あたらしい眼科30(4):487.498,2013c総説免疫抑制点眼薬の使用指針─春季カタル治療薬の市販後全例調査からの提言─GuidanceonClinicalUseofImmunosuppressiveOphthalmicSolution─RecommendationsfromAll-Prescribed-PatientStudiesinTreatmentofVernalKeratoconjunctivitis─春季カタル治療薬研究会*代表;大橋裕一会員(五十音順);内尾英一,海老原伸行,岡本茂樹,熊谷直樹,庄司純,高村悦子,中川やよい,南場研一,福島敦樹,藤島浩,宮﨑大〔免疫抑制点眼薬の臨床的位置づけを確立し,春季カタル治療に貢献することを目的として,2006年4月15日付にて設立された研究会である.〕はじめに体内で過剰に起こっている免疫応答を抑制しようとする一連の薬剤は免疫抑制薬と総称され,その作用点あるいは標的細胞の違いによって,代謝阻害薬,カルシニューリン阻害薬,生物製剤,副腎皮質ホルモンに大別される.近年,免疫抑制薬の眼疾患への適用が拡大し,春季カタルを効能とするシクロスポリンおよびタクロリムス点眼薬,Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎を効能とするインフリキシマブ点滴静注用,加齢黄斑変性症を効能とするラニビズマブ硝子体内注射液などが上市され,眼科診療に供されている.このうち,シクロスポリンおよびタクロリムスは,その化学構造が大きく異なるにもかかわらず,ともにT細胞内のカルシニューリンを阻害することでIL(インターロイキン)-2産生を抑制し,細胞性免疫機構を制御することから,カルシニューリン阻害薬ともよばれる.眼科領域ではカルシニューリン阻害薬に属するシクロスポリン点眼液0.1%(パピロックRミニ点眼液0.1%)およびタクロリムス点眼液0.1%(タリムスR点眼液0.1%)が「抗アレルギー剤が効果不十分な春季カタル」に対する希少疾病用医薬品として市販されている.いずれも,直接の標的蛋白であるイムノフィリンとの結合後に複合体としてカルシニューリンの働きを阻害し,T細胞からのIL-2産生を抑制することにより,その免疫抑制効果を発揮する.シクロスポリンは,真菌TolypocladiuminflatumGamsの培養濾液中から分離された11個のアミノ酸からなる疎水性の環状ポリペプチドで,1978年,腎移植および骨髄移植における拒絶反応抑制薬として承認された.現在は,肝,心,肺,膵移植における拒絶反応抑制,Behcet病,乾癬,再生不良性貧血,赤芽球癆,ネフローゼ症候群,重症筋無力症,アトピー性皮膚炎などへの適応が追加されている.タクロリムスは,つくば市の土壌から分離した放線菌Streptomycestsukubaensisが産生する23員環のマクロライド系化合物で,1989年,臓器移植時の拒絶反応抑制薬として米国において緊急承認された歴史を持つ.その後は,重症筋無力症,関節リウマチ,ループス腎炎,難治性の活動期潰瘍性大腸炎への内服使用,アトピー性皮膚炎への局所塗布が認可され,広く使用されている.春季カタルは,石垣状の巨大乳頭形成,輪部腫脹,シールド潰瘍を主徴とし,学童に好発する重症,難治性のアレルギー性結膜疾患としてよく知られているが,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)を軸とした治療では十分なコントロールが困難なことが多く,新たな治療法が模索されていた.そうした背景のなかの1986年,*StudyGroupforVernalKeratoconjunctivitisTreatment〔別刷請求先〕大橋裕一:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(59)487BenEzraらにより,オリーブ油に溶解した2%シクロスポリン点眼薬による春季カタルへの点眼治療の有効性が示された.その後もGupta,Secciらにより同様の報告が続いたが,点眼時の不快感や眼瞼炎の発症などが障害となり製品化には至らなかった.しかしながら,その後わが国において,パピロックRミニ点眼液0.1%(参天製薬株式会社),およびタリムスR点眼液0.1%(千寿製薬株式会社)の臨床試験が世界に先駆けて行われ,その臨床的有用性が実証された.いずれの点眼薬についても市販後に全例調査が行われ,1,000例を超える登録症例のなか,その有効性,安全性が再確認されるとともに薬効特性も明らかとなってきた.