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二次元から三次元を作り出す脳と眼 5.Random Dot Stereogram

2016年10月31日 月曜日

連載⑤二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめにRandomDotStereogram(RDS)は片眼では白黒の点の集合にしか見えないが,両眼視すると立体が浮き上がる立体視画像である.1960年Julesz(ユレシュ)により発表された1).当時,立体視は「左右眼から届いた情報をもとに脳がまず形の情報処理を行い,その形を左右で照らし合わせて視差を検出することにより成立する」と考えられていた.RDSはそれをくつがえす発明だった.単眼の手がかりを持たない立体視検査連載①で紹介したTitmusStereoTestは,眼科でも(81)っとも一般的な立体視検査である.患者が両眼での立体感覚をもつか,斜視や弱視の治療前後で立体視が改善するかを判定でき,小児にも使える簡便な検査だが,偽陽性の問題がある.視差のある図形を凸として認識できなくても視差のない図形と区別できたり,左右眼ですばやく交代視することで視差のある図形を見つけたりする偽陽性例の判定がむずかしいのである.TitmusStereoTestでは単眼の手がかりを100%排除できない.*単眼のみで得られる視覚情報のうち,立体感や奥行き感覚の把握に有用なものを単眼の手がかり(monocularcue)とよぶ.1960年ユレシュは単眼の手がかりをもたない立体視検査を発表した.RDSである.コンピューターを使って画面の構成点1点1点について黒か白かを無作為に決定して2枚の同じ画像を作る.どちらか片方の画像の一部を鼻側にずらし,交差性視差をつける(図1b).ここでは左側の画像の中央正方形部を鼻側にずらしている.両眼で見ると視差をつけた部分が浮き出して見える(図1c).単眼では白黒の点が見えるだけで形の情報はなく,見る人の先入観の影響を受けない(図1a).立体視に新しい考え方をもたらしたRDSRDSの発表は当時画期的なものだった.それまで,両眼で見るとは,左右の眼から別々に届いた網膜像から,どんな形や色をした像かを脳がとらえ,そのあとで両方の像を照らし合わせて統合すると考えられていたからである.言いかえると,形の情報処理が終わってから,左右像の照合と視差の検出など,立体視情報の処理に移るとされていたのだ.TitmusStereoTestであれば,左右の網膜に映るハエの情報が脳に届き,その形がとらえられ,2個のハエがほぼ同じ形で同じ色の同質図形であるから,それらを重ね合わせて視差検出を行い,視差のある部分が浮き上がるという具合に.RDSは,2枚の画像の中に形や色など具体的な手がかりがなくても,両眼網膜の対応点1点1点に映る情報のみから,脳が視差を検出して立体感覚を作ることを示している2).外来で見かけるRandotPreschoolStereoacuityTestはその一つである(図2).偏光眼鏡をかけて右頁の絵を見ると,左頁で示すような図形が異なる配列で浮かびあがり,相当する図形を選ぶようになっている.800秒から40秒までの視差の検査が可能である.偏光眼鏡をかけるとEの文字が浮かび上がるRandomDotETestもある.赤と緑の点で構成され,赤緑眼鏡をかけて見るTNOStereoTestもrandomdotの原理を使っている.赤レンズ下では緑レンズ下よりコントラスト低下が大きく,左右のコントラストの差を生じるので,片眼弱視など左右差のある患者では影響を受けやすい(連載①参照).これらは静止画を用いた静的立体視検査である.静的立体視と動的立体視画像の一部につける視差の量を経時的に増やしていくことで徐々に浮き上がる,あるいは引っ込むような動きのある立体視刺激を作ることもできる.これをdynamicRDSとよぶ.動的な視覚刺激を用いるのでこちらは動的立体視検査とされる(表1).内斜視があり,静的立体視検査では立体視(?)とされる患者の中に動的立体視検査では(+)の例があると報告されている3,4)※註.静的,動的視覚刺激に対する反応の違いは,視覚情報処理の二つの経路の存在を示唆しているが,この大きな課題についてはこれからしっかり説明していきたい.※註)dynamicRDSでは視差が量的に変化するだけでなく,刺激が網膜上を動く速度や方向に両眼間で差が生じる.そのためRDSの刺激方法によっては,患者が検出しているのは視差ではなく両眼間の速度差であると考えられる.厳密な意味での立体視と区別して奥行き運動知覚motion-in-depthperceptionという言葉を使う論文もある4).文献1)JuleszB:Binoculardepthperceptionofcomputer-generatedpatterns.BellSystTechJ39:1125-1162,19602)藤田一郎:第6章二つの目で見る.「見る」とはどういうことか─脳と心の関係をさぐる,p156-199,化学同人,20073)FujikadoT,HosohataJ,OhmiGetal:Useofdynamicandcoloredstereogramtomeasurestereopsisinstrabismicpatients.JpnJOphthalmol42:101-107,19984)MaedaM,SatoM,OhmuraTetal:Binoculardepthfrom-motionininfantileandlate-onsetesotropiapatientswithpoorstereopsis.InvestOphthalmolVisSci40:3031-3036,1999図1RandomDotStereogramの原理片眼ずつではこのように見える.左側の画像の中央の正方形部を鼻側にずらして交差性視差をつけている(黄矢印).ずらしてできた空白部は白か黒でうめる(0’1’部分).左右眼の像を融像させると中央正方形部が浮き上がって見える.(81)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161467図2RandotPreschoolStereoacuityTest表1RDSの種類RDSの種類検出できる能力静止画のRDS静的立体視(staticstereopsis)静的奥行き感覚(staticdepthperception)動画のRDS(dynamicRDS)動的立体視(motionstereopsis)奥行き運動知覚(motion-in-depthperception)1468あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(82)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 161.膠原病に合併したサイトメガロウイルス網膜炎に対する硝子体手術(中級編)

