連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム天動説から地動説へ,電子カルテ中心志向からの脱却杉浦和史*.はじめに医療業界には2000~2014年まで,3年を空けて約11年間携わってきました.それ以前は,製造業,小売り業,サービス業など,医療以外の業種の業務分析,改革,必要があればシステム化を指導してきました.これら業種で共通してやってきたことは“当該組織全体のパフォーマンスの向上,ひいては収益増をめざす”です.各業種共,多種多様な業務から構成されていますが,どの業務が疎かになっても組織全体としてのパフォーマンスが最大になることはありません.各業務が機能を分担し,相互に連携し合って組織の活動が成り立っているのだから当然です..製造業の場合製造業という名前から製造にかかわる業務が一番重視されていると思いがちです.しかし,製造する前にその製品の市場性を検討しなければなりません.自社のコアコンピタンスを考慮しつつ,競合製品の有無,あれば仕様,価格,市場占有率などのチェックも必要です.そして設計.まだ製造の出番ではありません.ようやく製造の段になると,今度は,何時までにいくつ作るかという生産計画が必要になり,生産に必要な部材を納品までのリードタイムを考慮して発注します.納品された部材は在庫情報として管理しなければなりません.これで,ようやく製造業本来の製造に入ります.作られた製品は出荷を待ちますが,指定された場所,時間に注文された数量を間違いなく納品するための管理が必要になります.もちろん,配送業者との連携も必須です.図1に示すように,複数からなる業務が相互に連携しあって機能していなければ,企業活動ができないことが理解されたと思います.医療機関には医師だけではなく,看護師,薬剤師,臨床検査技師,栄養士,受付,会計,事務など多くのスタッフがいます.それぞれが与えられた役割を果たすことで,医療機関としての機能が全うされます.医師が主役であるのは異論がないところで,医療情報システムといえば常に電子カルテが主役に踊り出る所以です.しかし,それで良いのでしょうか?36回連載の最後にこの問題提起をします.営業経理人事総務生産管理製品企画設計製造検査資材マーケティング研究図1製造業を構成する業務cCAD(ComputerAidedDesign)に代表される製造業のシステムは,その後,CAM(ComputerAidedManufacturing),CAE(ComputerAidedEngineering)とカバーする範囲と深さを広げ,最終的に製造業統合情報システムCIM(ComputerIntegratedManufacturing)として今日に至っています.しかし,これらを支える資材管理,原価管理システムなど,図1に示す各部門のシステムがなければ成り立ちません.ある業務をカバーする良いシステムができても,同じレベルで周りが整備されていなければ,もっとも低いレベルに抑えられてしまい,全体のパフォーマンスが上がらないことは,リービッヒの最小律の教えるところです.ダムの水門に例えれば図2のとおりです.設計支援をする優れたCADシステムがあっても,他のシステムの完成度が低かったり,手作業であったりすると,一番低いゲートからダムの水が流れ出てしまい,結局そのレベルになって*KazushiSugiura:杉浦技術士事務所(情報工学部門)http://sugi-tec.tokyo/(117)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151170910-1810/15/\100/頁/JCOPYしまうことを示しています.体で機能することはできません.関連する他のシステムとの情報授受があって初めて機能が発揮されます.他のシステムが未整備な場合や,機能,情報が不足している設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理と,人手の介在が必要になるなど作業の連続性が崩れ,効果は半減します.半減どころか一部がシステム化さ図2リービッヒの最小律(最も低いレベルに抑えられる)Rれ,一部は手作業が残っているほど面倒なことはありません.目的地に着くまでに,高速道路,一般道路,山道,あぜ道,獣道が入り乱れていると思えば理解が早い.医療業界でしょう.リービッヒの最小律を適用して表現すれば,医療機関は医師を筆頭に,看護師,薬剤師,検査技図4のようになります.師,栄養士などの職能集団で構成されています.職能間での行き来は“資格的”に不可能で,権威のピラミッド構造の最上位には医師がいます.一般的に医師の命令一下動く天動説的な仕事の仕方になっていますが,医療機関という太陽系を構成する多くの星の一つであるというコペルニクス的発想になると,業務が無理なくスムーズに流れるようになると思われます.他業種同様,各部門各業務が機能連携,情報連携し合うことで,適切な治療外来(電子カルテ)医事会計検査手術病棟が行えることを忘れないようにしなければなりません..電子カルテ厚生労働省のホームページを捜すと,図3のような医療機関に必要な情報システム群が見つかります.診察系システム・電子カルテシステム事務系システム・オーダリングシステム・財務管理システム・人事給与システム・医事会計システム・物品管理システムetc・受付・予約システム・看護支援システムその他・給食システムetc・遠隔医療支援システム画像系システム・医療統計システム・放射線情報管理システム・情報共有システムetc・医用画像管理システムetc図3医療機関に必要なシステム群(出典:厚労省HP)電子カルテとオーダリングシステムが別になっているなど,オヤッと思うものもありますが,この図でも明らかなように電子カルテシステムは医療機関で必要となる多くのシステムのうちの一つです.組織の頂点に立つ医師が使うことで最重要とされますが,このシステムが単図4医療情報システムでのリービッヒの最小律R.おわりに“カゴに乗る人,カゴ担ぐ人,そのまたワラジを作る人”という例えがあります.社会はそれぞれの役割をもった人達の持ちつ持たれつの関係で成り立っているという意味で,誰が欠けてもカゴに乗って移動することはできません.医師を中心に回っていると考える天動説的発想から,医療機関,患者さんを中心にして回っている太陽系の星の一つであるという地動説への発想の転換が必要と先述しましたが,医療情報システムも同じです.電子カルテシステムを中心に回っていると思わず,関連する業務システムが同じレベルで整備され,連携がとられてこそ医療機関のパフォーマンスを向上させることができます.個別最適ではなく,全体最適で考える時機に来ていると思います.36回の連載は今回で終わります.今後は当事務所のホームページで情報発信を続けます.関心のある方はhttp://sugi-tec.tokyoをご覧ください.☆☆☆118あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(118)