監修=木下茂●連載206大橋裕一坪田一男206.フェムトセカンド白内障手術の利点森井勇介医療法人社団新緑会森井眼科医院フェムトセカンド白内障手術(FLACS)の利点はさまざまあるが,主要なものに,超音波時間および出力の短縮,正確な前.切開,自在な角膜切開の3点があげられる.それにより手術難易度を下げ,術後視力の向上,術後合併症の低減が期待できる.ただ,今後,さらなる手術手技の向上が求められる.●はじめにわが国は総人口に対する65歳以上の高齢者人口が占める割合(高齢化率)が年々増加し,世界に先駆けて超高齢社会(2016年現在,内閣府の報告で高齢化率26.7%)に突入した.それに付随して白内障手術件数は年々増加し,今後もさらなる増加が見込まれている.一方,現状の超音波水晶体乳化吸引術は,安全性も確立され素晴らしい手術成績を収めているが,患者の期待はもはや単なる視力の改善ではなく,生活の質(QOL)に関連した視力の向上へと変化しつつある.近年,次世代の白内障手術として,フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術(femtosecondlaser-assistedcataractsurgery:FLACS)が登場し注目されている.本稿では当院での使用経験を基に,FLACSの利点について解説する.●フェムトセカンドレーザーについてフェムトセカンドとは1000兆分の1秒のことで,光でも0.3μmしか進めない非常に短い時間である.フェムトセカンドにまで短縮したレーザーの強度は非常に強く,工業用の微細加工などで用いられていた.このレーザーを使用することにより,ミクロン単位の精度の手術が可能となる.眼科領域では,角膜移植やLASIKのフラップ作製など角膜手術で従来から使用されていたが,技術の進歩により,前.や水晶体への照射が可能になり,白内障手術にも用いられるようになった.2017年1月現在,厚生労働省の認可を受けているレーザー白内障手術装置はLenSx(Alcon)とCatalys(Abbot)の2機種があるが,当院ではLenSxを使用しているため,LenSxでの使用経験に基づいて,利点を解説する.●利点その1:超音波時間および出力の短縮FLACSの最大の利点は,手動による水晶体超音波乳化吸引術よりも核乳化に要する超音波出力を少なくできる点にある.(87)当院ではグリッド照射とよばれる賽の目状の分割を行っているが,フェムトセカンドレーザーによって事前に核処理を行うことによって水晶体核硬度を低下させ,より超音波時間の少ない手術が可能となる.それによって,角膜内皮細胞減少が低減し,術後早期の角膜浮腫などによる視力低下のリスクが低下する可能性がある1).また,Zinn小帯脆弱例など,難症例の白内障手術においても,事前のフェムトセカンドレーザー照射によって水晶体乳化吸引の際,より少ない超音波時間で手術が施行できるため,付随組織損傷の低減が期待できる2).いずれにせよ,難症例であろうがなかろうが,かつての手作業での手術に比べ,事前に手術難易度を下げることができるという意味で,大きなメリットがあると考える.●利点その2:正確な前.切開超音波時間短縮に負けず劣らずのメリットが,正確で再現性の高い正円の前.切開が可能となる点である.前.切開によって作製された切開縁は,安全に超音波乳化吸引術を施行する際の作業スペースになるだけではなく,術後は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を固定するための.の開口部となる.術後の後.混濁やIOL偏心を防ぐためには,IOLの辺縁全周を均等にカバーすることが重要とされている.通常の手作業での前.切開の場合,当院ではサージカルガイダンスシステムであるVERION(Alcon)を使用して,顕微鏡下に理想の前.切開位置を投影しながら鑷子を用いて前.切開を行っているが,眼の挙動や,水晶体の形状,粘弾性物質の分布,鑷子を持つ手の角度などによって,指示された切開位置通りに切開を行うことが非常に困難な状況も多々存在する.また,成熟白内障,Zinn小帯脆弱例など,手動での前.切開自体が困難な症例も存在する.FLACS機器を用いれば,瞳孔縁を基に切開中心を自動的に修正したり,術前の検査結果を基に視軸を予測し,視軸中心で正円の前.切開をすることが可能となり,自分の意図する位置に正円の前.切開を作製することができる.あたらしい眼科Vol.34,No.7,201710030910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1FLACSAKのノモグラム.0.5~.1.2540.1.50~.1.7550.2.00~.2.7560強主経線上をOpticalzone7mmの位置で対称性の弧状切開を行う.切開深度は,角膜上皮から60μmの深さから,角膜厚の80%の深さまで.切開弧の長さはノモグラムに従う.(文献4より転載)正しい位置に正しい大きさの前.