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眼瞼・結膜:瞬目摩擦と結膜疾患

2018年10月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人白石敦43.瞬目摩擦と結膜疾患愛媛大学大学院医学研究科医学専攻器官・形態領域眼科学瞬目時には,眼瞼結膜と眼表面の間に摩擦が生じており,病的に摩擦が亢進するとCsuperiorClimbicCkerato-conjunctivitis(SLK)やClidwiperCepitheliopathy(LWE)に代表される摩擦関連疾患が生じる.眼表面摩擦亢進が生じる要因は,眼瞼,眼表面,涙液側から複数の因子が関係していることが多く,その病態における摩擦亢進の要因を的確に判断して治療することが必要である.●はじめに瞬目は,眼表面の涙液の拡散と排出に働くことで,導涙機能とともに安定した涙液膜を形成している.一方で,瞬目時には眼瞼結膜と眼表面の間に摩擦が生じており,病的に摩擦が亢進すると過度な上皮細胞の脱落が生じ,角結膜上皮障害が生じる.C●瞬目時の眼表面摩擦二つの物体が接触して動いているとき,その物体間には常に摩擦力が生じ,摩擦力CF=摩擦係数CμC×垂直力CNという公式で表される.瞬目時の眼瞼と眼表面の関係図1眼瞼と眼表面の解剖と瞬目による眼表面摩擦眼瞼はClidwiper部で眼表面と接しており,その上方の結膜.はCKessingspaceとよばれ,涙液のリザーバーの役割を果たす.摩擦力CF=摩擦係数CμC×垂直力CNの式で表せるが,これを眼瞼と眼球との間にあてはめると,眼瞼と眼球との摩擦力CF=眼瞼結膜やClidwiperと角膜や眼球結膜との間の状態により決まる摩擦係数CμC×眼瞼圧CNと表記できる.(81)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYにあてはめた場合,「眼表面と眼瞼間の摩擦力CF=眼表面と眼瞼間の粗さ係数CμC×眼表面と眼瞼間にかかる垂直力N(=眼瞼圧)」と示される(図1).摩擦係数Cμは眼表面の凸凹と涙液の状態に影響を受ける.眼瞼および眼表面の解剖に注目してみると,皮膚粘膜移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)から瞼板下溝までの眼表面ともっとも密接している部分は,KorbらによってClidwiperと命名されており,瞬目時の摩擦の中心となる1).また,眼瞼結膜と眼球結膜の間にはCKessingspaceがあり,瞬目で涙液がCKessingspaceから拡散することにより均一な涙液膜が形成されている.つまり解剖学的構造,涙液,瞬目運動の複合的要因によって瞬目による眼表面摩擦が構成されている.C●眼表面摩擦を亢進させる要因摩擦関連疾患において眼表面摩擦亢進が生じる要因にも複数の因子が関係していることが多く,眼瞼,眼表面,涙液側のC3方向からその要因を考えるとわかりやす図2眼表面摩擦亢進が生じる要因眼表面摩擦亢進が生じる要因は,眼瞼側(眼瞼圧上昇,不規則な瞬目),眼表面側(結膜弛緩症,眼表面上皮障害),涙液側(涙液減少,不安定な涙液層)のC3方向からなる.あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1393図3Superiorlimbickeratoconjunctivitis(a)とLidwiperepitheliopathy(b)い(図2).眼瞼側の要因では,眼表面と眼瞼間にかかる垂直力CNである眼瞼圧があげられる.眼表面側の要因としては,結膜弛緩症や結膜乳頭などの表面が凸凹した病態や,点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopC-athy:SPK)などの眼表面上皮障害も凸凹状態となるために眼表面側の要因の一つとなる.結膜弛緩や摩擦関連疾患に伴う眼表面上皮障害では摩擦亢進がその病態の原因となり,それに伴う上皮障害がさらに摩擦亢進に働くために病態が悪循環に陥ってしてしまう.涙液側の要因としては,涙液の減少型ドライアイでは,涙液減少による摩擦係数(上昇)に加えて上皮障害が生じることで,やはり悪循環に陥った状態となる.一方で,不安定な涙液層では眼表面における涙液の粘度が低下しており,やはり摩擦亢進の要因となる.C●眼表面摩擦関連疾患の病態a.Superiorlimbickeratoconjunctivitis(SLK)SLK(図3a)の病態は,上眼瞼結膜と上方の角結膜間の摩擦亢進である.従来よりドライアイの合併症とされ,眼瞼結膜乳頭形成や上方の結膜弛緩が指摘されているように,涙液減少や不安定な涙液膜,眼表面の凸凹による摩擦係数上昇がその要因である.一方,重症度が上がるにつれて上眼瞼圧が有意に上昇しており,SLKの発症には眼瞼圧の上昇,眼表面の不正,涙液の減少や安定化のC3要素すべてが関与している2).Cb.Lidwiperepitheliopathy(LWE)Lidwiper部は常に眼球表面に接しているため,瞬目によりもっとも摩擦が高くなる部位である.LWE(図3b)は,とくに眼表面より摩擦係数の高いコンタクトレンズを装用することで高頻度に認められる.ドライアイとの関連では,ドライアイ患者で正常者の約C6倍の高頻度で認められるとの報告がある一方で,涙液所見はLWEと正常者では変わらないとの報告がある3,4).c.ドライアイ涙液減少型ドライアイが悪化してくると,瞼裂間に境界明瞭な結膜上皮障害を認めるようになる.涙液減少型ドライアイでは涙液層が薄く,またCSjogren症候群によるドライアイでは分泌型ムチンも減少するため,摩擦が亢進している状態である.C●瞬目に伴う眼表面摩擦関連疾患の治療摩擦関連疾患においては,複数の眼表面摩擦亢進が生じる因子が関係していることが多いため,治療をするにあたってはその病態における摩擦亢進の要因を可能なかぎり検出または推測し,もっとも影響している可能性のある要因に対する治療から開始することが望ましい.C●おわりに2016年に改訂されたドライアイ診断基準では「さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患」と定義されたが,瞬目による摩擦はまさに主要因となりえる.ドライアイや眼表面の上皮障害を診察するにあたっては,要因の一つとして瞬目による摩擦も考慮しながら診察に臨むことが肝要である.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJetal:Lid-wiperepitheli-opathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C20022)山口昌彦:摩擦をターゲットとしたドライアイ治療.あたらしい眼科34:361-370,C20173)KorbDR,HermanJP,BlackieCAetal:PrevalenceoflidwiperCepitheliopathyCinCsubjectsCwithCdryCeyeCsignsCandCsymptoms.CorneaC29:377-383,C20104)ShiraishiCA,CYamaguchiCM,COhashiY:PrevalenceCofCupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLensC40:220-224,C2014C1394あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(82)

抗VEGF治療:網膜中心静脈閉塞症に挑む!

