強度近視眼の白内障手術CataractSurgeryforHighMyopia神谷和孝*はじめに強度近視とは,通常.6.0.Dを超える近視を指すが,白内障そのものによって近視化を生じたり,屈折度数も不明瞭になることから,白内障手術眼では眼軸長が26~27mm以上としている報告も認められる.白内障手術全体に占める強度近視眼の割合は約10~20%程度であり,決して少なくない.強度近視は白内障の危険因子であり1~3),核白内障や後.下白内障を合併することが多い.通常の白内障手術に比較して,術中前房が不安定となりやすく,Zinn小帯脆弱の合併もあり,難易度が高いと考えられる.強度近視眼に特有な黄斑疾患(近視性脈絡膜新生血管,近視性牽引黄斑症)や緑内障の合併も少なからず認めるため,術前評価に対しても注意が必要である.その一方で,強度近視眼の白内障手術は屈折矯正手術としての一面も有する.これは“RefractiveLensExchange”ともよばれ,眼内レンズの度数選択によって屈折異常を治すことが可能である.したがって,白内障手術だけでなく屈折矯正手術も行うこととなり,患者満足度は高いと考えられる4,5).本稿では,強度近視眼における白内障手術の現状とその問題点について概説する.I白内障の特徴壮年期から核白内障と後皮質中央部に混濁を生じやすく,進行すると周辺部へと拡大する5).核白内障が進行すると,近視化がさらに進行する(図1).通常の白内障図1強度近視に伴う核白内障近視化を生じやすく,核も見た目より硬いことが多い.手術より対象となる年齢が若く,両眼性は女性に,片眼性は男性に,それぞれ多い傾向がある6~8).II術前の注意点術前白内障そのものだけでなく,黄斑部病変,緑内障,周辺部眼底の評価が重要となる5,9).近視性脈絡膜新生血管(図2),近視性牽引黄斑症(図3),近視性視神経症(図4)などの有無について,細隙灯顕微鏡と前置レンズを用いて立体的に観察することが必要であり,光干渉断層計による評価や視野検査も有用である.近視性脈絡膜新生血管は強度近視眼の約1割に認め,活動期には灰白色病変とその周囲の出血を認め,瘢痕期には*KazutakaKamiya:北里大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕神谷和孝:〒252-0374相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(21)169図2強度近視に伴う近視性脈絡膜新生血管中心窩付近に灰白色病変および周囲の出血を認める.図3強度近視に伴う近視性黄斑牽引症変視症を訴える症例では,牽引の有無を光干渉断層計を用いて確認する.Fuchs斑とよばれる黒褐色の色素沈着を認める.近視性黄斑牽引症は後部ぶどう腫に合併しやすく,黄斑部に牽引性変化を認めるため,光干渉断層計による診断が有用である.近視性視神経症は,もともと視神経乳頭が傾斜していて判定がむずかしいため,できる限り視野検査を行っておくことが望ましい.網膜周辺部変性(図5),網膜硝子体癒着,網膜裂孔を伴う頻度が高いので,眼底の透見が可能な症例では,最周辺部まで眼底観察を行い,必要に応じて予防的網膜光凝固を行う.III術前生体計測術前生体計測として角膜屈折力および眼軸長の測定が必要になるが,通常,角膜屈折力はオートケラトメータ図4強度近視に伴う近視性視神経症乳頭周囲網脈絡膜萎縮およびlaminadotsignを認める.図5強度近視に伴う網膜格子状変性白内障により透見不良の症例では,術前だけでなく術後にも眼底周辺部の観察を行う.を,眼軸長は光学式眼軸長測定装置を,それぞれ用いることが多い.オートケラトメータは光束を網膜に投影し,網膜からの反射像をCCDカメラで受光し,演算処理することにより角膜屈折力や角膜曲率半径を算出する.いずれも複数回の測定を行い,再現性の高いデータを採用する.コンタクトレンズ装用者では,一定期間装用を中止した状態で測定を行う.眼軸長を測定するうえで,後部ぶどう腫を合併している症例では,眼軸長の誤170あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(22)差が生じやすく注意が必要である.その際,後部ぶどう腫を正確に検出するために,Bモードエコーも有用とされている10).