特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1251.1258,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1251.1258,2014抗菌薬の使い方の基本BasicConceptsofAntibacterialDrugTherapy山田直之*園田康平*はじめに眼球においては,血液眼関門の存在により全身投与された抗菌薬が他臓器に比して届きにくいという特徴がある.われわれ眼科医はこの特徴を理解したうえで眼感染症に対して抗菌薬の選択と投与方法,投与量を決めていかなければならない.抗菌薬とは一般的に細菌に対する治療薬のことである.抗菌薬のうち微生物が作った天然のものを抗生物質,人工的に合成したものを合成抗菌薬という.抗菌薬はbラクタム系,アミノグリコシド系,マクロライド系,リンコマイシン系,ニューキノロン系,テトラサイクリン系,グリコペプチド系,オキサゾリジノン系などに分類される(表1).bラクタム系とは炭素3つと窒素1つからなる環状構造物であるbラクタム環(図1)構造をもつもので,ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系などが含まれる.bラクタム系抗菌薬は細菌の細胞壁の合成に必要な酵素に結合して阻害することで細胞壁合成を妨げ,溶菌することで殺菌的に作用する.一方,細菌の側はbラクタム環を破壊する酵素であるbラクタマーゼを産生して抗菌薬による殺菌を免れようとする(図1).これに対してわれわれ人類は,bラクタマーゼ阻害薬を含む抗菌薬(例:スルバクタム・アンピシリン,タゾバクタム・ピペラシリン)を開発してきた.これにより,細菌が産生するbラクタマーゼによるbラクタム環の破壊を阻害し,抗菌作用を保っている.抗菌薬はbラクタマーゼ阻害薬を配合することでブドウHNRHONSOOHbラクタマーゼO図1bラクタム系であるペニシリンの化学構造式赤色の部分がbラクタム環である.bラクタマーゼがbラクタム環を分解し,薬剤耐性を獲得する.球菌,大腸菌,嫌気性菌に対するスペクトラムを広げてきたが,使用に当たっては漫然と使用せず耐性化や菌交代に留意が必要である.I抗菌薬各系のスペクトラム概要まずポピュラーで常在菌も多いグラム陽性球菌に対する抗菌薬としてペニシリンが開発された.ペニシリン系はグラム陽性球菌,特にStreptococcus属(レンサ球菌,肺炎球菌)に有効である.近年は緑膿菌にまでスペクトラムが広げたものが開発されているが,グラム陽性菌に対する効力は相対的に落ちると考えられているので注意が必要である.一方で,ペニシリンが効きにくい菌も増えてきたためセフェム系が開発された.セフェム系は世代にかかわらずグラム陰性桿菌,特に大腸菌に有効な抗菌薬といえる.第1世代はグラム陽性*NaoyukiYamada&Koh-HeiSonoda:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕山田直之:〒755-8505宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(3)1251表1スペクbラクタム系ペニシリン系細胞壁合成阻害殺菌性ベンジルペニシリンベンジルペニシリン(ペニシリンGカリウム,PCG)アンピシリンアンピシリン(ビクシリンR,ABPC)アモキシシリン(サワシリンR,AMPC)スルバクタム・アンピシン(ユナシンR-S,SBT/ABPC)ピペラシリンピペラシリン(ペントシリンR,PIPC)タゾバクタム・ピペラシリン(ゾシンR,TAZ/PIPC)セフェム系第1世代セファゾリン(セファメジンR,CEZ)第2世代セフォチアム(パンスポリンR,CTM)セフメタゾール(セフメタゾンR,CMZ)第3世代セフトリアキソン(ロセフィンR,CTRX)セフォタキシム(セフォタックスR,CTX)セフタジジム(モダシンR,CAZ)第4世代セフェピム(マキシピームR,CFPM)カルバペネム系イミペネム・シラスタチン(チエナムR,IPM/CS)メロペネム(メロペンR,MEPM)bラクタム系以外アミノグリコシド系蛋白質合成阻害殺菌性ゲンタマイシン(ゲンタシンR,GM)トブラマイシン(トブラシンR,TOB)アミカシン(硫酸アミカシンR,AMK)ストレプトマイシン(硫酸ストレプトマイシンR,SM)マクロライド系静菌性エリスロマイシン(エリスロシンR,EM)クラリスロマイシン(クラリスR,CAM)アジスロマイシン(ジスロマックR,AZM)リンコマイシン系クリンダマイシン(ダラシンR,CLDM)ニューキノロン系DNA複製阻害殺菌性シプロフロキサシン(シプロキサンR,CPFX)レボフロキサシン(クラビットR,LVFX)テトラサイクリン系蛋白質合成阻害静菌性ミノサイクリン(ミノマイシンR,MINO)グリコペプチド系細胞壁合成阻害バンコマイシン(バンコマイシンR,VCM)テイコプラニン(タゴシッドR,TEIC)ダプトマイシン(キュビシンR,DAP)オキサゾリジノン系蛋白質合成阻害静菌性リネゾリド(ザイボックスR,LZD)その他ST合剤スルファメトキサゾール・トリメトプリム(バクタR,ST)メトロニダゾールメトロニダゾール(フラジールR,MNZ,MTZ)代表的な抗菌薬代表的な抗菌薬とおもなスペクトラム,関連するぶどう膜炎疾患を記した.連鎖球菌には連鎖球菌,肺炎球菌など,大腸菌には大腸菌,肺炎桿菌,インフルエンザ桿菌など,緑膿菌にはセラ(S.P.A.C.E.)などを含む.1252あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(4)トル表おもなスペクトラム関連するぶどう膜炎疾患連鎖球菌,梅毒トレポネーマ梅毒連鎖球菌,腸球菌,リステリア,梅毒トレポネーマ連鎖球菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌,嫌気性菌連鎖球菌,大腸菌,緑膿菌連鎖球菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌,緑膿菌,嫌気性菌黄色ブドウ球菌,大腸菌大腸菌(セフメタゾールは嫌気性菌も)大腸菌(セフトリアキソンは肺炎球菌,淋菌,セフタジジムは緑膿菌も)内因性眼内炎(細菌性)広域広域グラム陰性桿菌結核(ストレプトマイシン)マイコプラズマ,クラミジア猫ひっかき病嫌気性菌グラム陰性桿菌,最近はより広域に猫ひっかき病マイコプラズマ,クラミジア,リケッチア,レジオネラ猫ひっかき病MRSA内因性眼内炎(細菌性)バンコマイシン耐性腸球菌黄色ブドウ球菌,大腸菌,原虫(トキソプラズマ,カリニ)原虫,嫌気性菌チア,緑膿菌,アシネトバクター,シトロバクタ―,エンテロバクター(5)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201412531254あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(6)そこから眼球に感染が波及しているのかなども検討する.感染している臓器,部位が定まれば,臓器,部位ごとに微生物種による特異的な親和性もあるため,原因微生物の同定につながる有益な情報が得られる.一方,感染部位が同定できないと原因微生物の推測がむずかしい.また,感染臓器,部位が定まれば,今後何をアウトプットとして治療効果を評価していけば良いのか自ずとわかるといえる.III感染微生物の同定感染症治療の原則として必ず治療開始前に検体を採ることが望ましい.いったん,抗菌薬を投与すれば原因微生物の同定は困難となる.結膜炎や感染性角膜潰瘍といった前眼部疾患であれば検体採取も容易である.一方,ぶどう膜炎では検体採取には一定の侵襲も伴うが,積極的に前房水や硝子体を採取すべきと考える.検体採取後にまず行いたいのはグラム染色である.簡便に行え,すぐに結果がわかるという利点がある.グラム陽性菌は細胞壁が厚く,グラム陰性菌は細胞壁が薄い.グラム染色の過程で加えるエタノール(脱色液)により陰性菌は容易に細胞壁が傷害され,クリスタルバイオレット液により染色された紫色が漏出し,最終的にフクシン液により赤色に染まる.たとえば肺炎球菌であればグラム陽性の莢膜を伴った双球菌として観察されるので,グラム染色のみでほぼ原因菌の同定が可能である.感染症に対する抗菌薬の治療としては,最初にempirictherapy(初期治療,経験的治療)を行う.これは感染微生物の同定がなされるまでの間,予想される微生物を想定し,そこにターゲットを絞った抗菌薬を投与する治療である.このとき,市中感染なのか院内感染なのか,患者背景,感染部位などから微生物を推定する.患者背景としては,年齢,性別,基礎疾患(糖尿病,悪性腫瘍,リウマチなど),ステロイド投与(局所,全身)の有無,免疫抑制薬・抗癌剤・抗菌薬などの使用歴,眼科手術歴,眼外傷歴,動物との接触歴,旅行歴,職業,過去の培養結果などを確認する.