‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

現場発,病院と患者のためのシステム 12.経営に寄与する情報システム

2013年1月31日 木曜日

連載⑫現場発,病院と患者のためのシステム連載⑫現場発,病院と患者のためのシステムERP(EnterpriseResourcePlanning)と呼ばれ,社内に散在する有形無形のリソースを総合的に管理・活用する機能,情報を提供し,経営に貢献するとしてもてはやされた情報システムがありました.少数の成功事例がセンセーショナルに取り上げられ,これに乗せられ,成功要因を確経営に寄与する情報システム杉浦和史*情報システム導入の成功,失敗の定義はいろいろありますが,経営に寄与したかしないかが,最もシンプルでわかりやすい指標ではないかと思います.当院開発中の院内業務総合電子化システムHayabusaでは,図1の目標を掲げていますが,“経営に具体的に寄与する”が最かめずに安易に導入して失敗した企業は数知れずありました.電子自治体ブームでも同様な傾向がみられましたが,電子カルテシステムを代表とする医療情報システムでも同じことが言えます.終目標です.来院数,新患増加数,手術件数,ベッド稼働率の推移は直接的に経営に貢献する数字として知られています.このうち,大本は来院数でしょう.来院しなければ手術になることはないし,手術をしなければベッドの稼働率を気にする必要もないからです.では来院数を増やすにはどうしたら良いのでしょう.医師の腕であることは論を待ちませんが,これはクリアしているものとして,あとは?看護師をはじめとするコメディカルスタッフの適切で優しい言動と,待ち時間ではないでしょうか.これらは患者満足度という形で現れてきます.この患者満足度の向上が,その病院の評判を高め,再来院率を上げ,ひいては新患を呼び込む要因になると考えられます.優しい言動は,標語を掲げ,朝礼で唱和したりセミナーを受講させたりすることで実現できるものではありません.コメディカルスタッフも人間,疲れている時も気分の優れない時もあり,優しい言動にならない場合もあるはずです.できるだけそのような状況にならないようにするには,職員(スタッフ)満足度という指標を考慮する必要があります.以前,待ち時間を取り上げた号(本誌9月号連載⑧スタッフ満足度,待ち時間)でもこの指標を説明したことがありますが,スタッフが気分よく働けるような機能,情報を提供するシステムを整備すれば,スタッフ満足度を高めることができるのではないかと考えています.このスタッフ満足度,実は,患者満足度と密接な関係(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYIntegratedHayabusa患者待ち時間の最小化患者満足度の向上職員の負荷軽減限られたリソースの最適配分各種情報の可視化迅速的確な経営判断経営に具体的に寄与するCopyright2012宮田眼科病院Allrightsreserved図1Hayabusaの目的があります.待ち時間にしびれを切らした患者さんが,「あとどのくらい待てば良いのですか」,「あの人は私より後に来たのに先に診察してもらったのはどうしてですか」などとスタッフに問いかけるシーンは頻繁に見かけます.患者満足度を下げる大きな要因となっているこのような状況への説明,対応は,スタッフの大きなストレスとなっていることは,スタッフの皆さんと話をしたり,現場を観察すれば一目瞭然です.当院では,待ち時間の要因分析を行い,時間そのものの短縮を図るとともに,どんな状態で待っているかがわかり,他の患者さんの待ち状態もわかる情報を提供することで,問いかけやクレームを激減させ(患者満足度向*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201377 表1人間がコンピュータ(システム)より優れている点人間が優れている点概要1考えることができる1+1=2という選択の余地がない場合ではなく,どのようにでも判断できる曖昧な場面に遭遇した場合,過去の経験に基づき,また,その時々の状況に応じて,何が最適かを考える能力が人間にはあります.ハムラビ法典のように単純明快ならシステム化された裁判も可能ですが,情状酌量や大岡裁きが必要な現実の裁判には使えません.現実の世界では,1+1が2<(シナジー効果)になったり,2未満になることも頻繁に経験しますが,これはコンピュータの世界ではあり得ないことです.1+1が2以下になる場合でも“損して得取る”の発想で,戦略的にGOサインを出す場合もあります.これは人間にしかできないことでしょう.2直感いくつもの情報を見て判断するのではなく,少ない情報で瞬時に的確な判断する能力.伝説の相場師“是川銀三”の世界.その反面,“見落とし”,“勘違い”というコンピュータではあり得ないことも発生します!3知識・経験を蓄積し活用できる人間は,五官で得られた情報や経験したことを記憶し,必要に応じて利用し,情報量(エントロピー)をアップさせて再記憶し,また再利用し,知識の拡大再生産を行うことができます.記憶できる形式は,音,色,数値,文字,形だけではなく,物理的な環境,情緒的な環境,情景など複雑多岐にわたっており,コンピュータの及ぶところではありません.上),以ってスタッフ満足度も向上させた実績をもっています.一般的に言える人間がコンピュータ(システム)より優れている点を,表1に掲げます.病院には,点眼,処置など人間ならではの作業があります.これらの作業を除いた作業をシステムで代替えすることで,スタッフの肉体的,精神的負荷を軽減させることができます.これによってできたゆとりをもって患者さんに接することで,患者満足度を向上させ,病院の評判を高め,再来院率を上げることができるでしょう.IntegratedHayabusa図2Hayabusaメインメニュー直接的ではなく間接的ではありますが,患者満足度を上げることが病院経営に寄与することは間違いなく,その実現を支援する情報システムは回り回って経営に寄与するシステムと言えるでしょう.当院では,予約業務を主体とするリソースマネジメントシステムM-Magicに続き,人間ならではの作業を除く院内業務を電子的に処理するHayabusaを開発中ですが,経営に寄与するシステムを目指していることはいうまでもありません.昨年同月比の再診患者数の推移来院者数システム稼働後システム稼働前月図3M.Magicの効果78あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(78)

