‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス 191.先天白内障とPHPVの合併例に対する硝子体手術(中級編)

2019年4月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載191191先天白内障とPHPVの合併例に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに先天白内障は小角膜,小眼球,無虹彩症,第一次硝子体過形成遺残(persistenthyperplasticprimaryvitre-ous:PHPV)などの眼先天異常を伴うことがあり,このような眼先天異常の合併は,生後3カ月以内に発症した先天白内障に多いとされている1).筆者らは以前に,片眼先天白内障に対して経毛様体扁平部(皺襞部)水晶体切除術(parsplanalensectomy:PPL)を施行中にPHPVを認め,硝子体切除術を併施した1例を経験し報告したことがある2).●症例11カ月女児.母親が左眼の瞳孔が白いことに気づき近医受診,左眼先天白内障の診断で当科紹介となった.左眼は成熟白内障で眼底透見不能(図1),超音波Bモード検査では目立った異常所見は検出できなかった(図2).全身麻酔下でPPLを施行中に水晶体後.直下に白色膜状組織を認め(図3),この部位から硝子体ゲル内を紐状索状物が視神経乳頭まで連続している所見が観察された.PHPVと診断し,硝子体切除と同時に索状物も切除した.術中索状物の断端から出血が生じた(図4)ので,眼内ジアテルミーで止血した.術後眼底の視認性は改善し,連続装用ソフトコンタクトレンズを装着し経過観察中である.●先天白内障に対する術前検査の重要性眼底透見可能な症例では,術前に広範囲にわたって眼底を精査する.未熟児網膜症で白内障を合併することもあるので,出生時のアナムネーゼは重要である.Down症候群,Lowe症候群などの全身疾患の有無も確認する.白内障の程度が強く,眼底の視認性が不良の症例では必ず超音波Bモード検査を施行する.とくに注意を要するのは網膜芽細胞腫などの腫瘍性疾患の有無であるが,(93)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1術前の左眼前眼部写真成熟白内障で眼底透見不能であった.図2術前の超音波Bモード写真目立った異常所見は検出できなかった.図3術中所見(1)水晶体後.直下に白色膜状組織を認めた.図4術中所見(2)硝子体ゲル内を紐状索状物(PHPV)が視神経乳頭まで連続している所見が観察され,硝子体切除と同時に索状物も切除した.術中断端から出血が生じたので,眼内ジアテルミーで止血した.その他,網膜.離,網膜分離,硝子体出血などの有無も確認する.本提示例ではPHPV自体が細かったことと成熟白内障による超音波の減衰で術前のPHPVの検出は困難であった.眼底透見不能の先天白内障ではPHPVなどの後眼部疾患の合併を常に念頭においておく必要がある.文献1)仁科幸子:先天異常を伴う白内障.眼科手術20:485-489,20072)三宅優子,河本良輔,多良安紀子ほか:第一次硝子体過形成遺残(PHPV)を合併し硝子体手術を併施した先天白内障の1例.眼臨紀11:172-175,2018あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019515

