0910-1810/11/\100/頁/JCOPYDRCR.netがすでに終了した研究を,表2に現在進行中の研究を示す.結果が発表されている研究について,以下簡単に紹介したい.なお,研究のデザインやプロトコールについてはDRCR.netのウェブサイト(http://drcrnet.jaeb.org/)に詳しいが,結果については論文を参照しなければならない.はじめにDRCR.netとは,アメリカにあるDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkという組織の略称である.糖尿病網膜症およびその関連病態における多施設共同研究を円滑に進めることを目的として,2002年9月に設立された.糖尿病網膜症を対象とした多施設研究の発案,デザインから遂行までサポートしてくれる.基本的には臨床研究を対象としているが,疫学研究その他もサポート対象である.特に糖尿病黄斑症(黄斑浮腫)に重点を置いているのが特徴である.現在,DRCR.netには全米で227カ所の施設と797人の研究者が参加している.中央事務局はJohnsHopkinsにある.その財源は,アメリカ国立衛生研究所(NationalInstitutesofHealth)に属する研究所の一つ,国立眼病研究所(NationalEyeInstitute:NEI)である.国の研究機関という位置づけだが,大学病院およびその関連施設だけでなく地域の医療機関を積極的に活用しており,産業界との協力も積極的に行っている.事務局運営のための固定メンバーがいるが,研究のプロトコールを作成したり論文を作成したりする際には,随時必要なメンバーが集められる.参加している研究者の側から新しい研究のデザインを提案することもできる.招集された検討会でその提案が認められると,そのままプロトコールが練られ,実施へ向けて動き出す.設立からまだ10年に満たない組織だが,精力的に研究を行い,すでに多くの成果を発表している.表1に(61)61*HarumiFukushima:JR東京総合病院眼科**SatoshiKato:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学・視覚矯正学〔別刷請求先〕福嶋はるみ:〒151-8528東京都渋谷区代々木2-1-3JR東京総合病院眼科特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):61.64,2011糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:DRCR.netDRCR.net福嶋はるみ*加藤聡**表1DRCR.netの研究一覧(終了したもの)プロトコール1.APilotStudyofLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema2.ARandomizedTrialComparingIntravitrealTriamcinoloneAcetonideandLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema3.EvaluationofVitrectomyforDiabeticMacularEdemaStudy4.APilotStudyofPeribulbarTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdema5.TemporalVariationinOpticalCoherenceTomographyMeasurementsofRetinalThickeninginDiabeticMacularEdema6.APhase2EvaluationofAnti-VEGFTherapyforDiabeticMacularEdema:Bevacizumab(Avastin)7.AnObservationalStudyoftheDevelopmentofDiabeticMacularEdemaFollowingScatterLaserPhotocoagulation8.SubclinicalDiabeticMacularEdemaStudy9.TheCourseofResponsetoFocalPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema62あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(62)固を施行した群の成績が一番良かった.また,トリアムシノロンを投与した群では,眼圧上昇や白内障の進行が高率に認められた.糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては古典的な網膜光凝固のほうがトリアムシノロンの硝子体投与よりも長期的効果に優れ,かつ合併症が少ないことが示された.プロトコール3:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の効果3)硝子体黄斑牽引を伴う糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体手術を施行し,その効果を検討した.多施設スタディのため術者は複数であり,硝子体手術の手技(黄斑前膜の除去,内境界膜.離,ステロイド硝子体注などを行うかどうかの判断も含めて)は各々の術者にまかされた.硝子体手術から1年後にはほとんどの症例で網膜厚の減少をみたが,視力改善した症例は全体の38%にとどまり,22%は逆に視力低下した.プロトコール4:糖尿病黄斑浮腫に対する,トリアムシノロンTenon.下投与の効果4)視力0.5以上の比較的視力良好の糖尿病黄斑浮腫の対象患者を5群に分け,各々に①局所光凝固施行,②トリアムシノロン20mgをTenon.下投与,③局所光凝固施行4週間後にトリアムシノロン20mgをTenon.