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薬物性視神経症

2018年10月31日 水曜日

薬物性視神経症ToxicOpticNeuropathies中馬秀樹*はじめに薬物性視神経症は,薬物摂取後に両眼性に発症し,中心視力の低下,色覚異常,視野検査で中心盲暗点をきたす.初期は視神経乳頭に検眼鏡的変化を示さない.薬剤中止により視機能が可逆性に改善するものもあれば非可逆的な例も存在する.視神経乳頭は時間経過とともに萎縮に至る.視神経症を生じたと報告されている薬剤は数多く存在する(表1).しかし,この中には因果関係が明らかにされていないものもあり,その証明はしばしば困難である.今後も次々と新しい薬剤性視神経症の報告がなされるであろうが,その判断には慎重でありたい.また,薬物性視神経症はあくまでも除外診断となる.鑑別すべき視神経疾患をチャートに示す(図1).以下,各論的にそれぞれの薬物性視神経症の特徴を示す.Iエタンブトールエタンブトール(Ethambutol)は発売当初より視神経症の報告がなされており,当初はL型とD型が販売されていた.D型は抗結核菌に有効である一方,L型は視神経症を多く発症したため,市場からなくなった.サルを用いた動物実験では視交叉に軸索障害が認められている.一方,ウサギを用いた実験では視神経に軸索障害が認められているが,視神経症の発症機序は明らかにされていない.現時点では,エタンブトールの抗菌作用が,菌複製に必要な金属含有酵素をキレートすることに関連していると考えられているので,ヒトのミトコンドリア内の銅または亜鉛を含む酵素をキレート化することによりミトコンドリアの機能異常を生じ,視神経症を発症すると考えられている.血清中の亜鉛が減少している症例が存在することや,血清中の亜鉛の減少が視神経症発症の危険因子であるとの報告もある.また,ほかのキレート剤であるジスフィラム(Disul.ram)やDL-ペニシラミン(DL-penicillamine)も視神経症をきたすことが知られている.エタンブトール視神経症は投与されている患者の6%に生じるとされる.エタンブトール視神経症の発症は容量依存性であることが知られている.25.mg/kg/日以上投与されている症例に発症しやすいとされる.しかし,推奨されている15~25mg/kg/日で投与されている例のなかでも約1%で発症すると報告されている.投与後2カ月以内では発症するのはまれで,4~12カ月,平均7カ月で発症する.腎機能不全,糖尿病,肝機能不全,低栄養状態,タバコ・アルコール摂取者が危険因子とされる.もっとも速い視機能の変化は色覚異常で,青黄色異常が多いとされる.視力低下は通常両眼性で,視野は中心盲暗点が多い(図2).しかし,周辺部視野欠損や両耳側半盲を生じる例もある(図3).初期は視神経乳頭に異常はみられない(図4)が,次第に視神経萎縮に至る.しかし,初期に乳頭腫脹を生じる例もある.*HidekiChuman:宮崎大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(39)1351表1報告されている中毒性,薬剤性視神経症の原因薬物Amantadinehydrochlorideアマンタジン塩酸塩AmiodaroneアミオダロンArsenicalsヒ素Cafergotエルゴタミン酒石酸ChlorambucilクロラムブシルChloramphenicolクロラムフェニコールChlorpromazineクロルプロマジンChlorpropamideクロルプロパミドCisplatinシスプラチンClioquinolクリオキノールまたはキノホルムClomipheneクロミフェンCyclosporineシクロスポリンDiaphenylsulfoneジアフェニルスルフォンDe.errioxamineデフェロキサミンDisul.ramジスルフィラムElcatoninエルカトニンEmetineエメチンEthambutolエタンブトール5-Fluorouracil5フルオロウラシルHalogenatedhydroxyquinolinesIn.iximabインフリキシマブInterferonalfaインターフェロンaIodoquinolヨードキノールIsoniazidイソニアジドMethanolメタノールMethylacetate酢酸メチルPenicillamineペニシラミンQuinineキニーネSildena.lシルデナフィルStreptomycinストレプトマイシンSulfonamideサルファ剤TacrolimusタクロリムスTamoxifenタモキシフェンThaliumタリウムTobaccoタバコTolueneトルエンVincristineビンクリスチンシンメトレルアンカロンクリアミンリューケランクロロマイセチンコントミン,ウインタミンなどアベマイドブリプラチン,ランダなどクロミッドネオーラルなどレクチゾールエクジェイドノックビンエルカトニンエサンブトール5-FUキノホルム,スモンの原因,日本では1970年に発売停止,米国などでは重症アルツハイマー病の治療に用いられる.レミケードスミフェロン,オーアイエフイスコチンメタルカプターゼ硫酸キニーネバイアグラプログラフなどノルバテックスオンコビンYES図1薬物性視神経症の診断,鑑別(文献C3より改変引用)図2エタンブトール投与中に生じた視神経症の視野盲中心暗点を呈している.図3エタンブトール投与中に生じた視神経症の視野両耳側半盲を呈している.図4エタンブトール投与中に生じた視神経症の乳頭乳頭に変化はみられない.ばよいかは現時点では明らかにされていない.CIIジスルフィラムジスルフィラム(Disul.ram)は,抗酒薬である.アルデヒド脱水素酵素を阻害してアセトアルデヒドを蓄積させ,悪心・嘔吐を誘発させる.ジスルフィラムは視神経症を生じることがあり,その機序は明らかにされていないが,他の視神経症を発症させうる薬剤と同様にキレート剤である.ジスルフィラム視神経症は,他の薬剤性視神経症と同様に,両眼性に亜急性または慢性に発症し,中心視力の低下,色覚異常,視野検査で中心盲暗点をきたし,初期は視神経乳頭に検眼鏡的変化を示さず,時間経過とともに萎縮に至る.薬剤中止による視力予後は良好で,視機能が可逆性に改善する.CIIIシルデナフィルシルデナフィル(Sildena.l)は,ホスホジエステラーゼ-5の阻害薬で,勃起不全の治療に用いられる.一酸化窒素による海綿体の血管拡張により改善させる.全身的な副作用は全身血管拡張によるもので,頭痛,発赤,低血圧である.ほかの窒素系薬剤と併用すると重篤な低血圧を引き起こすことがある.もっとも一般的な眼副作用は,一過性の色覚異常で,シルデナフィルの弱いホスホジエステラーゼ-6の阻害作用によるものと推定されている.ホスホジエステラーゼ-6は視細胞外接に存在するCphototransductionenzymeである.ほかに中心性漿液性脈絡網膜症,網膜動脈分枝閉塞症,動眼神経麻痺,非動脈炎性虚血性視神経症(non-arteriticCanteriorischemicCopticneuropathy:NAION)の報告がある.通常用量のシルデナフィルを服用した患者でCNAIONを発症した報告が多数みられるが,その関与はCcontro-versialである.多くの症例の症状,所見はCNAIONに特有で,急性視力低下,水平経線で境界された下方視野欠損,乳頭腫脹,相対的瞳孔求心路障害がみられ,服用中止後,腫脹消失後も視機能は改善しない.患者らは,危険因子である動脈硬化性因子はなかったが,小乳頭であった.シルデナフィルとCNAIONとの関連は,一つは全身の低血圧による乳頭血流の阻血,もう一つはCNOの網膜神経節細胞に対する毒性が可能性として考えられる.たまたま合併した可能性もあるが,報告されている多くの症例は動脈硬化性因子がなかったことと,服用して数分から時間単位で発症していることから,関連は高いと考えられる.どのような症例がシルデナフィルを内服することでCNAIONを発症するかは明らかではないが,片眼NAIONの既往例はシルデナフィルを服用すべきでない.また,シルデナフィルを服用する際は,永続的な視覚喪失の危険があることを患者に示すべきである.CIVアミオダロンアミオダロン(Amiodarone)はCbenzofuranCderiva-tiveで,難治性心房性または心室性不整脈の治療に用いられる.眼科的な合併症は,3分のC2以上の患者に可逆性渦状角膜沈着,50~60%の患者に青白色の水晶体前.下混濁,多発霰粒腫,ドライアイがあるが,いずれも視機能には大きな影響を与えない.アミオダロンは,NAIONと共通した特徴をもつ視神経症を合併する(図5).アミオダロン視神経症は原則として両眼性である.しかし,アミオダロンの副作用なのか,アミオダロン服用中に偶然CNAIONを発症したのか,判断が困難な症例も多いようである.80例のアミオダロン視神経症のレビューでは,69%が片眼性の乳頭腫脹(図6),12%が両眼性の腫脹であった.またC296例の報告された症例をレビューしたところ,16例のみが視神経症の診断が確実で,32例のみがアミオダロンとの関連ありと判断された.アミオダロン服用中の視神経症の発症率がC1.79%なのに対し,50歳以上の一般的なCNAIONの発症率はC0.3%であった.しかし,アミオダロン服用の患者はしばしば重篤な血管障害を合併するので,一般人よりCNAIONの発症危険率は高いと考えられるという意見もある.NAIONと異なり,両眼性にじわじわと発症し,アミオダロンを中止することにより改善して初めて関与が考えられるようである.アミオダロン投与から平均C9カ月(1~84カ月)で視力低下し,中止後はC58%で改善,21%は不変,21%は悪化するようである.乳頭腫脹はCNAIONよりも遅く回復するようである.20%で少なくとも片眼がC0.1以下で(43)あたらしい眼科Vol.C35,No.C10,2018C1355図5アミオダロン投与中に生じた視神経症の視野NAIONに似た神経線維束欠損型視野欠損を呈している.図6アミオダロン投与中に生じた視神経症の乳頭NAIONに似た乳頭腫脹を呈している.’C-

