———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS分けられる.中心光学部の特徴からは中心遠用タイプと中心近用タイプに分けられる1)(表1).はじめに日本の人口構成が高齢化していくにつれて,コンタクトレンズ(CL)使用者も老視の矯正を必要とする中高年者層が増加してきている.そのため,これからのCL診療においては老視を矯正するための遠近両用CLの知識と処方技術なしに過ごすことはできない.現在日本で普及している最長2週間までの使用で交換する頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FR-SCL)では,遠近両用タイプの頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ(FRBF-SCL)が4種類発売されている.本稿では,遠近両用CLの処方が初めての方にも理解しやすいよう,はじめに遠近両用CLの一般的なことを概説し,その後に4種類のFRBF-SCLを比較と,その選択方法について解説する.I遠近両用コンタクトレンズ1.種類遠近両用CLの種類にはガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)があり,SCLには従来型と頻回交換型がある.これらは光学的機能,焦点の構造,光学部の形状,中心光学部の特徴からさらに分類される(表1,図1).光学的機能からRGPCLは交代視型と同時視型に分けられるが,SCLは同時視型のみである.焦点の構造からは二重焦点型と累進屈折力型に分けられ,光学部の形状からはセグメント型,同心円型,回折型,非球面型に(17)???*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):711~716,2007頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法?????????????????????????????????????????????????????????????塩谷浩*図1遠近両用CLの機能と形状の分類同心円型同心円型非球面型回折型セグメント型交代視型同時視型表1遠近両用コンタクトレンズの分類機能焦点形状中心光学部種類交代視型二重焦点型セグメント型遠用RGPCL同心円型同時視型二重焦点型同心円型遠用SCL近用回折型近用累進屈折力型非球面型遠用RGPCLSCL近用SCL———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,20072.特徴遠近両用CLは種類の違いにより,ものを見る機能のうえでも違いがある.RGPCLタイプはSCLタイプより遠方視,近方視とも見やすく感じる患者が多い.しかし,RGPCL未経験の中高年者のRGPCLタイプへの慣れはむずかしいと考えられるため,一般的には処方の適応はRGPCL経験者に限られる.交代視型は,遠用光学部と近用光学部がレンズ上の異なった部分にあるため遠方視,近方視ともクリアな視界が得られるが,視線の移動を必要とする.同時視型は,遠用光学部と近用光学部の中心が同一中心線上にあるため視線の移動を必要としないが,遠方視,近方視ともクリアな視界は得にくい.光学部が中心遠用タイプは,近方視時より遠方視時に比較的見やすく感じる患者が多く,中心近用タイプは,遠方視時より近方視時に比較的見やすく感じる患者が多い1).3.選択の考え方処方する遠近両用CLのタイプを選択するための代表的な条件として,遠方視を重視する場合,近方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合,センタリングを重視する場合があげられる.遠方視を重視する場合には光学部は中心遠用タイプが適応となり,近方視を重視する場合には,光学部は中心近用タイプが適応となると考えられる.遠方視と近方視のバランスを重視する場合には光学部は中心遠用タイプで二重焦点型が適応となると考えられる.眼瞼圧が強いなどの理由で,それまで使用していたCLでセンタリングが不良であったような患者でセンタリングを重視する場合には,レンズのずれの見え方への影響が比較的少ない累進屈折力型・非球面型が適応となると考えられる1)(表2).実際の処方時のレンズ選択の考え方の流れは,まず装用者の遠方視と近方視の重視度,または見え方や視力の要求度から,その条件を満たすレンズのタイプを第一選択する.つぎに患者にトライアルレンズを装用させて細隙灯顕微鏡検査でフィッティングを観察し,その判定結果からレンズのタイプを変更するかどうか検討する.そしてFRBF-SCLを処方する場合には,処方規格と同じトライアルレンズによるテスト装用後に,装用者の見え方,装用感,ハンドリングの問題点の有無などを確認し,角結膜への影響やフィッティングの変化を検討して,最終的に処方する遠近両用CLの種類と規格を決定する1~3)(表3).II頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ1.種類現在日本では,FRBF-SCLはジョンソン・エンド・ジョンソン社のアキュビュー?バイフォーカル(AV-BF),チバビジョン社のフォーカス?プログレッシブ(FP),ロート製薬のロートi.Q.14バイフォーカル(iQ-BF),ボシュロム社のメダリストマルチフォーカル(MD-MF)の4種類が発売されている(表4).素材はAV-BF,FP,iQ-BFは,米国食品医薬品局分類(FDA分類)でグループⅣに属する高含水率のイオン性であり,MD-MFはFDA分類でグループⅠの低含水率の非イオン性である.直径はすべてのレンズで1種類であり,ベースカーブはAV-BF,FP,iQ-BFでは1種類であり,MD-MFには2種類ある.加入度数はAV-BFとiQ-BFは+1.00D,+1.50D,+2.00D,+2.50Dの4種類,MD-MFは加入度数LowタイプとHighタイプの2種類,FPは1種類である.(18)表2遠近両用コンタクトレンズの選択の条件と適応?遠方視重視⇒光学部が中心遠用タイプ?近方視重視⇒光学部が中心近用タイプ?遠方視と近方視のバランス重視⇒光学部が中心遠用タイプ・二重焦点型?センタリング重視⇒累進屈折力型・非球面型表3遠近両用コンタクトレンズの選択の流れ第一選択レンズ遠方視と近方視の重視度,見え方や視力の要求度から決定フィッティング検査後レンズのセンタリング,動きなどから決定テスト装用後見え方,装用感,ハンドリングなどから最終決定———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???光学的機能による分類では,すべて同時視型である.焦点の構造による分類ではAV-BFは二重焦点型であり,他の3種は累進屈折力型である.光学部の形状は,AV-BFは同心円型で5層構造のデザインをしており,FP,iQ-BF,MD-MFは非球面型である.光学部のデザインは,AV-BFは中心遠用,FPとMD-MFは中心近用であり,iQ-BFは中心遠用のDタイプと中心近用のNタイプの2種類がある.2.アキュビュー?バイフォーカルの特徴AV-BFは同時視型で,二重焦点型,同心円型である.光学部は図2のようにレンズの中心から周辺に向かって遠用部と近用部が同心円状に5層に並んだ独特の構造をしている.光学部は中心遠用タイプで,それが同心円状に3層あり,その間に2層の近用部を挟んでいる.中心厚は-3.00Dで0.075mmと4種類のレンズのなかで最も薄くなっている.この特徴から,適応は表5のように遠方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合となる.そして加入度数の最弱度に+1.00Dがあるため初期老視から適応となる.中心厚が薄いため,一般のSCL装用で異物感のある場合や長時間装用の場合は適応となるが,乱視のある場合は適応とならない.二重焦点型であるためセンタリング不良の場合は自覚的な見え方が不(19)表4頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの種類製品名アキュビュー?バイフォーカルフォーカス?プログレッシブロートi.Q.14バイフォーカルメダリストマルチフォーカルメーカーJohnson&JohnsonCIBAVisionROHTOBoush&Lomb素材Eta?lconAVi?lconAMetha?lconAPoly-HEMA含水率(%)58555538.6FDAグループⅣⅣⅣⅠDk*281619.69Dk/L**37.31612.39中心厚(mm)0.075(-3.00D)0.10(-レンズ),0.16(+3.00D)0.159(-3.00Dadd+1.00D)0.10(-3.00D)ベースカーブ(mm)8.58.68.78.7,9.0直径(mm)14.21414.414.5球面度数(D)+3.00~-9.00+3.00~-7.00+4.00~-6.00+5.00~-10.00加入度数(D)+1.00,+1.50,+2.00,+2.50+2.50+1.00,+1.50,+2.00,+2.50Low(~+1.50),High(~+2.50)機能による分類同時視型同時視型同時視型同時視型焦点による分類二重焦点型累進屈折力型累進屈折力型累進屈折力型光学部形状同心円型非球面型非球面型非球面型中心光学部遠用近用Dタイプ:遠用,Nタイプ:近用近用**Dk:酸素透過係数〔単位=×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.**Dk/L:酸素透過率〔単位=×10-9(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.図2アキュビュー?バイフォーカルの特徴?同時視型?二重焦点型?同心円型(5層構造)?中心光学部:遠用?中心厚:0.075mm(-3.00D)遠用部近用部表5アキュビュー?バイフォーカルの適応?適応?遠方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?初期老視から?一般のSCL装用で異物感のある場合?長時間装用をする場合?非適応?近方視を重視する場合?乱視のある場合?センタリング不良の場合———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007良なことが多く,適応とならない.3.フォーカス?プログレッシブの特徴FPは同時視型で,累進屈折力型・非球面型である.図3のように光学部は中心近用タイプで,その周辺は狭い累進移行部を挟んで遠用部になっている.中心厚はマイナスレンズでは0.10mm,+3.00Dのレンズでは0.16mmとやや厚くなっている.この特徴から,適応は表6のように近方視を重視する場合となる.そして加入度数が+2.50Dの1種類であるため中期以降の老視から適応となる.累進屈折力型・非球面型であるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.しかし,遠方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合は適応となりにくい.素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合には適応とならないことが多い.4.ロートi.Q.14バイフォーカルの特徴iQ-BFは同時視型で,累進屈折力型・非球面型である.図4のようにDタイプは光学部が中心遠用で,その周辺はやや広い累進移行部を挟んで近用になっている.Nタイプは光学部が中心近用で,その周辺はやや広い累進移行部を挟んで遠用になっており,中心光学部の領域はDタイプよりやや狭くなっている.中心厚は-3.00D,加入+1.00Dのレンズで0.159mmと4種類のレンズのなかで最も厚い.この特徴から,適応は表7のように遠方視を重視する場合で,主としてDタイプが用いられる.近方視とのバランスをとる必要がある場合にはNタイプが用いられる.加入度数の最弱度に+1.00Dがあるため初期老視から適応となる.また中心厚が厚いため,乱視のある場合にも適応となる.非球面型・累進屈折力タイプであるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.