不同視・眼位異常などにおけるコンタクトレンズ処方ContactLensWearforAnisometropiaandOcularDeviation土至田宏*はじめにコンタクトレンズ(contactlens:CL)は眼光学的に眼鏡に勝る点が多く,屈折矯正に秀でているのが最大のメリットである.その有用性は不同視の矯正の際にも発揮される.本特集はCL装用に伴う眼精疲労をテーマに取り上げられており,ともすれば眼精疲労の原因がCLにあるという,見過ごされやすい領域にフォーカスをあてている.本稿ではそのなかでも,これまで掘り下げたことが少ない不同視・眼位異常などにおけるCL処方について述べる.I不同視とは不同視は,両眼の屈折値に差がある状態であり1),その差がおおむね2.00Dを超える状態をいう2).両眼で異なる視性刺激を受けることによって不等像視,眼位不同,調節障害などを引き起こし,それに伴う眼精疲労が誘発されうる.通常,小児では弱視が問題となり,成人では完全矯正による不等像視や眼精疲労による不快感が問題となる.以下,専門用語の解説とともに,解決策を検証することとする.II不等像視不同視の屈折矯正を眼鏡のみで行おうとすると,左右でものの大きさが異なって見えてしまうことがある.これを不等像視という.レンズによる拡大・縮小効果は,矯正しない状態で無限遠の物体を注視したときの網膜像の大きさと,レンズで矯正したときの網膜像の大きさの比で表される(図1a).通常,後述するCL装用ではその効果が減弱される.眼鏡による1Dあたりの矯正量で1~2.5%の像の大きさの変化が生じ,1D以上でも左右差で眼鏡装用困難者が出はじめるが,個人差は大きく,若年者では約4Dでも眼鏡装用可能との報告もある3).眼鏡装用困難な場合,一般にCL処方という選択肢が考慮される.III眼位不同眼鏡による屈折矯正のもう一つの弱点としてレンズのプリズム作用があげられ,Prenticeの法則とよばれ,レンズの光学中心からはずれるとプリズム作用が入ってくることによるもので(図2),そのプリズム量(Δ)=光学中心からのずれ(cm)×レンズの度数(D)として計算される.言い換えれば,レンズの光学中心からの1cmのずれは,レンズのパワー1Dにつき1プリズムジオプター分の光の偏位を生じる.とくに問題となるのは,第1眼位以外のときに生じるプリズム作用量が左右の眼で異なることにより斜位が誘発される眼位不同である.とくに下方視時に誘発される眼位異常には要注意である.IV眼鏡とCLの光学的な違い不同視例においても屈折矯正の第一選択は眼鏡であるが,CLの絶対的適応となるのは小児における不同視弱視を含む屈折性弱視の治療と,その後もCL装用を必要*HiroshiToshida:順天堂大学医学部附属静岡病院眼科〔別刷請求先〕土至田宏:〒410-2295静岡市伊豆の国市長岡1129順天堂大学医学部附属静岡病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(53)1275a1.51.41.31.2b1.51.41.31.2CL眼鏡CL眼鏡拡大率拡大率1.11.11.01.00.90.90.80.80.70.7-20-15-10-505101520D-20-15-10-505101520D屈折力屈折力図1屈折性屈折異常の網膜像の変化率(a)と軸性屈折異常の網膜像の変化率(b)(文献12より引用)遠視眼近視眼光学中心光学中心凹レンズ凸レンズ図2Prenticeの法則視軸が光学中心からのズレ(h)が生じた場合,プリズム効果は=プリズム作用度数(Δ)=h(cm)×レンズの度数(D)で計算され,遠視眼で装用する凹レンズではbaseout効果が,近視眼で装用する凸レンズではbasein効果が生じる.前焦点a.眼鏡装用時b.コンタクトレンズ装用時図3Knappの法則軸性屈折異常に対する網膜像の大きさを矢印で示す.a:眼鏡レンズを前焦点の位置で装用した場合(レンズの厚さは無視),Knappの法則に則り,常に一定で不等像視は生じない.b:コンタクトレンズ装用時はKnappの法則に適合しないため,網膜像の大きさ(矢印)に変化が生じて,不等像視が生じる可能性がある.