写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史474.内頸動脈海綿静脈洞瘻による眼症状河野泰己北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ結膜血管の怒張図1前眼部所見右眼結膜に角膜輪部まで先細りのない特徴的な結膜血管の怒張を認める.図51カ月後の前眼部所見症状発生よりC1カ月で結膜充血を含む眼症状は改善した.図3MRI右上眼静脈の拡張を認める.図4MRA海綿静脈洞右側にC.owの流入を認める.(75)あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023C14450910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は79歳の女性で,右眼の充血を主訴に前医を受診した.右眼に0.1%フルオロメトロン4回/日および1.5%レボフロキサシン4回/日にて治療を開始したが,1カ月経過しても改善しないため当院紹介となった.当院初診時,右眼結膜血管の特徴的な怒張を認めた(図1,2).右視力はC0.5であり,眼圧はC31.3mmHgと高値であった.眼底に異常所見は認めなかった.頭蓋内の病変を疑い,MRI・MRA検査を施行した.MRI検査にて上眼静脈の拡張・右眼球突出を認め(図3),MRA検査にて海綿静脈洞に流入する高信号(.ow)を認めた(図4).以上の所見より内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous.stula:CCF)を疑い,脳神経外科精査および加療目的に入院となった.選択的頸動脈血管造影検査を施行し,右内頸動脈の硬膜枝から海綿静脈洞へのシャントを認めたため,CCF(間接型)の確定診断に至った.入院後,眼科では右眼高眼圧に対してC0.5%チモロールマレイン酸C2回/日による治療を開始した.入院C1カ月後には右視力はC0.8改善し,右眼眼圧も9.0CmmHgまで下降した(図5).MRA検査でも上眼静脈に逆流する血液は減少し,結膜充血および眼球突出の症状は改善したため退院となった.CCFは,1809年にCBenjaminTraversらにより脈動する眼球外症として初めて報告された疾患概念であり,内頸動脈本幹あるいは内・外頸動脈の硬膜枝などから海綿静脈洞へ血流の短絡が生じる疾患である.本疾患は直接型と間接型に分類される.直接型は海綿静脈洞と内頸動脈が直接的に交通したものであり,外傷により発生することがほとんどである.間接型は海綿静脈洞と内頸動脈の硬膜枝や動脈瘤などが交通したものであり,硬膜動静脈瘻や動脈瘤の破裂などが原因とされている.一般的に間接型の発生頻度が高く,CCF全体のC83%といわれているが,直接型は交通する血液量が多いため,症状がより重篤化しやすい.確定診断には選択的頸動脈血管造影検査が必要であり,検査所見より直接型と間接型を分類することができる.CCFの古典的C3主徴は眼球突出,結膜血管の怒張,拍動性雑音だが,ほかにも眼痛,頭痛,眼圧上昇,眼球運動障害などが出現する場合もある.これらの症状は内頸動脈から海綿静脈洞に流入した血液が,静脈に逆流することにより生じる.逆流がみられる静脈には,上眼静脈および上・下垂体静脈があげられ,逆流する静脈により前方型,後方型に分類される.上眼静脈への逆流は前方型といわれ,拡張した上眼静脈の圧迫により眼球突出,結膜血管の怒張,眼痛,高眼圧および神経圧迫による眼球運動障害や顔面神経麻痺などが認められる.上・下垂体静脈への逆流は後方型といわれ,拍動性雑音,頭痛,複視などが認められる.鑑別疾患には,眼球突出を呈する甲状腺眼症,頭痛・動眼神経麻痺を呈する内頸動脈後交通動脈瘤や虚血性視神経炎,閉塞隅角緑内障などがあげられる.治療は直接型と間接型で異なり,直接型は血管内治療によるコイルや塞栓剤を用いた瘻孔閉鎖が選択される.間接型は逆流する血液量が少なく,症状が軽度であれば経過観察での瘻孔の自然閉鎖が期待できるが,症状が重度である場合や難治性の場合には血管内治療や放射線治療が選択される.高眼圧に対しては,Cb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬などによる点眼治療を行う.CCFの確定診断,根治的治療は脳神経外科でなされることがほとんどであるが,初期症状が眼に出現する場合があるため,初診時に眼科を受診する患者も少なくない.そのため眼科医としては,特徴的な眼所見から本疾患を疑い,適切な検査と紹介を行ったうえで,高眼圧や複視などの眼症状に対して適切な治療とフォローアップをする必要がある.文献1).meloJ:Carotid-cavernousC.stulaCfromCtheCperspectiveCofCanCophthalmologist.CACreview.CCeskCSlovCOftalmolC2020:1-8,C20202)HendersonCAD,CMillerNR:Carotid-cavernous.stula:CcurrentCconceptsCinCaetiology,Cinvestigation,CandCmanage-ment.Eye(London)C32:164-172,C20183)GemmeteCJJ,CAnsariCSA,CGandhiDM:EndovascularCtech-niquesCforCtreatmentCofCcarotid-cavernousC.stula,CJCNeur-oophthalmol29:62-71,C2009