全身薬と緑内障

2018年10月31日 水曜日

全身薬と緑内障GlaucomatousSideE.ectsofSystemicMedications川瀬和秀*はじめに全身薬によって引き起こされる緑内障のグループは大きく分けて二つある.一つは隅角閉塞による閉塞隅角緑内障であり,もう一つはステロイド緑内障である.どちらのグループも結果として高度の視機能障害をきたす可能性があり,関連薬剤使用時に担当の科の医師が注意する必要がある.このためには危険な薬剤の周知とともに緑内障の発症機序や症状を理解して,処方時に患者に注意を促すことが大切である.I全身薬による緑内障発症に関する注意喚起1)厚生労働省は平成21年5月に「重篤副作用疾患別対応マニュアル感覚器(眼)緑内障版」を作成して各医療機関に配布している.眼科医は,患者や各科の医師が薬剤部から以下の項目において注意喚起がなされていることを理解しておく必要がある.以下に同マニュアルの内容を紹介する.1.患者に対する注意喚起早期発見と早期対応のために次の3点をあげている.①総合感冒薬,抗アレルギー薬などの医薬品を使った後,急激に「目の充血」「目の痛み」「目のかすみ」「頭痛・吐き気」が生じた場合には,放置せずにただちに医師・薬剤師に連絡すること.②原因と考えられる医薬品の使用からこれらの症状が現れるまでの期間は数時間以内あるいは1カ月以上であることもあること.③慢性のタイプは初期には症状があっても軽微なことが多いので,とくに副腎皮質ステロイドを使用している場合は定期的な眼科検査が必要であること.①は緑内障発作,②は副作用一般,③はおもにステロイド緑内障への注意喚起である.2.医療関係者に対する注意喚起早期発見と早期対応のポイントや副作用の概念,判別基準などが詳しく説明されている.散瞳・毛様体浮腫による緑内障発作に対して,①初発症状として,眼痛,頭痛,吐き気,嘔吐,充血,視力低下などが示されている.②好発時期として,発症までの期間は原因薬剤使用後数時間から数カ月後あるいは1年以上経過して発症し,一日の時間帯としては夜が多く,季節は冬に多いとしている.③患者側のリスク因子として,狭隅角眼および原発閉塞隅角緑内障眼,高齢・遠視・女性をあげ,片眼に急性原発閉塞隅角緑内障を生じていた場合は,片眼にも5~10年以内に生じる可能性が高いとしている.④原因となる医薬品として,a:散瞳作用によるものとして,散瞳薬,チエノジアゼピン系抗不安薬,三環系抗うつ薬,カテコラミン系昇圧薬,ベンゾジアゼピン系全身麻酔薬,ベラドンナアルカロイド,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬,b:毛様体浮腫によるものとして,*KazuhideKawase:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕川瀬和秀:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(33)1345スルホンアミド系薬剤が示されている.⑤早期発見のポイントとして,疼痛(三叉神経第C1枝に一致した痛み),角膜浮腫(かすみ目,霧視,光輪や虹が見える),迷走神経反射(吐き気,嘔吐,徐脈,発汗)のほか,毛様充血,中等度散瞳,対光反射の消失などなどが記載され,数日で失明することも示されている.⑥眼科医以外が診察を行う場合の検査として,触診による眼球の硬化や視診による角膜周囲の結膜充血,角膜の混濁を確認し,眼圧上昇を予測するとしている.副腎皮質ステロイドによる緑内障に対して,①症状は,初期にはまったくなく,あっても充血,虹輪視,羞明,霧視,軽い眼痛,頭痛であり,幼児では流涙,角膜混濁,角膜径拡大などであると記載されている.②副腎皮質ステロイド投与後の眼圧上昇までの期間はさまざまで,眼圧上昇の程度には個体差があり,投与後1~2週間で眼圧上昇をきたす症例もある一方,短期間で眼圧上昇を生じない症例でも長期使用で眼圧上昇をきたすことがあるとしている.③患者側のリスク因子として,副腎皮質ステロイドを頻回,あるいは長期間使用している患者,原発開放隅角緑内障患者とその近親者,糖尿病患者,強度近視眼,膠原病患者,幼小児ではとくに眼圧が上昇しやすいことが示されている.④原因となる医薬品のリスクとして,ベタメタゾン,デキサメタゾン,プレドニゾロン,トリアムシノロン,ヒドロコルチゾン,メチルプレドニゾロン,フルオロメトロン,クロベタゾール,ジフルプレドナート,フルオシノロン,クロベタゾン,アルクロメタゾンなど,副腎皮質ステロイドであれば種類や投与方法にかかわらず眼圧上昇をきたしうると記載している.⑤眼圧上昇作用はおもに糖質コルチコイド作用の力価と眼内移行性,および投与方法の眼内移行の程度に比例するとしている.⑥早期発見のポイントとして,初期には自覚症状がなく,診断には眼科の精査を要するため,副腎皮質ステロイドを使用している患者には定期的眼科受診を勧めるべきであることが明記してある.II閉塞隅角緑内障の発生機序閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序として「緑内障診療ガイドライン第C4版」では,A(相対的)瞳孔ブロック,Bプラトー虹彩,C水晶体因子,D水晶体後方因子(悪性緑内障因子・毛様体因子)の四つのメカニズムを提唱している2~5).散瞳作用によるものとして,①抗コリン作用(副交感神経遮断作用)による瞳孔括約筋の麻痺,②アドレナリン作用(交感神経刺激作用)による瞳孔散大筋の収縮があり,散瞳状態において,相対的瞳孔ブロック(虹彩と水晶体の接触による後房圧の上昇)とプラトー虹彩(虹彩根部が隅角を閉塞することによる房水流出阻止)の二つの眼圧上昇機序が単独あるいは複合して生じるとされている.また,毛様体浮腫によるものとして,①虹彩根部の前方偏位による隅角閉塞,②水晶体前方偏位による相対的瞳孔ブロックの誘発がある.CIIIステロイド緑内障の発生機序①線維柱帯にグリコサミノグリカンが蓄積,②線維柱帯に細胞外成分が蓄積,③線維柱帯内皮細胞の食作用を阻害することで残渣が沈着することなどによる前房隅角での房水流出障害などが原因とされている.これに関して,ステロイド負荷された培養ヒト線維柱帯細胞の観察において,細胞外マトリックスの増加や形態変化および弾性率の増加による線維柱帯細胞外基質の変化により,房水流出抵抗増大がみられたと報告されている6).CIV緑内障を引き起こす可能性のある薬剤と各科の対応緑内障を引き起こす可能性のある薬剤はさまざまな診療科で使用されているが,薬剤によっておもに使用する科が異なる(表1).閉塞隅角緑内障の危険は若年者では少ないが,精神科や消化器・循環器・呼吸器内科あるいは泌尿器科などは高齢者も多いので注意が必要である.高次救急救命センターや麻酔科のように緊急で短期に使用する場合は緑内障の確認がむずかしいが,緑内障発作の危険性について知識と薬剤使用後の対応法の知識は,各科ともに必要と考える.副腎皮質ステロイドは内科で長期に大量に使用することも多く,また外用として小児1346あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(34)表1緑内障を引き起こす可能性のある薬剤抗コリン作用による散瞳薬剤名主使用科(当院における使用率)抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬ベンゾジアゼピン系薬薬(睡眠薬,抗不安薬,抗てんかん薬)三環系・四環系抗うつ薬パーキンソン病治療薬(抗コリン性)鎮痙薬抗めまい薬抗不整脈薬気管支拡張薬散瞳薬神経因性膀胱治療薬,過活動膀胱治療薬ジフェンヒドラミン,プロメタジンなどジアゼパムなどアミトリプチリン,マプロチリンなどビペリデンなどブチルスコポラミンなどジフェニドールなどジソピラミドなどチオトロピウムなどアトロピン,フェニレフリンなどプロピベリン,ソリフェナシンなど小児科(13%)精神神経科(25%)精神神経科(43%)精神神経科(68%)消化器内科(34%)耳鼻科(44%)循環器内科(51%)呼吸器内科(65%)眼科(97%)泌尿器科(49%)アドレナリン様作用による散瞳薬剤名主使用科(当院における使用率)強心薬昇圧薬SNRI[セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬](抗うつ薬)中枢神経刺激薬パーキンソン病治療薬アドレナリンアメジニウム(リズミックCR)デュロキセチンメチルフェニデート・コンサータなどレボドパ(マドパー配合薬)など高次救命センター(45%),小児科(34%)小児科(28%)麻酔科(20%)小児科(85%)神経内科(77%)脈絡膜血管拡張による散瞳薬剤名主使用科(当院における使用率)硝酸薬亜硝酸アミル,ニトログリセリンなど循環器内科(44%)毛様体浮腫をきたす薬剤薬剤名主使用科(当院における使用率)サイアザイド系利尿薬ヒドロクロロチアジド循環器内科(18%)副腎皮質ステロイド薬剤名主使用科(当院における使用率)副腎皮質ステロイド(経口・注射)副腎皮質ステロイド(外用)プレドニゾロンなどベタメタゾンなど呼吸器内科・総合内科(9%)皮膚科(62%),小児科(10%)表2当院における他科医師の認識と対応に関するアンケート集計結果(n=10)散瞳薬はいC/いいえ(「はい」の割合)1該当の薬剤が散瞳作用を有することを知っている8人C/2人(80%)2処方時に緑内障の有無を確認している8人C/2人(80%)3処方時にCPACGの有無を確認している5人C/5人(40%)4散瞳薬はCPACGで問題となるが,その他の緑内障では問題とならないことを理解している5人C/5人(50%)5緑内障発作の症状は頭痛・嘔吐・眼痛であることを知っている9人C/1人(90%)6緑内障発作は治療が遅れると失明することを知っている10人C/0人(1C00%)7PACGは女性・高齢者に多いことを知っている3人C/7人(30%)8CPACGは緑内障の約C10%と少なく,PCACGの多く(約C80%)は未発見潜在患者であることを理解している5人C/5人(50%)9このためCPACGと診断されていなくても使用後に緑内障発作が起きる可能性があることを説明している3人C/7人(30%)10処方後に緑内障発作が起きた場合は眼科に受診するよう説明している3人C/7人(30%)副腎皮質ステロイドはいC/いいえ(「はい」の割合)1ステロイドの長期使用で発症する9人C/1人(90%)2ステロイドの眼局所(点眼・軟膏)使用で発症する8人C/2人(80%)3ステロイドの眼周囲の使用でも発症する5人C/5人(50%)4ステロイドの内服・点滴使用でも発症することがある8人C/2人(80%)5内因性ステロイド産生過多でも発症することがある5人C/5人(50%)6早期中止で眼圧は正常化するが,長期使用で不可逆性となる7人C/3人(70%)7若年者ほどステロイド緑内障をきたしやすい5人C/5人(50%)8高眼圧が続くと視神経・視野障害をきたすことを説明している5人C/5人(50%)9ステロイド使用前にステロイド緑内障について説明している4人C/6人(40%)10ステロイド使用前後に眼科に眼圧測定を依頼している1人C/9人(10%)表3代替薬剤の可能性(赤字:添付文書の副作用欄に緑内障の記載のある薬剤,青字:添付文書の副作用欄に緑内障の記載がない薬剤)a.三環系・四環系抗うつ薬・SSRI:薬剤によって使用できない病気が異なるため緑内障に使用できる薬剤(レクサプロ錠・サインバルタ)で代用薬剤作用使用できない病気SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)パロキセチン(パキシル)などセロトニンだけを増やす躁うつ,統合失調症,てんかん,緑内障,高齢者などレクサプロ錠は緑内障の副作用なしSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)デュオキセチン(サンバルタ)などセロトニンとノルアドレナリンに作用(偽抗コリン作用)肝機能障害,腎機能障害,前立腺肥大,高血圧,心疾患,緑内障サインバルタはコントロール不良なCPACGのみ禁忌CNaSSAミルタザピン(レメロン)などノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動薬セロトニンとノルアドレナリンの分泌促進肝機能障害,腎機能障害,てんかん,心疾患,緑内障,排尿困難,高齢者,小児三環系抗うつ薬イミプラミン(トフラニール)など効果が強いが副作用も多い排尿困難,緑内障,心不全,甲状腺機能亢進,てんかん,躁うつ病,肝腎障害,低血圧,低カリウム血症,高齢者,小児四環系抗うつ薬ミアンセリン(テトラミド)など三環系の副作用を軽減ノルアドレナリンだけに作用緑内障,排尿困難,心疾患,肝腎障害,てんかん,糖尿病,妊娠,b.鎮痙薬:グルカゴンやミンクリアで代替薬剤作用使用できない病気ブスコパン(皮下注,筋注,静注)抗コリン剤心疾患,緑内障,前立腺肥大グルカゴン(筋注,静注)血糖値上昇,消化管運動抑制糖尿病ミンクリア(胃内散布)メントール製剤投与禁忌なしc.抗めまい薬:メリスロンの使用で緑内障の危険はなくなる薬剤一般名作用使用できない病気セファドールジフェニドール抗コリン作用緑内障,前立腺肥大メリスロンベタヒスチンヒスタミンCH1受容体刺激作用胃潰瘍,十二指腸潰瘍,気管支喘息トラベルミンジフェンヒドラミン抗コリン作用緑内障,前立腺肥大ジプロフィリンアデノシン受容体阻害心筋梗塞,甲状腺機能亢進症,てんかんd.サイアザイド系利尿薬:トリクロルメチアジドやサイアザイド系類似利尿薬で代替可能.スルホンアミド系薬スルホンアミド基成分薬品名サイアザイド系利尿薬トリクロルメチアジドフルイトラン錠,トリクロルメチアジド錠などヒドロクロロチアジドエカード配合錠,コディオ配合錠などサイアザイド系類似利尿薬インダパミドナトリックス錠ループ利尿薬アゾセミドダイアート錠トラセミドルプラック錠フロセミドラシックス錠・細粒,フロセミド錠「NP」など炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドダイアモックス錠・末・注射用

