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日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 2.研究生活の思い出

2013年2月28日 木曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ②責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ②責任編集浜松医科大学堀田喜裕研究生活の思い出濱井保名(YasunaHamai)濱井眼科院長1971年弘前大学医学部大学院修了,同眼科助手.1972年留学.1974年帰国.1975年弘前大学医学部眼科講師.1976年山形大学医学部眼科助教授.1991年山形大学退職,濱井眼科開院.1996.2005年日本眼科医会理事.1998.2009年山形県眼科医会会長.1998.2000年山形県アイバンク理事長.2004.2009年東北眼科医会連合会会長.2010年濱井眼科院長,現在に至る.先日,浜松医科大学眼科堀田喜裕教授からJinH.Kinoshita先生を偲んで,先生にお世話になった人々の思い出の記憶を『あたらしい眼科』誌に載せたいという電話をいただいたとき,急に40年前のアメリカ合衆国での生活のことが頭に浮かんできました.楽しかったこと,辛かったことなど一生の思い出として体にしみつきときどき脳裏をかすめます.Dr.DavidG.Cogan(以下,Cogan先生),Dr.JinH.Kinoshita(以下,Kinoshita先生),Dr.ToichiroKuwabara(以下,Kuwabara先生),Dr.HenryN.Fukui(以下,Fukui先生)の各先生方には個人的にも非常にお世話になりました.なかでもKinoshita先生,Kuwabara先生には特別の思い出があります.●JinH.Kinoshita先生との出会い★Kinoshita先生に初めてお会いしたのは,40数年前に東京で生化学の国際学会が開催されたときでした.先生はガラクトース白内障の成因についての研究をなされており,その頃ガラクトースに興味を持たれていたと思います.私は弘前大学の生化学教室の大学院生で眼科は副科目として選択していましたが,生化学が主で血液型物質の型による違いでガラクトースの配列と成分比が異なることなどの研究をしていました.それでガラクトースに関係した研究に目を留めてくださったものと思います.ガラクトースが縁でKinoshita先生の研究室にResearchFellowとして招かれることになりました.それ以来HarvardのHoweLaboratory,NIH(NationalInstitutesofHealth)のNEI(NationalEyeInstitute),また帰国してもKinoshita先生が亡くなられるまで40(105)年以上も長いお付き合いをさせてもらいました.渡米の話は直接Kinoshita先生との話し合いでしたのですぐに決まったのですが,私が大学院を修了していないので,学生では給料が年棒6,000ドル(当時は1ドル300円),大学院を修了してドクターの資格を得れば12,000ドルとのことで修了まで1年間待ってもらうことにしました.この間にアメリカ合衆国ではHoweLaboratoryのメンバーが,NIHに転勤になったり色々なことがあったようです.渡米してまず驚いたことはアメリカ合衆国はとてつもなく広く豊かな国で,この国と戦争をした日本は馬鹿なことをしたものだと思ったのが第一印象でした.ボストンに着いて住居が決まるまで家族はCogan先生の自宅に居候することになり,居候の間,家さがしやアメリカ合衆国での生活に慣れるまでFukui先生にお世話になりました.●所属と仕事が決まるまで★最初に行った先は,HarvardのHoweLaboratoryの生化学部門でした.丁度その頃1970.1972年にかけてNIHにNEIが設立されたすぐの頃で,Kinoshita先生をはじめKuwabara先生など主だったHoweLaboratoryの先生方はNIHに移動してしまった後でした.また,NEIの生化学部門には樺沢泉先生,尾羽澤大先生,三国郁夫先生らが来られていて生化学部門の人員は満杯ということでした.実験室でぶらぶらしているときに,HoweLaboratoryの主任教授のCogan先生に呼ばれ,生化学は定員が一杯だから何かできないかと言われ,このまま日本に帰されたら大変だと思い,電子顕微鏡と組あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132390910-1810/13/\100/頁/JCOPY 織化学ができることをアピールしてみました.数日後Laboのランチョンタイムのセミナーで組織化学の話をするように言われました.自分にとってはアメリカ合衆国に残れるかどうかの試験のようなものでした.セミナーでは弘前に居た時,日本眼科学会雑誌に発表し,JJOに掲載された(HistologicalStudiesonArteriolarSclerosisintheHumanRetina:TheLocalizationofAcidMucopolySaccharidesinCentralRetinalArteryandOtherArteries.JpnJOphthalmol15:140,1971),網膜血管の酸性ムコ多糖の局在についての組織化学的話をしました.発表の結果は合格でした.病理組織部門で人員が足りないので,Kinoshita先生の生化学部門の一員としてKuwabara先生のところにトレードに出されることが決まり,やっとアメリカ合衆国に留まることができました.その時,Kinoshita先生からHoweLaboratoryのAnnualReportに以下のような紹介をいただき,米国人のDonovanJ.Pihlajaと共にメンバーの一人として迎えてもらうことができました.「Dr.Kawabata’sdepartureleftabiggapintheLaboratory’sfunctionsinexperimentalpathologyandelectronmicroscopy.Fortunately,however,wehavebeenabletosecuretheappointmentofDr.Pihlajaand,mostrecently,ofDr.YasunaHamai,bothofwhombringunusualtalentstothisimportantareaoftheLaboratory’sresearches.Dr.HamaihailsfromJapan,wherehisinterestshaverelatedtohistochemistryandultrastructureoftheeye.」Kinoshita先生は,時々NIHからHoweLaboratoryに来られていました.その時は必ず実験室に寄られ,私の標本を見ていかれます.そして,いつもCogan先生にも見せるようにと,私のことを気づかってくれていました.●研究生活で嬉しかったこと★2年近く住んだボストンを離れ,VisitingScientistの資格でNIHに移ることになり,白内障の研究に熱が入るようになりました.その当時,マウスのような小さい動物の水晶体でも全体を切片にすることは非常に困難でした.Kuwabara先生は何時も「水晶体の標本作りはオリエンテーションをきちんと決めて,小さい切片にしてエポンを十分浸透させることだ」と言っておられまし240あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013写真先天性白内障マウス水晶体のエポン切片(トルイジンブルー染色)た.自分なりに色々工夫して,組織をエポンの入った注射器に入れシリンダーで圧力を加え,樹脂が十分浸透するようにしてみました.その結果,水晶体全体の切片を作ることが可能になりました(写真).その時,クワバラ・クワバラと怖れられていたKuwabara先生に「Wholelensの切片が作れるのは僕と君ぐらいのものだ」と誉められたのが何よりの自慢です.また,Kuwabara先生は日本人の研究者に何時でも,「Whydon’tyoucomeup,eattogether!」と昼のランチョンセミナーに3階のミーティングルームに来て食事をしながら話をしろと言って,日本人が外国人と親しくなるように気くばりをしてくれていました.Wholelensの切片はKinoshita先生にも気に入ってもらえて,学会でNIHのPRのポスター・セッションに2回出してもらえました.実験はどんどんはかどりARVOに2回・AAOに1回発表し,Paperは,HamaiY,FukuiHN,KuwabaraT:Morphologyofhereditarymousecataract.ExpEyeRes18:537.1974HamaiY,KuwabaraT:EearycytologicchangesofFrasercataract:Anelectronmicroscopicstudy.InvestOphthalmol14:517.1975に発表することができ,アメリカ合衆国では充実した研究生活を過ごさせてもらいました.改めて,Kinoshita先生に感謝申し上げます.(106)

