●連載◯147監修=安川力五味文127硝子体内注射後の感染性眼内炎盛岡正和高村佳弘福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学抗CVEGF治療に関連する合併症のなかで,とくに重要なのが感染性眼内炎である.まれな疾患ではあるが発症すると急速に悪化するため,適切で迅速なマネジメントが求められる.本稿では,その治療方針について,手術に重点を置いて詳しく述べる.注射後感染性眼内炎の診断細菌による感染性眼内炎は,硝子体内注射後の重篤な合併症の一つである.その発生頻度はおおむねC1万件に1件程度,あるいはそれ以下とされており1.4),2,000.5,000件にC1件程度の割合とされている白内障手術や硝子体手術に比べると少ない.発症時期は注射後数日以内がほとんどである.眼内炎は迅速な診断と治療が求められる.自覚症状としては霧視,視力低下,充血,眼痛が多くみられるが,典型的な症状を伴わないこともあるため注意が必要である.他覚的な所見としては,結膜・毛様充血,角膜浮腫,角膜混濁,前房内の細胞増多,フレア,フィブリン析出,前房蓄膿,硝子体混濁,網膜血管閉塞,網膜出血(図1)などがみられる.確定診断には前房水や硝子体液の細菌培養検査が必要である.結膜.の常在菌であるブドウ球菌属が起因菌となるケースが多い.疑われたら手術を考慮感染性眼内炎の可能性が高い場合は,硝子体手術と前房洗浄の実施が必須となる.所見が非典型的で診断に迷う場合でも,数時間後に明白な前房蓄膿が出現し診断が確定する頃には,網膜の損傷が進行してしまう可能性もある.したがって感染が疑われた時点で積極的に手術適応とするほうが理にかなっていると筆者は考える.診療体制の都合で迅速な硝子体手術が行えない場合は,姑息的治療として抗菌薬の点眼や硝子体内注射を行うことも選択肢となる.しかし,あくまでも硝子体手術を行うまでの「つなぎの治療」と考え,これらの治療のために硝子体手術の実施が遅れることはあってはならない.抗菌点眼薬にはレボフロキサシンやセフメノキシム,抗菌薬全身投与には第C4世代セフェム系やカルバペネム系が用(63)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1感染性眼内炎を生じた症例の前眼部写真発症時.著明な前房蓄膿,フィブリン析出を認める.いられる.硝子体内注射にはバンコマイシンとセフタジジムが使用される.手術では網膜を傷つけないこと手術の目的は起因菌と有害な液性因子の除去と抗菌薬の直接投与である.局所麻酔で行われることが多いが,眼内炎は強い炎症を伴うため,点眼麻酔だけでは除痛が困難である.そのため球後麻酔やCTenon.下麻酔が推奨される.前房洗浄では,細菌培養検査のために前房水を採取し,I/Aで前房を洗浄する.フィブリン膜が前.や眼内レンズに付着している場合は前.鑷子などを用いて除去する.水晶体が残っている場合は水晶体再建術も同時に行う.硝子体混濁による徹照不良や炎症によるZinn小帯脆弱などを認める場合があり,通常の白内障手術よりも手技の難度が高くなる.眼内レンズ挿入を行うか,水晶体の除去だけにとどめ,眼内レンズ挿入は後日C2期的に行うかは議論の余地がある.以上の操作により前眼部を可能な限りクリアにすることで,硝子体内の視認性を高め,硝子体手術の安全性を確保できる.硝子体手術では,硝子体液を採取しながら硝子体混濁を可能あたらしい眼科Vol.41,No.9,20241105図2図1と同一症例の硝子体手術後1カ月時点の広角眼底写真感染は落ち着いており硝子体混濁は認めないが,網膜出血が残存し,血管閉塞もめだつ.図3図1と同一症例の硝子体手術後1カ月時点のOCT画像網膜が著しく菲薄化している.矯正視力は(0.01)となり,改善は困難と考えられる.な限り切除する.ただし,炎症により脆弱になっている網膜を損傷し,網膜.離や黄斑円孔を生じてしまうと難治性となる可能性が高い.したがって,網膜に近い硝子体混濁を切除することに固執せず,「甘め」の硝子体切除を心がけることが重要である.シリコーンオイルの留置や網膜出血部位に対する光凝固も不要である.手術中には,バンコマイシンとセフタジジムを添加した灌流液を使用し,十分な灌流を行う.術後にも点眼・点滴で治療を術前から継続して抗菌薬を点眼・全身投与する.消炎のためにステロイドの点眼や全身投与も効果的である.術後数日からC10日程度で炎症が沈静化するにつれ,残存した硝子体混濁は消失し,網膜出血も吸収される.炎症の程度にあわせて各治療は漸減・終了していく.早期に治療介入すれば発症前の視力に戻る場合もあるが,レンサ球菌属や腸球菌などが迷入し起因菌となった場合は予後が悪いと報告されている(図2,3)5).文献1)MenchiniF,ToneattoG,MieleAetal:Antibioticprophy-laxisCforCpreventingCendophthalmitisCafterCintravitrealinjection:aCsystematicCreview.Eye(Lond)C32:1423-1431,C20182)TanakaK,ShimadaH,MoriRetal:SafetymeasuresformaintainingClowCendophthalmitisCrateCafterCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCInjectionCbeforeCandduringtheCOVID-19Pandemic.CJClinMedC11:876,C20223)TanakaCK,CShimadaCH,CMoriCRCetal:NoCincreaseCinCinci-denceCofCpost-intravitrealCinjectionCendophthalmitisCwith-outtopicalantibiotics:aprospectivestudy.JpnJOphthal-molC63:396-401,C20194)MoriokaCM,CTakamuraCY,CNagaiCKCetal;IncidenceCofCendophthalmitisCafterCintravitrealCinjectionCofCanCanti-VEGFCagentCwithCorCwithoutCtopicalCantibiotics.CSciCRepC10:22122,C20205)TodokoroCD,CEguchiCH,CSuzukiCTCetal:GeneticCdiversityCandCpersistentCcolonizationCofCEnterococcusCfaecalisConCocularsurfaces.JpnJOphthalmolC61:408-414,C2017☆☆☆1106あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024(64)

