眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人白石敦43.瞬目摩擦と結膜疾患愛媛大学大学院医学研究科医学専攻器官・形態領域眼科学瞬目時には,眼瞼結膜と眼表面の間に摩擦が生じており,病的に摩擦が亢進するとCsuperiorClimbicCkerato-conjunctivitis(SLK)やClidwiperCepitheliopathy(LWE)に代表される摩擦関連疾患が生じる.眼表面摩擦亢進が生じる要因は,眼瞼,眼表面,涙液側から複数の因子が関係していることが多く,その病態における摩擦亢進の要因を的確に判断して治療することが必要である.●はじめに瞬目は,眼表面の涙液の拡散と排出に働くことで,導涙機能とともに安定した涙液膜を形成している.一方で,瞬目時には眼瞼結膜と眼表面の間に摩擦が生じており,病的に摩擦が亢進すると過度な上皮細胞の脱落が生じ,角結膜上皮障害が生じる.C●瞬目時の眼表面摩擦二つの物体が接触して動いているとき,その物体間には常に摩擦力が生じ,摩擦力CF=摩擦係数CμC×垂直力CNという公式で表される.瞬目時の眼瞼と眼表面の関係図1眼瞼と眼表面の解剖と瞬目による眼表面摩擦眼瞼はClidwiper部で眼表面と接しており,その上方の結膜.はCKessingspaceとよばれ,涙液のリザーバーの役割を果たす.摩擦力CF=摩擦係数CμC×垂直力CNの式で表せるが,これを眼瞼と眼球との間にあてはめると,眼瞼と眼球との摩擦力CF=眼瞼結膜やClidwiperと角膜や眼球結膜との間の状態により決まる摩擦係数CμC×眼瞼圧CNと表記できる.(81)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYにあてはめた場合,「眼表面と眼瞼間の摩擦力CF=眼表面と眼瞼間の粗さ係数CμC×眼表面と眼瞼間にかかる垂直力N(=眼瞼圧)」と示される(図1).摩擦係数Cμは眼表面の凸凹と涙液の状態に影響を受ける.眼瞼および眼表面の解剖に注目してみると,皮膚粘膜移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)から瞼板下溝までの眼表面ともっとも密接している部分は,KorbらによってClidwiperと命名されており,瞬目時の摩擦の中心となる1).また,眼瞼結膜と眼球結膜の間にはCKessingspaceがあり,瞬目で涙液がCKessingspaceから拡散することにより均一な涙液膜が形成されている.つまり解剖学的構造,涙液,瞬目運動の複合的要因によって瞬目による眼表面摩擦が構成されている.C●眼表面摩擦を亢進させる要因摩擦関連疾患において眼表面摩擦亢進が生じる要因にも複数の因子が関係していることが多く,眼瞼,眼表面,涙液側のC3方向からその要因を考えるとわかりやす図2眼表面摩擦亢進が生じる要因眼表面摩擦亢進が生じる要因は,眼瞼側(眼瞼圧上昇,不規則な瞬目),眼表面側(結膜弛緩症,眼表面上皮障害),涙液側(涙液減少,不安定な涙液層)のC3方向からなる.あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1393図3Superiorlimbickeratoconjunctivitis(a)とLidwiperepitheliopathy(b)い(図2).眼瞼側の要因では,眼表面と眼瞼間にかかる垂直力CNである眼瞼圧があげられる.眼表面側の要因としては,結膜弛緩症や結膜乳頭などの表面が凸凹した病態や,点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopC-athy:SPK)などの眼表面上皮障害も凸凹状態となるために眼表面側の要因の一つとなる.結膜弛緩や摩擦関連疾患に伴う眼表面上皮障害では摩擦亢進がその病態の原因となり,それに伴う上皮障害がさらに摩擦亢進に働くために病態が悪循環に陥ってしてしまう.涙液側の要因としては,涙液の減少型ドライアイでは,涙液減少による摩擦係数(上昇)に加えて上皮障害が生じることで,やはり悪循環に陥った状態となる.一方で,不安定な涙液層では眼表面における涙液の粘度が低下しており,やはり摩擦亢進の要因となる.C●眼表面摩擦関連疾患の病態a.Superiorlimbickeratoconjunctivitis(SLK)SLK(図3a)の病態は,上眼瞼結膜と上方の角結膜間の摩擦亢進である.従来よりドライアイの合併症とされ,眼瞼結膜乳頭形成や上方の結膜弛緩が指摘されているように,涙液減少や不安定な涙液膜,眼表面の凸凹による摩擦係数上昇がその要因である.一方,重症度が上がるにつれて上眼瞼圧が有意に上昇しており,SLKの発症には眼瞼圧の上昇,眼表面の不正,涙液の減少や安定化のC3要素すべてが関与している2).Cb.Lidwiperepitheliopathy(LWE)Lidwiper部は常に眼球表面に接しているため,瞬目によりもっとも摩擦が高くなる部位である.LWE(図3b)は,とくに眼表面より摩擦係数の高いコンタクトレンズを装用することで高頻度に認められる.ドライアイとの関連では,ドライアイ患者で正常者の約C6倍の高頻度で認められるとの報告がある一方で,涙液所見はLWEと正常者では変わらないとの報告がある3,4).c.ドライアイ涙液減少型ドライアイが悪化してくると,瞼裂間に境界明瞭な結膜上皮障害を認めるようになる.涙液減少型ドライアイでは涙液層が薄く,またCSjogren症候群によるドライアイでは分泌型ムチンも減少するため,摩擦が亢進している状態である.C●瞬目に伴う眼表面摩擦関連疾患の治療摩擦関連疾患においては,複数の眼表面摩擦亢進が生じる因子が関係していることが多いため,治療をするにあたってはその病態における摩擦亢進の要因を可能なかぎり検出または推測し,もっとも影響している可能性のある要因に対する治療から開始することが望ましい.C●おわりに2016年に改訂されたドライアイ診断基準では「さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患」と定義されたが,瞬目による摩擦はまさに主要因となりえる.ドライアイや眼表面の上皮障害を診察するにあたっては,要因の一つとして瞬目による摩擦も考慮しながら診察に臨むことが肝要である.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJetal:Lid-wiperepitheli-opathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C20022)山口昌彦:摩擦をターゲットとしたドライアイ治療.あたらしい眼科34:361-370,C20173)KorbDR,HermanJP,BlackieCAetal:PrevalenceoflidwiperCepitheliopathyCinCsubjectsCwithCdryCeyeCsignsCandCsymptoms.CorneaC29:377-383,C20104)ShiraishiCA,CYamaguchiCM,COhashiY:PrevalenceCofCupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLensC40:220-224,C2014C1394あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(82)