現場発,病院と患者のためのシステム 13.門前の小僧と和尚

2013年2月28日 木曜日

連載⑬現場発,病院と患者のためのシステム連載⑬現場発,病院と患者のためのシステム私たちは,公私を問わず,日常的にインターネットやパソコンを使い,電子ブック,スマートフォンも意識することなく使っています.テレビ,新聞の宣伝,広告では必ずホームページのアドレスが表示され,ラジオでは,記憶する間もないのに平気でアドレスをしゃべります.このよう門前の小僧と和尚杉浦和史*かなり前のことですが,パソコン少年という言葉がありました.ここでは“門前の小僧”と表現することにします.“読書百遍,意自ずから通ず”という言葉はありますが,門前の小僧がいくらお経を唱えても和尚にはなれません.同様に,パソコンの使い方やインターネットの利用方法がわかり,使える程度の小僧には,業務を分析し利用者の状況にあったシステムを考え,効果的な運用まで作り上げることはできません.新米の大工がノコギリやカンナを使えるようになっても,顧客の要望に沿った家が建てられないのと同じといえばわかりやすいでしょう.しかし,鮮やかな手つきでパソコンを操作し,カタカナ語を話す小僧にシステムができるのではないかと期待したり,錯覚するのは,本人だけではなく,不勉強な周囲も同様です.なかには,知らないことを悟られないよう,小僧をおだてる和尚もいるから,始末に負えません.な状況においては,好むと好まざるとにかかわらず,関心を持たざるを得ません.関心を持つだけではなく,積極的に利用しないと損かもしれません.一方,十分理解せず,安易に先走ることは危険です.今,クラウドがブームで猫も杓子も話題にしています.しかし,この考え方はGEが70年代にmark1として実現している昔からあるもので,当時の説明資料にも雲(クラウド)の絵が描かれていました.歴史をふり返り,本質を知り,冷静に判断すれば,それほどのことでもないことがわかります.意味はわからないけれど,お経を唱えることができる門前の小僧と,本質(教義)を理解している和尚のお経の違いも同じようなものだと思います.ところで,知っている知らないとは,何についてでしょう?システムを作るための技術的な実現手段のことではないでしょうか.医師を含む医療従事者は,ITを職業としている専門家ではなく,実現手段の技術,方法論まで習得する必然性はありません.解説書を何冊か読み,ひな形を見て試行錯誤しながら理解すれば,簡単なプログラムを作れるとは思います.しかし,その延長線上ではシステムは作れないと理解したほうが無難です.全体構想なく,必要になった都度作ったプログラムはその中で閉じています.これらを集めても,機能,情報がストレスなく相互に連携し合うシステムにはなりません.履き物には,革靴,運動靴,サンダル,下駄など,いろいろあり,用途に応じ適宜使い分けます.これを履き物というくくりで纏めてしまうと,浴衣に革靴,スーツに下駄のような,妙な組み合わせになってしまうかもしれません.実際には,着物と履き物の場合は見た目ですぐわかり,このようなことはありませんが,見た(103)目にはわからず機能名で判断するシステムではこのような懸念はあります.和尚は,小僧がその場の問題解決のために作ったプログラムの中身を知らず,機能名を見ただけで寄せ集め,システムができると思ってはいけないのです.タッチタイピングでキーボードが打てたり,鮮やかな手つきでExcelを操作してきれいなグラフを作るのと,システムを作ることとは次元が違うし,難易度の広さと深さが違うことを理解する必要があります.これに気がつけばITを恐れることはありません.自分で何でもできればそれに越したことはありませんが,これだけ専門分化している世の中,すべてに通じることは不可能に近いでしょう.例えば物理学.ニュートンが活躍していた時代の物理学と今のそれとは,領域の広さと深さにおいて格段の差があります.当時の物理学者は一人で多方面に業績を残していますが,今の物理学者に*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132370910-1810/13/\100/頁/JCOPY 分野専門的深さ守備範囲を広げる専門性を高める図1分野を広げ,専門性を高めるそれを求めるのは酷でしょう.なぜなら今の物理学は,ちょっと挙げただけでも,地球物理,宇宙物理,物性物理,生物物理,今問題になっている原子物理,など枚挙にいとまがありません.この専門分化したそれぞれの分野で一流の業績を上げるのは至難の業,すべての専門家にはなれないでしょう.ITも同様です.多岐に亘るという点では最右翼ではないでしょうか.パソコンが使えたり,インターネットでいろいろ調べられるぐらいではITの専門家とはいえませんが,どうもこの分野だけは,ちょっと使えると,スゴイということになるようです.もちろん,余裕があれば,周辺の知識を広め,深めることは結構なことです.できれば,分野を横に取り,専門性を縦に取ったときに,逆三角形のような形になれば理想的です(図1).ITに限ったことではありませんが,小僧と和尚の違いは,ある専門分野において系統だって知識を蓄積し,多くの経験を経て醸成される有形無形のノウハウと見識があるかないかであり,付け焼き刃の薄っぺらなHowtoではありません.新しいことにアレルギーがない若者の小僧に対し,何事も億劫になりがちな中高年の和尚は負けてしまいそうですが,若者にはない実体験に基づいた知識,経験があります.あることをやり遂げるために必要となる知識,技術を持ち合わせない場合には,それを専門とする者とアライアンスを組むことで解決すべきです.生兵法の付け焼き刃で臨むことは避けましょう.かえって危険です.一方,過去の経験にあぐらをかき,伸びようとする芽を和尚の地位を脅かす者として遠ざけようとすることは,本末転倒であることはいうまでもありません.向上心と好奇心,これを失わなければ和尚は小僧に負けることはないし,ブームに迎合したり,理解できずにガッカリすることもありません.以上の話,実は日本公認会計士協会のセミナーで講演した内容を元に書いたものです.協会からの依頼は,中高年の会計士と若い会計士がいて,ITに通じているか否かで見えざる溝があり,この解消のための話をして欲しいというものでした.これを医療機関,医療従事者に当てはめるとどうなるでしょう.コマンドを諳んじ,鮮やかな手つきで操作する医師,一本指でおそるおそる触る医師などいろいろですが,肝心なのは中身.知識,経験,見識,評価眼であることは,会計士の世界と同じです.会計士は会社の病状(経営状況)を,医師は患者の病状を観察し,的確な診断と治療,指導をするのが本質であり,小手先のITHowtoではありません.☆☆☆238あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(104)

