マイクロバイオームマイクロバイオームとは何かマイクロバイオームmicrobiome(-omeは「すべての」という意味)とは,ある場所に生息する微生物の総体を意味しています.ヒトは口腔,腸管,皮膚,外陰部などにマイクロバイオームを保有していて,ヒト細胞の1~3倍に及ぶヒト以外の細胞が存在するといわれています.とくに口腔,腸管にはきわめて多様な微生物が存在しており,いまだにすべてを把握することはできていません.また,マイクロバイオームの構成には個体差が大きく,まったく同じマイクロバイオームをもつ人はいないのです.マイクロバイオームに対する新しいアプローチわれわれがある部位の細菌を調べようと考えたとき,これまでは古典的な細菌培養による方法を用いてきました(図1).しかし,培養することができる細菌は,細菌全体のうちごく一部に過ぎないことがわかっています.つまり,細菌培養で生えない細菌は調べることができないため,この方法で微生物の総体であるマイクロバイオームを調べることには限界があります.そこで登場したのがメタゲノム解析という方法です(図2).メタゲノム解析では,採取した検体を培養することなく,直接DNAを抽出・増幅します.得られたDNAは次世代DNAシーケンサーによってDNA配列を解読します.これにより,その部位に存在する細菌のDNAを網羅的に解析します.メタゲノム解析を用いると,これまで細菌培養では知ることのできなかった未知の細菌を含め,いろいろなこと細菌培地に接種使用した培地で発育可能な細菌だけが増殖する単離した細菌を用いてDNAシークエンスなどさまざまな方法で解析する図1細菌培養による従来の細菌学研究検体は細菌培地に接種され,培養条件に合致した細菌だけが発育する.そのため,人工培養が不可能な細菌を調べることはできない.戸所大輔群馬大学大学院医学研究科病態循環再生学講座眼科学分野がわかります.肥満の人とやせている人では腸内細菌の構成が異なっているという有名な研究結果1)がありますが,こういった研究もメタゲノム解析の手法を用いています.眼表面のマイクロバイオームでは,眼表面のマイクロバイオームはどうなっているでしょうか.古典的な細菌培養では,眼表面の常在細菌叢はおもに表皮ブドウ球菌,コリネバクテリウム,アクネ菌,黄色ブドウ球菌から構成されるとされています.しかし,常在細菌叢は高齢や涙道閉塞症などによりそのバランスを失い,腸球菌や緑膿菌などの細菌が分離されるようになります.筆者らが眼表面から分離される腸球菌の性質を詳しく調べたところ,一部のドライアイ患者の眼表面には同一の菌株が数年以上も棲みつづけていることがわかりました2).近年報告されたメタゲノム解析による結膜.マイクロバイオームの研究では,これまでに考えられていたよりもPseudomonas属やAcinetobacter属などの環境菌が多く検出されています3).眼表面のマイクロバイオームは何に影響され,回復にどのくらいの時間がかかるのか,今後の研究が期待されます.文献1)LeyRE,TurnbaughPJ,KleinSetal:Microbialecology:humangutmicrobesassociatedwithobesity.Nature444:1022-1033,20062)TodokoroD,EguchiH,SuzukiTetal:GeneticdiversityandpersistentcolonizationofEnterococcusfaecalisonocularsurface.JpnJOphthalmol62:699-705,20183)OzkanJ,WilcoxM,WemheuerBetal:Biogeographyofthehumanocularmicrobiota.OculSurf17:111-118,2019M(メガ)またはG(ギガ)のオーダーの塩基配列が1回で読める検体から直接細菌DNAを抽出・増幅し,16SリボゾームDNAを増幅次世代シークエンサーでDNAシークエンス図2次世代DNAシークエンサーによるメタゲノム解析培養を行わず,検体から直接,細菌の16SリボゾームDNAを検出し解析する方法である.未知の細菌,培養不能菌を含む多数の細菌DNA配列を得ることができる.(81)あたらしい眼科Vol.36,No.7,20199190910-1810/19/\100/頁/JCOPY