角膜内皮の一次繊毛一次繊毛とは一次繊毛(primarycilia)は細胞膜からC1本のみ突出した構造物であり,ほとんどの真核生物の体細胞に存在します.1世紀以上前から一次繊毛の存在は知られていましたが,その機能はほとんどわかっていませんでした.近年,解析技術の進歩により,その構造と機能が明らかとなり,さまざまな遺伝性疾患との関連が知られるようになりました.一次繊毛には多数の受容体やイオンチャネルが集積し,細胞外シグナルを受容して細胞内に伝達するアンテナのような役割をしていることがわかっています.その他の機能の例として,腎臓の尿細管・集合管上皮細胞においては,尿流を感知するメカノセンサーとして働いています.また,細胞分裂する際には一次繊毛は消失し,静止期に戻ると再び一次繊毛が現れることから,細胞周期の制御・増殖・分化にも関与すると考えられています.さらに視細胞の外節は光受容に特化した一次繊毛の特殊型であり,一次繊毛に異常をきたす疾患(繊毛病)の一つであるCBardet-Biedl症候群では,網膜色素変性症を合併することが知られています.角膜内皮における一次繊毛角膜内皮にも一次繊毛が存在することは知られており,前房側へC1本のみ突出しており,また角膜の中央にはほとんど存在せず,周辺部に少数が存在することが報告されていました1)(図1).また,マウスを用いた研究で,角膜内皮が傷害された際に一次繊毛が出現し,創傷治癒が完了すると消失するとの報告がありますが2),具体的にヒト角膜内皮の一次繊毛が何をしているかはほとんどわかっていません.そこで筆角膜実質Descemet膜角膜内皮前房図1角膜内皮における一次繊毛の模式図一次繊毛は各細胞にC1本のみ存在し,前房側へ突出している.(文献C3より改変引用)出口英人京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学者らは水疱性角膜症に対する角膜移植術の際に摘出されたDescemet膜と角膜内皮を解析することにしました.その結果,角膜内皮が残っていたC8例中C6例で一次繊毛が確認され,コントロールとして採取した円錐角膜の角膜内皮には一次繊毛が存在しないことがわかりました.この結果から,少なくとも水疱性角膜症という病態が一次繊毛発現を誘導している可能性が示唆されました3)(図2).今後の展望1.5Cμmという小ささゆえに解析が難しかった一次繊毛ですが,技術の進歩によりその機能が徐々に明らかになってきています.角膜内皮に限らず,一次繊毛研究はまだスタートラインの段階です.今後,繊毛病だけでなく,さまざまな疾患との関連が明らかになれば,一次繊毛をターゲットとした治療につながるかもしれません.文献1)SvedberghB,BillA:Scanningelectronmicroscopicstud-iesofthecornealendotheliuminmanandmonkeys.ActaOphthalmol(Copenh)C50:321-336,C19722)BlitzerCAL,CPanagisCL,CGusellaCGLCetal:PrimaryCciliaCdynamicsCinstructCtissueCpatterningCandCrepairCofCcornealCendothelium.ProcNatlAcadSciC108:2819-2824,C20113)DeguchiCH,CTaniokaCH,CWatanabeCMCetal:Identi.cationCandCanalysisCofCprimaryCciliaCinCtheCcornealCendothelialCcellsCofCpatientsCwithCbullousCkeratopathy.CCurrCEyeCResC1-6,2023[publishedonline.rst:20230914]図2水疱性角膜症で摘出された角膜内皮の一次繊毛緑内障ブレブ眼で水疱性角膜症に至った症例の角膜内皮.核染色(青)の周囲にアセチル化Caチューブリン(緑)で染色される毛様構造が確認できる(..).(93)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C3290910-1810/24/\100/頁/JCOPY