網膜障害をきたす全身薬

2018年10月31日 水曜日

網膜障害をきたす全身薬RetinalToxicityofSystemicMedications石龍鉄樹*はじめに網膜は,神経組織,血管と網膜固有の細胞である視細胞から構成される.全身に投与された薬剤は,いずれの構成組織でも障害を発現する可能性がある.休薬により障害の停止,機能回復が期待できるので,これら障害をきたす可能性がある薬物を認識しておくことと詳細な病歴聴取が大切である.網膜に障害をきたすとされているおもな薬剤のリストを表1にあげる.本稿では,最近増えている化学療法薬剤の中からタモキシフェン,パクリタキセル,最近認可された点頭てんかんに対する薬剤のビガバトリン,ほかにインターフェロン,シルデナフィルについて述べる.CIタモキシフェンタモキシフェンはイギリスのCICI社(現アストラゼネカ)によりC1963年に開発された薬剤で,現在はクエン酸塩化合物がノルバデックスとして販売されており,適応は乳癌である.通常量はC20Cmg/日でC40Cmg/日まで増量することができる.眼科領域では網膜障害,角膜障害を生じる.組織学的検討によれば,網膜では薬剤投与により網膜神経線維層,内網状層の細胞内に沈着物が出現する1).網膜障害例の症状は視力障害,色覚異常,視野障害である.網膜障害は総投与量C100Cgで起きることが多いといわれているが,長期投与ではC20Cmg/日でも網膜症が生じるといわれている.眼底所見では黄斑浮腫と白色沈着が両眼性に生じる2).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,中心窩に.胞性変化,網膜外層欠損がみられる.この所見はCmaculartelangiectagia(MacTel)Ctype2に類似する.MacTelCtype2では中心窩近傍の網膜内に顆粒状の沈着が生じ,網膜外層が障害される.OCTでは網膜外層の消失を認める.この障害は耳側に生じることが多い.特発性黄斑円孔,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD),中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserouschorioretinopathy:CSC),網膜色素変性症,BEST病,Stargardt病などの変性疾患でも,中心窩網膜外層の欠損が生じることがあるが,いずれも中高年に発症するので,本症との鑑別には詳細な病歴の聴取がポイントとなる.フルオレセイン蛍光眼底造影では,黄斑浮腫に一致した過蛍光がみられる.網膜電図(electroretinogram:ERG)は,錐体応答,杆体応答ともにCa波,b波の振幅低下がみられることがある.発見したら,タモキシフェンの投与を中止すると,黄斑浮腫と網膜外層欠損はある程度の回復が期待できる.網膜沈着は年余にわたり残留するが,長期的には消失し色素沈着を残す.症例C1:44歳,女性.5年前に乳癌の摘出を受け,放射線療法とタモキシフェン投与を受けていた.両眼の視力障害を自覚し,眼科を受診した.矯正視力は両眼C0.7と低下していた.右眼では中心窩および中心窩下方に顆*TetsujuSekiryu:福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕石龍鉄樹:〒960-1295福島市光が丘1福島県立医科大学医学部眼科学講座C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(27)C1339表1網膜に障害をきたすおもな薬剤視細胞と網膜色素上皮間の障害フェノチアジン,キニン,クロロキン,ヒドロキシクロロキン,チオリダジン,クロファジミン,クロルプロマジン,デフェロキサミン,副腎皮質ホルモン,シスプラチン,カルムスチン,パクリタキセル血管障害アミノグリコシド,インターフェロン,エルゴット化合物,タルク,フェニルプロパノールアミン,サルファ誘導体,ヒドロクロロチアジド,アセタゾラミド,トリアムテレン,メトロニダゾール,クロルタリドン,バンコマイシン,ゲムジダビン,フルダラビン,バンコマイシン,ボリコナゾール黄斑浮腫ニコチン酸,ピオグリタゾン,フィンゴリモド,ラロキシフェン,イマニチブ,シルデナフィルクリスタリン網膜症タモキシフェン,タルク,カンタキサンチン,ニトロフラントイン,メトキシフルラン脈絡膜炎リファブチン,シドホビル,プロカインアミド視神経線維障害ビガバトリン視細胞と網膜色素上皮間の障害フェノチアジン,キニン,クロロキン,ヒドロキシクロロキン,チオリダジン,クロファジミン,クロルプロマジン,デフェロキサミン,副腎皮質ホルモン,シスプラチン,カルムスチン,パクリタキセル血管障害アミノグリコシド,インターフェロン,エルゴット化合物,タルク,フェニルプロパノールアミン,サルファ誘導体,ヒドロクロロチアジド,アセタゾラミド,トリアムテレン,メトロニダゾール,クロルタリドン,バンコマイシン,ゲムジダビン,フルダラビン,バンコマイシン,ボリコナゾール黄斑浮腫ニコチン酸,ピオグリタゾン,フィンゴリモド,ラロキシフェン,イマニチブ,シルデナフィルクリスタリン網膜症タモキシフェン,タルク,カンタキサンチン,ニトロフラントイン,メトキシフルラン脈絡膜炎リファブチン,シドホビル,プロカインアミド視神経線維障害ビガバトリン図1症例1(タモキシフェン黄斑症)の初診時カラー眼底写真両眼中心窩に顆粒状沈着を認める.右眼では中心窩下近傍に顆粒状病変が広がっている.左眼は網膜外層欠損に一致する部分にChaloを認める.図2症例1のOCT像両眼の網膜外層欠損,Ellipsoidzoneの断裂を認める.図3症例1のタモキシフェン投与中止後1年の所見カラー眼底写真(左)で顆粒状病変消失.OCT(右)ではCellipsoidzone断裂が消失しているのがわかる.図5症例2のOCT所見図4症例2のカラー眼底写真(パクリタキセル黄斑症).胞様黄斑浮腫を両眼に認める.図6症例2のフルオレセイン蛍光眼底造影左眼:早期像,右眼:後期像.後期まで.胞浮腫内に蛍光色素貯留を認めない.図7症例2の休薬1年後のOCT所見一部.胞形成がみられるが,ほとんどの.胞所見は消失している.底検査で両眼に.胞様黄斑浮腫を認めた(図4).OCTでは中心窩の外顆粒層,内顆粒層に.胞形成がみられた(図5).フルオレセイン蛍光眼底造影では,早期から後期まで蛍光色素貯留がみられないCsilentmacularedemaがみられた(図6).特徴的な蛍光眼底所見とパクリタキセル投与の病歴から,パクリタキセル黄斑症と診断した.パクリタキセル休薬後は,黄斑浮腫は次第に軽快し,1年後にはほぼ正常な黄斑所見に回復した(図7).休薬C1年後の時点で,矯正視力は右眼C0.6,左眼C0.5であった.パクリタキセル黄斑症は早期であれば,急速に消退し,視力障害を残さないことが多いので,早期診断が大切である.CIIIビガバトリンビガバトリン(サブリルCR)はC2016年に小児点頭てんかんの治療薬として薬価承認された薬剤である.点頭てんかんは,出生数C1,000人に対しC0.16.0.42人の割合で発症する難治性疾患で,指定難病である.攣縮,精神運動発達遅滞,脳波異常がみられる.これまでは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や抗てんかん薬で治療されてきた.ビガバトリンはCGABAトランスアミナーゼの不可逆的阻害薬で,脳内CGABA濃度を上昇させることにより抗てんかん作用を発揮する.ビガバトリンでは視力障害,求心性視野狭窄などの視野障害が生じる.投与患者の約C20%に生じ.総投与量500Cgを超えると約C40%以上に生じるといわれている.眼底検査では視神経乳頭の蒼白化がみられる.OCTを撮影すると神経線維層菲薄化がみられ,ERGでは錐体反応が低下する.乳幼児では,OCTや視野検査はむずかしいため,定期的な眼底検査と皮膚電極などを用いたERGでのスクリーニングが推奨されている.CIVインターフェロンインターフェロンは肝炎や抗腫瘍療法に用いられる.網膜症が発症する場合はインターフェロン投与開始後,2,3カ月で発症する.眼底所見では,軟性白斑を伴う網膜出血を認める.糖尿病を有する症例では,新たな糖尿病網膜症の発症および進行がみられる.インターフェロンが血中で免疫複合体を形成し,補体CC5aを活性化し血管障害をきたすといわれている.肝炎に対する投与では約C40%の発症が報告されている4).気づかないと糖尿病網膜症が急速に進行し硝子体出血をきたすこともあるので,早期発見が重要である.CVシルデナフィルシルデナフィルは,勃起不全または肺動脈性肺高血圧症に使用されるホスホジエステラーゼC5阻害薬である.視細胞に存在するホスホジエステラーゼC6に対する阻害効果がわずかに存在するといわれており,この作用により色視,羞明などを引き起こす可能性が示唆されている.亜硝酸塩と同様の作用機序をもつことから心血管系を含めた循環器へ対する副作用が知られている.眼科領域では虚血性視神経症,中心性漿液性脈絡網膜症や網膜動脈分枝閉塞症の合併報告がある.これらの眼障害とシルデナフィル服用の直接の関連性は証明されていない.おわりに全身投与薬剤による網膜障害で受診される患者の中には,全身的に倦怠感や悪心などの症状をもつ人も多いので,ともすると病歴聴取や眼科検査が十分に行われず,発見が遅くなってしまうことがある.急がず患者に合わせた診察をすることを心がけ,また散瞳がむずかしい場合はCOCTや広角眼底撮影装置などを用いて検査を行い,できるだけ早期発見し,休薬のタイミングを逃さないことが障害を残さないために大切である.文献1)Kaiser-KupferCMI,CKupferCC,CRodriguesMM:TamoxifenCretinopathy.CACclinicopathologicCreport.COphthalmologyC88:89-93,C19812)McKeownCCA,CSwartzCM,CBlomCJCetal:TamoxifenCreti-nopathy.BrJOphthalmolC65:177-179,C19813)SmithSV,BenzMS,BrownDM:CystoidmacularedemasecondaryCtoCalbumin-boundCpaclitaxelCtherapy.CArchCOphthalmolC126:1605-1606,C20084)川崎綾,門正,水本桂ほか:C型慢性肝炎患者におけるインターフェロン網膜症の発症因子についての検討.臨眼58:517-519,C2004(31)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1343

角膜障害をきたす全身薬

2018年10月31日 水曜日

角膜障害をきたす全身薬AdverseReactionofCorneaCausedbySystemicDrugs山田昌和*はじめに薬剤による角膜障害は点眼薬や眼軟膏など眼局所投与によるものと全身薬によるものに大別される.また,薬剤起因性角膜障害はその機序によって,薬剤の沈着によるもの,薬剤毒性によるもの,薬剤に対する免疫反応によるものの三つに大別される1).ごく一般的には,角膜は無血管であるために全身投与された薬剤の影響を受けにくい一方で,高濃度で眼表面に投与される点眼薬の影響を受けやすい.このために薬剤起因性角膜障害という場合,臨床的には点眼薬によるものの頻度が圧倒的に多い.しかし,全身薬のなかには特徴的な角膜障害を生じるものや重篤な角膜障害を生じるものがあり,眼科医として知っておくべき薬剤と病態がいくつかある.ここでは全身薬による角膜障害の最近のトピックスをいくつか取りあげて概説する.CI薬剤沈着による角膜障害1.角膜上皮の薬剤沈着薬剤が上皮に沈着する場合の多くは,脂溶性の高い薬剤の長期内服によるものであり,上皮に淡い渦巻き状,または線状の混濁をきたす.このパターンを示す薬剤としては,非ステロイド系抗炎症薬のインドメサシンやナプロキセン,全身性エリテマトーデスの治療薬であるヒドロキシクロロキン,抗癌薬であるタモキシフェン,抗不整脈薬のアミオダロンなどがあげられ,臨床的にはアミオダロンの頻度が高い(図1).この上皮混濁が視力障害など自覚的な愁訴の原因となることはほとんどないが,Fabry病の渦巻き状角膜上皮混濁との鑑別を要することがある(図2).Fabry病はCaガラクトシダーゼ欠損症であり,セラミドなどの糖脂質が上皮に沈着,混濁を呈する.希少疾患であるが,2004年に酵素補充療法が導入されるようになり,製薬会社と一部の内科医が高い関心をもっている.眼科にCFabry病の疑いで紹介されることがあるが,そのほとんどはアミオダロン角膜症であることに注意したい.C2.角膜実質の薬剤沈着抗精神薬であるフェノチアジン系の薬剤は長期連用により実質,とくにCDescemet膜直上に茶褐色の沈着を生じることがある.フェノチアジン系の薬剤により水晶体のヒトデ状の白色混濁,結膜に茶褐色の色素沈着を生じることも知られている.また,関節リウマチの治療薬として用いられる金も,実質の深層を中心として微細な混濁を生じることがある.CII薬剤毒性による角膜障害1.抗癌薬による角膜上皮障害抗癌薬による角膜障害で有名なのはフッ化ピリミジン系経口抗癌薬,ティーエスワン(TS-1CR)による角膜上皮障害であるが,ここでは別稿に譲ることとし,TS-1CR以外の抗癌薬による角膜障害について述べる.抗癌薬による角膜への影響は角膜上皮に表れやすい.*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)C1335図1アミオダロン角膜症図2Fabry病の角膜混濁薬剤の上皮内沈着によって渦巻き状の角膜混濁がみられる.一上皮に渦巻き状の混濁を呈して,診断的価値がある.般に視力障害など自覚症状を伴わない.-図3パクリタキセルによる角膜上皮障害図4トラスツズマブ―エムタンシンによる角膜上皮障害角膜上方の輪部から中央部にかけて流れるような生体染色パタフルオレセイン生体染色によって角膜上方の輪部から広がる異ーンを示す.型上皮様の病変が描出されている.図5点眼薬による薬剤起因性角膜上皮障害渦巻き状角膜症では点眼薬によるものが考えやすい.図6アマンタジンによる角膜内皮障害Descemet膜皺襞を伴う著明な角膜実質浮腫がみられる.