タブレット型PCの眼科領域での応用 8.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入-その1-

2013年1月31日 木曜日

シリーズ⑧シリーズ⑧タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第8章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入─その1─■ロービジョンエイドとしての導入の実際今回は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PCである“新しいiPadR(米国AppleInc)”とスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc)”,iOSバージョン6.01について,実際に臨床の現場に導入する際の注意すべき点やその理由について,タブレット型PCを使用している患者さんたちの生の声を紹介するとともに解説していきます.■私のロービジョンエイド活用法「基本操作編」実際に患者さんにタブレット型PCを勧める際,その操作に関して患者さんの訴えには,次のようなものがあります.「触っていないのに,勝手に画面が動いてしまう」「画面を触っても,アイコンが反応しない」これらの訴えは,タブレット型PCの初心者ではよく認められ,タッチパネル式のタブレット操作に特有の現象であると言えます.原因は,右手でタブレット型PCを操作している際に,タブレット本体を保持する操作をしていない左手の指や手の一部が,無意識に液晶画面に触れてしまうことに起因するものがほとんどです.このような原因による誤作動を最小限にするために,次のような対策をとっています.私は体験セミナーなどで,おもに本体カラーはホワイトモデルのデバイスを用いて体験実習をすることで,液晶画面とフレーム部との視覚的コントラストを向上させます.すなわち,使用者にタッチ操作が可能な液晶画面の範囲を常に意識してもらうことから導入を始めています.次にアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)の選択および起動やアプリ内操作などは,基本的に1本(75)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYの指のみで行う(シングルタッチジェスチャー)ということを強く印象付けています.複数の指や皮膚の一部を同時に液晶画面に接触させた場合,タッチパネル式の入力操作では接触部位が一カ所の場合とは異なり複数の指による操作(マルチタッチジェスチャー)と誤認され,意図する動作とは異なる挙動をプログラムが示すことがあります.マルチタッチジェスチャー操作は慣れてくると非常に有用ですが,特に視覚障害を伴う患者さんのタブレット型PC導入の段階では,操作はとにかくシンプルに統一し,習熟度に合わせて応用編で追加操作の説明を行うように心がけることが大切です.タブレット型PCの液晶画面でのタッチパネル式の操作可能範囲と,その外側にあるタッチ操作に反応しないフレーム部分とを空間的に把握すること,1本指での操作が基本であることの意識付けがタブレット型PC導入で最初の課題であると言えます.■私のロービジョンエイド活用法「シングルタッチジェスチャー操作編」シングルタッチジェスチャーを指導する際に,障壁となる症状は大きく分けて3つあげられます.1)指の可動域が低下して1本だけ指を進展させることが困難,2)タッチパネル操作時の液晶画面を押す力の加減が困難,3)皮膚の乾燥などによるデバイス側のタッチパネルの接触感度の低下,以上の3症状があげられます.これらはいずれも高齢者がタブレット型PCを操作する際には頻回に認められる症状であり,これらに伴う操作性の低下が原因で,脱落する患者さんが多くみられます.ここではこれらの症状に対する現状での対応について紹介していきます.あたらしい眼科Vol.30,No.1,201375 図1指での操作の変わりにタッチペンを使用した操作を指導図2タッチパネル操作が可能な手袋を着用した操作①指の可動域の低下した患者さんへの対応細かな指先の操作が難しい高齢者や視覚障害者も多くいるため,1本の指での操作が不向きな患者さんには導入早期に,タッチペンを用いたタブレット型PCの操作へと指導を変更することで,タッチパネル式の入力の操作性は格段に向上します(図1).②操作時の力加減の調節が低下した患者さんへの対応指先の力加減の認識が困難な患者さんでは,不用意にタブレットの液晶画面に強い力がかかってしまった場合,指先と液晶画面の摩擦抵抗の増加に伴い指先の動きは緩慢となります.それに伴い液晶画面上の一点を長く押した際に発動する長押し機能が,意図せず機能してしまい,希望する動作とは異なる挙動を示すタブレット型PCに困惑する患者さんをよく目にします.この誤操作を繰り返す患者さんでは,液晶画面に摩擦抵抗を低下させる目的で液晶画面保護フィルムを装着することで,誤操作の頻度を低下させることが可能です.しかし,保護フィルムの摩擦係数は一定ではなく商品間で差があること,フィルム装着によりグレア予防や横からの覗き見防止機能のあるフィルムでは,液晶画面のコントラストが低下するものや視認性が大きく下がるものがあるので,フィルムの選択には注意が必要です.また,対応①で示したタッチペンとの相性が非常に悪いフィルムもあるので購入を勧める際は,その患者さんにとって何が一番操作性を下げているかを探求し,そのうえで最小限の対応から始めることも大切であると言えます.③皮膚の乾燥などによりタッチパネルの接触感度が低下した患者さんへの対応タッチパネル操作が可能な手袋を着用することで,使用者の皮膚の状態にかかわらず,滑らかなタッチ操作が可能になります(図2).また,操作に使用しないほうの手にはタッチパネルに反応しない手袋を着用してもらうことで「基本操作編」で紹介した,保持側の手による液晶画面の不用意な接触を防ぐことも可能です.このように実際にタブレット型PCをロービジョンエイドとして導入する際には,非常に細かな個別の指導が必要です.しかし,現状でそのような指導を行える医療機関は少なく,今後も私はGiftHandsの代表として視能訓練士を中心とした指導者セミナーなどを開催する重要性を強く実感しています.この活動を継続して行くことでより多くの視覚障害をもつ方の生活が,少しでも快適なものになると私は信じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆76あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(76)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 116.眼内光凝固による医原性裂孔(中級編)

2013年1月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載116116眼内光凝固による医原性裂孔(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●眼内光凝固による医原性裂孔裂孔原性網膜.離に対して硝子体切除後に気圧伸展網膜復位,眼内光凝固,ガスタンポナーデを施行した後,早期に下方から再.離をきたすと,光凝固施行部位が蜂の巣状の多発裂孔になってしまうことがある(図1).図1術後に生じた光凝固部位の多発裂孔初回手術時の光凝固部位がすべて裂孔になっている.●どのような状況でこのような合併症が生じやすいか周辺部の人工的後部硝子体.離が不十分で,硝子体牽引が強く残存している状況で,無理やり気圧伸展網膜復位術で網膜を復位させ,網膜面がややウェットな状況で過剰凝固を行った際に生じやすい(図2).本合併症はガスタンポナーデの効果が早期に弱くなる下方象限でみられることが多い.最近は強膜バックリングを併用しない硝子体術者が増えているので,裂孔周囲に比較的広範囲に光凝固を施行する傾向にある.このような症例でガスの減少とともに早期に下方から再.離をきたしたときは要注意である.●予防と対策このような合併症を回避するためには,周辺部まで確実に人工的後部硝子体.離を作製し,気圧伸展網膜復位術で網膜を確実に復位させた状況で,適切な光凝固(十分な大きさの凝固径で過剰凝固を避ける)を施行することが重要である.人工的後部硝子体.離が困難な場合には,vitreousshavingでできるだけ残存硝子体牽引を弱くする必要があるが,残存牽引が強いことが予想される場合には,必要に応じて強膜バックルを設置すべきである.不幸にしてこのような合併症が生じた場合には,念入りに周辺部残存硝子体を切除し(図3),気圧伸展網膜復位術後に広範な光凝固を行い,バックル手術を併施する(図4).図2周辺部の残存硝子体図3再手術時の所見(1)図4再手術時の所見(2)初回硝子体手術時,周辺部の硝子体処理が不十分で,強い牽引が残存している.双手法で残存硝子体を処理している.気圧伸展網膜復位術後に,医原性裂孔の生じている範囲に広範な光凝固を施行している.この症例ではこの後に輪状締結術を併用し,長期滞留ガスによるタンポナーデで復位が得られた.(73)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013730910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 145.眼圧値の評価は現行で十分なのか?