2018年10月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二57.網膜中心静脈閉塞症に挑む!鈴間潔香川大学医学部眼科学講座レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用い,網膜中心静脈閉塞症の網膜血流を評価したところ,抗VEGF治療により黄斑浮腫と血流の両方が改善する症例が視力予後良好であった.LSFGを用いて血流を評価することは,病状把握および治療を行ううえで有用である.網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は虚血型に移行すると失明につながる疾患であり,黄斑浮腫は視力予後を不良にする.格子状光凝固,高圧酸素療法,炭酸脱水酵素阻害薬内服,硝子体切除,視神経乳頭放射状切開,ステロイド局所投与,全身または局所の線溶療法など,さまざまな治療が試みられてきたが,決定的な治療法は確立されていない.最近,抗VEGF薬の硝子体内注射がCCRVOの黄斑浮腫を著明に改善することが明らかとなり,治療の主流となりつつある.CRVOは非虚血型がC75~80%を占め,30%の黄斑浮腫は自然治癒するといわれているが,3年でC34%が虚血型に移行するともいわれている.虚血型になると著しい視力低下が生じ,3カ月以内にC60%以上が虹彩血管新生や血管新生緑内障に進行するといわれている.CRVOに対する抗CVEGF治療の大規模臨床試験の報告では,平均C17文字以上という非常に大きな視力改善が得られている.黄斑浮腫に対しても抗CVEGF治療は非常に有効であり,筆者らのデータでも多くの症例で黄斑浮腫が著明に改善していた1).すなわちCCRVOにおけるCVEGFの役割は非常に大きいということがいえる.眼内CVEGFの発現を亢進させるのは網膜血流の低下とそれによる網膜虚血であると考えられるため,CRVOで網膜血流の評価を試みた.網膜血流評価の基本は蛍光眼底造影であるが,定量的な評価は非常に手間がかかり,侵襲的な検査なので受診ごとに施行することができない.そこで日本発の眼底血流解析装置であるレーザースペックルフローグラフィー(laserCspeckle.owgraphy:LSFG)を採用した.LSFGは眼底に存在する散乱粒子の移動速度分布,すなわち眼底血流分布を画像化して表示することができる.視神経乳頭の大血管の平均血流速度を自動解析するプログラムを開発し,網膜全体の血流を反映する指標として用いた.まずCCRVOの前房CVEGF濃度と血流(meanCblurrate:MBR)の相関を調べたところ,負の相関を認めた2).このことは中心静脈閉塞が高度であるほど眼内(79)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYVEGF濃度が高くなるということを意味しており,重症例ほど頻繁な抗CVEGF治療が必要であることを説明できる.その後,LSFGにより網膜血流を評価しながらCRVOの診療をしていると,抗CVEGF治療により網膜血流が改善する症例があることに気づいた(図1).非可逆的変化になってしまっている例もあるが,抗CVEGF治療をすると網膜血流が改善する例があるということから,VEGFと血流の間に悪循環があると考えられた(図2)3).その後症例を重ね,最終視力を目的変数として多変量解析を行なったところ,最終血流がよいほど最終視力がよいということが明らかとなった4).すなわち,抗VEGF治療を行う場合でも,血流をモニターしながら血流がよくなるような管理をするべきであるといえる.抗CVEGF治療を行って浮腫が改善しても,虚血により網膜細胞死から視機能障害が起こる(図2)ため,CRVOの本質である中心静脈閉塞や虚血そのものの治療法を開発する必要がある5).文献1)TsuikiE,SuzumaK,UekiRetal:Enhanceddepthimag-ingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralCretinalCveinCocclusion.CAmCJCOphthalmol156:543-547,C20132)YamadaY,SuzumaK,MatsumotoMetal:Retinalblood.owCcorrelatesCtoCaqueousCvascularCendothelialCgrowthCfactorCinCcentralCretinalCveinCocclusion.CRetinaC35:2037-2042,C20153)MatsumotoCM,CSuzumaCK,CFukazawaCYCetal:RetinalCblood.owlevelsmeasuredbylaserspeckle.owgraphyinpatientsCwhoCreceivedCintravitrealCbevacizumabCinjectionCformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclu-sion.RetinalCases&BriefReportsC8:60-66,C20144)MatsumotoM,SuzumaK,YamadaYetal:Retinalblood.owCafterCintravitrealCbevacizumabCisCaCpredictiveCfactorCforCoutcomesCofCmacularCedemaCassociatedCwithCcentralCretinalveinocclusion.RetinaC38:283-291,C20185)鈴間潔,北岡隆,隈上武志ほか:眼疾患メカニズムの新しい理解.網膜血管障害の新しい理解.日眼会誌C119:C216-227,C2015あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1391IVR前VEGF=116pg/ml視力RV=0.15(0.3),CRT=641μmMV-MT=28.34回目IVR4週後視力RV=0.7(1.2),CRT=282μmMV-MT=38.34回目IVR9週後,5回目IVR施行視力RV=0.8(0.9),CRT=303μmMV-MT=39.45回目IVR5週後視力RV=0.7(0.9),CRT=278μmMV-MT=39.85回目IVR9週後,6回目IVR施行視力RV=0.6(0.8),CRT=355μmMV-MT=45.4図1非虚血型網膜中心静脈閉塞症の治療経過左:OCT,右:視神経レーザースペックルフローグラフィー.抗CVEGF治療により最終的に黄斑浮腫と血流の両方の改善が得られ,視力も改善した.IVR:intravitrealranibizumab,CRT(centralretinalthickness):平均中心窩網膜厚,MV(meanblurrateatvasculature):大血管血流,MT(meanblurrateattissue):組織血流網膜中心静脈閉塞症網膜血流低下網膜虚血悪循環図2網膜中心静脈閉塞症では血流改善の有無が予後を左右する眼内CVEGF濃度の上昇がさらに網膜血流を低下させるという悪循環が存在するが,抗CVEGF治療を行って悪循環を断ち切り,浮腫が改善しても,虚血そのものにより網膜細胞死から視機能障害が起こる.網膜細胞死視機能障害1392あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(80)

緑内障:OCT angiographyの基本

2018年10月31日 水曜日

●連載220監修=岩田和雄山本哲也220.OCTangiographyの基本鈴木克也野崎実穂名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学(眼科)OCTangiography(OCTA)は非侵襲的に網脈絡膜血管を描出できる検査法である.従来の蛍光眼底造影検査より短時間で実施でき,病変の三次元的な評価が可能である.さまざまな疾患の評価に有用であるが,造影剤の漏出は描出できず,造影検査と完全に一致するものではない.OCTAの特性を理解した正しい読影が肝要である.●OCTAの原理と特徴光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のスキャンスピード高速化や高解像度化が進み,さらに新たな技術として,造影剤を用いることなく非侵襲的に網脈絡膜血管を描出できる光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyCangiography:OCTA)が登場した.OCTAは同一部位のCBスキャン画像を複数回撮影し,その画像の差分から動きのあるシグナル(血流)を検出し,再構築し画像化(Cスキャン)している1).OCTAは検査時間も従来の造影検査より短時間で実施でき2),かつ非侵襲的な検査法であるため,頻回の検査も可能で,経時的な変化を評価することが容易にできる.また,従来の蛍光眼底造影検査で得られる画像は二次元であるが,OCTAは断層像に基づいて画像を再構成するため,網脈絡膜血管の層別解析が可能で,さらには立体的な構造を描出することができる.CRTVueCXRAvanti(Optovue社)では,黄斑部では網膜表層毛細血管層(super.cialCcapillaryCplexus),網膜深層毛細血管層(deepCcapillaryCplexus),網膜外層(outerretina),脈絡膜血管層(choroidcapillary)のC4層に自動的に分けて描出され(図1),病変の三次元的な評価が可能である.また,視神経乳頭部でも,視神経乳頭(nervehead),硝子体(vitreous),放射状視神経乳頭周囲毛細血管(radialperipapillaryCcapillaries),脈絡膜(choroid)のC4層に自動表示され(図2),網膜黄斑部や視神経乳頭周囲では血管密度を評価することもできる.図1RTVueXRAvantiを用いた正常人の黄斑部OCTA画像(3mm)三次元的な網脈絡膜血管構造をC4層に分離して描出することが可能である.図2RTVueXRAvantiを用いた正常人の視神経乳頭部OCTA画像(4.5mm)乳頭周囲の血管構造もC4層に分離して表示可能である.(77)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13890910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3右眼加齢黄斑性の症例(65歳,男性)抗CVEGF薬の投与によりCOCT(Bスキャン)(c)では漿液性.離は消失しているが,OCTAではCouterretina(Ca),choroidcapillary(Cb)に脈絡膜新生血管が描出されている.図4左眼網膜静脈分枝閉塞症の症例(63歳,女性)OCTA(DRIOCTTriton)では,super.cialcapillaryplexus(Ca),deepcapillaryplexus(Cb)に閉塞部位の無灌流領域と毛細血管瘤を認める.フルオレセイン蛍光眼底造影像(Cc)と比較しても,病変の描出は鮮明である.C●現在のOCTAの限界OCTAは加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管の描出や,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症の毛細血管瘤や無灌流領域の評価には有用であり,病変検出率は従来の造影検査と比較し,同等か場合によってはCOCTAのほうが優れるとの報告もある2,3)(図3).しかし,OCTAはフルオレセイン蛍光眼底造影でみられる血管外への造影剤の漏出という所見は描出できず,血流速度が遅い血管も検出できないため,現状では従来の造影検査と完全に一致するものではない.一方,OCTAでは漏出所見が得られないため,従来の蛍光眼底造影と比べ,鮮明な毛細血管病変を描出できるという利点もある3)(図4).OCTAの登場当初は,画角は黄斑部ではC3CmmあるいはC6Cmmに限られ,画角を広げると解像度はやや低下する傾向にあった.最近では,画角C12Cmmまで広がってきてはいるが,現状では周辺部の無灌流領域を評価することはできない.また,複数箇所を撮影したCOCTA画像からモンタージュ画像を作成することで,解像度を落とさずに広範囲の評価が可能にはなってきたが,検査や画像処理にかかる時間が問題である.また,近赤外光を前方から照射して画像を取得していC1390あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018るため,表層の血管陰影が網膜外層や網膜色素上皮へ映り込み,実際には血管が存在しない層にあたかも血管があるかのように描出されるというプロジェクションアーチファクトに注意が必要である4).さらに,層別解析では,漿液性網膜.離や浮腫によりセグメンテーションエラーが生じることもあるため,常にCBスキャン画像でセグメンテーションをチェックし,表示される血流シグナルからプロジェクションアーチファクトではないことを確認しながら,病変を解析評価する必要がある4).文献1)JiaY,TanO,TokayerJetal:Split-spectrumamplitude-decorrelationCangiographyCwithCopticalCcoherenceCtomog-raphy.OptExpressC20:4710-4725,C20122)野崎実穂,園田祥三,丸子一郎ほか:網脈絡膜疾患における光干渉断層血管撮影と蛍光眼底造影との有用性の比較.臨眼71:651-659,C20173)SuzukiCN,CHiranoCY,CYoshidaCMCetal:MicrovascularCabnormalitiesConCopticalCcoherenceCtomographyCangiogra-phyinmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmolC161:126-132,C20164)SpaideCRF,CFujimotoCJG,CWaheedNK:ImageCartifactsCinCopticalCcoherenceCangiography.CRetinaC35:2163-2180,C2015(78)

