輪状締結を赤道部より前方に施行した場合,術後にバックルが押し出される際に前方に向かうベクトルが生じる.これが慢性的に作用すると,直筋を浸食して筋付着部の前方にバックルが移動してくることがあり(図1a),これをバックルのCmigrationとよぶ.過去にもいくつかの報告があり1,2),筆者らも同様の報告したことがある3).いったん切断された直筋の付着部は,再び強膜に癒着する(図1b).一般に眼球運動障害が生じることが多いとされているが,筆者の経験ではその程度は予想外に軽度である(図1c).輪状締結は一般的に赤道部に設置することが多いが,硝子体手術+強膜バックリング手術の併用例,あるいは周辺部に裂孔を有するアトピー性網膜.離などでは,周辺部に輪状締結を行うことがあり,バックルのCmigrationが生じやすい.比較的容積の大きなバックルを使用したとき,シリコーンタイヤやシリコーンロッドなど硬い素材を使用したとき,1象限にマットレス縫合を一糸しか置かなかったときなどに生じやすい.細隙灯顕微鏡で観察すると,手術時に縫合したマットレス縫合の一端が断裂している所見がしばしば認められる.C●バックルのmigrationに対する処置強膜バックルの隆起が角膜輪部近くに生じるので,患者は異物感を訴えることが多い.また,バックルの隆起による涙液層の破綻も,異物感に関与しているものと考えられる.自覚症状が軽度な場合にはそのまま経過をみることもあるが,異物感を訴えたり眼球運動障害がみられる場合にはバックルを抜去する.結膜を食い破ってバックルが露出した場合には,感染のリスクが高くなるので抜去する(図1d).バックルのCmigrationをきたす症例では,バックルの内陥効果はすでに失われているので,バックルを抜去したことによる網膜再.離のリスクは低いと考えられる.(73)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYc図1シリコーンバンドのmigrationa:#240シリコーンバンドが外直筋を浸食して角膜輪部近くにまで移動している.Cb:術中所見として,いったん断裂した外直筋は生理的な付着部に再癒着していた.Cc:術前の眼球運動障害は予想外に軽度であったが,バックル除去後はさらに改善した.Cd:術後,結膜所見は改善し,流涙や異物感は消退した.(一部,文献C3より引用)文献1)MaguireAM,ZarbinMA,EliottD:Migrationofsolidsili-coneencirclingelementthroughfourrectusmuscles.Oph-thalmicSurgC24:604-607,19932)LopezCMA,CMateoCC,CCorcosteguiCICetal:TransmuscularCmigrationCandCstraddlingCofCtheCcorneaCbyCanCencirclingCbuckle.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC38:402-403,C20073)NishidaCY,CFukumotoCM,CKidaCTCetal:TransmuscularCmigrationCofCaCscleralCtunnel-securedCencirclingCsiliconeCband.CCaseCRepOphthalmolC7:138-141,C2016あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C73

眼瞼・結膜:外眼角炎

2019年1月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人小幡博人46.外眼角炎埼玉医科大学総合医療センター眼科外眼角炎は外眼角の皮膚に生じる炎症で,疼痛や違和感を主症状とし,皮膚の発赤,びらんなどを伴う.比較的高齢者に多く,起炎菌は表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,モラクセラ菌などである.●外眼角炎とは眼瞼炎のなかで,内眼角や外眼角に生じる皮膚の炎症を眼角炎(angularblepharitis)という.外眼角炎は外眼角の皮膚に生じる炎症で,疼痛や違和感を主症状とし,皮膚の発赤,びらんなどを伴う(図1).ときに結膜充血も伴う.いわゆる目尻の炎症で,外来でよくみる疾患であるが,文献検索をすると,驚くほど資料が少ない1,2).片側にできることも両側にできることもある.●起炎菌起炎菌は表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,モラクセラ属が多いとされている2,3)(図2,3).複数の細菌が同時に検出されることもある.ヘルペスによる外眼角炎の報告もある4).モラクセラは双桿菌と書いてあったり,双球菌と書いてあったり,混乱させる菌である.筆者の理解では,一般的にいうモラクセラはグラム陰性桿菌であるが,Moraxellacatarrhalisはグラム陰性の双球菌である.Moraxellacatarrhalisは,従来Branhamellacatarrhalisとよばれていた菌が,遺伝子解析の結果,モラクセラ属に分類されることになった.Moraxellacatarrhalisは呼吸器感染症の起炎菌として重要なので,モラクセラは双球菌と書かれていることが多いようである.モラクセラ属はMoraxellaとBranhamellaの2亜属に分類するという考えがある.●発症要因外眼角に皮膚炎が発症する要因は不明であるが,上眼瞼の皮膚弛緩が外眼角部の皮膚に接触することや,流涙症で目尻がwetな状態になることは一因と考えられる(図4).