2013年1月31日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第145回◆眼科医のための先端医療山下英俊眼圧値の評価は現行で十分なのか?澤田明(岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学)はじめに近年,眼圧変動が緑内障性視神経障害の進行に深くかかわっていることが報告され1,2),それに関係した研究が盛んになってきています.しかしながら,“眼圧変動”と一口にいっても,その原因となる因子はさまざま存在します(表1).したがって,各患者においてさまざまな生理的要因に由来する眼圧変動をすべて把握することはきわめて困難なことですが,臨床医として可能な限りそれを把握し,患者に還元しようとする努力は必要であると思われます.眼圧測定眼圧測定には,1959年GoldmannとSchmidtにより報告されたGoldmann式圧平眼圧計を使用するのが,すっかり定着してしまっています.はるか以前Schiotz式圧入眼圧計が主流であった頃には,Goldmann式圧平眼圧計と比較した論文が散見されますが,今や,その定着とともに“眼圧は座位で測定するもの”という固定観念が広がってしまっています.また,その精密性により,よく論文にはその眼圧測定値がgoldstandardと記載されていますが,“その眼圧測定値は絶対の値ではない”ことを臨床家は認識すべきだと思います.実際,Goldmann式圧平眼圧計の欠点として,中心角膜厚や角膜乱視などに代表される角膜などの要因により測定誤差が生じること,点眼麻酔薬が必要であること,前述したように基本的には座位での測定が必須であることなどがあげられます.こうした欠点を踏まえ,近年ではIcarereboundtonometer(Icare)や,あらゆる体位で測定可能となったIcarePRO,dynamiccontourtonometry(DCT)などの第3世代の眼圧計が発展してきています.また,24時間の継続的な眼圧測定が可能なTriggerfishR(Sensimed社)といったdeviceも開発されています.(69)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY表1眼圧変動を生じる生理的条件年齢日内変動,日差変動ホルモン(閉経など)季節調節瞬目運動飲水体位など座位仰臥位30°の逆立ち75°の逆立ち右眼:15.0右眼:16.5右眼:23.8右眼:35.8左眼:15.0左眼:16.4左眼:23.8左眼:36.0図1さまざまな体位による眼圧(単位:mmHg)(文献4より改変)眼圧体位変動表1に示すように眼圧変動を生じる要因はさまざまですが,最も日常診療で比較的簡便に施行することが可能な“眼圧体位変動”を例にとってみることとします.さまざまな体位により眼圧変動が生じる機序は,完全には解明されていませんが,上強膜静脈圧の上昇と脈絡膜血流増加があいまって生じると推測されています.血圧変動などの要因,全身的薬物で変動する可能性もありますが,今のところ一部の眼圧下降薬投与では影響を及ぼさないことが報告されています3,4).古くは,Tarkkanenら5)が正常人37名を対象にMackay-Marg型眼圧計を用いてさまざまな体位で眼圧測定した報告があります(図1).右眼のみ記しますが,座位にて平均15.0mmHg,仰臥位にて16.5mmHg,30oの逆立ちにて23.8mmHg,75oの逆立ちにて35.8mmHgと記載されています.日常的に逆立ちの状態を持続することはありませんが,眼圧の体位による変動幅は,驚くことに20.8mmHgも存在しています.この報告からも明らかなように,座位での眼圧測定値は,体位による眼圧変動を考慮した場合,最低の値なのです.筆者らの施設では,Icareを用いて体位による眼圧変動を測定しています.この眼圧計は,Goldmann式圧平眼圧計と比較して0.5.2.0mmHg測定値が高くなりますが,再現性に優れると報告されています.ただ,仰臥あたらしい眼科Vol.30,No.1,201369 側臥位眼圧-座位眼圧(mmHg)1086420-2-4原発開放隅角正常人緑内障患者図2正常人と緑内障患者との眼圧体位変動幅の比較(文献6より改変)位での測定が不可という欠点があるため,側臥位での眼圧測定を行っています.一般的に正常人と比較し,緑内障症例において眼圧体位変動は大きいとする報告が多くされています.筆者らは,age-matchingした広義の原発開放隅角緑内障患者52眼と,正常人52眼に体位による眼圧変動(側臥位での眼圧値.座位での眼圧値)を測定し,比較検討しました6).側臥位による眼圧測定は,その姿勢を5分間保っていただいたのちに行っています.原発開放隅角緑内障症例では,体位による眼圧差が4.0±2.2mmHgであったのに対し,正常人では3.4±1.8mmHgであり,両群間で差は認めませんでした(p=0.134,図2).ただ図2に示すように,たかが5分間側臥位を維持するだけで,緑内障眼でも正常眼でも,5mmHg以上上昇する症例も珍しくはなく,個人差が大きいとはいえるのではないかと思います.おわりに臨床的に,Goldmann式圧平眼圧計による測定値が10mmHg程度であるにもかかわらず進行を認める緑内障症例に遭遇することがあります.こうした症例では,非眼圧依存因子による進行だと判断してしまうことも多いのではないでしょうか?しかしながら,もう一度原点に立ち戻って“眼圧は変動するものである”ということを再認識すれば,進行の手がかりがつかめることもあり得るのではと思います.文献1)CaprioliJ,ColemanAL:Intraocularpressurefluctuation.Ariskfactorforvisualfieldprogressionatlowintraocularpressuresintheadvancedglaucomainterventionstudy.Ophthalmology115:1123-1129,20082)Nouri-MahdaviK,HoffmanD,ColemanALetal:AdvancedGlaucomaInterventionStudy.PredictivefactorsforglaucomatousvisualfieldprogressionintheAdvancedGlaucomaInterventionStudy.Ophthalmology111:1627-1635,20043)ArmalyMF,SalamounSG:Schiotzandapplanationtonometry.ArchOphthalmol70:603-609,19634)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Influenceofocularhypotensiveeyedropsonintraocularpressurefluctuationwithposturalchangeineyeswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol143:693-695,20075)TarkkanenA,LeikolaJ:PosturalvariationsoftheintraocularpressureasmeasuredwiththeMackay-Margtonometer.ActaOphthalmol(Copenh)45:569-575,19676)SawadaA,YamamotoT:Posture-inducedintraocularpressurechangesineyeswithopen-angleglaucoma,primaryangleclosurewithorwithoutglaucomamedicationsandcontroleyes.InvestOphthalmolVisSci53:76317635,2012■「眼圧値の評価は現行で十分なのか?」を読んで■今回は澤田明先生による眼圧測定についての提言く言いますと,遺伝子はDNAでできており,生命活です.われわれ眼科医が毎日行っている眼圧測定につ動を支える蛋白質の合成のためには,DNA→メッセいて,本当に座位だけでいいのでしょうか?という,ンジャーRNA→蛋白質という道筋がセントラルドグ目から鱗の落ちるような提言,はっとする指摘をしてマといわれ,絶対のスキームでした.しかし,現在でいただきました.臨床医学に限らず現代のサイエンスは常識になっているレトロウイルスはRNAを遺伝子は先人の業績をもとに発展してきています.その際にとして使っており,細胞のゲノムに組み込まれるさい「あたりまえ」と思われること,思い込んでいることにはRNA→DNAという情報の流れが存在します.をもう一度思考の対象にすることは新しい概念,新しこれはハワード・マーティン・テミンとデビッド・ボい治療戦略を開発するうえできわめて重要です.大きルティモアの業績として1975年ノーベル生理学・医70あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(70) 学賞で顕彰されていますリバーストランスクリプターしかしながら,もう一度原点に立ち戻って“眼圧は変ゼ(逆転写酵素)の作用による生命現象です.現在の動するものである”ということを再認識すれば,進行遺伝子治療,エイズウイルスなどウイルス感染症の病の手がかりがつかめることもあり得るのではと思いま態と治療を研究する細胞生物学では,このレトロウイす」という分析は本当に臨床眼科医学にとって,もうルスの存在は欠かせないものになっています.先人が一度チャレンジしてみる重要な問題提起をしていただ作った原理はそれそのもので存在意義がありますが,いていると考えます.この問題の解決に向けた研究か無謬ではありえませんので,それを訂正していく作業ら多くの成果が期待でき,今後の澤田先生の研究の発がいわば科学の発展ということになると考えます.澤展を期待します.田先生の解説の最後の「非眼圧依存因子による進行だ山形大学医学部眼科学山下英俊と判断してしまうことも多いのではないでしょうか?☆☆☆(71)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201371