カルシニューリン阻害薬の全身投与時の副作用として腎毒性に注意が必要であるが,両点眼薬とも眼局所に投与するため,重篤な全身性の副作用が発現するリスクはきわめて低い.本指針は,春季カタル治療薬研究会が中心となって実施した免疫抑制点眼薬の市販後全例調査の結果に基づき,免疫抑制点眼薬の治療指針について総括するものである.I各全例調査における疫学的背景シクロスポリン点眼液0.1%の全例調査1)は2006年1月.2008年2月に実施され,安全性評価対象は2,647例,このうち春季カタル症例は2,597例であった.タクロリムス点眼液0.1%の全例調査は2008年5月.2011年9月に実施され,安全性評価対象は1,827例,このうち春季カタル症例は1,821例であった.各全例調査における春季カタル症例の患者背景を表1に示す.性,年齢,春季カタル病型およびアレルギー疾患合併症といった患者背景は両調査とも同様の傾向を示した.すなわち,男女比は7割強を男性が占め,過去の疫学調査2)と同様の結果であった.年齢は10代が最も多く4割以上を占め,10歳未満を含めると6割以上が未成年であった.春季カタル病型は眼瞼型(palpebraltype)が最も多く,ついで混合型(mixedtype),輪部型(limbaltype)の順であった.アレルギー疾患の合併割合(合併症の有無が不明の症例を除く)では,アトピー性皮膚炎を合併するものが4割以上を占めていた.各薬剤を投与する前の重症度は,他覚所見合計スコア〔他覚10所見(各所見スコア:0.3)3)の合計〕の平均値が,シクロスポリン点眼液0.1%で13.3,タクロリムス点眼液0.1%で14.2とタクロリムス点眼液0.1%投与例のほうがやや重症であった.各全例調査における春季カタルの治療状況を表2に示す.シクロスポリン点眼液0.1%もしくはタクロリムス表1患者背景シクロスポリン点眼液タクロリムス点眼液項目0.1%(2,597例)0.1%(1,821例)例数(%)例数(%)性別男性1,89573.0%1,35074.1%女性70227.0%47125.9%年齢平均値±標準偏差19.4±13.3歳19.3±14.2歳10歳未満51819.9%46125.3%10歳代1,13443.7%73940.6%20歳代47118.1%24213.3%30歳代28210.9%21912.0%40歳以上1927.4%1608.8%病型分類眼瞼型1,05640.7%81744.9%輪部型34113.1%21311.7%混合型69126.6%56631.1%その他・不明50919.6%22512.4%アレルギー疾患アトピー性皮膚炎1,10044.2%80244.1%合併症アレルギー性鼻炎44017.7%40122.1%喘息37615.1%29816.4%投与前重症度自覚症状合計スコア(18点満点)7.2±4.27.6±4.5平均値±標準偏差他覚所見合計スコア(30点満点)13.3±5.414.2±5.5488あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(60)表2治療状況シクロスポリン点眼液タクロリムス点眼液項目0.1%(2,597例)0.1%(1,821例)例数(%)例数(%)おもな前治療薬抗アレルギー点眼薬1,44455.6%1,02657.3%ステロイド点眼薬1,54159.3%99255.4%ステロイド内服薬983.8%643.6%自家調製シクロスポリン点眼薬1676.5%60.3%シクロスポリン点眼液0.1%(.)(.)56931.8%おもな併用薬剤抗アレルギー点眼薬1,39153.6%1,11861.4%ステロイド点眼薬1,63863.1%1,00655.2%ステロイド内服薬1485.7%864.7%投与期間1カ月未満64624.9%30616.8%1カ月以上2カ月未満36013.9%24113.2%2カ月以上3カ月未満2429.3%21511.8%3カ月以上6カ月未満63024.3%59032.4%6カ月以上71427.5%46925.8%点眼液0.1%ともに前治療薬として抗アレルギー点眼薬およびステロイド点眼薬が半数以上の症例で使用されていた.シクロスポリン点眼液0.1%では,自家調製シクロスポリン点眼薬からの切り替え例が6.5%あり,一方,タクロリムス点眼液0.1%では,シクロスポリン点眼液0.1%からの切り替え例が31.8%を占めた.