タブレット型PCの眼科領域での応用 9.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入-その2-

2013年2月28日 木曜日

シリーズ⑨シリーズ⑨タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第9章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入─その2─■ロービジョンエイドとしての導入の実際本章では,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PCである“RetinaディスプレイモデルiPadR(米国AppleInc.)”とスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”,iPodtouchR(米国AppleInc.)のiOSバージョン6.01について,導入の際の問診の進め方を具体的な言葉とともに紹介して行きます.■私のロービジョンエイド活用法「見きわめの問診前編」患者にタブレット型PCを勧める際に最初に確認することは,「何が今の生活を最も活性化するか」という質問です.この“見きわめの問診”を正しい方法で行うことは,患者がタブレット型PCやスマートフォンに関心と意欲をもてるかどうかのまさに見きわめになる問診であるため重要です.われわれがタブレット型PCを紹介する際に,最終的に考慮すべき項目は以下に要約されます.①最適な文字サイズやフォントの選定,②白黒反転機能の必要性の有無,③音声補助機能の必要性の有無,④ニーズに対応した最適なタブレット端末の大きさの選定(現状では9.7インチタブレット型PC,7.9インチタブレット型PC,4インチ〔対角〕のスマートフォンなど)を最終的には適切に判定する必要性があります.しかし“見きわめの問診”で必要なのは,患者がデジタルロービジョンエイドとも呼べるタブレット型PCなどに関心をもてるかどうかの見きわめであります.問診をする際の肝になるは,すべての質問はきわめてシンプルかつ“閉ざされた質問”で行うことです.『今の生活で最も困っていることは何ですか?』というよう(101)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYな“開かれた質問”では,患者は抽象的な生活の不便さを答えることはあっても,求めている適切なニーズを得られる可能性はきわめて低いといえます.また『このタブレット型PCではインターネットや電子書籍の閲覧,写真撮影から…….』と一方的にエイドとしての機能説明を始めてしまうことはさらに患者の意欲を低下させる原因になります.具体的には,エイドの機能説明は一切行わない状態で,以下にあげるような問答で患者の中に内在する潜在的なニーズを絞っていきます.経験的に患者のニーズは大きく分けて「視機能の低下に伴う読書意欲の低下」,「細かい作業の視認性の低下に伴う趣味の喪失」,「マウスなどPCの操作の困難さに伴う,コミュニケーション手段の喪失」,「情報の入手の困難からくる社会的な不安」などがあげられます.“見きわめの問診”ではこれらのうちどの分野が最も患者の生活の活動性を向上させるかを慎重に検討します.たとえば,読書機能の低下に最も関心を示した患者には,次のような質問でニーズを絞って行きます.『読むのと見るのはどちらが好きでしたか?』『もう一度文字が見えたら,何を読みたいですか?』『どちらが読みやすいですか?』(背景色が白と黒のコントラスト文字を見せて)『どの大きさが見やすいですか?』(さまざまな大きさの文字を見せて)『どちらの文字が好みですか?』(明朝体とゴシック体の細字と太字などを見せて)『ページの使われている色は少ないほうが見やすいですか?』とクローズな質問を繰り返し,患者が最も見たいと考えられる対象物と表示条件(文字サイズやフォント,色のあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013235 図1背面カメラで拡大された指先を見ながら糸通しを体験図1背面カメラで拡大された指先を見ながら糸通しを体験図2背面カメラ機能を利用して自由に趣味の絵画を体験反転の有無など)を選定します.この際,“見たい”や“好き”などのプラスのイメージの言葉を用いて質問をすることで,患者はこれから何かプラスな提案をされるのではという期待をもち,質問に対して肯定的な解答をしやすくなります.そのうえで患者が最も好むであろう,背景色と文字サイズに設定したタブレット型PCで,電子書籍などを閲覧してもらいます.表示された文字が見えるかどうかの判定から継続的な読書が可能かなどの感想を聞いて,何を変えればより見やすいかなどのプラスイメージの追加質問を加えて設定の修正を行います.意欲的な患者には読書環境を選定したうえで,音声読み上げ機能を体験してもらい,以下のような質問を投げかけます.■この文字を読む時に今のように音声も出たら,楽だと思いますか?上記のような言葉で音声補助機能の体験の感想を聞いた場合,多くの患者は肯定的な反応を示します.しかし,先に音声補助機能の説明を行った場合,患者のなかには音声補助機能に対するアレルギー反応を起こし,体験すること自体を拒否されることがあります.まず体験から入ってもらうことで,デジタルエイドや音声補助機能への概念的なアレルギー反応を緩和することが大切であると考えられます.また,読書行為自体にまったく関心を示さない患者に対しては,以下のような質問を投げかけることで,意外なニーズを発見できることがあります.『爪切りはどのようにされますか?』236あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013『もう一度やりたい趣味はありますか?』『最近一番おいしいと感じた食事はいつですか?』そして爪切りや糸通しなどの日常生活動作を,背面カメラを利用した拡大機能で体験してもらい“見える喜び”をまず体感してもらいます(図1).また,ランチプレートの写真やレストランのメニューを拡大して見てもらうことで,食材が鮮明に見えることで食に対する意欲の向上を実感してもらうのも一つの方法です.概念ではなく体験を通して,患者のニーズを丁寧に問診していくことで始めて患者の見ることへの意欲は確実に向上し始めるのです(図2).“見きわめの問診”のポイントは体験の先行を重視し,質問はシンプルで閉ざされた物を用いて必要以上の機能説明はしないことです.“見きわめの問診”が適切に行われなかった場合,一度構築されたデジタルアレルギーを修復するのは非常に困難です.一人でも多くの視覚障害者の目に希望の光を戻せるように,正しい“見きわめの問診”を広めることが視覚障害者の明日を作ると私は信じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(102)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 117.家族性滲出性硝子体網膜症に続発した黄斑上膜に対する硝子体手術(中級編)

2013年2月28日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載117117家族性滲出性硝子体網膜症に続発した黄斑上膜に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)は若年者の網膜.離の原因疾患として重要であり,その病態は未熟児網膜症と同様に周辺部網膜血管の形成不全に起因する.FEVRの瘢痕期の合併症の一つとして続発黄斑上膜があるが,通常の黄斑上膜(ERM)と異なる解剖学的特徴を有するので,硝子体手術を施行する場合にはその点をよく理解しておく必要がある.●家族性滲出性硝子体網膜症の解剖学的特徴FEVRに併発した裂孔原性網膜.離に対して硝子体手術を施行する場合,肥厚した後部硝子体膜が中間周辺部から面状に網膜と強固に癒着していることが多いため,しばしば人工的後部硝子体.離の作製が困難である1).また,網膜が菲薄化,脆弱化しているため人工的後部硝子体.離作製時に容易に医原性裂孔を形成する危険がある.FEVRに続発したERMでも同様の解剖学的構造を有していることが多く,人工的後部硝子体.離は必要最小限に留めるべきである.●黄斑上膜.離時の注意点FEVRに伴うERMの成因は明確に断定できないが,構成成分としてグリア系細胞に加えて血管成分がみられたという報告があり2),硝子体変性に加えて網膜虚血が関与しているものと考えられる.よって通常のERMよりも網膜と強固に癒着している可能性がある.筆者らが過去に報告した自験例(図1)でもこのような解剖学構造を有していたため,硝子体の処理はERM近傍に留め(図2a),ERMと網膜の癒着が非常に強固な部位には適宜水平硝子体剪刀を用いて慎重に.離除去した(図2b)3).このようにFEVRによるERMは通常のERMと比較して手術の難易度が高く,医原性裂孔を形成すると術後に網膜.離を惹起する危険性も高いため,硝子体の処理はERM周囲に留め,ERM.離時も細心の注意をもって施行すべきである.文献1)IkedaT,FujikadoT,TanoYetal:Vitrectomyforrhegmatogenousortractionalretinaldetachmentwithfamilialexudativevitreoretinopathy.Ophthalmology106:10811085,19992)西村みえ子,山名敏子,上田佳代:家族性滲出性硝子体網膜症の病像,診断.眼臨81:1450-1457,19873)森山侑子,佐藤孝樹,家久耒啓吾ほか:家族性滲出性硝子体網膜症に続発した網膜上膜に対し硝子体手術を施行した1例.臨眼66:1757-1760,2012ba図1術前の眼底写真牽引乳頭に加えて肥厚した後部硝子体膜とそれに連続する続発ERMを認める.矯正視力は0.1.図2術中所見人工的後部硝子体.離はERM周囲に留め(a),ERMと網膜の癒着が強固な部位には水平硝子体剪刀を使用した(b).(99)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132330910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 146.眼科疾患のmicro RNAプロファイリング