下投与,④トリアムシノロン40mgをTenon.下投与,⑤局所光凝固施行4週間後にトリアムシノロン40mgをTenon.下投与,の治療を施行した.その結果,術後早期にはトリアムシノロンを使用した群で網膜厚が減少する傾向はあったものの,長期的には視力も網膜厚も5群間でまったく差がなかった.さらにトリアムシノロン使用群では,眼圧上昇と眼瞼下垂の合併症も認められた.よって比較的視力良好な糖尿病黄斑浮腫に対して,トリアムシノロンのTenon.下投与は局所光凝固併用の有無にかかわらず効果はなさそうであるとの結論に至った.プロトコール5:糖尿病黄斑浮腫における,OCT上の網膜厚の日内変動5)糖尿病黄斑浮腫の8時および16時のOCT上の網膜プロトコール1:糖尿病黄斑浮腫に対する網膜光凝固方法の比較1)糖尿病黄斑浮腫に対する網膜光凝固の施行方法として,標準的に行われているETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)に準拠した方法(標準療法)と,それより低出力で,ただし凝固数を多くした凝固法(マイルド格子状凝固)を比較した.結果,凝固1年後の時点で光干渉断層計(OCT)上の網膜厚は標準療法のほうが薄く,視力は両法で差がなかった.新しい凝固法として注目されていたマイルド格子状凝固であったが,標準療法に勝るものではないという結果となり,DRCR.netはマイルド格子状凝固の効果についてそれ以降の研究は組まないと宣言した.プロトコール2:糖尿病黄斑浮腫に対する,トリアムシノロンの硝子体投与と網膜光凝固との効果の比較2)糖尿病黄斑浮腫に対し,網膜光凝固を施行した群と,トリアムシノロン1mgを硝子体投与した群と,トリアムシノロン4mgを硝子体投与した群でOCT上の網膜厚と視力の予後を比較した.視力も網膜厚も,治療4カ月後の時点ではトリアムシノロン4mgを硝子体投与した群の成績が一番良かったが,治療2年後では網膜光凝表2DRCR.netの研究一覧(現在継続中のもの)1.IntravitrealRanibizumaborTriamcinoloneAcetonideinCombinationwithLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema2.IntravitrealRanibizumaborTriamcinoloneAcetonideasAdjunctiveTreatmenttoPanretinalPhotocoagulationforProliferativeDiabeticRetinopathy3.EvaluationofVisualAcuityMeasurementsinEyeswithDiabeticMacularEdema4.ComparisonofTimeDomainOCTandSpectralDomainOCTRetinalThicknessMeasurementinDiabeticMacularEdema5.APilotStudyinIndividualswithCenter-InvolvedDMEUndergoingCataractSurgery6.AnObservationalStudyinIndividualswithDiabeticRetinopathywithoutCenter-InvolvedDMEUndergoingCataractSurgery7.AnEvaluationofIntravitrealRanibizumabforVitreousHemorrhageDuetoProliferativeDiabeticRetinopathy(63)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201163研究は終了しているが,結果がまだ発表されていない.厚を比較した.平均値でみると16時の網膜厚のほうが8時のそれより薄い結果ではあったが,逆に網膜厚が増加する症例も多々みられ,全体として意味のある差は検出されなかった.プロトコール6:糖尿病黄斑浮腫に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法の評価:ベバシズマブ(アバスチンR)について6)糖尿病黄斑浮腫の対象患者を5群に分け,①最初に網膜光凝固を施行,②最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ1.25mgを硝子体投与,③最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ2.5mgを硝子体投与,④最初にベバシズマブ1.25mgを硝子体投与し,6週間後に偽の注射,⑤最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ1.25mgを硝子体投与するのに加え,3週間目に網膜光凝固を施行,と治療を行った.その結果,①群と比較すると②群と③群のほうが網膜厚の減少が大きく,視力が良好となった.しかし②~⑤群では網膜厚も視力も有意差が出なかった.よってベバシズマブの硝子体投与は糖尿病黄斑浮腫の一部には確実に効果があることが示されたが,どのような投与法が最良かについては結論が出なかった.プロトコール7:汎網膜光凝固(PRP)を1回ないし4回で完成させた後の,糖尿病黄斑浮腫の経過7)重症非増殖糖尿病網膜症ないし増殖糖尿病網膜症で,黄斑浮腫はないかごく軽度で比較的視力のよい症例を対象とした.1回でPRPを完成させた群と4回に分けてPRPを施行した群とで,その後の黄斑浮腫の状態を観察した(表3).その結果,PRP直後から1カ月後くらいまでは,1回でPRPを行った群のほうがより網膜厚が大きく視力低下していた.しかし,PRPの34週後になると,逆に4回に分けてPRPを施行した群のほうが網膜厚が大きく視力低下する結果となった.PRPを1回で完成させても4回に分けて施行しても,黄斑浮腫に対する臨床的な影響は差がはっきりしないという結論となった.