特集●屈折矯正を見直す!あたらしい眼科33(6):771.777,2016特集●屈折矯正を見直す!あたらしい眼科33(6):771.777,2016SMILEによる新しい近視矯正NewConceptionofLaserCornealRefractiveSurgery:SMILE中村友昭*はじめにフェムトセカンド(femtosecond:FS)レーザーは1,000兆分の1秒単位の超短パルスを発生する波長1,053nmの近赤外線レーザーである.1968年,Treacyが固体レーザーで初めてフェムト秒パルスを発生させ,おもに理化学的な計測機器としての応用が始まった.その後2002年,米国イントラレース社により眼科領域への応用として,FS15が発売された.FSレーザーは角膜実質内で光切断(photo-disruption)した点を連続させて間隙を作ることにより,組織内での精度の高い切削が可能である(図1).また,組織の障害もきわめて少ない.その性質を利用して,レーシック(laserinsitukeratomileusis:LASIK)においてはマイクロケラトームより精密に,少ない誤差で設定した厚みのフラップを安全に作製することができるようになった.また,任意の位置に,任意の形で正確に切削が可能なことから,角膜実質をレンチクルとして切除することにより屈折矯正するReLExSMILEが開発され,角膜屈折矯正手術の新たな進歩に繋がった.さらに深い位置での切開を行うことが可能となり,それにより白内障手術へも応用され,現在,眼科手術のトピックとなっている.FSレーザーは今後さまざまな眼科手術へ応用されることが予想される.今回は,ReLExSMILEについて,手技とともに,その利点と課題点について述べる.図1フェムトセカンドレーザーによる光切断のシェーマ角膜実質内で光切断した点を連続させて間隙を作ることにより,組織内での精度の高い切削が可能であり,組織の障害もきわめて少ない.IReLExSMILEとはReLExはRefractiveLenticuleExtractionの頭文字を取ったCarlZeissMeditec社(以下,CZM社)の登録商標で,CZM社が開発したFSレーザーVisuMaxのみで角膜屈折矯正手術を行う新技術である.2007年,最初に行われたのがFLEx(FemtosecondLenticuleExtraction)で,フラップを作製した後,角膜実質をエキシマレーザーによって蒸散させて切除するのではなく,FSレーザーによって光切断しレンチクルとして摘*TomoakiNakamura:名古屋アイクリニック〔別刷請求先〕中村友昭:〒456-0003名古屋市熱田区波寄町25-1名鉄金山第一ビル3F名古屋アイクリニック0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(11)771図2SMILEのイメージ図わずか2.4mmの切開よりレンチクルを抜き取ることにより屈折矯正を行う.13244図3SMILEの模式図最初にレンチクル後面を切断し(1),次にレンチクルのサイドカットを行う(2).レンチクル前面(キャップ)の切断を行った後(3),下方ないし側方に2.0.4.0mmのサイドカットを行う(4).最後にレンチクルをスパーテルで分離した後,鑷子にて除去する.1.171.441.171.44去する.1.441.481.531.491.32IV手術成績1.00名古屋アイクリニックでReLExSMILEを受け,1年間経過を追うことのできた61例104眼(平均年齢32.6±6.5歳,平均球面度数.3.88±1.60D,柱面度数.0.66±0.53D,等価球面度数.4.21±1.56D)の手術成績を報告する.術後1年の平均球面度数+0.15±0.36D,柱面度数.0.17±0.25D,等価球面度数は+0.06±0.27Dであった.LASIKと比較し視力の立ち上がりはやや遅いものの,術後1年目での平均裸眼視力は1.53,矯正視力は1.66で,98.1%が裸眼視力1.0以上,78.8%が裸眼視力1.5以上となり,2段階以上矯正視力が低下する症例は認めなかった(図4,5).安全係数(術後矯正視力/術前矯正視力)は1.17,有効係数(術後裸眼視力/術前矯正視力)は1.05ととても良好であった.矯正精度は±0.5Dとなったものが97.1%,±1.0Dが100%で,術0.091.03視力0.100.01前の屈折度数にかかわらずほぼ狙いどおりの屈折となった(図6).屈折度数の推移は,LASIKと異なり,1年視力高次収差の比較を報告している10).術後1年のSMILE群の球面収差は.0.31±0.31μmで,LASIK群の.0.59±0.35μmより有意に低値であった(p=0.0039)(図8).