屈折矯正手術:術中収差計の実力

2018年10月31日 水曜日

監修=木下茂●連載221大橋裕一坪田一男221.術中収差計の実力森井勇介森井眼科医院水晶体再建術において,術中収差計を使用することによって,より最適な眼内レンズ(IOL)度数やトーリック度数および固定位置を決定することが可能となる.正確な術後屈折をめざして眼軸長測定装置やCIOL度数計算式が進歩してきたように,術中収差計も今後進歩していくことはまちがいないと考える.●はじめに手術機器,および眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の進歩により,現状の超音波水晶体乳化吸引術は安全性も確立され,すばらしい手術成績を収めているが,患者の期待は単なる視力の改善ではなく,生活の質に関連した視力の向上へと変化しつつある.とくに,年々増加傾向にある多焦点CIOLは,乱視矯正も含めて,術後屈折の正確さが患者満足度に直結する.これまで,術前検査におけるさまざまなCIOL度数計算法が考案され,日々進歩しているのはご承知のとおりであるが,想定外の屈折度数ズレを経験することもある.近年,術中にリアルタイムで球面度数や円柱度数を測定し,より最適なCIOL度数やトーリック度数および固定位置を決定する術中収差計が登場し注目されている.C●術中収差計現在,日本で使用することのできる術中収差計はAlcon社製CORA術中波面収差解析装置(以下,ORA)のみである.アナライザー,アベロメーター(図1),サージカルカート(図2)のC3要素で構成される.アナライザーはソフトウェアであり,WEB経由で院内のどのパソコンからもデーターベースに入力が可能である.ここに術前データを入力し,術中計測の基本情報とする.また,術後データを入力することによって,サーバー内のノモグラムに反映され,最適化および術後結果の統計的レポートを受けることが可能となる.アベロメーターは顕微鏡に取りつける測定装置で,赤外線LED光が波面収差解析を行い,無水晶体眼,偽水晶体眼の術中屈折情報を測定する.サージカルカートは手術室内に設置するカートで,米国内のサーバーと常に同期し,リアルタイムにアベロメーターの測定結果の表示と検証を行い,最適なCIOL度数,トーリックCIOLの固定位置を提案する.術中測定の最大のポイントは,水晶体を摘出した状態での切開創による惹起乱視,角膜後面乱視を含む全乱視を測定するため,円錐角膜,あるいはClaserinsituker-atomileusis(LASIK)やCradialkeratotomy(RK)などの屈折矯正手術後で角膜形状異常のある眼に対しての効果が期待できることである.また,トーリックCIOL使用図1ORAのアベロメーター付けはずしは容易である.重量がかなりあるので,当院ではORAを使用するとき以外ははずしている.図2ORAのサージカルカート手術室内に設置する.米国のサーバーと常に同期している.図3ORAによる乱視軸決定の画面①術前データの表示.②残余乱視のCORA実測値.トーリックCIOLが最適な位置(残余乱視がC0.5D以下,もしくは測定された残余乱視の軸が予想残余円柱軸からC5°以内の範囲)になれば,NoCRotationRecommendedと表示される.③トーリックCIOLインプラント後のORA実測値.球面度数,円柱度数,等価球面値の表示.(75)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13870910-1810/18/\100/頁/JCOPY対象当院にてCORAを使用してCIOL度数を選択し,C1カ月以上観察可能であった全症例.CLASIK既往を含む.期間2017年1月16日.C12月25日症例数129例221眼男性52例89眼女性77例1C32眼年齢平均C64.0歳(C57C±20歳)表1解析対象表2ORA使用によるIOL度数変更の100%90%有無と術後自覚屈折度数値の比較80%術後自覚屈折度数変更なし(術前予定IOL挿入)変更あり合計C±0.25D以内95眼87眼180眼C±0.50D以内107眼98眼205眼C±1.00D以内114眼103眼218眼全度数118眼103眼221眼70%60%50%40%30%20%10%0%84.4%90.1%81.4%80.5%92.7%98.6%96.6%95.1%100.0%±0.25D以内±0.50D以内±1.00D以内術後の屈折誤差全症例ORAによる変更なしORAによる変更あり図4術後自覚屈折度数値の比較半分以上の症例で術前予定CIOLとCORA表C2をパーセント表示にしてグラフで比較した.の推奨度数が一致していた.時に角膜全乱視は最小となるように,IOLの固定方向を指示し,残余乱視がC0.5D以下,もしくは測定された残余乱視の軸が予想残余円柱軸からC5°以内の範囲になればCNRR(NoCRotationRecommended)と表示され,最適なCIOL固定位置を指示してくれる(図3).患者の固視状態にもよるが,測定時間はおおむね数秒であり,筆者は術中測定のストレスはほとんど感じない.C●当院での成績術後正視狙いで水晶体再建術時にCORAを使用し,術後C1カ月以上経過観察できた全症例の術後自覚等価球面度数値の結果を示す.術前の光学式眼軸長測定装置による予定レンズと,ORAによる度数変更を行った症例の比較である(表1,2,図4).ORAによる度数変更を行った症例のほうが達成率は高かったが,統計学的有意差は認めなかった.C●術中収差計の意義近年,Haigis式やCBarrett式も登場し,術前の光学式眼軸長測定装置によるCIOL度数計算式は年々進歩し,さらに正確性を増している1,2).とはいえ,それはあくまでも術前の眼の形状を正確に測定したうえでの話であって,実際の臨床の現場では,成熟白内障など,そもそも水晶体の混濁が強すぎて正確な眼軸長測定が困難な患者,閉瞼が強く開瞼困難な患者,涙液の安定性が悪く再現性のある角膜曲率測定が困難な患者,検査時に頭位が傾いていて,適切な乱視軸角度測定ができない患者などが,一定の割合で存在する.術中収差計を使用する最大のメリットは,十分な開瞼が得られている術中に,角膜表面の状態を確認しながら,無水晶体眼の状態で計測したデータを得られることである.さらに,トーリックIOLでの乱視矯正を伴う場合,リアルタイムに残存全乱視の数値を見ながらCIOLpositionを決定することがでC1388あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018ORAによる度数変更を行った症例のほうが達成率は高かったが,統計学的有意差は認めなかった.きるのは非常に理にかなっており,有用である.当院での結果で示した通り,術中収差計を使用したからといって全例で屈折誤差がゼロになるわけでもなく,半分以上の症例で術前検査結果から準備したCIOLを追認して挿入しているわけであり(表2),術中収差計を使用していない場合と術後屈折において有意差が出ているわけではない.しかし,術中収差計測によってCIOL度数を変更し,その結果,満足度の高い術後結果となった症例も確実に存在する.より,正確な術後屈折度数を追求するならば,必要な器機であると考える.C●おわりに当院の結果では,術中収差計測を使用しているにもかかわらずC1.0Dを超える屈折誤差を生じた症例もわずかながら存在した(表2,図4).非生理的な眼球状態で測定したデータなら,術前検査値のほうの信頼性が高くなっている局面も存在していると考える.術中収差計測時の眼球状態が生理的な状態であることを確認する術は現時点ではない.前眼部光干渉断層計などを駆使して,術中計測直前の確認が可能になれば,さらに正確性が増すのではないかと思われる.今後のいろいろな研究成果が待たれるところである.いずれにせよ,より正確な術後屈折をめざして眼軸長測定装置やCIOL度数計算式が進歩してきたように,術中収差計も今後進歩していくことはまちがいないと考える.文献1)HaigisCW,CLegeCB,CMillerCNCetal:ComparisonCofCimmer-sionCultrasoundCbiometryCandCpartialCcoherenceCinterfer-ometryforintraocularlenscalculationaccordingtoHaigis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:765-773,C20002)BarrettGD:AnCimprovedCuniversalCtheoreticalCformulaCforCintraocularClensCpowerCprediction.CJCCataractCRefractCSurgC19:713-720,C1993(76)