2013年2月28日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第146回◆眼科医のための先端医療山下英俊眼科疾患のmicroRNAプロファイリング金子優(山形県立中央病院眼科)はじめにヒトゲノムの98%を占めるノンコーディング領域(蛋白質の遺伝子配列をもたない領域)から転写されたRNA(non-cordingRNA)にはRNA干渉(RNAinterference:RNAi)のような重要な機能が備わっていることが最近明らかになっています.なかでも,特に注目されているのが2001年に報告されたmicroRNA(以下,miRNA)です1).miRNAは細胞内に存在する18.25塩基長の小さなRNAで,mRNAから蛋白質への翻訳の阻害やmRNAの分解を通して遺伝子の負の発現調節に関与しています(図1).代表的なRNAi分子であるsmallinterferingRNA(以下,siRNA)とメカニズムは似ていますが,標的であるmRNA配列に完全に結合するsiRNAに対して,miRNAは標的のmRNAには部分的にしか結合しないので,siRNAのように1対1ではなく1対複数の標的に作用すると考えられます.また,miRNAは内在遺伝子の発現調節のためのシステムといわれており,生体内にはもともと遺伝子調節機構が備わっていることを意味しています.miRNAが細胞の分化や増殖,免疫,発癌など多様な生命現象に関与していることが多数報告されていることからも,種々の難治性疾患の標的治療薬としてだけでなく,疾患診断や治療予後のバイオマーカーとしても臨床応用が期待されています.MicroRNAと疾患miRNAが生命体の恒常性維持に密接に関与している以上,その破綻は疾患に帰結すると考えられます.癌の分野では,miRNAの発現解析を行った結果,解析したすべての癌(乳癌・肺癌・胃癌・大腸癌・膵臓癌・前立腺癌)において発現プロファイルが正常組織と異なっていることがわかりました2).他に,心疾患,自己免疫疾(97)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYDNAmRNA蛋白質表現型(代謝など)翻訳遺伝子転写後抑制細胞質核転写Non-codingRNA(miRNAs,siRNAs)Poly(A)+RNA(mRNA前駆体)図1miRNAの作用機序mRNA:messengerRNA,miRNAs:microRNAs,siRNAs:smallinterferingRNAs.患,神経疾患,血液疾患などでも同様の結果が得られています.血液のように容易に採取できるサンプルから疾患の診断が可能になれば,重症化する前の発見,治療が可能になると考えられます.しかしながら,眼科疾患(特に網膜疾患)においては,検体入手の困難さもあり他の領域と比較してmiRNAの発現解析は進んでいません.そこで,筆者らはホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本においてもDNA,RNAの発現解析が可能である3)ことに注目し,交感性眼炎と正常眼球(眼窩腫瘍で眼窩内容除去術を施行された眼球)の病理組織標本を用いて,それらの網膜・脈絡膜におけるmiRNAの発現解析を行いました.その結果,交感性眼炎の視細胞層で発現が上昇していた腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactoralpha:TNFa),核内因子(NFkB1)を標的とするhsa-miR-9のほか,炎症プロセスに関与すると考えられるhsa-miR-1,hsa-let-7,hsa-miR-182の発現量が交感性眼炎において有意に低下しており,これらのmiRNAの発現量低下が交感性眼炎の炎症プロセスの活性化に関与している可能性が示されました4).もしかしたら,他の眼炎症疾患においても関連性があるかもしれません.しかしながら,いずれの疾患においてもmiRNAの発現亢進や低下が疾患の原因なのか,それとも結果なのかという問題については臨床研究のみならず,基礎研究によるさらなる検討・実証が行われる必要性があります.あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013231 創薬への期待創薬への期待疾患は異なる複数の遺伝子,蛋白質の発現制御ネットワークの破綻なので,従来の中和抗体のように一つの遺伝子や蛋白質を標的にするよりも疾患特異的なmiRNAを標的にすることで,関連するネットワーク上の複数の遺伝子発現調節を同時に改善することが期待できます.miRNAを治療薬として使用するには,①疾患特異的に発現が亢進しているmiRNAの機能を抑制する方法,②発現が低下したmiRNAを補充する方法があります.実際に,miR-122の阻害薬であるLNA(lockednucleicacid)-basedantisensemoleculeという核酸5)を用いたC型肝炎の臨床試験が2008年から始まっており,2012年時点で第II相試験まで進行しています.miRNAを眼科疾患に用いる場合,血液網膜関門の存在を考慮し,miRNA運搬の機能をもつエキソソームを利用するなどして標的遺伝子に有効に届けるためのドラッグデリバリーシステムの構築が可能となれば,眼科領域においてもmiRNA創薬の可能性は広がると考えられます.文献1)RuvkunG:Molecularbiology:GlimpsesofatinyRNAworld.Science294:797-799,20012)VoliniaS,CalinGA,LiuCGetal:AmicroRNAexpressionsignatureofhumansolidtumorsdefinescancergenetargets.ProcNatlAcadSciUSA103:2257-2261,20063)ZhangX,ChenJ,RadcliffeTetal:Anarray-basedanalysisofmicroRNAexpressioncomparingmatchedfrozenandformalin-fixedparaffin-embeddedhumantissuesamples.JMolDiagn10:513-519,20084)KanekoY,WuGS,SaraswathySetal:ImmunopathologicprocessesinsympatheticophthalmiaassignifiedbymicroRNAprofiling.InvestOphthalmolVisSci53:41974204,20125)LanfordRE,Hildebrandt-EriksenES,PetriAetal:TherapeuticsilencingofmicroRNA-122inprimateswithchronichepatitisCvirusinfection.Science327:198-201,2010■「眼科疾患のmicroRNAプロファイリング」を読んで■生命現象には,蛋白質の発現制御が不可欠ですが,万倍以上違う光量・情報を受容する眼においては,昼きわめて繊細な存在である生命体において有効に作用夜で組織環境を大きく変える必要がありますが,それするには,スイッチのON-OFFといった単純な方式には特定の遺伝子発現を急増あるいは急減させる機能では不十分であり,発現の強さやタイミングの緻密なが不可欠であり,microRNAが重要な働きをしてい制御が必要です.その緻密な制御に重要な働きをしてると考えられています.具体的には,網膜においているのがmicroRNAです.MicroRNAによる制御miR183などのmicroRNA群が同定されてきていまシステムは,単細胞生物から植物,さらには人類を含す.その他に,網膜色素変性症でこのシステムに異常む哺乳類まで広く存在しており,進化のきわめて早いがあることが発見されましたが,このシステムの関与時期から発達したシステムです.まだアメーバの海では,特殊疾患にとどまらずぶどう膜炎,加齢黄斑変あった生物発生初期に誕生したこのシステムが,現在性,糖尿病網膜症などの一般疾患でも報告されていまも機能していることは驚くべきことですが,進化によす.る淘汰に耐えたことは,このmicroRNAシステムが今後,microRNAシステムが上にあげた眼科疾患優位かつ不可欠であることを示すものだといえます.以外にも関与していることが発見されていくでしょ最近の研究により,哺乳類においては,このシステう.その際に,遺伝子の緻密な制御というmicroムが感覚器臓器で発達していることがわかりました.RNAの特徴を利用すれば,金子優先生が述べられこれは視覚や聴覚といった複雑な情報の処理には,こているように,副作用が少なく効果が大きいという理の精緻な制御システムが有用であることを示唆しま想的な治療が実現する可能性があります.す.たとえば,生物には日内リズムがありますが,そ鹿児島大学医学部眼科坂本泰二れに伴う反応は臓器によって異なります.昼夜で100☆☆☆232あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(98)