さらに素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合にも適応となる.しかし近方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合は適応となりにくい.(20)図4ロートi.Q.14バイフォーカルの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:Dタイプ遠用Nタイプ近用?中心厚:0.159mm(-3.00Dadd+1.00D)遠用部近用部遠用部近用部DタイプNタイプ表7ロートi.Q.14バイフォーカルの適応?適応?遠方視を重視する場合?初期老視から?乱視のある場合?センタリング不良の場合?一般のSCL装用で異物感のある場合?非適応?近方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合表6フォーカス?プログレッシブの適応?適応?近方視を重視する場合?中期以降の老視から?センタリング不良の場合?非適応?遠方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?一般のSCL装用で異物感のある場合図3フォーカス?プログレッシブの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:近用?中心厚:0.10mm(マイナスレンズ)0.16mm(+3.00D)遠用部近用部———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???5.メダリストマルチフォーカルの特徴MD-MFは同時視型で,累進屈折力型,非球面型である.図5のように光学部は中心近用で,その周辺は広めの累進移行部を挟んで遠用になっている.加入度数Highタイプは加入度数Lowタイプより中心光学部の最大加入度数領域が広くなっている.中心厚は-3.00Dで0.10mmとやや厚くなっている.この特徴から,適応は表8のように主として近方視を重視する場合となるが,加入度数Lowタイプは遠方視と近方視のバランスを重視する場合,加入度数Highタイプはさらに近方視を重視する場合となる.加入度数Lowタイプがあるため初期老視から適応となる.非球面型・累進屈折力型であるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.中心近用であるため理論的には遠方視を重視する場合は適応となりにくいが,臨床的に遠方視と近方視のバランスを重視する場合には適応となる.しかし素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合には適応となりにくい.6.頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と選択以上の4種類のFRBF-SCLの適応を条件ごとに比較し,実際の選択についてまとめると表9のようになる.遠方視を重視する場合はAV-BFとiQ-BFが適応となり,第一選択になると考えられる.近方視を重視する場合はFPとMD-MFが第一選択になると考えられる.遠方視と近方視のバランスを重視する場合はAV-BFまたはMD-MFが第一選択になると考えられる.乱視の影響で球面SCLでの見え方が不良の場合は,レンズの中心厚の厚いiQ-BFが第一選択となる.SCL装用時のセンタリングが不良の場合はFP,iQ-BF,MD-MFが第一選択となる.一般のSCLの装用で異物感の訴えがあった場合はAV-BFとiQ-BFが第一選択となる.おわりにFRBF-SCLは,最長2週間までの使用で交換するという点では共通であるが,遠近両用レンズとしての機能はどれも同じではなく,その特徴をよく理解しておく必要がある.FRBF-SCLの処方を成功させるためには,(21)表9頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と選択製品名アキュビュー?バイフォーカルフォーカス?プログレッシブロートi.Q.14バイフォーカルメダリストマルチフォーカル遠方重視○△△△近方重視△○○○遠方視近方視のバランス○×△○乱視×△○△センタリング不良×○○○装用感○△○△○:適応,△:比較的適応,×:非適応.図5メダリストマルチフォーカルの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:近用?中心厚:0.10mm(-3.00D)遠用部近用部表8メダリストマルチフォーカルの適応?適応?近方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?初期老視から?センタリング不良の場合?非適応?遠方視を重視する場合?一般のSCL装用で異物感のある場合———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007対象の条件,CLを使用する環境や状況などから最適と思われるレンズを選択し,テスト装用したうえで最終処方レンズを決定することが重要である2,3).ただし本稿のFRBF-SCL選択の考え方は,あくまでも筆者の臨床経験からの判断であり,これを参考に読者がFRBF-SCLの処方を多く経験し,自分自身のなかに評価する基準を作る努力が必要である.文献1)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.あたらしい眼科18:463-468,20012)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ処方例の検討.日コレ誌44:103-107,20023)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換型遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方成績─二重焦点型と累進屈折力型の比較─.日コレ誌48:226-229,2006(22)