特集●最先端の硝子体手術あたらしい眼科32(2):181.187,2015特集●最先端の硝子体手術あたらしい眼科32(2):181.187,2015内境界膜翻転法による強度近視黄斑円孔網膜.離の治療AnInvertedInternalLimitingMembraneFlapTechniquefortheTreatmentofMacularHoleRetinalDetachmentinHighMyopia奥田徹彦*東出朋巳*生野恭司**はじめに黄斑円孔網膜.離(macularholeretinaldetachment:MHRD)は,黄斑円孔を起因とする網膜.離であり強度近視に特有の疾患である.強度近視眼では後部ぶどう腫の形成により眼底後極部が伸展し,さらに癒着した硝子体皮質の収縮による接線方向の牽引力が加わることで黄斑円孔から網膜.離を生ずる.また,手術を行っても眼軸の延長による眼球壁の伸展に網膜が追随できず,常に再.離を起こしやすい状態であるため,非常に予後不良の疾患であった.近年になり内境界膜.離を併用した硝子体手術が行われるようになったことで復位率は向上してきたが1),その成績にはまだばらつきがある.一方,円孔閉鎖率に関しては非強度近視眼に起こる黄斑円孔と比べるとかなり低い.ごく最近になり大型の黄斑円孔や網膜.離を伴わない強度近視の黄斑円孔に対し,内境界膜翻転法により円孔閉鎖率が向上するとの報告が散見され2.4),今後の発展が期待されているが,本稿では強度近視黄斑円孔網膜.離に対する内境界膜翻転法を併用した治療について述べる.I内境界膜翻転法2010年にMichalewskaら2)により円孔径400μm以上の大型の黄斑円孔に対する内境界膜翻転法を併用した硝子体手術が報告された.彼らは本法を用いることにより98%の初回円孔閉鎖が得られ,従来どおりの内境界膜.離での閉鎖率88%に対し高い閉鎖率が得られたと報告している.また,この報告の中で彼らは,内境界膜翻転法の効果として翻転した内境界膜がグリア細胞の増殖の足場となり,円孔内が増殖した細胞で満たされ円孔閉鎖を促している可能性があると推察している.また,大型の黄斑円孔だけではなく,網膜.離を伴わない強度近視眼に対する黄斑円孔に関してもその有用性が報告されており,Kuriyamaら3)は初回閉鎖率83%,Michalewskaら4)は初回閉鎖率100%と報告している.また,Michalewskaが報告した強度近視の黄斑円孔19眼のうち3眼の術後1週目の光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)所見において,円孔は翻転した内境界膜のみで閉鎖されていたと述べており,翻転され円孔間を架橋した内境界膜が円孔閉鎖のきっかけとなっている可能性を示している.II内境界膜翻転法による強度近視黄斑円孔網膜.離の手術手技1.基本手技内境界膜.離を行うまでは通常のMHRDと同様の手術手技である.必要であれば白内障手術を行い,眼内レンズを挿入する.硝子体のコアを切除し,トリアムシノロンで網膜面に張り付いた薄い硝子体皮質を可視化する.その後ダイアモンドダストメンブレンスクレーパー*TetsuhikoOkuda&*TomomiHigashide:金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)**YasushiIkuno:大阪大学大学院医学研究科眼科学教室〔別刷請求先〕奥田徹彦:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(9)181abcd図1硝子体皮質の除去a:ダイアモンドダストメンブレンスクレーパーを使用して後極の網膜から硝子体皮質をゆっくりと.離する.b,c:網膜前膜や肥厚した硝子体皮質が強く癒着している場合は内境界膜鑷子を用いて.離する.d:アーケードの外まで硝子体皮質を.離し,その後カッターの吸引にて硝子体.離を進める.あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015183(11)れにくく大きい円弧を描いて.離できる(図2b~i).1回の操作で円孔全周の内境界膜を.離翻転できるわけではない..離した内境界膜と隣接し,約2乳頭径離れた位置から再び内境界膜.離を円孔縁に向かって行う.この操作を何回か繰り返し円孔全周囲の内境界膜を.離翻転させる(図2b~i).最後にまとめて円孔縁近くまで内境界膜.離を進める(図2h).あまり円孔縁ぎりぎりまでいくと,円孔縁も含んで.離してしまう可能性があり注意を要する.界膜鑷子(シャフト長37mm;ドルク社)は非常に使いやすく有効である.鑷子にて内境界膜を直接把持し,円孔縁に向かって.離するが,その際円孔縁近くまで.離しようと意識する必要はない.また,強度近視眼の内境界膜は薄くてちぎれやすいのでなるべく網膜に近い根元を把持するように意識し,網膜との距離が離れたら適宜持ち替えたほうが大きい円を描いて.離しやすい.そして網膜から離れるように.離するのではなく,網膜とぶつからない程度に網膜に沿うように.離を進めるとちぎabcdefghi図2内境界膜翻転法による内境界膜.離a:なるべく乳頭黄斑線維束から離れた位置から円孔に向かって内境界膜.離を開始する.b,c:最初から円孔縁近くまで.離する必要はない.ある程度.離を進めたあと,同じ大きさの円弧を描けるように再び内境界膜.