また,通常眼鏡やコンタクトレンズによる矯正がどのような屈折度数であったかは,最適な度数決定を考えるうえで参考となる.IV眼内レンズ度数計算これまでさまざまな眼内レンズ度数計算式が提唱されているが,強度近視眼では度数ずれ(特に遠視化)が起こりやすいことが多く報告されている.Tsangら11)は,眼軸長25mm以上の症例でHo.erQ式,Holladay1式とSRK-T式,SRK-2式の順に予測性が高かったと,Narvaezら12)は,眼軸長26mm以上の症例でHolladay1,2式,SRK-T式,Ho.erQ式に有意差を認めなかったと,それぞれ報告している.Wangら13)は,眼軸長25mm以上の症例でHaigis式が最も精度が高く,Kap-amajianら14)は,マイナス度数を必要とするような極長眼軸長眼ではSRK-T式,Holladay1式,Ho.erQ式の順に精度が高かったと報告している.Petermeierら15)は,強度近視眼ではHaigis式やSRK-T式を推奨し,SRK-2式は使うべきでないとしている.Bangら16)は,長眼軸長眼では,Haigis式,SRK-T式,Holladay2式,Holladay1式,Ho.erQ式の順に予測精度が高く,いずれの計算式を用いても,目標設定度数より遠視化する傾向を認めたと報告している.注目したいのが,眼軸長が大きい症例ほど,有意に遠視化しやすかったことである.この結果から,術後正視狙いの症例では,眼軸長が27.00~29.07mmで.0.25~.0.75.D,29.07~30.62mmで.0.50~.1.00.D,31.62mm以上で.1.00~.1.75.Dを狙いとすること,さらに近視狙いの症例では,より近視ぎみを狙いとすることを推奨している.Haigis式は第四世代の計算式であり,光学式眼軸長測定装置IOLMasterTMによる術前前房深度と眼軸長を考慮して予測前房深度を算出しており,角膜曲率半径に依存しない.さらには,特定のサージャンや眼内レンズにより最適化することが可能である.第三世代の計算式であるHo.erQ式,Holladay1式,SRK-T式では薄肉レンズによる理論式から術後予測前房深度が計算されるが,眼軸長によってかなりのばらつきを生じる(図6).PredictedACD(mm)876543210眼軸長(mm)図6眼軸長と術後予測前房深度の関係Haigis式に比較してHo.erQ式,Holladay1式,SRK-T式では,眼軸長による術後前房深度にばらつきが多い.当然,短眼軸長眼では前房が浅く,長眼軸長眼では前房が深くなるので,予測前房深度へ影響すると考えられる.筆者らの施設では通常SRK-T式を使用しているが,経験的に遠視化を考慮に入れて一部補正を行っている.現時点ではSRK-2式は使わずに第三,四世代の計算式を用いるべきであるという点はほぼコンセンサスが得られており,いずれも各施設での臨床データを多数蓄積して経験的に補正をすることが望ましい.必要に応じてマイナス度数のレンズを選択する場合があるが,その際にA定数が異なることにも留意したい.ちなみに,ゼロ度数のレンズを選択する場合,理論的には+0.25.D遠視化するが,実際はそれ以上に遠視化しやすいことも報告されている.V目標屈折度数の設定目標屈折度数の設定に関しては,明確な基準は確立されていないが,現在でも“強度近視眼=.3.D狙い”としている施設も多いであろう.おそらく,“.3.Dに該当する焦点距離が読書距離に該当する”という理論的事実に基づくものと考えられる.強度近視眼では眼鏡なしに近業作業を望む症例が多いのは事実であるが,インターネットの普及などライフスタイルも多様化している現代では,コンピュータを使用する中間視も重要であり,すべての患者にこの概念を適用することは困難になっている.基本的には,本人の希望やライフスタイルを考慮す(23)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012171るが,術前眼鏡やコンタクトレンズによる矯正によって,どの程度の屈折状態であったかを確認することも参考となる.不同視を避ける観点からは,両眼手術が望ましい.Koraら17)は,目標屈折度数をコンタクトレンズによる矯正で0,.3,.5.Dに分類したところ,術後視力0.5以上の症例では38%が0.D,48%が.3.D,14%が.5.Dを希望し,0.1以下の症例では80%が.5.Dを希望したと報告している.Hayashiら18)は,術後目標屈折度数を.1,.1.5,.2.0,.2.5,.3.0.Dに分類し,近方・中間視を検討したところ,.2.0.Dが近方視や中間視を最も良好にすると報告している.強度近視眼では生活習慣上眼鏡装用をせずに近方や中間を見たい欲求が高い傾向にあり,単焦点眼内レンズ挿入後の偽調節が約1.5~2.0.D程度存在すること19~21)を考えると,“強度近視=.3.D狙い”は必ずしも最適な選択とはならないであろう.さらに,Sakaら22)は,強度近視眼では高齢者においても約30%は眼軸長の伸展が継続し,高齢者や後部ぶどう腫を合併している症例でその傾向が顕著であると報告しており,このことは術後さらに近視化傾向を生じる可能性を意味する.この点に関しても術前に十分な説明が必要であろう.1.