特集●眼科疾患の疫学あたらしい眼科33(9):1277?1283,2016加齢黄斑変性の疫学EpidemiologyofAge-RelatedMacularDegeneration小畑亮*柳靖雄**はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は先進国における主要な中途失明原因であり,全世界の失明者の約9%を占め,白内障・緑内障に続く3番目の病因であると推察されている1).さらに年々その患者数は増加の一途をたどっている.AMDの疫学研究は1980年代頃より活発に行われており,AMDの病態メカニズムの解明または治療法の開発に大きく寄与することとなった.本項ではAMDに関する疫学的な話題として,「診断の変遷」「AMDの有病率と発症率」「AMDの疾患関連因子」について概説し,合わせて「アジアのAMDの疫学」「PCVの疫学」について触れる.IAMDの診断の変遷疫学調査では分類のために眼底写真が用いられてきた.よく用いられるAMDの診断基準にはWisconsin分類2)や国際分類3)があるが,概略を表1に示す.これらの分類ではAMDは重篤な視力低下を生じる「晩期AMD」と,その前駆所見である「早期AMD」に分類される.早期AMDは軟性ドルーゼン(感覚網膜下の黄白色の粒状病変)と網膜色素異常(色素脱失,色素沈着)に分けられる.晩期AMDは滲出型AMDまたは萎縮型AMDである(図1).近年においては晩期AMDの発症頻度を加味したAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy)分類4,5)も利用されるようになった(表2).AREDSでは多段階の重症度分類を利用することで,各症例の晩期AMD進展リスクをより正確に推測可能である.この結果をもとに,米国眼科学会では早期AMDにAREDSカテゴリーに基づいた分類を使用することを推奨しており,カテゴリーごとに診療指針が定められている6).興味深いことに,ドルーゼンを伴わない網膜色素異常は欧米では晩期AMDのリスクと考えられていないのに対して,日本人ではポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)のリスクである可能性が指摘されている7).また,これらの分類に含まれないreticularpseudodrusenも晩期AMDのリスク因子であることがわかっており,最近の疫学調査ではその頻度も報告されている8,9).ただし,reticularpseudodrusenのように,眼底写真だけでは正常と判断される者の中にも他の検査で異常が同定される症例も存在するため,最近の疫学調査10,11)では従来の眼底写真に加え,OCTなども含めた画像検査を行い,総合的な所見をもとに分類を行うように変化してきている.AMDの有病率(prevalence)と発症率(incidence)AMDは世界各地域においてその有病率が調査されており,その有病率には人種間で差が認められる.わが国においては久山町研究12)および舟形町研究13)においてAMDの有病率が報告されている.さらに筆者らは緑内障学会による疫学調査として行われた沖縄県久米島におけるpopulation-basedstudyの一環としてAMDの有病率を調査し,早期AMDが従来のアジアにおける報告に比較して高いこと,光線暴露に影響する因子が有病率に関連することなどの知見を得ている(投稿中).世界における有病率の相違と人種または地域差との関連を明らかにするために行われたメタアナリシス14)の結果を示す(図2).それによると45歳以上の有病率は,早期AMDに関しては,ヨーロッパ系人種(11.2%)がアジア系人種(6.8%),アフリカ系人種(7.1%)およびヒスパニック(9.9%)に比較して有意に高い.一方で,晩期AMDの有病率はヨーロッパ系人種がアフリカ系人種に比して有意に高いが,アジア系人種とは有意差がなく,全人種の有病率は0.3~0.5%の間に分布する.ただし,晩期AMDは有病率が低く,人種間の正確な比較は困難である.AMD発症率について図3に示す.久山町研究では早期AMDは9年間で10%,晩期AMDは9年間で1.4%の発症が認められている15).各研究による差はあるものの,ヨーロッパ系人種の発症率が高い傾向にある.IIIAMDの疾患関連因子疫学研究では,疾患に関係する要因を発見して,予防や治療に役立てることが主目的のひとつである.AMDに関連する因子は,環境因子についても,遺伝因子についても,さまざまなものが認められ報告されている.