眼瞼・結膜:抗がん剤と眼表面の変化

2019年4月30日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人近間泰一郎49.抗がん剤と眼表面の変化広島大学大学院医歯薬保健学研究科視覚病態学抗がん剤による眼表面の変化は,涙液中の抗がん剤の濃度が上がり,ターンオーバーの速い角膜上皮細胞の増殖が抑制されることが主たる原因で生じると考えられる.適切な問診や「お薬手帳」の活用により候補薬剤が判明することが多い.主治医との円滑な連携による迅速な対応が求められる.●はじめにがん治療の現場では経口投与が可能な抗がん剤が登場し,患者のCqualityoflife(QOL)の向上に寄与している.一方で眼科医がこれまでみたことのない眼表面異常に遭遇する機会が増加している.また,分子標的薬や免疫チェックポイント薬といった新しい作用機序を有する薬剤が上市され,これらの薬剤と従来の抗がん剤の併用により,臨床治験の段階では報告されていない副作用がみられることもある.本稿では,抗がん剤による眼表面異常について,角膜上皮障害を中心に解説する.C●抗がん剤による眼表面異常の臨床像と病態自覚症状としては,視力低下,羞明,かすみ,異物感,痛み,流涙などであり,抗がん剤に特異的なものはない.抗がん剤使用開始後,比較的早期(1~2カ月後)に発症するものから長期投与後に発症するものまでさまざまである.また,点眼薬による中毒性角膜症,ドライアイ,輪部機能不全(異型上皮侵入)との鑑別が必要である.角膜上皮は,非常に速いターンオーバーにより恒常性が維持されている.したがって,抗がん剤に共通する細胞増殖抑制作用により角膜上皮細胞の増殖能に影響が及び,上皮細胞の脱落に比して供給が追いつかなくなることで点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopaC-thy:SPK)などの上皮障害が生じる.一方で結膜上皮障害はみられないことがほとんどである.結膜上皮は角膜上皮と比べてバリア機能が低いことが知られている.解剖学的な違いや,結膜の表面積から細胞数の違い,あるいは薬剤に対する反応性の違いが関与している可能性が推測されるが,現時点ではその詳細は不明である.C●代表的抗がん剤の特徴と臨床所見フルオロウラシル(5-FU)のプロドラッグであるテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(S-1)は,消化器がんに対して有用性の高い経口抗がん剤であ(91)る.合併症として角膜上皮障害と涙道障害が知られており,それぞれ単独あるいは両者を合併する症例もある1).S-1服用患者の涙液中にはC5-FUが検出されており2),S-1による眼表面障害の主たる原因は涙液中のC5-FUによると考えられる.また,涙小管閉塞が生じると不可逆的であることから,涙液メニスカスの上昇や涙点の狭窄所見がみられる場合はシリコーンチューブ留置術を早急に行う必要がある3).なお,涙点狭窄,涙小管閉塞は主として涙液中のC5-FUによる慢性炎症に伴う粘膜の線維化が原因と推測している報告4)があり,粘膜炎の側面が強いと考えられる.発症時期は投与後C1~2カ月という早い症例も多いことから,主治医は流涙,羞明,異物感などの自覚症状に常に気をつけておく必要がある.S-1による眼表面異常は,とくに上下の角膜輪部から角膜中央部に向けてやや透明性の低い上皮の侵入がみられるパターン(シート状病変)が特徴的である(図1).また,角膜中央部やや下方を中心としたCSPK様パターン(SPK状病変)が主たる所見である(図2).上皮細胞の脱落がさらに亢進するとクラックラインを呈することもある(図2).これらの所見から角膜輪部機能の障害が推測される.生体共焦点顕微鏡による観察では,上皮層の創構造の破綻と軽度の炎症が観察される粘膜炎という報告もある5).エルロチニブ(商品名:タルセバ)は,上皮成長因子受容体(epidermalCgrowthCfactorreceptor:EGFR)チロシンキナーゼ活性を選択的に阻害することでがん細胞の増殖を抑制する薬剤である.角膜上皮基底細胞でより多くのCEGFRが発現していることから,エルロチニブが輪部血管あるいは涙液を介して角膜上皮細胞の増殖抑制を生じ,角膜上皮の脱落が促進することにより角膜上皮障害が生じると推測される.角膜穿孔が生じた例も報告されている6).特徴的な眼所見として,睫毛がカール状に長く伸びる異常が観察される(図3).その他,パクリタキセル7)やトラスツズマブ+エムタンシン(T-DM1)8)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5130910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1S.1投与でみられたシート状病変a:強膜散乱法では透明性の低い異型上皮が輪部を超えて角膜中央部に侵入していることが認識される.Cb:フルオレセイン染色で瞳孔領に向かって上方輪部から異型上皮の侵入がみられる.図2S.1投与でみられた点状表層角膜症(SPK)状病変とクラックラインa:SPK状病変,Cb:クラックライン.による角膜上皮障害も報告されている.C●抗がん剤による眼表面異常の治療涙液中の薬剤濃度を低下させる目的で,防腐剤を含まない人工涙液の頻回点眼を行う.粘膜炎の観点から低濃度のステロイド点眼を併用することもあるが,上皮細胞の増殖能を低下させる可能性があり,上皮障害が悪化する場合は使用を控える.症状の程度に応じて,主治医に対して薬剤の中止あるいは変更が可能かを相談することも重要である.C●おわりに内服の抗がん剤に伴う角膜障害は,発症のタイミングや特徴的な所見を呈することが比較的多いため,フルオレセイン染色を併用した細隙灯顕微鏡検査から使用薬剤の関与を疑うことが重要である.がん治療を行っている患者は,眼科の診察を受ける際にそのことを自分から申図3エルロチニブ投与中にみられた睫毛異常睫毛がカール状に長生する異常も伴っている.告することは少ない.したがって,問診や「お薬手帳」による使用薬剤の確認が重要であり,疑わしい薬剤の処方に関する対応について,薬剤を処方している主治医と直接やりとりすることが重要なポイントとなる.眼科医としてはCqualityofvision(QOV)の改善・維持が重要であるが,生命維持とともにCQOLの改善・維持の観点から,患者一人一人がおかれている状況に即した最善の方法を模索することが必要になる.文献1)末岡健太郎,近間泰一郎:TS-1による眼障害.あたらしい眼科35:1323-1328,C20182)AkuneCY,CYamadaCM,CShigeyasuC:DeterminationCofC5-.uorouracilandtegafurintear.uidofpatientstreatedwithCoralC.uoropyrimidineCanticancerCagent,CS-1.CJpnJOphthalmol62:432-437,C20183)坂井譲,井上康,柏木広哉ほか:TS-1CRによる涙道障害の多施設研究.臨床眼科66:271-274,C20124)KimN,ParkC,ParkDJetal:Lacrimaldrainageobstruc-tionCinCgastricCcancerCpatientsCreceivingCS-1Cchemothera-py.AnnOncolC23:2065-2071,C20125)ChikamaCT,CTakahashiCN,CWakutaCMCetal:NoninvasiveCdirectCdetectionCofCocularCmucositisCbyCinCvivoCconfocalCmicroscopyCinCpatientsCtreatedCwithCS-1.CMolCVisC15:C2896-2904,C20096)MorishigeN,HatabeN,MoritaYetal:Spontaneousheal-ingofcornealperforationaftertemporarydiscontinuationoferlotinibtreatment.CaseRepOphthalmol5:6-10,C20147)細谷友雅,森松孝亘,田片将士ほか:乳癌に対するCnab-paclitaxel投与が原因と考えられた角膜障害のC1例.日眼会誌120:449-453,C20168)水野優,近間泰一郎,戸田良太郎ほか:TrastuzumabEmtansine投与で角膜障害をきたしたC1例.臨床眼科71:C1051-1055,C2017C514あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019(92)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:長期維持における私のこだわり