抗VEGF治療:網膜血管腫状増殖(RAP)に対する抗VEGF薬

2013年1月31日 木曜日

●連載⑧抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二6.網膜血管腫状増殖(RAP)に向井亮佐藤拓群馬大学大学院医学研究科病態循環再生学講座眼科学対する抗VEGF薬網膜血管腫状増殖(RAP)に対する抗VEGF薬併用光線力学的療法(PDT)は,網膜内新生血管と網膜血管との吻合血管(retina-retinaanastomosis)の閉塞率が高く,再発のリスクも少なく,また視機能の改善,黄斑部の形態学的改善も得られ有効な治療法である.はじめに網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)は,網膜内に発生する新生血管を起源とし,脈絡膜新生血管と吻合する形態が特徴的な加齢黄斑変性の一病型であり,2001年にYannuzziらによって初めて報告された1).その後,新生血管の起源については網膜からだけでなく,脈絡膜側から発生しているとも考えられている2).高齢女性の両眼に発生することが多く,眼底には網膜内に発生する新生血管からの網膜内出血がみられるほか,特徴的所見として,軟性白斑やreticularpseudodrusenを併発することが多い.広義の加齢黄斑変性の各種病型のうち,日本人では5%程度の頻度を占めていると報告されている3).難治性の病型であり,また再発例が多く,治療・再治療の方法,再治療の判断に苦慮することが多い.また,治療後には網脈絡膜の地図状萎縮(geographicatrophy:GA)が生じる例もあり4),診断・治療に当たっては患者への十分な説明を要する.治療RAPの治療は,ほかの加齢黄斑変性の病型と同様に抗VEGF(anti-vascularendothelialgrowthfactor)薬単独療法が行われたり(図1),薬剤併用の光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)による治療が選択されたりすることが多い(図2).RAPでは網膜内に新生血管を有し,その新生血管が網膜浮腫の発生源となるた治療前IA治療後IA図1網膜血管腫状増殖に対する抗VEGF薬単独療法90歳,男性.左眼眼底に網膜内出血を認め,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)にて網膜血管と吻合を認める新生血管がある.SD-OCTでは網膜内に高反射塊を認め,同部位の下方に広がる網膜色素上皮.離(PED)では一部網膜色素上皮に断裂様所見を認める.新生血管の周囲網膜では.胞様黄斑浮腫を呈している.Ranibizumab硝子体内注射3回治療後,新生血管は縮小し,網膜浮腫は消失している.(67)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013670910-1810/13/\100/頁/JCOPY 治療前IA治療後IA治療前IA治療後IA図2網膜血管腫状増殖に対する抗VEGF薬併用光線力学的療法66歳,女性.右眼眼底の視神経乳頭と黄斑間に0.5乳頭径大の網膜内出血を認め,IAにて網膜血管と吻合する新生血管を検出している.軟性ドルーゼンの多発もみられる.Ranibizumab硝子体内注射3回併用のPDT後2年のFAF像にて地図状の網膜萎縮があり経時的な拡大が観察される.め,抗VEGF薬の単独療法でも速やかに浮腫が軽快する例も多い.しかしながらRAPは,網膜浮腫・網膜内出血を繰り返しやすく難治性・易再発性の性質をもつためPDTとの併用療法が行われることもしばしばである.薬剤併用PDTでは抗VEGF薬との併用療法が施行される場合や,抗VEGF薬とトリアムシノロンアセトニドとの両薬剤を併用したPDTが選択される場合がある.国内での治療成績としてはSaitoらが,RAPに対する抗VEGF薬併用PDTの13眼での2年の成績を報告しており5),視力は初診時0.26から0.40へと有意な改善効果を示しており,中心窩網膜厚も431μmから142μmと有意に減少している.2年での平均PDT回数は2.8回で,平均の抗VEGF薬の投与回数は3.4回となっている.なお,GAは13眼中4眼で観察されているが,有意な視力障害は発生していない.このことからRAPに対する抗VEGF薬併用PDTでは抗VEGF薬単独療法に比し,網膜内新生血管と網膜血管との吻合血管(retina-retinaanastomosis)の閉塞率が高く,再発のリスクが少ない点で有利であると推察されている.治療の合併症としては加齢黄斑変性のoccultCNV(choroidal68あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013neovascuratization)やポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)の治療時と同様に,網膜色素上皮裂孔の発生が生じうるため,治療後は眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)などを用い注意深く経過観察を行う必要がある.文献1)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.Retina21:416-434,20012)FreundKB,HoIV,BarbazettoIAetal:Type3neovascularization:theexpandedspectrumofretinalangiomatousproliferation.Retina28:201-211,20083)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20074)McBainVA,KumariR,TownendJetal:Geographicatrophyinretinalangiomatousproliferation.Retina31:1043-1052,20115)SaitoM,IidaT,KanoM:Two-yearresultsofcombinedintravitrealanti-VEGFagentsandphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.JpnJOphthalmol2012Dec4[Epubaheadofprint](68)