眼内レンズ:5-0ナイロン糸で作製した水晶体嚢拡張糸(Capsular Tension Suture)

2018年10月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋383.5-0ナイロン糸で作製した水晶体.拡張糸永田智出田眼科病院(CapsularTensionSuture)Zinn小帯脆弱/断裂症例に対する計画的小切開水晶体全摘出術の際に,水晶体.を破損せずに超音波乳化吸引を完遂するため,5-0ナイロン糸で作製した水晶体.拡張糸(capsulartensionsuture:CTS)を考案した.挿入・抜去も容易であり,有用なデバイスになりえると思われるので紹介する.●はじめに近年,重篤なZinn小帯脆弱/断裂を伴った白内障に対しても,計画的小切開水晶体全摘出術を施行し,さらにインジェクターを用いて挿入した眼内レンズ(intraoc-ularlens:IOL)を縫着ないし強膜内固定することで,小切開創のまま手術を完遂させることが可能になってきた.この手術を予定通り小切開のまま,かつ低侵襲のうちに終えることができるかどうかは,計画的小切開水晶体全摘出術に際して水晶体.(以下,.)を破損させることなく無事に超音波乳化吸引(phacoemulsi.cationandaspiration:PEA)をやり抜くことができるかどうかにかかっている.いったん.破損に至れば,原則的にはPEA続行は不可能となり,硝子体カッターによる効率の悪い核処理の継続か,場合によっては創拡大を併用した残存核片の娩出を余儀なくされることになる.計画的小切開水晶体全摘出術においては,動揺する水晶体を支持するためにカプセルエキスパンダーや虹彩リトラクターを連続円形切.(continuouscircularcapsu-lorhexis:CCC)縁に設置する手技が従来から報告されてきた.また,.に十分な張りをもたせ,形状を維持することで誤吸引による.破損を回避せしめる.拡張リング(capsulartensionring:CTR)の有用性も認識されている.前者いずれかと後者の二つのデバイスの併用は水晶体の支持と.の拡張/形状維持の双方の効果が得られるため,より万全な手技といえよう.ただし,術中に使用したこれらのデバイスは最終的には抜去を要するが,CTRを抜去する手技はやや煩雑であり,またブラインド操作を含むため慣れを要する.そしてデバイスを多用することは必然的に手術コストを押し上げる.(73)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYそこで筆者は,PEAに際してCTRと同様の.形状維持機能を発揮し,かつ挿入・抜去の手技も簡便である水晶体.拡張糸(capsulartensionsuture:CTS)を考案した.5-0ナイロン糸を用いて作製するのでコスト的にも安価である.図1にCTSを用いた計画的小切開水晶体全摘出術および水晶体再建術の一連の流れを示す.●CTSの作製まず,製品出荷時の巻き付けによって生じた弯曲部を含むように切断した5-0ナイロン糸の断端にパクレンを近づけ(接触はさせない),熱凝固することで先端を鈍的な棍棒状にする(図2①).つぎに,パクレンで弯曲部の内側を軽く炙るようにするとナイロン糸が直線状に伸びようとすることを利用して,その曲率を弱め,水晶体赤道部の曲率に近づくよう微調整する(図2②).●CTSの挿入鑷子で把持したCTSの先端をサイドポートから挿入し,フックを用いて前.下に確実に導きながら,まずは弯曲部全体を.赤道部に添わせるまでの操作を完了させる(図3①~③).つぎに赤道部に向かって斜めからCTSを押し当てるようなイメージで挿入を進めていく(図3④).1周以上進めたところで操作を止め,CTS後端はサイドポートから出したままとしておく.●CTSの抜去灌流吸引(IA)終了後は,灌流を持続した状態で,サイドポートから出したままにしてあったCTS後端をそのまま攝子で引き抜くだけである(図4).先端部が操作の途中で引っかかって.破損をきたすようなことはない.あたらしい眼科Vol.35,No.10,20181385図1CTSを用いた計画的小切開水晶体全摘出術および水晶体再建術の流れ①CCC施行.②CCC縁へ虹彩リトラクターなどを設置した状態でCTSを挿入しPEA施行(.形状が保たれていることがわかる).③デバイスを除去後に.抜去.④硝子体を適宜切除後,IOL強膜内固定(もしくは縫着).図3CTSの挿入方法先端部が.を穿通しないよう,ややコツを要する.一気に挿入するのではなく,.赤道部にいったん沿わせてからの挿入が肝要である.図2CTSの作製方法①断端処理と②弯曲部調整の2工程を要する.図4CTSの抜去方法挿入時よりもはるかに容易であり,.を灌流で膨らませた状態にして鑷子で抜き取るだけである.●まとめCTRと同様の.形状維持機能を有し,挿入・抜去の手技も簡便であるCTSを紹介した.Zinn小帯脆弱/断裂症例に対する計画的小切開水晶体全摘出術を手がける術者はPEAを完遂するためにさまざまな工夫をこらしているものと思われるが,そのような皆様に対して本法がなんらかの形でお役に立てることがあれば幸いである.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの水濡れ性

2018年10月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一48.コンタクトレンズの水濡れ性横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科●はじめに水濡れ性(wettability)とは,おもに固体表面に対する水の親和性(水分の付着のしやすさ)を表すものであり,親水性とも表記され,水分保持性とも解釈される.角膜表面は糖蛋白質である膜型ムチンが広く分布し,その水濡れ性はきわめて良好であり,その特性は涙液層の安定性を維持するうえで不可欠である.一方,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の表面は膜型ムチンのような構造をもたないため,その水濡れ性は角膜に比べて不良である.本稿ではCSCL表面の水濡れ性の基礎知識について述べる.C●水濡れ性の評価法固体表面の水濡れ性の評価法にはさまざまな方法があるが,代表的なものとして,液滴法,気泡法,Wil-helmyプレート法(動的接触角測定法)の三つがあり,これらは,SCL表面の水濡れ性の評価にも応用可能で視覚機能再生外科学ある.液滴法では,細い針先に水滴を作り,それを固体表面に付着させて,水滴と固体表面とのなす角(接触角)を測定する(図1a).小さい接触角は表面の良好な水濡れ性を意味し,表面の親水性が良好,撥水性が不良と同義である.気泡法では,固体の裏面を水で満たし,水中で細い針先に気泡を作り,それを固体の裏面に付着させて,その接触角を測定する(図1b).Wilhelmyプレート法では,プレートを液体のなかで抜き差しして,液体とプレートとの接触角を測定するが,前進と後退の動的接触角を測定することも可能である(図1c).C●角膜表面とSCL表面の違い角膜上にCSCLが装用されると,角膜上の涙液層はSCL上の涙液層とCSCL下の涙液層(油層を欠く)に分かれ,SCL下の涙液層の安定性は良好と考えられるのに対し,SCL上の涙液層には破壊が生じやすい(図2)ことが知られている1,2).a.液滴法b.気泡法c.Wihelmyプレート法(動的接触角測定法)qq図1水濡れ性の評価法(接触角の測定法)(71)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13830910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2DR.1によるSCL表面の涙液層の破壊の広がりの観察a:開瞼C2秒後.Cb:開瞼C5秒後.涙液層の破壊領域の拡大は,下方涙液メニスカスの毛管圧の強さとSCL表面の水濡れ性の低さに依存するメカニズムでもたらされる.*:涙液層の破壊領域(涙液層の被覆を失い露出したCSCL表面).すなわち,SCLが装用されるとCSCLの周辺部が涙液メニスカスを占拠するため,本来の涙液メニスカスがSCL上に移り,その部に貯留する涙液量が減少する2).一方,SCL上の涙液層の液層の厚みは涙液メニスカスの曲率半径(R)に比例する.したがってCSCLの装用により,非装用時に比べてCRが小さくなることでCSCL上の液層の厚みは薄くなり,SCL上の涙液層には破壊が生じやすくなる1,2).しかし,SCL表面の水濡れ性は角膜上に比べて不良であるため,いったん破壊が生じると急速に拡大しやすい(図2).また,ウサギの角膜表面は摘出C90分後まで接触角C0°とされ3),ヒトの角膜の表面の水濡れ性も良好であると考えられる.一方,SCLの表面の接触角は,SCLの種類によっても異なるが,報告では約C20°から約C80°までの値をとる4,5).C●おわりに近年,SCL装用における眼乾燥感,眼不快感は,CLdiscomfortとよばれるようになり,SCL装用のドロップアウトの原因となるため,その病態生理の解明と対策が求められている.現在までのところ,CLdiscomfortの克服への道は,SCL上の涙液層の安定性にあるとされ1),SCL側の対策として,SCL表面の水濡れ性の向上がその鍵となり,近年,進歩がみられる.文献1)CraigJP,WillcoxMD,ArguesoPetal:TheTFOSInter-nationalWorkshoponContactLensDiscomfort:reportoftheCcontactClensCinteractionsCwithCtheCtearC.lmCsubcom-mittee.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS123-156,C20132)横井則彦:涙液からみたコンタクトレンズ.日コレ誌C57:C222-235,C20163)Ti.anyJM:MeasurementCofCwettabilityCofCtheCcornealCepithelium.II.Contactanglemethod.ActaCOphthalmologi-ca68:182-187,C19904)TongeS,JonesL,GoodallSetal:TheexvivowettabilityofCsoftCcontactClenses.CCurrentCEyeCResearchC23:51-59,C20015)LinMC,SvitovaTF:Contactlenseswettabilityinvitro:CE.ectofsurface-activeingredients.OptometryandVisionCScienceC87:440-447,C2010PAS110