2016年10月31日 月曜日

●連載161硝子体手術のワンポイントアドバイス161膠原病に合併したサイトメガロウイルス網膜炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎は,後天性免疫不全症候群(AIDS),悪性腫瘍,臓器移植後などの免疫抑制状態の患者に発症することが多いが,近年,膠原病や血液疾患を有する患者の発症例が増加している.筆者らは全身性エリテマトーデス(SLE)患者に,両眼性のCMV網膜炎を併発し,裂孔原性網膜?離をきたしたため硝子体手術を施行した1例を経験し報告したことがある1).●症例提示29歳,女性.22歳時に膠原病内科でSLEと診断され,デキサメタゾン,タクロリムスなどの免疫抑制薬を内服投与されていた.検査の結果CMV腸炎と診断され,SLEに対する加療と並行してガンシクロビルが点滴投与された.その後,左眼の上方視野欠損を自覚したため,眼科受診となった.左眼は下方2象限に網膜?離が生じており,下方周辺部の血管が閉塞して網膜は菲薄化し壊死性裂孔を形成していた.壊死部周囲の網膜には黄白色顆粒状滲出斑を認めた(図1).右眼も網膜周辺部に黄白色顆粒状滲出斑を認めたが,網膜裂孔は形成されていなかった.全身状態の改善を待って左眼の硝子体手術を施行した.水晶体切除後に硝子体切除を行ったが,後部硝子体は未?離で,下方のCMV網膜炎部位は網膜硝子体癒着が強固で,双手法にて人工的後部硝子体?離を作製した(図2).その後,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,周辺部輪状締結術,シリコーンオイル(SiO)タンポナーデを施行し手術を終了した.術中採取した硝子体液からPCRにてCMV-DNAが検出された.術後再増殖膜が生じたため(図3),SiO抜去と増殖膜処理,眼内レンズの二次挿入を行った.その後,右眼にも網膜?離が生じたため,硝子体切除術を施行した.最終的に両眼で網膜復位が得られたが,矯正視力は右眼(0.8),左眼(0.15)となっている.●膠原病に合併するCMV網膜炎に対する治療上の注意点CMV網膜炎の特徴は一般に血管に沿った顆粒状滲出斑と出血であるが,初期にはSLEなどの網膜症との鑑別が困難な場合もある.CMV網膜炎の診断には前房水を用いたPCRが有用であり,CMV網膜炎が判明した場合,抗ウイルス薬の全身投与を開始する.網膜炎がいったん鎮静化しても,網膜外層は壊死性変化を生じ,網膜が菲薄化することが多い.また,炎症が鎮静化したのちに網膜と硝子体の癒着が強くなり,後部硝子体?離の進行に伴い裂孔原性網膜?離に進行すると硝子体手術が必要となる.本症例でも病変部位の人工的後部硝子体?離作製が困難であった.本症例のようにステロイドと免疫抑制薬を長期間投与されている膠原病患者では,日和見感染症であるCMV感染に対してのハイリスク症例という認識をもち,自覚症状に変化が生じた時点で早期に眼科精査を施行すべきである.文献1)HazeM,KobayashiT,KakuraiKetal:Bilateralcytomegalovirusretinitisinapatientwithsystemiclupuserythematosus.CaseRepOphthalmolinpress(79)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2左眼の術中所見下方は網膜硝子体癒着が強固で,双手法にて人工的後部硝子体?離を作製した.図3左眼の初回硝子体手術後の眼底写真シリコーンオイル下で再増殖をきたしたあたらしい眼科Vol.33,No.10,201614650910-1810/16/\100/頁/JCOPY

斜視と弱視のABC:弱視と間違いやすい眼疾患

2016年10月31日 月曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保2.弱視と間違いやすい眼疾患須藤希実子成田記念病院眼科弱視と診断されていた症例が,眼底検査やERG検査によって器質的疾患とわかることがあり,鑑別が重要である.たとえば,若年網膜分離症,先天停止性夜盲,錐体ジストロフィ,網膜色素変性症,黄斑低形成,視神経低形成,家族性滲出性硝子体網膜症があげられる.はじめに視力低下で受診した小児を弱視と診断する際に,眼底検査によって器質的疾患でないことを鑑別することは非常に重要である.本稿では弱視と間違いやすい眼疾患のなかで,とくに網膜疾患に焦点を絞って鑑別する.検査と診断問診では家族が気づいた小児の様子,出生時の状況,既往歴,家族歴を聴取する.両眼性か片眼性か,羞明や夜盲,眼振の有無をチェックし,屈折検査,視力検査,眼位検査を行う.その後,前眼部検査,眼底検査を行い,疑わしい器質的疾患によっては視野検査,色覚検査,調節麻痺薬点眼下での屈折検査,網膜電図(electroretinogram:ERG)検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),蛍光眼底造影などの検査を進めていく.小児であるため,侵襲のある検査は全身麻酔下で行う必要がある.若年網膜分離症一般的に男子の両眼性にみられ,中等度の遠視のことが多く,斜視や眼振を合併することがある.視力は0.2~0.4程度である.眼底所見としては車軸状の中心窩分離(図1a)はほぼ必発であり,周辺の網膜分離は約半数にみられる.強い白色閃光刺激によるERGで陰性型を示す.OCTは比較的容易に行うことが可能で,中心窩の網膜分離が診断の決め手となる(図1b).進行は緩徐であるが,網膜?離や硝子体出血,緑内障を合併することがある1,2).先天停止性夜盲先天性,非進行性の網膜疾患で,特記する眼底異常がなく,しばしば斜視を合併するため診断がむずかしい2).三宅ら3)によってERGの波形から杆体機能が消失した完全型と,杆体機能が残存している不全型に分類された.両型ともに視力は0.1~0.5程度であり,完全型には強度から中等度の近視が多いのに対し,不全型には近視から遠視まで幅広く分布している.夜盲という診断にもかかわらず,完全型では約1/3の症例が夜盲を自覚するのみで,不全型では夜盲の自覚は少ない.錐体ジストロフィ錐体系の網膜機能が進行性に障害される先天性疾患である.視力低下,羞明,色覚異常,眼振などを主訴に受診することが多く,視力は徐々に低下し,最終的には0.1かそれ以下になる.視野は中心暗点などを示すが,周辺視野はほぼ正常である.眼底異常がないものもあるが,典型的には標的黄斑症を示し,蛍光眼底造影では輪状のwindowdefectによる過蛍光を認める.錐体系ERG(coneと30Hzflicker)で振幅が低下あるいは消失する2).網膜色素変性症10~20歳代で夜盲を発症し,30歳代から視野狭窄が進行し,50歳以降社会的な失明に至ることが多い.眼底は網膜血管,とくに動脈の狭細化,視神経乳頭のろう様萎縮がみられる.小児期には夜盲や特徴的な骨小体様色素集積がみられず,診断が困難である.ERGは消失型が多い.日本での遺伝形式は常染色体優性遺伝16.9%,常染色体劣性遺伝25.2%,X連鎖性遺伝1.6%,孤発例56.3%である4).黄斑低形成黄斑部と中心窩の形成が不全な先天異常である.通常は両眼性で眼振を伴う.低形成の程度によっては視力は比較的良好で,検眼鏡での診断が困難なことがある.本症単独の場合もあるが,白皮症や先天無虹彩に合併することもある.眼皮膚白皮症では,皮膚の色が正常なことがあるため,狭義の先天眼振との鑑別には黄斑低形成の有無が重要となる.OCTでの異常所見と視力に関係がみられる5).本症単独例では視力は0.1~0.3程度であるが,色覚は正常で周辺視野,ERGなどの視機能は比較的良好である.視神経低形成視神経乳頭が小さい先天異常で,乳頭黄斑部間距離/乳頭径比(disc-maculadistancetodiscdiameterratio:DM/DD)が3.2以上(正常2.1~3.2)であれば小さいと判断される.弱視,斜視,眼振で発見されることが多い.視力は正常なものから光覚弁までさまざまであり,両眼性,片眼性のどちらもある.ERGは正常,視覚誘発電位で異常をきたす.また,黄斑低形成,小角膜,先天無虹彩などの眼発生異常と合併する例がみられ,全身合併症としては透明中隔欠損を合併し,知的障害や内分泌障害となることがある(視神経中隔異形成)ので,頭部MRIを行う必要がある.家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)網膜血管が未熟な状態で発育を停止したことにより,未熟児網膜症に類似した眼底所見を呈する.典型例は常染色体優性遺伝を示し,両眼性である.無症候性に徐々に進行し,眼底検査や裂孔原性網膜?離で発見されることが多く,視力障害の程度はさまざまである.乳幼児にみられる活動期FEVRは急速に進行し,牽引乳頭や鎌状網膜?離,硝子体出血を合併することが多い.瘢痕期FEVRは周辺部変性型,牽引乳頭型,鎌状?離型に分かれる.蛍光眼底造影で網膜血管異常を把握する.おわりに小児が視力低下で受診し屈折異常がある場合,弱視と診断する前に眼底検査で網膜疾患が見つかることは珍しくない.器質的疾患の可能性を念頭において眼底検査やERG検査,OCT検査などを行うことが重要である.一方,器質的疾患が見つかった場合でも,屈折異常によって視力発達が妨げられる可能性があるため,眼鏡による屈折矯正は重要である.文献1)堀田喜裕:弱視と間違いやすい眼疾患検査のコツa.分子遺伝学的検査.すぐに役立つ眼科診療の知識?両眼視(大月洋編),p70-73,金原出版,20072)近藤峰生:弱視と間違えやすい網膜疾患.眼科44:717-728,20023)三宅養三:新しい疾患概念の確立?先天停止性夜盲の完全型と不全型?.日眼会誌106:737-756,20024)HayakawaM,FujikiK,KanaiAetal:MulticentergeneticstudyofretinitispigmentosainJapan:II.Prevalenceofautosomalrecessiveretinitispigmentosa.JpnJOphthalmol41:7-11,19975)ThomasMG,KumarA,MohammadSetal:Structuralgradingoffovealhypoplasiausingspectral-domainopticalcoherencetomography:Apredictorofvisualacuity?Ophthalmology118:1653-1660,2011図1若年網膜分離症a:眼底写真.車軸状の中心窩分離を認める.b:OCT写真.神経線維層で感覚網膜が内層と外層に分離している.(77)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161463(78)