緑内障:緑内障における中心視野障害

2013年1月31日 木曜日

●連載151緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也151.緑内障における中心視野障害溝上志朗愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座緑内障では多くの場合中心視野は後期まで維持される.この理由として乳頭黄斑線維は組織が堅牢な篩状板の耳側を通るためと考えられている.臨床で頻用される静的視野検査の中心30°,24°の測定プログラムは,中心視野障害の捕捉や進行評価には不向きであり,中心10°のプログラムを用いるのが望ましい.●緑内障と中心視野障害緑内障性視神経症では,多くの場合,視神経乳頭と黄斑を結ぶ乳頭黄斑束(papillomacularbundle:PMB)は維持され,中心視野は後期まで守られる(図1).その理由は,神経線維束が通過する篩状板孔の大きさが篩状板の上下方向で大きく,鼻側と耳側で小さいことに起因するとされ,篩状板の鼻側と耳側部は,上下側よりも組織的に堅牢であり眼圧による変形をきたしにくいからと考えられている.つまり,主として篩状板の耳側を通るPMBは機械的刺激から保護されやすいと想定されている1).緑内障患者の視野の評価には一般的に静的視野計測が行われるが,臨床で頻用される中心30°や24°の測定点配置は間隔が6°と粗く,中心10°内の測定ポイントも4点しかないため中心視野の正確な評価はむずかしい.このため,中心視野障害が疑われる症例では,測定点配置がより密な中心10°の測定プログラムを選択すべきである(図2).また,初期の症例で30°の視野では一見中心図1ある後期例の視野とOCT所見一般的に緑内障では,網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)は後期までよく保たれ(矢印),中心視野が維持される.(65)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY視野が正常のように見えても,中心10°の測定をすると微細な中心視野障害が検出されるケースもあり注意が必要である(図3).●実際の中心視野障害率中心30°,24°の視野検査において中心感度が正常である症例でも,意外と早い段階で中心10°内の視野に障害が及んでいることも筆者らの調査で明らかになった.視神経乳頭に明らかな緑内障性異常を示す原発開放隅角緑内障眼のうち,Humphrey視野計30-2プログラムで10°内の4点の感度が正常であった対象58症例の,10-2の各クラスター異常率を図4に示す.外側で48.1%と高頻度で障害されているが,真のPMB領域といえる内側のクラスターでも25.0%や32.7%などと障害が検出された.すなわち,中心視野は30-2で正常に見えても実際には早い時期より比較的高い頻度で障害されている可能性が示唆された.C(30-2)C(10-2)図2ある後期例の中心30°と中心10°の視野測定点配置の粗い中心30°の測定では中心視野障害の正確な評価は困難である.あたらしい眼科Vol.30,No.1,201365 視神経乳頭C(30-2)C(10-2)図3ある初期例の視神経乳頭と中心30°と中心10°の視野視神経乳頭は下方辺縁部の菲薄化(矢印)と網膜神経線維層欠損の所見を認めるものの,中心30°の測定では明らかな異常を認めず,初期の中心視野障害を捕捉できていない.48.1%M32.7%13.5%0.0%3.8%0.0%1.9%32.7%25.0%5.8%15202530354045505560302520151050症例数(眼)■:IPFS■:INS図4C(30.2)で中心4点が正常な症例のC(10.2)のクラスターの異常頻度(右眼,M:盲点)視神経乳頭に明らかな緑内障性異常を示す原発開放隅角緑内障眼のうち,Humphrey視野C(30-2)で10°内の4点(黒四角)の感度が正常であった症例のC(10-2)のクラスターが異常を示した頻度を示す.図5IPFS(initialparafovealscotoma)とINS(initialnasalstep)右眼C(24-2).点線内の半視野のみに異常を示した症例を選択し,初期に中心視野障害をきたした症例(initialparafovealscotoma:IPFS)(A)と,鼻側の障害をきたした症例(initialnasalstep)(B)を比較した.(文献2より改変)●初期に中心視野障害をきたす症例の特徴最近の報告によると,初期に中心視野障害をきたす症例(initialparafovealscotoma:IPFS)と,中心より鼻側の障害をきたす症例(initialnasalstep:INS)(図5)66あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013無治療時最高眼圧(mmHg)図6IPFS(initialparafovealscotoma)とINS(initialnasalstep)の無治療時最高眼圧IPFS(initialparafovealscotoma)はINS(initialnasalstep)よりも無治療時の眼圧レベルが低い症例が多い.(文献2より改変)を比較すると,無治療時のIPFSの眼圧レベルは21.6±4.5mmHgとINSの28.3±9.6mmHgに比し有意に低く(図6),その他,乳頭出血の発症頻度や,低血圧,片頭痛,Raynaud現象,および睡眠時無呼吸などIPFSの全身的な危険因子を有する頻度はINSより有意に高かった2).これらの事実は,中心視野障害の進行要因として視神経乳頭の血流など眼圧以外の因子の関与が大きいことを示唆しているが,その詳細についてはまだ不明な点が多い.文献1)QuigleyHA,AddicksEM:Regionaldifferencesinthestructureofthelaminacribrosaandtheirrelationtoglaucomatousopticnervedamage.ArchOphthalmol99:137143,19812)ParkSC,DeMoraesCG,TengCCetal:Initialparafovealversusperipheralscotomasinglaucoma:riskfactorsandvisualfieldcharacteristics.Ophthalmology118:17821789,2011(66)