新しい治療と検査シリーズ 209.マイボーム腺機能不全の画期的な治療法になりうるか? -Lipi Flow-

2013年2月28日 木曜日

新しい治療と検査シリーズ209.マイボーム腺機能不全の画期的な治療法になりうるか?―LipiFlow―1)プレゼンテーション:井上佐智子1)2)慶應義塾大学医学部眼科学教室MGD外来有田玲子2)伊藤医院,慶應義塾大学医学部眼科学教室MGD外来,東京大学医学系研究科眼科学コメント:山口昌彦愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野.バックグラウンドマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)という概念が確立されて以来,日々の診察のなかでMGDを目にしない日はないと思うほど患者数は多く,ドライアイの86%はMGDが原因であるともいわれている1).数の多さに加え,MGDはドライアイをひき起こすだけでなく,慢性的な眼不快感を放置することで,頭痛,肩こりなど多く不定愁訴に悩まされることになる.多くの点眼薬も開発され,症状は緩和される場合もあるが,根本的な治療法は現在のところない.WarmCompressは標準治療として国際的に認められている2)が,その治療基準(実際の温度や時間,頻度など)は確立しておらず,実際に継続している患者は少なく,コンプライアンスが悪いのが現状である..新しい治療法WarmCompressをさらに効果的にしたものがLipiFlowである.原理は,閉塞してしまったマイボーム腺を熱(41.43℃)と圧力を瞼に直接与えることで,マイボーム腺からの脂質成分の分泌を促進させる.米国FDA(日本の厚生労働省にあたる)で認可されており,他の治療では一部の閉塞が解除されるだけだが,本治療では一気に多くの閉塞が解除されるため,治療効果の持続が期待できる.実際には最大で9カ月の効果が認められている症例も報告されている3).従来の温罨法との違いを表1にまとめた..使用方法奨励される疾患は涙液蒸発亢進型ドライアイ,分泌減少型(閉塞性)MGDである.検査項目としては,①SPEEDQUESIONAIREという自覚症状スコアが8点以上,②LipiViewという油層測定装置で測定した油層の厚みが60以下,③MGE(実際の瞬目と同じ程度の圧力が一定にかかる圧出装置)で圧迫したマイボーム腺から透明meibumを分泌した腺の数が4個以下(すべてTearScience社による)という基準が設けられている.禁忌として治療前3カ月以内に,眼の手術や傷害,眼あるいは眼瞼ヘルペス,慢性再発性眼炎があった場合.眼感染症,瞼の機能異常,眼表面の異常,20歳以下があげられる.点眼麻酔後,LipiFlowアイピース(図1)を取り付け,寝ている状態で行う.徐々に温度を上げ,圧力を断続的にかけることによりマイボーム腺閉塞の解除を促進する.アイピースは結膜に接触するが,角膜には触れない形状になっている.実際の治療時間は12分である.装置の詳細については,以下のURLを参照いただきたい.http://www.lipiflow.com/dryeye/表1LipiFlowと従来の治療との比較LipiFlow従来の方法治療内容熱(41.43℃)・圧力熱(一定の基準なし)・その他時間12分規定なしアプローチtarsus側/眼瞼皮膚側眼瞼皮膚側のみ対象のマイボーム腺上眼瞼のすべてのマイボーム腺不明患者の負担費用(現在片眼4万円)蒸しタオルの用意,ホットアイマスクなど効果持続最大9カ月不明(93)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132270910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図1実際眼瞼にあてるアイピース白い部分が眼球結膜にあたるが角膜にはあたらない構造になっている.ab図2LipiFlow前後の写真下段は油層の厚みを色分けして示している.油層が薄ければ濃い灰色,厚ければ黄土色から薄い青色として示される.LipiFlow後には黄土色から青色が分布している.a:LipiFlow前.LipiViewは平均値57(最小値48,最大値74),BUTは2秒.b:LipiFlow後.LipiViewは平均値99(最小値67,最大値113),BUTは3秒..本法の良い点能である.②12分という短時間で完結する.タオルなどの温罨法と異なり,冷めることなく持続的に熱を与えまずあげたいのが,①tarsus側からのアプローチとることが可能である.③他の治療では一部の閉塞が解除いうことである.従来の方法では眼瞼皮膚側からのみのされるだけであるが,本治療では一気に多くの閉塞が解アプローチで,実際に熱・圧力ともにマイボーム腺自体除されるので,治療効果の持続が期待できる.筆者も体に届く熱量が不明だった.LipiFlowは眼瞼皮膚側と験した(現在,慶應義塾大学眼科MGD外来で評価し南tarsus側から熱・圧力ともにアプローチすることが可青山アイクリニックと連携している症例も多い)が,施228あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(94) 術中は痛みや違和感がなく,むしろ快適な感想をもった.実際に自覚症状も改善しているが,BUTの延長やLipiViewによる油層の厚みを数値化して示されたことで,治療効果を実感できた(図2a,b)..今後の展開LipiFlowの適応は幅広いが,筆者らは特に分泌減少型MGD眼において非侵襲的マイボグラフィー4)によるマイボーム腺の形態変化と治療効果の対応など検討していきたいと考えている.文献1)LempMA,CrewsLA,BronAJetal:Distributionofaqueous-deficientandevaporativedryeyeinaclinic-basedpatientcohort:aretrospectivestudy.Cornea31:472-478,20122)AsbellPA,StapletonFJ,WickstromKetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:reportoftheclinicaltrialssubcommittee.InvestOphthalmolVisSci52:2065-2085,20113)GreinerJV:AsingleLipiFlowRThermalPulsationSystemtreatmentimprovesmeibomianglandfunctionandreducesdryeyesymptomsfor9months.CurrEyeRes37:272-278,20124)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,2008.本方法に対するコメント.マイボーム腺機能不全(MGD)は,日常臨床で最も点は,皮膚側だけでなく眼瞼結膜側からも加熱するこ頭を悩ませる眼表面疾患の一つである.薬物的(局所とである.マイボーム腺は,解剖学的にも眼瞼結膜側および全身),物理的,環境的にさまざまな角度からからのほうが近いので,より効果的と考えられる.さアプローチを試みるが,根治させることはきわめて困らに効果判定のためのシステムを備えており,験者,難である.MGDの物理学的療法の一つとして昔から被験者ともに治療効果を認識しやすい.問題は,筆者温罨法があり,その効果は不確定ではあるが,眼瞼をも言及しているが,やはりコストパフォーマンスであ温めることによって一定の自覚症状の改善がみられるろう.今後,日本における本法の適応確立と治療効果ことは経験的にわかっている.LipiFlowの画期的な持続性の検討が待たれる.☆☆☆(95)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013229