コマ収差は,両群間に有意差を認めなかった(p=0.845).今回,球面収差のみSMILE群はLASIK群より有意に低値を示したが,Ganeshらは高次収差がSMILE群で有意に低値であったと報告11)しており,Linらも高次収差,球面収差ともSMILE群で有意に低値であったと報告9)しており,筆者らの結果と同様であった.y=0.982x-0.1368R2=0.9711-9-8-7-6-5-4-3-2-10達成度数±0.5D97.1%±1.0D100%その理由として,エキシマレーザーでは中心部より周辺0-1-2-3-4-5-6-7-8-9目標度数術前翌日1週間1カ月3カ月6カ月1年n=104図4裸眼視力の推移翌日の視力は1.03と,LASIKと比較し視力の立ち上がりはやや遅いものの,その後徐々に向上し,約1カ月で目標の視力に到達する.その後安定している.1.491.581.611.601.66術前翌日1週間1カ月3カ月6カ月1年を通して安定しており,ほぼ正視となった(図7).他施設の報告も筆者らと同様,良好な結果となっている1.9)(表1).高次収差に関して球面収差は術前.0.15±0.18μmから.0.34±0.29μmへ,コマ収差は.0.34±0.18μmから.0.49±0.28μmへと有意に増加した(p<0.0001).澤木らは,当施設での同一患者に対する片眼にLASIK,もう片眼にSMILEを施行した17例34眼のn=104図5矯正視力の推移翌日は1.17と低下するが,術1週目でほぼ術前の矯正視力に回復する.2段階以上低下した症例は認めなかった.部で切除効率が落ちるが,FSレーザーでは,理論的には照射効率の低下をきたさないため,球面収差に関して図6矯正精度矯正精度は±0.5Dとなったものが97.1%,±1.0Dが100%で,術前の屈折度数にかかわらず,ほぼ狙いどおりの屈SMILEはLASIKより有利ではないかと考えた.これ折となった.(13)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016773-6.00-5.00-4.00-3.00-2.00-1.000.001.00術前翌日1週間1カ月3カ月6カ月1年術前翌日1週間1カ月3カ月6カ月1年屈折度数-6.00-5.00-4.00-3.00-2.00-1.000.001.00術前翌日1週間1カ月3カ月6カ月1年術前翌日1週間1カ月3カ月6カ月1年屈折度数術前術後1年-1*-0.8-0.6■SMILE-0.4■LASIK-0.2*0.00390n=1040.2図7屈折度数(等価球面)の推移レーシックと異なり術直後にオーバーシュートすることなく,また近視への戻りもほとんどなく,1年を通じて安定した結果となる.表1他施設からの報告図8術前後の球面収差の比較術後1年のSMILE群の球面収差は,LASIK群より有意に低値であった.(文献10より引用)研究眼数期間術前球面度数術後球面度数±0.50D裸眼1.0以上矯正視力2段階低下Sekundo2011916カ月.4.75.0.0180%84%1.10%Shah2011516カ月.4.87.0.7591%62%0%Vestergaad20121273カ月.7.18.0.0977%37%0.40%Hjortdal20126703カ月.7.19.0.2580%61%2.40%Wang2013883カ月─.0.11─100%0.00%Kamiya2014266カ月.4.210.01100%96%0.00%Sekundo2014541年.4.68.0.1992%88%0.00%Agca2014401年.4.03.0.3395%65%0.00%Lin2014603カ月.5.13.0.09─85%1.70%に関して当施設の片岡はSMILEはLASIKよりも角膜周辺の切除効率が高くなることを報告している(2014年眼光学学会),V合併症とその対策通常はLASIKやFLExで角膜屈折矯正手術を修練した後,SMILEを行う.ある程度のラーニングカーブはあるものの,最初から比較的安全に手術を行うことができる.最近では筆者が開発した専用器具を用いることにより,より簡便かつ確実に手術を行うことができるようになった.1.術中合併症a.サクションロス術中合併症の多くはサクションロスである.VisuMaxは専用のアタッチメントにより角膜周辺部で吸引固定774あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016し,レーザー照射時間は通常の設定では20数秒である.