眼瞼・結膜:上輪部角結膜炎(SLK)

2016年10月31日 月曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人19.上輪部角結膜炎(SLK)山田昌和杏林大学医学部眼科学教室上輪部角結膜炎は,上方の結膜弛緩症である.弛緩した球結膜に瞬目時の機械的刺激が加わって上方球結膜の病変を生じる.保存的治療はドライアイ治療薬で涙液の潤滑油作用を増強し,ステロイド薬で消炎を図るのが基本であり,難治例では結膜手術が推奨される.●SLKとは上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)は,1963年Theodoreにより報告された疾患である1).中高年の女性に多く,片眼または両眼の異物感,灼熱感を主徴とする.細隙灯顕微鏡では一見すると角結膜に病変がないようにみえるが,下方視させて上方の球結膜をみると充血や肥厚が観察され,この部分はリサミングリーンやフルオレセインで染色される(図1).病因は長い間不明であり,ホルモン異常説,ビタミンA欠乏説,アレルギーや自己免疫説などさまざまな説が提唱され,さまざまな治療法が試みられてきた.そのなかで以前から有力視されていたのは,SLKは眼瞼結膜と球結膜との機械的摩擦で生じるとする説であり,10年ほど前にYokoiら2)とTsengら3)の2つのグループからSLKの病態には上方球結膜の弛緩,結膜と強膜の接着不良が関係していることが報告され,病態の理解が進んだ.SLKは,上方の弛緩した球結膜に瞬目時の機械的刺激が加わって生じる.球結膜と眼瞼結膜の摩擦による障害が球結膜側に表現されたものがSLKであり,眼瞼結膜側ではlidwiperepitheliopathy(LWE)となる.実際にSLKの症例ではLWEを合併することが少なくない.摩擦が亢進する原因として,球結膜弛緩以外に涙液量減少や涙液の質の異常,瞬目異常(眼瞼痙攣や瞬目過多など),眼瞼の形状・位置異常などさまざまな要素が重なり合って臨床的にSLKとして表れるようになる.SLKが甲状腺機能亢進症や眼瞼下垂術後に生じやすいのも眼瞼の形状・位置の問題と解釈すると理解しやすい.●SLKの保存的治療SLKの治療として人工涙液やヒアルロン酸,ステロイド薬,ビタミンA点眼液などさまざまな種類の点眼治療や涙点プラグ,治療用コンタクトレンズ,硝酸銀塗布などの処置が試みられてきた.これらの治療法はSLKの病態・概念からは,①潤滑油を加える治療,②摩擦によって生じる続発性炎症の抑制,③瞬目時の摩擦を軽減する処置,の3つに分けることができる.①潤滑油を加える治療としては,液層成分の補充として人工涙液,ヒアルロン酸の点眼があり,涙液量の増加としては涙点プラグがある.SLKでは上下涙点にプラグを挿入すると流涙をきたすことが多いので,まず上涙点だけにプラグ挿入を試すとよい.ジクアホソルやレバミピドといったドライアイ治療薬は涙液中の分泌型ムチン増加を通じて摩擦軽減効果が期待でき,SLKの治療に有効という報告がみられる.②摩擦によって生じる続発性炎症の抑制にはステロイド薬の点眼が相当し,レバミピドも抗炎症効果が期待できる.③瞬目時の摩擦を軽減する処置には治療用コンタクトレンズと硝酸銀塗布があげられる.硝酸銀塗布はわが国ではまず施行されないが,化学傷によって球結膜の短縮や癒着形成を促すものと推測される.●SLKの手術治療SLKは上方の結膜弛緩症という概念に基づいた手術的治療の有効性も報告されている.余剰の結膜を除去する目的で弓状の結膜切除術を行う術式や,結膜と強膜の接着を強化する目的で結膜切除と羊膜移植術を行う術式などが提唱されている2,3).筆者らは簡便で侵襲の少ない術式として,球結膜を伸展するために結膜強膜縫着を行う方法を行っている4).弛緩した上方球結膜をスパーテルで結膜円蓋部方向に圧排,伸展させた状態で,輪部から8~10mmの位置で10-0ナイロン糸を結膜から強膜に4~5針程度縫着する.充血や上皮障害のある部位にはまったく触らないが,術後には速やかな消炎と上皮障害の改善を得ることができる.SLKでは手術治療は第一選択ではないが,薬物治療,保存的治療に反応しない症例では積極的に試みてよいと考えている.文献1)TheodoreFH:Superiorlimbickeratoconjunctivitis.EyeEarNoseThroatMon42:25-28,19632)YokoiN,KomuroA,MaruyamaKetal:Newsurgicaltreatmentforsuperiorlimbickeratoconjunctivitisanditsassociationwithconjunctivochalasis.AmJOphthalmol135:303-308,20033)KheirkhahA,CasasV,EsquenaziSetal:Newsurgicalapproachforsuperiorconjunctivochalasis.Cornea26:685-691,20074)YamadaM,HatouS,MochizukiH:Conjunctivalfixationsuturesforrefractorysuperiorlimbickeratoconjunctivitis.BrJOphthalmol93:1570-1571,2009図1上輪部角結膜炎上方球結膜の充血と肥厚がみられ(a),同部位はフルオレセインで密に染色される(b).(75)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161461図2図1の症例の結膜強膜縫着術後上方球結膜の炎症所見は消失し(a),フルオレセイン染色も陰性となった(b).1462あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(76)