両眼手術例中高年者で水晶体に混濁を認める症例では,両眼手術を行うことが多い.通常,近方視を重視して.2.0~.3.0.Dを選択することが多いが,筆者らの施設では,原則として.2.0~.2.5.Dを目標屈折度数としている.以前は.3.0.D狙いとしていたが,.2.0~.2.5.D狙いにしても,経験的に近方視への不満はほとんど認められず,中間視をより改善できるためである.特にパソコン作業などのデスクワークを行う症例では推奨される.Hayashiら18)は,.3.D狙いでは中間視において0.67以上は期待できないとしている.網脈絡膜萎縮などにより矯正視力が期待できない症例では.5.0.D狙いとして近方視を重視している.その他,比較的若年者で術前眼鏡やコンタクトレンズにより遠方矯正をしていて,術後視力が期待できる症例では,なるべく正視狙いとしている.2.片眼手術例若年者で僚眼の水晶体が透明な症例では,片眼手術を行う.術後の不同視を避けることは重要であるが,術前の矯正方法を確認しておく.以前からコンタクトレンズにより遠方矯正していた症例では,正視狙いとして,僚眼をコンタクトレンズとする場合もある.患者の希望に応じて僚眼をLASIK(laserinsitukeratomileusis)やphakicIOLなどの屈折矯正手術で対応することも考えたい.それらの希望がない場合,僚眼の屈折度数に合わせるか,不同視が生じない程度に近視を減らす.たとえば,両眼.5.Dの症例では,片眼手術を行う際.5.Dだけでなく.3.Dにする方法も試す価値がある.もちろん,術前シミュレーションを行う必要があるが,約2.D以内の屈折差は臨床的に許容できることが多い.自験例による検討では,50歳以上の有水晶体眼の自覚的調節力が平均2.24.Dであり,白内障術後の偽調節力が2.01.Dであったことから考えると,年齢に関しては,50歳代以降に調節力を期待して水晶体を温存するメリットは少ない23).VI眼内レンズ選択術後眼底周辺部の視認性を確保する立場からは,光学径の大きな眼内レンズが望ましい.多焦点眼内レンズやモノビジョンは,非強度近視眼に比較して満足度が低い傾向にあり,積極的には推奨しておらず,通常の単焦点眼内レンズを選択することが多い.強度近視眼では角膜乱視を合併する症例が多く,必要に応じてトーリック眼内レンズを選択することも有用である.ただし,強度近視眼では水晶体.が大きい傾向にあり,術後早期の回転ずれを生じる可能性があり,眼内レンズ後方にある粘弾性物質を十分に除去し,支持部の伸展を確認したい24).若年者で瞳孔径が大きい症例では,非球面眼内レンズを選択することもあるが,生来乱視が多い傾向にあるために角膜乱視が0.5.D以上あれば,非球面効果が期待できない場合も多い.VII術中・術後の注意点白内障手術中・術後に注意すべき事項として表1に示すような点が考えられる.術中前房が深くなりやすく,172あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(24)表1強度近視眼に対する白内障手術中・術後の注意点①強膜が薄いので早期穿孔する可能性があり,強膜切開は注意して行う.②前房が深くなりやすく,虹彩の牽引による疼痛を訴えることがあり,適宜Tenon.下麻酔を追加したり,灌流ボトル高を下げる必要がある.③Zinn小帯が細く脆弱なことがある.④逆瞳孔ブロックを生じる可能性がある.⑤核性白内障の合併が多く,みかけより核硬化が強い傾向にある.⑥硝子体液化が強く,破.した場合は核落下する可能性がある.⑦術後網膜.離の発症率が有意に高い.⑧術後ステロイドレスポンダーとなりやすい.虹彩の牽引による疼痛を訴えることがあり,適宜Tenon.下麻酔を追加したり,灌流ボトル高を下げる必要があること,術後網膜.離やステロイドレスポンダーとなりやすいことに留意しておきたい25).予測性の高い屈折矯正を行う観点からは,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)の前.のエッジを眼内レンズの光学部に均一にかかるようにし,中心固定を良好にすることによって,術後眼内レンズ位置(E.ectiveLensPosition)を安定化させて,屈折誤差を軽減することが可能である.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術では,より予測性の高い屈折矯正が可能になるであろう.後.破損などで.外固定が必要な場合,約0.73~0.75mmレンズ位置が前方に偏位することから26,27),眼内レンズ度数に依存するものの約0~2.D程度近視化することが知られている.したがって,.内から.