0910-1810/11/\100/頁/JCOPY②Measuringmagnitude(問題規模の把握)次段階はMeasuringmagnitude,問題規模の把握である.糖尿病網膜症の発症頻度はどの程度で(罹患率),患者はどのくらい存在するのか(有病割合).その重症度の度合い,問題全体としての重大さ(magnitude)はどうか等,これらはすべてpopulation-basedな疫学研究を元にして明らかになる.そして,この有病割合や罹患率は診断や治療の進歩に影響され絶えず時代と共に変化しているので,定点で継続的な観察が必要となる5,6).基本データがなければ,対策も立てられない7).③Understandthekeydeterminants(重要な決定因子の理解)規模が大きく解決が必要となれば,つぎはUnderstandthekeydeterminants,重要な決定要因の理解である.糖尿病網膜症対策の重要な因子は,予防と治療である.予防には網膜症にならないようにする一次予防と,網膜症の悪化を防ぐ二次予防がある.一次予防は健康習慣の改善(生活環境改善,適切な食生活,運動)とHb(ヘモグロビン)A1c,血圧の改善である.これら改善が必要なリスクファクターの同定には正常の一般住民を含めたコホート研究が必要になる.二次予防は,早期発見と早期治療で眼底検査と血糖コントロール,進行した網膜症への対応は三次予防に含まれる治療ということになる.このような予防や治療における有効性のエビデンスは,実際のヒトを対象とした(臨床)疫学研究からしか得ることはできず,EBM(evidence-basedmedi本特集は「世界の眼科の疫学研究のすべて」という非常にambitiousなテーマを設定したが,ご一読いただくと明らかなとおり,題名に相応しい大変充実した内容となった.最新の疫学・臨床研究から得られた大量のエビデンスが満載されており,まさに疫学研究のすべてがわかるといってよいだろう.疫学の目的は5つある1).1.疾病の原因を特定し,リスクファクターを見つけ,生じる問題を減らす.2.疾病の頻度を明らかにし,事の重大さを示す.3.疾病の自然経過と予後を研究する.4.予防・診断・治療方法を評価する.5.疾病対策に必要な根拠を提供する.そして,最終的な目標はターゲットである問題を解決することにある.ある問題に対峙したときに,問題をどう整理し,考え,解決策を見つけるかという方法論にProblem-SolvingParadigmがある.問題解決への理論的枠組みともいえるものだが,ここでは,序説として,この枠組みを利用しながら疫学研究の重要性と課題について簡単に述べる.①Definetheproblem(問題定義)まずはDefinetheproblem,問題定義である.問題とは,現在あるべき姿と現状とのギャップと定義される〔ちなみに,理想(≒本来あるべき姿)と現状とのギャップが課題〕.例として,今回の特集でも多く取り上げられている2~4)「糖尿病網膜症」を問題と定義する.(1)1*YoshimuneHiratsuka:国立保健医療科学院経営科学部/順天堂大学医学部眼科学教室**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕平塚義宗:〒351-0197和光市南2丁目3-6国立保健医療科学院経営科学部●序説あたらしい眼科28(1):1.3,2011眼科における疫学研究の重要性と課題:問題解決の理論的枠組みからFromtheProblem-SolvingParadigmPerspective:ImportanceandChallengesofEpidemiologicalStudiesinEyeCare平塚義宗*山下英俊**2あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(2)cine)の基礎となっている.④Developintervention.preventionstrategies(予防・介入戦略立案)Developintervention/preventionstrategies,そこにどう介入していくべきか,予防手段はないか,を考えるのがつぎの段階である.ここでは問題に寄与する因子を明らかにし,それに対する介入を考えなければならない.まず考えられるのは,患者教育,スクリーニングによる早期発見,進行例に対する適切な治療だが,ここで終わってはいけない.冷静に,生物学的因子,環境因子,行動因子の3つに分けて考えると整理しやすい.糖尿病発症のベースにある発症3~6年前からの正常範囲内での比較的高血糖,インスリン抵抗性,インスリン分泌能の問題8),また感受性遺伝子といった生物学的因子が最近明らかになってきている.血糖コントロール不良の原因には,治療継続に対するバリア(情報,金銭,アクセス,医師と患者の認識ギャップ)などの環境因子が無視できない.米国では,実際,糖尿病治療費が高額というのが治療中断の大きな原因となっているという報告もある9).不適切な食生活,運動不足以外にも,頭では理解していてもどうしても受診を中断してしまう,行動変容が起きないという問題は第三の行動因子の問題である.現実の臨床では,時間と手間が一番かかる網膜症の患者は行動因子に問題があることが多く,糖尿病対策におけるボトルネックになっている.このような部分に対する質的研究は,問題解決において実は非常に重要であるが,臨床医の興味を引きにくいため,看護師や視能訓練士が活躍できる分野かもしれない.⑤Setpolicy.priorities(優先順位付け)いよいよ,Setpolicy/priorities,対策の優先順位づけである.どの部分をターゲットと考えるのが最も適切で効率のよいアプローチであろうか.やはり,眼科医にできることが最優先事項であり,眼科医にしかできないことを高い質で世の中に提供していくことがわれわれの使命であろう.まず,定期的な眼底検査の重要性をエビデンスとともに世の中に訴えることが重要であり,マスメディアの利用から地域の集会や学校での講演など,各眼科医がそれぞれのポジションでpublicawarenessを高めることへの貢献が求められる.他科医師へのますますの連携働きかけも必要である.現状で日本の糖尿病眼底検査受診率はOECD(経済協力開発機構)諸国のなかで最下位である10).