(D)876543210度数(D)図4眼鏡またはコンタクトレンズ装用時における近見時に必要な調節量=必要な調節量-20-16-12-8-4048121620くなって眼精疲労が出現または増加するといった結果につながることを理解しておくべきである.2.遠視矯正における調節量の変化遠視を矯正する場合は,近視矯正の場合とは反対に,CLによる矯正時よりも眼鏡矯正のほうが調節量が多く必要となる.このことから,成人における眼精疲労抑制のための屈折矯正手段としては,遠視眼に対してはCLのほうに軍配が上がるが,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)では,市販され供給されている遠視矯正度数のラインナップの乏しさはいかんともしがたい現況である.VII小児における不同視例でのCL処方の留意点片眼の先天白内障術後無水晶体眼や片眼の強度近視眼,強度乱視眼ではCLの適応となる.よい適応となるのが酸素透過性ハードコンタクトレンズ(rigidgasper-meablecontactlens:RGPCL)であるが,小児へのCL装用には親の協力が必須である.具体的な配慮点に関しては筆者の既報を参照していただきたい5,6).視力発達時期は一般的に8~9歳前後で終了するといわれており,タイムリミットがあるため,なるべく早期から矯正しはじめることが重要である.小児の不同視弱視例では弱視眼が軸性の遠視であることが多く,その場合はできるかぎり弱視眼の完全矯正か,または日常的に遠方よりも近方のほうが見ている時間が長いため,近方にピントが合いやすい度数とするとよい.上述のように眼鏡矯正で不等像視が起こりにくいため,左右の屈折差が5Dくらいでも眼鏡装用可能なケースが多いとの報告もある4).その場合は眼鏡装用を優先するが,いずれの場合にせよ必ずあらかじめ調節麻痺下での他覚的屈折検査を含む,一通りの眼科的検査を行っておく必要がある.一方,小児の片眼の強度近視性不同視弱視例は一般に弱視治療に反応しにくく,とくに弱視眼の屈折が.6D以上,不同視差5D以上のものは弱視治療に抵抗することが多いとされている7).しかし白濱らは,弱視眼の屈折が.15D,乱視.7D,不同視差が17Dの軸性屈折異常による弱視の3歳児にSCLと眼鏡の併用と健眼遮蔽訓練によって矯正視力1.2が得られた症例を報告している.このことから,近視性不同視弱視といえども,親の協力の下で適切な時期に適切な屈折矯正と弱視訓練を行うことが重要と考えられる.HCLは小児にかぎらず装用当初の異物感が強く,軌道にのるまでが険しい道のりになることが少なくない.つい最近までは連続装用可能な従来型SCL(ブレスオーR)が絶大な支持を集めていたが,2020年春をもって終売となってしまうのは,弱視治療における大きな痛手である.VIII成人における不同視例でのCL処方の留意点梶田によれば,片眼の遠視例で矯正視力が出にくいために弱視と思われて,未矯正のまま成人になっても放置され,眼精疲労の原因となっている場合も少なくなく,その矯正手段は眼鏡よりもCLのほうが不等像視と歪曲収差が少ないため,CLによる矯正のほうが推奨されるとのことである8).IX眼位異常1.斜視明らかな斜視は手術適応であってCLのみで矯正できるものではないが,石田らは,近視のCL矯正目的で眼科を受診した症例に対して,網膜対応を考慮した斜視手術によって背理性複視を回避したという報告をしている9).斜視症例といえども,屈折矯正のみならず視機能全体を再確認することの重要性が読み取れる.症例によっては屈折矯正をCLで行い,斜視術後にも残余する軽微な斜視に対してプリズム眼鏡との併用を行うのが有効な場合もあるので,選択肢に含めるとよい.梶田は,眼鏡とCLの双方による矯正法をコンビネーション矯正処方とよんでいる10).2.斜位眼精疲労の原因の一つとして,近年急速にクローズアップされているのが斜位である.両眼で注視すれば眼位が正常となるために軽んじられがちだが,近視の過矯1278あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(56)