2019年4月30日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二63.加齢黄斑変性:長期維持における石橋弘基梅野有美吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座私のこだわり滲出型加齢黄斑変性は慢性進行性の疾患で,長期にわたる継続した治療や経過観察が必要である.現在,抗VEGF薬硝子体内投与が標準治療として用いられており,治療初期の目標は視力改善で,その後,改善した視力を長期に維持することが重要と考える.導入期から維持期の投与法滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法の維持期の投与法として,おもに必要時に投与するprorenata(PRN)法と,ドライマクラを維持できるよう投与間隔を延長しながら計画的に投与するtreatandextend(TAE)法がある.ラニビズマブを毎月1回2年間投与し,その後はPRN法で投与し,平均7.3年経過観察したSEVEN-UPstudyでは,7年後の視力はベースラインより-8.6文字となり,PRN法は長期的には視力を維持できない可能性が示された1).VIEWstudyでは,52週まではラニビズマブまたはアフリベルセプトの4週または8週の固定投与を行い,その後はmodi.edquarterlydosing期として病状悪化時もしくは最終投与から12週に1回の投与を行い,96週まで経過観察されている.このVIEWstudyのサブ解析において,modi.edquarterlydosing期の最初の12週以内に5文字以上の視力低下という再投与基準を満たした症例は,その後再投与されたが,最終的に-4.4~-5.8文字の視力低下をきたした2).これらの結果に示されるように,維持期には「一度低下した視力は戻らない」ことを念頭において治療する必要がある.PRN投与が再発を確認してから投与を行うreactive療法であるのに対し,TAE法は再発前に投与を行うproactive療法であるため,TAE法では長期的な視力維持が期待でき,筆者らの施設(以下,当院)ではTAE法を積極的に行っている.当院におけるTAE法を図1に示す.導入期は連続3回毎月投与し,3回でドライマクラが得られなければドライマクラが得られるまで4週ごとの投与を継続している.治療初期の目標は視力改善であり,そのためにはまず導入期にしっかりドライマクラが得られるまで4週ごとでの投与を継続することとしている.維持期は2週間隔での延長・短縮とし,12週間隔は少なくとも4回施行し,その後16週間隔で4回とも再発を認めなければ,患者の希望を確認し,①16週間隔を継続,②20週間隔へ延長,③いったん中止し経過観察,のいずれかとしている.当院で滲出型AMDに対し,アフリベルセプト硝子体内投与をTAE法で施行した39例39眼の4年成績を検図1当院でのTreatandExtend法導入期は連続3回毎月投与し,2週間隔の延長・短縮を基本とする.12週間4週16隔で4回は施行し,16週drydrydrydry・・・drydry・・・・・週週週4週4週4週間隔を4回施行後は,①4週8週6週4週1012に延長,③いったん中止wetwet・・・drydrydrydry・・・のいずれかとする.16週間隔を継続,②20週週週8週6週6週wetdrydry・・・(89)あたらしい眼科Vol.36,No.4,20195110910-1810/19/\100/頁/JCOPYlogMAR値Wilcoxonsigned-ranktest0.80.70.60.50.40.30.20.1001234(年)図2視力治療前と比較して1年目,2年目,3年目,4年目のいずれの時点でも有意に改善している.(μm)Wilcoxonsigned-ranktest600**5004003002001000(年)図4中心窩網膜厚治療前と比較して1年目,2年目,3年目,4年目のいずれの時点でも有意に減少している.討した(治療歴あり:18眼,治療歴なし:21眼).その結果,視力は治療前と比較して1年目で有意に改善した.1年目で改善した視力と比較すると,3年目と4年目では低下したが,4年目でも治療前より有意に改善していた(図2).治療前と治療後4年での視力変化は,改善・不変:94%,悪化:6%と,ほとんどの症例で視力の維持が可能であった(図3).中心窩網膜厚は1年目で有意に減少し,4年目まで維持可能であった(図4).平均投与回数は1年目:7.9回,2年目:6.0回,3年目:5.5回,4年目:5.4回であった.投与間隔が12週以上の症例は,1年目:46.2%,2年目:46.2%,3年目:43.6%,4年目:44.7%であり,さらに4年目では16週以上が23.7%(9/38眼)であった.TAE法では投与間隔の延長が可能なため患者の来院回数を減らすことができ,長期に治療・経過観察の継続が必要な患者の負担が軽減できる.長期管理AMDは慢性疾患であり,治療の目標は長期に視機能を維持することである.したがって,患者に病気と長くつき合っていくという気持ちをもってもらい,定期的な受診を継続してもらうことが重要となる.そのためにはまず,治療開始前に患者とその家族が十分にAMDの病態や治療を理解する必要がある.筆者は512あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019悪化6%図3治療前と治療後4年での視力変化*logMAR0.3以上の変化を有意とする治療開始の際には可能なかぎり家族とともに治療の説明を聞いていただいている.高齢な患者が一人でしか受診できない場合は,直接家族に電話で説明することもある.説明時には眼球模型やAMD患者説明用資材を利用し,患者本人のカラー眼底写真や光干渉断層計(OCT)の画像を見せながら説明することで病気への理解を深めてもらい,患者本人に積極的に治療に参加してもらうよう心がけている.抗VEGF療法については,PRN投与の場合は注射回数は必要最低限にはなるが,長期的に低下した視力が戻らない可能性があることや,厳密な管理のため通院間隔も1カ月ごとが望ましいことなどを,TAE法では不必要な投与となる可能性もあるが,投与間隔・受診間隔の延長も可能であり,長期に視力の維持が期待できる方法であることなど,それぞれのメリット・デメリットを説明している.前述のようにTAE法では長期的な視力維持が期待できるため,TAE法を積極的に行っているが,注射の費用負担が大きいことや注射すること自体を負担に思われる患者もいるため,患者の希望に応じ,個々に合わせて投与法を適時変更している.治療開始後,導入期には自覚の改善を認めるものの,維持期に再燃した際は自覚症状が悪化していないことも多い.受診時は毎回OCT画像を見せることで現状を理解してもらい,再発の際に自覚がなくても注射の必要性を理解していただいている.患者自身が病状を把握し,治療に参加していることを実感することで,長期に受診・治療を継続するモチベーションを保ち,視力を維持することにつながると考える.文献1)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearout-comesinranibizumab-treatedpatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:amulticentercohortstudy(SEVEN-UP).Ophthalmology120:2292-2299,20132)RichardG,MonesJ,WolfSetal:ScheduledversusProReNataDosingintheVIEWTrials.Ophthalmology122:2497-2503,2015(90)