併用薬剤(各薬剤の投与期間中に一度でも併用した薬剤)については,抗アレルギー点眼薬の併用割合はシクロスポリン点眼液0.1%投与例の53.6%,タクロリムス点眼液0.1%投与例の61.4%とタクロリムス点眼液0.1%投与例のほうが多く,ステロイド点眼薬の併用割合はシクロスポリン点眼液0.1%投与例の63.1%,タクロリムス点眼液0.1%投与例の55.2%とシクロスポリン点眼液0.1%投与例のほうが多かった.シクロスポリン点眼液0.1%,タクロリムス点眼液0.1%それぞれの投与期間の分布は,シシクロスポリン点眼液0.1%クロスポリン点眼液0.1%で投与期間1カ月未満の症例が24.9%とやや多かったが,両薬剤とも投与期間6カ月以上の症例が25%以上を占めた.II免疫抑制点眼薬の効果と副作用本項では,全例調査により明確となったシクロスポリン点眼液0.1%およびタクロリムス点眼液0.1%の効果と副作用について概説する.1.春季カタル病型別にみた免疫抑制点眼薬の効果春季カタルの治療では病型に応じた免疫抑制点眼薬の使い方が求められることから,病型による効果の違いを知っておく必要がある.春季カタルは,臨床所見により眼瞼型,輪部型および混合型の3病型に分類される.シクロスポリン点眼液0.1%およびタクロリムス点眼タクロリムス点眼液0.1%***************036912151821242730開始時1カ月2カ月3カ月6カ月終了時:眼瞼型(n=955):輪部型(n=318):混合型(n=645)スコア***************036912151821242730開始時1カ月2カ月3カ月6カ月終了時:眼瞼型(n=796):輪部型(n=208):混合型(n=555)スコア*p<0.001,対応のあるt検定図1春季カタル病型別の他覚所見合計スコアの推移(61)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013489液0.1%の各全例調査における,他覚所見合計スコアの推移を春季カタル病型別に検討した(図1).なお,他覚所見合計スコアは10所見(各所見スコア:0.3)3)の合計スコアであり,最小値0,最大値30となる.両免疫抑制点眼薬ともにすべての病型について投与1カ月目より有意なスコアの低下を示した.特に輪部型では投与早期より著明な低下を示したことから,輪部型春季カタルは免疫抑制点眼薬の良い適応となることが示唆された.一方,眼瞼型に対する効果は2者でやや異なり,シクロスポリン点眼液0.1%に比べるとタクロリムス点眼液0.1%の効果が強かった.2.免疫抑制点眼薬使用によるステロイド薬からの離脱春季カタル治療は長期に及ぶことも多いため,ステロイド薬の長期使用による眼圧上昇,白内障,眼感染症などの副作用が問題となることもあり,ステロイド薬から100シクロスポリン点眼液0.1%(n=676)の離脱が課題であった.シクロスポリン点眼液0.1%およびタクロリムス点眼液0.1%の各全例調査における,ステロイド点眼薬離脱率の推移を検討した(図2).なお,検討対象は免疫抑制点眼薬投与前からステロイド点眼薬を使用し,かつ,免疫抑制点眼薬を6カ月以上使用した症例である.6カ月時点の離脱率はシクロスポリン点眼液0.1%が33.6%,タクロリムス点眼液0.1%が51.8%であり,免疫抑制点眼薬の登場によりステロイド点眼薬からの離脱も可能であることが全例調査の結果から明らかとなった.3.免疫抑制点眼薬の副作用シクロスポリン点眼液0.1%およびタクロリムス点眼液0.1%の各全例調査で認められたおもな副作用を表3に示す.シクロスポリン点眼液0.1%で最も多い副作用は眼刺激(2.53%)であった.タクロリムス点眼液0.1%100タクロリムス点眼液0.1%(n=398)33.6%離脱率(%)202000投与開始時1カ月2カ月3カ月6カ月:なし■:フルオロメトロン■:プレドニゾロン■:デキサメタゾン■:ベタメタゾン■:複数使用図2ステロイド点眼薬離脱率の推移表3免疫抑制点眼薬の副作用51.8%8080離脱率(%)60604040投与開始時1カ月2カ月3カ月6カ月シクロスポリン点眼液0.1%副作用例数(%)安全性評価対象症例2,647副作用あり197(7.44%)眼障害141(5.33%)眼刺激67(2.53%)眼そう痒症17(0.64%)点状角膜炎13(0.49%)流涙増加12(0.45%)感染症および寄生虫症40(1.51%)麦粒腫10(0.38%)細菌性結膜炎9(0.34%)ヘルペス性角膜炎8(0.30%)細菌性角膜炎7(0.26%)タクロリムス点眼液0.1%副作用例数(%)安全性評価対象症例1,827副作用あり186(10.18%)眼障害157(8.59%)眼部熱感74(4.05%)眼刺激52(2.85%)結膜充血13(0.71%)眼痛11(0.60%)感染症および寄生虫症27(1.48%)麦粒腫9(0.49%)細菌性角膜炎3(0.16%)ヘルペス性角膜炎3(0.16%)眼瞼ヘルペス3(0.16%)下線部は器官別大分類.490あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(62)では眼部熱感(4.05%)と眼刺激(2.85%)が多く,適用部位での刺激症状はタクロリムス点眼液0.1%のほうが多かった.感染症に関しては,両剤とも1.5%程度の発現頻度であるが,特に角膜感染症では重症化する場合もあることから注意が必要である.III免疫抑制点眼薬の使い方1.免疫抑制点眼薬の適用とパターン治療春季カタルに対して最初に試みる点眼薬は,抗アレルギー点眼薬(メディエータ遊離抑制薬・ヒスタミンH1受容体拮抗薬)である.しかし,抗アレルギー点眼薬での単独治療に抵抗する症例では,抗アレルギー点眼薬とステロイド点眼薬または免疫抑制点眼薬との併用が必要である.ただし,免疫抑制点眼薬の適用に際してはステロイド薬との併用もしくは使い分けを十分に検討する必要がある.そこで,治療に免疫抑制点眼薬を適用する場合は,治療薬の使用方法をパターン1.4に分類し(図3),春季カタルの重症度に対応するパターンを選択して治療を行う『パターン治療』で行うと治療方針を明確化しやすい.治療などにより春季カタルの重症度に変化が生じた場合には,パターン変更して治療を行うことが,薬剤の適正使用に繋がると考えられる.ただし,薬理学的にみられる免疫抑制効果は,シクロスポリン点眼液0.1%よりもタクロリムス点眼液0.1%が強いため,パターン方式の適用を熟知し,臨床効果を十分に観察する必要がある.以下にパターン治療における各パターンの適用について述べる.2.免疫抑制点眼薬使用のためのパターン治療春季カタルのパターン治療のためのプロトコールは図3に示したとおりであり,シクロスポリン点眼液0.1%を用いた治療プロトコールとタクロリムス点眼液0.1%を用いた治療プロトコールとでは若干の相違があり,ステロイド薬の使用についても考慮の余地があるため,以下に各パターン治療の考え方について述べる.a.免疫抑制点眼薬を中心とした治療指針1)パターン1パターン1は,治療により寛解期または鎮静期に至った症例に対して,再発予防を目的とした治療の際に用いられる.また,ごく軽症例の場合に限り抗アレルギー点眼薬の単独使用による治療が有効なことがある.2)パターン2aパターン2aは軽症から中等症の症例に適用され,抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬との2者併用療法が基本である.シクロスポリン点眼液0.1%を用いたパターン2aは,眼瞼型もしくは混合型の軽症例に対して用いる.また,輪部型はパターン2aの良い適応である.タクロリムス点眼液0.1%を用いたパターン2aは,眼瞼型,輪部型および混合型の軽症から中等症例に対して用いる.また,急性増悪例,ステロイド薬抵抗例,ステロイド薬離脱困難例,シクロスポリン抵抗例などの重症例または難治例に対しても,まずパターン2aを試みる.3)パターン3抗アレルギー点眼薬,免疫抑制点眼薬およびステロイ抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン1パターン2aパターン2bパターン3パターン4重症※2※1※1:シクロスポリン点眼液ルート※2:タクロリムス点眼液ルートステロイド薬(内服)(瞼結膜下注射)図3春季カタルのパターン治療のためのプロトコール軽症(63)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013491ド点眼薬によるパターン3は,シクロスポリン点眼液0.1%では中等症から重症例,タクロリムス点眼液0.1%では重症例に対して用いる.また,パターン2aによる治療中に症状が急性増悪した場合にはパターン3を行う.ステロイド点眼薬の併用は,副作用を考慮して短期間にとどめ,症状が軽快したらただちにステロイド点眼薬を漸減または中止することが望ましい.シクロスポリン点眼液0.1%を用いた治療の場合には,初期から積極的にパターン3を行い,症状が軽快するとともにパターン2aにレベルダウンする使用法が推奨され,これによりステロイド点眼薬の使用期間も短縮される.