まず環境要因について示す.久山町研究においては,すべてのAMD(すなわち早期および晩期AMD)と,年齢,男性,および高血圧(ただし男性のみ)とが関連しており16),晩期AMDと年齢,喫煙歴,血中白血球数が関連していた15).さらに舟型町研究でも,晩期AMDに年齢と喫煙歴とが関連していた13).晩期AMDの関連因子をメタアナリシスにて検討した報告によると,オッズ比1.5以上の強い関連を示すものは年齢,喫煙歴,白内障手術歴,晩期AMD家族歴などがあり,それより弱い関連を示すものは高BMI,高血圧,心血管疾患歴,血中fibrinogen上昇,糖尿病などであった(表3)17).このため,AMDのリスクを減らすためには禁煙が重要である.続いて遺伝要因について述べると,現在までに34にのぼる遺伝子座における遺伝子多型がAMDに関連していることが報告されている18).それらは補体・炎症系,脂質代謝系,細胞外基質関連,DNA修復系,血管新生関連の遺伝子をコードしている領域に存在している.この結果をもとに,補体経路を標的とした晩期AMDの進行抑制薬剤の開発が進められている.その他の経路についても創薬の可能性の検討が多くなされるようになっている.IVアジアのAMDの疫学各地域の人口動態を元にした,将来的なAMD有病者数は推計(表4)によると,2014年から2040年にかけて全世界で増加が見込まれ,とりわけアジア地域での増加が著しい.これはもともとの人口の多さに加えて,アジア諸国の高齢化が進行してくるためである.このことから考えると,今後世界のAMDに立ち向かうためには,アジアのAMDの特異性を明らかにしていかなければならない.アジア人種では,先に述べたように,早期AMDのAMD有病率はヨーロッパ系人種に比較して低い一方で,晩期AMDはほぼ同等であるという特異性がある14,19).また,アジア系人種の晩期AMDは滲出型AMDが地図状萎縮に比して高率である19).この理由としては,アジア人種に多いとされる滲出型AMDの病型であるPCVが早期AMDを経ずに発症する可能性があることが注目されている19).一方で,最近の検討では,ドルーゼンを呈する早期AMDはアジア人種においても比較的認められるとの報告もあり20),久米島研究における筆者らの検討においても早期AMDの有病率は約15%にのぼっていることから,アジア内の早期AMD有病率についてはアジア民族の多様性,地理的条件の不均一性も考慮に入れて検討していく必要がある.欧米では女性にAMDが多いという報告が多く,男性に(おそらく喫煙の影響で)AMD患者が多いのはアジアの特徴といえる.久米島研究は他の大規模疫学調査と異なり眼科主体の調査であるため,詳細な眼科的検査(眼軸長,白内障手術歴)の所見や,屋外活動歴,職業歴,光線暴露因子についても調査されている.その解析結果から男性,短眼軸,白内障手術歴,および屋外活動歴を有する者では有意に早期AMDの頻度が高く,一方屋外での帽子の使用者は,早期AMDの頻度が有意に低いという興味深い知見が得られている.また,屋外活動や帽子の使用は早期AMDのうちドルーゼンの頻度に関連している一方で,性別(男性)は色素異常の頻度と有意に関連していた(投稿中).このことから,ドルーゼンの形成には光線暴露が関連していると推測されるため,生活様態に則した光線暴露リスクの管理が必要になると考えられる.また,男性および喫煙と関連した色素異常を主体とする早期AMDは,アジアに特徴的な晩期AMDのリスクであることから,これら特有の条件からAMDが進展するメカニズムの検討が必要であり,またその理解によって,新たな予防薬の標的が発見されると期待できる.一方,遺伝要因については,近年滲出型AMDに対してCETP,C6,SLC44A4,およびFGD6など,アジア人種に特異的に関連する遺伝子多型が報告されている21).とくに脂質代謝経路にかかわる因子では,東アジア人においてはCETPAsp442Gly多型がAMDと強く関連する一方で,他の脂質代謝経路に関連する因子の遺伝子多型は,欧米人と比較してAMDとの関連が低い.CETPAsp442Gly多型は「善玉コレステロール」である血中HDLコレステロールを上昇させることが知られているが,眼局所でのその機能はわかっておらず,その機能解析はアジア人AMDの新たな発症メカニズム解明につながる可能性があり,非常に注目されている22).VPCV(ポリープ状脈絡膜血管症)の疫学PCVは滲出型AMDの特殊型とされている.Hospital-baseの報告ではアジア系人種に多く認められると報告されている.