また,角膜後面沈着物の性状や眼底所見などの臨床所見そのものも,当然原因微生物の推測に有益である.他に,抗体価など血液検査も活用していく.原因微生物が同定できると疾患の重症菌に強いが陰性菌には弱い一方,第3世代はグラム陰性菌には強いが陽性菌には弱くなる傾向がある.特に,第1世代は黄色ブドウ球菌に,第2世代はグラム陰性桿菌と嫌気性菌に,第3世代のうちセフタジジムは緑膿菌もカバーする.第4世代は広いスペクトラムをもつ.カルバペネム系は広いスペクトラムをもつが,第一選択にはなりにくい.アミノグリコシド系はグラム陰性桿菌に有効な抗菌薬である.また,抗結核作用のあるストレプトマイシン,カナマイシンはこの系統に属する.マクロライド系はマイコプラズマ,クラミジアなどに有効な抗菌薬である.ペニシリンアレルギーのある患者のレンサ球菌,肺炎球菌の治療に使用できる.リンコマイシン系は嫌気性菌に有効な抗菌薬である.ニューキノロン系はグラム陰性桿菌に有効であるが,徐々に広いスペクトラムをもつ抗菌薬が開発されてきている.テトラサイクリン系はマイコプラズマ,クラミジア,リケッチア,レジオネラなどに有効な抗菌薬である.グリコペプチド系はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などに有効な抗菌薬である一方,MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)に対してはセファゾリンなどに劣る.bラクタム系,アミノグリコシド系,ニューキノロン系は殺菌的に,マクロライド系,リンコマイシン系,テトラサイクリン系,オキサゾリジノン系は静菌的に作用する.アミノグリコシド系とニューキノロン系はPAE(postantibioticeffect)があるため1日1回の投与でも有効である.マクロライド系やテトラサイクリン系はマイコプラズマや細胞内に寄生する菌に有効である.マイコプラズマは細胞壁をもたないため,細胞壁合成阻害がその作用機序であるbラクタム系は無効である.各種抗菌薬について表1に簡潔に示しているが,詳細は各種スペクトラム表や参考となる図書1,2)などで確認してもらいたい.II抗菌薬の使い方の基本われわれが扱う疾患は眼科疾患であるので眼球および付属器のどの部位の感染であるのか,特にぶどう膜炎であれば,片眼性なのか両眼性なのか,肉芽腫性なのか非肉芽腫性なのか,炎症の部位とその広がりを検討する.また,全身性の感染症なのか,他臓器に感染巣があり,あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141255(7)テトラサイクリン,ニューキノロン系,アミノグリコシド系(ストレプトマイシン,カナマイシンなど),ST(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)合剤などは禁忌であるため使用を避ける.以下に抗菌薬で加療する細菌(表2)の関与するぶどう膜炎について述べていく.IV抗菌薬で加療する細菌性ぶどう膜炎治療の実際(表2)1.内因性眼内炎(細菌性)内因性眼内炎とは細菌や真菌が眼球以外の感染巣から血行性に眼内に転移して起こる眼内炎である.本稿では細菌性のものを中心に述べる.内因性の細菌性眼内炎の原因菌としては肺炎桿菌(Klebsiellapneumoniae),大腸菌(Escherichiacoli)といったグラム陰性桿菌が多く,グラム陽性菌は少ない4).グラム陰性桿菌では視力予後が悪い5).真菌性のものにはカンジダが多い.対照的に外因性のものではグラム陽性菌が多い.本疾患を発症する患者には糖尿病などの基礎疾患があることが多い.本疾患を疑えば感染源を同定するために速やかにCTなどで全身検索を行う.原発巣としては肝膿瘍,尿路感染症,細菌性心内膜炎,皮膚膿瘍などがある.原発巣が判明すれば速やかに当該科にも原発巣の治療を依頼する.また,前房水や硝子体液,血液培養を積極的に行う.細菌性のものは通常,片眼性の非肉芽腫性ぶどう膜炎を呈し,急激に進行するため硝子体手術が必要になることが多い.第3世代セフェム系で緑膿菌にも有効なセフタジジム(2mg/0.1mL)とバンコマイシン(1mg/度や自然経過(naturalcourse)がわかり,使用すべき抗菌薬の選定などに役立つ.まさに,原因微生物の同定なくして感染症の治療なしといえる.推定した微生物に感受性のある抗菌薬を選定することになるが,この際参考となるものとして「サンフォード感染症治療ガイド」3)がある.