その間眼圧は70.80mmHgほど上昇するが,マイクロケラトームによるフラップ作製時と異なり患者はブラックアウトせず,ある程度の固視が可能であるが,中盤から白くなり緑の固視灯を見失うようである.とくに患者が過度に緊張している場合は,サクションが外れやすい.Wongらの報告によるとその率は1%程度で,ラーニングカーブにより,そのリスクは1%未満になりうる12).手術前からリラックスさせることとレーザー中の声掛けは重要であるが,サクションロスを起こした際は,レーザー中盤までであれば,その日は中止する.中盤以降であれば,最初からレーザーをするか,途中から続行することにより,問題なく手術を完遂することができる13).b.レンチクル分離不全顕微鏡下で,すでにレーザーにて切断されたレンチクルを専用のスパチュラにて分離するが,その断端を見つ(14)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016775(15)b.ドライアイLASIKではフラップ作製のために円弧状に約20mmの切開を行い,それにより角膜知覚神経が切断されるが,SMILEではレンチクルを引き出すために行う角膜切開の長さは2.4mmとLASIKと比較して非常に短い.また,知覚神経が密集している角膜表層を温存できるため,角膜知覚神経への影響がより少ないと考えられる(図9)15).実際に共焦点顕微鏡を使ったIshiiらの報告16)では,SMILE群に対してFLEx群では角膜神経線維密度が術前に比較して術後1年において有意に低下していたとされている.先ほど提示した同一患者に対する片眼にLASIK,もう片眼にSMILEを施行した症例の術前後の角膜知覚の変化を示す(図10)10).術前,術後1年での角膜知覚は2群間に有意差を認めなかった(p>0.999,p=0.375)が,術後1カ月ではSMILE群で51.4±12.3mm,LASIK群で41.4±15.0mmであり,SMILE群はLASIK群に比較して有意に高値であり(p=0.0059),SMILEは術後経過を通じて,角膜知覚が保たれているのがわかった.海外でも同様な報告が多数なされており17),SMILEの角膜知覚神経への影響が軽微であることは実証されている(図11).また,Xuらは,LASIK,SMILEともにドライアイに関するパラメータは術後悪化するものの,Schirmerテスト,BUT,乾燥感などの自覚スコアはSMILE群のほうが有意に良好であったことを報告している18).けることが難しい場合,スパチュラにて仮道を作ってしまい,さらに分離が難しくなる場合がある.抵抗がある場合は,速やかに別の断端を見つけるように心がける.筆者が考案した器具により,より簡便に断端を見つけることが可能になった.c.不完全レンチクル除去レンチクルは比較的強度があり,その除去中にそれがちぎれて残存してしまうことは滅多にないが,もし残存してしまった場合は,スポット照明などで確認してしっかり分離することにより除去することが可能である.それが困難な場合は,フラップを作製して,それを起こした後に,残存したレンチクルをしっかり確認して除去することが可能である.2.術後合併症SMILE特有の術後合併症はなく,ほぼLASIKの術後管理と同様でよいと思われる.a.層間炎症(DLK)術後炎症は,LASIKに比較してきわめて少ない印象である.術後早期に層間に淡い混濁を認めることがあるが,レーザーによる軽度の組織炎症か,.離時の組織に対する物理的な刺激によるものが考えられる14).最近ではレーザー設定値の適正化と専用器具による手術のスムーズ化により,これもあまり問題にはなっていない.筆者の施設では,ステロイドは2週間で終了している.図9角膜の知覚神経の走行図角膜の知覚神経は角膜の周辺部から入り,実質の前部3分の1の深さで神経束を作る.その後角膜前方に向かい上皮下に神経叢を形成する.SMILEはこの知覚神経が密集している部分への侵襲が少ないため,知覚が保たれる.(文献15より引用)AB図9角膜の知覚神経の走行図角膜の知覚神経は角膜の周辺部から入り,実質の前部3分の1の深さで神経束を作る.その後角膜前方に向かい上皮下に神経叢を形成する.SMILEはこの知覚神経が密集している部分への侵襲が少ないため,知覚が保たれる.(文献15より引用)AB(mm)SMILE群LASIK群図10角膜知覚の経時的変化の比較術前,術後1年での角膜知覚は2群間に有意差を認めなかったが,術後1カ月ではSMILE群はLASIK群に比較して有意に高値であり,SMILEは角膜知覚が一貫して保たれているのがわかる.(文献10より引用)706050403020100*0.0059*術前1M3M6M1Yc.追加矯正術後の戻りが少なく,ほとんど追加矯正する必要がない.