一方,タクロリムス点眼液0.1%を用いた治療の場合には,パターン2aの治療中に急性増悪した場合にパターン3にレベルアップする方法が推奨される.4)パターン4パターン4は,抗アレルギー点眼薬,免疫抑制点眼薬およびステロイド点眼薬のパターン3にステロイド薬瞼結膜下注射もしくはステロイド内服薬などの点眼薬以外のステロイド薬を併用するもので,重症例や難治例に対して用いる.シクロスポリン点眼液0.1%を用いて治療を行う場合,重症のアレルギー炎症を早期に沈静化させた後,シクロスポリン点眼液0.1%を用いて維持するという観点から,パターン4から3,2aへとレベルダウンしながら,増悪したらパターン3へとレベルアップ,もしくは4へとジャンプアップしてやり直す方法が推奨される.タクロリムス点眼液0.1%を用いて治療を行う場合,急性増悪時にパターン2aから3へとレベルアップ,もしくは4へとジャンプアップして治療を行い,鎮静化したらパターン2aに戻る方法が推奨される.パターン4は,重症例,難治例または急性増悪例に対して緊急避難的に行われる治療であるため,頻用すべきではない.また,使用するステロイド薬の量も多いため,眼圧上昇(ステロイド緑内障),白内障,前眼部感染症などの副作用に十分注意すべきで,気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの合併するアレルギー疾患の経過も含めて厳重な管理の下で行われる治療法である.b.ステロイド薬を用いた治療パターン2b軽症または中等症の春季カタルに対して,抗アレルギー点眼薬とステロイド点眼薬により治療が行われる場合がある.抗アレルギー点眼薬とステロイド点眼薬の2剤による治療を行っても十分な治療効果が得られない場合492あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013には,免疫抑制点眼薬を用いた治療が必要であるが,シクロスポリン点眼液0.1%で治療する場合とタクロリムス点眼液0.1%で治療する場合とで治療方針が異なる.シクロスポリン点眼液0.1%で治療する場合には,まず抗アレルギー点眼薬およびステロイド点眼薬にシクロスポリン点眼液0.1%を加えて,パターン3を行う(図3※1:シクロスポリン点眼液ルート).つぎに,シクロスポリン点眼液0.1%の効果が発現される時期を見きわめてステロイド点眼薬を漸減する.ステロイド点眼薬とシクロスポリン点眼液0.1%との単純切り替えは行わないようにするが,ステロイド点眼薬は,最終的には中止して抗アレルギー点眼薬とシクロスポリン点眼液0.1%とのパターン2aにすることで,ステロイド点眼薬の早期離脱が可能となる.タクロリムス点眼液0.1%で治療する場合には,ステロイド点眼薬をタクロリムス点眼液0.1%に切り替えて,抗アレルギー点眼薬とタクロリムス点眼液0.1%とのパターン2aを試みる(図3※2:タクロリムス点眼液ルート).タクロリムス点眼液0.1%は,ステロイド点眼薬との単純切り替えによる治療変更が可能であるため,ステロイド薬抵抗例やステロイド薬離脱困難例に対しても適応がある.3.春季カタルに対するパターン治療の代表例〔症例1〕輪部型春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%での治療患者:17歳,男性.主訴:両眼の充血,そう痒感.現病歴:約5年前から1年に4回程度の両眼充血が出現し,近医で治療を受けていた.2010年3月初旬から両眼の充血が再度出現し,市販の点眼薬や近医で処方された抗アレルギー点眼薬を使用していた.しかし,充血に眼脂や異物感などの症状が加わり,病状が悪化したため紹介受診となった.既往歴:スギ花粉症.初診時所見:初診時,両眼の眼瞼結膜にはビロード状乳頭増殖がみられたが,巨大乳頭はみられなかった.眼球結膜は高度に充血し,輪部には堤防状隆起とトランタス斑がみられた(図4).角膜には軽度の点状表層角膜炎がみられた.〔治療経過〕本症例は,増殖性結膜病変である輪部堤防状隆起がみ(64)抗アレルギー薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)治療前点眼治療後1週間図4症例1の前眼部所見治療前には,輪部堤防状隆起およびトランタス斑がみられるが,シクロスポリン点眼による治療開始後1週間目で輪部病変が軽快している.ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2aパターン3パターン4重症軽症ステロイド薬(内服)(瞼結膜下注射)ステロイド薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2bパターン1図5症例1でのパターン治療られることから,輪部型春季カタルと診断することができたため,インタールR点眼液UD0.2%(1日4回)とシクロスポリン点眼液0.1%(パピロックRミニ点眼液0.1%)(1日3回)との併用療法で治療を行った.治療開始後1週間目には,両眼の眼瞼結膜および眼球結膜充血は軽減し,輪部堤防状隆起は消失した(図4).〔コメント〕本症例は,数年前から通年性に症状の発現がみられ,治療の長期化が予想された.また,スギ花粉飛散期に抗アレルギー点眼薬を使用しても増悪する臨床所見(輪部堤防状隆起)から,免疫抑制点眼薬の追加が適当と判断された症例である(図5).臨床症状が季節により増悪と寛解を繰り返す症例では,ステロイド点眼薬の長期使用による副作用(眼圧上昇)や離脱困難を考慮して,免疫抑制点眼薬が良い適用となる.春季カタルとしては軽症例と診断できるが,輪部型春季カタルに対してはシクロスポリン点眼液0.1%が有効である.〔症例2〕ステロイド薬抵抗性春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%での治療患者:21歳,男性.主訴:両眼の眼そう痒感,霧視.現病歴:約1カ月前から近医で流行性角結膜炎とアレ(65)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013493初診時点眼治療後1カ月初診時点眼治療後1カ月ルギー性結膜炎の治療を受けていた.角膜上皮障害が軽快しないために紹介受診した.既往歴:アレルギー性鼻炎,気管支喘息,アトピー性皮膚炎.初診時所見:初診時には,両眼の眼瞼結膜は高度に充血し,部分的に巨大乳頭がみられた.また,眼球結膜には充血がみられるとともに,輪部には堤防状隆起がみられた(図6).角膜には異常所見はなかった.〔治療経過〕本症例が受診時に使用していた近医で処方された治療薬を表4に示した.本症例を混合型春季カタルの中等症例と診断し,初診時にトリアムシノロン瞼結膜下注射(初診時1回)およびインタールR点眼液UD0.2%(両眼:1日3回),シクロスポリン点眼液0.1%(パピロッ表4症例2に対する処方薬剤前医処方初診時処方・クラビットR点眼液0.5%・トリアムシノロン結膜下注射両眼:1日3回初診時:1回・フルメトロンR点眼液0.1%・パピロックRミニ点眼液0.1%両眼:1日3回両眼:1日3回・タリビッドR眼軟膏0.3%・インタールR点眼液UD0.2%右眼:1日1回就寝前両眼:1日3回・リンデロンR点眼・点耳・点鼻液0.1%両眼:1日3回図6症例2の前眼部所見初診時には,巨大乳頭増殖および輪部堤防状隆起がみられたが,点眼治療後1カ月目には巨大乳頭が軽減し,輪部堤防状隆起は消失している.クRミニ点眼液0.1%)(両眼:1日3回),リンデロンR点眼・点耳・点鼻液0.1%(両眼:1日3回)の処方を行った.治療開始後1週間目に巨大乳頭の軽快,輪部堤防状隆起の消失がみられたため,ステロイド点眼薬の使用を中止し,使用する点眼薬をインタールR点眼液UD0.2%(両眼:1日3回)とシクロスポリン点眼液0.1%(両眼:1日3回)とに変更した.その後は,寛解状態が維持されている(図6).〔コメント〕本症例は,春季カタルの急性増悪例で,パターン4からパターン2aへとレベルダウンしていく方向で治療を行った症例である.シクロスポリン点眼液0.1%を用いて春季カタルの治療を行う場合,パターン3により早期にアレルギー炎症をリセットし,パターン2aにより寛解状態を維持することが重要である.この治療方針のポイントは,早期にステロイド薬を十分量使用することであるが,本症例が急性増悪例であったことから,初診時に1回だけトリアムシノロン瞼結膜下注射を施行している(図7).また,シクロスポリン点眼液0.1%を併用することにより早期のステロイド薬離脱が可能になるとともに,アレルギー炎症のコントロールが容易になると考えられる.494あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(66)抗アレルギー薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2aパターン3パターン4重症軽症ステロイド薬(内服)(瞼結膜下注射)ステロイド薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2bパターン1図7症例2でのパターン治療初診時点眼治療後2週間点眼治療後6カ月〔症例3〕重症混合型春季カタルに対するタクロリムス点眼液0.1%での治療患者:18歳,男性.