図1モラクセラによる外眼角炎70歳,女性.外眼角部の皮膚に広範囲のびらんと発赤がみられる.培養検査でMoraxellacatarrhalisが検出された.図2モラクセラの塗抹標本モラクセラによる角膜潰瘍の塗抹標本.グラム陰性の双桿菌が観察される.ただし,Moraxellacatarrhalisは従来Branhamellacatarrhalisとよばれ,グラム陰性の双球菌である.(ルミネはたの眼科秦野寛先生のご厚意による)(71)あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019710910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3黄色ブドウ球菌による外眼角炎a:65歳,男性.外眼角部の皮膚の発赤とびらんがみられる.結膜充血もみられる.培養検査でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出された.b:本例とは別の外眼角炎症例で,培養検査で黄色ブドウ球菌が分離された外眼角炎から得られた塗抹標本.グラム陽性のぶどう球菌が観察される(ルミネはたの眼科秦野寛先生のご厚意による).図4眼瞼皮膚弛緩と外眼角炎a:75歳,女性.右眼の上眼瞼皮膚弛緩があり,皮膚が睫毛の上に乗っている.b:弛緩した皮膚を持ち上げると,外眼角部の皮膚に発赤とびらんを認めた.培養検査でKlebsiellapneumoniaeとCitrobacterfreundiiが検出された.本例の外眼角炎は両側にみられ,上眼瞼皮膚弛緩と流涙症が一因と考えられた.2)秦野寛:モラクセラ外眼角炎.あたらしい眼科21:●治療63-64,2004レボフロキサシン眼軟膏を処方する.治りが悪い場合3)OstlerHB:Diseasesoftheeyelidandlidmargin.In:Dis-easesoftheExternalEyeandAdnexa:Atextandatlasは,ステロイド眼軟膏(プレドニン眼軟膏)を追加し,(edbyOstlerHB.Williams&Wilkins,Baltimore,p11-66,感染を元にしたアレルギー反応を消炎することもある.19934)JakobiecFA,SrinivasanBD,GamboaET:Recurrenther-peticangularblepharitisinanadult.AmJOphthalmol文献88:744-747,19791)JacksonWB:Blepharitis:currentstrategiesfordiagnosisandmanagement.CanJOphthalmol43:170-179,200872あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019(72)

抗VEGF治療:網膜静脈閉塞症と抗VEGF療法

2019年1月31日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二60.網膜静脈閉塞症と抗VEGF療法坪井孝太郎愛知医科大学眼科学教室網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫は抗CVEGF薬が治療の第一選択となる.網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)では多くの症例は初回単回投与後,必要時投与(1+PRN投与)で十分な視力改善,黄斑形態の改善が得られる.一方,網膜中心静脈閉塞症(CRVO)でも有意な平均視力の改善,黄斑形態の改善は得られるものの,視力低下に至る症例も少なくないことや,虚血型への移行を注意する必要がある.以下,BRVOとCCRVOの抗CVEGF薬治療について概説する.網膜静脈分枝閉塞症網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,網膜の動静脈交差部での静脈閉塞が原因で発症する網膜循環疾患である(図1).急性期には,閉塞部より上流側の静脈領域において出血,浮腫や網膜下液などの滲出性変化,そして網膜虚血を生じる.慢性期には,網膜虚血に続発する新生血管や遷延する黄斑浮腫が臨床上問題となってくる.抗血管内皮増殖因子(vascu-larCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の登場以降,BRVO治療における第一選択薬は抗CVEGF薬となった.抗CVEGF薬の治療効果に関しては,BRAVO試験(ラニビズマブ)とCVIBRANT試験(アフリベルセプト)にてその有効性が確認されている.両試験ともC5カ月までは毎月投与をC6回行った後,6カ月以降(観察期間)では必要時投与(proCrenata:PRN)(6+PRN)を行った.その結果,両試験ともC15文字以上の良好な平均視力の改善を得られた.大規模臨床試験では,導入期に毎月C6回の抗CVEGF薬投与を行い,BRAVO試験において年8.4回の注射回数と報告されている.この導入期の注射回数について,BRVOに対する抗CVEGF薬治療の導入期を,1+PRNとC3+PRNのC2群に分けた検討が報告されている1).その結果,12カ月目の視力変化量および中心窩網膜厚変化量に有意な差は認められなかった.初期の治療方針については議論の残るところではあるが,1+PRN治療においても十分な治療効果が得られ,実臨床においては現実的な投与方法であると思われる.