写真:眼類天疱瘡(翼状片合併Early Stage)

2018年10月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦413.眼類天疱瘡奥村峻大*,**福岡秀記***大阪医科大学眼科学教室(翼状片合併EarlyStage)**京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学abcdef図1初診時前眼部写真(上段:右眼,下段:左眼)a,d:スリット写真(正面視).翼状片しか確認できない.b,e:スリット写真(上方視).上方視時にようやく結膜下線維性増殖を確認できる.c,f:フルオレセイン染色写真.ドライアイ(areabreak)を認める.(69)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13810910-1810/18/\100/頁/JCOPY眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphigoid:OCP)はII型アレルギー反応により角結膜の瘢痕化をきたす自己免疫性疾患であり,免疫組織学的に上皮基底膜への免疫グロブリン(IgG,IgM)や補体C3の沈着が観察されたことから,結膜上皮基底膜に対する自己抗体産生が原因とされている1).基底膜成分に対する自己抗体はこれまでに何種類か報告されているが,結膜ではCa6b4インテグリンのCb4サブユニットがターゲットになることが多い2).結膜では,結膜下線維芽細胞の増殖の進行とともに結膜.短縮から瞼球癒着が生じる.反復する炎症により結膜杯細胞の減少と涙腺の排出管の閉塞を引き起こし,結果としてドライアイを合併する.ドライアイは重症であり,まず結膜上皮の扁平上皮化生や錯角化を生じる.進行すると結膜上皮細胞の肥厚や角化,角膜輪部上皮幹細胞疲弊症に至り,角膜内への結膜侵入を生じる2).OCPは,FosterCI~IV期の病期分類が可能である.I期では慢性結膜炎症から下方の結膜.下組織に白色の線維性増殖を認める.II期では下方の結膜円蓋部の短縮に至る.III期では瞼球癒着が進行し,角膜内への結膜侵入や涙液減少が著明になる.IV期では角膜は結膜上皮に置き換わり,角化し,末期のステージとなる2).OCPは非対称性であることが多く,最初は片側性の非特異的な慢性結膜炎として現れることがある.症状には灼熱感のような痛みや異物感,羞明,涙流などがある3).確定診断は,結膜生検で得られた試料を用いた免疫組織学的染色によりCbasementmembranezone(BMZ)への免疫グロブリンの沈着により行われる1).治療は,低濃度ステロイド点眼で慢性炎症を抑制し,角膜上皮保護や睫毛管理を行う.進行例では全身の免疫抑制が必要となる.ドライアイに対しては人工涙液や涙点プラグ挿入や涙点閉鎖の治療を行う.FosterIII期やIV期では,羊膜移植や角膜上皮移植など外科的治療の適応となる2).提示症例はC66歳の女性で,近医より翼状片手術目的で当科に紹介された.両眼鼻側の翼状片を認めた.Breakup分類でCareabreak,Schirmer試験(CI法)は両眼ともC0Cmmで,著明な涙液減少型ドライアイが確認された.血液検査より抗CSS-A抗体,抗CSS-B抗体は陰性であり,Sjogren症候群は否定的であった.上方視時に結膜下線維性増殖を認め,OCP(FosterI期)の合併が疑われた.このようなCOCPを合併した翼状片の症例では,結膜切開を含む外科的介入は重篤なCOCPの悪化を招く可能性がある.可能であれば十分な活動性疾患の制御がされるまで延期されるべきである.本症例のように初期COCPは判別がむずかしい場合もあり,高齢者で前眼部手術を予定する際などはとくに注意をして診察をする必要がある.文献1)横山真介,佐々木香る,斎藤禎子ほか:眼類天疱瘡の急性期臨床所見としての膜様物質とそのムチンの発現.あたらしい眼科28:119-122,C20112)稲富勉:眼類天疱瘡と結膜変化.あたらしい眼科C33:C555-556,C20163)PaulCS,CGrahamL:OcularCcicatricialpemphigoid:patho-genesis.ClinExpOptom86:47-50,C2003

