———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSACC,adenocarcinomaが多いことは知っておきたい.II眼窩腫瘍の画像診断眼窩腫瘍を疑った場合は,必ず画像診断を行い,良性,悪性のめぼしをつける.可能であればCT(コンピュータ断層撮影)および造影MRI(磁気共鳴画像法)の両方を行うことが望ましい.CTでは腫瘍と骨との関連性がよくわかり,骨破壊や骨浸潤などから悪性腫瘍を疑うことができる(図1).MRIは,腫瘍の性状や形状,はじめに眼科日常診療上,眼窩悪性腫瘍を経験することはまれであるが,眼窩悪性腫瘍を疑った場合には,迅速に適切な検査・診断のもと,早期の治療もしくは専門施設への紹介が必要である.眼窩悪性腫瘍は,腫瘍の発生が眼窩内のため目に見えることはなく,症状発現までのタイムラグのため治療開始が遅れることもしばしばである.悪性腫瘍であることがわかった時点で患者はすでに死に直面しているといえる.しかし,眼科臨床医にはなじみの薄い疾患であるため,ともすればいたずらに経過をみてしまう可能性も否定できない.本稿では,眼窩悪性腫瘍および眼窩頭蓋底腫瘍に対する検査,診断,治療について,症例を提示しながら述べる.I眼窩腫瘍の組織分類表1に,聖隷浜松病院眼形成眼窩外科における2004年4月から2006年3月までの眼窩腫瘍99例の内訳を示す.眼窩良性腫瘍は52例(平均年齢44.9歳),眼窩悪性腫瘍は47例(54.1歳)であった.悪性リンパ腫がMALT(粘膜関連リンパ組織)19例(平均年齢62.5歳),adenoidcysticcarcinoma(腺様?胞癌)(ACC)6例(43.5歳)の計25例で多く,di?uselargeBcelllymphoma4例(67.0歳),adenocarcinoma(腺癌)4例(60.8歳),hemangiopericytoma(血管周皮腫)4例(35.2歳)が続く.2年間の臨床上のデータのため,年度によって違いがあるが,悪性リンパ腫が多いこと,リンパ腫を除けば(33)???*NobutadaKatori:聖隷浜松病院眼形成眼窩外科〔別刷請求先〕嘉鳥信忠:〒430-0906浜松市住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):571~577,2007眼窩腫瘍(後編)─眼窩悪性腫瘍,眼窩頭蓋底腫瘍─??????????????????????????????????????????????????????嘉鳥信忠*表1眼窩腫瘍99例良性52例(52.5%,平均44.9歳)悪性47例(47.5%,平均54.1歳)Pleomorphicadenoma16MALT*19Hemangioma9Adenoidcysticcarcinoma6Schwannoma6Di?uselargeBcelllymphoma4Granuloma5Adenocarcinoma4Fibrousdysplasia3Hemangiopericytoma4Cyst(mucocele)3Solitary?broustumor1Neuro?broma2Malignantmelanoma1Varix2Mucoepidermoidcarcinoma1Dermoidcyst2Squamouscellcarcinoma1Lymphangioma1MPNST**1Meningioma1Acutemyeloidleukemia1Wegenergranulomatosis1Myeloidsarcoma1Dacryoadenitis1Angiosarcoma1Liposarcoma1Rhabdomyosarcoma1*ExtranodalmarginalzoneB-celllymphomaofmucosa-associatedlymphoidtissue(MALT).**Malignantperipheralnervesheathtumor.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007周囲組織への浸潤の有無をみることができ,悪性腫瘍を疑う場合には必須の検査である.図2に,眼窩腫瘍の症例を4例示す.それぞれの腫瘍に対し,どのような治療方針を立てるべきか考えてみて欲しい.III眼窩腫瘍の診断,治療図2aは,両涙腺部腫瘍の症例である.境界は比較的明瞭で,眼窩深部への腫瘍進展はない.リンパ腫を疑い,大きな左涙腺部腫瘍に対し,左眉毛下外側の皮膚切開から生検を施行した.病理組織診断はdi?uselargeBcelllymphomaであった.当院血液内科に紹介し,全身検索が行われた.他部位には悪性リンパ腫は認めず,その後全身化学療法が施行された.悪性リンパ腫では腫瘍を全摘出する必要はない.