治療開始時期に関しては,6カ月の経過観察の後に治療開始したシャム群と早期治療開始のラニビズマブ投与群で,2年目時点の視力改善に差を認めないことが報告されている.一方で,早期開始群と抗CVEGF薬治療を6カ月目から開始した群で,2年時点でも視力改善に有意差を認めたとする報告もある.多くのCBRVO症例は(69)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1BRVO治療経過の一例64歳,男性,初診時眼底写真にて下方の動静脈交差部(→)の末梢側に網膜出血を認めている.抗CVEGF薬治療を計C3回行い,視力は初診時(0.3)から(1.2)まで改善を認めた.一定期間の経過観察を経ても長期的には視力改善が得られると思われるが,治療開始が遅れることが,長期の視力改善に悪影響を与える症例も存在する可能性があり,症例を見きわめることが今後の課題である.既報にて網膜下出血を認めるCBRVO症例では,黄斑浮腫改善後もCellipsoidzoneや外境界膜欠損などの網膜外層障害を認めることが報告されており2),また抗CVEGF薬投与の有無で網膜下出血の吸収速度が促進されることも示されている.このことから網膜下出血を認める症例においては,早期からの抗CVEGF薬治療を行うことで,網膜外層障害を防ぐ必要があると思われる.通院間隔に関しては,OCTangiographyを用いて血流の状態を経過観察した結果,血流が減少した症例では黄斑浮腫の再発回数が多かったと報告されている3).BRVOの観察期間は,安定期においても浮腫が再発,増悪する前に診察し,加療することが重要であると思われる.あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C69図2虚血型CRVOの一例55歳,男性.眼底写真では斑状の出血を眼底全体に認めている.OCTにて網膜内層の高反射を認めており,網膜内層が浮腫を引き起こしていることが示唆される.造影検査では早期相(30秒)では静脈が描出されず,後期相(10分)では眼底全体の無灌流領域を認めており,高度の虚血型CCRVOであることがわかる.本症例では発症後C2カ月で虹彩新生血管の出現を認めた.網膜中心静脈閉塞症網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は,視神経内で網膜静脈が閉塞し,網膜血管拡張,視神経乳頭のうっ血や充血,網膜全周の出血を認める疾患であり,強い黄斑浮腫や虚血性変化により視力低下をきたす.また,10乳頭径以上の無灌流領域を認める虚血型CCRVO(図2)では虹彩新生血管の発症リスクが高い.CRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の効果は,CRUISE試験(ラニビズマブ),COPERNICUS試験(アフリベルセプト)にて良好な視力改善が報告されている.CRUISE試験ではCBRAVO試験と同様に,6+PRN投与により,12カ月時点でC13.9文字の改善が得られている.また,COPERNICUS試験でも同様にC6+PRN投与にて,12カ月時点でC16.2文字の改善が得られている.診察間隔に関しては,CRUISE試験に引き続き行われたCHORIZON試験にて,試験開始C2年目に診察間隔をC3カ月に延長すると,約C5文字近い視力低下を認め,3カ月ごとの診察では間隔が空きすぎていると結論づけられている.また,治療プロトコールに関しては,初診後C7回まで毎月投与を行ったあとに,そのまま毎月投与した群とCPRN投与した群とでは,両群間に視力改善で差を認めなかったことが報告されている.前述の通りCCRVOでは約C2~3割の虚血型が存在し,また非虚血型のC3割がC3年以内に虚血型へ移行する(図3)とされている.虚血型CCRVOにおける虹彩新生血管C70あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019図3非虚血型から虚血型に移行したCRVOの一例81歳,女性.初診時の造影検査で無灌流領域を認めず,非虚血型のCCRVOと診断した.黄斑浮腫に対して抗CVEGF薬治療を行い,1カ月後には視力改善を認めた.その後黄斑浮腫は改善していたが,OCTangiographyにて毛細血管脱落の増悪を認め,造影検査にて虚血型CCRVOへの移行が認められた.は新生血管緑内障に至るリスクがある.抗CVEGF薬による虹彩新生血管発生抑制効果に関しては,発生率は自然経過と変わらず,有効性は示されなかった.また,自然経過ではC9カ月までに大半の症例で発生するのに対して,抗CVEGF薬投与群では平均C24カ月と発症時期が遅れるため,注意深い長期経過観察が必要となる.まとめ抗VEGF薬治療は網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)に伴う黄斑浮腫に対する有効な治療法である.BRVOにおいては良好な視力改善が得られているが,一部症例では長期にわたる治療期間や治療回数が必要となる場合もあり,今後の治療最適化が課題であると思われる.CRVOにおいては抗CVEGF薬により黄斑浮腫の抑制は得られるものの,最終的に視力低下に至る症例も多く,また重篤な合併症である新生血管緑内障の抑制効果は乏しいのが現実である.RVOは網膜静脈の閉塞に起因する疾患であり,これまで閉塞の解除を目的とした治療の試みがなされてきたが,芳しい成果は得られてこなかった.抗CVEGF薬治療は閉塞に伴う黄斑浮腫に対して有効な治療方法であるが,今後のさらなる病態解明に基づく治療法の開発が望まれる.