抗VEGF治療:網膜静脈閉塞症と抗VEGF薬

2013年2月28日 木曜日

●連載⑨抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二7.網膜静脈閉塞症と抗VEGF薬平原修一郎吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)では,高率に黄斑浮腫を合併し,視力低下の原因となる.RVOの黄斑浮腫に対して,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の臨床試験が実施され,既存の網膜光凝固やステロイド投与よりも優れた視力改善効果が示されている一方,頻回投与の長期的な視力予後への意義に関しては今後の検討が必要である.網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)の黄斑浮腫に対する治療は,網膜光凝固,硝子体手術,薬物治療の3つに分けることができる.このうち,薬物治療としては,ステロイドと抗VEGF薬による治療がある.ステロイド治療には,トリアムシノロンアセトニドのTenon.下投与および硝子体内注射,デキサメタゾン硝子体内インプラントがあり,有用性が報告されている.近年は,抗VEGF薬の硝子体内投与による治療が盛んに研究されている.抗VEGF薬はベバシズマブ(アバスチンR),ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)の4種類に関する研究報告がなされている.眼科領域において適用外使用となるがベバシズマブを用いた臨床研究でRVOに対する有効性を述べた報告や,加齢黄斑変性に適用のあるペガプタニブの有効性を述べた臨床報告があるが,本稿では,現在,日本において網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)および網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)に対する第Ⅲ相臨床試験が行われているラニビズマブと,CRVOに対して第Ⅲ相臨床試験が行われているアフリベルセプトについてBRVO,CRVOそれぞれに対する臨床試験の結果を解説する.BRVOラニビズマブを用いた海外における第Ⅲ相臨床試験(BRAVOstudy1))が2010年に報告されており,ラニビズマブ(0.3mg,0.5mg)硝子体内注射,偽注射を毎月実施した結果,6カ月後のデータとして,ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,ETDRSスコアは,それぞれ16.6文字,18.3文字改善し,15文字以上(89)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYの改善率は,55.2%,61.1%であり,偽注射群の7.3文字改善,改善率28.8%に対し,有意に改善がみられた.その後,さらに6カ月間の経過を追った報告2)では,最初の6カ月をラニビズマブ投与し,その後6カ月随時投与した群(ラニビズマブ投与群)と,最初の6カ月を偽注射で,その後6カ月ラニビズマブ(0.5mg)を随時投与した群(偽注射+随時投与群)を比較した.ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,平均視力はそれぞれ16.4文字,18.3文字の改善,15文字以上の改善率は,56.0%,60.3%と6カ月後に得られた視力改善を維持した.一方,偽注射+随時投与群でも,12.1文字改善,改善率43.9%とラニビズマブの随時投与でさらなる平均視力の改善が得られたが,ラニビズマブ投与群より劣っていた.BRAVOstudy参加症例を,3カ月ごとの経過観察で,ラニビズマブを随時投与しながらさらに1年間経過観察した報告(HORIZONstudy3))では,ラニビズマブ投与3mg,0.5mg)において,ETDRSスコアはそれ.群(0ぞれ14.9文字,17.5文字改善し,15文字以上の改善率は,50.0%,60.3%であった.興味深いことに,偽注射+随時投与群でも15.6文字改善が得られ,視力改善率も51.5%と,初めの1年でみられたラニビズマブ投与群との差はなくなった(図1).BRVOのまとめ①ラニビズマブ投与群と偽注射(6カ月以降ラニビズマブ随時投与)群と比較すると,6カ月後,12カ月後では,ラニビズマブ投与群において視力改善効果が優れていた.②しかし,さらに3カ月ごとに随時投与を行い1年の経過をみると,偽注射(6カ月以降ラニビズマブ随あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013223 :ラニビズマブ投与群(0.5mg):ラニビズマブ投与群(0.3mg):偽注射+随時投与(0.5mg)MeanChangefromBaseline(Letters)2520151050+19.2+16.8+13.2+17.5+14.9+15.6BRAVOHORIZONRVOBaselineM1236912Month図1BRVOに対するBRAVOstudy(1年目)とHORISONstudy(2年目)の平均視力の改善文字数ラニビズマブ投与群は6カ月,12カ月後に偽注射+随時投与群に対して有意な視力改善効果がみられた.さらに3カ月ごとに随時投与を行い,24カ月後においても視力改善効果が維持されている.この時点で,偽注射+随時投与群も同様の視力改善が得られている(グラフ中の改善した平均文字数は,HORIZON試験参加症例に限る).(文献3より改変・転載)時投与)群でも視力改善を認め,両群の差はなくなった.CRVOラニビズマブを用いた海外における第Ⅲ相臨床試験(CRUISEstudy4))が2011年に報告されており,ラニビズマブ(0.3mg,0.5mg)硝子体内注射,偽注射を毎月実施した結果,6カ月後のデータとして,ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,平均視力はそれぞれ12.7文字,14.9文字改善し,15文字以上の改善率は,46.2%,47.7%であり,偽注射群の0.8文字改善,改善率16.9%に対し,有意に改善がみられた.その後,さらに6カ月経過を追った報告5)では,最初の6カ月をラニビズマブ投与し,その後6カ月随時投与した群(ラニビズマブ投与群)と,最初の6カ月を偽注射で,その後6カ月ラニビズマブ(0.5mg)を随時投与した群(偽注射+随時投与群)を比較した.ラニビズマブ投与群(0.3mg,0.5mg)において,平均視力はそれぞれ13.9文字,13.9文字の改善を維持し,15文字以上の改善率は,47.0%,50.8%であった.一方,偽注射+随時投与群の7.3文字改善,改善率33.1%とラニビズマブの随時投与で平均視力はある程度改善したが,ラニビズマブ投与群には劣っていた.CRUISEstudy参加症例を,3カ月ごとの経過観察で,224あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013ラニビズマブを随時投与しながらさらに1年間経過観察した報告(HORIZONstudy3))では,ラニビズマブ投与3mg,0.5mg)において,ETDRS視力はそれぞ.群(0れ5.2文字,4.1文字悪化し,また偽注射+随時投与群でも4.2文字の視力低下がみられ,最終的にはCRUISEstudyによる治療開始時と比べるとそれぞれ8.2文字,12.0文字,7.6文字の視力改善にとどまり,BRVOと比べて長期的な加療の必要性や視力維持の難しさが示唆された(図2).アフリベルセプトを用いた第Ⅲ相臨床試験(COPERNICUSstudy6))の結果が2012年5月に報告され,アフリベルセプト硝子体内注射,偽注射を毎月投与した結果,6カ月後,アフリベルセプト投与群において,平均視力は17.3文字改善し,15文字以上の改善率は56.1%であり,偽注射群の4文字悪化,改善率12.3%に対し,有意な改善を認めた.その後,さらに6カ月経過を追った報告が2012年12月に報告されたばかりで7),最初の6カ月をアフリベルセプト投与し,その後6カ月随時投与した群(アフリベルセプト投与群)と,最初の6カ月を偽注射で,その後6カ月アフリベルセプトを随時投与した群(偽注射+随時投与群)を比較したところ,アフリベルセプト投与群において,平均視力は16.2文字の改善を維持し,15文字以上の改善率は55.3%であり,偽注射+随時投与群の3.8文字改善,改善率30.1%に対(90) :ラニビズマブ投与群(0.5mg):ラニビズマブ投与群(0.3mg):偽注射+随時投与(0.5mg)MeanChangefromBaseline(Letters)2520151050-5+16.2+14.9+9.4+12.0+8.2+7.6CRUISEHORIZONRVOBaselineM1236912Month図2CRVOに対するHORISONstudy(1年目)とCRUISEstudy(2年目)の平均視力の改善文字数ラニビズマブ投与群は6カ月,12カ月後に偽注射+随時投与群に対して有意な視力改善効果がみられた.さらに3カ月ごとに随時投与を行ったところ,いったん改善した視力の悪化がみられた(グラフ中の改善した平均文字数は,HORIZON試験参加症例に限る).し,有意に改善が得られている.CRVOのまとめ①ラニビズマブ,アフリベルセプト両薬剤とも,投与6カ月後,12カ月後において,偽注射(6カ月以降随時投与)群と比較して有意な視力改善効果が得られた.②しかし,ラニビズマブ投与群に関して,さらに3カ月ごとに随時投与を行い1年の経過をみると,いったん改善した平均視力の悪化がみられた.おわりにRVOの黄斑浮腫の治療の現状は,日本ではまだ十分確立しているとは言い難いが,抗VEGF薬治療を中心とした薬物治療の臨床試験が進められてきており,今後の治療方針にかかわるエビデンスの構築に注目していきたい.文献1)CampochiaroPA,HeierJS,FeinerLetal:Ranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion:six-monthprimaryendpointresultsofaphaseIII(文献3より改変・転載)study.Ophthalmology117:1102-1112,20102)BrownDM,CampochiaroPA,BhisitkulRBetal:Sustainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion:12-monthoutcomesofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:1594-1602,20113)HeierJS,CampochiaroPA,YauLetal:Ranibizumabformacularedemaduetoretinalveinocclusions:long-termfollow-upintheHORIZONtrial.Ophthalmology119:802809,20124)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizumabformacularedemafollowingcentralretinalveinocclusion:six-monthprimaryendpointresultsofaphaseIIIstudy.Ophthalmology117:1124-1133,20105)CampochiaroPA,BrownDM,AwhCCetal:Sustainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafollowingcentralretinalveinocclusion:twelve-monthoutcomesofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:2041-2049,20116)BoyerD,HeierJ,BrownDMetal:VascularendothelialgrowthfactorTrap-Eyeformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:six-monthresultsofthephase3COPERNICUSstudy.Ophthalmology119:10241032,20127)BrownDM,HeierJS,ClarkWLetal:IntravitrealAfliberceptInjectionforMacularEdemaSecondarytoCentralRetinalVeinOcclusion:1-YearResultsFromthePhase3COPERNICUSStudy.AmJOphthalmol2012Dec3(e-pub)(91)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013225

