特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1189.1193,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1189.1193,2012加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療Anti-VEGFTreatmentforNeovascularAge-RelatedMacularDegeneration佐藤拓*はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療はめまぐるしく移り変わってきている.欧米において光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)から抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法への変化が生じ,わが国も同様な変化が続いている.わが国では2008年10月より抗血管新生療法のpegaptanib(マクジェンR)が保険治療薬となり,続いてranibizumab(ルセンティスR)が発売になり,適応外使用として用いられてきたbevacizumab(アバスチンR)を使う頻度や施設が減少してきた.さらにaflibercept(VEGFTrap-Eye,EyleaR)も発売が直前となり,抗VEGF療法も選択する時代となってきた.本稿では,主要な滲出型AMDに対する抗VEGF治療の臨床データについてまとめる.IRanibizumab(ルセンティスR)RanibizumabはbevacizumabのFabフラグメント(可変領域:抗原と結合する部位)でありbevacizumab同様すべてのisoformを阻害する.分子量は約50kDaであり,そのため組織移行性は約150kDaのbevacizumabより良好であるが,眼内半減期が短い特徴がある.VEGFに対する親和性も高められており,臨床成績も良好な成績が多く,現時点での滲出型AMDに対する治療の基本薬となっている.海外で実施されたranibizumabの第III相比較試験であるMARINA1)(occulltCNV:choroidalneovascularizationに対するranibizumab単独投与)やANCHOR試験2)(classicCNVに対するranibizuamb単独投与とPDTとの比較試験)では,毎月1回硝子体内投与を2年間(計24回投与)実施したところ,投与後の視力スコアの平均変化量はベースラインと比べてMARINA試験24カ月で6.6文字(図1),ANCHOR試験12カ月で11.3文字の有意な増加が認められ(図2),毎月投与がranibizumab治療におけるゴールデンスタンダードとなった.しかし,毎月の硝子体内投与は,患者側や医療機関側の負担が大きいため,実現することが困難である場合が多い.その後のPIER試験3)(毎月1回計3回の導入期投与の後,維持期においては3カ月に1回投与するプロトコール)では,導入期終了時点での改善した視力が,維持期である12カ月後の平均視力でベースラインと同様のレベルまで低下した(図3).つまり,ranibizumabを維持期に3カ月に1回投与するプロトコールで視力改善を保てないことがわかった.つぎに行われたPrONTO試験4)では,ranibizumabを維持期においては毎月来院して,視力とともに光干渉断層計(OCT)所見を基本とした臨床所見に応じて必要により(PRN:proranata)投与するプロトコールで行われ,有意な視力改善効果が認められた(図4).2年間のルセンティスR投与回数は平均で9.9回(5.0回/年)であり,毎月投与が行われた第III相比較試験よりも少ない投与回数で同様の効果が得られ,わが国での治療の基本となりその後,*TakuSato:群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野〔別刷請求先〕佐藤拓:〒371-8511前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(13)1189100.5mgofranibizumab0.3mgofranibizumab0-55Meanchangeinvisualacuity(no.ofletters)-10-15Shaminjection15182124036912MonthMeanchangefrombaseline(day7)0.5mgofranibizumab+2.6+5.9+6.5+7.2+7.2+7.4+6.8+6.7+6.60.3mgofranibizumab+2.3+5.1+5.6+5.9+6.5+6.9+6.1+6.2+5.4Shaminjection+0.6-3.7-6.6-9.1-10.4-11.8-13.6-15.0-14.9図1MARINA試験―視力変化24カ月OccultCNVに対して,ranibizumab毎月投与0.3mg,0.5mgいずれの群も,投与3回で改善した視力を24カ月維持可能であった.(文献1より)151050-5-10Verteporfin0.3mgofranibizumab0.5mgofranibizumabMeanchangeinvisualacuity(no.ofletters)-15Meanchangefrombaseline(day7)0.5mgofranibizumab+4.6+8.4+9.8+10.0+9.9+10.2+10.6+10.2+10.9+11.4+10.9+11.1+11.30.3mgofranibizumab+2.9+5.9+6.4+6.8+7.2+7.4+7.9+8.2+7.7+8.1+7.8+8.6+8.5Verteporfin+3.9+0.5-1.8-2.5-3.1-4.1-5.6-6.8-7.1-7.1-8.3-9.1-9.5図2ANCHOR―視力変化12カ月ClassicCNVに対して,verteporfin(PDT)治療群は視力改善が得られなかったのに対して,ranibizumab治療は3回投与で改善した視力を12カ月まで維持可能である.(文献2より)わが国における維持期の再投与ガイドライン5)も作成さわたるAMD治療としてranibizumab,PDTは高い対れた.費用効用が得られることが示唆されている6).一方,柳らにより,滲出型AMDに対するranibizumab,PDT,pegaptanibの対費用効用解析の結果では,IIBevacizumab(アバスチンR)生涯にわたって治療を行った場合,ranibizumab,PDTVEGFすべてのアイソフォームを阻害する抗VEGFは患者の効用を改善させる一方,費用が減少し,生涯に中和抗体である.