外へ変更する際,正常眼では通常1.D減らした度数を選択することが多い26)が,強度近視眼ではこの補正量を減らすべきである.Shammasら28)は,10.Dレンズであれば0.5.D,28.Dレンズであれば1.5.D減じることを推奨している.VIII術後屈折ずれへの対応これだけ術前バイオメトリーや眼内レンズ度数計算が向上した現在,大きな屈折ずれを生じるリスクはヒューマンエラーを除いてあまり考えにくい.しかしながら,実際に度数ずれを生じた症例に対して,われわれはどのような対応をとればよいであろうか?わずかな屈折ずれに対してはそのまま経過観察することも多いが,屈折ずれが大きく眼鏡矯正などにより患者の愁訴が解消されるのであれば,不満の原因が度数ずれによるものであり,何らかの介入が必要であろう.眼鏡やコンタクトレンズによる矯正以外の外科的対処法としては,下記のような方法が考えられる.1.エキシマレーザーによる追加屈折矯正(タッチアップ)エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術の安全性や有効性は,白内障術後においても確立されており,予測精度が最も高い29).したがって,エキシマレーザーを有する施設ではこの方法が最も推奨される.PRK(photo-refractivekeratectomy)とLASIKに大別されるが,いずれも角膜形状解析装置を用いて円錐角膜を除外しておく.矯正量が比較的少ない症例が多く,高次収差増加による視機能低下はほとんどなく,むしろ高齢者に対して術前自覚屈折度数を正確に測定することが,この手術を成功へと導く鍵となる.創傷治癒反応や屈折度数の安定を考慮して,原則として白内障術後3カ月以降に施行する.度数ずれが大きい症例では,角膜厚が十分にあること(術後予想角膜厚400μm,ベッド厚250μm以上)を確認しておく.2.眼内レンズ交換術後長期経過した症例では水晶体.と支持部の癒着が強く,Zinn小帯へのダメージや後.破損のリスクを伴い,新たな眼内レンズを挿入できない可能性がある.したがって,原則として術後早期(可能であれば2週間以内)を目安に眼内レンズ摘出・交換を考慮する.度数ずれが大きく術後早期に対応できる症例で有用と考えられるが,ある程度術者の経験や技量も必要となる.近視・遠視誤差に対しては,現在の眼内レンズに屈折誤差の1.3~1.5倍を足したあるいは引いたレンズを,それぞれ再度挿入する.または,再度角膜曲率・眼軸長(pseu-dophakicmode)を測定してレンズ素材に応じて補正する〔PMMA(ポリメチルメタクリレート):+眼内レンズ厚×0.44,シリコーン:+眼内レンズ厚×0.56,アクリル:+眼内レンズ厚×0.30〕方法がある.ただし,眼内レンズの素材が不明であると度数決定は困難となる.(25)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012173以前のレンズとまったく同じ位置に固定されるとも限らず,予測性は高くない.3.ピギーバック“レンズ上にレンズを乗せる”という意味で,眼内レンズを2枚入れる手術手技を指すが,白内障術後に追加レンズを挿入する方法(セカンダリーピギーバック)である.術後の自覚屈折状態によってレンズ度数を算出するものであり,最初に挿入された眼内レンズ度数や眼軸長が不明でも問題ない.基本的に近視が残存した症例ではマイナス度数のレンズを,遠視が残存した症例ではプラス度数のレンズを選択する.実際に近視症例に対しては,矯正したい等価球面度数をそのままレンズ度数として.外固定を行う.遠視化症例に対しては,矯正したい等価球面度数×1.5.Dあるいは矯正したい等価球面度数×1.4+1をレンズ度数とする.手術手技としては容易であり,予測精度はレンズ摘出・交換より高く,タッチアップより低い.合併症として,レンズ間の混濁(inter-lenticularopaci.cation),レンズ接着・変形,屈折ずれ(特に遠視化),UGH(uveitis-glaucoma-hyphema)症候群30)などが考えられる.アクリルレンズのような軟性レンズを2枚挿入すると,面状に接触してレンズの変形や効果の減弱が生じやすい.その他,本来有水晶体眼に使用されるVisianICLTM(StaarSurgical社)は,もともと毛様溝固定用に開発されたレンズであり,生体適合性が高い.レンズの厚みも通常のレンズの10~20分の1であり,ピギーバックレンズとしても有用である.レンズ形状は中央部が凸状であり,レンズとレンズの間にスペースを生じることで,レンズ間の混濁や変形が起こらず,屈折ずれも生じにくい.さらに,現在ではトーリックレンズにより乱視矯正も同時に行うことが可能であり,今後期待されるプラットフォームであろう.おわりに白内障手術の安全性が飛躍的に向上し,眼内レンズ度数計算の精度が向上した現在,白内障手術は屈折矯正手術としての一面も有する時代となっている.