薬剤副作用と医薬品被害救済制度

2018年10月31日 水曜日

薬剤副作用と医薬品被害救済制度AdverseDrugReactionandReliefServicesforAdverseHealthE.ects三重野洋喜*外園千恵*はじめに薬剤副作用は予期せずに生じるものであり,患者にとっても,主治医にとっても,製薬会社にとっても避けたい被害である.その被害を救済するための制度として,「医薬品副作用被害救済制度」がある.わが国が誇るべき制度ともいえるが,詳しく知っている眼科医は少ないので,本稿で解説する.I医薬品副作用被害救済制度の概要医薬品および再生医療などの製品(医薬品など)は,医療上必要不可欠なものとして国民の生命,健康の保持増進に大きく貢献している.一方,医薬品などは有効性と安全性のバランスの上に成り立っているものであり,その使用に当たって万全の注意を払っても,副作用を完全に防止することは非常に困難とされている.医薬品の副作用による健康被害は防止しえない性格のものがあり,このような副作用による被害は,現行の過失責任主義のもとでは民事責任が発生しない.また,被害と医薬品使用との因果関係を証明するには,きわめて専門的な知識と膨大な時間と費用が必要であり,製薬企業に過失があったとしても,過失の存在の証明は容易ではない.訴訟による解決には長時間を要すること,製薬企業には安全かつ有効な医薬品の適切な供給を図るべき社会的責任があることから,そのような健康被害に対して医療費などの給付を行い,被害者の救済を図る制度が「医薬品副作用被害救済制度」である.医薬品副作用被害救済制度は,医薬品などを適正に使用したにもかかわらず発生した副作用によって健康被害が生じた場合に,迅速な救済を図ることを目的として1980年に創設された,医薬品医療機器総合機構法に基づく公的な制度である(再生医療等製品については,2014年11月25日以降より適用).副作用としては,入院治療が必要な程度の重篤な疾病や障害などの健康被害を想定している.救済給付の必要費用は,医薬品の製造販売業者がその社会的責任に基づいて納付する拠出金が原資となっている(図1).ここでいう「医薬品」とは,厚生労働大臣による医薬品の製造販売業の許可を受けて製造販売された医療用医薬品および一般用医薬品などであり,病院・診療所で処方された医療用医薬品,薬局・ドラッグストアで購入した要指導医薬品,一般用医薬品のいずれをも含む.ただし,別途対象除外医薬品が定められている.医薬品副作用被害救済制度についての詳細は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下,PMDA)のホームページで確認できる(http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai_camp/index.html).II給付の対象と対象除外医薬品1980年5月1日以降(再生医療等製品については2014年11月25日以降)に医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による疾病(入院治療を必要とする程度のもの),障害(日常生活が著しく制限さ*HirokiMieno&*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(63)1375図1医薬品副作用被害救済制度の仕組み(独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページより転載)表1副作用救済給付(障害年金,障害児養育年金)の対象となる障害の程度等級障害の状態1級1.両眼の視力の和が0.04以下のもの2.両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの3.両上肢の機能に著しい障害を有するもの4.両下肢の機能に著しい障害を有するもの5.体幹の機能に座っていることができない程度または立ち上がることのできない程度の障害を有するもの6.前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの7.精神の障害であって,前各号と同程度以上と認められる程度のもの8.身体の機能の障害もしくは病状または精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの2級1.両眼の視力の和が0.08以下のもの2.両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの3.平衡機能に著しい障害を有するもの4.咀嚼の機能を欠くもの5.音声または言語機能に著しい障害を有するもの6.一上肢の機能に著しい障害を有するもの7.一下肢の機能に著しい障害を有するもの8.体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの9.前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの10.精神の障害であって,前各号と同程度以上と認められる程度のもの11.身体の機能の障害もしくは病状または精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの【備考】視力の測定は,万国式試視力表によるものとし,屈折異常があるものについては,矯正視力によって測定する.表2給付額(2018年4月1日現在)給付の種類区分給付額①医療費健康保険などによる給付の額を除いた自己負担分通院のみの場合(入院相当程度の通院治療を受けた場合)1カ月のうち3日以上月額36,400円1カ月のうち3日未満月額34,400円②医療手当入院の場合1カ月のうち8日以上月額36,400円1カ月のうち8日未満月額34,400円入院と通院がある場合月額36,400円③障害年金1級の場合年額2,767,200円(月額230,600円)2級の場合年額2,214,000円(月額184,500円)④障害児1級の場合年額865,200円(月額72,100円)養育年金2級の場合年額692,400円(月額57,700円)⑤遺族年金年金の支払は10年間(ただし,死亡した本人が障害年金を受けたことがある場合,その期間が7年に満たないときは10年からその期間を控除した期間,その期間が7年以上のときは3年間)年額2,420,400円(月額201,700円)⑥遺族一時金7,261,200円⑦葬祭料206,000円表3請求の期限給付の種類請求の期限①医療費医療費の支給の対象となる費用の支払いが行われたときから5年以内②医療手当請求に係る医療が行われた日の属する月の翌月の初日から5年以内③障害年金請求期限は定められていない④障害児養育年金請求期限は定められていない⑤遺族年金死亡のときから5年以内注ただし,死亡前に医療費,医療手当,障害年金または障害児養育年金の支給決定があった場合には,死亡のときから2年以内注:遺族年金を受けることができる先順位者が死亡した場合にはその死亡のときから2年以内⑥遺族一時金遺族年金と同じ⑦葬祭料遺族年金と同じ表4請求に必要な書類給付の種類添付書類①医療費②医療手当1.医療費・医療手当請求書2.医療費・医療手当診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書4.受診証明書など③障害年金④障害児養育年金1.障害年金請求書または障害児養育年金請求書2.障害年金/障害児養育年金診断書.視覚障害用.聴力・平衡機能障害用.運動・感覚障害用.肝臓・腎臓・血液・造血器障害用.遷延性脳障害用/精神障害用.呼吸器疾患障害用.その他の障害用3.投薬・使用証明書または販売証明書など⑤遺族年金⑥遺族一時金1.遺族年金請求書または遺族一時金請求書2.遺族年金/遺族一時金/葬祭料診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書など⑦葬祭料1.葬祭料請求書2.遺族年金/遺族一時金/葬祭料診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書など未支給の救済給付1.未支給の救済給付請求書2.請求しようとする種別の請求書類など【備考】1.投薬・使用証明書は,診断書を作成した医師が投薬した場合(処方せんの交付を含む)は不要.2.医療費・医療手当の請求に係る受診証明書は,副作用の治療を受けた病院等での証明が必要.3.副作用の治療を受けた病院が2カ所以上の場合は,それぞれの病院などから診断書などの作成が必要.4.複数の給付請求を同時に行う場合,同じ医師による診断書は,副作用のより重篤な症状の様式を使用し,同一の書類の添付は省略可能.表5Stevens.Johnson症候群の診断基準赤字の部分が追加されたことにより,2018年4月1日から慢性期においても問診および臨床所見からStevens-Johnson症候群と診断し,難病申請ができるようになった.<診断基準>(1)概念発熱と眼粘膜,口唇,外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹を伴い,皮膚の紅斑と表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらんを特徴とする.医薬品のほかに,マイコプラズマやウイルスなどの感染症が原因となることもある.(2)主要所見(必須)1.皮膚粘膜移行部(眼,口唇,外陰部など)の広範囲で重篤な粘膜病変(出血・血痂を伴うびらんなど)がみられる.2.皮膚の汎発性の紅斑に伴って表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱を認め,軽快後には痂皮,膜様落屑がみられる.その面積は体表面積の10%未満である.ただし,外力を加えると表皮が容易に.離すると思われる部位はこの面積に含まれる.3.発熱がある.4.病理組織学的に表皮の壊死性変化を認める.5.多形紅斑重症型(erythemamultiforme[EM]major)およびブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)を除外できる.(3)副所見1.紅斑は顔面,頸部,体幹優位に全身性に分布する.紅斑は隆起せず,中央が暗紅色の.atatypicaltargetsを示し,融合傾向を認める.2.皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴う.眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性角結膜炎がみられる.3.全身症状として他覚的に重症感,自覚的には倦怠感を伴う.口腔内の疼痛や咽頭痛のため,種々の程度に摂食障害を伴う.4.自己免疫性水疱症を除外できる.診断のカテゴリー副所見を十分考慮のうえ,主要所見5項目をすべて満たす場合,SJSと診断する.初期のみの評価ではなく全経過の評価により診断する.*慢性期(発症後1年以上経過)では眼瞼および角結膜の瘢痕化がみられる.慢性期で粘膜病変が眼瞼および角結膜の瘢痕化の場合,主要所見4は必須ではない.ただし,医薬品副作用被害救済制度において,副作用によるものとされた場合は医療費助成の対象から除く.