本病態をAMDの一病型とするか,あるいは別の疾患であるとして,AMDを包括的疾患概念のようにとらえるかまだ明確な答えが出ていない.また,欧米ではPCV診断に必須のインドシアニングリーン造影検査を行わないために正確な頻度はわかっていない.このためこの病態が従来にいわれているようにアジア特有であるかどうかも不明である.PCVの診断基準については世界的に統一されたものはまだない.わが国では日本PCV研究会による診断基準が用いられることが多い23)が,EVEREST分類24)を用いる研究者も多い.造影検査なしでPCVと典型AMDとを鑑別することは困難である.そのため大規模疫学研究におけるPCV有病率の調査はきわめて困難であるが,中国におけるBeijingstudyでは,OCTによる独自の診断基準を用いて,PCVの有病率が0.5%であると報告している25).本疾患の地域性を疫学的に把握するにはまだ時間がかかると思われるが,AMDの地域性を把握するためには,造影検査によらず,適用可能な診断方法を用いて代用した調査を推進していくのが現実的と思われる.どのような基準を設けてPCVを診断するかは今後の課題であるが,あたらしい概念22)(pachychoroidspectrum:脈絡膜血管異常を伴った色素上皮異常,新生血管を包括した概念)の登場によって今後はPCVを含めた晩期AMDの分類に変化があり,数年後には異なった分類が一般的になるかもしれない.おわりに以上,AMDに関する疫学的な話題として,「診断基準」「AMDの有病率」「AMDの発症率」「AMDの関連因子」「アジアのAMDの疫学」,および「PCVの疫学」について概説した.地域や人種間における疾患の分布の違いや,関連因子の特徴を解析することによって,それぞれの地域や国家における医療活動がAMDの克服に向けて適正化されていくことが,疫学の目的である.現在,AMDに関する疫学的検討はゲノム疫学の発展と相まって病態解明をめざしたものが主流となりつつある.現状では欧米からの研究が先行している状況であるが,今後はアジアからもこの分野の研究がさらに発展することが望まれる.文献1)ResnikoffS,PascoliniD,Etya’aleDetal:Globaldataonvisualimpairmentintheyear2002.BullWorldHealthOrgan82:844-851,20042)KleinR,DavisMD,MagliYLetal:TheWisconsinagerelatedmaculopathygradingsystem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μm.‡大ドルーゼン:径125μmより大きい.1278あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(36)図2各人種におけるAMDの有病率(%)Population-basedstudyのメタアナリシスにより算出した値14).(37)あたらしい眼科Vol.33,No.9,20161279図3AMDの発症率Population-basedstudyの結果より15,27~30).BMES:BlueMountainEyeStudy.BDES:BeaverDamEyeStudy.BES:BarbadosEyeStudy.表3メタアナリシスによる晩期AMDの関連因子17)関連性因子強い(オッズ比≧1.5)年齢喫煙歴白内障手術歴晩期AMDの家族歴弱い(オッズ比1.1?1.5)高BMI高血圧心血管疾患歴血中fibrinogen上昇糖尿病1280あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(38)表42014年および2040年におけるAMD患者の推定有病人数(百万人)14)2014年2040年早期AMD晩期AMD早期AMD晩期AMDアジア55.54.6105.89.9アフリカ15.40.835.51.8ヨーロッパ47.82.658.73.7北米14.80.821.31.4中南米19.90.937.01.6(39)あたらしい眼科Vol.33,No.9,201612811282あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(40)(41)あたらしい眼科Vol.33,No.9,20161283