主訴:両眼の充血,眼脂.現病歴:2年前からアレルギー性結膜炎と診断され,抗アレルギー点眼薬で加療していた.6月頃から症状が急激に増悪したため受診した.既往歴:アレルギー性鼻炎,気管支喘息.初診時所見:初診時には,両眼の眼瞼結膜は高度に充血し,右眼には部分的に巨大乳頭の形成がみられた.また,右眼輪部の一部に輪部堤防状隆起とトランタス斑がみられた(図8).〔治療経過〕初診時から,インタールR点眼液UD0.2%(1日4回)図8症例3の前眼部所見初診時には,巨大乳頭および輪部のトランタス斑がみられた.点眼治療後2週間目にはトランタス斑が,点眼治療後6カ月目には巨大乳頭は消失している.(67)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013495抗アレルギー薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2aパターン3パターン4重症軽症ステロイド薬(内服)ステロイド薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2bパターン1図9症例3でのパターン治療およびタクロリムス点眼液0.1%(タリムスR点眼液0.1%)(1日2回)のパターン2aを行ったところ,タクロリムス点眼液0.1%開始後2週間目には,巨大乳頭が軽減し,輪部堤防状隆起とトランタス斑は消失した.また,パターン2aを続けることにより,タクロリムス点眼液0.1%の点眼開始後6カ月目には,巨大乳頭も消失した(図8).〔コメント〕本症例は,春季から初夏にかけて急性増悪した春季カタルである.抗アレルギー点眼薬による治療に抵抗しているため,ステロイド点眼薬または免疫抑制点眼薬の追加を検討する必要がある(図9).気管支喘息などの他臓器アレルギー疾患を合併し,治療に抵抗する可能性がある症例に対しては,免疫抑制点眼薬による治療を第一選択とする.抗アレルギー点眼薬とタクロリムス点眼液0.1%との2者併用療法を3.6カ月継続することにより増殖性結膜病変(巨大乳頭・輪部堤防状隆起)が消失し,寛解した状態に持ち込める症例がある.ステロイド点眼薬は,ステロイド緑内障などの副作用の問題から,長期使用の治療計画が立てにくい.しかし,免疫抑制点眼薬の場合には,感染症を除いて長期使用に関する安全性が確認されているため,春季カタルの長期計画的治療が容易であると考えられる.〔症例4〕ステロイド薬抵抗性春季カタルに対するタクロリムス点眼液0.1%での治療患者:10歳,女性.496あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013主訴:両眼の羞明感,眼脂.現病歴:5歳頃から春季カタルで治療を継続していたが,転居に伴い春季カタルが増悪した.最近,治療に抵抗して,症状が徐々に悪化してきているため紹介受診となった.既往歴:アレルギー性鼻炎.初診時所見:両眼の眼瞼結膜は高度に充血し,眼瞼結膜全体に巨大乳頭増殖がみられ,粘稠性眼脂を伴っていた.右眼角膜は,角膜全面に落屑状点状表層角膜炎がみられ,上方にはシールド潰瘍の形成がみられた(図10).〔治療経過〕前医の処方を表5に示した.初診時に前医で処方されていた点眼薬をすべて中止し,インタールR点眼液UD0.2%(1日4回)とタクロリムス点眼液0.1%(タリムスR点眼液0.1%)(1日2回)とのパターン2aを行った.治療開始後1.2週間目に羞明感や眼脂などの自覚症状の軽快がみられ,4週間目には巨大乳頭の縮小,シールド潰瘍および落屑状点状表層角膜炎の消失など他覚所見が明らかに軽快した(図10).〔コメント〕本症例は,重症型春季カタルでステロイド点眼薬による治療に抵抗性を示し難治化した症例である.点眼薬に使用されている,防腐剤および硫酸フラジオマイシン(眼・耳科用リンデロンRA軟膏,または点眼・点鼻用リンデロンRA液に含有)などの抗菌薬が難治化に関与していることがあるため,難治症例では極力点眼薬の悪影響を減らすために,点眼薬の種類を少なくするような(68)初診時(右眼)点眼治療後4週間(右眼)図10症例4の前眼部所見初診時には,粘稠性眼脂を伴った巨大乳頭増殖とシールド潰瘍を伴った角膜上皮障害がみられた.