緑内障:続発緑内障の原因診断のためのPCR法

2019年4月30日 火曜日

●連載226監修=山本哲也福地健郎226.続発緑内障の原因診断のための高瀬博東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学CPCR法続発緑内障はぶどう膜炎の主要な合併症であるが,ヘルペスウイルスによるぶどう膜炎には眼内液CPCR法による診断が重要である.PCR法の適応を検討すべき臨床所見には,片眼性,豚脂様角膜後面沈着物,高眼圧があげられる.Posner-Schlossman症候群と診断されている症例にも,PCR法を検討すべきものが多く含まれる.●はじめに続発緑内障はぶどう膜炎患者の予後を規定する重要な合併症であり,そのマネジメントには的確な原因診断が不可欠である.非感染性ぶどう膜炎が原則的にステロイドや免疫抑制薬によって治療されることに対して,感染性ぶどう膜炎には感染病原体特異的な治療が必要となるため,その診断には正確を期す必要がある.ポリメラーゼ鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法は,検索対象となる遺伝子を含む眼内液と,それ特異的に結合するプライマーとよばれる一対の短い核酸断片,酵素,基質などの混合液に加熱と冷却をくりかえすことで,プライマーに結合するCDNA領域を大量に複製,検出するものであり,微量な眼内液から感染病原体遺伝子を検出できる鋭敏な検査法である.しかし,眼内液の採取は侵襲を伴うものであり,すべてのぶどう膜炎で行うことはできない.本稿では,PCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障について述べる.C●PCR法で検出しやすい病原微生物と検出しにくい病原微生物ぶどう膜炎の原因となる微生物でCPCR法が有用なものには,単純ヘルペルウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV),トキソプラズマ,ヒトCT細胞白血病ウイルスC1型(HTLV-1)プロウイルス,細菌C16SリボソームCRNA,真菌C28SリボソームCRNAなどがあげられる1).一方,結核菌,梅毒トレポネーマ,トキソカラなどはCPCR法での検出率は一般に低い.C●PCR法を考える前にやるべきことぶどう膜炎の診断は,詳しい問診,両眼の隅角検査と(87)散瞳眼底検査,可能であれば蛍光眼底造影検査を含む徹底的な眼科的検査,そして臨床所見に応じた全身検査が必要である.サルコイドーシス,Vogt・小柳・原田病,Behcet病などは診断基準に沿った検査を漏れなく行うことで多くの場合で診断が可能であり,トキソプラズマ,HTLV-1,結核,梅毒,トキソカラなどは全身検査による診断が基本である.これらのプロセスを経ることなく,まして眼底検査を施行せずにCPCR法を検討することは通常ない.C●PCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障とその特徴上述のプロセスによる診断が困難であり,かつCPCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障は,HSV,VZV,CMVなどによる前部ぶどう膜炎(anterioruveitis:AU)である.その特徴は,片眼性,豚脂様角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KP)(図1),ときに「びっくりするような」眼圧上昇(図2)の三つである.原則的に片眼罹患だが,CMV-AUの数パーセントと,ごくまれにCHSV-AUに両眼性病変が存在する.KPは大小さまざまで,色素沈着の程度もさまざまである.CMV-AUでは角膜内皮炎によるCcoinlesionを形成することもある(図1).眼圧はC40CmmHgを超すような場合でも激しい自覚症状は伴わず,ケロっとしていることが多い.しばしばステロイド点眼によって一時的な眼圧下降が得られるが,最終的には抗ウイルス治療なくしては眼圧下降が得られなくなる.隅角には色素の左右差がみられることが多く,強い色素沈着はCVZV-AUを,色素脱失はCCMV-AUを疑う.原則的に開放隅角であり,隅角結節やテント状周辺虹彩前癒着を多数認める場合はサルコイドーシスや結核を疑うべきである.VZV-AUでは分節状の虹彩萎縮(図1)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5090910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1ヒトヘルペスウイルスによる前部ぶどう膜炎の前眼部写真aba:水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による前部ぶどう膜炎(AU)の豚脂様角膜後面沈着物(KP).大型で薄く色素を伴い,汚い印象である.Cb:VZV-AUに生じた軽度の分節状虹彩萎縮.Cc:サイトメガロウイルス(CMV)によるAUのCKP.色素を伴わず白色小型のものが少数みられる.Cd:CMV-AUのcoinlesion.c図2ヒトヘルペスウイルスによる前部ぶどう膜炎の最大眼圧単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV)による前部ぶどう膜炎(AU)の炎症期における最大眼圧(IOP).(文献C2より許可を得て改変,転載)を認め,CMV-AUではびまん性の虹彩萎縮を認めることがある.罹患眼の角膜内皮細胞密度の減少はCCMV-AUでしばしばみられる2).ここまで述べたぶどう膜炎像の多くは,Posner-510あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019Schlossman症候群(Posner-Schlossmansyndrome:PSS)3)と重なるものであり,PSSとして加療されているぶどう膜炎続発緑内障にはCCMV-AUや,さらには風疹ウイルス4)やサルコイドーシスの初期なども含まれている可能性がある.PSSはあくまで除外診断の果てに用いる診断名であり,PSSに合致する症例でも原因検索の努力を怠るべきではない.長年にわたり再発を繰り返すCPSSには,PCR法を含めたぶどう膜炎検査を再考すべき症例が数多く存在するものと考えられる.文献1)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacomprehen-siveCpolymeraseCchainCreactionCsystemCforCdiagnosisCofCocularinfectiousdiseases.OphthalmologyC120:1761-1768,C20132)TakaseH,KubonoR,TeradaYetal:Comparisonoftheocularcharacteristicsofanterioruveitiscausedbyherpessimplexvirus,varicella-zostervirus,andcytomegalovirus.JpnJOphthalmolC58:473-482,C20143)PosnerCA,CSchlossmanA:SyndromeCofCunilateralCrecur-rentCattacksCofCglaucomaCwithCcycliticCsymptoms.CArchCOphthalmolC39:517-535,C19484)CheeCSP,CJapA:PresumedCFuchsCheterochromicCiridocy-clitisCandCPosner-Schlossmansyndrome:comparisonCofCcytomegalovirus-positiveCandCnegativeCeyes.CAmCJCOph-thalmol146:883-889,C2008(88)

屈折矯正手術:EDOF眼内レンズ(Technis Symfony)