舟形町研究からは,網膜動脈径狭細が高血圧発症に先立つというデータも明らかになっており11),今や眼底から得られる情報は,細小血管合併症のみならず将来の大血管合併症抑制をも視野に入れた貢献が可能になりつつある2).早期発見された網膜症に関しては,定期的な観察と指導を行い,適正な治療の組み合わせを適切なタイミングで行い悪化を防ぐ,またハイリスク患者の治療が中断しないよう行動変容を促す必要がある.それでも重度の視覚障害に陥った場合には社会的サポートに関する情報提供も含めた包括的なロービジョン・ケア導入への道筋をつける.⑥Implementandevaluate(実行と評価)最後は実行と評価,Implementandevaluateである.ここが日常の臨床疫学研究12)の舞台である.網膜症治療の基本として完全に確立されている光凝固だが,凝固の強さの問題,期間の問題,PatternScanningLaserのような新たな方法など,光凝固ですらまだまだ評価が必要なことは多い.最新の医療技術をもってしてもいまだ解決がつかない糖尿病黄斑浮腫の治療についても試行錯誤が続いている.これらの多くは海外の多施設共同ランダム化比較試験での評価が行われ,徐々にエビデンスが示されつつある4).研究目的に合った症例を短期間に多く集めるにはDRCR.net(DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork)のような多施設共同研究を円滑に進める「仕組み」が重要である.国内での競争ではなく,世界を相手にした国内での協調という視点が求められ,このような仕組みの構築は将来的な日本の課題であろう.現在,日本眼科学会戦略企画会議第五委員会では,眼科医療における効果の比較を行うEyeCareComparativeEffectivenessResearchTeam(ECCERT)を立ち上げ,一つの試みとして白内障手術の費用対効果を評価する多施設共同研究を実施したところである.また,実証されているエビデンスが現実の臨床にしっかり根づいているかというEvidence-practicegapにも注意を向ける必要がある.(良い悪いは別として)提供者の論理から消費者の論理へとパラダイムシフトが起きてきている医療界では,アウトカムの判断は,一般に用いら(3)あたらしい眼科Vol.28,No.1,20113れる客観的臨床指標以外にも患者の主観的アウトカム(PatientReportedOutcomes:PRO)からの評価が求められるようになってきている.現在,設立から50周年を迎える国民皆保険に支えられた日本の保健医療システムの総括を行う研究が進行中であり,その結果が今年のLancet誌日本特集号として出版される予定である13).その議論のなかで,日本は基本的な健康指標のデータに関しては整備されているが,実施されている医療の質や実施された後のアウトカムに関するデータが不足しているということが指摘されている.最後に忘れてならないのが効率性,費用対効果の視点であり,高騰し続ける社会保障費(>医療費)を前に否応なしに求められている考え方である.治療に必要なコストに対して得られる効果の比は如何ほどなのか.新しい治療を投入する場合,追加的に1人の失明を減らすのに必要な追加的なコストはどの程度であり,その治療を導入する妥当性はあるのか.このような評価は日本ではほとんど行われておらず,今後の課題である.人工透析による医療費の増大はすでに大きな問題であり,眼底情報から透析導入リスクが推測できれば,この部分にも眼科医療が貢献できるだろう.また,海外で生活する日系人研究を含めた,遺伝要因と環境要因の相互作用と疾病発生の関係などを対象にするGeneticEpidemiologyも今後の発展が期待される.特に,日本に多い正常眼圧緑内障14)やアジアに多い近視など,地域性に特色のある疾患病態の解明は日本の責務であろう.最後に,お忙しいなか,わかりやすくそれぞれのテーマについて概説していただいた担当の先生方にこの場を借りて深くお礼申し上げます.文献1)平塚義宗:疫学研究の重要性と必要な知識.あたらしい眼科28:11-17,20112)岸川秀樹:糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:糖尿病細小血管合併症の発症進展における代謝コントロールの影響に関する国内外の研究.あたらしい眼科28:55-60,20113)北野滋彦:糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:DRS,ETDRS,DRVS.あたらしい眼科28:65-71,20114)福嶋はるみ,加藤聡:糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:DRCR.net.あたらしい眼科28:61-64,20115)安田美穂:久山町研究.あたらしい眼科28:25-29,20116)川崎良:世界の疫学研究:先進国編.あたらしい眼科28:41-47,20117)小野浩一,平塚義宗:世界の疫学研究:途上国編.あたらしい眼科28:49-54,20118)TabakAG,JokelaM,AkbaralyTNetal:Trajectoriesofglycaemia,insulinsensitivity,andinsulinsecretionbeforediagnosisoftype2diabetes:ananalysisfromtheWhitehallIIstudy.Lancet373:2215-2221,20099)HartnettME,KeyIJ,LoyacanoNMetal:Perceivedbarrierstodiabeticeyecare:qualitativestudyofpatientsandphysicians.ArchOphthalmol123:387-391,200510)HealthataGlance2007OECDINDICATORS.OrganizationforEconomicCo-operationandDevelopment,200711)田邉祐資,川崎良,山下英俊:舟形町研究.あたらしい眼科28:30-35,201112)山田昌和:臨床疫学研究の基本的事項.あたらしい眼科28:5-10,201113)http://www.jcie.or.jp/japan/csc/ghhs/lancet/14)澤口昭一:日本における緑内障疫学.あたらしい眼科28:36-40,2011