●連載◯283監修=福地健郎中野匡283.緑内障患者の読書能力石井雅子新潟医療福祉大学大学院健康科学専攻緑内障による視機能低下は読書能力に大きな影響を与える.緑内障患者では読書能力が低下するが,とくに縦書きの文章での読みにくさが顕著である.これは視野障害による視線移動のむずかしさがその原因となっている.読書能力の低下は視覚補助具の使用や通信情報技術(ICT)を活用することで改善することが多い.したがって,緑内障患者の読書能力を評価してケアにつなげることが重要である.●はじめに緑内障は慢性疾患であり,症状がほとんどないまま徐々に視機能が障害されるため,患者が自覚症状を感じたときには,すでに病状がかなり進んでいることがある.生活の質(qualityoflife:QOL)が著しく低下しているにもかかわらず,不自由さに適応し,ケアを受けず生活している患者も多い.QOLを考えるうえでは,文字や文章を読むことは日常生活の中で重要度が高く,読書困難は視覚障害者の訴えとしてもっとも多く,緑内障患者においても例外ではない1).緑内障では末期まで視力が保たれることが多いが,視力値だけでは読書困難を予測することはできない.中心視野障害は読書能力に大きな影響を与える2).読書困難の程度を知るためには,読書を直接測定することが重要である3).C●読書能力のパラメータと読書曲線読書の評価にはCJapaneseCversionCofCMinnesotaReadingAcuityChart(MNREAD-J)を用いる(図1).はじめに練習用読書チャートを使用して方法を十分に理解してもらう.測定はチャートを書見台に置き,両眼開放の条件で,視距離はC30Ccmとし,近見屈折矯正を行ったうえで測定する.大きな文字サイズから小さな文字サイズへとC1ブロックごとに順にできるだけ速く正確に音読するよう指示し,1ブロックごとに読みに要した時間と読み間違えた文字数を記録し,読書速度を算定する.データの解析には,分析プログラム(MNREAD-JCAnalysisCalphaversion2)を用いて,最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力の三つのパラメータ3)(図2)を算出して読書能力を評価する.C●正常コントロールとの比較矯正視力C0.7以上の緑内障患者C49例と年齢をマッチングした正常コントロールC30例で,読書の三つのパラメータを比較した研究では,緑内障患者では,三つのパラメータすべてが正常コントロールよりも有意に低下していた4)(表1).緑内障患者の読書能力は,視野障害に影響されることが示された.C●読書能力の低下とその対応日本語には,縦書き,横書きの二つの表記形式がある.そのため,縦書きと横書きの読み物で読みの困難度に差が出る.新聞は縦書きであるがゆえに,多くの緑内障患者が読み飛ばしや行間違えを起こしやすく,読みに困難を感じる.これは,緑内障性視野障害が網膜神経線維の走行に沿って表れるため,水平経線を挟んで視野の感度差が出ることから生じる.そのため視線を上下に移動させて読むことがむずかしくなる.とくに下方視野の感度低下は読みを困難にする5).症例はC66歳,女性,原発開放隅角緑内障,矯正視力は右眼C1.0で左眼C0.06である.視野と読書曲線を図3に示す.読書困難を主訴とした.近用拡大鏡で文字を大きくしても読めないという.縦書きの最大読書速度は74.82文字/分,臨界文字サイズはC0.70ClogMAR(13.91pt),読書視力はC0.53ClogMAR(9.40Cpt)である.横書きの最大読書速度はC200.74文字/分,臨界文字サイズは0.70logMAR(13.91pt),読書視力は0.40logMAR(6.97Cpt)である.臨界文字サイズの値より,新聞本文の文字サイズであるおよそC10Cptを読むには,低倍率の近用拡大鏡の使用で読み速度の向上が期待される.しかし,縦書きでは十分な読み速度が得られない.この場合には縦書きの文章を読む時には,タイポスコープ(黒い短冊のようなもの)を文字の脇に置いて視線の移動を補助すること,iPadやスマートフォンによる通信情報技術(informationCandCcommunicationtechnology:ICT)を活用した文字の音声変換や活字の縦横変換アプリなどの指導が有効である.(59)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024590910-1810/24/\100/頁/JCOPY1,00010010100.20.40.60.81.21.4文字サイズ(logMAR)1正常視覚者緑内障患者図2読書曲線と読書能力のパラメータAは最大読書速度.文字サイズが最適な場合に読める最大速度.Bは臨界文字サイズ.最大読書速度で読める最小の文字サイズ.読書に適する文字サイズを示す.Cは読書視力.なんと図1JapaneseversionofMinnesotaReadingAcuityChartかぎりぎり読むことができる文字サイズ.緑内障患者では視機(MNREAD-J)能の障害程度により,これらのパラメータが低下する.縦書きと横書きがあり,一つの文章はC3行で漢字C8文字を含む30文字からなる.文字サイズ以外の刺激次元である認知的言語的次元にできるだけ違いが出ないように,配慮された刺激単語を用いている.表1正常コントロールと緑内障患者の読書能力の比較緑内障群(n=49)平均±標準偏差正常視覚群(n=30)平均±標準偏差p値*最大読書速度(文字/分)C臨界文字サイズ(logMAR)C読書視力(logMAR)C年齢(歳)C屈折異常(D)C視力(logMAR)C329.9±55.4C0.24±0.14C0.02±0.12C53.3±12.6C.5.25±4.08C1.10±0.08C363.0±42.90.09±0.13.0.13±0.1051.2±11.9.4.01±3.831.15±0.04<C0.01<C0.01<C0.01C0.47C0.06C0.05読書速度(文字/分)*Cunpairedt-test(文献C5より引用)C●おわりに人生C100年時代が到来して,いかに健康寿命を延ばせるかがわが国の課題となっている.緑内障により読書能力が低下し,読み書きを諦めることは認知能力を低下させる要因となり,身体能力にも影響を与える.緑内障患者の読書能力を評価し,ケアにつなげることで,健康寿命の延伸に寄与できる.文献1)ViswanathanCAC,CMcNaughtCAI,CPoinoosawmyCDCetal:CSeverityCandCstabilityCofglaucoma:patientCperceptionCcomparedCwithCobjectiveCmeasurement.CArchCOphthalmolC117:450-454,C19992)藤田京子,湯沢美都子,安田典子:緑内障による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,C2006C60あたらしい眼科Vol.41,No.1,20241.00文字サイズ(logMAR)図3症例の視野と読書曲線上:HumphreyFieldAnalyzerプログラムC10-2,トータル偏差.下:縦書きと横書きの読書曲線の比較.3)LeggeCGE,CRossCJA,CLuebkerCACetal:PsychophysicsCofCreading.CVIII.CTheCMinnesotaCLow-VisionCReadingCTest.COptomVisSci66:843-853,C19894)IshiiM,SekiM,HarigaiRetal:ReadingperformanceinpatientsCwithCglaucomaCevaluatedCusingCtheCMNREADCcharts.JapJOphthalmolC57:471-474,C20135)石井雅子,福地健郎,張替涼子ほか:緑内障患者の読書評価─CMNREAD-Jによる検討.眼臨紀5:14-20,C2012(60)0.00.20.40.60.81.01.21.4