文献1)MiwaCY,CMuraokaCY,COsakaCRCetal:RanibizumabCforCmacularCedemaCafterCbranchCretinalCveinocclusion:OneCinitialCinjectionCversusCthreeCmonthlyCinjections.CRetinaC37:702-709,C20172)MuraokaCY,CTsujikawaCA,CTakahashiCACetal:FovealCDamageCDueCtoCSubfovealCHemorrhageCAssociatedCwithCBranchRetinalVeinOcclusion.PLoSONEC10:e0144894-16,C20153)WinegarnerCA,CWakabayashiCT,CFukushimaCYCetal:CChangesCinCretinalCmicrovasculatureCandCvisualCacuityCafterCantivascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCinCretinalCveinCocclusion.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:C2708-2709,C2018(70)

緑内障:悪性緑内障の治療とロングチューブシャント手術

2019年1月31日 木曜日

●連載223監修=岩田和雄山本哲也223.悪性緑内障の治療とロングチューブ千原悦夫医療法人千照会千原眼科シャント手術悪性緑内障では房水のCmisdirectionによって前部硝子体が虹彩根部を押し上げ,これによる閉塞隅角と高眼圧がさらなるCmisdirectionを誘発するという悪循環を起こす.治療としては硝子体手術と前房再建が重要であるが,隅角閉塞が周辺虹彩前癒着やCSoemmering輪のために開放できない場合は,経扁平部型のロングチューブシャント手術がよい適応になる.●悪性緑内障の病態悪性緑内障はCaqueousCmisdirectionsyndrome,cili-aryCblockglaucomaともいわれ,高齢の女性に多い.Chandlerによると,一般的には浅前房の眼に濾過手術をしたあとにC0.6~4%の割合で起こるが1),まれには手術既往なく起こることもある.悪性緑内障では房水がなんらかの原因で硝子体腔方向に流れ,前部硝子体ゲル(あるいは虹彩後面に形成された腫瘤)が前方に押しやられ,虹彩根部を前方移動させて隅角閉塞を起こし,眼圧が上昇してさらに硝子体の前方移動を悪化させるという悪循環に陥る.このタイプの緑内障はトラベクレクトミー,虹彩切除,前房内へのチューブ挿入といった方法を行っても前房と後房の間の交通路が確保できず,眼圧のコントロ―ルが困難で,しばしば失明に至る恐ろしい病態である.教科書的な治療法としてアトロピンによる散瞳,水晶体摘出,YAGレーザーによる前部硝子体膜の破壊,硝子体腔の液化した硝子体吸引,硝子体切除,毛様体破壊術などが報告されているが,必ずしも成功するわけではない.図1濾過手術既往のない眼に起こったタイプ2の悪性緑内障虹彩とCIOLは迷入した房水の圧力に押されて角膜後面に押し付けられ,虹彩後面と前部硝子体膜の間にまったく空間がないことがわかる(眼圧C53mmHg).(67)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY悪性緑内障を診断するためには,浅前房眼で瞳孔ブロックや,プラトー虹彩によるものではないことを示す必要があるが,その検査として前眼部光干渉断層計検査と超音波生体顕微鏡検査はきわめて大切であり,浅前房を確認するとともに,虹彩の後ろに水晶体や前部硝子体膜がべったりとくっついて,まったく空間がない状態を確認することが必要である(図1,2).C●悪性緑内障のタイプと治療悪性緑内障の治療としては経毛様体扁平部硝子体切除(parsplanaCvitrectomy:PPV)が必須であり,発症からの時間が短く,隅角における癒着が進行していない眼では,PPVと分散型の粘弾性物質による前房と隅角の再形成(あるいは隅角癒着解離術)だけで眼圧のコントロールが得られることもある(図3).筆者の経験によると悪性緑内障には大きく分けて二通りあり,一つは濾過手術のあとなどに房水が後房から硝子体腔に迷入(mis-direction)し,硝子体圧の上昇に伴って前部硝子体膜が虹彩後面に押し付けられるタイプである.もう一つは虹彩の後面に腫瘤が形成され,その成長に伴って虹彩が角膜後面に押し付けられ,そこから悪循環が始まって悪性緑内障になるタイプである.虹彩後面にできる腫瘤のなかでもっとも頻度が高いのがCSoemmering輪2)であり,そのほかにも腫瘍,出血塊,炎症産物などがありうる.図2タイプ1の悪性緑内障の症例偽水晶体と前部硝子体が虹彩後面にべったりと接触し,後房が形成されていない.あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C67図3図1の症例に硝子体手術を行い,分散型粘弾性物質によって前房形成を行って2日目の前眼部OCT像前房は深く形成され,隅角は開大され,眼圧はC13CmmHgに下がった.虹彩後面に対称性の球形像がみられ,これが悪性緑内障発症のきっかけとなったCSoemmering輪である.図5超音波生体顕微鏡検査で虹彩の後ろに楕円形の腫瘤を確認できるタイプ2の悪性緑内障レーザー虹彩切開による虹彩穿通があり経毛様体扁平部硝子体切除(PPV)もすんでいる眼で,なおかつ浅前房が進行する眼である.Soemmering輪が認められ隅角開放がむずかしい.