筆者はこれまで350眼のSMILEを行ったが,初期設定による低矯正に対し2例の追加を行っただけで,近視への戻りによる追加矯正は行っていない.一般に3.5%の追加率といわれるLASIKに比較し,非常に少ないと思われる.追加矯正が困難なことがSMILEの欠点であるが,通常はPRKで対処している.また,SMILEのCapと同様の深さでフラップを作製してLASIKを行うことも可能である.最近ではCIRCLEというプログラムで,サイドカットのみを行いLASIK様のフラップを作製することにより簡便に追加矯正を行うことができるようになった.また,SMILEの特性を維持するため,内部のレンチクルの再作製を行い,そこのみを切除し小切開創から抜き出すという方法も考案されている.おわりにFSレーザーは,LASIKに始まり白内障手術へと,今後多くの眼科手術に応用されるようになってくると思われる.LASIKへの応用としてのFLEx,さらに進化したSMILE.一定の技量をもった術者であれば,安全に手術を行うことができる.結果も安定しており,ドライアイなど術後の合併症もとても少ない.現在は近視,乱視の矯正に限られているが,すでに遠視矯正のプログラムも作成されおり,海外では臨床応用が始まっている.776あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016MeanCornealSensation(mm)6050403020100LASIK(16studies)SMILE(7studies)-10123456789101112TimePoint(Months)図11角膜知覚の推移(比較)複数の論文から,LASIKとSMILEの術後の角膜知覚の推移を平均化したもの.いずれの論文も両者とも術後一過性に角膜知覚は低下するものの,SMILEは低下が少なく,また回復が早いことを示している.(ReinsteinDZ,ArcherTJ,GobbeM:Smallincisionlenticuleextraction(SMILE)history,fundamentalsofanewrefractivesurgerytechniqueandclinicaloutcomes.EyeandVision1:3,2014)今後,究極の角膜屈折矯正手術として,切開創のほとんどない組織内切除が可能になる日が訪れることは,それほど遠くないことかもしれない.文献1)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlenticuleextraction:all-in-onefemtosecondlaserrefractivesurgery.JCataractRefractSurg37:127-137,20112)SekundoW,KunertKS,BlumM:Smallincisioncornealrefractivesurgeryusingthesmallincisionlenticuleextraction(SMILE)procedureforthecorrectionofmyopiaandmyopicastigmatism:resultsofa6monthprospectivestudy.BrJOphthalmol95:335-339,20113)HjortdalJO,VestergaardAH,IvarsenAetal:Predictorsfortheoutcomeofsmall-incisionlenticuleextractionforMyopia.JRefractSurg28:865-871,20124)VestergaardA,IvarsenAR,AspSetal:Small-incisionlenticuleextractionformoderatetohighmyopia:predictability,safety,andpatientsatisfaction.JCataractRefractSurg38:2003-2010,20125)WangY,BaoXL,TangXetal:Clinicalstudyoffemtosecondlasercornealsmallincisionlenticuleextractionforcorrectionofmyopiaandmyopicastigmatism.ZhonghuaYanKeZaZhi49:292-298,20136)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Visualandrefractiveoutcomesoffemtosecondlenticuleextractionand(16)-