眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋335.Sub-SurfaceNanoGlisteningsと視機能高橋依子金沢医科大学眼科学教室疎水性アクリル眼内レンズのSub-SurfaceNanoGlistenings(以下SSNG)は術後経過とともに増加し,視機能への影響が懸念されている.SSNGの光学シミュレーションではSSNGの密度やサイズが増大すると前方散乱の増加および網膜照度の低下を生じるが,Modulationtransferfunction(MTF,空間周波数特性)の低下はきわめて軽度であった.網膜疾患のない症例においては,SSNGの視機能への影響は軽微であると考えられた.疎水性アクリル眼内レンズでは挿入後長期経過とともに表面散乱光が増加し,光学部前後面が混濁することがある(図1)1).これはホワイトニングやSub-SurfaceNanoGlistenings(以下SSNG)と呼ばれ,眼内レンズ表面下に発生した約100nmサイズの水粒子である.SSNGの原因は水相分離現象で,疎水性アクリル眼内レンズは,生体内で温度上昇するとポリマー内の含水率が増加するが,温度が下がると析出した水分がポリマー内の空洞に貯留する.光学部表面と内部では表面のほうがアクリルポリマー重合が弱いため,眼内レンズ表面下に小水粒子が発生する2).疎水性アクリル眼内レンズのなかでもアクリソフ眼内レンズにおけるSSNGの発生は顕著であり,経年的に増え続け細隙灯顕微鏡で眼内レンズ光学部が白く混濁し図1SSNG症例の細隙灯顕微鏡写真アクリル眼内レンズの光学部表面に白色の混濁を認める.て見えるため,視機能への影響が懸念されている.しかし,アクリソフ眼内レンズの表面散乱光強度は術後経過に伴い増加するが,視力およびコントラスト感度への影響は少ないと報告1)されている.筆者らがアクリソフ眼内レンズを挿入した64症例について検討した結果でも,表面散乱光強度は術後経過期間に伴い増加するが(図2),視力,コントラスト視力,全高次収差および網膜像コントラストには影響がなかった.Ongらは,摘出眼内レンズを電子顕微鏡で観察し,SSNGは眼内レンズ表面から約120μm(多くは60μm)までの深さに発生し,直径は約200nm以下であると報告している3).論文データから推定すると,SSNGが発生する眼内レンズ表面付近におけるSSNGの体積比は最大で0.05.0.1%程度であると考えられる.これらの情報をもとに光学設計ソフトCODEV&LightTools(Synopsys社)を使用した光学シミュレーションを行った.SSNGの密度やサイズが増大すると前方散乱の増加(図3)および網膜照度の低下(図4)を生じるが,MTFの低下はきわめて軽度であり視機能への影響は低いこと後方散乱光強度(cct)2502001501005005y=0.0482x+19.93R2=0.708(p<0.01)10手術後経過年数(year)図2術後経過期間と眼内レンズ前面後方散乱光強度眼内レンズ挿入後術後経過年数が経つにつれて,眼内レンズ前面後方散乱光強度は長期にわたり有意に増加した.(87)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413350910-1810/14/\100/頁/JCOPYSSNG体積比率0%SSNG体積比率0.1%粒子サイズ200nm深さ:0~120μmSSNG体積比率0%SSNG体積比率0.1%粒子サイズ200nm深さ:0~120μm光線本数:10,000本図3SSNGと前方散乱SSNGのサイズや体積比率が増加するにつれ前方散乱は増加した.Volumeratio0.00%0.10%0.20%Peakvalueof100%93.0%86.5%irradiance図4SSNGの体積比率と網膜放射照度ピーク値SSNGの体積比率が増加すると網膜放射照度ピーク値は減少した.が示唆された(図5)4).シミュレーションではSSNGの粒子サイズの増大,密度の増加につれて網膜放射照度は低下し,SSNGにより前方散乱を認めたが,臨床上では生じる可能性のない密度0.2%(サイズ150nm,深さ120μm,前後面)というきわめて高度のSSNGでも,網膜照度の低下は13.5%程度であり,網膜照度低下による視機能低下は考えにくいことが明らかになった(図4).一方で高度のSSNG症例において,アクリソフ眼内レンズを摘出・交換し術後視機能が改善したという報告5)もある.これまでのレンズ摘出症例に関する報告は,ほとんどが網膜疾患のある症例あるいは硝子体術後症例1.00.80.60.40.20.0MTF粒子サイズ150nm深度0~60μm体積比率0%体積比率0.10%020406080100120140160180200空間周波数(c/mm)図5SSNG体積比率とMTFSSNGの体積比率が増加してもMTFの低下は認められなかった.であり,網膜機能が低下している場合,高度のSSNGが視機能へ影響する可能性は否定できない.しかし,網膜機能に異常がない健常眼であれば,日常臨床でみられる程度のSSNGにより視機能低下を生じる可能性はきわめて低いと考えて良い.近年,アクリソフ眼内レンズはその製造工程を変えており,改良型アクリソフ眼内レンズの表面散乱光強度は改良前と比較し大幅に低減される可能性が高く,SSNGによる視機能への影響は今後さらに軽減すると考えられる.文献1)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:Effectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,20122)MatsushimaH,MuraiK,NagataMetal:Analysisofsurfacewhiteningofexteractedhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg35:1932-1934,20093)OngMDetal:Etiologyofsurfacelightscatteringonhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1833-1844,20124)TakahashiY,KawamoritaT,MitaNetal:Opticalsimulationforsub-surfacenanoglistening.JCataractRefractSurg,inpress5)YoshidaS,MatsushimaH,NagataMetal:Decreasedvisualfunctionduetohigh-levellightscatteringinahydrophobicacrylicintraocularlens.JpnJOphtalmol55:62-66,2011