ヒドロキシクロロキン網膜症

2018年10月31日 水曜日

ヒドロキシクロロキン網膜症HydroxychloroquineRetinopathy榎本寛子*近藤峰生*はじめにヒドロキシクロロキン硫酸塩(hydroxychloroquinesulfate:HCQ)は,抗炎症作用,免疫調節作用,抗マラリア作用,抗腫瘍作用など多岐にわたる作用を有する薬剤である.HCQは皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupuserythematosus:CLE)および全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythematosus:SLE)に対する標準的な治療薬として位置づけられており,2015年7月にプラケニルR錠がCLE,SLEに対して承認され,同年9月に発売された.HCQは,海外ではCLE,SLE,関節リウマチの標準的な治療薬とされているが,米国で初めて承認が得られて以降,60年間の臨床使用のなかで適正使用に関する研究が続けられてきた.もっとも留意すべき副作用である網膜障害(ヒドロキシクロロキン網膜症)は,発現はまれであるが本剤を使用している患者に一定の割合でみられる副作用であり,本剤を安全に使用するには眼科医の関与が必須である.I臨床所見典型的な眼底所見として,初期には中心窩周辺の網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)に顆粒状変化がみられ,進行すると黄斑部にリング状の変性,bull’seyemaculopathy(標的黄斑症)が出現し,末期には周辺部網膜までメラニン色素沈着を伴った網脈絡膜萎縮をきたす1).HCQによる毒性の発生機序は明らかになっていないが,組織学的検査では,網膜全層にわたる神経細胞の変性と網膜色素上皮細胞の萎縮が認められる1).また,電子顕微鏡下では網膜神経節細胞,視細胞および網膜色素上皮細胞に多層構造が認められており,この多層構造体の蓄積はリソソーム阻害や蛋白質合成阻害に起因すると考えられる1).初期には,視力は保たれるが中心周囲の視野障害をきたし,進行すると視力低下や重篤な視野障害を生じる2).また,内服を中止しても回復せず,進行することもあるとされている2).II網膜症の発症頻度ヒドロキシクロロキンによる網膜症の発症頻度は,投与量や網膜症診断に用いた検査,および基準が異なるため一概に比較することはできないが,多くは1%未満や数%と報告されている2).用量においては6.5mg/理想体重kgあるいは400mgを超えないようにする規定が提唱されている2).また,累積投与量に関しては,わが国の添付文書では200g,2011年の米国眼科学会(AmericanAcademyofOph-thalmology:AAO)のガイドラインでは1,000.gがリスク因子としている2).網膜障害は投与開始から5~7年を超えると発現率が1%を超えるとの報告もあり,米国では投与開始から5年超から1年に1度の眼科検査を推奨している1).わが国においては,「長期にわたって投与する場合には,少*HirokoEnomoto&*MineoKondo:三重大学大学院医学研究科臨床医学系講座眼科学〔別刷請求先〕榎本寛子:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学研究科臨床医学系講座眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(17)1329なくとも年C1回眼科検査を実施すること」とし,加えて本剤の添付文書にあるように,累積投与量がC200Cgを超えた患者,肝機能障害患者または腎機能障害患者,視力障害のある患者,あるいは高齢者は網膜障害など眼障害のリスクが高い患者は,さらに頻回に検査を実施することを規定している1).CIII網膜症の発現部位の人種差網膜症の発現部位に関する人種差については,アジア人では傍中心窩のみでなく,黄斑辺縁部での障害が他の人種に比べて高頻度であるとの報告が最近されており3,4),中心C10°のみでなくその周辺部も含めた検査(たとえばC30°以内)の重要性も示されている5).CIV網膜症以外の眼障害6)HCQによる網膜症以外の眼障害として,角膜症,白内障,調節障害,霧視,外転神経障害,視神経萎縮,睫毛の白色化などの報告がある.角膜症はCHCQ内服で発生するが,中止にて可逆的である.角膜症の発現が網膜症のリスクファクターであるかについては意見が分かれている.白内障については,HCQによる眼毒性として報告されているが,高齢者の発現頻度が高いため,関連性を確定することがむずかしい.CV眼科検査の実施時期1)本剤による眼障害を早期に検出するために,本剤投与開始前および投与中も定期的に眼科検査を主治医と連携することが重要である.眼科検査のタイミングとして,処方前,処方開始後C1回/年を基本として,眼障害に対してリスク因子を有する場合は頻回に検査を実施する.①処方前:患者が禁忌対象(SLE網膜症を除く網膜症,黄斑症の既往や合併)に該当しないことを確認すること,および本剤投与前のベースラインを把握することを目的として実施する.②処方開始後:眼障害の早期発見を目的として実施する.②眼障害に対する下記のリスク因子に該当する場合は頻回に検査を行う.・本剤の累積投与量がC200Cgを超えた患者(累積投与量がC1,000.gを超えたら要注意)・高齢者・肝機能障害,腎機能障害患者・視力障害のある患者,SLE網膜症患者,投与後に眼科検査異常を指摘された患者一般的な投与方法は「200Cmg錠を隔日でC1錠そして2錠」である.すなわち,本剤の累積投与量C200Cgとなる期間の目安としては,1日投与量をC300Cmgとすると2年で累積投与量がおよそC200Cg,1日投与量をC200CmgとするとC3年でC200.gとなる2).CVI本剤の添付文書に規定されている眼科検査1)および検査所見の推移規定されている眼科検査は,①視力検査,②細隙灯顕微鏡検査,③眼圧,④眼底検査,⑤スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainCopticalCcoherencetomography;SD-OCT),⑥視野検査,⑦色覚検査である.これらC7項目は必須とされている.以下に詳細に述べる.①視力検査:網膜症,およびそれ以外の眼障害による視機能低下を捉える目的で行う.②細隙灯顕微鏡検査:網膜症以外の眼障害による外眼部,前眼部などの状態,変化を捉える目的で行う.③眼圧:わが国で行われた臨床試験では,海外市販後において眼圧変化にかかわる副作用の報告はないが,本剤の適応症であるCSLE,CLEでは経口副腎皮質ステロイドを併用している患者もいることから,眼圧測定を行うこととしている.④眼底検査(図1):網膜症,黄斑症,黄斑変性による眼底の状態,変化の詳細を捉えるために眼底カメラ撮影を行う.アジア系人種では黄斑部より周辺にも病変が出現することがあると報告されており,広角眼底カメラでの撮影も検討されている.⑤CSD-OCT(図2,3):SD-OCTにより傍中心窩から黄斑辺縁領域にかけて網膜層における局所的な菲薄化を捉えることで,本剤による網膜障害の検出が可能である.この変化は,SD-OCTなどの古い機種では適切に捉えられないことに注意する.初期症例はわずかな変化,中期症例ではCellipsoidzone(innerCsegment-outerCseg-1330あたらしい眼科Vol.C35,No.C10,2018(18)図1ヒドロキシクロロキン網膜症の眼底所見黄斑部にCRPEの萎縮がリング状(.)にみられる.(文献C7の図を承諾を得て改変引用)図2ヒドロキシクロロキン網膜症の初期の視野(HFA10.2)とSD.OCT所見初期では,傍中心窩にわずかな感度低下領域がみられ(左),SD-OCTでは傍中心窩のCellipsoiodzoneが不鮮明となる().(文献C8の図を承諾を得て改変引用)図3ヒドロキシクロロキン網膜症の中期の視野(HFA10.2)とSD.OCT所見初期では,黄斑部に輪状の暗点が出現し(左),SD-OCTでは傍中心窩のCellipsoidzoneが欠損し,外顆粒層も菲薄化する().(文献C9の図の承諾を得て改変引用)図4ヒドロキシクロロキン網膜症の多局所ERG所見a:正常,b:ヒドロキシクロロキン網膜症.網膜症の患者では,黄斑部の局所CERGの振幅が低下する.(文献C9の図を承諾を得て改変引用)図5ヒドロキシクロロキン網膜症の眼底自発蛍光所見a:正常,Cb:初期のヒドロキシクロロキン網膜症,Cc:中期,Cd:進行期.初期では輪状の過蛍光がみられるが,中期や進行期になるとCRPEが萎縮して中心部が低蛍光となる.(文献C9の図を承諾を得て改変引用)表1ヒドロキシクロロキン網膜症スクリーニングのポイント野,色覚等を,視力検査,細隙灯顕微鏡検査,眼圧検査,眼底検査(眼底カメラ撮影,光干渉断層計検査を含む),視野テスト,色覚検査の眼科検査により慎重に観察すること.長期にわたって投与する場合には,少なくとも年にC1回これらの眼科検査を実施すること.また,以下の患者に対しては,より頻回に検査を実施する.・累積投与量がC200.gを超えた患者・肝機能障害患者または腎機能障害患者・視力障害のある患者・高齢者②CSLE網膜症を有する患者については,本剤投与による有益性と危険性を慎重に評価したうえで,使用の可否を判断し,投与する場合は,より頻回に眼科検査を実施する.③視野異常などの機能的な異常は伴わないが,眼科検査(OCT検査など)で異常が認められる患者に対しては,より頻回に眼科検査を実施するとともに,投与継続の可否を慎重に判断する.④視力低下や色覚異常などの視覚障害が認められた場合は,直ちに投与を中止すること.網膜の変化や視覚障害は投与中止後も進行する場合があるので,投与を中止した後も注意深く観察する.⑤視調節障害,霧視などの視覚異常や低血糖症状が現れることがあるので,自動車の運転など危険を伴う機械の操作や高所での作業などには注意させる.CVIIISLE網膜症網膜症または黄斑症の患者は既往も含めて投与禁忌であるが,SLE網膜症だけは慎重投与となっている1).SLE網膜症は,本剤投与によって発現する網膜症(ヒドロキシクロロキン網膜症)とは発現機序や経過中の眼底所見などが異なるため鑑別可能である1).したがって,網膜症のなかでもCSLE網膜症の既往や合併は本剤の使用によりCSLEの病態改善に対して有益性が危険性を上回る場合にのみ慎重に投与することが可能である1).CIXわが国での臨床試験における眼障害の発現1)活動性皮膚病変を有するCCLEおよびCSLE患者を対象C1334あたらしい眼科Vol.C35,No.C10,2018に国内第CIII相試験が実施された.本剤を投与された101例中C31例に副作用(臨床検査値異常も含む)が認められた.眼障害に関連した副作用は,眼乾燥,結膜炎,網脈絡膜萎縮,硝子体浮遊物が各C1例であり,いずれも軽度であり,本剤投与は継続された.試験期間中に網膜症や黄斑症の発現はなかった.おわりにわが国では,まだヒドロキシクロロキン網膜症の報告はないが,2015年C9月にプラケニルCR錠が販売されていることから累積投与量がC200Cgとなる症例が出てきているはずであり,つまりヒドロキシクロロキン網膜症発症リスクが高い症例が増えてくると考えられる.他科との連携を密に行い,HCQを安全に使用することために眼科医として尽力していく必要があるといえる.文献1)近藤峰生,篠田啓,松本惣一ほか:ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き.日眼会誌C120:419-428,C20162)篠田啓,松本惣一,近藤峰生ほか:ヒドロキシクロロキン網膜症のスクリーニング.日本の眼科C88:80-84,C20173)MellesCRB,CMarmorMF:TheCriskCofCtoxicCretinopathyCinCpatientsConClong-termChydroxychloroquineCtherapy.CJAMAOphthalmolC132:1453-1460,C20144)LeeCDH,CMellesCRB,CJoeCSGCetal:PericentralChydroxy-chloroquineCretinopathyCinCKoreanCpatients.OphthalmologyC122:1252-1256,C20155)MarmorCMF,CKellnerCU,CLaiCTYCetal;AmericanCAcade-myCofOphthalmology:RecommendationsConCscreeningforCchloroquineCandChydroxychloroquineCretinopathy(2016Revision).COphthalmologyC123:1386-1394,C20166)BrowningDJ:HydroxychloroquineCandCchloroquineCreti-nopathy.CSpringer,CNewYork,C20147)SaurabhCK,CRoyCR,CThomasCNRCetal:MultimodalCimagingCcharacteristicsCofChydroxychloroquineCretinopathy.CIndianCJOphthalmolC66:324-327,C20188)AllahdinaCAM,CStetsonCPF,CVitaleCSCetal:OpticalCcoher-enceCtomographyCminimumCintensityCasCanCobjectiveCmea-sureCforCtheCdetectionCofChydroxychloroquineCtoxicity.CInvestOphthalmolVisSciC59:1953-1963,C20189)KellnerCU,CRennerCAB,CTillackH:FundusCauto.uores-cenceCandCmfERGCforCearlyCdetectionCofCretinalCalterationsCinCpatientsCusingCchloroquine/hydroxychloroquine.CInvestOphthalmolVisSciC47:3531-3538,C2006(22)

TS-1®による眼障害

2018年10月31日 水曜日

TS-1Rによる眼障害OcularComplicationofTS-1R末岡健太郎*近間泰一郎*はじめに5-フルオロウラシル(5-FU)配合薬であるテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン,以下TS-1R)は日本で開発され,1999年に胃癌に対して承認された経口抗癌薬である.その後,頭頸部癌,大腸癌,肺癌,乳癌,膵臓癌などに適応が拡大され,TS-1Rは国内でもっとも汎用されている抗癌薬である.近年の投与患者数の増加に伴い,涙道閉塞や角膜障害という眼副作用が問題視されている.I涙道障害2005年にEsmaeliらがTS-1Rの副作用として涙道通過障害を報告し1),2012年には涙道閉塞が重大な副作用として添付文書に記載された.しかしながら,発症頻度を含めその実態についての詳細は不明であった.そこで,流涙症研究会がTS-1Rによる涙道障害について多施設研究を行い,2012年に報告した2).TS-1Rによる涙道狭窄の発生頻度は約10~25%2~4),発症時期は6.8±8.4カ月2),ほんどが両側性で,涙点や涙小管が高頻度に障害を受ける2)(図1).涙道障害の起こるメカニズムについては,血漿中から涙液に移行したTS-1Rによる涙道内腔上皮の肥厚と間質の線維化が原因と考えられている.眼科による検査は,涙液メニスカス高測定,涙点狭窄・閉塞の確認,涙管通水検査を行い,必要に応じてブジーによる涙小管閉塞部位の確認を行う(図2).TS-1R内服中は,流涙症状がなく,通水所見にも問題がない場合でも,TS-1Rを含む涙液をwashoutし薬物濃度を下げる目的で,防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティアR)を1日6回以上点眼するように指導し,処方医の受診に併せて通水検査を行うことが望ましい.涙道障害が疑われた際の治療介入の時期について明確な基準はないが,TS-1Rによる涙道閉塞は不可逆的変化をきたすことが多いため,TS-1R内服患者に流涙症状が少しでも生じた時点で速やかに涙管チューブを留置するよう当科では心がけている(図3).坂井らの報告においても,流涙などの症状発症から治療までの期間は,チューブ留置を完了し経過が良好な群では平均6.2±8.2カ月であるのに対して,チューブ留置を完了できなかった群では12.0±9.0カ月とより長く,速やかなチューブ留置が望ましいとしている2).上下いずれかの涙小管しか開放できなかった場合には,開放できた涙小管に2本のチューブを挿入するか(図4),涙点プラグ付き単管型涙道チューブ(涙道チューブMASTERKA,イーグル涙道チューブ)(図5)を用いる.チューブ留置後は,チューブ脇から定期的な通水洗浄を行う.チューブ留置期間についてもとくに決まってはいないが,経過中に留置チューブを抜去した66側のうち16側に再閉塞が生じたと報告されており2),当科ではTS-1R内服中は継続して留置し,内服終了後2~3カ月してから抜去するようにしている.TS-1R投与が長期に及ぶ場合,チューブ汚染が懸念されるため,定期的なチューブの入れ替*KentaroSueoka&*TaiichiroChikama:広島大学大学院医歯薬保健学研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕末岡健太郎:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬保健学研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)1323図1TS-1Rによる涙点狭窄症例涙小管閉塞は矢部・鈴木分類Cgrade2~3であった.grade1grade2grade3図2涙小管閉塞の矢部・鈴木分類(改変版)grade1:涙点よりブジーを挿入して,11Cmm以上挿入できて,涙道通水試験で上下涙点間の流通が認められる場合.grade2:涙点より7~8Cmmの部位で閉塞しており,上下涙点間の流通がない場合.grade3:涙点より挿入できるのが5~6Cmm以下の場合.(眼科手術C21:265-268,2008より引用)図3早期治療介入例a,b:通水検査で異常はなかったが,わずかに流涙症状が出現していたため早期に治療介入した症例(Ca:治療前,Cb:涙管チューブ留置後).c,d:別症例における涙管チューブ挿入前後の涙液メニスカス高変化(Cc:治療前,Cd:治療後).図4下涙小管のみ開放できた例右上涙小管は開放できず,涙管チューブ中央部にビーズを通して右下涙小管にC2本のチューブを挿入した症例.Ca図5涙点プラグ付き単管型涙道チューブa:涙道チューブMASTERKA.Cb:イーグル涙道チューブ.abc図6Jonesチューブ留置症例a:適切な位置に留置されている.b:鼻腔側に迷入している.c:眼球側に変位し角膜びらんを発症している.図7TS-1角膜症にみられたシート状病変図8TS-1角膜症にみられたSPK状病変図9TS-1角膜症にみられたクラックライン上皮の脱落が亢進し,周囲にCSPKを伴うひび割れ状の線状混濁(クラックライン)がみられる.図10強膜散乱法を利用したシート状病変の観察ディフューザーを利用した観察(Ca)では上皮の透過性の低下はわかりにくいが,強膜散乱法を用いた観察(Cb)では,上方の輪部から連続する透明性の低い異型上皮の侵入が観察される.C-

