●連載監修=安川力髙橋寛二68.網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管の盛秀嗣関西医科大学眼科学教室抗VEGF薬による管理脈絡膜新生血管(CNV)を伴う網膜色素線条(AS)に対する抗CVEGF療法は,少ない治療回数でCCNVが退縮するにもかかわらず,視力予後は不良である.これは,CNV退縮後も脈絡膜の極端な菲薄化の進行により,網脈絡膜萎縮が拡大することが大きく関与している.はじめに網膜色素線条(angioidstreaks:AS)に伴う脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)に対しては,近年,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が用いられることが多い.本稿では,ASの特徴的所見とCASに伴うCCNVに対する抗CVEGF療法の問題点について紹介する.網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管とはASはC1889年にCDoyne1)により初めて報告された,男性に多い両眼性の疾患である.約半数の割合で全身の弾性線維の脆弱性を伴う病態を有し2),もっとも多いのは皮膚の弾性線維性仮性黄色腫を伴うCGroenblad-Strandberg症候群である.生下時は眼底に異常所見はなく,加齢に伴い以下の所見がみられるようになる.初期は視神経乳頭周囲の灰白色萎縮巣を認め,病期の進行に伴い,視神経乳頭から赤道部に向かうように放射状(ヒトデ状)の暗赤色~黒褐色の不規則な線条や黄斑部耳側に黄白色の点状病変である梨地状眼底を認める.まれに,視神経乳頭ドルーゼンや中間周辺部に黄白色の円形点状病変(cometlesion,視神経乳頭に向かう線状病変を伴うとCcometCtaillesionとよばれる)がみられる.病初期は無症状であり,40~50代の中年以降に検診などで偶然発見されることが多い.病理学的にはCBruch膜弾性板にカルシウムが沈着することでCBruch膜が肥厚または変性し,しばしば断裂を生じる.色素線条の拡大に伴いCBruch膜断裂部から続発性にCCNVが生じると,視力低下や変視症を認める.フルオレセイン蛍光眼底造影では色素線条は初期からCwindowdefectによる過蛍光を示し,後期には組織染を認める.CNVの多くは網膜下に生じるCGass分類C2型に属することから,CclassicCNVの所見を呈することが多い.インドシアニングリーン蛍光眼底造影ではCCNVは早期に造影されるが,後期には不明瞭となる.また,色素線条部は後期に(63)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYは組織染を示す.光干渉断層計では,CNVは網膜下の高反射物質として描出される.また,CNV以外にも,色素線条部のCBruch膜の断裂・波打ち様所見,cometlesionでの網膜外層の低反射像および網膜色素上皮(retC-inalpigmentCepithelium:RPE)直上の高反射像,梨地状眼底でのCBruch膜の石灰化によるCRPE-Bruch膜複合体の高反射像などの特徴的所見3)がみられる.通常,ASそのものに対する治療はなく,CNVが生じれば治療対象となる.網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管に対する抗VEGF療法過去2)には網膜光凝固術,経瞳孔的温熱療法,CNV抜去術,光線力学的療法などが行われていたが,視力維持の困難・再発率の高さなど治療後の成績が不良であることから,現在はほとんど行われていない.現在,おもな治療として抗CVEGF薬の硝子体内注射が行われているが,抗CVEGF薬は保険適用外の使用となるために,使用に際しては各施設で倫理委員会の承認が必要である.もともとCAS自身が比較的まれな疾患であることから,滲出型加齢黄斑変性(wetCage-relatedCmaculardegeneration:w-AMD)などの他疾患と比較して,治療成績の報告は少ない.抗CVEGF薬単独療法では,治療開始C1~2年の短期成績でみると視力改善の報告が多い4)が,一方でC4年後以降の長期成績では視力改善が困難であったという報告5)が散見される.当院でのC21例32眼の長期成績では,観察期間C91カ月(中央値)において治療回数はC3.5回(中央値)で,一方でCw-AMDにおけるCSEVEN-UP試験では観察期間C87.6カ月(平均値)において治療回数がC7.3回(平均値)であったことから,ASのCCNVに対する治療回数はCw-AMDと比較して少ないことがわかる.