重症薬疹と眼障害

2018年10月31日 水曜日

重症薬疹と眼障害OcularSequelaandStevens-JohnsonSyndrome上田真由美*はじめにあらゆる薬剤は,その薬剤に対するなんらかの免疫反応で生じる発疹,つまり,薬疹を誘発する可能性を有するが,薬疹のなかでも臓器障害を併発し,生命に危険を及ぼす可能性のある薬疹は,重症薬疹とよばれる.重症薬疹には,スティーブンス・ジョンソン症候群(Ste-vens-Johnsonsyndrome:SJS),中毒性表皮壊死症(toxicepidermalnecrolysis:TEN),薬剤過敏症症候群(drug-inducedhypersensitivitysyndrome:DIHS)などがあり,このうちSJS,その重症型とされるTENでは,眼障害も生じることが多い.本稿では,眼障害を生じるSJS/TENについて,その臨床所見,治療方法,発症にかかわる遺伝素因,今まで明らかとなってきた病態を,筆者の知見をもとに解説する.I眼障害を生じるSJSならびにTENその臨床所見SJSは突然の高熱と皮膚・粘膜の発疹,びらんで発症し,最初に数個で始まった発疹が急速に全身に拡大する急性の皮膚粘膜疾患である.TENは,その一部はSJS重症型と考えられ,日本では皮疹の面積が10%未満のものをSJS,それ以上のものをTENとよぶ.厚生労働省研究班はSJSとTENの診断基準を作成しホームページで公開している.SJS:https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1a23.pdfSJSTEN皮膚表皮.離の面積10%未満10%以上眼科で診療する広義のSJS粘膜病変あり粘膜病変なし図1皮膚科で診断されるStevens.Johnson症候群.中毒性表皮壊死症(SJS.TEN)における重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の位置づけ(文献1より引用)TEN:https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1a27眼障害を生じているSJSとTENの眼所見は類似し,急性期(眼合併症)ならびに慢性期(眼後遺症)を通して,眼所見より両者を鑑別することは困難である.眼科では,瘢痕性角結膜上皮症に至った慢性期の患者を診ることが多く,重篤な眼障害を伴うSJSとTENを併せて広義のSJSと呼称している1,2)(図1).眼障害を生じるSJS患者には,共通の特徴が存在する.急性期に口唇・口腔内の出血性びらん,爪囲炎を全例に認める(図2)3).また,SJS/TENは,薬剤の投与が誘因となって発症するが,眼障害を生じるSJS患者を対象に行った調査では,約8割の患者が感冒様症状を*MayumiUeta:京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町広広小路上ル梶井町465京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(53)1365ab図2眼障害を伴うStevens.Johnson症候群(SJS)の早期所見眼合併症を伴うSJS患者では,急性結膜炎(a),口唇・口腔内の出血性びらん(b),爪囲炎(c)を必発する.(文献3より許可を得て引用)ab#*図3眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS.TENの急性期の眼所見皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血(a),角結膜上皮欠損(b),偽膜形成(c)を生じる.(文献1より引用)a.眼表面に広範囲の上皮欠損が生じ角膜上皮幹細胞が消失した場合b.眼表面の上皮欠損が少なく角膜上皮幹細胞が残存した場合図4急性期の角結膜上皮欠損と視力予後a:十分に眼表面の消炎がされないと急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底部に存在)が消失し,慢性期に角膜は結膜組織で被覆され混濁する.b:十分に消炎ができて角膜上皮幹細胞が残存した場合には,角膜ほぼ透明化する.(文献1より引用)日C4回に変更する.ステロイドの副作用として続発性緑内障を発症することがあるので注意が必要である.C3.癒着防止消炎が不十分な場合には,瞼球癒着が進行する.瞼球癒着を予防するためには,ステロイド点眼により眼表面の消炎を図るとともに,癒着を生じかけたら点眼麻酔下に硝子棒を用いて機械的に癒着を.離する.C4.感染予防:適切な抗菌薬の点眼急性期は広範囲の角結膜上皮欠損があるために感染のリスクが高い.二次感染を予防するために,適切な抗菌薬の点眼を行う必要がある.結膜.あるいは眼脂の塗沫・培養検査を初診時に行い,菌を検出すれば薬剤感受性を考慮して,適切な抗菌薬を局所投与する.眼障害を生じるCSJSでは,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)あるいはメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusepidermidis:MRSE)が検出されることが多いため,初回検査で陰性であっても,急性期には週C1回程度の監視培養を続けることが重要である.C5.遷延性上皮欠損に対する手術治療眼障害を生じるCSJSの急性期には,角膜上皮欠損が治らないままに遷延することがある.角膜上皮欠損が遷延すると,角膜穿孔を生じ失明につながるため,角膜穿孔の可能性が高い難治性の角膜上皮欠損に対しては,培養粘膜上皮移植術が有効である6).CIV慢性期の眼所見(眼後遺症)慢性期の眼障害,つまり眼後遺症としては,重篤なドライアイ,瞼球癒着,睫毛乱生,視力障害があげられる7,8).C1.ドライアイ(図5a,b)慢性期患者の多くは重篤なドライアイを伴う.ドライアイが著しいため,乾燥感,異物感,羞明,眼痛などが慢性期の症状として持続し,重篤なドライアイによる点状表層角膜症のために視力障害も生じる.C2.瞼球癒着(図5c,d)急性期の癒着防止治療にもかかわらず,瞼球癒着が生じることは珍しくなく,また,慢性期の炎症持続によって瞼球癒着が進行することもある.C3.睫毛乱生(図5e)眼瞼炎症の後遺症として睫毛乱生が生じる.眼障害を生じるCSJSでは,従来の睫毛根部とはまったく異なった眼瞼結膜から睫毛が伸びていることもしばしば観察され,急性期の炎症が眼表面だけではなく眼瞼の深部にまで及んでいたことがうかがわれる.睫毛乱生を放置すると睫毛が眼表面に触って刺激し,眼表面炎症を惹起する.C4.視力障害(図5f,g)もっとも重篤な眼後遺症は視力障害である.急性期に角膜上皮幹細胞が消失すると,血管・結合織を伴った結膜組織が角膜表面を被覆し,角膜は不透明,凹凸不整となって著しい視力障害をきたす.さらには,眼表面を被覆した結膜上皮が分化異常をきたし,皮膚のように角化することもある.CV慢性期の治療眼表面の管理が主体となる.重症ドライアイに対しては人工涙液の点眼,涙点プラグを用いた涙点閉鎖・手術による涙点閉鎖などの治療を行う.睫毛乱生に対しては定期的に睫毛抜去を行い,睫毛乱生がひどい症例では,手術的に睫毛乱生が生じている睫毛根部の切除を行うこともある.眼障害を生じるCSJSでは眼表面からCMRSAあるいはCMRSEが検出されることが多いので,眼脂を伴って充血を生じた場合には結膜.培養を行い,適切な抗菌薬を点眼する.慢性期に炎症が持続,あるいは再燃を繰り返す場合は,低濃度のステロイド点眼により炎症を抑制し,瘢痕性変化の進行を防止する.最近では,ドライアイ治療薬であるレバミピド点眼を開始すると眼表面炎症が減弱する症例が多く,レバミピドの抗炎症作用が奏効していると考えられる.1368あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(56)図5重篤な眼合併症を伴うSJS.TENの眼後遺症重篤な眼後遺症として,重症ドライアイ(Ca,b),眼瞼結膜の瘢痕形成(Cc),瞼球癒着(Cd),睫毛乱生(Ce:),症例によっては角膜への結膜侵入(Cf)または眼表面の角化(Cg)による重度の視力障害があげられる.(文献C8より引用)眼・粘膜障害無型では関連なし眼・粘膜障害無眼・粘膜障害有(眼科のSJS)図6原因薬剤によりSJS.TENの遺伝素因が異なる(文献C1より引用)A.ymetrixAXIOMGenome-WideASI1Array151050chromosome図7IKZF1遺伝子多型感冒薬関連眼合併型CSJS日本人患者C117名ならびに健康コントロールC691名を対象にした全ゲノム関連解析の結果(マンハッタンプロット).既報のCHLA領域に加えて,IKZF1遺伝子に強い関連を認めた.(文献C29より許可を得て引用)Pvalue(-log10)12345678910111213141516171819202122図8SJSの発症機序についての上田の仮説発症の遺伝子素因がない人では,なんらかの微生物感染が生じても,正常の自然免疫応答が生じ,薬剤服用後に解熱・消炎が促進され,感冒は治癒する.しかし,発症の遺伝子素因がある人に,なんらかの微生物感染が生じると異常な自然免疫応答が生じ,さらに炎症を抑制しているプロスタグランジンCEC2の産生を抑制する作用のある感冒薬服用が加わって,異常な免疫応答が助長され,SJSを発症する.(文献C8より引用)—-