点眼治療後4週間目には,巨大乳頭の所見は軽快し,角膜上皮障害は消失している.表5症例4に対する処方薬剤前医処方初診時処方・リザベンR点眼液0.5%・タリムスR点眼液0.1%両眼:1日3回両眼:1日2回・点眼・点鼻用リンデロンRA液・インタールR点眼液UD0.2%両眼:1日2回両眼:1日4回・パピロックRミニ点眼液0.1%両眼:1日3回・クラビットR点眼液0.5%両眼:1日3回・タリビッドR眼軟膏0.3%右眼:1日1回就寝前処方を目指す.ステロイド点眼薬に抵抗する難治性春季カタルの症例に対しては,一度これまでに使用した薬剤をすべて中止し,タクロリムス点眼液0.1%と抗アレルギー点眼薬によるパターン2aに変更して経過観察する(図11).タクロリムス点眼液0.1%による治療は,ステロイド薬離脱困難例に対してもステロイド点眼薬と切り替えて使用することができる.難治症例では,自覚症状(69)および他覚所見が軽快しても,3.6カ月間のタクロリムス点眼液0.1%の継続点眼が望ましい.おわりに本指針では,二つの市販後全例調査を通じて得られた貴重なエビデンスをもとに,有用性そして安全性の両面から,春季カタルの治療における免疫抑制点眼薬(immunosuppressiveophthalmicsolution)の特性を解析し,病態に応じた投与戦略を症例呈示のなかで具体的に解説した.その結果として,免疫抑制点眼薬の臨床的な位置づけが,かなり明確となったのではないかと期待している.今後は本指針に基づいて免疫抑制点眼薬が適正に使用され,多くの春季カタル患者への治療に反映されることを切に願う次第である.世界広しといえども,免疫抑制点眼薬が2種類も承認され,春季カタルに対する幅広い治療オプションをもっているのは日本だけである.この恵まれた立場を最大限に活用し,日本眼アレルギー研究会を中心として,免疫抑制点眼薬に関する新知あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013497抗アレルギー薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)ステロイド薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2aパターン3パターン4重症軽症ステロイド薬(内服)(瞼結膜下注射)ステロイド薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)パターン2bパターン1図11症例4でのパターン治療パピロックRミニ点眼液0.1%タリムスR点眼液0.1%成分シクロスポリンタクロリムス剤型ユニットドーズ製剤マルチドーズ製剤点眼薬の外観適応症春季カタル春季カタル用法・用量1日3回1日2回点眼液性状無色澄明・無菌水性点眼剤水性懸濁点眼剤pH6.5.7.54.3.5.5防腐剤なしベンザルコニウム塩化物浸透圧比1.0.1.10.9.1.1図12免疫抑制点眼薬の概要見をグローバルに発信していくべきであろう.なお,用語に関しては,ステロイド点眼薬とは区別する意味で,シクロスポリンやタクロリムスなどの薬剤を「免疫抑制点眼薬」と呼称することとしたい.ただ,懸案となっている病型分類をはじめ,アレルギー性結膜疾患の用語見直しなど,解決すべき課題は山積している.本指針がファイナルゴールへの第一歩であることを肝に銘じ,結びとする.〔補遺〕免疫抑制点眼薬の製品概要を図12に示す.498あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013文献1)高村悦子,内尾英一,海老原伸行,岡本茂樹,熊谷直樹,庄司純,中川やよい,南場研一,福島敦樹,藤島浩,宮﨑大,大橋裕一:春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%の全例調査.日眼会誌115:508-515,20112)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:アレルギー性結膜疾患の疫学.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班業績集.日本眼科医会,p12-20,19953)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,2010(70)