2019年4月30日 火曜日

監修=木下茂●連載227大橋裕一坪田一男227.EDOF眼内レンズ(TechnisSymfony)三木恵美子南青山アイクリニックEDOF眼内レンズのひとつであるCTechnisSymfony(テクニスシンフォニーオプティブルーとテクニスシンフォニートーリックオプティブルー)について,見え方と使い方を紹介する.従来の多焦点眼内レンズに比べて見え方の質は改善されているが,術後に得られる見え方と可能性のある不具合を理解し,それぞれの目的に合ったレンズを選ぶことが重要である.C●はじめに多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の種類が増え,それぞれに見え方の質の改善にいろいろな工夫がなされており,白内障術後に眼鏡使用を減らし,より快適な生活が期待できるようになった.しかし,にじみ,グレア,ハローなどは避けることができず,それらを軽減しCQOVの向上がさらに望まれるところである.テクニスシンフォニーオプティブルーとテクニスシンフォニートーリックオプティブルー(いずれもジョンソン・エンド・ジョンソン,以下,Symfony)はCextend-eddepthoffocus(EDOF)IOLのひとつで,焦点深度を拡張することにより,遠方から中間まで連続して見ることができる.単焦点CIOLの遠方視力の質を落とすことなく,多焦点CIOLのように広範囲が見えるCIOLである.C●レンズの設計Symfonyは独自のエシェレット回折デザインにより,すべての透過光が相互に干渉し,焦点深度を拡張(約1.5D相当)するように設計されている.Achromatictechnologyにより色収差を低減しコントラスト感度をlogMAR視力(少数視力)(2.00)-0.3(1.60)-0.2(1.25)-0.1(1.00)0.0(0.80)0.1(0.63)0.2(0.50)0.3(0.40)0.4(0.32)0.5(0.25)0.6■TECNISSymfony.IOL2.01.51.00.50.0-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5-3.0付加度数図1焦点深度曲線単焦点CIOLに比べて中間(1.5D)まで良好な視力が続き,その後の落ち込みも少ない.(ジョンソン・エンド・ジョンソン提供)向上させ,回折溝のない中心部も広く設定されており,光の損失率は8%と他の多焦点CIOLに比べ少なくなっている1).Symfonytoricの乱視矯正量はC4段階(角膜面で1.03/1.54/2.06/2.57D)である.C●見え方の改善焦点深度拡張に伴い,遠方から中間まで落ち込みがない自然な見え方が得られ(図1)グレア,ハローなどのdysphotopsiaが軽減される(図2).また,光の損失率が抑えられることによって,従来の加入度数が多い多焦点CIOLで問題になる夜間視も比較的良好に保たれると考えられる.色収差の低減によってコントラスト感度低下は少ないとされる2).しかし,近距離視力は不十分なので,近見時の眼鏡使用が前提となる.図2IOLの違いによる光学特性a:Symfonyでは焦点深度が延長される.Cb:単焦点ではC1カ所に焦点が結ばれる.Cc:2焦点ではC2カ所に焦点を結ぶが,周辺にCdysphotopsiaの原因になる焦点を結ばない光がみられる.(ジョンソン・エンド・ジョンソン提供)(85)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5070910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3Symfony挿入例回折溝のない中心部が広く設計されている.●Symfonyの適応2重,3重焦点の多焦点CIOLにより眼鏡使用頻度は少なくできるが,グレア,ハローが避けられず,場合によっては夜間運転に影響する可能性がある.不満例では摘出も報告されている3).SymfonyでもCdysphotopsiaは起こるが軽度であり,多焦点CIOLによる見え方の質の低下が心配な人にはいい適応である.また,従来の多焦点CIOLより収差は許容でき,LASIKやレーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)後の眼にも使用可能である.ただし,強い収差や角膜の不正乱視などは慎重に検討するべきである.緑内障や黄斑変性症などがある場合は視力が出にくいと考えられるので,術前のCOCTなどで十分に評価を行う.読書には老眼鏡が必要(1~1.25D加入)だが,海外ではタブレットなどの端末は裸眼で問題ないとしている.また,片眼を軽い近視にして焦点深度を読書距離まで広げ,近方視力の改善も得られるとされる.Cochenerら4)はマルチセンタースタディーでCSymfonyを用いたモノビジョン(片眼を遠方,他眼を-0.5D程度に合わせる.DiscussionでCmini-monovisionとよんでいる)を報告している.両眼を遠方に合わせた症例と比べてモノビジョン群のほうが裸眼での中間と近方視力はよく,老眼鏡使用はC14%であった.満足度は両群で高かった.90%以上の症例でグレア,ハロー,スターバーストの自覚は「なし」から「軽度」であるが,モノビジョンではCdys-photopsiaのリスクが増えることとCneuroadaptできない症例もあることには注意が必要である.当院の症例で両眼遠方狙いのC13例C21眼(男性C6例,女性C7例,平均年齢C60.4歳)をみてみると(図3),術後平均視力は遠方裸眼視力C1.04(矯正C1.26,平均等価球面度数-0.20±0.22D,球面+0.07±0.29D,乱視-0.53C508あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019±0.59D),中間裸眼視力(60Ccm)0.96,近方裸眼視力(30Ccm)0.56であった.近見時の眼鏡装用については「使わない」がC30%,「ときどき使う」がC45%,「いつも使う」がC25%であった.グレアはC65%,ハローはC75%で「感じない」から「軽度」であり,気にならないようである.おおむね良好な結果であるが,1例,ハローがかなり気になるという症例がある.59歳,男性で裸眼視力は遠方右眼C1.2/左眼C1.5,中間右眼C1.2/左眼1.2,近方右眼C0.6/左眼C0.7,眼軸長は右眼C23.17/左眼22.97Cmmであった.検査結果だけをみていると問題がないように思われるが,近方がかなり見づらいと訴える.しかし眼鏡は使用していない.このように検査結果と自覚症状の乖離が起こることもあり,多焦点CIOL使用のむずかしさを感じる症例である.C●おわりにSymfonyは多焦点CIOLの選択肢として有用である.白内障治療と同時に屈折矯正も考える時代である.患者のライフスタイルと希望を伺い,十分なインフォームド・コンセントを行い,単焦点,モノビジョンを含めてふさわしいCIOLを選択してほしい.文献1)平岡孝浩:Symfony.CIOL&RSC32:120-127,C20182)Esteve-TaboadaJJ:E.ectoflargeaperturesontheopti-calCqualityCofCthreeCmultifocalClenses.CJRefCSurgeryC31:C666-672,C20153)DaviesEC:Intraocularlensexchangesurgeryatatertia-ryCreferralcenter:Indications,Ccomplications,CandCvisualCoutcomes.JCataractCRefractSurgC42:1262-1267,C20164)CochenerB:ClinicalCoutcomesCofCaCnewCextendedCrangeCofCvisionCintraocularlens:InternationalCmulticenterCCon-certostudy.JCataractRefractSurgC42:1268-1275,C2016(86)

眼内レンズ:代用水晶体嚢を用いた水晶体脱臼症例に対する超音波乳化吸引術

2019年4月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋389.代用水晶体.を用いた水晶体脱臼症例に秋元正行大阪赤十字病院眼科対する超音波乳化吸引術硝子体内に脱臼した水晶体の処理は困難であり,さまざまな工夫が行われてきた.筆者らは,テストチャンバーから切り出したシリコーン製薄膜を用いる方法を確立した.シリコーン製薄膜を眼内に挿入して脱臼水晶体を確保し,虹彩面まで挙上し代用水晶体.として使用することで,通常症例に近い超音波乳化吸引ができる.●シリコーン製薄膜の作製シリコーン製薄膜は超音波白内障手術のパッケージに必ずついてくるシリコーン製テストチャンバーを用いる(図1a).切断して帯の付いたボウル状にする(図1b).6-0ナイロン糸を通糸して,帯と合わせて三点固定できるようにする.●術中操作角膜ポートを3カ所に作製し,帯部を下方に挿入,糸部を上方に通糸する(図2a).帯部は長さが約20mmなので,眼外部分をわずかに残して眼内に挿入しておくことで,ボウル部分は脱臼水晶体のおおむね直上にくる.脱臼水晶体を硝子体カッターの吸引でボウルの上に乗せる(図2b).3本の足を引き上げ,虹彩面まで挙上する(図2c).●超音波乳化吸引シリコーン薄膜の代用水晶体.は破.する懸念がないので,通常より強めの条件で超音波乳化吸引を行うことができる(図2d).水晶体処理後,ナイロン糸を切断し,ボウルのエッジを有鈎鑷子で把持すれば,スルリと抜き抜くことができる(図2e).硝子体内には細かい皮質片が散乱していることはあるが,ボウルをしっかり引き揚げて隙間をなくしておけば,核片の落下はまずみられない(図2f).●まとめ本法は,広く行われている液体パーフルオロカーボンを使用する方法と比べると,眼内への挿入はやや煩雑ではあるが,水晶体片はボウル中央部に位置し,超音波操作は通常に近くやりやすい.破.の心配なく,強く破砕できる.抜去はボウルエッジが確認できれば比較的容易で,残留物の心配はない.テストチャンバーは付属品のため,費用対効果は圧倒的である.現在,販売元はんだや・製造元河野製作所と2019年中に製品として上市をめざして改良中である.シリコーンボウルの形状がくらげ(jelly.sh)に似ていることから本法をSilicone.sh法と名づけた1).文献1)KiritoshiS,KusakaM,AkimotoM:Elasticsiliconebowltosalvagedislocatedlensesandsubstituteforthesubsti-tutiveposteriorlenscapsuleduringphacoemulsi.cation.Retina2018Jul23.doi:10.1097/IAE.0000000000002267図1シリコーンボウル作製a:シリコーンスリーブ.先端肉薄部分を使用する.b:完成状態.(83)あたらしい眼科Vol.36,No.4,20195050910-1810/19/\100/頁/JCOPY図2手術手技a:シリコーンボウルの挿入.b:右側にシリコーンボウル,左側に脱臼水晶体.c:シリコーンボウルを虹彩面まで挙上.d:超音波乳化吸引中.e:本体を把持して抜去.f:終了直後.