抗腫瘍薬と副作用

2018年10月31日 水曜日

抗腫瘍薬と副作用OcularSideEffectsofAnticancerDrugs柏木広哉*はじめに近年の悪性腫瘍患者の増加により,薬物療法の開発が盛んに行われている.薬物療法は,1)抗癌薬(殺細胞性):増殖が亢進している細胞を障害,2)ホルモン療法:ホルモン依存性腫瘍に効果,3)分子標的薬:内服薬として使用される小分子化合物と点滴で使われる抗体薬により,癌細胞に発現している特定の分子を標的に攻撃,4)免疫療法薬などに分類される(表1).全身の副作用としては,悪心・嘔吐,下痢,口腔粘膜炎,感染症,出血,貧血,脱毛,腎障害,皮膚障害,末梢神経障害などが有名である.眼副作用報告も以前から散発的にあったものの,注目度は低かった.10年前からテガフール・ギメラレシル・オテラシルカリウム配合薬(ティーエスワンR:TS-1R,以下S-1)による流涙症状が問題視され,注目度が高くなった.眼副作用は,眼瞼(図1),結膜,角膜,網膜,視神経と多岐にわたる1).一般眼科医が診察する可能性が高い副作用としては,S-1による涙道障害,角膜障害や眼瞼皮膚の色素沈着.タキサン系(ドセタキセル,パクリタキセル:PTX)による黄斑部障害(黄斑浮腫,漿液性黄斑部.離),分子標的薬(エルロチニブやゲフチニブ)による睫毛乱生や長毛化である.腫瘍専門医は,「有害事象共通用語基準(CommonTerminologyCriteriaforAdverseEvents:CTCAE)v4.0」眼障害Grade分類を使用しているが,臨床所見が抽象的であり(表2),眼科医には浸透していない現状図1パクリタキセルによる睫毛脱落と上眼瞼浮腫点滴加療中は浮腫は改善しない傾向にある.がある.さらに,流涙の英語表記はwateringeyeになっており,筆者が発表した国際がん支持療法学会でも,epiphoraよりwateringeyeの表記が望ましいとされた.なお,眼副作用についての基礎的研究がきわめて少ないのも対策の遅れにつながっている.本稿では,最近注意すべき抗腫瘍薬や,ある二つの癌腫に対しての新しい治療方法や治験に関しての問題点などについて述べる.*HiroyaKashiwagi:静岡県立静岡がんセンター眼科〔別刷請求先〕柏木広哉:〒411-8777静岡県駿東郡長泉町下長窪1007静岡県立静岡がんセンター眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)1315表1薬物療法の種類とおもな抗腫瘍薬種類おもな抗腫瘍薬アルキル化薬プラチナ製薬殺細胞薬代謝拮抗薬トポイソメラーゼ阻害薬抗腫瘍性抗生物質チュブリン作用薬抗アンドロゲン薬ホルモン薬抗エストロゲン薬アロマターゼ阻害薬EGFRチロシンキナーゼ阻害薬ALK阻害薬分子標的薬BCR/ABL阻害薬MEK阻害薬抗HER-2抗体抗CD20抗体免疫チェックポイント阻害薬※免疫療法薬免疫チェックポイント阻害薬※EGFR:EpidermalGrowthFactorReceptor,ALK:ALK遺伝子,BCR/ABL:分断された9番と22番染色体が入れ替わり融合した遺伝子.表2「有害事象共通用語基準(CTCAE)v4.0日本語訳JCOG版」の眼障害Grade分類CTCAEv4.0TermCTCAEv4.0Term日本語Grade1Grade2Grade3.Grade4Dryeye眼乾燥症状がない;臨床所見または検査所見のみ;潤滑剤で改善する軽度の症状がある症状がある;複数薬剤での治療を要する;身の回り以外の日常生活動作の制限視力低下(0.5未満);身の回りの日常生活動作の制限─Flashinglights光のちらつき症状があるが日常生活動作の制限がない身の回り以外の日常生活動作の制限身の回りの日常生活動作の制限─Keratitis角膜炎─症状がある;内科的治療を要する(例:外用薬);身の回り以外の日常生活動作の制限視力低下(0.5未満,0.1を超える);身の回りの日常生活動作の制限罹患眼の穿孔または失明(0.1以下)Opticnervedisorder視神経障害症状がない;臨床所見または検査所見のみ罹患眼での視力の低下(0.5以上)罹患眼での視力の制限(0.5未満,0.1を超える)罹患眼の失明(0.1以下)Photophobia羞明症状があるが日常生活動作の制限がない身の回り以外の日常生活動作の制限身の回りの日常生活動作の制限─Retinopathy網膜症症状がない;臨床所見または検査所見のみ症状があり,中等度の視力の低下を伴う(0.5以上);身の回り以外の日常生活動作の制限症状があり,顕著な視力の低下を伴う(0.5未満);活動不能/動作不能;身の回りの日常生活動作の制限罹患眼の失明(0.1以下)Uveitisぶどう膜炎症状がない;臨床所見または検査所見のみ前部ぶどう膜炎;内科的治療を要する後部または全ぶどう膜炎罹患眼の失明(0.1以下)Wateringeyes流涙治療を要さない治療を要する外科的処置を要する─25項目あるものから8項目を抜粋し,まとめた.表3日本で承認されている免疫チェックポイント阻害薬と適応疾患薬剤名適応疾患抗CPD-1抗体薬ニボルマブ(オプジーボR)悪性黒色腫:術後補助療法,切除不能な進行・再発例非小細胞肺癌:切除不能な進行・再発例腎細胞癌:根治切除不能または転移性例ホジキンリンパ腫:再発または難治性の古典性ホジキンリンパ腫頭頸部癌:再発または遠隔転移を有する例胃癌:癌化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発例悪性中皮腫:癌化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発例抗CPD-1抗体薬ペムブロリズマブ(キイトルーダR)悪性黒色腫:根治切除不能例非小細胞肺癌:一次治療における高CPD-L1発現腫瘍(C50%以上)と二次治療におけるCPD-L1発現腫瘍(1%以上)ホジキンリンパ腫:再発または難治性の古典性ホジキンリンパ腫尿路上皮癌:化学療法後に増悪した切除根治切除不能例抗CCTLA-4抗体薬イピリマブ(ヤーボイR)悪性黒色腫:根治切除不能例抗CPD-L1抗体薬アベルマブ(バベンチオR)メルケル細胞癌:根治切除不能例抗CPD-L1抗体薬アテゾリズマブ(テセントリクR)非小細胞肺癌:切除不能な進行・再発例図2免疫チェックポイント阻害薬の作用機序(がん免疫Cjpから引用)表4免疫チェックポイント阻害薬によるimmunerelatedadverseevent(irAE):眼以外の障害内分泌障害甲状腺機能低下下垂体機能不全副腎不全I型糖尿病肝機能障害間質性肺障害皮膚障害神経障害腸炎筋炎表5免疫チェックポイント阻害薬の眼副作用障害部位眼副作用眼窩,附属器重症筋無力症眼窩筋炎感染性眼窩炎症甲状腺眼窩炎症Tolosa-Hunt症候群脳神経麻痺動眼神経麻痺外転神経麻痺顔面神経麻痺眼表面ドライアイ感染性角膜炎強膜炎CGraftrejection視神経網膜視神経炎視神経症ぶどう膜炎前部ぶどう膜炎後部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎網膜血管炎漿液性網膜.離CVogt-Koyanagi-Haradalikedisease(文献C2より抜粋引用)図3ニボルマブによる視神経網膜症の眼底所見(左眼)a:初診時.b:治療終了後半年間.網膜色素上皮の脱落が継続した.図4分子標的薬による前眼部副作用所見a:エルロチニブによる睫毛障害と結膜充血,b:イマチニブによる眼瞼浮腫(他の部位の障害は各論参照).表6眼科で遭遇する可能性が高い分子標的薬(免疫チェックポイント阻害薬を除く)と適応疾患と眼副作用分子標的薬一般名(商品名)おもな適応疾患おもな眼副作用EGFRチロシンキナーゼ阻害薬エルロチニブ塩酸塩(タルセバR)ゲフィチニブ(イレッサR)非小細胞肺癌:手術不能または再発例非小細胞肺癌:手術不能または再発例睫毛乱生,睫毛長毛化,角膜障害ALK阻害薬クリゾチニブ(ザーコリR)アレクチニブ塩酸塩(アレセンサ)非小細胞肺癌(EML-4-ALK融合遺伝子陽性)視神経障害BCR/ABL阻害薬イマチニブ(クリベックR)慢性骨髄性白血病フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病消化管間質腫瘍(GIST)眼瞼浮腫MEK阻害薬トラメチニブ(メキニストR)悪性黒色種:CBRAF遺伝子変異を有する根治切除不能例網膜障害抗CHER-2抗体トラスツマブ(ハーセブチンR)乳癌:HERC2過剰発現の転移例角膜障害抗CCD20抗体リツキシマブ(リツキサンR)非ホジキンリンパ腫結膜充血C図5ナブパクリタキセルによるによる.胞性黄斑症と角膜障害a:.胞性黄斑症(光干渉断層像),b:角膜障害.

序説:全身薬と眼の副作用の最新知見

2018年10月31日 水曜日

全身薬と眼の副作用の最新知見UpdateofSystemicDrugsandTheirOcularAdverseE.ects柏木賢治*谷戸正樹**外園千恵***薬物による副作用はときに重篤な合併症を引き起こすため,日常診療においてもっとも注意すべき点の一つである.眼科の場合,薬物治療は多くは点眼薬による局所投与であるので,眼科医は点眼薬による副作用については,知識や経験が豊富で,対策についても熟知している.しかしながら,さまざまな全身投与薬により眼局所副作用が発症することも決して少なくなく,眼科医には,全身薬による眼局所副作用についての十分な知識の習得と注意深い対応が求められている.とくに最近は従来とは異なる作用機序をもった全身薬が抗腫瘍,免疫阻害などさまざまな治療目的で多数臨床応用されている.とくに分子標的薬や生物学製剤をはじめとする新薬は,これまで難治とされてきた疾患の治療成績を劇的に向上させている一方で,これまで認められていなかった眼局所副作用を発生させることも明らかになってきている.眼科医がこのような症例に遭遇することは決して珍しくはないが,眼科医にとってなじみの少ない全身投与薬による眼局所副作用の把握は容易ではない.そこで本特集では,全身薬による眼の副作用の特徴について,各専門領域のスペシャリストに以下の項目について詳細な記述をいただいた.近年では狭義の抗癌薬(腫瘍細胞増殖抑制薬)に加えて,ホルモン療法,免疫療法など実に多彩な作用機序による抗腫瘍薬が多く臨床で用いられるようになっている.その結果,従来の抗癌薬では認められなかったさまざまな眼局所副作用が認められるようになった(柏木広哉先生の項).抗癌薬による眼副作用についてはTS-1による涙道通過障害が知られており,特徴的な所見を示すため適切な対応を行う必要がある(末岡健太郎先生,近間泰一郎先生の項).近年リポジショニングによって臨床の場に登場する薬物の代表がヒドロキシクロロキンである.本薬は有効性も高いが,その管理法は非常にナイーブなため,副作用の防止には眼科と処方医の緊密な連携を要する(榎本寛子先生,近藤峰生先生の項).管理全身薬は涙液へ移行しやすいことなどから眼表面への副作用を示すことが多い.眼表面の観察は眼科医にとってもっとも日常的なものであり,眼表面に副作用をきたす全身薬とその所見について,十分な理解を深めることが重要である(山田昌和先生の項).豊富な血流を有する網脈絡膜にも全身薬による副作用はしばしば出現する.網脈絡膜に発生する全身薬による副作用は薬剤によって異なるが,その確認には近年広く臨床で用いられるようになった光干渉*KenjiKashiwagi:山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座**MasakiTanito:島根大学医学部眼科学教室***ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)1313