緑内障:EX-PRESS®緑内障フィルトレーションデバイス

2013年2月28日 木曜日

●連載152緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也152.EX.PRESSR緑内障フィルトレーション石田恭子岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野デバイス線維柱帯切除術は,緑内障濾過手術のゴールドスタンダードではあるが,常に合併症のリスクがつきまとう.EX-PRESSR併用濾過手術では,内腔50μmのデバイスを通して房水を流出させ,濾過量を一定にすることで,術早期の過剰濾過に伴う合併症の発生を軽減し,再現性のある手術を目指す.●EX.PRESSRの原理と特徴AlconREX-PRESSRGlaucomaFilterationDevice(AlconLaboratories,Inc.,FortWorth,TX)は調圧弁をもたないglaucomadrainagedeviceで,線維柱帯切除術(Trab)と同様の強膜弁下から前房内に挿入し,デバイスを通じて房水を結膜下へ導き結膜濾過胞に貯留させ,眼圧を下降させる.わが国で発売されているモデルP-50は,全長が2.64mm,shaftの太さが400μm,内腔が50μm,眼内迷入や眼外突出を防ぐ目的で,前房側にかえし,強膜側に鍔が付いている.房水の流入口は2カ所あり,先端部が閉塞した場合に備えて,上側面にも流入口が設けられている.また,鍔にはverticalchannelとよばれる溝が付いており,デバイスを通じて前房から強膜弁下に流れ込んだ房水がより後方へ流れるように工夫されている.EX-PRESSR本体は,専用のデリバリーシステム(EXPRESSRdeliverysystem)に搭載された状態で販売されている(図1).EX-PRESSRは,心臓血管治療用ステントと同じ素材AB図1EX.PRESSRdeliverysystemA:EX-PRESSRdeliverysystemの保持例:ペン型のEXPRESSRdeliverysystemの先端には,EX-PRESSRが搭載されている.B:EX-PRESSR搭載時のEX-PRESSRdeliverysystemの先端部:EX-PRESSRdeliverysystem先端に搭載されたEX-PRESSR.(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYのステンレス鋼製で生体適合性を有し,3テスラ以下の磁場強度でのMRI撮影であれば偏位や熱発生はなく安全とされている.●EX.PRESSRの適応と禁忌Trabと同様に,輪部濾過胞の形成に適した結膜を有する症例では,初回手術(図2),白内障および緑内障手術既往眼,角膜移植既往眼,硝子体手術既往眼などでも奏効することが報告されている1).一方,眼感染症,重度のドライアイ,重度の眼瞼炎などのTrabと同様の禁忌例の他に,器具特有の手術禁忌例に注意する必要がある.デバイス内腔が閉塞する可能性のあるぶどう膜炎,EX-PRESSRを挿入するスペースが確保できず虹彩と接触したり,虹彩前癒着のためデバイスが前房内に穿孔しないなどの合併症が予想される閉塞隅角緑内障,金属アレルギーの既往歴を有する症例では,EX-PRESSRの使用は禁忌である.●EX.PRESSR併用濾過手術の利点と成績挿入が比較的容易であること,流出路の大きさが標準図2EX.PRESSR併用濾過手術例抗凝固剤継続使用例に対し,EX-PRESSR併用濾過手術を施行した.あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013221 100806040200経過観察期間(月)図3EX.PRESSR併用濾過手術と線維柱帯切除術の手術成績紫線はEX-PRESSR併用濾過手術,青線は線維柱帯切除術の累積手術成功率を示す.両群の最終成功率はそれぞれ85.6%,84.3%で有意差はない.成功の定義:5<IOP≦21mmHg(文献2より改変)化(50μm)できること,虹彩切除や線維柱帯切除が不要であることがその利点としてあげられる.挿入が比較的容易であることから,前房開放時間および手術時間の短縮,ラーニングカーブが高いことが報告されている.流出路の大きさが標準化できることから,過剰濾過に伴う合併症を減少させることができる.EX-PRESSR併用濾過手術とTrabを比較した自験例では,手術成功を5≦眼圧≦21mmHgと定義すると,両術式の手術成績は同等(図3)であるが,術後1週間以内の低眼圧(眼圧<5mmHg)や脈絡膜.離の発生は優位に少なかった(図4)2).虹彩切除や線維柱帯切除を行わないため,術中の出血や炎症が少なくなり,流出路の閉塞や濾過胞の瘢痕化を軽減でき,長期成績が改善される可能性がある3,4).EX-PRESSR併用濾過手術とTrabを比較した5年成績では,術後3年目までの眼圧,術後4年目までの投薬数は,EX-PRESSR群が有意に低く,術後5年目の眼圧(および投薬数)は,EX-PRESSR群が,11.3mmHg(0.85),Trab群が,11.2mmHg(1.10)であった3).また,術後炎症の程度が比較的軽く合併症が少ないため,線維柱帯切除術と比較し術後視力回復も早い(術前と同等の視力レベルに回復するまでの期間が,Trabでは1カ月,EX-PRESSRでは1週間)と報告されている5).まとめ種々の研究報告から,EX-PRESSR併用濾過手術は,少なくともTrabと同等以上の長期成績が得られるうえ222あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013EX-PRESS:85.6%線維柱帯切除:84.3%p=0.594成功率(%)0246810121416*p<0.0014035302520151050**低眼圧脈絡膜滲出■EX-PRESSR■線維柱帯切除術図4過剰濾過に伴う合併症紫はEX-PRESSR併用濾過手術,青は線維柱帯切除術の過剰濾過に伴う合併症を示す.術後1週間以内の低眼圧(眼圧<5mmHg)や脈絡膜.離はEX-PRESSR併用濾過手術で有意に少ない.(文献2より改変)に,術早期の合併症発生頻度を軽減できる.しかしながら,手術コストが高いという不利益もある.コスト面を考慮してもなお,従来のTrabよりもEX-PRESSR併用濾過手術の恩恵を受けることができうる症例としては,出血リスクの高い抗凝固剤継続例や,過剰濾過に伴う合併症発生の高リスク群(若年,強度近視例,過剰濾過既往例),虹彩切除に伴う硝子体脱出のリスクがある症例(落屑症候群など),早期視力回復が望まれる単眼例などである.こうした症例には,今後より安全に濾過手術を施行できる可能性のある術式である.文献1)KannerEM,NetlandPA,SarkisianSRJretal:Ex-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderascleralflapaloneorcombinedwithphacoemulsificationcataractsurgery.JGlaucoma18:488-491,20092)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20073)deJongL,LafumaA,AguadeASetal:Five-yearextensionofaclinicaltrialcomparingtheEX-PRESSglaucomafiltrationdeviceandtrabeculectomyinprimaryopen-angleglaucoma.ClinOphthalmol5:527-533,20114)DahanE,BenSimonGJ,LafumaA:ComparisonoftrabeculectomyandEx-PRESSimplantationinfelloweyesofthesamepatient:aprospective,randomisedstudy.Eye26:703-710,20125)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol251:507-512,2011(88)