全身薬による眼瞼や眼球運動の障害

2018年10月31日 水曜日

全身薬による眼瞼や眼球運動の障害SideE.ectsofEyelidsandEyeMovementsduetoSystemicMedications若倉雅登*はじめに全身薬副作用は,呼吸器系,心循環系,内分泌代謝系,神経系など内科的視点に偏りがちで,神経眼科領域への副作用は,処方医が領域外の場合はほとんど注意が払われない.視力低下など視覚系障害が生じれば,角膜,水晶体,網膜,視神経など視器への副作用として認識されやすいが,眼瞼や眼球運動系への副作用は,顕著になるまでは眼科医でさえ見逃しやすい.新薬は次々と出現するが,副作用調査は法的には短期のものを把握すればよいことになっており,連用や,晩発するもの,他の薬物との併用によって生じる副作用には十分目が行き届かない.また,生死に直結するものや,機能廃絶(眼科でいえば失明)にかかわる副作用は重大視されるが,一般に添付文書にある眼副作用は「かすみ目」「視力低下(感)」「複視」「流涙」など症状本位の取り上げ方しかされず,その実態は不明なものがほとんどであるのに,いずれも軽い副作用とされてしまう.しかも,近年は多くの学術誌が症例報告を採用しない傾向にあり,副作用の可能性がある症例を経験しても報告されないことが増えているので,臨床医が眼瞼や眼球などに生じる,まれな副作用を知る機会も減ってしまった.それゆえ,医師自身が副作用は起こることは当然という姿勢で,疑う姿勢で注意して観察しなければ,不可逆的機能障害にしてしまうことがありうる.本稿では,全身薬の副作用の中でも見逃されやすい眼瞼と眼球運動の異常について概観する.CI眼瞼1.眼瞼腫脹など眼瞼腫脹は副腎皮質ホルモン薬の長期投与で,眼窩内脂肪の増加につれて眼瞼組織内の脂肪も増えてくることに伴い生じることは,よく知られている.そのほか,非小細胞肺癌などに用いられる抗癌薬ペメトレキセド(アリムタ=点滴)1)や,臓器移植後の免疫抑制に用いられるエベロリムス(サーティカン)2)で眼瞼浮腫の報告がある.眼瞼ミオキミアは,多くは片側の下眼瞼や上眼瞼が数秒.十数秒程度,不随意に蠕動するように動く不随意の筋収縮で,ときどき繰り返す.多くは過労や睡眠不足などが誘因となる一過性のもので,休息すれば回数が減り,やがて消失する.ただし,数カ月以上出没する例もある.抗てんかん薬のトピラマート(トピナ)は海外では偏頭痛治療に用いられることがある.140例の偏頭痛に本剤を投与したところ,8例で眼瞼ミオキミアが発現,中止により消失したが,再投与例では再度出現したとの報告がある3).C2.眼瞼痙攣眼瞼痙攣は神経眼科では頻繁にみられる疾患である.*MasatoWakakura:井上眼科病院〔別刷請求先〕若倉雅登:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(47)C1359ロフラゼブ酸ロラゼパムトリアゾラムアルプラゾラムフルニトラゼパムブロチゾラムゾルピデムエチゾラム112図1眼瞼痙攣発症前に使用されていた薬物(上位8位)(N=359)(文献C4に追加,改変引用)類似薬と考えるべきである.図1にはC8位までのものを示したが,しばしばそれより下位にはどのような薬物があるのかを質問されるので,8位以下のものを示しておく.一般名(総数,1剤使用例数+2剤使用例数)の形で列挙する.9位:スルピリド(28,2+6),10位:プロマゼパム(26,1+2),11位:パロキセチン(22,1+2),12位:ジアゼパム(21,6+1),13位:クロチアゼパム(19,2+4),14位:バルプロ酸(17,0+2),同:オランザピン(17,1+1),同:クロナゼパム(17,1+4),17位:クロルプロマジン(15,0+0),18位:リスペリドン(14,0+0),19位:ゾピクロン(13,3+0).20位には,アリピプラゾール,トラゾロン,リチウムがC11例で並ぶが,いずれもC3剤以上使用しているうちのC1剤であった.以上のようにC10,12,13,14位にベンゾジアゼピン系が入っており,本症との関連の深さを示唆している.C3.ベンゾジアゼピン眼症の提唱薬物性眼瞼痙攣の場合,5年以上常用した場合は,離脱が困難になるだけでなく,離脱成功後も眼瞼痙攣としての強い症状が残存することが多い.また,離脱を急速に行うと離脱症候群が生じ,心身症状の悪化だけでなく,光過敏が高度になるなど,眼瞼痙攣の症状自体が増悪する症例を経験する.一方,比較的早期に離脱に成功した場合,眼瞼痙攣の各症状の改善が期待でき,ボツリヌス治療が不要になるケースもある7,8).さて,軽症例を一般眼科で発見することは,その医師が本症を熟知していないかぎりかなり困難である.とくに随意瞬目負荷試験4)などをしても眼瞼運動の異常が検出できない場合,診断に迷う可能性が高い.薬物性の場合,早期もしくは予備軍の状態で発見できれば,早期においては依存性が低く,離脱しやすい.離脱に成功すれば,症状は明らかに改善し,消失する場合も少なくない.そこで筆者らは,原因不明の羞明や光過敏,眼痛,霧視,眼部違和感などにおいてベンゾジアゼピン系薬物もしくは類似薬を使用している場合は,処方医と相談して離脱を試みた.すると,かなりの症例で明らかに自覚症状が改善することを経験したので,最近は「ベンゾジアゼピン眼症」として,注意することを提唱している4,9)CII重症筋無力症重症筋無力症(myastheniaCgravis:MG)の患者は,その病歴のなかで眼瞼下垂,複視など眼症状を呈する例がC70%以上といわれ,とくに小児では眼症状で発症する場合が多く,眼筋型も多い.実際,神経眼科医が眼筋型や眼筋症状が主体のCMG症例の治療を行っている,または治療方針を助言しているケースは少なくない.眼筋機能の詳細な評価は眼科でしかできないので当然である.そこで,MGやCMG様症候の発症や,増悪に関連する薬物をここに示す.MG様症状を惹起することが報告され,添付文書にも記載されている薬物としては,D-ペニシラミンとチオプロニンがある.また,C型肝炎治療などに用いられるインターフェロンCa,インターフェロンCbも可能性がある10).このほか,MG有病者の症状悪化をきたす可能性が指摘されているものを表1に列挙した11).CIII眼球運動異常薬物による眼球運動障害は,急性の薬物中毒の形で出現する場合が多いが,常用量でもさまざまな眼球運動障害が報告されている.Pulaら11)はこれらをまとめているので,そこに記されていない最近の知見も併せて表2にまとめる.双極性障害に用いられるリチウムや,局所麻酔薬,抗痙攣薬,抗不整脈薬などさまざまな薬物が含まれるナトリウムチャネルブロッカーで,眼振を生じるような中枢性メカニズムが作動することは容易に推測される.ことに抗痙攣薬は,以前から下向き眼振などの眼球運動障害を惹起することが報告されている12).こうした中枢性作用が強調されていない,胃潰瘍治療薬ラニチジン(ザンタック)13)や,末梢神経障害性疼痛治療薬プレガバリン(リリカ)14)など,日常よく使われる薬物で小脳への作用を推測させる下向き眼振の報告があるのことにも注意しておく必要があるだろう.ちなみに,妊婦がオピエートやベンゾジアゼピン系薬(49)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1361表1重症筋無力症を増悪させうる薬剤薬物名薬品分類注意事項ボトックスイソフルレン,サクシニルコリンテリトロマイシン,アミノ配糖体,ポリミキシン,コリスチンバンコマイシン,クリンダマイシン,マクロライド,フルオロキノロンキニジン,キニンラベタロール,プロプラノロール,アテノロールなどアムロジピン,ニフェジピン,ニカルジピンなどアトルバスタチン,プラバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチンなどフェニトイン,ガバペンチン,カルバマゼピン,バルビツール系マグネシウムリチウム,三環系,フェノチアジンA型ボツリヌス毒素麻酔薬抗菌薬抗不整脈薬ベータブロッカーカルシウムチャネルブロッカータチン系抗てんかん薬便秘,制酸薬精神病薬眼瞼痙攣に重症筋無力症が合併していることがある使用の場合は低用量,人工呼吸器準備ケラトイド系抗菌薬テリトロマイシン(販売中止)絶対禁忌バンコマイシン,クリンダマイシンはリスク高いマクロライド,フルオロキノロンはややリスク低い抗マラリア薬としても有名疲労現象の増強まれに心原性,呼吸器系の抑制自己免疫機序を介したものか,重症筋無力症の発症,増悪の症例報告あり症例報告あるもリスクはフェニトインを除き低い高用量で注意通常量でも悪化しうるが,用量低減で改善表2眼球運動系に影響する全身用薬眼球運動障害おもな関連薬物注意事項衝動性運動速度低下滑動性運動の異常核間麻痺注視麻痺オプソクローヌス眼振(とくに下向き眼振)輻湊痙攣オクロギーリッククライシスベンゾジアゼピン,カルバマゼピン,ガバペンチン,バルビツール系,ハロペリドール,リスペリドンベンゾジアゼピン,フェニトイン,カルバマゼピン,バルビツール系,リチウム三環系,バルビツール系,フェノチアジン,リチウム,ベータブロッカー,タクロリムス,麻薬三環系,フェニトイン,カルバマゼピン,バルビツール系,リチウム,バクロフェン,バルプロ酸ジフェンヒドラミン,三環系,リチウム,シクロスポリンCAリチウム,ラニチジン,プレガバリン,種々の抗痙攣薬ナトリウムチャネルブロッカーフェニトインカルバマゼピン,フェノチアジン,リチウム,ラモトリギン,メトプロクラミド,セフィキシム抗てんかん薬でもプレガバリンは影響微小常用量でも起こるが,毒性とまではいえない薬物の高度の毒性では,昏睡にもなりうる薬物毒性の徴候抗てんかん薬は多数の報告がある若年者に多い-