医薬品副作用データベースを用いた全身投与薬による眼障害の調査解析

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1299.1306,2018c医薬品副作用データベースを用いた全身投与薬による眼障害の調査解析有山智博田中博之石井敏浩東邦大学薬学部実践医療薬学研究室CAnalysisofEyeDisordersInducedbySystemicDrugs,UsingtheJapaneseAdverseDrugEventReportDatabaseTomohiroAriyama,HiroyukiTanakaandToshihiroIshiiCDepartmentofPracticalPharmacy,FacultyofPharmaceuticalScience,TohoUniversityわが国の全身投与薬による眼障害の発症状況を明らかにする目的で,日本の医薬品副作用データベース(JADER)を用いて調査・解析を行った.JADERに登録された症例のうち,「眼障害」が報告された症例を対象とし,患者背景,使用薬剤,および転帰を解析した.全身投与薬を被疑薬として報告された眼障害の総件数はC7,678件であり,その被疑薬はC1,001品目であった.報告件数が多い眼障害は,「眼部感染,刺激症状および炎症」や「視覚障害」であった.報告された被疑薬はリバビリンがもっとも多く,ついでペグインターフェロンCa-2b,プレガバリンであった.性別や年齢の分布は,疾患や使用薬剤により大きく影響を受けていた.眼障害の多くは,被疑薬の中止により回復または軽快するが,一部の症例においては未回復・後遺症などが確認された.本調査より,全身投与薬による眼障害の発症状況を明らかにすることができた.CToclarifythecurrentsituationofeyedisorderscausedbysystemicdruguseinJapan,theJapaneseAdverseDrugCEventCReportCdatabaseCwasCsurveyedCtoCidentifyCsuchCcases.CSpeci.cally,CtheCterm“eyeCdisorders”wasCsearched,andinformationonpatientbackground,drugsused,andoutcomewasextracted.Intotal,7,678reportedcasesand1,001suspectdrugswereidenti.ed.Ocularinfections,irritationsandin.ammations,aswellasvisiondis-orders,CwereCtheCmostCcommonCocularCadverseCe.ects.CTheCmostCfrequentlyCreportedCsuspectCdrugCwasCribavirin,Cfollowedbypeginterferonalfa-2bandpregabalin.Patientgenderandagedistributionswerea.ectedbytheunder-lyingCdiseasesCandCtheCmedicationsCused.CMostCocularCadverseCeventsCwereCrelievedCbyCdiscontinuingCtheCsuspectCdrug,CexceptingCinConeCcaseCinCwhichCtheCdamageCwasCirreversible.CInCsummary,CourCsurveyCrevealedCaCclearCpic-tureofthecurrentsituationofadverseoculareventscausedbysystemicdrugsinJapanesepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1299.1306,C2018〕Keywords:眼障害,全身投与薬,副作用データベース,被疑薬,有害事象.eyedisorder,systemicdrug,Japa-neseAdverseDrugEventReportdatabase,suspectdrug,adversee.ects.Cはじめに薬剤投与による眼障害は,眼科用剤の局所投与に起因する副作用と眼科用剤以外の全身投与に起因する副作用がある.全身投与薬による眼障害は,古くはエタンブトール1),インターフェロン2)で報告され,最近ではテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)をはじめとする抗がん薬において報告がなされているが3,4),その多くが施設単位の報告に限られており,わが国での発症状況の全体像については明らかにされていない.全身投与薬による眼障害は,その主とする薬理作用からは予想がつきにくく,発生機序も不明なことが多い.したがって,投与する医師がこれら眼障害を的確に診断・治療することは困難な場合がある.また,眼科医にとっても専門外の薬剤での副作用については認識が遅れる可能性がある.そのため,全身投与薬による眼障害の実態を〔別刷請求先〕有山智博:〒274-8510千葉県船橋市三山C2-2-1東邦大学薬学部実践医療薬学研究室Reprintrequests:TomohiroAriyama,DepartmentofPracticalPharmacy,FacultyofPharmaceuticalScience,TohoUniversity,2-2-1Miyama,Funabashi,Chiba274-8510,JAPAN表1対象のHLGTとPT,報告件数HLGTCPT報告件数眼前方部構造変化,沈着および変性白内障,後天性涙道狭窄,角膜びらんなどC40語C562眼部障害角膜障害,眼痛,Sjogren症候群などC26語C353緑内障および高眼圧症緑内障,閉塞隅角緑内障,高眼圧症などC6語C317眼部感染,刺激症状および炎症皮膚粘膜眼症候群,眼瞼浮腫,眼充血などC81語C2,511眼球新生物視神経膠腫,結膜.胞,結膜新生物などC10語C14眼神経筋障害眼瞼下垂,注視麻痺,眼振などC34語C577眼球感覚神経障害羞明,眼の異常感,眼精疲労などC5語C107眼部構造変化,沈着および変性CNEC網膜.離,網膜色素上皮裂孔,Basedow病などC32語C452網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害網膜出血,網膜症,硝子体出血などC27語C1,107眼部出血および血管障害CNEC結膜出血,眼出血,虚血性視神経症などC16語C215視覚障害視力低下,視力障害,霧視などC40語C1,463NEC:notelsewhereclassi.ed「他に分類されない」.明らかにし,早期発見および治療の一助につなげることを目的に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuti-calsandMedicalDevicesAgency:PMDA)がC2004年C4月より収集・公開している医薬品副作用データベース(Japa-neseAdverseDrugEventReportdatabase:JADER)を用いて調査・解析を行った.CI対象および方法PMDAのCwebサイト(http://www.info.pmda.go.jp/fukusayoudb/CsvDownload.jsp,2016年C10月C7日)より入手したJADERの2004年4月.2016年3月のデータを用いた.対象とする副作用名は,医薬規制用語集CMedicalDictionaryforCRegulatoryCActivities(MedDRA)ver.20.0の基本語(PreferredCTerm:PT)を使用し,MedDRA階層レベルで器官別大分類(SystemOrganClass:SOC)「眼障害」のうち高位グループ語(HighCLevelCGroupCTerm:HLGT)でまとめて集計した.HLGTのうち「先天性眼部障害」「眼球外傷」は除外した.JADERに登録されている全症例のなかから報告年度,性別,年齢および転帰について解析した.薬剤は「被疑薬」の報告のみとし,投与経路が「眼」「眼内」「眼球後」「結膜下」と報告されているもの,および投与経路が明確でない「非経口」「その他」「不明」で報告されているものはすべて除外した.さらに眼科用光線力学的療法用レーザーによる光照射と併用するベルテポルフィンおよび眼瞼痙攣に用いるCA型ボツリヌス毒素は,直接眼部に作用する薬剤であるため眼科用剤として除外した.本研究では,データの欠損は「不明」として集計した.年齢区分を「新生児.20歳代」「30.40歳代」「50.60歳代」「70歳代.」として解析を行い,報告データに「青少年」「成人」といったこれらの年齢区分に分類できない年齢群のものは「不明」として扱った.また,各種薬剤の添付文書における眼部副作用に関する記載状況(2017年C9月時点)を併せて調査した.CII結果対象期間の副作用報告総数は,627,062件(重複を除く)であった.眼障害の報告は,10,961件あり,そこからHLGT「先天性眼部障害(19件)」「眼球外傷(51件)」を除外し,眼科用剤に起因する眼障害(3,213件)を除くと,対象薬剤における眼障害の報告件数はC7,678件,症例数は7,135人であった.各CHLGTとそれに含まれるCPTおよび件数を表1に示す.各CHLGTのなかでもっとも報告件数が多かったものは,「眼部感染,刺激症状および炎症」がC2,511件であり,「視覚障害」1,463件,「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」1,107件の順であった.被疑薬は,10,270件(1,001品目)の報告があり,各CHLGTの報告件数の多い薬剤を表2に示した.2004年度.2015年度の報告年度別の副作用件数を図1に示した.「眼部感染,刺激症状および炎症」「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」「視覚障害」の報告が多く,いずれもC2012年度をピークに増加したが,その後は減少傾向であった.2004年度.2015年度の報告年度別の薬剤の推移を図2に示した.2011年にラモトリギンがピークとなり,2012年はリバビリン,ペグインターフェロンCa-2b,テラプレビル,プレガバリンがピークとなり,その後減少した.各CHLGTで発症の性差を比較すると「眼部障害」「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」「視覚障害」が女性に多くみられた(図3).年代でみると「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」は若い年代に多く「眼部出血および血管障害CNEC(nonelsewhereclassi.ed)」はC70歳代以上に多い傾向であった(図4).副作用の転帰は,「回復・軽快」がC3,736件,「未回復・後遺症あり」がC1,331件,「死亡」がC51件,「不明」がC2,560件であった.「眼前方部構造変化,沈着および変性」「眼部障害」「眼部感染,刺激症状および炎症」「眼球新生物」「眼神経(件)350300250200150100500200420052006200720082009201020112012201320142015(年度)①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪図1年度別の副作用報告件数①眼前方部構造変化,沈着および変性,②眼部障害,③緑内障および高眼圧症,④眼部感染,刺激症状および炎症,⑤眼球新生物,⑥眼神経筋障害,⑦眼球感覚神経障害,⑧眼部構造変化,沈着および変性CNEC,⑨網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害,⑩眼部出血および血管障害CNEC,⑪視覚障害.C(件)160140120100806040200200420052006200720082009201020112012201320142015J(年度)ABCDEFGHI図2副作用報告上位10薬剤の年度別報告件数A:リバビリン(447件),B:ペグインターフェロンCa-2b(341件),C:プレガバリン(235件),CD:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(223件),E:ラモトリギン(222件),F:プレドニゾロン(217件),G:エタンブトール塩酸塩(170件),H:テラプレビル(158件),I:アセトアミノフェン(139件),J:カルバマゼピン(136件).C表2各HLGTと被疑薬リスト(上位15品目)合計リバビリンC447眼神経筋障害組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子(1,001品目)ペグインターフェロンCa-2bC341(314品目)ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C26プレガバリンC235CリスペリドンC23S-1C223カルバマゼピンC22ラモトリギンC222エチゾラムC20プレドニゾロンC217プレガバリンC16エタンブトール塩酸塩C170ブロチゾラムC16テラプレビルC158パロキセチン塩酸塩水和物C14アセトアミノフェンC139ラモトリギンC13カルバマゼピンC136インフルエンザCHAワクチンC13バゼドキシフェン酢酸塩C135クエチアピンフマル酸塩C12ペグインターフェロンCa-2aC128パリペリドンC11組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ドネペジル塩酸塩C11ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C106アルプラゾラムC10ロキソプロフェンナトリウム水和物C96ジスチグミン臭化物C10アロプリノールC96トリアゾラムC10眼前方部構造変化,沈着および変性(222品目)CS-1Cプレドニゾロンラモトリギンタムスロシン塩酸塩フルチカゾンプロピオン酸エステルプレガバリンカルバマゼピンエタネルセプトタクロリムス水和物アロプリノールシクロスポリンエルロチニブ塩酸塩ドセタキセル水和物デキサメタゾンアミオダロン塩酸塩C145眼球感覚神経障害45(69品目)26141313121010998877組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C27組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子9ワクチン(酵母由来)CボリコナゾールC9パロキセチン塩酸塩水和物C5ラモトリギンC5バルサルタンC4プレドニゾロンC2ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルC2イオベルソールC2ロサルタンカリウムC2エピルビシン塩酸塩C2プレガバリンC2アリピプラゾールC2(146)眼部障害S-1C53眼部構造変化,沈着およびリバビリンC57(200品目)CラモトリギンC21変性CNECペグインターフェロンCa-2bC38リバビリンC13(242品目)プレドニゾロンC32ペグインターフェロンCa-2bC10ペグインターフェロンCa-2aC25パロキセチン塩酸塩水和物C10プレガバリンC13組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子9ベバシズマブC13ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)Cヨウ化ナトリウム(C131I)C11プレガバリンC9エポエチンベータC9組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子シクロスポリンC8ワクチン(酵母由来)C8エタネルセプトC7バゼドキシフェン酢酸塩C8インターフェロンCa-2bC7アマンタジン塩酸塩C7アミオダロン塩酸塩C7アロプリノールC6タクロリムス水和物C7カルバマゼピンC6エポプロステノールナトリウムC6ドセタキセル水和物C6バルサルタンC6ジクロフェナクナトリウムC5イマチニブメシル酸塩C6CカペシタビンC5バラシクロビル塩酸塩C5プレドニゾロンC5緑内障および高眼圧症プレドニゾロンC25網膜,脈絡膜および硝子体リバビリンC311および血管障害プレガバリンC16の出血ペグインターフェロンCa-2bC245(208品目)フルチカゾンプロピオン酸エステルC12(272品目)テラプレビルC146パロキセチン塩酸塩水和物C11ペグインターフェロンCa-2aC81ブロチゾラムC11クロピドグレル硫酸塩C53メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムC8シメプレビルナトリウムC41コハク酸ソリフェナシンC8アスピリンC40チオトロピウム臭化物水和物C8ラロキシフェン塩酸塩