き,測定が5分以内と短時間でできるため,暗室や閉所で長時間安静にすることが困難な場合や,移乗不可能な症例にも検査可能である.レチバルは患者のみならず,測定者の負担も少なく,臨床において有用である.わが国では,本機を用いて得られた測定結果や評価データは多くない2).また,測定条件や測定の留意点,臨床で多く使用される角膜電極ERGと同等の評価ができるかなど,まだ不明な点がある.そこで,筆者らはさまざまな網膜疾患に対してのレチバルの使用経験を報告する.I対象および方法対象は,2014年1月.3月に産業医科大学病院眼科を受診した11例22眼(6.81歳)で,網膜静脈閉塞症2例,家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopa-thy:FEVR)2例,糖尿病網膜症2例,真菌性眼内炎,網膜前膜,網膜色素変性症,錐体ジストロフィ,朝顔症候群,網膜分離症,屈折異常弱視が各1例であった(表1).今回は,実用性を評価するために,7例は無散瞳下で4例は散瞳後に測定した.レチバル(ver1.1.10)を使用し,プラス,マイナス,グランドが一体の単回使用の皮膚電極を両下眼瞼に貼り付け,本体と接続し刺激光を患者に固視させて行った.今回は,無散瞳で記録するモード,つまり瞳孔面積を測定しながら一定の刺激を眼内に照射し記録するモードで測定した.刺激光は8Td・sの光強度で,刺激周波数約28.3Hzのフリッカー刺激で測定した.測定は,通常の明るさの視力検査室にて,全例座位で行った.日本人の正常値はまだ確立されていないが,LKC社提供データでは,アメリカ人の正常者の正常範囲は潜時29.9.36.5msec,振幅6.2.21.8μVで,平均値は潜時33.18msec,振幅13.6μVであった.そこで,今回は潜時を37msec以上の延長を異常値とし(福尾ほか,第20回日本糖尿病眼科学会総会,2015),振幅は4μV以下を異常値とした.また,典型的で,錐体異常を示すと思われる症例で,成人と若年者を1例ずつ選び,レチバルの測定値とLE-1000,LE-3000(TOMEY,愛知)の測定値を比較した.2症例ともトロピカミド・フェニレフリン(ミドリンPR)で散瞳し,仰臥位にて,明順応を10分行った後に測定した.刺激強度10cd・s/m2,背景光輝度25cd/m2,刺激頻度30Hz,加算回数30回で測定した.測定はシールドルームにて行った.II代.表.症.例両眼若年性網膜分離症,9歳,男児(症例8).2007年5月,外斜視精査目的で近医受診.両網膜に皺襞を認め,同年8月に全身麻酔下で眼底検査施行.両眼に黄斑部を含んだ網膜皺襞,下方に白線化血管,硝子体変性,網膜表1各症例の疾患名と矯正視力とレチバルの潜時・振幅症例年齢(歳)性別疾患矯正視力レチバル潜時msレチバル振幅μV散瞳右左右左右左160男性右眼)網膜中心静脈閉塞症0.61.535.5341.55.7有281女性両眼)糖尿病網膜症右眼)網膜静脈分枝閉塞症左眼)網膜中心静脈閉塞症0.5p0.8p37.9計不1.40.22有354男性両眼)真菌性眼内炎右眼)網膜前膜0.71.53833.31.16.3有472男性両眼)網膜色素変性症0.90.8p計不計不0.070.2有56女性両眼)屈折異常弱視0.5p0.630.931.17.38.4無623男性両眼)朝顔症候群左眼)網膜.離1.20.0432計不4.10.14無771男性両眼)糖尿病網膜症0.30.437.937.64.62.8無89男性両眼)網膜分離症0.150.242.5391.92.6無920男性両眼)錐体ジストロフィ1.51.532.533.40.443.9無1033女性右眼)家族性滲出性硝子体網膜症1.21.538.135.98.113.5無1120女性両眼)家族性滲出性硝子体網膜症0.90.1540.640.42.52.7無平均33.2625.883.04.2計不:著しく振幅が減弱しており数値化できず,フラットの状態.計測不能と機械に表記された.下線:異常値(111)あたらしい眼科Vol.32,No.11,201516233振幅(μV)210振幅(μV)210-1-2-3-4020406080100120020406080100120時間(ms)時間(ms)波形基本周波数波形基本周波数右眼:潜時42.5msec,振幅1.9μV左眼:潜時39.0msec,振幅2.6μV図1症例8のLE.1000で記録したフリッカーERG(上)とレチバルで記録したフリッカーERG(下)LE-1000では両眼の潜時が延長,振幅の減弱がみられた.レチバルでも両眼の潜時の延長,振幅の減弱がみられた.測定に際しては,眼振があったが問題なく測定できた.※レチバルver1.1.10は,左右眼の数値の結果で,縦軸スケールが変動する.分離症を認めた.2009年5月,ボールが左眼に当たり硝子体出血,網膜.離の疑いとのことで同院再診し,精査加療目的にて当院を紹介された.2010年9月に左眼硝子体手術を行い経過観察中であった.