プロトコール8:Subclinicalな糖尿病黄斑浮腫の経過表3汎網膜光凝固後のOCTによる網膜厚1回でPRPn=844回に分けてPRPn=71p値中心窩領域術前の平均網膜厚(μm)207198≧250.2993(4%)1(1%)術前と比較した網膜厚の変化(μm)3日後+9+50.014週間後+13+50.00317週間後+14+150.0834週間後+14+220.06術前と比較して網膜厚が25μm以上変化した症例3日後7(9%)3(5%)0.324週間後14(18%)5(8%)0.0417週間後13(17%)26(41%)0.00134週間後18(25%)25(45%)0.005術前網膜厚が250μm以上あり,かつ術後25μm以上変化した症例3日後1(1%)2(3%)0.404週間後8(10%)3(5%)0.1417週間後5(6%)11(17%)0.00334週間後9(13%)13(24%)0.02(文献7より改変)表4糖尿病黄斑浮腫に対する局所光凝固の長期的効果:OCT上の網膜厚全症例n=128#解析不適格6#16週までに加療1#16週以前に通院中断6#16週後の解析可能症例115局所光凝固16週後n=115中心窩網膜厚改善率(加療前と比較して)≧10%.54(47%)中心窩網膜厚<250μm26中心窩網膜厚≧250μm2816週時点で改善はしたが中心窩網膜厚が≧250μmの症例n=28#32週までに加療4#32週以前に通院中断2#32週後の解析可能症例22局所光凝固32週後(24週目で加療した症例含む)n=26中心窩網膜厚改善率(16週目と比較して)>10%11(42%)中心窩網膜厚<250μm8中心窩網膜厚≧250μm3(文献8より改変)64あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(64)tonideandfocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Ophthalmology115:1447-1449.e1-10,20083)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093.e3,20104)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Randomizedtrialofperibulbartriamcinoloneacetonidewithandwithoutfocalphotocoagulationformilddiabeticmacularedema:apilotstudy.Ophthalmology114:1190-1196,20075)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Diurnalvariationinretinalthickeningmeasurementbyopticalcoherencetomographyincenter-involveddiabeticmacularedema.ArchOphthalmol124:1701-1707,20066)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:AphaseIIrandomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Ophthalmology114:1860-1867,20077)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Observationalstudyofthedevelopmentofdiabeticmacularedemafollowingpanretinal(scatter)photocoagulationgivenin1or4sittings.ArchOphthalmol127:132-140,20098)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Thecourseofresponsetofocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Retina29:1436-1443,2009プロトコール9:糖尿病黄斑浮腫に対する局所光凝固の長期的効果8)糖尿病黄斑浮腫に対して局所光凝固を施行し,網膜厚が減少して効果が認められた症例が,長期的にはどうなるかを観察した.その結果,42%の症例は追加治療がなくても32週後まで網膜厚減少効果が持続した(表4).以上,DRCR.netが過去に施行した研究を概説した.糖尿病黄斑浮腫の症例を,視力やOCTによる網膜厚で条件を揃えたうえで,3桁のオーダーで集めるのは一つの施設ではきわめて困難である.多施設研究でしかなしえない,貴重な成果が次々と発表されつつある.今後の成果に期待したい.文献1)WritingCommitteefortheDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:ComparisonofthemodifiedEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyandmildmaculargridlaserphotocoagulationstrategiesfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol125:469-480,20072)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Arandomizedtrialcomparingintravitrealtriamcinoloneace