抗VEGF治療:網膜色素上皮裂孔(RPE tear)発生症例の転帰

2016年10月31日 月曜日

抗VEGF治療セミナー●連載監修=安川力髙橋寛二33.網膜色素上皮裂孔(RPEtear)発生症例の転帰松原央三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学網膜色素上皮裂孔(RPEtear)は,滲出型加齢黄斑変性の治療経過中に遭遇する合併症の一つである.網膜色素上皮?離を伴う滲出型加齢黄斑変性に発生し,RPEtearが中心窩を含むと視力低下を生じ予後が不良になる.本稿ではRPEtear発生症例の予後について解説する.網膜色素上皮裂孔(RPEtear)網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepitheliumtear:RPEtear)は,検眼鏡検査で境界明瞭な三日月状もしくは不整円形で,脈絡膜の透見性が増強した褐色の所見を示し,眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)で明瞭な低蛍光を示す.典型的には脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の対側の網膜色素上皮?離(pigmentepithelialdetachment:PED)断端からCNVに向かってRPE層が収縮し,塊状の隆起とRPE層が欠損した光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)像となる.漿液性網膜?離や網膜下出血を伴うことがあり,とくに網膜下出血が中心窩に及ぶと視力予後が不良となる.広範囲に網膜下出血が存在する症例ではRPE欠損部の特定ができない場合があるが,RPE欠損部や収縮したRPE塊が中心窩にかからない症例では視力予後は良好である(図1).一方,RPE欠損部に中心窩が含まれると視力予後は不良となる.発生直後に中心窩が含まれていなくとも,ゆっくりと拡大する場合や,他の部位からRPEtearが形成される場合があるため,中心窩とRPEtearの位置関係に注意をはらう必要がある.RPEtear発生後経過RPE欠損部は無色素性色素上皮細胞もしくはRPE細胞が増殖することで被覆され,RPE欠損部は経過とともに縮小する.検眼鏡的にやや混濁した白色を呈し,FAFの低蛍光部境界が不明瞭となり,フルオレセイン眼底造影検査での蛍光漏出は次第に減少する.RPE欠損部や収縮して一塊となったRPEが中心窩に及ぶかどうか,脈絡膜新生血管の活動を抑制できるかどうかが長期経過に影響を及ぼす.自然経過では,線維瘢痕形成とCNVからの滲出および中心窩が病変に含まれることにより,視力は次第に低下し不良となると報告されている1).また,RPEtear発生後のCNVの活動性が低い場合には,網膜下液(subretinalfluid:SRF)は早期に吸収され,Bruch膜と網膜が直接接着し視力は維持されるが,CNVの活動性が高くSRFの持続や再燃が起こった場合には,欠損部に厚い線維性瘢痕が形成され視力は低下する2).一方でRPEtear発生後にCNVからの滲出の持続や再燃に対して抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬治療を継続して行った12カ月経過では,50%の症例でRPEtearの面積は縮小もしくは不変であり,治療継続によりRPEtearは安定し視力は維持されたが,抗VEGF治療の反応不良例では視力は低下していた3).RPEtear発生後の抗VEGF治療継続の有効性RPEtear発生後3年以上の経過を後ろ向きに検討した報告では,視力維持改善群ではRPEtear発生後の抗VEGF薬の投与回数が多く(とくに1年目),抗VEGF治療を継続することで滲出性変化が抑制され網膜形態が維持されていた.また,RPEtearの拡大が促進されることはなくRPE欠損部は縮小していた.一方,視力悪化群では,CNVの活動があり,抗VEGF薬の投与が少なく,最終的に線維性瘢痕を形成していた4).また,3年後の視力と総注射回数ならびに注射頻度が相関しており,抗VEGF薬治療継続が視力の安定と網膜形態の改善ならびに線維瘢痕化の抑制に効果的であると報告されている5).経過良好症例(抗VEGF薬治療継続,図2)と経過不良症例(抗VEGF治療継続なし,図3)を示す.RPEtear発生後,OCTにより滲出性変化の有無を注意深く評価し,CNVによる滲出性変化に対して抗VEGF薬治療を積極的に継続することが,視力低下の抑制と網膜形態の維持に重要である.文献1)GutfleischM,HeimesB,SchumacherMetal:Long-termvisualoutcomeofpigmentepithelialtearsinassociationwithanti-VEGFtherapyofpigmentepithelialdetachmentinAMD.Eye(Lond)25:1181-1186,20112)MukaiR,SatoT,KishiS:Repairmechanismofretinalpigmentepithelialtearsinage-relatedmaculardegeneration.RETINA35:473-490,20153)AsaoK,GomiF,SawaMetal:Additionalanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyforeyeswitharetinalpigmentepithelialtearaftertheinitialtherapy.RETINA34:512-518,20144)HeimesB,FareckiMLJr,BartelsSetal:Pigmentepithelialtearandanti-vascukarendothelialgrowthgfactortherapyinexudativeage-relatedmaculardegeneration:clinicalcourseandlong-termprognosis.RETINA36:868-874,20165)SarrafD,JosephA,RahimyEetal:Retinalpigmentepithelialtearsintheeraofintravitrealpharmacotherapy:riskfactors,pathogenesis,prognosisandtreatment(anAmericanOphthalmologicalSocietythesis).TransAmOphthalmicSoc112:142-159,20146)CocoRM,SanabriaMR,HernandezAGetal:Retinalpigmentepitheliumtearsinage-relatedmaculardegenerationtreatedwithantiangiogenicdrugs:acontrolledstudywithlongfollow-up.Ophthalmologica228:78-83,2012図1中心窩をはずれたRPEtear症例の眼底自発蛍光左眼中心窩のやや上方に低蛍光を認める.中心窩を含まない.(73)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161459図2経過良好症例の眼底自発蛍光とOCT2カ月ごとの抗VEGF治療継続により線維瘢痕化は軽度に抑制された.3年後のFAF低蛍光部境界は不明瞭になっている(▲).OCTで中心窩下方は網膜がBruch膜と直接接着している.図3経過不良症例の眼底自発蛍光とOCTRPEtear発生後,追加治療希望がなく,CNVからの滲出が長期間持続した.5年後のFAF低蛍光部位は拡大している(▲).OCTで中心窩下に線維性瘢痕と網膜浮腫が認められる.(74)1460あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016