この本に記載されている投与量も参考となる.つぎに利用可能であればlocalfactor(各医療機関での抗菌薬感受性パターン)も参考にする.検体を培養検査に提出後は毎日,検査結果が更新されていないかを確認し,必要な折には検査室に足を運ぶことも重要である.数日後,培養検査の結果(原因微生物の同定や感受性)が出ればそれを参考にして,広域から狭域に抗菌薬を変える(de-escalation)ことでdefinitivetherapy(最適治療)へと切り替える.抗菌薬の使い方の基本として,盲目的に広域スペクトラムのものを選ぶことは避けたい.必ず原因微生物の推定もしくは同定をしたうえで感受性のある抗菌薬のなかからできるだけ狭域スペクトラムのものを選ぶべきである.たとえば耐性のない肺炎球菌であればベンジルペニシリンやアンピシリン,黄色ブドウ球菌であればセファゾリンなどである.この姿勢は,耐性化や菌交代を避ける目的もあるが,一般的に狭域ほど感受性のある菌に対する抗菌力は強いためでもある.感染症治療における治療の原則は,早期に積極的な抗菌薬投与を行うことである.抗菌薬が効いてないと判断する前に投与量,投与間隔についても再考する.日本における投与量は米国におけるものより少ないケースがあるので注意が必要である.投与薬剤を変更する前に現在の投与量が十分であるのか,投与間隔は適切であるのか再考の余地がある.一般には炎症が起こっているときは薬剤の移行性も高まるが,眼は前立腺とともに薬剤の移行性が悪い代表的な臓器でもある.一方で,副作用についても留意が必要である.特に,過去の薬剤アレルギーについての問診はしっかりと行い,アレルギーを起こした薬剤は基本的には投与しない.たとえばペニシリン系でアレルギー反応を起こしたことがある症例では同じbラクタム系であるセフェム系やカルバペネム系は避けたほうが良い.また,使用する抗菌薬の代謝経路もしっかり理解し,肝機能や腎機能の経時的変化も追っていく.妊娠の有無も確認し,特に表2細菌の分類グラム陽性球菌黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus)桿菌グラム陰性球菌桿菌バルトネラ・ヘンセラ菌(Bartonellahenselae)大腸菌(Escherichiacoli)肺炎桿菌(Klebsiellapneumoniae)緑膿菌(Pseudomonasaeruginosa)その他結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)梅毒トレポネーマ(Treponemapallidum)特に抗菌薬を用いて治療するぶどう膜炎疾患に関与する細菌について示した.表2細菌の分類グラム陽性球菌黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus)桿菌グラム陰性球菌桿菌バルトネラ・ヘンセラ菌(Bartonellahenselae)大腸菌(Escherichiacoli)肺炎桿菌(Klebsiellapneumoniae)緑膿菌(Pseudomonasaeruginosa)その他結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)梅毒トレポネーマ(Treponemapallidum)特に抗菌薬を用いて治療するぶどう膜炎疾患に関与する細菌について示した.図2内因性眼内炎の眼底写真硝子体混濁のため透見不良である.原因菌はMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌).図3図2の内因性眼内炎の症例のCT椎体周囲に低吸収軟部影(赤丸内)を認め,化膿性脊椎炎と診断された.抗体量IgGIgM約1週間日数抗原感染図4感染後の抗体価の推移感染が起こるとまずIgMが出現し,1.2週間でピークとなり次第に減少し,数カ月で消失する.一方,IgGはIgM抗体に引き続き出現し,1.2カ月でプラトーに達する.初診時1週間後初診時1週間後図5猫ひっかき病の眼底写真乳頭浮腫と黄斑部に放射状の星状斑(macularstar)を認める.徐々に星状斑が目立ってきている.図7梅毒性角膜実質炎後の角膜白斑の前眼部写真図6結核の眼底写真内皮側の輝度が高いことが特徴である.網膜静脈の白鞘形成と周囲に点状・斑状の網膜出血を認める.(近藤由樹子:所見から考えるぶどう膜炎.p.222:結核性ぶどう膜炎,医学書院,2013より)図8梅毒性ぶどう膜炎の前眼部写真角膜後面沈着物を認める.-