タイプC1で陳旧化している場合は周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)が形成されて,単に隅角を開大しても眼圧は下がらないことがあり(図2,4),タイプC2でも腫瘤が大きい場合,あるいは白内障手術から時間がたってCSoemmering輪が線維化して固くなっている場合は除去がむずかしく,硝子体手術を行っても隅角が開かず,眼圧のコントロールができないことがある.この場合の一つの解決法は硝子体手術と硝子体腔内へのチューブの挿入である(図5).虹彩後面のCSoemmering輪がまだ線維化していない柔らかいタイプである場合は,YAGレーザーによる前.開放3,4)や前房側から二手法による灌流と吸引5,6)でこの腫瘤を吸引して除くことにより,前房隅角の開大が得られることもある.図5はレーザー虹彩切開による虹彩穿通がありCPPVもすんでいるが,なお浅前房が進行する眼である.超音波生体顕微鏡で検査すると,虹彩の後ろに楕円形の腫瘤があることが確認された.これは白内障術後に起こったCSoemmering輪であり,このような眼では虹彩切除や濾過手術が効かない悪性緑内障になるC68あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019図4図2の症例のPPV+バルベルト緑内障インプラント挿入術後の前眼部OCT所見と眼底a:眼圧は術前のC35~37CmmHgから術後4~7CmmHgに降下した.前眼部COCTで高度のCPASの残存が確認されるが図C2より前房が深くなり改善している.Cb:Optosで撮影したもの.上方に硝子体腔内のチューブが見える.リスクが高い.悪性緑内障はチューブシャント手術が導入される以前には失明のリスクが高かった.現在このような眼においても,硝子体腔にチューブを挿入することによって助かるようになったことは大きな進歩と考えられる.文献1)ChandlerPA,SimmonsRJ:Malignantglaucoma:MedicalandCsurgicalCtreatment.CAmCJCOphthalmologyC66:495-502,C19682)KungCY,CParkCSC,CLiebmannCJMCetal:ProgressiveCsyn-echialCangleCclosureCfromCanCenlargingCSoemmeringCring.CArchOphthalmolC129:1631-1632,C20113)SuwanCY,CPurevdorjCB,CTeekhasaeneeC:PseudophakicCangle-closureCfromCSoemmering.CBMCCOphthalmologyC16:91,C20164)松山加耶子,南野桂三,安藤彰ほか:Soemmeringによる続発閉塞隅角緑内障の一例.あたらしい眼科C27:1603-1606,C20105)BhattacharjeeH,BhattacharjeeK,BhattacharjeePetal:CLique.edaftercataractanditssurgicaltreatment.IndianJOphthalmolC62:580-584,C20146)石澤聡子,黒岩真友子,澤田明ほか:眼圧上昇をきたしたCSoemmering輪を伴う液性後発白内障の一例.眼科臨床紀要8:657-660,C2015(68)

屈折矯正手術:PiXLによる軽度近視治療

2019年1月31日 木曜日

監修=木下茂●連載224大橋裕一坪田一男224.PiXLによる軽度近視治療神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学PiXL(photo-intrastromalcross-linking)は,角膜クロスリンキング後の角膜形状変化に着目して,紫外線照射強度や照射パターンを工夫し,カスタマイズした紫外線照射を行うことで,軽度近視,遠視,乱視矯正を可能とする新たな屈折矯正手術である.手術侵襲が少ないことから,白内障手術後のタッチアップや老視矯正への応用が期待されている.C●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcross-linking:CXL)は,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋構造を強めることにより,角膜全体の剛性を上げる治療である.波長370Cnmの紫外線で励起された光感受性物質であるリボフラビン(ビタミンCBC2)が,酸素分子との反応により活性酸素の一種である一重項酸素を産生し,角膜実質コラーゲン線維の架橋結合を増加させることで(図1),結果として角膜自体の剛性を高め,角膜形状を保持することによって,円錐角膜や角膜拡張症の進行を抑制する唯一のエビデンスを有する治療である.本治療の副次的効果として,紫外線照射部位である角膜中央部のフラット化とその周辺角膜のスティープ化を生じるため,遠視化しやすい(図2).逆に,周辺部にドーナツ状の照射をすると,周辺部のフラット化と中央部のスティープ化を生じ,近視化しやすくなる.このような紫外線照射後の角OHOPOH2COHHCOHHCOHCHOHUVA(365nm)H2CH3CNNHNOH3CNORivo.avin(VitaminB2)膜形状変化に着目して,強度や照射パターンを工夫することで,屈折矯正手術の一つとして応用を試みたのが,PiXL(photo-intrastromalCcross-linking)であり,いずれも軽度ではあるが近視,遠視,乱視治療が可能と報告されている1~5).