視力は,右眼(0.15×sph+6.0D(cyl.1.5DAx160°),左眼(0.2×sph+6.0D(cyl.3.5DAx180°),眼底は両眼とも黄斑部を含んだ網膜皺襞を認め,光干渉断層計(OCT)検査では典型的な網膜分離の所見を認めた.また,第一眼位で水平眼振があり,左方視にて眼振増強を認めた.レチバルでは,両眼の潜時の延長(右眼:42.5msec,左眼:39.0msec)と,振幅の減弱(右眼:1.9μV,左眼:2.6μV)がみられた(図1下).LE-1000でも,両眼の潜時の延長(右眼:41.5msec,左眼:40.0msec)と,振幅の減弱(右眼:40.75μV,左眼:35.0μV)がみられた(図1上).本症例は両眼の網膜分離症があり,レチバル,LE-1000でも両眼の潜時の延長と,振幅の減弱を示した.III結果表1に各症例の結果のまとめを示す.症例1.4は,散瞳後でも問題なく測定可能であった.レチバルは,無散瞳下での使用を推奨されているが,瞳孔散大時でも,測定時間は両眼で3分程度と,無散瞳下での測定時間と大差はなかった.症例1,右眼網膜中心静脈閉塞症は,潜時の延長はみられなかったが,右眼の振幅が減弱した.症例2は糖尿病網膜症であり,右眼は黄斑浮腫と網膜静脈分枝閉塞症を発症していた.左眼は網膜中心静脈閉塞症があり,振幅は著しく減弱し,潜時が数値化できず計測不能となった.両眼ともに潜時・振幅で異常値を示した.症例3は両眼の真菌性眼内炎と右眼網膜前膜があり,右眼のみ潜時・振幅の異常値を示した.症例4,網膜色素変性症は,レチバルで振幅が減弱し,潜時は計測不能であった.症例5,屈折異常弱視による視力不良例は,潜時・振幅ともに正常値であった.症例6は左眼網膜.離のため振幅が減弱し,潜時は計測不能となった.症例7は両眼ともに潜時・振幅が異常値であったが,左眼の振幅が著しく減弱し,異常値を示した.左眼は蛍光眼底所見で無灌流領域が広範囲にみられ,毛細血管瘤が多発し,眼底所見に左右差がみられた.症例9,10,11は,視力良好であったが,潜時・振幅いずれかで,異常値を示す症例があった.症例9の錐体ジストロフィでは,レチバルで,潜時(右:32.5msec,左:33.4msec),振幅(右:0.44μV,左:3.9μV)と,潜時は両眼ともに延長を認めなかったが,右眼の顕著な振幅の減弱を認めた(図2下).LE-3000では,潜時(右:44.75msec,左:(112)1振幅(μV)0.5-0.5振幅(μV)6420-20-1-4右眼:潜時32.5ms,振幅0.44μV左眼:潜時33.4ms,振幅3.9μV図2症例9のLE.3000で記録したフリッカーERG(上)とレチバルで記録したフリッカーERG(下)フリッカーERG,レチバルともに右眼振幅が著明に減弱した.※レチバルver1.1.10は,左右眼の数値の結果で,縦軸スケールが変動する.020406080100120時間(ms)波形基本周波数020406080100120時間(ms)波形基本周波数37.75msec),振幅(右:11.5μV,左:33.5μV)で,潜時は右眼が左眼より7.2msec延長した.振幅は右眼が左眼より21.5μV減弱を認めた(図2上).症例10は右眼FEVRで,視力(1.2)と良好にもかかわらず,潜時の延長を認め,錐体機能の異常を示した.症例11は両眼FEVRで,右眼(0.9),左眼(0.15)と右眼視力は比較的良好であったが,レチバルでは潜時・振幅ともに左右同様の異常値を示した.IV考按レチバルの無散瞳モードは無散瞳下で使用するモードであるが,今回は散瞳後でも問題なく測定可能であった.しかし,9mm大に極大散瞳した場合は,瞳孔を認識せず測定不能となる場合がある.今回,散瞳後に測定した患者の瞳孔径は9mm以下であり,測定可能であったと考えられる.振幅は全例測定可能であったが,潜時の計測不能例が3例4眼あった.使用したバージョン(ver1.1.10)はノイズが大きい場合と振幅が著しく減弱している場合に計測不能と表示される.今回,計測不能となった症例は,固視良好でありノイズの影響は考えにくい.また,振幅が著しく減弱した場合に,潜時が測定されても,その測定値は正確に測定できていない可能性があり,逆に,潜時が計測不能の症例は,振幅の測定値の信頼性は低いと考えられる.今回,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症(症例1,2,7)などの循環障害でみられるフリッカー応答の潜時の延長,振幅の減弱をレチバルで測定可能であった3,4).レチバルは,コンタクトレンズ型電極の装用が困難な小児の症例(症例5)や,眼振のある症例(症例8)においても簡便に検査可能であった.LE-1000,LE-3000のフリッカー刺激は眩しいため閉瞼しようとして,Bell反射により眼球が上転して,コンタクト電極が角膜頂点からはずれ振幅が減弱することがある5).また,コンタクト型電極を装用した状態での固視確認は困難である.それに対し,レチバルは,瞳孔追尾機能と,測定者がモニターで固視確認ができるため,固視に依存しない測定が可能である.