大腸癌に対する点滴静注薬であり,わ1190あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(14)0123456789101112Month:Sham(n=63):Ranbizumab0.3mg(n=60):Ranbizumabmonthly:Bevacizumabmonthly:Ranbizumabasneeded:BevacizumabasneededMeanchangevisualacuityscorefrombaseline(no.ofletters)15141312111098765432101050-5-1016.1letter123456Month*p<0.0001-0.2-1.6-16.3:Ranbizumab0.5mg(n=61)789101112ETDRSlettersdifference*14.7letterdifference*-15図3PIER試験―視力変化12カ月0412243652647688104Ranibizumabを導入期に3回投与後3カ月に1回投与する方法では,改善した視力が維持できないことが示されている.Follow-upweeks(文献3より)1618202224図5CATT―視力変化24カ月24カ月の経過観察でranibizumabとbevacizumabは同様の効果が示されている.投与方法の違いでは毎月投与群のほうがPRN投与群より良好な視力改善が得られている.(文献8より)用など経済面の問題が議論されている(米国ではranibizumab$2,000,bevacizumab$50).LevelⅠevidenceがないままbevacizumabの使用は広まっている現状である.米国の高齢者または障害者向け公的医療保険制度であるMedicareの2008年データではbevacizumabの480,025回注入(58%)に対してranibizumabが336,89802468101214Numberoflettersgained:Mean:Median15129630Monthssinceinitialinjection図4PrONTO試験―視力変化24カ月導入期に3回毎月投与後,視力とOCT所見に基づくPRN投与で2年間改善した視力を維持できている.(文献4より)が国の眼科での使用はオフラベルであることを忘れてはならない.ルセンティスRとの相違点は,分子量が大きいこと,VEGFへの親和性も劣ることがいわれているが,実際の臨床的データの相違は少ないといわざるをえない.その代表的報告がCATT試験である.本試験はranibizumabとbevacizumabの無作為多施設比較試験で各薬剤の毎月投与群と1回投与後PRN投与をする4群の比較試験である.12カ月7)と24カ月8)の結果が報告されており,2年目の結果では,ranibizumabとbevacizumabは同等の治療結果が示された.毎月投与群のほうがPRN投与群より良好な視力改善を得られている.Ranibizumabとbevacizumabは眼球内だけでなく,全身への作用や効果の持続期間など理論的な相違と,費(15)回注入(41%)され,516ミリオンダラー支払われており,費用が大きな社会問題になっている9).IIIPegaptanib(マクジェンR)VEGFアイソフォームの165に選択的に結合するRNAアプタマーである.Pegaptanibを用いた滲出型AMDグループに対する欧米の臨床試験にV.I.S.I.O.N試験がある.投与方法が6週間ごとという大きな特徴がある.臨床データでは視力改善効果は乏しかった10,11)ことより,滲出性変化に対してはVEGF165の選択的抑制では効果が弱いことが予想される.わが国での臨床試験の結果も出ているが,視力の維持効果はあるものの改善効果が乏しいことが示されている12).しかし,抗体医薬ではないため免疫原性がほとんどなく,抗原抗体反応が少ないメリットを有している.その後,導入期に視力をranibizumabやPDTにより改善させて,維持期に再発を減らす目的で投与するLEVEL試験が行われ,良好な成績を示しており(図あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121191907560453015065.5(-20/50)61.8(-20/60)49.6(-20/100)Visualacuity(letters)907560453015065.5(-20/50)61.8(-20/60)49.6(-20/100)Visualacuity(letters)Induction61218243036424854baselineWeeks図6LEVELStudy―視力変化12カ月導入期で改善した視力がpegaptanib8週ごと投与と再発時のルセンティスR追加により54週間保たれている.(文献13より)6)13),現在国内でもLEVEL-J試験が進行中である.IVAflibercept(VEGFTrap.Eye,EyleaR)VEGFTrap-Eyeは,ヒト型VEGF受容体1と2の細胞外ドメインの一部をヒト型IgG1(免疫グロブリンG1)のFc部分と融合させた遺伝子組み換え融合蛋白質で,硝子体内への投与を目的に開発された等浸透圧の液剤である.VEGFTrap-Eyeは,可溶性のデコイ(おとりの)受容体としてVEGF-Aと胎盤成長因子(placentalgrowthfactor:PlGF)に結合することにより,本来のVEGF受容体への結合および活性化を阻害する.VEGFとの親和性をranibizumabより80.140倍有する.分子量は約110kDaであり,分子量約50kDaのpegaptanib,約48kDaのranibizumab,約150kDaのbevacizumabの中間の大きさである.VIEWプログラムは,滲出型AMD治療を目的としたVEGFTrap-Eyeの2つの無作為化第III相臨床試験である.被験者1,217名を無作為に割り付けたVIEW1試験は,米国とカナダで実施され,被験者1,240名を無作為に割り付けたVIEW2試験は,ヨーロッパ,アジア太平洋,ラテンアメリカ,日本で行われた.ポイントとしてranibizumabに対する非劣性試験で,VEGFTrap-Eyeを導入期に毎月3回投与して,維持期に4週ごと投与する群と8週ごと投与する群に割り付けられ,ranibizumab毎月投与群と比較するデザインになっている.2年目は全治療群が同じ薬剤をPRN投与するデザインであるが,少なくとも3カ月に1回投与する方法で1192あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012ある.VIEW1,2試験の統合解析では,VEGFTrap-Eye2mgの2カ月に1回投与群のベースラインからの視力改善は96週目で7.6文字(52週目では8.4文字)であった.2年間の投与回数は平均11.2回で,2年目の投与回数は4.2回であった.Ranibizumab毎月投与群のベースラインからの視力改善は96週目で7.9文字(52週目では8.7文字)であった.2年間の投与回数は平均16.5回で,2年目の投与回数は4.7回であった.Ranibizumab投与群と比較してVEGFTrap-Eye2mgの2カ月に1回投与群の2年目の平均投与回数が全体的に少なかった(4.7回と比較して4.2回)ことは,VEGFTrap-Eye2mgの2カ月に1回投与群では頻回に治療を必要とする被験者が少なく,必要な投与回数も少なかったことを示され,改善した視力を保ちながら維持期の治療回数を減らせる可能性が示されている14.16).V合併症について眼科医が最も注意をしなければならない合併症として,眼局所の合併症以上に全身的合併症である.