緑内障:PAP(Prostaglandin Associated Periorbitopathy)について

2016年10月31日 月曜日

●連載196緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也196.PAP(ProstaglandinAssociatedPeriorbitopathy)について中倉俊祐三栄会ツカザキ病院眼科Peplinskiら1)が2004年に上眼瞼溝深化(DUES)を報告して以来,このプロスタグランジン系点眼薬特有の副作用名は日本で十分に認知されてきた.しかしながら当初より上眼瞼のみ生じるわけではなく2),眼周囲全体に及ぶことが報告されており3~5),その副作用の総称をprostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)と呼ぶようになった.まだ日本ではなじみの薄いこのPAPについて紹介する.●PAPに含まれる副作用Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)はプロスタグランジン(PG)系点眼薬による眼周囲副作用の総称である.まだ正確な定義はないが,現在,以下の8症状がPAPとされている.①eyeilidptosis(眼瞼下垂)②deepeningofuppereyelidsulcus(上眼瞼溝深化:DUES)③involutionofdermatochalasis(皮膚弛緩の巻きこみ)④orbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)⑤mildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)⑥flatteningoflowereyelidbags(下眼瞼の平坦化)⑦inferiorscleralshow(下方強膜の可視)⑧tightorbit(狭い眼窩)図1に代表症例を提示する.●PAPの分類PAPをその原因から分類してみた(図2)Tightorbit以外は,その原因を脂肪系(脂肪の萎縮)と筋肉系(筋肉の脆弱化)に分けることができ,tightorbit6)はその最終形と考えられるのではないか.PG薬は脂肪生成を抑制し7),DUESの眼瞼の脂肪は萎縮していることが判明している8).それは上眼瞼だけでなく下眼瞼や眼窩全体の脂肪も萎縮することを意味する.また,PG薬はもともと毛様体平滑筋のコラーゲンを分解し9),その結果ぶどう膜の流出量が増加することで眼圧を下げる機序をもつ.Muller筋も上眼瞼挙筋も同じ平滑筋であり,筋肉繊維の隙間をうめるコラーゲンが減少した場合,筋力は低下し眼瞼下垂になると推測される.下眼瞼牽引腱膜も下眼瞼の豊富な平滑筋に接続しており,その脆弱化は下眼瞼の下垂すなわちinferiorscleralshowになると推測する.逆にeyelidretraction(眼瞼後退)がみられる患者がいるが,原因は今のところ不明である.つい最近報告のあったaudibleblink(瞬目の可聴)10,11)は,副作用名というよりはPAPの状態を表すものと考えられる.●Tightorbitとは?TightorbitはLeeらが2010年に原因のわからない開放隅角緑内障として報告したのが最初である6).彼らの症例の特徴は,奥目でかつ狭瞼裂で,眼球に対して瞼が硬く押しており,眼圧が測定しにくい,外科手術に抵抗するというものであった.全症例がPG系点眼薬を使っていたにもかかわらず,筆者らも査読者もPG系点眼薬の副作用とはまったく思っていない点は興味深いことであるが,その特徴はすべてのPAPを表している.また,tightorbitの患者では眼圧計により値がばらつくことが報告されており,注意を要する12).図3に代表症例を提示する.●PAPに含まれる副作用Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)はプロスタグランジン(PG)系点眼薬による眼周囲副作用の総称である.まだ正確な定義はないが,現在,以下の8症状がPAPとされている.①eyeilidptosis(眼瞼下垂)②deepeningofuppereyelidsulcus(上眼瞼溝深化:DUES)③involutionofdermatochalasis(皮膚弛緩の巻きこみ)④orbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)⑤mildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)⑥flatteningoflowereyelidbags(下眼瞼の平坦化)⑦inferiorscleralshow(下方強膜の可視)⑧tightorbit(狭い眼窩)図1に代表症例を提示する.●PAPへの対処これまでのDUESの報告と同様,PAPもやはりビマトプロストやトラボプロストで強く出現し,ラタノプロストでは比較的その程度は低いことが報告されている3,4).タフルプロストでは今のところ詳細な報告はないがラタノプロストと同等であると推測する.点眼を中止することでDUESなどの脂肪系の副作用に関しては改善を認めることを臨床的にも経験し論文報告もあるが,筋肉系の問題であるeyelidptosisやinferiorscleralshowが改善したという経験はない.今後も新たなPAPが報告される可能性があるが,やはり点眼のしすぎ,こぼしすぎを防ぎ,点眼後の洗顔や拭き取りを徹底することは重要であると考える.文献1)PeplinskiLS,AlbianiSmithK:Deepeningoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,20042)NakakuraS,TabuchiH,KiuchiY:Latanoprosttherapyaftersunkeneyescausedbytravoprostorbimatoprost.OptomVisSci88:1140-1144,20113)KucukevciliogluM,BayerA,UysalYetal:Prostaglandinassociatedperiorbitopathyinpatientsusingbimatoprost,latanoprostandtravoprost.ClinExperimentOphthalmol42:126-131,20144)ShahM,LeeG,LefebvreDRetal:Across-sectionalsurveyoftheassociationbetweenbilateraltopicalprostaglandinanalogueuseandocularadnexalfeatures.PLoSOne2013;8:e616385)TanJ,BerkeS:Latanoprost-inducedprostaglandin-associatedperiorbitopathy.OptomVisSci90:e245-247,20136)LeeGA,RitchR,LiangSYetal:Tightorbitsyndrome:apreviouslyunrecognizedcauseofopen-angleglaucoma.ActaOphthalmol88:120-124,20107)TaketaniY,YamagishiR,FujishiroTetal:ActivationoftheprostanoidFPreceptorinhibitsadipogenesisleadingtodeepeningoftheuppereyelidsulcusinprostaglandinassociatedperiorbitopathy.InvestOphthalmolVisSci55:1269-1276,20148)ParkJ,ChoHK,MoonJI:Changestouppereyelidorbitalfatfromuseoftopicalbimatoprost,travoprost,andlatanoprost.JpnJOphthalmol55:22-27,20119)LindseyJD,KashiwagiK,KashiwagiFetal:Prostaglandinsalterextracellularmatrixadjacenttohumanciliarymusclecellsinvitro.InvestOphthalmolVisSci38:2214-2223,199710)SkorinLJr,DaileyKH:Clickingeyelids:Anewfindingofprostaglandin-associatedperiorbitopathy.OptomVisSci2016Apr6.[Epubaheadofprint]11)FongCS,RajakSN,PirbaiAetal:Audibleblinkinprostaglandin-associatedperiorbitopathy.ClinExperimentOphthalmol2016Feb12.doi:10.1111/ceo.12725.[Epubaheadofprint]12)LeeYK,LeeJY,MoonJIetal:EffectivenessoftheICarereboundtonometerinpatientswithoverestimatedintraocularpressureduetotightorbitsyndrome.JpnJOphthalmol58:496-502,2014図1PAP代表例(患者の同意取得済み)80歳,女性.PG系点眼薬を右眼に約10年投与.左眼は正常眼.平面ではわかりにくいがmildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)もみられ,すなわちorbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)もあると思われる.Inferiorscleralshow(下方強膜の可視)はよほどの症例でないとみかけない.?上眼瞼下垂,?上眼瞼溝深化,?皮膚弛緩の巻きこみ,?下眼瞼の平坦化.(71)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161457図3Tightorbit症例(患者の同意取得済み)82歳,男性,原発開放隅角緑内障.10年以上のPG系点眼薬の使用歴あり.両眼の視野進行で紹介された.眼瞼は硬く,奥目で狭瞼裂,Goldmann平圧眼圧計(GAT)で測定しにくい.初診時眼圧(右眼/左眼)は10/14mmHg(非接触型眼圧計),18/28mmHg(GAT),10/16.3mmHg(IcarePro),19/24mmHg(TonopenAVIA)と各眼圧計で測定値がばらばらであった.中心角膜厚は右眼491μm,左眼486μmであった.Tightorbitと思われる.図2PAPの分類(72)