外科的な手術というより処置に近く,手術侵襲が少ないことから,白内障手術後のタッチアップや老視矯正への応用が期待されている.本稿では,新たな屈折矯正手術の一つであるCPiXLの現状と今後の展開について述べる.C●手術の実際現在PiXLを施行可能な装置はMosaicCSystem(Avedro社,図3)のみであり,本装置を用いて行う.眼球運動を追尾するアイトラッキングシステムも搭載されており,角膜形状解析データを基に,選択的に紫外線を照射するトポガイド照射も可能である1).まず点眼麻酔を行い,0.25%リボフラビン点眼を約C10分間行い,図2角膜クロスリンキング後の角膜形状変化紫外線照射部位の角膜中央部のフラット化とその周辺部のスティープ化が生じる.図1角膜クロスリンキングの奏効機序紫外線で励起されたリボフラビンが酸素分子との反応により,一重項酸素を産生し,コラーゲン線維の架橋結合を増加させる.(65)あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C650910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3MosaicSystem(Avedro社)図4PiXLの紫外線照射パターン近視矯正,乱視矯正,遠視矯正(左から).図3MosaicSystem(Avedro社)の外観角膜形状解析データに応じた選択的な紫外線照射が可能であり,アイトラッキングシステムも内蔵している.角膜内に十分に浸透させる.角膜表面上に残るリボフラビンはCBSSなどで洗い流す.角膜上皮.離を行う方法とそうでない方法がある.その後,酸素ゴーグルを着用させ,酸素を還流させることにより,ゴーグル内の酸素濃度がC95%以上となることを確認した後,術前の屈折状態(近視,遠視,乱視)に応じた選択的な紫外線照射を行う(図4).その後,コンタクトレンズを装用させ,手術を終了する.C●過去の報告Ellingら2)は,14例C26眼の軽度近視に対して角膜上皮.離を伴わないCPiXLを施行し,矯正視力が有意に改善,球面度数がC0.99C±0.47D減少し,術後重篤な合併症を認めなかったと報告している.さらに彼ら3)は,14例C24眼の軽度近視に対して角膜上皮.離を伴うCPiXLを施行し,同様に矯正視力が有意に改善,球面度数がC0.90±0.40D減少し,術後重篤な合併症を認めなかったと言及している.Limら4)は,8例C14眼の軽度近視に対して角膜上皮.離を伴わないCPiXLを施行し,等価球面度数がC0.72C±0.43Dが減少,平均裸眼視力がC0.25logMAR改善したと報告している.Kanellopoulosら5)は,角膜周辺部へのリング状の紫外線照射によって遠視矯正が可能であり,上皮.離ありで平均C0.75D,なしで平均C0.85Dの近視化を生じ,遠視矯正により近方視に有利に作用し,老視矯正としても使用できると述べている.C66あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019●おわりにいずれも最新のテクノロジーを応用したものであり,今後長期データの蓄積は必要であるが,手術侵襲を最小限にした屈折矯正手術を希望する患者にとっては,新たな福音となりえるであろう.その一方,現状では軽度屈折異常しか対応できないので,潜在的需要としては,白内障手術後のタッチアップや老視矯正など限定的かもしれない.また,円錐角膜や角膜拡張症など,バイオメカニクスが低下している症例における手術としても理に適った方法と考えられる.今後は紫外線照射強度や照射パターンを工夫し,屈折矯正効果が最大限に得られる照射プログラムの開発が期待される.文献1)神谷和孝:トポガイド角膜クロスリンキング.眼科手術,印刷中2)EllingCM,CKersten-GomezCI,CDickHB:PhotorefractiveCintrastromalCcornealCcrosslinkingCforCtheCtreatmentCofCmyopicCrefractiveerrors:Six-monthCinterimC.ndings.CJCataractRefractSurgC43:789-795,C20173)EllingCM,CKersten-GomezCI,CDickHB:PhotorefractiveCintrastromalcornealcrosslinkingforCtreatmentofmyopicrefractiveerror:FindingsCfrom12-monthprospectiveCstudyCusingCanCepithelium-o.Cprotocol.CJCCataractCRefractCSurgC44:487-495,C20184)LimCWK,CSohCZD,CChoiCHKYCetal:Epithelium-onCpho-torefractiveCintrastromalcross-linking(PiXL)forCreduc-tionoflowmyopia.ClinOphthalmolC11:1205-1211,C20175)KanellopoulosCAJ,CAsimellisG:Hyperopiccorrection:CclinicalCvalidationCwithCepithelium-onCandCepithelium-o.Cprotocols,CusingCvariableC.uenceCandCtopographicallyCcus-tomizedcollagencornealcrosslinking.ClinOphthalmolC8:C2425-2433,C2014(66)