特に強度近視眼では屈折矯正手術のニーズは高く,正確な屈折矯正は患者満足度を高めるうえで重要と考えられる.強度近視眼に対して白内障手術を行う際に,多くの白内障サージャンにとって“屈折矯正手術としての意識が高い”とは言えないのが現状であろう.せっかく白内障手術を上手に行っても,屈折ずれを生じて患者が不満を感じるようでは,術者にとってもやりきれない状況である.患者満足度を最大限に向上させるためには,安全な白内障手術の遂行だけでなく,より精度の高い屈折矯正をできるだけ目指したい.日常生活において眼鏡やコンタクトレンズから開放される恩恵は,多くの眼科医が考える以上に大きい.医師の先入観や固定観念がこの恩恵の妨げとならないように,屈折矯正に対しても細心の注意を払い,患者に応じた最適な目標度数の設定とその遂行を心がけたい.文献1)LimR,MitchellP,CummingRG:Refractiveassociationswithcataract:theBlueMountainsEyeStudy.InvestOph-thalmolVisSci40:3021-3026,19992)WongTY,KleinBE,KleinRetal:Refractiveerrorsandincidentcataracts:theBeaverDamEyeStudy.InvestOphthalmolVisSci42:1449-1454,20013)LeskeMC,WuSY,NemesureBetalandBarbadosEyeStudiesGroup:Riskfactorsforincidentnuclearopacities.Ophthalmology109:1303-1308,20024)井上晃宏,宮崎賢一,石川伸之ほか:強度近視患者の白内障手術での術後眼鏡装用と術後満足度.眼臨紀4:527-530,20115)佐々木洋:強度近視眼の白内障.臨眼58:220-224,20046)WongTY,FosterPJ,HeeJetal:PrevalenceandriskfactorsforrefractiveerrorsinadultChineseinSingapore.InvestOphthalmolVisSci41:2486-2494,20007)PraveenMR,VasavadaAR,JaniUDetal:PrevalenceofcataracttypeinrelationtoaxiallengthinsubjectswithhighmyopiaandemmetropiainanIndianpopulation.AmJOphthalmol145:176-181,20088)ChenSN,LinKK,ChaoANetal:Nuclearscleroticcata-ractinyoungsubjectsinTaiwan.JCataractRefractSurg29:983-988,20039)大野京子:強度近視と白内障手術.IOL&RS24:407-412,201010)ZaldivarR,ShultzMC,DavidorfJMetal:Intraocularlenspowercalculationsinpatientswithextrememyopia.JCataractRefractSurg26:668-674,200011)TsangCS,ChongGS,YiuEPetal:IntraocularlenspowercalculationformulasinChineseeyeswithhighaxialmyopia.JCataractRefractSurg29:1358-1364,174あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(26)200312)NarvaezJ,ZimmermanG,StultingRDetal:AccuracyofintraocularlenspowerpredictionusingtheHo.erQ,Hol-laday1,Holladay2,andSRK/Tformulas.JCataractRefractSurg32:2050-2053,200613)WangJK,HuCY,ChangSW:Intraocularlenspowercal-culationusingtheIOLMasterandvariousformulasineyeswithlongaxiallength.JCataractRefractSurg34:262-267,200814)KapamajianMA,MillerKM:E.cacyandsafetyofcata-ractextractionwith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