これはCASに続発するCCNVの多くがC2型CCNVであることから,RPE下に生じるC1型CCNVと比較して,抗CVEGF薬がCCNVに到達しやすく,CNVが退縮しやすいことも治療回数が少ない一因あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1165図1抗VEGF療法後に脈絡膜の菲薄化が進行したCNVを伴うAS症例(初診時71歳,男性)a:治療前(71歳)のCOCT像.中心窩下に網膜下高反射物質がみられた.中心脈絡膜厚(CCT)はC151Cμmとすでに薄かった.矯正視力C0.5.Cb:治療開始からC6年C6カ月後(77歳)のCOCT像.抗CVEGF薬投与をC4回行ったところ,CNVは平坦な線維性瘢痕に退縮したが,CCTはC56Cμmと極端な菲薄化を示した.矯正視力C0.1.図2抗VEGF療法によるCNVの退縮後に萎縮病変の拡大を認めたAS症例(初診時62歳,女性)a:治療前(62歳)の眼底写真.視神経乳頭周囲に色素線条および萎縮巣を認め,黄斑部近傍に網膜下出血とCCNVを認めた.Cb:治療開始からC7年C6カ月後(69歳)の眼底写真.抗CVEGF薬硝子体注射によりCCNVは沈静化したものの,萎縮巣の拡大を認めた.と考えられる.また,治療後ClogMAR視力(中央値)は治療前ClogMAR視力(中央値)と比較して,有意に悪化していた.治療回数が少ないにもかかわらず視力予後が不良である要因として,抗CVEGF療法による網脈絡膜萎縮の進行に加え,AS自身の特有の病態が大きく関与している可能性が高い.つまり,AS患者における経年的な脈絡膜の菲薄化の進行(図1)によるCRPEおよび脈絡膜萎縮病変の拡大(図2)も視力予後不良に関与していると推測される.ちなみに,当院における長期的な治療例の検討では,治療前中心脈絡膜厚(centralCchoroi-dalthickness:CCT)190Cμm(中央値)で,治療後はC96μm(中央値)と脈絡膜は極度に菲薄化し,萎縮拡大も全C1166あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019例に認めた.抗CVEGFの投与間隔については,w-AMDと同様に導入期にC3回注射し,その後の維持期は必要時投与(prorenata:PRN)を行うC3+PRN,もしくは,初回C1回のみ注射のあと維持期に入るC1+PRNで治療が行われている報告例が多いが,投与方法には一定の見解が得られていない.本症の治療については,今後,標準的投与方法の確立と同時に,萎縮拡大を抑制する治療方法も模索していく必要がある.文献1)DoyneRW:horoidalCandCretinalCchangesCtheCresultCofCblowsConCtheCeyes.CTransCOphthalmolCSocCUKC9:128,C18892)ChatziralliCI,CSaitakisCG,CDimitriouCECetal:angioidstreaks:AComprehensiveReviewFromPathophysiologytoTreatment,RetinaC39:1-11,C20193)PeterCI,RobertPF,FrankGHetal:MultimodalimagingincludingspectraldomainOCTandconfocalnearinfraredre.ectanceCforCcharacterizationCofCouterCretinalCpathologyCinCpseudoxanthomaCelasticum,CInvestCOphthalmolCVisCSciC50:5913-5918,C20094)BattagliaParodiM,IaconoP,LaSpinaCetal:Intravitre-albevacizumabfornonsubfovealchoroidalneovasculariza-tionCassociatedCwithCangioidCstreaks.CAmCJCOphthalmolC157:374-377,C20145)Martinez-SerranoCMG,CRodriguez-ReyesCA,CGuerrero-NaranjoCJLCetal:Long-termCfollow-upCofCpatientsCwithCchoroidalCneovascularizationCdueCtoCangioidCstreaks.CClinCOphthalmolC11:23-30,C2016(64)