眼内レンズ:I-Ringを用いた小瞳孔Zinn小帯脆弱例の白内障手術

2019年1月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋386.I-Ringを用いた小瞳孔Zinn小帯脆弱例の塙本宰小沢眼科内科病院白内障手術小瞳孔のCZinn小帯脆弱例に対してCVisitecI-RingCPupilCExpander(以下,I-Ring)を用いて瞳孔拡張後に前.切開を行ったあとに,前.縁にCI-Ringをかけ直して形状保持を行い水晶体核処理まで行うことができた症例を提示する.本症例では水晶体乳化吸引後にCI-Ringを除去してCIOL強膜内固定を行った.I-Ringは小瞳孔のZinn小帯脆弱例でも手術工程を補助できることが示唆された.●はじめにVisitecI-RingCPupilCExpander(以下,I-Ring.Bea-ver-VisitecInternational社製)は,小瞳孔の白内障手術の補助器具として開発され,米国ではC2015年に,わが国ではC2016年に認可されたデバイスである(図1).小瞳孔の白内障手術例では,ときに偽落屑症候群とZinn小帯脆弱を合併する場合があり,場合によっては水晶体.の支持が得られずに眼内レンズの固定手術まで行う場合がある.そのような場合に,瞳孔拡張した同じデバイスで,水晶体.を支持して水晶体核処理まで補助できるようであれば非常に有用と思われる.今回はCI-Ringを用いた小瞳孔のCZinn小帯脆弱例の白内障手術併用強膜内固定術の一例を報告する.C●症例79歳,男性.既往歴はない.右眼散瞳不良で極度の浅前房を伴い,ときどき頭痛がするということで紹介され受診した.視力は右眼C0.08(0.8C×sph+2.0D(cyl-3.5DA80°),左眼1.2(n.c),眼圧は右眼30mmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部COCTでは右眼の極度の浅前房化を認めた(図2).IOLマスターを用いた測定値は,眼軸長C22.43mm,前房深度C1.28mmであった.Zinn小帯脆弱と続発閉塞隅角緑内障を伴う白内障として,右眼の手術を行った.キシロカインのCTenon.下麻酔を行ったあとに前房内に粘弾性物質を注入し,I-Ringを挿入して瞳孔拡張を行った.明らかなCZinn小帯脆弱を前.切開時に認めたが,チストトームと前.鑷子を用いて前.切開を完成させた(図3a).その後,超音波水晶体乳化吸引を行ったが,Zinn小帯脆弱のため術中の.形状維持が困難であった.そこで,I-Ringを(63)abc図1I.Ringインサーターからリリースする瞳孔拡張デバイスである.(Beaver-VisitecInternationalのホームページより掲載.http://www.beaver-visitec.co.jp/products/i-ring.html)水晶体.にかけ直し(図3b),その後の水晶体核処理は可能となった.水晶体核の乳化吸引後にCI-Ringを除去して水晶体.の状況を確認したが,脆弱度は強いように思われたため,.の温存はあきらめた(図3c).その後,水晶体.除去と硝子体切除を行ったのち,眼内レンズの強膜内固定を行った(図3d).術後は眼圧の上昇なく,右眼視力CR.V.=0.4(1.2C×sph+2.0D(cyl-2.75DA90°)で,術後C6カ月まで経過良好である.C●考按:I.Ringの可能性従来の報告では,虹彩リトラクターを小瞳孔に用いて,その後前.縁にかけ直す方法や,カプセルエキスパンダーを用いた同様の方法1),MalyuginCRingを用いた方法2)などが報告されている.I-Ringを用いた方法は調べたかぎりではないようである.I-Ringは角膜ポートを必要としない点が最大の利点であるが,やや厚みがあるために挿入して瞳孔縁に引っ掛ける際に,浅前房例では若干余裕がない.このため角膜内皮に接触するなどの合併症が懸念されるが,筆者は経験していない.水晶体.拡張デバイスの適応は円形前.切開が完成であたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C630910-1810/19/\100/頁/JCOPYきた症例であるが,I-Ringも前.に掛ける場合は同様いやすい.で可能なら大きな前.切開がなされているほうがより行I-Ringは水晶体.拡張デバイスとしても使用可能で図2前眼部OCTによる経線方向の断面像隅角狭小化が著明である.あるため,IOL固定手術になりそうな小瞳孔のCZinn小帯脆弱例でも,手術工程を補助できる有用性が示唆された.文献1)西村栄一:チン小帯脆弱アップデートカプセルエキスパンダーの適応と使用方法.IOL&RSC32:1341-3678,C20182)AgarwalA,MalyuginB,KumarDAetal:Modi.edMalyC-uginCringCirisCexpansionCtechniqueCinCsmall-pupilCcataractCsurgeryCwithCposteriorCcapsuleCdefect.CJCCataractCRefractCSurgC34:724-726,C2008図3I.Ringを用いた手術の実際a:I-Ringを用いて瞳孔を拡大し前.切開.Cb:I-Ringを瞳孔と前.切開縁に同時に引っ掛ける.Cc:I-Ringを水晶体.拡張デバイスとしてCPEAを完遂.Cd:水晶体.を除去し,IOL強膜内固定.