屈折矯正手術:角膜移植後の屈折矯正

2016年10月31日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載197監修=木下茂大橋裕一坪田一男197.角膜移植後の屈折矯正田聖花東京歯科大学市川総合病院眼科角膜移植後の屈折異常は,患者の視機能やQOLを大きく障害する.とくに強い乱視や不同視の例では屈折矯正が重要である.縫合糸がある例では抜糸を行う.ハードコンタクトレンズ不耐症では,乱視矯正角膜切開やcompressionsutureを検討する.有水晶体眼では白内障手術によって改善でき,toricIOLによって乱視の軽減も可能になってきている.中等度までの近視であればLASIKも有用である.●はじめに角膜移植の成績は透明治癒で語られることが多いが,視機能も術後のQOLや満足度に大きく影響する.最近の角膜内皮移植の広がりからもわかるように,より良い術後視機能をめざした術式が選択されるようになってきており,情報伝達の発達により患者側の要求度も高くなっている.それでもなお,角膜移植後の屈折異常は避けられない合併症のひとつであり,さまざまな矯正方法が存在する.矯正目標が球面度数か円柱度数(乱視)か,あるいは両方か,僚眼とのバランスはどうかなどを考えて,矯正法を決定していく.●基本的な屈折矯正法縫合糸の抜糸は基本的な屈折矯正法である.端々縫合眼で局所的な強い乱視が生じている場合は,該当する縫合糸を除去する(選択抜糸).連続縫合では,術後早期に縫合糸をたぐって乱視を調整する1).遠視性乱視になっている場合は,全抜糸により移植片がややスティープになることで近視化が得られることがあるが,逆に乱視が強くなることもあるため,術前のトポグラフィーをよく検討することが重要である.ハードコンタクトレンズ(HCL)は古典的な矯正方法で,乱視矯正効果が強く,強度遠視以外は球面度数の矯正も行える.ただし,視力検査上は良好な視力が得られても,実際に処方に至る例は少ないように思う.コンタクトレンズが初めてという高齢者では,まず無理である.円錐角膜では,もともとHCL不耐症ということも多く,好まれないうえに,裸眼視力獲得への希望も強い.装用希望例で異物感による装用困難があれば,ソフトコンタクトレンズとのピギーバック法でうまくいくことがある.●乱視の矯正法強い乱視の場合は,乱視矯正角膜切開(astigmatickeratotomy:AK)やcompressionsutureが行われる.AKは比較的対称性の強い乱視に有効で,トポグラフィー上の強主径線方向に輪部と平行に角膜実質の減張切開を加えるものである.瞳孔領に近く,かつ切開深度が深いほど矯正効果は強いが,基本的にはマニュアル操作となるため,予測性には不確実性が残る.最近はフェムトセカンドレーザーを用いたAKが行われるようになっているが,切開方法にはまだ議論の余地があるようである2).Compressionsutureは逆に,弱主径線方向に端々縫合を行う方法である.AKもcompressionsutureも,予測した矯正効果を得るためには術中にマイヤー像を確認しながら行うことが必須である.ケラトリングRが一般的だが,筆者の施設では顕微鏡に着脱できるネビアスライトRを用いている(図1).LED赤色光によるマイヤー像を角膜上に投影しながら,手術を行うことができる.●角膜移植後の白内障手術乱視もさることながら,球面度数の異常値も術後の視機能を大きく障害する.角膜移植後の白内障手術は,球面度数を矯正する絶好の機会である.とくに強い遠視や近視のために不同視を生じている例では,適切な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数を選択することで大きく矯正できる.移植眼ではしばしばK値が安定して測定できないことがあり,IOL度数決定計算式もさまざまなものが報告されている.オートレフケラトメータ以外に前眼部OCTから計測されるK値や,僚眼が健常眼であればそのK値などを参考に,複数の計測結果を用いて狙いから大きくはずれないような度数を選択する.近年,乱視が強い場合はtoricIOLが選択されるようになっている3).●近視と遠視の矯正法近視に対してはLASIKも有効である.乱視が比較的強い例にはwavefront-guidedLASIKやtopographyguidedLASIKの有用性が報告されている4).良好な矯正効果を得るには,他覚的レフラクトメータの値と最高眼鏡矯正視力が得られる屈折値が一致し,それらの円柱度数および強弱主径線がトポグラフィーと一致することが重要である.図2は円錐角膜に対して全層角膜移植を行った若年女性の移植後のトポグラフィーである.全抜糸後でも視力は(0.9×S?6.0D(C?2.00DAx150°)と近視性乱視を示した.裸眼視力改善を目的にtopography-guidedLASIKを行い,1.0(1.0×S+0.75D(C?1.50DAx145°)に改善した.手術後のトポグラフィーと前眼部写真を示す(図3,4).角膜移植後のLASIKでは,照射野は通常移植片サイズより大きいため,ホスト?レシピエント接合部は問題にならない.抜糸が終わっており,接合部に段差がなく,角膜厚と角膜内皮細胞密度が十分あることが条件である.遠視は,残念ながらいい矯正方法がない.移植の際に,適切なドナーサイズを選択する,縫合を強すぎないようにする,白内障同時手術例ではIOLの度数を遠視にならないように(迷ったら近視側へ)選択するなどの対応が重要である.文献1)ShimazakiJ,ShimmuraS,TsubotaK:Intraoperativeversuspostoperativesutureadjustmentafterpenetratingkeratoplasty.Cornea17:590-594,19982)StClairRM,SharmaA,HuangDetal:Developmentofanomogramforfemtosecondlaserastigmatickeratotomyforastigmatismafterkeratoplasty.JCataractRefractSurg42:556-562,20163)WadeM,SteinertRF,GargSetal:Resultsoftoricintraocularlensesforpost-penetratingkeratoplastyastigmatism.Ophthalmology121:771-777,20144)KuryanJ,ChannaP:Refractivesurgeryaftercornealtransplant.CurrOpinOphthalmol21:259-264,2010図1顕微鏡に装着したネビアスライト赤色LEDが角膜上に投影される.(69)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161455図2円錐角膜に対する全層角膜移植後のトポグラフィー強い乱視を認める.図3図2症例に対するLASIK後のトポグラフィー図4図2症例の前眼部矢印がLASIKのフラップマージンである.(70)