C38サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオインターフェロンCa-2bC30ン酸エステルC7リバーロキサバンC25エチゾラムC7プレガバリンC18アモキサピンC6インターフェロンCb18シベンゾリンコハク酸塩C6ワルファリンカリウムC17アトロピン硫酸塩水和物C6ベバシズマブC15ゾルピデム酒石酸塩C6プレドニゾロンC13ジフルプレドナートC6眼部感染,刺激症状および炎症(635品目)ラモトリギンアセトアミノフェンロキソプロフェンナトリウム水和物カルボシステインアロプリノールカルバマゼピンクラリスロマイシンプレドニゾロンリバビリンメシル酸ガレノキサシン水和物ジクロフェナクナトリウムシクロスポリンS-1Cアモキシシリン水和物リファブチンC180眼部出血および血管障害127NEC79(115品目)777665555147464240393836リバーロキサバンC40クロピドグレル硫酸塩C18ワルファリンカリウムC17アスピリンC13プレガバリンC12イマチニブメシル酸塩C12アピキサバンC9リバビリンC7シルデナフィルクエン酸塩C5ペグインターフェロンCa-2bC4スニチニブリンゴ酸塩C3イコサペント酸エチルC3ソラフェニブトシル酸塩C3セレコキシブC3エタネルセプトC3インターフェロンCa-2bC3アムロジピンベシル酸塩C3レトロゾールC3プラバスタチンナトリウムC3眼球新生物ソマトロピンC3視覚障害プレガバリンC149(16品目)エタネルセプトC2(449品目)エタンブトール塩酸塩C142プレドニゾロンC2バゼドキシフェン酢酸塩C120非ピリン系感冒剤(4)C2組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチ38ン(イラクサギンウワバ細胞由来)CボリコナゾールC26リファンピシンC25ザナミビル水和物C22カルバマゼピンC22パクリタキセルC18リネゾリドC17ラロキシフェン塩酸塩C17パロキセチン塩酸塩水和物C17イソニアジドC16組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)C15シクロスポリンC15ペグインターフェロンCa-2bC15リバビリンC15C眼前方部構造変化,2.8沈着および変性眼部障害2.6緑内障および高眼圧症眼部感染,0.9刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害0.9眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体2.3の出血および血管障害眼部出血および血管障害NEC視覚障害1.80%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■男性■女性■不明図3各性別の報告割合眼前方部構造変化,41.614.60.243.615.351.333.428.120.851.154.69.61.434.414.357.128.659.813.21.425.643.932.723.422.30.445.631.648.226.50.225.157.730.211.60.540.924.30.134.7沈着および変性眼部障害緑内障および高眼圧症眼部感染,刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害眼部出血および血管障害NEC視覚障害0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■回復・軽快■未回復・後遺症あり■死亡■不明図5各副作用の転帰筋障害」「眼部出血および血管障害CNEC」の「未回復・後遺症あり」の割合はC1割程度であったが,それ以外ではC2.3割を占めた.とくに「眼球感覚神経障害」の「未回復・後遺症あり」の割合はもっとも高く,32.7%であった(図5).被疑薬として報告されている薬剤のうち,各CHLGTの報告件数がC5件以上の薬剤はC405品目であった.このうち現在販売中止になっている薬剤C4剤(セラペプターゼ,リゾチーム塩酸塩,テリスロマイシン,ガチフロキサシン水和物)と一般薬C5品目を除いたC396品目の添付文書について,眼障害に関する副作用の記載状況を調べたところ,記載がある薬剤はC327品目(82.6%)であった.そのなかで,重大な副作用の項目にあるものがC164品目(「皮膚粘膜眼症候群」156品目,それ以外の眼障害はC80品目),その他の副作用に記眼前方部構造変化,7.814.235.630.711.715.014.734.424.711.27.614.627.330.819.717.822.934.321.23.742.97.114.328.67.128.215.223.822.510.329.916.819.616.816.816.721.737.715.58.43.311.551.426.17.811.432.943.810.511.513.129.534.611.3沈着および変性眼部障害緑内障および高眼圧症眼部感染,刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害眼部出血および1.4血管障害NEC視覚障害0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■新生児~20歳代■30~40歳代■50~60歳代■70歳代~不明図4各年代の報告割合載があるものがC267品目であった.その他の副作用に記載されている項目の内訳は,「眼」107品目,「眼障害」24品目,「精神神経系」23品目,「感覚器」29品目,「過敏症」9品目,「抗コリン作用」3品目,「頭蓋内圧上昇」1品目,「中枢神経系」1品目,「出血傾向」1品目,「自律神経系」1品目,「その他」68品目と薬剤によって異なる記載がなされていた.48品目は,眼部に関連する副作用の記載が「皮膚粘膜眼症候群」のみであった.CIII考按JADERの解析より,全身投与薬による眼障害の実態を明らかにすることを試みた.これまでに眼障害の報告件数は7,678件,症例数はC7,135人あり,報告件数が多いCHLGTは「眼部感染,刺激症状および炎症」であることがわかった.一つの症例で複数の眼障害が報告されることがあり,報告件数と症例数に差がみられた.被疑薬として報告されている薬剤は,1,001品目と多岐にわたっていた.リバビリン,インターフェロン製剤,エタンブトール塩酸塩,S-1が上位を占めることがわかった.インターフェロン製剤やエタンブトール塩酸塩は古くから報告があるが,S-1については近年報告が集積しており,関心が高まっている.S-1による眼障害の発生頻度は,約C10%5)や約18%6)と報告されている.涙道障害や角膜障害の報告が多く,その発生機序は,涙液中のC5-フルオロウラシルによるものと考えられている7.9).一方で,プレガバリン,ラモトリギン,バゼドキシフェン酢酸塩など,販売されてC10年以内の比較的新しい薬剤も上位を占めていた.本解析から,プレガバリンは多くのCHLGTの上位にあがっていることが確認されたが,臨床上の報告は限られており,投与中に発症した視覚異常の症例報告が散見される程度である10).プレガバリンの添付文書では,「重大な副作用」の項に「皮膚粘膜眼症候群(頻度不明)」「その他の副作用」の項のうち「眼障害」の欄に,「霧視・複視・視力低下(1%以上)」「視覚障害・網膜出血(0.3%以上,1%未満)」の記載があるのみであった.ラモトリギンの添付文書には,「重大な副作用」の項に「皮膚粘膜眼症候群(0.5%)」と「その他の副作用」の項のうち「眼」の欄に「複視(1.5%未満)」「霧視・結膜炎(1%未満)」の記載のみであったが,本解析からは,皮膚粘膜眼症候群を含むCHLGTである「眼部感染,刺激症状および炎症」にラモトリギンの報告が多いことがわかったほか,「眼前方部構造変化,沈着および変性」「眼部障害」「眼球感覚神経障害」の上位にも含まれ眼に多様な影響を及ぼす可能性が示唆された.また,バゼドキシフェン酢酸塩は,「重大な副作用」の項に「網膜静脈血栓症(頻度不明)」「その他の副作用」の項のうち「眼」の欄に,「霧視・視力低下等の視力障害(頻度不明)」が記載されている程度であったが,本解析からは「視覚障害」の上位を占めるなど注意の必要な薬剤であることが明らかとなった.年度別の副作用報告件数と薬剤報告件数の推移より,2008年C12月のラモトリギン販売後に「眼部感染,刺激症状および炎症」は増加がみられ,「視覚障害」はC2010年C6月のプレガバリン発売後に増加がみられた.さらにC2011年C11月のテラプレビル販売開始によるペグインターフェロンCa-2b,リバビリン,テラプレビルのC3剤併用療法の登場後に「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」は増加がみられた.それぞれ発売時期と一致して報告の増加が確認されたが,ラモトリギンやプレガバリンは販売開始から約2年後に副作用報告のピークがあったことに対して,テラプレビルは販売開始の翌年に報告のピークがみられた.この期間の差については,テラプレビルはCC型慢性肝炎の治療としてペグインターフェロンCa-2b,リバビリンとのC3剤併用でC12週間のみ服用する薬剤であるために,販売開始後の使用量の増加とともに副作用の報告も急増したと考えられる.一方で,ラモトリギンやプレガバリンはテラプレビルのように一定期間のみの服用ではなく,継続的に服用する薬剤であるため,販売開始からC1年後の長期処方が可能となった後に使用量が増加し,副作用報告の増加につながったと考えられる.各CHLGTで発症の性差や年代別の報告割合をみると,「眼部障害」「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」「視覚障害」は女性に高い傾向がみられた.そのなかでも,「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」は若い世代の女性が多く,その被疑薬の上位は組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)などであることがわかった.「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」は,「50.60歳代」にC51.4%と多くを占め,被疑薬は,リバビリン,インターフェロン製剤,テラプレビル,クロピドグレル硫酸塩が多いことが確認された.「眼部出血および血管障害CNEC」は「70歳代.」の高齢者にC43.8%と多く,被疑薬はリバーロキサバン,ワルファリンカリウム,クロピドグレル硫酸塩が上位を占めていた.疾患の特性により使用薬剤が異なり,性別や年齢の分布に反映されていた.転帰については,「未回復・後遺症あり」がいずれの副作用でもC1.3割程度を占め,「眼球感覚神経障害」「視覚障害」「眼部構造変化,沈着および変性CNEC」の順に多いことがわかった.エタンブトール塩酸塩のように発見が遅れ高度に進行すると非可逆的になることがわかっている薬剤もあり注意が必要である.「未回復・後遺症あり」がC32.7%ともっとも高い割合で確認された「眼球感覚神経障害」の被疑薬は,組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来),組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)が上位を占めた.これらの薬剤は,若い世代の女性に使用されることから,とくに注意が必要と考える.眼障害の報告があった薬剤のうち,添付文書に記載があった薬剤はC82.6%であり,17.4%では記載がないことがわかった.添付文書の記載項目については,「重大な副作用」の項に,「皮膚粘膜眼症候群」や「網膜症」「網膜静脈血栓症」といった病名で記載がされているほか,「視力障害」「視覚障害」などの記載がみられた.「視力障害」「眼底出血」など同じ副作用名であっても「重大な副作用」の項に記載があるものと「その他の副作用」の項に記載があるものが存在し,薬剤により異なることが確認された.さらに「その他の副作用」に記載される区分で「眼」や「眼障害」の項目を設けて記載されているものもあれば,「精神神経系」や「感覚器」「その他」などの項目に記載されるなど統一されておらず,とくに多数の副作用の記載がある薬剤では見落とす可能性も考えられた.添付文書の副作用の項目に眼障害に関する記載がされていても,これに対する医療者の認識は低く,注意深く管理される抗がん薬投与時でさえ軽視されている現状が報告されている11).このような背景もあり,日本角膜学会は抗腫瘍薬全身投与による角膜障害について実態調査を行っており12),本研究からさらなる認知が広がることが期待される.研究の限界として,JADERは自発報告による副作用のデータベースであるため,このように医療従事者の認識の乏しさから発見されていない,または重篤でない副作用であるため報告がなされていない症例が存在すると考えられる.さらに,副作用として発症した眼障害が片眼性か両眼性かの情報はなく,原疾患や加齢による影響など詳細な追及はできない.しかしながら,今回の調査解析からわかるように眼障害には不可逆的なものもあり,軽視できる副作用ではない.とくに高齢者では,その視覚の変化に気づきにくく,視力異常による転倒などにより,QOLのさらなる低下につながる恐れがあり,より注意が必要である.全身投与薬による眼障害は,発症機序が明確ではないものが多く,その主作用からは予測困難なものがある.さらに,眼科医の下で使用される薬剤以外での報告も多い.すなわち,医療従事者が意識して情報提供することがなければ,患者自身が薬剤の影響と思わず過ごすことや,たとえ訴えがあったとしても処方医が眼科医でなければ,対応を逃す可能性もある.一方で,眼科医であっても眼科領域以外の薬剤である場合,使用薬の副作用として疑わず対応が遅れる可能性が考えられる.添付文書に記載のない薬剤による眼障害の報告もあるため医療従事者は,どのような薬剤でも眼障害が起こる可能性を念頭におき,患者の訴えや症状を注意深く観察するとともに,早期発見および確実な対応が求められる.本研究によって,わが国における全身投与薬による眼障害は多数報告があることがわかった.これらの知見は,薬剤起因性の眼障害の早期発見および早期治療の一助になると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)原田勲:新抗結核剤CEthambutolによる視神経炎のC2症例.眼紀C14:278-284,C19632)池辺徹,中塚和夫,後藤正雄:インターフェロン投与中に視力障害をきたしたC1例.眼紀C41:2291-2296,C19903)柏木広哉:抗がん剤による眼障害―眼部副作用―.JpnJCancerChemotherC37:1639-1644,C20104)細谷友雅:全身用剤による角膜障害.あたらしい眼科C25:C449-453,C20085)MoriyaCK,CShimizuCH,CHandaCSCetCal:IncidenceCofCoph-thalmicdisordersinpatientstreatedwiththeantineoplas-ticagentS-1.JpnJCancerChemotherC44:501-506,C20176)KimN,ParkC,ParkDJetal:Lacrimaldrainageobstruc-tionCinCgastricCcancerCpatientsCreceivingCS-1Cchemothera-py.AnnOncolC23:2065-2071,C20127)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnaso-lacrimalCductCblockage:anCocularCsideCe.ectCassociatedCwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmolC140:C325-327,C20058)坂井譲,井上康,柏木広哉ほか:TS-1による涙道障害の多施設研究.臨眼C66:271-274,C20129)伊藤正,田中敦子:経口抗がん剤CS-1による角膜障害の3例.日眼会誌C110:919-923,C200610)仙田正博,仁熊敬枝,安積さやかほか:プレガバリンが原因と疑われる眼症状が出現したC2症例.日本ペインクリニック会誌C20:518,C201311)NakajimaCH,CMikiCA,CSatohCHCetCal:HealthcareCprofes-sionals’CawarenessCofCAdverseCe.ectsConCeyesCcausedCbyCanticancerCdrugs.CJpnCJCPharmCHealthCCareCSciC40:360-368,C201412)井上幸次,白石敦,杉岡孝二ほか:抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害についての日本角膜学会による実態調査.日眼会誌C121:23-33,C2017***