血液疾患であり,放射線療法,化学療法が治療のメインである.悪性リンパ腫では上述のようにMALTが多い.放射線感受性が高く予後もよいが,予後不良なdi?uselargeBcelltypeもしばしば経験するので,生検による病理組織診断の後,血液内科に全身検索を依頼し,適切な治療を行うことが望ましい.涙腺部に腫瘍を認めた場合,涙腺炎,pleomorphicadenoma(多形腺腫),悪性リンパ腫,ACCなどが鑑別にあげられる.涙腺炎,lymphomaは片側性も両側性もありうるが,pleomorphicadenoma,ACCは原則片側性である.涙腺炎,lymphoma,ACCなどを疑えばまずは生検を行うが,pleomorphicadenomaであれば全摘出しなくてはならない.取り残しがあれば悪性化して(34)図1眼窩悪性腫瘍のCT所見左:Bonewindow,右:Softtissuewindow.特徴的所見:眼窩壁に沿って進展,頭蓋内へ浸潤傾向あり,境界不明瞭,腫瘍内不均一,骨のerosion,骨欠損.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???再発することがあるからである.画像診断でpleomor-phicadenomaはある程度予測がつくことが多いが,鑑別がむずかしい場合は術中迅速病理検査を行い,生検で終えるか,全摘出に踏み切るか決定する.また,生検であっても部位によっては骨切りを要する場合もあり,術前の画像診断で骨切りの準備をするべきか検討する.図2bは,右眼窩内の大きな筋円錐内腫瘍の症例である.造影MRIで?owvoid(早い血流により,腫瘍内部の血管が黒く映る)を認め,非常に血流の豊富な腫瘍であることがわかる.Capillaryangioma(毛細血管腫)やhemangiopericytoma(血管周皮腫)を疑った.脳血管造影を施行し,眼動脈の網膜中心動脈の分岐部よりもやや末?から太い栄養動脈が確認された.骨切り併用経眼窩縁アプローチでこの腫瘍を全摘出することは,腫瘍の部位,血流(術中出血)の観点から非常に困難であると判断し,手術前日に脳神経外科で超選択的腫瘍栄養動脈塞栓術を依頼し,前頭側頭開頭下に腫瘍を全摘出した.病理組織診断はhemangiopericytomaであった.図3に別のhemangiopericytomaの症例を示す.この症例は頬骨骨切りにより眼窩外下方アプローチにて全摘出した.Hemangiopericytomaは,基本的には低悪性度の腫瘍であるが,短期予後は良いが長期予後は悪い症例もあるとされる.特徴として,病理組織上の悪性度と臨床的な生物学的悪性度が相関せず,solitary?broustumor(孤立性線維性腫瘍)とともに,病理組織で悪性度の低い腫瘍と診断されても,長期にわたる慎重な経過観察を要するため,注意が必要である.図2cは,右眼窩涙腺部から外直筋に沿って存在する腫瘍である.よくみると,眼窩内から海綿静脈洞に浸潤していることがわかる.造影された腫瘍と周囲の組織と(35)図2眼窩悪性腫瘍のMRI(造影)(a~dの説明は本文参照)acbd———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007の境界も不明瞭であり,悪性腫瘍が強く疑われた.CTでは海綿静脈洞への浸潤は不明瞭であったため,造影MRIの重要性が再確認できた症例であった.ただちに眉毛下外側の皮膚切開からの生検を施行した.術中,腫瘍は骨にも浸潤しており,術中迅速でも悪性像が認められ,最終の病理組織診断はACCであった.海綿静脈洞内へ浸潤しているため眼窩内容除去,遊離皮弁移植といった手術療法の適応がなく,また,通常の放射線や化学療法に効果のない腫瘍であるため,重粒子線治療を放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院へ依頼した.2007年3月現在,涙腺癌の重粒子線治療の適応は,涙腺原発の上皮性悪性腫瘍(ACC,adenocarciomaなど)で,眼窩を超える浸潤や転移のない症例または保存的手術後の残存・再発例(ホームページより抜粋)となっている.本症例は,重粒子線治療が奏効し,現在腫瘍は消失している.重粒子線治療の長期成績はまだ不明のため,今後も長期的な予後について注目しなくてはならないが,手術適応にならず,化学療法や通常の放射線療法に効果のない眼窩悪性腫瘍症例には今後第一選択の治療になると思われる.図2dは,右眼窩,側頭窩,中頭蓋窩,硬膜に腫瘍性の変化を認める眼窩頭蓋底腫瘍である.髄膜腫(menin-gioma)を疑い,前頭側頭開頭アプローチで腫瘍を全摘出した.腫瘍摘出により欠損した硬膜は大腿筋膜で再建(36)図3Hemangiopericytomaの症例上:術前CT,中:術前MRI,下:術後MRI.