眼内レンズ:イメージガイドシステムによる白内障手術マネジメント

2016年10月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋359.イメージガイドシステムによる白内障手術マネジメント留守良太医療法人涼悠会トメモリ眼科・形成外科VERIONイメージガイドシステムを白内障手術マネジメントに使用することで,マーキングを行わずにトーリック眼内レンズを正確に挿入できるだけではなく,煩雑な術後データの集計や解析を行わずにパーソナルA定数,術後惹起乱視を算出し眼内レンズ計算に反映することができる.症例を重ねるほどにアップグレードされ,手術精度の向上に貢献する.●構成VERIONイメージガイドシステム(ALCON)は,術前,術後に使用するリファレンスユニット(メジャメントモジュール,ビジョンプランナー)と術中に使用するデジタルマーカーによって構成され(図1),LAN環境やUSBメモリを使用し相互にデータを共有するので,白内障手術マネジメントにおけるアナログ操作をなくし,それに伴う患者選択やデータ入力のミスを防ぐことができる.●術前メジャメントモジュールにて,角膜曲率半径を測定し,約1,000箇所の測定点より角膜球面度数,円柱度数,乱視軸を求める.術中の眼球をVERIONが認識し,角膜径,瞳孔の情報や高解像度イメージ写真によって強膜,結膜血管,虹彩,輪部の特徴を記録する.これらの計測結果はビジョンプランナーへ移行され,5種類の計算式で眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算を行うことができ,オンライン上で使用していたトーリックカリキュレーターもオフラインで使用可能である.また,これらのIOL計算時には後述するパーソナルA定数,術後惹起乱視(surgicallyinducedastigmatism:SIA)も簡単に反映させることができ,計測,計算された患者データのすべてをLAN上のサーバーにて保管し管理する.当院では測定できなかった症例は167例334眼中2例4眼,約1%であった.2例とも極端に瞼裂が小さく球結膜が観察できない状態であった.●術中DMM(DigitalMarkerM)とMID(MicroscopeIntegratedDisplay)は,術前に測定した患者データを元に顕微鏡下の術眼を自動認識する.認識が不可能な症例は,モニターに術前写真と術中顕微鏡映像を横並びで表示し,手動操作で認識を行うsidebyside法(図2)を行うことで認識することが可能である.イメージガイドを使用しトーリックIOLを挿入するための角膜強主経線位置を術眼にオーバーレイできるので,術前,術中にピオクタニンなどで基準点,トーリック軸マーキング1,2)を行わずに正確なIOL挿入を行える3)(図3).ただし,イメージガイド下で乱視軸を合わせるには慣れが必要で,導入初期はイメージガイドで示された位置をピオクタニンでマーキングすると行いやすい.切開や連続円形切?(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の場面でも大きさ,位置を任意で設定できる.イメージガイドシステムを使用することで,眼球回旋や角膜径の影響を受けず正確な施術を行うことが可能である(図4,5).また,ビジョンプランナーで事前に手術予定表を作成しておけば,サーバーより患者データを一括取得でき,短時間で手術可能な状態となる.メジャメントモジュールで測定できた症例は,ほぼ全例でイメージガイドを使用できたが,開瞼器装着時に眼窩脂肪ヘルニアが大きく脱出した1症例でイメージガイドを行えなかった.●術後術後,再度リファレンスユニットを使用し,すでに登録されている患者を選択後,術前と同じ手順で計測を行うことで,術後データとして登録される.パーソナルA定数,SIAを最適化するには,画面より,サーバー内の蓄積されたデータをモニターの指示に従い抽出することで,煩雑になりがちなデータ集計や解析を行わずにワンクリックで行うことが可能で,その直後からIOL計算に反映された状態となる.上記の最適化も,イメージガイドシステムを使用することで切開位置,CCC,乱視軸などがバラツキの少ない正確な手技となるため,より精度の高いIOL計算が行われたことになる.VERIONイメージガイドシステムはフェムトセカンドレーザーを併用する前提につくられたシステムであるが,VERIONイメージガイドシステム単体の使用であっても白内障手術マネジメントには有用である.文献1)二宮欣彦:トーリック眼内レンズ.白内障(大鹿哲郎編),眼科手術学5,p296-303,文光堂,20122)PoppN,HimschallN,MaedelSetal:Evaluationof4cornealastigmaticmarkingmethods.JCataractRefractSug38:2094-2099,20123)VisserN,BerendschotTT,BauerNJetal:Accuracyoftoricintraocularlensimplantationincataractandrefractivesurgery.JCataractRefractSug37:1394-1402,2011図1VERIONイメージガイドシステム(67)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161453図2Sidebyside法図3オーバーレイトーリック軸表示術前の基準点マーキングや術中の乱視軸マーキングが必要ない.図4オーバーレイ切開図5オーバーレイCCC