屈折矯正手術:FS200によるフラップ作製

2013年1月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載152大橋裕一坪田一男152.FS200によるフラップ作製松本玲レイ眼科クリニック2012年新たに承認されたWaveLightRFS200フェムトセカンドレーザー(アルコン社)によるフラップ作製は,照射時間が6秒と速く,すべて自動吸引で急激な眼圧上昇がないため患者の快適性に優れる.フラップの形,位置,直径,厚み,角度,ヒンジの位置をカスタマイズすることでエキシマレーザー照射に最適なフラップ作製を実現している.●FS200の紹介LASIK(laserinsitukeratomileusis)が本格的にわが国で行われるようになってから10年以上,それはレーザーテクノロジーの進歩とともに変遷してきたといっても過言ではない.2010年に国内でもフェムトセカンドレーザーが承認され1),薄く均一な厚さのフラップ作製が容易となった.2012年新たに承認されたWaveLightRFS200(アルコン社)を紹介する(図1).FS200の発振周波数は200kHz,波長は1,030nm,フラップ作製と角膜移植層状切開で認可を取得している.器械的には角膜内リング用のトンネル作製も可能である.フラップの形,位置,厚み(5μmステップで90~500μm),直径(0.1mmステップで3~10mm),サイドカットアングル(30~150°),ヒンジアングル(30~180°),ヒンジ位置をカスタマイズできる.スポット間隔,ライン間隔,パルスエネルギーを角膜ベッド面,サイドカット面とそれぞれに設定することで,リフトアップのしやすさ,ベッド面の平滑さ,作製スピードの速さを実現している.直径9mmのフラップ作製に要する照射時間は約6秒と現在世界最速である.FS200には,サクションリングとアプラネーションコーンの消耗品がある(図2).リングは耳側に吸引孔があり,リング直径が19mmと他機種に比べ1~1.5mm小さいため,小眼瞼でも眼窩壁にあたることはない.コーンの圧平直径は12.5mmと広く,照射前にモニター上でフラップのセンタリングを変更してもフラップ径が製する.2つ目の特長はヒンジ近くのフラップ面から表小さくなることはない.面に抜けるトンネル(キャナル)を作ることである.そ特長を3つあげる.治療眼ごとにまずbeamcontrolこからガスを外に逃がすことでopaquebubblelayerscheck(BCC)を行い,アプラネーションコーンの厚み(OBL)を抑える.フラップ面より深いポケットを作るのばらつきを自動補正することで,正確なフラップを作IntraLaseRFSレーザー(AMO社)と異なる点である.(63)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013630910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1WaveLightRFS200フェムトセカンドレーザー(アルコン社)図2サクションリングとアプラネーションコーン器械的にbeamcontrolcheck(BCC)を行い,アプラネーションコーンの厚みのばらつきを自動補正し,正確なフラップ厚を確保する. 110μmフラップ(μm)140135130125120115110105100119119110.4110.9105106119110.5104119110.7104118111.1106116.2110.8106.8中心上方下方耳側鼻側平均図3術後フラップ厚(n=106)中心,中心から4mm上方,下方,耳側,鼻側,平均値.110μmの設定値に対して,予定どおりのフラップ厚を作製.3つ目は,最初の吸引圧が約80mmHgと急激な眼圧上昇を抑えてあり,照射中に約150mmHgになるものの照射時間が短いために患者の負担は少ないことである.実際,圧迫が痛いという患者は少ない.FS200はWaveLightREX500エキシマレーザー(アルコン社)とWaveNetTMというランを介してデータを相互にやりとりできる.照射プログラムを入力すれば各機種にデータが飛ぶので,入力の手間を減らし誤入力を防げる.●使用方法マイクロケラトームのように術前のセッティングはない.まずコーンを挿入しBCCを行う.吸引リングをFS200に取り付ける.リングを角膜上に乗せフットペダルを踏むと手動でなく器械的に吸引1がスタートしてリングと眼球を固定する.コーンを下げリングとドッキングすると自動的に吸引2がスタートする.モニター上でキャナルの長さと位置,フラップの位置を指示し,術者がペダルを踏むと照射が始まる.吸引レベルは常にモニター上で監視されており,異常な吸引不足ではレーザー照射が自動的に停止する.●フラップ厚前眼部OCTSS-1000CASIA(TOMEY社)で測定したフラップの厚みを示す.中心値,中心から4mm離れた上方,下方,耳側,鼻側,平均値,最大値,最小値を表1術後フラップ厚(n=106)平均値と標準偏差中心上方下方耳側鼻側平均値110μm平均値(n=106)110.4110.9110.5110.7111.1110.8110μm標準偏差2.852.362.632.592.761.73示す(図3).110μmの設定に対して,10μmを超えることはなく,ばらつきも3μm内で均一で精度の高いフラップが作れた(表1).不均一な角膜残存ベッドは医原性keratoectasiaのリスクファクターの一つであることより2),ばらつきの少ないフラップはより安全である.●吸引時間マイクロケラトームとの操作の違いは,サクションリングとアプラネーションコーンのドッキングで,当初慣れが必要である.経験を積めば,吸引1開始からフェムトセカンドレーザー照射終了までの総吸引時間は約30秒前後に落ち着く.そのうちフェムトセカンドレーザー照射は約6秒である.導入当初,照射時間は短いものの操作が煩雑で手術時間が長くなるのではないかと心配していたが,慣れれば問題はない.患者の圧迫感や痛みの訴えがほとんどないことより,術者も患者も最初から安心して手術に臨める.リフトアップはスムーズで抵抗は少なく,角膜ベッド面も平滑でフェムトセカンドレーザーのラインが残ることはない.キャナルの長さの指示が目視で主観的であるため,ときに意図せずopaquebubblelayer(OBL)が発生するが,今まで全例にエキシマレーザーのトラッキングはかかっている.速くて正確で容易で安全なこの器械は,今後角膜移植や角膜内リングでもその正確性を発揮すると期待している.文献1)福岡佐知子:フェムトセカンドレーザーフラップの特徴.あたらしい眼科28:509-510,20112)RandlemanJB,RussellB,WardMAetal:RiskfactorsandprognosisforcornealectasiaafterLASIK.Ophthalmology110:267-275,200364あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(64)

眼内レンズ:ピギーバック法による術後屈折誤差補正

2013年1月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎317.ピギーバック法による術後屈折誤差補正稲村幹夫稲村眼科クリニック白内障術後屈折誤差補正には眼内レンズ(IOL)の度数交換をまず考えるが,その侵襲が大きいと思われる場合にはピギーバック法を行うと簡便で屈折予想も良い.ピギーバックIOLは.内固定されている最初のIOLの上に.外固定する.角膜屈折矯正手術での補正はさらに正確であるが,ピギーバック法は白内障手術の施設で行えることが利点である.白内障手術後の度数補正のために行うピギーバック法とは,最初に入れた眼内レンズ(IOL)の度数を補正するために2枚目のIOLを挿入する方法である(図1,2).●度数補正のピギーバック法の適応他の度数補正法として「IOLの入れ替え」と「角膜屈折手術」が一般的である.基本的にはIOLの入れ替えを先に考える.入れ替えの適応は広い.角膜屈折手術は正確さで優れているが設備とコスト面の問題がある.入れ替えより低侵襲で簡便,角膜屈折手術より低コストという点でピギーバック法が有利な場合が出てくる(表1).●IOL入れ替えとピギーバック法のどちらを選択するか最初の手術後早期であればIOL入れ替えがすっきりする.特に術後早期で.内固定ができていれば入れ替えは容易である.しかし,手術から長時間経過している場合はIOL入れ替えでは後.破損やZinn小帯を弱めるなど侵襲が大きくなることがある.特に,後.切開がされていてシングルピースのアクリルレンズの場合はさらに困難である.また,最初に挿入されたIOLが度数など表1度数補正の方法の比較図1ピギーバック法.内に最初のIOL,毛様溝に2枚目の度数補正用IOL(ピギーバックIOL)が挿入されたところ.図2ピギーバックIOLの挿入術2枚目のIOLを.外に挿入しているところ.IOL入れ替えピギーバック法角膜屈折手術度数補正精度やや不正確比較的正確正確時間経過と難易度術後早期ほど容易いつでも可いつでも可後.切開後やや難可能容易禁忌Zinn小帯断裂,後.の大幅欠損など1枚目が.外固定,最初のIOLと虹彩間に十分な隙間がない円錐角膜などの角膜疾患(61)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013610910-1810/13/\100/頁/JCOPY が不明である場合や自院で行った手術でもIOLの表示が違っていた場合などは,入れ替えても正しく補正できる可能性が低くなる.これに比してピギーバック法は簡便,正確である.●ピギーバック法の計算式Holladayが以下のような計算式1)を発表している.計算に正確を期したい場合は利用すべきである.IOLe=1,3361,336-1,3361,3361,000-ELPo1,000-ELPo1,000+Ko1,000+KoPreRx-VDPostRx-VELPo:effectivelenspositionKo:netcornealpowerIOLe:IOLpowerV:vertexdistancePreRx:pre-oprefractionDPostRx:desiredpost-oprefraction詳細はhttp://doctor-hill.com/iol-main/piggyback.htmのサイトを参照されたい.しかし,実際には度数補正の大きさがよほど大きくない限り(<±7.0D)簡略な計算式で足りる.どちらの計算式も眼軸に依存しないで計算が可能である.プラスにずれている場合2):(補正したい度数)×1.5=ピギーバックIOL度数マイナスにずれている場合3):(補正したい度数)×.1.0=ピギーバックIOL度数簡略なピギーバックIOLの度数計算式は度数ズレがプラス側とマイナス側で違ってくるがかなり正確である.問題はピギーバック法に使うレンズがまだ専用でない点であるが,薄めのレンズが使用しやすい.●ピギーバック法の合併症ピギーバックIOL偏位,pupillarycapture4)(瞳孔捕獲),pigmentdispersionsyndrome5),interlenticularopacification6)(IOL間膜形成)などが報告されている.IOL間膜形成は同時に.内固定した場合に報告があり,二次的な度数補正では通常は起こらない.●ピギーバック法の将来最近,ピギーバック法または.外固定専用IOLが発売されている7).わが国では未認可だがドイツHumanOptics社のAdd-OnLensR,イギリスRayner社のSulcoflexRは球面補正のみならずトーリック機能,回折型マルチフォーカル機能,それらの複合機能を付加できる.これらは.外固定用であり合併症も少ないと思われる.ピギーバック法は症例によっては良い度数補正法であり,今後もっと普及する方法と思われる.文献1)HolladayJT:Refractivepowercalculationsforintraocularlensesinthephakiceye.AmJOphthalmol116:63-66,19932)GuytonJL:SecondarypiggybackIOLimplant.OSNOPHTHALMICHYPERGUIDEDecember27,20053)GillsJP,FenzlRF:Minus-powerintraocularlensestocorrectrefractiveerrorsinmyopicpseudophakia.JCataractRefractSurg25:1205-1208,19994)KimSK,LancianoRCJr,SuleewskiME:Pupillaryblockglaucomaassociatedwithasecondarypiggybackintraocularlens.JCataractRefractSurg33:1813-1814,20075)ChangWH,WernerL,FryLLetal:Pigmentdispersionsyndromewithasecondarypiggyback3-piecehydrophobicacryliclens.Casereportwithclinicopathologicalcorrelation.JCataractRefractSurg33:1106-1109,20076)WernerL,AppleDJ,PandeySKetal:Analysisofelementsofinterlenticularopacification.AmJOphthalmol133:320-326,20027)稲村幹夫:Piggyback法での眼内レンズ度数補正.IOL&RS25:190-194,2011