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???し,眼窩壁は頭蓋骨内板で再建した.図4に術中所見を示す.病理組織診断は,meningiotheliomatousmenin-gioma(髄膜上皮腫型髄膜腫)であった.眼窩頭蓋底腫瘍に限らず,眼窩先端部,眼窩筋円錐内の腫瘍で,前方からのアプローチが困難であれば,迷わず前頭側頭開頭アプローチを選択するべきである.狭い術野で無理な腫瘍摘出は,術中に出血のコントロールがつかなくなる,視力を失うなど,かえって重篤な合併症を招くことになる.確実に安全に摘出するためには開頭アプローチも眼窩腫瘍摘出の重要な手段である.IV眼窩悪性腫瘍切除,再建術生検で眼窩悪性腫瘍(悪性リンパ腫を除く)の診断がついたら,全身検索で転移の有無を調べる.眼窩,頭部のCT,MRIはもちろん,頸部から骨盤までの造影CT,Ga(ガリウム)シンチグラフィーでの転移検索が基本であるが,PET(ポジトロン放出CT)のある施設ではPETも有用である.全身転移がなく,頭蓋内や海綿静脈洞への腫瘍の浸潤がなければ,手術適応である.ACCやadenocarcinomaなど,悪性度の高い腫瘍は,基本的に眼窩内容除去が原則である.眼球の温存にこだわるあまり,手術時期が遅れ命を落とすようでは本末転倒である.根治手術の必要性,他の保存的治療の効果との比較などを十分に説明する.眼窩悪性腫瘍切除後の再建方法には,三つの手段がある.一つは遊離複合組織移植であり,腹直筋皮弁など,筋肉と脂肪を動静脈血管付の状態で眼窩に移植する.血管は側頭動静脈や顔面動静脈に縫合する.感染が危惧される場合には生体組織によるバリアとして必須の手術である.ただ,手術侵襲も大きく,組織の生着などの問題が起こる可能性もある.眼瞼が温存できる場合には義眼床形成も可能であり,整容的にも満足なことが多い.つぎに植皮術であるが,侵襲は少ないが,整容面,感染の危険性の面で問題がある.もう一つの手段としてのエピテーゼは,いわば人工の眼瞼・眼窩であり,非常に精巧にできている(図5).図6は涙腺部に限局したACCの症例である.この症例は眼瞼温存可能であったため,眼窩内容除去,遊離腹直筋皮弁移植を施行した.義眼床は移植皮弁の脱上皮で形成し,術後比較的早期に義眼装用可能であった.二期的に大腿筋膜移植による眼瞼吊り上げ術を施行した.(37)図5エピテーゼ(アヘッドラボラトリーズ社製)図4図2dの術中所見前頭側頭開頭下に腫瘍を全摘出した.前頭葉側頭葉眼球眼窩先端部———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(38)図6左眼窩ACCの症例左上:術前MRI.右上:遊離腹直筋皮弁移植後MRI.左下:二期的眼瞼吊り上げ術後.右下:術後の義眼床.図7右眼窩ACCの症例左上:術前MRI,右上:拡大眼窩頭蓋底切除検体.左下:遊離腹直筋皮弁.動静脈を吻合して移植する.右下:術後MRI.腹直筋を眼窩頭蓋底側に,脂肪を義眼床側に移植している.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???図7は拡大眼窩頭蓋底切除,再建術を施行したACCの症例である.図6左上のように,境界不明瞭な腫瘍であり,眼窩頭蓋底欠損を遊離腹直筋皮弁(左下)で再建した.図6,7の症例はいずれも遊離組織移植で眼窩を再建し,比較的整容面でも満足のいく結果が得られたが,腫瘍の浸潤の程度によっては,眼瞼を温存できない場合もある.その場合は,眼窩内容除去後の再建として,遊離複合組織移植だけにこだわらず,整容面での問題も考え,エピテーゼによる再建も治療の選択肢として重要になってくると思われる.眼窩悪性腫瘍切除後の再建方法については,腫瘍の浸潤の程度(眼瞼温存可能かどうか,頭蓋底切除を要するか),患者の希望,患者の社会的状況や年齢,手術のリスクなどを総合的に判断して選択する必要がある.おわりに眼窩悪性腫瘍,眼窩頭蓋底腫瘍の診断および治療について述べた.眼科医にとって,眼窩悪性腫瘍は眼科領域で最も患者の生命に直接かかわる疾患であることは間違いない.眼球突出,複視,涙腺部腫瘤など,眼窩悪性腫瘍の患者が眼科を受診するきっかけとなる症状は,他の疾患でも起こりうる症状である.生命にかかわる眼窩悪性腫瘍を早期に発見し早期に治療する,もしくは治療に導くことは眼科医の義務である.そのためには,眼窩腫瘍を疑えば迷わず画像を撮ること,その結果悪性腫瘍を疑えば生検を行うこと,病理組織診断で悪性であれば早期に治療(手術,放射線,化学療法など)を開始する,もしくは専門施設に紹介することが重要である.本稿がその一助になれば幸いである.(39)