レチバルは小児の症例において,LE-1000,LE-3000よりも信頼できる場合があると考えられる.角膜電極ERGとレチバルの結果を比較した症例が2例あった.症例8は,LE-1000とレチバルともに潜時・振幅が測定できた.両者で潜時は延長し,振幅は減弱を示し,錐体異常を検出したことから,同等の結果が得られたと考えられる.症例9ではLE-3000とレチバルともに,潜時・振幅の測定はできたが,両者で右眼の潜時の測定結果が一致しなかった.レチバルの潜時は短縮を示し,一見正常だが,振幅が1.0μV以下と著しく減弱していることから,計測不能の場合と同様に,潜時の値は信頼性が低いと考えた.LE-3000でも振幅は11.5μVと顕著に減弱しており,正確に潜時を測(113)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151625定できていない可能性も考えられ,両者の結果の比較はできないと考えた.角膜電極ERGとレチバルで結果を比較する際は,まず振幅がある程度測定できており,信頼性のある結果かを判断すべきである.今回は,2例と検討数が少なく,1例は同等の評価ができたが,もう1例は振幅値が著しく減弱しており,評価が困難であった.また,錐体細胞の応答を記録するためには,杆体細胞が飽和状態となり反応できないとされる30Hz付近の光刺激で測定を行う.レチバルでは28.3Hzで測定を行うが,皮膚電極と角膜電極の違いや,瞳孔面積を使用した光強度の違い(Td・sとcd・s/m2)により直接比較はできない.また,レチバルは,視力良好の症例においても,網錐体機能の異常を鋭敏に検出することが可能であった(症例9,10,11).LE-1000,LE-3000は,左右同じスケールで波形が表示される.これに対し,今回測定に使用したバージョン(ver1.1.10)でのレチバルの結果は,振幅数値により,縦軸の振幅スケールが自動で変動する.そのため,波形のみでの評価は困難であり,振幅の数値を確認する必要がある.ただし,新しいバージョン(ver.2.3.1)では振幅の最小スケールが固定されている.レチバルで,フリッカーERGを測定するためには,センサーストリップ電極の貼り付けが確実にできていなければならない.実際に検査をしてみて感じた注意すべき点をあげる.固視を良好にするためには,非測定眼の遮閉が有用であった.今回,患者の手で遮閉したが,手が使えない場合は,アイパッチを使用するとよい.また,機器が測定眼から離れた状態で測ると,周辺の明るさや背景が視野に入り固視がむずかしくなり,刺激光が網膜全体に行き渡らない恐れがあるため,測定眼を完全に覆うように機器を当てて測定するとよい.センサーストリップの接着部は3カ所あり,これが皮膚からはずれてしまうと測定できない.年齢,性別によって骨格が違うため,確実に装着できているか確認する必要がある.自験例では女性の場合で,化粧によりセンサーストリップ接着部が貼り付かないことがあった.貼り付け前に,ウエットティッシュまたはアルコール綿で化粧をふき取ることが望ましい.レチバルは多くの利点を有し,臨床において患者,検者とも負担が少なく,簡便に錐体機能を評価できる機器である.レチバルは2013年日本に導入された機器であり,臨床報告が少ない.現在,日本人の潜時と振幅の正常値が確立していないことから,レチバル単独での評価はむずかしいと考えられる.今後は健常人の測定数を増やし,日本人の正常値を検討していく必要がある.今回の検討で,レチバルで網膜錐体機能低下の有無を評価することができ,診断に有用であった.文献1)KatoK,KondoM,SugimotoMetal:E.ectofpupilsizeon.ickerERGsrecordedwithRETevalsystem:Newmydriasis-freefull-.eldERGsystem.InvestOphthalmolVisSci56:3684-3690,20152)YasudaS,KachiS,UenoSetal:Flickerelectroretino-gramsbeforeandafterintravitrealranibizumabinjectionineyeswithcentralretinalveinocclusion.ActaOphthal-mol93:1-4,20153)安田俊介:後天性疾患.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p138-140,メジカルビュー社,20154)永井紀博:後天性疾患.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p142,メジカルビュー社,20155)新井三樹:基本のERG.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p36-57,メジカルビュー社,2015***(114)