コンタクトレンズ:コンタクトレンズにおける個別化医療

2016年10月31日 月曜日

コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一24.コンタクトレンズにおける個別化医療高静花大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室●はじめにコンタクトレンズ(CL)はハードCLとソフトCL(SCL)の2種類に大別され,SCLひとつとっても,素材,デザイン(非球面,トーリック,多焦点,カラーなど)においてさまざまな選択肢がある.SCLは涙液の影響を受けやすく,SCL装用者の80%以上が乾燥感を訴えるとも報告されている1).事実,『IOVS特別増刊号』(2013年)では,contactlensdiscomfort(CLD)がまるごと1冊取り上げられている.それゆえ,SCL装用においては涙液,眼表面の状態の診断,管理が欠かせない.さて国際個別化医療学会は,「個別化医療(personalizedmedicine)」を以下のように定義している.「バイオテクノロジーに基づいた患者の個別診断と,治療に影響を及ぼす環境要因を考慮に入れたうえで,多くの医療資源の中から個々人に対応した治療法を抽出し提供すること」2).本稿においては,涙液から考えるSCL処方の観点から,CLにおける個別化医療について述べる.●個別化医療にコンタクトレンズをあてはめる上述した個別化医療の定義にSCLをあてはめると,「適切な診断基準,方法に基づいた個々の眼の涙液,眼(65)表面異常の診断と,ドライアイ,SCL装用に伴う不快感のリスクファクターの洗い出しを考慮に入れたうえで,多くの種類のレンズの中から個々の眼に対応したSCLを選択し処方すること」といえる.●涙液,眼表面異常の見きわめ涙液異常の診断には,涙液の層別治療(tearfilmorientedtreatment:TFOT)を行うための前ステップとなる涙液の層別診断(tearfilmorienteddiagnosis:TFOD)が有用である3).また,noninvasivetearfilmbreak-upを観察した研究において,裸眼時の涙液のdyingpatternはCL不耐を予想できるパラメータであり,CL不耐を訴える群ではstreakpattern,spotpatternが多いと報告されている4).これは,フルオレセイン染色を用いたtearfilmbreak-upパターン分類で,dimplebreak,spotbreakパターン3)に該当すると考えられる.どこの施設でも行うことのできるフルオレセイン染色をぜひ活用していただきたい.●ドライアイ,CLDのリスクファクターの洗い出しドライアイのリスクファクターとして,女性,アジア人,CL装用,長時間のVDT作業,低湿度環境が知られている.また,CLDを生じさせるものとして外部環境,眼表面環境におけるファクターのチェックが推奨されている.「冷暖房がよく効いた部屋でVDT作業に長時間たずさわる,CL装用した日本人女性」はリスクファクターをすべて背負っている状態といえよう.職業,ライフスタイルの聴取なども重要である.●個々の眼に対応したコンタクトレンズ処方CLDに対する治療オプションの主たるものとして,レンズ素材の変更,涙液補充があげられている.現在,保湿成分を添加したレンズやシリコーンハイドロゲルレンズなど水濡れ性を向上させたさまざまなレンズが登場しており,これらのレンズ装用時には従来型のハイドロゲルレンズ装用時に比べて視機能が改善することも報告されている5)(図1,2).高含水レンズ(保湿成分添加型ハイドロゲルレンズに多い)と低含水レンズ(シリコーンハイドロゲルレンズ)のどちらがいいのかということに関しては,レンズの含水量とドライアイ症状は「関係する」とも「関係しない」ともいわれており一定の見解はない.個人的には,ざっくりとした目安ではあるが,装用時の異物感が気になるのであれば保湿成分含有ハイドロゲルレンズ,装用時の乾燥感が気になるのであればシリコーンハイドロゲルレンズと考えている.しかし,なんといっても実際の装用感を確認するのが大事である.快適なCL装用のためのレンズ素材についてはさらなる改良の余地があると思われ,今後に期待したい.また,多焦点レンズ,カラーレンズの装用者増加に伴い,「水濡れ性の良い,多焦点のカラーレンズ」などといったレンズが登場する日も近いかもしれない.文献1)濱野孝,光永サチ子,小谷摂子ほか:コンタクトレンズ装用に起因する「乾燥感」とその症状の調査.眼科49:183-190,20072)国際個別化医療学会:http://www.is-pm.org/profile/personalized-medicine.html3)横井則彦:ドライアイの治療方針:TFOT.あたらしい眼科32:9-16,20154)GlassonMJ,StapletonF,KeayLetal:Differencesinclinicalparametersandtearfilmoftolerantandintolerantcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci44:5116-5124,20035)KohS,HigashiuraR,MaedaN:Overviewofobjectivemethodsforassessingdynamicchangesinopticalquality.EyeContactLens42:333-338,2016図1従来型のハイドロゲルレンズ装用時と保湿成分添加型ハイドロゲルレンズ装用時の高次収差および網膜像の変化(文献5より引用)(65)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161451図2ハイドロゲルレンズ装用時とシリコーンハイドロゲルレンズ装用時の高次収差および網膜像の変化(文献5より引用)

写真:角膜上皮異形成

2016年10月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦389.角膜上皮異形成加藤久美子三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学図1片眼性角膜上皮異形成の症例(30代,男性)強膜散乱法で撮影した前眼部写真.角膜中央部から耳側にかけてfrostedと表現される霜がおりたような病変が認められる.病変の境界部分は細かい突起のようになっている.図2図1のシェーマ①角膜混濁図3図1のフルオレセイン染色像病変部に一致してSPKに似た色素むらが認められた.図4図1の前眼部OCT像水平方向で撮影.病変部位の角膜上皮は高反射を呈している(▲).(63)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161449角膜上皮異形成は角膜上皮内に限局した腫瘍性病変で,1942年にMcGanicが初めて報告した1).進行性に角膜上皮が白色または灰白色に混濁するという臨床的特徴があり,角膜上皮異形成の部位が視軸と重なると視力が低下する.原因は明らかではないが,紫外線,放射線,免疫不全,喫煙,外傷,ヒトパピローマウイルスの感染などが関係しているという報告がある2).細隙灯顕微鏡では,角膜上皮のレベルで血管侵入を伴わない,また“frosted”と表現される霜が降りたような病変が認められるのが特徴的である.混濁が軽度の場合,広汎照明法では観察が困難であるが,強膜散乱法を使用すると角膜上皮内の混濁を容易に観察することができる.フルオレセイン染色では,病変部表面の凹凸を反映して,細かい点状の変化が認められる3).上記のような細隙灯顕微鏡所見が認められた場合,外科的に採取された検体の病理検査によって診断される.角膜上皮異形成の構造異型や細胞異型は上皮内癌ほど強くはないが,徐々に異型度が進行し悪性腫瘍となることがあるため,経過観察が必要である.細胞の異型性が高度の場合は前癌病変とよばれる.角膜上皮異形成の治療は角膜上皮の外科的切除であるが,単純な切除のみでは再発することが少なくない.外科的切除に0.04%のマイトマイシンC(MMC)点眼を併用することによって再発が抑制されたという報告がある4).しかしながらMMC点眼には,角膜上皮障害や眼瞼炎,充血などの合併症の報告があるため5),使用する際には十分なインフォームド・コンセントが必要である.筆者は片眼性の角膜上皮異形成の症例を経験した(図1~4).患者は患眼の外傷の既往がない30代男性で,左眼の視力低下を主訴に当院を受診した.角膜上皮を掻爬し,視力は回復したが,経過観察中に通院が途絶えた.約1年ぶりに来院した際,角膜上皮レベルに図1のような角膜混濁が認められた.フルオレセイン染色では病変部に点状表層角膜炎(superficialpunctatekeratitis:SPK)に似た色素むらが認められた(図3).前眼部OCTでは角膜混濁部に一致した高反射を呈する病変が認められた(図4).再度掻爬する際,ミリポアフィルターを使用して混濁した部分の角膜上皮を採取し,PAS-ヘマトキシリン染色を行った.角膜上皮細胞は角化し,核が消失している細胞もあったが,明らかな腫瘍性変化は認められなかった.MMC点眼使用希望はなく,現在点眼薬なしで経過観察中であるが,角膜上皮掻爬から約1年が経過した現在,角膜の周辺部にわずかな再発を認めるのみで,良好な視力を保っている.文献1)McGanicJS:Intraepithelialepitheliomaofthecorneaandconjunctiva.AmJOphthalmol25:167-176,19422)LeeGA,WilliamsG,HirstLWetal:Riskfactorinthedevelopmentofocularsurfaceepithelialdysplasia.Ophthalmology101:360-364,19943)WarnerMA,MehtaMN,JakobiecFA:Cornealepithelialdysmaturationandepithelialdysplasia.InCornea(editedbyKrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ),3rdedition,p469,Mosby,StLouis,20104)本橋良祐,森秀樹,永井毅ほか:特異な病理組織像を呈した角膜上皮異形成の1例.臨床眼科68:197-200,20145)BallalaiPL,ErwenneCM,MartinsMCetal:Long-termresultoftopicalmitomycinC0.02%forprimaryandrecurrentconjunctival-cornealintraepithelialneoplasia.OphthalPlastandReconstSurg25:296-299,2009