離を開始する(図の矢頭は互いに対応した位置である).d.f:図b,cと同様である.なるべく網膜とぶつからない程度に網膜に沿うように内境界膜.離を進めると,ちぎれにくく大きい円弧を描いて.離できる.g,h:同様に.離を進めて最終的に全周の内境界膜を翻転させる.i:最後にまとめて円孔縁近くまで内境界膜.離を進める.あまり円孔縁ぎりぎりまでいくと,円孔縁も含んで.離してしまう可能性があり注意を要する.abcdefghi図2内境界膜翻転法による内境界膜.離a:なるべく乳頭黄斑線維束から離れた位置から円孔に向かって内境界膜.離を開始する.b,c:最初から円孔縁近くまで.離する必要はない.ある程度.離を進めたあと,同じ大きさの円弧を描けるように再び内境界膜.離を開始する(図の矢頭は互いに対応した位置である).d.f:図b,cと同様である.なるべく網膜とぶつからない程度に網膜に沿うように内境界膜.離を進めると,ちぎれにくく大きい円弧を描いて.離できる.g,h:同様に.離を進めて最終的に全周の内境界膜を翻転させる.i:最後にまとめて円孔縁近くまで内境界膜.離を進める.あまり円孔縁ぎりぎりまでいくと,円孔縁も含んで.離してしまう可能性があり注意を要する.184あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(12)また,ガス下でも術翌日からOCTによる検査は可能であるが,シリコーンオイル下のほうが撮影は容易である.ただしシリコーンオイルは眼圧上昇の危険性があり,3カ月程度を目途に抜去する必要がある.III術後の円孔閉鎖および網膜復位KuriyamaらはMHRDに対し内境界膜翻転法を行った症例について,術後の初回円孔閉鎖率,初回復位率ともに75%であったと報告している.従来の報告でOCTにより円孔閉鎖を確認できた報告に限れば,円孔閉鎖率は10.55%であった5.9).単純な比較はできないが,内境界膜翻転法を用いることにより円孔閉鎖率を向上させられる可能性があると思われる.また,当院および大阪大学附属病院にてMHRDに対し内境界膜翻転法を行った症例の中で,網膜下液が残存した状態で円孔閉鎖が得られた症例を3例認めた(図3~5).これらの症例では術中に網膜下液の排除は行っておらず,網膜復位に先立ち翻転され円孔間を架橋した内境界膜により円孔閉鎖が開始している.その後架橋した内境界膜の直下からグリアと思われる細胞の増殖により網膜内層の閉鎖が完成し,徐々に網膜下液が消失して網膜復位を得ている(図5).前述したようにMichalewskaらは大型黄斑円孔の閉鎖において,翻転した内境界膜がグリア細胞の増殖の足場となり,円孔内が増殖した細胞で満たされ円孔閉鎖を促している可能性があると推察しているが,筆者らの経験したMHRDの円孔閉鎖過程とまさに一致しており,彼らの仮説を支持している可能性が示唆される.また,黄斑円孔閉鎖のプロセスそのものが,必ずしも網膜復位により惹起されるものではないという可能性が考えられる.IV今後の課題今まで述べてきたように,内境界膜翻転法はMHRDにおける黄斑円孔の閉鎖に有効である可能性が高いが,一方で翻転した内境界膜が確実に円孔を覆うように翻るとは限らない.翻転した内境界膜を円孔内に埋めるようにすれば,確実に覆うことができるかもしれないが円孔を拡大させてしまう可能性があり,手技的にはまだ発展途上といえるかもしれない.つぎにアーケード内の残りの内境界膜をできるだけ広範囲に.離し,硝子体カッターにより翻転した内境界膜を適宜トリミングするが,必ず低吸引下(50mmHg程度)で行う必要がある.少しでも吸引を上げると翻転した内境界膜全体を吸引してしまい,これまでの苦労がすべて水の泡となる.トリミングはほんのわずかでよいか,もしくは行わなくてもよいくらいである.なぜなら内境界膜はある程度勝手に翻ってくれるが,術者の意図するように円孔を覆うように翻ってくれるとは限らないので,残った内境界膜の面積が少ないと円孔を完全に覆いきれない可能性があるからである.また,翻転した内境界膜を円孔内に埋めるようにすれば,確実に覆うことができるかもしれないが,操作の過程で誤れば円孔を拡大してしまう可能性があり慎重を要すると思われる.3.周辺硝子体切除および眼内液―空気置換続いて周辺の硝子体切除を行うが,このときに後部硝子体.離を可能な限り広げておく(図1d).また,MHRDの網膜下液は粘稠であることが多いが,網膜下液を排除する必要はない.網膜下液が残っているほうが網膜までの距離が近く,粘稠な下液が固いベッドのようになるため内境界膜を.離しやすい.一方で網膜下液の排除を試みることにより色素上皮を擦過・損傷する場合があり,その場合,網膜の萎縮は拡大する可能性がある.粘稠な下液が黄斑円孔から出てくる際に円孔がかえって大きくなる場合もある.また,内境界膜を.離翻転した後に下液を吸引しようとすると内境界膜ごと吸引してしまう可能性がある.眼内液─空気置換の際も視神経乳頭の鼻側で吸引を行う.内境界膜を吸引してしまう可能性があるので円孔付近では吸引を行ってはならない.網膜下液は残っていても問題ないのでそのままにしておく.また,眼球をやや鼻側に傾けるようにして吸引を行うと後部ぶどう腫内に貯留した硝子体液を吸引しやすい.4.眼内タンポナーデその後,長期ガスかシリコーンオイルタンポナーデを行う.長期滞留ガスであれば数日のうつ伏せが必要であるが,シリコーンオイルならばうつ伏せの必要はない.あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015185(13)abcde図4内境界膜翻転法を施行した黄斑円孔網膜.離の症例2a,b:術前(a),術後(b)の眼底写真.c:術前の光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)画像.d,e:術後3日(d),術後6カ月(e)のOCT.黄斑円孔の閉鎖および網膜復位が得られている.abc図3内境界膜翻転法を施行した黄斑円孔網膜.離の症例1a:光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)により明らかに黄斑円孔網膜.離を認める.b:硝子体手術後1日目のOCT.シリコーンオイルを留置しているため鮮明な画像が得られている.黄斑円孔は閉鎖し網膜は復位している.c:術後1カ月のOCT.黄斑円孔の閉鎖および網膜復位が得られている.abcde図4内境界膜翻転法を施行した黄斑円孔網膜.離の症例2a,b:術前(a),術後(b)の眼底写真.c:術前の光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)画像.d,e:術後3日(d),術後6カ月(e)のOCT.黄斑円孔の閉鎖および網膜復位が得られている.abc図3内境界膜翻転法を施行した黄斑円孔網膜.離の症例1a:光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)により明らかに黄斑円孔網膜.離を認める.b:硝子体手術後1日目のOCT.シリコーンオイルを留置しているため鮮明な画像が得られている.黄斑円孔は閉鎖し網膜は復位している.c:術後1カ月のOCT.黄斑円孔の閉鎖および網膜復位が得られている.186あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(14)長期経過観察の報告が待たれる.文献1)KadonosonoK,YazamaF,ItohNetal:Treatmentofretinaldetachmentresultingfrommyopicmacularholewithinternallimitingmembraneremoval.AmJOphthalmol131:203-207,20012)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invertedinternallimitingmembraneflaptechniqueforlargemacularholes.Ophthalmology117:2018-2025,20103)KuriyamaS,HayashiH,JingamiYetal:Efficacyofinvertedinternallimitingmembraneflaptechniqueforthetreatmentofmacularholeinhighmyopia.AmJOphthalまた,架橋した内境界膜の接着およびそこから閉鎖のプロセスの詳細はまだよくわかっていない.そして網膜下液上で黄斑円孔の閉鎖を得られるのであれば,網膜が過度に伸展された状態で閉鎖を得るよりも,網膜がよい形態を保持できる可能性があるかもしれない.さらに網膜下液の排除を行っていなければ,そこからゆっくりと網膜復位が進んでいくので網膜内層の形態保持にはよい可能性も考えられる.今後の研究が待たれるところである.また,本法を用いた術後に網膜色素上皮の萎縮をきたした症例があるとの報告もある10).このように翻転した内境界膜の長期的な網膜外層への影響は不明であり,cdefabgh図5網膜下液が残存した状態で黄斑円孔閉鎖が得られた黄斑円孔網膜.離の症例3a,b:術前(a),術後(b)の眼底写真.c:術前の光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)画像.d:術後1日目のOCT.残存した網膜下液の上で翻転した内境界膜が円孔上を橋渡しするように存在している(矢印).e:術後2週のOCT.円孔上を橋渡しされた内境界膜の下で円孔閉鎖が生じており,網膜下液はほんのわずかだが吸収されている.f:術後2カ月のOCT.橋渡しされた内境界膜下から円孔閉鎖は促進されている.g:術後3カ月のOCT.網膜下液は残存しているが,網膜内層の完全閉鎖が得られた.h:術後11カ月のOCT.網膜下液がわずかに残った状態で黄斑円孔は閉鎖している.cdefabgh図5網膜下液が残存した状態で黄斑円孔閉鎖が得られた黄斑円孔網膜.離の症例3a,b:術前(a),術後(b)の眼底写真.c:術前の光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)画像.d:術後1日目のOCT.残存した網膜下液の上で翻転した内境界膜が円孔上を橋渡しするように存在している(矢印).e:術後2週のOCT.円孔上を橋渡しされた内境界膜の下で円孔閉鎖が生じており,網膜下液はほんのわずかだが吸収されている.f:術後2カ月のOCT.橋渡しされた内境界膜下から円孔閉鎖は促進されている.g:術後3カ月のOCT.網膜下液は残存しているが,網膜内層の完全閉鎖が得られた.h:術後11カ月のOCT.網膜下液がわずかに残った状態で黄斑円孔は閉鎖している.