コンタクトレンズ:老視用コンタクトレンズの光学特性

2019年4月30日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一54.老視用コンタクトレンズの光学特性川守田拓志北里大学医療衛生学視覚機能療法学●はじめに日本における総人口に占める65歳以上の割合は27.7%であり,超高齢社会にある1).加えて,老視発現のめやすを40歳とすれば,人口に占めるその割合は約6割であり,老視改善のニーズは高い.さらには世界においても先進諸国,開発途上国ともに高齢化率は増加し,全体では2015年の8.3%から2060年には17.8%に上昇すると予測されている1).そのような中,老視矯正法の向上と確立は課題であり,多くの医療関係者や企業などが,その解決に向けて挑戦している.老視の矯正法にはさまざまなものがあるが,遠近コンタクトレンズ(CL)が注目されている.その背景として,CLを積極的に使用している世代が老視になり,そのニーズが高まっていることがある.しかし,各社各様の光学デザインのレンズが登場していることから,その光学的特徴を把握する必要が出てきた.そこで本稿では,老視矯正法のCLとその光学的特徴について述べる.●遠近CLの光学デザイン遠近両用CLには,大別して交代視型と同時視型がある.交代視型は,セグメント型で視線が通る位置によっ図1さまざまな老視用コンタクトレンズ光学デザインのイメージ図(各社ウェブサイトより引用改変)(81)Johnson&JohnsonワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルて度数が異なるデザインになっており,発想としては累進屈折力眼鏡に近い.また,同時視型デザインでは,遠用光学部と近用光学部が同心円状に配列されていて,大きな瞳孔径の場合,遠用光学部と近用光学部を通過する光線が同時に入射し,網膜に結像させるが,その場合,中枢系の処理により見るものを選択させる.ただし,実際の生活では,遠近同時に物体が置かれて見るものを選択するといったシーンはみられず,注視対象が,遠方,中間,近方のいずれかに置かれ,必要なものを見るというのが大半である.遠近CLの同時視型デザインに関しても,各社さまざまであり,中心が近用光学部,周辺が遠用光学部,あるいはその逆のデザインもある(図1).レンズの設計によっては遠用光学部と近用光学部の間は移行部という形になっていて,中間距離の結像性を向上させる.●瞳孔径考慮型遠近両用コンタクトレンズ各社,優れた光学デザインを考案している中でも,とくにユニークなデザインに,同心円型で瞳孔径考慮型の遠近CL,ワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカル(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)がある.一般的な同時視型のレンズ設計では,その光学特性SEEDワンデーピュアマルチステージ近・中・遠カバーを一つのレンズでカバーAlconデイリーズトータル1RMeniconプレミオ遠近両用CooperVisionプロクリアRワンデーマルチフォーカルHOYAマルチビュー(L)あたらしい眼科Vol.36,No.4,20195030910-1810/19/\100/頁/JCOPY慮型の光学設計のイメージ図一般的な設計では遠用光学部を通過する光線が虹彩により遮られる.が瞳孔径に異存し,小瞳孔の場合,虹彩により遠用光学部を通過する光線が遮られ,遠方視の結像性が低下する(図2).そのため,ぼけやにじみも出やすくなるが,この瞳孔径考慮型設計では,その影響は小さくなる.また,瞳孔は加齢変化で縮小するが,その加齢変化に対応した形で,LOW(+0.75~+1.25D),MID(+1.50~+1.75D),HIGH(+2.00~+2.50D)の3段階の設計がなされており,瞳孔を活用する設計となっている.この光学設計は,詳細がブラックボックスになっているものの,視機能に影響するさまざまな因子に加え,CL装用下にて遠方から近方までの両眼視力が最良となる視機能予測モデルから作られており,処方成功率が高まりやすい設計となっている.ただし,上述したような特徴的なレンズ設計であるため,その機能を最大限活かすためには,フィットガイドを参照し,矯正手順には注意を要する(図3).具体的には,①視力1.0のラインで屈折矯正するのではなく,ベ遠方が見えにくい場合近方が見えにくい場合図3ワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルフィットガイド(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)ストフォーカスで合わせること,②遠方の見えにくさを訴えたときは,フィットガイドに従い優位眼の結像性を高めること(LOWでは単焦点にし,MIDではLOWにする.HIGHのみ例外あり),③近方の見えにくさを訴えたときは,加入度を高めるのではなく,非優位眼に+0.25Dを加入し,マイルド・モノビジョンを作ること,があげられる.濱野,およびジョンソン・エンド・ジョンソン社のデータによると,この手順を守ることで,処方の成功率は両者ともに94%とされ,高い満足度につながるものと考えられる2).●おわりに老視矯正は,遠方矯正を行った後に行うことから,待ち時間が長く忙しい外来において患者,医療者ともに多くの時間と手間を要する.また,現時点においては,光線を遠方から近方に振り分けているため,網膜像コントラストの高さと明視域の間で,一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないというトレード・オフが発生する.そのため,もっとも効率的な手順の構築と,患者の眼球光学系の特徴から最適な光線配分の追求が必要不可欠と思われる.文献1)内閣府.平成30(2018)年版高齢社会白書.20182)濱野孝,小谷摂子:はじめてのCL処方(第15回)遠近両用ソフトコンタクトレンズ(ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカル)(解説).日コレ誌59:116-119,2017PAS116

