●連載◯285監修=福地健郎中野匡285.緑内障におけるAI画像処理の有用性二宮高洋東北大学医学部眼科学教室近年の人工知能(AI)の革新的な進歩に伴って,医療分野でもCAIが徐々に身近な存在となってきている.そのような中で,本稿では緑内障におけるCAIの活用について,OCTアンギオグラフィーでのCAI画像処理に着目して,その有用性について考察する.●はじめに緑内障性視神経症の評価は,一般的に視野検査による機能的評価と光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)などの画像検査による構造的評価によって行われているが,画像検査の定量的評価においては画質不良がしばしば問題となる.画質不良は固視不良や中間透光体の混濁などさまざまな原因で起こり,従来はガウシアンフィルターや加算平均処理などでその影響を軽減させてきた.しかし,フィルターによる処理ではその性質上,元の画像と比較して情報量が減るという点,また加算平均処理では撮影時間が長くなり患者負担が大きくなるといった問題があった.一方,近年,人工知能(arti.cialintelligence:AI)による画像処理技術が発展し,緑内障の評価においてこれらの問題を解決する新しい可能性が生まれてきている.今回は,画像検査において,とくに画質が問題となりやすいCOCTアンギオグラフィー(OCTangiography:(85)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYOCTA)のCAIを活用した画像処理と,緑内障診療への有用性との関連について,当科からの報告を交え紹介する.C●AIによるデノイジングAIを用いた画像処理が急速に発展したきっかけとして,畳み込みニューラルネットワーク(convolutionalCneuralnetwork:CNN)に代表される深層学習の技術が,画像分類タスクにおいて非常に高い精度を達成したことがあげられる.AIによるデノイジングでは不必要な部分のみを除去するため,重要な部分の情報の喪失が抑えられ,加算平均処理と違い,1回の撮影画像で画質の向上ができることがメリットである.図1はCOCTA画像の通常の画像,加算平均処理による画像,AIデノイジングによる画像を比較したものであるが,AIの処理により粒状のノイズが除去され,血管走行が明瞭になっている様子が確認できる.視神経乳頭部COCTAの定量的評価においても,AIデノイジングを行った画像のほうが,放射状乳頭周囲毛細血管の血管密度(vesselCareadensity:VAD)と乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.verClayerthickness:cpRNFLT)との相関が向上したほか,とくに後期緑内障においてCVADとCmeandeviation(MD)値での有意な相関がデノイジングにより得られる結果となった1).このことは,AIデノイジングによるCVADが緑内障性視神経症の構造変化をより鋭敏に捉えていることを示唆している.C●AIによるセグメンテーションAIの活用が進んでいるもう一つのタスクとして,セグメンテーションがあげられる.当科では,独自のCAIモデル(図2)を考案し,黄斑部COCTAの中心窩無血管域(fovealCavascularzone:FAZ)の検出において,従来手法と比較してより精度が高く領域を検出することを報告している2).図3は具体的なCFAZ検出の比較例であたらしい眼科Vol.41,No.3,2024321図3AIによるセグメンテーション精度と従来手法の比較黄斑部COCTAの表在性毛細血管叢(SCP)スラブ画像におけるFAZの検出.Ca:元画像.Cb:従来手法.Cc:AIによるCFAZ検出.(文献C3より改変)あるが,従来手法ではアーチファクトを血管と評価している部分があり,視覚的に認識される実際のCFAZの形状と検出領域との乖離がみられる一方で,AIセグメンテーションによるCFAZはそのような乖離がなく境界をトレースできていることがわかる.このCFAZ検出モデルを用いて,広義開放隅角緑内障患者C558人C885眼のFAZと視野の関係を検討したところ,FAZの面積,周長,正円率が中心下方視野におけるCtotaldeviation(TD)値およびCTDスロープと有意に相関していた.さらに,FAZを上下に分けたとき,上下のCFAZがいずれも中心下方視野との相関を示し,全身因子として睡眠時無呼吸症候群の合併が関連していた3).この結果は,開放隅角緑内障患者における下方から中心にかけての視野障害が眼血流低下に関連するという以前の当科からの報告4)もふまえると,AIセグメンテーションによるCFAZの定量は,緑内障患者における血流低下の早期検出に有用な手段となる可能性がある.C322あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024図2セグメンテーションモデルの構造広く普及しているCU-Netをベースとして小さい容量で精度の高いモデルを構築した.(文献C2より引用)●今後のAI活用の展望近年のCAI技術の発達は少し前まで不可能と思われていたことを次々と実現し,今もなお進歩を続けている.一方で,画像処理においては存在しない構造を描出してしまうことや,ChatGPTを代表とする自然言語処理では,あたかも本当であるかのような虚偽の文章を生成してしまうことなど,AIであるがゆえに起きる現象も問題となってきている.AIは非常に便利な手段ではあるものの,ことに医療CAIの開発においては,その判断と性能向上に医療者が介在する,人間参加型(human-in-the-loop)のCAIを意識することが重要であろう.文献1)OmodakaCK,CHorieCJ,CTokairinCHCetal:DeepClearning-basedCnoiseCreductionCimprovesCopticalCcoherenceCtomog-raphyangiographyimagingofradialperipapillarycapillar-iesCinCadvancedCglaucoma.CCurrentCEyeCResearchC47:C1600-1608,C20222)SharmaCP,CNinomiyaCT,COmodakaCKCetal:AClightweightCdeeplearningmodelforautomaticsegmentationandanal-ysisofophthalmicimages.SciRepC12:8508,C20223)NinomiyaCT,CKiyotaCN,CSharmaCPCetal:TheCrelationshipCbetweenCarti.cialCintelligence-assistedCOCTCangiography-derivedfovealavascularzoneparametersandvisual-.elddefectCprogressionCinCeyesCwithCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyScience:100387,C20234)KiyotaN,ShigaY,OmodakaKetal:Time-coursechang-esCinCopticCnerveCheadCbloodC.owCandCretinalCnerveC.berClayerCthicknessCinCeyesCwithCopen-angleCglaucoma.COph-thalmologyC128:663-671,C2021(86)