切開を施行することによって,とくに多焦点IOLに代表されるプレミアムIOLのパフォーマンスを最大化することが期待でき,また,手動で前.切開を行った症例群との比較で,術後のNd:YAGレーザーによる後.切開の頻度が減ったという報告3)もあり,術後視力の予測性の向上,術後合併症の低減という観点から,大きなメリットが得られると考える.●利点その3:自在な角膜切開フェムトセカンドレーザーによる角膜切開は,laserinsitukeratomileusis(LASIK)における角膜フラップ作製が2010年6月より国内承認され,現在ではLASIKにおけるフラップ作製のスタンダードになっているように,従来から存在していた.FLACSにおいても,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて,メイン切開創およびサイドポートの切開位置や深度,デザインを自由に設定可能であり,意図した位置に,再現性の高い確実な切開創の作製が可能である.ただ,LASIKのフラップ作製は,おもに若年者の角膜中央部を切開するのに対し,FLACSにおいてはおもに高齢者の角膜周辺部に切開創を作製するため,老人環などの影響で,意図した位置に切開をすることができない症例も存在する.また,意図した位置に自在な深さの切開が可能なので,強主経線方向の角膜を切開することによって角膜減張切開術(astigmatickeratotomy:AK)が容易に施行可能である.すでにFLACSにおけるAKのノモグラムも報告されている4)(表1).当院でも,角膜乱視が1.5D~2.0D未満の患者が多焦点IOL挿入を希望された場合,ノモグラムを参考にして積極的にAK併用FLACSを行っている(図1).まだ症例数が少ないため,ノモグラムの正確性を検証するまではできないが,現時点では十分に角膜乱視が減少し,良好な術後視力を得ている.●おわりに従来の手動による白内障手術は,「より効率よく,よ1004あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017図1角膜減張切開術(AK)併用FLACSをプランしている画像術前角膜乱視が強主経線83°で1.75Dあった症例だが,AKを併用してnontoricの多焦点眼内レンズを挿入し,術後,角膜乱視0.75に減じ,遠見裸眼視力1.5,近見裸眼視力1.0と良好な術後視力を得た.り安全に,より侵襲を少なく」という方向で進歩してきたが,FLACSの登場によって,それらに加えて「より正確に」,すなわち,それぞれの患者にとって一番良好な視機能が得られると予想される切開位置,切開方向を事前にプランし,正確に手術を行うことによって,患者のQOLの向上をめざすという方向に進歩したといえる.FLACSの利点を述べてきたが,まだまだ歴史が浅いため,洗練されきっていない発展途上の術式であるともいえる.海外からの報告5)同様,自験例でも前.切開不完全例が数%存在し,残存皮質吸引時など,従来の手動による水晶体超音波乳化吸引術ではまったくストレスを感じなかった状況において,FLACSではストレスを感じることもある.利点を十二分に生かすためにも,今後,さらなる手術手技の洗練が求められる.文献1)BourneWM:Biologyofthecornealendotheliuminhealthanddisease.Eye17:912-918,20032)NagyZ,TakacsA,FilkornTetal:Initialclinicalevalua-tionofanintraocularfemtosecondlaserincataractsur-gery.JRefractSurg25:1053-1060,20093)TranDB,VargasV:Nd:Yagcapsulotomyrates:Fem-tosecondlaser-assistedcataractsurgeryvsmanualphaco.AmericanAcademyofOphthalmology,poster-November20154)VenterJ,BlumenfeldR,SchallhornSCetal:Non-pene-tratingfemtosecondlaserintrastromalastigmatickeratot-omyinpatientswithmixedastigmatismafterpreviousrefractivesurgery.JRefractSurg29:180-186,20135)AbellRG,Darian-SmithE,KanJBetal:Femtosecondlaser-assistedcataractsurgeryversusstandardphacoe-mulsi.cationcataractsurgery:Outcomesandsafetyinmorethan4000casesatasinglecenter.JCataractRefractSurg41:47-52,2015(88)