写真:リンパ嚢胞様の外観を呈した結膜封入嚢胞

2019年4月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦川崎麻矢419.リンパ.胞様の外観を呈したバプテスト眼科クリニック結膜封入.胞横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①結膜封入.胞図1術前前眼部写真耳側にソーセージ様に隆起した病変を認め,外観からはリンパ.胞との鑑別がむずかしい.図4術後前眼部写真再発を認めず治癒し,経過良好である.図3前眼部光干渉断層計写真結膜下に.胞壁を明瞭に追うことができ,内腔は不均一な顆粒状の高反射を示し,結膜封入.胞に特徴的な所見といえる.(79)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5010910-1810/19/\100/頁/JCOPY結膜封入.胞は半透明のドーム状の腫瘤であり,外傷や眼科手術後に結膜上皮が実質内に迷入することで生じるとされるが,特発性のものも多く,迷入した数層の非角化上皮が増殖し,中央に腔をもつ.胞を形成する1)..胞壁に杯細胞を含むこともある2).治療は経過観察または外科的に摘出する.一方,リンパ.胞はリンパ管拡張症の一種で,球結膜のリンパ管の拡張や蛇行で起こる特発性のものと,眼窩内占拠性病変などによるリンパ液のうっ滞を原因とするものがある..胞状の形態をとるものをリンパ.胞とよぶ.治療は,自然に消退することもあり,経過観察または穿刺,改善しない場合は外科的切除を行う1).症例はC48歳の女性で,10年以上前からの左眼球結膜の.胞状病変を主訴に来院した.他院でC10年前に一度穿刺を施行されたこともあるが,再発し増大傾向を認めた.眼科手術歴や外傷歴などはなかった.初診時の細隙灯顕微鏡所見ではソーセージ様の隆起を認め(図1,2),リンパ管拡張が局所的に拡大したリンパ.胞に思われたが,前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:ASOCT)では結膜下に.胞壁を明瞭に追うことができ,内腔は不均一な顆粒状の高反射を示し(図3),結膜封入.胞に特徴的な所見であった3).手術は,術前に点眼麻酔を行い,出血予防のためにアドレナリン注射液の点眼を行ったのち,スプリング剪刀で腫瘤近傍の結膜を切開し,無鈎鑷子とスプリング剪刀で周辺組織との癒着を解除した.穿刺歴があるためか癒着が強く破.したため,.胞壁,およびそれに癒着していた結膜を含めて切除し,9-0シルク糸で縫合して手術を終了した.病理学的所見も結膜上皮封入.胞に矛盾しなかった.術後再発を認めず経過良好である(図4).今回筆者らは結膜小切開による全摘出を行ったが,他の治療法としては外来で簡便に行える結膜.胞穿刺や,インドシアニングリーンやピオクタニンなどの染色液や粘弾性物質を併用して可視化し,結膜.胞切除を行う方法などが報告されている4).結膜.胞穿刺は簡便ではあるが被膜が残存するために再発しやすく,再発すると周辺組織との癒着のために摘出しにくくなる可能性があるため,最初から全摘出することが推奨される5).本症例でも穿刺歴があり,周囲組織との癒着を認め,.胞を一塊として摘出することは困難であった.結膜封入.胞はしばしばリンパ.胞と類似した外観を示す場合があり,外科治療の方法が異なるため,その鑑別は重要である.可能であればCASOCTで確認し,結膜封入.胞が疑われる場合は不用意な穿刺は避け,全摘出を行うのがより良い方法と考えられる.文献1)斎藤禎子:結膜の良性腫瘍.オキュラーサーフェス疾患目で見る鑑別診断(西田幸二,天野史郎編),p232-234,医学書院,20132)WilliamsCBJ,CDurcanCFJ,CMamalisCNCetal:ConjunctivalCepithelialCinclusionCcyst.CArchCOphthalmolC115:816-817,C19973)寺尾信宏,横井則彦,丸山和一ほか:前眼部光干渉断層計を用いた結膜封入.胞の観察と治療,あたらしい眼科C27:C353-356,C20104)西野翼,小林顕:.胞性結膜疾患.OCULISTAC65:C38-44,C20185)山田桂子,横井則彦,加藤弘明ほか:結膜封入.胞の臨床的特徴と外科的治療についての検討.日眼会誌C118:652-657,C2014C

AIによる視覚障害者支援

2019年4月30日 火曜日

AIによる視覚障害者支援ArtificialIntelligenceSupportfortheVisuallyImpaired三宅琢*はじめに視覚障害者は移動障害を伴う情報障害者と表現されることがある.一方であらゆる情報がインターネットを介して入手,発信することが可能な情報社会において,スマートフォン(以下,スマホ)をはじめとした情報通信技術(informationandcommunicationtechnology:ICT)端末はわれわれの生活にとって情報の入手・発信デバイスとして欠かせない存在となった.iPadやiPhoneに代表されるiOSを搭載したアップル社の端末には障害者が端末を利用する際の補助機能であるアクセシビリティ機能の設定が初期設定として実装されている.そのためこれらの端末が視覚障害者にとっての情報保障(身体的なハンディキャップにより情報を収集することができない者に対し,代替手段を用いて情報を提供すること)の支援ツールとして活用できることをこれまでに解説した1,2).また近年,多くの電化製品が人工知能(arti.cialintel-ligence:AI)を搭載しており,AIを搭載したICT端末の登場により視覚障害者が生活情報を入手,発信するうえで情報障害者に陥ることを予防するための情報支援の形も変化しつつある.本稿では情報支援ツールとしてAIを搭載した各種端末が,視覚障害者が情報を入手発信する際に有効と考えられる具体例を紹介し,今後の情報社会が作る未来についても簡単に解説する.I情報入手における画像認識AIの可能性画像情報から撮影対象を認識するAI機能は,視覚障害者が日常生活で必要とする情報を入手する際の支援ツールとして機能する可能性がある.スマホやタブレット端末向けに,端末の背面カメラを利用した画像認識AIを搭載した安価なアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)が多数提供されている.図1~4で紹介したのはカメラの画像認識機能の一部であり,これまで視覚障害者が情報を入手する際に困難さを伴っていた紙幣,色調,文字情報などをはじめ,近年では顔認証や表情認識機能などの開発も始まりつつある.表情認識AIなどの開発により,ICT端末が視覚障害者に対する表情情報などの非言語的コミュニケーションの情報保障としても活用できる可能性を示唆している.これら機能の一般化により,スマホなどの日常的に使用されるICT端末が,視覚障害者が視覚情報に依存しない情報入手経路を用いて情報を入手できる情報支援ツールとなりつつある.II情報発信における音声認識AIの可能性近年登場したiPhoneに代表されるスマホには,Siri(Speechinterpretationandrecognitioninterface:発話解析・認識インターフェース)のような完全対話型の音声コントロールシステムが搭載されている.Siriは液晶画面に表示された文字情報に依存することなく端末に*TakuMiyake:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕三宅琢:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(73)495図1背面カメラを利用して紙幣情報を認識解析し音声情報に変換するアプリ海外の紙幣も識別可能なため,海外渡航の際,視覚障害者が紙幣の額面を独力で確認できる.アプリ名:NantMobileマネーリーダー.画像・販売元:IPPLEXHoldingsCorporation.図3写真に撮った対象(犬種など)を識別し該当データの詳細情報を表示する画像認識アプリ本アプリはクラウド(クラウドコンピューティングの略,コンピューター内で管理・利用してきたソフトウェアやデータなどを,インターネットなどのネットワークを通じてサービスの形で必要に応じて利用する方式.)サービスを利用して,検索のたびに集積された情報がインターネット上で統合されることで,画像認識の精度が向上する.視覚障害者がアクセシビリティ機能を活用してこれらサービスを利用することで,より実用性の高いツールとなることが期待される.アプリ名:Googleレンズ.画像・販売元:GoogleLLC.図2撮影対象中央部の色情報を認識し音声化するアプリ靴下の仕分けなどをはじめ,日常生活において色情報による識別を要する際に活用することができる.アプリ名:ColorSay.画像・販売元:WhiteMartenUG(haftungsbeschraenkt).図4撮影対象内の文字情報を認識しテキスト化するアプリ対象をカメラで撮影すると,対象内の文字が光学的文字認識(opticalcharacterrecognition:OCR)機能によりテキスト化される.テキスト情報は端末の音声読み上げ機能により音声化することが可能である.全盲者もアクセシビリティ機能を併用することで,適切な撮影距離を習得することにより撮影を行えば,印刷物を音声情報として情報入手することが可能である.アプリ名:画像,写真から文字を認識するOCRアプリ.画像・販売元:GenShinozaki.図5Siriを利用して音声でアラームを設定Siriを利用して音声でアラームを設定することが可能である.また,スマートフォンなどは全地球測位システム(globalpositioningsystem:GPS)機能を搭載しているため,「家を出る時にゴミ出しをリマインド」など,位置情報と合わせたメモを作成することも可能である.画像:AppleホームページcApple,Inc.~図6Siriを利用して日本語を英語に翻訳Siriを利用して日本語を英語に翻訳することが可能である.多言語対応のため,視覚障害をもつ外国人旅行客などに対しても活用の可能性がある.画像:AppleホームページcApple,Inc.図7Siriによる現在使用可能な機能の一覧と各機能を利用する際の話し方の例文「Siriは何ができるの?」と問いかけることで現在使用可能な機能の一覧を表示(左図),各機能を利用する際の話し方の例文を表示(右図)することが可能である.図8腕時計型のデバイス腕時計型のデバイスでは電話,メール,ナビゲーション,音楽視聴ほか,さまざまなスマートフォンと連動した機能を実行することが可能である.また,Siriにも対応している端末では,話しかけることで操作が可能である.端末名:アップルウォチ.販売元:AppleInc.図10スマート家電話しかけることで,ニュースや音楽視聴,ネットショッピングなどが可能である.製品名:EchoSpot.販売元:Amazon.図9メガネに装着するデバイスメガネに装着デバイスのカメラ機能を用いて,指差しをした対象の文字,紙幣の種類,顔,色などを認識して,音声化するウェアラブルデバイス.視界をさえぎることなく,必要なときに指差し動作を行うことで,対象の情報を音声で入手できるため実用性は高いと考えられる.製品名:OrCamMyEye2.販売元:OrCam.図11Siriを利用した音声でのスマート家電の操作Siriを利用して,音声で一部のスマート家電を操作することが可能である.エアコン,照明,ブラインド操作,鍵の開閉など,操作可能な項目は日々増加している.画像:AppleホームページcApple,Inc.