コンタクトレンズ:乱視用ソフトコンタクトレンズ処方(適応・検査)

2019年1月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一51.乱視用ソフトコンタクトレンズ処方東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック(適応・検査)京都府立医科大学眼科学教室●はじめに100%2003年にC7%だった日本のトーリックソフトコンタ90%80%Proportionoflens.tsクトレンズ(SCL)処方率はC2016年にC13%とわずかに増加したが(図1)1),諸外国に比して低いのが現状である2).実際,弱度乱視のある患者でも球面CSCLを処方されることが多く,その背景には,トーリックCSCL処方の経験が少ないゆえに処方がむずかしいという先入観70%Sphere60%50%Toric40%MultiFocal30%Cosmetic20%Orthokeratologyや,過去にうまくいかなかった苦い経験などがあるように思う.適切な乱視矯正は良好な視力が得られるだけでなく,眼精疲労の改善など見え方の質の向上が期待できる.乱視用CSCL処方についてC2回に分けて解説するが,第C1回目となる今回はトーリックCSCLの適応の見きわめと検査の注意点について解説する.C●トーリックSCLの適応乱視はC1.0~2.5Dまでがよい適応で,まずは処方しやすい直乱視からトライするとよい.倒乱視や斜乱視になると少し処方の難易度が上がる.3D以上の乱視や不正乱視ではハードコンタクトレンズのほうが矯正力は優れる.乱視の未矯正で眼精疲労のある症例はよい適応である.日常生活で問題なく見えているか症状を問診して,乱視の有無を確認する「乱視チェックカード」は大変に便利である(図2).C●トーリックSCL処方時の検査と注意点通常,オートレフケラトメーターでは近視は強く出るが,乱視度数と軸は比較的信頼できる.まず,眼鏡矯正視力の測定では適正な乱視矯正を心がける.乱視があるにもかかわらず球面CSCLを処方された症例では,乱視の未矯正を補うように球面度数が強めに処方されている.最初のCSCL選択をまちがうと,その後の検診において患者が見えにくいと訴えた際,球面レンズでさらなる追加補正を行ってしまう結果,近視の過矯正となるリスクが高い.また,眼科検査室の明るい条件下において球面レンズのみの補正で矯正視力(1.0)が得られても,(61)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY10%0%20032004200520062007200820092010201120122013201420152016Years図1日本における各種ソフトコンタクトレンズ処方比率(文献C1より引用)眼科医や検査員はその結果を過信してはいけない.逆に,患者自身も矯正視力(1.0)と聞くと「自分は見えている」と思い込んでしまう.日常生活では検査室より悪い条件でものを見ていることが多く,また時間帯によって見え方は変化するため,日常生活の見え方は一般視力検査では評価しきれない.Watanabeらは健常人に意図的に乱視を負荷した場合,直乱視C0.5D以上,倒乱視1.0D以上で実用視力が有意に低下すること,また,1.0Dの乱視負荷でC96%の症例は視力C1.0を維持できたが,実用視力を維持できる症例は直乱視でC50%,倒乱視でC62%に低下したことを報告している3).とくに,若い世代では調節力が旺盛なため,球面レンズだけで見かけ上は良好な矯正視力が出やすい.乱視の未矯正では球面レンズで近視の過矯正をつくることとなり,遠方視時からすでに調節力を強いられる結果,勉強中など近業時には調節の負荷がさらに増えてしまう.したがって,最初の段階で完全屈折矯正を行うことが肝要である.C●トーリックSCLの勧め方保険適用ではないが,筆者はトポグラフィーを撮影し,写真で乱視の有無を示しながらトーリックCSCLの必要性について患者に説いている.すでに他院で球面SCLを処方されているケースでは,1日の終わりでの見あたらしい眼科Vol.36,No.1,2019C61図2乱視チェックカード(ジョンソンエンドジョンソンより提供)え方や細かい文字が見づらくないかなど,具体的に問診し,見え方について疲れなどさまざまな症状を聞き出す努力をする.また,検査時に直乱視ではCLandolt環が横に,倒乱視では縦に伸びて見えなかったかなど具体的に質問する(図3).球面CSCLで自覚症状が強くなかった患者も,実際にトーリックCSCLを試すと「楽に見える」「手元が見やすくなった」など,それまで自覚しなかった症状に気づくことも多い.トーリックCSCLは価格が高くなるが,見え方の質が改善するとその価値を理解されることが多い.C●おわりに患者は自分で乱視に気づいてトーリックCSCLの処方を希望するわけではない.われわれ眼科医が乱視を正しく評価し,積極的にトーリックCSCLを選択して適切な乱視矯正を心がけなければならない.その一方で,患者は価格を気にされるため,高価なCSCLを押し売りされるという印象を与えないよう,丁寧な問診と検査で問題点を引き出し,乱視矯正の必要性を理解してもらうことが大切である.次回は,トーリックCSCLのレンズ選択とフィッティングをテーマに解説する予定である.図3トーリックSCL装用前後の見え方の変化WaveCFrontAnalyzerにて計測.左:弱度乱視を球面CSCLで矯正したとき.Landolt環は縦ににじんでいる.右:弱度乱視をトーリックCSCLで矯正したとき.Landolt環はより鮮明に見える.文献1)ItoiM,ItoiM,EfronNetal:Trendsincontactlenspre-scribingCinJapan(2003-2016)C.CContCLensCAnteriorCEyeC41:369-376,C20182)MorganCPB,CEfronCN,CWoodsCA;InternationalCContactCLensCPrescribingCSurveyConsortium:AnCinternationalCsurveyoftoriccontactlensprescribing.EyeContactLensC39:132-137,C20133)WatanabeCK,CNegishiCK,CKawaiCMCetal:E.ectCofCexperi-mentallyCinducedCastigmatismConCfunctional,Cconventional,CandClow-contrastCvisualCacuity.CJCRefractCSurgC29:19-24,C2013CPAS113