屈折矯正手術:新収差計iDesign® を使ったLASIK

2013年2月28日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載153大橋裕一坪田一男153.新収差計iDesignRを使ったLASIK福岡佐知子多根記念眼科病院波面収差解析装置iDesignRは,従来使用していたWaveScanRと比較して,測定時の検査データのばらつきが少なく再現性のある結果が得られ,高解像度で多収差眼でも測定が可能となった.iDesignRで得られた詳細なデータから精密な照射パターンを作製しLASIKに反映させるため,より精緻な他覚的検査データを用いたLASIKが可能と期待されている.従従来のLASIK(laserinsitukeratomileusis)による屈折矯正手術は,低次収差(球面と円柱成分)の治療に限られていたが,現在は波面収差解析装置の登場により高次収差の定量的評価が可能になり1,2),これらのデータを用いたwavefront-guided(以下WFG)LASIKが主な術式として多くの施設で取り入れられている.波面収差解析装置の代表的なものとしてHartmannShack波面センサーがある.これは瞳孔から入った光線が網膜上で反射して眼外に出てくる射出光の位相のずれを眼外に置いたCCDカメラの多数のポイントによって測定する.得られたデータはZernike多項式3)またはFourier変換に基づく解析が行われ,エキシマレーザーの照射パターンに変換して治療に用いられる4,5).当院はこの代表機種であるWaveScanRWaveFrontSystem(AMO社)を用いてWFGLASIKを行ってきたが,2012年5月に新しく登場した「iDesignRAdvancedWaveScan(以下iDesignR)」(AMO社)を導入した.ここでは両機器の比較と,短期間ではあるが手術成績について紹介する.●iDesignRの特徴波面収差解析装置であるiDesignRの特徴を表1に示す.WaveScanRと比較して測定できる屈折度数やデータ取得範囲が拡大した.また,WaveScanRは,測定光線が赤外光で色収差のため測定結果が遠視側に検出されるので,実際の照射時は自覚屈折度数を参考に術者が補正を行う必要があった.iDesignRは,色収差が除外され調節の介入を軽減しているので測定結果のままで照射ができると期待されている.さらに,iDesignRの測定ポイントがWaveScanRの約5倍に増え,そこで詳細に得られたデータをより精密な解析法(Fourie解析=Zernike16次相当)で照射パターンを作製できるようになった.●WaveScanRとiDesignRの測定結果の比較両機器の測定精度を比較するため,眼疾患のない近視を有する16人31眼,平均年齢26.6歳(21~37歳)を対象とし,1眼につき5回計測して測定結果を検討した.測定度数のばらつきを球面度数の最大値と最小値の差から検討すると,WaveScanRとiDesignRは±0.75D以下表1波面収差解析装置WaveScanRとiDesignRの比較WaveScanRiDesignR球面屈折力(f6mm).12.0~+9.0D.16.0~+12.0D円柱屈折力(f6mm)±6.0D±8.0Dデータ取得範囲f7mmf8.5mmビデオターゲット赤色の視標蜘蛛の巣様の視標Hartmann-Shack波面センサーf7mmで255ポイントf7mmで1,257ポイント波面Fourier解析Zernike6次相当Zernike16次相当解像度400μm177μm直径7mmの測定範囲においてWaveScanRの測定ポイントが255ポイントに対し,iDesignRは5倍の1,257ポイントに増えた.(83)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132170910-1810/13/\100/頁/JCOPY 100%80%60%40%20%0%球面度数Hartmann-Shack波面センサー測定±0.75D以下90.3%±0.75D以下100%WaveScanRiDesignR0.250.50.7511.251.51.75表2WaveScanRとiDesignRの測定回数が増えることによる度数の影響WaveScanRiDesignR±0.25D以内24/31眼(77.4%)26/31眼(83.9%)±0.25D以上+0.30D.0.36D.0.49D.0.76D.0.26D.0.37D.0.72D+0.29D+0.39D.0.40D+0.32D+0.45D測定回数が増えることにより近視度数が増強したのはWaveScanR6眼,iDesignR1眼であった.は90.3%,100%であった(図1).また,繰り返す検査を行うことで調節が入るかどうか(近視が増すか)を測定1回目と5回目の等価球面度数の差から検討すると,.0.25D以上近視が増したものはWaveScanRでは6眼に対しiDesignRは1眼であった(表2).つまりiDesignRはばらつきが少なく再現性が高い測定が可能で,検査を繰り返しても調節が入りにくいという結果であっ218あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図1WaveScanRとiDesignRの測定結果のばらつきの比較WaveScanRとiDesignRは±0.5D以下は74.2%,90.3%,±0.75D以下は90.3%,100%であった.測定率4眼/5眼(80%)図2回析型多焦点眼内レンズ(ZMB00:AMO社)挿入眼5眼を両機器で測定iDesignRは全例測定可能で,測定間隔が細かく描写も鮮明であった.5眼/5眼(100%)た.つぎに,iDesignRはカメラが高解像度になり複雑な波面を精密に測定できるようになった.そこで多収差眼である回折型多焦点眼内レンズ(ZMB00:AMO社)挿入眼5眼を両機器で測定し検討した(図2).WaveScanRは4眼(80%),iDesignRは5眼(100%)測定が可能であった.また,実際の測定画像は,iDsignRでは測定間隔が細かく描写も鮮明であった.以上のことからiDesignRは検者や患者のコンディションに測定結果が左右されず,多収差眼でも測定可能であり,安定した詳細なデータを治療に反映できると考えられる.●iDesignRの実際の手術成績2012年5~8月までにiDesignRを使用してiLASIKRを施行し,術後3カ月まで経過観察できた14人28眼の手術成績について検討した.平均年齢29.6歳(20~42歳).術前の自覚球面度数は.4.58±2.13D,自覚円(84) 柱度数は.1.45±0.69D,自覚等価球面度数は.5.30±2.02D,iDesignRとWaveScanRの等価球面度数は.5.61±2.13D,.5.16±1.98Dであった.小数視力経過は術前・術後1カ月・3カ月で0.07・1.32・1.31と良好な結果であった.術後の屈折値に関しては,術前に計測したiDesignR・自覚屈折度数・WaveScanRのデータをそのまま照射したと仮定すると,術後最高視力に必要な等価球面度数との差は+0.13D・.0.18D・.0.33Dとなった.iDesignRと自覚屈折度数はほぼ同等で,良好な裸眼視力が得られると考えられる.WaveScanRはそのままのデータで照射すると,やや低矯正となり良好な裸眼視力が得られず術者による補正が必要となる.今回紹介したiDesignRは多数のポイント,高解像度で取得したデータを解析し,詳細で安定したデータに基づく照射プログラムをそのまま施術することで,良好な裸眼視力が得られると考えられた.まだ症例数は少ないが,iDesignRの登場により精密な他覚的検査データを用いたLASIK手術が可能になってきたのではないかと期待する.文献1)LiangJ,GrimmB,GoelzSetal:ObjectivemeasurementofwaveaberrationsofthehumaneyewiththeuseofaHartmann-Shackwavefrontsensor.JOptSocAmAOptImageSciVis11:1949-1957,19942)MaedaN:Clinicalapplicationsofwavefrontaberrometryareview.ClinExperimentOphthalmol37:118-129,20093)黒田輝仁:Hartmann-Shack波面センサー.眼科診療プラクティス89,角膜形状解析の基礎と臨床,p104-105,文光堂,20024)南慶一郎,宮田和典:レーザー照射としてのゼルニケVSフーリエ.IOL&RS21:223-226,20075)宮田和典,加賀谷文絵,子島良平ほか:フーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guidedLASIK臨床効果.あたらしい眼科26:705-708,2009☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013219

眼内レンズ:柴式排水器

2013年2月28日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎318.柴式排水器柴宏治柴智美小髙隆平柴賢爾上水流真江柴眼科内眼手術において術野への液体貯留は視認性の低下による合併症の発生の危険性のみならず,眼内炎などの感染症の危険性も増大しうる.柴式排水器は水の表面張力,分子間力,重力を用いた新しい排液デバイスであり,眼科手術を行う者にとって良きパートナーとなるであろう.内眼手術における術野の液体貯留への既存の対策としては,電動式吸引機(以下,吸引法),外眼角へのガーゼや吸水スポンジの設置(以下,ガーゼ法),外眼角リトラクター,ソリフィスR1)などがある.柴式排水器は無動力で機能する新しい排水用デバイスで,術中の視認性確保,感染リスクの減少を目的として作製された.本器は表1に示すごとく,欠点の少ない機能的バランスが良い器具である.柴式排水器は水の表面張力,分子間力および重力を利用している.液体が術野に貯留し,フック部に接触するとフック部と皮膚との間にできた空隙に水たまり部が形成される.この水たまり部に術野の液体が水の分子間力によって引き寄せられ,眼角側に液体が移動する.移動した水は自由落下によって落ちてゆくが,この際に水路が形成され,連続排水を生み出す(図1).この原理から,本器がその効力を発揮するには,ある一定量(水路を形成するに足る量)の水量が必要であるといえる.ゆえに,点滴による自動点眼装置などのわずかな水の滴下による手術補助では,創口作製時や前.切開時などは水量が不十分となり,本器の効果が十分に得られないことがある.介助者が存在する場合においても同様であり,術野に水が貯留しそうな状態になれば,むしろ大量の水を術野に投入するという従来と正反対の介助が望ましい.また,これはガーゼ法やソリフィスR(トップ社)にもいえることであるが,水路を邪魔する物質(粘弾性物水たまり部図1柴式排水器の原理水たまり部に向かって下から上に向かって水が持ち上げられた後,自由落下にて術野の外に排液される.破線は水の流れ.質,眼脂など)が滞留すると排水力が著しく低下する.この場合も大量の水によるwashoutが必要となる.ただし,柴式排水器の場合はソリフィスRのように器具を取り外して洗浄する必要はない.ちなみに筆者らはハイドロダイセクション時に創口から多量の粘弾性物質が流出した際は,超音波チップを挿入する直前にエア抜きを兼ねてハンドピースから出る灌流液で水たまり部周辺を軽くwashoutしてから超音波を行うようにしている.本器のフック部の形状は安定した固定を得るためだけでなく,従来吸引法以外では困難であった術野の深い部分に溜まった水を引き上げて排水できるよう設計されて表1排水方法の比較柴式排水器ソリフィスR吸引法ガーゼ法外眼角リトラクター排水能良好良好良好不十分なし耳側手術問題なし困難可能問題なし問題なし設置・固定簡便・強固煩雑・やや不安定煩雑・不安定簡便・比較的強固介助技量依存しない依存しない依存する依存しない依存しない(81)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132150910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図2a無処置では術野に大量の液体が貯留した状態いる(図2a,b).また,フック部が比較的細いため,本器は上下に容易に倒すことができ,類似する排水原理を有するソリフィスRでは困難であった耳側からアプローチする手術にも対応可能である.外眼角部の張りや厚みによってやや設置が困難な症例においては,敢えてフック部を外眼角の奥まで挿入しなくてもドレープや皮膚の皺などに軽く乗せて固定するだけでその効力を発揮する.図2b排水器を設置すると速やかに排水される柴式排水器は無動力で良好な排水能を有し,着脱も簡便である.本器の原理と特徴を理解して使用することで,眼科手術を行う者にとって頼もしいパートナーとなってくれるであろう.文献1)征矢耕一:新しい眼科手術用排液器─ソリフィスR─.眼科手術24:465-467,2011