眼科診療におけるコミュニケーションロボットの活用

2019年4月30日 火曜日

眼科診療におけるコミュニケーションロボットの活用RoboticCompanionasSupportiveToolforPreoperativeExplanations窪谷日奈子*はじめに人工知能(arti.cialintelligence:AI)を搭載したコミュニケーションロボットと聞くと,まず思い浮かぶのは街角や店頭に置かれているソフトバンク社のPepperだろう.当院でも病院の入り口で患者を迎えてくれているが,コミュニケーションをとるにはコツが必要で,慣れるまではうまく会話がかみあわなかったり,こちらの言葉を認識できないことも多い.医療の現場に導入するのはまだ先と感じている方も多いかもしれない.AIロボットというと前述のPepperや犬型ロボットのAiboのような高度なコミュニケーションロボットを想像しがちだが,広い意味では自動で温度調整をするエアコンや,掃除ロボットのルンバ,googleHome・Ama-zonechoなどのスマートスピーカーもそうである.家電製品のレベルであれば,すでに生活のさまざまな場所でAIロボットは活躍しているのである1).さて病院内にAIロボットを導入する場合問題となるのは,生死にかかわる病院という場所でロボットに説明を受けることに対する「心理的抵抗」がどの程度あるのかという点であろう.患者側はもちろんであるが,医療スタッフ側に受け入れられないのではと考える方も多いかと思われる.そこで今回は当院における白内障術前説明と硝子体内注射説明におけるコミュニケーションロボットの活用について紹介する.コミュニケーションロボットTAPIA,そしてペッパーの臨床における使用経験と患者満足度,今後のAIロボット活用,そしてAIロボットがなぜ日本で率先して浸透してきつつあるのかを,私見を交えて述べる.Iコミュニケーションロボットコミュニケーションロボットは,冒頭に述べたように,現状ではまだ人とコミュニケーションをスムーズにとることができない.一番の原因は人の声や顔を認識するインターフェースがまだ不十分で,問いかけに対して柔軟に回答・会話をすることがむずかしいからである.現状病院でコミュニケーションロボットを活用する場面は,患者側が情報量ゼロの状態で,医療側から一方的に情報を提供される最初の段階が望ましい.情報を受け取る場面であれば双方のやりとりは必要ないので,コミュニケーションロボットによる説明で代用できる.患者がある程度情報を得たあとは,疑問や不安点などに柔軟に対応する必要が出てくるため,コミュニケーションロボットでは対応がむずかしくなってくる.情報提供を受けたあとの説明は,医師や看護師など人が行う必要があるだろう.「AIを導入すると人の仕事が奪われるのではないか」という危惧が何度も議論されているが,円滑なコミュニケーションを行えるにはまだまだ時間が必要なので,最終的な説明の場面ではまだ人の存在が不可欠ということになる.*HinakoKubotani:あさぎり病院〔別刷請求先〕窪谷日奈子:〒673-0852兵庫県明石市朝霧台1120-2あさぎり病院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(67)489図1外来に置かれたTAPIA図2患者の前に置かれたTAPIA図3選択肢を表示するTAPIA2520.7±6.2分18.1±5.4分94.4%95.2%10020TAPIA15による説明5010500スタッフTAPIA図4説明時間図5簡易試験の正答率スタッフTAPIAp=0.681X,t-test=人TAPIA満足ほぼ満足普通やや不満不満p=0.015Fisher’sexacttest図6満足度50~60代とてもよいまあよいどちらでもない70代よくないまったくよくない80代図7医療にロボットが入ることをどう感じるか50~60代TAPIAどちらでも70代人80代図8人×ロボット,どちらの説明がわかりやすいか50~60代TAPIAどちらでも70代人80代図9人×ロボット,次回説明を受けるならどちらがいいか図10ベッドサイドに置かれたTAPIA