血圧上昇や脳心血管系イベントの可能性があり,既往のある,ハイリスク症例には特に慎重投与が望ましいとされてきている.Uetaらのメタアナリシスでは,ranibizumab使用が脳血管イベントのリスクを有意に上昇させるが〔p=0.045,OR:3.24,95%CI(信頼区間):0.96.10.95〕,非致死性心筋梗塞のリスクは上昇しない(p=0.193)ことを報告している17).しかし,近年続いてranibizumabやbevacizumabの使用が全身性リスク(死亡率,心筋梗塞,脳血管イベント)を高めていないという臨床報告が続けて報告されている.理論的な予測と異なり,臨床データでは副作用が低い可能性を示唆するデータが増えてきている18,19)が,抗VEGF薬の投与は引き続き慎重を要する.おわりにわが国でも滲出型AMDに対する抗VEGF薬の使用経験が蓄積されてきた.今後国内外の臨床成績を参考に,各種抗VEGF薬の使い分けや他剤との併用療法を含めた治療法の選択がわれわれに求められはじめている.(16)文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,20063)RegilloCD,BrownDM,AbrahamPetal:Randomized,double-masked,sham-controlledtrialofranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:PIERStudyyear1.AmJOphthalmol145:239-248,20084)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariable-dosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:year2ofthePrONTOStudy.AmJOphthalmol148:43-58,20095)田野保雄,大路正人,石橋達朗ほか:ラニビズマブ(遺伝子組換え)の維持期における再投与ガイドライン.日眼会誌113:1098-1103,20096)柳靖雄,相原由季子,福田敬ほか:脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性に対するラニビズマブ,光線力学療法,ペガプタニブナトリウムの対費用効用解析.日眼会誌115:825-831,20117)MartinDF,MaguireMG,YingGSetal:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20118)MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresults.Ophthalmology119:1388-1398,20129)BrechnerRJ,RosenfeldPJ,BabishJDetal:Pharmacotherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:ananalysisofthe100%2008medicarefee-for-servicepartBclaimsfile.AmJOphthalmol151:887-895,201110)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETetal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed351:2805-2816,200411)ChakravarthyU,AdamisAP,CunninghamETJretal:Year2efficacyresultsof2randomizedcontrolledclinicaltrialsofpegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology113:1508e1-1525,200612)田野保雄,ペガプタニブナトリウム共同試験グループ:脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性を対象としたペガプタニブナトリウム1年間投与試験.日眼会誌112:590-600,200813)FribergTR,TolentinoM,WeberPetal:Pegaptanibsodiumasmaintenancetherapyinneovascularage-relatedmaculardegeneration:theLEVELstudy.BrJOphthalmol94:1611-1617,201014)BrownDM,HeierJS,CiullaTetal:PrimaryendpointresultsofaphaseIIstudyofvascularendothelialgrowthfactortrap-eyeinwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology118:1089-1097,201115)HeierJS,BoyerD,NguyenQDetal:The1-yearresultsofCLEAR-IT2,aphase2studyofvascularendothelialgrowthfactortrap-eyedosedas-neededafter12-weekfixeddosing.Ophthalmology118:1098-1106,201116)バイエルヘルスケア社が12月5日に発表したプレリリースの邦訳http://byl.bayer.co.jp/scripts/pages/jp/press_release/press_detail.php?file_path=2011%2Fnews201112-07.html17)UetaT,YanagiY,TamakiYetal:Cerebrovascularaccidentsinranibizumab.Ophthalmology116:362,200918)CurtisLH,HammillBG,SchulmanKAetal:Risksofmortality,myocardialinfarction,bleeding,andstrokeassociatedwiththerapiesforage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol128:1273-1279,201019)CampbellRJ,GillSS,BronskillSEetal:Adverseeventswithintravitrealinjectionofvascularendothelialgrowthfactorinhibitors:nestedcase-controlstudy.BMJ345:e4203,2012(17)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121193