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 過矯正にならないためのパワー決定法(2)

2013年1月31日 木曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】343.過矯正にならないためのパワー決定法(2)梶田雅義屈折矯正の基本は眼鏡処方である.コンタクトレンズ(CL)処方で近視の過矯正を防ぐためには,眼鏡の適正矯正度数を正しく求めることである.そして,その度数を的確にCLの度数に置き換える必要がある.そのために必要な知識について解説する.●角膜頂点間距離による度数の補正1)眼鏡レンズが角膜から12mm離れたところに位置しているのに対して,CLは角膜面に接して位置している.これによって,同じ矯正効果を得るためのレンズ度数に差が生じる.これを頂点間距離補正とよんでいるが,これを無視すれば,近視では過矯正に,遠視では低矯正になる.眼鏡度数をDsp[D],CL度数をDcl[D],レンズと角膜頂点との距離をd[m]とするとき,眼鏡レンズの度数Dsp焦点頂点間距離Lcld図1頂点間距離補正凸レンズで考えると理解しやすい.眼鏡レンズ度数をDsp[D]とするとき,このレンズの焦点距離をLsp[m]とすると,1Lsp=Dsp……………………………………………………(1)である.これはレンズ屈折力の強さジオプトリーをレンズの焦点距離で示す定義である.Lspの単位はメートル(m)である.眼の屈折値は角膜から12mm離れたところに任意のレンズを置いたときに,正視眼と同じように無限遠を発した平行光束が網膜面で収束するレンズの度数をもって被検眼の屈折値を定めている.眼鏡焦点距離Lspコンタクトレンズの度数Dcl焦点距離梶田眼科Dcl=Dsp1.d・Dspの関係がある(図1).たとえば,眼鏡レンズで.8.00DはCLでは.7.30Dとなり,.7.25Dを採用すればよい.±10.00Dの範囲の頂点間距離補正値の一覧を表1に示す.±4.00Dの範囲では,近似させても0.25Dの差が出ないので,通常は±4.00D以上のときに頂点間距離補正を行えばよい.●ハードコンタクトレンズの涙液レンズ効果2)ハードコンタクトレンズ(HCL)の場合には涙液レンズが形成され,涙液レンズが作るレンズ度数も矯正度数として機能する.HCLではベースカーブとの兼ね合いで,適切な矯正度数を調整する必要がある(図2).良好なフィッティングが得られるCLのベースカーブが角膜レンズの角膜とレンズの頂点間距離は12mmであり,CLの角膜とレンズの頂点間距離は0mmである.眼鏡とCLで同じ矯正効果を得るためには,眼鏡レンズが作る焦点位置とCLが作る焦点位置を同じにする必要がある.すなわち,眼鏡レンズとCLの位置の差をd[m]として,眼鏡レンズの焦点距離がLsp[m]であるときに,CLの焦点距離をLcl[m]とすると,Lcl=Lsp.d…………………………………………………(2)である.CLで眼鏡レンズと同じ矯正効果を得るためには,焦点距離がLcl[m]のレンズを用いればよいことになる.CLの度数をDcl[D]とすると,1Dcl=Lcl……………………………………………………(3)分母のLclをLsp-dに置き換えると,Dcl=Lsp1.d………………………………………………(4)これに(1)式を代入すると,Dcl=11………………………………………………(5).dDspこの式の分子,分母にDspを掛けると,Dcl=Dsp1.d・Dspが得られる.眼鏡の角膜頂点間距離は12mmであるので,dは0.012mで計算すること.(59)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013590910-1810/13/\100/頁/JCOPY 表1頂点間距離補正値の一覧眼鏡度数CL度数眼鏡度数CL度数.10.00.8.9310.0011.36.9.75.8.739.7511.04.9.50.8.539.5010.72.9.25.8.339.2510.40.9.00.8.129.0010.09.8.75.7.928.759.78.8.50.7.718.509.47.8.25.7.518.259.16.8.00.7.308.008.85.7.75.7.097.758.54.7.50.6.887.508.24.7.25.6.677.257.94.7.00.6.467.007.64.6.75.6.246.757.34.6.50.6.036.507.05.6.25.5.816.256.76.6.00.5.606.006.47.5.75.5.385.756.18.5.50.5.165.505.89.5.25.4.945.255.60.5.00.4.725.005.32.4.75.4.494.755.04.4.50.4.274.504.76.4.25.4.044.254.48.4.00.3.824.004.20.3.75.3.593.753.93.3.50.3.363.503.65弱主経線に一致していれば,涙液レンズは形成されないので,CLの適正矯正度数はそのままでよいが,差がある場合にはその差に応じた涙液レンズ度数を減じなければならない.角膜弱主経線曲率よりも処方するHCLのベースカーブの値が大きい(フラット処方)ときに,この操作を忘れると過矯正になる.●不安定な追加矯正度数始めてHCLを装用するときには,瞬目ごとに動くことによる違和感や異物感のために瞬目も涙液分泌も多くなり,また開瞼が不十分な状態になるため,追加矯正屈折値の測定が不安定になる.さらに,角膜弱主経線よりもフラットなベースカーブのCLではCL内面が角膜表面に密着し,オルソケラトロジー効果が生じ,涙液レンズ効果は涙液屈折率のレンズではなく,角膜屈折率のレンズになる.スティープなベースカーブのCLでは,クリアランスが形成されたときには,涙液屈折率のレンズになり,角膜に密着すれば角膜屈折率の涙液レンズ効果に変わるため,矯正度数が変動する.この違和感から抜け出すために,過矯正気味60あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013abc-1c-2図2涙液レンズ効果a:フラットなフィッティングの場合:涙液レンズは中央部で薄く,周辺部で厚いので,マイナス度数のレンズが形成される.b:パラレルなフィッティングの場合:涙液レンズは中央部も周辺部も同じ厚みなので,プラノレンズになっており,度数はもたない.c:スティープなフィッティングの場合:c.1のように涙液レンズは中央部分が分厚く,周辺部が薄いので,プラス度数のレンズが形成される.c.2のように角膜に密着すると,オルソケラトロジー効果によって,角膜曲率が変化するため,涙液レンズはプラノになるが,角膜屈折力は変化する.涙液の屈折率は1.336,CL矯正で使用する角膜屈折率は1.3375である.通常のベースカーブの範囲ではベースカーブ0.05mm(ベースカーブの1段階)が0.25D(眼鏡処方度数の1段階)に相当すると考えてよい.の追加補正度数を選択する危険性がある.トライアルCLを装用して追加矯正屈折値を求めて,CLの処方度数を決定する場合には,安定したフィッティングが得られた時点で行う必要がある.処方中に安定したフィッティングが確保できていないときには,眼鏡矯正による適正矯正度数を,頂点間距離補正と涙液レンズ度数で補正した値を用いて処方したほうが,適正な矯正が提供できる場合が少なくない.CLの処方時には早く処方度数を決定しようと,ともすれば矯正視力値だけを頼りにレンズ度数を決定してしまう傾向にある.快適な矯正度数は眼鏡もCLも異なるものではない.二重三重のチェックを重ねて,慎重に対処したいものである.文献1)所敬,山下牧子:視力・屈折検査の進め方.p127128,金原出版,20072)梶田雅義:コンタクトレンズの光学的特性.専門医のための眼科診療クオリファイ6,コンタクトレンズ自由自在(大橋裕一編),p11-14,中山書店,2011(60)