立体視応答速度における軽度乱視の影響

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1295.1298,2018c立体視応答速度における軽度乱視の影響結城岳志*1半田知也*1,2岩田遥*2飯田嘉彦*3庄司信行*3*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3北里大学病院眼科CE.ectsofMildAstigmatismonResponseSpeedsofStereopsisTakashiYuuki1),TomoyaHanda1,2)C,YoIwata2),YoshihikoIida3)andNobuyukiShoji3)1)Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthScience,KitasatoUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity軽度乱視が視機能の質に与える影響について立体視応答速度に着目して検討した.対象は軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年C30名とした.立体視応答速度はC3DVisualFunctionTrainer-ORTe(JFC社)を用いて両眼視差C800,400,200,100,60秒の立体視標を提示し,立体視知覚した視標方向に十字キーを押下するまでの時間を立体視応答速度として評価した.完全屈折矯正下,および両眼に+0.50から+2.00Dの円柱レンズを人工的に負荷した乱視モデル(直乱視,倒乱視)を作成し比較検討した.立体視応答速度は乱視負荷量の増加に伴い徐々に低下し,0.75D以上の乱視にて有意差を認めた(p<0.05).0.75D以下の軽度乱視においても立体視応答速度の低下などの視機能の質の低下が生じる可能性が示唆された.CWeCexaminedCtheCin.uenceCofCmildCastigmatismConCqualityCofCvisualCfunction,CwithCtheCmainCfocusConCstereo-scopicresponsespeed.Atotalof30healthyadolescentswithnoophthalmologicdiseaseotherthanmildrefractiveerrorwererecruited.Theirstereoscopicresponsespeedwasmeasuredusing3DVisualFunctionTrainer-ORTeR(JFC).Stereoscopicvisualtargetswithbinoculardisparitiesof800,400,200,100and60secondsofarcwerepre-sented.Thetimeelapsedbeforethecrosskeywaspressedinthedirectionofthestereoscopicallyperceivedvisualtargetwasrecordedasthestereoscopicresponsespeed.Wemadeastigmatismmodels(astigmatismwiththerule,astigmatismCagainstCtheCrule)inCwhichCcylindricalClensesCof+0.50Cto+2.00DCwereCmanuallyCloadedCunderCfullCrefractionCcorrection,CbothCeyesCwereCexaminedCandCcompared.CTheCstereoscopicCresponseCspeedCgraduallydecreasedCwithCincreaseCinCastigmaticCload;signi.cantCdi.erenceCwasCobservedCatCanCastigmatismCofC0.75DCorhigher(p<0.05)C.Ourresultssuggestthatthequalityofvisualfunction,asre.ectedbydecreaseinthestereoscop-icresponsespeed,maydeteriorateevenatamildastigmatismof0.75Dorless.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1295.1298,C2018〕Keywords:立体視,応答速度,軽度乱視,屈折矯正,3DVisualFunctionTrainer-ORTe.stereopsis,mildastig-matism,refractivecorrection,3DVisualFunctionTrainer-ORTe.Cはじめに眼内レンズやコンタクトレンズの進歩・普及により,患者は見え方の質を選ぶ時代となり,白内障手術およびコンタクトレンズ矯正において乱視矯正の重要性が高まっている.しかしながら軽度乱視においては,球面レンズの矯正のみで視力が良好ということが多く,日常生活において視覚の質(qualityofvision:QOV)の低下を自覚しがたい1).しかしながら,自覚しがたい軽度乱視であっても未矯正による像のボケが生じており,軽度乱視によるCQOVの低下を鋭敏に評価できる視機能検査法が必要と考える.臨床的な視機能検査の多くは,視力,コントラスト感度に代表される空間分解能評価が中心である.実際の日常生活では,スポーツ,自動車運転など,対象物をいかに早く認識できるかといった時間分解能の能力も求められるが,臨床的検査に用いられることは少ない.そこで今回筆者らは,高次視機能検査である立体視検査に時間分解能評価を加えた立体視〔別刷請求先〕結城岳志:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:TakashiYuuki,CO,Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN図13DVisualFunctionTrainer(ORTe)右図:実験風景,左図:立体視検査用視標.応答速度評価(立体視標をいかに早く認識できるか)を用い*0.00て,軽度乱視がCQOVに与える影響について検討した.C0.50応答速度(秒)I対象対象は軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年30名(男性C5名,女性C25名),平均年齢C21.4C±1.8歳である.1.001.502.00視力は完全屈折矯正下においてC1.2以上かつ近見,遠見立体視がC60秒未満(近見立体視はCTitmusCstereoCtest,TNOstereoCtest,遠見立体視はC3DCVisualCFunctionCTrainer-ORTeにて)であることを確認した.対象C30名の自覚屈折値(等価球面値)はC.2.14±2.40Dであり,遠見眼位(平均)はC2.3C±2.5Δであった.なお,本検討では人工的に乱視を作成するため,自覚的屈折値でC.0.50D以上の乱視を有する者は除外した.CII方法立体視応答速度評価にはCJFC社のC3DCVisualCFunctionTrainer-ORTe(以下,ORTe)2)に独自開発したプログラムを用いて,検査距離C5Cm(遠見立体視)にて行った.立体視検査視標はC4個の円形視標(図1)のC1個に交差性視差(ディスプレイ面より手前に飛び出して見える)をランダムに提示し,両眼視差C800,400,200,100,60秒(secofarc)にて立体視応答速度を測定した.被検者には,4個の指標のうちの一つに飛び出しを知覚できたら,その視標の位置に相当するコントローラーの十字キーを素早く押下するように指示した.立体視標を提示してから被検者が立体視知覚して十字キーを押下するまでの時間を測定し,立体視応答速度として評価した.測定は提示される両眼視差につきC5回実施し,5回中C3回以上の正答でCPassとし,正答した回数の応答速度の平均値を用いて評価した.立体視応答速度は,完全屈折矯正下,両眼に円柱レンズ(凸の円柱レンズ)を+0.50,+0.75,+1.00,+1.25,+1.50,+2.00Dを人工的に負荷して測定し,各条件下にて立両眼視差(secofarc)図2完全屈折矯正下における立体視応答速度立体視応答速度は両眼視差の減少に伴い低下した.*:p<0.05.C体視応答速度変化を検討した.円柱レンズの軸は90°とC180°(直乱視,倒乱視)のC2条件とした.自覚的屈折値には雲霧法を用いて,最良視力が得られるもっともプラスよりの球面,乱視の屈折値を完全屈折矯正として採用した.統計解析として,両眼視差量と立体視応答速度の関係については一元配置分散分析(ANOVA,Turkytest),完全屈折矯正下と各乱視負荷量の立体視応答速度および直乱視と倒乱視の比較にはCMann-WhitneyUtestを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.なお,本研究は北里大学病院倫理委員会の承認(B16-85)を受けて実施された.CIII結果完全屈折矯正下において,全例,両眼視差C60秒の立体視応答速度が知覚された.図2に完全屈折矯正下における各両眼視差量(800.60秒)の立体視応答速度を示す.立体視応答速度は両眼視差量の減少に伴って有意に延長した.両眼視差C800秒の応答速度はC0.96C±0.24,400秒にてC1.11C±0.42,200秒にてC1.30C±0.60,100秒にてC1.21C±0.49,60秒にてC1.46±0.75秒であり,両眼視差C800秒での立体視応答速度表1完全屈折矯正下および直乱視負荷に伴う立体視応答速度の変化乱視負荷量(D)視差(secofarc)C800C400C200C100C60応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値C0C+0.50C+0.75C+1.00C+1.25C+1.50C+2.00C0.96±0.24C─C1.04±0.34C0.424C1.09±0.49C0.679C1.04±0.30C0.304C1.23±0.52C0.009C1.22±0.71C0.115C1.18±0.34C0.002C1.11±0.42C─C1.19±0.45C0.311C1.16±0.45C0.717C1.24±0.46C0.113C1.40±0.58C0.004C1.35±0.60C0.030C1.42±0.45C0.002C1.30±0.60C─C1.36±0.49C0.311C1.45±0.61C0.139C1.75±0.77C0.001C1.67±0.72C0.010C1.64±0.72C0.013C1.94±1.19C0.001C1.21±0.49C─C1.37±0.66C0.162C1.49±0.62C0.017C1.67±0.72<C0.001C1.87±0.88<C0.001C1.99±1.03<C0.001C2.27±1.22<C0.001C1.46±0.75C─1.60±0.62C0.1301.80±0.94C0.0302.03±1.23C0.0071.98±0.79<C0.0012.25±1.14<C0.0012.58±1.10<C0.001表2完全屈折矯正下および倒乱視負荷に伴う立体視応答速度の変化乱視負荷量視差(secofarc)C(D)800C400C200C100C60応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値C0C+0.50C+0.75C+1.00C+1.25C+1.50C+2.00C0.96±0.24C─C1.01±0.28C0.473C1.04±0.34C0.478C1.06±0.41C0.496C1.11±0.45C0.245C1.25±0.77C0.064C1.20±0.55C0.098C1.11±0.42C─C1.11±0.33C0.529C1.16±0.59C0.999C1.29±0.78C0.129C1.46±0.67C0.015C1.55±0.81C0.008C1.79±0.84<C0.001C1.30±0.60C─C1.44±0.59C0.234C1.41±0.46C0.065C1.73±0.81<C0.001C1.71±0.70C0.006C1.87±1.01C0.005C2.07±0.82<C0.001C1.21±0.49C─C1.41±0.55C0.048C1.55±0.66C0.003C1.86±0.87<C0.001C1.93±0.84<C0.001C2.36±1.20<C0.001C2.54±0.90<C0.001C1.46±0.75C─1.71±0.74C0.0331.97±1.24C0.0242.11±1.14<C0.0012.36±1.05<C0.0012.62±1.09<C0.0012.77±0.86<C0.001に対し,両眼視差C60秒の立体視応答速度は有意に延長した(ANOVA,Turkytest,p<0.05).表1に完全屈折矯正下と+0.50D.+2.00Dの直乱視負荷に伴う立体視応答速度を示す.両眼視差C800秒では+2.00D負荷,両眼視差C400秒では+1.25D負荷以上,両眼視差C200秒では+1.00D以上,両眼視差C100秒では+0.75D以上,両眼視差C60秒では+0.75D以上にて,完全屈折矯正下に比較して有意な立体視応答速度に低下が認められた(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).表2に完全屈折矯正下と+0.50D.+2.00Dの倒乱視負荷に伴う立体視応答速度を示す.両眼視差C800秒においては直乱視量負荷に伴う立体視応答速度の有意な低下は認められなかった.両眼視差C400秒以下では直乱視負荷に伴う立体視応答速度が認められ,両眼視差C400秒では+1.25D以上,両眼視差C200秒では+1.00D以上,両眼視差C100秒では+0.75D以上,両眼視差C60秒では+0.50D以上にて,完全屈折矯正下に比較して有意な立体視応答速度に低下が認められた(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).CIV考按乱視が視機能低下を及ぼすという報告はこれまでにも多数報告されている3.9).乱視量が0DからC2Dに増加すると視力値(logMAR)はC.0.2からC0.2に低下4)し,乱視量C3D(倒乱視)を負荷するとC1.5からC0.3にまで低下し,コントラスト感度への影響は高周波数領域で大きく低下する5,6)と報告されている.本検討では,乱視(直乱視,倒乱視)が立体視応答速度に及ぼす影響について時間分解能の尺度を用いて検討し,乱視負荷量の増加に伴う立体視応答速度の低下が認められた.直乱視における円柱レンズ+0.75D負荷の立体視応答速度は両眼視差100secCofCarcにて1.49C±0.62秒,両眼視差60secCofCarcにてC1.80C±0.94秒であり,倒乱視における円柱レンズ+0.50D負荷の立体視応答速度は両眼視差C100secofCarcにてC1.41C±0.55秒,両眼視差C60CsecCofCarcにてC1.71C±0.74秒であり,立体視応答速度が有意に延長した.日常生活において自覚しがたいC0.50DやC0.75Dの軽度乱視においても立体視応答速度の低下,すなわち両眼視機能の質の低下が認められた.スポーツや自動車運転など注視物が高速で移動し良好な両眼視機能が求められる場合には,0.50.0.75Dの軽度乱視においても乱視矯正することで両眼視機能の質が向上する可能性が示唆された.本検討において両眼視差C60秒において,直乱視では0.75D,倒乱視ではC0.50Dで有意差が認められた.立体視(左右に両眼視差提示)は倒乱視が影響を受けやすく,直乱視は影響を受けにくいとされている7,8).これは立体視標は左右に両眼視差を提示して作成されているため,水平方向に像のボケが生じる倒乱視は垂直方向にボケが生じる直乱視に比較して,立体視応答速度の低下が生じやすいためと考えられる.今回筆者らは,軽度乱視によるCQOVの低下を時間分解能の尺度を用いて評価した.日常臨床における視力,コントラスト感度などの自覚視機能検査は空間分解能の評価が中心である.一方,他覚的視機能検査は網膜電図(erectroretino-gram:ERG)や眼球電図(erectrooculogram:EOG),視覚誘発電位(visualCevokedCcorticalCpotential:VECP)といった電気生理学的検査では反応量とともに時間分解能評価が行われる.とくにCEOGのサッケードでは,潜時,持続時間,最大速度,振幅の評価を行い,速度の低下(slowCsaccade)や衝動運動の緩徐化(glissade),潜時の延長といった時間分解能尺度を加えることで,視診や画像では発見できない病態を評価している9).本検討において,0.50,0.75D程度の軽度乱視においても有意な立体視応答速度の延長が認められた.今後,立体視だけでなく,視力,コントラスト,視野などの自覚的検査において時間分解能評価の尺度を加えることで,従来評価できなかった視機能低下やCQOV評価につながる可能性が推察される.文献1)塩谷浩:乱視矯正の適応と限界ソフトコンタクトレンズ.日コレ誌46:170-175,C20052)半田知也:日本発の次世代両眼視機能検査・訓練装置C3DVisualFunctionTrainer-ORTe.眼臨紀8:332-337,C20153)KobashiH,KamiyaK,ShimizuKetal:E.ectofaxisori-entationonvisualperformanceinastigmaticeyes.JCata-ractRefractSurg38:1352-1359,C20124)TrindateCF,COliveiraCA,CFrassonCM:Bene.tCofCagainst-the-ruleCastigmatismCtoCuncorrectedCnearCtheCacuity.CJCataractSurgC23:82-85,C19975)BradleyA,ThomasT,KalaherMetal:E.ectsofspheri-calandastigmaticdefocusonacuityandcontrastsensitiv-ity:aCcomparisonCofCthreeCclinicalCcharts.COptomCVisCSciC68:418-426,C19916)Wol.sohnCJS,CBhoqalCG,CShahCS:E.ectsCofCuncorrectedCastigmaticonvision.JCataractRefractSurgC37:454-460,C20117)ChenCSI,CHoveCM,CMcCloskeyCCLCetCal:TheCE.ectCofCmonocularlyCandCbinocularlyCinducedCastigmaticCblurConCdepthCdiscriminationCisCorientationCdependent.COptomCVisCSciC19:101-113,C20118)SavageCH,CRothsteinCM,CDavuluriCGCetCal:MyopicCastig-matismCandCpresbyopiaCtrial.CAmCJCOpthalmolC135:628-632,C20039)浅川賢,石川均:眼球電図(EOG)の利用と読み方.臨眼67:178-182,C2013***