写真:Pigment slide

2013年1月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦344.Pigmentslide木村健一*1,2横井則彦*2*1明治国際医療大学眼科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学pigmentslide図2図1のシェーマ図1Pigmentslide(23歳,男性)角膜上方からの血管侵入および,瞳孔領に及ぶ楔型の上皮下混濁がみられる.図3図1のフルオレセイン染色所見角膜上方から瞳孔領に及ぶpigmentslideを伴う表層上皮の乱れがみられる.図4図1のリサミングリーン染色所見輪状の球結膜染色と上下の眼瞼縁近傍に帯状の染色領域(lidwiperepitheliopathyに相当)が認められた.(57)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013570910-1810/13/\100/頁/JCOPY Pigmentslideは1943年にMannら1)により最初に,続いて,Bron2)により詳細に記載された角膜周辺部異常の一つで,角膜輪部のpalisadesofVogtの内側の延長上にみられる櫛状に並んだ茶褐色の淡い混濁のことを指す.通常は1.2mmの長さである.最もよくみられるのは5時から7時の方向で,つぎに11時から1時にみられることが多い.コンタクトレンズ(CL)装用者には角膜輪部の褐色の色素沈着が角膜中央に向かって流れるような所見がみられ,従来型ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用,連続装用ディスポーザブルSCL装用,長期SCL装用において,CL非装用者やハードコンタクトレンズ(HCL)装用者に比べて高い頻度で認められるという報告がある3).原因として,酸素不足が考えられ,角膜上皮基底層での上皮細胞の分裂能が低下することで幹細胞である輪部基底上皮から角膜上皮細胞の急速な移動が生じるためと推測されている.本症例はSCLの度数を変えても見にくいとの主訴で紹介受診となった.矯正視力は(0.3)で,角膜上方からの血管侵入および,瞳孔領に及ぶ楔型の上皮下混濁(図1,2)と,フルオレセイン染色において表層上皮の乱れを認めた(図3).また,表層上皮の乱れによると考えられる不正乱視を認めた.さらに,リサミングリーン染色において輪状の球結膜染色がみられ,上下の眼瞼縁近傍に帯状の染色領域(lid-wiperepitheliopathyに相当)を認めた(図4).本症例はハイドロゲル素材の連続装用ディスポーザブルSCLの使用に伴う低酸素の影響と,ドライアイによるSCLの含水率の低下に伴う低酸素の影響の双方が重なったことで角膜上皮基底細胞の分裂低下がひき起こされて,高度のpigmentslideが生じたと考えられた.上下のlid-wiperepitheliopathyはSCL表面との摩擦によると考えられた.本症例の経過は,CLの装用を中止し,0.5%レボフロキサシン点眼を1回/日,0.1%フルオロメトロン点眼を1回/日,防腐剤無添加の0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム眼耳鼻科用液を1回/日,防腐剤無添加の人工涙液の点眼を7回/日開始することで,pigmentslideは,4週間で著明に改善し,8週間でほぼ消失した.また,フォトケラトスコープのマイヤー像の乱れも改善し,それに伴って矯正視力も(1.0)に改善した.回復後はCLの変更を検討した.SCL装用に伴うpigmentslideは,低酸素による角膜上皮基底細胞への負荷が関係すると考えられるため,ドライアイの管理とより酸素透過性の高いCLへの変更を検討することが重要と思われる.なお,本症例にみられたpigmentslide,lid-wiperepitheliopathy,球結膜染色以外にSCL装用に特徴的な障害として,スマイルマークステイニング(ドライアイに関連する角膜下方の点状表層角膜症)やSEAL(superiorepithelialarcuatelesion)などがあり,SEALは角膜上方に生じる弓状の角膜上皮障害でシリコーンハイドロゲルなどの硬い素材のCLで生じやすいとされる4).SCL装用の安全性の向上のためには,こうした慢性の合併症にも注意して観察する必要があると思われる.文献1)MannI,PullingerBD:Astudyofmustard-gaslesionsoftheeyeofrabbitsandmen.AmJOphthalmol26:12531277,19432)BronAJ:Vortexpatternsofthecornealepithelium.TransOphthalmolSocUK93:455-472,19733)InoueT,MaedaN,YoungLSetal:Epithelialpigmentslideincontactlenswearers:apossiblemarkerforcontactlens-associatedstressoncornealepithelium.AmJOphthalmol131:431-437,20014)HoldenBA,StephensonA,StrettonSetal:Superiorepithelialarcuatelesionswithsoftcontactlenswear.OptomVisSci78:9-12,200158あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(00)